(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】多能性幹細胞からT細胞を入手するための新規な方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240402BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240402BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240402BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240402BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240402BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240402BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240402BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240402BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240402BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20240402BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240402BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240402BHJP
C12N 15/867 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17
A61P31/00
A61P37/06
A61P29/00
A61P35/00
A61P37/08
A61P37/02
C12N5/0783
C12N5/0789
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/867 Z
(21)【出願番号】P 2020550615
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 FR2019050667
(87)【国際公開番号】W WO2019180394
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-21
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516086358
【氏名又は名称】サントル ナショナル デ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】516200884
【氏名又は名称】センター ホスピタリア ユニバーシタイア デ ナント
(73)【特許権者】
【識別番号】506152885
【氏名又は名称】ナント ユニベルシテ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ギロノー,キャロル
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】フリッペ,レア
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/100403(WO,A1)
【文献】J. Immunol., 2012, Vol.189, No. 3, pp. 1228-1236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞から調節性T細胞(Treg)を含むT細胞の集団を入手するための方法であって、以下の段階:
a)少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手することを可能にする条件下で多能性幹細胞を培養する段階と;
b)前記胚様体を分離する段階と;
c)少なくとも1つのNotchリガンドとともに前記分離された胚様体を培養する段階と;
d)少なくとも1つの細胞でFoxp3をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むベクターの導入を、段階c)中に、段階c)の第8日(Dd8)および第12日(Dd12)の間で実施する段階
を含む、方法。
【請求項2】
段階a)で得られた前記胚様体が、少なくとも15%のCD34+CD43+細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階a)を少なくとも9日間実施する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
段階a)を、BMP、FGF2、VEGF、SCF、Flt3-L、および/またはIL-3を含む無血清培地中で実施する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
段階b)の終了時に得られた、前記分離された胚様体を、段階c)で、少なくとも15日間、SCF、Flt3-Lおよび/またはIL-7を含む培地中で培養する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
段階d)の前記ベクターが、レトロウイルスである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
段階d)の前記ベクターの前記核酸配列が、目的のさらなる核酸配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記目的のさらなる核酸配列が、キメラ抗原受容体(CAR)、Mcl-1、Bcl-xL、およびHeliosをコードする核酸から選択される、請求
項7に記載の方法。
【請求項9】
前記多能性幹細胞が、ヒト人工多能性幹細胞またはヒト胚性幹細胞である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法により得られたT細胞の集団が、調節性T細胞(Treg)、エフェクターT細胞(Teff)、およびCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
調節性T細胞(Treg)、エフェクターT細胞(Teff)、およびCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞から選択される細胞集団を単離する追加の段階を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法により得られたT細胞の集団が、CD8+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞およびCD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞、CD8+エフェクターT細胞およびCD4+エフェクターT細胞、ならびにCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法により入手されたT細胞の集団であって、CD8+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞およびCD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞、CD8+エフェクターT細胞およびCD4+エフェクターT細胞、ならびにCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含むことを特徴とする、T細胞の集団。
【請求項14】
薬物としての使用のための、請求項13に記載のT細胞の集団および薬学的に許容可能なキャリアを含む、医薬組成物。
【請求項15】
それを必要とする患者における、感染症、自己免疫疾患、炎症性疾患、癌、アレルギー、移植片拒絶反応、または移植片対宿主
病の治療における使用のための、請求項13に記載のT細胞の集団および薬学的に許容可能なキャリアを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学の技術分野に関するものである。より具体的には、本発明は、多能性幹細胞からT細胞、特に調節性T細胞(Treg)および/またはエフェクターT細胞(Teff)を入手するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Tリンパ球またはT細胞は、二次免疫応答において中心的な役割を担う細胞である。その名称は、胸腺で起こる分化に由来する。これらの細胞が胸腺に入ると、Notch1を発現する前駆細胞と、胸腺に強力かつ独占的に発現するNotchデルタ-1およびデルタ-4リガンドとの相互作用のため、それらはBリンパ球に分化する能力を急速に失う(Cavazzana-Calvo 2007)。T細胞では様々な亜集団、特に調節性T細胞「Treg」、エフェクターT細胞「Teff」、およびナチュラルキラーTリンパ球「NKT」が同定されている。
【0003】
Tリンパ球は、例えば、CD3、CD4、CD8、および/またはT細胞受容体「TCR」の発現によって同定され得る。
【0004】
Treg細胞と呼ばれる調節性T細胞は通常、造血の過程でそれらの分化に不可欠な転写因子である、Foxp3(フォークヘッドボックスP3)の発現を特徴とする。Treg細胞は、マウス、ラット、およびヒトでCD4+T細胞亜集団の5~10%を占め、このTreg細胞の約1~2%が末梢循環中を循環している(Haque 2016)。Treg細胞は免疫応答を制御する能力が高いことから、特に移植、移植片、または自己免疫および炎症性疾患の治療で、望ましくない免疫応答を制御するツールであると考えられてきた。このため、既に臨床試験が実施されており、例えば、1型糖尿病、慢性炎症性疾患の患者における、および腎移植または肝移植を受けた患者における同種造血幹細胞の移植、臓器移植を実施した後のGvHD(移植片対宿主病)の治療において、Tregを用いる細胞療法について有望な結果が示されている(Passerini 2017)。
【0005】
エフェクターTリンパ球は、様々なサイトカインを産生し、細胞毒性活性を示し、生物体に対して異物と見なされる細胞を認識し、破壊することが可能である。それらは、移植物の拒絶および腫瘍細胞またはウイルス感染細胞の細胞死に重要な役割を果たす。
【0006】
NKT細胞は末梢血Tリンパ球の約0.2%を占める。NKT細胞は、TCR発現または抗原に対する型特異的応答などのT細胞に特有の特徴、およびNK1.1またはCD56発現などの自然免疫のナチュラルキラー「NK」細胞に関連する特徴をともに示す点で特殊である(Kato 2018)。
【0007】
T細胞の治療的使用が急速に発展しつつある。このため、効果的なT細胞を、それらの治療応用を可能にする十分な量で入手できる培養方法が必要とされている。
【0008】
多能性細胞からT細胞を作製できるプロトコルがいくつか実現されており、具体的には、国際公開第2017/100403号、同第2014/165707号、同第2010/051634号、ならびにChangら(2014)、Leiら(2009)、およびHolmesら(2009)による科学刊行物に記載されている。
【0009】
多能性幹細胞の、例えばヒドロゲルマトリックスなどの生体材料中での、三次元での培養は、正常な胚発生の過程で起こる相互作用および物理的制約を厳密に再現できることがわかっている。これらの「改善された」条件により、生きた生物体中の発生および分化の過程で観察される表現型のより代表的な表現型を有する細胞集団が得られる。
【0010】
さらに、Notchリガンドを発現する細胞(細胞系OP9-DLL1およびOP9-DLL4)とともに培養したマウス人工多能性幹細胞に、レンチウイルスを介して、TCRの発現を可能にする遺伝子に関連するFOXP3遺伝子を導入することは、CD4+CD3+CD25+Foxp3+またはCD8+CD3+CD25+Foxp3+であり、TCR(TCR+)を有するTregの作製を可能にした(Haque 2012;Haque 2017)。マウスで得られたこれらの結果は、胸腺断片の使用を示唆し、それはヒトでの治療応用に不可能であると思われる。
【0011】
このため、多能性幹細胞からT細胞、特にTreg細胞を作製でき、ヒトの治療に直接使用でき、かつ胸腺断片を示唆しないプロトコルが必要とされている。
【0012】
さらに、現時点で本発明者らが知る限り、Teff細胞およびCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞の集団においてTCRの顕著な発現を得ることが可能な方法は公開されていない。
【0013】
さらに、Treg細胞、Teff細胞、およびCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を同時に含むT細胞集団を得ることが可能なプロトコルが必要とされている。
【0014】
このため、特に治療応用のために、大量に、T細胞、特にTreg細胞、Teff細胞、およびCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を入手できる簡便な方法が必要とされている。特に、例えば移植片拒絶反応、移植片対宿主病、自己免疫疾患、炎症性疾患、または癌を治療する細胞療法に使用できる、キメラ抗原受容体または「CAR」を発現するT細胞を多数入手できる簡便な方法が必要とされている。特に、例えば移植片拒絶反応または移植片対宿主病を治療する細胞療法に使用できる、キメラ抗原受容体または「CAR」、例えば抗HLA CARを発現するTreg細胞を多数入手できる簡便な方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、多能性幹細胞からT細胞集団を入手する方法、このようにして入手される集団、薬剤としての使用のためのこのようにして入手される集団、および免疫調節異常、例えば感染症、自己免疫疾患、炎症性疾患、癌、アレルギー、移植片拒絶反応、移植片対宿主病などに関連する病態の治療での使用のためのこのようにして入手され集団に関する。
【0016】
本発明の第一の目的は、多能性幹細胞からT細胞集団を入手する方法であって、以下の段階:
a)少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できる条件下で多能性幹細胞を培養する段階と;
b)上記胚様体を分離する段階と;
c)上記分離した胚様体を、好ましくは少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞との共培養で、少なくとも1つのNotchリガンドとともに培養する段階と;
d)段階c)中に、好ましくは細胞集団の少なくとも15%がCD43-表現型を示す場合に、Foxp3をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階
を含む、方法である。
【0017】
一実施形態では、段階a)で得られる胚様体は、少なくとも15%のCD34+CD43+細胞を含む。
【0018】
一実施形態では、段階a)を少なくとも9日間、好ましくは9~12日間実施する。
【0019】
一実施形態では、段階a)を、BMP、FGF2、VEGF、SCF、Flt3-L、および/またはIL-3を含む無血清培地中で実施する。
【0020】
一実施形態では、段階b)の終了時に得られた、分離された胚様体を、SCF、Flt3-L、および/またはIL-7を含む培地中で少なくとも15日間培養する。
【0021】
一実施形態では、Foxp3をコードする核酸配列を含むベクターを導入する段階d)を、段階c)の第Dd8日~第Dd12日に実施する。
【0022】
一実施形態では、段階d)のベクターは、レトロウイルス、好ましくはレンチウイルスである。
【0023】
一実施形態では、段階d)のベクターの核酸配列は、目的とするさらなる核酸配列を含む。
【0024】
一実施形態では、目的とするさらなる核酸配列は、キメラ抗原受容体(CAR)、Mcl-1、Bcl-xL、およびHeliosをコードする核酸から選択される。
【0025】
一実施形態では、多能性幹細胞は、ヒト人工多能性幹細胞またはヒト胚性幹細胞である。
【0026】
一実施形態では、本発明による方法は、T細胞を単離する段階をさらに含む。
【0027】
一実施形態では、本発明による方法は、調節性T細胞(Treg)、エフェクターTリンパ球(Teff)、およびCD4-CD8-CD3+TCRab+Tリンパ球から選択される細胞集団を単離する段階をさらに含む。
【0028】
本発明の1つの目的は、上記の請求項のいずれか1項の方法に従って入手可能なT細胞集団に関する。
【0029】
一実施形態では、本発明によるT細胞集団は、CD8+CD3+TCRab+Foxp3+および/またはCD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞、ならびに/あるいはCD8+および/またはCD4+エフェクターT細胞、ならびに/あるいはCD8-CD4-CD3+TCRab+T細胞を含む。
【0030】
本発明の1つの目的はまた、薬物として使用するための本発明によるT細胞集団に関する。
【0031】
したがって、本発明はまた、薬剤として使用するためのCD8+CD3+TCRab+Foxp3+および/またはCD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞、ならびに/あるいはCD8+および/またはCD4+エフェクターT細胞の集団に関する。
【0032】
本発明のまた別の目的は、免疫調節異常、例えば感染症、自己免疫疾患、炎症性疾患、癌、アレルギー、移植片拒絶反応、移植片対宿主病などに関連する病態の治療に使用するための、本発明によるT細胞集団に関する。
【0033】
したがって、本発明はさらに、免疫調節異常、例えば感染症、自己免疫疾患、炎症性疾患、癌、アレルギー、移植片拒絶反応、移植片対宿主病などに関連する病態の治療に使用するための、CD8+CD3+TCRab+Foxp3+および/またはCD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞、ならびに/あるいはCD8+および/またはCD4+エフェクターT細胞、ならびに/あるいはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞の集団に関する。
【0034】
定義
本発明では、「約」という用語は、ある数値が、測定装置の使用に関連する許容誤差、その数値を求めるのに用いる方法、または試験する集団内の細胞間および集団間に存在し得る変動に特有の変動を含むことを表すのに使用される。したがって、一実施形態では、ある数値の前にある「約」という用語は、この数値の±10%に対応する。
【0035】
本発明では、細胞に言及する場合の「胚様体」という用語は、分化を経た多能性幹細胞の集団を含む三次元構造または集合体を指す。胚様体を発生させる当該技術分野で公知の方法は、例えば、国際公開第2006021950号およびPettinato(Pettinato et al.2015.Engineering Strategies for the Formation of Embryoid Bodies from Human Pluripotent Cells.Stem Cells Dev.24(14):1595-609)に記載されている。
【0036】
本発明では、「ベクター」という用語は、宿主細胞内に送達されるポリヌクレオチドを含む高分子または分子の複合体を指す。一実施形態では、ベクターは、標的宿主細胞に特異的な抗体を運搬する、アデノウイルスベクター、プラスミド、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ハイブリッドアデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、ワクチンベクター、または装飾ペグ化リポソームを含む群から選択される。一実施形態では、ベクターはウイルス、具体的にはレトロウイルス、より具体的にはレンチウイルスである。「プラスミド」という用語は、染色体DNAから分離された染色体外DNA分子であり、染色体DNAとは独立に複製できる、一般的なタイプのベクターを指す。いくつかの場合には、それは環状かつ二本鎖である。
【0037】
本発明では、特定のタンパク質をコードする、「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「コード領域」、「核酸配列」という用語は、転写され任意選択で遺伝子産物、例えばポリペプチドに翻訳もされる、核酸分子のことである。コード領域は、cDNA、ゲノムDNA、またはRNAの形態で存在し得る。DNAの形態で存在する場合、核酸分子は一本鎖(すなわち、センス鎖)または二本鎖であり得る。
【0038】
本発明では、「形質導入」という用語は、「形質導入する」細胞集団の少なくとも1つの細胞中に目的とする核酸配列を含むベクターを導入する1つの様式を指すのに使用される。より具体的には、「形質導入」という用語は、細胞集団の少なくとも1つの細胞中への目的とする核酸配列を含むウイルスベクター、好ましくはレトルトウイルスベクター、好ましくはレンチウイルスベクターの導入を指す。
【0039】
本発明では、「Foxp3」という用語は、フォークヘッドボックスP3遺伝子(ヒトでは公式記号FOXP3、ID:50943)、ならびにこの遺伝子によってコードされるmRNAおよびタンパク質を指す。この遺伝子から発現されるタンパク質は、FOXタンパク質ファミリーに属する転写因子である。それはscurfinとも呼ばれる。
【0040】
本発明では、「表現型」という用語は、特に細胞表面、または集団内の一連の細胞での特定のマーカーの有無を指す。例えば、「CD34+CD43+」表現型は、CD34およびCD43を発現する、細胞または集団内の一連の細胞を指す。「CD43-」は、CD43を発現しない、細胞または集団内の一連の細胞を指す。Ly-48、ロイコシアリン、シアロフォリン、白血球シアロ糖タンパク質、およびW3/13としても知られるCD43は、O-グリコシル化部位およびシアリル化部位を多数含むI型膜貫通糖タンパク質である。その表現型は、当該技術分野で公知の手段によって同定できる。例えば、アロフィコシアニン(APC)にコンジュゲートされたCD43特異的抗体を用いて、フローサイトメトリーにより細胞集団内のCD43発現を測定し、かつ「CD43-」または「CD43+」表現型を同定し得る。別の例では、CD34マーカーを有する細胞に結合し、かつフローサイトメトリーによって定量化できる、フィコエリトリン-シアニン7(PE-Cy7)複合体にコンジュゲートされたCD34特異的抗体を用いることにより、「CD34+」表現型を同定し得る。「gp105-120」とも呼ばれるCD34は、シアロムチンファミリーに属する、約105~120kDの膜貫通リン糖タンパク質である。
【0041】
本発明では、ある数値の前にある文字「D」は、本発明の方法の細胞培養の第一段階(造血幹細胞を含む胚様体を入手する段階)中の特定の日を指す。したがって、D0は第一段階の開始時に対応し、D1は第一段階のD0の後の日を指すなどとなる。ある数値の前にある文字「Dd」は、本発明の方法の細胞培養の第二段階(T細胞への分化の段階)中の特定の日を指す。したがって、Dd0は第二段階の開始時、Dd1は第二段階のDd0の後の日などである。
【0042】
本発明では、「治療」という用語は、ある病態によって引き起こされる、またはそれを原因とする症状の治療、予防、遅延、または軽減を指す。具体的には、「治療」という用語は、病態およびそれに関連する症状の進行を制御することを含む。免疫調節異常に関連する病態の治療の効果は、望ましくない免疫応答の減少または免疫応答低下の増大に対応する。より一般的には、免疫調節異常に関連する病態の治療は、免疫ホメオスタシスを回復させる(すなわち、免疫応答が強すぎる場合にはその強度を低下させる、または免疫応答が弱すぎる、もしくは全くみられない場合にはその大きさを増大させる)ことができる。「抗拒絶反応治療」という用語は、移植片拒絶反応を予防する治療(移植片拒絶反応の治療)を指す。「抗癌治療」という用語は、癌の治療を指す。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】特定の実施形態による細胞分化の実験プロトコルの略図である。培地の組成は実験の部に明記される。Pre-T:胸腺前駆細胞;SPI Pre-T:シングルポジティブ未成熟胸腺前駆細胞;DP:ダブルポジティブ胸腺細胞;Treg:調節性T細胞。四角で囲った文字a、b、c、d、およびeはそれぞれ、培地の更新および/または細胞の再播種のプロトコルに対応し、その詳細は実験の部に記載される。
【
図2】D7、D8、およびD9の胚様体の細胞表現型;造血幹細胞マーカーであるCD34およびCD43の存在に関するバイパラメトリックヒストグラムである。A:D7での測定。B:D8での測定。C:D9での測定。
【
図3】分化段階の第20日(Dd20)での細胞表現型;D9に共培養を実施した細胞集団中のDd20でのCD4、CD5、CD7、CD8a、CD8b、およびCD56の存在に関するバイパラメトリックヒストグラムである。A:リンパ系細胞のマーカーである、CD5およびCD7の発現。B:Aで同定されたCD5+CD7+亜集団内でのCD4およびCD8aの発現。C:Aで同定されたCD5+CD7+亜集団内でのCD8aおよびCD8bの発現。D:Aで同定されたCD5+CD7+亜集団内でのCD56およびCD8aの発現。
【
図4】分化段階の第26日(Dd26)での細胞表現型:D9に共培養を実施した細胞集団中のDd26でのCD3、CD4、CD5、CD7、CD8a、CD8b、CD56、およびTCRabの存在に関するバイパラメトリックヒストグラムである。A:リンパ系細胞のマーカーである、CD5およびCD7の発現。B:Aで同定されたCD5+CD7+亜集団内でのT細胞マーカーCD4およびCD8aの発現。C:Aで同定されたCD5+CD7+亜集団内でのT細胞マーカーCD8aおよびCD8bの発現。D:Aで同定されたCD5+CD7+亜集団内でのNKおよびT細胞マーカーであるCD56およびCD8aの発現。E:Aで同定されたCD5+CD7+亜集団内でのT細胞マーカーCD3およびTCRabの発現。
【
図5】分化段階の第26日(Dd26)での細胞表現型:D9に共培養を実施し、かつ共培養開始からの様々な時点でFoxp3の形質導入を実施した細胞集団中のDd26でのFoxp3およびCD7の存在に関するバイパラメトリックヒストグラムである。A:Dd0での形質導入の結果。B:Dd5での形質導入の結果。C:Dd10での形質導入の結果。D:Dd15での形質導入の結果。
【
図6】分化段階の第26日(Dd26)での細胞表現型:
図5で同定された細胞亜集団Foxp3+CD7+中のDd26でのCD3、CD4、CD8a、CD8b、およびTCRabの存在に関するバイパラメトリックヒストグラムである。A:Dd0に形質導入を実施したときのCD3およびTCRabの発現。B:Dd5に形質導入を実施したときのCD3およびTCRabの発現。C:Dd10に形質導入を実施したときのCD3およびTCRabの発現。D:Dd15に形質導入を実施したときのCD3およびTCRabの発現。E:Cで同定されたCD3+TCRab+亜集団中のCD8aおよびCD8bの発現(Dd10に形質導入)。F:Eで同定されたCD8a+CD8b+亜集団中のCD8aおよびCD4の発現(Dd10に形質導入)。
【
図7】分化の第26日(Dd26)での細胞表現型:
図5で同定されたFoxp3-CD7+細胞亜集団中のDd26でのCD3,CD4,CD8a,CD8b、およびTCRabの存在に関するバイパラメトリックヒストグラムである。A:Dd0に形質導入を実施したときのCD3およびTCRabの発現。B:Dd5に形質導入を実施したときのCD3およびTCRabの発現。C:Dd10に形質導入を実施したときのCD3およびTCRabの発現。D:Dd15に形質導入を実施したときのCD3およびTCRabの発現。E:Cで同定されたCD3+TCRab+亜集団のCD8aおよびCD8bの発現(Dd10に形質導入)。F:Eで同定されたCD8a+CD8b+亜集団中のCD8aおよびCD4の発現(Dd10に形質導入)。
【
図8】分化の第26日(Dd26)での細胞表現型:形質導入を実施せず、D9に共培養を実施した細胞集団中のCD7,CD34,CD38,CD43の存在に関するバイパラメトリックヒストグラムである。A:Dd8でのCD7およびCD34の発現。B:Dd10でのCD7およびCD34の発現。C:Dd12でのCD7およびCD34の発現。D:Dd8でのCD7およびCD34の発現。E:Dd10でのCD7およびCD34の発現。F:Dd12でのCD7およびCD34の発現。G:Dd8でのCD7およびCD38の発現。H:Dd10でのCD7およびCD38の発現。I:Dd12でのCD7およびCD38の発現。
【
図9】異なるhES細胞系およびhiPS細胞系から入手した、D9での胚様体の細胞表現型:造血幹細胞マーカーである、CD34およびCD43の存在に関するバイパラメトリックヒストグラムである。A:hES WA09。B:hiPS T04。C:hiPS LON80。D:hES WA01。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(詳細な説明)
本発明者らは、多能性幹細胞からTリンパ球集団を入手する新たな方法を発見した。より具体的には、本発明の方法に従って入手されるT細胞集団は、CD8+CD3+TCRab+Foxp3+および/またはCD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞、(Foxp3-)CD8+および/またはCD4+Teff細胞、ならびにCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含み得る。
【0045】
本発明は、多能性幹細胞からT細胞集団を入手する方法であって、以下の段階:
a)少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できる条件下で多能性幹細胞を培養する段階と;
b)上記胚様体を分離する段階と;
c)上記分離した胚様体を、好ましくは少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞との共培養で、少なくとも1つのNotchリガンドとともに培養する段階と;
d)任意選択で、好ましくは細胞集団の少なくとも15%がCD43-表現型を示す場合に、段階c)中に、Foxp3をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階;
を含み、上記多能性幹細胞がヒト胚性幹細胞ではない、方法に関する。
【0046】
本発明の別の目的は、多能性幹細胞からT細胞集団を入手する方法であって、以下の段階:
a)少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できる条件下で多能性幹細胞を培養する段階と;
b)上記胚様体を分離する段階と;
c)上記分離した胚様体を、好ましくは少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞との共培養で、少なくとも1つのNotchリガンドとともに培養する段階と;
d)好ましくは細胞集団の少なくとも15%がCD43-表現型を示す場合に、段階c)中に、Foxp3をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階
を含む、方法に関する。
【0047】
一実施形態では、本発明の方法によって入手されるT細胞集団は、調節性T細胞(Treg)、エフェクターT細胞(Teff)、およびCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含む。
【0048】
一実施形態では、本発明による方法は、中間段階によって区切られる、細胞培養の2つの主要な段階を含む。第一の主要な段階は、多能性幹細胞から造血幹細胞を入手することを可能にし、好ましくは、上記造血幹細胞は胚様体に含まれる。中間段階は、胚様体を分離することで構成される。第二の主要な段階は、段階1で入手した造血幹細胞からT細胞を入手することを可能にし、少なくとも1つのNotchリガンドの存在下で、例えば少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞とともに、上記細胞を培養することを含む。任意選択で、かつより好ましくは同時に、Tリンパ球への分化のこの第二の段階はまた、目的とする核酸配列を含むベクターを少なくとも1つの細胞中に導入することを含む。
【0049】
本発明による第一の段階は、多能性幹細胞から造血幹細胞を入手することを可能にする。
【0050】
好ましくは、これらの多能性幹細胞は哺乳動物由来の多能性幹細胞である。好ましくは、これらの多能性幹細胞はヒト細胞、好ましくはヒト人工多能性幹細胞またはヒト胚性幹細胞である。
【0051】
一実施形態では、多能性幹細胞はヒト人工多能性幹細胞である。
【0052】
本発明によるヒト人工多能性幹細胞は、分化細胞を当該技術分野で公知の方法により、特に、ウイルスベクター、プラスミド、センダイウイルスによるOct3/4、Sox2、c-Myc、およびKlf4遺伝子の導入により、または細胞内へのmRNAの注入により、再プログラムすることによって入手できる。分化細胞は、例えば、皮膚線維芽細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、造血細胞であり得る。
【0053】
ヒト人工多能性幹細胞の例は、特に限定されないが、hiPS T04細胞、hiPS LON80細胞、hiPS LON71、hiPS BJ1、およびhiPS MiPSを含む。
【0054】
一実施形態では、人工多能性幹細胞に再プログラムすることが意図される分化細胞は、対象から採取した生体試料に由来する。生体試料は、例えば、生検試料、血液、血漿、血清、唾液試料、または尿試料から選択され得る。
【0055】
したがって、本発明の一実施形態では、本発明の方法は、対象から採取した分化細胞から人工多能性幹細胞を入手する第一の段階を含む。
【0056】
一実施形態では、多能性幹細胞はヒト胚性幹細胞である。
【0057】
ヒト胚性幹細胞の例は、特に限定されないが、hES WA09細胞、hES WA01細胞、hES WA07、hES BG01、hES、およびHUES7細胞を含む。
【0058】
特定の実施形態では、多能性幹細胞は、ヒト胚の破壊によって入手されない胚性幹細胞である。このような幹細胞を入手するための方法は、具体的にはChungら(2008)によって記載されている。
【0059】
本発明の別の実施形態では、多能性幹細胞はヒト胚性幹細胞ではない。
【0060】
本発明の方法によって多能性幹細胞を造血幹細胞に分化させる前に、多能性幹細胞を、最後の継代から数日~数週間、特に約1~10日間、一般には約5日間維持するのに適した培地中で維持できる。多能性幹細胞の維持に適した培地は当該技術分野で公知である。一実施形態では、多能性幹細胞の培地は、DMEM/F12(ダルベッコ改変イーグル培地と栄養素、ThermoFisher社)を含む。
【0061】
好ましくは、多能性幹細胞の培地は、約5~約40%、好ましくは約20%のKSR血清(「KnockOut Serum Replacement」、ThermoFisher社)を含む。
【0062】
一実施形態では、多能性幹細胞の培地は、約0.1%~約5%のL-グルタミン、好ましくは約1%のL-グルタミンを含む。
【0063】
一実施形態では、多能性幹細胞の培地は、約0.1%~約5%の非必須アミノ酸、好ましくは約1%の非必須アミノ酸を含む。
【0064】
一実施形態では、多能性幹細胞の培地は、約0.01%~約0.5%の2-メルカプトエタノール、好ましくは約0.1%の2-メルカプトエタノールを含む。
【0065】
一実施形態では、多能性幹細胞の培地は、約1~約30ng/mLのFGF2(線維芽細胞増殖因子2、ThermoFisher社)、好ましくは約10ng/mLのFGF2を含む。
【0066】
一実施形態では、好ましくはDMEM/F12を含む、多能性幹細胞の培地は、上記のKSR血清、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、および/またはFGF2を含む。
【0067】
一実施形態では、好ましくはDMEM/F12を含む、多能性幹細胞の培地は、上記のKSR血清、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、およびFGF2を含む。
【0068】
一実施形態では、造血幹細胞を入手するために多能性幹細胞を培養する。造血幹細胞の出現を可能にするために実現される複数の培養条件が、当該技術分野で公知である。
【0069】
したがって、本発明による方法の第一の段階(本発明による方法の段階a)に対応する)は、少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できる条件下で多能性幹細胞を少なくとも9日間培養することで構成される。
【0070】
好ましい実施形態では、胚様体の形成を誘導することを可能にする条件下で多能性幹細胞を培養する。この目的のために、細胞培養を、例示目的で言えば、三次元の細胞集合体(胚様体)が出現しやすくかつ動物体での胚発生中に存在する細胞間相互作用をより効率的に再現する低接着プレート(Sigma-Aldrich社、Fisher社)中で実施できる。
【0071】
一実施形態では、段階a)での多能性幹細胞の培養を、少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できる条件下で、少なくとも9日間、胚様体の形成を誘導するのに適した培地中にて実施する。
【0072】
造血細胞の増殖に適した培地は、最新技術からわかる(例えば、Changら(2014)を参照されたい)。
【0073】
一実施形態では、胚様体の形成を誘導する培地は、造血細胞の増殖に適した無血清培地、例えばStemPro-34 SFM培地(ThermoFisher社)を含む。
【0074】
一実施形態では、胚様体の形成を誘導する培地は、約0.1~約5%のL-グルタミン、好ましくは約1%のL-グルタミンを含む。
【0075】
一実施形態では、胚様体の形成を誘導する培地は、約0.1~約5%の非必須アミノ酸、好ましくは約1%の非必須アミノ酸を含む。
【0076】
一実施形態では、胚様体の形成を誘導する培地は、約0.01~約0.5%の2-メルカプトエタノール、好ましくは約0.1%の2-メルカプトエタノールを含む。
【0077】
一実施形態では、胚様体の形成を誘導する培地は、約10~約1000U/mLのペニシリン、好ましくは約100U/mLのペニシリンを含む。
【0078】
一実施形態では、胚様体の形成を誘導する培地は、約10~約1000ng/mLのストレプトマイシン、好ましくは約100ng/mLのストレプトマイシンを含む。
【0079】
一実施形態では、胚様体の形成を誘導する培地は、約5~約1000μg/mL、好ましくは約50μg/mLのアスコルビン酸を含む。
【0080】
一実施形態では、造血細胞の増殖に適した無血清培地、例えばStemPro-34 SFM培地は、上記のL-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、ペニシリン、ストレプトマイシン、および/またはアスコルビン酸を含む。
【0081】
一実施形態では、段階a)での多能性幹細胞の培養を、少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できる条件下で、少なくとも9日間、BMP、FGF2、VEGF、SCF、Flt3-L、および/またはIL-3を含み、造血細胞の増殖に適した無血清培地、例えばStemPro-34 SFM培地(ThermoFisher社)中にて実施する。
【0082】
一実施形態では、段階a)での多能性幹細胞の培養を、少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できる条件下で、少なくとも9日間、BMP、FGF2、VEGF、SCF、Flt3-L、およびIL-3を含み、造血細胞の増殖に適した無血清培地、例えばStemPro-34 SFM培地(ThermoFisher社)中にて実施する。
【0083】
好ましい実施形態では、多能性幹細胞を最初に、BMP(骨形成タンパク質)の存在下でインキュベートして、胚様体の形成の誘導を促進する。好ましい実施形態では、多能性幹細胞を、BMPの存在下で10~48時間、好ましくは1日間インキュベートする。別の実施形態では、細胞を、3~300ng/mLのBMP、好ましくは10~100ng/mLのBMP、より好ましくは20~50ng/mLのBMP、具体的には約30ng/mLのBMPの存在下でインキュベートする。好ましくは、BMPは、BMP-4、より好ましくはヒトBMP-4(hBMP-4)である。より好ましくは、細胞を、好ましくはD0(第二の段階の開始時)に、約30ng/mLのhBMP-4aの存在下で1日間インキュベートする。
【0084】
一実施形態では、BMP、好ましくはBMP-4の存在下でのインキュベート後に、BMP(好ましくはBMP-4)とFGF-2とを含む混合物を培地に加えて中胚葉を誘導させる。
【0085】
好ましくは約3ng/mL~約300ng/mLのBMP、好ましくはBMP-4、および約0.5ng/mL~約50ng/mLのFGF2を培地に添加し、好ましくは約30ng/mLのBMP、好ましくはBMP-4、および約5ng/mLのFGF2を培地に添加する。一実施形態では、この添加を、好ましくは胚様体形成の誘導段階の第1日(第D1日)に、一度に実施する。
【0086】
一実施形態では、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液を、胚様体形成の誘導段階終了時まで、好ましくは胚様体形成の誘導段階の第3日(第D3日)から、2日毎に添加する。
【0087】
胚様体形成の誘導段階の終了は、胚様体が分離される時点に対応する。この時点は、例えば、胚様体形成の誘導段階の第5日、第6日、第7日、第8日、第9日、第10日、第11日、第12、またはそれよりも後(D5、D6、D7、D8、D9、D10、D11、D12、またはそれよりも後)に起こり得る。
【0088】
特定の実施形態では、多能性幹細胞の培養の段階a)を、少なくとも9日間実施する。
【0089】
「少なくとも9日間」という用語は、9日間、10日間、11日間、またはそれより多い日数を含む。したがって、一実施形態では、多能性幹細胞の培養の段階a)を、9日間実施する。
【0090】
一実施形態では、段階a)を、9~17日間、好ましくは9~15日間、好ましくは9~14日間実施する。一実施形態では、段階a)を、9~12日間、好ましくは9~11日間、好ましくは9~10日間実施する。
【0091】
一実施形態では、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液は、VEGF(血管内皮増殖因子、ThermoFisher社)、SCF(幹細胞増殖因子、ThermoFisher社)、FLt3-L(Fms様チロシンキナーゼ3-リガンド、ThermoFisher社)、IL-3(組換えインターロイキン3、ThermoFisher社)、および/またはFGF2を含む。
【0092】
増殖因子および/またはサイトカインを含む好ましい溶液は、VEGF(血管内皮増殖因子、ThermoFisher社)、SCF(幹細胞増殖因子、ThermoFisher社)、FLt3-L(Fms様チロシンキナーゼ3-リガンド、ThermoFisher社)、IL-3(組換えインターロイキン3、ThermoFisher社)、およびFGF2を含む。
【0093】
好ましくは、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液は、約2ng/mL~約200ng/mLのVEGF、好ましくは約20ng/mLのVEGFを含む。
【0094】
好ましくは、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液は、約10ng/mL~約300ng/mLのSCF、好ましくは約100ng/mLのSCFを含む。
【0095】
好ましくは、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液は、約2ng/mL~約200ng/mLのFlt3L、好ましくは約20ng/mLのFlt3Lを含む。
【0096】
好ましくは、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液は、約2ng/mL~約200ng/mLのhIL-3、好ましくは約20ng/mLのhIL-3を含む。
【0097】
好ましくは、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液は、約0.5ng/mL~約50ng/mLのFGF2、好ましくは約5ng/mLのFGF2を含む。
【0098】
好ましくは、増殖因子および/またはサイトカインを含みFGF2を含まない溶液を、胚様体形成の誘導段階の終了直前に使用する。好ましくは、この溶液を、胚様体形成の誘導段階中の第D7日から使用する。
【0099】
本発明の一実施形態では、入手される胚様体は、CD34マーカーを発現できる造血幹細胞を含む。本発明者らはこのようにして、本発明の方法の第一の段階が、CD34+表現型を示す造血幹細胞の亜集団を入手すること可能にすることを明らかにした。より具体的には、細胞集団全体の約40%が、培養7日後(第一段階)にCD34+を発現する。本発明者らはさらに、CD34+CD43+亜集団およびCD34+CD43-亜集団の取得を示し、この2つの集団が集団中で比較的均等な割合で存在することを明らかにした。本発明者らは驚くべきことに、胚様体中のCD34+CD43+亜集団の増加、および胚様体中のCD34+CD43-亜集団の存在が、細胞集団全体を、本発明による細胞分化プロトコルで継続するのに適するようにすることを、明らかにした。
【0100】
本発明者らは、少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体の入手を可能にする条件が、培地の性質、様々な因子の存在、および培養時間から得られ、これらのパラメータは上に明記したものであることを、明らかにした。
【0101】
本発明では、「少なくとも5%」は、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、および60%を含む。一実施形態では、段階a)の培養条件は、約5%~約30%、40%、50%、または60%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できるものである。
【0102】
一実施形態では、段階a)の培養条件は、少なくとも10%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手することを可能にする。一実施形態では、段階a)の培養条件は、少なくとも15%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手することを可能にする。
【0103】
一実施形態では、段階a)の培養条件は、約5%~約60%のCD34+CD43+細胞、好ましくは約10%~約60%のCD34+CD43+細胞、好ましくは約15%~約60%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手することを可能にする。
【0104】
一実施形態では、本発明の方法は、T細胞への造血幹細胞の分化を可能にする培養条件への移行前に、胚様体の分離(本発明の方法の段階b)に対応し、上記の中間段階とも呼ばれる)を含む。
【0105】
胚様体は、当該技術分野で公知の方法により分離できる。例えば、胚様体を酵素的分離(トリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼなど)により、または機械的分離により分離できる。
【0106】
一実施形態では、分離は、Accutase(Invitrogen社)による処理により実施される酵素的分離である。
【0107】
一実施形態では、細胞集団の少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%がCD34+CD43+表現型を示す場合に胚様体を分離する。
【0108】
一実施形態では、細胞集団の少なくとも15%がCD34+CD43+表現型を示す場合に胚様体を分離する。好ましくは、細胞集団の少なくとも20%がCD34+CD43+表現型を示す場合に胚様体を分離する。
【0109】
一実施形態では、造血幹細胞集団の少なくとも5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、または30%がCD34+CD43+表現型を示す場合に胚様体を分離する。
【0110】
したがって、一実施形態では、胚様体の分離を、最も早期には多能性幹細胞の胚様体への分化のための培養の第9日(「D9」)に実施する。一実施形態では、胚様体の分離を、多能性幹細胞の胚様体への分化のための培養の第9日(「D9」)~第12日(「D12」)、好ましくは第9日(「D9」)~第11日(「D11」)、好ましくは第9日(「D9」)~第10日(「D10」)に実施する。一実施形態では、胚様体の分離を、多能性幹細胞の胚様体への分化のための培養の第9日(「D9」)、第10日(「D10」)、または第11日(「D11」)に実施する。一実施形態では、胚様体の分離を、多能性幹細胞の胚様体への分化のための培養の第9日(「D9」)に実施する。
【0111】
細胞マーカーの発現を測定する方法は当該技術分野で公知である。
【0112】
一実施形態では、フローサイトメトリーを用いて細胞集団中のマーカーの存在を測定する。
【0113】
CD34を定量化するのに使用し得る抗体は、例えば、コンジュゲート抗CD34抗体、例えば、CD34-PE-Cy7抗体(Fisherscientific社)またはCD34-APC抗体(BD Biosciences社)である。
【0114】
CD43を定量化するのに使用し得る抗体は、例えば、コンジュゲート抗CD43抗体、例えば、CD43-APC抗体(Fisherscientific社)、CD43eBioR2/60抗体(Invitrogen社)、またはCD43-FITC抗体(Fisherscientific社)である。
【0115】
既知のフローサイトメトリー法は、細胞を流体流の中に懸濁させかつ電子検出装置を通過させることにより、目的とする細胞をカウントできる。フローサイトメトリー法は、1秒当たり数千個の粒子の物理的および/または化学的パラメータ、例えば蛍光パラメータの同時のマルチパラメトリック分析が可能である。最新のフローサイトメトリー機器は通常、複数のレーザーおよび蛍光検出器を有する。
【0116】
フローサイトメトリーはまた、目的とする集団を単離または精製するように、その特性に従って不均一な混合物中の細胞を物理的に分離できる。この方法は、「蛍光活性化細胞選別」または「FACS」として知られる。この方法では、初期の複雑な細胞混合物を最初に、蛍光色素にコンジュゲートされた、細胞表面マーカーに特異的な1つまたは複数の抗体で標識する。細胞を、目的とする遺伝子とともに1つまたは複数の組換え蛍光タンパク質を発現するかを分析して、抗体を使用せずに細胞の選択を可能にすることもできる。
【0117】
細胞を選別する別の方法は、磁気活性化細胞選別または「MACS」である。この方法は、特定の細胞表面マーカーに特異的な抗体でコートされた磁気ナノ粒子(「ビーズ」)を使用する。そのため、目的とする集団により発現されるマーカー(ポジティブ選択)または望ましくない細胞型により発現されるマーカー(ネガティブ選択)に特異的な抗体のいずれかを選択することが可能である。ナノ粒子と細胞集団のインキュベーション後に、懸濁液を、ビーズが付着する磁石に取り付けた特殊な使い捨て分離カラムに加え、一方で未標識の細胞が流れ出る。
【0118】
本発明の一実施形態では、胚様体の分離後に入手した細胞を、本発明の方法の細胞培養の第二の段階(本発明の方法の段階c)に対応する)のための第二の培地に移す。本発明の方法の細胞培養の第二の段階は、CD34+造血幹細胞を胚様体からT細胞に分化させる。
【0119】
一実施形態では、胚様体の分離から得られた全細胞を、T細胞への造血幹細胞の分化を可能にする培養条件に移す。
【0120】
一実施形態では、段階b)の終了時に入手した、分離された胚様体を分化培地、好ましくは、SCF、Flt3-L、およびIL-7を含む培地中で、好ましくは少なくとも15日間、好ましくは少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞との共培養で、好ましくは少なくとも1つのNotchリガンドとともに培養して、上記T細胞集団を入手する。
【0121】
一実施形態では、胚様体から誘導された造血幹細胞(すなわち、CD34+表現型を示す細胞)を単離し、次いで、造血幹細胞をT細胞に分化させる培養条件下に置く。
【0122】
好ましくは、T細胞への分化を、少なくとも1つのNotchリガンド(例えば、デルタ-L1またはデルタ-L4リガンド)の存在下で、好ましくは少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞の存在下で、さらにより好ましくは少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞(例:OP9-DLL1もしくはOP9-DLL4、またはその混合物)の存在下で実施する。これらの細胞は当該技術分野で公知である。具体的には、OP9-DLL1および/またはOP9-DLL4細胞系を使用できる。
【0123】
一実施形態では、T細胞への分化のための培地は、MEM(最小必須培地、Dutscher社)を含む。
【0124】
一実施形態では、T細胞への分化のための培地は、約2~約30%のFCS(ウシ胎児血清)、好ましくは約20%のFCSを含む。
【0125】
一実施形態では、T細胞への分化のための培地は、約0.1~約5%のL-グルタミン、好ましくは約1%のL-グルタミンを含む。
【0126】
一実施形態では、T細胞への分化のための培地は、約0.1~約5%の非必須アミノ酸、好ましくは約1%の非必須アミノ酸を含む。
【0127】
一実施形態では、T細胞への分化のための培地は、約0.01~約0.5%の2-メルカプトエタノール、好ましくは約0.1%の2-メルカプトエタノールを含む。
【0128】
一実施形態では、T細胞への分化のための培地は、約5~約1000μg/mL、好ましくは約10~100μg/mLのアスコルビン酸、より具体的には約50μg/mLのアスコルビン酸を含む。
【0129】
一実施形態では、好ましくはMEM(最小必須培地、Dutscher)社を含む、T細胞への分化のための培地は、上記のFCS、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、および/またはアスコルビン酸を含む。一実施形態では、T細胞の分化の段階(第二段階)の間に、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液を培地に添加する。一実施形態では、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液は、SCF(幹細胞増殖因子)、FLt3-L(Fms様チロシンキナーゼ3リガンド)、および/またはIL-7(インターロイキン7)を含む。
【0130】
好ましくは、増殖因子および/またはサイトカインを含む好ましい溶液は、SCF(幹細胞増殖因子)、FLt3-L(Fms様チロシンキナーゼ3リガンド)、およびIL-7(インターロイキン7)を含む。
【0131】
好ましくは、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液は、約5ng/mL~約300ng/mLのSCF、好ましくは約5ng/mL~約50ng/mLのSCF、より具体的には約10ng/mLのSCFを含む。
【0132】
好ましくは、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液は、約2ng/mL~約200ng/mLのFlt3L、好ましくは約5ng/mL~約50ng/mLのFlt3L、より具体的には約10ng/mLのFlt3Lを含む。
【0133】
好ましくは、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液は、約2ng/mL~約200ng/mLのIL-7(インターロイキン7、Gibco社)、好ましくは約2ng/mL~約50ng/mLのIL-7、具体的には約5ng/mLのIL-7を含む。
【0134】
一実施形態では、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液を、T細胞への分化の段階(第二段階)の間に、毎日、2日毎に、または3日毎に、好ましくは2日毎に培地に添加する。
【0135】
一実施形態では、細胞を、T細胞分化段階の開始から、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎に、好ましくは5日毎に、少なくとも1つのNotchリガンドの存在下で、例えば少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞の存在下で、T細胞への分化のための新たな培地に移す。
【0136】
一実施形態では、T細胞への分化の段階は、少なくとも7日、好ましくは少なくとも10日、好ましくは少なくとも15日、好ましくは少なくとも20日、好ましくは少なくとも25日継続する。一実施形態では、T細胞への分化の段階は、約26日継続する。
【0137】
一実施形態では、本発明による方法は、目的とする核酸配列を含むベクターを導入すること(本発明の方法の段階d)に対応する)をさらに含む。好ましくは、この核酸配列はFoxp3をコードする。一実施形態では、ベクターは、目的とするさらなるポリペプチドに翻訳される可能性のある、少なくとも別の遺伝子の核酸配列または少なくとも1つの他の目的とするmRNAをコードする核酸配列をさらに含む。このような目的とする核酸配列の例としては、特に限定されないが、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列、Mcl-1をコードする核酸配列、Bcl-xLをコードする核酸配列、およびHeliosをコードする核酸配列が挙げられる。
【0138】
一実施形態では、目的とする核酸配列、好ましくはFoxp3をコードする核酸配列を含むベクターを導入する段階d)を、段階c)の、すなわちT細胞への分化の段階の第Dd8日~第Dd12日、好ましくは第Dd9~第Dd11日に実施する。一実施形態では、目的とする核酸配列、好ましくはFoxp3をコードする核酸配列を含むベクターを導入する段階d)を、T細胞分化段階(細胞培養の第二の主要な段階、本発明の方法の段階c)に対応する)の第Dd9日、第Dd10日、または第Dd11日に実施する。
【0139】
「Dd」という用語は、T細胞分化段階の、すなわち、細胞培養の第二段階の、日数を表す。
【0140】
好ましくは、目的とする核酸配列、好ましくはFoxp3をコードする核酸配列を含むベクターの導入を細胞培養の第二の段階の、すなわち、本発明の方法の段階c)の間の、第Dd10日に実施する。より好ましくは、目的とする核酸配列、好ましくはFoxp3をコードする核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つのNotchリガンドと細胞を一緒にしてから10日後に実施する。
【0141】
実際、本発明者らは驚くべきことに、第二の段階の第26日(「Dd26」)に観察される細胞表現型が、細胞培養の第二の段階の第Dd10日に形質導入を実施した場合に特に改善されることを明らかにした。実際、第二の段階の第Dd26日に観察される細胞は、形質導入を細胞培養の第二の段階の第Dd10日に実施した場合に、より大きな割合のCD3およびTCRを発現する細胞を含有する。本発明者らはさらに、少なくとも1つのNotchリガンドと一緒にしてから8日後、10日後、および12日後の細胞について、複数のマーカーの発現を特徴付けた。このようにして、細胞は、具体的に、第Dd8日および第Dd12日に関して、第二の段階の第Dd10日にCD43の発現の減少を示した。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、細胞集団中のCD43-表現型を示す細胞の割合の増大は、目的とする核酸配列を含むベクターのより高い導入効率と関係するのではないかと考える。
【0142】
したがって、一実施形態では、目的とする核酸配列を含むベクターの導入を、細胞集団の少なくとも15%がCD43-表現型を示す場合に実施する。好ましくは、目的とする核酸配列を含むベクターの導入を、細胞集団の少なくとも20%がCD43-表現型を示す場合に実施する。より好ましくは、目的とする核酸配列を含むベクターの導入を、細胞集団の少なくとも25%がCD43-表現型を示す場合に実施する。
【0143】
一実施形態では、目的とする核酸配列を含むベクターの導入を、細胞集団の15%~40%がCD43-表現型を示す場合に実施する。
【0144】
「15%~40%」は、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、および40%を含むことが理解される。
【0145】
本発明の一実施形態では、多能性幹細胞からT細胞集団を入手する方法は、以下の段階:
a)多能性幹細胞を、BMP、FGF2、VEGF、SCF、Flt3-L、およびIL-3を含み、造血細胞の増殖に適した無血清培地中で、少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できる条件下で、少なくとも9日間培養する段階と;
b)上記胚様体を分離する段階と;
c)上記分離した胚様体を、SCF、Flt3-L、およびIL-7を含む分化培地中で、少なくとも15日間、好ましくは少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞との共培養で、少なくとも1つのNotchリガンドとともに培養して、上記T細胞集団を入手する段階と;
d)段階c)中に、好ましくは細胞集団の少なくとも15%がCD43-表現型を示す場合に、Foxp3をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むベクターの第8日(Dd8)~第12(Dd12)日での導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階
を含む。
【0146】
本発明の一実施形態では、ベクターは、Foxp3のみをコードする核酸配列を含む。
【0147】
別の実施形態では、導入されるベクターは、また別の核酸配列をさらに含む。この追加の配列は、例えば、Mcl-1をコードする遺伝子に対応してよく、例えば、出願国際公開第2014180943号に記載されている。追加の配列はまた、Haqueら(2012)に記載されているBcl-xLをコードする遺伝子に対応し得る。追加の配列はまた、Baineら(2013)に記載されているHelios(亜鉛フィンガータンパク質)をコードする遺伝子に対応し得る。
【0148】
特定の実施形態では、さらなる核酸配列は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列である。一実施形態では、キメラ抗原受容体(CAR)は、抗HLA CAR、すなわち、好ましくはHLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、HLA-DM、HLA-DO、HLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DRからなる群より選択されるHLA抗原を標的とする、または認識するCARである。したがって、一実施形態では、追加の核酸配列は、MacDonaldら(2016)に記載される、抗HLA-A2キメラ抗原受容体(CAR)(すなわち、HLA-A2を標的とする、または認識するCAR)をコードする核酸配列である。
【0149】
CARは、一般には膜貫通ドメインを介して1つまたは複数の細胞内シグナル伝達ドメインと結合される標的化ドメインから構成される人工受容体である。CARは、標的とされる細胞、例えば、抗拒絶反応治療では抑制される免疫細胞、または抗癌治療では腫瘍細胞の表面に存在する抗原を認識するよう設計される。
【0150】
CARの標的化ドメインは一般に、抗体の一本鎖可変フラグメント(scFv)である。受容体またはリガンドの結合ドメインに由来する標的化ドメインも、使用に成功している。第一世代CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、一般にCD3ゼータに由来する刺激ドメインである。第二世代および第三世代CARは、CD28、OX-40(CD134)、および4-1BB(CD137)などの共刺激分子に由来する1つ(第二世代CAR)または2つ以上(第三世代CAR)の細胞内シグナル伝達ドメインをさらに含む。
【0151】
キメラ抗原受容体(CAR)を概念化し作製する戦略は最新技術で周知である。実例として、以下の参考文献を引用できる:BoniniおよびMondino(2015)、SrivastavaおよびRiddell(2015)、JensenおよびRiddell(2015)、ならびにGillおよびJune(2015)。
【0152】
当業者であれば、単独で、またはFoxp3遺伝子をコードする核酸配列と組み合わせて使用し得る、目的の遺伝子を同定できる。
【0153】
一実施形態では、ベクターは、標的細胞に特異的な抗体を運搬するアデノウイルスベクター、プラスミド、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ハイブリッドアデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、ワクチンベクター、または装飾ペグ化リポソームを含む群から選択される。一実施形態では、ベクターはレトロウイルス、好ましくはレンチウイルスである。
【0154】
一実施形態では、目的とする核酸の発現はCrispr-Cas9系を含む。
【0155】
本発明の一実施形態では、本発明による方法の細胞培養の第二の段階の終了時に、培養中の細胞集団はTreg細胞を含む。本発明の一実施形態では、本発明による方法の細胞培養の第二の段階の終了時に、培養中の細胞集団はTreg細胞および/またはTeff細胞を含む。本発明の一実施形態では、本発明による方法の細胞培養の第二の段階の終了時に、培養中の細胞集団は、Treg細胞、Teff細胞、および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含む。
【0156】
本発明の一実施形態では、本発明による方法の細胞培養の第二の段階の終了時に、培養中の細胞集団は、TregおよびTeff細胞、ならびにCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含む。
【0157】
一実施形態では、本発明の方法は、T細胞の単離および/または精製の段階をさらに含み、ここではT細胞を既知の技術によって培地から単離し得る。例えば、上記のFACSまたはMACS法によりT細胞集団を単離および精製できる。
【0158】
別の実施形態では、本発明の方法は、Treg細胞の単離および/または精製の段階をさらに含む。例えば、上記のFACSまたはMACS法、例えばDynabeads Regulatory CD4+/CD25+TCell Kit(Invitrogen社)によりTreg細胞集団を単離および精製できる。
【0159】
一実施形態では、本発明の方法は、Teff細胞の単離および/または精製の段階をさらに含む。例えば、上記のFACSまたはMACS法によりTeff細胞集団を単離および精製できる。そのために、細胞を、抗CD4、抗CD8、抗TCRabマーカーの使用、およびFoxp3の発現により同定できる。CD4および/またはCD8および/またはTCRを発現するが、Foxp3は発現しない細胞集団は、エフェクターT細胞と見なすことができる。
【0160】
別の実施形態では、本発明の方法は、CD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞の単離および/または精製の段階をさらに含む。例えば、上記のFACSまたはMACS法によりCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞集団を単離および精製できる。
【0161】
一実施形態では、本発明の方法は、T細胞、具体的にはTreg細胞、Teff細胞、および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞に上記のキメラ抗原受容体(「CAR」)、例えば抗HLA CAR、より具体的には抗HLA-A2 CARをコードする核酸配列を形質導入して、CAR、例えば抗HLA CAR、より具体的には抗HLA-A2 CARを発現する、本発明によるT細胞を入手する段階をさらに含む。この形質導入は、当該技術分野で公知の方法に従って実施できる。例えば、形質導入を、CARをコードする核酸配列を含むレトロウイルスまたはレンチウイルスを使用するex vivo遺伝子導入によって実施できる。
【0162】
本発明は、多能性幹細胞からT細胞手段を入手する方法であって、以下の段階:
(a)造血幹細胞を入手できる条件下で多能性幹細胞を培養する段階と;
b)上記造血幹細胞を、それらをT細胞に分化させる条件下に置く段階と;
c)任意選択で、または同時に、段階b)中に、目的とする核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階
を含む、方法に関する。
【0163】
一実施形態では、本発明は、多能性幹細胞からT細胞集団を入手する方法であって、以下の段階:
a)造血幹細胞を入手できる条件下で多能性幹細胞を培養する段階と;
b)上記造血幹細胞を、それらをT細胞に分化させる条件下に置く段階と;
c)段階b)中に、目的とする核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階
を含む、方法に関する。
【0164】
一実施形態では、細胞集団の少なくとも5%がCD34+CD43+表現型を示す場合に、細胞を移し、段階b)を開始する。一実施形態では、細胞集団の少なくとも10%がCD34+CD43+表現型を示す場合に、細胞を移し、段階b)を開始する。一実施形態では、細胞集団の少なくとも15%がCD34+CD43+表現型を示す場合に、細胞を移し、段階b)を開始する。
【0165】
一実施形態では、細胞集団の少なくとも15%がCD43-表現型を示す場合に、段階c)で計画されるベクターの導入を実施する。
【0166】
一実施形態では、造血幹細胞をT細胞に分化させる細胞培養の第二の段階の第8日(Dd8)~第12日(Dd12)に、段階c)で計画されるベクターの導入を実施する。一実施形態では、造血幹細胞をT細胞に分化させる細胞培養の第二の段階の第9日(Dd9)~第11日(Dd11)に、段階c)で計画されるベクターの導入を実施する。一実施形態では、造血幹細胞をT細胞に分化させる細胞培養の第二の段階の第9日(Dd9)、第10日(Dd10)、または第11日(Dd11)、好ましくは第10日(Dd10)に、段階c)で計画されるベクターの導入を実施する。
【0167】
一実施形態では、本発明の方法は、以下の段階:
a)少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できる条件下で多能性幹細胞を培養する段階と;
b)上記胚様体を分離する段階と;
c)上記分離した胚様体を、好ましくは少なくとも15日間、少なくとも1つのNotchリガンドの存在下に置く段階と;
d)任意選択で、または同時に、段階c)中に、好ましくは第8日(Dd8)~第12日(Dd12)に、好ましくは細胞集団の少なくとも15%がCD43-表現型を示す場合に、Foxp3をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階
を含む。
【0168】
一実施形態では、本発明の方法は、以下の段階:
a)少なくとも5%のCD34+CD43+細胞を含む胚様体を入手できる条件下で多能性幹細胞を培養する段階と;
b)上記胚様体を分離する段階と;
c)上記分離した胚様体を、好ましくは少なくとも15日間、少なくとも1つのNotchリガンドの存在下に置く段階と;
d)段階c)中に、好ましくは第8日(Dd8)~第12日(Dd12)、好ましくは第9日(Dd9)~第11日(Dd11)に、好ましくは細胞集団の少なくとも15%がCD43-表現型を示す場合に、Foxp3をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階
を含む。
【0169】
好ましい実施形態では、本発明は、多能性幹細胞からT細胞集団を入手する方法であって、以下の段階:
a)造血幹細胞を入手できる条件下で多能性幹細胞を培養する段階であって、胚様体の発生、次いで上記胚様体を分離することを含む、段階と;
b)造血幹細胞を含む上記分離した胚様体を、好ましくは少なくとも15日間、例えば少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞との共培養で、少なくとも1つのNotchリガンドの存在下に置いて、それらをT細胞に分化させる段階と;
c)任意選択で、または同時に、段階b)中に、好ましくは第8日(Dd8)~第12日(Dd12)に、Foxp3をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階
を含み、細胞を、細胞集団の少なくとも5%がCD34+CD43+表現型を示す場合に段階b)に従い少なくとも1つのNotchリガンドの存在下に置き、好ましくは段階c)で計画されるベクターの導入を、細胞集団の少なくとも15%がCD43-表現型を示す場合に実施する、方法に関する。
【0170】
別の好ましい実施形態では、本発明は、多能性幹細胞からT細胞集団を入手する方法であって、以下の段階:
a)造血幹細胞を入手できる条件下で多能性幹細胞を培養する段階であって、胚様体の発生、次いで上記胚様体を分離することを含む、段階と;
b)造血幹細胞を含む上記分離した胚様体を、好ましくは少なくとも15日間、例えば少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞との共培養で、少なくとも1つのNotchリガンドの存在下に置いて、それらをT細胞に分化させる段階と;
c)段階b)中に、好ましくは第8日(Dd8)~第12日(Dd12)、好ましくは第9日(Dd9)~第11日(Dd11)に、Foxp3をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階
を含み、好ましくは、細胞を、細胞集団の少なくとも15%がCD34+CD43+表現型を示す場合に段階b)に従い少なくとも1つのNotchリガンドの存在下に置き、好ましくは、段階c)で計画されるベクターの導入を、細胞集団の少なくとも15%がCD43-表現型を示す場合に実施する、方法に関する。
【0171】
別の好ましい実施形態では、本発明は、多能性幹細胞からT細胞集団を入手する方法であって、以下の段階:
a)造血幹細胞を入手できる条件下で多能性幹細胞を培養する段階であって、胚様体の発生、次いで上記胚様体を分離することを含む、段階と;
b)造血幹細胞を含む上記分離した胚様体を、好ましくは少なくとも15日間、例えば少なくとも1つのNotchリガンドを発現する細胞との共培養で、少なくとも1つのNotchリガンドの存在下に置いて、それらをT細胞に分化させる段階と;
c)段階b)中に、好ましくは第8日(Dd8)~第12日(Dd12)に、Foxp3をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むベクターの導入を、少なくとも1つの細胞で実施する段階
を含み、細胞を、細胞集団の少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%がCD34+CD43+表現型を示す場合に段階b)に従い少なくとも1つのNotchリガンドの存在下に置き、段階c)で計画されるベクターの導入を、細胞集団の少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%がCD43-表現型を示す場合に実施することを特徴とする、方法に関する。
【0172】
本発明はまた、造血幹細胞からT細胞を入手する方法であって、造血幹細胞集団の少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%がCD43-表現型を示す場合に、上記集団の少なくとも1つの細胞に核酸配列を導入することを含む、方法に関する。好ましくは、本発明は、造血幹細胞からT細胞を入手する方法であって、造血幹細胞集団の少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%がCD43-表現型を示す場合に、上記集団の少なくとも1つの細胞にFoxp3をコードする核酸配列を導入することを含む、方法に関する。
【0173】
一実施形態では、本発明による方法は、Tregおよび/またはTeffおよび/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含むT細胞集団を入手することを可能にする。
【0174】
一実施形態では、本発明による方法は、CD8+CD3+TCRab+Foxp3+および/またはCD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg、CD8+および/またはCD4+エフェクターT細胞、ならびにCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含むT細胞集団を入手することを可能にする。
【0175】
一実施形態では、本発明による方法は、CD8+CD3+TCRab+Foxp3+およびCD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg、CD8+およびCD4+エフェクターT細胞、ならびにCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含むT細胞集団を入手することを可能にする。
【0176】
したがって、本発明はまた、Tregおよび/またはTeffおよび/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含むT細胞集団に関する。
【0177】
一実施形態では、T細胞集団は、CD8+CD3+TCRab+Foxp3+および/またはCD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg、CD8+および/またはCD4+エフェクターT細胞、ならびにCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含む。
【0178】
一実施形態では、T細胞集団は、CD8+CD3+TCRab+Foxp3+およびCD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞、CD8+およびCD4+エフェクターT細胞、ならびにCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞を含む。
【0179】
FACSまたはMACSなどの方法は、特定の具体的な集団、例えばTreg細胞からなる集団、Teff細胞からなる集団、もしくはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞からなる集団、またはその組合せなどを単離できる。このような方法はまた、亜集団、例えばCD8+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞の亜集団、CD4+CD3+TCRab+Foxp3+Treg細胞からなる亜集団、CD8+エフェクターT細胞からなる亜集団、CD4+エフェクターT細胞からなる亜集団、またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞からなる亜集団などを単離できる。
【0180】
当業者は、最新技術からわかる、このような集団および細胞亜集団を単離できる他の方法を特定し、応用できる。
【0181】
また、本発明による1つの目的は、本発明の方法によって入手された、または入手可能なT細胞集団に関する。
【0182】
一実施形態では、集団は、以下の表現型:CD8+CD3+TCRab+Foxp3+および/またはCD4+CD3+TCRab+Foxp3+を示す、Treg集団である。別の実施形態では、集団は、CD4+および/またはCD8+Teff集団である。別の実施形態では、集団は、CD4-CD8-CD3+TCRab+集団である。一実施形態では、集団は、Tregおよび/またはTeffおよび/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞からなる。
【0183】
一実施形態では、本発明による方法によって入手可能なT細胞を次いで、形質転換(または形質導入)して、上記のキメラ抗原受容体(「CAR」)、例えば抗HLA CAR、より具体的には抗HLA-A2 CARを発現させる。この形質転換(または形質導入)は、当該技術分野で公知の方法に従って実施され得る。例えば、形質転換(または形質導入)を、CARをコードする核酸配列を含むレトロウイルスまたはレンチウイルスを使用するex vivo遺伝子導入により実施し得る。
【0184】
別の実施形態では、本発明による方法によって入手可能なT細胞を次いで、増幅する。例えば、T細胞を、抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体の存在下でT細胞のポリクローナルな増殖を誘導することにより増幅し得る。T細胞を拡大する方法は当該技術分野、例えばPetersen(Petersen et al.2018“Improving T-Cell Expansion and Function for Adoptive T-Cell Therapy Using Ex Vivo Treatment with PI3Kδ Inhibitors and VIP Antagonists.”Blood Advances 2.3:210-223)またはBoursier(Boursier et al.2012 “Utilisation des lymphocytes T regulateurs en therapies cellulaires dans les maladies auto-immunes.”Medicine/Science 28:757-63)で公知である。
【0185】
本発明のさらなる目的は、薬物としての使用のための上記のT細胞集団である。
【0186】
好ましくは、本発明は、細胞療法での使用のためのT細胞の集団に関する。具体的には、T細胞集団は個別化医療で使用でき、例えば、分化細胞を患者から採取し、次いでヒト人工多能性幹細胞に再プログラムし、本発明の方法に従い使用して新たなT細胞を与えることができ、それを上記患者に投与できる。
【0187】
本発明による別の目的は、免疫調節異常に関連する病態の治療での使用のための上記のT細胞の集団である。
【0188】
本発明では、免疫調節異常に関連する病態は、免疫応答が低下し(例えば、免疫応答が起こらず、または抑えられ)病原体と効果的に戦うことができない病態、および免疫応答が強力すぎて、例えば自己細胞の損傷を引き起こす病態を含む。このような病は、とりわけ、感染症、自己免疫疾患、炎症性疾患、癌、アレルギー、移植片拒絶反応、または移植片対宿主病に対応する。
【0189】
本発明の一実施形態では、本発明によるT細胞の治療有効量を、治療する対象に投与するべきである。
【0190】
本発明によるT細胞の治療有効量は、例えば、免疫ホメオスタシスを回復させるため、すなわち、免疫応答が強力すぎる場合にその強度を低下させる、または免疫応答が弱すぎるか全くみられない場合にその大きさを増大させるために効果的な量を含む。
【0191】
一実施形態では、T細胞の集団はTreg細胞の集団である。好ましい実施形態では、T細胞集団は、移植片拒絶反応、移植片対宿主病、自己免疫疾患、および炎症性疾患の治療での使用のためのTreg細胞集団である。特定の実施形態では、T細胞集団は、キメラ抗原受容体(CAR)、例えば抗HLA CAR、より具体的には抗HLA-A2 CARを発現し、抗拒絶反応の治療または移植片対宿主病の治療での使用のための、Treg細胞集団である。
【0192】
一実施形態では、T細胞の集団は、Teff細胞および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞の集団である。好ましい実施形態では、T細胞の集団は、癌または感染症の治療での使用のためのTeff細胞および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞の集団である。特定の実施形態では、T細胞集団は、癌の治療での使用のための、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するTeff細胞および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞の集団である。本発明の1つの目的は、免疫系を調節する方法であって、好ましくは上記の本発明の方法によって入手した、上記のT細胞の集団を、治療される対象に投与することを含む、方法に関する。
【0193】
一実施形態では、本発明は、細胞療法によって免疫系を調節する方法であって、好ましくは上記の本発明の方法によって入手した、上記のT細胞の集団を、治療される対象に、投与することを含む、方法に関する。
【0194】
一実施形態では、上記の免疫系を調節する方法は、好ましくは上記の本発明の方法によって入手した、本発明によるT細胞の治療有効量を、治療される対象に投与することを含む。
【0195】
本発明の1つの目的は、免疫調節異常に関連する病態を治療する方法であって、好ましくは上記の本発明の方法によって入手した、上記のT細胞の集団を、治療される対象に投与することを含む、方法に関する。
【0196】
一実施形態では、この方法は、移植片拒絶反応、移植片対宿主病、自己免疫疾患、または炎症性疾患を治療する方法であり、好ましくは、上記のTreg細胞の集団を治療される対象に投与することを含む。一実施形態では、Treg細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)、例えば抗HLA CAR、より具体的には抗HLA-A2 CARを発現する。したがって、一実施形態では、この方法は、移植片拒絶反応または移植片対宿主病を治療する方法であり、キメラ抗原受容体(CAR)、例えば抗HLA CAR、より具体的には抗HLA-A2 CARを発現するTreg細胞の集団を、治療される対象に投与することを含む。
【0197】
一実施形態では、この方法は、癌または感染症を治療する方法であり、好ましくは、上記のTeff細胞および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞の集団を、治療される対象に投与することを含む。一実施形態では、Teff細胞および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞はキメラ抗原受容体(CAR)を発現する。したがって、一実施形態では、この方法は、癌を治療する方法であり、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するTeff細胞および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞の集団を、治療される対象に投与することを含む。
【0198】
一実施形態では、本発明による治療方法は、好ましくは上記の本発明の方法によって入手した、本発明によるT細胞の治療有効量を、治療される対象に投与することを含む。
【0199】
本発明の1つの目的は、免疫調節異常に関連する病態を治療するための薬物の製造のための、好ましくは本発明の方法によって入手した、本発明によるT細胞の集団の使用に関する。
【0200】
一実施形態では、T細胞集団は、上記のTreg細胞の集団であり、薬物は、移植片拒絶反応、移植片対宿主病、自己免疫疾患、または炎症性疾患を治療するためのものである。一実施形態では、Treg細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)、例えば抗HLA CAR、より具体的には抗HLA-A2 CARを発現する。したがって、一実施形態では、T細胞の集団は、キメラ抗原受容体(CAR)、例えば抗HLA CAR、より具体的には抗HLA-A2 CARを発現するTreg細胞の集団であり、薬物は、移植片拒絶反応または移植片対宿主病を治療するためのものである。
【0201】
一実施形態では、T細胞集団は、上記のTeff細胞および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞の集団であり、薬物は、癌または感染症を治療するためのものである。一実施形態では、Teff細胞および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞はキメラ抗原受容体(CAR)を発現する。したがって、一実施形態では、T細胞の集団は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するTeff細胞および/またはCD4-CD8-CD3+TCRab+T細胞の集団であり、薬物は、癌を治療するためのものである。
【0202】
本発明の1つの目的は、本発明による方法での使用のためのキットであって、上に明記した造血幹細胞を含む胚様体を形成させる培養プレートと、胚様体の形成を誘導する培地と、造血幹細胞をT細胞に分化させる培養プレートと、T細胞に分化させる培地と、増殖因子および/またはサイトカインを含む溶液とを含む、キットに関する。
【0203】
(実施例)
実施例1(本発明の方法の実施を説明する参照例)
実験プロトコル
フランスの法的ガイドラインおよび地方施設の倫理委員会に従い研究プロトコルを実施した。
【0204】
多能性幹細胞
ヒト多能性幹細胞の未分化コロニー(市販のhES WA09(WiCell)系)を、DMEM/F12、20%のKSR(「ノックアウト血清リプレースメント」)血清、1%のL-グルタミン、1%の非必須アミノ酸、0.1%の2-メルカプトエタノール、10ng/mLのFGF2(線維芽細胞増殖因子)(
図1、「段階0」)を含む多能性幹細胞用の培地中で、マウス胚線維芽細胞(「MEF」)上の培養にて維持した。5~6日毎に継代を実施する。
【0205】
造血幹細胞の入手方法(段階I)
ヒト多能性幹細胞を造血細胞に分化させるため、未分化コロニーをディスパーゼ(1U/mL)で10分間処理し、低接着プレートに移して、胚様体を形成させた。
【0206】
この段階(
図1、「段階I」)に使用した培地は、STemPro-34(ThermoFisher社)、1%のL-グルタミン、1%の非必須アミノ酸、0.1%の2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリンおよび100ng/mLのストレプトマイシン、ならびに50μg/mLのアスコルビン酸からなる。
【0207】
胚様体の形成を、30ng/mLのhBMP-4(「ヒト骨形成タンパク質4」)の存在下で1日間インキュベートすることにより促進した(
図1、文字「a」)。
【0208】
胚様体を次いで、30ng/mLのBMP-4および5ng/mLのFGF2とともに第D3日まで培養して(
図1、文字「b」)、中胚葉の誘導を可能にした。
【0209】
第D3日~D5日、次いで第D5日~第D7日に、種分化および増殖を、hVEGF(20ng/mL)および増殖因子と造血サイトカインのカクテル(100ng/mLのhSCF、20ng/mLのhFlt3-L、20ng/mLのhIL-3、および5ng/mLのFGF2)(
図1、文字「c」)の存在下で継続する。
【0210】
次いで、分化を、FGF2を含まない同じサイトカインでD7からD9まで継続する(
図1、文字「d」)。
【0211】
D7、D8、およびD9での胚様体細胞表現型の決定
造血幹細胞を含むD7、D8、およびD9での胚様体を、Accutase(登録商標)で10分間処理することにより分離し、存在するマーカーを、フローサイトメトリーにより分析した。
【0212】
T細胞の入手方法(段階II)
D9に入手した胚様体を、Accutase(登録商標)で10分間処理することにより分離した。このようにして単離した細胞を、OP9-DLL1細胞の単層上に播種して、リンパ系Tに分化させた。この分化を可能にする培地「中間OP9」(
図1、「段階II」)は、20%のFBS、1%のL-グルタミン、1%の非必須アミノ酸、0.1%の2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100ng/mLのストレプトマイシン、および50μg/mLのアスコルビン酸を含み、SCF(10ng/mL)、IL-7(5ng/mL)、およびFlt3L(5ng/mL)が添加されたα-MEMを含む。2日毎に培地の半分を入れ替え、5日毎に細胞を新たなOP9-DLL1単層に移した(
図1、文字「e」)。
【0213】
レンチウイルスの作製および力価測定
構築物pMSCV-ヒトFoxp3-EF1-GFP-T2A-Puro(FOXP3GFP)を保有するレンチウイルス9μgと、パッケージングプラスミドpsPAX2 8μgと、プラスミドpMD2G 4μgとを含むDNAプラスミドを作製した。塩化カルシウム法を用いてそれをHEK293T細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの42~66時間後、HEK293T細胞の上清中のレンチウイルス粒子を収集した。力価測定のために、Jurkat細胞100,000個を培養し、10μL~0.078μLの範囲にわたるウイルスの半分の段階希釈物を混入させた。3日後、細胞を回収し、GFP(緑色蛍光タンパク質)の蛍光をフローサイトメトリーにより分析した。
【0214】
分化中の細胞の形質導入
Dd0、Dd5、Dd10、およびDd15(それぞれOP9-DLL1単層上での培養開始後第5日、第10日、および第15日)の細胞を回収し、遠心分離し、サイトカインを含むOP9培地500μL中、37℃で40分間、1細胞当たりウイルス粒子20個の感染多重度(MOI)にてFOXP3GFPレンチウイルスで形質導入した。形質導入後、細胞を、サイトカインを含むOP9培地2mL中の新たなOP9-DLL1単層に播種した。
【0215】
フローサイトメトリー
フェノタイピングおよびフローサイトメトリー分析のために、以下のコンジュゲート抗体:CD34-PeCY7、CD43-APC、KDR(CD309)-PE、CD7-PeCy5、CD5-BV510、CD3-APCCy7、TCRab-APC、CD4-BV605、CD8a-PE、およびCD8b-PeCy7(ThermoFisher社)を使用した。いずれの抗体も20倍希釈で使用した。死細胞を、DAPIで標識することにより全ての実験で分析から除外した。蛍光を、LSR IIIまたはCanto IIサイトメーター(BD Biosciences社)で測定し、FLOWJOソフトウェア(FlowJo社、アシュランド、米国)で分析した。
【0216】
「DGE-RNA」RNAシーケンシング
RNeasy-Microキット(Qiagen社)を用いて全RNAを単離し、次いで、これを用いてRNAシーケンシングを実施した。RNAシーケンシングのための3‘DGEプロトコルは、Picardaら(2017)に記載されているものである。
【0217】
結果
図2は、7日間にわたる胚様体培養(本発明の方法の段階1)後、細胞の約40%がCD34+を発現することを示す。第7日~第9日に、集団中のCD34+細胞の割合は安定なままであり、CD43+の割合は増加している。胚様体発生の第9日に、CD34+細胞は、より高いレベルのRunx3、Ikaros、およびIL-7Rなどの転写因子またはリンパ系分化のキー分子を発現する(結果は不掲載)。
【0218】
DGERNA-Seqシーケンシングによる分析は、D9で細胞がNotch2を発現することを示した。Notch1、Notch2NL、Notch3、およびNotch4の発現は、CD34+CD43+細胞でよりもCD34+CD43-細胞での方が高く(結果は不掲載)、これらのCD34+CD43-細胞が、Notch分子の発現と培地中のNotch DLL1リガンドの存在のおかげでOP9-DLL1細胞との共培養において、第二の段階中に、より分化できることを示唆した。
【0219】
胚様体中のCD34+CD43+亜集団の増加およびCD34+CD43-亜集団の存在は、細胞集団全体を、細胞培養の第二の段階中に分化できるようにする。
【0220】
図3Aは、Dd20(OP9細胞との共培養の第20日)での細胞によるリンパ系細胞系のマーカーCD5およびCD7の発現を示す。細胞の約80%がCD5+CD7+表現型のものあり;そのうち、約22%がCD4+CD8a+であり(
図3B)、25%がCD8a+CD8b+であり(
図3C)、11%がCD56+CD8a+である(
図3D)。
【0221】
一方、
図4Aは、Dd26(OP9細胞との共培養の第26日)での細胞によるCD5およびCD7の発現を示す。細胞の約80%がCD5+CD7+表現型のものであり;そのうち、約22%がCD4+CD8a+であり(
図4B)、27%がCD8a+CD8b+であり(
図4C)、11%がCD56+CD8a+である(
図4D)。集団の1%未満がTCRabおよびCD3を発現する(
図4E)。さらに、DGE-RNAシーケンシングは、細胞がTreg細胞のキー転写因子であるFoxp3を発現しないことを示した。
【0222】
したがって、Foxp3をコードする遺伝子の導入を実施して細胞をTreg細胞に分化させた。Foxp3をコードする遺伝子の挿入を、レンチウイルスの形質導入により実施した。様々な時間を、OP9細胞との培養開始時から、すなわち、Dd0(共培養開始時)、Dd5(共培養開始5日後)、Dd10(共培養開始10日後)、およびDd15(共培養開始15日後)を選択して細胞の形質導入を実施し、次いでDd26に分析した。
図5は、形質導入細胞がこれらの形質導入でそれぞれ観察されたことを示す。Dd10に実施した形質導入(
図5C)は、Foxp3を発現する細胞をより多く入手できるように思われ、約11%のCD7+Foxp3+集団を有した。
【0223】
CD7+Foxp3+細胞のこの亜集団のマーカーを、各形質導入時間についてDd26に観察する。Dd10に形質導入した集団は、CD3およびTCRを発現するCD7+Foxp3+細胞を約22%含む(
図6C)のに対して、Dd0、Dd5、Dd15に形質導入した集団は5%未満を含む(それぞれ
図6A、6B、および6D)。Dd10に形質導入したダブルポジティブ細胞の半数がCD8aを発現し(
図6E)、それ以外の半数はCD4を発現する(
図6F)。CD8aを発現する細胞はほぼ全部がCD8bも発現する(
図6E)。このように、本発明者らは、Foxp3+CD3+TCRab+CD8+およびFoxp3+CD3+TCRab+CD4+表現型を有するTreg細胞の入手に成功した。
【0224】
CD7+Foxp3-細胞亜集団のマーカー(
図5)を、各形質導入時間についてDd26に観察する。Dd10に形質導入した集団は、CD3およびTCRを発現するCD7+Foxp3-細胞を約12%含み(
図7C)、Dd0、Dd5、Dd15に形質導入した集団は約5~7%含む(それぞれ
図7A、7B、および7D)。これらのダブルポジティブ細胞の約35%がCD8aを発現し(
図7E)、38%がCD4を発現し(
図7F)、約4分の1がダブルネガティブCD4-CD8-である。CD8a+細胞の約70%がCD8bも発現する(
図7E)。これらの細胞はエフェクターT細胞であるものと思われる。
【0225】
細胞がDd10に形質導入を受けやすい理由をさらに理解するため、それらの表現型をフローサイトメトリーにより分析した。その結果を
図8に示す。Dd8~Dd12の間に、細胞は造血幹細胞のマーカーであるCD34の発現を喪失し、このことは、細胞がリンパ系細胞系に移行したことを反映している。細胞は、初期のリンパ系細胞系を表すCD7マーカーを獲得し、免疫細胞のマーカーであるCD43およびCD38も発現する。この段階では、細胞は未だCD4もCD8も発現しない。Dd10で、集団の約30%がCD43-になり(
図8E)、Dd8およびDd12で、この割合はそれぞれわずか約12%および9%である(
図8DおよびF)ことがわかる。また、集団が最も高い割合のCD7+およびCD43+細胞を含むのは、Dd10である(約35%、
図8E)。
【0226】
実施例2
市販のhES WA09幹細胞(WiCell)から実施例1に記載した造血幹細胞を入手するプロトコル(段階I)を、hES WA01細胞(WiCell)、hiPS T04(CRTI/PFiPSC Nantes)、hiPS LON80(PFiPSC Nantes)から実施した。
【0227】
図9Aは、hES WA09細胞をCD34+造血幹細胞に分化させることが可能である(D9で約36%)ことを確認し、CD34+CD43+の割合が約16.5%に達することを示す。
図9Bは、T04細胞をCD34+造血幹細胞に分化させることが可能であり(D9で約40%)、CD34+CD43+細胞の割合が約21.5%であることを示す。
図9Cおよび9Dは、hiPS LON80およびhES WA01細胞をCD34+造血幹細胞に分化させることが可能であり、CD34+CD43+細胞の割合がそれぞれ約6.5%および7.0%に達することを示す。
【0228】
(参考文献)
Baine I,Basu S,Ames R,Sellers R,Macian F.(2013)Helios induces epigenetic silencing of Il2 gene expression in regulatory T cells.J Immunol.190(3):1008-1016.
Bonini C,Mondino A.(2015)Adoptive T-cell therapy for cancer:The era of engineered T cells.Eur J Immunol.45(9):2457-69.
Cavazzana-Calvo Marina,Six Emmanuelle,Andre-Schmutz Isabelle,Coulombel Laure.(2007)Hematopoiese humaine:des cellules CD34 aux lymphocytes T.Med Sci:23(2):151-160.
Chang CW,Lai YS,Lamb LS Jr,Townes TM.(2014)Broad T-cell receptor repertoire in T-lymphocytes derived from human induced pluripotent stem cells.PLoS One.9(5):e97335.
Chung Y,Klimanskaya I,Becker S,Li T,Maserati M,Lu SJ,Zdravkovic T,Ilic D,Genbacev O,Fisher S,Krtolica A,Lanza R.(2008)Human embryonic stem cell lines generated without embryo destruction.Cell Stem Cell.2(2):113-7.
Gill S,June CH.(2015)Going viral:chimeric antigen receptor T-cell therapy for hematological malignancies.Immunol Rev.263(1):68-89.
Haque Rizwanul,Lei Fengyang,Xiong Xiaofang,et al.(2012)Programming of regulatory T cells from pluripotent stem cells and prevention of autoimmunity.The Journal of Immunology,189(3):1228-1236.
Haque,Mohammad et al.(2016)“Development of Stem Cell-Derived Antigen-Specific Regulatory T Cells Against Autoimmunity.” Journal of visualized experiments:JoVE 117:10.3791/54720.
Holmes R,Zuniga-Pflucker JC.(2009)The OP9-DL1 system:generation of T-lymphocytes from embryonic or hematopoietic stem cells in vitro.Cold Spring Harb Protoc.Feb;2009(2):pdb.prot5156.
Jensen MC,Riddell SR.(2015)Designing chimeric antigen receptors to effectively and safely target tumors.Curr Opin Immunol.33:9-15.
Kato Shingo,Jay A Berzofsky,Masaki Terabe.(2018)“Possible Therapeutic Application of Targeting Type II Natural Killer T Cell-Mediated Suppression of Tumor Immunity.” Frontiers in Immunology 9:314.
Lei F,Haque R,Weiler L,Vrana KE,Song J.(2009)T lineage differentiation from induced pluripotent stem cells.Cell Immunol.260(1):1-5.
MacDonald KG,Hoeppli RE,Huang Q,Gillies J,Luciani DS,Orban PC,Broady R,Levings MK.(2016)Alloantigen-specific regulatory T cells generated with a chimeric antigen receptor.J Clin Invest.126(4):1413-24
Passerini,Laura,Rosa Bacchetta.(2017)“Forkhead-Box-P3 Gene Transfer in Human CD4+T Conventional Cells for the Generation of Stable and Efficient Regulatory T Cells,Suitable for Immune Modulatory Therapy.” Frontiers in Immunology 8:1282.
Picarda E,Bezie S,Boucault L,Autrusseau E,Kilens S,Meistermann D,Martinet B,Daguin V,Donnart A,Charpentier E,David L,Anegon I,Guillonneau C.(2017)Transient antibody targeting of CD45RC induces transplant tolerance and potent antigen-specific regulatory T cells.JCI Insight.2(3):e90088.
Srivastava S,Riddell SR.(2015)Engineering CAR-T cells:Design concepts.Trends Immunol.36(8):494-502.