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特許7464582シュードモナス属細菌の選択培地およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】シュードモナス属細菌の選択培地およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240402BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240402BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/00 T
C12Q1/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021504929
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2020008581
(87)【国際公開番号】W WO2020184236
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2019042297
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新倉 舞
(72)【発明者】
【氏名】朝原 崇
(72)【発明者】
【氏名】高橋 明
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-120509(JP,A)
【文献】特開2009-159837(JP,A)
【文献】特開2010-098950(JP,A)
【文献】Cephaloridine fucidin cetrimide (CFC) agar,Progress in Industrial Microbiology,2003年,Vol.37,pp.434-436
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎培地中に、第三世代セファロスポリンの1種以上と、第一世代セファロスポリンおよびグリコペプチド系抗生物質を含有し、
第一世代セファロスポリンがセファロチンであり、
グリコペプチド系抗生物質がバンコマイシンであり、
基礎培地がNAC培地とTSA培地を質量比で1:1~20となるように混合した培地であり、
基礎培地中の第三世代セファロスポリンの濃度が0.1μg/ml以上64μg/ml未満であり、セファロチンの濃度が16μg/mlより高く、バンコマイシンの濃度が128μg/mlより高い、
ことを特徴とするシュードモナス属細菌の選択培地。
【請求項2】
第三世代セファロスポリンが、セフチゾキシムまたはセフォタキシムである請求項1記載のシュードモナス属細菌の選択培地。
【請求項3】
基礎培地中のセフチゾキシムの濃度が0.1μg/ml以上64μg/ml未満である請求項2記載のシュードモナス属細菌の選択培地。
【請求項4】
基礎培地中のセフォタキシムの濃度が0.1μg/ml以上16μg/ml未満である請求項2記載のシュードモナス属細菌の選択培地。
【請求項5】
シュードモナス属細菌が、シュードモナス・エルギノーサである請求項1~の何れかに記載のシュードモナス属細菌の選択培地。
【請求項6】
第三世代セファロスポリンがセフチゾキシムであり、第一世代セファロスポリンがセファロチンであり、グリコペプチド系抗生物質がバンコマイシンであり、基礎培地がNAC培地とTSA培地を質量比で1:1~20となるように混合した培地であり、基礎培地中のセフチゾキシムの濃度が0.1μg/ml以上64μg/ml未満であり、セファロチンの濃度が16μg/mlより高く、バンコマイシンの濃度が128μg/mlより高い、請求項1記載のシュードモナス属細菌の選択培地。
【請求項7】
請求項1~の何れかに記載のシュードモナス属細菌の選択培地に、試料を接種して培養し、シュードモナス属細菌を検出することを特徴とするシュードモナス属細菌の検出方法。
【請求項8】
シュードモナス属細菌が、シュードモナス・エルギノーサである請求項記載のシュードモナス属細菌の検出方法。
【請求項9】
試料が、糞便である請求項またはに記載のシュードモナス属細菌の検出方法。
【請求項10】
請求項1~の何れかに記載のシュードモナス属細菌の選択培地に、試料を接種して培養し、シュードモナス属細菌を選択的に培養することを特徴とするシュードモナス属細菌の選択方法。
【請求項11】
シュードモナス属細菌が、シュードモナス・エルギノーサである請求項10記載のシュードモナス属細菌の選択方法。
【請求項12】
試料が、糞便である請求項10または11に記載のシュードモナス属細菌の選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュードモナス属細菌の選択培地ならびにこれを利用したシュードモナス属細菌の検出方法およびシュードモナス属細菌の選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シュードモナス属細菌であるシュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)は、健常人であれば感染症を引き起こすリスクが極めて低い菌であるが、外科手術・がん治療・移植手術などによって抵抗力が低下した患者においては、術後感染症、人工呼吸器関連肺炎や重篤な菌血症の起因菌となる。
【0003】
一般的な医療施設におけるシュードモナス属細菌の検出には、培養法が用いられている(非特許文献1)。しかし、培養法に用いられるCHROM平板培地やNAC平板培地などの選択培地は、シュードモナス属細菌以外の菌も検出することがあり、さらに、培地に含有される選択因子がシュードモナス属細菌に対しても抗菌的に作用して生菌数を低く見積もることから、定性的な検査は可能であっても、感染や汚染の程度を菌数で評価することは困難であった。
【0004】
したがって、培養法によって抗菌薬の適切な選択および早期治療を行うためには、シュードモナス属細菌を特異的かつ正確に定量可能な新規選択培地が必要であった。
【0005】
更に、シュードモナス属細菌の中でも特にシュードモナス・エルギノーサは、1)入院患者の血液や喀痰だけでなく糞便からも高頻度に分離されること、2)不顕性感染患者(感染症を発症せず保菌状態となっている患者)が多く、腸管が感染源となって保菌伝播が拡大しやすいことが報告されており、糞便中のシュードモナス・エルギノーサを定量的に検出することが出来れば、感染拡大の抑制にも大きく貢献できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sigurdardottir K, Digranes A, Harthug S, Nesthus I, Tangen JM, Dybdahl B, Meyer P, Hopen G, Lokeland T, Grottum K, Vie W, Langeland N. (2005) A multi-centre prospective study of febrile neutropenia in Norway: microbiological findings and antimicrobial susceptibility. Scand J Infect Dis 37: 455-64.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のことから本発明では、シュードモナス・エルギノーサ等のシュードモナス属細菌を特異的かつ定量的に検出する選択培地を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、基礎培地中に特定の抗生物質を組み合わせて含有させることにより、シュードモナス属細菌を選択的に培養できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、基礎培地中に、第三世代セファロスポリンの1種以上と、第一世代セファロスポリンおよびグリコペプチド系抗生物質からなる群から選ばれる抗生物質の1種以上とを含有することを特徴とするシュードモナス属細菌の選択培地である。
【0010】
また、本発明は、上記シュードモナス属細菌の選択培地に、試料を接種して培養し、シュードモナス属細菌を検出することを特徴とするシュードモナス属細菌の検出方法である。
【0011】
更に、本発明は、上記シュードモナス属細菌の選択培地に、試料を接種して培養し、シュードモナス属細菌を選択的に培養することを特徴とするシュードモナス属細菌の選択方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシュードモナス属細菌の選択培地は、シュードモナス・エルギノーサ等のシュードモナス属細菌を選択的に培養することができるため、試料からシュードモナス属細菌を特異的かつ定量的に検出することができる。
【0013】
そのため、本発明は医療施設において抗菌薬の適切な選択および早期治療をするのに利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシュードモナス属細菌の選択培地(以下、「本発明培地」という)は、基礎培地中に、第三世代セファロスポリンの1種以上と、第一世代セファロスポリンおよびグリコペプチド系抗生物質からなる群から選ばれる抗生物質の1種以上とを含有するものである。
【0015】
本発明培地に用いられる基礎培地としては、シュードモナス属細菌の成育を妨げない培地であれば特に限定されず、例えば、NAC培地、TSA培地等が挙げられる。これら基礎培地は1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、NAC培地と、NAC培地以外のシュードモナス属細菌の成育を妨げない培地との混合培地が選択性の点から好ましく、NAC培地とTSA培地との混合培地が選択性の点からより好ましい。NAC培地とTSA培地との混合比率は特に限定されないが、質量比で1:1~40が好ましく、1:1~20が特に好ましく、1:10~20がより好ましい。NAC培地とTSA培地の組成は以下の通りである。
【0016】
TSA(Trypticase Soy Agar)培地
カゼイン-スイ消化ペプトン 15.0g/l
大豆-パパイン消化ペプトン 5.0g/l
塩化ナトリウム 5.0g/l
寒天 15.0g/l
【0017】
NAC(Nalidic-Acid, Cetrimide)培地
ペプトン 20.0g/l
リン酸-水素カリウム 0.3g/l
硫酸マグネシウム 0.2g/l
セトリミド 0.2g/l
ナリジクス酸 0.015g/l
寒天 15.0g/l
【0018】
本発明培地に用いられる第三世代セファロスポリンは、特に限定されないが、例えば、セフチゾキシム(ceftizoxime)、セフォタキシム(cefotaxime)、セフトリアキソン(ceftriaxone)、セフタジジム(ceftazidime)、セフォペラゾン(cefoperazone)、セフスロジン(cefsulodin)、セフチブテン(ceftibuten)、セフィキシム(cefixime)、セフェタメット(cefetamet)、セフジトレンピボキシル等が挙げられる。これら第三世代セファロスポリンの中でもセフチゾキシムおよび/またはセフォタキシムが好ましく、セフチゾキシムまたはセフォタキシムがより好ましく、セフチゾキシムが特に好ましい。
【0019】
本発明培地に用いられる第一世代セファロスポリンは、特に限定されないが、例えば、セファロチン(cefalotin)、セファゾリン(cephazolin/cefazolin)、セファピリン(cephapirin)、セファレキシン(cephalexin)、セファラジン(cephradine)、セファドロキシル(cephadroxil)等が挙げられる。これら第一世代セファロスポリンの中でもセファロチンが好ましい。
【0020】
本発明培地に用いられるグリコペプチド系抗生物質は特に限定されないが、例えば、バンコマイシン(vancomycin)、テイコプラニン(teicoplanin)等が挙げられる。これらグリコペプチド系抗生物質の中でもバンコマイシンが好ましい。
【0021】
なお、本明細書において、上記第三世代セファロスポリン、第一世代セファロスポリン、グリコペプチド系抗生物質に例示されている抗生物質の名称は、何れも総称であり、それらの塩酸塩、ナトリウム塩等も含む。
【0022】
本発明培地における第三世代セファロスポリン、第一世代セファロスポリン、グリコペプチド系抗生物質の含有量は、シュードモナス属細菌やその他細菌の最小阻止濃度を鑑みて適宜決定すればよく、特に限定されない。例えば、第三世代セファロスポリンであれば0.1μg/ml以上、64μg/ml未満、好ましくは0.5μg/ml以上、32μg/ml以下である。例えば、第一世代セファロスポリンであれば16μg/ml以上、好ましくは32μg/ml以上、256μg/ml以下である。例えば、グリコペプチド系抗生物質であれば128μg/mlより高く、好ましくは128μg/mlより高く、256μg/ml以下である。
【0023】
より具体的に、上記第三世代セファロスポリンの1種以上と、第一世代セファロスポリンおよびグリコペプチド系抗生物質からなる群から選ばれる抗生物質の1種以上の組合せとしては以下のものが挙げられる。
<組合せ1>
セフチゾキシム 0.1μg/ml以上、64μg/ml未満
セファロチン 32μg/ml以上、256μg/ml以下
<組合せ2>
セフォタキシム 0.1μg/ml以上、16μg/ml未満
セファロチン 32μg/ml以上、256μg/ml以下
<組合せ3>
セフチゾキシム 0.1μg/ml以上、64μg/ml未満
バンコマイシン 128μg/mlより高く、256μg/ml以下
<組合せ4>
セフォタキシム 0.1μg/ml以上、16μg/ml未満
バンコマイシン 128μg/mlより高く、256μg/ml以下
【0024】
本発明培地の好ましい態様としては、NAC培地とTSA培地を質量比で1:1~20となるように混合した培地に、セフチゾキシムを0.1μg/ml以上64μg/ml未満、セファロチンを16μg/mlより高く、バンコマイシンの濃度が128μg/mlより高く含有させたものが挙げられる。
【0025】
本発明培地のより好ましい態様としては、NAC培地とTSA培地を質量比で1:1~20となるように混合した培地に、セフチゾキシムを0.1μg/ml以上、64μg/ml未満、セファロチンを16μg/ml以上含有させたものが挙げられる。
【0026】
本発明培地には、本発明の効果を損なわない限り、例えば、酵母エキスや各種ミネラル類、各種ビタミン類等を含有させてもよい。
【0027】
本発明培地の製造方法は、特に限定されず、例えば下記のようにして製造することができる。
まず、基礎培地を加温溶解したものを、オートクレーブ等で滅菌する。次に、滅菌後、第三世代セファロスポリンの1種以上と、第一世代セファロスポリンおよびグリコペプチド系抗生物質からなる群から選ばれる抗生物質の1種以上を、所望の濃度となるように基礎培地に添加し、攪拌する。最後に、これを容器に分注し、培地が固まるまで乾燥する。
【0028】
斯くして得られる本発明培地は、シュードモナス・エルギノーサ、P. pseudoalcaligenes、P. stutzeri、P. luteola、P. oryzihabitans、P. putida、P. tolaasii、P. alcaligenes、P. fluorescens、P. paucimobilis、P. acidovorans等のシュードモナス属細菌、好ましくはシュードモナス・エルギノーサを、特異的かつ定量的に検出することができる。ここで特異的にとは、接種する試料中に含まれるシュードモナス・エルギノーサ以外の細菌は検出されず、シュードモナス・エルギノーサのみが検出されることをいう。また、ここで定量的にとは、接種した試料中に含まれるシュードモナス・エルギノーサの正確な菌数が測定できることをいう。
【0029】
本発明培地は、上記性質を有するため、シュードモナス属細菌の検出方法や、シュードモナス属細菌の選択方法に利用することができる。
【0030】
本発明のシュードモナス属細菌の検出方法(以下、「本発明検出方法」という)は、本発明培地に、試料を接種して培養し、シュードモナス属細菌を検出することにより行われる。
【0031】
本発明検出方法に用いられる試料は、シュードモナス属細菌が含まれていると推測される試料であれば特に限定されないが、例えば、糞便、血液、喀痰等が挙げられる。これらの試料の中でも糞便には非常に多くの細菌が含まれており、その中からシュードモナス属細菌のみを特異的に検出するのは非常に困難であるが、本発明の培地を用いることにより、シュードモナス属細菌のみを特異的に検出することができる。これら試料はTSB培地や生理食塩水等で糞便を10倍希釈し、100μlを本発明培地に接種し、培養する。培養条件は特に限定されないが、例えば、37℃で24時間、好気的に培養する。このように培養した後は、シュードモナス属細菌が特異的に培養されるので、これによりシュードモナス属細菌を検出することができる。
【0032】
また、本発明のシュードモナス属細菌の選択方法(以下、「本発明選択方法」という)は、本発明培地に、試料を接種して培養し、シュードモナス属細菌を選択的に培養することにより行われる。
【0033】
本発明選択方法に用いられる試料は、シュードモナス属細菌が含まれていると推測される試料であれば特に限定されないが、例えば、糞便、血液、喀痰等が挙げられる。これらの試料の中でも糞便が好ましい。これら試料はTSB培地や生理食塩水等で糞便を10倍希釈し、100μlを本発明培地に接種し、培養する。培養条件は特に限定されないが、例えば、37℃で24時間、好気的に培養する。このように培養した後は、シュードモナス属細菌が特異的に培養されるので、これによりシュードモナス属細菌を選択することができる。
【実施例
【0034】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
<使用菌株および培養条件>
以下の実施例ではシュードモナス・エルギノーサとして、Pseudomonas aeruginosa ATCC10145T(基準株:ATCCから入手、10801 University Boulevard Manassas, VA 20110 USA:以下、これを「P. aeruginosa」という)を用いた。-80℃にて凍結保存(ビーズストック、MICROBANKTM, PRO-LAB Diagnostics)されていたP. aeruginosaを10mlのトリプチケースソイ液体培地(TSB培地:Difco)に接種し、好気条件下にて、37℃で18時間、振盪培養(140rpm)した。培養液は、内腔0.27mmの針をつけたシリンジで10回出し入れしてから(均一化処理)、用いた。
【0036】
実 施 例 1
新規選択培地の組成の決定:
(1)NAC培地とTSA培地の添加割合の検討
P. aeruginosa検出用培地として臨床検査で用いられているNAC(Nalidic-Acid, Cetrimide)培地を新規選択培地の基礎培地とし、P. aeruginosaの生育を抑制しないNAC培地の濃度を検討した。すなわち、NAC培地(日水製薬株式会社)を非選択培地であるトリプチケースソイ寒天培地(TSA培地:Difco)で適宜希釈した培地(NAC培地:TSA培地=1:1,1:2,1:10,1:20,1:40)を作製し、これらの平板培地に1%Tween20加 生理食塩水で10CFU/mlに調製したP. aeruginosaの菌液(均一化処理済み)を接種した(デュプリケート)。平板培地を37℃で24時間好気培養し、培地上に発現したコロニー数を測定してP. aeruginosaの発育の阻害率を求めた。その結果を表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
NAC培地はP. aeruginosaの発育を97%抑制した。NAC培地にTSA培地を添加したところ、1:20の割合ではP. aeruginosaの発育が全く阻害されなくなった。このことから、NAC培地にTSA培地を1:20の割合で混和した培地を新規選択培地の基礎培地として用いることとした。
【0039】
(2)TSA培地で希釈したNAC培地に発育する糞便中の菌の確認
3名の健常ボランティアより得た糞便を1つに混ぜ合わせた後、9倍量のTSB培地を添加し激しく攪拌して糞便10倍懸濁液を作製した。その100μlを分取し、NAC培地とTSA培地を1:20の割合で混和して作製した平板培地に接種して37℃で24時間好気培養した。培地上に発現したコロニーをコロニーPCRに供し、得られた増幅産物をシーケンス解析してデータベースで相同検索することにより、当該培地にコロニー形成能を有する菌種を同定した。
【0040】
NAC培地とTSA培地を1:20の割合で混和した平板培地には、糞便中のエシェリヒア・コリ(Escherichia coli(以下、「E. coli」という))、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium(以下、「E. faecium」という))およびコマモナス・ケルステルシー(Comamonas kerstersii(以下、「C. kerstersii」という))がコロニー形成能を有することが確認された。
【0041】
(3)糞便中のP. aeruginosa以外の菌の増殖を抑制する抗菌薬の検討
(3-1)菌液の調製
NAC培地とTSA培地を1:20の割合で混和した平板培地にコロニーを形成したE. coli、E. faeciumおよびC. kerstersiiおよびP. aeruginosaのコロニーをそれぞれ釣菌して500μlの基礎培地に添加し攪拌して、以下の実験に供した。
【0042】
(3-2)抗菌薬の調製
P. aeruginosaが低感受性であり、かつE. coli、E. faeciumおよびC. kerstersii が高感受性の抗菌薬として、セフォタキシムナトリウム(Cefotaxime sodium salt:Sigma(以下、「Cefotaxime」という))、セフチゾキシムナトリウム(Ceftizoxime sodium:Fujisawa Healthcare(以下、「Ceftizoxime」という))、バンコマイシン塩酸塩(Vancomycin hydrochloride:Sigma(以下、「Vancomycin」という))、ミノサイクリン塩酸塩(Minocyclin hydrochloride:Sigma(以下、「Minocyclin」という))、およびセファロチンナトリウム(Cefalotin sodium salt:Sigma(以下、「Cefalotin」という))を選択した。各抗菌薬をそれぞれ51.2mg/mlになるよう滅菌蒸留水に溶解した後、0.45μmのメンブランフィルター(DISMIC-25cs:Toyo Roshi)でろ過滅菌した。
【0043】
(3-3)最小発育阻止濃度(MIC)の測定
前述のろ過滅菌済み抗菌薬水溶液を512μg/mlの濃度になるよう基礎培地 (Trypticase Soy Broth:Difco)に添加し、さらに基礎培地にて2倍段階希釈して、0.5~256μg/mlの希釈系列を作製した。0.5~256μg/mlの濃度の各抗菌薬添加液体培地を96穴プレートのウェルに100μlずつ分注した。
【0044】
各菌液の5μlを各ウェルに添加して良く撹拌した後、37℃、24時間培養した。培養後、OD値(660nm)を測定し、陰性対照に比べて増殖抑制の認められた各種抗菌薬の最低濃度(MIC:最小発育阻止濃度)を求めた。なお、陰性対照には、抗菌薬非添加液体培地を用いた。その結果を表2に示した。
【0045】
【表2】
NT:測定未実施
【0046】
Cefotaxime およびCeftizoximeは、E. coliの増殖を強く抑制(MIC:<0.5μg/m)したが、Ceftizoxime はP. aeruginosaのMICがより高値であったことから、Ceftizoximeを用いることとし、その添加濃度は、E. coliの発育を阻止し、かつP. aeruginosaのMIC値よりも低値である0.5μg/mlに決定した。VancomycinはC. kerstersiiが低感受性であったため低濃度での使用には適さなかったが、濃度が128μg/mlより高ければ使用できることが判明した。MinocyclinはP. aeruginosaが感受性であったため使用に適さなかった。一方、Cefalotinについては他の供試菌に比べP. aeruginosaのみが低感受性(MIC:>256μg/ml)であった。Cefalotinの添加濃度は、P. aeruginosaの増殖を抑制することなくE. faeciumおよびC. kerstersiiの増殖を抑制可能な64μg/mlに決定した。
【0047】
実 施 例 2
新規に作製した選択培地の性能確認:
(1)供試培地の作製
NAC培地、NAC培地およびTSA培地を1:20の割合で混和し、さらにE. coli、E. faeciumおよびC. kerstersiiの増殖を抑制するCeftizoxime(最終濃度:0.5μg/ml)および Cefalotin(最終濃度:64μg/ml)を添加した本発明の選択培地(NCC培地)、および非選択培地であるTSA培地の3種の平板培地を作製した。
【0048】
(2)新規選択培地を用いたヒト糞便懸濁液中のP. aeruginosaの検出
陽性対照として900μlのTSB液体培地に前述のP. aeruginosaの菌液100μlを添加し(最終菌数:10CFU/ml)、NAC培地、NCC培地およびTSA培地の平板培地に接種した(トリプリケート)。また、陰性対照として、900μlの糞便10倍懸濁液に1%Tween20加TSB液体培地100μlを添加したものを、NAC培地およびNCC培地の平板培地に接種した。この糞便10倍懸濁液は健常人のものであるため、P. aeruginosaは含まれていないものである。次いで、900μlの糞便10倍懸濁液に1%Tween20加TSB液体培地で10CFU/mlに調製したP. aeruginosaの菌液(均一化処理済み)を100μl添加(最終菌数:10CFU/ml)して十分混和した。その100μlを分取し、前述のNAC培地およびNCC培地の平板培地に接種した(トリプリケート)。これらの平板培地を37℃で24時間好気培養し、培地上に発現したコロニー数を測定した。これらの結果を表3に示した。なお、結果はLog10CFU/ml(トリプリケートの平均値±標準偏差)で示した。
【0049】
【表3】
1)ヒト糞便懸濁液:TBS培地で糞便を10倍に希釈したもの
ND:検出下限値未満(<2.0[Log10CFU/ml])
NT:測定未実施
検出不可:糞便中のP. aeruginosa以外の菌が大量に生育し、P. aeruginosaのコロニーが確認できなかった。
【0050】
NAC培地にP. aeruginosa ATCC10145Tの菌液を塗抹したところ、TSA培地に比べて検出菌数が約1/10に減少した。一方、今回新たに開発したNCC培地(NAC培地およびTSA培地を1:20の割合で混和し、0.5μg/mlのCeftizoxime および 64μg/mlのCefalotinを添加した培地)における検出菌数は、非選択培地であるTSA培地と同等であった。また、糞便懸濁液にP. aeruginosaを添加後、NAC培地に塗抹した条件では、標的菌以外の菌が培地上に生育し、P. aeruginosaのコロニーを確認することができなかったが、NCC培地においては標的菌以外の菌の発育が強く抑制されており、P. aeruginosaのみを非選択培地と同程度の菌数で検出することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のシュードモナス属細菌の選択培地は、シュードモナス・エルギノーサ等のシュードモナス属細菌を特異的かつ正確に定量可能であるため、医療施設において抗菌薬の適切な選択および早期治療をするのに利用できる。