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特許7464445液系リチウムイオン二次電池の製造方法、および液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤
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  • 特許-液系リチウムイオン二次電池の製造方法、および液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤 図1
  • 特許-液系リチウムイオン二次電池の製造方法、および液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤 図2
  • 特許-液系リチウムイオン二次電池の製造方法、および液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤 図3
  • 特許-液系リチウムイオン二次電池の製造方法、および液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】液系リチウムイオン二次電池の製造方法、および液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20240402BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240402BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240402BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0567
H01M10/052
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020089609
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021184354
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 里美
(72)【発明者】
【氏名】岡山 忍
(72)【発明者】
【氏名】永谷 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正博
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027788(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/199100(WO,A1)
【文献】特開2019-083154(JP,A)
【文献】特開2015-198178(JP,A)
【文献】特開2011-076930(JP,A)
【文献】特開平08-138735(JP,A)
【文献】Journal of Materials Chemistry,2011年,Vol.21,pp.8110-8121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05 - 10/0587
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液系リチウムイオン二次電池の完成品を準備すること、
および、
前記完成品において、電解液に双性イオン化合物を追加することにより、新たな液系リチウムイオン二次電池を再製造すること、
を含み、
前記双性イオン化合物は、
下記式(I):
+-COO- (I)
により表され、
上記式(I)中、
+は、正電荷を有する芳香族複素環基を示し、
前記芳香族複素環基は、置換基を有していてもよく、
前記芳香族複素環基は、窒素原子を環内に含む、
液系リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記芳香族複素環基は、イミダゾール環を含む、
請求項1に記載の液系リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記双性イオン化合物は、
下記式(II):
【化1】

により表され、
上記式(II)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、シクロアルキル基、または、アリール基を示し、
1、R2、R3およびR4のうち2個以上が互いに結合することにより、環が形成されていてもよい、
請求項1または請求項2に記載の液系リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記双性イオン化合物は、1,3-ジメチルイミダゾリウム-2-カルボキシラートを含む、
請求項3に記載の液系リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
双性イオン化合物を含み、
前記双性イオン化合物は、
下記式(II):
【化2】

により表され、
上記式(II)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、シクロアルキル基、または、アリール基を示し、
1、R2、R3およびR4のうち2個以上が互いに結合することにより、環が形成されていてもよい、
系リチウムイオン二次電池用性能改善剤。
【請求項6】
前記双性イオン化合物は、1,3-ジメチルイミダゾリウム-2-カルボキシラートを含む、
請求項に記載の液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液系リチウムイオン二次電池の製造方法、および液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-083154号公報(特許文献1)は、リチウムイオン二次電池の電解液に双性イオン化合物を添加することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-083154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
双性イオン化合物は、カチオンおよびアニオンの両方を1分子内に含む。液系リチウムイオン二次電池の電解液に、特定の双性イオン化合物が追加されることにより、電池性能の改善が期待される。例えば、電池容量の回復が期待される。例えば、電池抵抗の低減が期待される。
【0005】
本開示の目的は、性能改善効果の持続性が向上した、液系リチウムイオン二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし、本開示の作用メカニズムは推定を含んでいる。作用メカニズムの正否は、特許請求の範囲を限定しない。
【0007】
〔1〕 液系リチウムイオン二次電池の製造方法は、下記(A)および(B)を含む。
(A) 液系リチウムイオン二次電池の完成品を準備する。
(B) 完成品において、電解液に双性イオン化合物を追加することにより、新たな液系リチウムイオン二次電池を再製造する。
双性イオン化合物は、
下記式(I):
+-COO- (I)
により表される。
上記式(I)中、
「X+」は、正電荷を有する芳香族複素環基を示す。
芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
芳香族複素環基は、窒素原子を環内に含む。
【0008】
上記式(I)の双性イオン化合物が使用されることにより、性能改善効果の持続性が向上することが期待される。このメカニズムの詳細は不明である。あくまで推定であるが、例えば、次のように考えられる。すなわち、双性イオン化合物の化学的安定性が、持続性の向上に寄与している可能性がある。上記式(I)の双性イオン化合物においては、芳香族複素環基が正電荷を有する。環が芳香族性を有するため、正電荷が環内に分散し得ると考えられる。正電荷は、実質的に非局在化してもよい。正電荷の分散により、正電荷(カチオン)と対をなすカルボキシラートアニオン(COO-)の求核性が低下すると考えられる。これにより、双性イオン化合物の化学的安定性が向上している可能性がある。双性イオン化合物が分解し難く、長期にわたって電解液中に存在することにより、性能改善効果が持続しやすいと考えられる。
【0009】
〔2〕 上記〔1〕に記載の液系リチウムイオン二次電池の製造方法において、芳香族複素環基は、例えば、イミダゾール環を含んでいてもよい。
【0010】
すなわち、上記式(I)における「X+」は、イミダゾリウムカチオンであってもよい。イミダゾール環においては、正電荷が分散しやすいと考えられる。芳香族複素環基がイミダゾール環を含むことにより、双性イオン化合物の化学的安定性が向上することが期待される。
【0011】
〔3〕 上記〔1〕または〔2〕に記載の液系リチウムイオン二次電池の製造方法において、双性イオン化合物は、例えば、
下記式(II):
【化1】

により表されてもよい。
上記式(II)中、「R1、R2、R3およびR4」は、それぞれ独立に、水素原子、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、シクロアルキル基、または、アリール基を示す。「R1、R2、R3およびR4」のうち2個以上が互いに結合することにより、環が形成されていてもよい。
【0012】
イミダゾール環の2位にカルボキシラートアニオン(COO-)が結合していることにより、カルボキシラートアニオンの求核性が低下しやすいと考えられる。
【0013】
〔4〕 上記〔3〕に記載の液系リチウムイオン二次電池の製造方法において、双性イオン化合物は、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリウム-2-カルボキシラートを含んでいてもよい。
【0014】
〔5〕 液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤は、双性イオン化合物を含む。
双性イオン化合物は、
下記式(I):
+-COO- (I)
により表される。
上記式(I)中、
「X+」は、正電荷を有する芳香族複素環基を示す。
芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
芳香族複素環基は、窒素原子を環内に含む。
【0015】
液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤が電解液に混合されることにより、電解液に双性イオン化合物が追加される。これにより、電池性能の改善が期待される。さらに、性能改善効果の持続性が向上することが期待される。
【0016】
〔6〕 上記〔5〕に記載の液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤において、芳香族複素環基は、例えば、イミダゾール環を含んでいてもよい。
【0017】
〔7〕 上記〔5〕または〔6〕に記載の液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤において、双性イオン化合物は、例えば、
下記式(II):
【化2】

により表されてもよい。
上記式(II)中、「R1、R2、R3およびR4」は、それぞれ独立に、水素原子、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、シクロアルキル基、または、アリール基を示す。「R1、R2、R3およびR4」のうち2個以上が互いに結合することにより、環が形成されていてもよい。
【0018】
〔8〕 上記〔7〕に記載の液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤において、双性イオン化合物は、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリウム-2-カルボキシラートを含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本実施形態の液系リチウムイオン二次電池の製造方法の概略フローチャートである。
図2図2は、本実施形態の液系リチウムイオン二次電池の一例を示す概略図である。
図3図3は、実験結果を示す第1グラフである。
図4図4は、実験結果を示す第2グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」とも記される。)が説明される。ただし以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0021】
本実施形態において、「液系リチウムイオン二次電池」は、電解液を含むリチウムイオン二次電池を示す。「液系リチウムイオン二次電池」は、ゲルポリマー電解質を含むリチウムイオン二次電池(「ポリマー電池」等とも称される。)も含む。ゲルポリマー電解質が電解液を含むためである。
【0022】
本実施形態においては、「液系リチウムイオン二次電池」が「電池」と略記され得る。
「液系リチウムイオン二次電池の製造方法」が「製造方法」と略記され得る。
「液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤」が「性能改善剤」と略記され得る。
【0023】
本実施形態において、例えば「0.1質量部から10質量部」等の記載は、特に断りのない限り、境界値を含む範囲を示す。例えば「0.1質量部から10質量部」は、「0.1質量部以上10質量部以下」の範囲を示す。
【0024】
<液系リチウムイオン二次電池の製造方法>
図1は、本実施形態の液系リチウムイオン二次電池の製造方法の概略フローチャートである。本実施形態の製造方法は、「(A)電池の準備」および「(B)双性イオン化合物の追加」を含む。
【0025】
《(A)電池の準備》
本実施形態の製造方法は、電池の完成品を準備することを含む。
【0026】
本実施形態における「完成品」は、充電および放電がそれぞれ1回以上実施された電池を示す。電池の製造過程で実施される充電および放電も、回数に含まれる。例えば、充放電検査(容量検査)直後の電池(新品)が回収されることにより、完成品が準備されてもよい。例えば、市場から電池が回収されることにより、完成品が準備されてもよい。例えば、電気自動車等の定期点検時に、使用済み電池(中古品)が回収されることにより、完成品が準備されてもよい。
【0027】
(液系リチウムイオン二次電池)
図2は、本実施形態の液系リチウムイオン二次電池の一例を示す概略図である。
電池10は、いわゆる「角形電池」である。ただし、電池外装は、任意の形態を有し得る。電池10は、例えば、「円筒形電池」であってもよいし、「ラミネート形電池」であってもよいし、「コイン形電池」であってもよい。
【0028】
(ケース)
電池10は、ケース12を含む。ケース12は、密閉されている。ケース12は、例えば、金属材料等により形成されていてもよい。金属材料は、例えば、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ステンレス鋼(SUS)等を含んでいてもよい。ケース12は、例えば、樹脂材料等により形成されていてもよい。ケース12は、例えば、Alラミネートフィルム等により形成されていてもよい。
【0029】
ケース12は、電池要素11および電解液を収納している。図2中の一点鎖線は、電解液の液面を示している。電解液の少なくとも一部は、電池要素11に含浸されている。電解液の全部が電池要素11に含浸されていてもよい。
【0030】
(電池要素)
電池要素11は、正極、セパレータおよび負極を含む。正極、セパレータおよび負極の各々は、例えば、シート状であってもよい。セパレータは、正極と負極との間に介在している。電池要素11は、例えば、巻回型であってもよい。すなわち、電池要素11は、正極、セパレータおよび負極からなる積層体が、渦巻状に巻回されることにより形成されていてもよい。電池要素11は、例えば、積層(スタック)型であってもよい。すなわち、電池要素11は、電極とセパレータとが交互に積層されることにより形成されていてもよい。
【0031】
(正極)
正極は、負極に比して高い電位を有する電極である。正極は、少なくとも正極活物質を含む。正極は、実質的に正極活物質からなっていてもよい。正極は、例えば、正極集電体と正極活物質層とを含んでいてもよい。正極活物質層は、正極集電体に支持されていてもよい。例えば、正極活物質層は、正極集電体の表面に形成されていてもよい。
【0032】
正極集電体は、例えば、Al箔等を含んでいてもよい。正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含む。正極活物質層は、実質的に正極活物質からなっていてもよい。正極活物質層は、正極活物質に加えて、例えば、導電材、バインダ等をさらに含んでいてもよい。
【0033】
正極活物質は、任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、およびリン酸鉄リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック、炭素繊維等を含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば、0.1質量部から10質量部であってもよい。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば、0.1質量部から10質量部であってもよい。
【0034】
(負極)
負極は、正極に比して低い電位を有する電極である。負極は、少なくとも負極活物質を含む。負極は、実質的に負極活物質からなっていてもよい。負極は、例えば、負極集電体と負極活物質層とを含んでいてもよい。負極活物質層は、負極集電体に支持されていてもよい。例えば、負極活物質層は、負極集電体の表面に形成されていてもよい。
【0035】
負極集電体は、例えば、銅(Cu)箔等を含んでいてもよい。負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含む。負極活物質層は、実質的に負極活物質からなっていてもよい。負極活物質層は、負極活物質に加えて、例えば、導電材、バインダ等をさらに含んでいてもよい。
【0036】
負極活物質は、任意の成分を含み得る。負極活物質は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、珪素、酸化珪素、珪素基合金、錫、酸化錫、錫基合金、チタン酸リチウム、リチウム基合金、およびリチウム(単体)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック、炭素繊維等を含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の負極活物質に対して、例えば、0.1質量部から10質量部であってもよい。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の負極活物質に対して、例えば、0.1質量部から10質量部であってもよい。
【0037】
(セパレータ)
セパレータは、絶縁性である。セパレータは、正極と負極とを分離している。セパレータは電解液を透過させる。セパレータは、例えば、多孔質膜であってもよい。セパレータは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等により形成されていてもよい。
【0038】
(電解液)
電解液は、液体電解質である。電解液は、溶媒とリチウム塩とを含む。溶媒は、非プロトン性である。溶媒は、任意の成分を含み得る。溶媒は、例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを含んでいてもよい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合比は、例えば「環状カーボネート/鎖状カーボネート=5/5(体積比)」から「環状カーボネート/鎖状カーボネート=1/9(体積比)」であってもよい。環状カーボネートは、例えば、エチレンカーボネート(EC)、およびプロピレンカーボネート(PC)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。鎖状カーボネートは、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、およびジエチルカーボネート(DEC)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0039】
リチウム塩は、支持電解質である。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5mоl/Lから2.0mоl/Lであってもよい。リチウム塩は、任意の成分を含み得る。リチウム塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、Li[N(FSO22]およびLi[N(CF3SO22]からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0040】
電解液は、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤の濃度は、例えば、0.01mоl/Lから0.1mоl/Lであってもよい。添加剤は、任意の成分を含み得る。添加剤は、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、プロパンスルトン(PS)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、ビフェニル(BP)およびリチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0041】
《(B)双性イオン化合物の追加》
本実施形態の製造方法は、完成品において、電解液に双性イオン化合物を追加することにより、新たな電池を製造することを含む。
【0042】
電解液に双性イオン化合物が追加されることにより、例えば、電池性能が改善した電池が製造され得る。例えば、電池容量が回復した電池が製造され得る。例えば、電池抵抗が低減した電池が製造され得る。
【0043】
双性イオン化合物の追加によって、電池性能が改善するメカニズムの詳細は、不明である。あくまで推定であるが、例えば、次のように考えられる。例えば、電池10内において、何等かの原因により電解液中のリチウムイオンが、リチウム化合物(固体)を形成することが考えられる。例えば、電極の表面に形成される被膜は、リチウム化合物を含むと考えられる。リチウム化合物は、電池容量に寄与しないため、電池容量が減少すると考えられる。例えば、リチウム化合物に双性イオン化合物が作用することにより、リチウム化合物が電解液に溶解すると考えられる。リチウム化合物の溶解により、リチウムイオンが再生される。これにより電池容量が回復すると考えられる。
【0044】
また、リチウム化合物(被膜)が電極反応(リチウムイオンの挿入脱離)を阻害することにより、電池抵抗が増加すると考えられる。例えば、リチウム化合物に双性イオン化合物が作用することにより、リチウム化合物が電解液に溶解すると考えられる。リチウム化合物の溶解により、被膜が減少し、電池抵抗が低減すると考えられる。
【0045】
例えば、ケース12が開封されることにより、ケース12内の電解液に対して、双性イオン化合物が追加される。例えば、ケース12が電解液注入用の注入口(不図示)を有する場合は、注入口から双性イオン化合物が電解液に追加されてもよい。
【0046】
双性イオン化合物は、任意の方法により、電解液に追加され得る。例えば、粉体(固体)の双性イオン化合物が電解液に追加されてもよい。例えば、双性イオン化合物が溶解している溶液が、電解液に追加されてもよい。例えば、双性イオン化合物(固体)が分散している粒子分散液が、電解液に追加されてもよい。
【0047】
例えば、双性イオン化合物の追加前に、電池性能が測定されてもよい。例えば、電池容量が測定されてもよい。例えば、電池抵抗が測定されてもよい。例えば、電池性能の劣化度合い等に応じて、双性イオン化合物の使用量が調整されてもよい。
【0048】
双性イオン化合物の追加後、例えば、電解液の粘度が過度に上昇しないように、双性イオン化合物の使用量が調整されてもよい。例えば、双性イオン化合物の追加後、電解液における双性イオン化合物の濃度が、0.001mоl/Lから0.1mоl/Lとなるように、双性イオン化合物の使用量が調整されてもよい。例えば、双性イオン化合物の追加後、電解液における双性イオン化合物の濃度が、0.01mоl/Lから0.05mоl/Lとなるように、双性イオン化合物の使用量が調整されてもよい。例えば、双性イオン化合物の追加後、電解液における双性イオン化合物の濃度が、0.01mоl/Lから0.03mоl/Lとなるように、双性イオン化合物の使用量が調整されてもよい。例えば、双性イオン化合物の追加後、電解液における双性イオン化合物の濃度が、0.02mоl/L以下となるように、双性イオン化合物の使用量が調整されてもよい。
【0049】
(双性イオン化合物)
双性イオン化合物は、「分子内塩」とも称される。双性イオン化合物は、カチオンおよびアニオンの両方を1分子内に含む。双性イオン化合物は、電気的に中性である。
【0050】
本実施形態における双性イオン化合物は、特定構造を有する。双性イオン化合物の構造は、例えば、NMR(nuclear magnetic resonance)等によって特定され得る。
【0051】
双性イオン化合物は、下記式(I):
+-COO- (I)
により表される。
【0052】
上記式(I)中、「X+」は、正電荷を有する芳香族複素環基を示す。すなわち、本実施形態における双性イオン化合物は、複素環式化合物である。芳香族複素環基は、例えば、5員環であってもよいし、6員環であってもよい。「X+」が芳香族性を有することにより、正電荷が環内に分散し得ると考えられる。その結果、双性イオン化合物が、高い化学的安定性を示し得ると考えられる。環内において、正電荷は、実質的に非局在化してもよい。なお「芳香族性を有すること」は、ヒュッケル則を満たすことを示す。
【0053】
芳香族複素環基は、窒素原子(N)を環内に含む。芳香族複素環基は、例えば、1個から4個の窒素原子を環内に含んでいてもよい。芳香族複素環基は、窒素原子を環内に含む限り、その他のヘテロ原子を環内に含んでいてもよい。芳香族複素環は、窒素原子に加えて、例えば、酸素原子(O)、硫黄原子(S)等を環内に含んでいてもよい。
【0054】
芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。「置換基」は、例えば、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、シクロアルキル基、または、アリール基等であってもよい。置換基であるアリール基がさらに置換されていてもよい。置換基は、例えば、1個から10個の炭素原子(C)を含んでいてもよい。芳香族複素環は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、イソプロピルフェニル基、1-ナフチル基、および、2-ナフチル基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい。
【0055】
例えば、2個の直鎖状アルキル基が互いに結合することにより、環が形成されていてもよい。すなわち、芳香族複素環基は、縮合環を含んでいてもよい。
【0056】
芳香族複素環は、例えば、ピロール環、ピラゾール環、トリアジン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、プリン環、キノリン環、フタラジン環、カルバゾール環、シンノリン環、インドール環、インダゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、およびアクリジン環からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0057】
芳香族複素環基は、例えば、イミダゾール環を含んでいてもよい。芳香族複素環は、イミダゾール環であってもよい。芳香族複素環がイミダゾール環である時、上記式(I)における「X+」は、イミダゾリウムカチオンである。イミダゾール環は、置換基を有していてもよい。イミダゾール環においては、正電荷が分散しやすいと考えられる。
【0058】
双性イオン化合物は、例えば、
下記式(II):
【化3】

により表されてもよい。
【0059】
イミダゾール環の2位にカルボキシラートアニオンが結合していることにより、求核性が低下しやすいと考えられる。なお、上記式(II)では、共鳴構造の一例として、3位にある窒素原子上に正電荷が示されている。もちろん、正電荷の配置は、上記式(II)の配置に限定されない。正電荷は、例えば、環内で非局在化していてもよい。
【0060】
上記式(II)中、「R1、R2、R3およびR4」は、それぞれ独立に、水素原子(H)、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、シクロアルキル基、または、アリール基を示す。「R1、R2、R3およびR4」の各々は、例えば、前述の置換基を含んでいてもよい。「R1、R2、R3およびR4」は、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0061】
「R1、R2、R3およびR4」のうち2個以上が互いに結合することにより、環が形成されていてもよい。例えば、「R2およびR3」がベンゼン環を形成すると、ベンゾイミダゾール環が形成される。
【0062】
芳香族複素環は、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリウム-2-カルボキシラート(1,3-Dimethylimidazolium-2-carboxylate,DIM2c)を含んでいてもよい。DIM2cは、上記式(II)において「R1=CH3、R2=H、R3=H、R4=CH3」とされた化合物である。
【0063】
<液系リチウムイオン二次電池用性能改善剤>
本実施形態の性能改善剤は、電池性能を改善するために使用される。性能改善剤は、例えば、容量回復剤、抵抗低減剤、入出力性能改善剤、保存性能改善剤、サイクル性能改善剤等であってもよい。
【0064】
本実施形態の性能改善剤は、双性イオン化合物を含む。双性イオン化合物の詳細は、前述のとおりである。性能改善剤は、任意の形態を有し得る。性能改善剤は、例えば、粉体(固体)であってもよい。性能改善剤は、例えば、溶液であってもよい。性能改善剤は、例えば、粒子分散液であってもよい。
【0065】
溶液は、双性イオン化合物が溶媒に溶解することにより形成される。粒子分散液は、双性イオン化合物が分散媒に分散することにより形成される。溶媒または分散媒は、例えば、電解液の溶媒として例示された成分(例えばEMC等)を含んでいてもよい。性能改善剤が溶液または粒子分散液である時、性能改善剤は双性イオン化合物を含む限り、電解液に近い組成を有していてもよい。性能改善剤は、例えば、リチウム塩等を含んでいてもよい。性能改善剤が電解液に近い組成を有することにより、例えば、性能改善剤が電解液に追加された時、電解液の組成変化等が低減され得る。
【実施例
【0066】
以下、本開示の実施例(以下「本実施例」とも記される。)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0067】
<実験方法>
《(A)電池の準備》
電池が準備された。電池は、長期使用により性能が低下していた。具体的には、電池容量が減少し、電池抵抗が増加していた。電池は、正極、負極および電解液を含んでいた。電池の構成材料は下記のとおりであった。
【0068】
正極活物質:ニッケルコバルトマンガン酸リチウム
負極活物質:天然黒鉛
電解液 :溶媒 カーボネート系溶媒/リチウム塩 LiPF6
【0069】
電池が解体されることにより、正極および負極が回収された。正極および負極が、所定サイズに裁断された。これにより正極片と負極片とが作製された。正極片と負極片とを含む、電池要素が2個作製された。
【0070】
《(B)双性イオン化合物の追加》
(試料1)
ケースに電池要素および電解液が封入されることにより、小型の供試電池が製造された。電解液は、双性イオン化合物を含んでいた。試料1における双性イオン化合物は、1,3-ジメチルイミダゾリウム-2-カルボキシラート(DIM2c)であった。電解液における双性イオン化合物の濃度は、0.018mоl/Lであった。
【0071】
(試料2)
ケースに電池要素および電解液が封入されることにより、小型の供試電池が製造された。電解液は、双性イオン化合物を含んでいた。試料2における双性イオン化合物は、下記示性式:
(CH3CH2CH2CH23+CH2COO-
により表される。以下、試料2における双性イオン化合物が「TBP+COO-」と記される。電解液における双性イオン化合物の濃度は、0.018mоl/Lであった。
【0072】
供試電池の初期性能が測定された。初期性能の測定後、供試電池のSOC(state of charge)が50%に調整された。SOCの調整後、供試電池の保存試験が実施された。保存試験は、常温環境下で実施された。保存試験においては、所定期間毎に電池性能が測定された。
【0073】
<実験結果>
図3は、実験結果を示す第1グラフである。
図3の横軸は、保存日数を示す。図3の縦軸は、容量維持率を示す。保存日数の増加に伴う容量維持率の低下が緩やかである程、保存性能が改善されていると考えられる。
【0074】
図3に示されるように、試料1(DIM2c)の容量維持率は、試料2(TBP+COO-)の容量維持率に比して、高い値で推移している。試料1(DIM2c)は、試料2(TBP+COO-)に比して、性能改善効果の持続性が向上していると考えられる。
【0075】
試料1において、保存性能が改善するメカニズムの詳細は、不明である。あくまで推定であるが、例えば、次のように考えられる。すなわち、電極の表面(例えば活物質の端部等)に、双性イオン化合物が選択的に吸着することにより、電極の表面において、電解液(主に溶媒)の分解反応が阻害されている可能性がある。
【0076】
図4は、実験結果を示す第2グラフである。
図4には、保存試験後の電池抵抗が示されている。図4の電池抵抗は、試験開始前の電池抵抗が「1.00」となるように正規化された値である。試料1(DIM2c)においては、試験開始前に比して、電池抵抗が低減していた。すなわち、試料1(DIM2c)においては、電池性能が改善されていた。試料2(TBP+COO-)においては、試験開始前に比して、電池抵抗が若干増加していた。
【0077】
<付記>
《付記1》
液系リチウムイオン二次電池の電池性能を改善するための双性イオン化合物の使用であって、
前記双性イオン化合物は、
下記式(I):
+-COO- (I)
により表され、
上記式(I)中、
+は、正電荷を有する芳香族複素環基を示し、
前記芳香族複素環基は、置換基を有していてもよく、
前記芳香族複素環基は、窒素原子を環内に含む、
双性イオン化合物の使用。
【0078】
《付記2》
双性イオン化合物を準備すること、
および、
前記双性イオン化合物を液系リチウムイオン二次電池の電解液に追加すること、
を含み、
前記双性イオン化合物は、
下記式(I):
+-COO- (I)
により表され、
上記式(I)中、
+は、正電荷を有する芳香族複素環基を示し、
前記芳香族複素環基は、置換基を有していてもよく、
前記芳香族複素環基は、窒素原子を環内に含む、
双性イオン化合物の使用方法。
【0079】
《付記3》
電解液を含み、
前記電解液は、溶媒、リチウム塩および双性イオン化合物を含み、
前記双性イオン化合物は、
下記式(II):
【化4】

により表され、
上記式(II)中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、シクロアルキル基、または、アリール基を示し、
1、R2、R3およびR4のうち2個以上が互いに結合することにより、環が形成されていてもよい、
液系リチウムイオン二次電池。
【0080】
《付記4》
前記双性イオン化合物は、1,3-ジメチルイミダゾリウム-2-カルボキシラートを含む、
液系リチウムイオン二次電池。
【0081】
《付記5》
前記電解液における前記双性イオン化合物の濃度は、0.02mоl/L以下である、
《付記3》または《付記4》に記載の液系リチウムイオン二次電池。
【0082】
本実施形態および本実施例は、全てにおいて例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【0083】
特許請求の範囲の記載に基づいて定められる技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味における全ての変更を包含する。また、特許請求の範囲の記載に基づいて定められる技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の範囲内における全ての変更も包含する。
【符号の説明】
【0084】
10 電池、11 電池要素、12 ケース。
図1
図2
図3
図4