(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】プリント配線板及びプリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20240402BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H05K1/02 K
H05K1/02 J
H05K3/18 D
H05K3/18 H
(21)【出願番号】P 2021508859
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020008179
(87)【国際公開番号】W WO2020195526
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019063746
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】上田 宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 一平
(72)【発明者】
【氏名】春日 隆
(72)【発明者】
【氏名】山本 正道
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-208881(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051236(WO,A1)
【文献】特開2006-269615(JP,A)
【文献】特開2012-049462(JP,A)
【文献】特開2009-218561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有するベースフィルムと、
上記ベースフィルムの表面に形成される複数本の配線部と
を備えており、
上記配線部がベースフィルムの表面に直接又は間接に積層されるシード層と上記シード層に積層される金属層とを有し、
上記ベースフィルムが上記複数本の配線部を含む配線領域と上記配線部を含まない無配線領域とを有し、
上記複数本の配線部が1又は複数の最外境界配線部と上記最外境界配線部以外の複数の内側配線部とを含み、
上記最外境界配線部が、上記配線領域における上記ベースフィルムの最外側、かつ上記配線領域と上記無配線領域との境界に形成され、
上記最外境界配線部
における平均厚さが40μm以上であり、かつ平均幅が30μm以上
200μm以下であり、
上記内側配線部の平均幅が
上記最外境界配線部の平均幅よりも小さく、
上記
ベースフィルムの平均厚さが50μm以下であるプリント配線板。
【請求項2】
上記最外境界配線部の平均幅が50μm以上である請求項1に記載のプリント配線板。
【請求項3】
複数本の配線部を含む導電パターンを、セミアディティブ法により、絶縁性を有するベースフィルムの表面に直接的又は間接的に形成するプリント配線板の製造方法であって、
導電性を有するシード層を上記ベースフィルムの表面に直接的又は間接的に積層するシード層積層工程と、
上記シード層の表面に上記複数
本の配線部の反転形状を有するレジストパターンを形成するレジストパターン形成工程と、
上記レジストパターンから露出する上記シード層の表面に電気めっきにより金属層を積層する金属層積層工程と、
上記レジストパターンを剥離するレジストパターン剥離工程と、
上記レジストパターン剥離工程後に露出する上記シード層を剥離するシード層剥離工程と
を備え、
上記ベースフィルムが上記複数本の配線部を含む配線領域と上記配線部を含まない無配線領域とを有し、
上記複数本の配線部が1又は複数の最外境界配線部と上記最外境界配線部以外の複数の内側配線部とを含み、
上記最外境界配線部が、上記配線領域における上記ベースフィルムの最外側、かつ上記配線領域と上記無配線領域との境界に形成され、
上記最外境界配線部
における平均厚さが40μm以上であり、かつ平均幅が30μm以上
200μm以下であり、
上記内側配線部の平均幅が
上記最外境界配線部の平均幅よりも小さく、
上記
ベースフィルムの平均厚さが50μm以下であるプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
上記レジストパターンを形成するレジストパターン形成工程で、ドライフィルムフォトレジストを用いて上記レジストパターンを形成する請求項3に記載のプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プリント配線板及びプリント配線板の製造方法に関する。
本出願は、2019年3月28日出願の日本出願第2019-063746号に基づく優先権を主張し、上記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型軽量化に伴い、プリント配線板の配線部のファインピッチ化が図られている。プリント配線板の配線部を高密度のファインピッチにするための方法としてセミアディティブ法が採用されている。このセミアディティブ法では、例えば絶縁樹脂層の表面にシード層を形成し、回路を形成する部分以外をめっきレジストで被覆した後、電気めっきにより回路部分にのみ選択的に金属層を形成する。さらに、めっきレジストを剥離し、回路部分以外のシード層をエッチングすることでプリント配線板を形成する(特開2004-6773号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係るプリント配線板は、絶縁性を有するベースフィルムと、上記ベースフィルムの表面に形成される複数本の配線部とを備えており、上記配線部がベースフィルムの表面に直接又は間接に積層されるシード層と上記シード層に積層される金属層とを有し、上記ベースフィルムが上記複数本の配線部を含む配線領域と上記配線部を含まない無配線領域とを有し、上記複数本の配線部が1又は複数の最外境界配線部と上記最外境界配線部以外の複数の内側配線部とを含み、上記最外境界配線部が、上記配線領域における上記ベースフィルムの最外側、かつ上記配線領域と上記無配線領域との境界に形成され、上記最外境界配線部の平均幅が30μm以上であり、上記内側配線部の平均幅が20μm以下であり、上記内側配線部の平均アスペクト比が1.5以上である。
【0005】
本開示の他の一態様に係るプリント配線板の製造方法は、複数本の配線部を含む導電パターンを、セミアディティブ法により、絶縁性を有するベースフィルムの表面に直接的又は間接的に形成するプリント配線板の製造方法であって、導電性を有するシード層を上記ベースフィルムの表面に直接的又は間接的に積層するシード層積層工程と、上記シード層の表面に上記複数の配線部の反転形状を有するレジストパターンを形成するレジストパターン形成工程と、上記レジストパターンから露出する上記シード層の表面に電気めっきにより金属層を積層する金属層積層工程と、上記レジストパターンを剥離するレジストパターン剥離工程と、上記レジストパターン剥離工程後に露出する上記シード層を剥離するシード層剥離工程とを備え、上記ベースフィルムが上記複数本の配線部を含む配線領域と上記配線部を含まない無配線領域とを有し、上記複数本の配線部が1又は複数の最外境界配線部と上記最外境界配線部以外の複数の内側配線部とを含み、上記最外境界配線部が、上記配線領域における上記ベースフィルムの最外側、かつ上記配線領域と上記無配線領域との境界に形成され、上記最外境界配線部の平均幅が30μm以上であり、上記内側配線部の平均幅が20μm以下であり、上記内側配線部の平均アスペクト比が1.5以上である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るプリント配線板を示す模式的部分平面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るプリント配線板を示す模式的部分断面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るプリント配線板の製造方法のシード層積層工程後の状態を示す模式図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係るプリント配線板の製造方法のレジストパターン形成工程後の状態を示す模式図である。
【
図5】
図5は、一実施形態に係るプリント配線板の製造方法の金属層積層工程後の状態を示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施例における最外境界配線部の外観を示す顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、他の実施形態に係るプリント配線板を示す模式的部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
上記回路の形成工程においては、剥離工程中でのエッチング液のシャワーによる圧力や搬送時におけるリングローラー等の接触による物理的な力が配線部に加わる。セミアディティブ法により形成されるファインピッチ回路は、配線部の設置面積が小さい為、横側からの力に弱く、特に、配線部がない領域と配線部が密集している領域との境界に設けられる配線部の剥がれが生じやすくなる。さらに、平均アスペクト比が高い配線部は、この影響がより顕著となる。
【0008】
このように、配線部が回路形成工程で剥がれてしまった場合、隣の配線部と接触することにより短絡したり、設置面の一部が剥がれて浮き上がった配線部がちぎれることにより断線したりするおそれがある。また、剥がれて脱落した配線部は導電性を有する異物となってしまうため、他のプリント配線基板を汚染して実装不良を起こしたり、他の部品の動作不良を引き起こしたりするおそれもある。
【0009】
本開示は、このような事情に基づいてなされたものであり、平均アスペクト比が高い配線部を備える場合に、配線部が形成される配線領域と配線部がない無配線領域との境界に設けられる配線部の剥がれを抑制できるプリント配線板及びプリント配線板の製造方法の提供を目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示のプリント配線板は、平均アスペクト比が高い配線部を備える場合に、配線部が形成される配線領域と配線部がない無配線領域との境界に設けられる配線部の剥がれを抑制できる。また、本開示のプリント配線板の製造方法は、平均アスペクト比が高い配線部を備える場合に、配線部が形成される配線領域と配線部がない無配線領域との境界に設けられる配線部の剥がれを抑制できるプリント配線板を製造することができる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
本開示の一態様に係るプリント配線板は、絶縁性を有するベースフィルムと、上記ベースフィルムの表面に形成される複数本の配線部とを備えており、上記配線部がベースフィルムの表面に直接又は間接に積層されるシード層と上記シード層に積層される金属層とを有し、上記ベースフィルムが上記複数本の配線部を含む配線領域と上記配線部を含まない無配線領域とを有し、上記複数本の配線部が1又は複数の最外境界配線部と上記最外境界配線部以外の複数の内側配線部とを含み、上記最外境界配線部が、上記配線領域における上記ベースフィルムの最外側、かつ上記配線領域と上記無配線領域との境界に形成され、上記最外境界配線部の平均幅が30μm以上であり、上記内側配線部の平均幅が20μm以下であり、上記内側配線部の平均アスペクト比が1.5以上である。
【0013】
本発明者らは、平均幅20μm以下のファインピッチ回路における配線部の平均アスペクト比を高く設計した場合、具体的には平均アスペクト比が1.5以上である場合に、剥離工程中でのエッチング液のシャワーによる圧力や搬送時におけるリングローラー等の接触による物理的な力により、ベースフィルムの最外側に位置し、かつ上記配線部が形成される配線領域と上記配線部がない無配線領域との境界に設けられる配線部の剥がれの発生が顕著になることを知見した。当該プリント配線板によれば、上記配線領域における上記ベースフィルムの最外側、かつ上記配線領域と上記無配線領域との境界に形成される最外境界配線部の平均幅が30μm以上であることで、上記ベースフィルムに対して十分な密着力を発現することができる。その結果、回路形成工程中における上記最外境界配線部の剥がれを抑制できる。
従来、上記最外境界配線部の剥がれを抑制するために、回路形成後にカバーコートで回路をカバーすることが行われている。しかし、上記カバーコートでカバーするまでに行われた回路形成工程でエッチング液のシャワー等の物理的な力に晒されてしまうため、上記カバーコートでカバーする手段では最外境界配線部の剥がれを十分に抑制することは困難である。一方、当該プリント配線板によれば、上記カバーコートでカバーするまでの工程においても、上記最外境界配線部の剥がれに対する抑制効果を得ることができる。
さらに、ファインピッチ回路の場合、ベースフィルムが曲がりやすくなることで、しわが入りやすい傾向があるが、最外境界配線部の平均幅が30μm以上であることでしわの発生を低減できる。
【0014】
上記最外境界配線部の平均幅が50μm以上であることが好ましい。このように、上記最外境界配線部の平均幅が50μm以上であることで、上記最外境界配線部の剥がれに対する抑制効果をより向上できる。
【0015】
本開示の他の一態様に係るプリント配線板の製造方法は、複数本の配線部を含む導電パターンを、セミアディティブ法により、絶縁性を有するベースフィルムの表面に直接的又は間接的に形成するプリント配線板の製造方法であって、導電性を有するシード層を上記ベースフィルムの表面に直接的又は間接的に積層するシード層積層工程と、上記シード層の表面に上記複数の配線部の反転形状を有するレジストパターンを形成するレジストパターン形成工程と、上記レジストパターンから露出する上記シード層の表面に電気めっきにより金属層を積層する金属層積層工程と、上記レジストパターンを剥離するレジストパターン剥離工程と、上記レジストパターン剥離工程後に露出する上記シード層を剥離するシード層剥離工程とを備え、上記ベースフィルムが上記複数本の配線部を含む配線領域と上記配線部を含まない無配線領域とを有し、上記複数本の配線部が1又は複数の最外境界配線部と上記最外境界配線部以外の複数の内側配線部とを含み、上記最外境界配線部が、上記配線領域における上記ベースフィルムの最外側、かつ上記配線領域と上記無配線領域との境界に形成され、上記最外境界配線部の平均幅が30μm以上であり、上記内側配線部の平均幅が20μm以下であり、上記内側配線部の平均アスペクト比が1.5以上である。
【0016】
当該プリント配線板の製造方法により製造されるプリント配線板は、上記複数本の配線部を含む配線領域における上記ベースフィルムの最外側、かつ上記配線領域と上記無配線領域との境界に形成される最外境界配線部を含む。そして、上記最外境界配線部の平均幅が30μm以上であり、上記内側配線部の平均幅が20μm以下であり、上記内側配線部の平均アスペクト比が1.5以上であるので、平均アスペクト比が高い配線部を備える場合に、上記最外境界配線部の剥がれを抑制できるプリント配線板を得ることができる。
【0017】
当該プリント配線板の製造方法は、上記レジストパターンを形成するレジストパターン形成工程で、ドライフィルムフォトレジストを用いて上記レジストパターンを形成することが好ましい。上記レジストパターンを形成するレジストパターン形成工程でドライフィルムフォトレジストを用いることにより、レジスト層の厚さを広い範囲で任意に選択できるとともに、作業性に優れる。
【0018】
なお、本開示において、上記配線部の「平均幅」とは、配線部の長手方向に垂直な断面における最大幅を、上記配線部の長手方向における任意の5点で測定した値の平均値をいう。上記配線部の「平均アスペクト比」とは、上記配線部の長手方向に垂直な断面おけるアスペクト比を、配線部の長手方向における任意の5点で測定した値の平均値をいう。また、上記「アスペクト比」とは、配線部の長手方向に垂直な断面における厚み方向の最大長さをAとし、上記平均幅をBとした場合のA/Bで表される。「平均厚さ」とは、任意の5点で測定した厚さの平均値をいう。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係るプリント配線板及びプリント配線板の製造方法について図面を参照しつつ詳説する。
【0020】
<プリント配線板>
図1は、一実施形態に係るプリント配線板50を示す模式的部分平面図であり、
図2は、
図1のプリント配線板50のX領域における模式的部分断面図である。
図1に示すようにプリント配線板50は、平面視でU字型の折返し領域を有する複数本の配線部を含む導電パターンを備える。複数本の配線部は、配線を短絡させることなく、略等間隔で配設されている。複数本の配線部は、ベースフィルム1において最外側に位置し、かつ上記配線部が形成される配線領域22と上記配線部がない無配線領域12との境界に設けられる最外境界配線部11と、上記最外境界配線部11以外の複数の配線部である内側配線部10とから構成されている。より詳細には、配線領域22とは、ベースフィルム1が複数本の配線部を含む領域である。また、上記複数本の配線部は、1つの最外境界配線部11と最外境界配線部11以外の複数の内側配線部10とを含む。一方、無配線領域12とは、ベースフィルム1における配線領域22の最外側に位置する最外境界配線部11のさらに最外側の配線部がない領域をいう。そして、上記最外境界配線部11は、上記配線領域22における上記ベースフィルム1の最外側、かつ配線領域22と無配線領域12との境界に形成される。また、
図2に示すように、プリント配線板50は、ベースフィルム1の表面に直接的又は間接的に積層され、導電性を有するシード層2と、シード層2の表面に直接的又は間接的に積層され、複数本の配線部を含む導電パターン20とを備える。最外境界配線部11及び内側配線部10は、シード層2と、シード層2に積層される金属層3とを有する。
【0021】
[ベースフィルム]
ベースフィルム1は、合成樹脂を主成分とし、電気絶縁性を有する。ベースフィルム1は、導電パターンを形成するためのベースフィルムである。ベースフィルム1は可撓性を有していてもよい。ベースフィルム1が可撓性を有する場合、当該プリント配線板50はフレキシブルプリント配線板として用いることができる。
【0022】
上記合成樹脂としては、例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0023】
当該プリント配線板50がフレキシブルプリント配線板として用いられる場合、ベースフィルム1の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、ベースフィルム1の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。ベースフィルム1の平均厚さが上記下限未満であると、ベースフィルム1の絶縁強度が不十分となるおそれがある。一方、ベースフィルム1の平均厚さが上記上限を超えると、当該プリント配線板が不必要に厚くなるおそれや、可撓性が不十分となるおそれがある。
【0024】
[シード層]
シード層2は、ベースフィルム1の一方の面側に電気めっきを施すためのめっき形成用の金属層である。また、シード層2は、ベースフィルム1の一方の面に金属粒子を含むインクを塗布し、金属粒子を焼結させた金属粒子の焼結層であってもよい。シード層2の主成分としては、例えばニッケル、金、銀、タングステン、モリブデン、銅、スズ、コバルト、クロム、鉄、亜鉛等が挙げられ、中でもベースフィルム1との密着性が高く、かつめっき開始表面として適する銅が好ましい。シード層2の平均厚さとしては、平面方向において切れ目が生じるのを防止しつつ、エッチングによる除去効率を高める観点から、例えば10nm以上2μm以下程度とすることができる。
【0025】
[金属層]
金属層3は電気めっきによって形成される。金属層3の主成分としては、銅、ニッケル、銀等が挙げられ、中でも導電性が高く、比較的安価であると共に、シード層2の主成分が銅である場合にシード層2との高い密着性が得られる銅が好ましい。金属層3の主成分が銅である場合、金属層3は、比較的安価でかつ厚さを調節しやすい等の観点から、添加剤を含む硫酸銅めっき浴を用いた電気めっきによって形成されることが好ましい。
【0026】
金属層3の平均厚さとしては、どのようなプリント回路を作製するかによって設定されるもので特に限定されるものではなく、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0027】
[導電パターン]
導電パターン20を構成する複数の配線部は、複数本の配線部のうち、ベースフィルム1において最外側に位置し、かつ上記配線部が形成される配線領域と上記配線部がない無配線領域12との境界に設けられる最外境界配線部11と、最外境界配線部11以外の複数の内側配線部10とから構成されている。複数の内側配線部10は、線状かつ略同一形状に形成されている。複数の内側配線部10は、それぞれ幅が小さく、かつ狭ピッチで配設されている。換言すると、複数の内側配線部10は、ファインピッチで配設されている。
【0028】
最外境界配線部11の平均幅W1の下限としては、30μmであり、50μmがより好ましい。一方、最外境界配線部11の平均幅W1の上限としては特に限定されず、例えば200μmとすることができる。上記平均幅W1が上記下限に満たないと、回路形成工程中における最外境界配線部11の剥がれを十分抑制することが困難になるおそれがある。
【0029】
最外境界配線部11の平均アスペクト比の上限としては、1.5が好ましい。最外境界配線部11の平均アスペクト比の上限が上記範囲であることで、回路の剥がれを抑制できる。一方、上記平均アスペクト比の下限としては特に限定されないが、例えば0.3とすることができる。
【0030】
最外境界配線部11以外の配線部である内側配線部10の平均幅W2の下限としては、2μmであり、5μmがより好ましい。一方、内側配線部10の平均幅W2の上限としては、20μmであり、18μmが好ましい。上記平均幅W2が上記下限に満たないと、内側配線部10の製造が容易でなくなるおそれがある。一方、上記平均幅W2が上記上限を超えると、所望の配線密度を得難くなるおそれがある。
【0031】
最外境界配線部11以外の配線部である内側配線部10の平均アスペクト比の下限としては、1.5であり、1.7が好ましい。上述したように、セミアディティブ法により形成され、ファインピッチ回路は、配線部の設置面積が小さい為、横側からの力に弱く、特に、配線部がない領域と配線部が密集している領域との境界に設けられる配線部の剥がれが生じやすくなる。さらに、平均アスペクト比が高い配線部は、この影響がより顕著となる。従って、本実施形態は、上記平均アスペクト比が1.5以上の場合により効果を奏する。一方、最外境界配線部11以外の内側配線部10の平均アスペクト比の上限としては、10が好ましく、8がより好ましい。上記内側配線部10の平均アスペクト比が上記上限を超えると、内側配線部10の設置面積が過度に小さくなり、内側配線部10が剥がれやすくなるおそれがある。
【0032】
複数の上記内側配線部10の平均間隔Dの下限としては、2μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、複数の内側配線部10の平均間隔Dの上限としては、30μmが好ましく、25μmがより好ましい。上記平均間隔Dが上記下限に満たないと、複数の内側配線部10の製造が容易でなくなるおそれがある。一方、上記平均間隔Dが上記上限を超えると、所望の配線密度を得難くなるおそれがある。ここで、「複数の内側配線部10の平均間隔D」とは、内側配線部10の端面とそれに隣接する内側配線部10の端面との間の平均距離をいう。
【0033】
複数の上記内側配線部10の平均間隔Dに対する内側配線部10の平均幅W2の比(W2/D)の下限としては、0.3が好ましく、0.5がより好ましい。一方、W2/Dの上限としては、10.0が好ましく、5.0がより好ましい。W2/Dが上記下限に満たないと、複数の内側配線部10の平均間隔Dが不必要に大きくなり、所望の配線密度を得難くなるおそれがある。さらに、内側配線部10の平均幅W2が小さくなり、配線部が剥がれやすくなるおそれがある。一方、W2/Dが上記上限を超えると、内側配線部10の平均幅W2が不必要に大きくなり、所望の配線密度を得難くなるおそれがある。
【0034】
当該プリント配線板50によれば、複数の内側配線部10の平均アスペクト比が高い場合でも、配線領域22におけるベースフィルム1の最外側、かつ配線領域22と無配線領域12との境界に形成される最外境界配線部11の剥がれを抑制できる。
【0035】
<プリント配線板の製造方法>
次に、
図2~
図6を参照して、
図1のプリント配線板50の製造方法の一例について説明する。
【0036】
当該プリント配線板の製造方法は、複数本の配線部を含む導電パターンを、セミアディティブ法により、絶縁性を有するベースフィルムの表面に直接的又は間接的に形成するプリント配線板の製造方法である。具体的には、当該プリント配線板の製造方法は、シード層を積層する工程(シード層積層工程)と、レジストパターンを形成するレジストパターン形成工程(レジストパターン形成工程)と、電気めっきにより金属層を積層する金属層積層工程(金属層積層工程)と、レジストパターンを剥離するレジストパターン剥離工程(レジストパターン剥離工程)と、シード層を剥離するシード層剥離工程(シード層剥離工程)とを備える。
【0037】
[シード層積層工程]
シード層積層工程では、導電性を有するシード層2をベースフィルム1の表面に直接的又は間接的に積層する。シード層積層工程では、例えば無電解めっき、金属微粒子分散液の塗布及び焼成等によって、
図3に示すように、ベースフィルム1の略全表面にシード層2を形成する。
【0038】
(シード層)
図3に示すように、上記シード層積層工程では、ベースフィルム1の一方の面の略全面に電気めっきを施すためのめっき形成用のシード層2を積層する。上記シード層積層工程でシード層2を積層する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば蒸着法、スパッタリング法等が挙げられる。また、上述したように、上記シード層積層工程では、ベースフィルム1の一方の面の略全面に金属粒子を含むインクを塗布し、この金属粒子を焼結させることで、ベースフィルム1の一方の面に金属粒子の焼結層を積層してもよい。
【0039】
また、上記シード層積層工程の前に、ベースフィルム1の表面に、ベースフィルム1及びシード層2に対して密着性が高い薄い密着層を積層してもよい。密着層の積層方法としては、例えば無電解めっき、スパッタリング、蒸着、カップリング剤塗布等を挙げることができるが、中でも特に密着性に優れる密着層を形成することができるスパッタリングが好ましい。
【0040】
密着層の材質としては、ニッケルを主成分とする金属、中でも密着力が大きいニッケル-クロム合金が好ましい。
【0041】
[レジストパターン形成工程]
レジストパターン形成工程では、上記シード層積層工程で積層されたシード層の表面に複数の内側配線部10の反転形状を有するレジストパターンRを形成する。レジストパターン形成工程ではシード層2の表面にレジスト膜を積層し、
図4に示すように、フォトリソグラフィ技術により、レジストパターンRを形成する。
【0042】
レジスト膜の積層方法としては、例えば液状レジスト組成物の塗工及び乾燥によって、又は室温で流動性を有しないドライフィルムフォトレジストの熱圧着によってシード層2の表面に形成する。上記レジストパターンを形成するレジストパターン形成工程では、ドライフィルムフォトレジストを用いて上記レジストパターンを形成することが好ましい。上記レジストパターンを形成するレジストパターン形成工程でドライフィルムフォトレジストを用いることにより、レジスト層の厚さを広い範囲で任意に選択できるとともに、作業性に優れる。
【0043】
上記レジストパターン形成工程では、まず上記シード層積層工程で積層されたシード層の表面の略全面にフォトレジスト膜を積層する。このフォトレジスト膜は、例えば感光することにより高分子の結合が弱化されて現像液に対する溶解性が増大するポジ型レジスト組成物によって形成される。
【0044】
次に、上記レジストパターン形成工程では、フォトマスク等を用いて上記フォトレジスト膜を選択的に露光することにより、上記フォトレジスト膜に現像液に溶解する部分と溶解しない部分とを形成する。続いて、現像液を用いて上記溶解する部分を洗い流すことで、
図4に示すように上記最外境界配線部及び複数の内側配線部の形成領域に対応する開口を有するレジストパターンRを形成する。
【0045】
レジストパターンRの開口のうち、各配線部に対応する開口については、上述したように、最外境界配線部の平均幅が30μm以上、内側配線部10の平均幅が20μm以下かつ平均アスペクト比が1.5以上となるように調整される。上記最外境界配線部の平均幅並びに内側配線部10の平均幅及び平均アスペクト比が上記範囲であることで、平均アスペクト比が高い配線部を備える場合に、上記最外境界配線部の剥がれを抑制できるプリント配線板を得ることができる。
【0046】
[金属層積層工程]
金属層積層工程では、上記レジストパターン形成工程で形成されたレジストパターンから露出する上記シード層の表面に、電気めっきにより金属層3を積層する。上記金属層積層工程では、
図5に示すように、シード層2の表面に金属層3を積層する。上記金属層積層工程では、シード層2の表面のうち、レジストパターンRの非積層領域(レジストパターンRの開口に対応する領域)に金属層3を積層する。
【0047】
上記金属層積層工程に用いる金属としては、銅、ニッケル、銀等が挙げられる。これらの中でも導電性が高く、比較的安価である銅が好ましい。さらに、シード層2の主成分が銅である場合、シード層2との高い密着性が得られる銅を用いるとよい。本工程で用いる金属が銅である場合、上記金属層の積層方法としては、特に限定されないが、比較的安価でかつ金属層3の厚さを調節しやすい等の観点から、添加剤を含む硫酸銅めっき浴を用いた電気めっきを行うことが好ましい。
【0048】
[レジストパターン剥離工程]
レジストパターン剥離工程では、上記レジストパターン形成工程で形成したレジストパターンRを剥離する。上記レジストパターン剥離工程では、まずレジストパターンRをシード層2から剥離することでレジストパターンRを除去する。具体的には、ベースフィルム1、シード層2、金属層3及びレジストパターンRを有する上記金属層積層工程後の積層体を剥離液に浸漬させることで、レジストパターンRを剥離液により膨張させる。これにより、レジストパターンRとシード層2との間に反発力が生じ、レジストパターンRがシード層2から剥離する。この剥離液としては公知のものを用いることができる。
【0049】
[シード層剥離工程]
シード層剥離工程では、上記レジストパターン剥離工程後に露出するシード層2を剥離する。このエッチングにはシード層2を形成する金属を浸食するエッチング液が使用される。このように、レジストパターンR及びレジストパターンRと平面視で重なり合うシード層2の領域を除去することで複数の内側配線部10及び最外境界配線部11を製造する。レジストパターン剥離工程及びシード層剥離工程後の導電パターン20は、
図2に示した通りである。
【0050】
上述したように、当該プリント配線板の製造方法により製造されるプリント配線板50は、ベースフィルム1が複数本の配線部を含む配線領域22と配線部を含まない無配線領域12とを有する。上記最外境界配線部11は、上記配線領域22における上記ベースフィルム1の最外側、かつ上記配線領域22と上記無配線領域12との境界に形成される。そして、上記最外境界配線部11の平均幅が30μm以上である。また、上記最外境界配線部11以外の内側配線部10の平均幅が20μm以下であり、内側配線部10の平均アスペクト比が1.5以上である。従って、当該プリント配線板の製造方法によれば、複数の内側配線部10の平均アスペクト比が高い場合でも、内側配線部10が形成される配線領域22と配線部がない無配線領域12との境界に設けられる最外境界配線部11の剥がれを抑制できる。
【0051】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0052】
上記実施形態ではベースフィルムの一方の面側に導電パターンが積層される構成について説明したが、当該プリント配線板はベースフィルムの両面側に一対の導電パターンが積層されてもよい。また、当該プリント配線板の製造方法は、ベースフィルムの両面側に一対の導電パターンを形成してもよい。
【0053】
上記実施形態では、平面視でU字型の導電パターンが積層される構成について説明したが、導電パターンの形状については特に限定されず、直線状、螺旋状等、種々の形状を採用することができる。その他の導電パターンの具体例としては、例えば
図7に示すように、導電パターンが折り返し構造を有さず、直線状で、略平行かつ略等間隔に配設されている構成であってもよい。
図7に示すプリント配線板100は、ベースフィルム1とベースフィルム1の表面に形成される複数本の配線部を含む導電パターン55とを備えている。上記複数本の配線部は、配線を短絡させることなく、略等間隔で配設されている。ベースフィルム1は、複数本の配線部を含む配線領域33と上記配線部を含まない無配線領域32とを有する。上記複数本の配線部は、2つの最外境界配線部31と最外境界配線部31以外の複数の内側配線部30とを含む。また、最外境界配線部31が、配線領域33におけるベースフィルム1の最外側、かつ配線領域33と無配線領域32との境界に形成される。
そして、最外境界配線部31の平均幅が30μm以上である。また、内側配線部30の平均幅は20μm以下であり、内側配線部30の平均アスペクト比が1.5以上である。従って、プリント配線板100においても、複数の内側配線部30の平均アスペクト比が高い場合でも、最外境界配線部31の剥がれを抑制できる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[No.1~No.5]
平均厚さ25μmのポリイミドフィルムからなるベースフィルムを用意した。このベースフィルムの両面側に、平行に配設される10本の配線部を含む導電パターンをセミアディティブ法によって形成した。具体的には、始めに銅からなる平均厚さ0.4μmのシード層を積層した(シード層積層工程)。次に、上記シード層の表面の略全面にアクリル系ドライフィルムレジストの熱圧着によってフォトレジスト膜を積層した後、フォトマスクを用いて上記フォトレジスト膜を選択的に露光することにより、上記フォトレジスト膜に現像液に溶解する部分と溶解しない部分とを形成し、現像液を用いて上記溶解する部分を洗い流すことで、複数の配線部の形成領域に対応する開口を有するレジストパターンを形成した(レジストパターン形成工程)。
【0056】
次に、上記プラズマ処理工程後のシード層の表面に硫酸銅五水和物100g/Lを含有する25℃の硫酸銅めっき浴により電気銅めっきを施すことで、平均厚さ40μmの金属層を積層した(金属層積層工程)。
【0057】
次に、上記金属層積層工程後にドライフィルム剥離液を用いてレジストパターンを除去し(レジストパターン剥離工程)、No.1~No.5のプリント配線板を製造した。No.1~No.5のプリント配線板の複数の配線部の平均幅及び平均アスペクト比を表1に示す。
【0058】
【0059】
[評価]
(外観評価による剥がれの判定)
No.1~No.5のプリント配線板において、0.1MPa、0.3MPa及び0.5MPaの3つのシャワー圧の条件でドライフィルム剥離液のシャワーをあてて上記レジストパターン剥離工程を実施した場合のそれぞれの最外境界配線部の状態を、顕微鏡による目視にて判定した。具体的には、最外境界配線部の剥がれの状態を以下のA~Cの三段階で評価した。この評価結果を表1に示す。また、0.3MPaのシャワー圧でレジストパターン剥離工程を実施し、評価BとなったNo.1のプリント配線板、及び0.5MPaのシャワー圧でレジストパターン剥離工程を実施し、評価CとなったNo.1のプリント配線板の最外境界配線部の外観を示す電子顕微鏡写真を
図6に示す。
A:最外境界配線部の剥がれが発生していない
B:最外境界配線部の倒れが観察され、最外境界配線部の剥がれが発生していると判断できる
C:最外境界配線部が導電パターンにおける所定の場所に存在しておらず、最外境界配線部の剥がれの状態がより悪化していると判断できる
【0060】
<評価結果>
表1に示すように、最外境界配線部の平均幅が30μm以上であるNo.3及びNo.4のプリント配線板は、0.1MPa、0.3MPa及び0.5MPaの全てのシャワー圧の条件下においても最外境界配線部の剥がれが発生しなかった。
一方、最外境界配線部の平均幅が30μm未満であるNo.1及びNo.2のプリント配線板は、0.3MPa及び0.5MPaのシャワー圧の条件下において最外境界配線部の剥がれが発生し、シャワー圧が高くなるにつれて最外境界配線部の剥がれの状態が悪化していた。
また、参考例として示す内側配線部の平均アスペクト比が小さいNo.5のプリント配線板は、最外境界配線部の平均幅が30μm未満であっても、0.1MPa、0.3MPa及び0.5MPaの全てのシャワー圧の条件下において、最外境界配線部の剥がれが発生していなかった。
以上のことから、平均アスペクト比が高い配線部を備えるプリント配線板はシャワーによる圧力が配線部に加わると、配線部がない領域と配線部が密集している領域との境界に設けられる配線部の剥がれが生じやすくなるが、当該プリント配線板はこのような平均アスペクト比が高い配線部を備えるプリント配線板であっても、上記境界に設けられる配線部の剥がれを抑制できることがわかる。
【0061】
以上のように、本開示の実施形態に係るプリント配線板は、平均アスペクト比が高い配線部を備える場合に、配線部が形成される配線領域と配線部がない無配線領域との境界に設けられる配線部の剥がれを抑制できるので、小型電子機器用のプリント配線板として好適である。
【符号の説明】
【0062】
1 ベースフィルム
2 シード層
3 金属層
10、30 内側配線部
11、31 最外境界配線部
12、32 無配線領域
20、55 導電パターン
22、33 配線領域
50、100 プリント配線板