(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】白金担持触媒、燃料電池用カソード、燃料電池、および白金担持触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/42 20060101AFI20240402BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240402BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20240402BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20240402BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240402BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240402BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B01J23/42 M
B01J35/60 Z
B01J37/16
B01J37/34
H01M4/86 M
H01M4/88 K
H01M4/92
(21)【出願番号】P 2021524870
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020021869
(87)【国際公開番号】W WO2020246491
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019103749
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】初代 善夫
(72)【発明者】
【氏名】安在 瑞穂
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-080322(JP,A)
【文献】特開2015-204216(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119707(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素担体と、前記炭素担体に担持される白金微粒子と、を含み、
前記白金微粒子は、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、前記(220)面の回折ピーク強度の比が、0.128以上であり、
前記炭素担体の酸化消耗温度が、620℃以上である、
燃料電池用カソード用の、白金担持触媒。
【請求項2】
炭素担体と、前記炭素担体に担持される白金微粒子と、を含み、
前記白金微粒子は、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、前記(220)面の回折ピーク強度の比が、0.150以上である、
燃料電池用カソード用の、白金担持触媒。
【請求項3】
前記炭素担体の酸化消耗温度が、640℃以上である、請求項2に記載の白金担持触媒。
【請求項4】
前記炭素担体の電気抵抗率が、0.1Ω・cm以下である、請求項2または3に記載の白金担持触媒。
【請求項5】
前記炭素担体は、連通孔を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の白金担持触媒。
【請求項6】
前記炭素担体のBET比表面積が、600~2000m
2/gである、請求項1~5のいずれか1項に記載の白金担持触媒。
【請求項7】
前記炭素担体は、BJH法に基づく解析で、横軸を細孔径、縦軸を対数微分細孔容積とした細孔分布において、3~50nmの孔径に最も高いピークトップを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の白金担持触媒。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の白金担持触媒を備える、燃料電池用カソード。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池用カソードを備える、燃料電池。
【請求項10】
炭素担体と、前記炭素担体に担持される白金微粒子と、を含む白金担持触媒の製造方法であって、
前記白金微粒子は、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、前記(220)面の回折ピーク強度の比が、0.128以上であり、
前記白金微粒子の前駆体を、pH7、25℃における白金の還元電位が-0.6V(vs.SCE)以上である還元剤により還元して、前記炭素担体に前記白金微粒子を担持させる工程を含む、白金担持触媒の製造方法。
【請求項11】
前記白金微粒子は、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、前記(220)面の回折ピーク強度の比が、0.150以上である、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金担持触媒、燃料電池用カソード、燃料電池、および白金担持触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、自動車などの移動体用動力源として期待されており、その実用も開始されている。このような燃料電池には、一般的に、白金(Pt)や白金を含む合金に代表される高価な貴金属触媒が用いられている。燃料電池の高性能化のためには、貴金属触媒の性能を向上させることが重要である。
【0003】
貴金属触媒の性能の一つとして、酸素還元反応(ORR)の活性が知られている。白金の単結晶を用いた研究から、白金の各単結晶面のORR活性の序列は、Pt(100)<Pt(111)<Pt(110)になることが報告されている。これまで、ORR活性の高いPt(110)の割合を高めるために、ポリマーを用いて構造制御する方法が知られている(例えば、非特許文献1)。なお、Pt(110)は、面方向を示しており、X線回析では、Pt(220)面のピークとして検出されることから、ORR活性の高いPt(110)の割合を高めることは、Pt(220)面の回折ピーク強度の割合を高めることと同義である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】表面科学 Vol.32,No.11,pp.698-703,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した非特許文献1のような技術では、白金中のPt(220)面の回折ピーク強度の割合を増加させるために、ポリマーを使用して結晶面を制御する必要があり、性能面および製造面において、さらなる改善の余地があると本発明者らは考えた。
【0006】
さらに、貴金属触媒の高寿命化のためには、白金担持触媒の耐酸化性を向上させることも重要であると本発明者らは考えた。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、ポリマーを使用することなく、簡便な製造方法にて、Pt(220)面の回折ピーク強度の割合が高く、かつ耐酸化性にも優れる白金担持触媒およびその利用技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の還元剤を用いて、特定の炭素担体に白金微粒子を担持させることにより、白金微粒子のPt(220)面の回折ピーク強度の割合が増加するとともに、耐酸化性にも優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
<1>炭素担体と、上記炭素担体に担持される白金微粒子と、を含み、上記白金微粒子は、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、上記(220)面の回折ピーク強度の比が、0.128以上であり、上記炭素担体の酸化消耗温度が、620℃以上である、白金担持触媒。
<2>炭素担体と、上記炭素担体に担持される白金微粒子と、を含み、上記白金微粒子は、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、上記(220)面の回折ピーク強度の比が、0.150以上である、白金担持触媒。
<3>上記炭素担体の酸化消耗温度が、640℃以上である、上記<2>に記載の白金担持触媒。
<4>上記炭素担体の電気抵抗率が、0.1Ω・cm以下である、上記<2>または<3>に記載の白金担持触媒。
<5>上記炭素担体は、連通孔を有する、上記<1>~<4>のいずれかに記載の白金担持触媒。
<6>上記炭素担体のBET比表面積が、600~2000m2/gである、上記<1>~<5>のいずれかに記載の白金担持触媒。
<7>上記炭素担体は、BJH法に基づく解析で、横軸を細孔径、縦軸を対数微分細孔容積とした細孔分布において、3~50nmの孔径に最も高いピークトップを有する、上記<1>~<6>のいずれかに記載の白金担持触媒。
<8>上記<1>~<7>のいずれかに記載の白金担持触媒を備える、燃料電池用カソード。
<9>上記<8>に記載の燃料電池用カソードを備える、燃料電池。
<10>炭素担体と、上記炭素担体に担持される白金微粒子と、を含む白金担持触媒の製造方法であって、上記白金微粒子は、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、上記(220)面の回折ピーク強度の比が、0.128以上であり、上記白金微粒子の前駆体を、pH7、25℃における白金の還元電位が-0.6V(vs.SCE)以上である還元剤により還元して、上記炭素担体に上記白金微粒子を担持させる工程を含む、白金担持触媒の製造方法。
<11>上記白金微粒子は、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、上記(220)面の回折ピーク強度の比が、0.150以上である、上記<10>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ポリマーを使用することなく、簡便な製造方法にて、Pt(220)面の回折ピーク強度の割合が高く、かつ耐酸化性にも優れる白金担持触媒およびその利用技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で用いた炭素担体について、ガス吸着法を用いて細孔分布測定を行い、BJH法で解析した結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1で得られた白金担持触媒のX線回折図(XRD図)である。
【
図3】実施例2で得られた白金担持触媒のX線回折図(XRD図)である。
【
図4】比較例1で得られた白金担持触媒のX線回折図(XRD図)である。
【
図5】実施例1~2および比較例1~2で用いた炭素担体について、炭素担体質量と温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0012】
〔白金担持触媒〕
本発明の一態様に係る白金担持触媒は、炭素担体と、上記炭素担体に担持される白金微粒子と、を含む。
【0013】
以下、白金担持触媒を構成する各成分について説明する。
【0014】
〔炭素担体〕
本発明の一態様において、炭素担体は、メソ孔を備えた多孔質炭素である。なお、本明細書では、孔径が2nm未満の孔をミクロ孔と呼び、孔径が2~50nmの孔をメソ孔と呼び、孔径が50nmを超えるものをマクロ孔と呼び、これらの孔を総称して細孔と呼ぶ。
【0015】
メソ孔は開気孔であって、且つ、少なくとも一部のメソ孔は、その気孔部分同士が連通する連通孔となっていることが望ましい。メソ孔が開気孔であって且つ連通孔を有することにより、触媒反応の進行に伴い発生する水が、炭素担体の孔内部に留まらずに孔外部に排出され得るため、反応がスムーズに進行し得る。また、連通孔を酸素が通過できるため、孔外部に担持される白金微粒子のみならず、孔内部に担持される白金微粒子までもが触媒反応に十分に寄与することができ、高い触媒利用率を達成することができる。したがって、所望の触媒活性を達成するために必要な白金微粒子の量を低減させることも可能である。
【0016】
また、炭素担体は、メソ孔およびミクロ孔を備えた多孔質炭素であり、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁において、上記メソ孔に臨む位置に上記ミクロ孔が形成されていることが好ましい。
【0017】
ミクロ孔を備えることにより、白金微粒子をより安定に炭素担体上に保持することができる。さらに、メソ孔に臨む位置にミクロ孔が形成されていることにより、メソ孔の連通孔に供給および排出された燃料ガス等と白金微粒子とがより反応し易くなる。
【0018】
メソ孔の孔径は、3~50nmであることが好ましく、3~10nmであることがより好ましい。メソ孔の孔径がこの範囲にあることにより、メソ孔内に白金微粒子を閉じ込めることが可能となり、白金微粒子同士が凝集したり、白金微粒子が炭素担体から脱落することを防ぐことができる。そのため、白金担持触媒をより高寿命化できるという利点を有する。
【0019】
炭素担体のBET比表面積は、600~2000m2/gであることが好ましく、600~1500m2/gであることがより好ましい。また、BET法で求めた全細孔容量は、0.2~3.0ml/gであることが好ましく、0.5~2.6ml/gであることがより好ましい。BET比表面積および全細孔容量がこの範囲であることにより、十分量の気孔が形成され得、また、炭素質で形成された連通孔の構造を良好に保持することができる。
【0020】
上記炭素担体の酸化消耗温度は、620℃以上であることが好ましく、630℃以上であることがより好ましい。酸化消耗温度がこの範囲であることにより、耐酸化性に優れ、反応の進行に伴う白金担持触媒の消耗を抑制することができる。なお、酸化消耗温度は高いほど好ましく、上限値は特にないが、例えば、700℃以下と例示できる。
【0021】
なお、本明細書において、孔径、BET比表面積、全細孔容量、および酸化消耗温度は、後述の実施例に記載される方法に従って測定される値である。
【0022】
また、炭素担体は、上記メソ孔が不規則に配置されたランダムな孔構造を有していてもよい。なお、「ランダムな孔構造」とは、孔が規則正しく配置していないことを意図しており、炭素粉末の孔構造として、規則正しく孔が配置されたものとは異なる構造である。
【0023】
(3次元網目構造を成す炭素質壁を有する炭素担体)
本発明の更なる態様において、炭素担体は、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を形成していてもよい。また、炭素担体は、上記メソ孔が不規則に配置されたランダムな孔構造を有していてもよい。炭素担体の炭素質壁が3次元網目構造を形成するとともにランダムな孔構造を有していることにより、強度のより高い炭素担体となる。3次元網目構造を成す炭素質壁を有する炭素担体のその他の構成については、上述の炭素担体と同じであるため、その説明を省略する。
【0024】
(層状構造を成す炭素質壁を有する炭素担体)
本発明の更なる態様において、炭素担体は、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁中に、さらに、層状構造を成す部分が存在するものであってもよい。
【0025】
炭素質壁における層状構造を成す部分は、結晶質が発達することにより形成され得る。なお、炭素質壁の全ての部分が、結晶質からなる層状構造となっている必要はなく、炭素質壁の一部に、非晶質な構造が存在していてもよい。
【0026】
炭素担体の炭素質壁中に層状構造を成す部分が存在することにより、この炭素担体の酸化消耗温度を、さらに高めることができる。具体的には、層状構造を成す炭素質壁を有する炭素担体の酸化消耗温度は、好ましくは640℃以上であり、より好ましくは650℃以上とすることも可能である。なお、この場合も酸化消耗温度は高いほど好ましく、上限値は特にないが、例えば、700℃以下と例示できる。
【0027】
また、炭素担体の炭素質壁中に層状構造を成す部分が存在することにより、この炭素担体の電気抵抗率を減少させることができる。具体的には、層状構造を成す炭素質壁を有する炭素担体の電気抵抗率は、好ましくは0.1Ω・cm以下であり、より好ましくは0.05Ω・cm以下とすることも可能である。電気抵抗率が0.1Ω・cm以下であることにより、燃料電池用カソードとして燃料電池に適用したときに、高い発電効率を達成することができる。
【0028】
なお、本明細書において、電気抵抗率は、後述の実施例に記載される方法に従って測定される値である。電気抵抗率は低いほど好ましく、下限値は特にないが、例えば、0.004Ω・cm以上と例示できる。
【0029】
層状構造を成す炭素質壁を有する炭素担体のその他の構成については、上述の炭素担体と同じであるため、その説明を省略する。
【0030】
なお、上述した炭素担体は、実質的に炭素のみからなるものであることが好ましい。例えば、炭素担体は、樹脂を含まないものであることが好ましく、この場合、酸化物(例えばMgO)及び/又は硫酸塩(例えばMgSO4)が若干量、存在しているものであってもよい。
【0031】
〔炭素担体の製造方法〕
本発明の一態様において、炭素担体は、炭素質壁の構成材料となる炭素源とメソ孔の鋳型源とを含む混合物、または、炭素源と鋳型源とを兼ねる金属有機酸、を焼成して焼成体を作製する焼成工程と、得られた焼成体から鋳型源を除去する除去工程と、を含む炭素担体の製造方法によって製造することができる。
【0032】
炭素質壁の構成材料となる炭素源としては、樹脂を好適に用いることができる。このような樹脂としては、熱可塑性樹脂、例えば、ポリビニルアルコール、脂肪族系または芳香族系のポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリブタジエンおよびポリイソプレン等を主体とするエラストマー等の合成樹脂、天然ゴム、および、石油樹脂等、並びに、熱硬化性樹脂、例えば、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂等が挙げられる。
【0033】
メソ孔の鋳型源としては、酸化物が挙げられる。このような酸化物としては、後述の除去工程における除去のし易さ等の観点から、アルカリ土類金属の酸化物を好適に用いることができる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられるが、これらの中でも好ましいのはマグネシウムおよびカルシウムであり、とりわけマグネシウムが最適である。
【0034】
金属有機酸としては、クエン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等が挙げられる。なお、金属有機酸は水和物であっても無水物であってもよい。
【0035】
焼成工程は、炭素源の炭化および焼結した鋳型源への被覆によってメソ孔が形成され、且つ、メソ孔に臨む位置にミクロ孔が発達し得るように、適宜に行うことができる。
【0036】
本発明の一態様として、焼成工程は、アルゴン雰囲気もしくは窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下で、または、133Pa(1Torr)以下の減圧下で行うことが好ましい。また、焼成温度は、好ましくは、500℃以上であり、より好ましくは、500~1500℃である。焼成時間は、使用する材料、混合比、およびその他の焼成条件等に応じて、適宜に決定することができるが、例えば、0.5~3時間であり、より好ましくは1~3時間である。
【0037】
除去工程は、上記焼成工程で得られた焼成体を、鋳型源除去溶液に浸漬し、鋳型源を溶解させて除去することにより行うことができる。
【0038】
鋳型源除去溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等の一般的な無機酸、および、熱水を用いることができる。炭素担体の性状の変化を防ぎ得るため、上記無機酸を4mol/l以下の希酸として用いるか、または、80℃以上の熱水を用いることがより好ましい。無機酸を用いることにより、除去スピードが早くなるという利点がある。
【0039】
炭素源となる樹脂の種類、鋳型源の種類および粒子径、炭素源と鋳型源との混合比率、金属有機酸の種類、焼成条件、鋳型除去条件等を適宜に選択することにより、炭素担体の各種物性を所望の範囲に制御することができる。なお、上記の方法で製造された炭素担体は単一粒子内にメソ孔を備えた多孔質炭素であり、ストラクチャー構造(複数の粒子が融着した凝集体構造)を有していないため、電極作製時に均一なスラリー分散が望める。
【0040】
上記の製造方法により、炭素の収縮に起因する比表面積の低下が抑制され、且つ、所望の物性を保持する多孔質炭素を製造することができる。
【0041】
(層状構造を成す炭素質壁を有する炭素担体の製造方法)
層状構造を成す炭素質壁を有する炭素担体は、上述の炭素担体の製造方法において、焼成工程および除去工程の後に、さらに、細孔が形成された焼成体を熱処理する熱処理工程を行うことにより、製造することができる。
【0042】
上記熱処理工程は、アルゴン雰囲気もしくは窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下で、または、133Pa(1Torr)以下の減圧下で、行うことが好ましい。また、熱処理温度は、非晶質の炭素が結晶化する温度以上であれば問題ないが、円滑且つ短時間で層状構造を形成する(結晶化する)には、好ましくは1000℃以上であり、より好ましくは1500~2200℃である。また、熱処理時間は、使用する材料、混合比、およびその他の熱処理条件等に応じて、適宜に決定することができるが、例えば、1~3時間であり、より好ましくは1~2時間である。
【0043】
細孔が形成された焼成体を熱処理することにより、比表面積の低下を招くことなく、炭素質壁中に、全部もしくは一部が層状構造を成す炭素担体を製造することができる。
【0044】
〔白金微粒子〕
(X線回折による回折ピーク強度)
例えば、後述の白金担持触媒の製造方法に従って、上記炭素担体に白金微粒子を担持させることにより、白金微粒子のPt(220)面の回折ピーク強度の割合を高めることができる。
【0045】
本発明の一態様に係る白金微粒子において、上記炭素担体に担持される白金微粒子は、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、上記(220)面の回折ピーク強度の比が、0.128以上であり、より好ましくは、0.129以上である。
【0046】
本発明の一態様に係る白金微粒子において、炭素担体として、上記層状構造を成す炭素質壁を有する炭素担体を用いることにより、白金微粒子のPt(220)面の回折ピーク強度の割合を、一層高めることも可能である。より具体的には、上記層状構造を成す炭素質壁を有する炭素担体に担持される白金微粒子は、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、上記(220)面の回折ピーク強度の比が、0.128以上であり、より好ましくは0.150以上であり、さらに好ましくは、0.155以上である。
【0047】
白金微粒子のPt(220)面の回折ピーク強度の比が0.128以上であることにより、白金担持触媒が、高いORR活性を示すことができる。なお、上述した白金微粒子のPt(220)面の回折ピーク強度の比は、高いほど好ましく、上限値は特にないが、例えば、0.5以下であると例示できる。
【0048】
なお、X線回折による(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度は、後述の実施例に記載される方法に従って測定される値である。
【0049】
(白金微粒子の粒径および白金担持量)
炭素担体に担持される白金微粒子の粒径は、10nm未満であることが好ましい。上記範囲とすることで、電極作製時に均一に白金担持触媒を塗工することができる。なお、白金微粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定される20個以上の粒子の長径の平均値である。
【0050】
炭素担体に担持される白金担持量は、特に制限されず、白金微粒子のORR活性、用途等に応じて適宜に設定することができる。
【0051】
なお、白金微粒子の粒径および白金担持量は、白金担持触媒の製造において使用する白金微粒子の前駆体の種類、炭素担体に対する質量比等の各種条件を適宜に選択することにより、制御することができる。
【0052】
〔白金担持触媒の製造方法〕
白金担持触媒は、白金微粒子の前駆体を、特定の還元剤により還元して、上述の炭素担体に白金微粒子を担持させる工程を含む製造方法により、製造することができる。
【0053】
上記工程は、炭素担体と白金微粒子とを接触させて担持させる慣用の方法により、好適に行うことができる。具体的には、白金微粒子の前駆体および溶媒を含む白金溶液に、炭素担体を浸漬し、得られる混合物に還元剤を添加して還元反応を行うことにより、炭素担体に白金微粒子を担持させることができる。
【0054】
白金微粒子の前駆体としては、白金粉、塩化白金(II)、塩化白金(IV)、塩化白金(IV)酸、酸化白金(IV)、ジアンミンジニトロ白金(II)、ジクロロテトラアンミン白金(II)、ヘキサヒドロキソ白金酸(IV)、テトラクロロ白金酸(II)カリウム、テトラクロロ白金酸(IV)カリウム等の白金含有化合物が挙げられる。これらの白金含有化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
還元剤としては、pH7、25℃における白金の還元電位が-0.6V(vs.SCE)以上であり、より好ましくは-0.55V(vs.SCE)以上である還元力を有する還元剤を使用することができる。還元剤の還元電位が当該範囲であることにより、白金微粒子のPt(220)面の回折ピーク強度の割合を高めることができる。
【0056】
本発明において好適に用いられる還元剤の具体例としては、ホルムアルデヒド、次亜リン酸ナトリウムが挙げられる。
【0057】
なお、本発明において還元剤とは固体もしくは液体の状態のものをいう。
【0058】
溶媒としては、水が挙げられる。また、溶媒は、必要に応じて、炭酸ナトリウム等のpH調整剤を含んでいてもよい。
【0059】
上記白金溶液において、溶媒の添加量は、白金微粒子の前駆体が溶解して、安定した白金錯体を形成し得る範囲で、当業者が適宜に決定することができる。
【0060】
また、上記混合物において、還元剤の添加量は、白金微粒子の前駆体に対して、1.0倍モル量~1.1倍モル量とすることが好ましい。
【0061】
浸漬温度および浸漬時間は、炭素担体および白金微粒子の前駆体の種類、濃度等に応じて適宜に設定することができるが、例えば、浸漬温度は60~90℃であり、より好ましくは70~85℃であり、浸漬時間は0.5時間~3時間であり、より好ましくは1時間~2時間である。
【0062】
還元反応の反応温度および反応時間は、還元剤の種類、添加量等に応じて、適宜に設定することができるが、例えば、反応温度は60~90℃であり、より好ましくは70~85℃であり、反応時間は1時間~5時間であり、より好ましくは3時間~4時間である。
【0063】
上記の還元反応の後で、必要に応じて、ろ過、洗浄、乾燥等を行い、本発明の一実施形態に係る白金担持触媒を得ることができる。
【0064】
なお、得られた白金担持触媒における炭素担体は、上述した炭素担体の特性を有するものであることが好ましい。
【0065】
〔好ましい用途〕
本発明の一実施形態に係る白金担持触媒は、燃料電池の動作環境下において、優れたORR活性および耐酸化性を示す。これにより、本発明の一実施形態に係る白金担持触媒は、燃料電池用カソードに好適に用いることができる。
【0066】
上記燃料電池用カソードは、種々の燃料電池に適用することができる。このような燃料電池としては、固体高分子形燃料電池(PEFC)が挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下の実施例において、炭素担体の各種物性は、以下の方法によって測定されたものである。
【0068】
(炭素担体のメソ孔の孔径)
炭素担体のメソ孔の孔径は、BJH(Barrett-Joyner-Halenda)法を用いて測定した。具体的には、BJH法に基づいて得られる細孔分布(横軸が孔径、縦軸が対数微分細孔容積(dVp/dlogdp))において、最も高いピークトップが位置する孔径を、メソ孔の孔径とした。
【0069】
(炭素担体のBET比表面積および全細孔容量)
窒素を吸着ガスとして用い、77K(-196℃)で測定して窒素吸着等温線を求めた。当該測定には、日本ベル株式会社製の自動ガス/蒸気吸着量測定装置BELSORP-MAXを用いた。BET比表面積は、相対圧(P/P0)=0.05~0.20の範囲の測定点より算出した。全細孔容量は相対圧(P/P0)=0.95における吸着量から求めた。
【0070】
(炭素担体のミクロ孔容量およびメソ孔容量)
ミクロ孔容量は、DA(Dubinin-Astakhov)法を用いて算出した。メソ孔容量は、全細孔容量からミクロ孔容量を引いて求めた。
【0071】
〔実施例1〕
先ず、炭素源と鋳型源とを兼ねる二クエン酸三マグネシウム無水物〔Mg3(C6H5O7)2〕を用意し、これを窒素雰囲気中900℃で1時間熱処理した。これにより、鋳型粒子である酸化マグネシウムと炭素質壁とを備えた焼成物を得た。次いで、得られた焼成物を30wt%硫酸溶液で洗浄して、酸化マグネシウムを完全に溶出させることにより、多数のメソ孔を有し、かつ、メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を形成するとともにランダムな孔構造を有する多孔質炭素を得た。その後、得られた多孔質炭素を遊星ビーズミルを用いて1.5時間、回転数120rpmの条件で粉砕し、メディアン径2~4μmに調整し、実質的に炭素のみからなる炭素担体を製造した。なお、ビーズにはφ5mmのアルミナビーズを用いた。
【0072】
図1は、このようにして得られた炭素担体について、ガス吸着法を用いて細孔分布測定を行い、BJH法で解析した結果である。
図1より、上記で得られた炭素担体は、BJH法に基づく解析で、横軸を細孔径、縦軸を対数微分細孔容積(dV
p/dlogd
p)とした細孔分布において、4nmの孔径に最も高いピークトップを有することが確認できる。
【0073】
上記炭素担体0.225g、塩化白金酸(IV)0.12gおよび炭酸ナトリウム0.13gを、超純水100mL中で混合し、80℃に加温した状態で1時間撹拌した。次いで、0.07mol/Lホルムアルデヒド(pH7、25℃における白金の還元電位が-0.52)水溶液20mLを、5分間かけて一定速度で滴下しながら撹拌し、さらに80℃の温度を保持したまま4時間撹拌した。得られた撹拌液を濾過し、固形分を真空乾燥し、さらに窒素雰囲気下120℃で加熱処理し、白金担持触媒として黒色粉末を得た。なお、得られた白金担持触媒における炭素担体は、多数のメソ孔を有し、かつ、メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を形成するとともにランダムな孔構造を有しており、実質的に炭素のみからなるものであった。
【0074】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして製造した多孔質炭素を、さらに、窒素雰囲気下で、1800℃で1時間熱処理した。得られた多孔質炭素は、多数のメソ孔を有し、かつ、メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を形成するとともにランダムな孔構造を有しており、さらに、炭素質壁中に層状構造を成す部分が存在していた。得られた多孔質炭素を、実施例1と同様にして、遊星ビーズミルを用いて粉砕し、層状構造を成す炭素質壁を有する、実質的に炭素のみからなる炭素担体を得た。
【0075】
上記で得られた炭素担体を用いて、実施例1と同様にして、白金担持触媒として黒色粉末を得た。なお、得られた白金担持触媒における炭素担体は、多数のメソ孔を有し、かつ、メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を形成するとともにランダムな孔構造を有しており、さらに、炭素質壁中に層状構造を成す部分が存在しており、また、実質的に炭素のみからなるものであった。
【0076】
〔比較例1〕
VULCAN(登録商標)XC-72(CABOT社製、連通孔を有しない、またストラクチャー構造を有する)を、室温で10分間、超音波分散処理に付し、炭素担体を製造した。
【0077】
上記で得られた炭素担体を用いて、実施例1と同様にして、白金担持触媒として黒色粉末を得た。
【0078】
〔比較例2〕
ケッチェンブラックEC300J(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、連通孔を有しない、またストラクチャー構造を有する)を、室温で10分間、超音波分散処理に付し、炭素担体を製造した。
【0079】
上記で得られた炭素担体を用いて、実施例1と同様にして、白金担持触媒として黒色粉末を得た。
【0080】
〔比較例3〕
炭素担体として、実施例2で用いた炭素担体を用意した。
【0081】
上記炭素担体を、超純水中に分散させて分散液を得た。一方、テトラクロロ白金酸(II)カリウムを、超純水中に溶解させて、白金溶液を得た。上記分散液に白金溶液を添加して混合し、得られた混合物に0.1M水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH8に調整し、70℃で1時間撹拌することで、白金の水酸化物を炭素担体上に析出させた。得られた撹拌液を濾過し、固形分を真空乾燥し、さらに、50%H2、50%アルゴンの雰囲気下で、300℃で3時間加熱処理し、白金担持触媒を得た。白金の担持量は、炭素担体に対して30wt%であった。なお、上記の白金成長方法においては、還元剤を用いていない。
【0082】
〔比較例4〕
白金の担持量を炭素担体に対して40wt%とした以外は、比較例3と同様にして、白金担持触媒を得た。
【0083】
〔比較例5〕
白金の担持量を炭素担体に対して50wt%とした以外は、比較例3と同様にして、白金担持触媒を得た。
【0084】
実施例1~2および比較例1~5で用いた各炭素担体の物性を、以下の表1にまとめた。
【0085】
【表1】
〔白金担持触媒の確認〕
実施例1~2および比較例1~5で得られた黒色粉末をそれぞれ王水に溶解し、ICP-AES分析法を用いて白金を定量し、その濃度から、黒色粉末の白金担持量を算出した。
【0086】
また、各黒色粉末を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製、JEM-2100)を用いて観察倍率500,000倍で観察し、いずれの黒色粉末においても、炭素担体上に白金微粒子(直径1~5nm)が分散して担持されていることを確認した。
【0087】
〔Pt(220)面の回折ピーク強度の割合の測定〕
実施例1~2および比較例1、3~5で得られた白金担持触媒について、以下の要領で、X線回折による回折ピーク強度を測定し、(111)面、(200)面および(220)面の回折ピーク強度の合計に対する、各回折ピーク強度の比をそれぞれ求めた。
【0088】
回折ピークのピーク分離は、Igor Pro 6.36Jに付属のMultipeak fitng2を用いて実施した。ベースラインは、Cubic式、各ピークの分離はVoigt式を用いて解析し、各ピークの高さより、各ピークの回折ピーク強度を求めた。
【0089】
図2~4は、実施例1~2および比較例1で得られた白金担持触媒のX線回折図(XRD図)である。
【0090】
〔耐酸化性の評価〕
実施例1~2および比較例1~5で用いた炭素担体について、以下の要領で、酸化消耗温度を測定した。
【0091】
炭素担体を大気雰囲気下で5℃/minで室温から900℃まで昇温して、炭素担体質量と温度との関係を調べ、得られるグラフ(横軸が温度、縦軸が炭素担体質量)から、ほぼ質量変化しない部分(横軸に略平向な部分)の仮想延長線と、質量変化が著しい部分の仮想延長線との交点における温度として算出した。
【0092】
図5は、実施例1~2および比較例1~2で用いた炭素担体について、炭素担体質量と温度との関係を示すグラフである。
【0093】
〔電気抵抗率の測定〕
実施例1~2および比較例2~5で用いた炭素担体について、粉体抵抗システムMCP-51型(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用いて40MPaに加圧した後、抵抗率計ロレスタGPで定電流印加四探針法により測定した。
【0094】
〔ORR活性の評価〕
(電極の作製)
実施例1~2および比較例1~6で得られた白金担持触媒を用いて、衣本太郎、山田裕久、電気化学および工業物理化学, Vol.79(2), pp.116-121 (2011)に記載の方法にしたがい、下記の要領で電極を作製した。
【0095】
白金担持量より概算した所定量の白金担持触媒(白金質量として1.5μg)、超純水0.625mL、およびエタノール5.625mgを混合し、超音波洗浄機を用いて氷冷しながら30分間分散処理を行った。この分散液10.0μLを、マイクロピペットを用いてグラッシーカーボン製のディスク電極(直径5mm)上に塗布し、送風乾燥機を用いて60℃で10分間乾燥させた。次いで、5%Nafion(登録商標)分散液(シグマ・アルドリッチ社製)0.10mLと2-プロパノール4.90mLとを混合し、この混合液3.69μLをマイクロピペットを用いて上記ディスク電極の上に塗布し、送風乾燥機を用いて60℃で1分間乾燥させて、電極を得た。
【0096】
(白金質量活性(ORR活性)の算出)
実施例1~2および比較例1~5で得られた白金担持触媒について、衣本太郎、山田裕久、電気化学および工業物理化学, Vol.79(2), pp.116-121 (2011)に記載の算出方法にしたがい、下記の要領で燃料電池の動作環境下における白金質量活性(ORR活性)を算出した。
【0097】
上記で得られた電極を作用極、白金メッシュを対極、可逆水素電極を参照極、窒素飽和0.1M過塩素酸水溶液を電解液としたハーフセルを作製した。上記電解液を1時間、窒素でバブリングした。このハーフセルに対して、25℃、0.05~1.20V、0.05V/sの条件で100サイクルのサイクリックボルタンメトリー測定を実施した。
【0098】
100サイクル目のカソード掃引時における電流値の内、0.05~0.40Vの範囲の還元電流値を、0.40V時の還元電流値を基準として積分することで、水素吸着電気量(単位:C)を得た。この水素吸着電気量を、白金に対する水素吸着の理論的な面積換算電気量(2.10C/m2)で除すことによって、白金表面積(単位:m2)を概算した。
【0099】
また、同電極(作用極)に対して、ORR活性を求めるために、白金メッシュを対極、可逆水素電極を参照極、酸素飽和0.1M過塩素酸水溶液を電解液としたハーフセルを作製した。上記電解液を3時間、酸素でバブリングした。また、作用極を400、625、900、1225、1600rpmで回転させた状態で、ハーフセルに対して、25℃、0.05~0.1Vの範囲で負から正方向に0.01V/Sの速度で掃引した。各回転速度で得られた電流-電位曲線の0.9Vでの電流値を用いて、Koutecky-Levichプロットより活性化支配電流を求めた。概算された白金表面積と活性化支配電流より、比活性を算出し、白金触媒質量当たりに換算することで、白金質量活性(A/g)を算出した。
【0100】
上記で得られた結果を、以下の表2に示す。
【0101】
【表2】
表2に記載のとおり、実施例1~2と比較例1~2を比較すると、実施例1~2では酸化消耗温度が高く、耐酸化性に優れることがわかった。また、実施例1~2と比較例3~5を比較すると、pH7、25℃における白金の還元電位が-0.6V(vs.SCE)以上である還元剤により還元した実施例1~2では、白金微粒子の(220)面の回折ピーク強度の比(Pt(220))が0.128以上となり、ORR活性が高くなった。
【0102】
また、一般的に、ストラクチャー構造を有しない多孔質炭素は、ストラクチャー構造を有する炭素担体に比べ、電気抵抗率が大きい。しかしながら、表2に記載のとおり、実施例2で用いた炭素担体は、ストラクチャー構造を有していないにも関わらず、ストラクチャー構造を有する比較例2の炭素担体と同等の電気抵抗率となった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の一実施形態に係る白金担持触媒は、燃料電池用カソードに好適に用いることができる。