(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ステアリング制御装置
(51)【国際特許分類】
B60R 25/0215 20130101AFI20240402BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240402BHJP
E05B 83/00 20140101ALI20240402BHJP
【FI】
B60R25/0215
B62D5/04
E05B83/00 A
(21)【出願番号】P 2020156606
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】高山 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一鑑
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 雄吾
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-277142(JP,A)
【文献】特開2003-312519(JP,A)
【文献】特開2004-175184(JP,A)
【文献】特開2006-182057(JP,A)
【文献】特開平3-125651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 25/0215
B62D 5/04
E05B 83/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したステアバイワイヤシステム(901)、又は、操舵機構と転舵機構とが機械的に結合した電動パワーステアリングシステム(902)に適用され、ステアバイワイヤシステムにおいてハンドル(91)に反力トルクを付与する反力モータ、又は、電動パワーステアリングシステムにおいてハンドルに操舵アシストトルクを付与する操舵アシストモータとして機能する操舵モータ(78)の駆動を制御するステアリング制御装置であって、
駐停車中に所定の条件が成立したとき、前記操舵モータへの通電によりハンドルの回転停止状態を維持するロックトルクを出力するように駆動指令を演算するハンドルロック駆動制御を実施するハンドルロック演算部(75)と、
前記ハンドルロック演算部が演算した駆動指令に従って電源電力を変換し前記操舵モータに供給する電力変換器(77)と、
を備え
、
前記ハンドルロック駆動制御中、前記操舵モータが出力するロックトルクを超えるハンドルトルクによりハンドルが回転した場合、
前記ハンドルロック演算部は、回転後のハンドル角度を維持するように前記ハンドルロック駆動制御を継続するステアリング制御装置。
【請求項2】
前記ハンドルロック演算部(751
、754)は、前記操舵モータの回転角が回転角指令値に追従するように前記駆動指令を演算する請求項1に記載のステアリング制御装置。
【請求項3】
前記ハンドルロック演算部(752)は、入力されたハンドルトルクを打ち消す逆トルクを前記操舵モータが出力するように前記駆動指令を演算する請求項1に記載のステアリング制御装置。
【請求項4】
前記操舵モータは多相モータであり、
前記ハンドルロック演算部(753)は、前記操舵モータに通電されるdq軸電流ベクトルの電気角(β)を固定して前記駆動指令を演算する請求項1に記載のステアリング制御装置。
【請求項5】
操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したステアバイワイヤシステム(901)、又は、操舵機構と転舵機構とが機械的に結合した電動パワーステアリングシステム(902)に適用され、ステアバイワイヤシステムにおいてハンドル(91)に反力トルクを付与する反力モータ、又は、電動パワーステアリングシステムにおいてハンドルに操舵アシストトルクを付与する操舵アシストモータとして機能する操舵モータ(78)の駆動を制御するステアリング制御装置であって、
駐停車中に所定の条件が成立したとき、前記操舵モータへの通電によりハンドルの回転停止状態を維持するロックトルクを出力するように駆動指令を演算するハンドルロック駆動制御を実施するハンドルロック演算部(75
1、754)と、
前記ハンドルロック演算部が演算した駆動指令に従って電源電力を変換し前記操舵モータに供給する電力変換器(77)と、
を備え
、
前記ハンドルロック演算部は、前記操舵モータの回転角が回転角指令値に追従するように前記駆動指令を演算し、
前記ハンドルロック駆動制御中、前記操舵モータが出力するロックトルクを超えるハンドルトルクによりハンドルが回転した場合、
前記ハンドルロック演算部は、前記回転角指令値の初期値に基づくハンドル角度に戻して前記ハンドルロック駆動制御を継続するステアリング制御装置。
【請求項6】
前記ハンドルロック演算部(754)は、操舵角の限界であるエンドに対応する前記操舵モータの回転角を前記回転角指令値として、前記駆動指令を演算する請求項2
または5に記載のステアリング制御装置。
【請求項7】
操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したステアバイワイヤシステム(901)、又は、操舵機構と転舵機構とが機械的に結合した電動パワーステアリングシステム(902)に適用され、ステアバイワイヤシステムにおいてハンドル(91)に反力トルクを付与する反力モータ、又は、電動パワーステアリングシステムにおいてハンドルに操舵アシストトルクを付与する操舵アシストモータとして機能する操舵モータ(78)の駆動を制御するステアリング制御装置であって、
駐停車中に所定の条件が成立したとき、前記操舵モータへの通電によりハンドルの回転停止状態を維持するロックトルクを出力するように駆動指令を演算するハンドルロック駆動制御を実施するハンドルロック演算部(75)と、
前記ハンドルロック演算部が演算した駆動指令に従って電源電力を変換し前記操舵モータに供給する電力変換器(77)と、
を備え
、
前記操舵モータは多相モータであり、
前記ハンドルロック演算部は、前記ハンドルロック駆動制御を実施中、前記操舵モータの特定の相に通電が集中することを避けるように、通電時間に応じて通電相を入れ替えるステアリング制御装置。
【請求項8】
操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したステアバイワイヤシステム(901)、又は、操舵機構と転舵機構とが機械的に結合した電動パワーステアリングシステム(902)に適用され、ステアバイワイヤシステムにおいてハンドル(91)に反力トルクを付与する反力モータ、又は、電動パワーステアリングシステムにおいてハンドルに操舵アシストトルクを付与する操舵アシストモータとして機能する操舵モータ(78)の駆動を制御するステアリング制御装置であって、
駐停車中に所定の条件が成立したとき、前記操舵モータへの通電によりハンドルの回転停止状態を維持するロックトルクを出力するように駆動指令を演算するハンドルロック駆動制御を実施するハンドルロック演算部(75)と、
前記ハンドルロック演算部が演算した駆動指令に従って電源電力を変換し前記操舵モータに供給する電力変換器(77)と、
を備え
、
前記ハンドルロック駆動制御の開始後、車両からスリープモード用解除トリガーを受信したとき、又は、ハンドルトルクが入力されない状態が所定時間経過したとき、
前記ハンドルロック演算部は、前記ハンドルロック駆動制御を停止してスリープモードに移行するステアリング制御装置。
【請求項9】
前記ハンドルロック演算部は、
前記スリープモード中に前記操舵モータの回転角変動もしくはハンドルトルクの入力があったとき起動し、前記ハンドルロック駆動制御を開始する請求項
8に記載のステアリング制御装置。
【請求項10】
前記ハンドルロック演算部は、
前記スリープモード中に車両から起動トリガーを受信したとき起動し、前記ハンドルロック駆動制御を開始する請求項
8または
9に記載のステアリング制御装置。
【請求項11】
操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したステアバイワイヤシステム(901)、又は、操舵機構と転舵機構とが機械的に結合した電動パワーステアリングシステム(902)に適用され、ステアバイワイヤシステムにおいてハンドル(91)に反力トルクを付与する反力モータ、又は、電動パワーステアリングシステムにおいてハンドルに操舵アシストトルクを付与する操舵アシストモータとして機能する操舵モータ(78)の駆動を制御するステアリング制御装置であって、
駐停車中に所定の条件が成立したとき、前記操舵モータへの通電によりハンドルの回転停止状態を維持するロックトルクを出力するように駆動指令を演算するハンドルロック駆動制御を実施するハンドルロック演算部(75)と、
前記ハンドルロック演算部が演算した駆動指令に従って電源電力を変換し前記操舵モータに供給する電力変換器(77)と、
を備え
、
前記ハンドルロック駆動制御中に解除閾値以上のハンドルトルクが入力されたとき、
前記ハンドルロック演算部は、前記ハンドルロック駆動制御を停止してロック解除するステアリング制御装置。
【請求項12】
前記ハンドルロック駆動制御中に車両から運転開始用解除トリガーを受信したとき、
前記ハンドルロック演算部は、前記ハンドルロック駆動制御を停止してロック解除する請求項1~
11のいずれか一項に記載のステアリング制御装置。
【請求項13】
前記ハンドルロック演算部は、前記ハンドルロック駆動制御を終了するロック解除時、前記操舵モータが出力するロックトルクを漸減させる請求項1~
12のいずれか一項に記載のステアリング制御装置。
【請求項14】
前記ハンドルロック演算部は、エンジン停止又はレディ信号オフ状態であって、かつイグニッション信号がオフであるとき、前記ハンドルロック駆動制御を開始する請求項1~
13のいずれか一項に記載のステアリング制御装置。
【請求項15】
ステアバイワイヤシステムに適用され、
前記ハンドルロック演算部は、ドライバの乗車後、前記反力モータが反力トルクを出力可能な状態となるまで前記ハンドルロック駆動制御を継続する請求項1~
14のいずれか一項に記載のステアリング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の盗難防止や、不意にハンドルに触れたとき回転することを防止するため、駐停車中にハンドルの回転をロックする装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示されたステアリングロック装置では、モータが一方向に回転するとロックバーがロック方向に移動し、ステアリングシャフトの係止穴に係止してロック状態となる。また、モータが他方向に回転するとロックバーがアンロック方向に移動し、アンロック状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のハンドルロック装置は、特許文献1のように、イグニッションキーと連動してロックピンを動作させるメカ式の構成が用いられていた。また、近年ではスマートキー等の採用が進み、エンジンスタートボタンを採用した車両では、ハンドルロック機構、ロックピンを動かすアクチュエータ、アクチュエータを動作させる電子装置が用いられている。このように多数の装置を用いると、システム構成が複雑化し、より大きな搭載スペースが必要となり、コストが増加する。
【0006】
特にハンドル周辺のスペースに関し、ハンドルの周辺や裏側は、視界の妨げになるためダッシュボードを大型化することができず、搭載制約が厳しい。この箇所には衝突安全のための構造体が設置されているほか、ヘッドアップディスプレイ等の新たなヒューマンインターフェースの搭載も増えてきており、搭載スペースがより厳しくなっている。また、ステアバイワイヤシステムの車両では、反力トルクを付与する反力装置のスペースがハンドルの裏に必要となる場合がある。したがって、ハンドル周辺のスペースを有効に確保するため、メカ式のハンドルロック装置を無くすことが求められる。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、電気的なハンドルロック機能を実現するステアリング制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のステアリング制御装置は、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したステアバイワイヤシステム(901)、又は、操舵機構と転舵機構とが機械的に結合した電動パワーステアリングシステム(902)に適用される。このステアリング制御装置は、ステアバイワイヤシステムにおいてハンドルに反力トルクを付与する反力モータ、又は、電動パワーステアリングシステムにおいてハンドル(91)に操舵アシストトルクを付与する操舵アシストモータとして機能する操舵モータ(78)の駆動を制御する。
【0009】
このステアリング制御装置は、ハンドルロック演算部(75)と、電力変換器(77)と、を備える。ハンドルロック演算部は、駐停車中に所定の条件が成立したとき、操舵モータへの通電によりハンドルの回転停止状態を維持するロックトルクを出力するように駆動指令を演算する「ハンドルロック駆動制御」を実施する。電力変換器は、ハンドルロック演算部が演算した駆動指令に従って電源電力を変換し操舵モータに供給する。例えば第一の態様のステアリング制御装置では、ハンドルロック駆動制御中、操舵モータが出力するロックトルクを超えるハンドルトルクによりハンドルが回転した場合、ハンドルロック演算部は、回転後のハンドル角度を維持するようにハンドルロック駆動制御を継続する。
【0010】
本発明では、操舵モータがロックトルクを出力するようにハンドルロック演算部が駆動指令を演算することで、電気的にハンドルロック機能を実現する。これにより、ハンドルロック機構、アクチュエータ、電子装置及びハーネス等が不要となるため、メカ式のハンドルロック装置に対し、システムの簡素化、ハンドル周辺のスペース確保や低コスト化に寄与することができる。
【0011】
ところで、ステアバイワイヤシステムにおいて、反力モータが通常動作時の反力トルクを出力可能な状態となる前にロック解除すると、ハンドルが固定されていると錯覚したドライバがハンドルに体重を掛け、ハンドルが空転してバランスを崩すという事態が生じるおそれがある。そのためステアバイワイヤシステムでは、ハンドルロック演算部は、ドライバの乗車後、反力モータが反力トルクを出力可能な状態となるまでハンドルロック駆動制御を継続することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態のステアリング制御装置が適用されるステアバイワイヤシステムの全体構成図。
【
図2】ステアバイワイヤシステムにおける(a)反力装置、(b)転舵装置の制御ブロック図。
【
図3】本実施形態のステアリング制御装置が適用される電動パワーステアリングステムの全体構成図。
【
図4】第1実施形態によるハンドルロック演算部の構成を示すブロック図。
【
図5】第2実施形態によるハンドルロック演算部の構成を示すブロック図。
【
図6】第3実施形態によるハンドルロック演算部の構成を示すブロック図。
【
図7】第4実施形態によるハンドルロック演算部の構成を示すブロック図。
【
図8】ハンドルロック駆動制御中にロックトルクを超えるハンドルトルクが入力された時の動作、及び、ハンドルロック解除時の動作を示すタイムチャート。
【
図9】ハンドルロック駆動制御中の通電相入れ替えを説明する空間ベクトル図。
【
図11】ハンドルロック駆動制御の起動/解除処理例1を示すフローチャート。
【
図12】ハンドルロック駆動制御の起動/解除処理例2を示すフローチャート。
【
図13】ハンドルロック駆動制御の起動/解除処理例3を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のステアリング制御装置の複数の実施形態を、図面に基づいて説明する。本実施形態のステアリング制御装置は、車両のステアバイワイヤシステム(以下、「SBWシステム」)又は電動パワーステアリングシステム(以下、「EPSシステム」)に適用され、駐停車中にハンドルの回転を電気的にロックする装置である。車両は四輪車に限らず、バイクやバギー車も含まれる。本明細書では、SBWシステムにおいて反力モータとして機能するモータ、及び、EPSシステムにおいて操舵アシストモータとして機能するモータをまとめて「操舵モータ」という。両システムのステアリング制御装置は、総じて操舵モータの駆動を制御する。
【0014】
[SBWシステム及びEPSシステムの構成]
最初に
図1~
図3を参照し、SBWシステム及びEPSシステムの構成について説明する。以下の説明中、「通常動作時」とは、ドライバが車両を運転している走行中及び発進停止時、すなわち、ハンドルロックの対象となる駐停車中以外の期間をいう。通常動作時において、SBWシステムにおける反力装置制御部と、EPSシステムにおけるEPS制御部との機能は異なる。しかし、本実施形態で着目する駐停車中において、反力装置制御部とEPS制御部とは同様の機能を有するため、本明細書では便宜上、反力装置制御部及びEPS制御部に同一の符号「75」を付し、一括して説明する。
【0015】
図1に、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したSBWシステム901の全体構成を示す。
図1にて車輪99は片側のみを図示し、反対側の車輪の図示を省略する。SBWシステム901は、反力装置70及び転舵装置80を備える。
【0016】
反力装置70は、反力装置制御部75、「電力変換器」としてのインバータ77、及び、「操舵モータ」としての反力モータ78を含み、反力用減速機79及びステアリングシャフト92を介してハンドル91と接続される。通常動作時に反力装置制御部75は、ドライバの操舵に対する反力トルクをハンドル91に付与するように、反力モータ78の駆動指令を演算する。
【0017】
インバータ77は、反力装置制御部75が演算した駆動指令に従って電源電力を変換し、反力モータ78に供給する。本実施形態では反力モータ78として3相ブラシレスモータが用いられる。インバータ77は、バッテリの直流電力を3相交流電力に変換して反力モータ78に供給する。なお、一例として、反力装置制御部75及びインバータ77が反力モータ78と一体に、いわゆる「機電一体式モータ」として構成されてもよい。
【0018】
転舵装置80は、転舵モータ88の駆動指令を演算する転舵装置制御部85、インバータ87、及び転舵モータ88を含む。インバータ87は、転舵装置制御部85が演算した駆動指令に従って電源電力を変換し、転舵モータ88に供給する。例えば転舵モータ88も反力モータ78と同様に、機電一体式3相ブラシレスモータにより構成されてもよい。
【0019】
転舵モータ88の回転は、転舵用減速機89からピニオンギア96、ラック97、タイロッド98、ナックルアーム985を介してタイヤ99に伝達される。詳しくは、ピニオンギア96の回転運動はラック97の直線運動に変換され、ラック97の両端に設けられたタイロッド98がナックルアーム985を往復移動させることで、タイヤ99が転舵される。
【0020】
ハンドル91の操舵角は、ハンドル91の中立位置に対する回転方向に応じて、例えば
図1のCW方向が正、CCW方向が負と定義される。これに対応してタイヤ99の転舵角の正負が定義される。トルクセンサ94は、トーションバーの捩れ変位に基づき、ハンドル91に入力されるハンドルトルクThを検出する。トルクセンサ94の検出値Thは反力装置制御部75に入力される。
【0021】
反力装置制御部75及び転舵装置制御部85は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。反力装置制御部75及び転舵装置制御部85の各処理は、予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。反力装置制御部75及び転舵装置制御部85は、CAN通信等の車両ネットワークや専用の通信ラインを経由して互いに情報を通信する。
【0022】
SBWシステム901では、反力装置70の反力装置制御部75及びインバータ77、並びに、転舵装置80の転舵装置制御部85及びインバータ87を含む部分がステアリング制御装置201を構成する。ステアリング制御装置201は、反力モータ78及び転舵モータ88が協調して動作するように制御する。
【0023】
図2を参照し、反力装置70及び転舵装置80の概略制御構成について説明する。反力装置70の出力に関するパラメータの記号には「r」、転舵装置80の出力に関するパラメータの記号には「t」を付す。反力装置70における反力モータ78の回転角θr及び回転角速度ωr、転舵装置80における転舵角θt等の値は、減速機79、89のギヤ比を乗じた換算後の値とする。図中、減速機を「ギヤ」と略す。また、モータとギヤとを一つのブロックに表し、符号「78、79」又は「88、89」を並べて記す。
【0024】
図2(a)に反力装置70の制御構成を示す。制御量として反力トルクTrに代えて、括弧内に示すように反力モータ電流Irを用いてもよい。
図2(a)の説明では制御量として反力トルクTrを用いるものとして記す。
【0025】
反力装置制御部75は、反力生成制御部51、制動差制御中反力生成制御部52及び電流制御部680を含む。反力生成制御部51は、反力モータ回転角θr、回転角速度ωr及び反力モータ電流Irに基づき、基本反力トルク指令値T*r_bを算出する。制動差制御中反力生成制御部52は、反力モータ回転角θrと角度閾値θthとの差である制動差に基づき制動差反力トルク指令値T*r_dを算出する。加算器551、552にて転舵トルクTtに基本反力トルク指令値T*r_b及び制動差反力トルク指令値T*r_dが加算され、反力トルク指令値T*rが算出される。
【0026】
電流制御部680は、偏差算出器681及び電流制御器682を含み、反力トルクTrのフィードバック制御により、反力モータ78への駆動指令を生成する。インバータ77は、電流制御器682の出力に基づき、反力モータ78に電力供給する。反力モータ78から減速機79を経て出力された反力トルクTrは、偏差算出器681にフィードバックされる。
【0027】
図2(b)に転舵装置80の制御構成を示す。以下の転舵モータ電流Itに代えて転舵トルクを用いてもよい。転舵装置制御部75は、角度制御部360及び電流制御部380を含む。角度制御部360の角度偏差算出器361は、反力装置70から通信された反力モータ回転角θrと転舵角θtとの角度偏差Δθr-tを算出する。角度制御器362は、角度偏差Δθr-tを0に近づけるように、転舵モータ88の電流指令値I
*tを演算する。
【0028】
電流制御部380は、偏差算出器381及び電流制御器382を含み、転舵モータ電流Itのフィードバック制御により、転舵モータ88への駆動指令を生成する。インバータ87は、電流制御器382の出力に基づき、転舵モータ88に電力供給する。転舵モータ88から減速機89を経て出力された転舵角θtは、角度偏差算出器361にフィードバックされる。
【0029】
上記は通常動作時におけるステアリング制御装置201の制御構成の説明である。通常動作時、反力装置制御部75が操舵角や操舵トルク等の操舵情報、及び、転舵角やラックストローク等の転舵情報に基づいて反力トルクを演算することで、ドライバは適切な操舵フィーリングを得ることができる。一方、
図1に示すように、駐停車中に反力装置制御部75は、「ハンドルロック演算部75」としても機能する。つまり、ハンドルロック演算部75は、駐停車中に所定の条件が成立したとき、反力モータ78への通電によりハンドル91の回転停止状態を維持するロックトルクを出力するように駆動指令を演算する。
【0030】
「所定の条件」の成否を判断する情報として、イグニッション(IG)信号やレディ信号、車両の開錠及び施錠信号、ドア開閉信号、キー操作信号等が車両ネットワークを経由してハンドルロック演算部75に入力される。これらの信号が示す情報の意味については後述する。
【0031】
図3に、操舵機構と転舵機構とが機械的に結合したEPSシステム902の全体構成を示す。なお、
図3にはラックアシスト型のEPSシステムを示すが、コラムアシスト型のEPSシステムについても同様である。EPSシステム902では、ステアリングシャフト92とラック97とがインターミディエイトシャフト95により接続されている。ドライバの操舵によるステアリングシャフト92の回転は、インターミディエイトシャフト95及びピニオンギア96を介して機械的にラック97に伝達される。
【0032】
EPSシステム902は、「操舵モータ」として操舵アシストモータ78を備える。EPSシステム902のステアリング制御装置202は、EPS制御部75及びインバータ77により構成される。通常動作時にEPS制御部75は、操舵アシストトルクをハンドル91に付与するように、操舵アシストモータ78の駆動指令を演算する。
【0033】
EPS制御部75は、駐停車中に「ハンドルロック演算部75」として機能する。EPSシステム902のハンドルロック演算部75は、駐停車中に所定の条件が成立したとき、操舵アシストモータ78への通電によりハンドル91の回転停止状態を維持するロックトルクを出力するように駆動指令を演算する。つまり、通常動作時にはドライバの操舵に応じて車両を転舵させるように機能するEPS制御部75が、駐停車中にはハンドルロックという別の機能を有する。
【0034】
以上のようにSBWシステム901又はEPSシステム902に適用されるステアリング制御装置201、202において、ハンドルロック演算部75は、駐停車中に所定の条件が成立したとき、操舵モータ78への通電によりハンドル91の回転停止状態を維持するロックトルクを出力するように駆動指令を演算する。ハンドルロック演算部75によるこのモータ制御を「ハンドルロック駆動制御」という。本実施形態では、ハンドルロック演算部75がハンドルロック駆動制御を実施するため、メカ式のハンドルロック装置が不要となる。
【0035】
[ハンドルロック演算部の構成]
次に
図4~
図7を参照し、ハンドルロック演算部75の具体的構成に関する第1~第4実施形態を説明する。各実施形態のハンドルロック演算部の符号は、「75」に続く3桁目に実施形態の番号を付す。
図4~
図7において、
図2(a)と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、反力装置制御部の記号「r」をEPS制御部にも共用する。
【0036】
各図のインバータ77に出力される駆動指令は、
図2(a)に参照されるように、トルクや電流を制御量とするフィードバック制御の操作量(例えば電圧指令)に相当する。
図4~
図7は、ハンドルロック駆動制御の構成パターンを示すことを目的とするものであり、インバータ77に出力される具体的な操作量の記載を省略する。トルクや電流を制御する操作量は、PWM制御等の制御構成に応じて適宜選択されてよく、必要に応じて変換部等のブロックが追加されてもよい。
【0037】
(第1実施形態)
図4に示す第1実施形態のハンドルロック演算部751は、操舵モータ78の回転角θrが回転角指令値θ
*rに追従するように駆動指令を演算することで、操舵モータ78の回転角θrが一定値に維持されるように制御する。以下、操舵モータ78の回転角θrを単に「回転角θr」という。回転角指令値θ
*rは中立位置に相当する0でもよいし、0以外の正又は負の値でもよい。上述の通り回転角θrは、減速機79のギヤ比を乗じた換算後の値として記す。
【0038】
ハンドルロック演算部751は、角度制御部560及び電流制御部680を含む。角度制御部560の角度偏差算出器561は、回転角指令値θ*rと、操舵モータ78から減速機79を経てフィードバックされた回転角θrとの角度偏差Δθrを算出する。角度制御器562は、角度偏差Δθrを0に近づけるように、トルク指令値T*r又は電流指令値I*rを演算する。電流制御部680は、トルクTr又は電流Irのフィードバック制御により、駆動指令を演算する。
【0039】
(第2実施形態)
図5に示す第2実施形態のハンドルロック演算部752は、入力されたハンドルトルクThを打ち消す逆トルクを操舵モータ78が出力するように駆動指令を演算する。したがって、理想的には、ハンドルロック駆動制御の開始時における初期回転角が維持される。
【0040】
ハンドルロック演算部752は、逆トルク算出部66及び電流制御部680を含む。逆トルク算出部66は、ハンドルトルクThを打ち消すように、トルク指令値T*r又は電流指令値I*rを演算する。電流制御部680は、トルクTr又は電流Irのフィードバック制御により、駆動指令を演算する。
【0041】
(第3実施形態)
図6に示す第3実施形態のハンドルロック演算部753は、ベクトル制御により3相モータの駆動を制御するものであり、操舵モータ78に通電されるdq軸電流ベクトルIdqの電気角βを固定して駆動指令を演算する。つまり、ハンドルロック演算部753は、ロータ位置が所定範囲内に収まるように操舵モータ78に通電する。
【0042】
ハンドルロック演算部753には、q軸電流が0でない値であり、d軸電流が0であるdq軸電流指令値Idq*が入力される。dq軸電流偏差算出器671は、dq軸電流指令値Idq*と、3相/dq変換部674からフィードバックされたdq軸電流Idqとの偏差ΔIdqを算出する。電流制御器672は、dq軸電流偏差ΔIdqを0に近づけるようにdq軸電圧指令Vdqを演算する。
【0043】
dq/3相変換部673は、dq軸電圧指令Vdqを座標変換して3相電圧指令Vuvwを算出し、インバータ77に出力する。3相/dq変換部674はインバータ77に流れる3相電流Iuvwを座標変換し、dq軸電流Idqを算出して、dq軸電流偏差算出器671にフィードバックする。ここで、dq/3相変換部673及び3相/dq変換部674の演算において固定された電気角βが用いられるため、ロータ位置が維持される。
【0044】
操舵モータ78を構成するブラシレスモータの磁極対の数に応じて、回転角一周期中に電気角数周期が含まれるため、ハンドル91の可動範囲内に同一の電気角βが複数回現れる。したがって第3実施形態は、ハンドルロック開始後、ハンドル91が大きく回転されないことを前提として、比較的小さい角度範囲でのロータ位置の維持に有効である。
【0045】
(第4実施形態)
図7に示す第4実施形態のハンドルロック演算部754は、モータ回転角を一定値に維持する第1実施形態の特殊形態に相当し、特に、操舵角の限界であるエンドに対応する操舵モータ78の回転角θrを回転角指令値θ
*rとして、駆動指令を演算する。
【0046】
バイクやバギー車は、左右、すなわち中立位置に対して正負いずれかのエンドまでハンドル91を切った状態で駐停車される場合がある。例えば正負いずれのエンドでハンドルロックするかが予め決められており、常にドライバがロック側のエンド近くまでハンドル91を切った状態で制御開始するのであれば、第1実施形態により操舵モータ78を微小回転させることも可能である。
【0047】
それに対し、駐停車の度にドライバがどちら側にハンドル91を切るか不定の場合、現在位置から反対側のエンドまでハンドル91を回転させることは現実的でない。そこで第4実施形態は、現在の回転角θrに応じて、近い側のエンドまで回転させた状態でハンドルロックさせるように制御する。
【0048】
ハンドルロック演算部754は、負エンド角θend_N及び正エンド角θend_Pを回転角指令値として有する角度制御部570と、電流制御部680とを含む。角度制御部570の判別部579は、操舵モータ78からフィードバックされた回転角θrの正負を判別する。ここで、「θend_N≦θr≦θend_P」である。
【0049】
負側の角度偏差算出器571Nは、負エンド角θend_Nから負の回転角θrを減じた負の角度偏差Δθrを算出する。正側の角度偏差算出器571Pは、正エンド角θend_Pから正の回転角θrを減じた正の角度偏差Δθrを算出する。角度制御器572N、572Pは、それぞれ角度偏差Δθrを0に近づけるように、トルク指令値T*r又は電流指令値I*rを演算する。
【0050】
第1実施形態と同様に電流制御部680は、トルクTr又は電流Irのフィードバック制御により、駆動指令を演算する。これにより、現在位置と同じ側のエンドに押し当てられるようにハンドルロック駆動制御が実行される。
【0051】
[応用制御]
以上の通り本実施形態では、通常動作時とは別の目的で操舵モータ78に通電することにより電気的なハンドルロック機構が実現される。これにより、メカ式のハンドルロック装置が不要となり、ハンドル周辺のスペースを有効に確保することができる。今後、新たなヒューマンインターフェースの搭載が増えてくると、その効果はより大きくなると期待される。しかし、一旦ロックしてしまえば解除するまでロック状態が維持されるメカ式の機構と比べ、本実施形態には電気的機構に特有の新たな課題が生じる。そこで、次に
図8~
図10を参照し、ハンドルロック駆動制御の応用制御について説明する。
【0052】
ハンドルロック駆動制御中に操舵モータ78が出力するロックトルクよりも大きなハンドルトルクThが入力される「降伏現象」が起きる可能性を想定する。
図8のタイムチャートにおいて時刻t1~t4の期間には、ハンドルロック駆動制御中にロックトルクを超えるハンドルトルクThが入力された時の動作を示す。時刻t1以前の初期段階で、ハンドル角度(すなわち、ギヤ比乗算後のモータ回転角)は初期角度に維持されている。回転角指令値を用いる第1、第4実施形態では、初期角度は回転角指令値の初期値θ
*r_0に相当する。
【0053】
時刻t1以後、ハンドルトルクThの入力が開始される。時刻t2までの期間には入力されるハンドルトルクThが、操舵モータ78が出力するロックトルク以下であるため、ハンドル角度は変化しない。しかし時刻t2を過ぎると、入力されるハンドルトルクThが、操舵モータ78が出力するロックトルクを超え、ハンドル91が回転し始める。その後、時刻t3に、入力されるハンドルトルクThがロックトルクを下回り、ハンドル91の回転が停止する。時刻t3におけるハンドル角度をθr_#とする。
【0054】
この後、ハンドルロック駆動制御を継続するにあたり、ハンドルロック演算部75は、例えば次の2通りの制御を実行可能である。(*a)に示す制御では、ハンドルロック演算部75は、回転後のハンドル角度θr_#を維持するようにハンドルロック駆動制御を継続する。この制御は、第1~第4実施形態の全てに適用可能である。
【0055】
(*b)に示す制御では、ハンドルロック演算部75は、時刻t3~t4にかけて、回転角指令値の初期値θ*r_0に基づくハンドル角度に戻してハンドルロック駆動制御を継続する。この制御は、回転角指令値を用いる第1、第4実施形態に適用可能であり、ロックトルクを超えるハンドルトルクThが繰り返し同じ方向に入力された場合でも、ハンドル角度が初期角度から大きくずれることを防止することができる。
【0056】
続いて、
図8のタイムチャートにおいて時刻t5~t6の期間には、ハンドルロック解除時の動作を示す。ハンドルロック駆動制御継続中の時刻t5に、ハンドルロック演算部75は車両から解除トリガーを受信し、ハンドルロック駆動制御を終了する。このとき、ハンドルロック演算部75は、操舵モータ78が出力するロックトルクを時刻t5~t6にわたって漸減させる。例えばドライバがハンドル91に手を添えていたときロックトルクを瞬時に0にすると、思わずハンドル91を回転させてしまうおそれがある。そこで、ロックトルクを漸減させることで、ドライバにロックの解除を認識させることができる。
【0057】
次に、ハンドルロック駆動制御の継続に伴う発熱防止について説明する。第1実施形態により回転角θrが指令値θ*rに到達し、タイヤ99が路面との摩擦で静止した状態では、インバータ77及び操舵モータ78にそれ以上通電されない。また、第2実施形態では、ハンドルトルクThが入力されない限り、インバータ77及び操舵モータ78に通電されないため、発熱の可能性は低いと考えられる。
【0058】
しかし、例えば駐車中にドライバがハンドル91に体重をかけた体勢で眠り込んだとき、ハンドルトルクThが入力され続け、ハンドルロック駆動制御による通電が長時間継続する可能性がある。しかも、回転角θrを維持するべく3相モータの特定の相に連続通電されるため、インバータ77の特定の相のスイッチ素子に発熱が集中するおそれがある。そこでハンドルロック演算部75は、ハンドルロック駆動制御を実施中、操舵モータ78の特定の相に通電が集中することを避けるように、通電時間に応じて通電相を入れ替えることが好ましい。
【0059】
例えば
図9に示す方法では、空間ベクトル方式で3相電圧を表している。ロック角度を実現する電流ベクトルIrを得るために、U-V相ベクトルの合成、U-W相ベクトルの合成、V-W相ベクトルの合成の3モードを順次切り替えることで、発熱を分散させることができる。
【0060】
或いは、通電時間に応じてロック角度を少しずつずらし、操舵モータ78を揺動させることも考えられる。
図10には、3相のうち2相への通電を、相を入れ替えながら順次行う遷移表を示す。例えば6モードの通電を順方向及び逆方向に交互に入れ替えることで、所定角度範囲内でロック角度を維持することができる。
【0061】
[起動/解除処理]
次に
図11~
図13のフローチャートを参照し、ハンドルロック駆動制御の起動/解除処理例について説明する。フローチャートの説明で記号「S」はステップを示す。また、各フローチャートにおいて実質的に同一のステップには同一のステップ番号を付して説明を省略する。以下、正規ドライバ以外に車両に乗車した者を、車両窃盗を企てている蓋然性のある「不審者」と記す。
【0062】
図11には「処理例1」として、SBWシステム901及びEPSシステム902に共通した、正規ドライバによる駐車から運転開始までの流れを想定したフローチャートを示す。S11でハンドルロック演算部75は、エンジン停止又はレディ信号オフ状態であって、かつ、イグニッション信号がオフであるか判断する。S11でYESの場合、S12でハンドルロック演算部75は、ハンドルロック駆動制御を開始する。そして、ドライバがS13で降車し、ある時間経過した後、S14で再乗車する状況を想定する。
【0063】
例えば車両開錠や運転席ドア開信号により人が乗車したと認識されたとき、S15で、正規ドライバ認証を行い、YESの場合のみ、S16に進むようにしてもよい。S16でハンドルロック演算部75は、ハンドルロック駆動制御中に解除閾値以上のハンドルトルクThが入力されたか、又は、車両からIGオン信号、キー操作信号等の「運転開始用解除トリガー」を受信したか判断する。S16でYESの場合、S18でハンドルロック演算部75はハンドルロック駆動制御を停止してロック解除する。これにより、ドライバは操舵を含む運転が可能となる。なお、直進走行のみ可能な状態を運転可能とは考えない。
【0064】
ところで、IGオンの前に、その他の条件に基づきS18でロック解除した後、ドライバがハンドルトルクThを加えた状況を想定する。EPSシステム902では、IGオン前でアシスト開始していない状態であっても、ハンドル91は転舵機構と機械的に結合しているため、回転抵抗が生じる。
【0065】
一方、SBWシステム901において、反力モータ78が通常動作時の反力トルクを出力可能な状態となる前にロック解除すると、ハンドルトルクThを加えたとき、転舵機構と機械的に分離したハンドル91は抵抗なく空転することとなる。例えば、ハンドル91が固定されていると錯覚したドライバがハンドル91に体重を掛け、ハンドル91が空転してバランスを崩す(俗に「スカを食う」)という事態が生じるおそれがある。そのため、SBWシステム901では、ハンドルロック演算部75は、ドライバの乗車後、反力モータ78が反力トルクを出力可能な状態となるまでハンドルロック駆動制御を継続することが好ましい。
【0066】
よって、上では「
図11はSBWシステム901及びEPSシステム902に共通」と記載したものの、どちらかといえばEPSシステム902に適したものである。これを反映し、
図12には「処理例2」として、SBWシステム901におけるドライバ乗車時のハンドル空転防止を想定したフローチャートを示す。
【0067】
図12のS11~S14は
図11と同じである。しかし、
図12ではS16の解除ステップは採用されず、代わりにS17で、反力モータ78が反力トルクを出力可能な状態であるか判断される。S17でYESの場合、S18でハンドルロック演算部75は、ハンドルロック駆動制御を停止してロック解除する。なお、IGオン信号やキー操作信号が反力装置70の通常動作を開始するための条件として用いられる場合、S17の判断の中にそれらのトリガー受信判断が含まれると考えてもよい。
【0068】
そもそもSBWシステム901の操舵機構と転舵機構とのリンクが切られた状態では、ハンドルロックが解除されたとしても、反力装置70が通常動作を開始しない限り、不審者がハンドル91を操舵して車両窃盗することはできない。言い換えれば、盗難防止のためだけにハンドルロックする意味がない。むしろ、ドライバ乗車時の動作を支援する観点から、
図12の処理により、ドライバ乗車時におけるSBWシステム901の安全性や利便性を向上させることができる。
【0069】
ハンドルロック駆動制御のために常時通電すると、駐車が長期間に及ぶ場合、バッテリが枯渇するおそれがある。それを防ぐため、人が乗車していない駐車中はハンドルロック駆動制御を休止する「スリープモード」に移行する処理が考えられる。また、スリープモード中にトルク入力やハンドル角度変化を検知した場合、スリープモードを解除する処理が考えられる。そこで
図13には「処理例3」として、SBWシステム901及びEPSシステム902に共通した、スリープモード移行から再ハンドルロックまでを想定したフローチャートを示す。
【0070】
S21は、
図11、12のS12に続く「ハンドルロック中」、すなわち、ハンドルロック駆動制御の開始後の状態である。S22で、ハンドルロック演算部75は、車両から車両施錠信号等の「スリープモード用解除トリガー」を受信したか、又は、ハンドルトルクThが入力されない状態が所定時間経過したか判断する。S22でYESの場合、S23でハンドルロック演算部75は、ハンドルロック駆動制御を停止してスリープモードに移行する。スリープモードではステアリング制御装置201、202の全体が休止状態となり、操舵モータ78への通電が停止される。したがって、ロック解除状態となる。
【0071】
S24では、スリープモード中の出来事として、[ケース1]SBWシステム901でドライバが乗車しようとしている、又は、乗車したとき、[ケース2]不審者が乗車し、ハンドル91を動かそうとしたとき、を主に想定する。ケース1に対しては
図12の例と同じくハンドル91の空転を防止するため、ケース2に対しては車両盗難防止のため、再ハンドルロックするニーズがある。
【0072】
S24でハンドルロック演算部75は、操舵モータ78の回転角変動もしくはハンドルトルクThの入力があったか、又は、車両から起動トリガーを受信したか判断する。ケース1での起動トリガーの例として、ドライバによるスマートキーの遠隔操作、車両開錠、ドア開、ドライバ認証等の信号が挙げられる。ケース2での起動トリガーの例として、車両開錠、ドア開、不審者検知、盗難防止装置警報、振動センサ検知、電動チルト動作、キーの不検知等の信号が挙げられる。
【0073】
S24でYESの場合、ステアリング制御装置201、202は、S25で起動し、S26で起動時機能として、例えば舵角検出機能等を確認する。特に、スマートキーの遠隔操作信号等を起動トリガーとして受信し、前もって起動時機能を確認することで、機能開始までの待ち時間を短縮することができる。S26の後、S27でハンドルロック演算部75は、ハンドルロック駆動制御を開始する。こうして再ハンドルロックされることで、SBWシステム901におけるハンドル空転防止や、不審者による車両盗難防止が実現される。
【0074】
(その他の実施形態)
(a)第1~第3実施形態に示す回転角制御、逆トルク出力、電気角固定制御の方式は、いずれか一つが選択されるとは限らず、二つ以上の制御方式が組み合わせて構成されてもよい。例えば制御調停部を設けて、シーンに応じていずれかの制御方式を優先したり、複数の制御出力を加重平均したりする等の処理を行ってもよい。
【0075】
(b)ハンドルロック演算部が車両から受信する起動トリガーや解除トリガーは、上記実施形態に例示したものに限らず、起動/解除処理に使用可能な信号であればよい。また、搭載される車両のスペックやオプション仕様に応じて、起動/解除トリガーをカスタマイズできるようにしてもよい。
【0076】
(c)本発明は車両の他のシステムとの協調制御により、さらに応用が広がる。例えば車両盗難が未遂に終わった場合であっても、駐車中のハンドルロック演算部の動作を解析することで不審者の行動を追跡し、犯罪捜査に役立つ可能性がある。
【0077】
(d)dq軸電流ベクトルの電気角を用いる形態や通電時間に応じて通電相を入れ替える実施形態では、操舵モータとして、3相以外の多相モータが用いられてもよい。また、それらの実施形態を除き、操舵モータは多相モータに限らず、直流モータが用いられてもよい。直流モータが用いられる場合、電力変換器としてインバータに代えてHブリッジ回路が用いられる。
【0078】
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0079】
201、202・・・ステアリング制御装置、
75(751-754)・・・ハンドルロック演算部(反力装置制御部、EPS制御部)、
77 ・・・インバータ(電力変換器)、
78 ・・・操舵モータ(反力モータ、操舵アシストモータ)、
901・・・ステアバイワイヤ(SBW)システム、
902・・・電動パワーステアリング(EPS)システム、
91 ・・・ハンドル。