(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】洗堀抑制ユニット、植生基盤、及び植物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20240402BHJP
A01K 61/78 20170101ALI20240402BHJP
E02B 3/08 20060101ALI20240402BHJP
E02D 27/32 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
A01G33/00
A01K61/78
E02B3/08 301
E02D27/32 A
(21)【出願番号】P 2021055367
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】リン ブーン ケン
(72)【発明者】
【氏名】山木 克則
(72)【発明者】
【氏名】中村 華子
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-169625(JP,A)
【文献】特開2009-215819(JP,A)
【文献】登録実用新案第3168144(JP,U)
【文献】特開昭57-77835(JP,A)
【文献】特開平8-266184(JP,A)
【文献】特開2007-295879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00
A01K 61/78
E02B 3/08
E02D 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に設置されて水中の地面が洗堀されることを抑制する洗堀抑制ユニットであって、
複数の開口部を備えた収容体を含み、
植物の配偶体移植又は胞子体移植に用いられる配偶体又は胞子体を保持する保持体が取り付けられており、
前記保持体の表面の少なくとも一部は、活性炭及びフォーム状の保護材により被覆されている、
洗堀抑制ユニット。
【請求項2】
植物の配偶体又は胞子体が保持された保持体を含み、
前記保持体の表面の少なくとも一部が、活性炭及びフォーム状の保護材により被覆された、
植生基盤。
【請求項3】
保持体に保持された植物の配偶体又は胞子体を培養する培養工程を含み、
前記保持体の表面の少なくとも一部が、活性炭及びフォーム状の保護材により被覆された、
植物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗堀抑制ユニット、植生基盤、及び植物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海底構造物設置等の施工後に、環境保全や地域漁業振興の観点から、積極的に海藻を増殖させることが望まれる。
その方法として、海域内への種苗(配偶体を糸等に付着させたもの)の移植や、海域内における遊走子等の拡散による方法等が知られる(例えば、特許文献1)。
【0003】
例えば、藻類等の植物の移植に際しては、配偶体や胞子体の懸濁液を保持体(クレモナロープ等)に塗布して定着させ、これを海域内へ移植する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、植物の配偶体又は胞子体を定着させた保持体は、移植に供するまでの間、乾燥やそれによる枯死の防止のために常時湿潤状態を保った状態で管理される。
【0006】
しかし、植物の配偶体又は胞子体を常時湿潤状態に維持するには、海水を入れた水槽等を用意する必要や、速やかに移植作業を進行する必要があるため、水槽の設置スペースや作業者の手配等を要し、多くの労力とコストがかかる。
【0007】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、植物の配偶体又は胞子体の乾燥を抑制できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
(1) 水中に設置されて水中の地面が洗堀されることを抑制する洗堀抑制ユニットであって、
複数の開口部を備えた収容体を含み、
植物の配偶体移植又は胞子体移植に用いられる配偶体又は胞子体を保持する保持体が取り付けられており、
前記保持体の表面の少なくとも一部は、活性炭及びフォーム状の保護材により被覆されている、
洗堀抑制ユニット。
【0010】
(2) 植物の配偶体又は胞子体が保持された保持体を含み、
前記保持体の表面の少なくとも一部が、活性炭及びフォーム状の保護材により被覆された、
植生基盤。
【0011】
(3) 保持体に保持された植物の配偶体又は胞子体を培養する培養工程を含み、
前記保持体の表面の少なくとも一部が、活性炭及びフォーム状の保護材により被覆された、
植物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、植物の配偶体又は胞子体の乾燥を抑制できる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による洗堀抑制ユニットの使用例を示す図である。
【
図2】洗堀抑制ユニット1の1つを拡大して示す図である。
【
図3】実施例に係る保水性評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態の例について図面等を参照して説明する。
【0015】
<洗堀抑制ユニット>
図1は、本発明による洗堀抑制ユニットの使用例を示す図である。
図1に示す例では、洗堀抑制ユニット1は、海中に設置される風力発電装置100の基礎101付近に複数が密集して水面200より下において積み上げられて配置される。洗堀抑制ユニット1は、フィルターユニットとも呼称され、波等によって海中の地面が洗堀されることを抑制するために従来から広く用いられている。なお、図示しないが、基礎101と洗堀抑制ユニット1との間にマットが設置される場合もある。
【0016】
図2は、洗堀抑制ユニット1の1つを拡大して示す図である。
本実施形態の洗堀抑制ユニット1は、収容体10と、錘体20と、保持体30とを備えている。
【0017】
収容体10は、開口部10aを備えた網を袋状に構成したものである。収容体の材料は、金属であってもよいし、植物繊維からなる縄であってもよい。収容体10は、その内部に、後述の錘体20を収容した状態で封をされている。収容体10には、保持体30が固定されている。
本実施形態では、保持体30はロープ状であり、収容体10に括られている。
なお、収容体10は、網を用いた袋状の形態に限らず、例えば、開口部を有した箱状の形態等、他の形態であってもよい。
【0018】
錘体20は、従来から洗堀抑制ユニット(フィルターユニット)に用いられている岩石やコンクリート片等である。錘体20の大きさは、例えば、人頭大程度であり、収容体10の開口部10aを通らない程度の大きさである。
【0019】
保持体30は、後述するとおり、植物の配偶体移植又は胞子体移植に用いられる配偶体又は胞子体を保持しており、かつ、保持体30の表面の少なくとも一部は、活性炭及びフォーム状の保護材により被覆されている。
【0020】
海中に設置される風力発電装置等の各種水中構造物は、その役目を終えた後は、撤去される場合が多い。その場合に、従来の洗堀抑制ユニットについても、同様に不要なものとして撤去される場合が多かった。しかし、洗堀抑制ユニットを撤去するには、多くの労力と時間、そして、コストがかかる。
本実施形態の洗堀抑制ユニット1は、付着された配偶体を備えていることから海藻等が発芽し、その多くは、洗堀抑制ユニット1自体に着生する。よって、洗堀抑制ユニット1は、単に洗堀を抑制するだけでなく、構造物の周辺の海域内における藻場の生育を促進できるという作用を備えている。そして、その藻場は、洗堀抑制ユニット1上において繁茂することとなる。したがって、風力発電装置等の水中構造物を撤去する場合に、洗堀抑制ユニット1をそのまま残したり、基礎の撤去に必要な部分だけ一時的に位置をずらし、基礎の撤去が完了した後に、その場所へ戻したりすることが望ましい。
このように、水中構造物の撤去後においても洗堀抑制ユニット1を水中に設置した状態を維持することにより、再生された藻場を略そのまま残すことができる。また、洗堀抑制ユニット1の撤去が不要であることから、水中構造物の撤去工事の労力と時間、そして、コストの面でも非常に有益である。
【0021】
一例として、洗堀抑制ユニット1の作製から設置は、以下の工程を含み得る。ただし、以下の工程の順序や方法は特に限定されず、最終的に、保持体30が、収容体10とともに、洗堀抑制ユニット1の構成の一部として目的の場所(海域内等)に設置されればよい。
(1)保持体30(ロープ等)への植物の配偶体又は胞子体の保持を行う。
(2)収容体10(網袋等)に錘体20を詰める。
(3)上記(1)で得られた保持体30(ロープ等)へ、活性炭の被覆、及びフォーム状の保護材の被覆を行い、保持体30を得る。
(4)上記(2)で得られた収容体10に、上記(3)で得られた保持体30を括り付け、洗堀抑制ユニット1を得る。
(5)洗堀抑制ユニット1を台船に乗せて施工海域に運び、所望の海域内に設置する。
【0022】
(植物の配偶体又は胞子体)
本発明において「植物の配偶体又は胞子体」とは、任意の植物の雄性配偶体、雌性配偶体、又は胞子体を包含する。
【0023】
配偶体又は胞子体の由来である植物としては特に限定されないが、配偶体による繁殖を行う多細胞生物のうち、海産植物である海藻が好ましい。海藻は、褐藻類、紅藻類、緑藻類に分類され、これらのうち褐藻類が特に好ましい。
【0024】
植物の配偶体又は胞子体の由来である植物としては、大型海藻として沿岸域の海藻群落を形成する重要な種がより好ましい。
このような種として、褐藻類のうち、コンブ目コンブ科、コンブ目チガイソ科、コンブ目レッソニア科、ヒバマタ目ホンダワラ科が好ましい。
より具体的な好ましい例として以下が挙げられる:
コンブ目コンブ科カラフトコンブ属のマコンブ(学名:Saccharina japonica)、リシリコンブ(学名:Saccharina japonica)、ホソメコンブ(学名: Saccharina japonica)、オニコンブ(学名:Saccharina japonica)、ミツイシコンブ(学名:Saccharina angustata)、ナガコンブ(学名:Saccharina longissima)、ガッガラコンブ(学名:Saccharina coriacea)、ネコアシコンブ(学名:Arthrothamnus bifidus)、ガゴメコンブ(学名:Saccharina sculpera)
コンブ目チガイソ科ワカメ属のワカメ(学名:Undaria pinnatifida)、ヒロメ(学名:Undaria undarioides)、アオワカメ(学名:Undaria peterseniana)
レッソニア科、カジメ属のカジメ(学名:Ecklonia cava)、クロメ(学名:Ecklonia kurome)、アラメ(学名:Eisenia bicyclis, syn. Ecklonia bicyclis)、ツルアラメ(学名:Ecklonia stolomifera)。
【0025】
植物の配偶体又は胞子体を単離する方法としては、植物から配偶体又は胞子体を単離できる任意の方法を採用でき、特に限定されないが、例えば、藻類の配偶体を単離する場合、以下の方法が挙げられる。
まず、生殖器官(芽株、子嚢斑等)を切り出し、滅菌濾過海水等で洗浄した後、干出処理によって遊走子を滅菌濾過海水の容器に放出させる。次いで、遊走子が着底し配偶体を形成するまで培養する。培養後、実体顕微鏡による観察下、ピペット等で雌性配偶体(又は雄性配偶体)を1個体ずつ採取し、培養容器(マルチプレート等)等に収容して、雌性配偶体及び雄性配偶体を別々に培養することで、雌性配偶体及び雄性配偶体をそれぞれ得ることができる。
雌性配偶体及び雄性配偶体は、必要に応じて、生殖能力を確認する試験や、配偶体の成熟を促進させる処理等を行ってもよい。
【0026】
(保持体)
本発明において、保持体30は、植物の配偶体又は胞子体を保持するものである。
【0027】
本発明において「保持体」とは、その任意の部分又は全体に植物の配偶体又は胞子体を定着させることができる担体を意味する。
【0028】
本発明において「植物の配偶体又は胞子体を保持するための保持体」とは、植物の配偶体又は胞子体が保持された状態のもの、及び、植物の配偶体又は胞子体が保持される前の状態のもののいずれも包含する。
【0029】
保持体30には、配偶体及び胞子体の両方が保持されていてもよく、いずれかのみが保持されていてもよい。
【0030】
保持体30に配偶体が保持されている場合、雄性配偶体及び雌性配偶体の両方が保持されていてもよく、いずれかのみが保持されていてもよい。
1つの保持体に雄性配偶体及び雌性配偶体の両方が保持されている場合、配偶子(精子、卵)の受精が効率的に行われる。
1つの保持体に雄性配偶体及び雌性配偶体が主に保持されている場合、雄性配偶体(又は雌性配偶体)が主に保持された保持体の近傍に、雌性配偶体(又は雄性配偶体)が保持された保持体を配置することで、配偶子(精子、卵)の受精が効率的に行われる。
なお、本発明において、「雄性配偶体(又は雌性配偶体)が主に保持されている」とは、保持体に存在する配偶体の個数のうち70%以上が雄性配偶体(又は雌性配偶体)であることを意味し、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%が雄性配偶体(又は雌性配偶体)であることを意味する。
【0031】
保持体30の種類、形状、大きさ、材質等は特に限定されず、定着させようとする植物の配偶体又は胞子体の種類や大きさに応じて適宜選択できる。
例えば、保持体30の具体例としては、ロープ、多孔質部材(コンクリートブロック等)、スポンジ、布、不織布、紙等が挙げられる。
ロープとしては、樹脂ロープ(ポリエステルロープ、ポリエチレンロープ、ポリプロピレンロープ、ナイロンロープ、ビニロンロープ(クレモナ)等)、麻ロープ、パルプロープ、綿ロープ等が挙げられる。
樹脂ロープは再生樹脂を用いたものであってもよい。
【0032】
[保持体への植物の配偶体又は胞子体の保持方法]
保持体30へ植物の配偶体又は胞子体を保持させる方法は特に限定されない。
例えば、保持体30と、保持させようとする所望量の配偶体及び/又は胞子体を含む溶媒とを接触させる任意の方法が挙げられる。
このような接触の方法としては、保持体の一部又は全体を、配偶体及び/又は胞子体を含む溶媒に漬け込んで含侵させる方法、保持体の一部又は全体に、配偶体及び/又は胞子体を含む溶媒を塗布又は噴霧する方法等が挙げられる。
【0033】
溶媒としては、配偶体及び/又は胞子体の生育等を妨げないものであれば特に限定されないが、好ましくは培地、滅菌濾過海水が挙げられる。
培地としては、PESI培地(実施例を参照)、市販の植物用液体肥料、市販の植物栄養剤等が挙げられる。
滅菌濾過海水としては、固形物質(例えば、粒径1μm以上)が取り除かれ、任意の方法で滅菌処理された海水が挙げられる。用いる海水は、人工海水であってもよく、天然海水であってもよい。
【0034】
溶媒中の配偶体及び/又は胞子体の量は特に限定されず、保持体30に保持させようとする配偶体及び/又は胞子体の量に応じて適宜設定できる。
溶媒には、配偶体及び胞子体の両方が含まれていてもよく、いずれかのみが含まれていてもよい。
【0035】
配偶体及び/又は胞子体を含む溶媒と、保持体30とを接触させる際の温度は特に限定されないが、通常、水温16~24℃である。
【0036】
配偶体及び/又は胞子体を含む溶媒と、保持体30とを接触させる際の時間は特に限定されないが、保持体30に充分に配偶体及び/又は胞子体を付着させる観点から、通常1~6時間、最大12時間程度である。配偶体を含む溶媒と、保持体30とが上記時間接触した後に洗堀抑制ユニットを海域に投入することが好ましい。
【0037】
(活性炭)
本発明における保持体30は、その表面の一部又は全体が活性炭に被覆される。
【0038】
本発明者らの検討の結果、活性炭は多孔質であるため、水分を保持しやすいうえ、保持された水分が乾燥しにくく、植物の配偶体又は胞子体と活性炭とを接触させるか、植物の配偶体又は胞子体を活性炭の近傍に配置することで乾燥を抑制できることを見出した。
【0039】
本発明において「活性炭」とは、化学的処理(塩化亜鉛等による処理等)又は物理的処理(活性化処理等)を施された多孔質の炭素を主成分とする物質を意味する。
本発明における活性炭としては、従来知られる任意の方法から得られるものを使用できる。
【0040】
活性炭の形態は特に限定されないが、好ましくは粉末である。
【0041】
活性炭の粒子の大きさは特に限定されないが、例えば、平均粒径が20~1000μmであるものを使用できる。
活性炭の平均粒径は、レーザ回析式粒度分布測定装置(例えば、「レーザ回折式粒子径分布測定装置 SALD-2300」、株式会社島津製作所)を用いて特定できる。
【0042】
保持体30への活性炭の被覆量は、特に限定されないが、例えば、保持体30の単位面積あたり0.04~0.08g/cm2であってもよい。
【0043】
保持体30への活性炭の被覆方法は、特に限定されないが、塗布、吹き付け、まぶし付け(保持体へ活性炭をまぶして付着させること)等の方法が挙げられる。
【0044】
(フォーム状の保護材)
本発明における保持体30は、その表面の一部又は全体がフォーム状の保護材に被覆される。
【0045】
上述のとおり、本発明者らは活性炭に植物の配偶体又は胞子体の乾燥抑制効果があることを見出した。
他方で、活性炭は、黒色であり、かつ表面積が大きいことから、熱を吸収しやすく、高温となりやすい。そのため、活性炭は、植物の配偶体又は胞子体を高熱によって死滅させてしまう懸念がある。
そこで、本発明者らがさらに検討した結果、活性炭とともにフォーム状の保護材を配置すると、フォーム(気泡)の作用により、光を反射させ、断熱できることを見出した。
したがって、本発明によれば、活性炭及びフォーム状の保護材の組み合わせにより、植物の配偶体又は胞子体の死滅を防止しつつ乾燥抑制効果が奏される。
【0046】
本発明において「フォーム状の保護材」とは、起泡性の物質を泡立てたものを意味する。
【0047】
起泡性の物質としては、かき混ぜることで気泡ができ、かつ、植物の配偶体又は胞子体の生育等を阻害しにくい物質であれば特に限定されない。
上述の断熱作用を奏しやすいという観点から、起泡性の物質は白色の気泡を形成できるものが好ましい。
【0048】
具体的な起泡性の物質としては、例えば、ゼラチン、カゼイン、ペクチン、澱粉、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸エステル、グアガム、寒天、カラギーナン、グルコマンナン、キサンタンガム、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ソロビット等が挙げられる。
【0049】
起泡性の物質からフォーム状の保護材を得る方法としては特に限定されないが、例えば、起泡性の物質を溶媒(水等)に溶かし、泡立て器等で泡立てる方法等が挙げられる。
【0050】
起泡性の物質を溶媒に溶かす場合、起泡性の物質の配合量は特に限定されないが、例えば、起泡性の物質の含有量が0.1~10質量%となるように溶液を調製してもよい。
【0051】
フォーム状の保護材における気泡の平均径は特に限定されないが、好ましくは5~500μmである。このような平均径の気泡であれば、長時間(例えば24時間以上)にわたって気泡が潰れにくくなりやすい。
気泡の平均径は、画像解析(例えば、「デジタルマイクロスコープ撮影画像解析」、株式会社キーエンス製)による気泡直径計測によって特定できる。
【0052】
保持体30へのフォーム状の保護材の被覆量は、特に限定されないが、例えば、保持体30の表面に、厚さが5~20mmとなるように被覆してもよい。
【0053】
保持体30へのフォーム状の保護材の被覆方法は、特に限定されないが、塗布、吹き付け、掛け付け(保持体へフォーム状の保護材を流し掛けながら付着させること)等の方法が挙げられる。
【0054】
(保持体への保持及び被覆の順序等)
上述のとおり、保持体30は、植物の配偶体又は胞子体が保持され、かつ、活性炭及びフォーム状の保護材が被覆される。
【0055】
植物の配偶体又は胞子体の保持、及び、活性炭及びフォーム状の保護材の被覆の順序は限定されず、任意の順序であり得る。
【0056】
本発明の効果を奏しやすいという観点から、植物の配偶体又は胞子体の保持、活性炭の被覆、フォーム状の保護材の被覆の順で実施することが好ましい。この態様においては、フォーム状の保護材が最表面側に配置されやすくなるため、光の反射効果が高く、植物の配偶体又は胞子体の死滅防止効果や乾燥抑制効果をより奏しやすい。
【0057】
フォーム状の保護材の被覆、活性炭の被覆の順序で行うと、フォーム状の保護材が活性炭を保持しやすくなり、フォーム状の保護材及び活性炭が充分に定着した保持体30が得られやすい。
【0058】
活性炭の被覆、及びフォーム状の保護材の被覆を同時に行うと(活性炭及びフォーム状の保護材を混合して被覆する場合等)、フォーム状の保護材が活性炭を保持しやすくなり、さらには、被覆作業を1回で済ませることができるので、作業工程を簡素化することができる。
【0059】
<植生基盤>
本発明は、植物の配偶体又は胞子体を保持するための保持体を含み、該保持体の表面の少なくとも一部が、活性炭及びフォーム状の保護材により被覆された植生基盤も包含する。
【0060】
本発明において「植生基盤」とは、保持された植物の配偶体又は胞子体が生育できる構築物である。
例えば、本発明の植生基盤は、任意の支持体(網や岩盤等)に対し、上記保持体(ロープ等)が括り付けられたものであり得る。
【0061】
上述のとおり、本発明によれば、活性炭及びフォーム状の保護材の作用により、植物の配偶体又は胞子体の乾燥を効果的に抑制できる。
したがって、本発明の植生基盤は、海域内等への植物の移植等のために用いる場合、移植に供するまでの間、従来のように水槽等を要さずに湿潤状態を保つことができる。そのため、本発明は従来の移植作業よりも労力やコストを抑えることができる。
【0062】
例えば、本発明の植生基盤は、気温20~30℃、相対湿度20~30%の条件下で、12時間以上(例えば48時間)、空気に曝露して放置することができる。
【0063】
本発明の植生基盤を海域内等に移植した後は、活性炭やフォーム状の保護材が海中に洗い流され、雌雄配偶体が受精し、胞子体が形成され、植物を繁殖させることができる。
【0064】
<植物の製造方法>
本発明は、保持体に保持された植物の配偶体又は胞子体を培養する培養工程を含み、該保持体の表面の少なくとも一部が、活性炭及びフォーム状の保護材により被覆された、植物の製造方法も包含する。
【0065】
培養工程の諸条件は、植物の配偶体又は胞子体の種類や量に応じて適宜設定できる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
<試験1:保水性評価>
以下の方法で、活性炭及びフォーム状の保護材が保水性に及ぼす影響を検討した。
【0068】
以下の4種の条件下で、25℃、相対湿度30%の環境で48時間、海水を蒸発させ、残留した海水量を測定した。その結果を表1及び
図3に示す。残留した海水量が多いほど保水性が高いことを意味する。
【0069】
(条件1)
直径50mmガラスシャーレに海水(100g)のみを入れた。
【0070】
(条件2)
直径50mmガラスシャーレに海水(100g)を入れ、次いで、シャーレの底に活性炭(100g)を均一に敷いた。
【0071】
(条件3)
直径50mmガラスシャーレに海水(100g)を入れ、次いで、シャーレの底に気泡を厚さ10mm程度となるように敷いた。
【0072】
(条件4)
直径50mmガラスシャーレに海水(100g)を入れ、次いで、シャーレの底に活性炭(100g)を均一に敷き、さらに、シャーレの底に気泡を厚さ10mm程度となるように敷いた。
【0073】
なお、本例では、活性炭は平均粒径0.5mmのものを用いた。
また、気泡として、1%ゼラチン水溶液を泡立てたものを用いた。本例において、該気泡が「フォーム状の保護材」に相当する。
【0074】
残留した海水量は、電子天秤による重量計測によって特定した。
【0075】
【0076】
表1及び
図3に示されるとおり、活性炭及び気泡で被覆された海水は、蒸発量が顕著に抑制されていた。したがって、活性炭及び気泡(フォーム状の保護材)の組み合わせは、保水性を高めやすいことがわかった。
【0077】
また、上記試験において経時的な温度変化を測定したところ、条件4においては、他の条件と比較して、海水の温度上昇率が低かった。
【0078】
<試験2:乾燥抑制効果の評価>
試験1の結果から、活性炭及び気泡の組み合わせは、保水性を高めやすく、さらには温度変化が小さいことが見出された。
そこで、以下の方法に基づき、活性炭及び気泡の組み合わせの存在下で藻類の培養を行い、乾燥抑制効果を評価した。
【0079】
(1)藻類の配偶体が懸濁しているガラスフラスコ(200mL)に、クレモナロープ(2mm径、長さ150mm)を入れた。次いで、20℃、60μmol/m2/s、12時間明暗周期の下で14日間を培養し、ロープに配偶体を定着させた。
藻類は、アラメ(雌性配偶体)、カジメ(雌性配偶体)、又はクロメ(雌性配偶体)のいずれかを用いた。
培養に用いたPESI培地の組成を表2に示す。
(2)配偶体が定着したロープを10mm程度ずつに切断し、以下の4種の処理のいずれかを行い、25℃、相対湿度40%で、空気中に24時間又は48時間曝露した。
(処理条件1)配偶体が定着したロープをそのまま空気中に曝露した(無処理)。
(処理条件2)配偶体が定着したロープの表面に、活性炭を被覆した。
(処理条件3)配偶体が定着したロープの表面に、気泡で被覆した。
(処理条件4)配偶体が定着したロープの表面に、活性炭を被覆した後、さらに、気泡で被覆した。
(3)曝露後、各ロープを、PESI培地に浸漬し、20℃、60μmol/m2/s、12時間明暗周期の下で96時間培養した。
(4)培養後、藻類の状態を実体顕微鏡で観察し、下記の基準で外観を評価した。
さらに、藻類の細胞をニュートラルレッド(NR)染色し、生存細胞の数を計測し、下記の基準で生存率を評価した。
【0080】
[外観の評価基準]
○:配偶体の細胞が茶色であり、色抜けが認められない。
△:配偶体の一部に色抜け(白色化)が認められる。
×:配偶体の全体に色抜け(白色化)又は緑色化が認められる。
【0081】
[生存率の評価基準]
○:観察した30細胞中、15細胞以上が赤く染色された。
△:観察した30細胞中、5~14細胞が赤く染色された。
×:観察した30細胞中、4細胞以下が赤く染色された。
【0082】
なお、本例では、活性炭は平均粒径0.5mmのものを、各例で0.05gずつ用いた。
また、1%ゼラチン水溶液を泡立てたものを気泡として用いて、各例で厚さ1cm程度被覆した。本例において、該気泡が「フォーム状の保護材」に相当する。
【0083】
【0084】
【0085】
表3に示されるとおり、活性炭及び気泡(フォーム状の保護材)で被覆された藻類は、変色が抑制され、生存率が高かった。このことは、活性炭及び気泡の組み合わせにより、藻類の乾燥が抑制されていたことを意味する。
【符号の説明】
【0086】
10 収容体
10a 開口部
20 錘体
30 保持体
100 風力発電装置
101 基礎
200 水面