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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】かゆみを伴う乾燥性皮膚の治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/727 20060101AFI20240402BHJP
   A61K 8/20 20060101ALI20240402BHJP
   A61K 8/41 20060101ALI20240402BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240402BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240402BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240402BHJP
   A61K 31/135 20060101ALI20240402BHJP
   A61K 31/4402 20060101ALI20240402BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240402BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240402BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
A61K31/727
A61K8/20
A61K8/41
A61K8/49
A61K8/73
A61K9/08
A61K31/135
A61K31/4402
A61K47/04
A61P17/00
A61Q19/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019168156
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021046356
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-06-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593050091
【氏名又は名称】ジャパンメディック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110456
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 務
(74)【代理人】
【識別番号】100117813
【弁理士】
【氏名又は名称】深澤 憲広
(72)【発明者】
【氏名】竹嶋 大翔
(72)【発明者】
【氏名】島倉 征一
(72)【発明者】
【氏名】田中 爾織
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203674(JP,A)
【文献】特開2018-162322(JP,A)
【文献】特開2017-057145(JP,A)
【文献】特開2005-187407(JP,A)
【文献】特開2000-229884(JP,A)
【文献】特開2000-038352(JP,A)
【文献】特開2002-332225(JP,A)
【文献】特開2014-015450(JP,A)
【文献】特開平8-225447(JP,A)
【文献】特開2011-231128(JP,A)
【文献】特開2000-143486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/727
A61K 8/20
A61K 8/41
A61K 8/49
A61K 8/73
A61K 9/08
A61K 31/135
A61K 31/4402
A61K 47/04
A61P 17/00
A61Q 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウムを含有することにより、ヘパリン類似物質およびジフェンヒドラミンまたはその塩、またはクロルフェニラミンまたはその塩に基づいて発生する白濁または析出を抑制した、液状の外用組成物。
【請求項2】
ヘパリン類似物質の濃度が0.1~0.5%(w/w)である、請求項1に記載の外用組成物。
【請求項3】
ジフェンヒドラミンまたはその塩の濃度が、0.2~2%(w/w)である、請求項1または2に記載の外用組成物。
【請求項4】
クロルフェニラミンまたはその塩の濃度が、0.1~1%(w/w)である、請求項1または2に記載の外用組成物。
【請求項5】
塩化ナトリウムの濃度が2~10%(w/w)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の外用組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性ムコ多糖類及び抗ヒスタミン薬を含有する皮膚外用塗布剤に関するものであり、特にかゆみを伴う乾燥性皮膚の改善のために用いる皮膚外用塗布剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気の乾燥、皮脂の欠乏など種々の原因によって皮膚が乾燥すると刺激に対して敏感になり痒みや炎症を生じることがある。
【0003】
痒みを併発している皮膚の乾燥症状の改善には保湿剤を塗布すると同時に鎮痒薬として抗ヒスタミン剤を併用することが効果的である。
【0004】
ムコ多糖多硫酸エステルの一種であるヘパリン類似物質は硫酸基、カルボキシル基、水酸基など多数の親水基を有するため多量の水分を保持することができ、高い保湿能を有することから保湿剤として皮膚の乾燥症状を改善する目的に使用されている(特許文献1)。一方、ジフェンヒドラミンは抗ヒスタミン剤の一種で鎮痒薬として使用されている(特許文献2)。これらを併用することは痒みを伴う皮膚乾燥症状の改善に有効である。
【0005】
しかしながら、硫酸基や水酸基により負電荷を有するヘパリン類似物質と水中で正電荷を有するジフェンヒドラミンは同時に配合するとこれらのイオン結合により白濁または析出を生じ、不均一化や異物感など治療薬としての品質に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許5876962
【文献】特公平5-74152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
外用組成物に酸性ムコ多糖類と抗ヒスタミン薬とを混合する際に生じる白濁または析出を抑制することを本発明における課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
酸性ムコ多糖類と抗ヒスタミン薬を含有した組成物に1価の陰イオンを添加することで酸性ムコ多糖類と抗ヒスタミン薬を含有する皮膚外用塗布剤の白濁および析出を抑制できることを見出した。さらに、グリチルリチン酸またはその塩を併用することでより優れた白濁および析出の抑制効果を発揮することを見出した。
【0009】
より具体的には、本件出願は、前述した課題を解決するため、以下の態様を提供する:
[1]: 酸性ムコ多糖類、抗ヒスタミン薬、1価の陰イオンを含有する外用組成物;
[2]: 酸性ムコ多糖類が、ヘパリン類似物質である、請求項1の外用組成物;
[3]: ヘパリン類似物質の濃度が0.1~0.5%(w/w)である、請求項1または2に記載の外用組成物;
[4]: 抗ヒスタミン薬が、アミノ基を有する抗ヒスタミン薬である、請求項1~3のいずれか1項に記載の外用組成物;
[5]: 抗ヒスタミン薬が、ジフェンヒドラミンまたはその塩またはクロルフェニラミンまたはその塩である、請求項4に記載の外用組成物;
[6]: ジフェンヒドラミンまたはその塩の濃度が、0.2~2%(w/w)である、請求項5に記載の外用組成物;
[7]: クロルフェニラミンまたはその塩の濃度が、0.1~1%(w/w)である、請求項5に記載の外用組成物;
[8]: 1価の陰イオンが塩化物イオンである、請求項1~7のいずれか1項に記載の外用組成物;
[9]: 1価の陰イオンを1価の陽イオンとの塩として添加する、請求項1~8のいずれか1項に記載の外用組成物;
[10]: 1価の陽イオンがナトリウムイオン、カリウムイオンまたはアンモニウムイオンである、請求項9に記載の外用組成物;
[11]: 1価の陰イオンと1価の陽イオンからなる塩が塩化ナトリウムである、請求項10に記載の外用組成物;
[12]: 塩化ナトリウムの濃度が2~10%(w/w)である、請求項11に記載の外用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明において開示するように、酸性ムコ多糖類と抗ヒスタミン薬に対して、1価の陰イオンを添加することにより、酸性ムコ多糖類および抗ヒスタミン薬を含有する皮膚外用塗布剤に生じる白濁および析出を抑制できることを見出した。さらに、上記の組成に対してさらにグリチルリチン酸またはその塩を併用することにより、さらに優れた白濁および析出の抑制効果を発揮することを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、外用組成物に酸性ムコ多糖類と抗ヒスタミン薬を含ませる際に、1価の陰イオンを添加することにより、外用組成物において発生する白濁および析出を防止できることを見出したことにより、本発明を完成させるに至った。
【0012】
この知見に基づき、本発明は、酸性ムコ多糖類、抗ヒスタミン薬、1価の陰イオンを含有する外用組成物を提供する。
【0013】
酸性ムコ多糖類
本発明の外用組成物は、第一の成分として、酸性ムコ多糖類を含むことを特徴とする。本発明において使用する酸性ムコ多糖類は、硫酸基、カルボキシル基、水酸基などの親水基を持ち強い負電荷を帯びる特徴を有する一群の物質のことを指し、共通して分子内に水を多く保持する作用を有するものである。このような酸性ムコ多糖類には、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ヘパリン類似物質が含まれ、これらのいずれも、本発明において使用することができる。本発明においては、多数の硫酸基を持ち負電荷を帯びやすい観点から、酸性ムコ多糖類としてヘパリン類似物質を使用することが好ましい。
【0014】
本発明においてヘパリン類似物質という場合、血液凝固阻害作用を有する「ヘパリン」と類似の構造または類似の作用を有する物質のことで、物質的には多硫酸化コンドロイチン硫酸と呼ばれる物質である。本発明においては、特に、日本薬局方外医薬品規格に収載されている「ヘパリン類似物質」に適合するムコ多糖多硫酸エステルを使用することができる。本発明の外用組成物中における、ヘパリン類似物質の含有量は、例えば、全体の0.01~5%(w/w)、好ましくは0.05~1%(w/w)、さらに好ましくは0.1~0.5%(w/w)とすることができる。
【0015】
本発明においては、上述したようなその他の酸性ムコ多糖類(コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウムなど)もそれぞれ外用組成物中にて、ヘパリン類似物質と同様の含有量で使用することができる。
【0016】
抗ヒスタミン薬
本発明の外用組成物は、第二の成分として、抗ヒスタミン薬を含むことを特徴とする。ヒスタミンは、体内のアレルギーを引き起こす神経伝達物質のひとつで、H1受容体(ヒスタミンH1受容体)へ作用することでアレルギーの諸症状を引き起こす。抗ヒスタミン薬は、一般には、H1受容体への阻害(拮抗)作用によりヒスタミンの働きを抑える(すなわち、抗ヒスタミン作用をあらわす)ことを機能的な特徴としている。
【0017】
本発明において使用する抗ヒスタミン薬は、ジフェニルピラリン、ジフェンヒドラミン、シプロヘプタジン、塩酸トリプロリジン、ヒドロキシジン、プロメタジン、ホモクロルシクリジン、アリメマジン、クロルフェニラミン、d-クロルフェニラミン、ジフェニルピラリン、ヒドロキシジン、クレマスチン、エバスチン、アゼラスチン、エピナスチン、オロパタジン、セチリジン、フェキソフェナジン、オキサトミド、フマル酸エメダスチン、ケトチフェン、ベポタスチン、メキタジン、ロラタジン、ブロムフェニラミン、シプロヘプタジン、テルフェナジン、トリプロリジン、カルビノキサミン、フェニンダミン、アザタジン、トリペレナミン、デキスクロルフェニラミン、メトジラジン、デスロラタジン、ジメンヒドリナート、ドキシルアミン、など、およびこれらの薬物の代替形態、例えば代替の塩形態、遊離酸形態、遊離塩基形態、および水和物を使用することができるが、これらに限定するものではない。
【0018】
本発明において使用する抗ヒスタミン薬は、このような例示される抗ヒスタミン薬のうち、正電荷を帯びる理由から、アミノ基を有する抗ヒスタミン薬であることが特徴であってもよい。このような特徴を有する抗ヒスタミン薬としては、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、イソチペンジル、およびこれらの薬物の代替形態、例えば代替の塩形態、遊離酸形態、遊離塩基形態、および水和物を使用することが好ましい。本発明において、抗ヒスタミン薬は一般的に、0.1~2%(w/w)の濃度で外用組成物中にて使用することができる。
【0019】
本発明において、抗ヒスタミン薬の具体的態様としてジフェンヒドラミンを使用する場合、ジフェンヒドラミンは、例えば、ジフェンヒドラミンまたはその塩を0.2~2%(w/w)の濃度で外用組成物中にて使用することができる。
【0020】
本発明においては、上述したようなその他の抗ヒスタミン薬も使用することができ、その場合には、抗ヒスタミン薬の具体的態様としてクロルフェニラミンまたはその塩を使用する場合には0.1~1%(w/w)の濃度で、抗ヒスタミン薬の具体的態様としてイソチペンジル塩酸塩を使用する場合には0.15~0.75%(w/w)の濃度で、それぞれ外用組成物中にて使用することができる。
【0021】
1価の陰イオン
本発明の外用組成物は、第三の成分として、1価の陰イオンを含むことを特徴とする。硫酸基や水酸基により負電荷を有するヘパリン類似物質と水中で正電荷を有する抗ヒスタミン薬は、同時に配合することで白濁または析出を生じる。これは溶解していたヘパリン類似物質と抗ヒスタミン薬との間でイオン結合をすることでコロイド粒子が生じて白濁し、さらに、粒子同士が会合し分散状態を維持できない大きさになることで析出していると考えられる。ここに1価の陰イオンを添加することで、ヘパリン類似物質と抗ヒスタミン薬との間でのイオン結合を防止し、結果として白濁や析出を防止することができると考えられる。
【0022】
本発明において外用組成物中で使用することができる1価の陰イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンを挙げることができるが、これらには限定されない。本発明においては、これらの中でも特に塩化物イオンを使用することが好ましい。
【0023】
本発明における1価の陰イオンは、1価の陽イオンとの塩として外用組成物に添加することもできる。1価の陰イオンは、1価の陽イオンとの塩として外用組成物に添加することにより、可溶化の効果を発揮することができる。
【0024】
この場合に1価の陰イオンと組み合わせて使用する1価の陽イオンとしては、どのような1価の陽イオンであってもよいが、ナトリウムイオン、カリウムイオン、またはアンモニウムイオンを例として挙げることができる。
【0025】
このようにして用意した1価の陰イオンと1価の陽イオンを、塩の形態で用意し、外用組成物中に溶解することにより、1価の陰イオンと1価の陽イオンが外用組成物中で形成される。具体的には、本発明において、外用組成物中で1価の陰イオンと1価の陽イオンとを形成する塩としては、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カリウムなどを挙げることができる。
【0026】
これらの塩は、それぞれの成分が外用組成物中で使用することが許容されている濃度で追加してよく、例えば、塩化ナトリウムの場合には、2~10%(w/w)の濃度で、塩化アンモニウムの場合には2~10%(w/w)の濃度で、塩化カリウムの場合には2~10%(w/w)の濃度で、含有することができる。
【0027】
外用組成物
本発明において外用組成物という場合、その形態は特に限定されず、液状の外用組成物(例えば、液剤、ゲル剤、乳剤、懸濁剤、エキス剤、チンキ剤、エアゾール剤、リポソーム剤等)、半固形状の外用組成物(例えば、軟膏、硬膏、クリーム等)等の形態を挙げることができる。本発明においては、外用組成物として液剤に対して適用することが好ましい。
【0028】
本発明の外用組成物には、上述する外用組成物の形態にしたがって、一般的に添加することが許容される任意の成分(例えば、担体、基剤、添加剤等)を含有させることができる。具体的な任意の成分としては、特に限定されず、例えば、油脂類、鉱物油類、ロウ類、脂肪酸類、シリコーン油類、ホホバオイル、ステロール類、エステル類、金属石鹸類、アルコール、糖、高分子化合物、界面活性剤、pH調整剤、粉末成分、キレート剤、着色剤(着色料)、水などが含まれていてもよい。これらの任意の成分は、目的とする外用組成物の形態に合わせて、適宜組み合わせて使用することができる。本発明の外用組成物には、さらに経皮吸収促進剤を含有することもできる。
【0029】
その他の有効成分
本発明の外用組成物においては、外用組成物において一般的に使用されている有効成分を、さらに追加してもよい。その様な有効成分としては、グリチルリチン酸またはその塩、アラントイン、パンテノールなどを使用することができる。これらのその他の有効成分は、それぞれの有効成分が外用組成物中で使用することが許容されている濃度で追加してよく、例えば、グリチルリチン酸またはその塩の場合には0.1~1%(w/w)の濃度で、アラントインの場合には0.2~1%(w/w)の濃度で、パンテノールの場合には1~5%(w/w)の濃度で、含有することができる。
【0030】
本発明で使用されるその他の有効成分の塩としては、薬学的に許容されるものであれば特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;トリ(n-ブチル)アミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、アミノ酸塩等のアミン塩等が挙げられる。
【0031】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0032】
実施例1:白濁または析出を生じさせない添加物質の検討
実施例1においては、抗ヒスタミン薬の一つであるジフェンヒドラミンと、酸性ムコ多糖類の一つであるヘパリン類似物質とを混合する際の、白濁または析出を生じさせない添加物質を探索することを目的とした。
【0033】
本実施例において使用する成分を、表1のA成分、B成分およびC成分に記載されるように用意し、それぞれ溶解した。そして、A成分にB成分を加え、攪拌棒を使用して常温(15~25℃)にて1分間攪拌混合した後、さらにC成分を加えて攪拌棒を使用して常温(15~25℃)にて1分間攪拌し、それぞれの液体組成物を得た。
【0034】
得られた液体組成物の液体性状を、目視にて確認・評価した。具体的には、液体組成物の液体性状は、約50 mLの上記組成物を直径35 mmの円柱状透明ガラス容器に入れ、常温(15~25℃)の状態で目視により評価した。液体組成物の液体性状の評価は、調製直後と5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後の2時点に行った。
【0035】
評価の基準は、上記液体組成物を入れた透明ガラス容器を常温(15~25℃)で横から観察し、以下の基準:
◎:完全に澄明;
○:わずかに白色を帯びているがほとんど澄明で、容器の向こう側が完全に透けて見える状態;
△:白濁しているが半透明で、容器の向こう側が透けて見える状態;
×:白濁して容器の向こう側が見えない状態、または析出粒子が見える状態;
として評価した。その結果を表1の下部に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
比較例1および比較例2のとおり、ヘパリン類似物質またはジフェンヒドラミンをそれぞれ単独で溶解した液体組成物は、調製直後及び5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後の両方ともにおいて、澄明であった。しかし、比較例3のとおり、ヘパリン類似物質とジフェンヒドラミンを配合した場合、液体組成物は、調製直後においても、5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後においても、白濁し、析出が見られた。
【0038】
一方、実施例1のとおり、水溶液に塩化ナトリウムを添加した場合、ヘパリン類似物質とジフェンヒドラミンを配合した液体組成物であっても澄明となった。
【0039】
実施例2:最適濃度の検証
実施例2においては、実施例1において白濁または析出を生じさせないための添加物質であることが示された塩化ナトリウムの最適濃度を探索することを目的とした。
【0040】
実施例2において使用する成分を、表2のA成分、B成分およびC成分に記載されるように用意し、実施例1に記載した通り、それぞれ溶解し、A成分にB成分を加えて攪拌混合した後、さらにC成分を加えて攪拌し、それぞれの液体組成物を得た。実施例2においては、塩化ナトリウムの最適濃度を探索することを目的としているため、ジフェンヒドラミンを含むA成分の全ての成分組成、およびヘパリン類似物質を含むC成分の全ての成分組成を変えずに、B成分における塩化ナトリウムの配合量のみを変化させて、塩化ナトリウムの最適濃度を確認した。
【0041】
得られた液体組成物の液体性状の評価は、実施例1に記載した方法と同一の方法で行った。その結果を表2の下部に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
比較例3および4に示す通り、塩化ナトリウムを1%以下しか添加しない場合には、調製直後においても、5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後においても、白濁し、析出が見られた。
【0044】
これに対して、製造例2~6に示すとおり、塩化ナトリウムを増加させて2%から10%添加した場合、調製直後においても、5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後においても、澄明な液体組成物を得ることができた。
【0045】
しかし、比較例5に示すとおり、塩化ナトリウムの含有量が10%を超えた場合、調製直後には澄明な液体組成物を得ることができたが、5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後には液体組成物が白濁し、析出が見られた。
【0046】
実施例3:グリチルリチン酸の併用効果
実施例3においては、外用薬において製剤の有効成分の一つとして一般的に使用されているグリチルリチン酸が、本発明の外用組成物においてどのような作用を示すかを確認することを目的とした。
【0047】
実施例3において使用する成分を、表3のA成分、B成分およびC成分に記載されるように用意し、実施例1に記載した通り、それぞれ溶解し、A成分にB成分を加えて攪拌混合した後、さらにC成分を加えて攪拌し、それぞれの液体組成物を得た。実施例3においては、外用薬において製剤の有効成分の一つとして一般的に使用されているグリチルリチン酸二カリウムを一定の濃度(1重量%)で含有させて、本発明の外用組成物の液体性状に対する影響を確認した。
【0048】
得られた液体組成物の液体性状の評価は、実施例1に記載した方法と同一の方法で行った。その結果を表3の下部に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
比較例6は、比較例3の組成にグリチルリチン酸二カリウムを1重量%混合した組成に対応するが、この比較例6に示すとおり、グリチルリチン酸二カリウム単独では液体組成物の白濁、析出を抑制することはできなかった。一方、比較例4の組成にグリチルリチン酸二カリウムを1重量%混合した組成である比較例7では、調製直後の液体性状が顕著に改善され、澄明な液体組成物を得ることができた。しかし、比較例7の場合でも、5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後の液体性状は依然として改善せず、白濁し、析出が見られた。
【0051】
製造例2および製造例1の組成にグリチルリチン酸二カリウムを1重量%混合した組成に対応する製造例7および製造例8では、塩化ナトリウムとグリチルリチン酸二カリウムを併用することで製造例2および製造例1の液体性状よりも改善が見られた。具体的には、製造例2では半透明(△)であった調製直後の液体性状が製造例7では澄明(◎)に改善され、製造例1では半透明(△)であった5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後の液体性状が製造例8では澄明(◎)に改善された。このように、グリチルリチン酸二カリウムにより、低濃度の塩化ナトリウムを使用する場合の液体組成物の液体性状が改善されることが明らかになった。
【0052】
実施例4:最適な塩の選択
実施例4においては、実施例1において白濁または析出を生じさせないための添加物質であることが示された塩化ナトリウムの代わりになる添加物質を探索することを目的とした。
【0053】
実施例4において使用する成分を、表4のA成分、B成分およびC成分に記載されるように用意し、実施例1に記載した通り、それぞれ溶解し、A成分にB成分を加えて攪拌混合した後、さらにC成分を加えて攪拌し、それぞれの液体組成物を得た。実施例4においては、塩化ナトリウムの代わりになる添加物質を探索することを目的としているため、ジフェンヒドラミンを含むA成分の全ての成分組成、およびヘパリン類似物質を含むC成分の全ての成分組成を変えずに、B成分における3重量%の塩化ナトリウムを様々な添加物質に変化させて、3重量%の様々な添加物質を混合する際の効果を確認した。
【0054】
得られた液体組成物の液体性状の評価は、実施例1に記載した方法と同一の方法で行った。その結果を表4の下部に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
製造例1、製造例9および製造例10に示すとおり、白濁または析出を生じさせない効果を最も示したのは1価の陰イオンである塩化物イオン(Cl-)であり、特に1価の陽イオンであるナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、アンモニウムイオン(NH4 +)との塩として添加した際に、調製直後において液体組成物は澄明となった。また、5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後の液体性状も、これら3成分を添加した場合には、澄明またはほぼ澄明となることが明らかになった。
【0057】
一方、塩化物イオン(Cl-)を添加する場合であっても、比較例8および比較例9に示すとおり、塩化物イオンと2価の陽イオンであるバリウムイオン(Ba2+)、カルシウムイオン(Ca2+)を添加した場合では、比較例8では製造直後及び5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後の両方において、そして比較例9では5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後において、白濁・析出することが明らかになった。
【0058】
また、比較例10~比較例12に示すとおり、2価の陰イオンである炭酸イオン(CO3 2-)(比較例10)、硫酸イオン(SO4 2-)(比較例11)、3価の陰イオンであるリン酸イオン(PO4 3-)(比較例12)を添加した場合では、製造直後はある程度の白濁防止効果を示したが、いずれの比較例においても5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後には白濁・析出することが明らかになった。
【0059】
実施例5:抗ヒスタミン薬の検討
実施例5においては、ジフェンヒドラミン以外の抗ヒスタミン薬の検討を目的として、クロルフェニラミンを用いた場合に、ジフェンヒドラミンの場合と同様の白濁・析出の防止が可能かどうかを確認することを目的とした。
【0060】
実施例5において使用する成分を、表5のA成分、B成分およびC成分に記載されるように用意し、実施例1に記載した通り、それぞれ溶解し、A成分にB成分を加えて攪拌混合した後、さらにC成分を加えて攪拌し、それぞれの液体組成物を得た。実施例5においては、ジフェンヒドラミン以外の抗ヒスタミン薬でも白濁・析出が防止できる組み合わせがあるかを探索するため、まず製造例1との比較において、塩化ナトリウムを含むB成分の全ての成分組成、およびヘパリン類似物質を含むC成分の全ての成分組成を同一にして、A成分におけるジフェンヒドラミンのみをクロルフェニラミンに変更して(製造例11)、ジフェンヒドラミン以外の抗ヒスタミン薬との組み合わせを調べた。
【0061】
一方、製造例11との比較として、B成分の塩化ナトリウムを添加しないことで、液体組成物の液体性状が変化するかどうかを確認した(比較例13)。
【0062】
得られた液体組成物の液体性状の評価は、実施例1に記載した方法と同一の方法で行った。その結果を表5の下部に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
製造例1および製造例11に示すとおり、白濁・析出を生じさせない効果は、抗ヒスタミン薬としてジフェンヒドラミンを使用した場合(製造例1)でも、マレイン酸クロルフェニラミンを使用した場合でも、白濁・析出を生じさせない効果が同様に得られた。また、5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後の液体性状も、これら3成分を添加した場合には、澄明またはほぼ澄明となることが明らかになった。
【0065】
一方、A成分としてマレイン酸クロルフェニラミンを使用する場合、塩化ナトリウムを添加しない場合(比較例13)には、製造直後及び5℃にて冷蔵庫で3日間保管した後の両方において、白濁・析出することが明らかになった。これは、実施例1に対して塩化ナトリウムを添加しない場合の比較例3の場合と同様の液体性状であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により、酸性ムコ多糖類と抗ヒスタミン薬を含有する皮膚外用塗布剤に対して、1価の陰イオンをさらに添加することで、白濁および析出を抑制した皮膚外用塗布剤を提供することができる。さらに、上記の組成に対してさらにグリチルリチン酸またはその塩を併用することにより、さらに優れた白濁および析出の抑制効果を発揮することを見出した。
【0067】
ヘパリン類似物質とジフェンヒドラミンを配合した製品は既に発売されているが、いずれもクリームまたは乳液状の白色乳化組成物であり、白濁や析出には気付きにくい。今回は均一で澄明な水溶性液体を製品化するため本技術を開発したが、これら2成分の反応は乳化組成物の水相中でも起こる現象であり、本技術の転用は可能と思われる。したがって、本発明により、酸性ムコ多糖類と抗ヒスタミン薬を含有するクリームまたは乳液状の白色乳化組成物の場合にも、1価の陰イオンをさらに添加することで、白濁および析出を抑制したクリームまたは乳液状の白色乳化組成物を提供することができる。