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特許7464330スクリュー用母材、スクリューとその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】スクリュー用母材、スクリューとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/06 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
A61L27/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023527537
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015918
(87)【国際公開番号】W WO2022259731
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2021095318
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502262654
【氏名又は名称】株式会社丸ヱム製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】山中 茂
(72)【発明者】
【氏名】篠原 綾
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】川島 遼太郎
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038487(WO,A1)
【文献】特表2016-505387(JP,A)
【文献】特表2021-508764(JP,A)
【文献】特開2005-105385(JP,A)
【文献】特開平08-289927(JP,A)
【文献】特開平07-163605(JP,A)
【文献】特開平07-124242(JP,A)
【文献】特表2012-506290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61C 1/00-19/10
C22F 1/00- 3/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)略円筒形でありその断面積がA0である純チタン素材を準備する工程;及び
(II)前記純チタン素材をスエージングする工程;
を有することにより、加工歪の導入と再結晶の生成を行い、スエージング後の断面積がA1であり、ln(A0/A1)で表される真ひずみが2以上である略円筒のスクリュー用母材を得る、スクリュー用母材の製造方法であって、
前記(II)工程のみにより、前記スクリュー用母材は、前記略円筒形の軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性の比強度の最大値が3以上であり、
前記スクリュー用母材の純チタンの結晶子サイズが280Å以下であり、
前記スクリュー用母材は、以下の特性i)~iii)のうちの少なくとも1つの特性を有することとなる、上記方法:
特性i):引張り強さが800MPa以上;
特性ii):硬さが200HV以上;
特性iii):絞りが45%以上。
【請求項2】
前記方法が、中間焼鈍工程フリーである請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、前記(I)工程及び前記(II)工程のみからなることにより、加工歪の導入と再結晶の生成を行い、スエージング後の断面積がA1であり、ln(A0/A1)で表される真ひずみが2以上である略円筒のスクリュー用母材を得る請求項又はに記載の方法。
【請求項4】
スクリュー用母材が医療用アンカースクリュー用母材である請求項1~のいずれか一項に記載の方法
【請求項5】
スクリュー用母材が歯科矯正用アンカースクリュー用母材である請求項1~のいずれか一項に記載の方法
【請求項6】
(I)その断面積がA0である略円筒の純チタン素材を準備する工程;及び
(II)前記純チタン素材をスエージングする工程;
を有することにより、加工歪の導入と再結晶の生成を行い、スエージング後の断面積がA1であり、ln(A0/A1)で表される真ひずみが2以上である略円筒のスクリュー用母材を得、
該(II)工程のみにより、前記スクリュー用母材は、前記略円筒形の軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性の比強度の最大値が3以上であり、
前記スクリュー用母材の純チタンの結晶子サイズが280Å以下であり、
前記スクリュー用母材は、以下の特性i)~iii)のうちの少なくとも1つの特性を有することとなり、
(III)前記略円筒のスクリュー用母材にスクリュー形状を付与する工程;
を有することにより、スクリューを得る、スクリューの製造方法であって、
該スクリューは、前記略円筒形の軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性の比強度の最大値が3以上であり、
前記スクリューの前記純チタンの結晶子サイズが280Å以下であり、
前記スクリューは、以下の特性i)~iii)のうちの少なくとも1つの特性を有する、上記方法:
特性i):引張り強さが800MPa以上;
特性ii):硬さが200HV以上;
特性iii):絞りが45%以上。
【請求項7】
前記工程(II)後に、スクリュー用母材を250℃以下で圧造することによりネジ頭部を成形する工程をさらに有するか、又は前記工程(III)後に、スクリューを250℃以下で圧造することによりネジ頭部を成形する工程をさらに有する請求項記載の方法。
【請求項8】
前記比強度の最大値が5以上である請求項1~7のいずれか一項に記載の方法
【請求項9】
前記純チタン素材が、純チタン2種、純チタン3種、純チタン4種、及び結晶粒を1μm以下に微細化された純チタンからなる群から選ばれる請求項1~8のいずれか一項に記載の方法
【請求項10】
前記純チタン素材が、純チタン4種である請求項1~のいずれか一項に記載の方法
【請求項11】
クリューが医療用アンカースクリューである請求項10のいずれか一項に記載の方法
【請求項12】
クリューが歯科矯正用アンカースクリューである請求項11のいずれか一項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュー用母材又はスクリュー及びその製造方法、特に医療用スクリュー用母材又は医療用スクリュー及びその製造方法、より特に医療用アンカースクリュー用母材又は医療用アンカースクリュー及びその製造方法、さらに特に歯科矯正用アンカースクリュー母材又は歯科矯正用アンカースクリュー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン製医療用スクリューは、医療用インプラントにおいて重要となっている。これらのほとんどは、合金チタン(Ti64)で作られている。合金チタン(たとえば、Ti-6Al-4V)は、合金元素のため、特にバナジウムによるアレルギーの問題があった。
【0003】
また、工業用製品においても、例えば半導体業界では、清浄度と耐食性が求められる特殊な酸・溶液を使用する基板の洗浄工程、また、真空または特殊なガスの環境にさらされる成膜工程においては、合金チタン、例えばTi-6Al-4Vでは、耐食性が純チタンより劣るだけでなく、添加元素であるアルミニウムやバナジウムの溶出が起こり、不純物混入の原因になるため、合金チタンは使用できず純チタンのスクリューを使用している。一方、純チタンは、強度が低いため、スクリューのサイズを大きくするか又はスクリューの本数を増やすなどして強度の不足を補っており、純チタン自身の強度向上が求められている。
【0004】
そこで、純チタンの強度を向上する方法として、例えば、特許文献1、特許文献2にはインプラントとしてチタンまたはチタン合金に対してスエージング加工することにより機械的な特性が向上することが示されている。また、特許文献3には、適切な加工条件や加工度が示されている。ただし、特許文献1~3は、金属の塑性加工に共通する一般的な加工強化の長所をしめしたものであり、加工度は20~80%にすることが好ましく、80%より大きくすると脆くなること、加工するときに割れが発生することが示されている。
【0005】
また、特許文献4では、スエージング加工の加工様式の特徴に関する内容が示されているが、定性的なものにとどまっており、信頼性の点から十分とは言えない。
特許文献5には、温間圧延、押出、型鍛造などの方法により、チタンに機械的な特性を向上させる技術が示されている。これは、チタンの結晶微細化強化法の一つである繰り返しせん断変形加工法(ECAP)を用いて、周囲から加熱しながら温度を制御して素材を作り、その後、主な二次加工である圧延で効果を高めたものである。特に、微細化と結晶の等方性の改善に特徴がある。
【0006】
また、特許文献6においても、多軸鍛造処理法(MDF)でチタンを微細化した後、これに圧延や線状加工を行うこと、またその時の加工温度を70℃以下とすることで強度アップが実現できることなどが示されている。
さらに、非特許文献1では、純チタン1種から4種について、それぞれ急冷などの熱処理による組織変化で微細化した材料を出発点にして、さらに加工で強化することが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】平成26年度研究成果報告書(公益法人京都技術科学センター) 松本洋明 軽量純チタン材の新しい超微細粒組織形成と高機能化・実用塑性加工への新展開。
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-124242。
【文献】特開平9-135852。
【文献】特開平7-124242。
【文献】特開平9-135852。
【文献】特許第5536789号。
【文献】特許第6737686号。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
純チタンはアレルギーのリスクが最も少ない金属であるが、医療用スクリューに必要な引張強度とねじり破断強度が合金チタンと比較して不足していた。低侵襲が求められているので、サイズアップによる強度アップは好ましくなく、材料そのものに強度が必要となっている。
従来の技術は、機械的な特性を向上させるために、純チタンの加工硬化や微細強化特性を利用しようとしたが十分でなく、最近では、巨大ひずみ加工(UFG、bulk ultrafine grained)により微細強化した特殊素材を作った後、圧延加工などを行って医療用スクリュー用の円柱形状(バー材あるいは線材)を作っていた。そのため、工程が複雑で、また、巨大ひずみ加工材の形やボリュームに制約があり、実際の大量生産には不向きであり、低コストで生産性に優れた方法が求められていた。
【0010】
一方、バー材あるいは線材として市販されている商用純チタン材(CPチタン、Commercial pure titanium)は、容易に入手可能であるが、その結晶粒は数十ミクロンと大きく強度が十分でなく、内部組織には多少ばらつきがあるので、これを用いても安定な生産と高い信頼性を実現する品質管理が必要となっていた。
【0011】
そこで、本発明の目的は、合金チタンに匹敵する十分な強度を有する純チタン製スクリュー用母材又は純チタン製スクリュー、特に医療用スクリュー用母材又は医療用スクリュー、より特に医療用アンカースクリュー用母材又は医療用アンカースクリュー、さらに特に歯科矯正用アンカースクリュー母材又は歯科矯正用アンカースクリューを提供することにある。
【0012】
また、本発明の目的は、上記目的の他に、又は上記目的に加えて、上記純チタン製スクリュー用母材又は純チタン製スクリュー等の製造方法を提供することにある。
具体的には、本発明の目的は、巨大ひずみ加工のような特殊工程を経ることなく、商用の純チタンバー材あるいは線材から製造することができ、生産上も安定にまた信頼性の高い管理方法で上記純チタン製スクリュー用母材又は純チタン製スクリュー等を製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、以下の発明を見出した。
<1> 略円筒形の純チタン製スクリュー用母材又はスクリューであって、略円筒形の軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性の比強度の最大値が3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であるスクリュー用母材又はスクリュー。なお、「(1 0 -1 0)面」の語については、後述を参照のこと。
<2> 上記<1>において、純チタンの結晶子サイズが280Å以下、好ましくは270Å以下、より好ましくは260Å以下であるのがよい。
【0014】
<3> 上記<1>又は<2>において、スクリュー用母材又はスクリューは、以下の特性i)~iii)のうち、少なくとも1つの特性、2つの特性、又は3つの特性を有するのがよい。
特性i):引張り強さが800MPa以上、好ましくは860MPa以上、より好ましくは920MPa以上;
特性ii):硬さが200HV以上、好ましくは220HV以上、より好ましくは240HV以上;
特性iii):絞りが45%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上。
【0015】
<4> 純チタン製スクリュー用母材又はスクリューであって、前記純チタンの結晶子サイズが280Å以下、好ましくは270Å以下、より好ましくは260Å以下であり、且つ以下の特性i)~iii)のうち、少なくとも1つの特性、2つの特性、又は3つの特性を有するスクリュー用母材又はスクリュー。
特性i):引張り強さが800MPa以上、好ましくは860MPa以上、より好ましくは920MPa以上;
特性ii):硬さが200HV以上、好ましくは220HV以上、より好ましくは240HV以上;
特性iii):絞りが45%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上。
【0016】
<5> 上記<1>~<4>のいずれかにおいて、純チタンが、純チタン2種、純チタン3種、純チタン4種、及び結晶粒を1μm以下に微細化された純チタンからなる群から選ばれるのがよい。
<6> 上記<1>~<5>のいずれかにおいて、純チタンが、純チタン4種であるのがよい。
【0017】
<7> 上記<1>~<6>のいずれかにおいて、スクリュー用母材又はスクリューが医療用アンカースクリュー用母材または医療用アンカースクリューであるのがよい。
<8> 上記<1>~<7>のいずれかにおいて、スクリュー用母材又はスクリューが歯科矯正用アンカースクリュー用母材または歯科矯正用アンカースクリューであるのがよい。
【0018】
<9> (I)略円筒状でありその断面積がA0である純チタン素材を準備する工程;及び
(II)前記純チタン素材をスエージングする工程;
を有することにより、スエージング後の断面積がA1であり、ln(A0/A1)で表される真ひずみが2以上である略円筒状のスクリュー用母材を得る、スクリュー用母材の製造方法。
【0019】
<10> (I)その断面積がA0である略円筒状の純チタン素材を準備する工程;及び
(II)前記純チタン素材をスエージングする工程;
を有することにより、スエージング後の断面積がA1であり、ln(A0/A1)で表される真ひずみが2以上である略円筒状のスクリュー用母材を得、
(III)前記略円筒状のスクリュー用母材にスクリュー形状を付与する工程;
を有することにより、スクリューを得る、スクリューの製造方法。
【0020】
<11> 上記<1>~<8>のいずれかに記載のスクリュー母材又は上記<9>に記載の製造方法で得られたスクリュー母材を250℃以下で圧造することによりネジ頭部を成形する工程を有する、スクリューの製造方法。
【0021】
<12> 上記<10>において、前記工程(II)後に、スクリュー用母材を250℃以下で圧造することによりネジ頭部を成形する工程をさらに有するか、又は前記工程(III)後に、スクリューを250℃以下で圧造することによりネジ頭部を成形する工程をさらに有するのがよい。
【0022】
<13> 上記<9>~<12>のいずれかにおいて、略円筒状のスクリュー用母材又は略円筒状のスクリューは、その軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性の比強度の最大値が3以上、好ましくは4、より好ましくは5であるのがよい。
<14> 上記<9>~<13>のいずれかにおいて、純チタン素材の結晶子サイズが280Å以下、好ましくは270Å以下、より好ましくは260Å以下であるのがよい。
<15> 上記<9>~<14>のいずれかにおいて、略円筒状のスクリュー用母材又は略円筒状のスクリューは、純チタンであり、その結晶子サイズが280Å以下、好ましくは270Å以下、より好ましくは260Å以下であるのがよい。
【0023】
<16> 上記<9>~<15>のいずれかにおいて、略円筒状のスクリュー用母材又はスクリューは、以下の特性i)~iii)のうちの少なくとも1つの特性を有するのがよい。
特性i):引張り強さが800MPa以上、好ましくは860MPa以上、より好ましくは920MPa以上;
特性ii):硬さが200HV以上、好ましくは220HV以上、より好ましくは240HV以上;
特性iii):絞りが45%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上。
【0024】
<17> 上記<9>~<16>のいずれかにおいて、純チタン素材が、純チタン2種、純チタン3種、純チタン4種、及び結晶粒を1μm以下に微細化された純チタンからなる群から選ばれるのがよい。
<18> 上記<9>~<17>のいずれかにおいて、純チタン素材が、純チタン4種であるのがよい。
【0025】
<19> 上記<9>~<18>のいずれかにおいて、スクリュー用母材又はスクリューが医療用アンカースクリュー用母材または医療用アンカースクリューであるのがよい。
<20> 上記<9>~<19>のいずれかにおいて、スクリュー用母材又はスクリューが歯科矯正用アンカースクリュー用母材または歯科矯正用アンカースクリューであるのがよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、合金チタンに匹敵する十分な強度を有する純チタン製スクリュー用母材又は純チタン製スクリュー、特に医療用スクリュー用母材又は医療用スクリュー、より特に医療用アンカースクリュー用母材又は医療用アンカースクリュー、さらに特に歯科矯正用アンカースクリュー母材又は歯科矯正用アンカースクリューを提供することができる。
また、本発明により、上記効果の他に、又は上記効果に加えて、上記純チタン製スクリュー用母材又は純チタン製スクリュー等の製造方法を提供することができる。
具体的には、本発明により、巨大ひずみ加工のような特殊工程を経ることなく、商用の純チタンバー材あるいは線材から製造することができ、生産上も安定にまた信頼性の高い管理方法で上記純チタン製スクリュー用母材又は純チタン製スクリュー等を製造することができる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】純チタン2種(CP-T2)、純チタン4種(CP-T4)及びFTi2の素材を真ひずみ0、2.0及び3.7で調製して得られた、実施例のロッド状加工済み母材の(1 0 -1 0)面を解析ソフトDIFFRAC.TEXTURE MRDB V4.1(BRUKER社製)を用いて極点図として表した図である。
図2】実施例で得られたロッド状加工済み母材についての、横軸を結晶子サイズ(Å)、縦軸を引張り強さ(MPa)、とした図である。
図3】実施例で得られたロッド状加工済み母材についての、横軸を結晶子サイズ(Å)、縦軸を硬さ(HV)、とした図である。
図4】実施例で得られたロッド状加工済み母材についての、横軸を結晶子サイズ(Å)、縦軸を絞り(%)、とした図である。
図5】実施例で得られたロッド状加工済み母材についての、横軸を真ひずみε、縦軸を結晶子サイズ(Å)、とした図である。
図6】実施例で得られたロッド状加工済み母材についての、横軸を真ひずみε、縦軸を最大比強度(配向性)、とした図である。
図7】実施例で得られたロッド状加工済み母材についての、横軸を最大比強度(配向性)、縦軸を引張り強さ(MPa)、とした図である。
図8】実施例で得られたロッド状加工済み母材についての、横軸を最大比強度(配向性)、縦軸を硬さ(HV)、とした図である。
図9】実施例で得られたロッド状加工済み母材についての、横軸を最大比強度(配向性)、縦軸を絞り(%)、とした図である。
図10】素材CP-T4を用いて得られた母材についての、横軸を真ひずみε、縦軸を絞り(%)、とした図である。
図11】素材CP-T4を用いて真ひずみ0及び真ひずみ2.65として得られた母材に、頭部加工をした該頭部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本願に記載する発明(以降、「本発明」と略記する場合がある)について説明する。
本願は、略円筒形の純チタン製スクリュー用母材、略円筒形の純チタン製スクリュー、該スクリュー用母材の製造方法、該スクリューの製造方法を提供する。
以降、順に説明する。
<スクリュー用母材>
本願は、略円筒形の純チタン製スクリュー用母材であって、略円筒形の軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性の比強度の最大値が3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であるスクリュー用母材を提供する。また、配向性の比強度の最大値は、15以下、好ましくは12以下、より好ましくは10以下であるのがよい。
なお、本明細書における「(1 0 -1 0)」という語句は、実際には下記(X)で表されるのが通常である。しかしながら、本明細書においては、便宜上、「(1 0 -1 0)」という語句を用いることとする。
【0029】
【数1】
【0030】
「略円筒形」とは、スクリュー用母材にあっては、円筒の形状が含まれるのは勿論であるが、該円筒形の軸方向に沿って側面が傾斜されている、いわゆる円錐台形も含まれる。
「純チタン製」とは、不純物を全く含まないものだけでなく、JIS規格による、純チタン1種、純チタン2種、純チタン3種、又は純チタン4種であってもよく、また、結晶粒を1μm以下に微細化された純チタンであってもよい。
なお、「純チタン」の材質は、純チタン2種、純チタン3種、純チタン4種、及び結晶粒を1μm以下に微細化された純チタンからなる群から選ばれるのがよい。
【0031】
<軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性>
本発明のスクリュー用母材は、略円筒形の軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性の比強度の最大値が3以上である。また、該最大値が、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であるのがよい。また、配向性の比強度の最大値は、15以下、好ましくは12以下、より好ましくは10以下であるのがよい。
ここで、「軸方向」とは、略円筒形の長さ方向と同義である。
純チタンは、通常、等方性(あるいは、等軸晶)であるが、加工によって配向性を付与することができる。該配向性により等方性(あるいは、等軸晶)組織では得られない特性をスクリュー用母材に与えることができる。断面が円形である略円筒形のスクリュー母材を得るための原料素材の外周面に垂直に、該素材の中心に向かって加わる力によって、軸方向に特定の結晶面を優先的に配列させる。これにより、一般に軸方向の強度が上昇し、スクリュー用母材及び該母材から形成されるスクリューの引張強さを向上させることができる。
【0032】
これまで、純チタンの配向性は、結晶子とともに基本的な特性でありながら、定量的に扱うことはなく、機械的特性に関与する定性的な要因として扱われてきた。この配向性を定量的に評価するために、X線回折(XRD)を用いて、注目する方向に対する純チタンの特定の結晶面について、平均強度に対する強度の比の最大値をもって、定量的に扱うことを見出した。
【0033】
すなわち、最密六方晶である純チタンにおいて特徴的な結晶面(1 0 -1 0)に関して、略円筒形の材料の横断面に垂直な方向(軸方向)の極点図を作り、そのなかの最大比強度を求めることを考えた。これが、「略円筒形の軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性の比強度の最大値」である。
【0034】
極点図は、材料のある断面について、材料の特定の結晶面がどのように分布しているかを示すもので、一般にその強度が輪郭図あるいは濃淡で示される。最も濃い部分の強度の、平均に対する比をもって、最大の比強度とする。比強度が大きいほど配向性(異方性ともいう)が大きく、1に近いほど配向性がなく等方的あるいはランダムな分布であることを示す。
【0035】
比強度の最大値は、上述したように、X線回折(XRD)を用いることにより得ることができる。具体的な求め方として、X線回析装置としてBRUKER社製D8 ADVANCEを使用し、管球にはコバルトを用い、その出力を電圧35kV、電流を40mAとした。発散スリット径:0.3mm、コリメータ径:0.3mmとして2次元検出器を用いる。
【0036】
極点図の作成において、試料の面内方向角度Φは一周360度を5度刻みに72ステップ測定し、傾き角Ψのレンジは始点を15度、終点を45度として測定して求めた。得られた測定データは 解析ソフトDIFFRAC.TEXTURE MRDB V4.1(BRUKER社製)を用いて解析を行い、純チタンの配向性おいて特徴的な挙動を示す(1 0 -1 0)の極点図をそれぞれ作成する。これにより、この結晶面がどの方向に多く向いているかが、色の濃さでわかるように設定されている。極点図全体の平均強度を1と規定した相対強度の最大値を最大比強度とする。材料が等方的である場合(配向性がない場合)は色の濃淡が少なく、配向性が現れると、ある角度で濃い部分が生じ、その角度の相対強度は高くなる。なお、この強度が最大値となる角度は、等高線図(コンター図)を用いても、見出すことができる。
【0037】
本発明において、上述したとおり、「略円筒形の軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性の比強度の最大値」が3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であるのがよい。
【0038】
<機械特性>
スクリュー、特に医療用スクリューには、高強度と高じん性が要求される。該特性は、スクリュー用母材においても同様に要求される。
強度に関して、スクリュー軸方向、即ちスクリュー用母材の軸方向の引張強さが重要である。
引張り強さは、800MPa以上、好ましくは860MPa以上、より好ましくは920MPa以上であるのがよい。
合金チタン(例えば、Ti-6%Al-4%V)と同等近くにするためには820MPa以上であることが好ましい。用途によっては、950MPaであることがさらに好ましい。
引張り強さは、アムスラー式万能試験機により測定することができる。
【0039】
また、スクリュー、特に医療用スクリューをねじ込む際にねじりせん断強度が必要である。該ねじりせん断強度は、材料の硬さと概ね比例する。
したがって、ビッカース硬さが200HV以上、好ましくは220HV以上、より好ましくは240HV以上であるのがよい。
硬さは、ビッカース式硬さ試験機により測定することができる。
【0040】
さらに、スクリューとしては高じん性(脆くない性質)が必要であり、一般には破断時に十分なくびれがあること、すなわち絞りがあることが要求される。
したがって、絞りが45%以上、好ましくは50%以上、後続の加工性、たとえば圧造性を考慮すると、60%以上であるのがより好ましい。
なお、本明細書において「絞り」とは、略円筒形の軸方向(長さ方向)の塑性加工性を意味する。
絞りは、引張り破断を起こした時のくびれの評価値により測定することができ、具体的にはアムスラー型万能試験機により試験および測定することができる。
【0041】
<結晶子サイズ>
スクリュー、特に医療用スクリューに適した構造を作り、また実際の製品の信頼性を得るためには、評価の方法が重要となるが、純チタンにおけるこの現象は、再結晶、ひずみの蓄積、双晶など非常に複雑に絡み合う現象である。そのため、結晶粒そのものが複雑になるため、従来の評価法、例えば、光学顕微鏡での測定や評価では困難であり、また、透過型X線装置による結晶粒径の判定でも、隣接する結晶同士の角度(傾角)を設定するなど複雑な手続きが必要となる。また、この方法では容易に生産の際の工程の検査・評価方法としてふさわしくない。
【0042】
そこで、複雑な結晶粒の中で本来の結晶単位として存在する結晶子サイズを用いることで、上記の複雑な構造に有効な指標を与え、これを適切に用いることで、目的とするスクリュー、特に医療用スクリューが、所望の機械特性を有することを見出した。
【0043】
結晶子とは、結晶粒径とは異なり、X線回折に寄与する最小単位であり、結晶粒の中で単結晶としてみなせる部分のことである。
結晶子サイズは、見かけの結晶の大きさから判断される結晶粒径とは異なり、それより小さい値(あるいは単位)となる。また、純粋な単結晶においては結晶粒径と結晶子のサイズはほぼ同じものとみなせるが、加工が加わり、結晶が様々な条件でその規則性を失うと、それらは必ずしも結晶粒径と相関があるものではなくなる。
加工の有無及び加工の度合いに関わらず、純チタンが所望の特性、特に機械特性を有することの指標として、結晶子サイズを用いることとした。
【0044】
結晶子サイズは、X線解析装置(XRD)により同定が可能であり、生産上の工程検査として使用することもできる。
具体的には、結晶子サイズは、次のように測定することができる。
BRUKER社製X線回折装置(D8 ADVANCE)を用い、X線はコバルトのKα線を使用する。コバルト管球の出力は35kVで電流は40mAとする。
本明細書において、結晶子サイズは、純チタンの結晶面(1 0 -1 0)の回折X線を測定することにより求める。
X線の走査範囲は、2θ=35.0°~48.0°、発散スリット径は 0.3mm、コリメータ径は0.3mmとする。測定データの解析は、同社の解析ソフトDIFFRAC.EVAを用いる。
結晶子サイズをLvol[Å]、測定波長λ[Å]、装置の影響を除いたピークの積分幅β [rad]、ピークの角度位置θ[rad]とし、結晶子サイズLvolは、式1で表されるScherrerの式から求めることができる。
【0045】
【数2】
【0046】
なお、結晶子サイズの詳細については、早稲田、松原、篠田(2008)演習X線構造解析の基礎(内田老鶴圃)103-108頁(これらの全ては参照により本明細書に含まれる)を参照することができる。
【0047】
本発明において、結晶子サイズが280Å以下、好ましくは270Å以下、より好ましくは260Å以下であるのがよい。
【0048】
<スクリュー>
本発明のスクリューは、上述のスクリュー用母材から形成されるのがよい。したがって、本発明のスクリューは、上述のスクリュー用母材と同じ特性を有するのがよい。
すなわち、本発明のスクリューは、略円筒形の純チタン製スクリューであって、略円筒形の軸方向の(1 0 -1 0)面の配向性の比強度の最大値が3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であるのがよい。
また、純チタンの結晶子サイズが280Å以下、好ましくは270Å以下、より好ましくは260Å以下であるのがよい。
【0049】
さらに、以下の機械特性i)~iii)のうち、少なくとも1つの特性、2つの特性、又は3つの特性を有するのがよい。
特性i):引張り強さが800MPa以上、好ましくは860MPa以上、より好ましくは920MPa以上;
特性ii):硬さが200HV以上、好ましくは220HV以上、より好ましくは240HV以上;
特性iii):絞りが45%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上。
【0050】
また、本発明のスクリューは、純チタン製であり、具体的には、純チタンが、純チタン2種、純チタン3種、純チタン4種、及び結晶粒を1μm以下に微細化された純チタンからなる群から選ばれるのがよく、好ましくは純チタン4種であるのがよい。
【0051】
さらに、本発明のスクリューは、A)上記配向性の比強度の所望の最大値とB)所望の結晶子サイズとの組合せを有するのがよい。もしくは、本発明のスクリューは、B)所望の結晶子サイズとC)機械特性i)~iii)のうち、少なくとも1つの特性、2つの特性、又は3つの特性との組合せを有するのがよい。もしくは、本発明のスクリューは、A)上記配向性の比強度の所望の最大値と、B)所望の結晶子サイズと、C)機械特性i)~iii)のうち、少なくとも1つの特性、2つの特性、又は3つの特性との組合せを有するのがよい。
【0052】
本発明のスクリュー用母材は、医療用スクリュー用母材、特に医療用アンカースクリュー用母材であるのがよい。医療用アンカースクリュー用母材は、歯科矯正用アンカースクリュー用母材であるのがよい。
また、本発明のスクリューは、医療用スクリュー、特に医療用アンカースクリューであるのがよい。医療用アンカースクリューは、歯科矯正用アンカースクリューであるのがよい。
【0053】
<スクリュー用母材の製造方法>
上記スクリュー用母材は、次の製造方法により製造することができる。
すなわち、
(Ia)純チタン素材を準備する工程;及び
(IIa)前記純チタン素材をスエージングする工程;
を有することにより、上記スクリュー用母材を得ることができる。
【0054】
ここで、純チタンの加工方法として、「スエージング」を採用するが、該採用の理由は以下によるものである。
すなわち、金属材料は、材料を変形(塑性変形)させることで、変形により導入されたひずみエネルギーの約90%を熱に変化させ(加工熱)、自身の温度を上昇させる。一般的には、加工様式にもよるが100℃程度と考えられ、加工中に発生する熱だけを利用して加工することはなく、逆に、熱の短所を抑制するために金型を冷却して加工していた。
【0055】
チタンは熱伝導率が小さく、材料全体への熱の拡散が抑えられ、熱が材料の塑性変形する部分にとどまるのでより温度が上昇する。加工条件が同じであれば、チタンの熱伝導率はスチールの2分の1以下であるため、加工部分の温度も2倍程度、すなわち約200℃程度上昇すると考えられる。
【0056】
また、加工速度(あるいはひずみ速度)を大きくすることで、ある速度以上では高速加工領域に入り、上記の加工熱とは異なる機構で、局所的に大きな熱を発生させることができる。例えばスエージングでは、外周ローラーの高速回転を利用できるため、概ね50メートル/秒の表面の衝突加工速度を実現することも可能である。その時のひずみ速度はおよそ10~100/sとなりほぼ高速加工の領域に入る。
【0057】
金型と材料であるチタンとの間の接触時間が瞬間的であれば、金型への熱の流れがほとんどなくなり、熱が材料内にこもることになる。スエージングは、こうした特性を有しているので加工熱で自身の温度を上げるには好ましい加工方法である。
【0058】
こうして、チタンの低い熱伝導率と高速加工を合わせて行うことで、周囲から加熱を行うことなく、300℃以上の温度に材料を昇温させることが可能となる。具体的には、高速加工のための回転速度と、加工材の挿入速度、ダイスとの接触時間、潤滑油の塗布量、一回当たりの加工度(単工程の加工度)、トータル加工度(単工程の加工度の総和)を適切に設定することにより、材料の内部の温度を300~400℃を保ちながら、ひずみ速度を制御することができる。これにより、加工ひずみの導入と再結晶の生成の適切なバランス状態(平衡状態)を作ることができる。
【0059】
このように材料自身の加工熱を利用することで、結晶の状態とその配向性を制御することが可能となり、素材の強度とじん性をコントロールすることができ、スクリューにとって適切な構造を形成させ、上述の特性を備えることができる。
【0060】
この方法によれば、中間焼鈍(材料に延性を与えるための軟化熱処理)を行うことなく加工を継続することが可能であり、数回から数十回の単工程を繰り返して材料径を減少させつつ、最終の材料径まで加工することができる。このように、加工中に生じる再結晶により自発的に延性が改善されるので、従来の事例を超えてトータル加工度(単工程の総和)を80~95%以上に大きくとることが可能となる。
【0061】
トータルの加工度をきわめて大きくとることが可能になるので、もはや加工前の素材の組織の状態のばらつきを吸収することができる。
こうした方法を用いると、材料として微細化された素材、例えば、繰り返しせん断変形加工法(ECAP)や多軸鍛造法(MDF)で作られた素材を加工前素材として使用することなく、通常の商用の純チタン1~4種のバー材あるいは線材を用いても、医療用スクリューに十分な特性を付与することができる。
【0062】
具体的には、本発明は、次の製造方法を提供する。
すなわち、(I)略円筒状でありその断面積がA0である純チタン素材を準備する工程;及び
(II)前記純チタン素材をスエージングする工程;
を有することにより、スエージング後の断面積がA1であり、ln(A0/A1)で表される真ひずみが2以上である略円筒状のスクリュー用母材を得る、スクリュー用母材の製造方法を提供する。
また、(I)その断面積がA0である略円筒状の純チタン素材を準備する工程;及び
(II)前記純チタン素材をスエージングする工程;
を有することにより、スエージング後の断面積がA1であり、100×{(A0-A1)/A0}で表される加工度が86%以上である略円筒状のスクリュー用母材を得る、スクリュー用母材の製造方法。
【0063】
ここで、「真ひずみ」とは加工度を示す指標であり、加工前の断面積A0と加工後の断面積A1とから、真ひずみεを次の式2で表すことができる。
【0064】
【数3】
【0065】
ここで、「加工度」とは文字通り加工度を示す指標であり、加工前の断面積A0と加工後の断面積A1とから、加工度eを次の式3で表すことができる。
【0066】
【数4】
【0067】
例えば、加工度eが80%は、真ひずみεでは1.61であり、加工度eが90%は真ひずみεでは2.3であり、加工度eが95%は真ひずみεでは3.0である。
本発明において、真ひずみεは2以上(加工度86%以上)、好ましくは2.5以上(加工度92%以上)、より好ましくは3以上(加工度95%以上)であるのがよい。
本発明の方法により得られたスクリュー用母材は、上記と同じ定義、同じ特性を有する。
【0068】
スエージングは、上述の真ひずみε、及び/又は、上述の加工度eを達成できるのであれば、その条件は特に限定されない。
例えば、スエージングの条件として、加工中の加工材の表面温度を250℃以上になるように諸条件を設定することがあげられるが、それに限定されない。
【0069】
また、本発明は、スクリューの製造方法を提供する。
すなわち、(III)上述のスクリュー用母材の製造方法により得られたスクリュー用母材、又は上述の特性を有するスクリュー用母材にスクリュー形状を付与する工程;
をさらに有することにより、スクリューを得る、スクリューの製造方法を提供する。
上記製造方法において、真ひずみ、加工度は、上記と同じ定義を有する。
【実施例
【0070】
<純チタン素材>
純チタン素材として、i)線径が5.8mmの純チタン2種(CP-T2)(東邦テック(株)製)、及びii)線径が6.0mmの純チタン4種(CP-T4)(東邦テック(株)製)、を準備した。また、iii)純チタン2種に巨大ひずみ加工(UFG)を施して結晶を1μm以下に微細化したブロック形状の材料(川本重工(株)製)を準備し、該ブロック形状の材料から削り出しにより、線径6.0mmのバー材としたもの(FTi2)、を準備した。
【0071】
これらを、(株)吉田記念製15HP―SD型(4方向)スエージング装置を用いて、室温でスエージング加工を数回に亘って施した。各スエージングの単工程の真ひずみは0.15~0.25として、これを数回行うことにより、真ひずみが0からトータルで約3.7(加工度で約97%)の範囲となる4~5種のロッド状加工済み母材を調製した。
なお、各回のスエージング加工は、放射温度計を用いて材料の表面温度を測定し、該温度が300~400℃になるように、表面温度、スエージャーの回転速度、バー材の前進速度、潤滑油の時間当たりの塗布等を調整した。ひずみ速度については、上記のスエージャーの条件から算出して求めた。
【0072】
<結晶子サイズ及び配向性>
結晶子サイズと配向性を求めるためのX線回折用の試料は、ロッド状加工済み母材の各々を軸方向に対して垂直な面で切断し、フェノール樹脂で樹脂埋めした。その樹脂埋めを行った試料について、各母材の軸方向に対して正確に垂直になるように、面を粗い方から順番に、#400、#800、#1200、#2400のSiCの耐水研磨紙により湿式研磨を行い、その後、二酸化シリコン懸濁液(OP-S)を用いてバフ研磨を行い、鏡面に仕上げた。
【0073】
結晶子サイズは、BRUKER社製X線回折装置(D8 ADVANCE)を用い、コバルトKα線を、コバルト管球の出力35kV、電流40mAとして測定した。X線の走査範囲2θ=35.0°~48.0°、発散スリット径0.3mm、コリメータ径0.3mmとし、測定データの解析をBRUKER社製解析ソフトDIFFRAC.EVAを用いた。
【0074】
配向性は、上記と同条件でBRUKER社製X線回折装置(D8 ADVANCE)を用いて測定した。
試料の面内方向角度Φは一周360度を5度刻みに72ステップ測定し、傾き角Ψのレンジは始点を15度、終点を45度として測定し、得られた測定データを解析ソフトDIFFRAC.TEXTURE MRDB V4.1(BRUKER社製)を用いて、(1 0 -1 0)面の極点図をそれぞれ作成した。極点図を図1に示す。
極点図全体の平均強度を1と規定した相対強度の最大値を最大比強度とした。なお、図1において、材料が等方的である場合、すなわち配向性がない場合、色の濃淡が少なく、配向性が現れると、ある角度で濃い部分が生じ、その角度の相対強度は高くなる。
【0075】
得られたロッド状加工済み母材について、結晶子サイズと純チタンの(1 0 -1 0)面の軸方向の配向性を前記の条件により求めた。
【0076】
<機械特性>
得られたロッド状加工済み母材について、引張り強さ、ビッカース硬さ、及び絞りの各機械特性を測定した。
引張試験は、アムスラー式万能試験機で測定した。
硬さは、荷重2.94Nでマイクロビッカース硬さ試験機により行った。
また、絞り(RA)は、引張り試験後の破断後のサンプルの径から式4により、面積に換算して求めた。式4において、Dは試験前の材料の直径、Dは引張試験後の材料のくびれ部の直径である。
【0077】
【数5】
【0078】
図2図4は、横軸を結晶子サイズ、縦軸を機械特性、とした図である。
具体的には、図2は、横軸を結晶子サイズ、縦軸を引張り強さ、とした図である。
また、図3は、横軸を結晶子サイズ、縦軸を硬さ、とした図である。
さらに、図4は、横軸を結晶子サイズ、縦軸を絞り、とした図である。
図2図4から、母材が所望の機械特性、例えば引張り強さ800MPa以上、例えば硬さ200HV以上、例えば絞り45%以上、を有する場合、その結晶子サイズが280Å以下であることがわかる。
したがって、純チタンにおいて、結晶子サイズ280Å以下であることによって、母材が所望の機械特性を有することがわかる。
【0079】
図5は、横軸を真ひずみ、縦軸を結晶子サイズ、とした図である。
図5から、結晶子サイズ280Å以下とするためには、真ひずみを2以上(加工度86%以上)とするのがよいことがわかる。
また、上記図2図4と相俟って、真ひずみを2以上(加工度86%以上)とすることにより、所望の機械特性を有する母材が得られることがわかる。
【0080】
図6は、横軸を真ひずみ、縦軸を最大比強度、とした図である。
図6から、最大比強度を3以上とするには、真ひずみを2以上であることがよいことが分かる。
図7図9は、横軸を最大比強度、縦軸を機械特性とした図である。
具体的には、図7の縦軸は引張り強さ、図8の縦軸は硬さ、図9の縦軸は絞り、とした図である。
図7図9から、最大比強度が3以上であると、所望の機械特性、例えば引張り強さ800MPa以上、例えば硬さ200HV以上、例えば絞り45%以上、を有することがわかる。
【0081】
図10は、素材CP-T4を用いて得られた母材の、真ひずみ(横軸)と絞りの関係を示す図である。
図10から、真ひずみの上昇と共に絞りの値が上昇することがわかる。特に、真ひずみ3.5(加工度97%)では絞り値が70%以上に上昇していることがわかる。なお、この値は、純チタン2種に相当する値である。
また、図10から、真ひずみが2以上であれば、絞りが45%以上となることがわかる。
図10及び図5から、真ひずみが2以上(加工度86%以上)とするように、スエージング加工を施せばよいことがわかる。
【0082】
<頭部成形性>
今回のロッド状加工済み母材を用いて形成したスクリューの頭部成形性を表1に示す。
なお、ロッド状加工済み母材からスクリューは、通常のねじ成形のようにアップセッティング(圧造)することにより形成することができた。
表1から、素材としてii)CP-T4を用いて、真ひずみ2.65(加工度93%)以上で得られたロッド状加工済み母材は、通常、真ひずみ0(加工度0%)付近にて400℃以上で行っていた頭部の圧造加工が、より低い200℃で行えることがわかる。
【0083】
【表1】
【0084】
従来、純チタンの中で酸素量の高い純チタン4種の医療用スクリューは、材料の強度は高いが塑性加工性に乏しく、200℃以下の温度で医療用スクリューの圧造をすることは困難であったため、ねじの頭は熱間加工(400℃以上)、又は切削により成形されていた。これらの温度域での加工は固体潤滑を必要とし、生産性が著しく低下した。コストダウンおよび生産性の向上のためには、250℃以下で圧造が可能な塑性加工性(特に絞り)を有する同材料が求められていた。
しかしながら、表1からわかるように、本発明により、250℃以下であっても圧造による頭部加工が可能となったことがわかる。
【0085】
図11に頭部のリセスをヘクサロビュラ形状に加工したときのCP-T4の頭部の写真を示す。CP-T4を加工せずに用いた場合(真ひずみ0、加工度0%)、200℃では、図11のA1、A2及びA3で示すように、ねじの頭部にき裂(延性破壊)が生じて、頭部成形ができなかった。しかしながら、素材としてii)CP-T4を用いて、真ひずみ2(加工度86%)と真ひずみ2.65(加工度93%)で得られたロッド状加工済み母材は、亀裂を生じることなく正常に加工することができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11