(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】触媒装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20240402BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20240402BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20240402BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240402BHJP
B01J 35/50 20240101ALI20240402BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20240402BHJP
【FI】
F01N3/28 301P
F01N3/24 L ZAB
F01N3/20 K
B01D53/94 300
B01J35/50 311
B01J35/57 F
B01J35/57 P
(21)【出願番号】P 2021067691
(22)【出願日】2021-04-13
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】貞光 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】笠井 義幸
(72)【発明者】
【氏名】小崎 裕子
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-179110(JP,A)
【文献】実開昭56-050715(JP,U)
【文献】特開2003-003837(JP,A)
【文献】特開平08-218856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/28
F01N 3/24
F01N 3/20
B01D 53/94
B01J 35/50
B01J 35/57
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担体の中心軸に対して垂直な方向にスリットが設けられた触媒装置であって、
前記触媒担体は円柱状であり、
前記スリットは、
環形状であり、
前記触媒担体の径方向における前記スリットの長さは、前記触媒担体の半径よりも短く、且つ前記触媒担体の周方向の全体に亘って一定である
触媒装置。
【請求項2】
前記スリットは、前記中心軸が延びる方向に並んで複数設けられている
請求項1に記載の触媒装置。
【請求項3】
前記中心軸に直交するとともに前記中心軸が延びる方向において前記触媒担体を二等分する平面を当該触媒担体の中心面としたときに、前記スリットは、前記中心面に対して対称となる位置に設けられている
請求項2に記載の触媒装置。
【請求項4】
前記中心軸が延びる方向において前記スリットの両側にそれぞれ位置する前記触媒担体を分割体とし、隣り合う分割体を繋ぐ部分を接続部とし、前記触媒装置をケースに挿入する際に当該触媒装置に作用する荷重であって同触媒装置の中心軸が延びる方向に作用する荷重を挿入荷重としたときに、前記触媒担体の径方向における前記接続部の断面積は、前記触媒担体の単位面積あたりの耐荷重に前記断面積を乗じた値が、前記挿入荷重よりも大きくなるように設定されている
請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒装置。
【請求項5】
前記触媒担体は導電体であって同触媒担体の側面には当該触媒担体を加熱するための一対の電極部が設けられている
請求項1~4のいずれか1項に記載に触媒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路などに配設される触媒装置は、触媒を担持した触媒担体を有している。例えば、特許文献1に記載の触媒装置が有する触媒担体には、同触媒担体のセルを横断するスリットが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載のスリットは、触媒担体の中心軸を含む任意の平面に対して対称となるように設けられていない。そのため、スリットが形成された部位では、スリットによる熱応力の緩和が触媒担体の径方向において偏るようになり、そうした熱応力の偏りによって触媒担体が損傷するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する触媒装置は、触媒担体の中心軸に対して垂直な方向にスリットが設けられた触媒装置であって、前記スリットは、前記中心軸を含む任意の平面に対して対称となるように設けられている。
【0006】
同構成では、触媒担体の中心軸を含む任意の平面に対して対称となるようにスリットが設けられている。そのため、スリットが形成された部位において、当該スリットによる熱応力の緩和が触媒担体の径方向において偏ることが抑えられる。従って、そうした熱応力の偏りによる触媒担体の損傷を抑えることができる。
【0007】
上記触媒装置において、前記スリットは、前記中心軸が延びる方向に並んで複数設けられてもよい。
同構成によれば、スリットにて分けられる触媒担体の各分割体において、中心軸が延びる方向における分割体内の温度差は、スリットが複数設けられていない場合と比べて小さくなる。そのため、触媒担体の熱応力をさらに小さくすることができる。
【0008】
上記触媒装置において、前記中心軸に直交するとともに前記中心軸が延びる方向において前記触媒担体を二等分する平面を当該触媒担体の中心面としたときに、前記スリットは、前記中心面に対して対称となる位置に設けてもよい。
【0009】
同構成によれば、上記中心軸が延びる方向において触媒担体の温度勾配が逆転する場合でも、触媒担体に生じる応力を好適に低減することができる。
なお、触媒担体の径方向におけるスリットの長さは、触媒担体の径方向の長さよりも短くしてもよい。
【0010】
上記触媒装置において、前記中心軸が延びる方向において前記スリットの両側にそれぞれ位置する前記触媒担体を分割体とし、隣り合う分割体を繋ぐ部分を接続部とし、前記触媒装置をケースに挿入する際に当該触媒装置に作用する荷重であって、同触媒装置の中心軸が延びる方向に作用する荷重を挿入荷重としたときに、前記触媒担体の径方向における前記接続部の断面積は、前記触媒担体の単位面積あたりの耐荷重に前記断面積を乗じた値が、前記挿入荷重よりも大きくなるように設定してもよい。
【0011】
同構成によれば、触媒装置をケースに挿入する際の当該触媒装置の損傷を適切に抑えることができる。
上記触媒装置において、前記触媒担体は導電体であって同触媒担体の側面には当該触媒担体を加熱するための一対の電極部が設けられてもよい。
【0012】
触媒担体を加熱する電極部を備える触媒装置、いわゆる電気加熱式の触媒装置の場合には、触媒担体が導電体で構成されている。ここで、一般に導電体は不導体と比べて熱膨張率が高く熱応力の影響を受けやすい。この点、同構成では、そうした電気加熱式の触媒装置において、上述した構成を適用することにより、熱応力の影響を受けやすい電気加熱式の触媒装置でも、熱応力による触媒担体の損傷を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】
図3に示す4-4線に沿った触媒担体の断面図。
【
図6】同実施形態の変更例における触媒装置の側面図。
【
図7】同実施形態の変更例における触媒装置の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、触媒装置の一実施形態を、
図1~
図5を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態の触媒装置10は、車載等の内燃機関の排気を浄化するために、同内燃機関の排気通路内に設置される電気加熱式の触媒装置となっている。
【0015】
<触媒装置の構成>
図1及び
図2を参照して、触媒装置10の構成を説明する。
触媒装置10は、円筒状の触媒担体11を備えている。なお、以下の説明では、触媒担体11を円筒としたときに同円筒の中心軸Oが延びる方向を触媒担体11の軸方向Aと記載する。
【0016】
触媒担体11は、同触媒担体11を軸方向Aに貫通する多数のセル孔を有したモノリス構造をなしている。触媒担体11は、例えばシリコン、及びシリコンカーバイトの複合物を主成分とする焼結体であって導電体となっている。触媒担体11の各セル孔の壁面には、白金、パラジウム、ロジウム等の金属触媒が担持されている。なお、以下の説明では、触媒担体11における
図2の左側の端を同触媒担体11の前端と記載する。また、触媒担体11における
図2の右側の端を同触媒担体11の後端と記載する。
【0017】
触媒担体11の側面には、一対の電極部12が設けられている。両電極部12は、触媒担体11の側面における、中心軸Oを挟んで反対側となる位置にそれぞれ設けられている。
【0018】
各電極部12は、第1下地層13、第2下地層14、金属電極板15、及び固定層16を有している。
第1下地層13は、触媒担体11の側面に接するように形成された、導電性を有したセラミクスからなる層である。
【0019】
第2下地層14は、第1下地層13の表面に形成されている。第2下地層14は、金属マトリクスとその金属マトリクス内に分散された酸化鉱物粒子からなる層である。金属マトリクスとしては、例えばNiCr合金やMCrAlY合金が用いられる。なお、ここでの「M」は、Fe、Co、Niのうちの一つ以上を示している。一方、酸化鉱物粒子としては、例えばシリカやアルミナなどの酸化物を主成分とし、ベントナイトやマイカを含む粒子が用いられる。
【0020】
金属電極板15は、Fe-Cr合金等の導電性を有した金属からなる櫛状の板である。金属電極板15は、第2下地層14と同じ材料からなる固定層16により、第2下地層14の表面に固定されている。
【0021】
こうした触媒装置10では、触媒担体11の電気加熱を行える。すなわち、
図1に示すように、2つの電極部12の間に電圧を印加して触媒担体11に通電すると、その通電に応じた発熱で触媒担体11が加熱される。触媒装置10が内燃機関に組付けられた際には、こうした触媒担体11の電気加熱により、触媒活性の促進が図られる。
【0022】
なお、触媒装置10は、図示しないケースに挿入された状態で内燃機関の排気通路に設置される。
なお、電気加熱や排気からの受熱により触媒担体11が高温となると、触媒担体11には熱応力が発生する。そして、そうした熱応力が過大となると、触媒担体11にクラックが発生するおそれがある。そこで本実施形態の触媒装置10では、そうした熱応力を緩和するためのスリット50を触媒担体11に設けている。
【0023】
<スリットについて>
図2及び
図3に示すように、スリット50は、軸方向Aにおける触媒担体11の中央付近に1つ設けられており、中心軸Oに対して垂直な方向に延びるように形成されている。
【0024】
図4に、スリット50が形成された部位の径方向における触媒担体11の断面を示す。この図に示すように、スリット50は、中心軸Oを含む任意の平面Pvに対して対称となるように設けられている。触媒担体11の径方向におけるスリット50の長さDは、触媒担体11の径方向における長さRよりも短くなっている。すなわち、径方向における触媒担体11の断面において、スリット50は、中心軸Oを中心とする環形状をなしており、同断面の中心には、中心軸Oを中心とする円柱状の接続部11fが形成されている。なお、この接続部11fの半径rは上記長さDと上記長さRとの差に等しい。
【0025】
図3に示すように、軸方向Aにおいてスリット50の両側にそれぞれ位置する触媒担体11を第1分割体11a及び第2分割体11bとしたときに、隣り合う第1分割体11a及び第2分割体11bは、上記接続部11fにて繋がっている。
【0026】
触媒担体11の径方向における接続部11fの断面積S(
図4に示す接続部11fの斜線部の面積)は、以下のようになっている。すなわち、触媒装置10を上述したケースに挿入する際に当該触媒装置10に作用する荷重であって、同触媒装置10の軸方向Aに作用する荷重を挿入荷重としたときに、触媒担体11の単位面積あたりの耐荷重に断面積Sを乗じた値が、上記挿入荷重よりも大きくなるように設定されている。
【0027】
<実施形態の作用及び効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)スリット50が、触媒担体11の中心軸Oを含む任意の平面Pvに対して対称となるように設けられている。そのため、スリット50が形成された部位において、当該スリット50による熱応力の緩和が触媒担体11の径方向において偏ることが抑えられる。従って、そうした熱応力の偏りによる触媒担体11の損傷を抑えることができる。
【0028】
(2)触媒担体11内において軸方向Aに温度勾配が生じる場合には、触媒担体11の熱変形量が温度勾配に応じて異なるため、そうした熱変形量の相違による応力が触媒担体11に生じる。そうした熱変形量の相違による応力は上記スリット50によって遮断されるため、触媒担体11に生じる応力を低減することができる。
【0029】
図5にこうした作用効果の一例であって、内燃機関が減速状態になっているときの例を示す。なお、
図5の(A)には、減速状態での触媒担体11の軸方向における温度勾配を示す。
図5の(B)には、本実施形態の比較例であって上記スリット50を備えていない触媒担体111の形状及び応力状態を示す。
図5の(C)には、本実施形態の触媒担体11の形状及び応力状態を示す。なお、
図5の(B)及び
図5の(C)において、常温における触媒担体の形状を実線で示し、減速状態のときの触媒担体の形状を二点鎖線で示す。
【0030】
図5の(A)に示すように、減速状態では低温の排気が触媒担体11に流入するため、触媒担体11内の温度は後端よりも前端の方が温度は低くなる。従って、
図5の(B)や
図5の(C)に示すように、減速中の触媒担体111,11では、前端側が収縮する一方、後端側は膨張した状態になる。
【0031】
ここで、
図5の(B)に示すように、スリット50が設けられていない触媒担体111では、前端側の収縮と後端側の膨張とにより引っ張り応力Hが発生する。この引っ張り応力Hは、前端側の収縮を妨げる力として作用するため、前端側に作用する応力は大きくなる。
【0032】
一方、
図5の(C)に示すように、スリット50を有する本実施形態の触媒担体11では、前端側の収縮と後端側の膨張とにより発生する引っ張り応力Hは上記スリット50によって遮断される。そのため、そうした引っ張り応力Hが前端側の収縮を妨げる力として作用しにくくなる。従って、比較例と比べて、本実施形態の触媒担体11では前端側に作用する応力は小さくなり、触媒担体11に生じる応力が低減される。
【0033】
(3)触媒担体11の単位面積あたりの耐荷重に接続部11fの断面積Sを乗じた値が上記挿入荷重よりも大きくなるように同断面積Sは設定されている。従って、触媒装置10をケースに挿入する際の当該触媒装置10の損傷を適切に抑えることができる。
【0034】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・
図6に示すように、第1分割体11aの側面と第2分割体11bの側面とを電極部12を介して接続する場合には、その電極部12によって第1分割体11aと第2分割体11bとが接続される。従って、この場合には、上記接続部11fを省略してもよい。
【0035】
・
図7に示すように、スリット50は、触媒担体11の軸方向Aに並んで複数設けてもよい。
この場合には、スリット50にて分けられる触媒担体11の各分割体11a、11b、11cの軸方向Aにおける長さLは、スリット50が複数設けられていない場合と比べて短くなる。従って、軸方向Aにおける各分割体内の温度勾配による温度差は、スリット50が複数設けられていない場合と比べて小さくなる。そのため、触媒担体11の熱応力をさらに小さくすることができる。
【0036】
また、同
図7に示すように、中心軸Oに直交するとともに軸方向Aにおいて触媒担体11を二等分する平面を当該触媒担体11の中心面P2としたときに、この中心面P2に対して対称となる位置にスリット50をそれぞれ設けてもよい。この場合には次の作用効果が得られる。
【0037】
すなわち、内燃機関が減速状態のときには低温の排気が触媒担体11に流入するため、触媒担体11内の温度は後端よりも前端の方が温度は低くなる。一方、加速状態のときには高温の排気が触媒担体11に流入するため、触媒担体11内の温度は後端よりも前端の方が温度は高くなる。このように触媒担体11の温度勾配は内燃機関の運転状態に応じて逆転することがある。この点、中心面P2に対して対称となる位置にスリット50を設けるようにすれば、触媒担体11の温度勾配が逆転する場合でも、触媒担体11に生じる応力を好適に低減することができる。
【0038】
なお、
図7に示した変更例においても、触媒担体11の各分割体が電極部12を介して接続されている場合には、接続部11fを省略してもよい。
・触媒担体11の中心軸Oに対して垂直な方向に延びており、かつ中心軸Oを含む任意の平面Pvに対して対称となるように設けられているとの条件を満たすスリットであれば、スリット50の形状は適宜に変更してもよい。
【0039】
・触媒担体11に設ける電極部12の配置や構成は適宜に変更してもよい。
【符号の説明】
【0040】
10…触媒装置
11…触媒担体
11f…接続部
12…電極部
13…第1下地層
14…第2下地層
15…金属電極板
16…固定層
50…スリット