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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】散乱顕微鏡による検査
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/47 20060101AFI20240402BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20240402BHJP
   G01Q 60/18 20100101ALI20240402BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
G01N21/47 Z
G01N21/17 A
G01Q60/18
G02B21/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021556413
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 GB2020050625
(87)【国際公開番号】W WO2020188251
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】1903891.8
(32)【優先日】2019-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ククラ、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ファエズ、サンリ
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-196943(JP,A)
【文献】特表2018-527573(JP,A)
【文献】国際公開第2018/102747(WO,A1)
【文献】特表2013-533485(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03276389(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01Q 60/18
G02B 19/00 - G02B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
散乱顕微鏡による検査を実行する方法であって、
前記方法は、照明光を放射するように配置された光源及び光検出器を含む散乱顕微鏡で、表面を含む物体を画像化するステップを含み、前記顕微鏡は、前記照明光で物体を照らし、前記光検出器で前記物体から弾性散乱された光を検出するように配置され、
前記方法は、前記物体を画像化する際に前記物体の電気化学的特性に影響を与える電位を前記表面に印加するステップを更に含み、前記物体は、前記照明光の波長及び前記印加された電位においてプラズモン共鳴周波数を有さないように選択されている、方法。
【請求項2】
電気二重層が、前記物体において形成され、前記表面への前記電位は、前記電気二重層の電気化学的特性に影響を与える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表面は、導電性材料の表面であり、前記表面に電位を印加するステップは、前記導電性材料に前記電位を印加するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記導電性材料は金属でない、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記表面は、誘電体材料の表面であり、前記表面に電位を印加するステップは、前記誘電体材料を介して容量的に前記電位を印加するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記物体は、前記表面上に少なくとも1つの粒子を更に含む、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの粒子は、5000kDa以下の質量を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの粒子は、10kDa以上の質量を有する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの粒子は、10-17以下の前記照明光に対する散乱断面積を有する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの粒子は、10―26以上の前記照明光に対する散乱断面積を有する、請求項7~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記電位は、それによって影響を受ける前記物体の電気化学的特性の応答期間に亘って一定である振幅を有する、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電位は、それによって影響を受ける前記物体の電気化学的特性の応答周期より短い周期に亘って変化する振幅を有する、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記電位は、それによって影響を受ける前記物体の電気化学的特性の応答周期より短い周期に亘って交流する振幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、複数の異なる電位を前記表面に印加するステップと、前記物体の一部及び/又は周囲環境の特性評価のために、各電位に関して、前記物体の前記一部から弾性散乱された前記光を検出するステップとを含む、請求項1~13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
各電位に関して、前記物体の一部から弾性散乱された前記光のプロファイルの参照プロファイルとの類似度を決定するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記顕微鏡は、前記光検出器によって検出された信号が、前記物体から弾性散乱された前記光の振幅を感知できるように配置されている、請求項1~15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記顕微鏡は、干渉散乱顕微鏡又は暗視野散乱顕微鏡である、請求項1~16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記顕微鏡は、前記物体の2次元画像を出力するように配置されている、請求項1~17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記光は、紫外線、可視光、又は赤外線である、請求項1~18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
散乱顕微鏡装置であって、
表面を含む物体と、
照明光を放射するように配置された光源及び光検出器を含む顕微鏡であって、前記照明光で前記物体を照らし、前記光検出器で前記物体から弾性散乱された光を検出するように配置されている顕微鏡と、
前記物体を画像化する際に前記物体の電気化学的特性に影響を与える電位を前記表面に印加するように配置された電圧源であって、前記物体は、前記照明光の波長及び前記印加された電位においてプラズモン共鳴周波数を有さないように選択されている、電圧源と
を備える散乱顕微鏡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱顕微鏡による検査に関する。
【背景技術】
【0002】
物体が照明光で照らされ、物体から弾性散乱された光が光検出器で検出される幾つかのタイプの散乱顕微鏡による検査が知られている。散乱顕微鏡による検査の例には、例えば、非特許文献1~3に開示されるような(a)干渉散乱顕微鏡による検査(iSCAT)、及び例えば、非特許文献4に開示されるような(b)暗視野散乱顕微鏡による検査が含まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Kukura et al., “High-speed nanoscopic tracking of the position and orientation of a single virus”, Nature Methods 2009 6:923-935
【文献】Ortega Arroyo et al. “Interferometric scattering microscopy (iSCAT): new frontiers in ultrafast and ultrasensitive optical microscopy”, Physical Chemistry Chemical Physics 2012 14:15625-15636
【文献】Cole et al., “Label-Free Single-Molecule Imaging with Numerical-Aperture-Shaped Interferometric Scattering Microscopy”, ACS Photonics 2017, 4, 2, 211-216
【文献】Jing et al., “Nanoscale electrochemistry in the “dark-field”, Current Opinion in Electrochemistry, Vol. 6, Issue 1, December 2017, pp 10-16
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、既知の技法に対する改善に関係する。本発明の第1の態様によれば、散乱顕微鏡による検査を実行する方法であって、この方法は、照明光を放射するように配置された光源及び光検出器を含む散乱顕微鏡で、表面を含む物体を画像化するステップを含み、顕微鏡は、照明光で物体を照らし、光検出器で物体から弾性散乱された光を検出するように配置され、この方法は、物体を画像化する際に物体の電気化学的特性に影響を与える電位を表面に印加するステップを更に含み、物体は、照明光の波長及び印加された電位においてプラズモン共鳴周波数を有さないように選択されている、方法が提供される。
【0005】
表面に電位を印加することによって、物体の散乱顕微鏡による検査を実行する際に利点を提供する方法で、物体の電気化学的特性に影響を与えることが可能である。電気化学的特性の変化は、物体の散乱コントラストに影響を与える。本明細書においては、これは、動電位コントラストと呼ばれる。これは、物体の特徴をより明確に画像化することを可能にし、及び/又は物体の特性評価を提供するコントラスト機構を提供する。例えば、動電位コントラストは、表面上の粒子の電気化学的状態を視覚化するのに十分である。同様に、電気化学的特性の変化は、局所的なトポグラフィー及び材料組成に依存するので、動電位コントラストはまた、表面の特徴、及び/又はさもなければ背景のスペックルからは認識できない深いサブ波長散乱体である粒子を同定するために有用である。加えて、物体の電気化学的状態及び/又は物体の周囲の環境が特性評価されてもよい。同様に、粒子の表面への結合速度が制御及び監視されることができる。
【0006】
表面は、電気二重層(EDL)が形成される表面であってもよく、この場合、表面に印加された電位は、例えば、その再構築を引き起こすことによって、電気二重層の電気化学的特性に影響を与えてもよい。表面電位を変化させることによって、EDLの構成(物理的構造及び/又は組成)が変化する。すなわち、表面電位の変化は、表面の化学的活性を変化させ、それ故に、物体と周囲環境の構成物質、例えば、分子又はイオンとの間の相互作用を変化させる。これは、弾性散乱光の量の変化をもたらす。
【0007】
物体は、照明光の波長及び印加された電位においてプラズモン共振周波数を有しない。照明光の波長は、物体のプラズモン周波数ではない。この結果、その方法は、プラズモン、例えば、プラズモンナノ粒子又は表面プラズモンを使用し、物体において作り出されたプラズモンの共鳴を、物体の画像化のための信号を提供するために使用する顕微鏡による検査とは著しく異なる動作原理を使用する。対照的に、本方法は、動電位コントラストを提供するために、電気化学的特性の変化を使用して画像化を提供する。実際には、物体はプラズモン共鳴を有さないので、観察され得る物体のタイプ及び特性が増加する。
【0008】
本発明の方法はまた、例えば以下のように、他の分析及び顕微鏡による検査の技法を超える利点を提供する。
【0009】
単一粒子の電気化学と比較して、本方法は、他の光学的方法で検出するには小さすぎる生体分子を同定するための干渉散乱顕微鏡による検査の実施を提供する。
【0010】
サイクリックボルタンメトリーと比較して、本方法は、(集合体又は拡大面の代わりに)単一の(ナノスケールの)実在物における動電位測定を可能にする。この機能は、表面の不均一性の全ての欠点を低減させ、表面上の複数の隣接する場所における同時測定を可能にする。
【0011】
導電性原子間力顕微鏡と比較して、本方法は、表面上の物体における並行(画像化)測定を可能にし、侵襲性が低い。
【0012】
一例においては、表面は、導電性材料の表面であってもよい。この例においては、導電性材料に電位を印加することによって、電位は、表面に印加されてもよい。典型的には、導電性材料は、照明光の波長においてプラズモン共鳴周波数を回避してもよい金属でない。
【0013】
別の例においては、表面は、誘電体材料の表面である。この例においては、誘電体材料を介して容量的に電位を印加することによって、電位は、表面に印加されてもよい。
【0014】
あるタイプの実験においては、物体が他のものを備えることなく、表面自体が画像化されてもよい。この場合、粗さ及び/又は化学組成のような表面特性の変動が観察されてもよい。
【0015】
別のタイプの実験においては、物体は、表面上に少なくとも1つの粒子を更に含んでもよい。印加された電位によるEDLの再構築によって引き起こされる動電位コントラストは、表面に対する粒子のコントラストを改善し、表面上の粒子の電気化学的状態を視覚化するのに十分であり、表面上の粒子の長期間の連続測定を可能にする。粒子は表面とは異なる動電位応答を有するので、粒子の位置が、サブ波長の精度で同定され、継続的に監視されることができる。同様に、粒子の電気化学的状態及び/又は粒子の周囲の環境の電気化学的状態が特性評価され、監視されることができる。
【0016】
電位は、それによって影響を受ける物体の電気化学的特性の応答期間に亘って一定である振幅を有してもよい。
【0017】
代替的に、電位は、例えば、それによって影響を受ける物体の電気化学的特性の応答周期より短い周期に亘って変化する振幅を有してもよい。
【0018】
複数の異なる電位が、表面に印加されてもよい。この場合、各電位に関して、物体の一部から弾性散乱された光の検出は、例えば、各電位に関して、物体の一部から弾性散乱された光のプロファイルの参照プロファイルとの類似度を決定することによって、物体の一部及び/又は周囲環境の特性評価を可能にする。典型的には、コントラストの動電位応答(印加された電位及びそのヒステリシスの関数としてのコントラストの変化)は、非線形であり、それは、物体(例えば、表面又は表面上の物体)及び/又は周囲環境を特定評価するために使用されることができる。
【0019】
その方法は、光検出器によって検出された信号が、物体から弾性散乱された光の振幅を感知できるように配置された任意の顕微鏡、例えば、全反射散乱顕微鏡、干渉散乱顕微鏡、又は暗視野散乱顕微鏡に適用されてもよい。
【0020】
顕微鏡は、物体の2次元画像を出力してもよい。
【0021】
光は、紫外線、可視光、又は赤外線であってもよい。
【0022】
本発明の第2の態様によれば、散乱顕微鏡装置であって、表面を含む物体と、照明光を放射するように配置された光源及び光検出器を含む顕微鏡であって、顕微鏡は、照明光で物体を照らし、光検出器で物体から弾性散乱された光を検出するように配置され、物体は、照明光の波長においてプラズモン共鳴周波数を有さないように選択されている、顕微鏡と、物体の電気化学的特性に影響を与える電位を表面に印加するように配置された電圧源とを備える散乱顕微鏡装置が提供される。
【0023】
この顕微鏡装置は、その方法に従って動作し、同様の利点を提供する。
【0024】
次に、より良い理解を可能にするために、本発明の実施形態は、添付の図面を参照して非限定的な例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】全反射散乱顕微鏡の図である。
図2】干渉散乱顕微鏡の図である。
図3】第1のタイプの物体の概略図である。
図4】第2のタイプの物体の概略図である。
図5】酸化インジウムスズ(ITO)の表面の散乱画像である。
図6】原子間力顕微鏡(AFM)で測定されたITOの表面プロファイルである。
図7図5の拡大図である。
図8】印加された電位が三角波形で変化する一点の散乱強度のグラフである。
図9図6の線に沿ってAFMで測定された表面プロファイルである。
図10】印加された電位及び一溶液に露出した単一のスポットにおいてITOの表面から弾性散乱された検出された光の時間図及び散布図であり、時間図は、時間(s)に対する印加された電圧V(ボルト)のプロットであり、散布図は、印加された電圧(V)に対する相対微分強度dI/Iのプロットである。
図11】印加された電位及び一溶液に露出した単一のスポットにおいてITOの表面から弾性散乱された検出された光の時間図及び散布図であり、時間図は、時間(s)に対する印加された電圧V(ボルト)のプロットであり、散布図は、印加された電圧(V)に対する相対微分強度dI/Iのプロットである。
図12】印加された電位及び一溶液に露出した単一のスポットにおいてITOの表面から弾性散乱された検出された光の時間図及び散布図であり、時間図は、時間(s)に対する印加された電圧V(ボルト)のプロットであり、散布図は、印加された電圧(V)に対する相対微分強度dI/Iのプロットである。
図13】印加された電位及び一溶液に露出した単一のスポットにおいてITOの表面から弾性散乱された検出された光の時間図及び散布図であり、時間図は、時間(s)に対する印加された電圧V(ボルト)のプロットであり、散布図は、印加された電圧(V)に対する相対微分強度dI/Iのプロットである。
図14】平均強度の対数をプロットする、ITO表面上のTiO粒子の散乱顕微鏡画像である。
図15】動電位コントラストを示すために処理された図14の画像である。
図16】印加された電位及びTiO粒子から弾性散乱された検出された光の時間図及び散布図である。
図17】印加された電位及びITO表面から弾性散乱された検出された光の時間図及び散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、全反射(TIR)散乱顕微鏡20を含む第1の顕微鏡装置10を示し、図2は、干渉散乱(iSCAT)顕微鏡40を含む第2の顕微鏡装置20を示し、これらは、本技法が適用されてもよい顕微鏡装置の例である。第1の顕微鏡装置10及び第2の顕微鏡装置20はそれぞれ、両方の場合において同じであり、以下で更に説明される物体50を更に含む。
【0027】
iSCAT顕微鏡は、出力光をフィルタリングするように位置決めされた空間フィルタを追加的に備えてもよく、空間フィルタは、出力光を通過させるように配置されるが、より大きい開口数より所定の開口数内で大きい強度の低減を伴う。ナノスケールの物体から散乱された光の大部分は、高い開口数において散乱され、この結果、ナノスケールの物体からの散乱光の強度を低減させることなく、低NA光の強度を低下させることができる。反射光の強度を低減させるが、散乱光を相対的に減衰させないままにすることによって、コントラスト及び感度が向上し、この結果、より良い画像が得られる。
【0028】
TIR散乱顕微鏡20及びiSCAT顕微鏡40はそれぞれ、物体50を画像化するために使用され、共通して、光源30、対物レンズ31、及び光検出器32を含む。何れの場合も、光源30は、照明光を放射し、光検出器32は、物体50から弾性散乱された光を検出する。
【0029】
一般的に、本明細書で説明される全ての技法において、照明光は、可視光(400nmから700nmまでの波長範囲)、紫外線(400nm未満で10nmの下限までの波長範囲)、又は赤外線(700nmを超えて1mmの上限までの波長範囲)の何れかであってもよい。
【0030】
TIR散乱顕微鏡20及びiSCAT顕微鏡40は、広視野モードで動作してもよく、この場合、光検出器32は、物体50の2次元画像を取り込む画像センサ、例えば、CMOS(相補型金属酸化膜半導体)イメージセンサであってもよい。逆に、TIR散乱顕微鏡20及びiSCAT顕微鏡40は、共焦点モードで動作するように適合させることができ、この場合、光検出器32は、単純なフォトダイオードであってもよい。この場合、物体50の2次元画像は、物体50を走査することによって得られてもよい。
【0031】
TIR散乱顕微鏡20及びiSCAT顕微鏡40はそれぞれ、物体50を照明光で照らし、弾性散乱光を光検出器32に方向付けるように配置される。
【0032】
TIR散乱顕微鏡20及びiSCAT顕微鏡40はそれぞれ、以下のように、光検出器32によって検出された信号が物体50から弾性散乱された光の振幅を感知できるが、これを達成するために異なる構成を有するように構成される。
【0033】
図1に示されるTIR散乱顕微鏡20は、以下のように配置されたあるタイプの暗視野散乱顕微鏡である。
【0034】
この場合、光源30は、対物レンズ31の光軸Oに垂直な照明光を放射する。第1の反射面21は、光源30からの照明光を、光軸Oに平行であるがそれからオフセットされて対物レンズ31を通るように偏向させる。この結果、対物レンズは、光が対応する反射角でTIRによって物体50から反射されるように、臨界軸より大きい入射角で照明光を物体50に向ける。
【0035】
反射光は、対物レンズ50を通って戻り、光軸Oに平行であるがそれからオフセットされて放射される。このように、照明光及び反射光は、光軸Oに沿って対物レンズ31を通過しない。
【0036】
第2の反射面22は、反射光を、光軸Oから垂直に、焦点安定化のための位置感知デバイス(PSD)として使用される象限フォトダイオード(QPD)23に偏向させる。
【0037】
TIR散乱顕微鏡20においては、光検出器32は、光軸Oに沿って位置合わせされる。結果として、光検出器32は、物体50から弾性散乱された光を受け取るが、光軸Oに沿って対物レンズ31を通過しない反射光を受け取らない。よって、TIR散乱顕微鏡20の構成は、光検出器32に、弾性散乱光の振幅を感知できる信号で、暗視野モードにおいて物体50から弾性散乱された光を検出させる。
【0038】
TIR散乱顕微鏡20が、暗視野散乱顕微鏡の例として説明されるが、本明細書で説明される技法は、例えば、非特許文献4に開示されるような、任意の暗視野散乱顕微鏡で実行されることができる。
【0039】
図2に示されるiSCAT顕微鏡40は、以下のように配置される。
【0040】
この場合、光源30は、対物レンズ31の光軸Oに垂直な照明光をビームスプリッタ41に放射するレーザーのようなコヒーレント光源である。この例においては、ビームスプリッタ41は、光軸Oに対して45°に配置された金属又は誘電体であってもよい、反射フィルム43を備えるプレート42であるが、ビームスプリッタ41は、それらの間の界面に部分的に反射膜を有する調和のとれた一対のプリズムによって形成された立方体ビームスプリッタのような他の形態を有することができる。
【0041】
光源30とビームスプリッタ41との間に、照明光を集光するための集光レンズ42が設けられる。
【0042】
ビームスプリッタ41は、照明光を光軸Oに沿って対物レンズ31に偏向させるように構成される。そして、対物レンズ31は、照明光を物体50に焦点を合わせる。
【0043】
対物レンズ31はまた、物体からの出力光を収集し、それを、ビームスプリッタ41を通り、チューブレンズ43、及び任意選択で出力光を光検出器32に焦点を合わせる一対の望遠鏡レンズ(示されていない)を通って光検出器32に向ける。出力光は、(a)物体50から反射された光及び(b)物体50から弾性散乱された光の両方を含む。結果として、弾性散乱光は、反射光と建設的に干渉するので、光検出器32によって検出される信号は、物体50から弾性散乱された光の振幅を感知できる。
【0044】
iSCAT顕微鏡40が例として説明されるが、本明細書で説明される技法は、例えば、非特許文献1~3に開示されるような、任意のiSCAT顕微鏡で実行されることができる。
【0045】
TIR散乱顕微鏡20及びiSCAT顕微鏡40が例として与えられるが、本明細書で説明される技法は、他の形態の散乱顕微鏡で行われることができる。
【0046】
次に、物体50が説明される。物体50の2つの代替形態が図3及び図4に示される。全ての場合において、物体50は、電位が印加される表面51を含む。電位は、対電極54にも接続されている電圧源53によって印加される。
【0047】
流体52が、表面51の周りの環境に提供されてもよい。流体52は、溶液であってもよく、水溶液であってもよい。流体52は、溶解したイオンを含んでもよい。
【0048】
図3に示される形態においては、物体50は、導電性材料で作られた導電性層を備え、表面51は、その導電性層60の表面である。
【0049】
この場合、電位は、電圧源53が接続されている導電性層60に印加されるので、表面51に直接印加される。導電性層60の導電性材料は、任意の適切な材料、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)であってもよい。導電性層60は、光学画像化のために一般的に使用される任意の材料、特に、金、グラフェン、ITO、銀、白金、及び酸化グラフェンで作られることができる。理想的には、導電性層60の導電性材料は、以下で議論されるように、プラズモンの形成を回避するために金属でない。導電性層は、そのプラズモン周波数が照明光の波長でないように構成される。これは、材料の選択又は特定の形状による可能性がある。代替的に、照明周波数は、それが物体50又は導電性層の何れかのプラズモン周波数でないように選択される。
【0050】
図4に示される形態においては、物体50は、誘電体材料の誘電体層70を備え、表面51は、その誘電体層70の表面である。誘電体層70は、導電性材料で作られた電極層71上に配置される。電極層71の導電性材料は、任意の適切な材料、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)であってもよい。理想的には、電極層71の導電性材料は、以下で議論されるように、プラズモンの形成を回避するために金属でない。
【0051】
この場合、電位は、電圧源53が接続されている電極層71に印加されるので、表面51に容量的に印加される。
【0052】
図3及び図4は、物体50の例を示すが、より一般的には、本明細書に開示される技法は、電位が印加されてもよい表面51を含む任意の形態を取る物体50で適用されてもよい。幾つかの他の例は以下の通りである。
【0053】
表面51は、固体、液体、又は気体である材料の表面であってもよい。
【0054】
1つのタイプの物体50においては、表面51は、材料の層の表面であってもよい。材料は、固体、液体、又は気体であってもよい。
【0055】
別のタイプの物体50においては、表面51は、3次元で成形された構造の表面であってもよい。一例においては、構造は液滴であってもよく、この場合、表面は、液体の表面又は液体の周囲の界面活性剤の表面であってもよい。別の例においては、構造は気泡であってもよく、この場合、表面は、ガスの表面又はガスの周囲の界面活性剤の表面であってもよい。
【0056】
対電極54は、図3及び図4に概略的に示されるが、任意の適切な形態を取ることができ、例えば、物体50に隣接して配置された別個の要素であり、又は表面51が形成される構造に統合される。
【0057】
物体50は、例えば、図3及び図4に概略的に例示されるように、表面51上に少なくとも1つの粒子55を更に含んでもよい。本技法は、例えば、表面50を画像化若しくは特性評価するために、又は周囲環境を特性評価するために、表面51のみに等しく適用されてもよいので、表面51と共に物体50の一部としての粒子55の存在は必須ではない。
【0058】
粒子55は、典型的には、表面51とは異なる散乱効果を有し、それによって、粒子55と表面51との間にコントラストを提供し、粒子55が2次元画像で同定されることを可能にする。更に、以下でより詳細に議論されるように、電位の印加は、粒子55と表面51との間のコントラストを増加させる動電位コントラストを提供する。以下でまた議論されるように、電位の印加はまた、粒子55が粒子55からの信号の観察によって特性評価されることを可能にする。
【0059】
粒子55は、一般的に、照明光に対して散乱断面積を有する任意のタイプの粒子であってもよい。幾つかの非限定的な例は以下の通りである。
【0060】
粒子55は、誘電体粒子であってもよい。
【0061】
粒子55は、タンパク質又はタンパク質の凝集体であってもよい。
【0062】
粒子55は、金属粒子であってもよい。
【0063】
粒子55は、RNA(リボ核酸)若しくはDNA(デオキシリボ核酸)のような核酸分子、若しくは人工核酸分子、又はそれらの任意の凝集体であってもよい。
【0064】
粒子55は、ポリペプチド、糖ポリペプチド若しくは糖タンパク質、リポポリペプチド若しくはリポタンパク質、又はそれらの任意の凝集体であってもよい。
【0065】
粒子55は、脂質、プロテオグリカン、又は糖ポリマーであってもよい。
【0066】
粒子55は、任意の生体高分子であってもよい。
【0067】
粒子55は、本明細書で列挙される異なる粒子の凝集体、例えば、タンパク質及び核酸の凝集体、糖タンパク質(例えば、抗体)及びタンパク質又はポリペプチドの凝集体であってもよい。
【0068】
粒子55は、天然由来、人工、又は天然と人工との混成物であってもよい。
【0069】
粒子55は、無機粒子又は無機凝集体であってもよい。このような粒子は、生物から構成されず、生物に由来しない。
【0070】
粒子55は、任意のナノ材料、特に設計されたナノ材料であってもよい。
【0071】
多くの生体高分子は自然に帯電しているので、粒子55は荷電粒子であってもよい。例えば、天然の核酸は、リン酸骨格に起因して高く帯電されている。
【0072】
典型的には、粒子55は、10-17以下の照明光に対する散乱断面積を有してもよく、及び/又は10-26以上の照明光に対して散乱断面積を有してもよい。散乱断面積は、特定の波長の入射光に対する物体の有効サイズに関連する基本的な測定可能な特性であり、それを測定するために使用される技法とは無関係である。散乱断面積は、例えば、暗視野顕微鏡による検査によって測定されることができる。
【0073】
粒子55は、10kDa以上の質量を有してもよい。
【0074】
幾つかの用途においては、粒子55は、5000kDa以下の質量を有してもよい。典型的には、本発明は、10kDa以上の質量を有する粒子55、例えば、10kDa~5000kDaの範囲内の質量を有する物体に適用されてもよい。しかし、粒子55は、より大きくてもよく、一般的に、視野内に適合する任意の粒子(又は粒子の一部)であってもよい。これらのより大きい粒子は、上記で議論されたタイプの線状生体高分子から構成されてもよい。5000kDaより大きい質量を有してもよい相対的に大きい粒子の例は、フィブリル、ファイバ、又はシリンダを含む。より大きい粒子は、生物学的に由来してもよく、例えば、フィブリルは、ほぼ全ての生物に見られる構造生物学的物質である。フィブリルを含んでもよい例示的なより大きい粒子は、コラーゲン、アクチン、ミオシン、エラスチン、ケラチン、レシリン、クモ若しくは昆虫の絹、セルロース、アミロース、又は木材を含む。ファイバは、植物組織、鉱物物質、又は織物が形成される糸又はフィラメントとして説明されてもよい。ファイバはまた、人間又は動物の体の筋肉組織、神経組織、結合組織、又はその他の組織の一部を形成する構造である。他のタイプの例示的な生物学的又は人工的なより大きい粒子は、タンパク質フィラメント、タンパク質ケージ、タンパク質凝集体、及び膜チャネルのようなタンパク質チャネルを含む。大きい核酸折り紙構造がまた、より大きい粒子と見なされてもよい。代替的又は追加的に、大きい粒子は、炭素ベースのナノ粒子(例えば、ロッド、チューブ、球、フラーレン)のような無機物であってもよい。同様に、物体50は、粒子の鎖を含んでもよい。この結果、「粒子」という用語は、球形のような特定の形状を暗示せず、表面51上にある任意の実在物を指してもよい。
【0075】
次に、印加された電位下における物体50の電気化学的特性の変化によって提供される動電位コントラストが説明される。
【0076】
表面51に印加された電位は、物体の電気化学的特性に影響を与える。主な例においては、表面51は、電気二重層(EDL)が形成される表面である。その場合、表面51に印加された電位は、EDLの電気化学的特性に影響を与える。
【0077】
液体内のナノ構造の帯電表面の周囲に形成されたEDLは、それらの光散乱強度に影響を与える。EDLの形成は、事実上全ての動電学的プロセスの中心的な要素である。例えば、バッテリにおけるエネルギー貯蔵、分子の救済、膜におけるろ過プロセス、及び液体環境におけるほとんどの輸送の説明は、EDLを考慮することを要求する。
【0078】
EDLは、例えば、図3及び図4に概略的に示されるように、表面51上に形成される電荷の第1及び第2の層56及び57を備える。第1の層56は、表面上に直接形成され、化学的相互作用に起因して表面51に吸着されたイオンを含む。第1の層56は、正又は負であってもよい表面電荷を提供する。第2の層57は、第1の層56上に形成され、クーロン力を介して第1の層56の表面電荷に引き付けられたイオンを含む。この結果、第2の層57は、第1の層55を電気的に遮蔽する。しかし、クーロン力は第1の層56を保持する化学的相互作用より弱いので、第2の層57は、第1の層56より表面51と緩く関連している。第2の層57のイオンは、第1の層56の電気的引力及び熱励起の影響下で表面51に隣接する流体52において移動する自由イオンであり、時として「拡散層」と呼ばれる。
【0079】
EDLの厚さは、一般的に、隣接する流体52のイオン強度に応じて、1ナノメートル~数十ナノメートルの間で変化する。
【0080】
EDLの形成は幾つかの時間スケールに関わり、その中で最も速いのは分子拡散時間スケールD/λ である(Dは拡散定数、λはEDLの厚さの寸法のデバイ長である)。EDLの形成に関係する少量で速い時間スケールは、その局所的動力学への直接アクセスを実験的な課題にする。この領域における多くの観察が、走査型プローブ法又は超微小電極を使用して高周波で局所電流を測定することによって得られた。
【0081】
電位の印加は、EDLの構成の変化を引き起こすことによって、物体50の電気化学的特性に影響を与える。特に、EDLの物理的構造及び/又は組成が変化してもよい。EDLの構成のこのような変化は、検出される散乱信号の変化をもたらす。すなわち、表面電位の変化は、表面の化学的活性を変化させ、それ故に、物体と周囲環境の構成物質、例えば、分子又はイオンとの間の相互作用を変化させる。これは、弾性散乱光の量の変化をもたらすので、物体の散乱コントラストに影響を与え、これは、本明細書においては動電位コントラストに呼ばれる。これは、多くの方法で利用されてもよい顕微鏡による検査のためのコントラスト機構を提供する。
【0082】
実際、EDLの光学コントラストを視覚化することは、空間輸送を観察し、光学顕微鏡による検査の能力を電気化学分析と組み合わせるための広視野測定への直接アクセスを提供する。EDLの形成に起因する表面からの光反射の変化は何十年に亘っているが、ナノ粒子からの弾性光散乱へのその影響は非常に小さい。
【0083】
幾つかの用途においては、動電位コントラストは、物体の特徴がより明確に画像化され、例えば、表面51自体の表面特徴、例えば、構造的特徴及び/若しくは化学組成の特徴、並びに/又は存在してもよい任意の粒子55を画像化することを可能にするコントラスト機構として使用される。同様に、電気化学的特性の変化は局所的なトポグラフィー及び材料組成に依存するので、動電位コントラストはまた、表面の特徴、及び/又はさもなければ背景のスペックルからは認識できない深いサブ波長散乱体である粒子を同定するために有用である。
【0084】
動電位コントラストの原理は次のように考慮される。
【0085】
最初に、予想される動電位コントラストの推定値が、導電ナノスフェアの表面電位の関数として導き出される。主にEDLに関心があるので、ここで、粒子の外側のイオンの再構成に起因する変化が考慮される。プラズモンナノ粒子で以前に観察されたように、粒子内の電荷の注入に起因する分極率の変化がまた発生する場合があるが、誘電体粒子及びITOのような半導体への影響ははるかに少ないと予想される。EDLの光学コントラストは、誘電体である粒子、又は照明光の周波数から遠く離れたプラズモン共鳴周波数を有する金属散乱体である粒子を観察するために使用されることができる。
【0086】
EDLの非常に単純化されたモデルは、粒子表面に対して反対の電荷を有する遮蔽イオンが厚さλ≪aの層に均一に分布することを前提とする(aはナノスフェアの半径である)。このモデルは、特性電位kT/e≒25mV(kはボルツマン定数、Tは温度、eは電子の電荷である)よりはるかに大きい表面電位の物理的条件によく一致し、電荷遮蔽は主にシェルテン層に起因する。拡散層をまた含むEDLのより現実的なモデルの考慮は、光学コントラストのそのスケーリング動作を変化させず、それ故に、現在の推定には不要である。
【0087】
電位Vにおいてナノスフェアを遮蔽するために必要な過剰な対イオンの総数Nは、Vea/kTλ(λはビエラム長である)によって与えられる。レイリー散乱レジームにおいては、ナノスフェアとEDLとの組み合わせたシステムの分極率は、その構成物質の体積和である。レイリー分極率及び屈折率と塩濃度nmix=nsolvent+Kx(xは塩イオンと溶媒分子との数密度の比率である)との間の現象論的関係を使用すると、EDLの散乱αEDLの粒子の散乱αに対する比率の最終的なスケーリング結果は以下の式によって与えられる。
【数1】

ρは水分子の数密度(水溶液を考慮)、Cは前因子である。典型的な誘電体材料及びアルカリハロゲン塩の場合、前因子Cは1のオーダーである。
【0088】
水の場合にρ=55nm―3及びλ=0.7nmを使用すると、表面電位V=1ボルトのNaCl塩溶液における10nm(直径)二酸化チタン粒子の場合には、αEDL/α=0.008が得られる。この小さい比率は、このような変化が干渉法でのみ測定されることができることを示唆する。
【0089】
この結果は、印加された電位Vに伴って及び粒子サイズの減少に伴って(すなわち、ナノスフェアの半径の2乗に反比例して)増加するコントラスト機構の存在を示す。
【0090】
半径rの円柱の場合に同様の推定を繰り返すと、以下がもたらされる。
【数2】

λは、電荷中和が発生するEDLの特徴的な厚さである。
【0091】
この結果はまた、印加された電位Vに伴って及びシリンダのサイズの減少に伴って(すなわち、ナノスフェアの半径の2乗に反比例して)増加するコントラスト機構の存在を示す。それはまた、表面上のナノ粒子の場合より隆起の場合に動電位コントラストを観察しやすくてもよいことを示す。
【0092】
これらの結果は具体的には球及び円柱に関連するが、動電位コントラストは、同様に、表面51の湾曲した特徴によって、又は表面51上の任意の形状の粒子55によって提供される。これは、このような湾曲した特徴又は粒子55の直接の視覚化を提供する。この結果、本技法は、表面51及び任意選択で粒子55をまた含む物体の広視野画像化を提供するために適用されてもよい。これは、様々なシステムの電気化学的特性を観察することを可能にする。
【0093】
上記の分析は、表面51及び表面51上の粒子55の構造的特徴のコントラスト機構を示すが、コントラスト機構は、印加された電位によって影響を受ける表面51の化学組成の変動に対して同様に提供される。
【0094】
以前に印加された電位は、表面プラズモン又はプラズモン粒子に関わるプラズモン共鳴顕微鏡による検査において使用され、照明光によって利用可能なプラズモン共鳴を有する表面及び粒子に限定されるが、粒子の観察のために使用された。しかし、本技法は、プラズモンの共鳴が作り出されない、著しく異なる動作原理を使用する。代わりに、本技法は、上記で説明されたように、動電位コントラストを提供するために、電気化学的特性の変化を使用する。
【0095】
この結果、全ての例においては、物体50(表面51、及び存在する場合には粒子55を含む)は、照明光の波長及び印加された電位においてプラズモン共鳴周波数を有さないように選択される。これは、プラズモン共鳴が、電気化学的特性の変化によって影響を受ける弾性散乱光からの所望の信号をマスクする信号を引き起こすのを防止する。
【0096】
他の用途においては、動電位コントラストは、物体50及び/又は物体50の周囲の環境の特性評価を提供するために使用される。EDLの再構築によって引き起こされる動電位コントラストは、表面51及びその環境によって影響を受ける表面51の電気化学的状態を特性評価するのに十分であり、同様に、表面51上の粒子55の電気化学的状態を特性評価するのに十分である。本技法は、超高速及び長時間の光学測定に利用可能な時間スケールにおいてEDLの動力学への直接アクセスを提供する。表面を横切るイオン輸送及び他の電気化学的活性の広視野画像化が、電気化学的微視的景観のフィードバック制御を作り出すために監視及び使用される。
【0097】
表面51の電気化学的状態を変化させることによって、粒子55の表面51への結合速度が制御及び監視されることができる。表面電位を制御することによって、速度を、測定面の混み合いを早めに回避するために下げ、又は測定プロセスを高速化するために上げることができる。表面電位の関数としての吸着速度の可能性がまた、吸着剤の特性の重要な指標である。
【0098】
印加された電位の性質に応じて、様々な電気化学的特性が観察されてもよい。
【0099】
幾つかの用途においては、印加された電位は、それによって影響を受ける物体50の電気化学的特性の応答期間に亘って一定である振幅を有する。これは、物体50の静的電気化学的特性に依存する信号を提供する。
【0100】
他の用途においては、印加された電位は、それによって影響を受ける物体50の電気化学的特性の応答期間より短い期間に亘って変化する振幅を有する。例えば、印加された電位の振幅は、それによって影響を受ける物体の電気化学的特性の応答周期より短い周期に亘って交流する振幅を有してもよく、又は段階的変化を受ける振幅を有してもよい。これは、物体50の動的電気化学的特性に依存する信号を提供する。
【0101】
異なる電位における電気化学的特性が観察されてもよい。
【0102】
例えば、複数の異なる電位が表面に印加されてもよい。その場合、物体の一部から弾性散乱された光は、物体のその一部及び/又は周囲環境の特性評価のために、各電位に関して検出される。各電位に関して、物体の一部から弾性散乱された光のプロファイルの類似度が、参照プロファイルと比較されてもよい。
【0103】
動電位コントラストを示す実験結果は、以下のように得られた。
【0104】
物体50は、図3に示されるタイプであり、スライドガラス上に厚さ50nmのコーティングとして提供され、電位が印加された酸化インジウムスズ(ITO)の導電性層60の表面51から構成された。
【0105】
物体50の顕微鏡による検査は、図1に示されるタイプのTIR散乱顕微鏡20を使用して実行された。物体50の50μmの正方形のサイズの領域が、開口数1.45を有する油浸タイプの対物レンズ31を介して照射された。
【0106】
基板表面及びナノ粒子からの散乱光の相互干渉項は、粒子の分極率の変化に比例し、ここではEDLの再構成を視覚化するために使用される。背景散乱信号は、動電位コントラストよりはるかに小さい変動(1%のオーダー)で安定に保たれる。この一定のレベルは、顕微鏡の機械的安定性及びサンプルステージのkHz帯域幅の安定化に特別な注意を払うことによって達成される。
【0107】
対電極54は、100μmの距離に保たれた別のITOスライド又は浮遊Pt電極として提供された。Ag/AgClのような別個の参照電極の使用は、小さいナノ粒子の堆積によるITO表面の汚染を防止するために回避された。
【0108】
特に指定のない限り、電位は、散乱画像を記録する際に一方に偏らない三角波形として印加された。
【0109】
図5は、ITO表面が、散乱が10~100倍低い比較的滑らかな領域から分離されている、鋭い縁部及び角度を有する平行四辺形の形態の高い散乱の領域を有することを示すITOの散乱画像である。図6及び図9に示されるようなITO表面の原子間力顕微鏡による検査は、これらの領域における約20nmのまばらな粒子の存在の検出を可能にする。これらの粒子を閉じ込める鋭い境界は、ITOのアニーリング処理中の化学量論的に過剰なスズ又はインジウムにおそらく関連する、それらの形成の結晶学的起源を示す。
【0110】
対電極に対するITO基板の電位を変化させる際に、散乱画像が記録された。それぞれからサイクル全体の平均散乱信号を差し引くことによって、図7に示されるように、動電位コントラスト画像が得られる。まず、露出したITO基板が、粗い表面及び滑らかな表面の両方が見える領域で測定される。ITO粗領域上の粒子の相対的に均一のサイズ分布のために、それらは、他のタイプのナノ粒子の動電位コントラストの参照として使用されることができる。
【0111】
EDLの再構成が測定された動電位コントラストへの主な寄与であることを示すために、同じ濃度の3つの異なる一価塩に対するITOの同じ領域、及び脱イオン水が調査された。印加された電位は、表面54の電気化学的特性の応答期間と比較してゆっくりと変化した。この結果、事実上、印加された電位は、その応答期間に亘って一定の振幅を有したが、異なる電位における弾性散乱光は、光検出器32のサンプリングレートで検出された。
【0112】
図8は、一点の散乱強度が三角波形で印加された電位の変化に応答してどのように変化するかを示す。
【0113】
図10図13は、印加された電位、及び表面51から弾性散乱された検出された光を示す。数十サイクルに亘って平均化された、印加された電位に対する単一のスペックルの強度変動が示される。これは、僅かの電気素量の交換に対応する、10~18アンペアの局所電流レベルにおいてサイクリックボルタンメトリーを実行するために、動電位コントラストを使用する。
【0114】
結果は、表面51の環境における溶液を特性評価する。例えば、ここでの実験条件においては、2mMのNaI及びNaClの動電位コントラストは、NaBr及びDI水の4倍であった。同様に、各印加された電位に関する弾性散乱光のプロファイルは、溶液ごとに異なる。
【0115】
次に、直径19nmの単一のチタニア(TiO)粒子の光学コントラストの変化が観察された。ITO表面上に着地するチタニア粒子を観察する際に、粒子の懸濁液が測定セルに挿入された。過剰な非堆積粒子は、2mMのNalの溶液によって置き換えられた。
【0116】
図14は、TiO粒子の散乱顕微鏡画像を示す。比較すると、図15は、動電位コントラスト、すなわち、各ピクセルの平均に対する電位、例えば、図8と同様の曲線で測定された信号の平均強度に対する振幅を適用する際の強度振動の振幅を示す。
【0117】
印加された電位は、表面54の電気化学的特性の応答期間と比較してゆっくりと変化した。この結果、事実上、印加された電位は、その応答期間に亘って一定の振幅を有したが、異なる電位における弾性散乱光は、光検出器32のサンプリングレートで検出された。
【0118】
図16及び図17はそれぞれ、印加された電位、及び表面51上のTiO粒子及び粗いスポットから弾性散乱された検出された光をそれぞれ示す。これは、僅かの電気素量の交換に対応する、10~18アンペアの局所電流レベルにおいて単一の19nmの二酸化チタンのサイクリックボルタンメトリーを実行するために、動電位コントラストを使用する。この比較は、動電位顕微鏡による検査の材料特異性を明確に示す。
【0119】
要約すると、これらの結果は、光学コントラストの変化から直接EDLの再構成の実験測定を示す。干渉散乱が、単一の生体分子を数十kDまでプロービングする感度を有することを考えると、動電位コントラストの測定は、単一のタンパク質の酸化及び還元プロセス並びにその他の反応を長期間測定することを容易にする。
【0120】
電気化学的反応電位と比較して相対的に低い電位で、完全に分極可能な電極を使用すると、動電位散乱コントラストは、主にEDLの再構成に起因する。すなわち、弾性光散乱は、主に溶媒とは異なる光分極率(屈折率)を有する対イオンの物理吸着の影響を受ける。塩のタイプに対する動電位コントラストの依存性が示され、塩の特性評価を可能にする。
【0121】
より高い電位においては、吸着されたナノ粒子からの動電位コントラストは、それらの電気化学的活性化に起因して、下にあるITO基板とは異なるパターンを示す。この違いは、単一の19nmの二酸化チタンナノ粒子のサイクリックボルタンメトリーの光学的均等物を実行するために使用される。動電位コントラストの材料及び表面トポグラフィー依存性は、単一の巨大分子の化学的特異的光学顕微鏡による検査のためのこれまで未開発のコントラスト機構を作り出す。同様に、水分解のような反応が始まるより高い電位の場合には、このコントラストは、生成物の形成を測定するために使用されることができる。
【0122】
これらのプロセスの開始は、印加された電位に対するコントラスト信号の非線形性によって最もよく同定されることができる。このレジームにおいては、動電位コントラスト顕微鏡による検査は、電流測定の代わりに変位した電荷を示す光学コントラストと共に、サイクリックボルタンメトリーと同様の情報を提供することができる。
【0123】
本技法は多くの用途を有し、幾つかの非限定的な例は以下の通りである。
・電位を印加することによって、表面電荷を有する粒子を選択的に撥ね付け又は引き付ける。これは、様々な粒子が表面に引き付けられ、例えば、質量測光を使用して測定されることを可能にする。このような能力は、タンパク質及び核酸を有する生物学的サンプルのような混合粒子を含む物体において特に有用であってもよい。
・中性、陰性、及び/又は陽性において測定することによって、測定面との相互作用バイアスを確認し、すなわち、追加の種が電位において引き付けられないことを確認する。
・異なる電位における測定値、例えば、中性における測定値と特定の電位における測定値を比較する。代替的に、異なる電位における測定値を比較する。電位のある表面との相互作用は、電荷相互作用に基づく粒子結合と競合する。
・電位が結合された複合体の相互作用を選択的に解離することができるか否かを調べる。
・単一のナノスケールの物体の特性とそれらの(電気)化学状態、例えば、単一のタンパク質の酸化/還元、単一の粒子の触媒活性の進行、「検出された」生体分子の周囲の「見えない」イオンの存在量の変化、又は生体分子の化学的状態の変化を監視する。
・これらの物体と他の分子との相互作用、例えば、他の分子の結合/非結合、近くの物体又は表面とのイオン交換、溶媒における特定の分子への親和性を監視する。
・表面の不均一性及び特定の欠陥又は表面構造を同定及び監視する。
・表面において化合物の核形成、形成、及び解離を観察する。
・干渉散乱質量分析のために、溶液における分子の表面への結合/非結合速度を調整する。
・(継続的に)調整可能な表面電位を有する1つ以上の導電表面上で干渉散乱を実行する。
・反射コントラストのヘテロダイン測定を行う。
・材料特性を推測するために、単一の粒子レベルにおける表面電位の変化に対する反射コントラストの非線形応答を測定する。
・誘電物体上で光学コントラスト電気化学測定を実行する(金属粒子に関する以前の作業とは対照的)。
・溶媒特性及び反応性化学物質の存在を検出する。
・表面上で混合相(気泡、ポリマー)の動力学を調査する。
・光散乱信号で、ナノ細孔を通過する物体の動力学を監視する。
・基本的に表面上でサイクリックボルタンメトリーによって行われる多くの実験が、ここでは単一の粒子上で行われることができる。
・表面の上部上で、縁部において、又は尾根に沿ってイオン電流及びイオン濃度の具体的な変動を測定する。
・上記の全ての時間動力学を測定する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17