(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】出隅見切り材の固定方法および固定具
(51)【国際特許分類】
E04F 21/18 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
E04F21/18 D
(21)【出願番号】P 2022065614
(22)【出願日】2022-04-12
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 陽悦
(72)【発明者】
【氏名】堀 一夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 純平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 里奈
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐史
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-228623(JP,A)
【文献】実開昭50-012529(JP,U)
【文献】米国特許第06889415(US,B1)
【文献】米国特許第03170162(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 19/02、19/06
E04F 21/00、21/18
E04G 21/14-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出隅部を挟んで接続する二つの壁面の壁下地材にそれぞれ化粧パネルを張設した後、前記両化粧パネルの縁端部を見切る出隅見切り材を、前記出隅部の稜角を跨ぐように接着して、その接着剤が硬化するまでの間、前記出隅見切り材を前記出隅部に押さえ付ける出隅見切り材の固定方法であって、
前記化粧パネルの表面に吸着可能な一対の吸盤式吸着具と、前記一対の吸盤式吸着具同士を繋ぐ伸縮可能な弾性紐材と、を含んで構成される出隅見切り材の固定具を用意し、
前記各吸盤式吸着具を前記二つの壁面に張設された化粧パネルの表面にそれぞれ吸着させて、前記弾性紐材を緊張させることにより、前記出隅見切り材を前記出隅部の壁下地材に押さえ付けて保持する
ことを特徴とする出隅見切り材の固定方法。
【請求項2】
出隅部を挟んで接続する二つの壁面の壁下地材にそれぞれ化粧パネルを張設した後、前記両化粧パネルの縁端部を見切る出隅見切り材を、前記出隅部の稜角を跨ぐように接着して、その接着剤が硬化するまでの間、前記出隅見切り材を前記出隅部に押さえ付ける出隅見切り材の固定具であって、
前記化粧パネルの表面に吸着可能な一対の吸盤式吸着具と、前記一対の吸盤式吸着具同士を繋ぐ少なくとも1本の伸縮可能な弾性紐材と、
前記弾性紐材を緊張状態に保持する緩み止め手段と、を具備する
ことを特徴とする出隅見切り材の固定具。
【請求項3】
請求項2に記載された出隅見切り材の固定具において、
前記吸盤式吸着具が、化粧パネルの表面に押し当てられる吸盤と、前記吸盤の背面側から前記吸盤の周縁部を前記化粧パネルの表面に向けて押圧する吸盤カバーと、前記吸盤カバーの背面側に設けられて前記吸盤の中心部を背面側に引き寄せる吸着操作手段と、を具備する
ことを特徴とする出隅見切り材の固定具。
【請求項4】
請求項3に記載された出隅見切り材の固定具において、
前記吸着操作手段が、前記吸盤の中心部に結合され前記吸盤カバーを貫通して前記吸盤の背面側に延び出すボルト部材と、前記吸盤カバーの背面側から前記ボルト部材に螺合されたナット部材と、前記ナット部材を回転させる操作ハンドルと、を含んで構成され、
前記操作ハンドルを回転させると前記ボルト部材が軸方向に移動して前記吸盤を背面側に引き寄せることにより前記吸盤を前記化粧パネルに吸着させる
ことを特徴とする出隅見切り材の固定具。
【請求項5】
請求項2、3または4に記載された出隅見切り材の固定具において、
前記一対の吸盤式吸着具のうち少なくとも一方の吸盤式吸着具が、前記弾性紐材を巻き取り・繰り出し可能に収納するリールと、前記リールを手動で回転させるリール操作手段と、
を具備し、
前記緩み止め手段が前記リールの繰り出し側への回転を規制する
ことを特徴とする出隅見切り材の固定具。
【請求項6】
請求項5に記載された出隅見切り材の固定具において、
前記緩み止め手段が、前記リールに結合されて前記リールと一体に回転する爪車と、前記爪車に係脱する止め爪と、を含んで構成される
ことを特徴とする出隅見切り材の固定具。
【請求項7】
請求項3または4を引用する請求項5に記載された出隅見切り材の固定具において、
前記吸着操作手段と前記リール操作手段とが同一操作で連動するように設けられている
ことを特徴とする出隅見切り材の固定具。
【請求項8】
請求項4を引用する請求項6に記載された出隅見切り材の固定具において、
前記ナット部材と前記リールと前記爪車とが同心状に一体結合され、
前記ナット部材、前記リールおよび前記爪車の中心部に前記ボルト部材が挿通され、
前記ボルト部材に形成された雄ねじ部に前記ナット部材に形成された雌ねじ部が螺合して、
前記操作ハンドルの回転操作により前記ボルト部材が軸方向に移動するとともに、
前記リールが回転して前記弾性紐材を巻き取り、または繰り出す
ことを特徴とする出隅見切り材の固定具。
【請求項9】
請求項8に記載された出隅見切り材の固定具において、
前記ボルト部材の軸部における前記吸盤寄りの端部近傍に、ねじのない円筒部が形成され、
前記円筒部は前記雄ねじ部よりも細径となされ、
前記操作ハンドルの回転操作により、前記ボルト部材が前記化粧パネルから離れる向きに移動して前記吸盤が所定の吸着力を発揮すると、前記ナット部材が前記円筒部の周りで空転し、前記リールおよび前記爪車が前記ボルト部材から独立して回転可能になる
ことを特徴とする出隅見切り材の固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、壁下地材の上に化粧パネルを張設して仕上げられる内壁の出隅部に出隅見切り材を固定するに際し、出隅部に接着した出隅見切り材を、接着剤が硬化するまでの間、出隅部に押さえ付けて保持する出隅見切り材の固定方法、および該固定方法を実施するのに適した出隅見切り材の固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の内装工事において、石膏ボード等の壁下地材の表面に各種化粧パネルを張設して内壁を仕上げる場合、壁面と床面とが接続する入隅部には巾木を取り付け、壁面と天井面とが接続する入隅部には廻り縁を取り付けて、化粧パネルの縁端部を見切る(隠して納める)ことが一般的である。ここで、化粧パネルとは、合板、木質繊維板、樹脂板等からなる基材の表面に、化粧材を積層したり塗装したりして美麗に仕上げた硬質の板体であって、例えば天然木(突板)化粧板、メラミン化粧板、オレフィンシート化粧板、ポリエステル化粧板、プリント化粧板、DAP化粧板、塩ビ化粧板(PVC化粧板)等が含まれる。
【0003】
特許文献1には、その種の化粧パネルを用いて施工される腰壁の上縁部に取り付けられる見切り縁、および下縁部(腰壁と床面との入隅部)に取り付けられる巾木の納まりが開示されている(同文献の第1図)。また、壁面同士が直交接続する入隅部には入隅見切り材を取り付け、出隅部には出隅見切り材を取り付ける納まりも開示されている(同文献の第2図、第3図)。
【0004】
これら巾木、廻り縁、見切り縁、出隅部および入隅部の見切り材等は、表面に釘やねじの頭部を見せないように、石膏ボード等の壁下地材に対して接着剤で固定されることが多い。そこで、特許文献2、3、4等には、壁面と、床面または天井面とが接続する入隅部に巾木や廻り縁を接着して、その接着剤が硬化するまでの間、巾木や廻り縁を壁下地材に押さえつけておくための固定具(保持具)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平3-037331号公報
【文献】特開平10-102753号公報
【文献】特開2005-273169号公報
【文献】特開2020-059970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、壁面の出隅部には、例えば
図1に示すような出隅見切り材1が接着固定される。この出隅見切り材は、例えば木材、硬質樹脂材、金属材等からなる部材で、略L字形の断面形状を有し、裏面の両側縁部には化粧パネルの縁端部を仕舞う欠込部11が形成されている。表側の角部に面取りまたはR加工が施されているものもある。
【0007】
このような出隅見切り材を出隅部Aの壁下地材2に接着固定する場合、化粧パネル3を張設する前であれば、(a)図に示すように適当な当て木91を壁下地材2にねじ止めするなどして出隅見切り材1を押さえることができる。しかし、例えば(b)図に示すように、2か所の出隅部A、Aが隣接する袖壁等においては、施工手順上、隣接する出隅部A、Aの間の壁面に化粧パネル3を張設してから、その両側に出隅見切り材1、1を接着することになる。その場合、化粧パネル3には当て木等を止め付けられないし、テープを張り付けるなどして化粧パネル3の表面を汚損するのも好ましくない。そうすると、隣接する出隅部A、Aに接着した出隅見切り材1、1間を万力(クランプ)92で挟んだり、あるいは(c)図に示すように、対向位置にある柱4や壁面との間に伸縮可能な突っ張り棒93を取り付けたりして、出隅見切り材1を押さえるしかない。しかし、万力92の寸法が出隅部A、A間の距離に届かないこともあるし、適当な対向位置に突っ張り可能な柱や壁面がないこともある。また、突っ張り棒93を設置できたとしても、施工現場における他の作業の邪魔になるおそれがある。
【0008】
本願が開示する発明は、かかる不便を解消すべく想起されたものであって、出隅部に接着する出隅見切り材を、化粧パネルの張設後でも化粧パネルの表面を汚損せずに、接着剤が硬化するまでしっかりと押さえ付けて保持することのできる出隅見切り材の固定方法と、該固定方法を実施するのに適した出隅見切り材の固定具を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願が開示する発明は、出隅部を挟んで接続する二つの壁面の壁下地材にそれぞれ化粧パネルを張設した後、前記両化粧パネルの縁端部を見切る出隅見切り材を、前記出隅部の稜角を跨ぐように接着して、その接着剤が硬化するまでの間、前記出隅見切り材を前記出隅部に押さえ付ける出隅見切り材の固定方法として、前記化粧パネルの表面に吸着可能な一対の吸盤式吸着具と、前記一対の吸盤式吸着具同士を繋ぐ伸縮可能な弾性紐材と、を含んで構成される出隅見切り材の固定具を用意し、前記各吸盤式吸着具を前記二つの壁面に張設された化粧パネルの表面にそれぞれ吸着させて、前記弾性紐材を緊張させることにより、前記出隅見切り材を前記出隅部の壁下地材に押さえ付けて保持する、との構成を採用する。この固定方法によれば、出隅部に接着する出隅見切り材を、化粧パネルの張設後でも化粧パネルの表面を汚損せずに、接着剤が硬化するまでしっかりと押さえ付けて保持することができる。
【0010】
また、本願が開示する発明は、出隅部を挟んで接続する二つの壁面の壁下地材にそれぞれ化粧パネルを張設した後、前記両化粧パネルの縁端部を見切る出隅見切り材を、前記出隅部の稜角を跨ぐように接着して、その接着剤が硬化するまでの間、前記出隅見切り材を前記出隅部に押さえ付ける出隅見切り材の固定具として、前記化粧パネルの表面に吸着可能な一対の吸盤式吸着具と、前記一対の吸盤式吸着具同士を繋ぐ少なくとも1本の伸縮可能な弾性紐材と、前記弾性紐材を緊張状態に保持する緩み止め手段と、を具備する、との構成を採用する。この固定具によれば、前述した出隅見切り材の固定方法を容易かつ確実に実施することができる。
【0011】
前述の構成を具備する出隅見切り材の固定具においては、前記吸盤式吸着具が、化粧パネルの表面に押し当てられる吸盤と、前記吸盤の背面側から前記吸盤の周縁部を前記化粧パネルの表面に向けて押圧する吸盤カバーと、前記吸盤カバーの背面側に設けられて前記吸盤の中心部を背面側に引き寄せる吸着操作手段と、を具備するものとすることができる。
【0012】
さらに、前記吸着操作手段は、前記吸盤の中心部に結合され前記吸盤カバーを貫通して前記吸盤の背面側に延び出すボルト部材と、前記吸盤カバーの背面側から前記ボルト部材に螺合されたナット部材と、前記ナット部材を回転させる操作ハンドルと、を含んで構成され、前記操作ハンドルを回転させると前記ボルト部材が軸方向に移動して前記吸盤を背面側に引き寄せることにより前記吸盤を前記化粧パネルに吸着させる、ように構成することができる。
【0013】
また、前述の構成を具備する出隅見切り材の固定具においては、前記一対の吸盤式吸着
具のうち少なくとも一方の吸盤式吸着具が、前記弾性紐材を巻き取り・繰り出し可能に収
納するリールと、前記リールを手動で回転させるリール操作手段と、を具備し、前記緩み止め手段が前記リールの繰り出し側への回転を規制するものとすることができる。
【0014】
さらに、前記緩み止め手段は、前記リールに結合されて前記リールと一体に回転する爪車と、前記爪車に係脱する止め爪と、を含んで構成される、ものとすることができる。
【0015】
また、前記吸着操作手段と前記リール操作手段とが同一操作で連動するように設けられている、ものとすることもできる。
【0016】
より具体的には、前記ナット部材と前記リールと前記爪車とが同心状に一体結合され、前記ナット部材、前記リールおよび前記爪車の中心部に前記ボルト部材が挿通され、前記ボルト部材に形成された雄ねじ部に前記ナット部材に形成された雌ねじ部が螺合して、前記操作ハンドルの回転操作により前記ボルト部材が軸方向に移動するとともに、前記リールが回転して前記弾性紐材を巻き取り、または繰り出す、ものとすることができる。
【0017】
その場合はさらに、前記ボルト部材の軸部における前記吸盤寄りの端部近傍に、ねじのない円筒部が形成され、前記円筒部は前記雄ねじ部よりも細径となされ、前記操作ハンドルの回転操作により、前記ボルト部材が前記化粧パネルから離れる向きに移動して前記吸盤が所定の吸着力を発揮すると、前記ナット部材が前記円筒部の周りで空転し、前記リールおよび前記爪車が前記ボルト部材から独立して回転可能になる、との構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本願が開示する発明に係る出隅見切り材の固定方法によれば、出隅部に接着する出隅見切り材を、化粧パネルの張設後でも化粧パネルの表面を汚損せずに、接着剤が硬化するまでしっかりと押さえ付けて保持することができる。
【0019】
また、本願が開示する発明に係る出隅見切り材の固定方法によれば、前述した出隅見切り材の固定方法を容易かつ確実に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】壁面の出隅部に出隅見切り材を取り付けて化粧パネルの縁端部を見切る場合の施工形態を示す横断面図である。
【
図2】本願が開示する出隅見切り材の固定方法を示す出隅部の横断面である。
【
図3】
図2に示した出隅見切り材の固定具の構成例を示す概略斜視図である。
【
図4】
図3に示した出隅見切り材の固定具の内部構造を示す分解斜視図である。
【
図5】
図3に示した出隅見切り材の固定具の内部構造と化粧パネルへの吸着状態を示す軸方向断面図である。
【
図6】
図3に示した出隅見切り材の固定具において、リールの回転を規制する機構の概略的構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図2は、本願が開示する出隅見切り材の固定方法を示している。この固定方法は、出隅部Aを挟んで接続する二つの壁面の壁下地材2、2にそれぞれ化粧パネル3、3を張設した後、両化粧パネル3、3の縁端部を見切る出隅見切り材1を、出隅部Aの稜角を跨ぐように接着して、その接着剤が硬化するまでの間、出隅見切り材1を出隅部Aに押さえ付けるためのものである。化粧パネル3は「背景技術」欄に記載したものと同様である。また、出隅見切り材1は「発明が解決しようとした課題」欄および
図1に記載したものと同様である。壁下地材2に関しては、特にその種類や形態を問わない。石膏ボード等の面材であってもよいし、格子組みされた桟木や間柱等の線材であってもよい。
【0023】
化粧パネル3に重ねて取り付けた出隅見切り材1を出隅部Aの稜角上に押さえ付けるため、本願が開示する発明では、化粧パネル3、3の表面に吸着可能な一対の吸盤式吸着具5、5と、それら一対の吸盤式吸着具5、5同士を繋ぐ伸縮可能な弾性紐材6と、を組み合わせた出隅見切り材の固定具7を使用する。出隅部Aの両側に張設された化粧パネル3、3の表面に吸盤式吸着具5、5をそれぞれ吸着させた状態で弾性紐材6を緊張させることにより、弾性紐材6の張力を利用して出隅見切り材1を出隅部Aに押さえ付ける。出隅部Aの高さ方向における数か所にこのような固定具7を配置すれば、出隅部Aの両側の壁面に化粧パネル3、3が張設されている状態でも、化粧パネル3の表面に傷をつけたり汚損したりすることなく、出隅見切り材1を、接着剤が硬化するまでしっかりと押さえ付けておくことができる。
【0024】
吸盤式吸着具5を吸着させることができるのは、基本的に硬くて平滑な表面を有する化粧パネル3に限られるが、必ずしも化粧パネル3の表面全体が平滑である必要はない。少なくとも出隅部Aの近傍に平滑な表面が設けられている化粧パネル3であれば、その平滑な部分に吸盤式吸着具5を吸着させることで、出隅見切り材1を押さえ付けることができる。
【0025】
吸盤式吸着具5は、基本的構成として、化粧パネル3の表面に押し当てられる吸盤51と、吸盤51の背面側から吸盤51の周縁部を化粧パネル3の表面に押圧する吸盤カバー52と、吸盤カバー52の背面側に設けられて吸盤51の中心部を背面側に引き寄せる吸着操作手段と、を具備する。そのような構成を有する吸盤式吸着具としては、例えばガラス窓や鏡の取付施工によく用いられるガラス吸盤装置(バキュームリフタ、サクションリフタ)が公知である。そのガラス吸盤装置にも、1個の吸盤の背面側に吸着操作レバーを兼ねるグリップ部が設けられているものや、2個の吸盤がグリップ部を介してブリッジ状に一体連結されているもの等がある。ただし、その種のガラス吸盤装置は全体的に大型で重く、化粧パネル3の表面に吸着させたまま放置すると自重で化粧パネル3を剥がしたり撓ませたりしてしまうおそれがあるので、このような内装施工にはあまり適さない。また、出隅部Aを挟む二つの壁面にそれぞれ吸着させて、それらの間に弾性紐材6を繋ぐような使い方も想定されていない。
【0026】
そこで、本願は、
図2に示した出隅見切り材1の固定方法を好適に実施し得る固定具7の具体的な構成例を
図3~
図6に開示する。例示の固定具70は、化粧パネル3の表面に吸着可能な一対の吸盤式吸着具50、50と、それら一対の吸盤式吸着具50、50同士を繋ぐ少なくとも1本の伸縮可能な弾性紐材60と、があらかじめ一体化され、さらに弾性紐材60を緊張状態に保持する緩み止め手段も組み込まれたものである。
図3に示した一対の吸盤式吸着具50、50は互いに同一なので、以下では一方の構成を説明する。
【0027】
なお、部位・部材の相対的な位置関係や動作の向きを説明する際には、作業者が化粧パネル3に対面する姿勢を基準に、吸盤51の吸着面側を正面(前側)とし、その反対側(作業者側)を背面(後側)として、前後方向(化粧パネル3に対する吸盤51の吸着・離反方向)を特定することとする。
【0028】
例示形態にかかる吸盤式吸着具50の吸盤51は正面視略円形の皿状をなしており、軟質のゴム材または樹脂材より形成されている。
図5に示すように、吸盤51の中心部背面には厚肉部511が形成されており、その厚肉部には、一端に金属製の保持板531が結合されたボルト部材53が、例えばインサート成形等によって吸盤51と一体化するように埋設されている。
【0029】
ボルト部材53は、吸盤式吸着具50全体を貫通して背面側に突出する長さの軸部を有している。その軸部の中間部から後端部にかけては雄ねじ部532が形成されており、吸盤51寄りの前端部近傍には、ねじのない円筒部533が形成されている。その円筒部533は雄ねじ部532よりも細径となされている。
【0030】
吸盤カバー52は、吸盤51よりもわずかに小径の短円筒状をなし、硬質の樹脂材または金属材により形成されている。吸盤カバー52の正面側は開口して、その開口縁部が吸盤51の周縁部に重ねられる。吸盤カバー52の背面側は仕切壁521によって塞がれ、その仕切壁521の中心部に形成された通孔522にボルト部材53が遊挿されている。
【0031】
吸盤カバー52のさらに背面側には、吸盤カバー52と略同径の短円筒状をなす操作部カバー54が、吸盤カバー52と一体化するように取り付けられている。この操作部カバー54も吸盤カバー52と同様に、硬質の樹脂材または金属材により形成されている。操作部カバー54の正面側は開口して吸盤カバー52の背面に接合されている。操作部カバー54の背面側は背壁541によって塞がれ、その背壁541の中心部に形成された通孔542にはボルト部材53と、後述する操作スリーブ56とが遊挿されている。
【0032】
操作部カバー54の内部には、弾性紐材60を巻き取り・繰り出し可能に収納するリール55が収納されている。リール55は、円筒状の巻取コア551と、巻取コア551の径外方向に張り出す一対のフランジ552、553とを有し、巻取コア551がボルト部材53に挿装されて、ボルト部材53の周りで自由に回転できるように保持されている。巻取コア551の背面側の端部には、巻取コア551と略同径の円筒状をなす操作スリーブ56が結合されて、さらに背面側へと延設されている。その操作スリーブ56は、ボルト部材53に挿装された状態で、操作部カバー54の背壁541に形成された通孔542に遊挿されている。操作部カバー54の背面側に突出した操作スリーブ56の後端にはハンドル561が取り付けられている。例示形態では、これら操作スリーブ56およびハンドル561によって、リール55を回転させるためのリール操作手段が構成されている。
【0033】
弾性紐材60は、例えばゴムバンドである。あるいは、ナイロン、ポリウレタン、ポリエステル等の合成繊維材を伸縮可能に編成した紐材等も利用可能である。その断面形状は、リール55への巻き取りおよびリール55からの繰り出しに支障を生じない限り、円形でもよいし、扁平な帯状でもよい。リール55に巻き取られた弾性紐材60は、操作部カバー54の側面に形成された窓孔543を通じて外側に引き出される。
【0034】
リール55の正面側のフランジ552には、爪車57がリール55と同心状に一体結合されている。爪車57の周縁部には、その周方向に沿って一方に傾斜する鋸状の爪歯571が形成されている。また、操作部カバー54の側面には、爪車57の爪歯571に係脱する止め爪58が、図示しない付勢部材等を介して揺動可能に取り付けられている。
図6に示すように、止め爪58が操作されない(a)の状態では止め爪58が爪歯571に係合するため、リール55は弾性紐材60の繰り出し側には回転できず、巻き取り側にのみ回転可能になる。また、止め爪58が操作された(b)の状態では、リール55が弾性紐材60の巻き取り側および繰り出し側のいずれにも回転可能になる。このように例示形態では、リール55に結合されてリール55と一体に回転する爪車57と、爪車57に係脱する止め爪58と、によって、リール55の繰り出し側への回転を間欠的に規制する緩み止め手段が構成される。
【0035】
爪車57の中心部には雌ねじ孔572が形成されており、その雌ねじ孔572がボルト部材53の雄ねじ部532に螺合されている。つまり、この爪車57の中心部が雌ねじ部を有するナット部材に相当し、そのナット部材が爪車57と一体化されている。この爪車57およびリール55は操作部カバー54内に収容されて、その内部では若干のクリアランス程度しか軸方向に移動できないので、ハンドル561を回して爪車57およびリール55を回転させると、爪車57の雌ねじ孔572に螺合したボルト部材53が軸方向に進退する。このように例示形態では、雄ねじ部532が形成されたボルト部材53と、その雄ねじ部532に螺合されたナット部材(爪車57の雌ねじ孔572)と、そのナット部材を回転させる操作スリーブ56およびハンドル561と、それらの部材を収容する操作部カバー54と、によって吸着操作手段が構成されている。そして、この吸着操作手段は、前述のリール操作手段も兼ねるものとなっている。
【0036】
図5に示すように、この吸盤式吸着具50の吸盤51を化粧パネル3の表面に密着させた状態でハンドル561を右回りに回すと、操作スリーブ56に結合された爪車57およびリール55の右回転に伴ってボルト部材53が後退し、吸盤51の中心部が化粧パネル3から離れる向きに引き寄せられる。吸盤51の厚肉部511が吸盤カバー52の仕切壁521に当接するまで引き寄せられると好ましい吸着力が発揮されるように、吸盤カバー52の奥行きが設定されている。さらに、その位置までボルト部材53が後退すると、爪車57の雌ねじ孔572がボルト部材53の雄ねじ部532から外れて円筒部533の周りで空転するように、円筒部533の長さが設定されている。
【0037】
この出隅見切り材の固定具70を使用する際には、あらかじめ一方または両方の吸盤式吸着具50の止め爪58を操作して爪車57の回転規制を解除し、弾性紐材60を長めに引き出して弛ませておく。そして、出隅部Aを挟む二つの壁面のうち一方の壁面に張設された化粧パネル3に一方の吸盤式吸着具50の吸盤51を押し当てる。操作部カバー54を押さえながらハンドル561を右回りに回転させると、爪車57に螺合するボルト部材53が後退して、吸盤51が化粧パネル3に吸着されるとともに、リール55の回転に連動して弾性紐材60が巻き取られる。吸盤51がしっかりと化粧パネル3に吸着されると、爪車57の雌ねじ孔572がボルト部材53の雄ねじ部532から外れて、円筒部533の周りで空転可能になる。この状態でハンドル561を放すと、爪車57と止め爪58との係合による緩み止め手段が働いてリール55が止まり、弾性紐材60の繰り出し長さが一定に保持される。
【0038】
続いて、他方の壁面に張設された化粧パネル3に他方の吸盤式吸着具50の吸盤51を、同じ操作によって吸着させる。吸盤51が化粧パネル3に吸着されると、爪車57の雌ねじ孔572がボルト部材53の雄ねじ部532から外れて、円筒部533の周りで空転可能になる。そのままハンドル561を右回りに回し続けると、吸盤51は動かず、リール55がさらに回転して弾性紐材60が巻き取られる。出隅見切り材1を跨ぐように張られた弾性紐材60に適度な張力が得られたところでハンドル561を放すと、緩み止め手段が働いて、弾性紐材60の緊張状態が保持される。
【0039】
このように、例示形態の固定具は、ハンドル561を回す操作だけで、吸盤51を化粧パネル3に吸着させながら、弾性紐材60を巻き取ることができる。吸盤51が化粧パネル3に吸着されてからでも、さらにリール55を回転させて弾性紐材60を巻き取ることができ、適度な張力が得られたところでハンドル561を放せば、弾性紐材60を緊張状態に保持することができる。したがって、施工現場における取り扱い性がよく、また出隅部Aへの取り付け後でも他の作業に邪魔になりにくい。出隅見切り材1がしっかりと接着した後は、止め爪58を解除してハンドル561を左に回すだけで、弾性紐材60の緊張を解きつつ吸盤51も剥がすことができる。このような固定具を使用することにより、前述した出隅見切り材1の固定方法を効率よく実施することができる。
【0040】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施の形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の詳細な形状、寸法、構造、材質、数量、他要素との結合形態、相対的な位置関係等を、例示形態と実質的に同等程度以上の作用効果が得られる範囲内で適宜、改変することができる。
【0041】
例えば、弾性紐材を介して繋がる一対の吸盤式吸着具は、その一方にのみ弾性紐材の巻き取り・繰り出し手段が設けられていてもよい。また、弾性紐材を巻き取るリール操作手段と吸盤の吸着操作手段とが互いに連動するのではなく、別々に操作されるように構成されてもよい。また、ボルト部材とナット部材との螺合によって吸盤を引き寄せる構成においては、ナット部材が爪車ではなくリールと一体に形成されていてもよい。その場合、爪車および止め爪がリールの背面側に配置されてもよい。それら以外にも、吸盤の中心部を背面側に引き寄せる機構やリールの回転を規制する機構等には、従来公知の様々な機構要素を組み合わせて採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願が開示する発明は、建物の内装工事において内壁の出隅部を仕上げるために利用できる他、例えば吹抜け空間に隣接する天井面と壁面とが接続する出隅部など、類似する出隅部の稜角を押さえて当該出隅部を精度良く施工する等の目的で幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 出隅見切り材
11 欠込部
2 壁下地材
3 化粧パネル
4 柱
5(50) 吸盤式吸着具
51 吸盤
511 厚肉部
52 吸盤カバー
521 仕切壁
53 ボルト部材
531 保持板
532 雄ねじ部
533 円筒部
54 操作部カバー
541 背壁
542 通孔
543 窓孔
55 リール
551 巻取コア
552 フランジ
553 フランジ
56 操作スリーブ
561 ハンドル
57 爪車
571 爪歯
572 雌ねじ孔
58 止め爪
6(60) 弾性紐材
7(70) 出隅見切り材の固定具
A 出隅部