(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】金属インク、金属インクの製造方法、金属層の製造方法、及び金属層
(51)【国際特許分類】
C09D 11/52 20140101AFI20240402BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20240402BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240402BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240402BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240402BHJP
【FI】
C09D11/52
B22F1/107
B22F1/00 L
B22F1/00 K
B22F9/00 B
B22F1/102
(21)【出願番号】P 2023557430
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2023001406
(87)【国際公開番号】W WO2023140300
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2022006776
(32)【優先日】2022-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植杉 隆二
(72)【発明者】
【氏名】山口 朋彦
(72)【発明者】
【氏名】海老沢 陸
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140418(JP,A)
【文献】特開2007-332347(JP,A)
【文献】特開2019-189717(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0041269(US,A1)
【文献】特開2018-111856(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125581(WO,A1)
【文献】特開2015-004121(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049867(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-54
B22F 1/107
B22F 1/00
B22F 9/00
B22F 1/102
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と、
溶媒と、
大気圧における沸点が150℃以上であり、水と混和可能な有機溶媒と、
融点が30℃以上であり、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能な多価アルコールと、
を含み、
前記多価アルコールが、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール
、1-フェニル-1,2-エタンジオール
、リビトール、レソルシノール、(ピロ)カテコール、5-メチルレソルシノール、ピロガロール、1,2,3-シクロヘキサントリオール、及び1,3,5-シクロヘキサントリオールのうちの、少なくとも1つである、
金属インク。
【請求項2】
前記多価アルコールは、前記金属インクの全量に対して、質量比で0.01%以上20.0%以下含まれる、請求項1に記載の金属インク。
【請求項3】
前記金属粒子は、前記金属インクの全量に対して、質量比で1.0%以上50.0%以下含まれる、請求項1又は請求項2に記載の金属インク。
【請求項4】
前記有機溶媒は、前記金属インクの全量に対して、質量比で0.01%以上30.0%以下含まれる、請求項1又は請求項2に記載の金属インク。
【請求項5】
前記有機溶媒は、グリコールエーテル及び非プロトン性極性溶媒の少なくとも1つを含む、請求項1又は請求項2に記載の金属インク。
【請求項6】
前記有機溶媒は、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、の少なくとも1つを含む、請求項1又は請求項2に記載の金属インク。
【請求項7】
前記溶媒は、水を含む、請求項1又は請求項2に記載の金属インク。
【請求項8】
前記溶媒は、エタノールを含む、請求項1又は請求項2に記載の金属インク。
【請求項9】
前記溶媒は、OH基を1つ以上含み、沸点が150℃以上であり、水に難溶又は不溶な液体である高沸点溶媒を含む、請求項1又は請求項2に記載の金属インク。
【請求項10】
前記金属粒子は、銅及び銀の少なくとも1つである、請求項1又は請求項2に記載の金属インク。
【請求項11】
前記金属粒子は、銅または銀であり、前記溶媒は、水を含み、前記有機溶媒は、グリコールエーテル及び非プロトン性極性溶媒の少なくとも1つを含み、前記多価アルコールは、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能であって、且つ、融点が30℃以上である多価アルコールの少なくとも1つを含む、請求項1又は請求項2に記載の金属インク。
【請求項12】
金属粒子と、溶媒と、大気圧における沸点が150℃以上であり水と混和可能な有機溶媒と、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能な多価アルコールとを混合して、前記金属粒子と前記溶媒と前記多価アルコールを含む金属インクを製造する、
金属インクの製造方法であって、
前記多価アルコールが、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、1-フェニル-1,2-エタンジオール、リビトール、レソルシノール、(ピロ)カテコール、5-メチルレソルシノール、ピロガロール、1,2,3-シクロヘキサントリオール、及び1,3,5-シクロヘキサントリオールのうちの、少なくとも1つである、
金属インクの製造方法。
【請求項13】
前記金属粒子と、前記溶媒としての水と、前記多価アルコールと、前記有機溶媒とを混合して、前記金属粒子と水と前記有機溶媒と前記多価アルコールとを含む金属インクである第1金属インクを製造する、請求項12に記載の金属インクの製造方法。
【請求項14】
前記第1金属インクと、前記溶媒としてのエタノールとを混合して、前記金属粒子と水と前記エタノールと前記多価アルコールと前記有機溶媒とを含む金属インクである第2金属インクを製造する、請求項13に記載の金属インクの製造方法。
【請求項15】
前記第2金属インクと、OH基を1つ以上含み、沸点が150℃以上であり、水に難溶又は不溶な液体である前記溶媒としての高沸点溶媒とを混合して、前記金属粒子と水と前記エタノールと前記高沸点溶媒と前記多価アルコールと前記有機溶媒とを含む金属インクである第3金属インクを製造する、請求項14に記載の金属インクの製造方法。
【請求項16】
請求項1又は請求項2に記載の金属インクを加熱して金属層を形成する、
金属層の製造方法。
【請求項17】
請求項1又は請求項2に記載の金属インクを用いて作られた、金属層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属インク、金属インクの製造方法、金属層の製造方法、及び金属層に関する。
【背景技術】
【0002】
部材に金属層を形成する例として、特許文献1には、部材にはんだ層を形成する旨が記載されている。また例えば特許文献2には、銀ペーストが用いて金属層を形成する旨が記載されている。銀ペーストは、比較的低温条件で焼結することができ、かつ、焼結後に形成される接合層の融点は銀と同等となる。このため、この銀ペーストの焼結体からなる金属層は、耐熱性に優れており、高温環境下や大電流用途においても安定して使用することが可能となる。一方で材料コストの観点から、例えば特許文献3に示すように、銅ペーストが用いられる場合もある。
【0003】
また、このように金属層を形成する場合においては、銅ペーストなどの金属ペーストではなく、金属粒子が液体中に分散した金属インクが用いられることもある。金属インクは、例えばノズルから噴射させることができるため、製造面で有利となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-172378号公報
【文献】特許第6531547号公報
【文献】特開2019-67515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような金属インクは、金属粒子が凝集することにより、金属層の緻密性の低下など、製造物の特性の低下を招くおそれがある。また、金属インクを長期間適切に保存することも求められている。従って、金属粒子の凝集を抑制しつつ、長期間適切に保存可能とすることが求められている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、金属粒子の凝集を抑制しつつ、長期間適切に保存可能な金属インク、金属インクの製造方法、金属層の製造方法、及び金属層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の金属インクは、金属粒子と、溶媒と、大気圧における沸点が150℃以上であり、水と混和可能な有機溶媒と、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能な多価アルコールと、を含む。
【0008】
前記多価アルコールは、前記金属インクの全量に対して、質量比で0.01%以上20.0%以下含まれることが好ましい。
【0009】
前記金属粒子は、前記金属インクの全量に対して、質量比で1.0%以上50.0%以下含まれることが好ましい。
【0010】
前記有機溶媒は、前記金属インクの全量に対して、質量比で0.01%以上30.0%以下含まれることが好ましい。
【0011】
前記有機溶媒は、グリコールエーテル及び非プロトン性極性溶媒の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0012】
前記多価アルコールは、融点が30℃以上であることが好ましい。
【0013】
前記溶媒は、水を含むことが好ましい。
【0014】
前記溶媒は、エタノールを含むことが好ましい。
【0015】
前記溶媒は、OH基を1つ以上含み、沸点が150℃以上であり、水に難溶又は不溶な液体である高沸点溶媒を含むことが好ましい。
【0016】
前記金属粒子は、銅及び銀の少なくとも1つであることが好ましい。
【0017】
前記金属粒子は、銅または銀であり、前記溶媒は、水を含み、前記有機溶媒は、グリコールエーテル及び非プロトン性極性溶媒の少なくとも1つを含み、前記多価アルコールは、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能であって、且つ、融点が30℃以上である多価アルコールの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0018】
上記の課題を解決するために、本開示の金属インクの製造方法は、金属粒子と、溶媒と、大気圧における沸点が150℃以上であり水と混和可能な有機溶媒と、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能な多価アルコールとを混合して、前記金属粒子と前記溶媒と前記多価アルコールを含む金属インクを製造する。
【0019】
前記金属粒子と、前記溶媒としての水と、前記多価アルコールと、前記有機溶媒とを混合して、前記金属粒子と水と前記有機溶媒と前記多価アルコールとを含む金属インクである第1金属インクを製造することが好ましい。
【0020】
前記第1金属インクと、前記溶媒としてのエタノールとを混合して、前記金属粒子と水と前記有機溶媒と前記エタノールと前記多価アルコールとを含む金属インクである第2金属インクを製造することが好ましい。
【0021】
前記第2金属インクと、OH基を1つ以上含み、沸点が150℃以上であり、水に難溶又は不溶な液体である前記溶媒としての高沸点溶媒とを混合して、前記金属粒子と水と前記有機溶媒と前記エタノールと前記高沸点溶媒と前記多価アルコールとを含む金属インクである第3金属インクを製造することが好ましい。
【0022】
本開示の金属層の製造方法は、前記金属インクを加熱して金属層を形成する。
【0023】
本開示の金属層は、前記金属インクを用いて作られることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、金属粒子の凝集を抑制しつつ、長期間適切に保存することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る金属インクの模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る金属インクの製造方法を説明するフローチャートである。
【
図3A】
図3Aは、各例における金属インクの成分の含有量と、評価結果とを示す表である。
【
図3B】
図3Bは、各例における金属インクの成分の含有量と、評価結果とを示す表である。
【
図3C】
図3Cは、各例における金属インクの成分の含有量と、評価結果とを示す表である。
【
図3D】
図3Dは、各例における金属インクの成分の含有量と、評価結果とを示す表である。
【
図3E】
図3Eは、各例における金属インクの成分の含有量と、評価結果とを示す表である。
【
図3F】
図3Fは、各例における金属インクの成分の含有量と、評価結果とを示す表である。
【
図3G】
図3Gは、各例における金属インクの成分の含有量と、評価結果とを示す表である。
【
図3H】
図3Hは、各例における金属インクの成分の含有量と、評価結果とを示す表である。
【
図3I】
図3Iは、各例における金属インクの成分の含有量と、評価結果とを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、数値については四捨五入の範囲が含まれる。
【0027】
図1は、本実施形態に係る金属インクの模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る金属インク10は、金属粒子12と、多価アルコール14と、溶媒16と、有機溶媒18とを含む。金属インク10は、液体である溶媒16中に金属粒子12が溶解せずに、固体状の金属粒子12が溶媒16中に存在しているインク状の物質を指す。金属インク10においては、溶媒16中に金属粒子12が沈降していてもよいし、金属粒子12が分散していてもよい。
【0028】
金属インク10は、部材への金属層の形成(例えば配線の形成)に用いられる。例えば、金属インク10をノズルから基材(樹脂、金属等のフィルムや樹脂、金属、セラミック等もしくはこれら複合された基板)へ噴射・乾燥後、更に、加熱することで、金属粒子12を焼結もしくは溶融させつつ他の成分を除去し、その後冷却することで、金属粒子12の金属成分で形成される金属層が基材上に形成される。ただし、金属インク10の用途はこれに限られず任意であってよい。
なお、金属インク10による金属層の製造条件は任意であってよいが、金属インク10を、酸化性ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気の下で、加熱することが好ましい。
【0029】
(金属粒子)
金属粒子12は、金属の粒子である。本実施形態では、金属粒子12は、銅又は銀の粒子であることが好ましく、銅及び銀の両方を含むものであってよい。すなわち、金属粒子12は、銅及び銀の少なくとも一方の粒子であることが好ましいといえる。
【0030】
金属粒子12は、粒径(粒度分布(個数)のPeak値)が10nm以上1000nm以下であることが好ましい。金属インク10中の金属粒子12の粒径は、粒子径測定装置(マルバーン社製、ゼータサイザーナノシリーズ ZSP)を用いて、金属粒子12の粒度分布(個数)のPeak値として求めることができる。尚、粒度分布の測定において、金属インク10中の金属粒子12の濃度が高いことにより、十分な測定品質が得られない場合は、金属インク10中の主な溶媒(水、エタノールや高沸点溶媒)で10~1000倍程度に希釈・分散させた後に測定してもよい。
【0031】
粒径が10nm以下であると、粒径に反比例して比表面積が大きくなるため、表面酸化の影響が大きくなり、金属粒子12を用いて得られた塗膜の焼結性が低下する恐れがある。一方、金属粒子12の粒径が1000nm以上であると、粒径が大きくなりすぎるため、溶媒中に分散したインクにおいて、金属粒子12が沈降分離し易くなる恐れがある。金属粒子12の粒径は、30nm以上500nm以下の範囲内にあることが好ましく、30nm以上300nm以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0032】
金属粒子12のBET比表面積は、比表面積測定装置(カンタクローム・インスツルメンツ社製、QUANTACHROME AUTOSORB-iQ2)にて、測定ガスとして窒素又はクリプトンガスを用いて、金属粒子12のガスの吸着量を測定することにより求めることができる。金属粒子12のBET比表面積は、2.0m2/g以上8.0m2/g以下の範囲内にあることが好ましく、3.5m2/g以上8.0m2/g以下の範囲内にあることがより好ましく、4.0m2/g以上8.0m2/g以下の範囲内にあることが特に好ましい。また、金属粒子12の形状は、球状に限らず、針状、扁平な板状でもよい。
【0033】
金属粒子12は、表面が、有機物で一部または全面を被覆されていることが好ましい。有機物で被覆されていることにより、金属粒子12の酸化が抑制され、金属粒子12の酸化による焼結性の低下がさらに起こりにくくなる。なお、金属粒子12を被覆する有機物は、多価アルコール14や溶媒16によって形成されるものでなく、多価アルコール14や溶媒16由来のものでないといえる。また、金属粒子12を被覆する有機物は、金属の酸化により形成される酸化金属(酸化銅や酸化銀)ではないともいえる。
【0034】
金属粒子12が有機物で被覆されていることは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて、金属粒子12の表面を分析することに確認することができる。例えば金属粒子12が銅の場合、金属粒子12は、飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて、表面を分析することによって検出されるCu+イオンの検出量に対するC3H3O3
-イオンの検出量の比(C3H3O3
-/Cu+比)が0.001以上であることが好ましい。C3H3O3
-/Cu+比は、0.05以上0.2以下の範囲内にあることがさらに好ましい。なお、本分析における金属粒子12の表面とは、金属粒子12から有機物を除去した際の金属粒子12の表面でなく、被覆している有機物を含んだ金属粒子12の表面(すなわち有機物の表面)を指す。なお、金属粒子12が銀の場合、金属粒子12は、飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて、表面を分析することによって検出されるAg+イオンの検出量に対するC3H3O3
-イオンの検出量の比(C3H3O3
-/Ag+比)が、0.001以上であることが好ましく、0.05以上0.2以下の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0035】
金属粒子12は、銅である場合、飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて、表面を分析することによってC3H4O2
-イオンやC5以上のイオンが検出されてもよい。Cu+イオンの検出量に対するC3H4O2
-イオンの検出量の比(C3H4O2
-/Cu+比)は0.001以上であることが好ましい。また、Cu+イオンの検出量に対するC5以上のイオンの検出量の比(C5以上のイオン/Cu+比)は0.005未満であることが好ましい。なお、金属粒子12が銀である場合、Ag+イオンの検出量に対するC3H4O2
-イオンの検出量の比(C3H4O2
-/Ag+比)は0.001以上であることが好ましい。また、Ag+イオンの検出量に対するC5以上のイオンの検出量の比(C5以上のイオン/Ag+比)は0.005未満であることが好ましいといえる。
【0036】
飛行時間型二次イオン質量分析法において検出されるC3H3O3
-イオンとC3H4O2
-イオンとC5以上のイオンは、金属粒子12の表面を被覆している有機物に由来する。このためC3H3O3
-/Cu+比とC3H4O2
-/Cu+比のそれぞれが0.001以上であると、金属粒子12の表面が酸化しにくくなり、かつ金属粒子12が凝集しにくくなる。また、C3H3O3
-/Cu+比及びC3H4O2
-/Cu+比が0.2以下であると、金属粒子12の焼結性を過度に低下させずに金属粒子12の酸化と凝集を抑制でき、さらに加熱時における有機物の分解ガスの発生を抑えることができるので、ボイドが少ない接合層を形成することができる。金属粒子12の保存中の耐酸化性をより一層向上し、かつ低温度での焼結性をより一層向上させるために、C3H3O3
-/Cu+比及びC3H4O2
-/Cu+比は0.08以上0.16以下の範囲内にあることが好ましい。また、C5以上のイオン/Cu+比が0.005倍以上であると、粒子表面に脱離温度が比較的高い有機物が多く存在するため、結果として焼結性が十分に発現せず強固な接合層が得られにくい。C5以上のイオン/Cu+比は0.003倍未満であることが好ましい。なお、金属粒子12が銀である場合、C3H3O3
-/Ag+比及びC3H4O2
-/Ag+比は0.08以上0.16以下の範囲内にあることが好ましい。また、C5以上のイオン/Ag+比が0.005倍以上であると、粒子表面に脱離温度が比較的高い有機物が多く存在するため、結果として焼結性が十分に発現せず強固な接合層が得られにくい。C5以上のイオン/Ag+比は0.003倍未満であることが好ましいといえる。
【0037】
金属粒子12を被覆する有機物は、金属粒子12を製造する時に用いられるカルボン酸金属に由来するカルボン酸であることが好ましい。カルボン酸由来の有機物で被覆された金属粒子12の製造方法は後述する。金属粒子12の有機物の被覆量は、金属粒子100質量%に対して0.5質量%以上2.0質量%以下の範囲内にあることが好ましく、0.8質量%以上1.8質量%以下の範囲内にあることがより好ましく、0.8質量%以上1.5質量%以下の範囲内にあることがさらに好ましい。有機物の被覆量が0.5質量%以上であることによって、金属粒子12を有機物により均一に被覆することができ、金属粒子12の酸化をより確実に抑制することができる。また、有機物の被覆量が2.0質量%以下であることによって、加熱による有機物の分解によって発生するガスにより、金属粒子の焼結体(接合層)にボイドが発生することを抑制することができる。有機物の被覆量は、市販の装置を用いて測定することができる。例えば、差動型示差熱天秤TG8120-SL(RIGAKU社製)を用いて、被覆量を測定できる。この場合例えば、試料は、凍結乾燥により水分を除去した金属粒子を用いる。金属粒子の酸化を抑制するため窒素(G2グレード)ガス中で測定し、昇温速度は10℃/minとし、250℃から300℃まで加熱したときの重量減少率を、有機物の被覆量と定義できる。すなわち、被覆量=(測定後の試料重量)/(測定前の試料重量)×100(wt%)である。測定は同一ロットの金属粒子で各々3回行い、相加平均値を被覆量としてよい。
【0038】
金属粒子12は、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下、300℃の温度で30分加熱したときに、有機物の50質量%以上が分解することが好ましい。カルボン酸由来の有機物は、分解時に二酸化炭素ガス、窒素ガス、アセトンの蒸発ガス及び水蒸気を発生する。
【0039】
(多価アルコール)
多価アルコール14は、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能なアルコールである。また、多価アルコール14は、融点が30℃以上であることが好ましい。
【0040】
多価アルコール14は、例えば、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1-フェニル-1,2-エタンジオール、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)プロパン、エリトリトール、ペンタエリトリトール、リビトール、レソルシノール、(ピロ)カテコール、5-メチルレソルシノール、ピロガロール、1,2,3-シクロヘキサントリオール、及び1,3,5-シクロヘキサントリオールのうちの、少なくとも1つであってよい。
【0041】
多価アルコール14は、非電解質であり、溶媒16に溶解した状態で(多価アルコール14の分子が溶媒16中に分散した状態で)、金属インク10中に存在している。ただし、多価アルコール14の金属インク10中での存在形態は任意であり、溶媒16に溶解しない状態であってもよい。
【0042】
多価アルコール14が金属インク10に含まれることで、金属粒子12の周囲に多価アルコール14が配位して、金属粒子12の凝集を適切に抑制できる。すなわち、本実施形態においては、多価アルコール14が、金属粒子12の周囲に配位していることが好ましいといえる。
【0043】
(溶媒)
溶媒16は、金属粒子12を分散させるための液体(媒体)である。溶媒16の詳細については後述する。
【0044】
(有機溶媒)
有機溶媒18は、多価アルコール14及び溶媒16とは異なる成分の有機溶媒である。有機溶媒18は、大気圧における沸点が150℃以上であり、水と混和可能な有機溶媒である。有機溶媒18は、沸点が200℃以上であることがより好ましい。ここでの混和可能とは、有機溶媒18が、あらゆる比率で水に混ぜ合せ可能(すなわち、お互い任意の濃度で完全に溶解可能)であることを指している。本実施形態では、有機溶媒18は、溶媒16と混和可能であることが好ましい。
【0045】
有機溶媒18は、グリコールエーテル又は非プロトン性極性溶媒であることが好ましい。さらに言えば、有機溶媒18は、グリコールエーテル及び非プロトン性極性溶媒の両方を含んでいてよく、言い換えれば、グリコールエーテル及び非プロトン性極性溶媒の少なくとも1つを含むことが好ましいといえる。
有機溶媒18が含むグリコールエーテルとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、及びジエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。有機溶媒18がグリコールエーテルを含む場合には、これらの列挙したものから選択された少なくとも1つを含んでよい。
有機溶媒18が含む非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、2-ピロリドン、及び炭酸プロピレンが挙げられる。有機溶媒18が非プロトン性極性溶媒を含む場合には、これらの列挙したものから選択された少なくとも1つを含んでよい。
【0046】
(不純物)
金属インク10は、以上で挙げた成分以外に、不可避的不純物を含んでいてもよい。不可避的不純物としては、例えば、以上で挙げた成分が、光や熱などによって成分自身もしくは他の成分や酸素などと、分解・重合・付加や酸化・還元などの反応を生じることで、生成した物質などが挙げられる。
【0047】
(金属インク)
金属インク10は、多価アルコール14の含有量が、金属インク10の全体に対して、質量比で、0.01%以上20.0%以下であることが好ましい。多価アルコール14の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12を適切に分散させつつ、金属粒子12の濃度が低くなり過ぎることを抑制できる。
【0048】
金属インク10は、金属粒子12の含有量が、金属インク10の全体に対して、質量比で、1.0%以上50.0%以下であることが好ましく、5.0%以上50.0%以下であることがより好ましく、5.0%以上30.0%以下であることがさらに好ましい。金属粒子12の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12の濃度を十分に保ちつつ、金属インク10の流動性の低下を抑制できるため、例えばノズルによる噴射性を向上させるなど、製造面でも有利となる。
【0049】
金属インク10は、溶媒16の含有量が、金属インク10の全体に対して、質量比で、50.0%以上99.0%以下であることが好ましく、50.0%以上95.0%以下であることがより好ましく、60.0%以上95.0%以下であることがさらに好ましい。溶媒16の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12の濃度を十分に保ちつつ、金属インク10の流動性の低下を抑制できるため、例えばノズルによる噴射性を向上させるなど、製造面でも有利となる。
【0050】
金属インク10は、有機溶媒18の含有量が、金属インク10の全体に対して、質量比で、0.01%以上30.0%以下であることが好ましく、0.1%以上30.0%以下であることがさらに好ましい。有機溶媒18の含有量がこの範囲となることで、金属インク10を長期間放置した場合でも、防黴性が十分となり、長期間適切に保存できる。
【0051】
金属インク10は、イオン化した金属粒子12(金属粒子12を構成する金属のイオン)を含んでよい。すなわち、金属インク10の液体成分中に、イオン化した金属粒子12が含まれていてもよい。イオン化した金属粒子12は、銀イオン、及び銅イオンの少なくとも一方であってよいといえる。
【0052】
以上説明した金属インク10は、溶媒16の成分にバリエーションを持たせることができる。以下、溶媒16の成分が異なるそれぞれの金属インク10について説明する。
【0053】
(第1金属インク)
溶媒16の成分が異なるそれぞれの金属インク10のうちの1つを、第1金属インク10Aとする。第1金属インク10Aは、溶媒16が水である。第1金属インク10Aは、溶媒16である水に多価アルコール14及び有機溶媒18が溶解しつつ、金属粒子12が混合されたものとなる。すなわち、第1金属インク10Aは、多価アルコール14及び有機溶媒18の水溶液に、金属粒子12が含まれたものとなる。
【0054】
第1金属インク10Aは、多価アルコール14の含有量が、第1金属インク10Aの全体に対して、質量比で、0.01%以上20.0%以下であることが好ましく、0.5%以上20.0%以下であることがより好ましく、1.0%以上20.0%以下であることがさらに好ましい。多価アルコール14の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12を適切に分散させつつ、金属粒子12の濃度が低くなり過ぎることを抑制できる。
【0055】
第1金属インク10Aは、金属粒子12の含有量が、第1金属インク10Aの全体に対して、質量比で、1.0%以上50.0%以下であることが好ましく、5.0%以上50.0%以下であることがより好ましく、5.0%以上30.0%以下であることがさらに好ましい。金属粒子12の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12の濃度を十分に保ちつつ、第1金属インク10Aの流動性の低下を抑制できるため、例えばノズルによる噴射性を向上させるなど、製造面でも有利となる。
【0056】
第1金属インク10Aは、有機溶媒18の含有量が、第1金属インク10Aの全体に対して、質量比で、0.01%以上30.0%以下であることが好ましく、1.0%以上30.0%以下であることがより好ましく、2.0%以上30.0%以下であることがさらに好ましい。有機溶媒18の含有量がこの範囲となることで、長期間適切に保存できる。
【0057】
本実施形態では、第1金属インク10Aは、不可避的不純物を除き、金属粒子12、多価アルコール14、水である溶媒16、及び有機溶媒18以外の物質を含まないことが好ましい。ただしそれに限られず、第1金属インク10Aは、金属粒子12、多価アルコール14、水である溶媒16及び有機溶媒18以外の添加剤(分散剤、密着性付与剤、レオロジー調整剤、防錆剤、沈降防止剤等)を含むものであってもよい。
【0058】
(第2金属インク)
溶媒16の成分が異なるそれぞれの金属インク10のうちの1つを、第2金属インク10Bとする。第2金属インク10Bは、溶媒16としてエタノールを含み、さらに言えば、溶媒16のうちの主要成分である主溶媒がエタノールである。ここでの主溶媒は、溶媒16の全体のうちで、含有量が質量比で50%より高いものを指す。第2金属インク10Bは、溶媒16として、主溶媒であるエタノール以外を含んでもよく、本実施形態では、水を含んでよい。第2金属インク10Bは、溶媒16に多価アルコール14及び有機溶媒18が溶解しつつ、金属粒子12が混合されたものとなる。すなわち例えば、第2金属インク10Bは、多価アルコール14、有機溶媒18及びエタノールの水溶液に、金属粒子12が含まれたものとなる。
【0059】
第2金属インク10Bは、多価アルコール14の含有量が、第2金属インク10Bの全体に対して、質量比で、0.01%以上10.0%以下であることが好ましく、0.1%以上10.0%以下であることがより好ましく、0.1%以上5.0%以下であることがさらに好ましい。多価アルコール14の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12を適切に分散させつつ、金属粒子12の濃度が低くなり過ぎることを抑制できる。
【0060】
第2金属インク10Bは、金属粒子12の含有量が、第2金属インク10Bの全体に対して、質量比で、1.0%以上50.0%以下であることが好ましく、5.0%以上50.0%以下であることがより好ましく、5.0%以上30.0%以下であることがさらに好ましい。金属粒子12の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12の濃度を十分に保ちつつ、第2金属インク10Bの流動性の低下を抑制できるため、例えばノズルによる噴射性を向上させるなど、製造面でも有利となる。
【0061】
第2金属インク10Bは、エタノールの含有量が、第2金属インク10Bの全体に対して、質量比で、50.0%を超えて99.0%以下であることが好ましく、50.0%を超えて95.0%以下であることがより好ましく、60.0%以上95.0%以下であることがさらに好ましい。エタノールの含有量がこの範囲となることで、金属粒子12の濃度を十分に保ちつつ、第2金属インク10Bの流動性の低下を抑制できるため、例えばノズルによる噴射性を向上させるなど、製造面でも有利となる。
【0062】
第2金属インク10Bは、有機溶媒18の含有量が、第2金属インク10Bの全体に対して、質量比で、0.01%以上30.0%以下であることが好ましく、0.1%以上20.0%以下であることがより好ましく、0.5%以上20.0%以下であることがさらに好ましい。有機溶媒18の含有量がこの範囲となることで、長期間適切に保存できる。
【0063】
本実施形態では、第2金属インク10Bは、不可避的不純物を除き、金属粒子12、多価アルコール14、溶媒16(ここでは水及びエタノール)、及び有機溶媒18以外の物質を含まないことが好ましい。ただしそれに限られず、第2金属インク10Bは、金属粒子12、多価アルコール14、溶媒16、及び有機溶媒18以外の添加剤(分散剤、密着性付与剤、レオロジー調整剤、防錆剤、沈降防止剤等)を含むものであってもよい。
【0064】
エタノールを主溶媒とする金属インクは、エタノールにより金属粒子が凝集するおそれがある。それに対し、第2金属インク10Bは、多価アルコール14が混合されることで、例えば金属粒子12の周囲に多価アルコール14が配位して、金属粒子12同士の凝集を抑制できる。
【0065】
(第3金属インク)
溶媒16の成分が異なるそれぞれの金属インク10のうちの1つを、第3金属インク10Cとする。第3金属インク10Cは、溶媒16として高沸点溶媒を含み、さらに言えば、溶媒16のうちの主要成分である主溶媒が高沸点溶媒である。例えば、第3金属インク10Cは、溶媒16に多価アルコール14及び有機溶媒18が溶解しつつ、金属粒子12が含まれたものとなる。なお、第3金属インク10Cは、溶媒16として、主溶媒である高沸点溶媒以外を含んでもよい。第3金属インク10Cは、水及びエタノールの少なくとも1つを含んでよく、本実施形態では水及びエタノールの両方を含む。
【0066】
高沸点溶媒は、OH基を1つ以上含み、沸点が150℃以上であり、水に難溶又は不溶な液体である。水に難溶又は不溶な高沸点溶媒とは、消防法における危険物の規制に関する政令、別表3において、非水溶性液体に分類される溶媒であることが好ましい。高沸点溶媒は、いわゆる有機溶媒であることが好ましく、例えば、α-テルピネオール、及び、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールのうちの、少なくとも1つであってよい。なお、いずれの溶媒も、異性体を含んでよい。
【0067】
第3金属インク10Cは、多価アルコール14の含有量が、第3金属インク10Cの全体に対して、質量比で、0.01%以上5.0%以下であることが好ましく、0.01%以上5.0%以下であることがより好ましく、0.01%以上3.0%以下であることがさらに好ましい。多価アルコール14の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12を適切に分散させつつ、金属粒子12の濃度が低くなり過ぎることを抑制できる。
【0068】
第3金属インク10Cは、金属粒子12の含有量が、第3金属インク10Cの全体に対して、質量比で、1.0%以上50.0%以下であることが好ましく、5.0%以上50.0%以下であることがより好ましく、5.0%以上30.0%以下であることがさらに好ましい。金属粒子12の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12の濃度を十分に保ちつつ、第2金属インク10Bの流動性の低下を抑制できるため、例えばノズルによる噴射性を向上させるなど、製造面でも有利となる。
【0069】
第3金属インク10Cは、高沸点溶媒の含有量が、第3金属インク10Cの全体に対して、質量比で、50.0%を超えて99.0%以下であることが好ましく、50.0%を超えて95.0%以下であることがより好ましく、60.0%以上95.0%以下であることがさらに好ましい。高沸点溶媒の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12の濃度を十分に保ちつつ、第3金属インク10Cの流動性の低下を抑制できるため、例えばノズルによる噴射性を向上させるなど、製造面でも有利となる。
【0070】
第3金属インク10Cは、有機溶媒18の含有量が、第3金属インク10Cの全体に対して、質量比で、0.01%以上30.0%以下であることが好ましく、0.01%以上10.0%以下であることがより好ましく、0.1%以上10.0%以下であることがさらに好ましい。有機溶媒18の含有量がこの範囲となることで、長期間適切に保存できる。
【0071】
第3金属インク10Cは、金属粒子12、多価アルコール14、溶媒16及び有機溶媒18以外の成分である分散剤を含むことが好ましい。分散剤としては、例えば、カチオン系分散剤、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、両性分散剤等が挙げられ、中でも、アニオン系分散剤として、カルボン酸系分散剤、スルホン酸系分散剤、リン酸系分散剤が挙げられ、特にリン酸系分散剤として、リン酸エステル化合物が好適に用いられる。分散剤として用いるリン酸エステル化合物の分子量としては、200以上2000以下であることが好ましく、200以上1500以下であることがより好ましく、200以上1000以下であることがさらに好ましい。分子量が200以上となることで十分な疎水性が得られるため、高沸点溶媒中への金属粒子の良好な分散性が得られ、分子量が2000以下となることで狙いの加熱温度(200~350℃程度)での分解、反応が可能となるため、金属粒子同士の焼結等を妨げる恐れがない。分散剤に用いるリン酸エステル化合物は任意のものであってよいが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルとして、ラウレス-nリン酸、オレス-nリン酸、ステアレス-nリン酸(n=2~10)などやアルキルリン酸エステルなどが挙げられる。分散剤として、これらのうちの1種を用いてよいし、2種以上を用いてもよい。
【0072】
第3金属インク10Cは、分散剤の含有量が、第3金属インク10Cの全体に対して、質量比で、0.01%以上5.0%以下であることが好ましく、0.1%以上5.0%以下であることがより好ましく、0.1%以上3.0%以下であることがさらに好ましい。分散剤の含有量がこの範囲となることで、金属粒子12の凝集を適切に抑制できる。
【0073】
本実施形態では、第3金属インク10Cは、不可避的不純物を除き、金属粒子12、多価アルコール14、溶媒16(ここでは水、エタノール及び高沸点溶媒)、有機溶媒18及び分散剤以外の物質を含まないことが好ましい。ただしそれに限られず、第3金属インク10Cは、分散剤を含まなくてもよいし、金属粒子12、多価アルコール14、溶媒16、有機溶媒18及び分散剤以外の添加剤(密着性付与剤、レオロジー調整剤、防錆剤、沈降防止剤等)を含むものであってもよい。
【0074】
高沸点溶媒を主溶媒とする金属インクは、高沸点溶媒により、金属粒子12が凝集するおそれがある。それに対し、第3金属インク10Cは、多価アルコール14が混合されることで、例えば金属粒子12の周囲に多価アルコール14が配位して、金属粒子12同士の凝集を抑制できる。
【0075】
(金属インクの製造方法)
次に、以上説明した金属インク10の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る金属インクの製造方法を説明するフローチャートである。
【0076】
(金属粒子の製造)
図2に示すように、本製造方法においては、カルボン酸金属水分散液と還元剤とを混合して、金属粒子12を生成する(ステップS10)。具体的には、先ず、カルボン酸金属(例えばカルボン酸銅)の水分散液を用意し、このカルボン酸金属水分散液にpH調整剤を加えてpHを2.0以上7.5以下に調整する。次に、不活性ガス雰囲気下でこのpH調整したカルボン酸金属水分散液に、還元剤として、金属イオンを還元できる1.0倍当量分以上1.2倍当量分以下のヒドラジン化合物を添加して混合する。得られた混合液を、不活性ガス雰囲気下で、得られた混合液を60℃以上80℃以下の温度に加熱し1.5時間以上2.5時間以下保持する。これにより、カルボン酸金属から溶出した金属イオンを還元して金属粒子12を生成させると共に、この金属粒子12の表面に金属酸由来の有機物を形成させる。なお、ここでのカルボン酸としては、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、フタル酸、安息香酸およびこれらの塩などが用いられる。また、還元剤としては、ヒドラジン化合物を用いたが、それに限られず、ヒドラジン、アスコルビン酸、シュウ酸、ギ酸及びこれらの塩などを用いてよい。
【0077】
(金属粒子:銅粒子の製造)
以下では、金属粒子12が銅粒子である場合の金属粒子12の製造方法について説明する。カルボン酸銅の水分散液は、蒸留水、イオン交換水のような純水に、粉末状のカルボン酸金属を25質量%以上40質量%以下の濃度となるように添加し、撹拌羽を用いて撹拌し、均一に分散させることによって調製できる。pH調整剤としては、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素アンモニウム、クエン酸などが挙げられる。この中でマイルドにpH調整しやすいことからクエン酸三アンモニウムが好ましい。カルボン酸銅水分散液のpHを2.0以上とするのは、カルボン酸銅から溶出した銅イオンの溶出速度を速くして、銅粒子の生成を速やかに進行させ、目標とする微細な銅粒子を得られるようにするためである。また、pHを7.5以下とするのは、溶出した金属イオンが水酸化銅(II)となることを抑制して、銅粒子の収率を高くするためである。また、pHを7.5以下とすることによって、ヒドラジン化合物の還元力が過度に高くなることを抑制でき、目標とする銅粒子が得られやすくなる。カルボン酸銅水分散液のpHは4以上6以下の範囲内に調整することが好ましい。
【0078】
ヒドラジン化合物によるカルボン酸銅の還元は不活性ガス雰囲気下で行われる。液中に溶出した銅イオンの酸化を防止するためである。不活性ガスの例としては、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。ヒドラジン化合物は、酸性下でカルボン酸銅を還元するときに、還元反応後に残渣を生じないこと、安全性が比較的高いこと及び取扱いが容易であることなどの利点がある。このヒドラジン化合物としては、ヒドラジン一水和物、無水ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジンなどが挙げられる。これらのヒドラジン化合物の中では、硫黄や塩素といった不純物となり得る成分を含まないヒドラジン一水和物、無水ヒドラジンが好ましい。
【0079】
一般的にpH7未満の酸性液中で生成した銅は溶解してしまう。しかし本実施形態では、pH7未満の酸性液に還元剤であるヒドラジン化合物を添加混合し、得られた混合液中に銅粒子を生成させる。このため、カルボン酸銅から生成したカルボン酸由来の成分が銅粒子の表面を速やかに被覆するので、銅粒の溶解が抑制される。pHを調整した後のカルボン酸銅の水分散液は、温度50℃以上70℃以下にして、還元反応を進行しやすくすることが好ましい。
【0080】
不活性ガス雰囲気下でヒドラジン化合物を混合した混合液を60℃以上80℃以下の温度に加熱し1.5時間以上2.5時間以下保持するのは、銅粒子を生成させると共に、生成した銅粒子の表面に有機物を形成し被覆するためである。不活性ガス雰囲気下で加熱保持するのは、生成した銅粒子の酸化を防止するためである。出発原料であるカルボン酸銅は通常35質量%程度の銅成分を含む。この程度の銅成分を含むカルボン酸水分散液に還元剤であるヒドラジン化合物を添加して、上記の温度で昇温加熱し、上記の時間で保持することにより、銅粒子の生成と、銅粒子の表面での有機物の生成とがバランスよく進行するので、銅粒子100質量%に対して、有機物の被覆量が0.5質量%以上2.0質量%以下の範囲内にある銅粒子を得ることができる。加熱温度が60℃未満で保持時間が1.5時間未満では、カルボン酸金属が完全に還元せずに、銅粒子の生成速度が遅くなりすぎて、銅粒子を被覆する有機物の量が過剰となるおそれがある。また加熱温度が80℃を超えかつ保持時間が2.5時間を超えると、銅粒子の生成速度が速くなりすぎて、銅粒子を被覆する有機物の量が少なりすぎるおそれがある。好ましい加熱温度は65℃以上75℃以下であり、好ましい保持時間は2時間以上2.5時間以下である。
【0081】
混合液で生成された銅粒子を、不活性ガス雰囲気下で混合液から、純水等を用いて洗浄、脱塩等を行ってもよい。さらに、例えば遠心分離機を用いて、脱水することにより一定の割合の固液比(例えば、固液比:50/50[質量%])とした金属粒子12を含む水スラリーを得ることが出来る。また、場合によっては固液分離して、凍結乾燥法、減圧乾燥法で乾燥することにより、表面が有機物で被覆された銅粒子を得ることができる。この銅粒子は、表面が有機物で被覆されているため、大気中に保存しても酸化しにくくなる。
【0082】
(金属粒子:銀粒子の製造)
次に、金属粒子12が銀粒子である場合の金属粒子12の製造方法について説明する。
【0083】
先ず、銀塩水溶液とカルボン酸塩水溶液とを水中に同時に滴下してカルボン酸銀スラリーを調製する。
ここで、カルボン酸銀スラリーを調製する際は、銀塩水溶液、カルボン酸塩水溶液、水、そしてカルボン酸銀スラリーの各液の温度を20~90℃の範囲内の所定温度に保持することが好ましい。各液の温度を20℃以上の所定温度に保持することにより、カルボン酸銀が生成しやすくなり、銀粒子の粒径を大きくすることができる。また、各液の温度を90℃以下の所定温度に保持することにより、銀粒子が粗大粒子となるのを防止することができる。また、水中に銀塩水溶液とカルボン酸塩水溶液を同時に滴下している間、水を撹拌していることが好ましい。
銀塩水溶液中の銀塩としては、具体的には、例えば、硝酸銀、塩素酸銀、リン酸銀、及びこれらの塩類からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物が好ましい。
【0084】
カルボン酸塩水溶液中のカルボン酸としては、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、及びこれらの塩類からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物が好ましい。
【0085】
水としては、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。合成に悪影響を与えるおそれのあるイオンが含まれないことや、蒸留水と比べて製造コストが低いことからイオン交換水を用いることが特に好ましい。
【0086】
次に、カルボン酸銀スラリーに還元剤水溶液を滴下した後に所定の熱処理を行って銀粒子スラリーを調製する。ここで、所定の熱処理としては、具体的には、例えば、水中で、15℃/時間以下の昇温速度で20~90℃の範囲内の所定温度(最高温度)まで昇温し、この最高温度に1~5時間保持した後に、30分以下の時間をかけて30℃以下まで降温する熱処理であってもよい。
上記所定の熱処理において、昇温速度を15℃/時間以下とすることにより、銀粒子が粗大粒子となるのを防止することができる。
また、上記所定の熱処理において、最高温度を20℃以上とすることにより、カルボン酸銀が還元されやすくなり、銀粒子の粒径を大きくすることができる。また、最高温度を90℃以下とすることにより、銀粒子が粗大粒子となるのを防止することができる。
また、上記所定の熱処理において、最高温度での保持時間を1時間以上とすることにより、カルボン酸銀が還元されやすくなり、銀粒子の粒径を大きくすることができる。また、保持時間を5時間以下にすることにより、銀粒子が粗大粒子となるのを防止することができる。
また、上記所定の熱処理において、30℃まで降温する時間を30分以下にすることにより、銀粒子が粗大粒子となるのを防止することができる。
【0087】
銀粒子スラリーを調製する際は、カルボン酸銀スラリーと還元剤水溶液の各液の温度を20~90℃の範囲内の所定温度に保持することが好ましい。各液の温度を20℃以上の所定温度に保持することにより、カルボン酸銀が還元されやすくなり、銀粉末の粒径を大きくすることができる。また、各液の温度を90℃以下の所定温度に保持することにより、銀粉末が粗大粒子となるのを防止することができる。
【0088】
還元剤水溶液中の還元剤としては、ヒドラジン、アスコルビン酸、シュウ酸、ギ酸、及びこれらの塩類からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物が好ましい。
【0089】
ここで、銀粒子スラリーを遠心分離機で銀粉末スラリー中の液層を除去し、銀粒子スラリーを脱水及び脱塩すると共に、一定の割合の固液比(例えば、固液比:50/50[質量%])とした銀粒子を含む水スラリーを得ることが出来る。
【0090】
また、場合によっては銀粒子スラリーを乾燥して銀粒子を得ることが出来る。銀粒子スラリーの乾燥方法としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、凍結乾燥法、減圧乾燥法、加熱乾燥法等が挙げられる。凍結乾燥法は、銀粒子スラリーを密閉容器に入れて凍結し、密閉容器内を真空ポンプで減圧して被乾燥物の沸点を下げ、低い温度で被乾燥物の水分を昇華させて乾燥させる方法である。減圧乾燥法は、減圧して被乾燥物を乾燥させる方法である。加熱乾燥法は、加熱して被乾燥物を乾燥させる方法である。
【0091】
(第1金属インクの製造)
次に、金属粒子12と、多価アルコール14と、有機溶媒18と、溶媒16としての水とを混合して、第1金属インク10Aを生成する(ステップS12)。ここでは、金属粒子12や多価アルコール14や有機溶媒18の含有量が、上述で説明した数値範囲となるように、金属粒子12と多価アルコール14と有機溶媒18と水とを混合して、第1金属インク10Aを製造することが好ましい。なお、金属粒子12と多価アルコール14と有機溶媒18と水との混合方法は任意である。例えば、金属粒子12を含む水スラリーに、多価アルコール14と有機溶媒18とを含む水溶液、または、多価アルコール14の水溶液及び有機溶媒18の水溶液を混合してもよいし、水が含まれない金属粒子12に、多価アルコール14と有機溶媒18を含む水溶液、または、多価アルコール14の水溶液及び有機溶媒18の水溶液を混合してもよい。また、必要に応じて、異物や金属粒子12の凝集した粒子を除去するために、所定の目開きのフィルター等でろ過してもよい。なお、このようなろ過は、この後の金属インクの製造工程のいずれ段階で行ってもよい。
【0092】
(第2金属インクの製造)
次に、第1金属インク10Aと溶媒16としてのエタノールとを混合して、第2金属インク10Bを生成する(ステップS14)。ここでは、金属粒子12や多価アルコール14やエタノールや有機溶媒18の含有量が、上述で説明した数値範囲となるように、第1金属インク10Aとエタノールとを混合して、第2金属インク10Bを製造することが好ましい。なお、第1金属インク10Aとエタノールの混合方法は任意である。例えば、ステップS12で得られた第1金属インク10Aを所定時間(例えば1日程度)静置もしくは所定の条件で遠心分離した後、一部の上澄み液を除去して、上澄み液が除去された第1金属インク10Aに対して、エタノールを添加してよい。
【0093】
(第3金属インクの製造)
次に、第2金属インク10Bと溶媒16としての高沸点溶媒と分散剤とを混合して、第3金属インク10Cを生成する(ステップS16)。ここでは、金属粒子12や多価アルコール14や高沸点溶媒や分散剤や有機溶媒18の含有量が、上述で説明した数値範囲となるように、第2金属インク10Bと高沸点溶媒と分散剤とを混合して、第3金属インク10Cを製造することが好ましい。なお、第2金属インク10Bと高沸点溶媒と分散剤の混合方法は任意である。例えば、ステップS14で得られた第2金属インク10Bを所定時間(例えば1日程度)静置もしくは所定の条件で遠心分離した後、一部の上澄み液を除去して、上澄み液が除去された第2金属インク10Bに対して、高沸点溶媒を添加してもよい。また、分散剤の添加は必須ではない。
また、第3金属インク10Cから、更に、上述で説明した数値範囲となるように、溶媒(水、エタノール、高沸点溶媒等)や有機溶媒を除去もしくは添加してもよい。
【0094】
このようにして生成された第3金属インク10Cは、金属インク10として使用される。なお、以上の説明では、第1金属インク10Aを用いて第2金属インク10Bを生成し、第2金属インク10Bを用いて第3金属インク10Cを生成していた。すなわち、第1金属インク10A及び第2金属インク10Bは、第3金属インク10Cを製造するための中間物質であった。ただし、第1金属インク10A及び第2金属インク10Bは、中間物質であることに限られず、第1金属インク10A及び第2金属インク10Bそのものを、金属インク10として使用してもよい。
【0095】
なお、以上説明した金属粒子12及び金属インク10の製造方法は、一例であり、任意の方法で、金属粒子12や金属インク10を製造してよい。
【0096】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る金属インク10は、金属粒子12と、溶媒16と、大気圧における沸点が150℃以上であり水と混和可能な有機溶媒18と、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能な多価アルコール14と、を含む。ここで、金属粒子が溶媒中に分散する金属インクは、金属粒子が凝集するおそれがある。金属粒子が凝集した場合、金属層の緻密性の低下など、製造物の特性の低下を招くおそれがある。それに対し、本実施形態に係る金属インク10は、多価アルコール14を含有するため、多価アルコール14により、金属粒子12の凝集を抑制することができる。本実施形態に係る金属インク10によると、金属粒子12の凝集を抑制できるため、製造物の特性の低下を抑制できる。また例えば、金属インク10をノズルで噴射する場合には、金属粒子12の凝集を抑制することで、ノズルの詰まりなどの製造不具合についても抑制できる。また、本実施形態に係る金属インク10は、有機溶媒18を含むため、長期間放置した場合でも、防黴性が十分となり、長期間適切に保存できる。
【0097】
金属粒子12は、銅または銀であり、溶媒16は、水を含み、有機溶媒18は、グリコールエーテル及び非プロトン性極性溶媒の少なくとも1つを含み、多価アルコール14は、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能であって、且つ、融点が30℃以上である多価アルコールの少なくとも1つを含むことが好ましい。金属インク10の成分をこれらのようにすることで、金属粒子12の凝集を抑制しつつ、長期間適切に保存できる。
【0098】
本実施形態に係る金属インク10の製造方法は、金属粒子12と、溶媒16と、大気圧における沸点が150℃以上であり水と混和可能な有機溶媒18と、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能な多価アルコール14とを混合して、金属粒子12と溶媒16と多価アルコール14と有機溶媒18とを含む金属インク10を製造する。本製造方法によると、多価アルコール14を添加するため、金属粒子12の凝集を抑制することができ、有機溶媒18を添加することで長期間適切に保存できる。
【0099】
(実施例)
次に、実施例について説明する。
図3A-
図3Iは、各例における金属インクの成分の含有量と、評価結果とを示す表である。
【0100】
(実施例1)
実施例1においては、出発原料であるカルボン酸銅として、フタル酸銅を用意した。フタル酸銅を室温のイオン交換水に入れ、撹拌羽根を用いて撹拌し、濃度30質量%のフタル酸銅の水分散液を調製した。次いで、このフタル酸銅の水分散液にpH調整剤としてのフタル酸アンモニウム水溶液を加えて、上記水分散液のpHが3になるように調整した。次に、pH調整した液を50℃の温度にし、窒素ガス雰囲気下で、pH調整した液に還元剤として、銅イオンを還元できる1.2倍当量分である酸化還元電位が-0.5Vのヒドラジン一水和物水溶液(2倍希釈)を一気に添加し、撹拌羽を用いて均一に混合した。更に、目標とする銅粒子(金属粒子)を合成するために、上記水分散液と上記還元剤との混合液を窒素ガス雰囲気下で保持温度の70℃まで昇温し、70℃で2時間保持した。更に、遠心分離機を用いて、脱水及び脱塩することにより銅粒子の水スラリー(銅粉末濃度:50質量%)を得た。
【0101】
得られた銅粒子(金属粒子)の水スラリー(銅粉末濃度:50質量%)18gと、多価アルコールとしての2.2-ジメチル-1,3-プロパンジオール水溶液(濃度:5質量%)36gと、水18gを混合し、さらに、有機溶媒として、2-ピロリドン18gを添加することにより、主溶媒が水の銅インク(金属インク)90gを得た。実施例1の銅インクの各成分の含有比率は、
図3Aに示したものとなった。実施例1における銅インクは、本実施形態の第1金属インク10Aの一例である。
【0102】
(実施例2-136)
実施例2-136においては、実施例1に対して、添加した成分を
図3A-
図3Gのように変更して、金属インクを生成した。尚、
図3A-
図3G中の成分において、含有比率の数値が「0.0」である物質については当該物質を含んでいないことを示す。
【0103】
実施例1-136の金属インクは、
金属粒子(銅及び銀の少なくとも1つ)と、溶媒(水、エタノール及び高沸点溶媒の少なく1つ)と、大気圧における沸点が150℃以上であり水と混和可能な有機溶媒と、OH基を2つ以上含み水及びエタノールに溶解可能な多価アルコールと、を含むものである。
【0104】
実施例21-56、77-136の金属インクは、溶媒としてエタノールを含む。
実施例33-56、89-136の金属インクは、溶媒として、OH基を1つ以上含み、沸点が150℃以上であり、水に難溶又は不溶な液体である高沸点溶媒を含む。なお、実施例57-64の金属インクに含まれる高沸点溶媒であるジプロピレングリコールモノメチルエーテルは、OH基を1つ以上含み、かつ沸点が150℃以上であるが、水に難溶又は不溶という条件を満たさない。なお、水に難溶又は不溶という条件を満たさないとは、消防法における危険物の規制に関する政令、別表3において、非水溶性液体に分類されないことを指す。
【0105】
(比較例1-38)
比較例1-38においては、比較例1に対して、添加した成分を
図3G-
図3Iのように変更して、金属インクを生成した。比較例1-38は、有機溶媒及び多価アルコールの少なくとも一方を含まない。尚、
図3G-
図3I中の成分において、含有比率の数値が「0.0」である物質については当該物質を含んでいないことを示す。
【0106】
(評価方法)
実施例、比較例で得られた金属インクの分散性について評価した。上記、得られた金属インクを超音波洗浄器等で十分に分散させた後、金属インクの内10gを、容量20mlのガラス製サンプル容器に採取し、冷蔵庫内にて1晩放置した。1晩放置後、サンプル容器の底から金属インクの液面までの高さを100としたとき、金属インク中の金属粒子の沈降・分離の界面について、容器の底から高さが50以上であった場合を優「A」とし、50未満の場合を不可「C」とした。
また、実施例、比較例で得られた金属インクの長期保存性について評価した。分散性が「A」であった金属インクについて、日本工業規格(JIS Z 2911)に記載の「6.塗料の試験」の方法に従って防黴性評価(黴抵抗性試験)を行った。このとき、試験片の代わりに、金属インクを試料として、培地中心を直径30mmにくりぬいたところに入れ試験した。試料に菌糸の発育が認められないものを優「A」、試料に菌糸の発育が認められたものを不可「C」とした。
また、実施例で分散性が「A」であった金属インクについて、厚さが100μm、サイズが50mm×50mmのポリイミドフィルムの上の中央部に、インクジェット装置にてサイズが10mm×10mmに塗布・乾燥した。その後、窒素雰囲気中、200℃×30秒間加熱し、厚みが1~3μm程度の金属インクの焼成膜を得た。得られた焼成膜の断面のSEMの観察により焼結性を評価した。断面SEM画像において、膜中の空隙の割合が20%以下の場合を焼結性が優「A」とし、20%を超えて30%以下の場合を良「B」とし、30%を超える場合を不可「C」とした。
【0107】
(評価結果)
評価としては、分散性と焼結性と長期保存性の評価を行った。金属粒子及び溶媒に加えて、OH基を2つ以上含み、水及びエタノールに溶解可能な多価アルコールと、大気圧における沸点が150℃以上であり、水と混和可能な有機溶媒とを含む実施例1-112は、いずれも分散性、焼結性及び長期保存性の評価がいずれも「A」であるため、金属粒子の凝集を抑制しつつ、焼結可能であり、且つ、適切に長期保存可能であることが可能となることが分かる。高沸点溶媒として、OH基を1つ以上含み、沸点が150℃以上であり、水に難溶又は不溶な液体ではない溶媒を使用したことにより、実施例113-136については、分散性と長期保存性については「A」であったが、焼結性については若干低下し、評価が「B」となったが、「C」の評価を含まず、金属粒子の凝集を抑制しつつ、焼結可能であり、且つ、適切に長期保存可能であることが可能となることが分かる。一方、多価アルコール及び有機溶媒の少なくとも一方を含まない比較例1-38では、分散性、焼結性及び長期保存性の評価の少なくとも1つが「C」となり、金属粒子の凝集抑制しつつ、焼成可能であり、且つ、長期保存性があることをすべて満たすことができないことが分かる。比較例2及び比較例21では、多価アルコールを含んではいるが、有機溶媒を含まないことにより、分散性と焼結性は「A」となったが、長期保存性については「C」となった。なお、分散性が「C」となった比較例については、インクとしての使用が困難であることから、焼結性及び長期保存性の評価は実施しなかったため、「-」とした。
【0108】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0109】
10 金属インク
12 金属粒子
14 多価アルコール
16 溶媒
18 有機溶媒