(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】構造物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240402BHJP
E04B 1/68 20060101ALI20240402BHJP
E04H 6/10 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04B1/68 100Z
E04H6/10 A
(21)【出願番号】P 2021091979
(22)【出願日】2021-05-31
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】一色 裕二
(72)【発明者】
【氏名】青野 英志
(72)【発明者】
【氏名】竹熊 渓
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-273271(JP,A)
【文献】特開2000-179179(JP,A)
【文献】特開2006-077481(JP,A)
【文献】実開平04-105106(JP,U)
【文献】特開2008-133660(JP,A)
【文献】特開平03-206240(JP,A)
【文献】特開2020-084407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/68
E04H 6/00 - 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が通行する車路スロープを有する構造物であって、
隣り合う柱と、
前記隣り合う柱同士の間に架設されて水平面に対して傾斜したスロープ梁と、
前記スロープ梁に支持された床スラブと、を備え、
前記スロープ梁および前記床スラブは、柱スパンの略中央の位置でエキスパンションジョイントにより分断されていることを特徴とする構造物。
【請求項2】
前記柱から前記スロープ梁を支持する方杖をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記柱は、鉄骨系の柱であることを特徴とする請求項1または2に記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車路スロープを有する構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車路スロープが設けられた建物がある(特許文献1~3参照)。
特許文献1には、建物躯体と、長手方向の一部分が建物躯体に接合されて他の部分が建物躯体に滑り支承を介して載置されたスロープと、を備える建物が示されている。
特許文献2には、建物本体に隣接して構築されたランプウェー建造物が示されている。ランプウェー建造物には、建物本体の所定階に繋がる螺旋状の車路スロープが設けられている。建物本体とランプウェー建造物との間には、エキスパンションジョイントが設けられている。
特許文献3には、住居棟、駐車棟、および昇降棟を備える駐車場付建築物が示されている。昇降棟には、駐車棟の各フロアへ乗用車が旋回走行しながら昇降可能な自走式車路が設けられている。住居棟と駐車棟との間には、エキスパンションジョイントが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-84407号公報
【文献】特開2016-199856号公報
【文献】特開2005-273271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、車路スロープに地震力が作用した際に、車路スロープに生じる変形を抑制できる構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明の構造物(例えば、後述のランプウェイ部3)は、車両が通行する車路スロープ(例えば、後述の車路スロープ20)を有する構造物であって、隣り合う柱(例えば、後述の鉄骨柱10A)と、前記隣り合う柱同士の間に架設されて水平面に対して傾斜したスロープ梁(例えば、後述のスロープ鉄骨梁21A)と、前記スロープ梁に支持された床スラブ(例えば、後述の床スラブ22A)と、を備え、前記スロープ梁および前記床スラブは、柱スパンの略中央の位置でエキスパンションジョイント(例えば、後述のエキスパンションジョイント30)により分断されていることを特徴とする。
【0006】
この発明によれば、スロープ梁の中間位置にエキスパンションジョイントを設けたので、車路スロープに地震力が作用した際には、エキスパンションジョイントが水平方向の変形を吸収するので、スロープ梁や床スラブに過大な軸力が生じるのを抑制して、柱に生じる変形を抑えることができる。
また、柱とスロープ梁との接合部にエキスパンションジョイントを設けた場合、エキスパンションジョイントの離隔距離を、構造物の最大層間変位量を上回るように設定する必要がある。そこで、本発明では、エキスパンションジョイントを柱スパンの略中央の位置に設けたので、エキスパンションジョイントの離隔距離は、構造物の最大層間変位量の半分を上回る程度で十分である。よって、構造物の設計の自由度を向上できる。
【0007】
第2の発明の構造物は、前記柱から前記スロープ梁を支持する方杖をさらに備えることを特徴とする。
【0008】
スロープ梁の略中央の位置にエキスパンションジョイントを設けたので、分断されたスロープ梁は、柱から延出した片持ち梁となる。そこで、この発明によれば、この分断されたスロープ梁を方杖により柱から支持したので、スロープ梁の構造的な安定性を確保できる。
【0009】
第3の発明の構造物は、前記柱は、鉄骨系の柱であることを特徴とする。
鉄骨系の柱には耐火被覆を吹き付ける必要があるため、鉄骨系の柱とスロープ梁との接合部にエキスパンションジョイントを設けると、エキスパンションジョイントと柱に吹き付ける耐火被覆材との納まりが複雑になり、施工性が低下する、という問題があった。
そこで、本発明によれば、エキスパンションジョイントをスロープ梁の略中央の位置に設けたので、従来のようにエキスパンションジョイントをスロープ梁の両端部つまりスロープ梁と柱との接合部に設けた場合に比べて、エキスパンションジョイントと柱に吹き付けた耐火被覆材との納まりが複雑にならないから、施工性が良好である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車路スロープに地震力が作用した際に、車路スロープに生じる変形を抑制できる構造物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る建物の平面図である。
【
図2】
図1の建物のランプウェイ部の柱梁架構を示す平面図である。
【
図3】
図2のランプウェイ部のA-A断面図である。
【
図4】
図3のランプウェイ部の破線Bで囲んだ部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、車路スロープを構成するスロープ梁および床スラブをエキスパンションジョイントで分断し、これら分断されたスロープ梁および床スラブを片持ち梁形式で柱から支した構造物である。
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る建物1の平面図である。
図2は、
図1の建物1のランプウェイ部3の柱梁架構を示す平面図である。
図3は、
図2のランプウェイ部3のA-A断面図である。
図4は、
図3のランプウェイ部3の破線Bで囲んだ部分の拡大図である。
建物1は、建物本体2と、この建物本体2に隣接して設けられた構造物としてのランプウェイ部3と、を備える。
建物本体2は、複数階を有しており、この建物本体2の各階の内部には、車室や事務所が配置されている。また、建物本体2の各階の床面は略水平となっている。
ランプウェイ部3には、車両が通行して建物本体2の各階に至る車路スロープ20が設けられている。
【0013】
ランプウェイ部3は、基礎4と、基礎4の上に設けられた複数の鉄骨柱10と、隣り合う鉄骨柱10同士の間に架設されて水平面に対して傾斜した車路スロープ20と、を備える。車路スロープ20は、隣り合う鉄骨柱10同士の間に架設されたスロープ鉄骨梁21と、スロープ鉄骨梁21に支持された鉄筋コンクリート造の図示しない床スラブと、を含んで構成される。鉄骨柱10およびスロープ鉄骨梁21には、耐火被覆が吹き付けられている。
【0014】
ランプウェイ部3は、平面視で、エキスパンションジョイント30により二分割されている。以下、エキスパンションジョイント30が設けられた車路スロープ20を車路スロープ20Aとし、この車路スロープ20Aの両端の鉄骨柱10を鉄骨柱10Aとし、車路スロープ20Aのスロープ鉄骨梁21および床スラブをスロープ鉄骨梁21Aおよび床スラブ22Aとする。すると、スロープ鉄骨梁21Aおよび床スラブ22Aは、鉄骨柱10Aの柱スパンの略中央の位置でエキスパンションジョイント30により分断されている。エキスパンションジョイントの離隔距離Wは、1層分の最大層間変位量の半分を僅かに上回る程度となっている。
また、所定階の分断されたスロープ鉄骨梁21Aは、方杖11により鉄骨柱10Aから支持されている。この方杖11は、例えば、H形鋼や溝形鋼を組み合わせて構成される。
【0015】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)スロープ鉄骨梁21Aの中間位置にエキスパンションジョイント30を設けたので、鉄骨柱10Aとスロープ鉄骨梁21Aおよび床スラブ22Aとが接合されるから、鉄骨柱10Aの頂部とスロープ鉄骨梁21Aおよび床スラブ22Aとの間には隙間が生じることはなく、高い耐震性能を確保できる。また、鉄骨柱10Aとスロープ鉄骨梁21Aとの接合部分、および、鉄骨柱10Aと床スラブ22Aとの接合部分を、鉄骨柱10Aにから連続する耐火被覆材で容易に覆うことができる。
また、車路スロープ20Aに地震力が作用した際には、エキスパンションジョイント30が水平方向の変形を吸収するので、スロープ鉄骨梁21Aやこのスロープ鉄骨梁21Aが接合される鉄骨柱10に過大な軸力が生じるのを抑制でき、車路スロープ20Aや鉄骨柱10Aに生じる曲げモーメントを低減して、鉄骨柱10Aの変形を抑えることができる。
また、エキスパンションジョイント30を鉄骨柱10Aから離れた位置に設けたので、鉄骨柱10Aを覆う耐火被覆材を効率良く施工することが可能となる。
また、エキスパンションジョイント30の鉄骨柱10Aからの離隔距離ができるだけ小さくなるように、エキスパンションジョイント30を柱スパンの略中央の位置に設けた。
また、エキスパンションジョイント30を柱スパンの略中央の位置に設けたので、鉄骨柱10Aと車路スロープ20Aとの間に滑り支承等の免震装置を設ける必要がない。
さらに、エキスパンションジョイント30を柱スパンの略中央の位置に設けたので、エキスパンションジョイント30の離隔距離Wは、ランプウェイ部3の最大層間変位量の半分を上回る程度で十分であり、ランプウェイ部3の設計の自由度を向上できる。このように、エキスパンションジョイント30に加わる変形量が低減されるため、離隔距離Wを小さくでき、小型のエキスパンションジョイント30を用いて車路スロープ20Aを実現することが可能となる。
【0016】
(2)スロープ鉄骨梁21Aの略中央の位置にエキスパンションジョイント30を設けたので、分断されたスロープ鉄骨梁21Aは、鉄骨柱10Aから延出した片持ち梁となる。そこで、この分断されたスロープ鉄骨梁21Aを方杖11により鉄骨柱10Aから支持したので、鉄骨柱10Aとスロープ鉄骨梁21Aとが強固に接合されるから、スロープ鉄骨梁21Aの構造的な安定性を確保できる。
【0017】
(3)エキスパンションジョイント30をスロープ鉄骨梁21Aの中間位置に設けたので、エキスパンションジョイントをスロープ鉄骨梁21Aの両端部つまりスロープ鉄骨梁21Aと鉄骨柱10Aとの接合部に設けた場合に比べて、エキスパンションジョイント30と鉄骨柱10Aに吹き付けた耐火被覆材との納まりが複雑にならないから、施工性が良好である。
【0018】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の実施形態では、方杖11によりスロープ鉄骨梁21Aを下から支持したが、これに限らず、
図3中破線で示すような方杖12により、スロープ鉄骨梁21Aを上から吊り下げ支持してもよいし、方杖11および方杖12により、スロープ鉄骨梁21Aを上下から支持してもよい。
【符号の説明】
【0019】
1…建物 2…建物本体 3…ランプウェイ部(構造物) 4…基礎
10…鉄骨柱(柱)
10A…エキスパンションジョイントが設けられた車路スロープの両端の鉄骨柱(柱)
11…方杖 20…車路スロープ
20A…エキスパンションジョイントが設けられた車路スロープ
21…スロープ鉄骨梁(スロープ梁)
21A…エキスパンションジョイントが設けられたスロープ鉄骨梁(スロープ梁)
22A…エキスパンションジョイントが設けられた床スラブ
30…エキスパンションジョイント
W…エキスパンションジョイントの離隔距離