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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】直線作動機
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
F16H25/22 J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022085525
(22)【出願日】2022-05-25
(65)【公開番号】P2023173341
(43)【公開日】2023-12-07
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100158399
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 輝
(72)【発明者】
【氏名】音島 透
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-173394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動されるネジ軸と、
前記ネジ軸に支持される支持状態において、前記ネジ軸の回転によって上下方向に送られるナットと、
前記ネジ軸が前記ナットを支持できなくなった非支持状態で降下する前記ナットを受け止める受止部材と、
前記支持状態において前記受止部材を前記ナットに保持する一方、前記非支持状態において前記受止部材を前記ナットに保持しない保持部材と、
前記非支持状態において前記受止部材と前記ナットとに挟持され、潤滑性を有する潤滑部材と、を備え、
前記受止部材は、前記支持状態において前記受止部材が前記ネジ軸に支持されないように前記ネジ軸と接触せず、かつ前記非支持状態において前記受止部材が前記ネジ軸とともに回転可能に前記ネジ軸に支持されるように前記ネジ軸と接触する凸部を有していることを特徴とする直線作動機。
【請求項2】
前記潤滑部材は、スラストワッシャであることを特徴とする請求項1に記載の直線作動機。
【請求項3】
前記潤滑部材は、前記受止部材上に配置され、
前記ナットは、前記支持状態において前記潤滑部材との間に隙間が形成される位置に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の直線作動機。
【請求項4】
前記潤滑部材は、スラストベアリングであることを特徴とする請求項1に記載の直線作動機。
【請求項5】
前記潤滑部材は、前記受止部材上に配置され、
前記ナットは、前記支持状態において前記潤滑部材との間に隙間が形成される位置に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の直線作動機。
【請求項6】
前記ナットは、前記ナットの外周面に第1凹部を有し、
前記受止部材は、前記受止部材の内周面に第2凹部を有し、
前記保持部材は、前記非支持状態で降下する前記ナットにおける前記第1凹部から離脱するように変形可能な変形部材であり、前記支持状態において前記第1凹部および前記第2凹部に配置されることにより、前記受止部材を前記ナットに保持することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の直線作動機。
【請求項7】
前記ネジ軸は、前記ネジ軸の外周面に形成された螺旋状の第1溝を有しており、
前記ナットは、前記第1溝に対向するように前記ナットの内周面に形成された螺旋状の第2溝を有し、前記第1溝と前記第2溝との間に保持される複数のボールによって前記ネジ軸に支持されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の直線作動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ軸の回転によって直線的に作動する直線作動機に関する。
【背景技術】
【0002】
負荷を昇降移動させる昇降機構には、ネジ軸に支持されるナットが、回転するネジ軸によって送られることにより直線的に作動する直線作動機を備えたものがある。このような直線作動機は、故障などによりナットがネジ軸に支持されなくなると、負荷の荷重によってナットが降下してしまう。
【0003】
このよう不都合を回避するため、例えば特許文献1には、被駆動ナットに固定されて負荷の荷重を受ける内筒の落下を防止する落下防止機構を備えた直線作動機が開示されている。落下防止機構は、落下防止ナットを備え、例えば、内筒の半径方向に突出するシアピンを内筒に片持ち状態で固定し、落下防止ナットにシアピンの突出端側を係入するシアピン案内溝を有している。内筒および被駆動ナットが落下防止ナットに対して内筒に作用する荷重の向きに変位することにより、シアピン案内溝の端部にシアピンが当接して折断されるとともに、内筒が落下防止ナットに当接して支持されて、内筒の落下が阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-95481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術では、内筒が落下防止ナットに当接した状態で駆動ネジ軸が回転し続けると、内筒および落下防止ナットの双方の当接面に摩擦により焼き付きが生じるおそれがある。焼き付きにより、内筒と落下防止ナットとが一体になると、内筒が、駆動ネジ軸に螺合する落下防止ナットとともに回転して、負荷を昇降移動させてしまう。これは、被駆動ナットが落下防止ナットに当接する場合でも同様である。
【0006】
本発明の一態様は、ナットの降下防止状態においても負荷の上昇を阻止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る落下防止機構付き直線作動機は、回転駆動されるネジ軸と、前記ネジ軸に支持される支持状態において、前記ネジ軸の回転によって上下方向に送られるナットと、前記ネジ軸が前記ナットを支持できなくなった非支持状態で降下する前記ナットを受け止める受止部材と、前記支持状態において前記受止部材を前記ナットに保持する一方、前記非支持状態において前記受止部材を前記ナットに保持しない保持部材と、前記非支持状態において前記受止部材と前記ナットとに挟持され、潤滑性を有する潤滑部材と、を備え、前記受止部材は、前記支持状態において前記受止部材が前記ネジ軸に支持されないように前記ネジ軸と接触せず、かつ前記非支持状態において前記受止部材が前記ネジ軸とともに回転可能に前記ネジ軸に支持されるように前記ネジ軸と接触する凸部を有している。
【0008】
上記の構成によれば、支持状態において、受止部材は、保持部材によってナットに支持されることによりナットとともに送られる一方、凸部がネジ軸と接触しないことによりネジ軸に支持されない。非支持状態において、受止部材は、降下するナットを受け止めるとともに、保持部材によってナットに保持されなくなることにより、ナットともに降下する。しかしながら、受止部材は、凸部がネジ軸と接触することによりネジ軸に支持されるので、それ以上降下することはない。また、受止部材がネジ軸に支持されることによりネジ軸とともに回転すれば、ナットが受止部材とともに上方向に移動することはない。
【0009】
また、非支持状態において受止部材がネジ軸とともに回転しても、潤滑部材が受止部材に対して滑るため、受止部材の回転をナットに伝えない。これにより、ナットが受止部材との摩擦で受止部材と焼き付いて一体化することを防止できる。
【0010】
前記直線作動機において、前記潤滑部材はスラストワッシャであってもよい。また、前記直線作動機において、前記潤滑部材はスラストベアリングであってもよい。
【0011】
上記の構成によれば、潤滑油などの供給をすることなく、簡素な構造で受止部材の回転を伝えずにナットを受け止めることができる。
【0012】
前記直線作動機において、前記潤滑部材は、前記受止部材上に配置され、前記ナットは、前記支持状態において前記潤滑部材との間に隙間が形成される位置に配置されていてもよい。
【0013】
受止部材をナットに保持するときに、支持状態における受止部材の凸部がネジ軸の螺旋状の第1溝と接触しないように、受止部材を回転させながら保持位置を調整する必要がある。上記の構成によれば、ナットと潤滑部材との間に隙間があることにより、受止部材を容易に回転させることができる。これにより、凸部の位置調整を容易に行うことができる。
【0014】
前記直線作動機において、前記ナットは、前記ナットの外周面に第1凹部を有し、前記受止部材は、前記受止部材の内周面に第2凹部を有し、前記保持部材は、前記非支持状態で降下する前記ナットにおける前記第1凹部から離脱するように変形可能な変形部材であり、前記支持状態において前記第1凹部および前記第2凹部に配置されることにより、前記受止部材を前記ナットに保持していてもよい。
【0015】
上記の構成によれば、比較的安価に入手することができるナイロンボールのような樹脂製の部材を変形部材として用いることができる。
【0016】
前記直線作動機において、前記ネジ軸は、前記ネジ軸の外周面に形成された螺旋状の第1溝を有しており、前記ナットは、前記第1溝に対向するように前記ナットの内周面に形成された螺旋状の第2溝を有し、前記第1溝と前記第2溝との間に保持される複数のボールによって前記ネジ軸に支持されていてもよい。
【0017】
上記の構成によれば、ボールが喪失したり磨滅したりすることにより、ナットがボールによってネジ軸に支持されない非支持状態となっても、ナットの降下を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、ナットの降下防止状態においても負荷の上昇を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る直線作動機を示す縦断面である。
図2】ナットがネジ軸に支持されている支持状態における上記直線作動機の要部を示す縦断面図である。
図3】受止部材の上記ナットへの保持構造を示す横断面図である。
図4】支持状態において受止部材の凸部がネジ軸のネジ溝に接触していない状態を示す縦断面図である。
図5】ナットがネジ軸に支持されていない非支持状態における上記直線作動機の要部を示す縦断面図である。
図6】非支持状態において受止部材の凸部がネジ軸のネジ溝に接触している状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る直線作動機1を示す縦断面である。図2は、直線作動機1におけるナット8がネジ軸7に支持されている支持状態における直線作動機1の要部を示す縦断面図である。図3は、受止部材9のナット8への保持構造を示す横断面図である。
【0022】
図1に示すように、直線作動機1は、図示しない負荷を昇降移動させるように上下方向の直線的な作動が可能な機器である。直線作動機1は、ハウジング2と、モータ3と、駆動部4と、外筒5と、内筒6と、ネジ軸7と、ナット8、受止部材9と、キャップ10と、ボール11と、潤滑部材12と、保持部材13(変形部材)と、止めネジ14とを備えている。
【0023】
ハウジング2は、駆動部4と、ネジ軸7の被駆動部7aとを収容するために設けられている。ハウジング2は、上部21と、下部22とを有し、上部21と下部22とのネジによる接合によって形成されている。下部22の下端面には、下方に突出するように連結部22aが設けられている。連結部22aは、直線作動機1を支持するための図示しない支持体に連結される。モータ3は、ハウジング2に近接して配置されている。
【0024】
駆動部4は、軸受41,42と、ウォーム43と、ウォームホイール44とを有している。軸受41は、ハウジング2の上部21における上端部の内面に固定されている。軸受42は、ハウジング2の下部22における下端部の内面に軸受41と対向するように固定されている。軸受41,42は、後述するネジ軸7の被駆動部7aを回転可能に支持する。
【0025】
ウォーム43は、モータ3の駆動軸に直結されており、モータ3によって回転駆動される。ウォームホイール44は、ウォーム43の歯と噛み合っており、ウォーム43の軸方向の回転駆動力を当該軸方向に伝達することで高い減速比を得ている。ウォームホイール44の中心には、ネジ軸7の被駆動部7aが固定されている。ネジ軸7は、ウォームホイール44によって回転駆動される。
【0026】
外筒5は、ハウジング2の上部21における上端部の外周面に固定され、上方に伸びるように配置されている。外筒5の内部には、内筒6およびナット8が配置されている。内筒6は、外筒5の内径よりも小さい外径を有している。内筒6の内部には、ネジ軸7のネジ部7bの一部が配置されている。外筒5の上端には、キャップ10が取り付けられている。キャップ10には、キャップ10内を摺動可能となるように、内筒6が挿通されている。内筒6の上端には、図示しない負荷が連結される連結部61が設けられている。また、内筒6は、その下端部においてナット8の上端に固定されている。
【0027】
ネジ軸7は、ウォームホイール44に伝達されるモータ3の回転駆動力によって回転駆動される。ネジ軸7は、棒状の部材であり、上述した被駆動部7aと、ネジ部7bとを有している。被駆動部7aは、ネジ軸7の下端部側に設けられており、ハウジング2の内部に配置されている。ネジ部7bは、外筒5の内部に配置されており、ネジ部7bの外周面に形成されたネジ溝7c(第1溝)を有している。なお、図2においては、便宜上、ネジ溝7cをネジ部7bの外周面の一部に描いている。
【0028】
ナット8は、ネジ軸7に支持される支持状態において、ネジ軸7の回転によって上下方向に送られる。ナット8は、本体部が円筒状に形成されており、ネジ軸7のネジ部7bの外周面の一部を覆うような大きさに形成されている。ナット8は、連結部22aが支持体に連結されるとともに連結部61が負荷に固定されることで回転運動が阻止されることにより、上下方向のみの移動が可能となる。あるいは、ナット8は、外筒5の内周面に設けられた上下方向のガイドによって案内されることにより、上下方向のみの移動を可能としてもよい。
【0029】
ナット8は、ネジ軸7のネジ溝7cと対向するように、内周面に形成された螺旋状の内面溝8a(第2溝)を有している。ネジ溝7cと内面溝8aとの間には、複数のボール11が保持されている。ナット8は、これらのボール11によって、ネジ軸7に支持されている。なお、図2においては、便宜上、1つのボール11のみを示している。
【0030】
また、ナット8には、孔8b,8cおよびチューブ8dが設けられている。孔8b,8cは、ナット8の内部から外部へのボール11の排出、および外部からナット8の内部へのボール11の取り込みを行うために設けられている。チューブ8dは、ナット8の外周側における孔8b,8cの間でボール11が移動する管路を形成している。
【0031】
上記のように、ネジ溝7c、ナット8およびボール11は、ボールネジを構成している。ボールネジにおいては、ネジ溝7cの回転により、ネジ溝7cと内面溝8aとの間でボール11が転動すると、ナット8がネジ軸7の軸方向に送られていく。ボール11は、孔8bまたは孔8cから外部に排出されると、チューブ8d内を移動して再びナット8の内部に戻されることにより無限循環する。
【0032】
なお、上記のボールネジは、ボール11がナット8の外部を循環する外部循環式であるが、内部循環式やその他の形式のボールネジであってもよい。
【0033】
受止部材9は、ネジ軸7がボール11によってナット8を支持できなくなった非支持状態で降下するナット8を受け止める部材である。受止部材9は、環状を成しており、外周において立ち上がる立上部を有する形状に形成されている。受止部材9の内部は、ナット8の下端部における外周面が緩やかに嵌め入れられる形状に形成されている。また、当該内部は内底面9aを有しており、内底面9a上には潤滑部材12が配置されている。潤滑部材12については、後に詳しく説明する。
【0034】
受止部材9の内底面9aと下端面との間には、上下方向に貫通する貫通孔9bが形成されている。また、貫通孔9bには、凸部9cが形成されている。
【0035】
凸部9cは、支持状態において受止部材9がネジ軸7のネジ溝7cに支持されないようにネジ軸7と接触せず、かつ非支持状態において受止部材9がネジ軸7とともに回転可能にネジ軸7のネジ溝7cに支持されるようにネジ軸7と接触する。凸部9cは、このようなネジ溝7cとの位置関係を形成するように、その位置が調整される。
【0036】
凸部9cは、半円または台形を成す縦方向の断面を有しており、ネジ溝7cの大きさよりも小さく形成されている。凸部9cの長さは、非支持状態において凸部9cがネジ溝7cと接触した状態で、受止部材9がネジ軸7に支持されることができれば特に限定されない。ただし、凸部9cは、ある程度の長さを有する場合、支持状態においてネジ溝7cと接触しないように、ネジ溝7cの傾斜角度と同じ傾斜角度で傾斜するように形成されることが必要である。凸部9cは、図3に示す例では1周分の長さを有しているが、ナット8の降下によって受ける荷重に応じてその長さが異なることは勿論である。
【0037】
ここで、潤滑部材12について説明する。潤滑部材12は、ワッシャのように平板状の円環形状を成すとともに潤滑性を有しており、例えばスラストワッシャやスラストベアリングが好適に用いられる。潤滑部材12は、上述のように受止部材9の内底面9a上に配置されることにより、非支持状態において受止部材9とナット8とに挟持されて、負荷によるスラスト荷重を受ける。図3に示すように、潤滑部材12の中心の孔には、ネジ溝7cが通される。
【0038】
続いて、受止部材9のナット8への保持構造について説明する。受止部材9のナット8への保持には、保持部材13が用いられる。保持部材13は、ポリアミドなどのナイロンによって形成されたナイロンボールのような球体の部材である。保持部材13は、支持状態において受止部材9をナット8に保持する一方、非支持状態において受止部材9をナット8に保持しない。保持部材13は、ナット8の凹部8e(第1凹部)と、止めネジ14および受止部材9の保持孔9dによって形成される凹部9f(第2凹部)とによって保持される。なお、保持部材13の形状、材質などはナイロンボールに限定されない。
【0039】
凹部8eは、ナット8の下端部における外周面に形成されている。凹部8eは、保持部材13の保持孔9dから突出する部分を保持できる高さを有している。また、凹部8eは、図3に示すように、円弧状に広い幅を有するように形成されていてもよいし、さらに円形状にまで広い幅を有するように形成されていてもよい。これは、上述した凸部9cのネジ溝7cにおける位置を調整するときに、受止部材9を回転させる必要があることから、その回転に伴う凹部9fとの周方向の位置ずれを許容する必要があるからである。凸部9cの位置調整については、後に詳しく説明する。
【0040】
保持孔9dは、受止部材9の立上部における上端付近において、受止部材9の半径方向に立上部を貫通するように形成されている。保持孔9dは、雌ネジであり、止めネジ14が受止部材9の外周面側を塞ぐように嵌め込まれている。止めネジ14は、例えば六角穴付きのネジである。保持孔9dにおいては、止めネジ14が嵌め込まれることにより、受止部材9の内周面側に開口する凹部9fが形成される。
【0041】
また、保持部材13は、非支持状態で降下するナット8における凹部8eから離脱するように変形可能である。保持部材13は、支持状態において凹部8eおよび凹部9fに配置されることにより、受止部材9をナット8に保持する。
【0042】
続いて、受止部材9に設けられた凸部9cのネジ溝7cにおける位置の調整について説明する。図4は、支持状態において受止部材9の凸部9cがネジ軸7のネジ溝7cに接触していない状態を示す縦断面図である。
【0043】
直線作動機1の製造工程において、受止部材9をナット8に保持するときに、図4に示すように、支持状態における受止部材9の凸部9cがネジ軸7の螺旋状のネジ溝7cと接触しないように、凸部9cの上下方向の位置を調整する。このとき、受止部材9を上下方向に移動させると、僅かな位置調整が難しい。このため、受止部材9を回転させながら位置調整を行うことが好ましい。
【0044】
また、図2に示すように、このような位置調整のために、ナット8は、支持状態において潤滑部材12との間に隙間Gが形成される位置に配置されている。このように、ナット8と潤滑部材12との間に隙間Gがあることにより、回転による受止部材9の移動についてのマージンを確保できる。これにより、受止部材9を容易に回転させることができる。したがって、ネジ溝7cにおける凸部9cの位置調整を容易に行うことができる。
【0045】
凸部9cの位置が確定すると、その位置で受止部材9を保持するように、ナット8の高さを調整する。このとき、ネジ軸7を回転させることにより、ナット8を高さ調整の目標とする方向に移動させる。これにより、凹部8eと保持孔9dとの高さが一致すると、その位置で、保持部材13を保持孔9dに入れて、止めネジ14で保持部材13を押し込むことにより、保持部材13の一部をナット8の凹部8eに突出させる。このようにして、受止部材9のナット8への保持構造が得られる。
【0046】
なお、上記のようにナット8の高さを調整することにより、凹部8eと保持孔9dとの高さが一致しても、凹部8eと保持孔9dとの周方向の位置がずれることがある。このため、図3に示すように、凹部8eは周方向の幅が広くなるように形成されていてもよい。これにより、上記のずれを許容することができる。
【0047】
上記のように構成される直線作動機1の動作について説明する。図5は、ナット8がネジ軸7に支持されていない非支持状態における直線作動機1の要部を示す縦断面図である。図6は、非支持状態において受止部材9の凸部9cがネジ軸7のネジ溝7cに接触している状態を示す縦断面図である。
【0048】
まず、支持状態においてネジ軸7が回転すると、ナット8は、ボール11がネジ溝7cと内面溝8aとの間で転動することにより、ネジ軸7の軸方向に送られていく。受止部材9は、保持部材13によってナット8に保持されることによりナット8とともに送られる。このとき、図4示すように、受止部材9は、凸部9cがネジ軸7のネジ溝7cと接触しないことにより、ネジ軸7に支持されない。これにより、受止部材9は、ネジ軸7の回転による影響を受けることはない。
【0049】
一方、故障などよりボール11がナット8内から抜け出たり、ボール11が磨滅したりするなどによって非支持状態になると、ナット8はネジ軸7に支持されなくなるので、負荷の荷重を受けて降下する。このとき、図5に示すように、凹部8eの位置が保持孔9dの位置と上下方向でずれるため、保持部材13は、降下する凹部8eの上端を支えることができなくなって、変形する(潰れる)ことで凹部8eから離脱する。これにより、受止部材9は、ナット8に保持されなくなるので、降下するナット8を受け止める。
【0050】
受止部材9は、ナット8とともにネジ軸7に支持されなくなるので、負荷の荷重を受けて降下する。そして、図6に示すように、凸部9cがネジ溝7cと接触する位置に達すると、受止部材9は、ネジ軸7に支持されるようになる。これにより、受止部材9のそれ以上の降下が阻止される。また、受止部材9がネジ軸7に支持されることによりネジ軸7とともに回転すれば、ナット8が受止部材9とともに上方向に移動することはない。すなわち、ネジ軸7がナット8を上方向へ移動するように回転し続ける場合、ナット8の上昇を阻止することができる。
【0051】
この状態では、潤滑部材12が受止部材9とナット8とに挟持される。これにより、受止部材9がネジ軸7とともに回転しても、潤滑部材12が受止部材9に対して滑るため、受止部材9の回転がナット8に伝わらない。これにより、ナット8が受止部材9との摩擦で受止部材9と焼き付いて一体化することを防止できる。したがって、ナット8が、受止部材9と一体化した状態で受止部材9の回転によって上昇することを回避できる。
【0052】
また、潤滑部材12としてスラストワッシャやスラストベアリングを用いることにより、潤滑油などの供給をすることなく、簡素な構造で受止部材の回転を伝えずにナットを受け止めることができる。
【0053】
また、直線作動機1では、保持部材13によって受止部材9をナット8に保持させる。これにより、比較的安価に入手することができるナイロンボールのような樹脂製の部材を変形部材として用いることができる。
【0054】
また、直線作動機1では、ボールネジにおいて、ナット8の降下防止機構を設けている。これにより、ボール11が喪失したり磨滅したりすることにより、非支持状態となっても、ナット8の降下を防止することができる。
【0055】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。また、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1 直線作動機
7 ネジ軸
7c ネジ溝(第1溝)
8 ナット
8a 内面溝(第2溝)
8e 凹部(第1凹部)
9 受止部材
9c 凸部
9f 凹部(第2凹部)
11 ボール
12 潤滑部材
13 保持部材(変形部材)
G 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6