(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】塩素化合物吸着剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/12 20060101AFI20240402BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B01J20/12 A
B01J20/28 Z
(21)【出願番号】P 2020110452
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2019122057
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】山内 辰大
(72)【発明者】
【氏名】田河 勝吾
(72)【発明者】
【氏名】八島 崇博
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-351976(JP,A)
【文献】特開2013-166142(JP,A)
【文献】特開平8-052346(JP,A)
【文献】特開2006-102660(JP,A)
【文献】特開平3-008752(JP,A)
【文献】特開2019-077575(JP,A)
【文献】特開平11-021257(JP,A)
【文献】特表2023-549812(JP,A)
【文献】特開2023-025387(JP,A)
【文献】特開2015-101507(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138123(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194884(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111170501(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102847181(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101104142(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セピオライトを塩素化合物の吸着成分として含み、該セピオライトのMg/Siモル比が1.5超であり、該セピオライト由来のカルシウムを含むことを特徴とする塩素化合物吸着剤。
【請求項2】
吸着剤のセピオライト含有量が40質量%以上である請求項1に記載する塩素化合物吸着剤。
【請求項3】
吸着剤のカルシウム含有量が、CaO換算で、2~25質量%である請求項1または請求項2の何れかに記載する塩素化合物吸着剤。
【請求項4】
塩素化合物吸着後の圧壊強度が3N/mm以上である請求項1~請求項3の何れかに記載する塩素化合物吸着剤。
【請求項5】
炭化水素流体に含まれる塩素化合物の吸着に用いられる請求項1~請求項4の何れかに記載する塩素化合物吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化合物吸着剤に関し、より詳しくは、例えば、炭化水素流から塩素化合物を吸着して除去するときに使用される塩素化合物吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製分野において、精製される炭化水素には原料または精製過程の触媒処理に由来する塩素化合物が含まれることがある。例えば、使用済みの触媒を再生して使用することがあり、触媒再生に塩素化合物が使用されることがある。このような再生触媒を使用したときに、塩素化合物が炭化水素中に溶出することがある。この塩素化合物として無機塩素化合物または有機塩素化合物の何れも知られている。精製する炭化水素に塩素化合物が含まれていると、精製装置が塩素によって腐食され、また使用触媒が被毒されるなどの問題を引き起こす。
【0003】
炭化水素に含まれる塩素化合物を除去する方法として、無機塩素化合物と有機塩素化合物を別々の装置で除去する方法が知られているが、この方法はコスト高になる問題がある。そこで、無機塩素化合物と有機塩素化合物を同時に除去できる塩素化合物吸着剤が注目されている。
【0004】
このような塩素化合物吸着剤として、酸化亜鉛を主成分とする吸着剤が従来から知られている。例えば、特許文献1には、酸化亜鉛と結合剤であるセピオライト、タルクまたはアタパルジヤイト(パリゴルスカイド)からなる塩素吸着剤にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を少なくとも10重量%以上添加した塩素化合物除去剤が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、有機塩素化合物に対し吸着特性を示す固体材料10~80重量%、酸化亜鉛20~90重量%を含有し、有機塩化物の吸収量が、塩素として10mg/g以上である塩化物吸収剤を用いることが開示されている。
【0006】
一方、特許文献3には、排ガスに含まれるクロロベンゼンなどの有機塩素化合物を吸着してダイオキシン類の発生を抑制することが記載されており、この塩素化合物の吸着剤として、スチプンサイトなどの含水珪酸マグネシウム塩からなる吸着剤が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4429423号公報
【文献】特許第5259090号公報
【文献】特開2013-166142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に記載されている塩素化合物吸着剤は、吸着成分として酸化亜鉛を用いているので、塩素化合物が吸着すると塩化亜鉛が生成し、この塩化亜鉛は潮解性を有するので吸着剤の強度が低下し、長期間使用すると崩壊すると云う課題がある。また、特許文献1、2で用いられている酸化亜鉛は、無機塩素化合物は吸着するが、有機塩素化合物は殆ど吸着しないと云う欠点がある。
一方、特許文献3に記載されているスチプンサイトなどを用いた吸着剤は、カルシウムの混在による吸着性能の低下を懸念して、カルシウム含有量を低く制限しているため、吸着剤の製造時にカルシウム除去の手間がかかると云う問題がある。
【0009】
本発明は、酸化亜鉛を主成分とする従来の塩素化合物吸着剤における上記課題を解決し、またカルシウムを吸着促進成分として利用して塩素化合物に対する吸着効果を高めたものであり、塩素化合物の吸着後にも強度が低下し難く、しかも塩素化合物に対する吸着効果に優れた吸着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した塩素化合物吸着剤を提供する。
〔1〕セピオライトを塩素化合物の吸着成分として含み、該セピオライトのMg/Siモル比が1.5超であり、該セピオライト由来のカルシウムを含むことを特徴とする塩素化合物吸着剤。
〔2〕吸着剤のセピオライト含有量が40質量%以上である上記[1]に記載する塩素化合物吸着剤。
〔3〕吸着剤のカルシウム含有量が、CaO換算で、2~25質量%である上記[1]または上記[2]の何れかに記載する塩素化合物吸着剤。
〔4〕塩素化合物吸着後の圧壊強度が3N/mm以上である上記[1]~上記[3]の何れかに記載する塩素化合物吸着剤。
〔5〕炭化水素流体に含まれる塩素化合物の吸着に用いられる上記[1]~上記[4]の何れかに記載する塩素化合物吸着剤。
【0011】
〔具体的な説明〕
以下、本発明の塩素化合物吸着剤を具体的に説明する。
本発明の塩素化合物吸着剤は、セピオライトを塩素化合物の吸着成分とし、該セピオライトのMg/Siモル比が1.5超であり、該セピオライト由来のカルシウムを含むことを特徴とする塩素化合物吸着剤である。なお、以下、本発明の塩素化合物吸着剤を略称して本発明の吸着剤とも云う。
【0012】
〔セピオライト〕
本発明の吸着剤は、塩素化合物の吸着成分としてセピオライトを含む。セピオライトは、粘土鉱物の1種であり、一般的な粘土鉱物であるカオリンやタルクなどの層状粘土鉱物とは異なる鎖状粘土鉱物である。セピオライトの代表的な化学構造式を次式(1)に示す。
Si12Mg8O30(OH)4(OH2)4・8H2O (1)
【0013】
セピオライトは天然の鉱物として産出され、その産地や精製方法によって化学組成は異なることがあるが、化学組成が相違しても、吸着剤のX線回折においてセピオライトの一般的な回析パターンが得られれば、この吸着剤にはセピオライトが含まれていると判断することができる。
【0014】
セピオライト含有量
本発明の吸着剤に含まれるセピオライトの含有量は、40質量%以上が好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。セピオライトの含有量が多いほど、塩素化合物に対する吸着速度が速くなり、吸着量も多くなる傾向がある。
【0015】
吸着剤のセピオライト含有量は、吸着剤を製造する際のセピオライト仕込量によって定めることができる。また、吸着剤を化学分析してセピオライト含有量を把握するには、吸着剤の組成分析(例えば、ICP発光分光分析)によって得られたMgおよびSiの測定量に基づき、上記化学構造式(1)からセピオライトの含有量を推定することができる。
【0016】
Mg含有量
上記化学構造式(1)に示すように、セピオライトにはMgが含まれている。このMgに塩素化合物が吸着するものと推察される。セピオライトは鎖状粘土鉱物であり、カオリンやタルクなどの層状粘土鉱物より解れやすく、その表面にMgが露出しやすいので、塩素化合物を吸着する効果が高いと考えられる。したがって、本発明の吸着剤はMg含有量の多いセピオライトが好ましい。具体的には、Mg含有量は、MgO換算で10質量%~40質量%の範囲が好ましく、15質量%~35質量%の範囲がより好ましい。本発明の吸着剤に含まれるMgは殆ど全てがセピオライトに由来するMgであり、このMg量は塩素化合物の吸着量に大きく関係する。吸着剤のMg含有量は、吸着剤を組成分析(例えば、ICP発光分光分析)して把握することができる。
【0017】
セピオライトのMg/Siモル比
本発明の吸着剤に含まれるセピオライトはMg/Siモル比が1.50超であり、1.50~3.00の範囲が好ましく、1.50~2.00の範囲がさらに好ましい。なお、このMg/Siモル比が3を超えるセピオライトの合成は困難である。このMg/Siモル比は、セピオライトを組成分析(例えば、ICP発光分光分析)して得られたMgとSiの含有量から算出することができる。例えば、吸着剤に含まれるセピオライト粒子を電子顕微鏡で観察し、その粒子をEDX分析することによって算出することができる。
【0018】
Ca含有量
本発明の吸着剤は、塩素化合物の吸着促進成分としてCaを含む。このCaはセピオライトに由来するものが好ましい。セピオライトのCaはセピオライト中にイオン交換された状態または化合物(酸化物、水酸化物又は炭酸塩等)の状態で存在していると考えられる。セピオライトに由来するCaとはこのようにセピオライト中に取り込まれているCaを云う。このようなCaは、吸着剤の中でセピオライトの付近に偏析しており、これはセピオライト粒子を電子顕微鏡で観察し、元素マッピングする方法で確認することができる。炭化水素に含まれる塩素化合物を吸着するプロセスにおいて、セピオライトに由来するCa量の多いほうが塩素化合物を吸着する効果が高い傾向があり、セピオライトに由来するCaは塩素化合物の吸収促進成分であることが分かる。
【0019】
一方、Ca成分として生石灰や消石灰などを用いても、塩素化合物に対する吸着効果は向上しない。例えば、比較例2の吸着剤にはCa成分として水酸化カルシウムが用いられているが、吸着速度は実施例1~3の概ね1/10であり、水酸化カルシウムは吸着促進成分として殆ど作用していない。このことから、セピオライトに取り込まれたCaであることによって、このCaがMgの吸着効果を補助し、塩素化合物に対する吸着効果が向上するものと推察される。
【0020】
本発明の吸着剤において、Ca含有量は、CaO換算で、2質量%~25質量%の範囲が好ましく、5質量%~20質量%の範囲がより好ましい。例えば、セピオライト由来のCa含有量(CaO換算)が18~6.5質量%の実施例1、2は、有機塩素化合物の吸着速度が3.42×10-3~2.50×10-3であるが、セピオライト由来のCa含有量(CaO換算)が0.18質量%の比較例3は有機塩素化合物の吸着速度が1.58×10-3であり、実施例1、2より大幅に低い。
【0021】
[バインダー成分]
本発明の吸着剤は、吸着成分であるセピオライトの他にバインダー成分を含んでもよい。バインダー成分としては、固体酸性質を示さないSiを主成分とする材料を用いることが好ましい。このような材料としては、例えば、シリカゾル、ヒュームドシリカ等を用いることができる。これらのバインダー成分を含むことによって、吸着剤の強度を高めることができる。なお、セピオライトにもバインダー作用があるので、実施例1に示すようにセピオライトだけでも十分な圧壊強度を得ることができる。
【0022】
バインダー成分の有無は、吸着剤を電子顕微鏡で観察し、元素マッピングする方法によって判断することができる。セピオライトは、上記化学構造式(1)に示すように、MgおよびSiを含むので、吸着剤の断面を電子顕微鏡で観察したとき、観察される粒子からSiが検出されてMgが検出されなければ、Siを主成分とするバインダー成分が含まれていると判断することができる。
【0023】
[他の成分]
本発明の吸着剤は、セピオライトおよびバインダー成分の他に、例えば、造孔材成分を含んでいてもよい。吸着剤が造孔材を含むことによって、吸着剤に特定範囲の細孔を付与することができる。このような細孔によって接触面積を増やすことができ、拡散性が低い液体の炭化水素中に含まれる塩素化合物を除去する際に有効に作用する。また、造孔材成分の他に、増量剤を含んでいてもよい。なお、これらの成分は、吸着剤の吸着能力を過度に低下させない範囲で、既存の材料から任意に選択することができる。
【0024】
[酸化亜鉛]
酸化亜鉛は塩素化合物を吸着する成分として従来から知られているが、塩素化合物を吸着したときに塩化亜鉛が生成し、この塩化亜鉛は潮解性を有するので、吸着剤の強度を低下させる原因になる。本発明の吸着剤は吸着成分としてセピオライトを用いるので、従来の酸化亜鉛を含む必要はなく、むしろ酸化亜鉛を含まないことが好ましい。
【0025】
セピオライトを吸着成分とする本発明の吸着剤では、酸化亜鉛を含まないほうが塩素化合物に対する吸着効果が高いことが確認される。特に、無機塩素化合物より吸着除去され難い有機塩素化合物に対する吸着効果が高い。これは従来の先行技術からは全く予想されない効果である。例えば、酸化亜鉛を含まずにセピオライトを吸着成分とする実施例1の吸着剤は、有機塩素化合物の吸着速度定数が3.42×10-3/sであるが、セピオライトと共に酸化亜鉛を含む比較例2の吸着剤は、有機塩素化合物の吸着速度定数が2.56×10-4/sであり、実施例1の吸着剤に比べて吸着速度が格段に低い。具体的には、比較例2の吸着剤のセピオライト含有量は実施例1のセピオライト含有量の約1/5であるが、比較例2の吸着速度は実施例1の約1/10以下に低下しており、セピオライトの含有割合に相当する以上に吸着速度が低下している。そして、有機塩素化合物の一つであるクロロヘキサンの吸着速度(単位質量当たり)を比較しても、この傾向は顕著に表れている。このクロロヘキサンの吸着速度定数(単位質量当たり)は、実施例1が1.49×10-2/sであるのに対し、比較例2は4.65×10-3/sであり、約1/3まで低下している。なお、吸着成分が酸化亜鉛のみからなる比較例1の吸着剤は、有機塩素化合物をほとんど吸着しない。
【0026】
酸化亜鉛の有無は、吸着剤のX線回折において、酸化亜鉛のピークが回析パターンに含まれるか否かによって判断することができる。なお、吸着剤の化学分析によって測定されるZn量が、ZnO換算で、0.1質量%以下であれば、実質的に酸化亜鉛を含んでいないと見做すことができる。
【0027】
[比表面積]
本発明の吸着剤の表面積は、100m2/g~350m2/gの範囲が好ましく、100m2/g~200m2/gの範囲がより好ましい。この比表面積が小さすぎると、吸着剤の表面に塩素化合物が吸着し難くなる。一方、この比表面積が大きすぎると、セピオライト等の比表面積を増加させるための粉砕工程等が増える。吸着剤の表面積が上記範囲であると、吸着剤の製造に要する工程が少なく、塩素化合物に対する吸着効果が高い。
【0028】
[形状]
本発明の吸着剤は、従来公知の形状であればよく、例えば、球状、柱状(円柱状や四つ葉状を含む)またはこれらに類する形状であってもよい。また、そのサイズ(吸着剤の外形で最小の長さ)は、0.5mm以上~6mm以下の範囲が好ましい。吸着剤のサイズが大きすぎて比表面積が小さいと、吸着剤と炭化水素の接触面積が低下するので、炭化水素中に含まれる塩素化合物に対する吸着速度が低下することがあるので好ましくない。一方、吸着剤のサイズが小さすぎると、炭化水素を流通させる際に圧力損失が高くなり、炭化水素が流通できなくなることがある。
【0029】
[圧壊強度]
本発明の吸着剤の圧壊強度は、1ペレット当たり概ね3N/mm以上であり、好ましくは5N/mm以上である。この圧壊強度が低すぎると、吸着剤の粉化や崩壊が起こりやすくなるので好ましくない。圧壊強度は高いほど好ましいが、その上限は現実的には30N/mm程度である。
【0030】
[圧壊強度維持率]
本発明の吸着剤は、塩素化合物の吸着後でも、その圧壊強度が低下し難く、圧壊強度の維持率が非常に高い。これは、塩素化合物の吸着後でも、セピオライトが崩壊し難いためである。既に説明したように、本発明の吸着剤は、酸化亜鉛を含まず、塩素化合物を吸着しても潮解性を有する塩化亜鉛が生成しないので、吸着剤の強度が低下し難く、圧壊強度維持率が高い。圧壊強度維持率は次式(2)によって表される。
圧壊強度維持率=[吸着後の圧壊強度]/[吸着前の圧壊強度]・・・(2)
(式[2]において、吸着前、吸着後は塩素化合物の吸着前、吸着後)
【0031】
この圧壊強度維持率は、50%以上が好ましい。この維持率は高いほど好ましく、本発明の吸着剤においては、100%を超えることもある。なお、現実には大部分の吸着剤の圧壊維持率は200%以下の範囲である。
【0032】
[吸着剤の用途]
本発明の吸着剤は、例えば、炭化水素中に含まれる塩素化合物の除去に好適に用いることができる。気体の炭化水素中でも、または液体の炭化水素中でも、本発明の吸着剤の使用態様は制限されない。一般に気体よりも液体の流通抵抗は大きいが、液体の炭化水素流中でも、本発明の吸着剤は崩壊せずに長期間使用することができる。また、液体での拡散性は気体よりも低いが、液体の炭化水素流中でも、本発明の吸着剤は塩素化合物の吸着効果が高い。更に、本発明の吸着剤は、塩素化合物の中でも特に吸着され難い有機塩素化合物に対する吸着効果が良く、有機塩素化合物のリークを最小限に抑えることができる。
【0033】
炭化水素に含まれる塩素化合物を吸着するプロセスでは、炭化水素の温度は150℃以下が好ましい。炭化水素の温度が高すぎると、炭化水素中に含まれる無機塩素化合物が炭化水素と反応し、吸着され難い有機塩素化合物を生成することがあるので、炭化水素の温度を150℃以下にして吸着処理を行うのが好ましい。
【0034】
〔製造方法〕
本発明の吸着剤は、例えば、セピオライトと必要によってバインダー成分、その他の成分を混合して成型前駆体を調製した後に成型する簡単な方法で製造することができる。以下、本発明の吸着剤の製造方法(本発明の製造方法)について詳述する。
【0035】
成型前駆体調製工程
本発明の製造方法では、セピオライトを含む原料を混合して成型に適した状態に加工する成型前駆体調製工程を含む。例えば、打錠成型によってペレットに成型する場合は、セピオライトを粉末状または顆粒状にする。また、押出成型によってペレットに成型する場合は、セピオライト粉末に水を加えて粘土状にする。このとき、必要によって、バインダー成分、その他成分を添加するともできる。この工程で、成型前駆体に含まれるセピオライトの含有量が、少なくとも40質量%以上となるように各成分を混合することが好ましい。
【0036】
この工程で用いるセピオライトは市販品を使用してもよく、合成品でもよい。セピオライトに含まれるCaの含有量は、吸着剤のCaO量が、CaO換算で、2質量%~25質量%の範囲になる量が好ましく、特に5質量%~20質量%の範囲が好ましい。このようなCaを含むセピオライトは、市販のセピオライトにCaを含む溶液を含浸させたものでも良く、またはCa含有量が多い市販品を選択したものでも良い。
【0037】
成型前駆体にバインダー成分を混合する場合、このバインダー成分は成型前駆体を押出成形に適切な粘度に調整できるのであれば、無機バインダーを用いてもよく、有機バインダーを用いてもよい。また、最終的に得られる吸着剤の圧壊強度を高めるために、これらのバインダー成分を用いることもできる。
【0038】
上記バインダー成分の含有量は、成型前駆体の概ね1質量%~60質量%の範囲が好ましく、1質量%~20質量%の範囲がより好ましい。なお、無機バインダーとして、例えば、シリカゾル、ヒュームドシリカ等を使用することができる。また有機バインダーとして、例えば、セルロース系のバインダーを使用することができる。さらに、その他の成分として、造孔材成分、増量剤を使用することもできる。
【0039】
成型前駆体を調製する原料の混合方法は従来公知の方法を用いることができる。例えば、ハイスピードミキサー、ミル等を用いて混合することができる。また、ニーダーを用いて混合することもできる。これらの混合方法は製造プロセスに合致するように適宜選択すれば良い。
【0040】
[成型工程]
本発明の製造方法は、上記成型前駆体を成型する工程を含む。この工程での成型方法は従来公知の成型方法を用いることができる。例えば、打錠成型、押出成型等を用いることができる。押出成型を用いるのであれば、成型前駆体調製工程で得られた粘土状の前駆体を、一軸オーガ式の押し出し機や、ディスクペレッターを用いて押し出し成型するとよい。このとき用いるダイスの形状によって、最終的に得られる吸着剤の形状を定めることができる。
【0041】
[その他工程]
成型工程の後に、必要に応じて乾燥工程を設けてもよい。例えば、押出成型直後の吸着剤ペレットは、その表面が濡れているので、他のペレットと結着しやすい。そこで、乾燥工程を加えてペレット表面を乾燥させてペレット相互の結着を防止することができる。乾燥方法は、風乾、加熱乾燥、減圧乾燥、またはこれらを組み合わせた方法を用いることができる。乾燥温度は、概ね150℃以下が好ましい。あまり高い温度で急激に乾燥すると、ペレットにひびが入り、圧壊強度が低下することがある。
【発明の効果】
【0042】
本発明の吸着剤は、酸化亜鉛を含まないので、塩素化合物を吸着したときに潮解性の塩化亜鉛が生成せず、従って、吸収剤の強度が低下し難い。また、本発明の吸着剤は、カルシウムを吸着促進成分として含むので、塩素化合物の吸着効果が高い。
【0043】
本発明の吸着剤は、塩素化合物の吸着成分として、酸化亜鉛に代えて、セピオライトを用いる構成が、特許文献1~2の吸着剤とは根本的に異なる。特許文献1~2の吸着剤は塩素化合物の吸着成分として酸化亜鉛を用いており、本発明の吸着剤とは吸着成分が全く異なる。
【0044】
また、本発明の吸着剤は、Mg/Siモル比が1.5超であるセピオライトを吸着主成分とし、さらに吸着促進成分としてセピオライト由来のCaを含み、好ましくはCa含有量がCaO換算で2~25質量%であり、特許文献3の吸着剤と全く異なる。特許文献3の吸着剤は、吸着成分の含水珪酸マグネシウム塩のMg/Siモル比は0.50~1.50の範囲に限定されており、かつCaによる吸着効果の低下を避けるためにCaO含有量を1.5質量%以下に低く制限している。一方、本発明の吸着剤は、吸着成分のセピオライトのMg/Siモル比は1.5超であり、好ましいCa含有量(CaO換算)は2~25質量%であり、特許文献3の吸着剤と全く異なる。
【0045】
本発明の吸着剤は、セピオライトを吸着成分として、塩素化合物に対する吸着効果を高めている。特に、本発明の吸着剤は、一般的な無機塩素化合物よりも吸着し難い有機塩素化合物に対して、高い吸着効果が得られる。具体的には、例えば、酸化亜鉛を主成分とする比較例1、2と、セピオライトを吸着成分として酸化亜鉛を含まない実施例1、2についてみると、実施例1、2の有機塩素化合物の吸着速度は比較例1、2より各段に速い。また、有機塩素化合物の一つであるクロロヘキサンの吸着速度で比較しても、その傾向は同じである。一方、酸化亜鉛のみで構成される比較例1は有機塩素化合物を吸着することができない。また、酸化亜鉛を主成分として含む比較例2は、有機塩素の吸着速度が実施例1、2の約1/10以下である。これを単位質量当たりの吸着速度で比較しても、比較例2は、有機塩素の吸着速度が実施例1、2の約1/3以下である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】実施例1および比較例1のX線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に示す。なお、本発明はこれらの実施の範囲に限定されない。
【0048】
〔実施例1〕
塩素化合物を吸着する成分としてセピオライト粉末(IMV NEVADA社製品、品名THERMOGEL、Ca含有量(CaO換算)18質量%、Mg/Siモル比1.58)100g、イオン交換水43gを添加し、バインダー成分は添加せずにニーダーに加え、均一に混合して粘土状の成型前駆体を得た。この成型前駆体を押出成形機に投入し、押出成型して円柱状の成型体(直径1.2~1.3mmφ、高さ3~5mm)を得た。この成型体を電気乾燥機で120℃の温度で一晩乾燥し、セピオライト100質量%、Ca含有量(CaO換算)18.0質量%の吸着剤を得た。
【0049】
〔実施例2〕
塩素化合物を吸着する成分としてセピオライト粉末(IMV NEVADA社製品、品名IGS、Ca含有量(CaO換算)13質量%、Mg/Siモル比1.62)30g、増量剤として沈降シリカ粉末(オリエンタルシリカズコーポレーション社製品、品名トクシール928、Si濃度(SiO2換算)99質量%)30g、およびイオン交換水70gをニーダーに加え、均一に混合して粘土状の成型前駆体を得た。この成型前駆体を押出成形機に投入し、押出成型して円柱状の成型体(直径1.2~1.3mmφ、高さ3~5mm)を得た。この成型体を電気乾燥機で120℃の温度で一晩乾燥し、セピオライト50質量%、Ca含有量(CaO換算)9.0質量%、バインダー成分50質量%の吸着剤を得た。
【0050】
〔比較例1〕
酸化亜鉛(ハクスイテック社製品、品名AZ0900J)140gと、バインダー成分としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業社製品、品名90SH-4000)2g、イオン交換水58gをミキサーに加え、均一に混合して粘土状の成型前駆体を得た。この成型前駆体を押出成形機に投入し、押出成型して円柱状の成型体(直径3.0mmφ、高さ3~5mm)を得た。この成型体を電気乾燥機で乾燥した後に300℃で焼成して酸化亜鉛からなる吸着剤を得た。
【0051】
〔比較例2〕
酸化亜鉛(ハクスイテック社製、品名;AZ0900J)30g、セピオライト粉末(昭和KDE社製、品名;ミルコンS-15、Mg/Siモル比1.41)12g、水酸化カルシウム(和光純薬社製、特級)18g、およびイオン交換水20gをニーダーに加え、均一に混合して粘土状の成型前駆体を得た。この成型前駆体を押出成形機に投入し、押出成型して円柱状の成型体(直径1.2~1.3mmφ、高さ3~5mm)を得た。この成型体を電気乾燥機で120℃の温度で一晩乾燥し、セピオライト20質量%、酸化亜鉛30質量%、Ca含有量(CaO換算)約29.3質量%、バインダー成分50質量%の吸着剤を得た。
【0052】
〔比較例3〕
塩素化合物を吸着する成分としてセピオライト粉末(昭和KDE社製品、品名ミルコンS-15、Ca含有量(CaO換算)0.2質量%、Mg/Siモル比1.41)54g、バインダー成分としてシリカゾル(日揮触媒化成社製品、品名SI-550、Si濃度(SiO2換算)20質量%)29g、およびイオン交換水58gをニーダーに加え、均一に混合して粘土状の成型前駆体を得た。この成型前駆体を押出成形機に投入し、押出成型して円柱状の成型体(直径1.2~1.3mmφ、高さ3~5mm)を得た。この成型体を電気乾燥機で120℃の温度で一晩乾燥し、セピオライト90質量%、Ca含有量(CaO換算)0.18質量%、バインダー成分10質量%の吸着剤を得た。
【0053】
〔組成分析〕
実施例1、2、および比較例1~3の各吸着剤について、以下の方法で組成分析した。その結果を表1に示す。
組成分析方法
吸着剤を粉末状に粉砕したのち、加圧成形用リングに試料を入れ、成型圧力30MPaで3min加圧成形した。成形試料を蛍光X線分析装置(株式会社リガク社製、ZSX100e)にセットし、オーダー(半定量)分析にて測定した。
【0054】
〔X線回折測定〕
実施例1、2、および比較例1~3の各吸着剤について、以下の測定条件で、粉末X線回折測定を行った。この結果を表1に示す。また、実施例1、比較例1の吸着剤について、X線回折パターンを
図1に示した。図示するように、実施例1のX線回折パターンには、セピオライトに由来するピークが確認された。また、酸化亜鉛のみで構成される比較例1のX線回折パターンには酸化亜鉛のピークのみが確認された。
粉末X線回折測定条件
装置 MultiFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=90°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 4.000°/min
【0055】
〔比表面積〕
実施例1、2、および比較例1~3の各吸着剤について、以下の測定条件および測定手順で、比表面積を測定した。この結果を表1に示した。
比表面積測定条件
装置 MacsorbHM model-1220(株式会社マウンテック製)
方法 窒素吸着法(BET1点法)
前処理 110℃、1時間(窒素流通下)
サンプル質量 0.05g
測定手順
サンプルを測定セルにセットして、上記の条件で前処理を行った。その後、窒素30v%/ヘリウム70v%の窒素混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素をサンプルに平衡吸着させた。次に、上記混合ガスを流しながらサンプル温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量を検出し、その脱離量から比表面積を算出した。
【0056】
〔圧壊強度〕
実施例1、2および比較例1~3の各吸着剤について、圧壊強度を測定した。具体的には、圧壊強度は、圧壊強度計(インストロン社製、型式3365)を用いて測定し、10個のペレットの横方向(円柱の側面)の圧壊強度の平均値とした。この結果を表1に示した。
【0057】
〔有機塩素化合物の吸着速度〕
実施例1、2および比較例1~3の各吸着剤について、以下のようにして有機塩素化合物の吸着速度を測定した。
まず各吸着剤を、それぞれ300~710μmの顆粒に整粒した。この吸着剤の顆粒を層高が10cmになるように反応管にセットし、この反応管を吸着試験装置に取り付けた。次に、この反応管に窒素を流しながら150℃で1時間前処理を行った後に室温まで冷却した。その後、液体の炭化水素(塩素濃度0.7ppm)を反応管へ60mg/minの速度で流通させた。所定時間ごとに反応管の出口の液をサンプリングし、微量塩素分析装置(三菱ケミカルアナリテック社製、TCL-2100V)を用いて塩素の濃度を測定した。この塩素の入口濃度と出口濃度の差分から吸着速度定数を算出した。
【0058】
〔クロロヘキサン吸着速度〕
実施例1、2および比較例2、3の各吸着剤について、以下のようにしてクロロヘキサンの吸着速度を測定した。なお、有機塩素化合物の吸着試験で有機塩素の吸着が確認できなかった比較例1については、この試験を行わなかった。
流通溶液の調整
1-クロロヘキサン(富士フィルム和光純薬社製特級)340μLを100mLメスフラスコに加え、キシレン(富士フィルム和光純薬社製特級)で100mLに希釈し、Cl濃度として1000ppmの1-クロロヘキサン/キシレン液を調製した。さらに1000ppmの1-クロロヘキサン/キシレン液1mLを100mLメスフラスコに加え、キシレン(富士フィルム和光純薬社製特級)で100mLに希釈し、Cl濃度として10ppmの1-クロロヘキサン/キシレン液を調製し、これを流通溶液とした。この流通溶液を用いたこと、流通溶液の流通速度を439mg/minとしたこと以外は、前述の有機塩素化合物の吸着速度の測定と同じ条件で吸着速度定数を算出した。
【0059】
〔圧壊強度維持率〕
実施例1、2、および比較例1~3の各吸着剤について、以下のようにして圧壊強度維持率を測定した。
流通溶液の調整
1.8Lのキシレン(富士フィルム和光純薬社製特級)へ、2.7mLの2mol/L HCl/イソプロパノール(国産化学)を、ピペットにて加えて、121ppmの塩素化合物を含むキシレン溶液を調製し、これを流通溶液とした。
試験方法
前述の方法で得られた各吸着剤0.3gを反応管にセットし、この反応管を塩素吸着試験装置に取り付けた。次に、この反応管に窒素を流通しながら150℃1時間前処理を行ったのち、室温まで冷却した。その後、流通溶液を反応管へ439mg/minの供給速度で流通させた。60時間流通後に吸着剤を取出し、50℃で1晩乾燥させた後に、吸着剤の圧壊強度を測定した。圧壊強度は、圧壊強度計(インストロン社製、型式3365)を用いて測定し、10個のペレットの横方向(円柱の側面)の圧壊強度の平均値とした。この平均値を用い、次式(2)に従って圧壊強度維持率を算出した。
圧壊強度維持率=[吸着後の圧壊強度]/[吸着前の圧壊強度]・・・(2)
(式[2]において、吸着前、吸着後は塩素化合物の吸着前、吸着後)
【0060】