(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】血管新生を誘導する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/50 20150101AFI20240402BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240402BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240402BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240402BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240402BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240402BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20240402BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240402BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
A61K35/50
A61P1/16
A61P3/10
A61P9/10
A61P11/00
A61P17/02
A61P19/00
A61P25/02
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2016544820
(86)(22)【出願日】2015-01-20
(86)【国際出願番号】 US2015012087
(87)【国際公開番号】W WO2015109329
(87)【国際公開日】2015-07-23
【審査請求日】2018-01-12
【審判番号】
【審判請求日】2020-04-03
(32)【優先日】2014-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514156585
【氏名又は名称】ミメディクス グループ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クーブ,トーマス ジェー.
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】前田 佳与子
【審判官】原田 隆興
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第06/025395(WO,A1)
【文献】特表2013-523152(JP,A)
【文献】特表2005-519101(JP,A)
【文献】特表2009-514813(JP,A)
【文献】特表2008-538180(JP,A)
【文献】特開2001-161353(JP,A)
【文献】特開2005-218585(JP,A)
【文献】EpiFix, Scientific & Clinical Compendium,2013年 3月,p.1-11
【文献】UNITED STATES DISTRICT COURT NORTHERN DISTRICT OF GEOGIA ATLANTA DIVISION, COMPLAINT FOR VIOLATIONS OF THE FEDERAL SECURITIES LAWS, SPENCER ABRAMS VS MIMEDX GROUP,2013.09.14,p.1-30,[retrieved on 2018.11.14], Retrieved from the Internet:<URL: http://www.rgrdlaw.com/media/cases/229_Complaint.pdf>
【文献】MiMedx Scientific Study To Be Published In The International Wound Journal,PR Newswire,2013,[retrieved on 2020.7.2], Retrieved from the Internet: <URL: https://www.prnewswire.com/news-releases/mimedx-scientific-study-to-be-published-in-the-international-wound-journal-217737781.html>
【文献】THE LANCET,1980年,Vol.1,p.1156-1157
【文献】THE JOURNAL OF JAPANESE COLLEGE OF ANGIOLOGY,2006年,Vol.46,p.305-310
【文献】International Wound Journal, 2013, Vol.10, No.5, p.493-500
【文献】プラクティス, 2011, Vol.28, No.3, p.295-299
【文献】Experimental Neurology, 2011, Vo.227, No.1, p.195-202
【文献】Nippon Rinsho, 2008, Vol.66, Suppl.9, p.395-399
【文献】Current Drug Targets, 2008, Vol.9, p.47-59
【文献】Diabetes Care, 1998, Vol.21, No.5, p.822-827
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病性の末梢神経障害を有する、または発症リスクのある対象の非心血管身体領域において血管新生を誘導
し、かつ内皮細胞を動員するための血管新生誘導剤であって、
前記血管新生誘導剤は、
i)羊膜から抽出した増殖因子および絨毛膜から抽出した増殖因子を含有し、中間組織層が
前記抽出より前に前記羊膜から予め実質的に除去されており、かつ
ii)
改変胎盤組織を含有し、前記改変胎盤組織は羊膜層および絨毛膜層を含有
し、中間組織層が前記羊膜層から予め実質的に除去されていることを特徴とする、血管新生誘導剤。
【請求項2】
前記非心血管身体領域への血流が制限されている、請求項1に記載の血管新生誘導剤。
【請求項3】
前記非心血管身体領域への血流が、損傷または疾患により制限されている、請求項2に記載の血管新生誘導剤。
【請求項4】
前記非心血管身体領域が、身体の末梢部、肝臓、肺、神経、骨または皮膚を含む、請求項1に記載の血管新生誘導剤。
【請求項5】
前記身体の末梢部が、四肢、手、または足である、請求項4に記載の血管新生誘導剤。
【請求項6】
前記改変胎盤組織が、組織移植片である、請求項1に記載の血管新生誘導剤。
【請求項7】
前記改変胎盤組織が微粒子化されている、請求項1に記載の血管新生誘導剤。
【請求項8】
前記血管新生誘導剤が、注入可能に構成される、請求項1に記載の血管新生誘導剤。
【請求項9】
前記血管新生誘導剤が、液体、ゲル、またはペースト状に構成される、請求項1に記載の血管新生誘導剤。
【請求項10】
前記血管新生誘導剤が、ネブライザーにより使用可能に構成される、請求項1に記載の血管新生誘導剤。
【請求項11】
前記血管新生誘導剤が、抽出されたアンジオゲニンおよび抽出されたアンジオポエチン-2を含有する、請求項1に記載の血管新生誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、本明細書中参照として全体的に援用されている、2014年1月17日出願の米国仮特許出願第61/928,986号からの利益を主張するものである。
【0002】
技術分野
本願は、心血管病態以外の病態を処置するために、改変胎盤組織またはその抽出物を使用して血管新生を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
組織の再生および創傷治癒は、異なるタイプの常在性の細胞、ならびに炎症細胞、血小板、および幹細胞の間での相互作用を必要とする。特に慢性創傷は、増殖因子のシグナリングおよび新生血管形成を含む重要な創傷治癒プロセスにおける多くの欠損に関連している。
【0004】
再生医学は、損傷または疾患を有する細胞、組織、および臓器を、身体に治療、交換、回復、および再生させる比較的新規の治療である。従来の再生医療として、細胞治療、組織工学、生体材料工学、増殖因子治療、および移植が挙げられる。再生医療は、多くの非心血管疾患および障害に関して将来性のある治療である。しかしながら、必須の細胞および生理活性剤、酸素および栄養供給を提供するための、ならびに蓄積する代謝産物を排出するための脈管構造を機能させることなく、これら再生医療の多くの臨床での可能性を完全に実現させることはできない。
【0005】
今日まで、適切な新生血管形成は、再生医学、創傷治癒、および他の非心血管病態の治療の発展を妨害する未だ解決されていない問題である。本発明は、組織の再生、創傷治癒、特には非心血管病態の治療に必要な血管新生を誘導する新規かつ将来性のある治療を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血管新生は、糖尿病患者における末梢神経障害、瘢痕により肝臓内の血流が遮断される肝硬変、嚢胞性線維症、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺の病態、および骨の壊死、四肢の虚血などの非心血管の虚血などを軽減または阻害することを含む、多くの非心血管病態において有効な治療と考えられる。
【0007】
本発明の一態様では、その必要のある対象の非心血管身体領域に血管新生を誘導する方法であって、上記非心血管身体領域に改変胎盤組織を含む組成物の有効量を送達することを含む、方法を提供する。
【0008】
本発明の一態様では、その必要のある対象の非心血管身体領域に血管新生を誘導する方法であって、上記非心血管身体領域に、胎盤組織から抽出した胎盤増殖因子および/または幹細胞を含む組成物の有効量を送達することを含む、方法を提供する。
【0009】
本発明の別の態様では、対象の非心血管身体領域に血管新生を誘導する方法であって、上記領域への血液が、損傷または疾患により制限されており、上記方法が上記非心血管身体領域に微小化した改変胎盤組織を含む水溶液の有効量を注入することと、血管新生を誘導する条件下で上記領域を維持することとを含む、方法を提供する。
【0010】
一部の実施形態では、非心血管身体領域への血流が、たとえば、損傷および/または疾患により生じる血管の損傷により制限されている。
【0011】
一部の実施形態では、非心血管身体領域は、肝臓、肺、神経、骨、または皮膚を含む。血流が制限されている身体の末梢部は、たとえば四肢、手、または足を含む。
【0012】
一部の実施形態では、対象は、末梢性の神経障害、肝硬変、肺の病態、または他の非心血管病態を有する、または発症するリスクがある。一部の実施形態では、肺の病態は、たとえば、嚢胞性線維症、肺線維症、または慢性閉塞性肺疾患(COPD)であり得る。一部の実施形態では、非心血管病態は、たとえば、骨の壊死、虚血、臓器損傷、組織損傷、または慢性創傷であり得る。虚血は、たとえば四肢の虚血であり得る。一実施形態では、その必要がある対象は、非心血管病態を罹患しているか、または血管新生を促進することにより治療もしくは改善することができる病態を発症するリスクがある。非心血管病態に関連する例示的な病態として、限定するものではないが、皮膚、組織、または臓器への損傷、虚血、糖尿病または非心血管アテローム性動脈硬化症などの全身疾患に関連する慢性創傷が挙げられる。
【0013】
一部の実施形態では、改変胎盤組織は、単離羊膜、単離絨毛膜、任意の構成および任意の数で共に積層した単離羊膜および単離絨毛膜、ワルトンゼリー、単離羊膜上皮層、またはそれらのいずれかの組み合わせのうちの1つまたは複数を含む。一部の実施形態では、改変胎盤組織は組織移植片である。他の実施形態では、改変胎盤組織は、微粒子化されている。さらに、改変胎盤組織をさらに処理して、改変胎盤組織の脱水移植片または抽出物を形成することができる。水、生理食塩水、およびリン酸緩衝食塩水(PBS)などの薬学的および/または生理的に適切な抽出溶液を選択することは当業者の範囲内にある。
【0014】
一部の実施形態では、本組成物は注入可能である。他の実施形態では、本組成物は液体、ゲル、またはペーストである。さらに他の実施形態では、本組成物は、ネブライザーにより使用される。水性または非水性の賦形剤などの薬学的および/または生理的に適切な賦形剤を選択することは当業者の範囲内にある。同様に、微粒子化または非微粒子化の改変胎盤組織を使用することも当業者の範囲内にある。微粒子化胎盤組織を使用する場合、当業者は、特定の用途に関する微粒子化粒子の適切なサイズを決定することもできる。
【0015】
一部の実施形態では、本発明の方法は、2012年2月13日出願の国際特許出願公開公報第PCT/US2012/024798号に詳細に記載されている、微粒子化胎盤組織を含む注入可能な組成物を使用する。この内容は本明細書中参照として全体的に援用されている。他の実施形態では、増殖因子および幹細胞などの有益な成分は、胎盤組織から抽出され、この抽出物を治療に使用する。好ましくは、抽出物は、ネブライザーにより使用できる。胎盤組織が微粒子化されている場合、たとえば約200nm未満などの噴霧できる粒子サイズを有する粒子といった微粒子を、ネブライザーを使用して直接適用できることが考慮される。
【0016】
いずれかの胎盤組織、または胎盤もしくは臍帯の組織を含むいずれかの組成物を、本発明の方法に使用できることが考慮される。好ましい胎盤組織は、たとえばAmnioFix(登録商標)およびEpiFix(登録商標)組織移植片(MiMedx Group、 Inc.(米国ジョージア州マリエッタ)で市販)である。本明細書中に記載される実施形態で使用できる組成物および移植片、ならびに胎盤組織移植片を入手する方法の非限定的な例は、表題「Improved Placental Tissue Grafts」の米国特許第8,372,437号および表題“Placental tissue grafts and improved methods of preparing and using the same、”の米国特許第8,357,403号(両特許はMiMedx Group、 Incに帰属)に詳細に記載されている。各特許の内容は、その方法、組成物、および材料に関して全体的に参照として援用されている。
【0017】
一態様では、本発明は、アンジオゲニン、アンジオポエチン-2(ANG-2)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、ヘパリン結合上皮増殖因子(HB-EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、レプチン、血小板由来増殖因子AA(PDGF-AA)、血小板由来増殖因子BB(PDGF-BB)、胎盤増殖因子(PlGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、TGF-αおよび-β、神経成長因子(NGF)、ならびに顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)などの1つまたは複数の血管新生増殖因子を含む、改変胎盤組織を含む組成物の有効量を、その必要がある対象に提供することによる血管新生を誘導する方法に関する。
【0018】
関連する態様では、本発明は、アンジオゲニン、アンジオポエチン-2(ANG-2)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、ヘパリン結合上皮増殖因子(HB-EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、レプチン、血小板由来増殖因子AA(PDGF-AA)、血小板由来増殖因子BB(PDGF-BB)、胎盤増殖因子(PlGF)、および血管内皮増殖因子(VEGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、TGF-αおよび-β、神経成長因子(NGF)、および顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)などの1つまたは複数の血管新生増殖因子を含む、改変胎盤組織を含む組成物を生成する方法に関する。本方法は、健康なドナーから入手した胎盤から、羊膜、絨毛膜、および羊膜上皮層のうちの1つまたは複数を洗浄および分離するステップを含む。さらに本方法は、分離した膜から脱細胞するステップ、改変胎盤組織を微粒子化するステップ、改変胎盤組織を脱水するステップ、ならびに/または少なくとも1つの薬学的および/もしくは生理的に適切な抽出溶液を使用して改変胎盤組織を抽出するステップのうち1つまたは複数の任意のステップを含む。
【0019】
添付図面は、本明細書の一部に組み込まれており、かつ一部を構成しており、以下に記載されるいくつかの態様を例示する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】in vitroでの微小血管内皮細胞の増殖に及ぼすdHACMの抽出物の効果を示す。dHACM抽出物は、対照と比較してHMVECの増殖を促進した。しかしながら、これらの濃度では用量反応は観察されなかった。示されるp値は、そのそれぞれの対照からの統計的有意性を示す。示される値は、平均値±標準偏差である(n=5)。
【
図2】様々な濃度のdHACM抽出物の存在下で培養した場合の、ヒトの微小血管内皮細胞による増殖因子の産生の変化を示す。抽出物の非存在下で培養した無処置の細胞と比較して、dHACM抽出物の存在下で培養した場合、内皮細胞は、アンジオゲニン、HB-EGF、PDGF-BB、IL-2、IL-2、およびIL-8の産生を用量依存的に増加させた。
【
図3】様々な濃度のdHACM抽出物の存在下で培養した場合の、ヒトの微小血管内皮細胞による増殖因子の産生の変化を示す。内皮細胞は、抽出物の非存在下で培養した無処置の細胞と比較して、1mg/mlのdHACM抽出物の存在下で培養した場合に、TGF-α、TGF-β3、VEGF、アンジオポエチン-1、およびアンジオスタチンの産生を増加させ、0.5mg/mlのdHACM抽出物ではVEGF受容体2の産生を増加させた。しかしながら、これらサイトカインに関して、高い濃度では用量反応は観察されなかった。
【
図4】脱水したヒトの羊膜/絨毛膜の組織同種異系移植片(dHACM)に応答して遊走したヒトの臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の視野あたりの平均数を示す。代表的な顕微鏡写真および細胞数は、小さな試料と比較して、大きな試料に応答してより多くの遊走が観察されたことを示した。完全培地でのHUVECの遊走は、他のすべての試料よりも有意に多かった(p≦0.05)。*は、基本培地および2.0mmの群よりも有意に多い遊走を示す(p≦0.05))。スケールバー‐200μm。
【
図5】in vivoでのdHACMの移植後の新生血管応答を示す。CD31陽性微小血管の数の増加が、移植したdHACM内で経時的に見られ、最終的に28日目までに正常な皮膚レベルに達した。スケールバー‐50μm。
【
図6】本明細書中に記載される組成物を作製するプロセスのフローチャートの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を開示および説明する前に、以下に記載される態様は、特定の組成物、合成方法、または用途は、当然変動し得ることから、それらに限定されるものではないと理解されるものである。同様に、本明細書中で使用される用語は、特定の態様を説明する目的のみのためにあり、限定すると意図されていないことが理解される。
【0022】
以下の本明細書および特許請求の範囲では、以下の意味を有すると定義される多くの用語を参照する。
【0023】
本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、特段他の明確な記載がない限り複数形を含むことに留意すべきである。よって、たとえば、「生理活性剤」は、2つ以上のそのような活性剤の混合物などを含む。
【0024】
「任意の」または「任意に」は、後に記載される事象または状況が起こり得るまたは起こり得ないことを意味し、かつこの記載が、当該事象または状況が起こる例と起こらない例とを含むことを意味する。たとえば、「任意に洗浄するステップ」との文言は、洗浄ステップが行われてもよく、または行われなくてもよいことを意味する。
【0025】
本明細書中使用される用語「対象」または「患者」は、限定するものではないが、ヒト、家畜、家庭用ペットなどの哺乳類の対象を含む、いずれかの脊椎動物を指す。
【0026】
本明細書中使用される用語「羊膜」は、中間組織層が、実質的に除去されている羊膜を含む。
【0027】
本明細書中使用される用語「生体適合性」は、対象への移植または注入に適している物質を指す。様々な態様では、生体適合性材料は、いったん対象に移植されると毒性または傷害作用を引き起こさない。
【0028】
用語「改変胎盤組織」は、組織を洗浄、消毒、および/または分割することにより改変された胎盤組織(胎盤全体を除外)のいずれかおよびすべての成分、ならびに羊膜、絨毛膜、単離した羊膜組織、臍帯、臍帯成分(たとえばワルトンゼリー、臍帯静脈および動脈、ならびに周辺の膜)などの分離された胎盤組織成分などを指す。改変組織は、上皮層および/または線維芽細胞層などの細胞層を維持してもよい。改変胎盤組織は、胎盤組織の1つまたは複数の層の積層化、胎盤組織の微粒子化、小分子、タンパク質(たとえば増殖因子、抗体)、核酸(たとえばアプタマー)、ポリマー、もしくは他の物質の化学吸着または物理吸着などの、さらに改変を含んでもよい。
【0029】
胎盤組織など「の抽出物」または「からの抽出物」との用語は、胎盤組織もしくは改変胎盤組織に存在しており、胎盤組織もしくは細胞材料を実質的に含まない1つまたは複数の生物学的因子を含む溶液もしくは凍結乾燥固体などの組成物、またはそれらを得る方法を指す。このような抽出物は、米国特許出願第13/744,331号、米国特許出願第14/157445号、または米国特許出願第61/849,838号に記載されるものを含み、これらの中に記載される方法により調製できる。これらの特許出願は、その全体が参照として本明細書中に援用される。
【0030】
用語「十分量」または「有効量」は、末梢性の神経障害、肝硬変、嚢胞性線維症、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、骨の壊死、虚血、皮膚、組織、もしくは臓器への損傷、または慢性創傷などの病態を阻害または治療するために十分である改変胎盤組織または胎盤組織抽出物の量を指す。「十分量」は、限定するものではないが、使用する胎盤組織または胎盤組織抽出物のタイプおよび/または量、治療される疾患のあるまたは損傷した非心組織のタイプおよび/またはサイズ、治療される疾患のあるまたは損傷した非心組織に対する疾患もしくは損傷の重症度、ならびに投与経路などの様々な要因に応じて変動する。「十分量」の決定は、本明細書に提供される開示に基づき当業者の1人により作製できる。
【0031】
用語「胎盤増殖因子」は、改変胎盤組織から得ることができる増殖因子のアレイを指す。当該増殖因子を得る方法は、本発明にとって重要ではなく、単なる例示として、胎盤からの水抽出、当該増殖因子を発現する胎盤細胞の培養などを含む。増殖因子を抽出するために使用する水、生理食塩水、またはバッファーの体積を減少させることと、胎盤細胞培養物から産生した増殖因子を添加することとなどにより、抽出した増殖因子の濃度を増加させることができる。
【0032】
用語「胎盤組織移植片」または「組織移植片」は、羊膜または絨毛膜層、および任意に胎盤から得ても、または得なくてもよい追加的な層を含む、胎盤組織のいずれかの組み合わせを指す。好ましくは、胎盤組織移植片は、中間層を有していない。羊膜または絨毛膜の単層を使用できる。しかしながら、羊膜および/または絨毛膜の複数の層が、組織移植片を形成し、これらの層は、典型的に共に脱水および積層化されている。任意に、羊膜は、実質的にすべての上皮層および/または線維芽細胞層を除去することなどにより、部分的または完全に脱細胞化できる。本発明に適した胎盤組織移植片の例は、例としての米国特許第8,323,701号;第8,372,437号、および米国特許出願公開第2014/0052247号;第2014/0067058号;第2014/0205646号;および第2013/0202676号が挙げられる。
【0033】
用語「外来性」は、処置される身体の一部に対して天然では存在しない物質を指し、
改変胎盤組織などの同種異系移植片組織を含む。
【0034】
用語「内在性」は、対象由来の自己の生物学的物質を指す。
【0035】
用語「送達する」、「送達した」、または「送達している」は、本発明の組成物の投与方法を指す。本発明の組成物は、局所投与、非経口投与、静脈内投与、皮内投与、筋肉内投与、結腸投与、直腸投与、または腹腔内投与を含む様々な方法で送達できる。また本組成物は、医薬製剤の一部として投与することもできる。
【0036】
表題または副題は、読み手にわかりやすく伝えるために本明細書で使用されているが、本発明の範囲に影響しないと意図される。さらに本明細書中で使用される用語の一部を、より具体的に以下に定義する。
【0037】
胎盤組成物およびそれらを作製する方法
本明細書中では、微粒子化胎盤組織成分を含む胎盤組織の成分で構成された組成物を記載している。好ましい組成物は、以下に記載される例示的な手段により調製できる。組成物は、国際特許出願第PCT/US12/24798号、および米国仮特許出願第61/442,34号、第61/543,995号、および第61/683,700号に記載されている微粒子化胎盤組織の成分から調製され得る。これら出願の内容全体は、特に参照として援用されている。用語「微粒子化」は、ミクロンおよびサブミクロンの大きさの胎盤組織粒子を含むことを意味すると理解される。
【0038】
胎盤組織組成物として後に使用するための胎盤の材料を収集、処理、かつ調製するためのステップの特定の態様の概要を、以下で説明し、
図6に示す。各個々のステップに関するより詳細な説明および論述を後述する。まず、胎盤組織を、同意を得た患者から選択的帝王切開の後に回収する(ステップ110)。この材料を、状態確認および評価に適した処理場所または施設へと、通常の組織保存方法で保存かつ輸送する(ステップ120)。次に羊膜および絨毛膜の全般的処理、操作、および分離を行う(ステップ130)。次に認容可能な組織の汚染を除去し(ステップ140)、脱水(ステップ145)する。汚染除去および脱水の後、次に、胎盤組織の成分(たとえば、個別の羊膜、ワルトンゼリー、および/または絨毛膜、または移植片として)を、任意に微粒子化する(ステップ150)。各ステップは以下に詳細に記載されている。
【0039】
最初の組織の回収(ステップ110)
微粒子化した胎盤組織を生成するために使用する成分は、胎盤由来である。胎盤の供給源は多様であり得る。一態様では、胎盤は、ヒトなどの哺乳類を由来とする。限定するものではないが、ウシ、ブタなどを含む他の動物を、本明細書中で使用できる。ヒトの場合、胎盤の回収は病院で行われ、胎盤は帝王切開での出産の間に回収される。ドナーは、出産を行う予定の母親を指し、移植に可能な最も安全な組織を提供するよう設計された包括的スクリーニングプロセスに自発的に従っている。好ましくは、スクリーニングプロセスは、通常の血清学的試験を使用して、ヒト免疫不全ウイルス1型および2型(抗HIV-1および抗HIV-2)に対する抗体、B型肝炎ウイルス(抗HBV)に対する抗体、B型肝炎表面抗原(HBsAg)、C型肝炎ウイルスに対する抗体(抗HCV)、ヒトTリンパ球向性ウイルスI型およびII型(抗HTLV-I、抗HTLV-II)、CMV、および梅毒に対する抗体、ならびにヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)およびC型肝炎ウイルス(HCV)の核酸検査に関して試験する。上記試験の列挙は単なる例示であり、当業者によって認識されるように、時間が経つにつれてまたは胎盤成分の意図される用途に基づいて、これより多く、またはより少なく、または異なる試験が望ましくまたは必要となり得る。
【0040】
ドナーの情報およびスクリーニング試験の結果の考察に基づき、ドナーは、認容可能または認容可能ではないとされる。さらに、分娩時に、クロストリジウムまたはストレプトコッカスといった細菌の存在を決定するために培養物を採取する。ドナーの情報、スクリーニング試験、および分娩時培養物がすべて良好である(すなわち、リスクを全く示さない、または認容可能なリスクを示す)場合、ドナーは、医長により承認され、組織標本は、さらなる処理および評価にまずは好適であると指定される。
【0041】
上記の選択基準を満たしたヒトの胎盤は、好ましくは、さらなる処理のための処理場所または研究室への輸送のために、無菌の輸送バッグ中の生理食塩水中に詰められ、ウェットアイスのコンテナに保存される。
【0042】
胎盤が、スクリーニング試験および分娩時培養物からの結果の入手が完了する前に回収される場合、当該組織はラベルを貼って、隔離して保存される。胎盤は、取り扱いおよび使用に関して組織が安全であると宣言する、必要なスクリーニング査定および分娩時培養物が条件を満たした後に限ってさらなる処理に関して承認され、医長から最終的な承認を得る。
【0043】
材料の状態確認および評価(ステップ120)
処理センターまたは研究室に到着した後、輸送物を開封し、滅菌輸送バッグ/コンテナが密封されたままであり、冷却されたままであるかを検証し、適切なドナーの書類が存在していること、および書類上のドナーの数が、組織を含む滅菌輸送バッグの数と一致しているかを確認する。次に、組織を含む滅菌輸送バッグを、さらなる処理の準備ができるまで冷蔵庫に保存する。
【0044】
組織の全般的処理(ステップ130)
組織をさらに処理する準備ができると、胎盤組織の処理に必要な滅菌性供給物を、制御された(すなわち無菌性の)環境のステージング領域に集め、制御した環境に導入するために準備する。一態様では、胎盤は室温で処理される。制御した環境が製造フード(manufacturing hood)である場合、通常の無菌的技術を使用して、滅菌供給物を開封してフードに入れる。制御された環境がクリーンルームである場合、滅菌性供給物を開封し、滅菌性ドレープにより覆われたカートに載せる。すべての作業表面は、通常の無菌的技術を使用して、滅菌性ドレープ片により覆われており、滅菌供給物および処理器具は、再度通常の無菌的技術を使用して、滅菌性ドレープの上に配置される。
【0045】
処理器具は、通常の産業上承認された汚染除去手法により汚染を除去した後に制御された環境に導入される。この器具は、器具が組織標本の近くとなる可能性、または組織標本により不注意に汚染される可能性を最小限にするために、制御された環境内で戦略的に配置される。
【0046】
次に、胎盤を、滅菌輸送バッグから取り出し、制御された環境内の滅菌性処理容器に無菌的に移す。滅菌容器は、室温またはほぼ室温の高張生理食塩水溶液(たとえば18%のNaCl)を含む。血餅の分離を助けるために胎盤をやさしくマッサージして、胎盤組織を室温にし、これにより胎盤の成分(たとえば羊膜および絨毛膜)の互いからの分離を促進する。周囲温度まで温めた後(たとえば約10~30分後)、次に胎盤を滅菌処理容器から取り出して、検査のために羊膜層を下にして処理トレイ上で平らに置く。
【0047】
脱色、デブリまたは他の汚染、臭い、および損傷の徴候に関して、胎盤を試験する。同様に、組織のサイズも記載する。この時点で、組織がさらなる処理に関して認容可能かどうかに関する決定を行う。
【0048】
次に、羊膜および絨毛膜を注意深く分離する。一態様では、この手法で使用する材料および器具は、処理トレイ、18%の生理食塩水溶液、滅菌の4×4スポンジ、および2つの滅菌性ナルゲンジャーを含む。次に、羊膜を絨毛膜から分離できる領域(概して角)を見つけ出すために胎盤組織を入念に調べる。羊膜は、絨毛膜上の薄く、不透明な層の外観である。
【0049】
線維芽細胞層は、滅菌性ガーゼ片または先端がコットンのアプリケーターで羊膜の各側面をゆっくりと接触させることにより同定される。線維芽細胞層は、試験材料に固着している。羊膜を、基底膜層を下にして、処理トレイに載せる。鈍端の器具、細胞のスクレーパー、または滅菌性ガーゼを使用して、残っている血液を除去する。このステップは、羊膜を引き裂かないように適度に注意して行われなければならない。羊膜の洗浄は、羊膜が滑らかで、乳白色の外観になれば完了する。
【0050】
特定の態様では、スポンジ層とも呼ばれている中間組織層を、線維芽細胞層を露出するために羊膜から実質的に除去する。除去された中間組織層の量に関して「実質的に除去された」との用語は、本明細書中で、羊膜から中間組織層を90%超、95%超、または99%超除去したこととして定義される。これは、羊膜から中間組織層を剥離することにより行うことができる。あるいは、中間組織層は、ガーゼまたは他の適切なワイプを用いて中間組織層をぬぐうことにより羊膜から除去できる。得られた羊膜は、次に、以下に記載されるプロセスを使用して汚染除去できる。理論により拘束されるものではないが、中間層の除去は、特に複数の羊膜が移植片を生成するために使用される場合、組織移植片の乾燥を加速させることができる。
【0051】
本明細書中に記載される方法は、羊膜層の細胞の成分の実質的にすべてまたは一部の保持または除去を可能にする。細胞成分の除去は、当業者に「脱細胞化」と呼ばれている技術である。脱細胞化は、一般的に、上皮細胞および線維芽細胞を含む、羊膜に存在するすべての細胞の物理的および/または化学的な除去を含む。特定の態様では、羊膜は完全に脱細胞化(上皮細胞および線維芽細胞を除去)される。他の態様では、上皮細胞またはその一部のみが除去される。さらなる他の態様では、線維芽細胞層のみが除去される。任意で、すべての細胞成分が存在する。
【0052】
特定の態様では、羊膜に存在する上皮層の一部または、実質的にすべての上皮層が、羊膜の基底層の一部または大部分を露出するために除去される。除去される上皮の量に関して「実質的に除去される」という用語は、本明細書中、羊膜から上皮細胞の90%超、95%超、または99%超の除去として定義される。羊膜層に残る上皮細胞の有無は、当技術分野で知られている技術を使用して評価できる。たとえば、上皮細胞層を除去した後、処理ロットから代表的な組織試料を、標準的な顕微鏡試験のスライドガラスに載せる。次に組織試料を、エオシンY染色を使用して染色し、以下に記載されるように評価する。次に試料にカバーガラスを載せて、静置する。染色にとって適切な時間が経過した後、拡大して目視での観察を行う。
【0053】
一実施形態では、上皮層は当技術分野で知られている技術を使用して除去できる。たとえば、上皮層は、細胞スクレーパーを使用して羊膜から剥がすことができる。他の技術として、限定するものではないが、膜の凍結、細胞スクレーパーを使用した物理的除去、または非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、およびヌクレアーゼへの上皮細胞の曝露が挙げられる。除去される上皮細胞の量は、0%(すなわち上皮細胞が残ったまま)から最大で実質的にすべての上皮細胞の範囲が除去されるまでの範囲にある。除去される上皮層の中間の量は、上皮層が保持される列と上皮層を除去した列を混合して調製することにより達成できる。あるいは、上皮層の一部を除去して、残りを保持する。
【0054】
次に上皮を除去した組織を、基底膜が損なわれておらず、インタクトのままであることを決定するために評価する。このステップは、次の節で記載されるように処理ステップの完了後で組織を脱水する前に行う。たとえば、代表的な試料の移植片を、顕微鏡の解析のため取り除く。組織の試料を、標準的なスライドガラスに載せて、エオシンYで染色し、顕微鏡で観察する。上皮が存在する場合、玉石状の細胞として現れる。
【0055】
化学的な汚染除去(ステップ140)
上記で単離した胎盤組織成分を、以下に記載される技術を使用して化学的に汚染除去できる。一態様では、ステップ130で生成した羊膜を、次のステップのために、滅菌ナルゲンジャーに入れることができる。一態様では、羊膜を洗浄するために、以下の手法を使用できる。ナルゲンジャーに、18%の高張性生理食塩水溶液を無菌的に充填して、密封(またはふたで密封)する。次に、ジャーを、振盪プラットフォーム(rocker platform)に載せて、30分~90分間攪拌して、羊膜の汚染物質をさらに取り除く。振盪プラットフォームが、クリティカルな環境ではない場合(たとえば製造フード)、ナルゲンジャーを、制御/または無菌環境に戻し、開封する。滅菌ピンセットを使用して、または中身を無菌的にデカントすることにより、18%の高張性生理食塩水溶液を含むナルゲンジャーから羊膜をゆっくりと取り出し、空のナルゲンジャーに入れる。羊膜を含むこのナルゲンジャーに、次に、あらかじめ混合した抗生物質溶液を充填する。一態様では、あらかじめ混合した抗生物質溶液は、硫酸ストレプトマイシンおよび硫酸ゲンタマイシンなどの抗生物質のカクテルから構成されている。硫酸ポリミキシンBおよびバシトラシンなどの他の抗生物質、または現在入手可能もしくは将来入手可能な類似の抗生物質もまた適切である。さらに、羊膜の温度を変化させず、または羊膜を損傷させないように、抗生物質溶液は、添加時に室温であることが好ましい。次に、この羊膜および抗生物質を含むジャーまたはコンテナを密封または閉鎖して、振盪プラットフォームに載せて、好ましくは60~90分間攪拌する。抗生物質溶液内での羊膜のこのような振盪または攪拌は、組織から汚染物質および細菌をさらに除去する。任意に、羊膜は、界面活性剤で洗浄できる。一態様では、羊膜は、0.1~10%、0.1~5%、0.1~1%、または0.5%のトリトン‐X洗浄溶液で洗浄できる。
【0056】
振盪プラットフォームがクリティカルな環境(たとえば製造フード)にない場合、羊膜および抗生物質を含むジャーまたはコンテナを、次に、重要/無菌性の環境に戻し、開封する。滅菌ピンセットを使用して、羊膜をジャーまたはコンテナから優しく取り出して、滅菌水または生理食塩水(0.9%の生理食塩水)を含む滅菌容器に入れる。羊膜を、滅菌水/生理食塩水に、少なくとも10~15分間浸す。羊膜を、軽く攪拌して、抗生物質溶液および他のいずれかの汚染物質の組織からの除去を促進する。少なくとも10~15分後に、羊膜は、脱水されてさらに処理される準備が完了する。
【0057】
絨毛膜の場合、以下の例示的な手法を使用することができる。羊膜から絨毛膜を分離し、線維層から凝血を除去した後、絨毛膜を、18%の生理食塩水溶液で15分間~60分間すすぐ。最初のすすぎサイクルの間、18%の生理食塩水を、溶液の温度が約48℃になるように研究室の加熱プレートを使用して滅菌コンテナ中で加熱する。溶液をデカントし、絨毛膜組織を滅菌コンテナに入れ、デカントした生理食塩水溶液をコンテナに注ぐ。コンテナを密封し、振盪プレートに入れ、15~60分間攪拌する。槽で1時間攪拌した後、絨毛膜組織を取り出し、さらに15~50分間のすすぎサイクルの間、第2の加熱した振盪槽に置く。任意に、絨毛膜組織を、羊膜の除染に関して上述したように界面活性剤(たとえばトリトン‐X洗浄溶液)で洗浄できる。コンテナを密閉し、加熱することなく15~120分攪拌する。次に絨毛膜の組織を脱イオン水(DI水250ml×4)で、各すすぎの際に激しく動かして洗浄する。組織を取り出して、1×PBSw/EDTA溶液のコンテナに入れる。コンテナを密封し、制御した温度で1時間(8時間)攪拌する。絨毛膜組織を取り出して、滅菌水を使用してすすぐ。目視の検査を行って、絨毛膜組織から、残っている脱色した線維状の血液材料を取り除いた。絨毛膜の組織は、褐色に変色することなく乳白色を有しているべきである。
【0058】
脱水(145)
一態様では、羊膜、絨毛膜、ワルトンゼリー、またはそれらのいずれかの組み合わせを、後に微粒子化される組織移植片(すなわち積層物)に処理することができる。別の態様では、個々の羊膜、絨毛膜、ワルトンゼリーの層を、別々に脱水し、後に単独または成分の混合物として微粒子化できる。一態様では、組織(すなわち個々の膜または移植片)を、化学的に脱水し、次に凍結乾燥することにより脱水する。一態様では、化学的脱水ステップは、組織中に存在している残留水を実質的(すなわち90%超、95%超、もしくは99%超)、または完全に除去するために十分な時間および量で、極性有機溶媒と、羊膜、絨毛膜、および/またはワルトンゼリーを接触させることにより行われる。溶媒は、プロトン性または非プロトン性であり得る。本明細書で有益な極性有機溶媒の例として、限定するものではないが、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、またはそれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。特には、非限定的な例として、DMSO、アセトン、テトラヒドロフラン、エタノール、イソプロパノール、またはそれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。一態様では、胎盤組織を、室温で極性有機溶媒と接触させる。さらなるステップは必要ではなく、組織は以下に記載されるように直接凍結乾燥することができる。
【0059】
化学的な脱水の後、残留水および極性有機溶媒を除去するために組織を凍結乾燥する。一態様では、羊膜、絨毛膜、および/またはワルトンゼリーは、凍結乾燥前に適切な乾燥固定具上に置くことができる。たとえば、1つまたは複数の羊膜の条片を、適切な乾燥固定具に置くことができる。次に、絨毛膜を羊膜の上部に置く。この態様では、羊膜/絨毛膜の組織移植片を生成する。あるいは、羊膜の条片を第1の乾燥固定具に置くことができ、絨毛膜の条片を第2の乾燥固定具に置くことができる。乾燥固定具は、好ましくは、胎盤組織を完全に広げて平らに配置するために十分大きいサイズである。一態様では、乾燥固定具は、TeflonまたはDelrin製であり、これらは、Dupont社が発明して販売しているアセタール樹脂工学プラスチックに関する商標名であり、米国ジョージア州のWerner Machine, Inc.からも市販されている。湿潤した組織を載せるのに適した大きさに形成できる、熱耐性および切断耐性のある他のいずれかの適切な材料もまた、同様に乾燥固定具に使用することができる。
【0060】
組織を乾燥固定具に置いた後、乾燥固定具を凍結乾燥器に入れる。組織を脱水するために凍結乾燥器を使用することは、熱的脱水などの他の技術と比較して有効であり、完全であり得る。一般的に、胎盤組織中での氷晶の形成を回避することが望ましく、これは、氷晶が組織中の細胞マトリックスに損傷を与え得るためである。凍結乾燥の前に胎盤組織を化学的に脱水することにより、この問題を回避することができる。
【0061】
別の態様では、脱水ステップは、組織に熱を適用することを含む。一態様では、羊膜、絨毛膜、および/またはワルトンゼリーを、適切な乾燥固定具上に置いて(個々の条片として、または上述の積層物として)、乾燥固定具を、滅菌Tyvex(または類似の、通気可能であり、熱耐性があり、かつ密封可能な材料)の脱水バッグに入れ、密封する。通気可能な脱水バッグは、組織が、あまりにも急速に乾燥するのを防止する。複数の乾燥固定具を同時に処理する場合、各乾燥固定具を、自身のTyvexバッグに入れるか、またはあるいは、その上に複数の乾燥フレームを保持するように設計されている適切な取り付けフレームに配置し、次にフレーム全体を、より大きな単一の滅菌Tyvex脱水バッグに入れ、密封する。
【0062】
次に、1つまたは複数の乾燥固定具を含むTyvex脱水バッグを、あらかじめ約35~50℃に温められている非真空のオーブンまたはインキュベータに入れる。Tyvexバッグを、30~120分間オーブンに入れたままにする。一態様では、この加熱ステップは、組織を過剰に乾燥、または焼成することなく十分に組織を乾燥させるため約45℃の温度で45分行うことができる。いずれかの特定のオーブンの特定の温度および時間は、高度、オーブンのサイズ、オーブンの温度の精度、乾燥固定具に使用される材料、同時に乾燥させる乾燥固定具の数、単一または複数の乾燥固定具のフレームが同時に乾燥されるかどうかなどを含む他の要因に応じて較正かつ調節される必要がある。
【0063】
微粒子化組成物の調製(ステップ150)
羊膜、絨毛膜、および/またはワルトンゼリーの層を、個々に、または組織移植片の形態で脱水した後、任意に、脱水した組織を微粒子化することができる。微粒子化した組成物を、当技術分野で知られている器具を使用して生成することができる。たとえば、Retsch Oscillating Mill MM400を、本明細書中に記載される微粒子化組成物を生成するために使用できる。微粒子化組成物中の材料の粒径は、同様に、微粒子化組成物の用途に応じて変動することができる。一態様では、微粒子化組成物は、500μm未満、400μm未満、300μm未満、または25μm~300μm、25μm~200μm、または25μm~150μmである粒径を有する。特定の態様では、より大きな直径(たとえば150μm~350μm)を有する粒子が望ましい。他の態様では、たとえば粒子がネブライザーにより使用される場合、より小さな直径を有する粒子が望ましい。当業者は、本発明の微粒子化組成物中の材料の粒径および大きさの範囲が平均粒径であることを理解するものである。
【0064】
一態様では、微粒子化は、機械的な粉砕または断片化により行われる。別の態様では、微粒子化は低温粉砕により行われる。この態様では、粉砕プロセスの前および最中に、一体型の冷却システムから液体窒素で、組織を含む粉砕ジャーを持続的に冷却する。これにより試料を脆化させ、揮発性成分を保存する。さらに、羊膜、ワルトンゼリー、および/または絨毛膜のタンパク質の変性が最小限となる、または阻止される。一態様では、Retschにより製造されたCryoMillを、この態様で使用することができる。
【0065】
本明細書中に記載される組成物を作製するために使用される胎盤組織成分の選択は、組成物の最終的な用途に応じて変動し得る。たとえば、胎盤組織、または羊膜、絨毛膜、中間組織層、ワルトンゼリー、もしくはそれらのいずれかの組み合わせなどの個々の成分を互いに混合し、後に微粒子化することができる。別の態様では、1つまたは複数の胎盤組織、羊膜、絨毛膜、ワルトンゼリーの層、またはそれらのいずれかの組み合わせ(すなわち積層物)から構成された1つまたは複数の組織移植片を微粒子化することができる。さらなる態様では、1つまたは複数の羊膜、絨毛膜、ワルトンゼリーの層、またはそれらのいずれかの組み合わせから構成された1つまたは複数の組織移植片を、個々の成分としての羊膜、絨毛膜、ワルトンゼリーの層、またはそれらのいずれかの組み合わせと混合し、後に微粒子化することができる。
【0066】
本明細書中に記載される微粒子化組成物を作製するために使用される異なる成分の量は、微粒子化組成物の用途に応じて変動し得る。一態様では、微粒子化組成物が、羊膜(中間組織層を含むまたは含まない)およびワルトンゼリーから構成される場合、羊膜対ワルトンゼリーの重量比は、10:1~1:10、9:1~1:1、8:1~1:1、7:1~1:1、6:1~1:1、5:1~1:1、4:1~1:1、3:1~1:1、2:1~1:1、または約1:1である。別の態様では、微粒子化組成物が、羊膜(中間組織層を含むまたは含まない)および絨毛膜から構成される場合、絨毛膜対羊膜の重量比は、10:1~1:10、9:1~1:1、8:1~1:1、7:1~1:1、6:1~1:1、5:1~1:1、4:1~1:1、3:1~1:1、2:1~1:1、または約1:1である。
【0067】
粒子サイズの分離は、粒子の懸濁物を形成することによる滅菌水中の微粒子化物質の分画により行うことができる。懸濁物の最も上の部分は、最も小さな粒子を主に含み、懸濁物の最も下部の部分は、最も重い粒子を主に含む。分画は、粒子サイズの分離をもたらし、分画を反復することにより、微粒子化粒子が様々なサイズに分離される。よって、分離した粒子を、胎盤組織の組成物の作製および所望の用途に最も適している望ましい比率の粒子サイズに再度組み合わせることができる。
【0068】
さらなる態様では、胎盤組織を架橋することができる。たとえば、架橋剤を、微粒子化の前および/または後に、組成物(たとえば個々の成分および/または組織移植片としての羊膜、絨毛膜、ワルトンゼリー、またはそれらのいずれかの組み合わせ)に添加することができる。一般的に、架橋剤は非毒性かつ非免疫原性である。羊膜、ワルトンゼリー、および/または絨毛膜(またはそれらの組織移植片)を架橋剤で処理する場合、架橋剤は、同じまたは異なるものとすることができる。一態様では、羊膜、ワルトンゼリー、および絨毛膜を、架橋剤を用いて別々に処理することができ、またはあるいは、羊膜、ワルトンゼリー、および絨毛膜を、同じ架橋剤を用いてまとめて処理することができる。特定の態様では、羊膜、ワルトンゼリー、および絨毛膜を、2つ以上の異なる架橋剤を用いて処理することができる。羊膜、ワルトンゼリー、および絨毛膜を処理するための条件は、変動し得る。他の態様では、羊膜、ワルトンゼリー、および/または絨毛膜を微粒子化することができ、その後、微粒子化組成物を、架橋剤で処理することができる。一態様では、架橋剤の濃度は、0.1M~5M、0.1M~4M、0.1M~3M、0.1M~2M、または0.1M~1Mである。
【0069】
一般的に、架橋剤は、タンパク質と反応して共有結合を形成することができる2つ以上の官能基を有する。一態様では、架橋剤は、タンパク質に存在するアミノ基と反応できる基を有する。このような官能基の例として、限定するものではないが、ヒドロキシル基、置換または非置換アミノ基、カルボキシル基、およびアルデヒド基が挙げられる。一態様では、架橋剤は、たとえばグルタルアルデヒドなどのジアルデヒドとすることができる。別の態様では、架橋剤は、たとえば(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチル-カルボジイミド(EDC)などのカルボジイミドとすることができる。他の態様では、架橋剤は、酸化したデキストラン、p-アジドベンゾイルヒドラジド、N-[α-マレイミドアセトキシ]スクシンイミドエステル、p-アジドフェニルグリオキサール一水和物、ビス-[β-(4-アジドサリチルアミド)エチル]ジスルフィド、ビス-[スルホスクシンイミジル]スベラート、ジチオビス[スクシンイミジル]プロピオナート、ジスクシンイミジルスベラート、および1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドハイドロクロリド、二官能性オキシラン(OXR)、またはエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)とすることができる。
【0070】
一態様では、糖は架橋剤であって、ここでの糖は、羊膜、ワルトンゼリー、および絨毛膜に存在するタンパク質と反応して共有結合を形成することができる。たとえば、この糖は、メイラード反応によりタンパク質と反応することができる。このメイラード反応は、糖を還元させることによりタンパク質のアミノ基の非酵素的グリコシル化により開始され、共有結合の形成をもたらす。架橋剤として有益な糖の例としては、限定するものではないが、D-リボース、グリセロース、アルトロース、タロース、エリトロース(ertheose)、グルコース、リキソース、マンノース、キシロース、グロース、アラビノース、イドース、アロース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、スクロース、セロビオース(cellibiose)、ゲンチオビオース(gentibiose)、メリビオース、ツラノース、トレハロース、イソマルトース、またはそれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0071】
特定の態様では、本明細書中記載される微粒子化組成物は、生物学的なシステムまたは実体が、薬学的な組成物を生成するために認容することができるいずれかの賦形剤に製剤化することができる。このような賦形剤の例として、限定するものではないが、水、ヒアルロン酸水溶液、生理食塩水、リンガー液、ブドウ糖溶液、ハンクス液、および他の生理的平衡塩類溶液が挙げられる。不揮発性油、オリーブ油およびゴマ油などの植物油、トリグリセリド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、およびオレイン酸エチルなどの注入可能な有機エステルなどの非水性ビヒクルもまた使用できる。他の有益な製剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなどの粘性増進剤を含む懸濁物が挙げられる。また賦形剤は、等張性または化学的安定性を高める物質などの少量の添加剤を含むこともできる。バッファーの例として、リン酸塩バッファー、炭酸水素塩バッファー、およびトリスバッファーが挙げられ、保存剤の例として、チメロサール、クレゾール、ホルマリン、およびベンジルアルコールが挙げられる。特定の態様では、投与形式に応じて、pHを修正することができる。さらに、薬学的組成物は、本明細書中に記載の化合物に加えて、キャリアー、増粘剤、希釈剤、保存剤、表面活性剤などを含むことができる。
【0072】
特定の例の、微粒子化胎盤組織成分の実際の好ましい量は、組成物の特定の用途、製剤化した特定の組成物、使用形式、および処置される特定の場所および対象に応じて変動する。たとえば、通常の適切な薬学的プロトコルによる対象の化合物および既知の薬剤の異なる活性の慣例的な比較による通常の検討を用いて、所定の対象の用量を決定することができる。薬学的化合物の用量を決定する当業者である医師および処方者は、標準的な推奨(Physician’s Desk Reference, Barnhart Publishing(1999))によって用量を問題なく決定するものである
【0073】
特定の態様では、さらなる成分を、本組成物に添加してもよい。さらなる成分は、充填剤、生理活性剤、接着剤、安定剤、バッファー、薬学的成分、着色剤、崩壊剤などであり得る。
【0074】
別の態様では、生理活性剤を、微粒子化の前および/または後に組成物に添加することができる。生理活性剤の例として、限定するものではないが、自己血の採取および分離生成物を使用した血小板濃縮物、または失効した保存血由来の血小板濃縮物に由来する天然に存在する増殖因子;骨髄吸引液;濃縮ヒト臍帯血幹細胞、濃縮した羊膜液の幹細胞、もしくはバイオリアクターで増殖した幹細胞由来の幹細胞;または抗生物質が挙げられる。対象領域に生理活性剤と共に組成物を適用すると、生理活性剤が経時的にこの領域に送達される。よって、本明細書中に記載の微粒子化粒子は、対象に投与する場合の生理活性剤および他の医薬製剤の送達デバイスとして有益である。放出プロファイルは、特に、微粒子化組成物を作製するために使用される成分の選択、および粒子のサイズに基づき修正できる。
【0075】
他の態様では、1つまたは複数の接着剤を、本組成物と混合することができる。このような接着剤の例として、限定するものではないが、フィブリンシーラント、シアノアクリレート、ゼラチン、およびトロンビンの生成物、ポリエチレングリコールポリマー、アルブミン、およびグルタルアルデヒド生成物が挙げられる。一態様では、胎盤組織成分組成物の位置を特定して意図する処置部位へ適切に配置することを容易にするために、着色剤を添加する。別の態様では、崩壊剤は、胎盤組織成分組成物が、対象に導入した後にin vivoで浸食、または崩壊する速度を調整する。
【0076】
さらなる別の態様では、本組成物を、少なくとも1つの可塑剤と混合する。当業者は、可塑剤の生物学的適合性、in vivoでの胎盤組織移植片の崩壊または浸食の速度に及ぼす可塑剤の作用、胎盤組織成分組成物の可撓性およびコヒーレンシーを促進するための混合物の特性に及ぼす可塑剤の作用に基づき適切な可塑剤を選択する。例示的な可塑剤として、限定するものではないが、ポリエチレングリコール、グルコースモノエステル、および部分的脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0077】
本明細書中に記載の組成物は、局所的または全身的な処置が望ましいかどうか、および処置される領域に応じて様々な方法で投与することができる。一態様では、投与は注入によるものとすることができる。他の態様では、本組成物は、液体、ゲル、またはペーストである。他の態様では、本組成物は、対象の体内に適用できるよう製剤化できる。他の態様では、本組成物は、局所的(目、膣、直腸、経鼻、経口、または皮膚に直接適用することを含む)に適用することができる。他の態様では、本組成物は、ネブライザーにより投与できる。
【0078】
一態様では、本組成物は、皮膚に直接塗布する局所組成物として製剤化できる。局所投与用の製剤は、エマルジョン、クリーム、水溶液、油、軟膏、パテ、ペースト、ゲル、ローション、ミルク、および懸濁物を含むことができる。一態様では、局所組成物は、1つまたは複数の界面活性剤、および/または乳化剤を含むことができる。
【0079】
存在し得る界面活性剤(または表面活性物質)は、アニオン性、非イオン性、カチオン性、および/または両性の界面活性剤である。アニオン性界面活性剤の典型的な例として、限定するものではないが、石鹸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテルスルホン酸塩、グリセロールエーテルスルホン酸塩、αメチルエステルスルホン酸塩、スルホ脂肪酸、硫酸アルキル、脂肪アルコールエーテル硫酸塩、グリセロールエーテル硫酸塩、脂肪酸エーテル硫酸塩、ヒドロキシ混合エーテル硫酸塩、モノグリセリド(エーテル)硫酸塩、脂肪酸アミド(エーテル)硫酸塩、モノおよびジアルキルスルホコハク酸塩、モノおよびジアルキルスルホサクシナメート、スルホトリグリセリド、アミド石鹸、エーテルカルボン酸およびその塩、脂肪酸イセチオン酸塩、脂肪酸サルコシン酸塩、脂肪酸タウリド、N-アシルアミノ酸、たとえば乳酸アシル、酒石酸アシル、グルタミン酸アシルおよびアスパラギン酸アシル、アルキルオリゴグルコシド硫酸塩、タンパク質脂肪酸濃縮物(特にコムギベースの植物性生成物)、ならびにアルキル(エーテル)リン酸塩が挙げられる。非イオン性界面活性剤の例として、限定するものではないが、脂肪アルコールポリグルコールエーテル、アルキルフェノールポリグルコールエーテル、脂肪酸ポリグルコールエステル、脂肪酸アミドポリグリコールエーテル、脂肪アミンポリグリコールエーテル、アルコキシ化トリグリセリド、混合エーテルまたは混合ホルマル、任意に、部分的に酸化したアル(ケ)ニルオリゴグリコシドまたはグルクロン酸誘導体、脂肪酸N-アルキルグルカミド、タンパク質加水分解物(特にコムギベースの植物性生成物)、ポリオール脂肪酸エステル、糖エステル、ソルビタンエステル、ポリソルベート、およびアミン酸化物が挙げられる。両性および双性イオンの界面活性剤の例として、限定するものではないが、アルキルベタイン、アルキルアミドベタイン、アミノプロピオネート、アミノグリシン酸塩、イミダゾリニウム-ベタインおよびスルホベタインが挙げられる。
【0080】
一態様では、界面活性剤は、脂肪アルコールポリグリコールエーテル硫酸塩、モノグリセリド硫酸塩、モノおよび/またはジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸イセチオン酸塩、脂肪酸サルコシン酸塩、脂肪酸タウリド、脂肪酸グルタミン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、エーテルカルボン酸、アルキルオリゴグルコシド、脂肪酸グルカミド、アルキルアミドベタイン、アンホアセタール(amphoacetal)、および/またはタンパク質脂肪酸凝縮物とすることができる。
【0081】
双性イオンの界面活性剤の例として、N-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムグリシナート、たとえばココアルキルジメチルアンモニウムグリシナート、N-アシルアミノプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムグリシナート、たとえばココアシルアミノプロピルジメチルアンモニウムグリシナート、およびアルキルまたはアシル基に8~18個の炭素原子を各場合で有する、2-アルキル-3-カルボキシメチル-3-ヒドロキシエチルイミダゾリン、ならびにココアシルアミノエチルヒドロキシエチル-カルボキシメチルグリシナートなどのベタインが挙げられる。
【0082】
一態様では、乳化剤は、以下の、8~22個の炭素原子を有する直鎖状脂肪アルコール、12~22個の炭素原子を有する脂肪酸、アルキル基で8~15個の炭素原子を有するアルキルフェノール、およびアルキルラジカルで8~22個の炭素原子を有するアルキルアミンに対する、2~30molのエチレンオキシドおよび/または0~5molのプロピレンオキシドの付加生成物;アル(ケ)ニルラジカルに8~22個の炭素原子を有するアルキルおよび/またはアルケニルオリゴグリコシドおよびそのエトキシル化類似体;ヒマシ油および/または硬化ヒマシ油に対する1~15molのエチレンオキシドの付加生成物;ヒマシ油および/または硬化ヒマシ油に対する15~60molのエチレンオキシドの付加生成物;グリセロールおよび/またはソルビタンと、12~22個の炭素原子を有する不飽和、直鎖、または飽和、分枝鎖脂肪酸、および/または3~18個の炭素原子を有するヒドロキシカルボン酸との部分エステル、ならびに1~30molのエチレンオキシドを含むそれらの付加物;ポリグリセロール(平均自己縮合度:2~8)、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖アルコール(たとえばソルビトール)、アルキルグルコシド(たとえばメチルグルコシド、ブチルグリコシド、ラウリルグリコシド)、およびポリグルコシド(たとえばセルロース)と、12~22個の炭素原子を有する飽和および/または不飽和、直鎖または分枝鎖の脂肪酸、および/または3~18個の炭素原子を有するヒドロキシカルボン酸とのの部分エステル、ならびに1~30molのエチレンオキシドによるそれらの付加物;ペンタエリスリトール、脂肪酸、クエン酸、および脂肪アルコールの混合エステル、および/または6~22個の炭素原子を有する脂肪酸、メチルグルコース、およびポリオール、好ましくはグリセロールまたはポリグリセロール、モノ、ジ、およびトリアルキルリン酸塩、およびモノ、ジ、および/またはトリPEGアルキルリン酸塩、およびそれらの塩の混合エステル;羊毛脂アルコール;ポリシロキサン‐ポリアルキル‐ポリエーテルコポリマー、および対応する誘導体;ならびにブロックコポリマー、たとえばポリエチレングリコール‐30 ジポリヒドロキシステアリン酸塩から選択される非イオン性界面活性剤とすることができる。一態様では、乳化剤は、たとえば、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールである。別の態様では、乳化剤は、100Da~5,000Da、200Da~2,500Da、300Da~1,000Da、400Da~750Da、550Da~650Da、または約600Daの分子量を有するポリエチレングリコールである。
【0083】
別の態様では、乳化剤は、ポロクサマーである。一態様では、ポリオキシエチレン(たとえば(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水鎖が隣接するポリオキシプロピレン(たとえば(ポリ(プロピレンオキシド))の中心の疎水鎖から構成される非イオン性トリブロックコポリマーである。他の態様では、ポロクサマーは、式HO(C2H4O)b(C3H6O)a(C2H4O)bOHであって、式中、aが、10~100、20~80、25~70、25~70、または50~70であり、bが、5~250、10~225、20~200、50~200、100~200、または150~200である。別の態様では、ポロクサマーは、2,000~15,000、3,000~14,000、または4,000~12,000の分子量を有する。本明細書中有益なポロクサマーは、BASFにより製造されている商標名Pluronic(登録商標)の下で販売されている。本明細書中で有益なポロクサマーの非限定的な例として、限定するものではないが、Pluronic(登録商標)F68、P103、P105、P123、F127、およびL121が挙げられる。
【0084】
別の態様では、乳化剤は、1つまたは複数の脂肪アルコールから構成されている。一態様では、脂肪アルコールは、直鎖または分枝鎖のC6~C35脂肪アルコールである。脂肪アルコールの例として、限定するものではないが、カプリルアルコール(1-オクタノール)、2-エチルヘキサノール、ペラルゴンアルコール(1-ノナノール)、カプリンアルコール(1-デカノール、デシルアルコール)、ウンデシルアルコール(1-ウンデカノール、ウンデカノール、ヘンデカノール)、ラウリルアルコール(ドデカノール、1-ドデカノール)、トリデシルアルコール(1-トリデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール)、ミリスチルアルコール(1-テトラデカノール)、ペンタデシルアルコール(1-ペンタデカノール、ペンタデカノール)、セチルアルコール(1-ヘキサデカノール)、パルミトレイルアルコール(シス-9-ヘキサデセン-1-オール)、ヘプタデシルアルコール(1-n-ヘプタデカノール、ヘプタデカノール)、ステアリルアルコール、(1-オクタデカノール)、イソステアリルアルコール、(16-メチルヘプタデカン-1-オール)、エライジルアルコール(9E-オクタデカエン-1-オール)、オレイルアルコール(シス-9-オクタデセン-1-オール)、リノレイルアルコール(9Z,12Z-オクタデカジエン-1-オール)、エライドリノレイルアルコール(9E,12E-オクタデカジエン-1-オール)、リノレニルアルコール(9Z,12Z,15Z-オクタデカトリエン-1-オール)エライドリノレニルアルコール(9E,12E,15-E-オクタデカトリエン-1-オール)、リシノレイルアルコール(12-ヒドロキシ-9-オクタデセン-1-オール)、ノナデシルアルコール(1-ノナデカノール)、アラキジルアルコール(1-エイコサノール)、ヘンエイコシルアルコール(1-ヘンエイコサノール)、ベヘニルアルコール(1-ドコサノール)、エルシルアルコール(シス-13-ドコセン-1-オール)、リグノセリルアルコール(1-テトラコサノール)、セリルアルコール(1-ヘキサコサノール)、モンタニルアルコール、クルチル(cluytyl)アルコール(1-オクタコサノール)、ミリシルアルコール、メリシルアルコール(1-トリアコンタノール)、ゲジルアルコール(geddyl alcohol)(1-テトラトリアコンタノール)、またはセテアリルアルコールが挙げられる。
【0085】
一態様では、局所組成物を生成するために使用されるキャリアーは、ポリエチレンと1つまたは複数の脂肪アルコールとの混合物である。たとえば、キャリアーは、50~99重量%、75~99重量%、90~99重量%、または約95重量%のポリエチレングリコール、および1~50重量%、1~25重量%、1~10重量%、または約5重量%の脂肪アルコールから構成されている。さらなる態様では、キャリアーは、ポリエチレングリコールとセチルアルコールとの混合物である。
【0086】
また局所組成物は、このような組成物に典型的に存在する追加的な成分を含むことができる。一態様では、局所組成物は、以下の成分:脂肪、ワックス、真珠光沢ワックス、増ちょう剤、増粘剤、過脂肪剤、安定剤、ポリマー、シリコーン化合物、レシチン、リン脂質、生体活性成分、デオドラント、抗菌剤、制汗剤、膨張剤、防虫剤、ハイドロトロープ、可溶化剤、保存剤、香油、および色素のうちの1つまたは複数を含むことができる。これら化合物のそれぞれの例は、米国特許第8,067,044号に開示されており、この文献は、これら化合物に関して参照として援用されている。
【0087】
本明細書中に記載の局所組成物は、キャリアーと組成物を混合することにより調製することができる。キャリアーが2つ以上の成分から構成されている場合、組成物を添加する前にこれら成分を互いと混合することができる。局所組成物に存在する胎盤組織または胎盤増殖因子および/もしくは幹細胞の量は、用途に応じて変動することができる。一態様では、胎盤組織成分の組成は、局所組成物の0.5~20重量%、1~10重量%、2~5重量%、または約3重量%である。
【0088】
調製の後、組成物を、すぐに使用することができ、または保存のためもしくは後で使用するために適切にパッケージすることができる。
【0089】
胎盤組織抽出物
本発明の一態様は、胎盤組織から抽出した胎盤増殖因子および/または幹細胞を含む組成物の有効量をその必要のある対象に提供することにより血管新生を誘導する方法、を提供する。このような抽出物は、米国特許出願第13/744,331号、米国特許出願第14/157445号、米国特許出願第61/849,838号に記載されるものを含み、これらに記載される方法により調製できる。これら特許出願全体は、本明細書中参照として援用されている。
【0090】
一実施形態では、増殖因子は、pH勾配溶出を介した抽出により、胎盤組織またはそれらの成分から抽出される。pHの勾配は、好ましくは、たとえば約pH5~約pH8のpH勾配といった生理的なpH勾配である。
【0091】
胎盤組織成分または胎盤組織抽出物の適用
本明細書中記載される組成物は、末梢性神経障害、肝硬変、肺病態、または非心血管病態を治療または予防することを含む、多くの医学的用途で使用できる。一部の実施形態では、肺病態は、嚢胞性線維症、肺線維症、または慢性閉塞性肺疾患である。一部の実施形態では、非心血管病態は、骨の壊死、虚血、皮膚、組織、もしくは臓器への損傷、または慢性創傷である。
【0092】
本発明の一態様は、対象の非心血管身体領域で血管新生を誘導する方法であって、上記領域への血液が損傷または疾患により限定されている、方法を提供する。本方法は、上記非心血管身体領域に微粒子化改変胎盤組織を含む水溶液の有効量を注入することと、血管新生が誘導される条件下で上記領域を維持することとを含む。非心血管身体領域は、たとえば、身体の末梢部、肝臓、肺、神経、骨、または皮膚を含む。
【0093】
本明細書中に記載の改変胎盤組織またはその抽出物を含む組成物は、血管新生を誘導するために十分な量で、疾患のある、かつ/または損傷した非心血管身体領域の近位または内部に移植することができる。様々な態様では、損傷した非心血管身体領域またはその近くで血管新生を誘導するために、十分な量の胎盤組織または抽出物が、血管新生の誘導前に必要とされる。
【0094】
一部の実施形態では、血管新生を誘導する方法は、好ましくは糖尿病のコントロールが不十分であり、末梢神経障害を発症する有意なリスクがある糖尿病の対象において、予防的に使用することができることが考慮されている。よって、一実施形態では、改変胎盤組織、または改変胎盤組織由来の胎盤増殖因子および/もしくは幹細胞を含む組成物の有効量を対象に、糖尿病の対象の身体の末梢部へ送達することによる、糖尿病の対象の予防治療が存在する。
【0095】
特定の場合に投与される胎盤組織または胎盤組織抽出物の実際の量は、特定の処置される非心血管身体領域、特定の製剤化される組成物、投与形式、および処置される特定の対象における疾患または損傷の度合いにより変動することが理解されている。所定の宿主の用量は、たとえば適切な通常の薬理学的プロトコルにより、対象化合物と既知の薬剤の活性の差異の慣例的な比較による通常の検討を使用して決定できる。薬学的な化合物の用量を決定する当業者である医師および処方者は、標準的な推奨(Physician’s Desk Reference, Barnhart Publishing (1999))により用量を問題なく決定する。
【0096】
血管新生を誘導する条件下で非心血管身体領域を維持することは、血管新生を誘導するための十分な時間、かつ、改変胎盤組織または胎盤組織の抽出物の組成物が、血管新生が望ましい場所で保持される方法で、対象および/または上記身体領域を完全もしくは部分的に固定、または制限する必要があり得ることを意味する。たとえば、足などの身体の末梢部で血管新生を誘導する場合、組成物が血管新生の適切な誘導を起こすのに適切な部位にとどまるためには、治療期間のすべて、実質的にすべて、またはその一部の間、対象が自身の足を遠ざける必要があり得る。
【0097】
以下の実施例は、本明細書で記載および請求される組成物および方法がどのように作製および評価されるかの完全な開示および説明を当業者に提供するために記載されており、単なる例示として意図されており、本発明者らが本発明とみなす範囲を限定するよう意図されるものではない。数(たとえば量、温度など)に関して正確性を保つように努力しているが、何らかの誤差および偏差を考慮すべきである。特段他の記載がない限り、割合は重量部であり、温度は℃または周囲温度であり、圧力は大気圧またはその付近の圧力である。たとえば成分の濃度、望ましい溶媒、溶媒の混合物、温度、圧力、ならびに記載されるプロセスから得られた生成物の純度および収率を最適化するために使用できる他の反応範囲および条件といった反応条件における、多くの変動および組み合わせが存在する。単なる合理的なルーチンの実験で、そのようなプロセス条件を最適化することができる。
【0098】
実施例
実施例1
脱水したヒトの羊膜/絨毛膜同種異系移植片の血管新生特性:軟組織の修復および再生に関する治療可能性
【0099】
正常な創傷治癒は、個々の常在性細胞タイプ、ならびに炎症細胞、血小板および幹細胞の間で相互作用を必要とする複合的な生物学的プロセスである(1)。血管新生を介した創傷への新規の血管の増殖は、このプロセスの重要な態様であり、これにより、組織のリモデリングおよび再生に必要な栄養素および調節因子の適切な送達を促進させる(2)。
【0100】
用語血管新生は、既存の血管からの新規の血管の増殖を説明するものである(2)。急性の組織損傷の後に、損傷した細胞および血小板により、血管内皮増殖因子(VEGF)、胎盤増殖因子(PlGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、アンジオゲニン、アンジオポエチン、および他の因子を含む血管新生サイトカインの局所的な放出を含む事象の迅速なカスケードが起こる(2、3)。これら因子は、既存の局所血管の急速な不安定化、および局所内皮細胞の活性化をもたらし、このプロセスは、単球、マクロファージ、および線維芽細胞からの増殖因子のさらなる放出により増幅される。血管新生シグナルの濃度勾配は、活性化内皮細胞を誘導して増殖、遊走、出芽させ、および細胞外マトリックス(ECM)に協調して浸潤させ、その結果血管の3次元のリモデリングにより、機能的な新規の微小循環ネットワークが作製される。この応答の一部として、マトリックスメタロプロテアーゼ(NMP)を含むタンパク質分解酵素が内皮細胞により放出されて、隣接する細胞との相互作用を破壊し、インテグリン受容体発現の動的な調節を介して、内皮細胞の接着、遊走、および増殖因子シグナリングを促進させる(3)。
【0101】
しかしながら、慢性創傷では、血管新生を含む正常な治癒プロセスが破壊されており、これにより治癒の遅延または不適切な治癒がもたらされる。多くの場合、慢性創傷は、糖尿病およびアテローム性動脈硬化症などの全身疾患の存在下で起こり、微小血管の欠損を伴う(2)。さらに、増殖因子のシグナリング、MMPおよび組織メタロプロテアーゼ阻害剤(TIMP)の不均衡、ならびに前駆細胞の動員障害を含む、多くの細胞および分子の欠如が、慢性損傷の治癒不良に関連しており、これらの異常を訂正することがより自然な治癒プロセスを促進し得ることが示唆される(1、4)。
【0102】
ヒトの羊膜を、慢性的な皮膚創傷を治療するために使用することには成功している(5~8)。ヒトの羊膜由来の同種異系移植片は、低い免疫原性を呈し、炎症、疼痛、および瘢痕を低減させて、創傷治癒を加速させる能力を示している(9~17)。
【0103】
保護的な創傷の障壁としての作用するほかに、ヒトの羊膜は、細胞の増殖および組織の内植を支持する生物学的マトリックスを提供する。また、正常な創傷治癒に役割を果たす増殖因子もまた、新しい羊膜組織と保存された羊膜組織の両方で同定されており、これらには上皮増殖因子(EGF)、bFGF、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、TGF-αおよび-β、肝細胞増殖因子(HGF)、および神経成長因子(NGF)が挙げられる(18~20)。よって、本出願人は、羊膜治療が創傷治癒を加速させる1つの機序は、血管新生の誘導を介するという仮説を立てた。
【0104】
安全に採取した羊膜組織同種異系移植片が、臨床の用途に関する生理活性を保持し、長期間の保存に安定であり、市販可能であることを保証するために、MiMedx Group、Inc.(米国ジョージア州マリエッタ)は、他に記載の(21~23)穏やかな洗浄および脱水プロセス(PURION(登録商標)処理)を開発した。PURION(登録商標)処理および脱水したヒト羊膜/絨毛膜(dHACM)同種異系移植片は、特にPDGF-AA、PDGF-BB、PlGF、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、およびVEGFを含む、上述に列挙したもの以外にも多数の血管新生誘導性の増殖因子を含むことが近年示されている(24)。
【0105】
この研究の目標は、PURION(登録商標)処理および脱水したヒト羊膜/絨毛膜(dHACM)同種異系移植片が血管新生を促進する能力を決定することであった。EpiFix(登録商標)dHACM高度創傷ケア製品内の血管新生関連増殖因子の十分な特徴づけを行った。dHACMが内皮細胞の挙動を調節する能力を試験するために、dHACMに応答したin vitroでのヒト内皮細胞の増殖、遊走、および内在性血管新生因子の産生を決定した。さらに、マウスの皮下移植モデルにおいてdHACMが血管新生を促進する能力を決定するために、In vivoでの試験を行った。
【0106】
実施例1の略語
AATB:米国組織バンク協会;ANG-2:アンジオポエチン-2;APLAC:実験動物のケアに関する管理委員会(Administrative Panel on Laboratory Animal Care);bFGF/FGF2:塩基性線維芽細胞増殖因子;CMV:サイトメガロウイルス;DAPI:4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール;dHACM:脱水ヒト羊膜/絨毛膜;ECM:細胞外マトリックス;EGF:上皮増殖因子;ELISA:酵素結合免疫吸着測定法;FDA:米国食品医薬品局;GCSF:顆粒球コロニー刺激因子;HB-EGF:ヘパリン結合性上皮増殖因子;HGF:肝細胞増殖因子;HIV:ヒト免疫不全ウイルス;HMVEC:ヒト毛細血管内皮細胞;HTLV:ヒトTリンパ好性ウイルス;HUVEC:ヒト臍帯静脈内皮細胞;IL:インターロイキン;KGF:ケラチノサイト増殖因子;MMP:マトリックスメタロプロテアーゼ;NGF:神経成長因子;PDGF:血小板由来増殖因子BB;PlGF:胎盤増殖因子、TGF:トランスフォーミング増殖因子β;TIMP:組織メタロプロテアーゼ阻害剤;VEGF:血管内皮増殖因子;VEGF-R2:VEGF受容体2
【0107】
方法
脱水したヒト羊膜/絨毛膜(dHACM)
dHACMは、胎盤由来の積層化した羊膜および絨毛膜から構成された、脱水されたヒト同種異系移植片である(21~23)。ヒト胎盤は、米国食品医薬局(FDA)のGood Tissue Practiceおよび米国組織バンク協会(AATB)により規制されるように、帝王切開後にインフォームドコンセントの下で提供された。ドナーを検査したところ、全員が、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV)、B型およびC型肝炎のウイルス、梅毒ウイルス、およびサイトメガロウイルス(CMV)を含む感染性疾患を有しなかった。羊膜および絨毛膜を胎盤から単離し、層の穏やかな洗浄を含むPURION(登録商標)プロセスで処理し、次に積層化して移植片を形成し、これを制御された乾燥条件下で脱水した(23)。特定のバージョンのdHACM(EpiFix(登録商標),MiMedx Group)を、この試験の試験材料として使用し、よって、この試験の結果は、PURION(登録商標)処理した脱水ヒト羊膜/絨毛膜多層移植片(dHACM)にのみに当てはまる。
【0108】
ELISAアッセイ
8名のドナー由来の、処理および脱水したヒト羊膜/絨毛膜移植片(dHACM)試料中の血管新生増殖因子の含有量を、標準的な酵素結合免疫吸着測定法(ELISA;RayBiotech, Inc.、ジョージア州ノークロス)を用いて測定した。秤量し、細切したdHACM試料を、プロテアーゼ阻害剤を含む溶解バッファーに、4℃で24時間入れた。次に試料をホモジナイズし、遠心して組織残留物を除去し、溶解バッファー中の特定の血管新生因子の量を、希釈したアリコート中で標準的なELISAアッセイを用いて測定した。増殖因子の含有量を、開始組織の乾燥質量に対して標準化した。
【0109】
ヒト微小血管内皮細胞のin vitroでの増殖
細胞培養実験用のdHACM抽出物を調製するために、滅菌した移植片を細切し、培地1ミリリットルあたり20ミリグラムの組織の濃度で、補充物質の存在下および非存在下のMedium 131で抽出した。4℃での24時間の抽出の後、組織残留物を遠心により除去し、抽出物を、滅菌ろ過した。過去の試験から、dHACM中の増殖因子およびサイトカインの有意な量が、これらの条件下で組織から溶出することが確立されている(24)。
【0110】
成年の真皮由来のヒト微小血管内皮細胞(HMVEC;Gibco, Life Technologies Corp. C-011-5C, カリフォルニア州カールスバッド)を、微小血管増殖補充物質(Microvascular Growth Supplement)(Gibco, Life Technologies Corp. S-005-25)を含むMedium 131中でで、96ウェルプレートにおいて24時間播種した。微小血管増殖補充物質は、HMVECの培養に必要な増殖因子、ホルモン、および組織抽出物から構成されており、Medium131中の補充物質の最終的な濃度は、4.9%v/vのウシ胎児血清、1μg/mlのヒドロコルチゾン、3ng/mlのヒト線維芽細胞増殖因子、10μg/mlのヘパリン、1ng/mlのヒト上皮増殖因子、および0.08mMのジブチリルサイクリックAMPであった。細胞接着を可能にする24時間が経過した後、培地をウェルから吸引し、以下のうちの1つと交換した:補充物質を含まない培地(陰性対照)、培地+補充物質(陽性対照)、または2mg/ml、1mg/ml、もしくは0.5mg/mlのdHACMの抽出物を含み、かつ補充物質を含む、または含まない、培地。72時間後、プレートを洗浄して非接着細胞を除去し、CyQuant アッセイ(Molecular Probes, Life Technologies Corp. C7026)を行って、DNA含有量を定量化した(n=5)。血球計算盤で計数することにより決定された既知の細胞の標準曲線を使用して、DNA含有量を細胞数に変換した。
【0111】
ヒト微小血管内皮細胞による血管新生増殖因子のin vitroでの産生
ヒトの微小血管内皮細胞を、96ウェルプレート上で微小血管増殖補充物質を含むMedium131中で、細胞3500個/ウェルの密度で上述のように24時間培養した。細胞接着を可能にする24時間の培養の後、細胞を、2、1、および0.5mg/mlの濃度の補充物質を含むMedium131中で、dHACM抽出物で処理した。72時間の処理の後、試料群あたり5つのウェルからの上清を回収し、60種の増殖因子、サイトカイン、および可溶性増殖因子受容体の存在について試験した。Quantibodyアッセイ(Angiogenesis Array 1000, RayBiotech,ジョージア州ノークロス)を、製造社の説明に従って上清について行い、蛍光マイクロアレイスキャナー(GenePix 4000B, Molecular Devices,カリフォルニア州サニーベール)を使用して定量化した。その後CyQuantアッセイを上述のように接着細胞について行い、細胞数を決定した。
【0112】
ヒト臍帯静脈内皮細胞を用いたin vitroでのトランスウェル遊走試験
改変Boydenチャンバーアッセイを使用して、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、dHACM組織に向かう走化性の細胞の遊走に関してアッセイした。遊走アッセイを、8μm孔のメンブレンフィルター(Corning,ニューヨーク州コーニング)を備えた24ウェルのトランスウェルインサートで行った。補充物質を含んでいない培養培地600μlを、ウェルの底に充填し、次に、直径2.0nm、および6.0nmのディスクを含む、異なる大きさのdHACM組織の一部(n=4:試験したdHACM組織のドナー)を添加した。補充物質を含まないMedium 200(基本培地;Gibco, Life Technologies Corp. M-200-500)および大血管内皮の補充物質を含むMedium200(完全培地;Gibco, Life Technologies Corp. A14608-01)を、それぞれ陰性対照および陽性対照とした(n=4)。大血管内皮補充物質は、ウシ胎児血清、ヒドロコルチゾン、ヒト上皮増殖因子、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子、ヘパリン、およびアスコルビン酸を含んでおり、HUVECの培養に対して最適化されている(Gibco, Life Technologies Corp. C-003-5C)。3.3×104個のHUVES(経路5)を、100μlの基本培地中でトランスウェルインサートに播種し、24時間培養して遊走させた。
【0113】
24時間後、インサートの両側を、PBSですすぎ、遊走していない細胞を、コットンを先端に詰めたスワブで除去した。残りの細胞を、PBS中4%のホルムアルデヒドで30分間固定し、4’6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で5分間染色した後、蛍光顕微鏡(EVOS FL Auto, 10×対物レンズ, Life Technologies)においてPBS中で撮像した。遊走した細胞を計測し、インサートあたり4つの顕微鏡写真を通して平均した。
【0114】
dHACMの移植および組織の収集
スタンフォードで行ったマウスの実験は、実験動物のケアに関する管理委員会(APLAC)のプロトコル#20627により承認されたものである。6名のドナー由来のdHACM産物を、単純な皮下インプラントモデルに利用した。簡潔に述べると、月齢4ヶ月のC57BL/6Jマウス(Jackson Laboratories,メイン州バー・ハーバー)に麻酔をして準備した後、水平方向に6mmの切開部を背側に作製した。皮下ポケットを、皮筋層の下の筋膜平面で鈍器により切開して、5×5mm平方のdHACMを外科的に留置した。手術から3、7、14、および28日目に、マウスの代表的なコホートを屠殺し、インプラントおよびその上の皮膚を、組織の解析のため収集した。同様に損傷していない皮膚も、正常な皮膚の血管分布の参照として回収した。
【0115】
インプラントの新生血管形成の組織的な解析
組織を収集し、OCT(Sakura Finetek USA, Inc.、米国カリフォルニア州トーランス)に包埋した。厚さ10μmの凍結切片を、アセトンで固定し、CD31に対する抗体を使用して免疫染色した(1:200,Abcam,米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)。核をDAPIで染色した。CD31の染色の後、インプラント内部の微小血管の計数を高倍率(400×)で行った。
【0116】
統計解析
統計学的比較を、有意性をp≦0.05に設定して両側の対応のないスチューデントt検定を使用することにより行い、それぞれの対照と処置群を比較した。すべての値を、平均値±標準偏差として表した。
【0117】
結果
dHACM中の血管新生因子
dHACM試料について行ったELISAは、定量可能なレベルの以下の血管新生増殖因子:アンジオゲニン、アンジオポエチン-2(ANG-2)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、ヘパリン結合性上皮増殖因子(HB-EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、レプチン、血小板由来増殖因子BB(PDGF-BB)、胎盤増殖因子(PlGF)、および血管内皮増殖因子(VEGF)を示した。各因子の量を、組織の開始乾燥重量に対して標準化した(表I)。
【表1】
【0118】
内皮細胞の増殖
ヒトの真皮微小血管内皮細胞は、補充物質を含まない培地(陰性対照)でわずかに増殖し、対して陽性対照のウェルに微小血管増殖補充物質を含めると、細胞数をほぼ倍加させた(
図1)。dHACMの抽出物は、培養中のHMVECの増殖を引き起こした。抽出物のすべての濃度で、細胞は、補充物質を含むまたは含まないそれぞれの対照(p≦0.05)よりも有意に高い度合いまで増殖した。3つの抽出物の濃度で用量反応は観察されず、これは、これらの濃度で最大反応に達したことを示している。
【0119】
微小血管内皮細胞による増殖因子の産生
微小血管内皮細胞による増殖因子の産生に及ぼすdHACMの作用を、細胞をdHACMの抽出物で3日間処理し、培養期間の終わりに培養培地中の各増殖因子の量を測定することにより試験した。抽出物は
図2に示すように内皮細胞を増殖させたことから、培養培地を回収した後、各ウェルの細胞数を測定し、増殖因子の値を、細胞数あたりで標準化した。抽出物自体に含まれる各増殖因子の量も同様に測定し、培地の値から減算して、HMVEC自体により産生した追加的な増殖因子の量を計算した。
【0120】
dHACMの抽出物により引き起こされる培養物中の内皮細胞による特定の増殖因子の産生の誘導を、
図2および
図3に示す。抽出物を用いることなく培養した無処置の細胞と比較してdHACM抽出物の存在下で培養した場合に、HMVECは、アンジオゲニン、HB-EGF、PDGF-BB、インターロイキン-2(IL-2)、IL-6、およびIL-8の産生を用量依存的に増加させた。
図2。またHMVECは、1mg/mlのdHACM抽出物の存在下で培養した場合に、TGF-α、TGF-β3、VEGF、アンジオポエチン-1およびアンジオスタチンの産生を大きく増加させ、0.5mg/mlのdHACM抽出物ではVEGF受容体2(VEGF-R2)の産生を増加させた。これらそれぞれのサイトカインのより高濃度で用量反応は観察されなかった。このことは、dHACM移植片に存在する多くのサイトカイン、およびそれらの様々な下流での機能により、対向するシグナリング経路がdHACM抽出物によりその後に活性化されて、
図3で観察された最大反応が得られた可能性がある。60種の血管新生因子の大きいアレイをこの実験でアッセイしたが、便宜上ここでは注目すべき12種の因子のサブセットのみを報告した。
【0121】
in vitroでのHUVECの遊走に及ぼすdHACMの作用
基本培地でのHUVECの遊走と最小の2.0mmの試料中でのHUVECの遊走は有意差がなかったが、dHACM組織の直径6.0mmのディスクを含む試料は、基本培地および2.0mmの試料と比較して有意に多くの遊走を示した。
図4。いずれの実験群も、完全培地(細胞260±68個/視野)と同等の細胞数に達しなかったが、直径6.0mmの試料は、培養培地中のdHACM組織が、in vitroで内皮細胞の遊走を方向付けできることを示した。
【0122】
In vivoでの移植の後のdHACMに対する新生血管の応答
移植したdHACM移植片内の新生血管応答を特徴付けするために、内皮細胞特異的抗原CD31の免疫組織化学染色を行った。CD31陽性の微小血管の量は28日目の間着実に増加することがわかり、これは、インプラント内の動的新生血管形成を示すものである。
【0123】
考察
これらの試験は、脱水したヒト羊膜/絨毛膜(dHACM)が、アンジオゲニン、アンジオポエチン-2、EGF、bFGF、HB-EGF、HGF、レプチン、PDGF-BB、PlGF、およびVEGFを含む、多数の血管新生誘導性の増殖因子を含むことを明確に証明する。これら増殖因子の部分的な列挙は、dHACMに存在する生理的に重要かつ生物学的に活性の分子のアレイ全体を包有するものではない(24)。しかしながら、これら特定の増殖因子は、慢性創傷内の新生血管形成および治癒に関連して、このdHACM同種異系移植片の臨床的な利点に貢献する可能性がある。dHACM中のこれらの可溶性シグナルは、ヒト微小血管内皮細胞を刺激してインビトロで増殖させ、さらにアンジオゲニン、アンジオポエチン-1(ANG-1)、アンジオスタチン、HB-EGF、PDGF-BB、VEGF、およびVEGF受容体2を含む血管新生に関連した内在性増殖因子、サイトカイン、および受容体の産生を増加させた。さらに、dHACM組織は、in vitroで、ヒト内皮細胞の走化性遊走を促進し、このことは、これら可溶性因子が、内皮細胞を動員して、創傷の再‐血管形成を促進できることを示唆している。これらの知見は、治癒する創傷内の血管新生を促進する複数のシグナリング経路を活性化させることにより、dHACMが治療作用を直接および間接的に発揮することを強力に裏付けるものである。
【0124】
従来の研究は、PURION(登録商標)処理したdHACM組織が、創傷治癒において他の重要な役割を果たす増殖因子、抗炎症性分子、および組織メタロプロテナーゼ阻害剤のコレクションをも保持することを証明した。特に、この材料またはその抽出物は、invitroおよびin vitoでの真皮線維芽細胞の増殖、および前駆細胞の動員を促進させた(24)。本発明の結果を組み合わせると、dHACM同種異系移植片は、様々なシグナリング経路および生理学的な機序を介して治癒を刺激し得る幅広い範囲の可溶性シグナルを含み、このうち今日までに同定されているのはごく一部である。
【0125】
これらの多機能の機序は、慢性創傷を治癒することが難しい場合の治療として、dHACMの利点を提供する。通常の創傷では、初期のフィブリン血栓が、修復のマトリックス、ならびに増殖および細胞動員因子のリザーバーとして作用する(25)。次に、好中球、単球、およびリンパ球を含む炎症細胞が、創傷に浸潤し、さらに増殖因子およびサイトカインを放出して、これらがケラチノサイトおよび線維芽細胞の遊走/増殖、微小血管内皮細胞の動員、増殖、および血管新生、ならびに肉芽組織内の神経出芽を含む創傷修復機構を開始する(25)。しかしながら、血管形成およびサイトカインのシグナリングの機能不全を特徴とする糖尿病性潰瘍および静脈性潰瘍を含む慢性創傷では、分子の均衡を修復し、かつ治癒を行うためには、鍵となるサイトカインおよび増殖因子を外部から送達することが必要である場合がある(26)。
【0126】
良好に設計された臨床試験のメタ分析で示される単剤としての組み換えヒトPDGF(ベカプレルミン)の効力が小さく有用性が限定的であることにより証明されるように、増殖因子は単独では、ほとんどの慢性損傷における複数の機能不全を克服するには不十分であり得る(27)。対照的に、dHACMは、追加的な血管新生因子、特にはVEGFおよびbFGF(FGF2)を含み、これらは両方とも、内皮細胞の増殖および遊走を促進する強力な血管新生サイトカインである(28)。また本出願人は、血管新生の作用を指示するだけではなく、VEGFと相乗的に作用して創傷の血管新生を刺激するPIGFも同定した(29)。増殖因子アンジオポエチン‐1および2は、血管の安定性の調節およびリモデリングに重要である(25、28)。またdHACMは、ヒト毛細血管内皮細胞を刺激して、様々な血管新生サイトカインおよび増殖因子の産生を増加させることが見出されたが、このことは、この材料が、同種異系移植片自体により提供される初期のシグナルを、おそらく同種異系移植片の寿命を超えて増幅させることができることを示唆している。
【0127】
血管新生の調節における羊膜の従来の試験では、血管形成の亢進を記載した報告もあれば、血管新生の阻害が観察された報告もあり、矛盾するデータが報告された。抗血管新生作用は、眼/角膜の外科手術の場合に広く報告されているが(30)、皮膚創傷の治癒を促進するために使用する場合には血管形成および治癒の改善が報告されている(31、32)。このように二つに分かれたことは、羊膜組織中に抗血管新生因子(トロンボスポンジン-1、エンドスタチン、および抗血管新生TIMPを含む)(33)と、血管新生誘導因子(VEGFおよびPDGFを含む)(34、35)の両方が存在したことにより部分的に説明することができる。従来より記載されている、血管新生の調節における局所的な環境の役割と組み合わせることにより、羊膜移植片のサイトカイン環境に対する特異的応答は、標的組織および移植場所に大きく依存し得る。
【0128】
この試験では、マウスモデルにおけるdHACM組織の皮下移植は、28日目の間、血管形成の着実な増加を示した。これらの結果は、in vitroでの知見と一致しており、臨床試験データの経時的変化と一致し(17)、PURION(登録商標)処理したdHACM移植片に存在する増殖因子が生物学活性を保持していることを裏付けるものである。単一のインプラントからの長期間の血管新生誘導作用は、より頻繁な適用(毎日または隔週)を必要とする高度創傷介入と比較しておそらく実務的な利点を提供し得る。
【0129】
非治癒性の創傷の治療として使用するためのdHACM移植片の臨床的価値は、臨床研究により示されているが、さらなる橋渡し試験が進行中である。dHACM同種異系移植片を用いた処置は、従来の治療が無効である様々なタイプの創傷を有する患者の治癒を改善することが報告された(13)。さらに、dHACM処置後に治癒した難治性の創傷が、長期間の経過観察で再発しないことが報告された(14)。最後に、小規模プロスペクティブ無作為臨床試験において、Zelenらは、標準的な治療レジメンで処置した糖尿病性足潰瘍と比較して、dHACMで処置した糖尿病性足潰瘍の治癒率が有意に増加したことを証明し、対照の0%および8%と比較してdHACM処置創傷の77%および92%が、4週目および6週目に治癒した(27)。dHACMのデータをまとめると、この材料が、他の利用可能な創傷治癒製品と比較可能な有効性に関して試験可能であることを示唆するものである。
【0130】
まとめると、ヒトの胎盤由来のdHACM同種異系移植片は、生物学活性を保持した複数の血管新生増殖因子を含み、血管新生を直接刺激し、かつin vitroでヒトの内皮細胞から内在性の増殖因子の産生を誘導することにより血管新生シグナリングの合図の増幅を促進する。血管新生作用は、少なくとも28日まで続く。これらの特性は、臨床試験で報告されたdHACMの有効性の説明を助けるものであり、dHACM移植片が、血管形成が不良で治癒されない創傷および他の組織において血管再生および治癒を促進する可能性を示唆している。
【0131】