(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】マレイミド樹脂、硬化性樹脂組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 14/073 20060101AFI20240402BHJP
C08G 61/02 20060101ALI20240402BHJP
C07D 207/452 20060101ALI20240402BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C08G14/073
C08G61/02
C07D207/452
C08G59/40
(21)【出願番号】P 2020128403
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】窪木 健一
(72)【発明者】
【氏名】中西 政隆
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-225215(JP,A)
【文献】特開昭62-077363(JP,A)
【文献】特開平05-140095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 14/073
C08G 61/02
C08G 59/40
C07D 207/452
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が212
℃であって、下記式(1)で表されるマレイミド樹脂。
【化1】
(式(1)中、nは繰り返し数の平均値であり、1<n<5である。)
【請求項2】
請求項1に記載のマレイミド樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物であって、前記マレイミド樹脂の添加量は重量比で前記エポキシ樹脂の0.2~4倍である硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
JIS K6991に準拠して測定した硬化物の誘電率が1GHzにおいて3.00以下である請求項2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項2または3に記載の硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物。
【請求項5】
請求項1に記載の
マレイミド樹脂の前駆体である、下記式(2)で表されるアミン樹脂。
【化2】
(式(2)中、nは繰り返し数の平均値であり、1<n<5である。)
【請求項6】
下記(工程1)~(工程3)から得られる下記式(1)で表されるマレイミド樹脂の製造方法。
(工程1)下記式(2)で表されるアミン樹脂と、マレイン酸または無水マレイン酸とを触媒存在下、非プロトン性極性溶媒中で反応する工程
(工程2)前記工程1で得られた反応溶液に水を加え、樹脂溶液層と水層に分離させ、過剰のマレイン酸や無水マレイン酸、非プロトン性極性溶媒、触媒を分液除去する工程
(工程3)前記工程2で得られた樹脂溶液を加熱減圧下で水と非プロトン性溶媒を留去することで下記式(1)で表されるマレイミド樹脂の結晶を濾別する工程
【化3】
(式(1)中、nは繰り返し数の平均値であり、1<n<5である。)
【化4】
(式(2)中、nは繰り返し数の平均値であり、1<n<5である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なマレイミド樹脂、これを用いた硬化性樹脂組成物並びにその硬化物に関するものであり、半導体封止材、プリント配線板、ビルドアップ積層板などの電気・電子部品や、炭素繊維強化プラスティック、ガラス繊維強化プラスティックなどの軽量高強度材料に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子部品を搭載する積層板はその利用分野の拡大により、要求特性が広範かつ高度化している。例えば、従来、半導体チップは金属製のリードフレームに搭載することが主流であったが、CPUなどの高度な処理能力のある半導体チップは高分子材料で作られる積層板に搭載されることが多くなっている。CPU等の素子の高速化が進みクロック周波数が高くなるにつれて信号伝搬遅延や伝送損失が問題となり、配線板に低誘電率化、低誘電正接化が求められるようになってきている。同時に、素子の高速化に伴い、チップの発熱が大きくなっているため、耐熱性を高める必要性も生じている。また、近年携帯電話などのモバイル電子機器が普及してきており、精密電子機器が屋外環境や人体の極近傍で使用・携帯されるようになってきているため、外的環境(特に耐湿熱環境)に対する耐性が必要とされる。
【0003】
更に自動車分野においては急速に電子化が進み、エンジンの近くに精密電子機器が配置されることもあり、耐熱・耐湿性がより高いレベルで要求されるようになってきている。自動車用途や携帯機器などにおいては、難燃性等の安全性もよりいっそう重要となっているが、近年の環境問題意識の向上によりハロゲン系難燃剤の使用が忌避されているため、ハロゲンを使用しないで難燃性を付与する必要性が増している。
【0004】
従来、特許文献1のようなビスフェノールA型シアネートエステル化合物とビスマレイミド化合物を併用した樹脂であるBTレジンを使用した配線板が耐熱性や耐薬品、電気特性などに優れていたため、高性能配線板として幅広く使用されてきたが、上記のような高性能を要求される状況下においては更なる改善が必要となっている。
【0005】
また、近年は省エネルギーの観点から飛行機、自動車、列車、船舶等の軽量化が進んでおり、従来は金属材料を用いていたものを、軽量で高強度な炭素繊維複合材料に置き換える検討が行われている。例えばボーイング787においては複合材料の比率を上げることで軽量化を行い、燃費効率を大幅に改善している。航空分野ではさらなる軽量化のために、エンジン回りの部材にも炭素繊維複合材を導入する動きもあり、当然に高いレベルの耐熱性が要求されてきている。自動車分野では一部ではあるが複合材料製のプロペラシャフトを搭載しており、また高級車向けに車体を複合材料で作る動きもある。
【0006】
炭素繊維複合材の分野では、従来はエポキシ樹脂のビスフェノールA型ジグリシジルエーテルやテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどと、硬化剤としてジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどを使用した複合材料が用いられてきたが、より軽量化・高耐熱化を進めるためには複合材料の適用を広げる必要があり、そのための材料としてマレイミド樹脂が一つの手段として検討されている。
【0007】
このような中、市場で入手可能なマレイミド化合物はビスマレイミドであることが多く、その硬化物は、耐熱性は良好であるが、吸湿性が高いという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭50-129700号公報
【文献】特開昭61-000044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、低吸湿性、低誘電性、低誘電正接性を実現できる新規なマレイミド樹脂及びその硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明を完成させるに到った。
すなわち本発明は以下の[1]~[7]に関する。
[1]
下記式(1)であらわされるマレイミド樹脂。
【0011】
【0012】
(式(1)中、nは繰り返し数の平均値であり、1<n<5である。)
[2]
前記式(1)のnが1<n<3である前項[1]に記載のマレイミド樹脂。
[3]
前記式(1)においてn=1で表されるビスマレイミドの含有量が98%以下である前項[1]又は[2]に記載のマレイミド樹脂。
[4]
下記式(2)で表されるアミン樹脂と、マレイン酸または無水マレイン酸とを反応して得られる前項[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のマレイミド樹脂。
【0013】
【0014】
(式(2)中、nは繰り返し数の平均値であり、1<n<5である。)
[5]
前項[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のマレイミド樹脂を含有する硬化性樹脂組成物。
[6]
前項[5]に記載の硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物。
[7]
下記式(2)で表されるアミン樹脂。
【0015】
【0016】
(式(2)中、nは繰り返し数の平均値であり、1<n<5である。)
【発明の効果】
【0017】
本発明のマレイミド樹脂から得られる硬化物は低吸湿性、低誘電性、低誘電正接性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1のマレイミド樹脂のGPCチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のマレイミド樹脂は、下記式(1)で表される。
【0020】
【0021】
(式(1)中、nは繰り返し数の平均値であり、1<n<5である。)
【0022】
式(1)中、nの値はマレイミド樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、検出器:RI)の測定により求められた数平均分子量の値から算出することが出来るが、近似的には原料であるアミン樹脂のGPCの測定結果から算出したnの値とほぼ同等と考えることができる。
【0023】
本発明において、式(1)におけるn=1成分の含有量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、検出器:RI)分析により求めることができる。
【0024】
本発明のマレイミド樹脂中の前記式(1)においてn=1で表されるビスマレイミドのGPC分析(RI)による含有量は98面積%以下であることが好ましく、より好ましくは20~95面積%、さらに好ましくは30~90面積%、特に好ましくは50~90面積%の範囲である。式(1)においてn=1のビスマレイミドの含有量が98面積%以下であると、耐熱性が良好となり、溶解性も向上する。式(1)においてn=1のビスマレイミドの下限値は0面積%でもよいが、20面積%以上であると、樹脂の粘度が高すぎないため、作業性が良好となる。
【0025】
前記式(1)で表されるマレイミド樹脂は下記式(2)で表されるアミン樹脂と、マレイン酸または無水マレイン酸(以下、「マレイン酸無水物」ともいう。)を溶剤、触媒の存在下に付加もしくは脱水縮合反応させることで得られる。
【0026】
【0027】
反応で使用する溶剤は反応中に生成する水を系内から除去する必要があるため、非水溶性の溶剤を使用する。例えばトルエン、キシレンなどの芳香族溶剤、シクロヘキサン、n-ヘキサンなどの脂肪族溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノンなどのケトン系溶剤などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、2種以上を併用しても良い。
【0028】
また、前記非水溶性溶剤に加えて非プロトン性極性溶剤を併用することもできる。例えば、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられ、2種以上を併用しても良い。非プロトン性極性溶剤を使用する場合は、併用する非水溶性溶剤よりも沸点の高いものを使用することが好ましい。
【0029】
また、反応で使用する触媒は酸性触媒であり、特に限定されないが、例えば、p-トルエンスルホン酸、ヒドロキシ-p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。酸触媒の使用量は、芳香族アミン樹脂に対して通常0.1~10重量%、好ましくは1~5重量%である。
【0030】
例えば、トルエンに前記式(2)で表される芳香族アミン樹脂を溶解し、そこへマレイン酸無水物を添加してアミック酸を生成し、その後p-トルエンスルホン酸を加えて、還流条件下で生成する水を系内から除去しながら反応を行う。
【0031】
または、マレイン酸無水物をトルエンに溶解し、撹拌下にて前記式(2)で表される芳香族アミン樹脂のトルエン溶液を添加してアミック酸を生成し、その後p-トルエンスルホン酸を加えて、還流条件下で生成する水を系内から除去しながら反応を行う。
【0032】
または、マレイン酸無水物をトルエンに溶解し、p-トルエンスルホン酸を加え、撹拌・還流状態において前記式(2)で表される芳香族アミン樹脂のトルエン溶液を滴下しながら、途中で共沸してくる水は系外へ除き、トルエンは系内へ戻しながら反応を行う(以上、第一段反応)。
【0033】
いずれの方法においても、マレイン酸無水物は前記式(2)で表される芳香族アミン樹脂のアミノ基に対して、通常1~3倍当量、好ましくは1.2~2.0倍当量使用する。
【0034】
未閉環のアミック酸を少なくするためには、上記に列記したマレイミド化反応後に反応溶液に水を加え、樹脂溶液層と水層に分離させ、過剰のマレイン酸や無水マレイン酸、非プロトン性極性溶媒、触媒などは水層側に溶解しているので、これを分液除去し、さらに同様の操作を繰り返して過剰のマレイン酸や無水マレイン酸、非プロトン性極性溶媒、触媒の除去を徹底する。過剰のマレイン酸や無水マレイン酸、非プロトン性極性溶媒、触媒が除去された有機層のマレイミド樹脂溶液に触媒を再度添加して加熱還流条件下での残存アミック酸の脱水閉環反応を再度行うことにより酸価が低いマレイミド樹脂溶液が得られる(以上、第二段反応)。
【0035】
再脱水閉環反応の時間は通常1~5時間、好ましくは1~3時間であり、必要により前述の非プロトン性極性溶剤を添加しても良い。反応終了後、冷却して、水洗水が中性になるまで水洗を繰り返す。その後、加熱減圧下において水を共沸脱水で除いてから、溶剤を留去したり、別の溶剤を加えたりして所望の濃度の樹脂溶液に調整しても良いし、溶剤を完全に留去して固形の樹脂として取り出しても良い。
【0036】
次に、本発明の硬化性樹脂組成物について説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物には、本発明のマレイミド樹脂と架橋反応可能な化合物を含有することができる。当該化合物としては、アミノ基、シアネート基、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アリル基、メタリル基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、共役ジエン基などのマレイミド樹脂と架橋反応し得る官能基(或いは構造)を有する化合物であれば特に限定されない
アミン化合物とマレイミド化合物は架橋反応するので、前記式(2)で表される芳香族アミン樹脂を用いても良い。マレイミド樹脂は自己重合も可能なので単独使用も可能である。また、前記式(2)で表される芳香族アミン樹脂以外のアミン化合物または前記式(1)で表される本発明のマレイミド樹脂以外のマレイミド化合物を併用してもかまわない。
【0037】
本発明の硬化性樹脂組成物中のマレイミド樹脂の含有量は、10重量%以上であることが好ましく、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%である。上記範囲の場合、硬化物の物性において機械強度が高く、ピール強度も高く、さらに耐熱性も高くなる傾向がある。
【0038】
本発明の硬化性樹脂組成物に配合し得るアミン化合物としては従来公知のアミン化合物を使用することができる。アミン化合物の具体例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、m-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、N-アミノエチルピペラジン、アニリン・ホルマリン樹脂などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0039】
本発明の硬化性樹脂組成物に配合し得るマレイミド化合物としては従来公知のマレイミド化合物を使用することができる。マレイミド化合物の具体例としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、2,2’-ビス〔4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。マレイミド化合物の配合量は、重量比で本発明のマレイミド樹脂の好ましくは5倍以下、より好ましくは2倍以下の範囲である。
【0040】
本発明の硬化性樹脂組成物に配合し得るシアネートエステル化合物としては従来公知のシアネートエステル化合物を使用することができる。シアネートエステル化合物の具体例としては、フェノール類と各種アルデヒドとの重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物との重合物、フェノール類とケトン類との重縮合物及びビスフェノール類と各種アルデヒドの重縮合物などをハロゲン化シアンと反応させることにより得られるシアネートエステル化合物が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく2種以上を用いてもよい。
上記フェノール類としては、フェノール、アルキル置換フェノール、芳香族置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、アルキル置換ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
上記各種アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アルキルアルデヒド、ベンズアルデヒド、アルキル置換ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、クロトンアルデヒド、シンナムアルデヒド等が挙げられる。
上記各種ジエン化合物としては、ジシクロペンタジエン、テルペン類、ビニルシクロヘキセン、ノルボルナジエン、ビニルノルボルネン、テトラヒドロインデン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジイソプロペニルビフェニル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。
上記ケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等が挙げられる。
また、特開2005-264154号公報に合成方法が記載されているシアネートエステル化合物は、低吸湿性、難燃性、誘電特性に優れているためシアネートエステル化合物として特に好ましい。
【0041】
本発明の硬化性樹脂組成物において、さらにエポキシ樹脂を配合することができる。配合し得るエポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂のいずれも使用することができる。エポキシ樹脂の具体例としては、フェノール類と各種アルデヒドとの重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物との重合物、フェノール類とケトン類との重縮合物、ビスフェノール類と各種アルデヒドの重縮合物及びアルコール類等をグリシジル化したグリシジルエーテル系エポキシ樹脂、4-ビニル-1-シクロヘキセンジエポキシドや3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシラートなどを代表とする脂環式エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)やトリグリシジル-p-アミノフェノールなどを代表とするグリシジルアミン系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく2種以上を用いてもよい。
また、フェノール類とビスハロゲノメチルアラルキル誘導体またはアラルキルアルコール誘導体とを縮合反応させることにより得られるフェノールアラルキル樹脂を原料とし、エピクロルヒドリンと脱塩酸反応させることにより得られるエポキシ樹脂は、低吸湿性、難燃性、誘電特性に優れているためエポキシ樹脂として特に好ましい。
【0042】
エポキシ樹脂を配合する場合、配合量は特に限定されないが、好ましくは重量比でマレイミド樹脂の0.1~10倍であり、より好ましくは0.2~4倍の範囲である。エポキシ樹脂の配合量がマレイミド樹脂の0.1倍以下になると硬化物が脆くなるおそれがあり、10倍以上になると誘電特性が低下するおそれがある。
【0043】
本発明の硬化性樹脂組成物において、さらにフェノール樹脂を有する化合物を配合することができる。
配合し得るフェノール樹脂としては、従来公知のフェノール樹脂のいずれも使用することができる。フェノール樹脂の具体例としてはビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、ビスフェノールAD等)、フェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、芳香族置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、アルキル置換ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン等)と各種アルデヒド(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アルキルアルデヒド、ベンズアルデヒド、アルキル置換ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、クロトンアルデヒド、シンナムアルデヒド等)との重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物(ジシクロペンタジエン、テルペン類、ビニルシクロヘキセン、ノルボルナジエン、ビニルノルボルネン、テトラヒドロインデン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジイソプロペニルビフェニル、ブタジエン、イソプレン等)との重合物、フェノール類とケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ジメタノール類(ベンゼンジメタノール、α,α,α’,α’-ベンゼンジメタノール、ビフェニルジメタノール、α,α,α’,α’-ビフェニルジメタノール等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ジクロロメチル類(α,α’-ジクロロキシレン、ビスクロロメチルビフェニル等)との重縮合物、ビスフェノール類と各種アルデヒドの重縮合物、及びこれらの変性物が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく2種以上を用いてもよい。
また、フェノール類と前記のビスハロゲノメチルアラルキル誘導体またはアラルキルアルコール誘導体とを縮合反応させることにより得られるフェノールアラルキル樹脂は、低吸湿性、難燃性、誘電特性に優れているためフェノール樹脂として特に好ましい。
また、上記のフェノール樹脂がアリル基やメタリル基を有したものの場合は、マレイミド基に対する反応性が水酸基よりも良いため、硬化速度が速くなるとともに、架橋点が増えるため強度や耐熱性が高くなるため好ましい。
また、上記フェノール樹脂の水酸基をアリル化したアリルエーテル体やメタリル化したメタリルエーテル体も配合可能であり、水酸基がエーテル化されているため吸水性が低くなる。
【0044】
本発明の硬化性樹脂組成物において、さらに酸無水物基を有する化合物を配合することができる。
配合し得る酸無水物基を有する化合物としては、従来公知のいずれも使用することができる。酸無水物基を有する化合物の具体例としては1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物等が挙げられる。
酸無水物基を有する化合物は単独又は2種以上混合して用いることができる。また、酸無水物基とアミンが反応した結果、アミック酸となるが、さらに200℃~300℃で加熱すると脱水反応によりイミド構造となり、耐熱性に非常に優れた材料となる。
【0045】
本発明の硬化性樹脂組成物には必要に応じて硬化用の触媒(硬化促進剤)を配合することができる。例えば2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン等のアミン類、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィンなどのホスフィン類、オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛、ジブチルスズジマレエート、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オレイン酸スズ等の有機金属塩、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化スズなどの金属塩化物、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物、塩酸、硫酸、リン酸などの鉱酸、三フッ化ホウ素などのルイス酸、炭酸ナトリウムや塩化リチウム等の塩類などが挙げられる。硬化用の触媒の配合量は、硬化性樹脂組成物の合計100重量部に対して好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下の範囲である。
【0046】
本発明の硬化性樹脂組成物に有機溶剤を添加してワニス状の組成物(以下、単にワニスという)とすることができる。用いられる溶剤としては、例えばγ-ブチロラクトン類、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶剤、テトラメチレンスルフォン等のスルフォン類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤が挙げられる。溶剤は、得られたワニス中の溶剤を除く固形分濃度が通常10~80重量%、好ましくは20~70重量%となる範囲で使用する。
【0047】
更に本発明の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて公知の添加剤を配合することが出来る。用いうる添加剤の具体例としては、エポキシ樹脂用硬化剤、ポリブタジエン及びこの変性物、アクリロニトリル共重合体の変性物、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、フッ素樹脂、マレイミド系化合物、シアネートエステル系化合物、シリコーンゲル、シリコーンオイル、並びにシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、石英粉、アルミニウム粉末、グラファイト、タルク、クレー、酸化鉄、酸化チタン、窒化アルミニウム、アスベスト、マイカ、ガラス粉末等の無機充填材、シランカップリング剤のような充填材の表面処理剤、離型剤、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の着色剤が挙げられる。これら添加剤の配合量は、硬化性樹脂組成物100重量部に対して好ましくは1,000重量部以下、より好ましくは700重量部以下の範囲である。
【0048】
本発明の硬化性樹脂組成物の調製方法は特に限定されないが、各成分を均一に混合するだけでも、あるいはプレポリマー化してもよい。例えばマレイミド樹脂とシアネートエステル化合物を触媒の存在下または不存在下、溶剤の存在下または不存在下において加熱することによりプレポリマー化する。同様に、本発明のマレイミド樹脂と、必要によりエポキシ樹脂、アミン化合物、マレイミド系化合物、シアネートエステル化合物、フェノール樹脂、酸無水物化合物及びその他添加剤を追加してプレポリマー化してもよい。各成分の混合またはプレポリマー化は溶剤の不存在下では例えば押出機、ニーダ、ロールなどを用い、溶剤の存在下では攪拌装置つきの反応釜などを使用する。
【0049】
本発明の硬化性樹脂組成物を加熱溶融し、低粘度化してガラス繊維、カ-ボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維などの強化繊維に含浸させることによりプリプレグを得ることができる。
また、前記ワニスを、強化繊維に含浸させて加熱乾燥させることによりプリプレグを得ることもできる。
上記のプリプレグを所望の形に裁断、必要により銅箔などと積層後、積層物にプレス成形法やオートクレーブ成形法、シートワインディング成形法などで圧力をかけながら硬化性樹脂組成物を加熱硬化させることにより電気電子用積層板(プリント配線板)や、炭素繊維強化材を得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例、比較例により本発明を具体的に説明する。尚、本文中「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。軟化点及び溶融粘度は下記の方法で測定した。
【0051】
[分析手法]
・融点:DSCで測定
・GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)分析
メーカー:Waters
カラム:ガードカラム SHODEX GPC KF-601(2本)、KF-602、KF-602.5、KF-603
流速:0.5ml/min.
カラム温度:25℃
使用溶剤:THF(テトラヒドロフラン)
検出器:RI(示差屈折検出器)
【0052】
[実施例1]
温度計、冷却管、ディーンスターク共沸蒸留トラップ、撹拌機を取り付けたフラスコに無水マレイン酸73.6部とトルエン100部、N-メチル-2-ピロリドン10部、メタンスルホン酸1.2部を仕込み、加熱還流状態とした。次に、式(1)で表される芳香族アミン樹脂(A1)(日本化薬株式会社製 カヤハードA-A)63.6部をトルエン50部に溶解した樹脂溶液を、還流状態を保ちながら2時間かけて滴下した。この間、還流条件で共沸してくる縮合水とトルエンをディーンスターク共沸蒸留トラップ内で冷却・分液した後、有機層であるトルエンは系内に戻し、水は系外へ排出した。樹脂溶液の滴下終了後、還流状態を保ち、脱水操作をしながら4時間反応を行った。
反応終了後、水洗を3回繰り返してメタンスルホン酸及び過剰の無水マレイン酸を除去し、70℃以下の加熱減圧下においてトルエンと水の共沸により、水を系内から除去した。次いで、70℃以下の加熱減圧下においてトルエンを徐々に留去したところ、結晶が析出してきた。この結晶をろ過により濾別し、加熱減圧下で乾燥することで、式(1)で表されるマレイミド樹脂(M1)68部を得た。得られたマレイミド樹脂(M1)の融点は212℃であった。GPC分析(RI)により、式(1)におけるn=1のビスマレイミドは93%であった。マレイミド樹脂(M1)のGPCチャートは
図1に示す。
【0053】
[実施例2]
実施例1と同様に反応を行い、反応終了後、水洗を3回繰り返してメタンスルホン酸及び過剰の無水マレイン酸を除去した。その後ロータリーエバポレーターで油層からトルエンを留去することで式(1)で表される樹脂状のマレイミド樹脂(M2)101部を得た。GPC分析(RI)により、式(1)におけるn=1のビスマレイミドは76%であった。
【0054】
[実施例3、比較例1]
実施例1で得られたマレイミド樹脂(M1)、およびアニリンノボラックのマレイミド樹脂(M3)(大和化成工業製 BMI-2300)を使用して、各種のエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を表1の割合(重量部)で配合し、ミキシングロールで混練、タブレット化後、トランスファー成形で樹脂成形体を調製し、200℃で2時間硬化させた。このようにして得られた硬化物の物性を以下の項目について測定した結果を表1に示す。
【0055】
[評価]
・Td5(5%熱重量減少温度):得られた硬化物を粉砕し粉状にしたものを100メッシュパス、200メッシュオンのサンプルを用い、TG-DTAにより熱分解温度を測定。サンプル量10mg、昇温速度10℃/min、空気量200ml/hrで測定し、重量が5%減少した温度。
・吸水率:直径5cm×厚み4mmの円盤状の試験片を100℃の水中で24時間煮沸した前後の重量増加率(%)。
・吸湿率:85℃/85%および121℃/100%での24時間後の重量増加率。試験片は直径50mm×厚み4mmの円盤。
・誘電率及び誘電正接:(空洞共振機AgilentTechnologies社製)JIS K6991に準拠して1GHzにおいて測定。
【0056】
【0057】
E1:NC-3000-L(日本化薬製 エポキシ当量270g/eq)
P1:カヤハードGPH-65(日本化薬製 水酸基当量200g/eq)
2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業社製)
【0058】
表1の結果より、実施例3は、比較例1と比較して、耐熱性、低吸湿性、誘電特性と多くの特性で良好な結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のマレイミド樹脂は、溶液安定性に優れるため作業性が高く、耐熱性、低吸湿性、誘電特性に優れるため、半導体封止材、プリント配線板、ビルドアップ積層板などの電気・電子部品や、炭素繊維強化プラスティック、ガラス繊維強化プラスティックなどの軽量高強度材料に好適に使用される。