(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20240402BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20240402BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240402BHJP
H01F 1/33 20060101ALI20240402BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H01F1/26
C08K3/01
C08L101/00
H01F1/33
H01F27/255
(21)【出願番号】P 2021515663
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2020037405
(87)【国際公開番号】W WO2021066089
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-03-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019183558
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】野辺 若菜
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将人
(72)【発明者】
【氏名】山下 勝志
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】渡辺 努
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-80058(JP,A)
【文献】国際公開第2016/204008(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F1/26
H01F27/255
C08K3/01
C08K3/36
C08L63/00
C08L101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスファー成形に用いられる樹脂組成物であって、
樹脂(A)と、メジアン径が7.5~100μmの磁性粉(B)と、メジアン径が0.2~5μmの粒子(C)とを含み、
前記磁性粉(B)は、Fe原子を90質量%以上含有する鉄基粒子のみを含み、
当該樹脂組成物中の前記磁性粉(B)の含有比率は、60~99質量%であり、
当該樹脂組成物を175℃でトランスファー成形することで得られる成形品の飽和磁束密度が1.1T以上であり、
当該樹脂組成物中の、前記粒子(C)の量/(前記磁性粉(B)の量+前記粒子(C)の量)の値は、質量基準で、0.01~
0.1614である、樹脂組成物。
ただし、
前記磁性粉(B)が、成分組成がFe
76Si
9B
10P
5で表され、メジアン径が34μmである第1の合金粉末であり、前記粒子(C)が、成分組成がFe
81Si
11Cr
8で表され、メジアン径が4.9μmである第2の合金粉末であり、第1の合金粉末と第2の合金粉末の全体における第2の合金粉末の体積含有率が10vol%である態様、および、
前記磁性粉(B)が、成分組成がFe
75.3Si
9B
10P
5Cu
0.7で表され、メジアン径が37μmである第1の合金粉末であり、前記粒子(C)が、成分組成がFe
81Si
11Cr
8で表され、メジアン径が4.9μmである第2の合金粉末であり、第1の合金粉末と第2の合金粉末の全体における第2の合金粉末の体積含有率が10vol%である態様
を除く。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)は、熱硬化性樹脂を含む、樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)は、エポキシ樹脂を含む、樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびビフェニル構造を含むエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくともいずれかのエポキシ樹脂を含む、樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物であって、
さらに、硬化剤(D)を含む、樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂組成物であって、
前記硬化剤(D)は、フェノール化合物およびアミン化合物からなる群より選択される少なくともいずれかの化合物を含む、樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物であって、
前記粒子(C)が、磁性粉を含む、樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物であって、
前記粒子(C)が、非磁性粉を含む、樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂組成物であって、
前記非磁性粉は、シリカ粒子を含む、樹脂組成物。
【請求項10】
請求項7に記載の樹脂組成物であって、
前記磁性粉は、Fe原子を90質量%以上含有する、樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形品に関する。より具体的には、トランスファー成形に用いられる樹脂組成物およびこの樹脂組成物を用いて形成された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体粉末と樹脂とを含む材料を加熱して成形することで、磁性部品(例えばリアクトルの磁性コア等)を形成する試みが知られている。
【0003】
特許文献1には、磁性体粉末と、この粉末を分散した状態で内包する高分子材料とを含有する複合材料が記載されている。特許文献1によれば、この複合材料全体に対する磁性体粉末の含有量は50体積%超75体積%以下、この複合材料の飽和磁束密度は0.6T以上、この複合材料の比透磁率は20超35以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子機器の更なる小型化・軽量化に伴い、磁性部品にも小型化・軽量化が求められている。
この状況を鑑み、本発明者は、小型で軽量な磁性部品の製造に好ましく用いられる樹脂組成物を提供することを目的として、検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0007】
本発明によれば、
トランスファー成形に用いられる樹脂組成物であって、
樹脂(A)と、メジアン径が7.5~100μmの磁性粉(B)と、メジアン径が0.2~5μmの粒子(C)とを含み、
前記磁性粉(B)は、Fe原子を90質量%以上含有する鉄基粒子のみを含み、
当該樹脂組成物中の前記磁性粉(B)の含有比率は、60~99質量%であり、
当該樹脂組成物を175℃でトランスファー成形することで得られる成形品の飽和磁束密度が1.1T以上であり、
当該樹脂組成物中の、前記粒子(C)の量/(前記磁性粉(B)の量+前記粒子(C)の量)の値は、質量基準で、0.01~0.1614である、樹脂組成物
が提供される。
ただし、上記樹脂組成物において、
前記磁性粉(B)が、成分組成がFe76Si9B10P5で表され、メジアン径が34μmである第1の合金粉末であり、前記粒子(C)が、成分組成がFe81Si11Cr8で表され、メジアン径が4.9μmである第2の合金粉末であり、第1の合金粉末と第2の合金粉末の全体における第2の合金粉末の体積含有率が10vol%である態様、および、
前記磁性粉(B)が、成分組成がFe75.3Si9B10P5Cu0.7で表され、メジアン径が37μmである第1の合金粉末であり、前記粒子(C)が、成分組成がFe81Si11Cr8で表され、メジアン径が4.9μmである第2の合金粉末であり、第1の合金粉末と第2の合金粉末の全体における第2の合金粉末の体積含有率が10vol%である態様
を除く。
【0008】
また、本発明によれば、
上記の樹脂組成物を用いて形成された成形品
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、小型で軽量な磁性部品の製造に好ましく用いられる。つまり、本発明の樹脂組成物を用いることで、小型で軽量な磁性部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】磁性コアを備えるコイルを模式的に示す図である。
【
図2】磁性コアを備えるコイル(
図1のものとは別の態様)を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に
図2以降において、
図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0012】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0013】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0014】
<樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物は、トランスファー成形に用いられる。換言すると、本実施形態の樹脂組成物は、トランスファー成形法によって成形品を製造する際の材料として用いられる。
また、本実施形態の樹脂組成物は、樹脂(A)と、メジアン径が7.5~100μmの磁性粉(B)と、メジアン径が0.2~5μmの粒子(C)とを含む。
また、本実施形態の樹脂組成物を175℃でトランスファー成形することで得られる成形品の飽和磁束密度は、1.1T以上である。
【0015】
本実施形態においては、トランスファー成形により磁性部品を製造することで、従来の圧縮成形法よりも小型かつ/または軽量な磁性部品を製造することができる。また、トランスファー成形により磁性部品を製造することで、比較的複雑な形状の磁性部品を製造しやすい。
本実施形態においては、メジアン径が7.5~100μmの磁性粉(B)が用いられる。粒径が大きな磁性粉を用いることで、飽和磁束密度を高めやすい。
本実施形態においては、メジアン径が比較的大きい磁性粉(B)と、メジアン径が比較的小さい粒子(C)が併用される。このことにより、トランスファー成形時の十分な流動性を得ることができる。このメカニズムの詳細は不明であるが、粒子(C)が磁性粉(B)の「潤滑剤」のように働くためと推測される。かつ/または、粒子(C)が磁性粉(B)の「分散媒」のように働き、溶融時の磁性粉(B)の沈降が抑えられるためとも推測される。
本実施形態の樹脂組成物を175℃でトランスファー成形することで得られる成形品の飽和磁束密度は1.1T以上である。このように樹脂組成物を設計することで、小型・軽量であっても十分な磁気性能を有する磁性部品を得ることができる。
【0016】
本実施形態の樹脂組成物の含有成分、物性などについて以下具体的に説明する。
【0017】
(樹脂(A))
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂(A)を含む。
樹脂(A)は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂であることができる。トランスファー成形という用途や、磁性部品の耐熱性の観点からは、樹脂(A)は熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。より具体的には、樹脂(A)全量中の好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上が熱硬化性樹脂である。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネートエステル樹脂、シリコーン樹脂、オキセタン樹脂(オキセタン化合物)、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
特に、樹脂(A)は、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。これにより、一般的な条件下(温度、金型への注入圧力等)でのトランスファー成形において、良好な成形性を得やすい。
エポキシ樹脂として、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、トリアジン骨格含有フェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0020】
エポキシ樹脂は、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含むことができる。エポキシ樹脂としては、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等を好ましく挙げることができる。これらのうち1または2以上を用いることで、耐熱性が高く、また、トランスファー成形に適した樹脂組成物を得やすい。
【0021】
特に、エポキシ樹脂は、以下一般式(a1)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂(トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂)、および/または、以下一般式(a2)で表される構造単位を有するエポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂)を含むことが好ましい。とりわけ、これら2種のエポキシ樹脂を併用することで、成形時の適度な流動性を得つつ、成形品の耐熱性を高めることができる。これら2種のエポキシ樹脂を併用する場合、併用比率(質量比)は、例えば10/90~90/10、好ましくは20/80~80/20である。
【0022】
【0023】
一般式(a1)中、
R11は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
R12は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
iは、0~3の整数であり、
jは、0~4の整数である。
【0024】
R11およびR12の1価の置換基としては、1価の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基等を挙げることができる。
【0025】
1価の有機基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基などを挙げることができる。1価の有機基の炭素数は、例えば1~30、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~6である。
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基の例としては、アリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基の例としては、エチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基の例としては、メチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基の例としては、トリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基の例としては、トリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基の例としては、アダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基の例としては、エポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
【0026】
iおよびjは、それぞれ独立に、好ましくは0~2、より好ましくは0~1である。
一態様として、iおよびjはともに0である。つまり、一態様として、一般式(a1)中のベンゼン環の全ては、1価の置換基としては、明示されたグリシジルオキシ基以外の置換基を有しない。
【0027】
【0028】
一般式(a2)中、
2つのRはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、
R22は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
R23は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
pおよびqは、それぞれ独立に、0~4の整数である。
一般式(a2)におけるR22およびR23の1価の置換基の具体例としては、一般式(a1)におけるR11およびR12の1価の置換基として説明したものと同様のものを挙げることができる。ここで、R22およびR23の1価の置換基としては、アルキル基が好ましく、直鎖または分枝状の炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0029】
一般式(a2)におけるpおよびqは、それぞれ独立に、好ましくは0~3、より好ましくは0~2である。溶融時の適度な流動性の観点などから、2つのRがメチル基である場合には、pおよびqは好ましくは0であり、2つのRが水素原子である場合には、pおよびqは好ましくは1または2である。
【0030】
また、樹脂(A)は、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂を含むことも好ましい。
ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂とは、具体的には、2つのベンゼン環が単結合で連結している構造を含むエポキシ樹脂のことである。ここでのベンゼン環は、置換基を有していてもいなくてもよい。
具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP)で表される部分構造を有する。
【0031】
【0032】
一般式(BP)において、
RaおよびRbは、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
rおよびsは、それぞれ独立に、0~4であり、
*は、他の原子団と連結していることを表す。
【0033】
RaおよびRbの1価の有機基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基などを挙げることができる。
【0034】
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、例えばアリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、例えばエチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基としては、例えばメチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばトリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基としては、例えばトリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基としては、例えばエポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
RaおよびRbの1価の有機基の総炭素数は、それぞれ、例えば1~30、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、特に好ましくは1~6である。
rおよびsは、それぞれ独立に、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。一態様として、rおよびsはともに0である。
より具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP1)で表される構造単位を有する。
【0035】
【0036】
一般式(BP1)において、
RaおよびRbの定義および具体的態様は、一般式(BP)と同様であり、
rおよびsの定義および好ましい範囲は、一般式(BP)と同様であり、
Rcは、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
tは、0~3の整数である。
Rcの1価の有機基の具体例としては、RaおよびRbの具体例として挙げたものと同様のものを挙げることができる。
tは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂(A)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
本実施形態の樹脂組成物中の樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、例えば0.5~20質量%、好ましくは1~15質量%である。このような数値範囲とすることにより、成形性および機械的特性を一層向上させることができる。また、樹脂(A)の量が多すぎないことにより、磁性粉(B)などの量を多くしやすい。つまり、磁気特性を高めやすい。
【0038】
(磁性粉(B))
本実施形態の樹脂組成物は、メジアン径が7.5~100μmの磁性粉(B)を含む。
磁性粉(B)は、上記メジアン径を有し、本実施形態の樹脂組成物を用いて作製した成形品が磁性を示す限りにおいて、任意のものを用いることができる。
【0039】
磁性粉(B)は、好ましくは、Fe、Cr、Co、Ni、AgおよびMnからなる群より選択される1種または2種以上の元素を含む。これらのいずれかを選択することで、磁気特性をより高めることができる。磁性粉(B)としては、好ましくはFeを85質量%以上、より好ましくはFeを90質量%以上含むもの(鉄基粒子)を用いることで、磁気特性を一層高めることができる。
【0040】
磁性粉(B)は、結晶材料であってもよく、アモルファス材料であってもよく、これらが混在した材料であってもよい。また、磁性粉(B)としては、1種の化学組成からなるものを用いてもよいし、異なる化学組成のものを2種以上併用してもよい。
【0041】
特に、磁性粉(B)としては、鉄基粒子を含むものが好ましい。鉄基粒子とは、鉄原子を主成分とする(化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い)粒子のことを言い、より具体的には化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い鉄合金のことをいう。
鉄基粒子としてより具体的には、軟磁性を示し、鉄原子の含有率が85質量%以上である粒子(軟磁性鉄高含有粒子)を用いることができる。ちなみに、軟磁性とは、保磁力が小さい強磁性のことを指し、一般的には、保磁力が800A/m以下である強磁性のことを軟磁性という。鉄原子の含有率は、より好ましくは90質量%以上である。
【0042】
磁性粉(B)の構成材料としては、構成元素としての鉄の含有率が好ましくは85質量%以上である(より好ましくは90質量%以上である)金属含有材料が挙げられる。このように構成元素としての鉄の含有率が高い金属材料は、透磁率や磁束密度等の磁気特性が比較的良好な軟磁性を示す。このため、成形されたとき、良好な磁気特性を示し得る樹脂組成物が得られる。
ただし、磁性粉(B)(および後掲の粒子(C))中の鉄の含有率が大きいことは、「鉄損」の性能の観点からは不利な場合がある。上記のような、鉄の含有率が大きい磁性粉(B)(および/または粒子(C))を用いることは、主として飽和磁束密度の向上の観点から行われる。鉄損などの他の性能を重視する場合には、磁性粉(B)/粒子(C)中の鉄の含有率が大きくないほうが好ましいこともある。
【0043】
上記の金属含有材料の形態としては、例えば、単体の他、固溶体、共晶、金属間化合物のような合金等が挙げられる。このような金属材料で構成された粒子を用いることにより、鉄に由来する優れた磁気特性、すなわち、高透磁率や高磁束密度等の磁気特性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0044】
また、上記の金属含有材料は、構成元素として鉄以外の元素を含んでいてもよい。鉄以外の元素としては、例えば、B、C、N、O、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0045】
上記の金属含有材料の具体例としては、例えば、純鉄、ケイ素鋼、鉄-コバルト合金、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、鉄-アルミニウム合金、カルボニル鉄、ステンレス鋼、またはこれらのうちの1種もしくは2種以上を含む複合材料等が挙げられる。入手性などの観点からカルボニル鉄を好ましく用いることができる。
【0046】
上記では磁性粉(B)として鉄基粒子を中心に説明したが、もちろん、磁性粉(B)はそれ以外の粒子であってもよい。磁性粉(B)は、例えば、Ni基軟磁性粒子、Co基軟磁性粒子等を含んでもよい。
【0047】
磁性粉(B)には、表面処理が施されていてもよい。例えば、表面をカップリング剤で処理したり、プラズマ処理したりすることが挙げられる。このような表面処理により、表面に官能基を結合させることが可能である。官能基は、表面の一部または全面を被覆することができる。
官能基としては、下記一般式(1)で表される官能基を挙げることができる。
*-O-X-R ・・・(1)
[式中、Rは、有機基を表し、Xは、Si、Ti、Al、またはZrであり、*は、磁性粉(B)を構成する原子の1つである。]
【0048】
上記官能基は、例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤等の公知のカップリング剤による表面処理によって形成された残基である。好ましくは、シラン系カップリング剤およびチタン系カップリング剤からなる群より選択されるカップリング剤の残基である。これにより、磁性粉(B)を樹脂組成物に配合して樹脂組成物としたとき、その流動性をより高めることができる。
【0049】
カップリング剤で表面処理する場合、その方法としては、磁性粉(B)をカップリング剤の希釈溶液に浸漬したり、磁性粉(B)にカップリング剤を直接噴霧したりする方法が挙げられる。
カップリング剤の使用量は、磁性粉(B)の100質量部に対して、例えば、0.05~1質量部であるのが好ましく、0.1~0.5質量部であるのがより好ましい。
カップリング剤と磁性粉(B)を反応させるときの溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。また、このときのカップリング剤の使用量は、溶媒100質量部に対して、0.1~2質量部であるのが好ましく、0.5~1.5質量部であるのがより好ましい。
カップリング剤と磁性粉(B)との反応時間(例えば希釈溶液への浸漬時間等)は、1~24時間であることが好ましい。
【0050】
上述したような官能基を結合させる際には、磁性粉(B)に対する表面処理の一環として、あらかじめプラズマ処理を施してもよい。例えば、酸素プラズマ処理を施すことにより、磁性粉(B)の表面にOH基が生じて、酸素原子を介した磁性粉(B)とカップリング剤の残基との結合が容易になる。これにより、より強固に官能基を結合させることができる。
【0051】
上記プラズマ処理は、酸素プラズマ処理であるのが好ましい。これにより、磁性粉(B)の表面に対して効率よくOH基を修飾することができる。
酸素プラズマ処理の圧力は、100~200Paであることが好ましく、120~180Paであることがより好ましい。
酸素プラズマ処理における処理ガスの流量は、1000~5000mL/分であることが好ましく、2000~4000mL/分であることがより好ましい。
酸素プラズマ処理の出力は、100~500Wであることが好ましく、200~400Wであることがより好ましい。
酸素プラズマ処理の処理時間は、上述の各種条件に応じて適宜設定されるが、5~60分であることが好ましく、10~40分であることがより好ましい。
【0052】
酸素プラズマ処理を施す前に、さらにアルゴンプラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、磁性粉(B)の表面にOH基を修飾するための活性点を形成することができるので、OH基の修飾をより効率よく行うことができる。
【0053】
アルゴンプラズマ処理の圧力は、10~100Paであることが好ましく、15~80Paであることがより好ましい。
アルゴンプラズマ処理における処理ガスの流量は、10~100mL/分であることが好ましく、20~80mL/分であることがより好ましい。
アルゴンプラズマ処理の出力は、100~500Wであることが好ましく、200~400Wであることがより好ましい。
アルゴンプラズマ処理の処理時間は、5~60分であることが好ましく、10~40分であることがより好ましい。
【0054】
ちなみに、磁性粉(B)の表面に、カップリング剤の残基が酸素原子を介して結合していることは、例えばフーリエ変換赤外分光光度計によって確認することができる。
上述のような表面処理は、全ての磁性粉(B)に施されてもよく、一部の磁性粉(B)に施されてもよい。
【0055】
既に述べたとおり、磁性粉(B)のメジアン径は、7.5~100μmである。メジアン径は、好ましくは8~90μm、より好ましくは10~80μmである。
メジアン径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用い、粒子を乾式で測定することで、体積基準の値として求めることができる。
【0056】
磁性粉(B)として、2種の異なる磁性粉を併用してもよい。例えば、本実施形態の樹脂組成物は、メジアン径が7.5~100μmの範囲内において、異なるメジアン径を有する2種の異なる磁性粉(B)を含んでもよい。これにより、磁性粉(B)間の「すき間」が少なくなり、磁性粉の密度を高めることができるため、磁気特性の向上を図ることができる。
好ましくは、磁性粉(B)として、メジアン径が7.5~15μmの磁性粉と、メジアン径が20~100μm(より好ましくは35~90μm)の磁性粉とが併用される。
【0057】
磁性粉(B)は、真円(真球)に近い形状であることが好ましい。これにより、粒子同士の摩擦が少なくなり、流動性を一層高めることができると考えられる。
具体的には、以下で定義される「真円度」を、磁性粉(B)の任意の10個以上(好ましくは50個以上)について求め、その値を平均することで求められる平均真円度が0.60以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましい。
真円度の定義:磁性粉の輪郭を走査型電子顕微鏡で観察したときの、当該輪郭から求められる等面積円相当径をReq、当該輪郭に外接する円の半径をRcとしたときの、Req/Rcの値。
【0058】
本実施形態の樹脂組成物中の、磁性粉(B)の含有比率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは50~99質量%、さらに好ましくは60~99質量%である。含有比率が90質量%以上であることで、磁気特性が優れた成形品(磁性部品)を得やすい。一方、含有比率が99質量%以下であることで、樹脂などの他成分を十分な量用いることができ、成形性、機械的強度などを一層高めうる。
【0059】
(粒子(C))
本実施形態の樹脂組成物は、メジアン径が0.2~5μmの粒子(C)を含む。
一例として、粒子(C)は、磁性粉を含む。粒子(C)が磁性粉を含むことで、磁性粉(B)とあわせて、樹脂組成物中の磁性物質の濃度/密度を一層高めることができる。そして、最終的な成形品の磁気特性(飽和磁束密度など)を一層高めることができる。
別の例として、粒子(C)は、非磁性粉を含む。磁性粉(B)と組み合わせる粒子(C)として、敢えて磁性粉とは異質な非磁性粉を用いることで、樹脂組成物の溶融時の磁性粉(B)の沈降が一層抑えられ、流動性の一層の向上などが図られると考えられる。
粒子(C)は、磁性粉と非磁性粉の両方を含んでもよいし、片方のみを含んでもよい。
【0060】
粒子(C)が磁性粉を含む場合、その磁性粉の構成元素等については、上述の磁性粉(B)での説明と同様であることができる。別の言い方として、粒子(C)は、メジアン径が0.2~5μmであること以外は、磁性粉(B)と同様であることができる。磁性粉(B)の項で述べたように、主として飽和磁束密度の向上の観点では、粒子(C)中の鉄の含有率は大きいことが好ましい。具体的には、粒子(C)は、Fe原子の含有率が、85質量%以上の磁性粉を含むことが好ましく、Fe原子の含有率が90質量%以上の磁性粉を含むことがより好ましい。一方、鉄損などの他の性能を重視する場合には、粒子(C)中の鉄の含有率が大きくないほうが好ましいこともある。
【0061】
粒子(C)が非磁性粉を含む場合、その非磁性粉としては、例えば、セラミックス材料、ガラス材料等の無機材料が挙げられる。無機材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、カルシア等の酸化物系材料、窒化ケイ素、窒化アルミニウムのような窒化物系材料、炭化ケイ素、炭化ホウ素のような炭化物系材料等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
非磁性粉は、好ましくは、シリカ粒子を含む。詳細は不明だが、シリカ粒子の比重の小ささ(通常1.5~3、好ましくは2~2.5)が、樹脂組成物の溶融時の磁性粉(B)(比重:通常6~9、好ましくは7~8)の沈降抑制に関係していると推測される。
また、シリカ粒子の樹脂との親和性は比較的良好である。このことは成形時の流動性の点で好ましい。さらに、シリカ粒子の絶縁性は比較的良好である。この点は、本実施形態の樹脂組成物を用いて磁性部品を形成する際に好ましい。
【0063】
非磁性粉の構成材料の真比重は、1.0~6.0が好ましく、1.2~5.0がより好ましく、1.5~4.5がさらに好ましい。このような非磁性粉は、比重が小さいため、熱硬化性樹脂の溶融物とともに流動し易い。このため、成形時において溶融物が成形型の隙間等に向かって流動するとき、その溶融物とともに非磁性粉が流れ易くなる。その結果、隙間が非磁性粉によって塞がれ、溶融物の染み出しをより確実に抑制することができる。なお、成形型の隙間とは、例えば、トランスファー成形機のプランジャーとシリンダーとの隙間(クリアランス)等が挙げられる。
【0064】
粒子(C)のメジアン径は、0.2~5μmであれば特に限定されないが、好ましくは0.3~4μm、より好ましくは0.4~3μmである。粒子(C)のメジアン径を調整することで、成形時の流動性や成形物の磁気性能の一層の向上を図ることができる。
粒子(C)のメジアン径の測定方法は、磁性粉(B)と同様である。
【0065】
粒子(C)の真円度は、特に限定されないが、0.50~1.00であるのが好ましく、0.75~1.00であるのがより好ましい。粒子(C)の真円度が前記範囲内であることにより、粒子(C)自体の転がりを活かして樹脂組成物の流動性を高めやすい。真円度の定義は、磁性粉(B)で説明したとおりである。
【0066】
本実施形態の樹脂組成物は、粒子(C)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
本実施形態の樹脂組成物中の、粒子(C)の含有比率は、好ましくは1~20質量%、より好ましくは1~18質量%である。
粒子(C)として磁性粉のみを用いる場合、粒子(C)の含有比率は、好ましくは10~20質量%、より好ましくは12~18質量%である。これにより磁気特性を一層高めうる。
粒子(C)として非磁性粉のみを用いる場合、粒子(C)の含有比率は、好ましくは1~5質量%、より好ましくは1~4質量%である。適量の非磁性粉を用いることで、成形時の流動性と磁気特性とのバランスをとりやすい。
【0067】
(磁性粉(B)と粒子(C)の比率、合計量など)
磁性粉(B)と粒子(C)の比率を適切に調整することで、各種性能を一層高めうる。例えば、樹脂組成物中の、粒子(C)の量/(磁性粉(B)の量+粒子(C)の量)の値は、好ましくは0.01~0.3、より好ましくは0.01~0.2である。この値が適切であることで、トランスファー成形時の流動性を一層高めうる。
【0068】
別観点として、樹脂組成物中の粒子成分(磁性粉(B)と粒子(C))の体積比率を適切に調整することで、良好な成形性を得つつ、成形品の磁気性能を高めることができる。具体的には、本実施形態の樹脂組成物中の粒子成分の比率は、好ましくは70~80体積%、より好ましくは75~80体積%である。
【0069】
さらに別観点として、樹脂組成物中の、磁気特性に関係する粒子成分(磁性粉(B)、および、粒子(C)に分類される磁性粉)の体積比率を適切に調整することで、良好な成形性を得つつ、成形品の磁気性能を高めることなどができる。具体的には、本実施形態の樹脂組成物中の、磁気特性に関係する粒子成分の比率は、好ましくは70~80体積%、より好ましくは75~80体積%である。
【0070】
(硬化剤(D))
本実施形態の樹脂組成物は、好ましくは硬化剤(D)を含む。硬化剤(D)は、樹脂(A)と反応して樹脂を硬化させることが可能なものである限り、特に限定されない。硬化剤(D)を用いることで、適度な加熱時間で硬化する樹脂組成物を得ることができる。また、硬化剤(D)を用いることで、成形品の機械的強度をより高めることができる。
【0071】
例えば樹脂(A)がエポキシ樹脂を含む場合には、硬化剤(D)として、例えば脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、芳香族ジアミン、ジシアミンジアミドのようなポリアミン化合物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物のような酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂のようなポリフェノール化合物(フェノール系硬化剤)、イミダゾール化合物等を用いることが好ましい。
樹脂(A)がノボラック型フェノール樹脂等のフェノール樹脂を含む場合、硬化剤としては例えばヘキサメチレンテトラミン等を用いることが好ましい。
樹脂(A)がマレイミド樹脂を含む場合、硬化剤としては例えばイミダゾール化合物を用いることが好ましい。
【0072】
本実施形態においては、硬化剤(D)はフェノール化合物およびアミン化合物からなる群より選択される少なくともいずれかを含むことが好ましい。これらのいずれかを用いることで、成形品(磁性部材)の耐熱性を高めることができる。
フェノール化合物については、フェノール性ヒドロキシ基を含み、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と反応しうるものである限り、特に限定されない。フェノール化合物は、低分子であっても高分子であってもよい。フェノール系硬化剤は、好ましくはノボラック樹脂を含む。フェノール系硬化剤がノボラック樹脂を含むことで、特に成形品(磁性部材)の耐熱性を高めることができる。
また、フェノール系硬化剤として、ビフェニル構造を含むフェノール樹脂を用いることも好ましい。ビフェニル構造として具体的には、エポキシ樹脂の説明における一般式(BP)で表される部分構造がある。ビフェニル構造を含むフェノール樹脂として具体的には、エポキシ樹脂の説明における一般式(BP1)において、グリシジル基の部分を水素原子としたものを挙げることができる。ビフェニル構造を含むフェノール樹脂の具体例としては、後掲の実施例で使用しているMHE-7851SS(明和化成株式会社製)などを挙げることができる。
アミン化合物については、上述のポリアミン化合物を挙げることができる。一例として、芳香族ジアミンが好ましい。すなわち、一分子中に1つ以上の芳香環構造と2つのアミノ基(-NH2)を有する化合物が好ましい。
【0073】
硬化剤(D)が高分子またはオリゴマーである場合、硬化剤(D)数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算値)は、特に限定されないが、例えば200~800程度である。
【0074】
本実施形態の樹脂組成物が硬化剤(D)を含む場合、硬化剤(D)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
本実施形態の樹脂組成物が硬化剤(D)を含む場合、硬化剤(D)の含有量は、樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、例えば0.5~10質量%、好ましくは1~5質量%である。硬化剤(D)を用いる場合、その量を適切に調整することにより、成形性を一層向上させることができ、得られる硬化物(磁性部材)の機械特性や磁気特性を向上させることができる。
【0075】
(離型剤(E))
本実施形態の樹脂組成物は、好ましくは離型剤(E)を含む。これにより、成形時の樹脂組成物の離型性を高めることができる。
離型剤(E)としては、例えば、カルナバワックス等の天然ワックス、モンタン酸エステルワックスや酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類、パラフィン等が挙げられる。
【0076】
離型剤(E)を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
離型剤(E)を用いる場合、その量は、例えば、樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、例えば0.01~3質量%、好ましくは0.05~2質量%である。適度な量の離型剤を用いることで、他の性能を維持しつつ、成形時における離型性を向上させることができる。
【0077】
(硬化促進剤(F))
本実施形態の樹脂組成物は、硬化促進剤(F)を含むことが好ましい。これにより、樹脂組成物の硬化性を向上させることができる。
【0078】
硬化促進剤(F)としては、エポキシ樹脂等の樹脂の硬化反応を促進させるものであれば任意のものを用いることができる。例えば、公知のエポキシ硬化触媒を用いることができる。
具体的には、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2-メチルイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化促進剤);1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物などを挙げることができる。
【0079】
硬化促進剤(F)を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
硬化促進剤(F)を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.05~0.8質量%である。このような数値範囲とすることにより、他の性能を維持しつつ、十分に硬化性向上の効果が得られる。
【0080】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物は、上述した成分以外の成分を含んでいてもよい。例えば、低応力剤、カップリング剤、密着助剤、着色剤、酸化防止剤、耐食剤、染料、顔料、難燃剤、離型剤(ワックス)、非磁性体粒子(例えばシリカ)等のうち、1または2以上を含んでもよい。
また、本実施形態の樹脂組成物は、過度なデメリットが無い限り、上述の(B)や(C)に該当しない粒子/粉体を含んでもよい。もちろん、本実施形態の樹脂組成物は、粒子/粉体として上述の(B)および(C)のみを含んでもよい。これにより、磁気性能の一層の向上、流動性の一層の向上などを図ることができる。
【0081】
低応力剤としては、ポリブタジエン化合物、アクリロニトリルブタジエン共重合化合物、シリコーンオイル、シリコーンゴム等のシリコーン化合物が挙げられる。低応力剤を用いる場合、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0082】
カップリング剤としては、上述の、特定磁性体粒子の表面修飾に関する説明で挙げたカップリング剤を用いることができる。例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニア系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。カップリング剤を用いる場合、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0083】
本実施形態の樹脂組成物がその他の成分を含む場合、その量は、樹脂組成物全体を基準(100質量%)として、例えば0.001~10質量%の範囲で適宜調整される。
【0084】
(樹脂組成物の性状や製造方法など)
本実施形態の樹脂組成物は、室温(25℃)において固形であってよい。
本実施形態の樹脂組成物の性状は、粉末状、顆粒状またはタブレット状などとすることができる。
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、まず(1)ミキサーを用いて各成分を混合し、(2)その後、ロールを用いて、120℃前後で5分程度混練することにより混練物を得、(3)そして得られた混練物を冷却後粉砕することにより製造することができる。以上により、粉末状の樹脂組成物を得ることができる。
必要に応じて、粉末状の樹脂組成物を打錠し、顆粒状やタブレット状にしてもよい。これにより、トランスファー成形等の溶融成形に適する樹脂組成物が得られる。また、樹脂組成物を室温(25℃)で固形とすることにより、搬送性や保管性をより高めることが可能である。
【0085】
<成形品、成形品の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、トランスファー成形法、射出成形法、押出成形法等の溶融成形法により、所望の形状に成形される。
これらの方法の中でも、本実施形態の樹脂組成物は、トランスファー成形法による成形に適している。つまり、トランスファー成形装置を用いて、上述の樹脂組成物の溶融物を金型に注入し、その溶融物が硬化した成形品(磁性部材)を得ることができる。成形品は、電気・電子デバイス中の磁性部材などとして好適に用いることができる。より具体的には、成形物は、コイル(用途や目的により、リアクトルやインダクタなどとも呼ばれる)の磁性コアなどとして好適に用いられる。
【0086】
トランスファー成形については、公知のトランスファー成形装置を適宜用いて行うことができる。具体的には、まず、予熱した樹脂組成物を、トランスファー室とも言われる加熱室に入れて溶融し、溶融物を得る。その後、その溶融物をプランジャーで金型に注入し、そのまま保持して溶融物を硬化させる。これにより、所望の成形物を得ることができる。
トランスファー成形は、成形品の寸法の制御性や、形状自由度の向上などの点で、他の成形法に比べて好ましい。
【0087】
トランスファー成形における各種条件は、任意に設定することができる。例えば、予熱の温度は60~100℃、溶融の際の加熱温度は150~250℃、金型温度は150~200℃、金型に樹脂組成物の溶融物を注入する際の圧力は1~20MPaの間で適宜調整することができる。
【0088】
<磁性部材(成形品)およびコイル>
上述のように、本実施形態の樹脂組成物を用いて得られた成形品(樹脂組成物の硬化物)は、磁性部材として好適に用いることができる。前述のように、本実施形態の樹脂組成物は、小型で軽量な磁性部品の製造に好ましく用いられる。
以下では、本実施形態の樹脂組成物を用いて得られた成形品(磁性部材)を、磁性コアおよび/または外装部材として備えるコイルの態様について説明する。
【0089】
(第1の態様)
図1(a)および
図1(b)は、本実施形態の樹脂組成物の成形品で構成された磁性コアを備えるコイル100(リアクトル)を模式的に示した図である。
図1(a)は、上面から見たコイル100の概要を示す。
図1(b)は、
図1(a)におけるA-A'断面視における断面図を示す。
【0090】
コイル100は、
図1に示されるように、巻線10および磁性コア20を備えることができる。磁性コア20は、空芯コイルである巻線10の内部に充填されている。
図1(a)に示す一対の巻線10は、並列した状態で連結されている。この場合、環状の磁性コア20は、
図1(b)に示す1対の巻線10の内部を貫通する構造を有する。これらの磁性コア20と巻線10とは一体化した構造を有することができる。
コイル100は、巻線10と磁性コア20との間に、これらの絶縁を確保する観点から、不図示のインシュレータを介在させた構造であってもよい。
【0091】
コイル100において、巻線10および磁性コア20は、外装部材30(封止部材)で封止されていてもよい。例えば、筐体(ケース)中に巻線10および磁性コア20を収容し、そこに液状樹脂を導入し、必要に応じて液状樹脂を硬化することにより、巻線10および磁性コア20の周囲に外装部材30を形成してもよい。このとき巻線10は、巻線の端部を外装部材30の外部に引き出した不図示の引き出し部を有していてもよい。
【0092】
巻線10は、通常、金属線の表面に絶縁被覆を施した巻線を巻回した構造により構成される。金属線は、導電性の高いものが好ましく、銅、銅合金が好適に利用できる。また、絶縁被覆は、エナメルなどの被覆が利用できる。巻線の断面形状は、円形や矩形、六角形などが挙げられる。
【0093】
一方、磁性コア20の断面形状は、特に限定されないが、例えば、断面視において、円形形状や、四角形や六角形などの多角形状とすることができる。磁性コア20は、例えば本実施形態の樹脂組成物の溶融成形品で構成されるため、所望の形状を有することが可能である。
【0094】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物によれば、成形性および磁気特性に優れた磁性コア20を実現できる。すなわち、この磁性コア20を備えるコイル100は、量産適性が良好であり、また、鉄損が小さいことなどが期待される。また、機械的特性に優れた磁性コア20を実現できるため、コイル100の耐久性や信頼性、製造安定性を高めることが可能である。このため、コイル100は、昇圧回路用や大電流用のリアクトルとして用いることができる。
【0095】
(第2の態様)
上記のコイルとは別の態様として、本実施形態の樹脂組成物の成形品で構成された外装部材を備えるコイル(インダクタ)の概要を、
図2を参照しつつ説明する。
図2(a)は、コイル100Bの上面からみたコイルの概要を示す。
図2(b)は、
図2(a)におけるB-B'断面視における断面図を示す。
【0096】
コイル100Bは、
図2に示されるように、巻線10Bおよび磁性コア20Bを備えることができる。磁性コア20Bは、空芯コイルである巻線10Bの内部に充填されている。
図2(a)に示される一対の巻線10Bは、並列した状態で連結されている。この場合、環状の磁性コア20Bは、
図2(b)に示される1対の巻線10Bの内部を貫通する構造を有する。これらの磁性コア20Bと巻線10Bとは、それぞれ個別に作成し、組み合わせた組合せ構造を有することができる。
コイル100Bは、巻線10Bと磁性コア20Bとの間に、これらの絶縁を確保する観点から、不図示のインシュレータを介在させた構造であってもよい。
【0097】
コイル100Bにおいて、巻線10Bおよび磁性コア20Bは、外装部材30B(封止部材)で封止されている。例えば、巻線10Bに充填された磁性コア20Bを金型に配置し、本実施形態の樹脂組成物を用いて、トランスファー成形により、樹脂組成物を硬化させて、巻線10Bおよび磁性コア20Bの周囲に外装部材30Bを形成することができる。このとき巻線10Bは、巻線の端部を外装部材30Bの外部に引き出した不図示の引き出し部を有してもよい。
【0098】
巻線10Bは、通常、金属線の表面に絶縁被覆を施した導線を巻回した構造により構成される。金属線は、導電性の高いものが好ましく、銅、銅合金が好適に利用できる。また、絶縁被覆は、エナメルなどの被覆が利用できる。巻線10Bの断面形状は、円形や矩形、六角形などが挙げられる。
【0099】
一方、磁性コア20Bの断面形状は、特に限定されないが、例えば、断面視において、円形形状や、四角形や六角形などの多角形状とすることができる。磁性コア20Bは、例えば、磁性粉とバインダーとで構成された圧粉鉄芯を用いることができる。
【0100】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物によれば、成形性および磁気特性に優れた外装部材30Bを実現できるため、磁性コア20Bを備えるコイル100Bにおいては、低磁気損失が期待される。また、機械的特性に優れた外装部材30Bを実現できるため、コイル100Bの耐久性や信頼性、製造安定性を高めることが可能である。
【0101】
(第3の態様)
更に別の態様として、本実施形態の樹脂組成物の硬化物で構成された磁性コアと外装部材を備える一体型インダクタの概要を、
図3を参照しつつ説明する。
図3(a)は、一体型インダクタ100Cの上面からみた構造体の概要を示す。
図3(b)は、
図3(a)におけるC-C'断面視における断面図を示す。
【0102】
一体型インダクタ100Cは、巻線10Cおよび磁性コア20Cを備えることができる。磁性コア20Cは、空芯コイルである巻線10Cの内部に充填されている。巻線10Cおよび磁性コア20Cは、外装部材30C(封止部材)で封止されている。磁性コア20Cおよび外装部材30Cは、本実施形態の樹脂組成物の成形品で構成することができる。磁性コア20Cおよび外装部材30Cは、シームレスの一体部材として形成されていてもよい。
【0103】
一体型インダクタ100Cの製造方法としては、例えば、まず巻線10Cを金型に配置し、その後本実施形態の樹脂組成物を用いて、トランスファー成形する。これにより、樹脂組成物を硬化させて、巻線10C中に充填された磁性コア20Cおよびこれらの周囲に外装部材30Cを一体的に形成することができる。このとき、巻線10Cは、巻線の端部を外装部材30Cの外部に引き出した不図示の引き出し部を有してもよい。
【0104】
巻線10Cは、通常、金属線の表面に絶縁被覆を施した導線を巻回した構造により構成される。金属線は、導電性の高いものが好ましく、銅、銅合金が好適に利用できる。また、絶縁被覆は、エナメルなどの被覆が利用できる。巻線10Cの断面形状は、円形や矩形、六角形などが挙げられる。
【0105】
一方、磁性コア20Cの断面形状は、特に限定されないが、例えば、断面視において、円形形状や、四角形や六角形などの多角形状とすることができる。磁性コア20Cは、本実施形態の樹脂組成物の溶融成形品で構成されるため、所望の形状を有することが可能である。
【0106】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物によれば、成形性および磁気特性に優れた磁性コア20Cおよび外装部材30Cを実現できる。よって、これらを有する一体型インダクタ100Cにおいては、低磁気損失が期待される。また、機械的特性に優れた外装部材30Cを実現できるため、一体型インダクタ100Cの耐久性や信頼性、製造安定性を高めることが可能である。このため、一体型インダクタ100Cは、昇圧回路用や大電流用のインダクタとして用いることができる。
【0107】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
トランスファー成形に用いられる樹脂組成物であって、
樹脂(A)と、メジアン径が7.5~100μmの磁性粉(B)と、メジアン径が0.2~5μmの粒子(C)とを含み、
当該樹脂組成物を175℃でトランスファー成形することで得られる成形品の飽和磁束密度が1.1T以上である、樹脂組成物。
2.
1.に記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)は、熱硬化性樹脂を含む、樹脂組成物。
3.
1.または2.に記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)は、エポキシ樹脂を含む、樹脂組成物。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂(A)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびビフェニル構造を含むエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくともいずれかのエポキシ樹脂を含む、樹脂組成物。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
さらに、硬化剤(D)を含む、樹脂組成物。
6.
5.に記載の樹脂組成物であって、
前記硬化剤(D)は、フェノール化合物およびアミン化合物からなる群より選択される少なくともいずれかの化合物を含む、樹脂組成物。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
前記粒子(C)が、磁性粉を含む、樹脂組成物。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
前記粒子(C)が、非磁性粉を含む、樹脂組成物。
9.
8.に記載の樹脂組成物であって、
前記非磁性粉は、シリカ粒子を含む、樹脂組成物。
10.
1.~9.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
前記磁性粉(B)は、鉄基粒子を含む、樹脂組成物。
11.
10.に記載の樹脂組成物であって、
前記鉄基粒子は、Fe原子を90質量%以上含有する、樹脂組成物。
12.
7.に記載の樹脂組成物であって、
前記磁性粉は、Fe原子を90質量%以上含有する、樹脂組成物。
13.
1.~12.のいずれか1つに記載の樹脂組成物を用いて形成された成形品。
【実施例】
【0108】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0109】
<樹脂組成物の調製>
まず、後掲の表1に示される原料成分およびその配合比率に従い、各原料成分をミキサーにより混合した。次いで、得られた混合物をロール混練して混練物を得た。その後、その混練物を冷却、粉砕して粉体状の樹脂組成物を得た。
【0110】
後掲の表1の各成分の詳細は以下のとおりである。
以下の各磁性粉/粒子のメジアン径は、HORIBA社製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置「LA-950」を用いて、乾式で測定することで得られる体積基準の粒子径分布曲線から求めた。
【0111】
(メジアン径が7.5~100μmの磁性粉)
DAPMS7-100:大同特殊鋼株式会社製、Fe原子の割合93.4質量%
DAPMS7-200:大同特殊鋼株式会社製、Fe原子の割合93.4質量%
KUAMET6B2 150C01:エプソンアトミックス株式会社製、Fe原子の割合87.6質量%
Fe-3.5Si-4.5Cr エプソンアトミックス社製、Fe原子の割合91.9質量%
DAPMSC5:大同特殊鋼株式会社製、Fe原子の割合90.5質量%
【0112】
上記磁性粉のメジアン径および比重については、表1に記載した。
【0113】
(メジアン径が0.2~5μmの粒子)
CIP-HQ:BASF社製、Fe原子の割合99.1質量%
シリカ1:株式会社アドマテックス SO-25R
シリカ2:株式会社アドマテックス SO-32R
【0114】
上記各粒子のメジアン径および比重については、表1に記載した。
【0115】
(樹脂)
E1032H60:トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、室温25℃で固形)
YL6810:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、室温25℃で固形)
NC-3000L:日本化薬株式会社製のビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、23℃で固形、前掲の一般式(BP1)で表される構造単位含有
【0116】
(硬化剤)
PR-HF-3:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、室温(25℃)で固形)
MHE-7851SS:ビフェニル骨格含有フェノールアラルキル樹脂(明和化成株式会社製、23℃で固形)
【0117】
(離型剤)
WE-4:合成ワックス(クラリアントケミカルズ株式会社製、エステルワックス)
【0118】
(硬化促進剤)
キュアゾール2PZ-PW:イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業株式会社製)
【0119】
<飽和磁束密度の測定>
樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力5MPa、クランプ圧8MPaの条件で、直径16mmΦ、高さ32mmの円柱形の金型に注入した。これにより、直径16mmΦ、高さ32mmの円柱形の成形品を得た。
次いで、得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させた。
以上により、飽和磁束密度測定用の成形品を作製した。
参考までに、比較例1~4の樹脂組成物においては、流動性不足等により、測定用の成形品を得ることができなかった。
【0120】
室温(25℃)にて、直流交流磁化特性試験装置(メトロン技研株式会社製、MTR-3368)を用いて、上記成形品に、外部磁場100kA/mを印加した。これにより室温での飽和磁束密度を測定した。
【0121】
<スパイラルフローの測定>
低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。流動長が大きいほど、流動性が良好であることを表す。
【0122】
樹脂組成物中の各成分の量や、上記測定結果などをまとめて下表に示す。
下表において、メジアン径が7.5~100μmの磁性粉、メジアン径が0.2~5μmの粒子、樹脂、硬化剤、離型剤および硬化促進剤の量の単位は、質量部である。
下表において、粒子成分の量(vol%)とは、体積基準における、本実施形態の樹脂組成物中の粒子成分(磁性粉であるか非磁性粉であるかを問わない)の体積比率を表す。
下表において、磁気特性に関係する粒子成分の量(vol%)とは、体積基準における、本実施形態の樹脂組成物中の磁気特性に関係する粒子成分(典型的には磁性粉)の比率を表す。
【0123】
【0124】
【0125】
表1より、各実施例の樹脂組成物のスパイラルフローは十分に大きかった。つまり、本実施形態の樹脂組成物は、トランスファー成形法による磁性部品の製造に好ましく適用可能なことが示された。
また、各実施例の樹脂組成物の飽和磁束密度は1.1T以上と十分大きかった。このことは、本実施形態の樹脂組成物は、小型で軽量な磁性部品の製造に好ましく用いられることを表す。
【0126】
この出願は、2019年10月4日に出願された日本出願特願2019-183558号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0127】
10 巻線
20 磁性コア
30 外装部材
100 コイル
10B 巻線
20B 磁性コア
30B 外装部材
100B コイル
10C 巻線
20C 磁性コア
30C 外装部材
100C 一体型インダクタ