(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】中掘り工法における杭の支持層到達確認方法
(51)【国際特許分類】
E02D 13/06 20060101AFI20240402BHJP
E02D 7/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
E02D13/06
E02D7/00 Z
(21)【出願番号】P 2018126556
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-06-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000133881
【氏名又は名称】株式会社テノックス
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】堀切 節
【合議体】
【審判長】古屋野 浩志
【審判官】有家 秀郎
【審判官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-2524(JP,B1)
【文献】特開2000-80650(JP,A)
【文献】国際公開第2011/090055(WO,A1)
【文献】特開昭57-116830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D7/00-13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空既製杭の内部に挿入したオーガースクリューを回転させ、土砂を掘削排土しながら中空既製杭を圧入する中掘り工法における杭の支持層到達確認方法であって、(1)式によって算出される前記オーガースクリューを駆動する
駆動モータの消費電力Wから、(2)式によって算出される前記中空既製杭内の土砂によって前記中空既製杭の内面に生ずる杭内抵抗力R
rを、(3)式によって前記
駆動モータの消費電力の単位Wと同じ単位Wの杭内抵抗力R
r´に置き換えてから
、(4)式によって引き算して求まる値を先端抵抗力R
d´として求め、前記先端抵抗力R
d´の上昇により前記中空既製杭の支持層への到達を確認することを特徴とする中掘り工法における杭の支持層到達確認方法。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【請求項2】
請求項1記載の中掘り工法における杭の支持層到達確認方法において、前記先端抵抗力Rd´を
掘削の単位深さ分にわたる範囲について積分した積分補正電力値を求め、積分補正電力値の上昇により前記中空既製杭の支持層への到達を確認することを特徴とする中掘り工法における杭の支持層到達確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空既製杭の内部に挿入したオーガースクリューを回転させ、土砂を掘削排土しながら中空既製杭を地中に圧入する中掘り工法における杭の支持層到達確認方法に関し、オーガースクリューを駆動する駆動モータの杭内抵抗力による電力消費を無くして、中空既製杭の支持層到達状況を正確かつ容易に確認できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
中空既製杭の内部に挿入したオーガースクリューを回転させ、杭内部の土砂を掘削排土しながら前記中空既製杭を地中に圧入する中掘り工法には、杭の先端部が支持層に到達したか否かを確認する杭の支持層到達状況を確認する工程がある。
【0003】
従来、この種の中掘り工法において、杭の支持層到達状況の確認は、予め調査ボーリングによって得られたN値データを利用して行われているが、一本一本杭ごとに地盤の支持層に到達したか否かを確認することは、調査ボーリングの本数に限界があり経済的にほぼ不可能であった。
【0004】
このため、杭の先端部が地盤の支持層に到達したか否かを推定する方法が、種々提案されている。例えば、特許文献1と2には、アースオーガーによる中掘り時にアースオーガーを駆動する駆動モータの消費電力を削孔深度ごとに記録し、かつアースオーガーが地盤を掘削する際の掘削抵抗を削孔深度ごとに間接的に求め、その消費電力の変化によって杭の支持地盤を判定する支持層地盤検出装置の発明が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、オーガー駆動用モータの掘削時における電流値およびオーガーの削孔深度と、調査ボーリングに基づくN値データから杭の支持力状況、支持層到達状況を推定する方法が開示されている。
【0006】
簡単に説明すると、地盤を削孔するオーガーを駆動するオーガー駆動用モータの掘削時における電流値と前記オーガーの深度をそれぞれ測定し、その測定値をパソコン入力用デジタル信号に変換してコンピュータに入力し、パソコンには、予め調査ボーリングによって得られたN値データに基づく深度とN値をそれぞれ入力しておき、そして、実際の杭打ち時に検出した掘削時の掘削深度における電流データを前記調査ボーリングに基づく深度とN値に対応するよう演算し、座標化してその両者をパソコンのCRTに画面表示し、両者の表示内容を比較して杭の支持力状況、支持層到達状況を推定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭57-116830号公報
【文献】特開昭58-123921号公報
【文献】特許2735733号公報
【文献】特許2735734号公報
【文献】特許3675164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1-3に開示された方法は、いずれも地盤を掘削する際の中空既製杭の内周面と杭中空内の掘削土砂との摩擦抵抗による駆動モータの消費電力に基づく杭内抵抗力を含む状態で杭の支持層到達状況を推定するため、実際の調査ボーリングによるN値と一致しないことが多く、杭の先端部が支持層に到達したか否かを正確に確認することはきわめて困難であった。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、杭中空内の掘削土砂との摩擦抵抗による駆動モータの電力消費を無くして、杭の支持層到達状況を正確かつ容易に確認できるようにした中掘り工法における杭の支持層到達確認方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、中空既製杭の内部に挿入したオーガースクリューを回転させ、土砂を掘削排土しながら前記中空既製杭を圧入する中掘り工法における杭の支持層到達確認方法であって、前記オーガースクリューを駆動する駆動モータの消費電力Wから、前記中空既製杭内の掘削土砂によって前記中空既製杭の内面に生ずる杭内抵抗力Rrから求まる単位をWに置き換えた杭内抵抗力Rr´を引き算して求まる値を杭の先端抵抗力Rd´として求め、当該先端抵抗力Rd´の上昇により前記中空既製杭の支持層への到達を確認することを特徴とするものである。
【0011】
オーガースクリューを駆動する駆動モータの消費電力(W)は、(1)式から算出することができる。
【0012】
【0013】
また、杭内抵抗力(Rr)は、(2)式から単位Nで算出することができる。
【0014】
【0015】
また、杭内抵抗力(Rr)は、(3)式によって駆動モータの消費電力(W)と同じ単位(W)に置き換えることができる。
【0016】
【0017】
そして、杭の先端抵抗力(Rd
´)は、(4)式から単位(W)で算出することができる。
【0018】
【0019】
また、駆動モータの電流値(A)、消費電力(
W)、中空既製杭の杭内抵抗力(R
r´)および先端抵抗力(R
d´)は、それぞれコンピュータの表示画面に削孔深度ごとにグラフ(
図3,4参照)によって表示し、特に杭の先端抵抗力(R
d´)の上昇が顕著に表れた地点を杭の支持層と確認することができる。
【0020】
また、前記先端抵抗(R
d´)を
掘削の単位深さ分にわたる範囲について積分した積分補正電力値を求め、当該積分補正電力値の上昇から中空既製杭の支持層への到達を確認するようにすれば、グラフ上に支持層到達地点がより顕著に表れるため(
図4(c)参照)、中空既製杭の支持層到達地点をより明確に確認することができる。
【0021】
さらに、別途調査ボーリングによって得られたN値データと共に画面表示し、当該N値データと対応させて画面表示することにより中空既製杭の支持層への到達をさらに明確に確認することができる。
【発明の効果】
【0022】
中空既製杭の内部に挿入したオーガースクリューを回転させ、土砂を掘削排土しながら前記中空既製杭を圧入する中掘り工法において、オーガースクリューを駆動する駆動モータの電力値(消費電力)から杭の支持層到達状況を確認する際に、中空既製杭の内周面と杭中空内の掘削土砂との摩擦抵抗による駆動モータの電力値(消費電力)を差し引いて杭の支持層到達状況を確認するため、中空既製杭と杭内掘削土砂との杭内摩擦抵抗による電力消費の問題を解消でき、杭の支持層到達状況を正確かつ容易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明において中空既製杭を中掘り工法によって地中の支持層に設置する掘削機の一例を示す側面図である。
【
図2】本発明における中空既製杭の支持層到達状況を確認する装置の主要ブロック図である。
【
図3】
図3(a)は中空既製杭を地中に圧入する際の、駆動モータの初期掘削深さ時の測定負荷電流値(A)を削孔深度ごとに表したグラフ、
図3(b)は中空既製杭の全抵抗力を削孔深度ごとに仕事量(W)で表したグラフ、
図3(c)は中空既製杭を地中に圧入する際の杭内周面と杭内掘削土間の摩擦抵抗による杭内抵抗力(R
r)を削孔深度ごとに単位(N)で表したグラフである。
【
図4】
図4(a)は中空既製杭を地中に圧入する際の杭内周面と杭内掘削土間の摩擦抵抗による杭内抵抗力(R
r)を削孔深度ごとに単位(W)に置き換えた杭内抵抗力(R
r
´)で表したグラフ、
図4(b)は中空既製杭イの先端抵抗力(R
d
´)を削孔深度ごとに表したグラフ、
図4(c)は杭の先端抵抗力(R
d
´)の積分(補正)電力値を削孔深度ごとに表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1(a),(b)は、中空既製杭イを中掘り工法によって地中の支持層に設置する掘削機の一例を図示したものであり、自走式の走行台車1にリーダ2がステー3によって鉛直方向に支持されている。
【0025】
また、リーダ2の前面側にオーガースクリュー4と当該オーガースクリュー4を駆動する駆動モータ(図省略)および減速機(図省略)を備えた駆動装置5が吊りワイヤー6によって鉛直方向に吊って設置されている。
【0026】
吊りワイヤー6は、リーダ2の上端部に設置されたシーブ7に巻き架けられ、ウィンチ(図省略)によって巻上げおよび巻下げられるようになっており、これによりオーガースクリュー4および駆動装置5はリーダ2に沿って昇降するようになっている。
【0027】
また、オーガースクリュー4を回転させ、中空既製杭イ内の土砂を掘削排土しながら中空既製杭イを地中に圧入して地中の支持層に設置できるようになっている。
【0028】
さらに、走行台車1には、オーガースクリュー4による削孔時の駆動モータの負荷電流値(A)を深度ごとに検出する電流値検出器7と、削孔時のオーガースクリュー4の鉛直方向の移動距離を検出する削孔深度検出器8、および電流値検出器7と削孔深度検出器8によってそれぞれ検出された駆動モータの負荷電流値(A)とオーガースクリュー4の削孔深度をパソコン入力用デジタル信号に変換するデジタル信号変換装置9がそれぞれ設置されている。
【0029】
また、走行台車1にはデジタル信号変換装置9からの信号入力に基づいて駆動モータの負荷電流値(A)と、オーガースクリュー4の削孔深度の変換信号を演算処理する演算装置10と、当該演算装置10によって演算処理された結果を表示する表示画面11を備えたコンピュータ12が設置されている。
【0030】
演算装置10においては、特にオーガースクリュー4による削孔時の駆動モータの電力値の積算値、すなわち駆動モータの消費電力(W)と、中空既製杭イを地中に圧入する際の杭内周面と杭内掘削土砂との摩擦抵抗による杭内抵抗力(Rr)がそれぞれ算出される。なお、杭内抵抗力(Rr)は単位N(ニュートン)で算出される。
【0031】
また、杭内抵抗力(Rr)の単位を駆動モータの消費電力の単位と同じ(W)に置き換える演算がなされ、さらに単位を統一した駆動モータの消費電力(W)と杭内抵抗力(R
r
´)とから中空既製杭イの先端抵抗力(Rd
´)が算出される。
【0032】
駆動モータの消費電力(W)は、オーガースクリュー4の初期掘削深さ時の駆動モータの負荷電流値(A)を掘削深度ごとに測定し、これに駆動モータの駆動電圧(V)を乗じかつ全体を積算することにより算出される。
【0033】
すなわち、駆動モータの消費電力(W)は、(1)式から算出される。
【0034】
【0035】
また、杭内抵抗力(Rr)は、(2)式から算出される。
【0036】
【0037】
また、杭内抵抗力(Rr)の単位(N)は、(3)式によって駆動モータの消費電力(W)の単位と同じ単位Wに置き換えられる。
【0038】
【0039】
そして、杭の先端抵抗力(Rd
´)は、(4)式から算出される。
【0040】
【0041】
このようにして演算装置10において演算された駆動モータの消費電力(
W)、中空既製杭イの杭内抵抗力(R
r´)および先端抵抗力(R
d´)は、コンピュータ12の表示画面11にグラフによって画面表示される(
図3,4参照)。
【0042】
表1、表2および表3は、掘削機1を用いた中掘り工法によって、中空既製杭イを地中の支持層まで圧入した際の駆動モータの電流値、電力値等を削孔深度ごとに測定した結果の一部を表したものである。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
また、
図3と
図4は、表1,2,3に例示した測定結果を表示したグラフであり、
図3(a)は中空既製杭イを地中に圧入する際の、駆動モータの初期掘削深さ時の測定負荷電流値(A)を削孔深度ごとに表したグラフである。
【0047】
図3(b)は、(1)式によって算出した駆動モータの消費電力(
W)、すなわち、中空既製杭イの全抵抗力を削孔深度毎に仕事量(W)で表したグラフである。
【0048】
図3(c)と
図4(a)は、中空既製杭イを地中に圧入する際の杭内周面と杭内掘削土間の摩擦抵抗による杭内抵抗力(R
r)を表したグラフであり、
図3(c)は杭内抵抗力(R
r)を単位(N)で表し、
図4(a)は単位(W)で表したグラフである。
【0049】
図4(b)は(4)式よって算出した中空既製杭イの先端抵抗力(R
d
´)を削孔深度ごとに表したグラフである。いずれのグラフの値も、支持層付近で大きな値で集中していることがわかる。
【0050】
また、先端抵抗
力(R
d
´)をさらに積分した積分補正電力値を求め(
図4(c))、当該積分補正電力値の上昇から中空既製杭イの支持層への到達を確認するようにすれば、グラフ上に支持層到達地点がより顕著に表れるため、中空既製杭イの支持層到達地点をより明確に確認することができる。
【0051】
図4(c)は、(4)式によって算出した先端抵抗力(R
d
´)の積分(補正)電力値を表したグラフであり、これにより支持層付近の先端抵抗力(R
d
´)の値が大きくなっていることが顕著に表れ、支持層の状況をより明確に確認することができる。
【0052】
なお、先端抵抗力(Rd
´)を別途調査ボーリングによって得られたN値データと対応させて表示画面11に表示することにより、中空既製杭イの先端支持層をより明確かつ正確に確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、中空既製杭の内部に挿入したオーガースクリューを回転させ、土砂を掘削排土しながら前記中空既製杭を圧入する中掘り工法において、オーガースクリューを駆動する駆動モータの電力値(消費電力)から杭の支持層到達状況を確認する際に、中空既製杭と杭内掘削土砂との摩擦抵抗による駆動モータの電力消費を無くして、杭の支持層到達状況を正確かつ容易に確認することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 走行台車
2 リーダ
3 ステー
4 オーガースクリュー
5 駆動装置
6 吊りワイヤー
7 電流値検出器
8 削孔深度検出器
9 デジタル信号変換装置
10 演算装置
11 表示画面
12 コンピュータ
イ 中空既製杭