IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-回転電機 図1
  • 特許-回転電機 図2
  • 特許-回転電機 図3
  • 特許-回転電機 図4
  • 特許-回転電機 図5
  • 特許-回転電機 図6
  • 特許-回転電機 図7
  • 特許-回転電機 図8
  • 特許-回転電機 図9
  • 特許-回転電機 図10
  • 特許-回転電機 図11
  • 特許-回転電機 図12
  • 特許-回転電機 図13
  • 特許-回転電機 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/04 20060101AFI20240402BHJP
   H02K 3/28 20060101ALI20240402BHJP
   H02K 21/12 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H02K3/04 E ZHV
H02K3/28 M
H02K21/12 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020192671
(22)【出願日】2020-11-19
(62)【分割の表示】P 2015218934の分割
【原出願日】2015-11-06
(65)【公開番号】P2021016300
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2020-11-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕樹
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】柿崎 拓
【審判官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-96857(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108726(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/044703(WO,A1)
【文献】特開2012-135100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K3/00-3/28
H02K21/00-21/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に配列された複数の磁石収容孔(22)が設けられたロータコア(21)と、前記磁石収容孔に埋設された永久磁石(23)と、を有するロータ(20)と、
前記ロータコアに径方向に対向して配置され、周方向に配列された複数のスロット(34)が設けられたステータコア(31)と、前記スロットに収容されて前記ステータコアに巻装されている複数相(U相,V相,W相)のステータ巻線(40)と、を有するステータ(30)と、
を備えた回転電機(1)において、
前記ステータ巻線は、デルタ結線された高速出力用の複数の第一巻線(41)と、前記第一巻線同士を接続する各接続点(43U,43V,43W)と各相端子(44U,44V,44W)との間に接続可能に配置された低速出力用の複数の第二巻線(42)と、を有し、
前記回転電機は、各前記接続点と各前記相端子との接続を直接接続する状態と前記第二巻線を介して接続する状態のどちらかに切り替える切り替え部(45U,45V,45W)を備え、
前記第一巻線は、前記スロット内でロータ対向面側にのみ設置され、
前記第二巻線は、前記スロット内で反ロータ対向面側にのみ設置され、
駆動回路が前記第一巻線に流す電流の波形は、基本制御波形である1次波形に、3次及び9次が合成された高調波波形が重畳した波形であり
前記高調波波形は、前記1次波形が正の値をとる間の電流の総和が正であり、前記1次波形が負の値をとる間の電流の総和が負である特定高調波波形である、回転電機。
【請求項2】
前記ステータ巻線は、前記スロットに軸方向に挿入され且つ前記ステータコアの軸方向端面から外部に延出した開放端部の所定の端末同士が互いに接合されている複数の導体セグメント(50)により構成されている請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記スロットには、前記ステータ巻線を構成する矩形断面の導体線が径方向1列に偶数本ずつ収容されており、前記第一巻線を構成する導体線は、前記スロットに2m本(mは1以上の自然数)ずつ収容されている請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記第一巻線を構成する導体線は、前記第二巻線を構成する導体線よりも断面積が小さい請求項1~3の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項5】
少なくとも前記第一巻線を構成する導体線は、平板状の複数の導体(58a)が絶縁された状態で積層されてなる積層導体線(58)である請求項1~4の何れか一項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両や電気自動車等の車両に搭載されて電動機や発電機として用いられる回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車用の電動機(モータ)は、低速から高速まで広い範囲で高トルク及び高効率特性を発揮することが望まれる。このような用途に対して、特許文献1~3には、電動機のステータ巻線の結線をスター結線(Y結線)とデルタ結線(Δ結線)とに切り替えることにより、低速領域と高速領域のそれぞれにおいて最適特性を発揮させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭64-34198号公報
【文献】特開2014-54094号公報
【文献】特許第3948009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなY-Δ結線切り替え方式が採用された電動機は、低速領域では、Y結線を選択し、十分に高い電圧を印加することで同一電流に対して大きいトルクを得ることができる。また、電動機のインピーダンスが周波数に比例して大きくなることから、周波数が高くなる高速領域では電流が流れ難くなるため、インピーダンスの低いΔ結線を選択することで、電流を流れ易くすることができる。したがって、Δ結線においては、高速、低トルク領域の高特性が重要となり、Y結線においては、最大出力の上昇が望まれる。
【0005】
また、ステータ巻線への通電時に必然的に発生する熱の問題の改善も望まれる。この通電時に発生する熱は銅損であるため、U、V、W相の巻線が並列接続されるΔ結線よりも、2つの相が直列接続されるY結線の方が大きいので、特にY結線側で問題となり易い。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱特性に優れ、低トルク域での高効率化を図ることができる回転電機を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明は、
周方向に配列された複数の磁石収容孔(22)が設けられたロータコア(21)と、前記磁石収容孔に埋設された永久磁石(23)と、を有するロータ(20)と、
前記ロータコアに径方向に対向して配置され、周方向に配列された複数のスロット(34)が設けられたステータコア(31)と、前記スロットに収容されて前記ステータコアに巻装されている複数相(U相,V相,W相)のステータ巻線(40)と、を有するステータ(30)と、
を備えた回転電機(1)において、
前記ステータ巻線は、デルタ結線された高速出力用の複数の第一巻線(41)と、前記第一巻線同士を接続する各接続点(43U,43V,43W)と各相端子(44U,44V,44W)との間に接続可能に配置された低速出力用の複数の第二巻線(42)と、を有し、
前記回転電機は、各前記接続点と各前記相端子との接続を直接接続する状態と前記第二巻線を介して接続する状態のどちらかに切り替える切り替え部(45U,45V,45W)を備え、
前記第一巻線は、前記スロット内でロータ対向面側に設置され、
前記第二巻線は、前記スロット内で反ロータ対向面側に設置され、
前記第一巻線には、駆動回路が発生させた電流の基本制御波形である1次波形に、前記第一巻線内で発生する電流の3次及び3+6n次(nは1以上の自然数)のうちの1つ又は2以上が合成された高調波波形が重畳した波形の電流が流れ、
前記高調波波形は、前記1次波形が正の値をとる間の電流の総和が正であり、前記1次波形が負の値をとる間の電流の総和が負である特定高調波波形である。
【0008】
この構成によれば、デルタ結線された第一巻線同士を接続する各接続点と各相端子との接続を、切り替え部により直接接続する状態に切り替えたときには、ステータ巻線は高速出力用としてデルタ結線された状態になる。また、デルタ結線された第一巻線同士を接続する各接続点と各相端子との接続を、切り替え部により第二巻線を介して接続する状態に切り替えたときには、ステータ巻線は低速出力用としてスター・デルタ結線された状態になる。
【0009】
そして、スター・デルタ結線に切り替えられたステータ巻線に対して通電されると、デルタ結線された第一巻線に流れる電流は、第二巻線に流れる電流よりも少ないため、第一巻線の銅損による発熱も少ない。即ち、銅損は、負荷電流の2乗に比例することから、第一巻線の発熱量は、第二巻線の発熱量の1/3程度となる。本発明では、発熱量の小さい第一巻線が、ステータコアのロータ対向面側に設置され、発熱量の大きい第二巻線が、ステータコアの反ロータ対向面側に設置されている。これにより、ステータ巻線は、発熱量の大きい第二巻線が、ステータコアの熱容量の大きいバックコア部側に寄せられていることから、熱引きが良く冷め易くなるので、熱特性に優れたものとなる。
【0010】
また、磁石埋め込み型のロータが採用されている場合には、発熱量の小さい第一巻線が、ステータコアのロータ対向面側に設置されていることから、磁石への熱の影響が少なくなるため、磁石の減磁を抑制することができる。また、磁石埋め込み型モータのトルクは、d軸の磁石磁束Ψにq軸の電流を掛けた磁石トルクと、q軸のインダクタンスとd軸のインダクタンスの差にd、q軸の電流を掛けたリラクタンストルクの差であるが、低トルク域では、弱め界磁電流、及び弱め界磁磁束が低電流のため利用されないため、d、q軸の電流を使うリラクタンストルクよりも、q軸電流を使う磁石トルクの方に、総トルクに対する比率は偏りがちである。ここで、デルタ結線された高速出力用の第一巻線をステータコアの、ロータ内磁石と距離が近く磁気抵抗が小さいロータ対向面側に集中させることにより、磁石磁束Ψを多く出力させることができるので、低トルク領域での高効率化を図ることができる。また、低速出力用の第二巻線をステータコアの反ロータ対向面側に集中させることにより、特にd、q軸の電流を強く流す低速大トルク出力時に有効なリラクタンストルクとなるインダクタンスを維持し、大電流適応時に過大な電圧源と成り得る磁石磁束Ψの必要以上の増加を抑制することができる。
【0011】
なお、この欄及び特許請求の範囲で記載された各部材や部位の後の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的な部材や部位との対応関係を示すものであり、特許請求の範囲に記載された各請求項の構成に何ら影響を及ぼすものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る回転電機の軸方向に沿う模式断面図である。
図2】実施形態1に係るステータの斜視図である。
図3】実施形態1においてステータコアのスロットに導体セグメントを挿入する状態を示す説明図である。
図4】実施形態1において用いられる導体セグメントの断面図である。
図5】実施形態1に係るロータ及びステータの1磁極分の部分平面図である。
図6】実施形態1に係るステータ巻線の結線図である。
図7】実施形態1の回転電機においてステータ巻線に流される電流の波形を示す説明図である。
図8】実施形態1の回転電機においてd軸磁路及びq軸磁路の磁束の流れを示す説明図である。
図9】実施形態1の回転電機においてステータ巻線に特定高調波波形電流が流されたときのステータ磁束を示す説明図である。
図10】実施形態1の回転電機においてステータ巻線がΔ結線された状態で作動した場合とスター・デルタ結線された状態で作動した場合の回転数とトルクの関係を示すグラフである。
図11】実施形態2に係るステータの1磁極分の部分平面図である。
図12】実施形態3に係るステータの1磁極分の部分平面図である。
図13】実施形態3に係るステータ巻線の第一巻線を構成する積層導体線の断面図である。
図14】変形例1に係るステータ巻線の結線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る回転電機の実施形態について図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
〔実施形態1〕
本実施形態に係る回転電機1は、車両用電動機(モータ)として使用されるものである。この回転電機1は、図1に示すように、ハウジング10と、ハウジング10に回転可能に支持された回転軸13と、埋設された複数の永久磁石23により周方向に極性が交互に異なる磁極が形成され界磁として働くロータ20と、ステータコア31及びステータ巻線40を有し電機子として働くステータ30と、を備えている。
【0015】
ハウジング10は、有底筒状の一対のハウジング半部材10a,10bにより、両端が閉口した概ね円筒状に形成されている。一対のハウジング半部材10a,10bは、開口部同士が対向する状態でボルト11により締結されることで一体化されている。回転軸13は、ハウジング10の軸方向両側の壁部に、一対の軸受け12,12を介して回転可能に支持されている。
【0016】
ロータ20は、ハウジング10に回転可能に支持された回転軸13の軸方向中央部外周に、回転軸13と一体回転可能に嵌合固定されている。このロータ20は、図5(一部を示す部分平面図)に示すように、周方向に配列された複数の磁石収容孔22、第1フラックスバリア25及び第2フラックスバリア26等を有するロータコア21と、各磁石収容孔22にそれぞれ埋設された複数の永久磁石23と、を備えている。
【0017】
ロータコア21は、中央に貫通孔21aを有する円環状の鋼板を軸方向に複数積層して厚肉円筒状に形成されており、回転軸13の外周に貫通孔21aが嵌合固定されている。このロータコア21の外周部には、軸方向に貫通する複数対(実施形態1では8対)の磁石収容孔22が周方向に所定距離を隔てて設けられている。磁石収容孔22は、2個で対をなし外周側に向かうにつれて互いに離間するようにV字状に配置された複数対のもので構成されている。一対の磁石収容孔22,22の間には、径方向に延びる中央ブリッジ24が設けられている。
【0018】
各磁石収容孔22には、ロータ20の回転軸線Oと直角方向の断面形状が長方形の永久磁石23が1個ずつ収容されている。実施形態1の場合、V字状に配置された一対の磁石収容孔22,22に収容された一対の永久磁石23,23により1つの磁極が形成されている。この場合、8対の永久磁石23,23によって、周方向に極性が交互に異なる複数の磁極(実施形態1では8極(N極:4、S極:4))が形成されている。なお、ロータ20の1つの磁極において、一対の磁石収容孔22,22及び一対の永久磁石23,23は、ロータ20の回転軸線Oと磁極中心とを通る磁極中心線C1に対して線対称となる状態(外周側が開くV字状態)に配置されている。
【0019】
ロータコア21の周方向に隣接し極性が異なる2つの磁極の間には、或る1つの磁極間から他の磁極間へ磁束が流れる部位となるq軸コア部27が形成されている。そして、各磁石収容孔22に収容された永久磁石23と周方向に対向するq軸コア部27との間には、磁気的空隙部としての第1フラックスバリア25がそれぞれ磁石収容孔22と連続して一体に設けられている。
【0020】
また、対をなす磁石収容孔22,22のそれぞれの磁極中心側には、それぞれの磁石収容孔22の磁極中心側端部から回転軸線O側に広がる対をなす第2フラックスバリア26,26が設けられている。対をなす第2フラックスバリア26,26の間には、対をなす磁石収容孔22,22の間に形成された中央ブリッジ24が回転軸線Oに向かって延長するように形成されている。
【0021】
ステータ30は、図2に示すように、ロータ20の外周側に径方向に対向して配置された円環状のステータコア31と、ステータコア31に巻装された複数相(U相、V相、W相)のステータ巻線40とを備えている。このステータ30は、ステータコア31の内周面がロータ20の外周面と所定のエアギャップを介して径方向に対向するようにして、ハウジング10の内周に固定されている。この場合、ステータコア31が、一対のハウジング半部材10a,10bによって軸方向に挟持固定されている(図1参照)。
【0022】
ステータコア31は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層して円環状に形成されている。このステータコア31は、外周側に位置する円環状のバックコア部32と、バックコア部32から径方向内方へ突出し周方向に所定距離を隔てて配列された複数のティース33とを有する。隣り合うティース33の周方向に対向する側面同士の間には、ステータコア31の内周面に開口し径方向に延びるスロット34が形成されている。
【0023】
スロット34は、ロータ20の磁極数(8磁極)に対し、ステータ巻線40の一相あたり2個の割合で形成されており、スロット倍数が2とされている。本実施形態の場合、スロット34の数(スロット数Sn)は、スロット倍数S(Sは正の整数)を2とし、ロータ20の磁極数Mn(Mnは正の整数)を8極とし、相数p(pは正の整数)を3相とすると、Sn=S×Mn×p=2×8×3=48になる。
【0024】
ステータコア31のスロット34に巻装されたステータ巻線40は、接合端部同士が互いに接合された複数のU字形状の導体セグメント50(図3参照)により構成されている。導体セグメント50は、図4に示すように、例えば銅やアルミ等の導電性材料よりなる矩形断面の導体56と、内層57a及び外層57bからなり導体56の外周面を覆う2層構造の絶縁皮膜57とからなる角線をU字形状に折り曲げて形成されている。
【0025】
U字形状に形成された導体セグメント50は、図3に示すように、互いに平行な一対の直線部51、51と、一対の直線部51、51の一端を互いに連結するターン部52とからなる。ターン部52の中央部には、ステータコア31の軸方向端面31aに沿って端面31aと平行に延びる頭頂部53が設けられており、頭頂部53の両側には、ステータコア31の端面31aに対して所定の角度で傾斜した傾斜部54が設けられている。なお、符号39は、ステータコア31とステータ巻線40との間を電気絶縁するインシュレータである。
【0026】
図3には、同一相の隣接する2個のスロット34A、34Bに挿入配置される2個で一組の導体セグメント50A、50Bが示されている。この場合、2個の導体セグメント50A、50Bは、それらの一対の直線部51、51が、同一のスロット34ではなく、隣接した2個のスロット34A、34Bに別々に軸方向一端側から挿入される。即ち、図3の右側にある2個の導体セグメント50A、50Bにおいて、一方の導体セグメント50Aは、一方の直線部51が一つのスロット34Aの最外層(第6層)に挿入され、他方の直線部51がステータコア31の反時計回り方向に向けて1磁極ピッチ(NS磁極ピッチ)離れた他の図示しないスロットの第5層に挿入される。
【0027】
そして、他方の導体セグメント50Bは、一方の直線部51がスロット34Aと隣接したスロット34Bの最外層(第6層)に挿入され、他方の直線部51がステータコア31の反時計回り方向に向けて1磁極ピッチ(NS磁極ピッチ)離れた他の図示しないスロットの第5層に挿入される。即ち、2個の導体セグメント50A、50Bは、周方向に1スロットピッチずれた状態に配置される。このようにして、全スロット34に対して、2個で一組の導体セグメント50A、50Bが2層ずつ順番に挿入配置されることにより、4以上の偶数本の導体セグメント50の直線部51が挿入配置される。本実施形態の場合には、各スロット34内に、直線部51(第一巻線41、第二巻線42)が径方向1列に6本ずつ収容されている(図5参照)。
【0028】
スロット34から軸方向他端側へ延出した一対の直線部51、51の開放端部は、ステータコア31の端面31aに対して所定の角度をもって斜めに斜行するように互いに周方向反対側へ捻られて、概ね半磁極ピッチ分の長さの斜行部55(図2参照)が形成されている。そして、ステータコア31の軸方向他端側において、導体セグメント50の所定の斜行部55の端末部同士が溶接等で接合されることにより、所定のパターンで電気的に接続される。即ち、所定の導体セグメント50同士が接続されることにより、ステータコア31のスロット34に沿って周方向に渦巻き状に波巻きで巻回された3相(U相、V相、W相)の相巻線を有するステータ巻線40が形成される。
【0029】
なお、ステータ巻線40の各相について、基本となるU字形状の導体セグメント50により、ステータコア31の周りを6周する巻線(コイル)が形成される。しかし、ステータ巻線40の各相について、出力用引き出し線及び中性点用引き出し線を一体に有するセグメント、並びに1周目と2周目、・・・、5周目と6周目をそれぞれ接続するターン部を有するセグメントは、基本となる導体セグメント50とは異なる異形セグメントで構成される。これら異形セグメントを用いて、ステータ巻線40の各相巻線が所定の状態に結線される。
【0030】
実施形態1のステータ巻線40は、図6に示すように、デルタ結線された高速出力用の複数(3本)の第一巻線41と、第一巻線41同士を接続する各接続点43U,43V,43Wと各相端子44U,44V,44Wとの間に接続可能に配置された低速出力用の複数(3本)の第二巻線42と、各接続点43U,43V,43Wと各相端子44U,44V,44Wとの接続を直接接続する状態と第二巻線42を介して接続する状態のどちらかに切り替える切り替え部45U,45V,45Wと、を有する。
【0031】
切り替え部45U,45V,45Wは、図示しないコントローラによってオンオフ制御されるそれぞれ2個のスイッチにより構成されており、それぞれ2個のスイッチは、互いに反転動作をし、同時にオンすることがないように設定されている。この切り替え部45U,45V,45Wによって、各接続点43U,43V,43Wと各相端子44U,44V,44Wとを直接接続する状態に切り替えられたときには、ステータ巻線40は高速出力用のデルタ結線(Δ結線)となる。また、切り替え部45U,45V,45Wによって、各接続点43U,43V,43Wと各相端子44U,44V,44Wとの接続を第二巻線42を介して接続する状態に切り替えられたときには、ステータ巻線40は低速出力用のスター・デルタ結線(Y-Δ結線)となる。
【0032】
なお、ステータ巻線40が切り替え部45U,45V,45Wによって低速出力用のY-Δ結線に切り替えられた状態で通電すると、Δ結線された第一巻線41に流れる電流は、第二巻線42に流れる電流よりも少ないため、第一巻線41の銅損による発熱も少ない。即ち、銅損は、負荷電流の2乗に比例することから、第一巻線41の発熱量は、第二巻線42の発熱量の1/3程度となる。
【0033】
この場合、発熱量の少ない第一巻線41は、ステータコア31のロータ対向面側(内周面側)に設置され、第一巻線41の約3倍の発熱量となる第二巻線42は、ステータコア31の反ロータ対向面側(外周面側)に設置されている。具体的には、図5に示すように、各スロット34に径方向1列に6本ずつ収容されたステータ巻線40を構成する導体線のうち、第一巻線41は、ロータ対向面側(内周面側)の2本の導体線であり、第二巻線42は、反ロータ対向面側(外周面側)の4本の導体線である。即ち、第一巻線41を構成する導体線は、各スロット34に2m本(実施形態1ではm=1で2本)ずつ収容されている。これにより、発熱量の多い第二巻線42が、ステータコア31の熱容量の大きいバックコア部32側に寄せられていることから、ステータ巻線40の熱引きが良く冷め易くなるため、熱特性の向上が図られている。
【0034】
このステータ巻線40には、駆動回路60から3相交流電圧が印加される。この駆動回路60は、ロータ20の回転位置を検出する図示しない位置センサや図示しないコントローラから出力された信号に基づいて、ステータ巻線40から所望の回転磁界が発生するように、3相の相巻線に電圧を印加する。実施形態1では、駆動回路60として3相交流電圧を発生する周知のインバータが採用されている。
【0035】
なお、実施形態1の場合、Δ結線された第一巻線41には、図7に示すように、基本制御波形である1次波形(破線)に、3次及び3+6n次(nは1以上の自然数)のうちの1つ又は2以上が合成された高調波波形(実線)であって、1次波形が正の値をとる時の電流の総和が正であり、1次波形が負の値をとる時の電流の総和が負である高調波波形(以下、単に「特定高調波波形」という。)が重畳した波形(一点鎖線)の電流が流れる。実施形態1では、特定高調波波形として、3次と9次(n=1)が合成された高調波波形が採用されている。Δ結線された高速出力用の第一巻線41を、元々高い磁石磁束Ψが存在するステータコア31のロータ対向面側に集中させることにより、磁石磁束Ψを多く出力させることができるので、低トルク領域での高効率化を図ることが可能となる。
【0036】
以下、3次及び3+6n次の高調波を利用した磁石磁束Ψの増加について説明する。図8には、ロータ20とステータ30間において、d軸を流れる磁束のd軸磁路が実線で示され、q軸を流れる磁束のq軸磁路が破線で示されている。また、ステータ30に記載された実線矢印は、ステータ巻線40に1次波形電流が流れたときにステータ30に発生するステータ磁束を示し、実線矢印の長さが長いものほど磁束の強さが強いことを表す。
【0037】
図9には、ステータ巻線40に上記の特定高調波波形電流を流したきにステータ30に発生するステータ磁束が実線矢印で示されている。この場合、周方向に2スロットずつ配置されている各相巻線の周方向両側で互いに径方向逆方向に流れるステータ磁束が発生する。
【0038】
また、1次波形電流によりq軸上に発生するステータ磁束と、特定高調波波形電流によりq軸上に発生するステータ磁束が、互いに径方向逆方向を向き、q軸上で互いに打ち消し合うことによって、d軸磁路上の磁気抵抗が低下し、d軸磁路上での磁束が通り易くなる。よって、特定高調波波形を1次波形に重畳させた波形の電流をステータ巻線40に流すことで、磁石磁束Ψをより多く出力させることができる。
【0039】
以上のように構成された実施形態1の回転電機1によれば、ステータ巻線40のうち、Δ結線されて発熱量の小さい第一巻線41が、ステータコア31のロータ対向面側(内周側)に設置され、発熱量の大きい第二巻線42が、ステータコアの反ロータ対向面側(外周側)に設置されている。そのため、ステータ巻線40は、発熱量の大きい第二巻線42が、ステータコア31の熱容量の大きいバックコア部32側に寄せられていることから、熱引き良く冷め易くなるので、熱特性に優れたものとなる。また、発熱量の小さい第一巻線41が、ステータコア31のロータ対向面側に設置されていることから、永久磁石23への熱の影響が少なくなるため、永久磁石23の減磁を抑制することができる。
【0040】
また、ステータ巻線40のΔ結線された第一巻線41には、基本制御波形である1次波形に、上記の特定高調波波形が重畳した波形の電流が流れる。この特定高調波の電流の作用により、磁石磁束Ψが上昇する。また、Δ結線された高速出力用の第一巻線41を、元々高い磁石磁束Ψが存在するステータコア31のロータ対向面側に集中させることにより、磁石磁束Ψを多く出力させることができるので、図10に示すように、低トルク領域での高効率化を図ることができる。さらに、低速出力用の第二巻線42をステータコア31の反ロータ対向面側に集中させることにより、磁石磁束Ψの増加を抑制し、インダクタンスを増加させることができる。よって、ステータ巻線40がスター・デルタ結線された状態で作動した場合には、図10に示すように、低速領域での最大出力の上昇を実現できる。
【0041】
また、実施形態1では、ステータ巻線40は、スロット34に軸方向に挿入され且つステータコア31の軸方向端面から外部に延出した開放端部の所定の端末同士が互いに接合されている複数の導体セグメント50により構成されている。そのため、ステータ巻線40をステータコア31に巻装する際に、ステータコア31のロータ対向面側に設置される第一巻線41と、ステータコア31の反ロータ対向面側に設置される第二巻線42を、明瞭に区分して巻装することができる。これにより、導体セグメント50の端末同士を接合する作業を容易に行うことができる。さらに、第一巻線41を構成する導体線と第二巻線42を構成する導体線の種類や太さの変更も容易になるので、それぞれに必要な特性に合わせた選択が可能となる。
【0042】
また、実施形態1では、スロット34には、ステータ巻線40を構成する矩形断面の導体線が径方向1列に偶数本ずつ収容されており、第一巻線41を構成する導体線は、スロット34に2m本(実施形態1ではm=1で2本)ずつ収容されている。これにより、ステータコア31のロータ対向面側に設置される第一巻線41と、ステータコア31の反ロータ対向面側に設置される第二巻線42との区分を明瞭にすることができる。
【0043】
〔実施形態2〕
実施形態2の回転電機は、ステータ巻線40の第一巻線41を構成する導体線は、第二巻線42を構成する導体線よりも断面積が小さくされている点で、実施形態1のものと異なり、その他の構成は同じである。よって、実施形態1と共通する要素については、同じ符号を付して詳しい説明は省略し、以下、異なる点及び重要な点について図11を参照して説明する。
【0044】
実施形態2では、実施形態1と同様に、ステータコア31の各スロット34内に、ステータ巻線40を構成する矩形断面の導体線(第一巻線41、第二巻線42)が径方向1列に6本(偶数本)ずつ収容されている。そして、各スロット34内において、Δ結線された発熱量の少ない第一巻線41は、ステータコア31のロータ対向面側(内周面側)に2本ずつ収容され、第一巻線41の約3倍の発熱量となる第二巻線42は、ステータコア31の反ロータ対向面側(外周面側)に4本ずつ収容されている。
【0045】
但し、実施形態2の場合、第一巻線41の導体線は、第二巻線42の導体線よりも断面積が1/2程度に小さくされている。即ち、第一巻線41の導体線は、周方向幅が第二巻線42の導体線の周方向幅と同じであるが、径方向幅が第二巻線42の導体線の径方向幅の1/2程度に小さくされて、扁平状に形成されている。
【0046】
以上のように構成された実施形態2の回転電機によれば、ステータ巻線40のうち、Δ結線されて発熱量の小さい第一巻線41が、ステータコア31のロータ対向面側(内周側)に設置され、発熱量の大きい第二巻線42が、ステータコアの反ロータ対向面側(外周側)に設置されている。そのため、ステータ巻線40の熱特性に優れ、低トルク域での高効率化を図り得るなど、実施形態1と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0047】
また、実施形態2では、ステータ巻線40の第一巻線41を構成する導体線は、第二巻線42を構成する導体線よりも断面積が小さくされているため、第一巻線41の導体線に発生する渦電流損を低減することができる。第一巻線41が設置されているステータコア31のロータ対向面側(内周面側)は、ロータ20の永久磁石23に近いため、磁石磁束Ψが大きくなると同時に漏れ磁束も大きくなる。そのため、実施形態2のように、第一巻線41の導体線の断面積を小さくすることで渦電流損を低減することができるので、さらに低トルク域での高効率化を図ることができる。
【0048】
なお、実施形態2では、第一巻線41の導体線は、扁平状に形成されて第二巻線42の導体線よりも断面積が小さくされていたが、これに代えて、第一巻線41を並列接続された複数の並列巻線で構成し、各並列巻線の断面積を第二巻線42の導体線の断面積よりも小さくするようにしてもよい。
【0049】
〔実施形態3〕
実施形態3の回転電機は、ステータ巻線40の第一巻線41を構成する導体線として積層導体線58が採用されている点で、実施形態2のものと異なり、その他の構成は同じである。よって、実施形態2と共通する要素については、同じ符号を付して詳しい説明は省略し、以下、異なる点及び重要な点について図12及び図13を参照して説明する。
【0050】
実施形態3の第一巻線41を構成する積層導体線58は、導電性材料よりなる平板状の導体58aと、導体58aの外周面を覆う第1絶縁皮膜58bとからなる2本の平角線が絶縁された状態で積層されてなり、さらに2本の平角線の外周面を覆う第2絶縁皮膜58cを有する。この積層導体線58は、延伸方向両端で積層された導体58a,58a同士が接合されている。この場合、導体58aの断面積は、第二巻線42を構成する導体線の導体56の断面積の1/2程度に小さくされている。よって、1本の積層導体線58を構成する2本の導体58aの総断面積は、第二巻線42の1本の導体線を構成する導体56の断面積と概ね同じである。
【0051】
以上のように構成された実施形態3の回転電機によれば、実施形態1と同様の作用及び効果を得ることができるのに加え、実施形態2と同様に、第一巻線41の積層導体線58に発生する渦電流損を低減することができるので、さらに低トルク域での高効率化を実現することができる。なお、実施形態3の場合には、1本の積層導体線58の導体58aの総断面積は、第二巻線42の導体56の断面積と概ね同じに維持される。
【0052】
〔他の実施形態〕
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0053】
例えば、上記の実施形態では、ステータ巻線40の切り替え部45U,45V,45Wは、図示しないコントローラによってオンオフ制御されるそれぞれ2個のスイッチにより構成されていたが、図14に示す変形例1のように、上記のスイッチよりも安価なリレーを採用してもよい。この場合、各リレーは、図示しないコントローラによって制御され、各接続点43U,43V,43Wと各相端子44U,44V,44Wとの接続を、直接接続する状態と、第二巻線42を介して接続する状態のどちらかに切り替える。
また、上記の実施形態3では、第一巻線41だけに積層導体線58を採用していたが、第二巻線42にも積層導体線58を採用してもよい。
【0054】
また、上記の実施形態では、回転電機としての車両用発電機(モータ)に本発明を適用した例を説明したが、車両等において電動機や発電機として単独の機能で使用される回転電機、あるいは両方の機能を選択的に使用し得る回転電機に対して、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1…車両用電動機(回転電機)、 20…ロータ、 31…ステータコア、 34…スロット、 40…ステータ巻線、 41…第一巻線、 42…第二巻線、 43U,43V,43W…接続点、 44U,44V,44W…相端子、 45U,45V,45W…切り替え部、 50…導体セグメント、 58…積層導体線、 58a…導体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14