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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】溶接制御装置及び溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20240402BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B23K11/24 315
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020067779
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021159989
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】391009833
【氏名又は名称】株式会社ナ・デックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中塚 好寿
(72)【発明者】
【氏名】山田 清治
(72)【発明者】
【氏名】花田 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】原 祐太
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-121616(JP,A)
【文献】特開平09-285871(JP,A)
【文献】特開2003-311426(JP,A)
【文献】特開平7-88660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを挟むように配置された第1電極及び第2電極と、前記第2電極を支持する支持部と、前記第1電極を前記第2電極に対して移動させるモータと、前記モータの回転量を出力するエンコーダとを備える抵抗溶接機に用いられる溶接制御装置であって、
前記支持部の歪みを測定するように構成された歪みセンサと、
前記抵抗溶接機を制御するように構成された制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記抵抗溶接機による溶接の実行中に、前記エンコーダが出力する前記モータの回転量と前記歪みセンサが出力する前記支持部の歪みとに基づいて、前記第1電極と前記第2電極との電極間距離の変位量を検出する変位量検出部と、
前記抵抗溶接機による溶接の実行中に、前記変位量検出部が継続的に検出した前記変位量に基づいて、前記変位量の変化速度に対応して前記抵抗溶接機の溶接電流を調整するとともに、前記変位量が飽和した後の通電時間を調整する調整部と
を有する、溶接制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接制御装置であって、
前記制御部は、前記モータの回転量から前記ワークの溶接部位における総厚みを検出する厚み検出部をさらに有する、溶接制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の溶接制御装置であって、
前記制御部は、前記支持部の歪みから前記ワークに加わっている実加圧力を検出する圧力検出部をさらに有する、溶接制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の溶接制御装置であって、
前記制御部は、
前記モータの回転量から前記ワークの溶接部位における総厚みを検出する厚み検出部と、
前記支持部の歪みから前記ワークに加わっている実加圧力を検出する圧力検出部と、
をさらに有し、
前記調整部は、前記総厚みと前記実加圧力とに基づいて前記抵抗溶接機の溶接電流の大きさ及び通電時間の少なくとも一方を調整する、溶接制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶接制御装置であって、
前記調整部は、前記変位量検出部が検出した前記変位量に基づいて前記抵抗溶接機に溶接を開始させる、溶接制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の溶接制御装置であって、
前記調整部は、前記抵抗溶接機へパルス電流を供給し、前記パルス電流の供給時に前記変位量検出部が検出した前記変位量に基づいて外乱を検出する、溶接制御装置。
【請求項7】
ワークを挟むように配置された第1電極及び第2電極と、前記第2電極を支持する支持部と、前記第1電極を前記第2電極に対して移動させるモータと、前記モータの回転量を出力するエンコーダとを備える抵抗溶接機を用いた溶接制御方法であって、
前記抵抗溶接機による溶接の実行中に、前記エンコーダが出力する前記モータの回転量と前記支持部の歪みとに基づいて、前記第1電極と前記第2電極との電極間距離の変位量を検出する工程と、
前記抵抗溶接機による溶接の実行中に、継続的に検出した前記変位量に基づいて、前記変位量の変化速度に対応して前記抵抗溶接機の溶接電流を調整するとともに、前記変位量が飽和した後の通電時間を調整する工程と、
を有する、溶接制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の溶接制御方法であって、
前記モータの回転量から前記ワークの溶接部位における総厚みを検出する工程をさらに有する、溶接制御方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の溶接制御方法であって、
前記支持部の歪みから前記ワークに加わっている実加圧力を検出する工程をさらに有する、溶接制御方法。
【請求項10】
請求項7に記載の溶接制御方法であって、
前記モータの回転量から前記ワークの溶接部位における総厚みを検出する工程と、
前記支持部の歪みから前記ワークに加わっている実加圧力を検出する工程と、
前記総厚みと前記実加圧力とに基づいて前記抵抗溶接機の溶接電流の大きさ及び通電時間の少なくとも一方を調整する工程と、
をさらに有する、溶接制御方法。
【請求項11】
請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の溶接制御方法であって、
検出した前記変位量に基づいて前記抵抗溶接機に溶接を開始させる工程をさらに有する、溶接制御方法。
【請求項12】
請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の溶接制御方法であって、
前記抵抗溶接機へパルス電流を供給し、前記パルス電流の供給時に検出した前記変位量に基づいて外乱を検出する工程をさらに有する、溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接制御装置及び溶接制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワーク(つまり被溶接材)を2つの電極により加圧しつつ電流を供給することで溶接する抵抗溶接装置では、ワークに熱膨張が発生する。そのため、溶接中の電極間距離の変動を観測することによって、溶接品質を判定できる可能性がある。
【0003】
そこで、抵抗溶接による溶接品質を確認する方法として、電極間距離の変位量を検出して溶接の品質を診断する方法が考案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-203246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の溶接品質の診断方法では、溶接が終了した後に品質診断が行われるため、溶接の品質が満たされない場合には再溶接を実施する必要がある。その結果、製品の生産効率が低下する。
【0006】
また、上記公報では、電極間距離の変位量をモータのエンコーダで検出する方法と、ガンアームの歪みで検出する方法とが個別に開示されている。エンコーダで変位量を検出する場合、ガンアームに支持された電極の変位が含まれないため、変位量の精度が不十分である。同様に、ガンアームの歪みで変位量を検出する場合、モータで位置が変わる電極の変位が含まれないため、変位量の精度が不十分である。
【0007】
本開示の一局面は、生産効率及び溶接品質を向上できる溶接制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、ワークを挟むように配置された第1電極及び第2電極と、第2電極を支持する支持部と、第1電極を第2電極に対して移動させるモータと、モータの回転量を出力するエンコーダとを備える抵抗溶接機に用いられる溶接制御装置である。溶接制御装置は、支持部の歪みを測定するように構成された歪みセンサと、抵抗溶接機を制御するように構成された制御部と、を備える。
【0009】
制御部は、抵抗溶接機による溶接の実行中に、エンコーダが出力するモータの回転量と歪みセンサが出力する支持部の歪みとに基づいて、第1電極と第2電極との電極間距離の変位量を検出する変位量検出部と、抵抗溶接機による溶接の実行中に、変位量検出部が検出した変位量に基づいて抵抗溶接機の溶接電流を調整する調整部と、を有する。
【0010】
このような構成によれば、溶接中に電極間距離の変位量を検出し、リアルタイムに溶接電流を調整することで、外乱の影響を低減することができる。そのため、溶接品質を高めることができる。また、エンコーダによるモータの回転量と、歪みセンサによる支持部の歪みとに基づいて変位量が検出されるため、変位量の検出精度を高められる。その結果、生産効率及び溶接品質を向上できる。
【0011】
本開示の一態様では、制御部は、モータの回転量からワークの溶接部位における総厚みを検出する厚み検出部をさらに有してもよい。このような構成によれば、ワークの総厚みを用いた溶接制御が可能となる。そのため、溶接品質の向上を促進できる。
【0012】
本開示の一態様では、制御部は、支持部の歪みからワークに加わっている実加圧力を検出する圧力検出部をさらに有してもよい。このような構成によれば、ワークに加わっている実加圧力を用いた溶接制御が可能となる。そのため、溶接品質の向上を促進できる。
【0013】
本開示の一態様では、制御部は、モータの回転量からワークの溶接部位における総厚みを検出する厚み検出部と、支持部の歪みからワークに加わっている実加圧力を検出する圧力検出部と、をさらに有してもよい。調整部は、総厚みと実加圧力に基づいて抵抗溶接機の溶接電流の大きさ及び通電時間の少なくとも一方を調整してもよい。このような構成によれば、溶接品質の向上に適した電流値及び通電時間を自動で設定することができる。
【0014】
本開示の一態様では、調整部は、変位量検出部が検出した変位量に基づいて抵抗溶接機に溶接を開始させてもよい。このような構成によれば、溶接制御装置による制御が安定するため溶接品質を高めることができる。
【0015】
本開示の一態様では、調整部は、抵抗溶接機へパルス電流を供給し、パルス電流の供給時に変位量検出部が検出した変位量に基づいて外乱を検出してもよい。このような構成によれば、溶接不具合の有無の確認が可能となる。
【0016】
本開示の別の態様は、ワークを挟むように配置された第1電極及び第2電極と、第2電極を支持する支持部と、第1電極を第2電極に対して移動させるモータと、モータの回転量を出力するエンコーダとを備える抵抗溶接機を用いた溶接制御方法である。
【0017】
溶接制御方法は、抵抗溶接機による溶接の実行中に、エンコーダが出力するモータの回転量と支持部の歪みとに基づいて、第1電極と第2電極との電極間距離の変位量を検出する工程と、抵抗溶接機による溶接の実行中に、検出した変位量に基づいて抵抗溶接機の溶接電流を調整する工程と、を有する。
【0018】
このような構成によれば、上述したリアルタイムの溶接電流の調整と、変位量の検出精度の向上とによって、生産効率及び溶接品質を向上できる。
【0019】
本開示の一態様は、モータの回転量からワークの溶接部位における総厚みを検出する工程をさらに有してもよい。
【0020】
本開示の一態様は、支持部の歪みからワークに加わっている実加圧力を検出する工程をさらに有してもよい。
【0021】
本開示の一態様は、モータの回転量からワークの溶接部位における総厚みを検出する工程と、支持部の歪みからワークに加わっている実加圧力を検出する工程と、総厚みと実加圧力とに基づいて抵抗溶接機の溶接電流の大きさ及び通電時間の少なくとも一方を調整する工程と、をさらに有してもよい。
【0022】
本開示の一態様は、検出した変位量に基づいて抵抗溶接機に溶接を開始させる工程をさらに有してもよい。
【0023】
本開示の一態様は、抵抗溶接機へパルス電流を供給し、パルス電流の供給時に検出した変位量に基づいて外乱を検出する工程をさらに有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施形態における溶接制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。
図2図2は、実施形態における抵抗溶接機を示す模式図である。
図3図3は、溶接電流及び変位量の時間変化の一例を示すグラフである。
図4図4は、溶接電流及び変位量の時間変化の一例を示すグラフである。
図5図5は、溶接電流及び変位量の時間変化の一例を示すグラフである。
図6図6は、溶接電流及び変位量の時間変化の一例を示すグラフである。
図7図7は、溶接電流、変位量及び実加圧力の時間変化の一例を示すグラフである。
図8図8は、溶接電流及び変位量の時間変化の一例を示すグラフである。
図9図9は、溶接電流及び変位量の時間変化の一例を示すグラフである。
図10図10は、制御部が実行する処理を概略的に示すフロー図である。
図11図11は、図2とは異なる実施形態における抵抗溶接機を示す模式図である。
図12図12は、溶接電流及び変位量の時間変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す溶接制御装置1は、図2に示す抵抗溶接機10の制御に用いられる。
【0026】
<抵抗溶接機>
抵抗溶接機10は、ワークWとして配置された第1板P1と第2板P2とを厚み方向に抵抗溶接する。ワークWは、第1板P1と、第1板P1が上方から重ね合わされた第2板P2とを有する。
【0027】
抵抗溶接機10は、第1電極11と、第2電極12と、支持部13と、モータ14と、伝達体15と、エンコーダ16とを備える。第1電極11、第2電極12及び支持部13は、Cタイプの溶接ガン17を構成している。
【0028】
第1電極11は、ワークWの上方に配置されている。第2電極12は、ワークWの下方において、第1電極11と共にワークWを厚み方向に挟むように配置されている。第1電極11及び第2電極12は、それぞれ、溶接時にワークWに当接する。第1電極11と第2電極12との間には、溶接制御装置1から供給された溶接電流がワークWを介して流れる。
【0029】
支持部13は、第2電極12を支持するガンヨークである。第2電極12は、支持部13の先端部から上方に突出している。支持部13によって、第2電極12は、一定の位置(つまり高さ)に保持される。
【0030】
モータ14は、伝達体15を回転させることで、第1電極11を第2電極12に対して上下方向に移動させる。つまり、モータ14は、第1電極11を上下方向に移動させることで、第1電極11と第2電極12との電極間距離を変化させる。
【0031】
また、モータ14は、第1電極11と第2電極12との電極間距離を変化させることによって、第1電極11及び第2電極12によるワークWへの加圧力(つまり、抵抗溶接機10の溶接圧力)を調整する。
【0032】
伝達体15は、モータ14の回転運動を第1電極11の上下方向の直線運動に変換する。伝達体15としては、例えば、ボールねじが使用される。
【0033】
エンコーダ16は、モータ14の回転量を出力する。具体的には、エンコーダ16は、モータ14の回転量をパルス数として溶接制御装置1に出力する。エンコーダ16は、直接、溶接制御装置1にモータ14の回転量を出力してもよいし、抵抗溶接機10が備えるロボットコントローラ(図示省略)を介して、溶接制御装置1にモータ14の回転量を出力してもよい。
【0034】
モータ14の回転量と第1電極11の上下方向の位置(つまり高さ)とは相関する。特に、伝達体15がボールねじの場合は、モータ14の回転量と第1電極11の変位量とは線形関係にある。
【0035】
<溶接制御装置>
溶接制御装置1は、図1に示すように、歪みセンサ2と、制御部3とを備える。
【0036】
(歪みセンサ)
歪みセンサ2は、支持部13に取り付けられている。歪みセンサ2は、溶接ガン17の加圧時に支持部13に生じる歪みを測定するように構成されている。歪みセンサ2としては、例えば、圧電センサ、歪みゲージ等が使用できる。
【0037】
(制御部)
制御部3は、抵抗溶接機10と電気的に接続され、抵抗溶接機10を制御するように構成されている。
【0038】
制御部3は、例えば、マイクロプロセッサと、RAM、ROM等の記憶媒体と、入出力部とを備えるコンピュータにより構成される。制御部3は、変位量検出部4と、厚み検出部5と、圧力検出部6と、調整部7とを有する。
【0039】
(変位量検出部)
変位量検出部4は、抵抗溶接機10による溶接の実行中に、エンコーダ16から直接、又はロボットコントローラを介して出力されるモータ14の回転位置と歪みセンサ2が出力する支持部13の歪みとに基づいて、第1電極11と第2電極12との電極間距離の変位量を検出する。
【0040】
具体的には、溶接時にワークWが膨張すると、第1電極11が押し上げられる。その結果、伝達体15を介してモータ14が回転する。変位量検出部4は、モータ14の回転量をエンコーダ16から取得し、モータ14の回転量と第1電極11との位置との関数を使用することで、第1電極11の位置の変位量を検出する。
【0041】
また、ワークWが膨張すると、第2電極12が押し下げられる。その結果、支持部13に歪みが生じる。変位量検出部4は、支持部13の歪みを歪みセンサ2から取得し、支持部13の歪みと第2電極12との位置との関数を使用することで、第2電極12の位置の変位量を検出する。
【0042】
変位量検出部4は、第1電極11の位置の変位量と、第2電極12の位置の変位量とを足し合わせることで、第1電極11と第2電極12との電極間距離を検出する。また、変位量検出部4は、溶接の開始から終了まで継続的に電極間距離を検出する。
【0043】
図3に変位量検出の一例を示す。図3には、溶接電流Cを一定として溶接を行った際に検出されたモータ14の回転量による第1電極11の変位量D1と、支持部13の歪みによる第2電極12の変位量D2と、モータ14の回転量と支持部13の歪みとによる電極間距離の変位量D3との時間変化が示されている。電極間距離の変位量D3の波形は、レーザ測定器で測定した電極間距離の変位量D0の波形とほぼ同形である。
【0044】
(厚み検出部)
厚み検出部5は、モータ14の回転量からワークWの溶接部位における総厚みを検出する。総厚みは、抵抗溶接機10による溶接の開始前又は溶接の実行中に検出される。
【0045】
具体的には、厚み検出部5は、ワークWがない状態において第1電極11で第2電極12を加圧した場合の第1電極11の基準位置と、溶接時においてワークWを第1電極11で加圧した場合の第1電極11の位置との差分によって、ワークWの溶接部位における総厚みを算出する。
【0046】
(圧力検出部)
圧力検出部6は、支持部13の歪みからワークWに加わっている実加圧力を検出する。実加圧力は、抵抗溶接機10による溶接の開始前又は溶接の実行中に検出される。
【0047】
具体的には、圧力検出部6は、周知の応力-歪み曲線と、フックの法則とを用いて、歪みの大きさ(つまり歪みセンサ2の出力)から現在のワークWへの実加圧力を算出する。第1電極11と第2電極12との間には比較的高い加圧力が作用するため、支持部13は応力-歪み曲線の弾性変形領域で変形をする。そのため、フックの法則にしたがって、歪みと実加圧力とは比例する。
【0048】
(調整部)
調整部7は、変位量検出部4が検出した電極間距離の変位量と、厚み検出部5が検出した総厚みと、圧力検出部6が検出した実加圧力とに基づいて抵抗溶接機10(つまり溶接ガン17)の溶接電流を調整する。
【0049】
具体的には、調整部7は、抵抗溶接機10による溶接の実行中に、電極間距離の変位量の変化速度が適切な大きさになるように溶接電流を調整する。図4に、第1電流C11で溶接を行った第1ケースにおける電極間距離の変位量D11と、第1電流C11よりも小さい第2電流C12で溶接を行った第2ケースにおける電極間距離の変位量D12との時間変化の一例を示す。
【0050】
図4では、第1ケースの変位量D11は、第2ケースの変位量D12よりも増加速度が大きい。また、第1ケースで得られる溶接ナゲットの径は、第2ケースで得られる溶接ナゲットの径よりも大きい。
【0051】
また、図5に、第3電流C13で溶接を行った第3ケースにおける電極間距離の変位量D13と、第3電流C13よりも大きい第4電流C14で溶接を行った第4ケースにおける電極間距離の変位量D14との時間変化の一例を示す。
【0052】
図5では、第4ケースの変位量D14は、第3ケースの変位量D13よりも変化速度が大きい。また、第3ケースでは溶接時に散りが発生しない一方で、第4ケースでは散りが発生する。
【0053】
このような関係を基に、調整部7は、十分な大きさの溶接ナゲットが形成され、かつ、溶接時に散りの発生が抑えられる変位量の変化速度をターゲットとして、溶接ガン17の溶接電流の大きさを設定する。このように散りの発生を抑制することで、溶接品質の向上、作業環境の改善、後工程でのワークWの清掃工数の削減等の効果が得られる。
【0054】
また、調整部7は、抵抗溶接機10による溶接の実行中に、電極間距離の変位量が飽和した後の通電時間を調整する。図6に、第5電流C15を通電した第5ケースにおける電極間距離の変位量D15と、第5電流C15と同じ大きさの第6電流C16を通電した第6ケースにおける電極間距離の変位量D16との時間変化の一例を示す。
【0055】
第5ケースでは、変位量D15が飽和した後も溶接電流の通電が継続されている。一方、第6ケースでは、変位量D16が飽和した直後に溶接電流が遮断されている。また、第5ケースで得られる溶接ナゲットの径は、第6ケースで得られる溶接ナゲットの径よりも大きい。このような関係を基に、調整部7は、十分な大きさの溶接ナゲットが形成されるように、変位量の飽和後の溶接電流の通電時間を設定する。
【0056】
さらに、調整部7は、ワークWに加わっている実加圧力に合わせて溶接電流の大きさを調整する。図7に、第7電流C17を通電した第7ケースにおける電極間距離の変位量D17と、第7電流C17よりも大きい第8電流C18を通電した第8ケースにおける電極間距離の変位量D18との時間変化の一例を示す。また、図7には、第7ケースにおける実加圧力S17及び第8ケースにおける実加圧力S18が示されている。
【0057】
第7ケースでは、変位量D17及び実加圧力S17は滑らかに変化している。一方、第8ケースでは、変位量D18及び実加圧力S18が急激に低下している。また、第7ケースでは溶接時に散りが発生しない一方で、第8ケースでは散りが発生する。このような関係を基に、調整部7は、溶接時に散りが発生しないように実加圧力を監視しながら溶接電流の大きさを調整する。
【0058】
また、調整部7は、総厚み及び実加圧力から、有効な溶接電流の大きさ(例えば、溶接開始電流値、最低電流値、最大電流値、電流の変化速度等)及び通電時間(例えば、最小通電時間、最大通電時間等)を設定する。溶接電流の大きさ及び通電時間は、抵抗溶接機10による溶接の開始前又は溶接の実行中に設定される。
【0059】
さらに、調整部7は、変位量検出部4が検出した変位量に基づいて抵抗溶接機10に溶接を開始させる。具体的には、調整部7は、変位量の大きさ及び/又は変位量の変化速度の変化が小さくなる(つまり変位量が安定する)まで、抵抗溶接機10による溶接を待機させる。変位量が安定した後、調整部7は、抵抗溶接機10に溶接を開始させる。なお、待機中の抵抗溶接機10には、電流が供給されていてもよいし、電流が供給されなくてもよい。
【0060】
また、調整部7は、抵抗溶接機10へパルス電流を供給し、パルス電流の供給時に変位量検出部4が検出した変位量に基づいて外乱を検出する。外乱とは、例えば、ワークWの隙間、異物の噛み込み、端打ち等である。
【0061】
例えば図8に示すように、溶接電流C21の通電前にパルス電流PCを通電したときに変位量D21の変化速度が低下した場合、調整部7は、ワークWの第1板P1と第2板P2との間に隙間が発生したと判断する。
【0062】
また、例えば図9に示すように、溶接電流C22の通電前にパルス電流PCを通電したときに変位量D22が低下した場合、調整部7は、異物の噛み込み又は端打ちが発生したと判断する。
【0063】
[1-2.処理]
以下、図10のフロー図を参照しつつ、溶接制御装置1の制御部3が実行する処理の一例について説明する。
【0064】
本処理では、まず、制御部3は、抵抗溶接機10に溶接電流を通電し、溶接を開始する(ステップS100)。溶接開始後、制御部3は、第1電極11と第2電極12との電極間距離の変位量を検出する(ステップS110)。続けて、制御部3は、検出した変位量に基づいて抵抗溶接機10の溶接電流を調整する(ステップS120)。
【0065】
溶接の継続中、制御部3は、溶接が終了したか(つまり溶接点が終了点に到達したか)否か判定する(ステップS130)。溶接が終了した場合(S130:YES)、制御部3は、処理を終了する。溶接が終了していない場合(S130:NO)、制御部3は、溶接が終了するまで変位量の検出と溶接電流の調整とを繰り返す。
【0066】
[1-3.溶接制御方法]
本実施形態の溶接制御方法は、制御部3によって実行される。つまり、本実施形態の溶接制御方法は、抵抗溶接機10に溶接を開始させる工程と、電極間距離の変位量を検出する工程と、変位量に基づいて抵抗溶接機10の溶接電流を調整する工程と、ワークWの溶接部位における総厚みを検出する工程と、ワークWに加わっている実加圧力を検出する工程と、総厚みと実加圧力とに基づいて抵抗溶接機10の溶接電流の大きさ及び通電時間の少なくとも一方を調整する工程と、変位量に基づいて外乱を検出する工程とを有する。
【0067】
[1-4.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)抵抗溶接機10の溶接中に電極間距離の変位量を検出し、リアルタイムに溶接電流を調整することで、外乱の影響を低減することができる。そのため、溶接品質を高めることができる。また、エンコーダ16によるモータ14の回転量と、歪みセンサ2による支持部13の歪みとに基づいて変位量が検出されるため、変位量の検出精度を高められる。その結果、生産効率及び溶接品質を向上できる。
【0068】
(1b)厚み検出部5によって、ワークWの総厚みを用いた溶接制御が可能となる。そのため、溶接品質の向上を促進できる。
(1c)圧力検出部6によって、ワークWに加わっている実加圧力を用いた溶接制御が可能となる。そのため、溶接品質の向上を促進できる。
【0069】
(1d)総厚みと実加圧力とに基づいて抵抗溶接機10の溶接電流の大きさ及び通電時間の少なくとも一方を調整することで、溶接品質の向上に適した電流値及び通電時間を自動で設定することができる。
【0070】
(1e)変位量検出部4が検出した変位量に基づいて抵抗溶接機10に溶接を開始させることで、溶接制御装置1による制御が安定するため溶接品質を高めることができる。
(1f)パルス電流の供給時に変位量検出部4が検出した変位量に基づいて外乱を検出することで、溶接不具合の有無の確認が可能となる。
【0071】
[2.第2実施形態]
[2-1.構成]
第2実施形態の溶接制御装置は、図11に示す抵抗溶接機20の制御に用いられる。
【0072】
抵抗溶接機20は、ワークWとして配置された第1板P1と第2板P2とを厚み方向に抵抗溶接する。抵抗溶接機20は、第1電極21と、第2電極22と、第1支持部23Aと、第2支持部23Bと、モータ24と、伝達体25と、エンコーダ26とを備える。
【0073】
第1電極21、第2電極22、第1支持部23A及び第2支持部23Bは、Xタイプの溶接ガン27を構成している。第1電極21、第2電極22、モータ24及びエンコーダ26は、図2の抵抗溶接機10の第1電極11、第2電極12、モータ14及びエンコーダ16と同様である。
【0074】
第1支持部23Aは、第1電極21を支持するガンアームである。第1支持部23Aは、伝達体25によって第2支持部23Bに対し揺動可能に構成されている。第1電極21は、第1支持部23Aの揺動により、ワークW及び第2電極22との位置が調整される。
【0075】
第2支持部23Bは、第2電極22を支持するガンヨークである。伝達体25は、モータ24の駆動力によって第1支持部23Aを揺動させる。したがって、モータ24は、第1電極21を第2電極22に対して移動させる。
【0076】
本実施形態の溶接制御装置は、以下に説明する点を除き、第1実施形態の溶接制御装置1と同じである。
【0077】
本実施形態では、溶接制御装置は、第1支持部23Aの歪みを測定する第1歪みセンサ2Aと、第2支持部23Bの歪みを測定する第2歪みセンサ2Bとを有する。また、溶接制御装置の変位量検出部は、エンコーダ26が出力するモータ24の回転量と、第1歪みセンサ2Aが出力する第1支持部23Aの歪みと、第2歪みセンサ2Bが出力する第2支持部23Bの歪みとに基づいて、第1電極21と第2電極22との電極間距離の変位量を検出する。
【0078】
具体的には、変位量検出部は、モータ24の回転量から算出される第1電極21の変位量と、第1支持部23Aの歪みから算出される第1電極21の位置の変位量と、第2支持部23Bの歪みから算出される第2電極22の位置の変位量とから、第1電極21と第2電極22との電極間距離を検出する。
【0079】
図12に変位量検出の一例を示す。図12には、溶接電流Cを一定として溶接を行った際に変位量検出部によって検出された電極間距離の変位量D3の時間変化が示されている。電極間距離の変位量D3の波形は、レーザ測定器で測定した電極間距離の変位量D0の波形とほぼ同形である。
【0080】
なお、本実施形態において、第1歪みセンサ2A及び第2歪みセンサ2Bの一方を省略することも可能である。ただし、2つの歪みセンサを用いることで、変位量の検出精度を向上できる。
【0081】
[2-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(2a)第1支持部23Aの揺動によって第1電極21が第2電極22に対して移動する抵抗溶接機20に対しても、変位量の検出精度を高められる。その結果、生産効率及び溶接品質を向上できる。
【0082】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0083】
(3a)上記実施形態の溶接制御装置において、制御部は、必ずしも厚み検出部及び圧力検出部を有しなくてもよい。
【0084】
(3b)上記実施形態の溶接制御装置において、調整部は、必ずしも変位量に基づいて抵抗溶接機に溶接を開始させなくてもよい。また、調整部は、必ずしもパルス電流の供給時の変位量に基づいて外乱を検出しなくてもよい。
【0085】
(3c)上記実施形態の溶接制御装置は、水平方向にワークWを加圧する(つまり、第1板P1と第2板P2とが水平方向に重ねあわされた状態で溶接を行う)抵抗溶接機にも使用可能である。
【0086】
(3d)上記実施形態の溶接制御装置は、モータによって第1電極及び第2電極の双方が移動する(例えば、第2実施形態の抵抗溶接機20において、第2支持部23Bもモータ26によって揺動するように構成された)抵抗溶接機にも使用可能である。
【0087】
(3e)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0088】
1…溶接制御装置、2…歪みセンサ、2A…第1歪みセンサ、2B…第2歪みセンサ、
3…制御部、4…変位量検出部、5…厚み検出部、6…圧力検出部、7…調整部、
10…抵抗溶接機、11…第1電極、12…第2電極、13…支持部、14…モータ、
15…伝達体、16…エンコーダ、17…溶接ガン、20…抵抗溶接機、
21…第1電極、22…第2電極、23A…第1支持部、23B…第2支持部、
24…モータ、25…伝達体、26…エンコーダ、27…溶接ガン。
図1
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図12