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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】印刷土台
(51)【国際特許分類】
   H01G 13/00 20130101AFI20240402BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H01G13/00 351A
H01G4/30 311Z
H01G4/30 517
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022538672
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2021025098
(87)【国際公開番号】W WO2022019087
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2020125003
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【弁理士】
【氏名又は名称】野末 貴弘
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】角田 竜規
(72)【発明者】
【氏名】平尾 尚大
(72)【発明者】
【氏名】堺 学
【審査官】多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-067952(JP,A)
【文献】特開2019-106400(JP,A)
【文献】特開2019-149414(JP,A)
【文献】特開2018-137325(JP,A)
【文献】国際公開第2014/142008(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 13/00
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造体であって、焼成さやである支持部と、
前記支持部と接して設けられ、表面の少なくとも一部がポリビニルアルコールによって覆われた複数の樹脂粒子を含み、500℃以上の温度で焼成することで焼失する機能層と、
を備え、
前記樹脂粒子は、アクリル樹脂であるメタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体からなることを特徴とする印刷土台。
【請求項2】
前記支持部は、Al23を含むことを特徴とする請求項1に記載の印刷土台。
【請求項3】
前記支持部は、Al23とSiO2の化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の印刷土台。
【請求項4】
前記支持部は、Al23とSiO2とMgOの化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の印刷土台。
【請求項5】
前記機能層の厚みは、5μm以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷土台。
【請求項6】
前記樹脂粒子の形状は球形であって、平均粒径が1.8μm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の印刷土台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを用いた印刷を行う際の土台となる印刷土台に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタを用いた印刷によって、積層セラミックコンデンサのようなセラミック電子部品を作製する方法が知られている。この印刷時に、インクがにじむと、所望の形状のセラミック電子部品を作製することができなくなる。
【0003】
そのようなインクのにじみを抑制するため、特許文献1には、セラミックグリーンシートの表面に、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液を塗布してPVA層を形成し、その上から、溶媒が水である水性インクを用いた印刷を行う方法が記載されている。この印刷方法によれば、水性インクがPVA層内の樹脂と反応してゲル化することによって、インクのにじみを抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4300801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の印刷方法は、水性インクを用いた場合に、インクのにじみ抑制効果が発揮されるが、溶媒が有機溶剤である溶剤系インクを用いた場合には、ゲル化反応が起きず、インクのにじみ抑制効果が発揮されない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、印刷に用いるインクとして、水性インクだけでなく、溶剤系インクを用いた場合にも、インクのにじみを抑制することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の印刷土台は、
多孔質構造体である支持部と、
前記支持部と接して設けられ、表面の少なくとも一部がポリビニルアルコールによって覆われた複数の樹脂粒子を含む機能層と、
を備え
前記樹脂粒子は、アクリル樹脂であるメタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の印刷土台によれば、印刷時に、インクの溶媒は、機能層内の樹脂粒子の間と多孔質構造体である支持部内に吸い込まれる。したがって、インクが水性インクであっても、溶剤系インクであっても、にじみを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態における印刷土台の構造を模式的に示す側面図である。
図2】機能層を走査型電子顕微鏡で観察したときの写真である。
図3】(a)~(g)は、樹脂粒子の形状の様々な例を示す図である。
図4】一実施形態における印刷土台10の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0011】
本発明の印刷土台は、その上にインクを用いた印刷を行う際の土台となるものである。印刷は、任意の方法によって、任意のものを作製するために行うことができる。一例として、本発明の印刷土台の上に、3Dプリンタを用いた印刷によって、積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品を作製する。積層セラミックコンデンサを作製する場合、印刷に用いるインクとして、誘電体層用インク、内部電極用インク、および、外部電極用インク等を用意する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態における印刷土台10の構造を模式的に示す側面図である。一実施形態における印刷土台10は、多孔質構造体である支持部1と、支持部1と接して設けられ、表面の少なくとも一部がポリビニルアルコール(以下、PVAと呼ぶ)22によって覆われた複数の樹脂粒子21を含む機能層2とを備える。
【0013】
支持部1は、内部や表面に複数の孔を有する多孔質構造体であって、例えば、焼成さやである。支持部1は、例えば、化学式がAl23で表される酸化アルミニウムを主成分とする材料からなる。別の構成例として、支持部1は、3Al23・2SiO2の化学式で表されるムライトを主成分とする材料からなる。ムライトは、酸化アルミニウム(Al23)と二酸化ケイ素(SiO2)の化合物である。さらに別の構成例として、支持部1は、2MgO・2Al23・5SiO2の化学式で表されるコーディライトを主成分とする材料からなる。コーディライトは、酸化マグネシウム(MgO)と酸化アルミニウム(Al23)と二酸化ケイ素(SiO2)の化合物である。支持部1には、特性が変わらない量の副成分や不純物が含まれていてもよい。
【0014】
図1に示すように、機能層2を構成する複数の樹脂粒子21には、表面の全てがPVA22によって覆われている樹脂粒子、および、表面の一部がPVA22によって覆われている樹脂粒子が含まれる。ただし、機能層2内に、表面がPVA22によって覆われていない樹脂粒子が含まれていてもよい。機能層2を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真を図2に示す。
【0015】
本実施形態において、樹脂粒子21の形状は、図1に示すように球形である。ただし、ここでの球形には、歪みや凹みがあるが、全体として球形とみなされる形状も含まれる。また、樹脂粒子21の形状が球形に限定されることはない。例えば、樹脂粒子21の形状は、楕円の長軸または短軸を回転軸として回転させることによって得られる回転楕円体(図3(a)参照)でもよいし、直方体(図3(b)参照)でもよいし、三角錐(図3(c)参照)でもよいし、四角錐(図3(d)参照)でもよいし、円柱(図3(e)参照)でもよいし、円錐(図3(f)参照)でもよいし、不規則な形状(図3(g)参照)でもよい。すなわち、樹脂粒子21の形状に特に制約はない。
【0016】
樹脂粒子21は、例えば、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等からなる。一例として、樹脂粒子21は、アクリル樹脂であるメタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体({CH2C(CH3)COOCH3m・{CH2C(CH3)COOCH2CH2OOC(CH3)CCH2)からなる。
【0017】
PVA22には、例えば、メタノールや酢酸メチル等の不純物が含まれていてもよい。
【0018】
機能層2内の樹脂粒子21は、その表面を覆っているPVA22によって、隣り合う樹脂粒子21と連結されている。樹脂粒子21の形状が球形である場合、樹脂粒子21の平均粒径は、例えば、1μmである。また、支持部1と機能層2の積層方向における機能層2の厚みは、例えば、10μmである。
【0019】
なお、印刷土台10の上、より詳しくは、機能層2の上に印刷するインクの固形分の粒径は、例えば、100nm以上500nm以下である。
【0020】
一実施形態における印刷土台10の上に印刷を行うと、インクの溶媒は、機能層2内の樹脂粒子21の間と多孔質構造体である支持部1内に吸い込まれる。したがって、インクが水性インクであるか、溶剤系インクであるかに関わらず、溶媒を含むインクを用いた場合のインクのにじみを抑制することができる。
【0021】
従来のセラミック電子部品の製造方法では、印刷ステージの上に印刷を行うことによって、未焼成セラミック素体を作製した後、印刷ステージから未焼成セラミック素体を剥がして焼成さやに載せ替えていた。また、別の方法として、印刷ステージの上にインクジェット用紙のような中間物を置いてその上に印刷を行うことによって、未焼成セラミック素体を作製した後、未焼成セラミック素体とともにインクジェット用紙を焼成さやの上に載せ替えていた。その後、焼成さやを焼成炉内に入れて焼成することによって、セラミック電子部品を得るようにしていた。
【0022】
これに対して、一実施形態における印刷土台10を用いた場合には、印刷土台10の上に印刷を行って、未焼成セラミック素体を作製した後、印刷土台10を焼成炉内に入れて焼成することによって、セラミック電子部品を得ることができる。したがって、印刷物である未焼成セラミック素体を載せ替える必要がないので、製造工程が簡易となり、製造時間を短縮することができる。
【0023】
(印刷土台の製造方法)
図4は、一実施形態における印刷土台10の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【0024】
ステップS1では、用意した支持部1を空焼きすることによって、不純物を取り除く。ここでは、支持部1として、焼成さやを用いる例を挙げて説明する。空焼きは、例えば、950℃で3時間行う。
【0025】
ステップS1に続くステップS2では、水にPVAを溶かして、PVA溶液を作製する。PVA溶液中のPVAと水の割合は重量%で例えば、PVA:水=5:95である。
【0026】
ステップS2に続くステップS3では、PVA溶液に樹脂粒子を投入する。PVA溶液と樹脂粒子の割合は、体積%で例えば、1:1である。
【0027】
ステップS3に続くステップS4では、樹脂粒子を投入したPVA溶液を撹拌することによって、樹脂粒子を分散させる。例えば、株式会社シンキー製の撹拌機「ARE-500」を用いて、回転数1000rpm、撹拌時間10分の条件で撹拌する。
【0028】
ステップS4に続くステップS5では、焼成さやをPVA溶液に浸漬する。焼成さやを浸漬する時間は、例えば、2秒~3秒である。
【0029】
ステップS5に続くステップS6では、焼成さやをPVA溶液から引き上げて、PVA溶液が自然に滴らない程度、例えば、20秒程度待つ。
【0030】
ステップS6に続くステップS7では、焼成さやの下部に付着しているPVA溶液の滴をウェス等で拭き取った後、そのまま立てて置いて、乾燥させる。
【0031】
以上の工程により、支持部1の表面に機能層2が形成された印刷土台10が得られる。
【0032】
なお、上述した製造方法では、樹脂粒子を含むPVA溶液に、支持部1である焼成さやを浸漬することによって、支持部1の表面に機能層2を形成している。ただし、機能層2の形成方法が浸漬法に限定されることはない。例えば、樹脂粒子を含むPVA溶液を、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷、スプレー印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の方法で、支持部1の表面に印刷するようにしてもよい。
【0033】
(実施例1)
機能層2の厚みが異なる複数の印刷土台10を作製して、その特性を調べた。ここでは、機能層2の厚みが1μm、5μm、10μm、30μm、および、100μmとそれぞれ異なる5種類の印刷土台10を用意し、インクのにじみ、インクの固形成分の支持部1への侵入、および、機能層2上の印刷物の剥がれについて調べた。この5種類の印刷土台10は、支持部1と機能層2とを備える本発明の印刷土台10である。5種類の印刷土台10についての特性を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1では、機能層2を設けていない構成と比べて、インクのにじみ抑制効果があるものを「良」の意味である「○」で示し、インクのにじみ抑制効果が特に高いものを「最良」の意味である「◎」で示した。また、機能層2を設けていない構成と比べて、インクの固形成分の支持部1への侵入が少ないものを「良」の意味である「○」で示し、インクの固形成分の支持部1への侵入が特に少ないものを「最良」の意味である「◎」で示した。また、機能層2を設けていない構成と比べて、機能層2上の印刷物の剥がれが少ないものを「良」の意味である「○」で示し、印刷物の剥がれが特に少ないものを「最良」の意味である「◎」で示した。
【0036】
表1に示すように、機能層2の厚みが異なる5種類の印刷土台10は全て、機能層2を設けていない従来の印刷土台と比べて、インクのにじみ抑制効果があることを確認できた。また、機能層2の厚みが5μm以上の場合、インクのにじみ抑制効果が特に高いことが確認できた。したがって、本発明の印刷土台10において、インクのにじみをより抑制するためには、機能層2の厚みは、5μm以上であることが好ましい。
【0037】
また、表1に示すように、機能層2の厚みが異なる5種類の印刷土台10は全て、機能層2を設けていない従来の印刷土台と比べて、インクに含まれる固形成分の支持部1への侵入が少ないことを確認できた。支持部1にインクの固形成分が残ると、印刷土台の廃棄が煩雑となる場合がある。例えば、支持部1に、インクの固形成分として金属が侵入した場合、金属の量等によっては、そのまま廃棄すると、環境問題が生じ得る。しかしながら、本発明の印刷土台10によれば、インクに含まれる固形成分の支持部1への侵入を低減することができるので、廃棄時の環境問題等の発生を抑制することができる。
【0038】
また、表1に示すように、機能層2の厚みが5μm以上の場合、インクの固形成分が支持部1にまで到達しにくくなり、支持部1への侵入が特に少なくなる。したがって、インクの固形成分の支持部1への侵入をより抑制するためには、機能層2の厚みは、5μm以上であることが好ましい。
【0039】
なお、未焼成セラミック素体を印刷土台10とともに焼成炉内に入れて焼成すると、樹脂粒子21は煤として残る。また、機能層2内に入り込んだインクの固形成分は、煤の中に存在する。このため、煤を廃棄することによって、インクの固形成分も一緒に廃棄することができる。
【0040】
また、表1に示すように、機能層2の厚みが異なる5種類の印刷土台10は全て、機能層2を設けていない従来の印刷土台と比べて、印刷物の剥がれが少ないことが確認できた。これは、本発明の印刷土台10では、インクの固形成分が機能層2内の樹脂粒子21の間に入り込むことによってアンカー効果が生じ、機能層2に対する印刷物の接着力が向上するからであると考えられる。特に、機能層2の厚みが30μm以下のときに、印刷物の剥がれが特に少なくなったので、印刷物の剥がれを抑制するためには、機能層2の厚みを30μm以下とすることが好ましい。
【0041】
(実施例2)
機能層2に含まれる樹脂粒子21の平均粒径が異なる複数の印刷土台10を作製して、その特性を調べた。ここでは、樹脂粒子21の形状が球形であって、平均粒径が0.8μm、1μm、1.8μm、5μm、および、10μmとそれぞれ異なる5種類の印刷土台10を用意し、インクのにじみ、インクの固形成分の支持部1への侵入、および、機能層2上の印刷物の剥がれについて調べた。この5種類の印刷土台10は、支持部1と機能層2とを備える本発明の印刷土台10である。5種類の印刷土台10についての特性を表2に示す。なお、表2において、評価結果の「○」、「◎」の意味は、表1の場合と同じである。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、樹脂粒子21の平均粒径が異なる5種類の印刷土台10は全て、機能層2を設けていない従来の印刷土台と比べて、インクのにじみ抑制効果があることを確認できた。また、樹脂粒子21の平均粒径が1.8μm以下である場合、インクのにじみ抑制効果が特に高いことが確認できた。したがって、本発明の印刷土台10において、インクのにじみをより抑制するためには、機能層2内の樹脂粒子21の平均粒径は、1.8μm以下であることが好ましい。
【0044】
また、表2に示すように、樹脂粒子21の平均粒径が異なる5種類の印刷土台10は全て、機能層2を設けていない従来の印刷土台と比べて、インクに含まれる固形成分の支持部1への侵入が少ないことを確認できた。また、樹脂粒子21の平均粒径が1.8μm以下である場合、インクに含まれる固形成分の支持部1への侵入が特に少なくなる。したがって、インクの固形成分の支持部1への侵入をより抑制するためには、樹脂粒子21の平均粒径は、1.8μm以下であることが好ましい。
【0045】
また、表2に示すように、樹脂粒子21の平均粒径が異なる5種類の印刷土台10は全て、機能層2を設けていない従来の印刷土台と比べて、印刷物の剥がれが少ないことが確認できた。特に、樹脂粒子21の平均粒径が1μm以上のときに、印刷物の剥がれが特に少なくなったので、印刷物の剥がれをさらに抑制するためには、樹脂粒子21の平均粒径を1μm以上とすることが好ましい。
【0046】
(実施例3)
機能層2に含まれる樹脂粒子21の種類が異なる複数の印刷土台10を作製して、その特性を調べた。ここでは、樹脂粒子21の樹脂として、セルロース樹脂、ポリメタクリル酸メチル({CH2C(CH3)COOCH3)、メタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体をそれぞれ用いた3種類の印刷土台10を用意し、残渣の有無、低温反応、500℃での機能層2の焼失性、良品率について調べた。なお、ポリメタクリル酸メチルは、メタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体以外のアクリル樹脂の一例として用いた。メタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体以外のアクリル樹脂の他の例として、架橋アクリル酸アルキル共重合体や、メタクリル酸エステル重合物等を用いることが可能である。この3種類の印刷土台10は、支持部1と機能層2とを備える本発明の印刷土台10である。3種類の印刷土台10についての特性を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
ここで、残渣とは、焼成後に残るものであって、不要な異物の原因となるため少ない方がよい。表3では、残渣が存在するが使用可能であるものを「○」、残渣が少なく、安定的に使用可能であるものを「◎」で示した。
【0049】
表3に示すように、樹脂粒子21の種類が異なる3種類の印刷土台10は、残渣が存在するものの、使用可能であることが確認できた。特に、樹脂粒子21がメタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体からなる場合、残渣が特に少なくなった。したがって、焼成後の残渣をより少なくするためには、樹脂粒子21は、メタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体からなることが好ましい。
【0050】
また、機能層2を加熱していくと、温度が280℃くらいまで上昇したときに、急激に重量が減少する反応が生じる。ここでは、この反応を低温反応と呼ぶ。セラミック電子部品を製造時の脱脂工程において、低温反応が悪いと、セラミック電子部品の収縮を阻害してしまい、割れなどの欠陥を招く可能性がある。このため、低温反応は良い方が好ましい。表3では、低温反応の度合いにばらつきがあるが、セラミック電子部品の収縮が阻害されず、使用可能であるものを「○」、低温反応が速く、安定的に使用可能であるものを「◎」で示した。
【0051】
表3に示すように、樹脂粒子21の種類が異なる3種類の印刷土台10は、低温反応の度合いにばらつきがあるものも存在するものの、いずれも使用可能であることが確認できた。特に、樹脂粒子21がポリメタクリル酸メチルからなる場合、および、メタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体からなる場合には、低温反応が良く、安定的に使用可能であることが確認できた。ポリメタクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体は、アクリル樹脂の一種であるため、セラミック電子部品を製造時の脱脂工程における低温反応を重視する場合には、樹脂粒子21がアクリル樹脂からなることが好ましい。
【0052】
また、セラミック電子部品を製造時の焼成工程では、500℃以上の温度で焼成を行う。500℃での焼成時に機能層2が焼失しなければ、セラミック電子部品の収縮が阻害され、割れなどの欠陥を招く可能性がある。表3では、500℃まで加熱したときに、機能層2の焼失性にばらつきがあるが、セラミック電子部品の収縮が阻害されず、使用可能であるものを「○」、焼失性が高く、安定的に使用可能であるものを「◎」で示した。
【0053】
表3に示すように、樹脂粒子21の種類が異なる3種類の印刷土台10は、機能層2の焼失性にばらつきがあるものも存在するものの、いずれも使用可能であることが確認できた。特に、樹脂粒子21がポリメタクリル酸メチルからなる場合、および、メタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体からなる場合には、機能層2の焼失性が高く、安定的に使用可能であることが確認できた。ポリメタクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体は、アクリル樹脂の一種であるため、セラミック電子部品の製造時の焼成工程における機能層2の焼失性を重視する場合には、樹脂粒子21がアクリル樹脂からなることが好ましい。
【0054】
良品率は、インクを用いた印刷によって印刷土台10の上に形成された印刷物の良品率を表すものであって、所定数(例えば30個)のうち、割れ等の欠陥が無い良品の割合を示す。表3では、良品率が高く、使用可能であるものを「○」、良品率が特に高く、安定的に使用可能であるものを「◎」で示した。
【0055】
表3に示すように、樹脂粒子21の種類が異なる3種類の印刷土台10は、いずれも良品率が高いことが確認できた。特に、樹脂粒子21がポリメタクリル酸メチルからなる場合、および、メタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体からなる場合には、良品率が高く、安定的に使用可能であることが確認できた。ポリメタクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体は、アクリル樹脂の一種であるため、印刷物の良品率をより向上させるためには、樹脂粒子21がアクリル樹脂からなることが好ましい。
【0056】
(実施例4)
支持部1の種類が異なる複数の印刷土台10を作製して、その特性を調べた。ここでは、多孔質構造体である支持部1がAl23からなるもの、Al23とSiO2の化合物からなるもの、Al23とSiO2とMgOの化合物からなるものの3種類の印刷土台10を用意し、インクのにじみ、インクの固形成分の支持部1への侵入、機能層2上の印刷物の剥がれ、印刷物の良品率、印刷土台10の再利用性、および、印刷物の速乾性について調べた。この3種類の印刷土台10は、支持部1と機能層2とを備える本発明の印刷土台10である。3種類の印刷土台10についての特性を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
なお、支持部1がAl23からなるものには、副成分が含まれていてもよい。同様に、支持部1がAl23とSiO2の化合物からなるものに副成分が含まれていてもよいし、Al23とSiO2とMgOの化合物からなるものに副成分が含まれていてもよい。
【0059】
表4において、インクのにじみ、インクの固形成分の支持部1への侵入、および、機能層2上の印刷物の剥がれについての評価方法は、表1の場合と同じである。印刷物の良品率の評価方法は、表3の場合と同じである。印刷土台10の再利用性は、印刷土台10の変形が少ないか、支持部1内にインクの固形成分等の異物が無いか、支持部1の表面にインクを弾くような物質が付着していないか等の基準に基づいて判断した。ここでは、再利用可能なものを「○」、印刷土台10の変形等が特に少なく、再利用性が特に高いものを「◎」で示した。印刷物の速乾性は、印刷物のインクの乾燥が速いものを「○」で示し、インクの乾燥が特に速いものを「◎」で示した。
【0060】
表4に示す3種類の印刷土台10はいずれも、機能層2を設けておらず、Al23からなる印刷土台と比べて、インクのにじみが少ないことが確認できた。特に、支持部1がAl23とSiO2の化合物からなる場合、および、Al23とSiO2とMgOの化合物からなる場合には、特にインクのにじみが少なく、にじみ抑制効果が高いことが分かった。したがって、本発明の印刷土台10において、インクのにじみをより少なくするためには、支持部1がAl23とSiO2の化合物を含むか、または、Al23とSiO2とMgOの化合物を含むことが好ましい。
【0061】
また、表4に示す3種類の印刷土台10はいずれも、機能層2を設けていない従来の印刷土台と比べて、インクに含まれる固形成分の支持部1への侵入が少ないことが確認できた。
【0062】
また、表4に示す3種類の印刷土台10はいずれも、機能層2を設けておらず、Al23からなる印刷土台と比べて、印刷物の剥がれが少ないことが確認できた。特に、支持部1がAl23とSiO2の化合物からなる場合、および、Al23とSiO2とMgOの化合物からなる場合には、印刷物の剥がれが特に少なかった。したがって、印刷物の剥がれをより抑制するためには、支持部1がAl23とSiO2の化合物を含むか、または、Al23とSiO2とMgOの化合物を含むことが好ましい。
【0063】
また、表4に示す3種類の印刷土台10はいずれも、印刷物の良品率が高いことが確認できた。特に、支持部1がAl23とSiO2の化合物からなる場合、および、Al23とSiO2とMgOの化合物からなる場合には、印刷物の良品率が特に高いことが確認できた。したがって、印刷物の良品率をより向上させるためには、支持部1がAl23とSiO2の化合物を含むか、または、Al23とSiO2とMgOの化合物を含むことが好ましい。なお、支持部1がAl23とSiO2とMgOの化合物を含む場合、熱膨張係数が低いため、焼成時に印刷物への影響が少なく、良品率がさらに高くなるものと考えられる。
【0064】
また、表4に示す3種類の印刷土台10はいずれも、再利用性が高いことが確認できた。印刷土台10の再利用性が向上することにより、印刷土台10を用いたセラミック電子部品を製造する際の製造コストを低減することができる。特に、支持部1がAl23とSiO2の化合物からなる場合、および、Al23とSiO2とMgOの化合物からなる場合には、再利用性が特に高いことが確認できた。したがって、印刷土台10の再利用性をより向上させるためには、支持部1がAl23とSiO2の化合物を含むか、または、Al23とSiO2とMgOの化合物を含むことが好ましい。
【0065】
なお、支持部1がAl23とSiO2の化合物を含む場合、耐熱性が高いために焼成時に変形が抑制され、再利用性が特に高くなるものと考えられる。また、支持部1がAl23とSiO2とMgOの化合物からなる場合、機械強度と耐熱衝撃性が高くなるため、焼成時に変形が抑制され、再利用性が特に高くなるものと考えられる。
【0066】
また、表4に示す3種類の印刷土台10はいずれも、印刷物の速乾性が高いことが確認できた。特に、支持部1がAl23とSiO2とMgOの化合物からなる場合には、印刷物の速乾性が特に高いことが確認できた。したがって、印刷物の速乾性をより向上させるためには、支持部1がAl23とSiO2とMgOの化合物を含むことが好ましい。
【0067】
ここで、印刷土台10の上で印刷を複数回行って多層構造の製品を製造する場合、1層分の印刷を行って乾燥させてから、次の層の印刷を行う必要がある。本発明の印刷土台10を用いた場合には、印刷物の速乾性が高いので、次の層の印刷を行うまでの時間を短縮することができ、多層構造の製品の製造時間を短縮することができる。
【0068】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 支持部
2 機能層
10 印刷土台
21 樹脂粒子
22 ポリビニルアルコール(PVA)
図1
図2
図3
図4