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特許7464388共有結合性有機構造体の焼成体およびその製造方法ならびに焼成体を用いた電極材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】共有結合性有機構造体の焼成体およびその製造方法ならびに焼成体を用いた電極材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/991 20170101AFI20240402BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20240402BHJP
   H01G 11/20 20130101ALI20240402BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C01B32/991
C01B32/00
H01G11/20
C07F5/02 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019238678
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107297
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-07-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月28日国立大学法人岡山大学において開催された第46回炭素材料学会年会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 成之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸治
(72)【発明者】
【氏名】堂浦 剛
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155120(JP,A)
【文献】特表2008-518054(JP,A)
【文献】特開2019-016644(JP,A)
【文献】HUANG et al.,From covalent-organic frameworks to hierarchically porous B-doped carbons: a molten-salt approach,JOURNAL OF MATERIALS CHEMISTRY A,2016年02月16日,Vol.4, No.11,p.4273-4279
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/991
C01B 32/00
H01G 11/20
C07F 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される1,4-フェニレンジボロン酸と、下記式(2)で示される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレンとの合成反応により共有結合性有機構造体を合成する合成工程と、
合成された共有結合性有機構造体を焼成して焼成体を得る焼成工程と、
焼成した際に生じる酸化ホウ素や不純物を、前記焼成体を洗浄して除去する洗浄工程と、
工程処理前と比較して工程処理後の焼成体の細孔を増加させる粉砕工程と、を具備し、
前記洗浄工程において、洗浄後の共有結合性有機構造体の焼成体の総量(水素を除く)に含まれるホウ素元素の原子量比が25~35%となるまで洗浄することを特徴とする共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法。
【化1】
【請求項2】
前記洗浄工程において、洗浄後の共有結合性有機構造体の焼成体の総量(水素を除く)に含まれる酸素元素の原子量比が3.5%以下となるまで洗浄する請求項1に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕工程は、前記洗浄工程前に焼成体を粉砕する、前記洗浄工程と同時に焼成体を湿式粉砕する、または、前記洗浄工程後に焼成体を粉砕するものである請求項1または2に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法によって得られた焼成体であって、粉末X線回折において、酸化物由来の回折角度のピークが無い回折データを形成し、前記焼成体の総量(水素を除く)に含まれる、ホウ素元素の原子量比が25~35%となされ、比表面積が400m /g以上となされた共有結合性有機構造体の焼成体。
【請求項5】
請求項2に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法によって得られた焼成体であって、粉末X線回折において、酸化物由来の回折角度のピークが無い回折データを形成し、前記焼成体の総量(水素を除く)に含まれる、酸素元素の原子量比が3.5%以下となされ、比表面積が400m/g以上となされた共有結合性有機構造体の焼成体。
【請求項6】
請求項1に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法によって得られた焼成体であって、粉末X線回折において、酸化物由来の回折角度のピークが無い回折データを形成し、前記焼成体の総量(水素を除く)に含まれる、ホウ素元素の原子量比が25~35%となされ、比表面積が400m /g以上となされた共有結合性有機構造体の焼成体、を含むことを特徴とする電極材料。
【請求項7】
請求項2に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法によって得られた焼成体であって、粉末X線回折において、酸化物由来の回折角度のピークが無い回折データを形成し、前記焼成体の総量(水素を除く)に含まれる、酸素元素の原子量比が3.5%以下となされ、比表面積が400m/g以上となされた共有結合性有機構造体の焼成体、を含むことを特徴とする電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い比表面積値を得ることができる共有結合性有機構造体の焼成体と、その製造方法と、その焼成体を用いた電極材料とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気二重層キャパシタの分極性電極として、表面積が大きく導電性に優れている点から活性炭が用いられている(特許文献1、2参照)。
【0003】
しかし、活性炭は、細孔が複雑に入り組んだ構造であるため、分極性電極として採用すると、高出力領域においては、電解質イオンのスムーズな出し入れが難しくなり、高出力領域における容量が低下する。
【0004】
そこで、このような活性炭に変わり、表面積が大きい多孔質材料を形成する技術として、ホウ素含有化合物とアルコール類またはアルデヒド類の縮合物を熱処理して得られる共有結合性有機構造体が提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
このようなホウ素含有化合物を使用した共有結合性有機構造体は、焼成して電極材料として使用することも提案されており、このような多孔質材料として、例えば、カーボンナノチューブにホウ素をドーピングして静電容量を改善したり(非特許文献1参照)、多孔質材料の形成時に、ホウ素や窒素を添加して、前記分極性電極としての特性を向上させること(非特許文献2)、が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-176043号公報
【文献】特開2011-233845号公報
【文献】特開2017-155120号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Applied Physics A 82, 585-591 (2006) “Electric double layer capacitance of multi-walled carbon nanotubes and B-doping effect”
【文献】Journal of Power Sources 186 (2009) 551-556 “Boron and nitrogen co-doped porous carbon and its enhanced properties as supercapacitor”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ホウ素が特性の向上に貢献している反面、それが存在することで、焼成時に生じるホウ素の酸化物が、多孔質材料の細孔を閉塞してしまい比表面積値の向上を阻害してしまうことが判明した。
【0009】
したがって、上記したホウ素含有化合物とアルコール類またはアルデヒド類の縮合物を熱処理して得られる共有結合性有機構造体の焼成体の場合は、焼成体に生じる酸化ホウ素が比表面積値の向上を阻害し、ホウ素添加による特性の向上効果を充分に生かすことができないといった不都合を生じることとなる。
【0010】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、焼成後に生じる酸化ホウ素を除去しながら、焼成体にドーピングされたホウ素の含有量のみに近い所望の値にすることで、ホウ素添加による特性の向上効果に加えて高比表面積値を実現することができる共有結合性有機構造体の焼成体およびその製造方法ならびに焼成体を用いた電極材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法は、少なくともホウ素、炭素、酸素を含む物質によって構成された共有結合性有機構造体を焼成して焼成体を得る焼成工程と、焼成した際に生じる酸化ホウ素や不純物を、前記焼成体を洗浄して除去する洗浄工程と、工程処理前と比較して工程処理後の焼成体の細孔を増加させる粉砕工程と、を具備し、前記洗浄工程において、洗浄後の共有結合性有機構造体の焼成体の総量(水素を除く)に含まれるホウ素の原子量比が、粉末X線回折において、酸化物由来の回折角度のピークが無い回折データを形成するまで洗浄した後の焼成体におけるホウ素の定性・定量分析による予測含有量の±5%となるまで洗浄するものである。
【0012】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法は、 下記式(1)で示される1,4-フェニレンジボロン酸と、下記式(2)で示される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレンとの合成反応により共有結合性有機構造体を合成する合成工程と、合成された共有結合性有機構造体を焼成して焼成体を得る焼成工程と、焼成した際に生じる酸化ホウ素を、前記焼成体を洗浄して除去する洗浄工程と、工程処理前と比較して工程処理後の焼成体の細孔を増加させる粉砕工程と、を具備し、前記洗浄工程において、洗浄後の共有結合性有機構造体の焼成体の総量(水素を除く)に含まれるホウ素元素の原子量比が25~35%となるまで洗浄するものである。
【0013】
【化1】
【0014】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法は、前記洗浄工程において、洗浄後の共有結合性有機構造体の焼成体の総量(水素を除く)に含まれる酸素元素の原子量比が3.5%以下となるまで洗浄するものであってもよい。
【0016】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、前記粉砕工程は、前記洗浄工程前に焼成体を粉砕する、前記洗浄工程と同時に焼成体を湿式粉砕する、または、前記洗浄工程後に焼成体を粉砕するものであってもよい。
【0018】
上記共有結合性有機構造体の焼成体は、上記に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法によって得られた焼成体であって、粉末X線回折において、酸化物由来の回折角度のピークが無い回折データを形成し、前記焼成体の総量(水素を除く)に含まれるホウ素元素の原子量比が25~35%となされ、比表面積が400 /g以上となされたものであってもよい。
【0019】
上記共有結合性有機構造体の焼成体は、上記に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法によって得られた焼成体であって、粉末X線回折において、酸化物由来の回折角度のピークが無い回折データを形成し、前記焼成体の総量(水素を除く)に含まれる酸素元素の原子量比が3.5%以下となされ、比表面積が400 /g以上となされたものであってもよい。
【0020】
上記課題を解決するための本発明の電極材料は、上記に記載の共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法によって得られる焼成体を含むものである。
【0021】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、合成工程で使用される溶媒としては、特に限定されるものではなく、メシチレン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルアセトン、ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン、メタノール、トルエン、酢酸の中から選択される1種以上の単独溶媒または混合溶媒を使用することができる。例えば、1,4-ジオキサンを単独で溶媒として使用するものであってもよいし、メシチレンと1,4-ジオキサン、N,Nジメチルアセトンとジクロロベンゼン、テトラヒドロフランとメタノール、1,4ジオキサンとトルエン、1,4ジオキサンと酢酸、メシチレンと1,4ジオキサンと酢酸、それぞれの混合溶媒等を使用するものであってもよい。
【0022】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、合成工程での反応条件としては、官能基を有する芳香族化合物を反応させることによって、共有結合を有する有機構造体を構成することができるものであれば、特に限定されるものではなく、必要に応じて加熱、加圧、減圧、攪拌、冷却等の操作が行われる。これらは、複数の操作を組み合わせる場合も、段階的に行う場合も含む。共有結合性有機構造体としては、格子状、六角形状等の規則性のある環状の構造体が連なった形状のものを形成するものであれば、特に限定されるものではなく、有機多孔体(COF:Covalent Organic Framework)の一般的な形状を形成するものは含まれる。例えば、50~250℃程度の温度で、3~100時間程度の反応を行うことによって形成される。温度は段階的に昇温および/または冷却する場合も含む。また、圧力は、段階的に加圧および/または減圧する場合も含む。
【0023】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、焼成工程での焼成条件としては、共有結合性有機構造体を炭化することができる条件であれば、特に限定されるものではなく、共有結合性有機構造体の分解温度以上の温度で30分~5時間程度の焼成を行うことが好ましい。例えば600℃以上、好ましくは600℃~1200℃で、30分~5時間の条件で焼成することができる。また、焼成は、例えば、不活性ガス雰囲気(窒素ガスもしくはアルゴンガス雰囲気)にて行うものであってもよい。この際、不活性ガス雰囲気は、0.1~1.0リットル/分のガス流量で焼成雰囲気を置換しながら行うものであってもよい。また、焼成時に所定の温度から5~10℃/分程度の昇温速度で昇温して焼成を行うものであってもよい。
【0024】
上記共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、洗浄工程で焼成体を洗浄して当該焼成体の酸化ホウ素を除去する条件としては、特に限定されるものではなく、焼成工程を経た炭化物を、溶媒で洗浄して濾過後、乾燥させればよい。この際、使用する溶媒としては、合成された共有結合性有機構造体を分解することなく、酸化ホウ素を溶解することができるものであれば、特に限定されるものではなく、水、酸性水溶液などの各種溶媒を使用することができる。この中でも、水が安価で安全に使用できるため好ましい。ただし、溶媒としては、酸化ホウ素を洗浄によって溶解し、除去する際、焼成体を構成する炭素原子部分にドープしたホウ素を溶解除去してしまわないように、酸化ホウ素のみを溶解する溶媒を選択することが望ましい。また、溶媒として酸性水溶液を使用する場合は、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」の対象外となり、普通物として取り扱うことができる低濃度の酸性水溶液を使用することが好ましい。この洗浄工程は、洗浄工程における使用溶媒や洗浄時間や洗浄回数に比例してホウ素元素の残存量が所定の値に近づいて行くので、共有結合性有機構造体の焼成体の総量(水素を除く)に含まれるホウ素元素の原子量比が25~35%となるまで行われる。これは、上記した酸化ホウ素を除去すれば達成される。
【0025】
また、洗浄工程は、上記したホウ素元素だけでなく、当該共有結合性有機構造体の焼成体の総量(水素を除く)に含まれる酸素元素の原子量比が3.5%以下となるように洗浄されることが好ましい。この酸素元素の除去は、上記した溶媒と同じ溶媒を使用して、上記酸化ホウ素の除去と同時に行うことができる。ただし、酸化ホウ素の除去に使用した溶媒と別の溶媒を使用して洗浄することで酸素元素に特化した除去を行うものであってもよい。この洗浄により、共有結合性有機構造体の焼成体に含まれていた酸化不純物が除去されて、より高比表面積の焼成体が得られることとなる。この際、酸素元素の除去は、洗浄工程における使用溶媒や洗浄時間や洗浄回数に比例して酸素元素の残存量が低下するので、所望の残存量に応じた洗浄が行われる。
【0026】
なお、洗浄工程としては、共有結合性有機構造体の焼成体を溶媒とともに加熱しながら洗浄するものであってもよいし、超音波洗浄するものであってもよい。
【0027】
本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体は、上記製造方法によって得られるものである。
【0028】
上記共有結合性有機構造体の焼成体は、図1に示すような分子構造で連続して構成されることとなる共有結合性有機構造体を、焼成して構成される。この図1に示す焼成体は、未反応成分や、副生成物や、酸化不純物などを取り除いた焼成体のみで予測した場合、EDSの元素分析で検出できない水素原子を除いた他の成分のうち、ホウ素、炭素、酸素の各成分の予測される原子量比は、総量中(水素原子を除く)、ホウ素が25%~35%、炭素が68%~72%、酸素が0.2%~3.5%となる。この共有結合性有機構造体の焼成体は、図2に示すように、焼成時に生じる酸化ホウ素20が洗浄工程によって除去されることにより、酸化ホウ素20が除去された部分に空隙10が形成され、図3に示すように、洗浄後の焼成体1は、洗浄前の焼成体2よりも比表面積を増すこととなる。この状態で、共有結合性有機構造体の焼成体1の総量(水素を除く)に含まれるホウ素元素の原子量比が25~35%となる。
【0029】
洗浄前の焼成体2から酸化ホウ素20が除去さて洗浄後の焼成体1の総量(水素を除く)に含まれるホウ素元素の原子量比が25~35%の所定値になったか否かの確認は、洗浄後の焼成体1の粉末を、X線回折し、酸化ホウ素20由来の回折角度のピークが無いことを確認することで間接的に確認することができる。したがって、本発明の共有結合性有機構造体の焼成体1は、例えば、図4に示すように、X線回折において、酸化ホウ素20由来の回折角度のピーク20aが無い回折データ11を形成することを確認することで、洗浄工程で酸化ホウ素20を除去できたか否かを確認することができる。すなわち、共有結合性有機構造体に酸化ホウ素20を生じている場合、共有結合性有機構造体の焼成体2の回折データ21から、酸化ホウ素20由来の回折角度のピーク20aは、突出して検出されるので、明確に把握することができる。また、洗浄工程を行った後に、当該共有結合性有機構造体の焼成体1の回折角度のデータ11を測定すると、突出して検出されていた酸化ホウ素20由来のピーク20aが減少し、それと引き換えに細孔が復活して、低角側(10°以下)のピークが増大するので、この現象が認められれば、突出していたピーク20aは、酸化ホウ素20由来のピーク20aであると特定することができる。また同時に、酸化ホウ素20が除去された部分に空隙10が形成されて細孔が復活して比表面積が増大したことを確認することができる。また、この状態で、酸化ホウ素が除去されて、焼成体1中のホウ素は、焼成体に組み込まれたホウ素元素のみに略近くなるため、焼成体1の総量(水素を除く)に含まれるホウ素元素の原子量比が25~35%となるが、この確認は、透過電子顕微鏡を用いたEDSの元素分析による、焼成体1中の各元素の定性・定量分析によって確認することができる。ホウ素元素の原子量比が上記から外れている場合は、充分に酸化ホウ素が除去されておらず、本来の目的としていた焼成体1の他に不純物が多く残存していることとなり、高比表面積の焼成体が形成されない。
【0030】
また、上記した酸化ホウ素が除去される際、余分な酸素元素も除去されるが、ホウ素以外の不純物やスケールと反応した酸化物として存在する酸素元素も除去されて、共有結合性有機構造体の焼成体1の総量(水素を除く)に含まれる酸素元素の原子量比は3.5%以下となる。この酸素元素の量についても原子量比が3.5%以下となるように洗浄することで、洗浄後の焼成体1は、洗浄前の焼成体2よりも比表面積を増すこととなり、より一層優れた高比表面積の焼成体1が得られることとなる。ただし、酸化物によっては、酸化ホウ素に使用した溶媒とは異なる溶媒を使用して洗浄する必要かある。
【0031】
なお、図5に示すように、洗浄工程を行った焼成体1であっても、凝集により二次粒子1aとなっており、この二次粒子1aのまま洗浄工程を経た場合であっても、当該二次粒子1aの表面の酸化ホウ素等が除去されて洗浄後の焼成体1の比表面積は増すこととなるが、内部の酸化ホウ素等は完全に除去されていない。したがって、凝集により二次粒子1aとなった焼成体1を粉砕して凝集状態を解除して一次粒子1bにしながら洗浄を行う洗浄工程を経ることがより好ましい。
【0032】
これにより、二次粒子1aにより内部に入り組んでいて今まで除去されなかった酸化ホウ素20等が除去されて、図3に示すように、粉砕後の一次粒子1bの比表面積は、粉砕前の二次粒子1aの比表面積よりも一層向上することとなる。また、凝集状態が解除された一次粒子1bとなるので、図6に示すように、二次粒子1aよりも、細孔分布の細孔径が大きく、細孔容積も大きくなる。したがって、電気二重層キャパシタの電極材料として使用した場合、粒子間を密にして高密度で電極を形成することが可能となるので、図7に示すように、粉砕前の二次粒子1aの焼成体1を利用した電極の静電容量と比較して粉砕後の一次粒子1bの焼成体1を利用した電極の静電容量は、長時間に渡って放電可能な高容量化を図ることができていることが確認できる。
【0033】
また、図8に示すように、粉砕前の二次粒子1aの焼成体1を利用した電極と粉砕後の一次粒子1bの焼成体1を利用した電極の、インピーダンスの抵抗成分と容量成分との関係を見ると、粉砕前の抵抗(円弧部分の直径)が大きいのに対して、粉砕後の抵抗が小さくなっていることから、粉砕後の一次粒子1bの焼成体1を利用した電極は、粉砕前の一次粒子1bの焼成体1を利用した電極と比較して、粒子間がより密になり、抵抗値が低くなって、ロスのない電極を形成できていることが確認できる。
【0034】
なお、粉砕工程は、比表面積を増加させることができる程度のものであればよく、上記したように湿式粉砕により洗浄工程と粉砕工程とを同時に行っても良いし、洗浄工程前に乾式による通常の粉砕工程を行ってから通常の洗浄工程を行うものであっても良い。また、湿式粉砕により洗浄固定と粉砕工程とを同時に行ってから、通常の除去機工程を再度行っても良いし、通常の洗浄工程を行ってから、湿式粉砕により再度の洗浄工程と粉砕工程とを同時に行うものであってもよい。
【0035】
洗浄工程は、1回に限らず数回繰り返すものであってもよい。この際、洗浄工程は、洗浄工程毎に湿式粉砕により粉砕工程を同時に行うものであってもよいし、通常の洗浄工程のみを行うものであってもよいし、それらを組み合わせるものであってもよい。
【0036】
なお、電極材料としての利用を考えた観点からは、電極としての容量を確保しなければならないので、洗浄後の比表面積が400m/g以上となるように調製された、上記した材料が好ましいが、単純に高比表面積の焼成体1を形成するといった意味では、上記したような合成工程を経た共有結合性有機構造体を用いなくても良い。すなわち、少なくともホウ素、炭素、酸素を含む物質によって構成された共有結合性有機構造体を用いて、焼成工程、洗浄工程、および粉砕工程を行うものであってもよい。この共有結合性有機構造体としては、例えば、ホウ酸のヒドロキシ基の1つまたは2つを、アルキル基に置換したものや、ヒドロキシ基を有するホウ素がアルキル基に複数結合したものなどの各種のものが挙げられる。
【発明の効果】
【0037】
以上述べたように、本発明によると、洗浄工程によって酸化ホウ素を除去して焼成体にドーピングしたホウ素の含有量を所定の値にすることによって、高比表面積の共有結合性有機構造体の焼成体を得ることができる。また、洗浄工程前または洗浄工程と同時に粉砕工程を行うことにより、凝集していた二次粒子を一次粒子化して、より高比表面積の共有結合性有機構造体の焼成体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体に係る共有結合性有機構造体の分子構造の概略図である。
図2】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の洗浄工程前後の状態を説明する概略図である。
図3】実施例1、実施例2、および比較例1に係る共有結合性有機構造体の焼成体の窒素吸着等温曲線を示すグラフである。
図4】実施例1、実施例2、および比較例1に係る共有結合性有機構造体の焼成体の粉末X線回折の回折データを示すグラフである。
図5】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、粉砕工程を行った場合と行わなかった場合との焼成体の状態を示す模式図とその電子顕微鏡写真である。
図6】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、粉砕工程を行った場合と行わなかった場合との焼成体の細孔分布を示すグラフである。
図7】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、粉砕工程を行った場合と行わなかった場合との焼成体によって構成された電気二重層キャパシタの静電容量の時間経過を示すグラフである。
図8】本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体の製造方法において、粉砕工程を行った場合と行わなかった場合との焼成体によって構成された電気二重層キャパシタにおいて、インピーダンスの抵抗成分とインピーダンスの容量成分との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0040】
[比較例1]
(粉末(合成材料))
下記式(1)で表される分子構造の1,4-フェニレンジボロン酸(以下、BDBAという)と、下記式(2)で表される分子構造の2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(以下、HHTPという)の2種類の粉末を使用した。
【0041】
【化2】
【0042】
(触媒)
メシチレンと1,4-ジオキサンの2種類の溶媒を使用した。
【0043】
(共有結合性有機構造体の合成)
循環精製装置付きグローブボックス(グローブボックスUN-800L/ガス循環精製装置CM-200:株式会社UNICO製)内を、酸素濃度0.001ppm以下、露点-80℃以下の環境とし、この循環精製装置付きグローブボックス内において、BDBA:0.055g、HHTP:0.071g、メシチレン:4mL、1,4ジオキサン:16mLを、50mL用水熱合成容器(HU-50:三愛科学株式会社製)内に入れたものを6セット作製した。その後、それら6セットの50mL用水熱合成容器(以下、水熱合成容器という)を90℃で72時間加熱して共有結合性有機構造体の合成(脱水縮合による合成)を行った。このようにして合成される共有結合性有機構造体の分子構造の概略を図1に示す。
【0044】
(共有結合性有機構造体の焼成)
得られた共有結合性有機構造体を、窒素ガス雰囲気にて、ガス流量0.3リットル/分、室温25℃から昇温速度10℃/分で昇温し、1000℃到達後、その温度で5時間の焼成を行い、共有結合性有機構造体の焼成体を得た。
【0045】
(窒素吸着測定(比表面積/細孔分布測定))
上記で得られた共有結合性有機構造体の焼成体の粉末を200℃で20時間減圧乾燥させ、室温雰囲気中で焼成体に吸着した水分を脱着させた後、当該焼成体の粉末0.02gをサンプル管に入れ、液体窒素雰囲気下で比表面積/細孔分布測定装置(BELLSORP-miniII:マイクロトラックベル株式会社製)によって窒素吸着等温曲線を測定した。また、同装置の解析プログラム(I型(ISO9277)BET自動解析)により比表面積を算出した。結果を図3に示す。
【0046】
(粉末X線回折)
上記で得られた共有結合性有機構造体の焼成体の粉末約0.02gを、サンプルホルダーにせて整地し、回折を行った。測定機種、測定条件などは下記の通りである。結果を図4に示す。
測定機種:X線回折装置RINT-Ultima+(株式会社リガク社製)
測定条件:測定角度の範囲は2θ=2°~40°
スキャンスピード4°/min
【0047】
(定性・定量分析)
上記で得られた共有結合性有機構造体の焼成体の粉末について、透過電子顕微鏡を用いて定性および定量分析を行った。結果を表1に示す。
測定機種:JEM-2100F(日本電子株式会社製)
測定条件:加速電圧200kV
【0048】
【表1】
【0049】
[実施例1]
上記比較例1で得られた共有結合性有機構造体の焼成体を純水で洗浄した。
この洗浄は、200ミリリットルの純水が入ったビーカーに、得られた焼成体粉末を入れて、50℃で加熱攪拌を10分間行い、粒子が沈降後に上澄み液をピペットで回収して、ビーカー底部に残った粉末を50℃で加熱乾燥して一次回収を行った後、その回収したサンプルを減圧状態で150℃で12時間乾燥して、最終の粉末を得ることによって行った。
【0050】
このようにして得られた共有結合性有機構造体の焼成体の窒素吸着等温曲線の結果は、比較例1の結果と合わせて図3に示す。
【0051】
また、このようにして得られた共有結合性有機構造体の焼成体の粉末X線回折による結果は、比較例1の結果と合わせて図4に示す。
【0052】
さらに、このようにして得られた共有結合性有機構造体の焼成体の組成および成分量を知るために、走査型電子顕微鏡による定性分析および定量分析を行った。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で調製した焼成体を、以下の条件で湿式粉砕して実施例の2の焼成体を調製した。
【0055】
(湿式粉砕)
遊星ボールミル PULVERISETTE 6(FRITSCH社(フリッチュ・ジャパン株式会社))を用いて、直径1.0mm,0.5mmのジルコニアボールをそれぞれ15gづつ、焼成体を0.1g,純水25mlをジルコニアの容器に入れて、回転数400rpmにおいて10時間実施して粉砕品を得た。
このようにして得られた実施例2の共有結合性有機構造体の焼成体について、下記の条件で電子顕微鏡写真を測定した。結果を図5に示す。また、上記実施例1と同様の測定方法で、窒素吸着測定を行い、比表面積と細孔分布を求めた。さらに、上記実施例1と同様の測定方法で、粉末X線回折を行った。窒素吸着等温曲線の結図3に示し、粉末X線回折の結果を図4に示す。さらに、細孔分布の結果を図6に示す。
【0056】
(電子顕微鏡写真)
測定機種:JSM-6010LA(日本電子株式会社製)
測定条件:加速電圧15kV、ワーキングディスタンス11mm、スポットサイズ30
測定倍率:10000倍
【0057】
さらに、これら実施例1および実施例2のそれぞれの共有結合性有機構造体の焼成体を用いて下記の要領で電極試験片を形成し、これら電極を用いて、共有結合性有機構造体の焼成体の違いによる、放電容量および粒子間抵抗を、下記の要領で評価した。
【0058】
(電極試験片の作製)
実施例1および実施例2で得られたそれぞれの焼成体を活物質として用い、当該活物質と、導電助剤(アセチレンブラック)と、結着剤(PVDF(ポリフッ化ビニリデン樹脂))とを、8:1:1の重量比で混練した。この混練物をペースト状にしたものを厚さ20μmのアルミニウム箔の上に塗布し、乾燥し、プレスした後の厚みが50μmとなるようにして、それぞれの焼成体について、電極試験片を調製した。
【0059】
(電極試験片の容量測定)
上記で調製したそれぞれの電極試験片について、電気化学計測器(VSP300 Biologic社製)を用いて放電容量(以下、容量ともいう。)を測定した。その結果を図7に示す。なお、図7において、縦軸は、放電時に流れた電気量[C]を活物質(焼成体)の重量(g)と放電電圧(V)で除したもの[重量比容量F/g]としている。
【0060】
(交流インピーダンス法の測定条件)
上記で調製したそれぞれの電極試験片について、電気化学計測器(VSP300 Biologic社製)を用いて交流インピーダンス法による測定を行い、インピーダンスの抵抗成分および容量成分の関係を求めた。その結果を図8に示す。
測定条件:掃引周波数1MHz10mHz
印加電圧:5mV
【0061】
[比較例2]
上記比較例1と同じ窒素吸着測定により、比表面積を測定した結果、比表面積1680m/gとなされた活性炭を用い、上記実施例1および実施例2と同じ方法によって電極試験片を作製し、同じ方法で放電容量を測定した。結果を図7に示す。
【0062】
以上の結果から、本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体1の回折データ11(図4(b)参照)は、比較例1に係る共有結合性有機構造体の焼成体2の回折データ21(図4(a)参照)のように酸化物由来のピーク20aを生じていない。したがって、焼成時または焼成後の酸化物の発生によって焼成体1の細孔が閉塞されることなく、多くの細孔が形成されていることが確認できる。
【0063】
また、本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体1は、図2ないし図6に示すように、二次粒子1aの状態であっても酸化ホウ素20(図2参照)が除去されることで高比表面積の焼成体1が得られることとなるが、湿式粉砕により、さらなる粉砕工程と洗浄工程を追加することで、二次粒子1aの凝集を解いて一次粒子1b化することができるので、内部に留まっていた酸化ホウ素20(図2参照)もさらに除去されて、さらに高比表面積の焼成体1が得られることとなる。
【0064】
さらに、このように一次粒子1b化し、かつ、酸化ホウ素20を除去した焼成体1は、細孔分布を見てもわかるように、細孔の大きさを大きく、かつ、細孔の容量を大きくすることができるので、より一層優れた電極材料として使用することができる。しかも、凝集状態を解いて一次粒子1b化しているので、粒子間を密着して電極を形成することができる。したがって、電極容量の増大を図ることができるとともに、粒子間抵抗が低減された(図9における円弧の部分が小さくなった。)電極を形成できることとなる。特に、実施例2に係る共有結合性有機構造体の焼成体1bは、電極として評価した場合には、当該比較例2で使用した活性炭3によって作製した電極と同等の放電容量を得ることができ、電極材料として非常に高性能であることが確認できた。
【0065】
さらに、本発明に係る共有結合性有機構造体の焼成体は、比較例1の焼成体を洗浄することで、ホウ素元素の含有量が焼成体にドーピングされたホウ素の含有量のみに近い約31%となり、酸素の含有量が0.2%と大幅に減量されたことが確認できた。
【0066】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0067】
1 焼成体
1a 二次粒子(焼成体)
1b 一次粒子(焼成体)
11 焼成体の回折データ
20 酸化ホウ素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8