(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20240402BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20240402BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240402BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20240402BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08K5/098
C08K3/013
C08K7/04
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2021522157
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2020018480
(87)【国際公開番号】W WO2020241185
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2019102464
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敦史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇希
(72)【発明者】
【氏名】福田 文博
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/020020(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147996(WO,A1)
【文献】特開2009-226632(JP,A)
【文献】国際公開第2014/041816(WO,A1)
【文献】特開2018-027660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L79、C08G73
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20モル%
以上、40モル%未満であるポリイミド樹脂(A)、並びに、
モンタン酸と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属とからなる脂肪酸金属塩(B)を含有
し、
前記ポリイミド樹脂組成物における前記脂肪酸金属塩(B)の含有量が0.15~3質量%であるポリイミド樹脂組成物。
【化1】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。R
2は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【請求項2】
前記脂肪酸金属塩(B)を構成する前記金属がアルカリ土類金属である、請求項
1に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸金属塩(B)の金属含有量が0.5~10質量%である、請求項1
又は2に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
更に、充填材(C)を含有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記充填材(C)が、粒状又は板状の無機充填材(C1)、及び繊維状の無機充填材(C2)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
4に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリイミド樹脂組成物における前記粒状又は板状の無機充填材(C1)の含有量が0.05~15質量%である、請求項
5に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリイミド樹脂組成物における前記繊維状の無機充填材(C2)の含有量が15~80質量%である、請求項
5に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記脂肪酸金属塩(B)がモンタン酸Ca、モンタン酸Zn、モンタン酸Mg、モンタン酸Al、モンタン酸Li、モンタン酸Na、及びモンタン酸Kからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記脂肪酸金属塩(B)がモンタン酸Caである、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂組成物を含む成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は分子鎖の剛直性、共鳴安定化、強い化学結合によって、高熱安定性、高強度、高耐溶媒性を有する有用なエンジニアリングプラスチックであり、幅広い分野で応用されている。また結晶性を有しているポリイミド樹脂はその耐熱性、強度、耐薬品性をさらに向上させることができることから、金属代替等としての利用が期待されている。しかしながらポリイミド樹脂は高耐熱性である反面、熱可塑性を示さず、成形加工性が低いという問題がある。
【0003】
ポリイミド成形材料としては高耐熱樹脂ベスペル(登録商標)等が知られているが(特許文献1)、高温下でも流動性が極めて低いため成形加工が困難であり、高温、高圧条件下で長時間成形を行う必要があることからコスト的にも不利である。これに対し、結晶性樹脂のように融点を有し、高温での流動性がある樹脂であれば容易にかつ安価で成形加工が可能である。
【0004】
そこで近年、熱可塑性を有するポリイミド樹脂が報告されている。熱可塑性ポリイミド樹脂はポリイミド樹脂が本来有している耐熱性に加え、成形加工性にも優れる。そのため熱可塑性ポリイミド樹脂は、汎用の熱可塑性樹脂であるナイロンやポリエステルが適用できなかった過酷な環境下で使用される成形体への適用も可能である。
【0005】
熱可塑性樹脂を成形加工に供した際の成形金型からの離型性向上を目的として、熱可塑性樹脂に離型剤を添加することは知られている。
例えば、特許文献2には、特定の構造を有する熱可塑性のポリイミド樹脂(A)を繊維材料(C)に含浸してなる複合材が開示され、該ポリイミド樹脂(A)に離型剤等の添加剤を加えてもよいことが記載されている。また、特許文献3には、特定の構造を有し且つ特定の物性を有する熱可塑性のポリイミド樹脂に摺動性改良剤を配合した樹脂組成物としてもよいことが記載され、該摺動性改良剤として金属石鹸等の固体潤滑剤が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-28524号公報
【文献】国際公開第2015/020020号
【文献】国際公開第2016/147996号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2、3に記載されたポリイミド樹脂は、耐熱性が良好であり、熱可塑性を有するため成形加工性にも優れるが、その一方で、ナイロンやポリエステル等の汎用的な熱可塑性樹脂と比較すると融点が高い。このため、例えば、特許文献2では、ポリイミド樹脂と離型剤とを混合し300℃以上の温度で溶融混錬し、得られたポリイミド樹脂組成物を成形材料として300℃以上の温度で熱成形し、成形体が作製される。
【0008】
しかしながら、離型剤の種類によって、300℃以上の加熱条件下では、熱分解が生じるなどして必ずしも良好な離型性が発現するとは限らないおそれがあった。更に、離型剤の熱分解が生じることなどに起因して、得られるポリイミド樹脂組成物の色相や、作製される成形体の色相に変化が生じ、製品価値を低下させるおそれもあった。
特許文献2、3においては、ポリイミド樹脂組成物を得る温度や成形体を作製する温度が300℃以上であっても、良好な離型性が発現する離型剤の選定について特段の検討はなされておらず、更なる検討の余地があった。
【0009】
そこで、本発明の課題は、成形加工性及び耐熱性が良好で、300℃以上の加熱条件下で熱成形(例えば射出成形)に供した際にも、良好な離型性が発現するポリイミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特定の異なるポリイミド構成単位を特定の比率で組み合わせたポリイミド樹脂と、特定の脂肪酸金属塩(B)とを含有するポリイミド樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20~70モル%であるポリイミド樹脂(A)、並びに、ヒドロキシ基を有していてもよい炭素数12~36の脂肪酸と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属とからなる脂肪酸金属塩(B)を含有するポリイミド樹脂組成物を提供する。
【化1】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。R
2は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形加工性及び耐熱性が良好で、300℃以上の加熱条件下で熱成形(例えば射出成形)に供した際にも、良好な離型性が発現するポリイミド樹脂組成物が得られる。
本発明のポリイミド樹脂組成物は、例えば自動車、鉄道、航空などの各種産業部材、家電製品用部材、又はこれらの筐体等に適用できる。具体的には、ギア、軸受、切削部材、ネジ、ナット、パッキン、検査用ICソケット、ベルト、電線等の被覆材、カバーレイフィルム、半導体製造装置用部材、医療用器具、釣り竿やリール等の被覆材、文房具等に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ポリイミド樹脂組成物]
本発明のポリイミド樹脂組成物は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20~70モル%であるポリイミド樹脂(A)並びに、炭素数12~36の脂肪酸、及び水酸基を有する炭素数12~36の脂肪酸からなる群より選択される少なくとも1種の脂肪酸と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属とからなる脂肪酸金属塩(B)を含有するポリイミド樹脂組成物である。
【化2】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。R
2は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
このような本発明のポリイミド樹脂組成物によれば、離型性に優れる成形体が得られる。
【0013】
<ポリイミド樹脂(A)>
本発明に用いるポリイミド樹脂(A)は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20~70モル%である。
【化3】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。R
2は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【0014】
本発明に用いるポリイミド樹脂(A)は熱可塑性樹脂であり、その形態としては粉末又はペレットであることが好ましい。熱可塑性ポリイミド樹脂は、例えばポリアミド酸等のポリイミド前駆体の状態で成形した後にイミド環を閉環して形成される、ガラス転移温度(Tg)を持たないポリイミド樹脂、あるいはガラス転移温度よりも低い温度で分解してしまうポリイミド樹脂とは区別される。
【0015】
式(1)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
R1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。ここで、脂環式炭化水素構造とは、脂環式炭化水素化合物から誘導される環を意味し、該脂環式炭化水素化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、単環であっても多環であってもよい。
脂環式炭化水素構造としては、シクロヘキサン環等のシクロアルカン環、シクロヘキセン等のシクロアルケン環、ノルボルナン環等のビシクロアルカン環、及びノルボルネン等のビシクロアルケン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはシクロアルカン環、より好ましくは炭素数4~7のシクロアルカン環、さらに好ましくはシクロヘキサン環である。
R1の炭素数は6~22であり、好ましくは8~17である。
R1は脂環式炭化水素構造を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
【0016】
R
1は、好ましくは下記式(R1-1)又は(R1-2)で表される2価の基である。
【化4】
(m
11及びm
12は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。m
13~m
15は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。)
【0017】
R
1は、特に好ましくは下記式(R1-3)で表される2価の基である。
【化5】
なお、上記の式(R1-3)で表される2価の基において、2つのメチレン基のシクロヘキサン環に対する位置関係はシスであってもトランスであってもよく、またシスとトランスの比は如何なる値でもよい。
【0018】
X1は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
X1の炭素数は6~22であり、好ましくは6~18である。
X1は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
【0019】
X
1は、好ましくは下記式(X-1)~(X-4)のいずれかで表される4価の基である。
【化6】
(R
11~R
18は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。p
11~p
13は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0である。p
14、p
15、p
16及びp
18は、それぞれ独立に、0~3の整数であり、好ましくは0である。p
17は0~4の整数であり、好ましくは0である。L
11~L
13は、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1~4のアルキレン基である。)
なお、X
1は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基であるので、式(X-2)におけるR
12、R
13、p
12及びp
13は、式(X-2)で表される4価の基の炭素数が10~22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(X-3)におけるL
11、R
14、R
15、p
14及びp
15は、式(X-3)で表される4価の基の炭素数が12~22の範囲に入るように選択され、式(X-4)におけるL
12、L
13、R
16、R
17、R
18、p
16、p
17及びp
18は、式(X-4)で表される4価の基の炭素数が18~22の範囲に入るように選択される。
【0020】
X
1は、特に好ましくは下記式(X-5)又は(X-6)で表される4価の基である。
【化7】
【0021】
次に、式(2)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
R2は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基であり、好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10である。ここで、鎖状脂肪族基とは、鎖状脂肪族化合物から誘導される基を意味し、該鎖状脂肪族化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよく、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
R2は、好ましくは炭素数5~16のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数6~14、更に好ましくは炭素数7~12のアルキレン基であり、なかでも好ましくは炭素数8~10のアルキレン基である。前記アルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても分岐アルキレン基であってもよいが、好ましくは直鎖アルキレン基である。
R2は、好ましくはオクタメチレン基及びデカメチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくはオクタメチレン基である。
【0022】
また、R
2の別の好適な様態として、エーテル基を含む炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基が挙げられる。該炭素数は、好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10である。その中でも好ましくは下記式(R2-1)又は(R2-2)で表される2価の基である。
【化8】
(m
21及びm
22は、それぞれ独立に、1~15の整数であり、好ましくは1~13、より好ましくは1~11、更に好ましくは1~9である。m
23~m
25は、それぞれ独立に、1~14の整数であり、好ましくは1~12、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~8である。)
なお、R
2は炭素数5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の2価の鎖状脂肪族基であるので、式(R2-1)におけるm
21及びm
22は、式(R2-1)で表される2価の基の炭素数が5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の範囲に入るように選択される。すなわち、m
21+m
22は5~16(好ましくは6~14、より好ましくは7~12、更に好ましくは8~10)である。
同様に、式(R2-2)におけるm
23~m
25は、式(R2-2)で表される2価の基の炭素数が5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の範囲に入るように選択される。すなわち、m
23+m
24+m
25は5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)である。
【0023】
X2は、式(1)におけるX1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0024】
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は20~70モル%である。式(1)の繰り返し構成単位の含有比が上記範囲である場合、一般的な射出成型サイクルにおいても、ポリイミド樹脂を十分に結晶化させ得ることが可能となる。該含有量比が20モル%未満であると成形加工性が低下し、70モル%を超えると結晶性が低下するため、耐熱性が低下する。
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは65モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下である。
中でも、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比は20モル%以上、40モル%未満であることが好ましい。この範囲であるとポリイミド樹脂(A)の結晶性が高くなり、より耐熱性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
上記含有比は、成形加工性の観点からは、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、より更に好ましくは35モル%以下である。
【0025】
ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位に対する、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計の含有比は、好ましくは50~100モル%、より好ましくは75~100モル%、更に好ましくは80~100モル%、より更に好ましくは85~100モル%である。
【0026】
ポリイミド樹脂(A)は、さらに、下記式(3)の繰り返し構成単位を含有してもよい。その場合、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(3)の繰り返し構成単位の含有比は、好ましくは25モル%以下である。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記含有比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
【化9】
(R
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基である。X
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【0027】
R3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
R3の炭素数は6~22であり、好ましくは6~18である。
R3は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
また、前記芳香環には1価もしくは2価の電子求引性基が結合していてもよい。1価の電子求引性基としてはニトロ基、シアノ基、p-トルエンスルホニル基、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、フェニル基、アシル基などが挙げられる。2価の電子求引性基としては、フッ化アルキレン基(例えば-C(CF3)2-、-(CF2)p-(ここで、pは1~10の整数である))のようなハロゲン化アルキレン基のほかに、-CO-、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-などが挙げられる。
【0028】
R
3は、好ましくは下記式(R3-1)又は(R3-2)で表される2価の基である。
【化10】
(m
31及びm
32は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。m
33及びm
34は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。R
21、R
22、及びR
23は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、又は炭素数2~4のアルキニル基である。p
21、p
22及びp
23は0~4の整数であり、好ましくは0である。L
21は、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1~4のアルキレン基である。)
なお、R
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基であるので、式(R3-1)におけるm
31、m
32、R
21及びp
21は、式(R3-1)で表される2価の基の炭素数が6~22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(R3-2)におけるL
21、m
33、m
34、R
22、R
23、p
22及びp
23は、式(R3-2)で表される2価の基の炭素数が12~22の範囲に入るように選択される。
【0029】
X3は、式(1)におけるX1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0030】
ポリイミド樹脂(A)は、さらに、下記式(4)で示される繰り返し構成単位を含有してもよい。
【化11】
(R
4は-SO
2-又は-Si(R
x)(R
y)O-を含む2価の基であり、R
x及びR
yはそれぞれ独立に、炭素数1~3の鎖状脂肪族基又はフェニル基を表す。X
4は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
X
4は、式(1)におけるX
1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0031】
ポリイミド樹脂(A)の末端構造には特に制限はないが、炭素数5~14の鎖状脂肪族基を末端に有することが好ましい。
該鎖状脂肪族基は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよい。ポリイミド樹脂(A)が上記特定の基を末端に有すると、耐熱老化性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
炭素数5~14の飽和鎖状脂肪族基としては、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、ラウリル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルペンチル基、2-メチルヘキシル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、イソノニル基、2-エチルオクチル基、イソデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基等が挙げられる。
炭素数5~14の不飽和鎖状脂肪族基としては、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-ヘプテニル基、2-ヘプテニル基、1-オクテニル基、2-オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基等が挙げられる。
中でも、上記鎖状脂肪族基は飽和鎖状脂肪族基であることが好ましく、飽和直鎖状脂肪族基であることがより好ましい。また耐熱老化性を得る観点から、上記鎖状脂肪族基は好ましくは炭素数6以上、より好ましくは炭素数7以上、更に好ましくは炭素数8以上であり、好ましくは炭素数12以下、より好ましくは炭素数10以下、更に好ましくは炭素数9以下である。上記鎖状脂肪族基は1種のみでもよく、2種以上でもよい。
上記鎖状脂肪族基は、特に好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デシル基、及びイソデシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、及びイソノニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、及び2-エチルヘキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
またポリイミド樹脂(A)は、耐熱老化性の観点から、末端アミノ基及び末端カルボキシ基以外に、炭素数5~14の鎖状脂肪族基のみを末端に有することが好ましい。上記以外の基を末端に有する場合、その含有量は、好ましくは炭素数5~14の鎖状脂肪族基に対し10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0032】
ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、優れた耐熱老化性を発現する観点から、ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、更に好ましくは0.2モル%以上である。また、十分な分子量を確保し良好な機械的物性を得るためには、ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは10モル%以下、より好ましくは6モル%以下、更に好ましくは3.5モル%以下である。
ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、ポリイミド樹脂(A)を解重合することにより求めることができる。
【0033】
ポリイミド樹脂(A)は、360℃以下の融点を有し、かつ150℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。ポリイミド樹脂(A)の融点は、耐熱性の観点から、より好ましくは280℃以上、更に好ましくは290℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは345℃以下、より好ましくは340℃以下、更に好ましくは335℃以下である。また、ポリイミド樹脂(A)のガラス転移温度は、耐熱性の観点から、より好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
ポリイミド樹脂(A)の融点、ガラス転移温度は、いずれも示差走査型熱量計により測定することができる。
またポリイミド樹脂(A)は、結晶性、耐熱性、機械的強度、耐薬品性を向上させる観点から、示差走査型熱量計測定により、該ポリイミド樹脂(A)を溶融後、降温速度20℃/分で冷却した際に観測される結晶化発熱ピークの熱量(以下、単に「結晶化発熱量」ともいう)が、5.0mJ/mg以上であることが好ましく、10.0mJ/mg以上であることがより好ましく、17.0mJ/mg以上であることが更に好ましい。ポリイミド樹脂(A)の結晶化発熱量の上限値は特に限定されないが、通常、45.0mJ/mg以下である。
ポリイミド樹脂(A)の融点、ガラス転移温度、結晶化発熱量は、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0034】
ポリイミド樹脂(A)の5質量%濃硫酸溶液の30℃における対数粘度は、好ましくは0.2~2.0dL/g、より好ましくは0.3~1.8dL/gの範囲である。対数粘度が0.2dL/g以上であれば、得られるポリイミド樹脂組成物を成形体とした際に十分な機械的強度が得られ、2.0dL/g以下であると、成形加工性及び取り扱い性が良好になる。対数粘度μは、キャノンフェンスケ粘度計を使用して、30℃において濃硫酸及び上記ポリイミド樹脂溶液の流れる時間をそれぞれ測定し、下記式から求められる。
μ=ln(ts/t0)/C
t0:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5(g/dL)
【0035】
ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、好ましくは10,000~150,000、より好ましくは15,000~100,000、更に好ましくは20,000~80,000、より更に好ましくは30,000~70,000、より更に好ましくは35,000~65,000の範囲である。また、ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwが10,000以上であれば得られる成形体の機械的強度が良好になり、40,000以上であれば機械的強度の安定性が良好になり、150,000以下であれば成形加工性が良好になる。
ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を標準試料としてゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
【0036】
(ポリイミド樹脂(A)の製造方法)
ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。該テトラカルボン酸成分は少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体を含有し、該ジアミン成分は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミン及び鎖状脂肪族ジアミンを含有する。
【0037】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸は4つのカルボキシ基が直接芳香環に結合した化合物であることが好ましく、構造中にアルキル基を含んでいてもよい。また前記テトラカルボン酸は、炭素数6~26であるものが好ましい。前記テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸等が好ましい。これらの中でもピロメリット酸がより好ましい。
【0038】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の誘導体としては、少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の無水物又はアルキルエステル体が挙げられる。前記テトラカルボン酸誘導体は、炭素数6~38であるものが好ましい。テトラカルボン酸の無水物としては、ピロメリット酸一無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。テトラカルボン酸のアルキルエステル体としては、ピロメリット酸ジメチル、ピロメリット酸ジエチル、ピロメリット酸ジプロピル、ピロメリット酸ジイソプロピル、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジメチル、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジメチル等が挙げられる。上記テトラカルボン酸のアルキルエステル体において、アルキル基の炭素数は1~3が好ましい。
【0039】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体は、上記から選ばれる少なくとも1つの化合物を単独で用いてもよく、2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの炭素数は6~22が好ましく、例えば、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、カルボンジアミン、リモネンジアミン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルプロパン等が好ましい。これらの化合物を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好適に使用できる。なお、脂環式炭化水素構造を含むジアミンは一般的には構造異性体を持つが、シス体/トランス体の比率は限定されない。
【0041】
鎖状脂肪族ジアミンは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数は5~16が好ましく、6~14がより好ましく、7~12が更に好ましい。また、鎖部分の炭素数が5~16であれば、その間にエーテル結合を含んでいてもよい。鎖状脂肪族ジアミンとして例えば1,5-ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタン-1,5-ジアミン、3-メチルペンタン-1,5-ジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、1,13-トリデカメチレンジアミン、1,14-テトラデカメチレンジアミン、1,16-ヘキサデカメチレンジアミン、2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチレンアミン)等が好ましい。
鎖状脂肪族ジアミンは1種類あるいは複数を混合して使用してもよい。これらのうち、炭素数が8~10の鎖状脂肪族ジアミンが好適に使用でき、特に1,8-オクタメチレンジアミン及び1,10-デカメチレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に使用できる。
【0042】
ポリイミド樹脂(A)を製造する際、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの仕込み量のモル比は20~70モル%であることが好ましい。該モル量は、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%未満、更に好ましくは35モル%以下である。
【0043】
また、上記ジアミン成分中に、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンを含有してもよい。少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの炭素数は6~22が好ましく、例えば、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,2-ジエチニルベンゼンジアミン、1,3-ジエチニルベンゼンジアミン、1,4-ジエチニルベンゼンジアミン、1,2-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン等が挙げられる。
【0044】
上記において、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの仕込み量のモル比は、25モル%以下であることが好ましい。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記モル比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
また、前記モル比は、ポリイミド樹脂(A)の着色を少なくする観点からは、好ましくは12モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下、より更に好ましくは0モル%である。
【0045】
ポリイミド樹脂(A)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分と前記ジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0046】
またポリイミド樹脂(A)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分、前記ジアミン成分の他に、末端封止剤を混合してもよい。末端封止剤としては、モノアミン類及びジカルボン酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。末端封止剤の使用量は、ポリイミド樹脂(A)中に所望量の末端基を導入できる量であればよく、前記テトラカルボン酸及び/又はその誘導体1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、0.001~0.06モルがより好ましく、0.002~0.035モルが更に好ましい。
中でも、末端封止剤としてはモノアミン類末端封止剤が好ましく、ポリイミド樹脂(A)の末端に前述した炭素数5~14の鎖状脂肪族基を導入して耐熱老化性を向上させる観点から、炭素数5~14の鎖状脂肪族基を有するモノアミンがより好ましく、炭素数5~14の飽和直鎖状脂肪族基を有するモノアミンが更に好ましい。
末端封止剤は、特に好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、イソノニルアミン、n-デシルアミン、及びイソデシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、及びイソノニルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、及び2-エチルヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0047】
ポリイミド樹脂(A)を製造するための重合方法としては、公知の重合方法が適用でき、国際公開第2016/147996号に記載の方法を用いることができる。
【0048】
<脂肪酸金属塩(B)>
本発明のポリイミド樹脂組成物は、上述したポリイミド樹脂(A)と、ヒドロキシ基を有していてもよい炭素数12~36の脂肪酸と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び遷移金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属とからなる脂肪酸金属塩(B)とを含有する。
これにより、成形加工性及び耐熱性が良好で、300℃以上の加熱条件下で熱成形(例えば射出成形)に供した際にも、良好な離型性が発現するポリイミド樹脂組成物が得られる。
【0049】
脂肪酸金属塩(B)を構成する脂肪酸の炭素数は、良好な離型性が発現する効果を得る観点から、12~36であり、好ましくは16~36、より好ましくは16~34、更に好ましくは26~32である。
上記脂肪酸の炭素数が上記範囲未満(12未満)である場合、脂肪酸金属塩(B)の耐熱性が不足し、成形材料となるポリイミド樹脂組成物を300℃以上の加熱条件下で熱成形(例えば射出成形)に供した際に脂肪酸金属塩(B)が分解され易く、良好な離型性が発現し難くなるおそれがある。
一方、上記脂肪酸の炭素数が上記範囲を超える(36を超える)場合、脂肪酸金属塩(B)の原料となる脂肪酸の入手が困難となるおそれがある。
なお、脂肪酸金属塩(B)を構成する脂肪酸は、不飽和脂肪酸であっても飽和脂肪酸であってもよいが、良好な離型性が発現する効果が得られ易いことから飽和脂肪酸が好ましい。
【0050】
脂肪酸金属塩(B)を構成する、水酸基を有さない脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸(C12)、トリデシル酸(C13)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、ノナデシル酸(C19)、アラキジン酸(C20)、ヘンイコシル酸(C21)、ベヘン酸(C22)、トリコシル酸(C23)、リグノセリン酸(C24)、セロチン酸(C26)、モンタン酸(C28)、メリシン酸(C30)、ドトリアコンタン酸(C32)が挙げられる。
これらの水酸基を有さない脂肪酸の中でも、良好な離型性が発現する効果が高いことから、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、ベヘン酸(C22)、モンタン酸(C28)が好ましく、中でもモンタン酸(C28)がより好ましい。
【0051】
脂肪酸金属塩(B)を構成する、水酸基を有する脂肪酸としては、例えば、12-ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシベヘン酸、ヒドロキシリグノセリン酸が挙げられる。
これらの水酸基を有する脂肪酸の中でも、良好な離型性が発現する効果が高いことから、12-ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシベヘン酸、ヒドロキシリグノセリン酸が好ましい。
【0052】
脂肪酸金属塩(B)を構成する金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムなどのアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムなどのアルカリ土類金属;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅などの遷移金属が挙げられる。
これらの金属の中でも、良好な離型性が発現する効果が高いことから、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。更に、色相変化が小さく、光沢度及び機械的強度にも優れる成形体が得られ易いことから、アルカリ土類金属がより好ましく、中でも、カルシウムが好ましい。
【0053】
脂肪酸金属塩(B)の熱重量分析(TGA)による5%重量減少温度(Td5)は、空気雰囲気下の条件では、好ましくは230~550℃、より好ましくは240~500℃、更に好ましくは280~370℃であり、窒素雰囲気下の条件では、好ましくは250~600℃、より好ましくは260~550℃、更に好ましくは300~450℃である。
上記5%重量減少温度(Td5)が上記範囲にあることにより、良好な離型性が発現し、色相変化が小さく、光沢度及び機械的強度にも優れる成形体が得られ易くなる。
なお、空気雰囲気下での空気ガス流量は、特に限定されないが、好ましくは20~90mL/分、より好ましくは30~80mL/分、更に好ましくは40~70mL/分である。
また、窒素雰囲気下での窒素ガス流量は、特に限定されないが、好ましくは60~140mL/分、より好ましくは70~130mL/分、更に好ましくは80~120mL/分である。
【0054】
通常であれば、5%重量減少温度(Td5)が高いほど脂肪酸金属塩(B)の熱分解が生じ難いと考えられるが、本発明者らの検討により、5%重量減少温度(Td5)が相対的に低くても良好な離型性が発現する効果が高くなる知見を得ている(後述する実施例を参照)。
なお、5%重量減少温度(Td5)は、後述する実施例に示した方法で測定することにより求めることができる。
【0055】
本明細書において「色相変化が小さい」とは、脂肪酸金属塩(B)を含有しないポリイミド樹脂組成物の色相と、脂肪酸金属塩(B)を含有するポリイミド樹脂組成物の色相とを比べ、色相の変化が小さいことを指していう。
具体的には、脂肪酸金属塩(B)未含有ポリイミド樹脂組成物のYI値及び白色度と、脂肪酸金属塩(B)含有ポリイミド樹脂組成物のYI値及び白色度とを比べ、YI値同士の差と白色度同士の差とが共に小さいほど、色相変化が小さいと評価することができる。
なお、YI値及び白色度は、後述する実施例に示した方法で測定することにより求めることができる。
【0056】
脂肪酸金属塩(B)の融点は、好ましくは120~300℃、より好ましくは120~280℃、更に好ましくは120~250℃である。
上記融点が上記範囲にあることにより、良好な離型性が発現し、色相変化が小さく、光沢度及び機械的強度にも優れる成形体が得られ易くなる。
なお、融点は、JIS K7121:2012に準拠する示差走査熱量測定(DSC)により求められる値である。
【0057】
脂肪酸金属塩(B)の金属含有量は、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは0.5~8質量%、更に好ましくは0.5~6質量%である。
上記金属含有量が上記範囲にあることにより、良好な離型性が発現し、色相変化が小さく、光沢度及び機械的強度にも優れる成形体が得られ易くなる。
なお、金属含有量は、ICP発光分光分析装置(Inductivity coupled plasma optical emission spectrometer:ICP-OES)を用いて金属の定性、定量分析を行うことにより求められる値である。
【0058】
ポリイミド樹脂組成物における脂肪酸金属塩(B)の含有量は、好ましくは0.05~20質量%、より好ましくは0.1~10質量%、更に好ましくは0.1~7質量%、より更に好ましくは0.15~5質量%、より更に好ましくは0.15~3質量%である。
上記脂肪酸金属塩(B)の含有量が上記範囲にあることにより、良好な離型性が発現し、色相変化が小さく、光沢度及び機械的強度にも優れる成形体が得られ易くなる。
【0059】
脂肪酸金属塩(B)は公知の方法で製造することができる。市販の脂肪酸金属塩としては、例えば、日東化成工業(株)製の「CS-3」(ラウリン酸Ca)、「ZS-3」(ラウリン酸Zn)、「BS-3」(ラウリン酸Ba)、「LS-3」(ラウリン酸Li)、「NS-3A」(ラウリン酸Na/K)、「CS-7」(ベヘン酸Ca)、「ZS-7」(ベヘン酸Zn)、「MS-7」(ベヘン酸Mg)、「LS-7」(ベヘン酸Li)、「NS-7」(ベヘン酸ナトリウム)、「KS-7」(ベヘン酸K)、「CS-8CP」(モンタン酸Ca)、「ZS-8」(モンタン酸Zn)、「MS-8」(モンタン酸Mg)、「AS-8」(モンタン酸Al)、「LS-8」(モンタン酸Li)、「NS-8」(モンタン酸Na)、「KS-8」(モンタン酸K)、「HRC-12」(複合アルカリ石鹸);日油(株)製の「カルシウムステアレートG」、「カルシウムステアレートGP」、「カルシウムステアレートGF-200」、「ジンクステアレートG」、「ジンクステアレートGP」、「ジンクステアレートGF-200」、「ジンクベヘネート」、「マグネシウムステアレートG」、「マグネシウムステアレートGR」、「マグネシウムステアレートGP」、「マグネシウムステアレートGF-200」、「ステアリン酸バリウムGF」等が挙げられる。
【0060】
<充填材(C)>
本発明のポリイミド樹脂組成物は、耐熱性及び機械的強度を向上させる観点から、充填材(C)を含有してもよい。充填材(C)の形状は特に限定されるものではなく、粒状、板状、及び繊維状の充填材のいずれも用いることができる。
【0061】
粒状又は板状充填材の粒径は、ポリイミド樹脂組成物の用途等に応じて適宜選択することができるが、ポリイミド樹脂組成物の成形加工性、及び成形体の機械的強度を向上させる観点から、平均粒径は好ましくは0.1~200μm、より好ましくは0.5~100μmである。
【0062】
繊維状充填材の平均繊維径は、ポリイミド樹脂組成物の成形加工性、及び成形体の機械的強度を向上させる観点から、好ましくは1~100μm、より好ましくは3~50μm、更に好ましくは4~20μmである
繊維状充填材の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により50本以上の繊維を無作為に選んで観察、計測し、個数平均を算出することにより求められる。
【0063】
繊維状充填材の形態としては特に制限はなく、短繊維、連続繊維のいずれも用いることができ、両者を併用してもよい。
【0064】
繊維状充填材が短繊維である場合、その平均繊維長は、ポリイミド樹脂組成物の成形加工性、及び成形体の機械的強度を向上させる観点から、好ましくは10mm未満であり、より好ましくは0.5~8mm、更に好ましくは2~8mmである。
繊維状充填材の平均繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により50本以上の繊維を無作為に選んで観察、計測し、個数平均を算出することにより求められる。
【0065】
繊維状充填材が連続繊維である場合、例えば、単にモノフィラメント又はマルチフィラメントを一方向又は交互に交差するように並べたもの、編織物等の布帛、不織布、マット等が挙げられる。
繊維状充填材が連続繊維である場合、その繊度は、好ましくは20~4,500tex、より好ましくは50~4,000texである。なお、繊度は任意の長さの連続繊維の重量を求めて、1,000m当たりの重量に換算して求めることができる。
【0066】
充填材(C)としては、無機充填材及び有機充填材のいずれも用いることができるが、耐熱性及び機械的強度を向上させる観点からは無機充填材が好ましい。充填材(C)は、粒状又は板状の無機充填材(C1)、及び繊維状の無機充填材(C2)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0067】
上記粒状又は板状の無機充填材(C1)は、ポリイミド樹脂組成物中で結晶核剤として作用させて耐熱性や機械的強度を向上させる観点から、好適に用いられる。上記粒状又は板状の無機充填材(C1)としては、シリカ、アルミナ、カオリナイト、ワラストナイト、マイカ、タルク、クレー、セリサイト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、炭化ケイ素、三硫化アンチモン、硫化錫、硫化銅、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、ガラス等が挙げられる。これらの中でも、タルクが好ましい。
なお、上記ガラスは、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズであってもよい。
【0068】
上記繊維状の無機充填材(C2)は、耐熱性や機械的強度を向上させる観点から、好適に用いられる。上記繊維状の無機充填材(C2)としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、グラファイト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化珪素繊維、ホウ素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、マグネシウム系ウィスカー、珪素系ウィスカー等が挙げられる。これらの中でも、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。
なお、これらの無機充填材は、表面処理を施したものでもよい。
【0069】
ポリイミド樹脂組成物における上記粒状又は板状の無機充填材(C1)の含有量は、好ましくは0.05~15質量%、より好ましくは0.1~10質量%、更に好ましくは0.2~5質量%である。
また、ポリイミド樹脂組成物における上記繊維状の無機充填材(C2)の含有量は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは15~80質量%、更に好ましくは20~70質量%、より更に好ましくは30~60質量%である。
【0070】
<添加剤>
本発明のポリイミド樹脂組成物には、艶消剤、可塑剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、酸化防止剤、導電剤、樹脂改質剤等の添加剤を、必要に応じて配合することができる。
上記添加剤の配合量には特に制限はないが、ポリイミド樹脂(A)由来の物性を維持しつつ添加剤の効果を発現させる観点から、ポリイミド樹脂組成物中、通常、50質量%以下であり、好ましくは0.0001~30質量%、より好ましくは0.001~15質量%、更に好ましくは0.01~10質量%である。
【0071】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物には、その特性が阻害されない範囲で、ポリイミド樹脂(A)以外の他の樹脂を配合することができる。該他の樹脂としては、高耐熱性の熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂(A)以外のポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、成形加工性、強度及び耐溶剤性の観点から、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
ポリイミド樹脂(A)と他の樹脂とを併用する場合、ポリイミド樹脂組成物の特性が阻害されない範囲であれば、その配合比率には特に制限はない。
【0072】
但し、本発明のポリイミド樹脂組成物中のポリイミド樹脂(A)及び脂肪酸金属塩(B)の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0073】
本発明のポリイミド樹脂組成物は任意の形態をとることができるが、ペレットであることが好ましい。
本発明のポリイミド樹脂組成物及びこれに用いるポリイミド樹脂(A)は熱可塑性を有するため、例えばポリイミド樹脂(A)、脂肪酸金属塩(B)、及び必要に応じて各種任意成分を添加してドライブレンドした後、押出機内で溶融混練してストランドを押出し、ストランドをカットすることによりペレット化することができる。また、当該ペレットを各種成形機に導入して後述の方法で熱成形することにより、所望の形状を有する成形体を容易に製造することができる。
【0074】
[成形体]
本発明は、前記ポリイミド樹脂組成物を含む成形体を提供する。
本発明のポリイミド樹脂組成物は熱可塑性を有するため、熱成形することにより容易に本発明の成形体を製造できる。熱成形方法としては射出成形、押出成形、ブロー成形、熱プレス成形、真空成形、圧空成形、レーザー成形、溶接、溶着等が挙げられ、熱溶融工程を経る成形方法であればいずれの方法でも成形が可能である。中でも射出成形を行う場合には、成形温度や成形時の金型温度を、一般的な熱可塑性ポリイミド樹脂を原料として用いる場合よりも、高温に設定することなく相対的に低い温度で成形可能であるため好ましい。例えば射出成形においては、成形温度400℃以下、金型温度220℃以下での成形が可能である。
【0075】
成形体を製造する方法としては、ポリイミド樹脂組成物を300~400℃で熱成形する工程を有することが好ましい。具体的な手順としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、ポリイミド樹脂(A)に、脂肪酸金属塩(B)及び必要に応じて各種任意成分を添加してドライブレンドした後、これを押出機内に導入して、好ましくは300~400℃で溶融して押出機内で溶融混練及び押出し、ペレットを作製する。あるいは、ポリイミド樹脂(A)を押出機内に導入して、好ましくは300~400℃で溶融し、ここに脂肪酸金属塩(B)及び各種任意成分を導入して押出機内でポリイミド樹脂(A)と溶融混練し、押出すことで前述のペレットを作製してもよい。
上記ペレットを乾燥させた後、各種成形機に導入して好ましくは300~400℃で熱成形し、所望の形状を有する成形体を製造することができる。
本発明のポリイミド樹脂組成物は300~400℃という比較的低い温度で押出成形等の熱成形を行うことが可能であるため、成形加工性に優れ、所望の形状を有する成形品を容易に製造することができる。熱成形時の温度は、好ましくは300~400℃である。
【0076】
本発明のポリイミド樹脂組成物によれば、成形加工性及び耐熱性が良好で、特に300℃以上の温度で熱成形(例えば射出成形等)に供した際の離型性に優れる。
本発明のポリイミド樹脂組成物は、例えば自動車、鉄道、航空などの各種産業部材、家電製品用部材、又はこれらの筐体等に適用できる。具体的には、ギア、軸受、切削部材、ネジ、ナット、パッキン、検査用ICソケット、ベルト、電線等の被覆材、カバーレイフィルム、半導体製造装置用部材、医療用器具、釣り竿やリール等の被覆材、文房具等に適用できる。
【実施例】
【0077】
次に実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各製造例、実施例及び比較例における各種測定及び評価は以下のように行った。
【0078】
(1)ポリイミド樹脂(A)に関する測定
(1-1)赤外線分光分析(IR測定)
後述する製造例1で得られたポリイミド樹脂1のIR測定は日本電子(株)製「JIR-WINSPEC50」を用いて行った。
【0079】
(1-2)対数粘度μ
ポリイミド樹脂を190~200℃で2時間乾燥した後、該ポリイミド樹脂0.100gを濃硫酸(96%、関東化学(株)製)20mLに溶解したポリイミド樹脂溶液を測定試料とし、キャノンフェンスケ粘度計を使用して30℃において測定を行った。対数粘度μは下記式により求めた。
μ=ln(ts/t0)/C
t0:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5g/dL
【0080】
(1-3)融点、ガラス転移温度、結晶化温度、結晶化発熱量
後述する製造例1で得られたポリイミド樹脂1の融点Tm、ガラス転移温度Tg、結晶化温度Tc、及び結晶化発熱量ΔHmは、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC-6220」)を用いて測定した。
窒素雰囲気下、ポリイミド樹脂に下記条件の熱履歴を課した。熱履歴の条件は、昇温1度目(昇温速度10℃/分)、その後冷却(降温速度20℃/分)、その後昇温2度目(昇温速度10℃/分)である。
融点Tmは昇温2度目で観測された吸熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。ガラス転移温度Tgは昇温2度目で観測された値を読み取り決定した。結晶化温度Tcは冷却時に観測された発熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。
また結晶化発熱量ΔHm(mJ/mg)は冷却時に観測された発熱ピークの面積から算出した。
【0081】
(1-4)半結晶化時間
後述する製造例1で得られたポリイミド樹脂1の半結晶化時間は、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC-6220」)を用いて測定した。
窒素雰囲気下、420℃で10分保持し、ポリイミド樹脂を完全に溶融させたのち、冷却速度70℃/分の急冷操作を行った際に、観測される結晶化ピークの出現時からピークトップに達するまでにかかった時間を計算した。なお、表1中、半結晶化時間が20秒以下である場合は「<20」と表記した。
【0082】
(1-5)重量平均分子量
後述する製造例1で得られたポリイミド樹脂1の重量平均分子量(Mw)は、昭和電工(株)製のゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)測定装置「Shodex GPC-101」を用いて下記条件にて測定した。
カラム:Shodex HFIP-806M
移動相溶媒:トリフルオロ酢酸ナトリウム2mM含有HFIP
カラム温度:40℃
移動相流速:1.0mL/min
試料濃度:約0.1質量%
検出器:IR検出器
注入量:100μm
検量線:標準PMMA
【0083】
(2)脂肪酸金属塩(B)に関する測定
(2-1)5%重量減少温度(Td5)
脂肪酸金属塩(B)の5%重量減少温度(Td5)は、約10mgの試料を対象とし、熱重量分析装置(セイコーインスツル(株)社製「TG/DTA6200」)を用いた。
脂肪酸金属塩(B)は、昇温速度10℃/分の条件下で、常温~450℃まで昇温した際に、100℃時の試料100重量%に対して、試料が5重量%減少する温度を測定することにより求めた。
なお、空気雰囲気下では空気ガス流量50mL/分、窒素雰囲気下では窒素ガス流量100mL/分の条件下で、それぞれ昇温を行った。
【0084】
(3)ポリイミド樹脂組成物に関する評価
(3-1)色相
後述する各例で得たポリイミド樹脂組成物のペレットを測定に使用した。
色差計(日本電色工業(株)製「ZE2000」)を用い、反射法によりLab値、YI値を測定した。また、Lab値及びYI値を基に白色度を算出した。
なお、Lab値はJIS Z8781-4:2013、及びYI値はJIS K7373:2006にそれぞれ準拠した方法で測定を行い、白色度はJIS Z8715:1999に準拠した方法で算出を行った。
<YI値についての評価>
YI値については、以下の基準で評価した。
G:各実施例のYI値が、ポリイミド樹脂1のみからなる比較例1のYI値に対し、±5の範囲内にある。
F:各実施例のYI値が、ポリイミド樹脂1のみからなる比較例1のYI値に対し、±5の範囲から外れる。
<白色度についての評価>
白色度については、以下の基準で評価した。
G:各実施例の白色度が、ポリイミド樹脂1のみからなる比較例1の白色度に対し、±5の範囲内にある。
F:各実施例の白色度が、ポリイミド樹脂1のみからなる比較例1の白色度に対し、±5の範囲から外れる。
<色相変化についての評価>
色相変化については、以下の基準で評価した。
G:各実施例のYI値及び白色度の評価が共に「G」であった場合、ポリイミド樹脂1のみからなる比較例1を基準にして、色相変化が小さいと評価した。
F:各実施例のYI値及び白色度の評価が共に「F」であった場合、ポリイミド樹脂1のみからなる比較例1を基準にして、色相変化が大きいと評価した。
【0085】
(4)成形体に関する評価
(4-1)光沢度
後述する各例で得た170mm×20mm×厚さ4mmの成形体を切削加工して80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、測定に使用した。
光沢度計(日本電色工業(株)社製「VG-2000」)を用い、60°光沢度(入射角60°受光角60°)は、後述する各例で作製した成形体を試験片として、JIS K5101-5-3:2004に準拠した方法で測定した。
60°光沢度については、以下の基準で評価した。
G:ポリイミド樹脂1のみからなる比較例1の60°光沢度の値に対し、±5GUの範囲である。
F:ポリイミド樹脂1のみからなる比較例1の60°光沢度の値に対し、±5GUの範囲から外れる。
【0086】
(4-2)曲げ強度及び曲げ弾性率
後述する各例で得た170mm×20mm×厚さ4mmの成形体を切削加工して80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、測定に使用した。
ベンドグラフ((株)東洋精機製作所製)を用い、ISO178に準拠して、室温(23℃)、試験速度2mm/分の条件で曲げ試験を行い、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0087】
(4-3)熱変形温度(HDT)
後述する各例で得た170mm×20mm×厚さ4mmの成形体を切削加工して80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、測定に使用した。
HDT試験装置「Auto-HDT3D-2」((株)東洋精機製作所製)を用い、支点間距離64mm、荷重1.80MPa、昇温速度120℃/時間の条件で測定した。
【0088】
(4-4)離型性
後述する各例で金型内に成形体を作製したが、この成形体を同じ方法で20回作製し、5.型開き・取り出し工程において成形体が可動側金型に貼り付いて離れなかった回数(貼り付き回数/20回)をカウントした。更に、可動側金型に貼り付いて離れなかった成形体は貼り付きが解消される程度の力を加えて成形体を引き離し、20回作製した成形体を対象として目視観察を行い、成形体に10°以上の反り(変形)が発生した回数(変形回数/20回)をカウントした。
なお、各例で20回ずつ作製した成形体は、3.射出工程において射出時間が2±0.03秒、クッション量が2~5mmとなるように一定の射出速度で射出が行われ、5.型開き・取り出し工程において1回目も2回目もそれぞれ一定の突き出し速度で突き出しが行われ、得られたものである。すなわち、各例でそれぞれ作製した20個の成形体は、製造条件が可能な限り同じとなるようにして得られたものである。
よって、成形体に生じた10°以上の反り(変形)は、可動側金型に貼り付いた成形体を引き離すのに加えた力に起因するもので、貼り付きの程度が大きいほど引き離しのために要する力は大きくなる。
<貼り付き回数についての評価>
20回作製した成形体のうち、成形体が可動側金型に貼り付いて離れなかった回数(貼り付き回数/20回)については、以下の基準で評価した。
A:貼り付き回数が10回未満
B:貼り付き回数が10回以上15回未満
C:貼り付き回数が15回以上
<変形回数についての評価>
20回作製した成形体のうち、成形体に10°以上の反りが発生した回数(変形回数/20回)については、以下の基準で評価した。
A:変形回数が0回
B:変形回数が1回以上2回未満
C:変形回数が2回以上
【0089】
[製造例1]ポリイミド樹脂1の製造
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2-(2-メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)500gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)218.12g(1.00mol)を導入し、窒素フローした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製、シス/トランス比=7/3)49.79g(0.35mol)、1,8-オクタメチレンジアミン(関東化学(株)製)93.77g(0.65mol)を2-(2-メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。滴下により発熱が起こるが、内温は40~80℃に収まるよう調整した。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール130gと、末端封止剤であるn-オクチルアミン(関東化学(株)製)1.284g(0.010mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、淡黄色のポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が120~140℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2-(2-メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で180℃、10時間乾燥を行い、317gのポリイミド樹脂1の粉末を得た。
ポリイミド樹脂1のIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1768、1697(cm-1)にイミド環の特性吸収が認められた。対数粘度は1.30dL/g、Tmは323℃、Tgは184℃、Tcは266℃、結晶化発熱量は21.0mJ/mg、半結晶化時間は20秒以下、Mwは55,000であった。
【0090】
製造例1におけるポリイミド樹脂1の組成及び評価結果を表1に示す。なお、表1中のテトラカルボン酸成分及びジアミン成分のモル%は、ポリイミド樹脂製造時の各成分の仕込み量から算出した値である。
【0091】
【0092】
表1中の略号は下記の通りである。
・PMDA;ピロメリット酸二無水物
・1,3-BAC;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
・OMDA;1,8-オクタメチレンジアミン
【0093】
[実施例1~7及び比較例1]
<ポリイミド樹脂組成物のペレットの製造>
製造例1で得られたポリイミド樹脂1と、表2に示す各成分を各配合比率でドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数70rpmで溶融混練してストランドを押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC-Mini-4/N」)でカットすることによりペレット化した。
得られたポリイミド樹脂組成物のペレット(以下、単に「ペレット」と称することがある)は、150℃で12時間乾燥させた。
なお、得られたペレットのサイズは、長さ3~4mm、直径2~3mmであった。
各例で得た乾燥後のポリイミド樹脂組成物のペレットを使用して、前述した(3-1)ポリイミド樹脂組成物の色相評価を行ない、その結果を表2に示した。
【0094】
[実施例1~6及び比較例1]
<成形体の作製>
成形体の作製には射出成形機(ファナック(株)製「FANUC ROBOSHOT α-S30iA」)を用いた。
ここで用いる「射出成形機」は、成形材料を溶融させて金型内に注入(射出)するための「射出ユニット」、及び成形材料の圧力に抵抗して金型を閉じ、成形体の突き出しを行うための「型締ユニット」から構成される。
なお、「射出ユニット」は、成形材料となるペレットを投入する「ホッパー」、成形材料をヒーターにより加熱しスクリューを回転させながら溶融する「シリンダー」、溶融した成形材料を金型内に注入(射出)する「ノズル」を含む装置である。一方、「型締ユニット」は、エジェクタピンを備えた「可動側金型」、「固定側金型」を含む装置である。
【0095】
各例で得た成形材料となるペレットを射出ユニットのホッパー(材料投入口)に投入し、K 7152-1:1999に準じ以下に示す工程1~5を経て射出成形を行い、170mm×20mm×厚さ4mmの成形体を得た。
【0096】
1.成形材料の計量工程
射出ユニットのスクリューを回転させながらシリンダーをヒーターで加熱し、ホッパーから投入した成形材料を溶融させ、溶融した成形材料をスクリュー前部へ必要量溜めた(計量した)。
・スクリュー径:20mm
・スクリュー回転数:150rpm
・スクリューの先端圧力(背圧):20MPa
・シリンダー温度:ノズル380℃、前部380℃、中部380℃、後部380℃、水冷部90℃
・計量位置:75mm
【0097】
2.型閉じ・型締め工程
型締ユニットに可動側金型と固定側金型とを取り付け、可動側金型を固定側金型に近づけて金型同士を閉じ、締め付けた。
【0098】
3.射出工程
型締ユニットの金型をヒーターで加熱し、射出ユニットのシリンダー先端部のノズルを固定側金型に密着させて、溶融した成形材料を金型内に注入(射出)した。
成形材料を注入させている最中はスクリューの前進により一定の射出速度となるよう制御し(速度制御)、成形材料注入後は成形材料に一定の圧力(保圧力)が加わるよう制御した(圧力制御)。速度制御から圧力制御への切替えは、スクリューが一定の位置に達した時に切替わるよう設定した。
・金型の加熱温度:200℃
・射出速度:31.8mm/秒、射出時間:2秒
・保圧力:60MPa、保圧時間:12秒
・位置切替:12mm
・クッション量(成形材料注入後シリンダー内に残る成形材料の量):3mm
【0099】
4.冷却工程
金型の温度を低下させ、金型内の溶融した成形材料を冷却して固化させ、金型内に成形体を作製した。
・金型の冷却温度:200℃、冷却時間:20秒
【0100】
5.型開き・取り出し工程
成形体を伴った可動側金型を固定側金型から遠ざけるように一定の速度で型開きし、型開完了時に可動側金型のエジェクタピンを一定の速度で前進させ1回目の突き出しを行い、一定の時間保持し、更にエジェクタピンを一定の速度で前進させ2回目の突き出しを行い、可動側金型から成形体を落下させて取り出し、実施例1~6及び比較例1の成形体を得た。
・型開速度:22.9mm/s
・1回目の突き出し速度:4mm/s
・1回目の突き出し量:34mm
・保持時間:0.3秒
・2回目の突き出し速度:5mm/s
・2回目の突き出し量:4mm
【0101】
[実施例7]
<成形体の作製>
実施例1の成形体の作製において、1.成形材料の計量工程、3.射出工程、及び4.冷却工程の条件を以下のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして射出成形を行い、実施例7の170mm×20mm×厚さ4mmの成形体を得た。
・シリンダー温度:ノズル360℃、前部360℃、中部360℃、後部360℃、水冷部90℃
・射出速度:30.8mm/秒
・保圧力:65MPa、保圧時間:18秒
・位置切替:14mm
・クッション量(成形材料注入後シリンダー内に残る成形材料の量):4mm
・金型の冷却温度:200℃、冷却時間:25秒
【0102】
各例で得た170mm×20mm×厚さ4mmの成形体を使用して、前述した(4-4)離型性の評価を行ない、その結果を表2に示した。
一方、各例で得た170mm×20mm×厚さ4mmの成形体を切削加工して作製した80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を使用して、前述した(4-1)光沢度、(4-2)曲げ強度及び曲げ弾性率、(4-3)熱変形温度(HDT)の評価を行ない、その結果を表2に示した。
【0103】
【0104】
表2に示した各成分の詳細は下記の通りである。
<ポリイミド樹脂(A)>
(A1)製造例1で得られたポリイミド樹脂1、Mw:55,000
<脂肪酸金属塩(B)>
(B1)「CS-8CP」(モンタン酸Ca):日東化成工業(株)製、金属含有量4.0~5.5質量%、融点125~145℃、5%重量減少温度(Td5)=308℃(空気雰囲気下)、355℃(窒素雰囲気下)
(B2)「NS-8」(モンタン酸Na):日東化成工業(株)製、金属含有量5.0~6.0質量%、融点200~220℃、5%重量減少温度(Td5)=295℃(空気雰囲気下)
(B3)「LS-8」(モンタン酸Li):日東化成工業(株)製、金属含有量1.0~2.0質量%、融点200~210℃
(B4)「HRC-12」(複合アルカリ石鹸;12-ヒドロキシステアリン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸の脂肪酸と、Na及びKの金属とからなる脂肪酸金属塩):日東化成工業(株)製、5%重量減少温度(Td5)=445℃(窒素雰囲気下)
<充填材(C)>
(C1)タルク 「D-800」:日本タルク(株)製「ナノエースD-800」、平均粒径(D50)0.8μm
(C2)ガラス繊維 「T-786H」:日本電気硝子(株)製「T-786H」、平均繊維長3mm、平均繊維径10.5μm
【0105】
表2に記載されている評価結果より、以下のことが分かる。
比較例1及び実施例1~7のポリイミド樹脂組成物は、融点Tmが323℃及びガラス転移温度Tgが184℃を有する特定のポリイミド樹脂(A)を含有することに起因し、成形加工性及び耐熱性は良好であった。
一方、比較例1のポリイミド樹脂組成物は、特定の脂肪酸金属塩(B)を含有しなかったことに起因して、実施例1~7と比べて成形体が可動側金型に貼り付き易く、その貼り付きの程度も大きく、良好な離型性が発現しなかった。
これに対して、実施例1~7のポリイミド樹脂組成物は、特定のポリイミド樹脂(A)と特定の脂肪酸金属塩(B)とを含有したことに起因して、比較例1と比べて成形体が可動側金型に貼り付き難く、貼り付いたとしてもその貼り付きの程度は比較的小さく、良好な離型性が発現した。
中でも、実施例1~3のポリイミド樹脂組成物は、特定の脂肪酸金属塩(B)としてモンタン酸カルシウムを用いたことに起因して、比較例1のポリイミド樹脂組成物よりも色相変化が小さい成形体が得られた。
同量の脂肪酸金属塩(B)を用いた実施例2と実施例6とを対比すると、実施例2では脂肪酸金属塩(B)としてTd5が355℃(窒素雰囲気下)であるモンタン酸カルシウムを用い、実施例6では脂肪酸金属塩(B)としてTd5が445℃(窒素雰囲気下)である複合アルカリ石鹸を用いた。Td5が相対的に低い脂肪酸金属塩(B)を用いた実施例2の方が、実施例6と比べて成形体が可動側金型に貼り付き難く、良好な離型性が発現し、更に色相変化も小さいことが分かった。一般にTd5が相対的に高い脂肪酸金属塩(B)の方が、耐熱性が高く300℃以上の加熱条件下で熱成形に供した際に脂肪酸金属塩(B)が分解され難く、良好な離型性が発現すると予測される。しかし、出願人の検討により、必ずしも予測どおりではなく、Td5が相対的に低い脂肪酸金属塩(B)であるモンタン酸カルシウムであっても、良好な離型性が発現するという知見が得られた。この理由は、極性の高いイミド結合を有するポリイミド樹脂(A)の高温溶融状態において、モンタン酸カルシウムが分解せずに安定に存在したためであると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、成形加工性及び耐熱性が良好で、300℃以上の加熱条件下で熱成形(例えば射出成形)に供した際にも、良好な離型性が発現するポリイミド樹脂組成物が得られる。
本発明のポリイミド樹脂組成物は、例えば自動車、鉄道、航空などの各種産業部材、家電製品用部材、又はこれらの筐体等に適用できる。具体的には、ギア、軸受、切削部材、ネジ、ナット、パッキン、検査用ICソケット、ベルト、電線等の被覆材、カバーレイフィルム、半導体製造装置用部材、医療用器具、釣り竿やリール等の被覆材、文房具等に適用できる。