(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】接着層、およびこの接着層を用いたメタルマスク
(51)【国際特許分類】
B32B 7/14 20060101AFI20240402BHJP
B41N 1/24 20060101ALI20240402BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B32B7/14
B41N1/24
C23C14/04 A
(21)【出願番号】P 2020045320
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】中川 宏史
(72)【発明者】
【氏名】田丸 裕仁
(72)【発明者】
【氏名】石川 樹一郎
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222915(JP,A)
【文献】特開2021-008586(JP,A)
【文献】特開平01-208131(JP,A)
【文献】特開2017-210633(JP,A)
【文献】特開2019-039054(JP,A)
【文献】特開2005-325249(JP,A)
【文献】特開2014-015519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 1/00-5/10、7/00-7/50、
9/00-201/10
C23C 14/00-14/58
B41N 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二枚の板体(2・3)どうしを積層状に接着するための光硬化
性の樹脂からなる接着層であって、
未露光部分であって素材由来の粘着性を有する未硬化領域(4)と、露光部分であって素材由来の粘着性が消失した硬化領域(5)とで構成されており、
接着層の外周縁部(6)には、当該外周縁部(6)に沿って伸びる複数の帯状の縁未硬化領域(4b)が形成されており、
縁未硬化領域(4b)で囲まれる接着層の内部領域には、未硬化領域(4)と硬化領域(5)とが形成されており、
隣り合う縁未硬化領域(4b)の間には分断部(7)からなる硬化領域(5)が形成されており、
分断部(7)により、接着層の外周縁部(6)に臨むように硬化領域(5)が形成されていることを特徴とする接着層。
【請求項2】
縁未硬化領域(4b)で囲まれる接着層の内部領域に、連続状に形成された硬化領域(5)と、当該硬化領域(5)で囲まれた点在する複数の単位未硬化領域(4a)とが形成されている、請求項1記載の接着層。
【請求項3】
単位未硬化領域(4a)が同一形状に形成されており、点在する単位未硬化領域(4a)が規則的なマトリクス状、あるいは千鳥状に配置されている請求項2に記載の接着層。
【請求項4】
多数独立の通孔(29)からなるマスクパターンを備えるマスク本体(22)と、
マスク本体(22)の周囲に配置した、低熱線膨張係数の金属板材からなる補強用の支持枠(23)と、
マスク本体(22)と支持枠(23)とを、不離一体的に接合する金属層(24)と、
を備え、
支持枠(23)が同一形状に形成された第1枠体(35)と第2枠体(36)とで構成されて、両枠体(35・36)が請求項1から3のいずれかひとつに記載の接着層を介して接合され一体化されていることを特徴とするメタルマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二枚の板体どうしを積層状に接着するための光硬化性、あるいは熱硬化性の樹脂からなる接着層と、この接着層を用いた、蒸着マスク等のメタルマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性樹脂からなる接着層は、本出願人に係る特許文献1に開示されている。特許文献1では、蒸着マスク(メタルマスク)が備える補強用の枠体が、同一形状に形成された上枠(板体)と下枠(板体)とで構成されており、上下の枠は光硬化性樹脂からなる接着層を介して一体的に接合されている。接着層は、シート状の感光性ドライフィルムレジスト(紫外線の照射により硬化する紫外線硬化樹脂)からなり、層全体が未硬化状態である。
【0003】
本発明の接着層は、未硬化領域と硬化領域とからなる光硬化性、あるいは熱硬化性の樹脂で構成されるが、このような構成の接着層は特許文献2に開示されている。特許文献2では、ベース部(板体)と導電層(板体)とが接着層で一体化されて電鋳用母型が構成されている。ベース部は金属製の板状体からなり、導電層は複数の金属層が積層されたシート体からなる。接着層は、シート状の感光性ドライフィルムレジスト(紫外線硬化樹脂)からなり、第一のレジストと第二のレジストの二層構造とされている。ベース部側の第一のレジストは、外周縁から所定範囲の枠状部分が未露光の未硬化領域とされ、未硬化領域の内側領域が半露光された半硬化領域とされている。また、導電層側の第二のレジストは、第一のレジストの未硬化領域に対応する部分が未露光の未硬化領域とされ、未硬化領域の内側領域が露光された硬化領域とされている。
【0004】
未硬化状態のドライフィルムレジストは、素材由来の粘着性を有し、体積の経時変化が生じやすい性状であり、硬化状態のドライフィルムレジストは、素材由来の粘着性が消失し、体積の経時変化がほとんどない性状である。また、半硬化状態のドライフィルムレジストは、素材由来の粘着性および体積の経時変化がともに小さくなった性状である。従って、特許文献1における接着層では、同層の体積の経時変化により枠体にひずみが生じ、該枠体で支持されるマスク本体の位置精度を長期にわたって保つことが困難である。対して、特許文献2における接着層は、主として第一および第二のレジストの外周縁部分の未硬化領域で、ベース部と導電層とを接着する接着力が発揮され、第一および第二のレジストの内側領域においては体積の経時変化が抑制されている。このように、特許文献2における接着層では、該接着層の内側領域において体積の経時変化を抑制することにより、特許文献1における接着層よりも、該接着層の収縮等による寸法変化を抑制して、接着層でベース部と導電層とを安定的に一体化できる。従って、導電層の変位や電鋳用母型上に形成される電鋳層(電着層)の位置ずれを解消して、同母型を用いて製造される蒸着マスク等の精度低下を防止できる。また、特許文献2における接着層を特許文献1における枠体の接着層に適用することにより、枠体を構成する上下の枠を安定的に一体化することができ、枠体にひずみが生じるのを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-210633号公報
【文献】特開2019-39054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、接着は大気中で行われるため、特許文献2の電鋳用母型では、第1のレジストの半硬化領域とベース部との間に空気が噛み込み気泡が形成されるおそれがある。また、第2のレジストの硬化領域と導電層との間に空気が介在する、すなわち気層が形成されるおそれがある。特許文献2の接着層構造では、外周縁部分の未硬化領域で接着力が発揮されているので、気泡や気層を解消するためには一旦接着層を剥離する必要がある。しかし、ベース部および導電層の厚みは薄く接着層の剥離は容易ではない。また、空気を接着層の縁へと押し出すように、スキージやローラー等を電鋳用母型に押付け移動させることで、気泡や気層を解消することも不可能ではないが、接着層の中央付近に生じた気泡を押し出すのは困難である。因みに、接着面に気泡が形成されると、部分的に空気の厚み分だけベース部と導電層との距離が大きくなり、電鋳用母型の平坦度が悪化する。また、接着面に気層が形成されると、気層の厚み分だけ電鋳用母型の厚み寸法が大きくなり、所望の厚み寸法に同母型を仕上げることができない。これら電鋳用母型の寸法精度の悪化は、同母型で製造される蒸着マスク等のメタルマスクの精度低下に繋がる。
【0007】
本発明の目的は、接着時における気泡や気層の形成を解消して、二枚の板体を所望の厚み寸法に高精度に接着できる接着層を得ることにある。
本発明の目的は、位置精度が良好であり、該位置精度を長期にわたって維持できるメタルマスクを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、二枚の板体2・3どうしを積層状に接着するための光硬化性の樹脂からなる接着層1を対象とする。接着層1は、未露光部分であって素材由来の粘着性を有する未硬化領域4と、露光部分であって素材由来の粘着性が消失した硬化領域5とで構成されている。接着層の外周縁部6には、当該外周縁部6に沿って伸びる複数の帯状の縁未硬化領域4bが形成されており、縁未硬化領域4bで囲まれる接着層の内部領域には、未硬化領域4と硬化領域5とが形成されている。隣り合う縁未硬化領域4bの間には分断部7からなる硬化領域5が形成されており、分断部7により、接着層の外周縁部6に臨むように硬化領域5が形成されていることを特徴とする。
【0009】
縁未硬化領域4bで囲まれる接着層の内部領域に、連続状に形成された硬化領域5と、当該硬化領域5で囲まれた点在する複数の単位未硬化領域4aとが形成されている。
【0010】
単位未硬化領域4aが同一形状に形成されており、点在する単位未硬化領域4aが規則的なマトリクス状、あるいは千鳥状に配置されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、多数独立の通孔29からなるマスクパターンを備えるマスク本体22と、マスク本体22の周囲に配置した、低熱線膨張係数の金属板材からなる補強用の支持枠23と、マスク本体22と支持枠23とを、不離一体的に接合する金属層24とを備えるメタルマスクを対象とする。支持枠23が同一形状に形成された第1枠体35と第2枠体36とで構成されて、両枠体35・36が上記の接着層1を介して接合され一体化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光硬化性、あるいは熱硬化性の樹脂からなる接着層1においては、未露光部分であって素材由来の粘着性を有する未硬化領域4と、露光部分であって素材由来の粘着性が消失した硬化領域5とで構成し、該硬化領域5が接着層1の外周縁部6に臨む状態で形成した。こうした接着層1によれば、接着時において接着層1と板体2との間、および接着層1と板体3との間(以下、適宜に「層間」という)に介在する空気を、粘着性を有しない硬化領域5の表面を伝わせて、外周縁部6から接着層1の外部へと抜気することができるので、層間に空気の噛み込みによる気泡や気層が形成されるのを解消できる。従って、従来の電鋳用母型の接着層に比べて、二枚の板体2・3を所望の厚み寸法に高精度に接着できる接着層1とすることができる。
【0014】
未硬化領域4は、点在する複数の単位未硬化領域4aを備えており、硬化領域5が連続状に形成されて、該単位未硬化領域4aが硬化領域5で囲まれていると、接着時にスキージやローラーあるいは押圧治具等で層間の空気を押し出すように接着することで、単位未硬化領域4a部分の空気を、同領域4aを囲む硬化領域5へと容易に押し出し、外周縁部6から接着層1の外部へと抜気することができるので、単位未硬化領域4a部分において気泡や気層の形成を確実に解消できる。また、硬化領域5が連続状に形成されていると、接着層1の全体において体積の経時変化が抑制できるので、接着層1で両板体2・3を安定的に一体化できる。
【0015】
単位未硬化領域4aが同一形状に形成されており、点在する単位未硬化領域4aが規則的なマトリクス状、あるいは千鳥状に配置されていると、接着層1の全体で均質な接着力を発揮できるので、板体2・3どうしをより安定的に一体化できる。
【0016】
未硬化領域4が、接着層の外周縁部6に沿って伸びる複数の縁未硬化領域4bを備えていると、縁未硬化領域4bで板体2・3の縁部を十分に接着できるので、板体2・3の縁部が捲れて剥離するのを防止できる。なお、層間の空気は、縁未硬化領域4bの間の硬化領域5を介して外周縁部6から接着層1の外部へと抜気することができるので、層間に気泡や気層が形成されることはない。
【0017】
本発明のメタルマスク21によれば、支持枠23の厚み寸法を高精度化できるので、支持枠23が金属層24を介して支持するマスク本体22の位置精度を良好なものにすることができ、例えばメタルマスク21が有機ELディスプレイを製造するための蒸着マスクの場合には、該ディスプレイの発光層を高精度に形成できる。また、支持枠23の経時変化が抑制されている分、マスク本体22の位置精度を長期にわたって維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1に係る接着層を備える積層体の概念図であり、(a)は積層体の縦断正面図であり、(b)は(a)におけるA-A線部分の横断平面図である。
【
図3】
参考例1に係る接着層の横断平面の概念図である。
【
図4】
参考例2に係る接着層の横断平面の概念図である。
【
図5】
参考例3に係る接着層の横断平面の概念図である。
【
図6】
参考例4に係る接着層の横断平面の概念図である。
【
図7】本発明の接着層をメタルマスクに用いた使用形態を示す図であり、メタルマスクの全体を示す斜視図である。
【
図10】ドライフィルムレジストの露光用パターンフィルムの平面図である。
【
図13】メタルマスクの製造方法の前段を示す説明図である。
【
図14】メタルマスクの製造方法の後段を示す説明図である。
【
図15】真空圧着装置による定着化処理を示す説明図である。
【
図16】本発明の接着層を電鋳母型に用いた使用形態を示す図であり、電鋳母型の縦断正面図である。
【
図18】電鋳母型の製造方法の前段を示す説明図である。
【
図19】電鋳母型の製造方法の後段を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施例1) 本発明に係る接着層の実施例1を
図1および
図2に示す。本実施例では、接着層の厚み方向を上下と規定する。また、各図における厚みや幅などの寸法は、実際の様子を示したものではなく、それぞれ模式的に示したものである。
【0020】
図1(a)に示すように、本実施例の接着層1は、上層側の第1シート(板体)2と下層側の第2シート(板体)3との間に介在されて、両シート2・3を積層状に接着して積層体として一体化するものである。接着層1は、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化樹脂(光硬化性樹脂)からなり、未露光部分であって素材由来の粘着性を有する未硬化領域4と、露光部分であって素材由来の粘着性が消失した硬化領域5とで構成されている。
【0021】
未硬化領域4は、接着層1の外周縁部6に接しない状態で形成される複数の単位未硬化領域4aを備えている。
図1(b)に示す接着層1の平面視において、各単位未硬化領域4aは同じ直径の円形に形成されており、接着層1に規則的な千鳥状に点在する状態で配置されている。硬化領域5は連続状に形成されており、該硬化領域5で単位未硬化領域4aが囲まれている。
【0022】
また、未硬化領域4は、接着層1の外周縁部6に沿って伸びる複数の縁未硬化領域4bを備えている。縁未硬化領域4bは、各辺部の中央部分の分断部7を除いて帯状に形成されており、硬化領域5は当該分断部7部分で接着層1の外周縁部6に臨んでいる。なお、縁未硬化領域4bの形成長さを短くして、各辺部に複数の分断部7を形成することもできる。また、分断部7は隅部に形成してもよい。接着層1の接着力は、接着層1における単位未硬化領域4aが占める割合を大小に変化させることで変更できる。具体的には、単位未硬化領域4aが占める割合を大きくすることで接着力が強化され、単位未硬化領域4aが占める割合を小さくすることで接着力が弱化される。本実施例では、単位未硬化領域4aの形状は円形に形成したが、これに限らず、楕円形、多角形であってもよく、また形状が混在していてもよい。単位未硬化領域4aを接着層1の全体に規則的に形成して、一部の単位未硬化領域4aが縁未硬化領域4bに重畳する状態で形成されていてもよい。
【0023】
本実施例の接着層1は、紫外線の照射により硬化するシート状のドライフィルムレジスト(紫外線硬化樹脂)11からなり、該ドライフィルムレジスト11は、厚さが均一なレジスト膜で構成されている。接着前のドライフィルムレジスト11の各シート面は、透光性を有する素材で構成されるベースフィルム12と、紫外線の透過を阻止する素材(半透明または遮光性を有するもの)で構成されるカバーフィルム13とで被覆されている。未露光状態(未硬化状態)のドライフィルムレジスト11は素材由来の粘着性を備えており、当該粘着性は紫外線が照射されて露光状態(硬化状態)とされると消失する。未露光状態のドライフィルムレジスト11は、素材に含まれる揮発成分の放散による収縮等僅かな体積変化を生じるが、露光状態とされたドライフィルムレジスト11は、体積が経時変化しない安定な状態となる。なお、本実施例の接着層1は、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化樹脂(光硬化性樹脂)を用いたが、赤外線の照射、あるいはヒーター等の熱源により熱を付与することで硬化する熱硬化性樹脂で接着層1を構成することもできる。未硬化状態および硬化状態における熱硬化性樹脂の性状は、紫外線硬化樹脂の性状と同様である。
【0024】
次に、
図2を用いて接着層1の形成方法の一例を説明する。まず、
図2(a)に示すように、両フィルム12・13で被覆されたままのドライフィルムレジスト11を接着層1の形状に切断し、これをベースフィルム12が上側になるように露光台14上に載置する。さらに、ベースフィルム12上にガラスマスクからなるパターンフィルム15を密着させる。パターンフィルム15には、硬化領域5に対応する透光孔15aが形成されている。次いで、
図2(b)に示すように、パターンフィルム15の上方から紫外線ランプ16で紫外線光を照射することにより、パターンフィルム15を介してドライフィルムレジスト11を露光する。これにて、
図2(c)に示すように、ドライフィルムレジスト11に単位未硬化領域4aおよび縁未硬化領域4bに対応する未露光部分と、硬化領域5に対応する露光部分が形成される。
【0025】
ドライフィルムレジスト11からなる接着層1による積層体の形成方法の一例を示す。まず、ベースフィルム12を剥離し、露出したドライフィルムレジスト11と第2シート3とが正対するように、両者3・11を重ね合わせる。この状態で、ドライフィルムレジスト11と第2シート3とを押付けるが、このとき、カバーフィルム13を介してドライフィルムレジスト11の中央から外側に向かって空気を外側に押し出すように押付ける。次いで、カバーフィルム13を剥離し、第1シート2と露出したドライフィルムレジスト11とが正対するように、両者2・11を重ね合わせる。この状態で、ドライフィルムレジスト11と第1シート2とを押付けるが、先と同じように、第1シート2を介してドライフィルムレジスト11の中央から外側に向かって空気を外側に押し出すように押付ける。これにて、第1シート2と第2シート3とは接着層1で一体化される。
【0026】
上記ではまず接着層1を形成し、形成した接着層1で第1シート2と第2シート3とを一体化したが、接着層1の形成は両シート2・3の一体化の途中に行ってもよい。具体的には、第1シート2もしくは第2シート3のいずれか一方、例えば第1シート2にドライフィルムレジスト11およびベースフィルム12を重ね合わせる。さらにベースフィルム12上にパターンフィルム15を重ね合わせたのち、同フィルム15の上方から紫外線ランプ16で紫外線光を照射して露光部分を形成する。こののち、カバーフィルム13を剥離し、第2シート3を重ね合わせる。このような手法でも積層体を形成することができる。
【0027】
以上のように、本実施例の紫外線硬化樹脂からなる接着層1においては、未露光部分であって素材由来の粘着性を有する未硬化領域4と、露光部分であって素材由来の粘着性が消失した硬化領域5とで構成し、該硬化領域5が接着層1の外周縁部6に臨む状態で形成したので、第1シート2と第2シート3との接着時において、層間に介在する空気を粘着性を有しない硬化領域5の表面を伝わせて、外周縁部6から接着層1の外部へと抜気することができ、層間に空気の噛み込みによる気泡や気層が形成されるのを解消できる。従って、従来の電鋳用母型の接着層に比べて、二枚のシート2・3を所望の厚み寸法に高精度に接着できる接着層1とすることができる。
【0028】
未硬化領域4は、点在する複数の単位未硬化領域4aを備えるのもとし、硬化領域5を連続状に形成して、該単位未硬化領域4aを硬化領域5で囲むようにしたので、接着時にスキージやローラーあるいは押圧治具等で層間の空気を押し出すように接着することで、単位未硬化領域4a部分の空気を、同領域4aを囲む硬化領域5へと容易に押し出し、外周縁部6から接着層1の外部へと抜気することができ、単位未硬化領域4a部分において気泡や気層の形成を確実に解消できる。また、硬化領域5を連続状に形成したので、接着層1の全体において体積の経時変化を抑制できるので、接着層1で両シート2・3を安定的に一体化できる。
【0029】
また、単位未硬化領域4aを同一形状に形成し、点在する単位未硬化領域4aを規則的な千鳥状に配置したので、接着層1の全体で均質な接着力を発揮でき、両シート2・3どうしをより安定的に一体化できる。
【0030】
未硬化領域4は、接着層1の外周縁部6に沿って伸びる複数の縁未硬化領域4bを備えるものとしたので、縁未硬化領域4bで両シート2・3の縁部を十分に接着でき、両シート2・3の縁部が捲れて剥離するのを防止できる。
【0031】
上記の実施例では、接着層1の各辺部に縁未硬化領域4bを形成したが、向かい合ういずれか一方の一対の辺部の全域にわたって縁未硬化領域4bを形成し、残る向かい合う一対の辺部には縁未硬化領域4bを形成しないようにすることもできる。
【0032】
(
参考例1)
図3に接着層の
参考例1を示す。本
参考例においては、縁未硬化領域4bを省略し、単位未硬化領域4aを接着層1の全面に配置した点が先の実施例1と異なる。一部の単位未硬化領域4aは、外周縁部6に臨んで形成されており、外周縁部6に臨む単位未硬化領域4aは縁未硬化領域4bと同様の機能を発揮している。接着層1の形成方法は、硬化領域5に対応して形成された透光孔15aを備える、換言すれば、規則的な千鳥状に形成された単位未硬化領域4aに対応するマスク部分を備えるパターンフィルム15を使用してドライフィルムレジスト11を露光する。他は実施例1と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。以下の
参考例においても同じとする。本
参考例の接着層1においても、層間の気泡や気層の形成を解消し、また、接着層1の全体で均質な接着力を発揮して両シート2・3どうしを安定的に一体化できる。また、外周縁部6に臨んで形成される単位未硬化領域4aにより、両シート2・3の縁部が捲れて剥離するのを防止できる。
【0033】
(
参考例2)
図4に接着層の
参考例2を示す。本
参考例においては、点在する単位未硬化領域4aが規則的なマトリクス状に配置されている点が
参考例1と異なる。接着層1の形成方法は、硬化領域5に対応して形成された透光孔15aを備える、換言すれば、規則的なマトリクス状に形成された単位未硬化領域4aに対応するマスク部分を備えるパターンフィルム15を使用してドライフィルムレジスト11を露光する。
図4の接着層1では、外周縁部6に接しないように単位未硬化領域4aを形成したが、単位未硬化領域4aは外周縁部6に接するように形成されていてもよい。本
参考例の接着層1においても、層間の気泡や気層の形成を解消し、また、接着層1の全体で均質な接着力を発揮して両シート2・3どうしを安定的に一体化できる。
【0034】
(
参考例3)
図5に接着層の
参考例3を示す。本
参考例においては、点在する単位未硬化領域4aがレンガ積み模様のレンガに相当し、硬化領域5がレンガ積み模様の目地に相当するパターンとなるように、未硬化領域4と硬化領域5とが配置されている。一部の単位未硬化領域4aは、外周縁部6に臨んで形成されており、外周縁部6に臨む単位未硬化領域4aは縁未硬化領域4bと同様の機能を発揮している。接着層1の形成方法は、硬化領域5に対応するレンガ積み模様の目地に相当する形状に形成された透光孔15aを備えるパターンフィルム15を使用してドライフィルムレジスト11を露光する。本
参考例の接着層1においても、層間の気泡や気層の形成を解消し、また、接着層1の全体で均質な接着力を発揮して両シート2・3どうしを安定的に一体化できる。
【0035】
上記実施例1、および参考例1~3では、単位未硬化領域4aは同一形状のものを規則的に配置したが、多様な形状の単位未硬化領域4aをランダムに配置することもできる。
【0036】
(
参考例4)
図6に接着層の
参考例4を示す。本
参考例においては、未硬化領域4を複数の帯状の単位未硬化領域4aで構成し、同様に硬化領域5を複数の帯状の単位硬化領域5aで構成して、単位未硬化領域4aと単位硬化領域5aとがストライプ状になるように配置されている。接着層1の形成方法は、単位硬化領域5aに対応して形成された縞模様状の透光孔15aを備えるパターンフィルム15を使用してドライフィルムレジスト11を露光する。本
参考例の接着層1においても、層間の気泡や気層の形成を解消できる。
【0037】
上記の実施例および参考例における未硬化領域4は、全く露光を行っていないドライフィルムレジスト11で構成したが、完全硬化させるために必要な露光量に満たない露光を行った半露光(完全に硬化していない)状態のドライフィルムレジスト11で未硬化領域4を構成することも可能である。具体的には、透光孔15aが形成されたパターンフィルム15を用いてドライフィルムレジスト11の露光を行ったのち、パターンフィルム15を剥離してドライフィルムレジスト11の全体を完全に硬化しない時間だけ再度露光する、あるいは透光孔15aを除く部分の紫外線の透過率を透光孔15aよりも制限したパターンフィルム15を用いて露光を行うことで未硬化領域4を半露光状態とする。半露光状態のドライフィルムレジスト11は、未露光状態のドライフィルムレジスト11に比べて、粘着性と体積の経時変化がそれぞれ小さくなった状態である。そのため、未硬化領域4においても寸法変化を抑制でき、より高精度を維持することができる接着層1とすることができる。この場合には、未硬化領域4の粘着力が低下する分、接着層1における未硬化領域4の占める割合を大きくして十分な接着力を確保することが好ましい。逆に、硬化領域5を半露光状態のドライフィルムレジスト11で構成することもできる。この場合には、層間の空気の抜気効果を得るために、半露光状態の硬化領域5のドライフィルムレジスト11は極力硬化状態に近づけることが好ましい。また、半露光状態の硬化領域5も接着性を有するので、未硬化領域4の占める割合を小さくすることができる。
【0038】
(第1使用形態)
図7から
図15に、本発明の接着層をメタルマスクである蒸着マスクが備える支持枠に適用した第1使用形態を示す。
図7および
図8に示すように蒸着マスク21は、マトリクス状に配置される複数(本使用形態では8枚)のマスク本体22と、各マスク本体22を囲むように配置される補強用の支持枠23と、両者22・23を不離一体的に接合する金属層24とを含む。支持枠23は、マスク本体22と同数のマスク開口25を備える。各マスク開口25はマスク本体22よりも一回り大きく形成されており、各マスク開口25にマスク本体22が1枚ずつ配置されている。
【0039】
図9に示すように各マスク本体22は、四隅が丸められた長方形状に形成されており、内側のパターン形成領域27と、外側の接合領域28とを備える。パターン形成領域27には、多数独立の蒸着通孔(通孔)29からなる蒸着パターン(マスクパターン)が形成されており、接合領域28の外周近傍には、マスク本体22の各辺に沿って二列に並ぶ多数個の接合通孔30が形成されている。なお、マスク本体22の長手および短手方向の長さ寸法は、製造される例えば有機ELディスプレイのサイズに対応している。
【0040】
このマスク本体22は、ニッケルからなる電着金属を素材として電鋳法(めっき法)で形成される。本使用形態のマスク本体22の厚みは10μmに設定した。なお、マスク本体22は、ニッケル以外にニッケルコバルト等のニッケル合金、銅、その他の電着金属を素材として形成することができる。さらにマスク本体22は、二層以上の積層構造であってもよい。
【0041】
金属層24はマスク本体22と支持枠23を接合しており、ニッケルからなる電着金属を素材として電鋳法(めっき法)で形成される。具体的には、金属層24は、支持枠23の上面部および側面を覆う被覆部24aと、被覆部24aに連続してマスク開口25の内周面から開口中心に向かって延出される結合部24bを備えている。マスク本体22の接合領域28の外周縁部の上面は結合部24bの先端で覆われており、両者28・24bの重畳部分でマスク本体22と金属層24が接合されることにより、マスク本体22は金属層24を介して支持枠23で支持されている。また、結合部24bの一部は接合通孔30に侵入しており、当該侵入部分により両者28・24bの結合力が向上されている。なお、金属層24は、支持枠23の上面部分の被覆部24aが省略された形態であってもよく、この場合には、支持枠23の上面が蒸着マスク21の外面に露出する。
【0042】
支持枠23はインバー材からなり、
図7に示すように矩形枠状の外周枠33と、外周枠33内にマスク開口25を区画する格子枠34とを備える。
図8に拡大して示すように、支持枠23は積層構造となっており、同一形状の上枠(第1枠体)35と下枠(第2枠体)36とを、接着層37で接着して一体的に構成される。このとき、上枠35と下枠36とは、各枠35・36の反り方向が向かい合う状態で接着するとよい。接着層37は、実施例1の接着層1と同様の構成を有しており、本使用形態における上枠35、下枠36、および接着層37は、それぞれ実施例1の第1シート(板体)2、第2シート(板体)3、および接着層1に相当する。本実施例の上枠35と下枠36の厚み寸法はそれぞれ0.5mm(支持枠23の厚み寸法は1.0mm)であり、支持枠23はマスク本体22よりも十分に肉厚に形成した。
【0043】
上記の上枠35と下枠36は、上記のインバー材以外に、ニッケル-鉄-コバルト合金であるスーパーインバー材などで形成してもよく、上枠35と下枠36の厚み寸法は異なっていてもよい。また、上枠35と下枠36における外周枠33・格子枠34の幅寸法は異なっていても良く、その場合、上枠35における外周枠33・格子枠34の幅寸法は、下枠36における外周枠33・格子枠34の幅寸法よりも小さく(上枠35の各枠33・34の幅寸法<下枠36の各枠33・34の幅寸法)設定することが好ましい。また、支持枠23は、上枠35と下枠36の二層構造以外に、三層以上の積層構造や単層構造であってもよく、上枠35と下枠36を備える支持枠23を2つ重ねて接着した四層構造を採用してもよい。
【0044】
本使用形態に係る支持枠23の形成方法の一例を、
図10から
図12を用いて説明する。まず、接着層37(接着層1)の形成は先に説明した実施例1と同様の方法で行うが、ベースフィルム12およびカバーフィルム13で被覆されたままのドライフィルムレジスト11を、支持枠23の外郭形状よりも一回り大きく切断する点と、
図10に示すパターンフィルム38を使用する点で異なる。切断したドライフィルムレジスト11とパターンフィルム38のサイズは略同一である。ガラスマスクからなるパターンフィルム38には、硬化領域5およびマスク開口25に対応する透光孔38aが形成されている。なお、
図10において二点鎖線は支持枠23の平面形状を示しており、縁未硬化領域4bは支持枠23の平面外形形状を跨ぐ状態で形成する。
図11は露光を行って、ドライフィルムレジスト11に未硬化領域4および硬化領域5が形成された状態を示す。
【0045】
蒸着マスク(メタルマスク)21に適用される接着層37においては、単位未硬化領域4aの直径は0.2mm以上、0.6mm以下であることが好ましく、縁未硬化領域4bの幅寸法は0.1mm以上、0.5mm以下であることが好ましい。本使用形態の接着層37では、単位未硬化領域4aの直径は0.4mmに設定されており、縁未硬化領域4bの幅寸法は、単位未硬化領域4aの直径の半分の0.2mmに設定されている。また、接着層37において未硬化領域4が占める割合は、50%未満であることが好ましく、20%以上、30%以下であることがより好ましい。未硬化領域4の占める割合を50%未満とすることで、硬化領域5による十分な空気の抜気効果を期待でき、気泡および気層の形成を可及的に抑制できる。一方、未硬化領域4の占める割合が20%以上とするのは、当該割合が20%未満であると接着層37による接着力を十分に確保することができないからである。このようなことから、接着層37における硬化領域5が占める割合は、50%以上80%以下であることが好ましい。
【0046】
上枠35および下枠36は、例えば被加工材に対する熱影響の小さいワイヤー放電加工機等を用いて金属板材から切り出したものであり、
図12(a)に示すように、長方形状の板材にマスク開口25に対応する8個の開口が形成されている。この上枠35と下枠36とを、ベースフィルム12およびカバーフィルム13を剥離したドライフィルムレジスト11で貼り合わせる。このとき、支持枠23の平面外形形状を跨ぐ状態で形成された縁未硬化領域4bにより、上枠35および下枠36に対してドライフィルムレジスト11が僅かに位置ずれしていたとしても、接着層37の外周縁部6に縁未硬化領域4bおよび分断部7が的確に形成される。次いで、
図12(b)に示すように、所定のロール間寸法に配置した上下の転動ロール39・39の間を通過させて、上枠35および下枠36と、ドライフィルムレジスト11とを定着させる。定着は、一方端から他方端に向かって順に行うので、上枠35と未硬化領域4および下枠36と未硬化領域4との間の空気は、転動ロール39部分で上下枠35・36の移動方向上手側(定着未処理側)に押し出され、空気の噛み込みが抑制される。また、押し出された空気は、分断部7における硬化領域5を介して、外周縁部6から外部に抜気される。最後に不要部分のドライフィルムレジスト11(支持枠23の外縁からはみ出た部分と各マスク開口25の部分)を除去することにより支持枠23を得る。
【0047】
本使用形態に係る蒸着マスク21の製造方法の一例を
図13から
図15に示す。まず
図13(a)に示すように、導電性を有する例えばステンレスや真ちゅう製の電鋳母型41の表面に、ネガタイプのフォトレジスト層42を形成する。次いで、フォトレジスト層42の上に、ガラスマスクからなるパターンフィルム43を密着させ、パターンニング前段体44を得る。パターンフィルム43には、マスク本体22の蒸着通孔29、同本体22の接合通孔30、およびマスク本体22の外周にそれぞれ対応する透光孔43aが形成されている。
【0048】
次いで、得られたパターンニング前段体44を、紫外線ランプ45を備える紫外線照射装置(露光装置)の炉内に収容して、露光作業時の炉内温度に予熱し、パターンニング前段体44を炉内温度に馴染ませたのち、紫外線ランプ45で紫外線光を照射することにより、パターンフィルム43を介してフォトレジスト層42を露光する。露光後のパターンニング前段体44を取り出し、フォトレジスト層42からパターンフィルム43を取り外し、フォトレジスト層42の未露光部分を溶解除去(現像)することにより、
図13(b)に示すように、電鋳母型41上に一次パターンレジスト46を形成する。一次パターンレジスト46は、蒸着通孔29、同本体22の接合通孔30、およびマスク本体22の外周にそれぞれ対応するレジスト体46aで構成される。
【0049】
次いで、
図13(c)に示すように、レジスト体46aで覆われていない電鋳母型41の表面に電鋳処理(めっき処理)を施すことにより、レジスト体46aの高さの範囲内で一次電鋳層47を形成する。一次電鋳層47は、蒸着マスク21の完成品を構成する複数のマスク本体22と、その完成前に除去される枠台部48とで構成される。一次電鋳層47の形成後、
図13(d)に示すように、一次パターンレジスト46を溶解除去する。これにより、マスク本体22の蒸着通孔29および接合通孔30が現れる。なお、マスク本体22に対する金属層24の接合強度(密着性)を高めるために、マスク本体22の接合領域28の上面および外周面と、接合通孔30の内周面とに、酸浸漬や電解処理等の活性化処理(密着処理)を施す、あるいは密着めっき層を形成することができる。密着めっき層は、ニッケルや銅などを素材として、ストライクめっきや無光沢めっきにより、一次電鋳層47よりも十分に薄く形成することが好ましい。
【0050】
次工程では、一次電鋳層47のマスク本体22に対して、支持枠23を金属層24で接合する。具体的にはまず、
図14(a)に示すように、一次電鋳層47の表面全体にネガタイプのフォトレジスト層51を形成し、その上にパターンフィルム52を密着させる。このパターンフィルム52は、マスク本体22のパターン形成領域27に対応する角を丸めた長方形状の透光孔52aを備える。
【0051】
次いで、紫外線照射装置の炉内において紫外線ランプ45で紫外線光を照射して、パターンフィルム52を介してフォトレジスト層51を露光する。露光後、フォトレジスト層51からパターンフィルム52を取り外し、フォトレジスト層51の未露光部分を溶解除去(現像)することにより、
図14(b)に示す二次パターンレジスト53を形成する。二次パターンレジスト53は、マスク本体22のパターン形成領域27の表面を覆う。パターン形成領域27の蒸着通孔29は二次パターンレジスト53で覆われるため、その後の電鋳処理の際に、同通孔29に電鋳液(めっき液)が浸入することは無い。
【0052】
次いで、
図14(c)に示すように、一次電鋳層47の枠台部48の上面の所定の位置に支持枠23を載置して中間積層体54を得る。平面視において枠台部48は支持枠23よりもひとまわり大きく形成されている。枠台部48で支持される支持枠23は、その下面に剥離層55を介して接着層56が予め積層されて、接着層付き支持枠23Aとして構成されている。接着層付き支持枠23Aを枠台部48の上面に載置することにより、同支持枠23Aが備える接着層56によって支持枠23は枠台部48に対してズレ動き不能に仮固定される。本実施例では剥離層55はニッケルで形成し、接着層56は支持枠23の上枠35と下枠36とを接着したドライフィルムレジスト11(接着層37)と同様のものを用いた。支持枠23からはみ出た部分のドライフィルムレジスト11は除去しておく。枠台部48の上面への支持枠23の仮固定後は、剥離層55(支持枠23)と接着層56、および枠台部48と接着層56との定着化処理を行う。該定着化処理については後述する。
【0053】
次いで、
図14(d)に示すように電鋳処理を施して、支持枠23の表面からマスク本体22にわたって連続する二次電鋳層すなわち金属層24を形成する。一次電鋳層47の表面における金属層24は、二次パターンレジスト53の高さの範囲内で形成する。またこのとき、接合通孔30内に金属層24を形成することにより、マスク本体22に対する金属層24の接合強度がより向上する。電鋳処理後、電鋳母型41から一次電鋳層47および金属層24を剥離する。次いで一次電鋳層47の枠台部48を接着層56および剥離層55と共に、支持枠23および金属層24から剥離し、最後に二次パターンレジスト53を除去することにより、
図14(e)に示す蒸着マスク21の完成品を得ることができる。なお、二次パターンレジスト53の除去は、一次電鋳層47および金属層24の剥離前に行っても良いし、枠台部48、接着層56および剥離層55の剥離前に行ってもよい。剥離層55を除く部分を除去したのち、最後に剥離層55を除去することもできる。剥離層55は必須ではなく、省略することも可能である。
【0054】
先の定着化処理について説明する。上記の枠台部48の上面への支持枠23の仮固定時、すなわち中間積層体54を得る際に、枠台部48と接着層56との間に空気が噛み込んでいると、支持枠23にひずみが生じた状態で仮固定されるため、製造された蒸着マスク21の寸法精度が低下する。当該寸法精度の低下を防止するために定着化処理を施す。
図15(a)は定着化処理における各部材を分解した状態を示しており、
図15(b)は各部材を積層した状態を示している。定着化処理は、前工程として、ステンレスからなる台ベース59の上面にマグネットシート60が配置された保持台61上に中間積層体54を載置し、次いで支持枠23上に、同枠23を押圧するための押圧治具62を載置し、さらに中間積層体54および押圧治具62の上面を保護フィルム63で覆う。当該前工程により前処理体64を得る。なお、押圧治具62の上面には、当該上面と、保護フィルム63との間の空気を抜きやすくするために、レンガ模様状の排気溝62aが凹み形成されている(
図15(a)参照)。なお、排気溝62aは押圧治具62の下面にも形成してあってもよい。
【0055】
上記のマグネットシート60は中間積層体54を吸着保持するために設けられている。押圧治具62は支持枠23の平面形状よりも一回り小さな平面形状に形成されており、両者23・62の間には剥離シート65を介在させる。これにより、押圧治具62は剥離シート65を介して支持枠23の上面に面接触する。剥離シート65は、定着化処理後の押圧治具62の分離を容易化しつつ、支持枠23の上面を保護するために設けられている。押圧治具62と剥離シート65とは粘着テープ66で一体化して、定着化処理後に両者62・65を一体で分離できるようにしている。該保護フィルム63は、真空圧着装置67の圧着フィルム68と中間積層体54および押圧治具62との接触を阻止して、圧着フィルム68が破損するのを防止するために設けられている。
【0056】
上記前工程が完了したら、真空圧着装置67の上蓋69を解放し、真空チャンバー70内のチャンバー台71に前処理体64を載置して上蓋69を閉塞する。この状態で、真空ポンプ72を駆動して真空チャンバー70内の空気を吸引して真空度を高めることで、支持枠23と接着層56との間、および枠台部48と接着層56との間の空気を抜気しつつ、圧着フィルム68で押圧治具62を支持枠23に押付け接着する。このとき、支持枠23と押圧治具62とは面接触状に接しているので、支持枠23の一部に押付け力が集中するのを回避でき、支持枠23の破損を防止できる。また、広範囲に押付け力が作用するので、層間の空気を的確に抜気できる。
【0057】
本使用形態の接着層37および接着層56は、実施例1の接着層1と同様の構成を有するものとしたが、接着層37・56は実施例2~5の接着層1と同様の構成を有するものであってもよい。
【0058】
以上のように、上記使用形態の蒸着マスク21によれば、支持枠23の厚み寸法を高精度化でき、さらにひずみのない支持枠23で金属層24を介してマスク本体22を支持するので、マスク本体22の位置精度を良好なものにすることができ、例えば有機ELディスプレイの発光層を高精度に形成できる。また、支持枠23の経時変化が抑制されている分、マスク本体22の位置精度を長期にわたって維持できる。
【0059】
上記の支持枠23の形成方法では、まず接着層37を形成し、形成した接着層37で上枠35と下枠36とを一体化したが、接着層37の形成は両枠35・36の一体化の途中に行ってもよい。具体的には、上枠35もしくは下枠36のいずれか一方、例えば上枠35にドライフィルムレジスト11およびベースフィルム12を重ね合わせる。さらにベースフィルム12上にパターンフィルム38を重ね合わせたのち、同フィルム38の上方から紫外線ランプで紫外線光を照射して露光部分を形成する。こののち、カバーフィルム13を剥離し、下枠36を重ね合わせ、上下の転動ロール39・39の間を通過させる。このような手法でも支持枠23を形成することができる。また、上記の一次電鋳層47は、マスク本体22と枠台部48とを含むものとしたが、枠台部48を省略することも可能である。この場合には、支持枠23は、剥離層55および接着層56を介して電鋳母型41上にズレ動き不能に仮固定される。接着層56は支持枠23の下面に予め積層してもよいし、一次電鋳層47の形成後に電鋳母型41の上面に積層してもよい。
【0060】
ここで、上記使用形態に係るメタルマスクにおける支持枠23は、次のように表現できる。
【0061】
多数独立の通孔29からなるマスクパターンを備えるマスク本体22の周囲に配置されて、該マスク本体22を支持する金属板材からなる補強用の支持枠23であって、第1枠体35と第2枠体36とで構成されており、両枠体35・36が接着層37を介して接合され一体化されている支持枠。
【0062】
また、上記使用形態に係るメタルマスクにおける接着層付き支持枠23Aは、次のように表現できる。
【0063】
支持枠23のいずれか一方の表面に、接着層56が形成されている接着層付き支持枠。
支持枠23の表面と接着層56との間に、剥離層55が形成されている。
なお、接着層付き支持枠23Aにおいては、上枠35と下枠36で構成される二層構造の支持枠23以外に、三層以上の積層構造や単層構造の支持枠23を採用することができる。
【0064】
また、上記使用形態に係るメタルマスクの製造過程で得られる中間積層体54は、次のように表現できる。
【0065】
電鋳母型41と、該電鋳母型41上に形成されて、マスク本体22および枠台部48を含む一次電鋳層47と、一次電鋳層47の枠台部48上に載置される支持枠23とを備え、支持枠23の下面に接着層56が形成されて、該接着層56で支持枠23が枠台部48に仮固定されている中間積層体。
支持枠23と接着層56との間に剥離層55が設けられている。
マスク本体22は多数独立の通孔29からなるマスクパターンが形成されるパターン形成領域27を備え、該パターン形成領域27の上面にパターンレジスト(二次パターンレジスト)53が設けられている。
【0066】
これら支持枠23、接着層付き支持枠23A、および中間積層体54における接着層37・56は、光硬化性、あるいは熱硬化性の樹脂からなり、未露光部分であって素材由来の粘着性を有する未硬化領域4と、露光部分であって素材由来の粘着性が消失した硬化領域5とで構成されており、硬化領域5は、接着層の外周縁部6に臨む状態で形成されている。
【0067】
上記使用形態では、マスク本体22と支持枠23とは金属層24を介して一体的に接合したが、マスク本体22の外周縁に支持枠23やフレームを上記実施例1~5の接着層1(37)を介して接合して一体化する形態でもよい。この場合には、マスク本体22は、電鋳(めっき)で形成する以外に、エッチング、機械加工、レーザー加工などで形成することができ、支持枠23やフレームは、アルミニウム、鉄、インバーなどで構成することができる。さらに、支持枠23の表面(上面および側面)と接着層の露出部分(側部)を覆うように金属層を形成する形態でも良い。上記では蒸着マスクについて説明したが、本発明の接着層は、スクリーン印刷用のメタルマスクやはんだボール振り込み用のメタルマスクにも適用できる。
【0068】
(第2使用形態)
図16から
図19に、本発明の接着層を多数の通孔を有するマスク本体や、前記マスク本体を一体に備える蒸着マスク等のメタルマスクの製造に用いる電鋳母型に適用した第2使用形態を示す。本使用形態の電鋳母型80は、先の第1使用形態の電鋳母型41に相当するものであり、
図16に示すように、導電性を有するベース部81と、該ベース部81上に積層される導電層82と、ベース部81と導電層82との間に介在されて両者81・82を一体化するための接着層83とからなる。接着層83は、実施例1の接着層1と同様の構成を有しており、本使用形態におけるベース部81、導電層82、および接着層83は、それぞれ実施例1の第2シート(板体)3、第1シート(板体)2、および接着層1に相当する。なお、接着層83は実施例2~5の接着層1と同様の構成を有するものであってもよい。
【0069】
ベース部81は、例えばステンレスや真ちゅう製の金属板材からなり、1mm程度の厚みとすることが好ましい。また、ベース部81は、42アロイ(42%ニッケル-鉄合金)やインバー(36%ニッケル-鉄合金)、SUS430等の低熱膨張係数の金属板材で形成することが好ましい。なお、ガラス板や樹脂板など絶縁性基板の表面にクロムやチタンなどの導電性を有する金属からなる金属膜を形成したベース部81であってもよい。
【0070】
導電層82は、ニッケル等の金属製の薄膜82a・82b・82cを積層したものである。導電層82を構成する薄膜82a・82b・82cはベース部81側が厚く、ベース部81から離れるに従って薄く設定されており、本使用形態の薄膜82a・82b・82cはそれぞれ60μm、40μm・20μmに設定されている。なお、この導電層82は、三枚の薄膜からなる積層構造としているが、これに限らず、二枚の薄膜や四枚以上の薄膜など、三枚以外の積層構造とすることもできる。また、導電層82は単層であってもよい。
【0071】
図17に示すように接着層83(接着層1)には、同じ直径の円形に形成された単位未硬化領域4aが点在する状態で形成されており、各単位未硬化領域4aは規則的な千鳥状に配置されている。硬化領域5は連続状に形成されており、該硬化領域5で単位未硬化領域4aが囲まれている。また、未硬化領域4は、接着層83の外周縁部6に沿って伸びる複数の縁未硬化領域4bを備えている。縁未硬化領域4bは、各辺部の分断部7を除いて形成されており、硬化領域5は当該分断部7部分で接着層83の外周縁部6に臨んでいる。
【0072】
図18および
図19を用いて電鋳母型80の製造方法を説明する。四周縁に合成樹脂等の非導電性の堰86が形成された、導電性を有する平坦な基板87を用意する。堰86は、紫外線硬化樹脂を用いてフォトリソグラフィ法で形成することができ、また、基板87の外郭形状に合致する合成樹脂枠体を基板87上に接着して形成することもできる。
図18(a)に示すように、堰86で囲まれた基板87の表面に電鋳処理(めっき処理)を施すことにより、薄膜82cとなる一次電鋳層89を形成する。次いで、
図18(b)に示すように一次電鋳層89の表面に電鋳処理(めっき処理)を施すことにより、薄膜82bとなる二次電鋳層90を形成する。次いで、
図18(c)に示すように二次電鋳層90の表面に電鋳処理(めっき処理)を施すことにより、薄膜82aとなる三次電鋳層91を形成する。二次電鋳層90は一次電鋳層89よりも厚く、三次電鋳層91は二次電鋳層90よりも厚く形成する。一次から三次の電鋳層89・90・91の形成後は、
図18(d)に示すように堰86を除去する。なお、堰86を除去するタイミングは、三次電鋳層91の形成後であればどのタイミングでもよく、例えば、後述する接着層83の形成後、ベース部81の接着後、あるいは基板87の剥離後に堰86を除去することができる。
【0073】
次いで、ベースフィルム12およびカバーフィルム13で被覆されたドライフィルムレジスト11を三次電鋳層91の外郭形状に切断し、カバーフィルム13を剥離したのち、
図19(a)に示すように、三次電鋳層91と露出したドライフィルムレジスト11とを重ね合わせる。この状態で、ドライフィルムレジスト11を三次電鋳層91に押付けるが、このとき、ベースフィルム12を介してドライフィルムレジスト11の中央から外側に向かって空気を押し出すように押付ける。次いで、ベースフィルム12上にガラスマスクからなるパターンフィルム92を密着させる。パターンフィルム92には、硬化領域5に対応する透光孔92aが形成されている。次いで、パターンフィルム92の上方から紫外線ランプ93で紫外線光を照射することにより、パターンフィルム92を介してドライフィルムレジスト11を露光する。これにて、
図19(b)に示すように、ドライフィルムレジスト11に未硬化領域4に対応する未硬化部分と、硬化領域5に対応する硬化部分が形成される。なお、接着層83は、実施例1と同様の方法で形成し、これを三次電鋳層91の表面に重ね合わせてもよい。
【0074】
次いで、
図19(c)に示すように、ベースフィルム12を剥離し、基板87を反転させてベース部81の上面と、露出したドライフィルムレジスト11とを位置合わせしベース部81と両者11・91を重ね合わせる。この状態で、上方から基板87の一方端から他方端に向かって順に押付け、空気を押し出しながら接着する。最後に、
図19(d)に示すように、導電層82(一次電鋳層89)から基板87を剥離することで、
図16に示す電鋳母型80が得られる。
【0075】
以上のように、上記使用形態の電鋳母型80によれば、厚み寸法精度および平坦度が良好な電鋳母型80を得ることができるので、該電鋳母型80を用いて例えば蒸着マスクなどのメタルマスクを高精度に形成できる。
【符号の説明】
【0076】
1 接着層
2 板体(第1シート)
3 板体(第2シート)
4 未硬化領域
4a 単位未硬化領域
4b 縁未硬化領域
5 硬化領域
6 接着層の外周縁部
22 マスク本体
23 支持枠
24 金属層
29 通孔(蒸着通孔)
35 第1枠体(上枠)
36 第2枠体(下枠)