(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】異常検出方法及び異常検出装置
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240402BHJP
B65G 43/08 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
G05B23/02 302N
B65G43/08 E
(21)【出願番号】P 2021048698
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】南保 由人
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-066580(JP,A)
【文献】国際公開第2009/040914(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0153732(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00-23/02
B65G 43/00-43/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送路(3)に沿って複数のパレット(P)を搬送可能な搬送装置(1)におけるパレットの異常を検出するための異常検出方法であって、
前記搬送装置において駆動機構(6)により複数のパレットが順次搬送される際に、その搬送路上のパレット各々の識別情報を取得する識別情報取得部(31)と、前記駆動機構に係る負荷を示す負荷情報を前記搬送路上のパレットの搬送間隔に対応した時間間隔で時系列に検出する検出部(32)と、を具備し、
前記識別情報取得部により取得された前記搬送路上のパレット各々の識別情報と、前記検出部により検出された負荷情報と、を逐次取り込み、対応付けた時系列的なデータ群として記憶する記憶ステップ(S2)と、
前記パレット各々の識別情報と対応付けられる前記負荷情報に基づいて、前記搬送路上の複数のパレットの中に異常のあるパレットが含まれるか否かを当該負荷情報ごとに判定する判定ステップ(S3)と、
前記データ群について前記負荷情報ごとに前記判定が行われることにより生成された複数の判定結果と前記パレットの識別情報との対応関係に基づいて、搬送対象とされた全てのパレット中から、前記異常の判定回数を増加させる一のパレットを特定する特定ステップ(S4,S5,S6)と、を備える異常検出方法。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記搬送装置において複数のパレットを搬送する際の駆動源としての駆動モータ(5)を有し、
前記検出部は、前記駆動モータの負荷変動を示す前記負荷情報を検出する請求項1記載の異常検出方法。
【請求項3】
前記判定ステップは、前記パレット各々の識別情報と対応付けられる前記負荷情報から異常度を算出するとともに、算出された異常度と予め記憶された閾値とを比較することにより前記判定を行う請求項1又は2記載の異常検出方法。
【請求項4】
予め取得された前記負荷情報を用いた機械学習を行い、学習モデルを作成する学習部(30d)を備え、
前記判定ステップは、その判定対象となる前記負荷情報から、前記学習モデルを用いて前記判定を行う請求項1から3の何れか一項記載の異常検出方法。
【請求項5】
前記特定ステップは、前記判定ステップにおいて前記搬送路上の複数のパレットの中に異常のあるパレットが含まれると判定される都度、当該複数のパレット各々について前記異常の判定回数をカウントアップし、前記全てのパレットの中から前記異常の判定回数が所定のカウント値を超えた一のパレットを特定し、或いは前記全てのパレットの中で前記異常の判定回数の有意な差が生じている一のパレットを特定する請求項1から4の何れか一項記載の異常検出方法。
【請求項6】
搬送路に沿って複数のパレットを搬送可能な搬送装置におけるパレットの異常を検出するための異常検出装置であって、
前記搬送装置において駆動機構により複数のパレットが順次搬送される際に、その搬送路上のパレット各々の識別情報を取得する識別情報取得部と、
前記駆動機構に係る負荷を示す負荷情報を、前記搬送路上のパレットの搬送間隔に対応した時間間隔で時系列に検出する検出部と、
前記識別情報取得部により取得された前記搬送路上のパレット各々の識別情報と、前記検出部により検出された負荷情報と、を逐次取り込み、対応付けた時系列的なデータ群として記憶する記憶部(30a)と、
前記パレット各々の識別情報と対応付けられる前記負荷情報に基づいて、前記搬送路上の複数のパレットの中に異常のあるパレットが含まれるか否かを当該負荷情報ごとに判定する判定部(30b)と、
前記データ群について前記負荷情報ごとに前記判定が行われることにより生成された複数の判定結果と前記パレットの識別情報との対応関係に基づいて、搬送対象とされた全てのパレットの中から、前記異常の判定回数を増加させる一のパレットを特定する特定部(30c)と、を備える異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置におけるパレットの異常を検出するための異常検出方法及び異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生産ライン等の搬送装置においては、その搬送路上にパレットが設けられ、被搬送物となるワークを当該パレットに搭載して搬送する、パレット式搬送装置が供されている。
パレット式搬送装置では、パレットを駆動させる駆動機構の摩耗や破損等に起因して異常停止・故障が発生すると、生産ラインがストップし、生産性が低下することとなる。
そこで、駆動機構や転動機構といった各種機構の異常を検出するための技術開発が進められている。例えば、特許文献1では、ギヤトレインを支承する転がり軸受において、その転動接触面で発生する超音波帯域の摩擦音を超音波センサにより検出し、その検出信号と予め設定された判定基準値とを比較することにより、異常を判定する方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した搬送装置においてパレットそのものの異常を検出することは困難であり、係る異常の検出は行われていない。
即ち、搬送装置では、駆動機構として据付けられるモータ単体或いは上記転がり軸受のような転動装置単体の異常を検出することはできても、順次搬送される複数のパレットの中からそのパレット自体の異常を特定する方法は確立されていない。それ故、パレット周辺の機構を分解する等して、経時劣化による摩耗等に対処する点検保守をパレット全数について定期的に行わざるを得ないのが実情である。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、搬送装置において順次搬送される複数のパレットの中から異常のあるパレットを特定することが可能な異常検出方法及び異常検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明によれば、搬送路(3)上を複数のパレット(P)が搬送される際に、それらパレット各々の識別情報と負荷情報とが逐次取り込まれ、対応付けられた時系列的なデータ群として蓄積される。この場合、搬送路上の複数のパレットの中に異常のあるパレットが含まれていれば、これについて対応する負荷情報から判定することができる。
また、蓄積されたデータ群について負荷情報ごとに係る判定が行われることにより生成された複数の判定結果とパレットの識別情報との対応関係に基づき、搬送対象とされた全てのパレットの中から、異常の判定回数を増加させる一のパレット、つまりパレットそのものの異常を個別に特定することができる。よって、パレット全数についてメンテナンスに係る工数を低減させることが可能となり、設備の稼動率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態における搬送装置の構成を示す斜視図
【
図4】異常検出装置における処理の流れを示すフローチャート
【
図5】パレットの識別情報及びトルク値のデータ群と異常度を説明するための図
【
図6】パレットの異常判定回数の一例を示すパレート図(その1)
【
図7】搬送動作毎のトルク値とパレットの位置とを対応付けたテーブルを示す図
【
図9】パレットの異常判定回数の一例を示すパレート図(その2)
【
図10】異常判定されたパレットの摩耗部分を拡大して示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示す搬送装置1は、例えばワークを直線方向へ搬送させるパレット式搬送装置で構成されている。搬送装置1は、直線状に延びる搬送装置本体2を備え、搬送装置本体2の搬送路3に沿って複数のパレットPを搬送する。パレットPは、搬送装置本体2に組み込まれた駆動モータ5によりワークごと移動駆動される。
【0009】
パレットPはワークWが搭載される荷台であり、
図2の平面図で示すように、パレットPの上面側でワークWを受けるようになっている。ここで、
図2では説明の便宜上、パレットPを含む搬送装置1の概略構成を模式的に表わすものとする。
図1、
図2に示す複数のパレットPは何れも、やや縦長な略四角柱状をなす同一形状の部材で構成されているが、符号「P
1」「P
2」「P
3」「P
4」…を付すことによりパレットP
1,P
2,P
3,P
4…各々を区別し、それらの総称を「パレットP」とする。
【0010】
図示は省略するが、搬送装置1は例えば、全体として長円状をなすトラック搬送装置における、搬送路の一部を構成するものとする。即ち、トラック搬送装置は、相互に対をなす第1直線路及び第2直線路と、それら両端同士を接続する第1半円路及び第2半円路とで長円状をなしており、搬送装置1は、第1直線路の搬送路3を構成する。従って、パレットP
1~P
4を含む複数のパレットPは、搬送装置1経由でトラック搬送装置を周回するようにして循環させることにより、当該搬送装置1にて繰り返し搬送されるようになっている。なお、搬送装置1は、第1直線路としての搬送路3に限らず、半円路の如く湾曲状の搬送路であってもよく、又、主として直線状の搬送路のみを構成するものであってもよい。何れにしても、搬送装置1における、複数のパレットPは、一の駆動モータ5を駆動源として、
図1、
図2の矢印X方向へ移動されるものとする。
【0011】
具体的には
図1に示すように、搬送装置本体2の上部おける搬送路3には、矢印X方向へ延びるガイドプレート10aとガイドレール10bが配設されている。ガイドプレート10aは、パレットPの側面側(同図で手前側)をガイドし、ガイドレール10bは、パレットPの底面側をガイドするように設けられている。これにより、
図1のパレットP
1~P
4は、何れも搬送路3における一端側(同図で左端側)の搬入部11から、他端側の搬出部12にわたって、ガイドプレート10a及びガイドレール10bによりガイドされる。
【0012】
また、
図1に示すように、搬送装置本体2における、搬入部11側の基台フレーム13と搬出部12側の基台フレーム14との間には、一本のスクリューロッド15が回転可能に軸支されている。スクリューロッド15は、ガイドプレート10aと対向し、矢印X方向へ延びている。この場合、スクリューロッド15とガイドプレート10aは、その両者15,10aでパレットPを挟む位置関係となるように配置されている。スクリューロッド15の外周には、凸状をなす1条の螺旋部15aが形成されている。また、スクリューロッド15における軸方向の一端側には、プ―リ16が設けられている。
【0013】
なお、パレットP各々の下部には、スクリューロッド15側に位置させて一対のカムフォロワ18,18(
図1にのみ図示)が突設されている。カムフォロワ18,18は、例えば小円筒状「ころ」であり、スクリューロッド15の螺旋部15aと係合する。また、パレットP各々には、カムフォロワ18,18よりも上部側に位置させてIDタグ17(
図2にのみ図示)が貼付されている。
【0014】
図1に示すように、搬送装置本体2における、搬入部11側の基台フレーム13には、前記駆動モータ5が配置されている。駆動モータ5は、例えばサーボモータからなり、後述する主制御装置20により駆動制御される。駆動モータ5とスクリューロッド15のプーリ16との間には、回転伝達機構19が設けられている。
【0015】
詳しい図示は省略するが、回転伝達機構19は、駆動モータ5の回転軸に噛合する歯車機構、この歯車機構の出力軸側に設けられたプーリ、及び当該プーリとプーリ16とに掛け渡された無端状のタイミングベルト19aを含む。これにより、回転伝達機構19は、駆動モータ5の回転駆動力を、タイミングベルト19aを介してプーリ16ひいてはスクリューロッド15に伝達させる。
上記した駆動モータ5、回転伝達機構19、スクリューロッド15等は、複数のパレットPを矢印X方向へ搬送するための駆動機構6に相当する。
【0016】
こうして、ワークWを搭載したパレットPが搬送路3の搬入部11に搬入されるとき、当該パレットPのカムフォロワ18,18がスクリューロッド15の螺旋部15aに係合する。このため、駆動モータ5によりスクリューロッド15が回転駆動されることに伴い、当該パレットPは、カムフォロワ18,18にて螺旋部15aと係合しながら、矢印X方向つまりは搬出部12側たる搬送方向へ移動する。
【0017】
また、本実施形態の搬送装置1では、
図2の模式図で例示するように、上流側からポジション21,22,23,24の順に4箇所の停止ポジションが設定されている。これにより、パレットPが、P
1,P
2,P
3,P
4,…の順で搬入部11から搬出部12へと順次搬送される間に、各々のポジション21~24でパレットP
1~P
4を停止させてワークWに対する部品の組付けや加工等が行われるようになっている。このように、ポジション21~24は、同
図2の「位置1」~「位置4」で表わされる加工ポジションに相当する。
【0018】
前記主制御装置20は、上記したスクリューロッド15の回転駆動と停止により各々のポジション21~24にわたる移動、即ち、パレットPの搬入部11からポジション21までの移動と、ポジション21からポジション22までの移動と、ポジション22からポジション23までの移動と、ポジション23からポジション24までの移動と、ポジション24から搬出部12までの移動とを、順次行わしめるように駆動モータ5を制御する。以下では、係る搬送行程におけるポジション21~24毎の移動を、「搬送動作」或いは「一動作」と称する。
なお、
図2ではポジション21~24相互の間隔を等間隔とし、これにパレットP
1~P
4の搬送間隔を対応させた形態で示しているが、搬送装置1において複数のパレットPの搬送間隔やポジションの設置数等は適宜変更しうるものである。
【0019】
また、搬送装置1には周辺の設備として、その搬送路3に連なる前記トラック搬送装置の搬送路の他、主制御装置20の制御盤20a(
図2にのみ図示)等が付設されており、係る周辺の設備を含む設備全体を、設備25或いは本設備25と称する。本設備25では、トラック搬送装置全体の搬送路における搬送工程や、前記搬送路3におけるポジション21~24での加工工程を含む一連の工程が自動的に行われるようになっている。
【0020】
ここで、
図2に示す主制御装置20は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、ROM、RAM等からなる記憶部を有する。主制御装置20には、駆動モータ5を含む各種アクチュエータや、図示しない操作入力部、表示部が接続されるとともに、
図3に示す異常検出装置30等が接続されている。主制御装置20は、前記記憶部に記憶された制御プログラムに従い、搬送装置1での搬送動作に係る処理を実行し、異常検出装置30は、その搬送動作に応じて搬送路3上のパレットP
1~P
4の中に異常のあるパレットが含まれるか否かを判定するようになっている。なお、異常検出装置30は、制御盤20aとは別に構成されていてもよいし、制御盤20aに組み込まれていてもよい。
【0021】
図3に示す異常検出装置30は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、ROM、RAM等からなる記憶部30aを有する。また、異常検出装置30は、判定部30b、特定部30c及び学習部30dを有する処理部として構成されており、リーダ31、トルクセンサ32、通信部33、操作入力部34、表示部35等が接続されている。
【0022】
リーダ31は、例えばパレットPの前記IDタグ17に記録された情報を非接触で読み取る無線タグリーダである。リーダ31は、
図2に示すように搬送装置本体2おける搬入部11側のポジション21に配置され、そのポジション21に来たパレットPのIDタグ17から、無線通信を利用して当該パレットPの識別情報を読み取る。
IDタグ17には、パレットP各々を識別するために、IDタグ17毎に当該パレットPの識別情報が予め記録されている。例えばパレットP
1,P
2,P
3,P
4…の識別情報として、
図5に示す「No.1」「No.2」「No.3」「No.4」…が割り当てられ、各々対応するIDタグ17に記録されている。
【0023】
この場合、異常検出装置30は、搬送装置1にて順次搬送されるパレットP
1,P
2,P
3,P
4…について、リーダ31により読み取った識別情報を、それらパレットP
1,P
2,P
3,P
4…の搬送間隔に対応した時間間隔で取得する。これにより、異常検出装置30は、
図7の識別情報テーブル37で示すように、パレットP
1,P
2,P
3,P
4…の識別情報とポジション21,22,23,24の位置番号とを対応付けて記憶部30aに記憶する。
【0024】
ここで、識別情報テーブル37は、
図7の最上欄に示す取得日時「DATE AND TIME」、後述するトルク値「Present Value」、並びに、パレットP
1,P
2,P
3,P
4…各々の識別情報「Palette No.1」「No.2」「No.3」「No.4」…を含むと共に、それら識別情報に対応付けられた各々のポジション21,22,23,24…を表す位置番号(「43」「94」「77」「9」…)を含む、データ要素の集合として蓄積される。
【0025】
同図の識別情報テーブル37では説明の便宜上、
図2のポジション21~24以外のポジションの識別番号「38」「31」も示しているが、上記の如く実際のポジションの設置数に合わせて、そのポジション毎のパレットPの識別情報が記憶されるものとする。また、異常検出装置30は、上記した搬送動作毎に、つまりは少なくともパレットP
1,P
2,P
3,P
4…の搬送間隔に対応した時間間隔で識別情報テーブル37を作成し、時系列的なデータ群として記憶するようになっている(
図7の他の識別情報テーブル37´、37´´参照)。
【0026】
なお、前記通信部33は、
図3に示すように主制御装置20と通信可能に接続されることから、異常検出装置30は、主制御装置20側から通信部33を介して、リーダ31やトルクセンサ32により検出されたデータを取得してもよい。このように、通信部33を有する異常検出装置30は、リーダ31と共にパレットP各々の識別情報を取得する識別情報取得部を構成する。また、異常検出装置30はトルクセンサ32と共に、駆動機構6に係る負荷を示すトルク値を負荷情報として、パレットPの搬送間隔に対応した時間間隔で時系列に検出する検出部を構成する。
【0027】
トルクセンサ32は、駆動モータ5に設けられ、その駆動モータ5に係るトルク値を負荷情報として検出する。この場合、異常検出装置30は、搬送装置1において搬送動作が行われる際のサンプリング時間毎に、トルクセンサ32により検出されたトルク値をモニタリングする(
図7参照)。
このため、トルク値は、搬送路3上の複数のパレットP(
図2では4つのパレットP
1~P
4)を搬送対象とした一動作分の周期的な波形を示す波形データT1として、当該パレットPの搬送間隔に対応した時間間隔で検出される。こうして検出されたトルク値は、異常検出装置30において、逐次取り込まれるパレットP各々の識別情報と対応付けた時系列的なデータ群として記憶される。
【0028】
また、
図5では、係るトルク値とパレットPの識別情報とを対応付けたデータ群の一部を模式的に示している。
図5の「位置1」~「位置4」は、
図2のポジション21~ポジション24との対応関係を分かり易くするために前記位置番号に代えて用いている。このように、
図5の「時刻1」の搬送動作において検出されたトルク値は、リーダ31で読み取った搬送路3上のパレットP
1~P
4全部の識別情報No.1~No.4と対応付けて記憶される。同様に、時刻2,3,4,…以降も、搬送動作毎に検出されたトルク値とパレットP各々の識別情報とを逐次取り込み、対応付けた時系列的なデータ群として蓄積される。
なお、異常検出装置30では、上記したデータ群或いは識別情報テーブル37に含まれる各種情報を、操作入力部34での入力操作に応じて表示部35に表示させることができる。
【0029】
さて、パレットPは、カムフォロワ18,18と螺旋部15aとの係合によりスクリューロッド15の回転駆動力が伝達されて搬送方向へ移動する。このため、パレットPにおいて螺旋部15aと係合するカムフォロワ18,18の近傍部分或いはガイドプレート10aやガイドレール10bとの接触部分で摩耗を受け、破損等が生じるとパレットP全体のガタつきや引っ掛かりが発生し、その損耗の程度如何によっては設備25全体の異常停止を招く虞がある。また、搬送位置がポジション21~24からずれてワークWに対する加工等にも不具合が発生する虞がある。
【0030】
そこで、本実施形態の異常検出装置30は、係る不具合や異常停止といった事態を招くことのないよう、事前にその兆候を検知すべくパレットPの異常検出処理を実行するようになっている。ここで、
図4は、異常検出装置30が実行する処理の流れを示すフローチャートを示しており、符合S1,S2,…は、各ステップを表すものとする。
【0031】
異常検出装置30は、搬送装置1での搬送動作が行われると(S1)、その一動作においてトルクセンサ32により検出されたトルク値と、リーダ31での読み取りにより特定される搬送路3上のパレットP全部の識別情報と、を対応付けて記憶する(S2)。具体的には、
図2に示すポジション21~24にパレットP
1~P
4が搬送されたとき、それらの識別情報No.1~No.4に対して当該搬送動作時のトルク値が対応付けられる(
図5の「時刻1」参照)。
【0032】
次いで、異常検出装置30は、S2で取得されたトルク値に基づいて、搬送された複数のパレットPの中に異常のあるパレットPが含まれるか否かを判定する(S3)。詳しくは後述するように、S3の判定では学習モデルを用いて、S2のトルク値のデータが、正常データの分布からどの程度外れているのかの外れ値を異常度として算出する。算出された異常度が予め設定された所定の閾値を超える場合、異常のあるパレットPが含まれると判定し(S3:異常)、当該複数のパレットP全部について識別情報毎に異常判定回数nをカウントアップする(S4)。
【0033】
これに対し、S3の判定において、係るトルク値のデータから算出される異常度が所定の閾値以下であると、異常のあるパレットPが含まれていないと判定し(S3:正常)、当該複数のパレットPについて異常判定回数nをカウントアップすることなく、S1へリターンする。従って例えば、所定の閾値が70%に設定されているとき、
図5の時刻1に搬送されるパレットP
1~P
4は、その異常度が20%であるため、異常判定回数nを増加させることはない。
【0034】
こうして、搬送装置1におけるS1の搬送動作に応じて、
図5に示す各時刻1,2,3,…に、複数のパレットP
1~P
4,P
2~P
5,P
3~P
6,…が順次搬送される場合、逐次取り込まれる識別情報とトルク値とを対応付けて記憶する処理(S2)と、そのトルク値に基づき算出される異常度から、対応する複数のパレットP
1~P
4,P
2~P
5,P
3~P
6,…に異常のあるパレットPが含まれるか否かを判定する処理(S3)と、が繰り返し実行されることとなる。
【0035】
また、
図5に例示するように、時刻4に検出されたトルク値に基づき、算出された異常度が閾値を超えるときには(S3:異常)、対応するパレットP
4~P
7全部ついて識別情報No.4~No.7毎に異常判定回数nをカウントアップする処理が実行される(S4,
図6のNo.6,No.7参照)。
そして、異常検出装置30は、異常判定回数nのカウントアップの都度、対応するパレットP
4~P
7の何れかの当該判定回数nが所定のカウント値Nを超えたか否かを判定する(S5)。或いは、
図6のパレート図で示す異常判定回数nを照合し、前記データ群に含まれる全てのパレットPの間で異常判定回数nの有意な差Δnがあるか否かを判定する。
【0036】
ここで、
図6は、異常検出装置30においてデータ群に含まれるパレットP全部を対象に作成されるパレート図であって、縦軸にパレットPの識別情報を並べ、横軸にS4でカウントされる識別情報毎の異常判定回数n及びその累積構成比を同一のグラフで示している。
前記カウント値Nは、異常判定回数nの最も多いパレットPを特定するために予め設定された閾値(例えば300回)である。また、
図6は、破線で囲ったパレットP
7の異常判定回数nがカウント値Nを超え、且つ他のパレットP
6,P
2,P
1,…の異常判定回数nに比して有意な差Δnを生じさせているときの一例を表すものとする。
【0037】
この場合、データ群における全てのパレットPの異常判定回数nが、同図のNo.1,No.2のパレットP
1,P
2のような異常判定回数nに収まる段階では(
図4のS5:少ない)、何れも正常なパレットPと判定され(S7)、S1へリターンする。
これに対し、異常検出装置30は、S5において異常判定回数nが所定のカウント値Nを超えた(n>N)と判定したとき、或いは
図6のNo.7のパレットP
7の如く他のパレットPの異常判定回数nとの間で有意な差Δnがあると判定したとき(S5:多い)、該当する一のパレットPの識別情報を特定する(S6)。
【0038】
具体的には例えば、搬送装置1においてパレットPをP
4,P
5,P
6,P
7,…の順に搬送する際、そのNo.7のパレットP
7の異常摩擦により、搬送動作時のトルク値を上昇させているものとする。このケースでは、パレットP
7が搬送装置1の搬入部11に搬入されてから搬出部12に搬出されるまで、その搬送動作の都度、S1,S2,S3,S4,S5、S7が実行されることにより、搬送路3上のパレットP
4~P
7,P
5~P
8,P
6~P
9,或いはP
7~P
10各々の異常判定回数nを増加させる(
図4~
図6参照)。
【0039】
それ故、このようなパレットP7は、S1,S2,S3,S4,S5、S7が繰り返し実行されることで、当該パレットP7の前後に流れるP4~P6,P8~P10はもとより、その余のパレットPに比して異常判定回数nを増加させることとなる。その結果、パレットP7の異常判定回数nがカウント値Nを超えた時点で(S5:多い)、或いは他のパレットPの異常判定回数nとの間で有意な差Δnが生じた時点で、当該パレットP7の異常を特定することができる(S6)。
【0040】
この場合、異常検出装置30において、特定されたパレットP
7の識別情報No.7を表示部35に表示させ、或いは図示しないスピーカにて音声で報知することにより、異常のあるパレットP
7を識別可能に特定して、この処理を終了する(エンド)。また、この場合、表示部35において、
図6や
図9に例示するパレート図を表示させることにより、異常のあるパレットPを特定してもよい。
【0041】
続いて、上記のように特定されるパレットP並び機械学習に関して、実際のデータ群等を例示する
図7~
図10も参照しながら詳述する。
異常検出装置30は、パレットPの異常・正常を判定するために、搬送装置1で実際に搬送対象となるパレットPが正常状態であることを前提として、以下の学習モデルを作成する。
【0042】
即ち、異常検出装置30は、例えば搬送装置1におけるメンテナンス後の所定期間を学習期間として、損耗等がないパレットPを前記の搬送間隔で搬送する際に、トルクセンサ32により検出されるトルク値を含むデータ群を一動作毎に取得する。このトルク値は、
図7のテーブル37で示すように一動作分の周期的な波形データT0として逐次取得される。この場合、異常検出装置30は、波形データT0の最大値や平均値を求め、その求めた値を特徴量データとして抽出して記憶部30aに記憶する。
【0043】
こうして、異常検出装置30は、逐次取得されるトルク値について特徴量データを抽出する処理を繰り返し実行することにより、パレットPの正常状態における多数の実測値を基に、抽出した特徴量データを正常データとして蓄積する。そして、異常検出装置30の学習部30dは、蓄積された特徴量データに基づき例えばOne-Class Support Vector Machine等の教師なし機械学習の手法を用いて学習モデルを作成する。
【0044】
これにより、異常検出装置30は、事前に作成した学習モデルを用いて、
図4の異常検出処理で異常度を判定する際に(S3)、その判定対象としてS2で取得されたトルク値に基づき異常度を算出する。この場合、S2のトルク値は、前記特徴量データに対応する評価データとして、当該トルク値の波形データT1の最大値や平均値が抽出され、S3の異常度は、その抽出された評価データが正常データの分布からどの程度離れているかを示す外れ値のスコアとして求めることができる。
【0045】
ここで、
図8は、横軸の経過時間に応じた時系列で異常度を表すトレンドグラフである。トレンドグラフは、パレットPの搬送時に表示部35に表示させて、S3で算出される異常度を監視することができる。なお、
図7に示す符号Thは、異常度に対する閾値の一例を示すものであり、
図5に示した異常度の閾値(例えば70%)のように予め操作入力部34で入力され、設定される。
【0046】
こうして、異常検出装置30の判定部30bは、
図4のS3において異常度を判定する際に、その異常度が予め設定された閾値Thを超えたとき、搬送路3上の複数のパレットPの中に異常のあるパレットPが含まれると判定し(S3:異常)、当該複数のパレットP全部について識別情報毎に異常判定回数nをカウントアップする(S4)。
【0047】
この場合、
図9は、S3、S4での判定及びカウントアップが行われることにより生成された判定結果としての、異常判定回数nを累積構成比の高いパレットPから順に並べたパレート図の一例を表すものとする。また、同図に示すように、破線で囲ったNo.2のパレットP
2の異常判定回数nが予め設定されたカウント値Nを超え、又、No.1のパレットP
1の異常判定回数nが他のパレットP
10の異常判定回数nとの間で有意な差Δnが生じているものとする。
【0048】
このとき、異常検出装置30の特定部30bは、
図4のS5においてパレットP
2の異常判定回数nが予め設定されたカウント値Nを超えた(n>N)と判定し、又、パレットP
1の異常判定回数nと他のパレットP
10の異常判定回数nとの間で有意な差Δnがあると判定して(S5:多い)、当該一のパレットP
2,P
1の異常を特定する(S6)。
【0049】
なお、「一のパレットP」とは、搬送路3上を順次搬送される複数のパレットPを対象に異常判定がなされる結果として、相対的に異常判定回数nが多くなる一のパレットPを称するものであり、上記のS6の如く一個以上のパレットP
2,P
1を含みうる。換言すれば、複数のパレットPの中に異常のある一のパレットPが含まれることにより異常判定回数nを増加させることとなる一のパレットPを特定するものである。従って、
図9の例では、該当するパレットP
2,P
1が二個あっても、当該一のパレットP
2,P
1に相当する。
【0050】
図10は、S6において特定されたパレットP
2における摩耗箇所100の断面図を示している。このような摩耗箇所100は、パレットP
2において螺旋部15aと係合するカムフォロワ18,18の近傍部分、或いはガイドプレート10aやガイドレール10bとの接触部分の箇所であり、異常が特定された他のパレットP
1ついても摩耗による損傷が確認された。
【0051】
こうしたパレットP2,P1における摩耗箇所100は、搬送装置1の外観からは視認し難い接触部分の位置にあるが、その接触部分の異常摩擦等と相関を示すトルク値から、機械学習を用いて異常度を算出することにより、複数のパレットPを搬送している稼動時においても、該当するパレットP2,P1の異常を正確に特定することができ、上記した不具合が発生する兆候を検知することができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の異常検出方法は、識別情報取得部(例えばリーダ31)により取得された搬送路3上のパレットP各々の識別情報と、検出部(例えばトルクセンサ32)により検出された負荷情報とを逐次取り込み、対応付けた時系列的なデータ群として記憶する記憶ステップS2と、パレットP各々の識別情報と対応付けられる負荷情報に基づいて、搬送路3上の複数のパレットPの中に異常のあるパレットPが含まれるか否かを負荷情報ごとに判定する判定ステップS3と、前記データ群について前記負荷情報ごとに前記判定が行われることにより生成された複数の判定結果とパレットP各々の識別情報との対応関係に基づいて、搬送対象とされた全てのパレットPの中から、異常の判定回数nを増加させる一のパレットPを特定する特定ステップS4,S5,S6と、を備える。
【0053】
これによれば、搬送路3上を複数のパレットPが搬送される際に、それらパレットP各々の識別情報と負荷情報とが逐次取り込まれ、対応付けられた時系列的なデータ群として蓄積される。この場合、搬送路3上の複数のパレットPの中に異常のあるパレットPが含まれていれば、これについて対応する負荷情報から判定することができる。
また、蓄積されたデータ群について負荷情報ごとに係る判定が行われることにより生成された複数の判定結果とパレットPの識別情報との対応関係に基づき、搬送対象とされた全てのパレットの中から、異常の判定回数を増加させる一のパレットP、つまりパレットそのものの異常を個別に特定することができる。よって、パレットP全数についてメンテナンスに係る工数を低減することが可能となり、設備25の稼動率の低下を抑制することができる。
【0054】
前記駆動機構6は、搬送装置1において複数のパレットPを搬送する際の駆動源としての駆動モータ5を有し、前記検出部は、駆動モータ5の負荷変動を示す負荷情報を検出する。
これによれば、駆動モータ5の負荷情報としての例えばトルク値は、搬送装置1においてパレットPに生じる異常摩擦等と直接的な相関をもつことから、パレットPの正確な異常判定を行うことができる。
なお、駆動モータ5はサーボモータに限らず、例えばステッピングモータや、他の空圧や油圧の駆動源を用いても、パレットPの搬送に必要なトルクを発生させることができる。また、負荷情報はトルク値に限らず、例えば検出部として電流センサを用い、モータの電流値を検出してもよい。
【0055】
前記判定ステップS3は、パレットP各々の識別情報と対応付けられる負荷情報から異常度を算出するとともに、算出された異常度と予め記憶された閾値Thとを比較することにより前記判定を行う。
このため、搬送路3上を複数のパレットPが搬送される際に、算出された異常度が閾値Thを超えたとき、当該複数のパレットPの中に異常のあるパレットPが含まれると判定することができ、容易且つ一義的に異常を検出することができる。
【0056】
予め取得された負荷情報を用いた機械学習を行い、学習モデルを作成する学習部30dを備え、判定ステップS3は、その判定対象となる負荷情報から、学習モデルを用いて前記判定を行う。これによれば、例えば前記正常データとしての負荷情報を学習した学習モデルに基づき、異常のあるパレットPが含まれるか否かを精度よく判定することができる。
【0057】
前記特定ステップは、判定ステップS3において搬送路3上の複数のパレットPの中に異常のあるパレットPが含まれると判定される都度、当該複数のパレットP各々について異常の判定回数nをカウントアップし、搬送対象とされた全てのパレットPの中から異常の判定回数nが所定のカウント値Nを超えた一のパレットPを特定し、或いは全てのパレットPの中で異常の判定回数nの有意な差Δnが生じている一のパレットPを特定する。
【0058】
これによれば、搬送路3上を累積的に多くのパレットPが順次搬送されるものとしても、又、これに対応して逐次取り込まれた多数のデータが蓄積されるものとしても、その中から異常の判定回数nについてカウント値Nを超えた一のパレットP或いは有意な差Δnが生じているものを、パレットP自体の異常として確実に検出することができる。
【0059】
本開示は、実施例(実施形態)に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、更には、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
例えば、異常検出装置30の学習部30dは教師なし学習に限らず、教師あり学習等の公知の機械学習の手法により、搬送装置1から取得されたデータを用いた機械学習を行うことで学習モデルを作成することができる。
【符号の説明】
【0060】
図面中、1は搬出装置、3は搬送路、5は駆動モータ、6は駆動機構、30は異常検出装置、30aは記憶部、30bは判定部、30cは特定部、30dは学習部、31はリーダ(識別情報取得部)、32はトルクセンサ(検出部)、Pはパレット、を示す。