(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ドープドリチウム正極活性材料及びそれの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20240402BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240402BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020562597
(86)(22)【出願日】2019-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2019061544
(87)【国際公開番号】W WO2019215083
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-04-28
(32)【優先日】2018-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】トプソー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ホイベアウ・ヨーナタン
(72)【発明者】
【氏名】デール・セーアン
(72)【発明者】
【氏名】ホイ・ヤコプ・ヴァイラント
(72)【発明者】
【氏名】エルケーア・クレスチャン・フィンク
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/175313(WO,A1)
【文献】特開2001-185145(JP,A)
【文献】特開2000-235857(JP,A)
【文献】Hun-Gi Jung et al.,A high-rate long-life Li4Ti5O12/Li[Ni0.45Co0.1Mn1.45]O4 lithium-ion battery,nature COMMUNICATIONS,英国,Nature Research,2011年11月01日,vol. 2,516
【文献】Ming-Che Yang et al.,Electronic, Structural, and Electrochemical Properties of LiNixCuyMn2-x-yO4 (0<x<0.5, 0<y<0.5) High-Voltage Spinel Materials,CHMISTRY OF MATERIALS,米国,American Chemical Society,2011年06月14日,vol.23, no.11,2832-2841
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
C01G53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードを4.4V(vs.Li/Li+)超で完全にまたは部分的に作動させる高電圧二次バッテリーのためのリチウム正極活性材料において、ここで前記リチウム正極活性材料が、化学組成Li
xNi
yMn
2-y-zD
zO
4を有する少なくとも95重量%のスピネルを含み、前記式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、そしてDは、次の元素、すなわちCo、Cu、Ti、Zn、Mg、Feまたはこれらの組み合わせから選択されるドーパントであるリチウム正極活性材料であって、前記リチウム正極活性材料が、一次粒子によって形成される二次粒子から組成される粉体であり、及び前記リチウム正極活性材料は、少なくとも1.9g/cm
3のタップ密度を有
し、及び前記二次粒子は、0.55超の平均円形度及び同時に1.4未満の平均アスペクト比を有する、前記リチウム正極活性材料。
【請求項2】
前記ドーパントDが、該リチウム正極材料中全体に実質的に均一に分布している、請求項1に記載のリチウム正極活性材料。
【請求項3】
前記ドーパントDの少なくとも90%が、前記リチウム正極材料のスピネル中に組み込まれている、請求項1に記載のリチウム正極活性材料。
【請求項4】
組成Li
xNi
yMn
2-y-zD
zO
4中において、0.96≦x≦1.0である、請求項1~3のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
【請求項5】
前記リチウム正極活性材料がカチオン無秩序である、請求項1~4のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
【請求項6】
前記二次粒子のBET表面積が0.25m
2/g未満である、請求項1~5のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
【請求項7】
前記二次粒子のD50が3μmと50μmとの
間である、請求項1~
6のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
【請求項8】
前記二次粒子の集塊物サイズの分布はD90とD10との間の比率が4以下であることを特徴とする、請求項
7に記載のリチウム正極活性材料。
【請求項9】
D5よりも大きい一次粒子の直径または体積相当径が100nmと2μmとの間であり、及び二次粒子の直径または体積相当径が1μmと25μmとの間である、請求項1~
8のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
【請求項10】
ドーパントDの少なくとも90%がスピネルの一部である、請求項1~
9のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
【請求項11】
前記リチウム正極活性材料の容量が120mAh/g超である、請求項1~
10のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
【請求項12】
前記リチウム正極活性材料の4.7Vあたりの二つのNiプラトー間の分離が少なくとも50mVである、請求項1~
11のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
【請求項13】
Li
xNi
yMn
2-y-zD
zO
4(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、そしてDは、次の元素、すなわちCo、Cu、Ti、Zn、Mg、Feまたはそれらの組み合わせから選択されるドーパントである)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料であって、該リチウム正極活性材料は粒子から組成され、前記リチウム正極活性材料は、少なくとも1.9g/cm
3のタップ密度を有し、及び前記リチウム正極活性材料は、少なくとも95重量%のスピネル相を含むリチウム正極活性材料を製造する方法であって、次のステップ:
a)Li
xNi
yMn
2-yO
4(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5である)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料を提供するステップ、
b)ステップa)のリチウム正極活性材料を、ドーパントDのドーパント前駆体と混合するステップ、
c)ステップb)の混合物を600℃と1000℃との間の温度に加熱するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項14】
Li
xNi
yMn
2-y-zD
zO
4(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、そしてDは、次の元素、すなわちCo、Cu、Ti、Zn、Mg、Feまたはそれらの組み合わせから選択されるドーパントである)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料であって、該リチウム正極活性材料は粒子から組成され、前記リチウム正極活性材料は、少なくとも1.9g/cm
3のタップ密度を有し、及び前記リチウム正極活性材料は、少なくとも95重量%のスピネル相を含むリチウム正極活性材料を製造する方法であって、次のステップ:
a)Li
xNi
yMn
2-y-zD
zO
4(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2である)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料を製造するための前駆体を提供し、ここで、前記前駆体は、Ni、Mn、Li及びドーパントDを含む、ステップ、及び
b)ステップa)の前駆体を600℃と1000℃との間の温度に加熱するステップ、
を含
み、及び
前記前駆体が、炭酸リチウムと、炭酸ニッケル及び炭酸マンガンとをまたは炭酸マンガンニッケルとを含む、
前記方法。
【請求項15】
請求項1~
12のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料を含む正極を含む二次バッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は一般的にはリチウム正極活性材料、リチウム正極活性材料の製造方法、及び該リチウム正極活性材料を含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー密度の再充電可能な電池材料の開発は、電気自動車、携帯可能な電子機器及びグリッドスケールエネルギー貯蔵装置におけるそれらの広い用途の故に重要な研究主題となっている。1990年代初頭のそれらの最初の商業化であるLi-イオン電池(LIB)は、他の商業的な電池技術に関して多くの利点を提供している。特に、それらの比較的高いエネルギー及び比出力は、LIBを電気移動輸送用途のための最良の候補としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題の一つは、高い作動電圧、低い劣化を有しかつ高い容量を維持するリチウム正極活性材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の態様は一般的にはリチウム正極活性材料、リチウム正極活性材料の製造方法、及び該リチウム正極活性材料を含む二次電池に関する。
【0005】
本発明の一つの観点は、カソードを4.4V(vs.Li/Li+)超で完全にまたは部分的に作動させる高電圧二次バッテリーのためのリチウム正極活性材料であって、ここで前記リチウム正極活性材料が、化学組成LixNiyMn2-y-zDzO4を有する少なくとも95重量%のスピネルを含み、前記式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、そしてDは、以下の元素、すなわちCo、Cu、Ti、Zn、Mg、Feまたはこれらの組み合わせから選択されるドーパンドである、リチウム正極活性材料に関する。前記リチウム正極活性材料は、一次粒子の密な集塊物によって形成される二次粒子から組成される粉体であり、そして該リチウム正極活性材料は、少なくとも1.9g/cm3のタップ密度を有する。ドーピングの効果は、該材料を安定化するため、充電/放電サイクルの応じて生じる容量劣化を起こし難くなる。本発明の材料においては、ドーピングの量は、ドープしていない材料と比べて、材料の容量を実質的に未変化に抑えるように比較的低く維持されており、そして同時に、ドーパントの安定化効果を得る、すなわちリチウム正極活性剤材料の劣化を減少させる。本発明の材料について先に示した式は、正味の化学式(net chemical formula)である。ドーパントは、該リチウム正極活性材料のバルク(bulk)中に、それの表面上に、勾配濃度でまたは任意の他の適当な分布で分布し得る。しかし、一つの態様では、ドーパントは、リチウム正極活性材料中に実施的に均一に分布され、すなわち一次粒子中に実質的に均一に、それ故、二次粒子中にも均一に分布される。
【0006】
yの好ましい値は0.43~0.49の範囲であり、yの更により好ましい値は0.45~0.47の範囲にある、というのも、yのこれらの値は、yの値が高まると増大するNi活性と、yの値が高まると減少する虞のある、当該リチウム正極活性材料を秩序化するカチオンのリスクとの間の有利な妥協点を提供するからである。
【0007】
正味の化学組成は、全ての当該リチウム正極活性材料の組成である。それ故、リチウム正極活性材料は、LixNiyMn2-y-zDzO4(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、そしてDは、次の元素、すなわちCo、Cu、Ti、Zn、Mg、Feから選択されるドーパントである)以外の式を有する不純物を含んでよい。全ての当該リチウム正極活性材料をカバーする正味化学組成の式は、次のように記載することができる:LixNiyMn2-y-zDzO4-δ、-(0.5-y)<δ<0.1、ここで0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、Dは、次の元素、すなわちCo、Cu、Ti、Zn、Mg、Feから選択されるドーパントである。
【0008】
一つの態様では、組成LixNiyMn2-y-zDzO4中で0.96≦x≦1.0である。0.96≦x≦1.0である場合は、ドーパントDのzの量は、0.02≦z≦0.2の範囲の下限にある。これは、増加した劣化を、並びに該リチウム正極活性材料の放電容量の少ない低下をも供するドーパントDの量に相当する。
【0009】
本発明の密なリチウム正極活性材料と、ドーピングの効果を増強する安定性との間の相乗効果があるようであり、そのため、本発明の材料は、放電-充電サイクルの間に特に安定している。
【0010】
「タップ密度」という用語は、通常は所定の高さから粉体の容器を測定回数「タップ」する観点で規定された圧密化/圧縮の後の粉体(またはグラニュール状固形物)の嵩密度を記載するために使用される。「タップ」の方法は、「上げ下ろし(lifting and dropping)」として記載するのが最良である。これに関連してタップとは、詰め固め(tamping)、横方向の打撃(side-ways hitting)または振動とは混同するべきではない。測定方法は、タップ密度値に影響を与え得るので、異なる材料のタップ密度を比較する時は同じ方法を使用するべきである。本発明のタップ密度は、少なくとも10gの粉体を加える前と後にメスシリンダを計量して、加えられた材料の質量を記録し、シリンダをテーブル上でしばらくタップし、次いでタップされた材料の体積を読み取ることによって測定される。典型的には、タップは、更にタップを続けても体積の更なる変化が起こらなくなるまで続けるのがよい。一例としてのみであるが、タップは、一分間あたり約120~180回行うことができる。
【0011】
タップ密度は好ましくは2.0g/cm3以上;2.2g/cm3以上;2.4g/cm3以上;または2.6g/cm3以上である。より高いタップ密度は、より高い体積電極装填量を、それゆえ高いタップ密度を持つ材料を含む電池のより高い体積エネルギー密度を得る可能性を供する。殆どの電池用途では、空間はプレミアムであり、高いエネルギー密度が望ましい。高いタップ密度を有する電極材料の粉体は、低いタップ密度を有する粉体よりも高い活性材料装填量(それ故、及びより高いエネルギー密度)を有する電極を与える。球形の粒子から構成される材料が不規則な形状を持つ粒子よりもより高い理論タップ密度を有することを、形状ベースの論拠を用いて示すことができる。
【0012】
本発明のリチウム正極活性材料の比容量は、例1に記載のように55℃で反復した場合に3.5Vと5.0Vとの間の100回の充電-放電サイクルでせいぜい2~3%しか低下しない。
【0013】
ドーパントDが例えばCoである場合は、このドーパントは、該リチウム正極活性材料の劣化を減少するのを助ける。多くの場合に、リチウム正極活性材料を安定化ドーパントでドープすると、リチウム正極活性材料の容量を低下させるが;ドーパンドの量を減少させると、これは、当該リチウム正極活性材料の全体的な容量の減少も少なくなる。それによって、サイクルの間の容量低下は、ドーピング無しの(すなわち、前記式中、z=0)類似のLNMO材料と比べて本発明の材料によって低減され、他方で、当該リチウム正極活性材料の容量は、前記の類似のLNMO材料の容量に近似する。全体としては、室温及び55℃での容量低下は、本発明のリチウム正極活性材料を用いた例1に記載のように測定した場合に、100サイクル当たり2%未満である。ドープされていないLNMO材料は、タップ密度の観点では密なLNMO材料であり、このタップ密度は、本発明のリチウム正極活性材料の良好な性能を得るのに本質的のようである。「LNMO材料」及び「LMNO材料」という材料は、リチウム正極活性材料の例である点に注意すべきである。
【0014】
本発明のリチウム正極活性材料は、4.2Vと4.4Vとの間の低下したスロープ電圧曲線を有することが判明している。4.2Vと4.4Vとの間のスロープ電圧曲線及び容量を
図7及び8にそれぞれ示す。
【0015】
リチウム正極活性材料のこの均質または一様なドーピングは、該材料の電気化学的性能を実質的に悪化させることはないが、安定性増強剤として働く。これが、ドープされた該リチウム正極活性材料の電力容量及び電気化学、例えばレドックス活性は本質的には変化しないが;類似の但しドープされていないリチウム正極活性材料と比べて、容量は僅かに低下する虞があることを意味する。ドープされたLMNO材料及びドープされていないLMNO材料は両方とも、グラファイトアノードに対して、完全なLiイオン電池に使用された場合でも良好な充電/放電容量を供する。しかし、ドープされたLMNO材料を使用した電池は、ドーパントを含まないLMNO材料と比べて、低減した劣化を示す。
【0016】
一つの態様では、ドーパントDの少なくとも90%は、当該リチウム正極材料のスピネル内に組み込まれる。ドーパントDを、当該リチウム正極材料のスピネル内に主に組み入れると、ドーパントDによる当該リチウム正極材料をドーピングする効果が最適に利用される。それ故、これは、当該リチウム正極材料の高いエネルギー密度を提供する。
【0017】
一つの態様では、当該リチウム正極活性材料は、カチオン無秩序である。これは、当該リチウム正極活性材料が無秩序空間群、例えばFd-3mであることを意味する。無秩序材料は、減退速度(fade rate)が遅いという点で高い安定性を有するという利点を有する。
【0018】
スピネル格子の対称は、カチオン秩序相としてはP4332の空間群によって、及び約8.2Åで格子定数αを有するカチオン無秩序相としてはFd-3mの空間群によって記載される。スピネル材料は、単一無秩序相もしくは秩序相またはこれらの混合であることができる(Adv.Mater.(2012)24,pp2109-2116(非特許文献1))。
【0019】
一つの態様では、当該二次粒子のBET表面積は0.25m2/g未満である。このBET面積は、最小で約0.15m2/gであってよい。前記BET表面積は低いのが有利である、というのも、低いBET表面積は、小さい多孔度を有する緻密な材料に相当するからである。劣化反応は材料の表面で起こるために、このような材料は典型的には安定した材料である。ドープされていないLNMO材料は、BET表面積の観点で低表面積LNMO材料であり、これは、本発明のリチウム正極活性材料の良好な性能を得るのに有利である。ドープされたLNMO材料は、ドープされていないLNMO材料の安定した特性を保持しており、そして更に充電/放電の間の安定性に関して向上されている。
【0020】
一つの態様では、当該二次粒子は、0.55超の平均円形度及び同時に1.60未満の平均アスペクト比を特徴とする。好ましくは、平均アスペクト比は、1.5未満、より好ましくは1.4未満であり、他方、平均円形度は0.65超、より好ましくは0.7超である。粒子の円形度または球形度及び形状を特徴付けして定量化するためにはいくつかの方法がある。Almeida-Prieto et alは、J.Pharmaceutical Sci.,93(2004)621(非特許文献2)に、球形度の評価に関して文献に提案された幾つかの形状因子のリストを記載している:ヘイウッド因子(Heywood factors)、アスペクト比、粗さ、ペリップス(pellips)、矩形(rectang)、モデルクス(modelx)、伸び、円形度、丸さ、及び文献提案のVp及びVr因子。粒子の円形度は、4π(面積)/(周長)2として定義され、面積は、粒子の投影面積である。それ故、理想的な球形粒子は、1の円形度を有し、他方、他の形状の粒子は0と1との間の円形度値を有する。粒子形状は、粒子長と粒子幅との比率として定義されるアスペクト比を用いて更に特徴付けすることができ、ここで、長さは、周囲上の二点間での最大間隔であり、幅は、長さに垂直なラインによって繋がれる二つの周囲点間との最大間隔である。
【0021】
0.55超の円形度及び1.60未満のアスペクト比を有する材料の利点は、それの小さい表面積の故の材料の安定性である。
図9aに見られるように、約0.6またはそれ以上の円形度は、それ自体で少ない劣化を供するが、ドーパントDでのドーピングは、該リチウム正極活性材料の劣化を更に減少させる助けとなる。それ故、該二次粒子の円形度及び該リチウム正極活性材料のドーピングは、該リチウム正極活性材料の劣化の減少に関して相乗効果を供する。
【0022】
該二次粒子の形状及び大きさは、ソフトウェアイメージJを用いて9枚のSEM画像で測定した。粒子は、閾値を設定し、そしてバイナリ画像を生成し、その後に、接触している粒子を分離するためにウォーターシェード・アルゴリズムを使用することよって同定される。縁全体が可視である粒子のみが測定された、すなわちSEM画像で他の粒子の下にある粒子は分析から除外した。測定された二次粒子それぞれを取り囲む円を、それの周囲に沿ってフィッティングする。このフィッティングされた円の周囲は、二次粒子を構成する一次粒子によって影響を受け、そのため、一次粒子が一緒に密接にフィッティングされている場合は、その周囲のサイズは、比較的より緩くフィッティングされた一次粒子及び/または異なる方向に延びる一次粒子の場合よりも、小さくなる。
【0023】
一つの態様では、当該二次粒子のD50は3μmと50μmとの間、好ましくは3μmと25μmとの間である。これは、このような粒子サイズが簡単な粉体処理及び小さい表面積を可能とし、他方で、放電及び充電の間に構造体中に及びそれからリチウムを運ぶための十分な表面を維持するために、有利である。
【0024】
スラリーまたは粉体中の粒子のサイズを定量化する一つの方法は、多数の粒子のサイズを測定し、そして全ての測定の加重平均として代表径を計算することである。粒子のサイズを特徴付けするための他の方法の一つは、全体的な粒度分布、すなわち粒度の関数としてそれぞれのサイズの粒子の体積分率をプロットすることである。このような分布において、D5及びD10は、それぞれ粒子群の5%及び10%がD10の値未満にある粒度、D50は、粒子群の50%がD50の値(すなわち中央値)未満にある粒度、及びD90は、粒子群の90%がD90の値未満にある粒度と定義される。粒度分布を決定するために通常使用される方法には、レーザー回折測定法、及び画像分析と組み合わせた走査電子顕微鏡測定法などが含まれる。
【0025】
一つの態様では、当該二次粒子の集塊物サイズの分布は、D90とD10との間の比率が4以下であることを特徴とする。これは、狭いサイズ分布に相当する。このような狭いサイズ分布は、好ましくは3μmと50μmとの間の当該二次粒子のD50と組み合わせて、当該リチウム正極材料が、小数の微細物、それ故小さい表面積を有することを示している。加えて、狭い粒度分布は、当該正極材料の全ての二次粒子の電気化学的応答は本質的に同じとなり、そのため、残部より多い粒子の分率の強調が避けられることを保証する。
【0026】
一つの態様では、D5一次粒子は除いて、一次粒子の直径または体積相当径は、100nmと2μmとの間であり、そしてD5二次粒子は除いて、二次粒子の直径または体積相当径は1μmと25μmとの間である。「D5粒子は除いて」という記載は、最も微細な粒子は考慮されないことを意味する。
【0027】
これらの一次粒子の体積相当径の値は、SEMまたはXRD測定のリーベルト解析によって測定される値である。一次粒子の平均径または平均体積相当径は、XRD測定のリーベルト解析に基づいて、例えば約250nmであり、二次粒子の平均径または平均体積相当径は10μmと15μmとの間である。本明細書で使用する場合、不規則な形状の物体の「体積相当径」という用語は、相当体積の球体の直径である。
【0028】
一つの態様では、ドーパントDの少なくとも90%は、スピネルの一部である。スピネルの一部であるとは、ドーパントDの原子が、当該リチウム正極材料の結晶格子または結晶構造中にあった元素を置き換えていることを意味する。
【0029】
一つの態様では、当該リチウム正極活性材料の容量は120mAh/g超である。これは、少なくとも30mA/gの放電電流で測定される。好ましくは、当該リチウム正極活性材料の容量は、30mA/gの電流で130mAh/g超である。本明細書中での放電容量及び放電電流は、活性材料の質量を基準にして比値として記載される。
【0030】
一つの態様では、当該リチウム正極活性材料の4.7Vあたりの二つのNiプラトー間の分離は少なくとも50mVである。このプラトー分離の好ましい値の一つは約60mVである。プラトー分離は、所与の充電状態でのリチウムの挿入及び除去に関連したエネルギーの目安であり、これは、ドーパントの選択と量に並びにスピネル相が無秩序か秩序的かに影響を受ける。理論により拘束されるものではないが、少なくとも50mVのプラトー分離は有利であるようである、というのも、これは、当該リチウム正極活性材料が秩序相かまたは無秩序相であるかに関連して起こるからである。プラトー分離は例えば60mVであり、そして最大値は約100mVである。
【0031】
本発明の一つの観点は、LixNiyMn2-y-zDzO4(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、Dは、次の元素Co、Cu、Ti、Zn、Mg、Fe及びこれらの組み合わせから選択されるドーパントである)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料を製造するための方法であって、前記リチウム正極活性材料は粒子から組成され、及び前記リチウム正極活性材料は、少なくとも1.9g/cm3のタップ密度を有し、及び前記リチウム正極活性材料は少なくとも95重量%のスピネル相を含む、前記方法に関する。当該方法は、次のステップ
a)LixNiyMn2-yO4(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5である)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料を提供するステップ、
b)ステップa)のリチウム正極活性材料を、ドーパントDのドーパント前駆体と混合するステップ、
c)ステップb)の混合物を600℃と1000℃との間の温度に加熱するステップ、
を含む。
【0032】
それ故、該リチウム正極活性材料は、式LixNiyMn2-yO4(式中、0.9≦x≦1.1であり、0.4≦y≦0.5である)を有し及び少なくとも1.9g/cm3のタップ密度を有する、少なくとも95重量%のスピネル相を含むLNMO材料の後処理によって製造される。それにより、ドーパントの安定性増強特性を加えつつも、緻密なLMNO材料の利点が維持される。ドーパントの量は、ドーパントを加えることによる安定性増強効果と、ドーパントの添加により生じる容量の損失とがバランスされるように選択される。
【0033】
ステップc)の温度は好ましくは700℃と900℃との間、例えば750℃である。
【0034】
一つの態様では、ステップc)の温度及びステップc)の期間は、当該リチウム正極材料中にドーパントDが均一に分布することを保証するように制御される。ステップc)の期間が比較的短い場合は、ステップc)の温度は比較的高くするのがよく、他方、ステップc)の期間が比較的長い場合には、ステップc)の温度は比較的低いのがよい。一例としては、温度が約750℃であり、期間が4時間である。
【0035】
本発明の他の観点の一つは、LixNiyMn2-y-zDzO4(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、そしてDは、次の元素、すなわちCo、Cu、Ti、Zn、Mg、Feまたはそれらの組み合わせから選択されるドーパントである)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料であって、該リチウム正極活性材料が粒子から組成され、該リチウム正極活性材料は、少なくとも1.9g/cm3のタップ密度を有し、及び該リチウム正極活性材料は、少なくとも95重量%のスピネル相を含む、リチウム正極活性材料を製造する方法に関する。当該方法は、次のステップ
a)LixNiyMn2-y-zDzO4(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2である)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料を製造するための前駆体を提供し、ここで、前記前駆体は、Ni、Mn、Li及びドーパントDを含む、ステップ、及び
b)ステップa)の前駆体を600℃と1000℃との間の温度に加熱するステップ、
を含む。
【0036】
ステップb)の温度は好ましくは800℃と950℃との間、例えば900℃である。
【0037】
一つの態様では、ステップb)の温度及びステップb)の期間は、当該リチウム正極材料中にドーパントDが均一に分布することを保証するように制御される。ステップb)の期間が比較的短い場合は、ステップb)の温度は比較的高くするのがよく、他方、ステップc)の期間が比較的長い場合には、ステップc)の温度は比較的低いのがよい。一例としては、温度が約750℃であり、期間が4時間である。
【0038】
リチウム正極活性材料を提供する方法は、例えば特許出願WO17032789A1(特許文献1)に記載されているものなどである。
【0039】
該リチウム正極活性材料を製造するための方法の一つの態様では、前記前駆体は、炭酸リチウムと、炭酸ニッケル及び炭酸マンガンとをまたは炭酸マンガンニッケルとを両方含む。それ故、前記前駆体は、炭酸リチウム、炭酸ニッケル及び炭酸マンガンを含むか、または前記前駆体は、炭酸リチウム及び炭酸マンガンニッケルを含む。代替的に、前記前駆体は、炭酸リチウム及び炭酸マンガンニッケルと、炭酸ニッケルまたは炭酸マンガンのいずれかとを含むことができる。
【0040】
本発明の観点の一つは、本発明による該リチウム正極活性材料を含む正極を含む二次電池に関する。
【0041】
本発明を、様々な態様の記載、図面及び例によって説明した。これらの態様、図面及び例はかなり詳細に記載したものの、添付の特許請求の範囲をこのような詳細に限縮することまたは如何様にも制限することは本出願人の意図ではない。追加の利点及び変更は、当業者には明らかであろう。それ故、本発明は、それのより広範な観点では、記載の具体的な詳細、代表的な方法及び実例に限定されない。それ故、本出願人の一般的な発明的コンセプトの趣旨または範囲から逸脱することなく、このような詳細からの変更が可能である。
【0042】
以下は、添付の図面に示した本発明の態様の詳細な説明である。これらの態様は例であり、そして本発明を明瞭に伝えるように詳述してある。しかし、記載の詳細さは、態様の予測されるバリエーションを限定することを意図したものではなく;その反対に、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨及び範囲に該当する全ての変更、等価及び代替を含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、CoでドープしたLMNO材料のX線回折(XRD)パターンを示す。
【
図2】
図2は、本発明によるリチウム正極活性材料の多数の二次粒子の元素分布を示す。
【
図3】
図3は、本発明によるリチウム正極活性材料からの単一の一次粒子の元素マッピングを示す。
【
図4】
図4は、本発明によるリチウム正極活性材料の二つの代表的なSEM画像を示す。
【
図5】
図5は、ドープされていないリチウム正極活性材料及び本発明による類似の但しドープされたリチウム正極活性材料についての安定性に対するドーピングの効果を示す。
【
図6a】
図6aは、例1に記載のような55℃での電気化学的サイクル試験の結果を示す。
【
図6b】
図6bは、
図6aに示した六つのドープしたリチウム正極活性材料の放電容量を示す。
【
図7】
図7は、参照サンプル及びドープしたサンプルについての0.2C及び55℃での三回目の放電の電圧曲線を示す。
【
図8】
図8は、参照サンプル及びドープしたサンプルについての0.2C及び55℃での三回目の放電の間の4.4Vと4.2Vとの間の容量を示す。
【
図9a】
図9aは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての円形度と劣化との間の関係を示す。
【
図9b】
図9bは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての粗さと劣化との間の関係を示す。
【
図9c】
図9cは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての平均径と劣化との間の関係を示す。
【
図9d】
図9dは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについてのアスペクト比と劣化との間の関係を示す。
【
図9e】
図9eは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての面積包絡度(solidity)と劣化との間の関係を示す。
【
図9f】
図9fは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての多孔度と劣化との間の関係を示す。
【0044】
[図面の詳細な説明]
図1は、CoでドープされたLMNO材料の形のリチウム正極活性材料のX線回折(XRD)パターンを示す。このサンプルは、Li
0.96Ni
0.44Mn
1.47Co
0.09O
4の組成を有する。顕著なピークは、LMNO材料のスピネル相を指す。リーベルト解析は、ドープされたリチウム正極活性材料が96重量%のスピネル相及び220nmの一次粒子径を有することを示す。
【0045】
図2は、本発明によるリチウム正極活性材料の元素分布を示す。該リチウム正極活性材料は、Li
0.96Ni
0.44Mn
1.47Co
0.09O
4の組成式を有するCoでドープしたLMNO材料である。
図2の写真は、波長分散型X線分光分析による元素分析を示し、従って
図2aは、二次粒子内のMnの分布を示す。
図2b及び2cは、該リチウム正極活性材料の二次粒子内でのCo及びNiの分布をそれぞれ示す。
図2dは、二次電子像を示す。x線分光分析の前に、リチウム正極材料の内部を見るために、リチウム正極活性材料をエポキシ材料中に埋め込みそして粉砕した。
図2bからは、ドーパント(この場合、コバルト)が、該リチウム正極活性材料の二次粒子内に均一に分布していることが明らかである。
【0046】
図3は、本発明によるリチウム正極活性材料からの単一の一次粒子の元素マッピングを示す。単一の一次粒子中の元素のマッピングはSTEM-EDSマッピングである。
図3Aは、四つの個々の画像を有し、ここで、「HAADF」と示した画像は、一次粒子の高角度円環状暗視野画像であり、そしてそれぞれ「Mn」、「Ni」及び「Co」と示した画像は、それぞれ、マンガン、ニッケル及びコバルトの一次粒子中のマッピングである。この一次粒子は、リチウム正極活性材料組成Li
0.96Ni
0.44Mn
1.47Co
0.09O
4のものである。
図3AのCoマップからは、ドーパントの分布、すなわちCo分布が一次粒子中にわたって均一であることが明らかである。これは、
図3Bのラインプロフィルからも分かる。このラインプロフィルは、
図3AのHAADFマップ中の二つの黒線で印を付けたパスに沿って測定される。
【0047】
図4は、本発明によるリチウム正極活性材料の二つの代表的なSEM画像を示す。該リチウム正極活性材料は、Li
0.96Ni
0.44Mn
1.47Co
0.09O
4の組成を有する。
図4は、該材料の二次粒子を示し、そして
図4からは、これらの二次粒子が球形であり、そして約6~約10μmの範囲の直径を有することが分かる。一次粒子は、二次粒子の表面中の切り子面様の物体として観察される。
【0048】
図5は、ドープされていないリチウム正極活性材料及び本発明による類似の但しドープされたリチウム正極活性材料についての安定性に対するドーピングの効果を示す。安定性に対するドーピングの効果は、2032型コイン型電池の半電池中で55℃での100サイクルの後の劣化として示される。これは、以下の例1により詳しく記載する。
【0049】
図5に示した全てのドープしたLMNO材料は、Li
0.96Ni
0.44Mn
1.47D
0.09O
4の組成式を有し、ここでDは、ドーパント、すなわちCo、Cu、Mg、Ti、ZnまたはFeである。
図5からは、ドープされた材料がそれぞれ、ドープされていない材料と比べて、劣化が減少していることが分かる。Li
0.96Ni
0.44Mn
1.47Ti
0.09O
4は約3.3%の1C劣化を示す一方で、Feは3%未満の1C劣化を示し、Znは2%未満の1C劣化を示し、Coは約1%の1C劣化を示し、そしてMg及びCuは最小の1C劣化、すなわちそれぞれ約0.3%及び0.1%の1C劣化を示す。
【0050】
図6aは、55℃での電気化学的電力試験(この図中のサイクル1は、実施例1中のサイクル32に相当する)に続く電気化学的サイクル試験の結果を示す。異なるサンプル間の比較を容易にするために、放電容量は第一1Cサイクル(グラフ中のサイクル2)で1に正規化した。
図6aでは、参照材料及び例2に記載のように製造した本発明による六つのリチウム正極活性材料を試験した。本発明のリチウム正極活性材料は、Li
0.96Ni
0.44Mn
1.47D
0.09O
4の組成式を有し、ここでDは、ドーパント、すなわちCo、Cu、Mg、Ti、ZnまたはFeであり、他方、参照材料は、例2に記載の未ドープのリチウム正極活性材料、すなわちLi
1.0Ni
0.46Mn
1.54O
4である。
【0051】
図6aからは、前記の六つのドープしたリチウム正極活性材料が、本発明のリチウム正極活性材料の容量が例1に記載のように55℃で3.5~5.0V間の100サイクルにわたってせいぜい3.3%だけ減少した点で、安定性を増したことが分かる。これは、
図5及び6aに示すように参照材料の安定性よりもかなり良好である。
【0052】
図6bは、
図6aに示した六つのドープしたリチウム正極活性材料の放電容量を示す。
図6bからは、リチウム正極活性材料のドーピングは、劣化の減少に関して利点を有するものの、この利点には、一部のドーパントでは放電容量の低下が伴う虞があることを見ることができる。ドーパント及びそれの量の選択は、高い放電容量及び少ない劣化の両方を有するリチウム正極活性材料を得るために最適化することができる。
【0053】
図7は、参照サンプル及び本発明による材料のドープしたサンプルについての0.2C及び55℃での三回目の放電の電圧曲線を示す。容量は、全放電容量に対し正規化する。電圧が4.6V未満に低下する放電の最終パートにおいて、参照サンプルと本発明による材料のドープしたサンプルとの間に明確な差異が見られる。ドープしたサンプルの全てが、参照サンプルと比べて4.6V未満の電圧値で容量のより高い相対量を有することが分かる。
【0054】
図8は、参照サンプル及び本発明による材料のドープしたサンプルについての0.2C及び55℃での三回目の放電の際の4.4Vと4.2Vとの間の容量を示す。放電の際の4.4Vと4.2Vとの間のこの容量は、約4VのMnレドックス活性と約4.7VのNiレドックス活性との間で移動する時の電圧曲線の傾斜の目安である。この電圧曲線の急な傾斜、それ故、4.2Vと4.4Vとの間の容量の小さな値は、比較的大きな劣化を有する材料を示すようである。電圧曲線の急な傾斜は、材料の劣化の増加を引き起こす虞のある大きな歪みに関係する。これは特に高速な放電速度の場合である。
図5と比較すると、4.2Vと4.4Vとの間の大きい容量は劣化を低下させることが裏付けられる。
【0055】
図9a~9fは、異なる劣化値を有するが、非常に類似したスピネル化学量論的組成を有するリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての劣化とパラメータの範囲との関係を示す。
図9a~9fに示す四つのサンプルのうち、これらのうちの三つのサンプルのスピネルがスピネル化学量論的組成LiNi
0.454Mn
1.546O
4を有し、他方で、四番目のサンプルのスピネルはスピネル化学量論的組成LiNi
0.449Mn
1.551O
4を有する。これらの四つのサンプルは全て、共析出された前駆体をベースとして調製し、そしてそれらの粒子は二次粒子である。これらの四つのサンプルは未ドープである、すなわち式Li
xNi
yMn
2-y-zD
zO
4中においてz=0であるものの、劣化に対する円形度、粗さ、平均径、アスペクト比、面積包絡度及び内部多孔度の影響は、ドーピングした、すなわち0.02≦z≦0.2の類似の材料に対するこれらのファクターの影響と同じである。しかし、材料のドーピングは、更に、劣化を低下させることを助ける。
【0056】
図9aは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての二次粒子の円形度と劣化との間の関係を示す。二次粒子の円形度は、面積及び粒子形状の周長から4π*[面積]/[周長]
2として測定される。円形度は、全体的な形状及び表面粗さの両方を表し、ここで値が大きいほど、より円形の形状及びより平滑な表面を意味する。平滑な表面を有する円は円形度1を有する。平均円形度は、サンプル中の全ての二次粒子の円形度の算術平均である。ソフトウェアイメージJ(https://imagej.nih.gov)を用いて計算する。
図9aでは、円形度のより高い値がより少ない劣化に相当することが分かる。
【0057】
図9bは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての二次粒子の粗さと劣化との間の関係を示す。二次粒子の粗さは、周長と粒子形状にフィッティングさせた楕円の周長との比率として測定される。粗さは、表面がどの程度粗いかを表し、ここで、より高い値ほど、より粗い表面を意味する。平均粗さは、サンプル中の測定された全ての二次粒子の粗さの算術平均である。ソフトウェアイメージJ(https://imagej.nih.gov)を用いて計算する。
図9bでは、粗さのより小さい値がより少ない劣化に相当することが分かる。
【0058】
図9cは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての二次粒子の平均径と劣化との間の関係を示す。二次粒子の直径は、円相当径、すなわち粒子と同じ面積を有する円の直径として測定する。平均径は、サンプル中の測定された全ての二次粒子の直径の算術平均である。ソフトウェアイメージJ(https://imagej.nih.gov)を用いて計算する。
図9cでは、より小さい平均径がより少ない劣化に相当することが分かる。二次粒子の平均径はμmで表す。
【0059】
図9dは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての二次粒子のアスペクト比と劣化との間の関係を示す。二次粒子のアスペクト比は、粒子形状にフィッティングした楕円から測定する。アスペクト比は、[長軸]/[短軸]として定義され、ここで、長軸及び単軸は、フィッティングされた楕円の長軸及び単軸である。平均アスペクト比は、サンプル中の測定された全ての二次粒子のアスペクト比の算術平均である。ソフトウェアイメージJ(https://imagej.nih.gov)を用いて計算する。
図9dでは、より小さいアスペクト比は一般的により少ない劣化に相当することが分かる。
【0060】
図9eは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての二次粒子の面積包絡度と劣化との間の関係を示す。二次粒子の面積包絡度は、粒子面積と凸領域の面積との間の比率、すなわち[面積]/[凸面積]として定義される。凸面積は、粒子の周りにゴムバンドを巻いて生じる形状であると考えることができる。粒子表面中の凸形の特徴が大きいほど、凸面積が広くかつ面積包絡度が小さくなる。平均面積包絡度は、サンプル中の測定された全ての二次粒子の面積包絡度の算術平均である。ソフトウェアイメージJ(https://imagej.nih.gov)を用いて計算する。
図9eでは、面積包絡度のより高い値がより少ない劣化に相当することが分かる。
【0061】
図9fは、実質的に同じスピネル化学量論的組成を有する本発明によるリチウム正極活性材料の四つのサンプルについての二次粒子の多孔度と劣化との間の関係を示す。二次粒子の多孔度は、SEM画像において暗いコントラストで現れる内部面積の百分率であり、ここで暗いコントラストが多孔度、すなわち粒子内の孔と解釈される。平均多孔性は、サンプル中の測定された全ての二次粒子の多孔度の算術平均である。ソフトウェアイメージJ(https://imagej.nih.gov)を用いて計算する。
図9fでは、多孔度のより小さい値が、一般的に、より少ない劣化に相当することが分かる。
【実施例】
【0062】
例1
電気化学的試験を、本発明によるドープしたリチウム正極活性材料の薄い複合正極及び金属リチウム負極(半電池)を用いて2032型コイン電池で実施した。前記の薄い複合正極は、(例2に記載のようにして調製した)84重量%のリチウム正極活性材料を、8重量%のSuper C65カーボンブラック(Timcal)及び8重量%のPVdFバインダー(ポリビニリデンジフルオライド、Sigma Aldrich)と、NMP(N-メチル-ピロリドン)中で徹底的に混合してスラリーを調製することによって製造した。このスラリーを、カーボンコートしたアルミニウム箔上に、160μの間隙でドクターブレードを用いて塗布し、そして80℃で2時間乾燥して、フィルムを形成した。
【0063】
直径が14mm及びリチウム正極活性材料の負荷量が約7mgの電極を前記の乾燥フィルムから切り出し、油圧ペレットプレス機で圧縮し(直径20mm;3メートルトン)、そして真空下に120℃での10時間の乾燥に付した。
【0064】
二つのポリマーセパレータ(Toray V25EKD及びFreudenberg FS2192-11SG)と、EC:DMC(重量比で1:1)中に1モルのLiPF6を含む100μLの電解質を用いて、アルゴンで満たしたグローブボックス(<1ppmO2及びH2O)中でコイン電池を組み立てた。二枚の250μm厚リチウムディスクを対極として使用し、そして電池内の圧力は、負極側のステンレススチールディスクスペーサ及び皿バネを用いて調節した。
【0065】
電気化学的リチウム挿入及び脱離を、定電流モードで作動する自動サイクルデータ記録システム(Maccor)を用いて監視した。電力試験は、以下のサイクルを行うようにプログラムした:3サイクル0.2C/0.2C(充電/放電)、3サイクル0.5C/0.2C、5サイクル0.5C/0.5C、5サイクル0.5C/1C、5サイクル0.5C/2C、5サイクル0.5C/5C、5サイクル0.5C/10C、及び次いで20回目のサイクル毎に一回の0.2C/0.2Cサイクルを行って複数回の0.5C/1Cサイクル。Cレートは、148mAhg-1の材料の理論的比容量に基づいて計算し、そのため、例えば0.2Cは29.6mAg-1及び10Cは1.48Ag-1に相当する。100サイクルあたりの劣化は、前記電力試験後から、すなわちサイクル33~サイクル133から測定する。
【0066】
例2
ドープしたリチウム正極活性材料の調製は、リチウム正極活性材料、すなわちLixNiyMn2-yO4(LNMO)をドーパント前駆体と一緒に加熱することによって製造できる。この例では、Li1.0Ni0.46Mn1.54O4を、未ドープの原料として使用し、そしてDNO3をドーパント前駆体として使用した。ここでDは、ドーパント、すなわちCo、Cu、Mg、Ti、ZnまたはFeである。
【0067】
D-ニトレート(例えばCoNO3)を1:1重量比で水中に溶解し、そしてドープされたリチウム正極活性材料中にLi0.96Ni0.44Mn1.47D0.09O4の平均組成を得るために化学量論比で20gのLNMO材料に加える。このスラリーを80℃で乾燥し、そして700℃で4時間か焼する。
本願は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1. カソードを4.4V(vs.Li/Li+)超で完全にまたは部分的に作動させる高電圧二次バッテリーのためのリチウム正極活性材料において、ここで前記リチウム正極活性材料が、化学組成Li
x
Ni
y
Mn
2-y-z
D
z
O
4
を有する少なくとも95重量%のスピネルを含み、前記式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、そしてDは、次の元素、すなわちCo、Cu、Ti、Zn、Mg、Feまたはこれらの組み合わせから選択されるドーパントであるリチウム正極活性材料であって、前記リチウム正極活性材料が、一次粒子によって形成される二次粒子から組成される粉体であり、及び前記リチウム正極活性材料は、少なくとも1.9g/cm
3
のタップ密度を有する、前記リチウム正極活性材料。
2. 前記ドーパントDが、該リチウム正極材料中全体に実質的に均一に分布している、前記1.に記載のリチウム正極活性材料。
3. 前記ドーパントDの少なくとも90%が、前記リチウム正極材料のスピネル中に組み込まれている、前記1.に記載のリチウム正極活性材料。
4. 組成Li
x
Ni
y
Mn
2-y-z
D
z
O
4
中において、0.96≦x≦1.0である、前記1.~3.のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
5. 前記リチウム正極活性材料がカチオン無秩序である、前記1.~4.のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
6. 前記二次粒子のBET表面積が0.25m
2
/g未満である、前記1.~5.のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
7. 前記二次粒子が、0.55超の平均円形度及び同時に1.60未満の平均アスペクト比を特徴とする、前記1.~6.のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
8. 前記二次粒子のD50が3μmと50μmとの間、好ましくは5μmと25μmとの間である、前記1.~7.のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
9. 前記二次粒子の集塊物サイズの分布はD90とD10との間の比率が4以下であることを特徴とする、前記8.に記載のリチウム正極活性材料。
10. D5よりも大きい一次粒子の直径または体積相当径が100nmと2μmとの間であり、及び二次粒子の直径または体積相当径が1μmと25μmとの間である、前記1.~9.のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
11. ドーパントDの少なくとも90%がスピネルの一部である、前記1.~10.のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
12. 前記リチウム正極活性材料の容量が120mAh/g超である、前記1.~11.のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
13. 前記リチウム正極活性材料の4.7Vあたりの二つのNiプラトー間の分離が少なくとも50mVである、前記1.~12.のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料。
14. Li
x
Ni
y
Mn
2-y-z
D
z
O
4
(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、そしてDは、次の元素、すなわちCo、Cu、Ti、Zn、Mg、Feまたはそれらの組み合わせから選択されるドーパントである)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料であって、該リチウム正極活性材料は粒子から組成され、前記リチウム正極活性材料は、少なくとも1.9g/cm
3
のタップ密度を有し、及び前記リチウム正極活性材料は、少なくとも95重量%のスピネル相を含むリチウム正極活性材料を製造する方法であって、次のステップ:
a)Li
x
Ni
y
Mn
2-y
O
4
(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5である)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料を提供するステップ、
b)ステップa)のリチウム正極活性材料を、ドーパントDのドーパント前駆体と混合するステップ、
c)ステップb)の混合物を600℃と1000℃との間の温度に加熱するステップ、
を含む、前記方法。
15. Li
x
Ni
y
Mn
2-y-z
D
z
O
4
(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2であり、そしてDは、次の元素、すなわちCo、Cu、Ti、Zn、Mg、Feまたはそれらの組み合わせから選択されるドーパントである)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料であって、該リチウム正極活性材料は粒子から組成され、前記リチウム正極活性材料は、少なくとも1.9g/cm
3
のタップ密度を有し、及び前記リチウム正極活性材料は、少なくとも95重量%のスピネル相を含むリチウム正極活性材料を製造する方法であって、次のステップ:
a)Li
x
Ni
y
Mn
2-y-z
D
z
O
4
(式中、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0.02≦z≦0.2である)の化学組成を有する少なくとも95重量%のスピネルを含むリチウム正極活性材料を製造するための前駆体を提供し、ここで、前記前駆体は、Ni、Mn、Li及びドーパントDを含む、ステップ、及び
b)ステップa)の前駆体を600℃と1000℃との間の温度に加熱するステップ、
を含む、前記方法。
16. 前記前駆体が、炭酸リチウムと、炭酸ニッケル及び炭酸マンガンとをまたは炭酸マンガンニッケルとを含む、前記15.に記載の方法。
17. 前記1.~14.のいずれか一つに記載のリチウム正極活性材料を含む正極を含む二次バッテリー。