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特許7464649塗装密着性及び塗装後耐食性に優れた熱間プレス成形部材用鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】塗装密着性及び塗装後耐食性に優れた熱間プレス成形部材用鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/12 20060101AFI20240402BHJP
   C21D 9/52 20060101ALI20240402BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240402BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240402BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20240402BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240402BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20240402BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240402BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20240402BHJP
   C21D 1/18 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
C23C2/12
C21D9/52 101
C21D9/46 J
C21D9/46 U
C21D9/46 Z
C21D9/46 P
C22C38/00 301T
C22C38/00 301W
C22C38/00 302A
C22C38/06
C22C38/00 302X
C22C21/00 M
C22C21/02
C22C38/60
C21D9/00 A
C21D1/18 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022065569
(22)【出願日】2022-04-12
(62)【分割の表示】P 2019565877の分割
【原出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2022106758
(43)【公開日】2022-07-20
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】10-2017-0068651
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0101563
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】オ、 ジン-グン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】シン、 ヒョン-ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ア-ラ
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-028582(JP,A)
【文献】特開2004-244704(JP,A)
【文献】特開2004-002932(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1696121(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0003029(US,A1)
【文献】国際公開第2010/005121(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0112602(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第101910426(CN,A)
【文献】特表2011-512455(JP,A)
【文献】特開2004-176181(JP,A)
【文献】特開2011-149084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
C21D 9/00-9/66
C22C 38/00-38/60
C22C 21/00-21/18
C21D 1/02-1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板、及び
前記素地鋼板の表面に形成され、Feの平均含有量が30~80重量%であるアルミニウム合金めっき層を含み、
前記めっき層を厚さ方向に切断して観察される表層部の断面において空隙が占める面積の割合が全体表層部の面積に対して10%以上である、
熱間プレス成形用鋼板。
【請求項2】
前記めっき層を厚さ方向に切断して観察される表層部の断面において空隙が占める面積の割合が全体表層部の面積に対して70%以下である、請求項1に記載の熱間プレス成形用鋼板。
【請求項3】
前記アルミニウム合金めっき層はFeの平均含有量が40重量%以上である、請求項1または2に記載の熱間プレス成形用鋼板。
【請求項4】
前記素地鋼板は、重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む組成を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱間プレス成形用鋼板。
【請求項5】
前記素地鋼板の組成は、重量%で、Cr、Mo、及びWからなる群より選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr、及びVからなる群より選択された1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%、及びB:0.0001~0.01%のうちから1つ以上をさらに含む、請求項4に記載の熱間プレス成形用鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装密着性及び塗装後耐食性に優れた熱間プレス成形部材用鋼板及びその製
造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、石油エネルギー資源の枯渇及び環境に関する関心の高まりに伴い、自動車の燃費
向上に対する規制は日々、強化されつつある。
【0003】
材料の面から、自動車の燃費を向上させるための1つの方法として、用いられる鋼板の
厚さを減少させる方法が挙げられるが、厚さを減少させる場合には、自動車の安全性に問
題が生じる可能性があるため、必ず鋼板の強度向上が確保される必要がある。
【0004】
このような理由から、高強度鋼板に対する需要が継続的に発生し、様々な種類の鋼板が
開発されている。ところが、かかる鋼板は、それ自体が高い強度を有するため加工性が不
良であるという問題がある。すなわち、鋼板の等級別に強度と伸び率の積は常に一定の値
を有する傾向を持っていることから、鋼板の強度が高くなる場合には、加工性の指標とな
る伸び率が減少するという問題があった。
【0005】
かかる問題を解決するために、熱間プレス成形法が提案されている。熱間プレス成形法
は、鋼板を加工しやすい高温で加工した後、これを低い温度で急冷することにより、鋼板
内にマルテンサイトなどの低温組織を形成させ、最終製品の強度を高める方法である。こ
の場合、高い強度を有する部材を製造するとき、加工性の問題を最小限に抑えることがで
きるという長所がある。
【0006】
ところが、上記熱間プレス成形法によると、鋼板を高温で加熱する必要があることから
鋼板の表面が酸化し、結果として、プレス成形後に鋼板表面の酸化物を除去する過程が追
加されるという問題があった。
【0007】
かかる問題点を解決するための方法として、米国特許第6,296,805号公報の発
明が提案された。上記発明では、アルミニウムめっきを行った鋼板を熱間プレス成形また
は常温成形した後、加熱し急冷する過程(単に「後熱処理」とする)を用いている。尚、
アルミニウムめっき層が鋼板表面に存在するため、加熱時に鋼板が酸化することはない。
【0008】
しかし、表面にアルミニウムめっき層が存在して加熱時に鋼板が酸化しなくても、加熱
及び成形後に得られる部材は依然として腐食環境に露出するようになる。特に、めっきさ
れた鋼板を加熱する過程においてアルミニウムめっき層に素地鉄が拡散し、鋼板の表面に
硬質のFe-Al系めっき層が形成されるが、Fe-Al系めっき層の場合には、硬質で
あり弱いためめっき層にクラックが発生する可能性があり、結果として、素地鋼板が腐食
環境に露出するおそれがある。
【0009】
このような点を防止するために、熱間プレス成形部材には塗装層が形成される。このと
き、優れた塗装密着性を有することが要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一目的は、塗装密着性に優れ、結果として、塗装後耐食性に優れた熱間プレス
成形部材を製造することができる熱間プレス成形用鋼板を提供することである。
【0011】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全般
から理解されることができ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であ
れば、本発明の追加的な課題を明確に理解するのに何の難しさもない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面による熱間プレス成形用鋼板は、素地鋼板、及び上記素地鋼板の表面に
形成されためっき層を含み、上記めっき層を厚さ方向に切断して観察される表層部の断面
において空隙が占める面積の割合が表層部の全面積に対して10%以上であってもよい。
【0013】
本発明の一実施例において、上記めっき層を厚さ方向に切断して観察される表層部の断
面において空隙が占める面積の割合が表層部の全面積に対して15%以上であってもよい
【0014】
本発明の一実施例において、上記めっき層はアルミニウム合金めっき層であってもよい
【0015】
本発明の一実施例において、上記アルミニウム合金めっき層はFeの平均含有量が30
重量%以上であってもよい。
【0016】
本発明の一実施例において、上記アルミニウム合金めっき層はFeの平均含有量が40
重量%以上であってもよい。
【0017】
本発明の一実施例において、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.04~0.5%、S
i:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.
05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不
純物を含む組成を有することができる。
【0018】
本発明の一実施例において、上記素地鋼板の組成は、重量%で、Cr、Mo、及びWか
らなる群より選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr、及び
Vからなる群より選択された1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.
005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%、及びB:0.0001~0.0
1%のうちから1つ以上をさらに含むことができる。
【0019】
本発明の他の側面による熱間プレス成形部材用鋼板の製造方法は、素地鋼板の表面をア
ルミニウムめっきして巻取ることでアルミニウムめっき鋼板を得る段階と、上記アルミニ
ウムめっき鋼板を焼鈍してアルミニウム合金めっき鋼板を得る段階と、上記アルミニウム
合金めっき鋼板を冷却する段階と、を含む熱間プレス成形部材用鋼板の製造方法であって
、上記アルミニウムめっき量は鋼板の片面基準で30~200g/mであり、巻取り時
の巻取り張力を0.5~5kg/mmとし、上記焼鈍は箱焼鈍炉において550~75
0℃の加熱温度範囲で30分~50時間行い、上記焼鈍時に、常温から上記加熱温度まで
加熱する際の平均昇温速度を20~100℃/hとし、且つ400~500℃の区間の平
均昇温速度を1~15℃/hとし、加熱温度-50℃~加熱温度区間の昇温速度を1~1
5℃/hとし、上記箱焼鈍炉内雰囲気温度と鋼板温度の差を5~80℃とし、上記アルミ
ニウム合金めっき鋼板を冷却する段階において500℃まで50℃/h以下の速度で冷却
することができる。
【0020】
本発明の一実施例において、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.04~0.5%、S
i:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.
05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不
純物を含む組成を有することができる。
【0021】
本発明の一実施例において、上記素地鋼板の組成は、重量%で、Cr、Mo、及びWか
らなる群より選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr、及び
Vからなる群より選択された1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.
005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%、及びB:0.0001~0.0
1%のうちから1つ以上をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一側面によると、熱間プレス成形用鋼板が表層部に空隙を含むため、熱間プレ
ス成形後に得られる部材の表面粗さが大きく高まり、良好な塗装密着性を有することがで
き、結果として、良好な塗装後耐食性も得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施例による鋼板のめっき層の切断面を観察した断面写真である。
図2】発明例1によって製造された鋼板のめっき層をGDS分析器で分析した成分プロファイルである。
図3】発明例1によって製造された鋼板のめっき層の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真(後方散乱電子画像)である。
図4】発明例2によって製造された鋼板のめっき層をGDS分析器で分析した成分プロファイルである。
図5】発明例2によって製造された鋼板のめっき層の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真(後方散乱電子画像)である。
図6】比較例1によって製造された鋼板のめっき層をGDS分析器で分析した成分プロファイルである。
図7】比較例1によって製造された鋼板のめっき層の断面を観察した走査電子顕微鏡写真である。
図8】比較例2によって製造された鋼板のめっき層をGDS分析器で分析した成分プロファイルである。
図9】比較例2によって製造された鋼板のめっき層の断面を観察した走査電子顕微鏡写真である。
図10】比較例3によって製造された鋼板のめっき層をGDS分析器で分析した成分プロファイルである。
図11】比較例3によって製造された鋼板のめっき層の断面を観察した走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明において、部材とは、熱間プレス成形によって製造された部品または部品用材料
を意味する。また、鋼板とは、熱間プレス成形前のものを意味する。かかる鋼板は、製造
工程中に巻取られてコイル型を有する場合があるが、これをコイルと呼ぶこともある。
【0026】
図1は、本発明の一実施例による鋼板のめっき層の切断面を観察した断面写真である。
図面から分かるように、本発明の鋼板は、素地鋼板、及び素地鋼板の表面に形成されため
っき層からなり、めっき層の表層部に多数の空隙(pore)を有する。これは、従来の
熱間プレス成形用アルミニウムめっき鋼板では観察できない現象である。従来のアルミニ
ウムめっき鋼板では、溶融アルミニウムめっきによって表層部に空隙がほとんど発生しな
かったのに対し、本実施例による鋼板ではめっき層の表層部に多数の空隙が形成されるこ
とが主な特徴である。本実施例において、表層部とは、表面から深さ10μm以内の領域
を意味する(表層が粗い場合には、粗い表面のそれぞれの地点からの深さを測定する)。
【0027】
鋼板のめっき層の表層部に多数の空隙が含まれる場合には、鋼板を熱間で加熱してプレ
ス成形するにあたり、プレス加工時に加わる応力によって上記表層部の空隙の一部が開放
するようになるが、これはめっき層の表面粗さを増加させる役割を果たす。
【0028】
アルミニウムめっき鋼板を熱間プレス成形して得られる熱間プレス成形用部材は表面ま
で合金化が起こる。結果として、得られる合金層は、合金化されないアルミニウムめっき
層に比べて相対的に安定しているため、塗装密着性を向上させるために行うリン酸との反
応性が弱く、通常のリン酸塩処理だけでは塗装密着性を向上させる余地が小さい。もちろ
ん、熱間プレス成形過程における合金化時に粗さが増加することによって、あるレベルま
では塗装密着性を改善させる余地があるが、その改善には限界がある。
【0029】
したがって、本実施例では、これを改善するために、上述のように、鋼板の段階におい
てめっき層に空隙を形成させることにより、後のプレス成形時に上記空隙が崩壊して粗さ
を増加させるのに寄与する。
【0030】
このために、鋼板のめっき層を厚さ方向に切断して観察される表層部の断面において空
隙が占める面積の割合が表層部の全面積に対して10%以上であってもよく、15%以上
であってもよい。この場合、上記鋼板を熱間プレス成形すると、表面粗さが向上し、塗装
密着性とそれに伴う塗装後耐食性を大幅に向上させることができる。塗装密着性やそれに
伴う塗装後耐食性の面から、表面粗さの上限を特に制限する必要はないが、上記空隙率は
、通常70%以下または60%以下で決定されることができる。空隙率を測定する方法と
して、いくつかの方法が挙げられるが、本発明の一実施例において、画像解析器(Ima
ge Analyzer)を用いて空隙が存在する部分の割合を測定する方法を用いるこ
とができる。
【0031】
本発明では、このように表層部の空隙率が高いめっき層を鋼板表面に形成させるために
、めっき層をアルミニウム合金めっき層とすることができ、一実施例では、Al-Fe合
金めっき層とすることができる。本発明の一実施例によると、Al-Fe合金めっき層は
、Alめっき鋼板を適切な条件で合金化することにより得ることができる。すなわち、本
発明では、Alめっき鋼板を適切な条件で加熱すると、めっき層のAlと素地鋼板のFe
の間に拡散が起こってAlとFeが合金化するが、その過程で表層部に多数の空隙が形成
されるという現象を利用したものである。
【0032】
このとき、空隙の形成のために、めっき層のFeの平均含有量が30重量%以上である
ことができ、より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であるこ
とができる。すなわち、十分な合金化が起こらないと、表層部で空隙が得られないため、
めっき層のFeの平均含有量は、30重量%、40重量%、または50重量%以上である
ことができる。Feの平均含有量の上限は特に決定する必要はないが、合金化の効率など
を考慮すると、80重量%以下で決定することもできる。ここで、Feの平均含有量とは
、全めっき層中のFe含有量の平均を意味し、測定方法にはいくつかの方法があるが、本
実施例では、グロー放電分光分析(Glow Discharge emission
Spectrometry;単にGDSとする)法によりめっき層の表面から鋼板の界面
まで分析したときに表される深さ(厚さ)によるFeの含有量の曲線を積分した後、これ
をめっき層の厚さで割った値として用いることができる。めっき層と鋼板の界面を判断す
る基準にはいくつかの方法があり得るが、本実施例では、GDSの結果から、Feの含有
量が母材のFe含有量の92%である点をめっき層と鋼板の界面と規定することができる
【0033】
本発明の鋼板は、熱間プレス成形用鋼板であって、熱間プレス成形に用いられることが
できればその組成は特に制限しない。但し、本発明の一側面によると、重量%で(以下、
特に異ならせて表現しない限り、本発明の鋼板及びめっき層の組成は、重量を基準にする
ことに留意する必要がある)、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:
0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%
以下、及びN:0.02%以下を含む組成を有することができる。
【0034】
C:0.04~0.5%
上記Cは、熱処理部材の強度を向上させるための不可欠な元素であって、適正量で添加
することができる。すなわち、熱処理部材の強度を十分に確保するために、上記Cは0.
04%以上添加することができる。一実施例において、上記Cの含有量の下限は0.1%
であることができる。但し、その含有量が高すぎると、冷延材を生産する場合、熱延材を
冷間圧延する際に熱延材の強度が高すぎ、冷間圧延性が大きく劣化するだけでなく、点溶
接性を大きく低下させるため、十分な冷間圧延性及び点溶接性を確保するために0.5%
以下添加することができる。また、上記Cの含有量は、0.45%以下、または0.4%
以下とその含有量を制限することもできる。
【0035】
Si:0.01~2%
上記Siは、製鋼において脱酸剤として添加される必要があるだけでなく、熱間プレス
成形部材の強度に最も大きく影響を与える炭化物の生成を抑制するとともに、熱間プレス
成形におけるマルテンサイトの生成後に、マルテンサイトのラス(lath)粒界に炭素
を濃化させて残留オーステナイトを確保する役割を果たす。したがって、Siは0.01
%以上の含有量で添加することができる。また、圧延後の鋼板にアルミニウムめっきを行
う際に、十分なめっき性を確保するために、上記Siの含有量の上限を2%で決定するこ
とができる。本発明の一実施例では、上記Siの含有量を1.5%以下に制限することも
できる。
【0036】
Mn:0.01~10%
上記Mnは、固溶強化の効果を確保することができるだけでなく、熱間プレス成形部材
においてマルテンサイトを確保するための臨界冷却速度を下げるために、0.01%以上
の含有量で添加することができる。また、鋼板の強度を適切に維持することにより、熱間
プレス成形工程の作業性を確保するとともに、製造コストを削減し、点溶接性を向上させ
る点から、上記Mnの含有量は10%以下にすることができる。本発明の一実施例では、
9%以下、または8%以下とすることができる。
【0037】
Al:0.001~1.0%
上記Alは、Siとともに製鋼において脱酸作用を行って鋼の清浄度を高めることがで
きるため、0.001%以上の含有量で添加することができる。また、Ac3温度が高す
ぎないようにして熱間プレス成形時に必要な加熱を適切な温度範囲で行うことができるよ
うにするために、上記Alの含有量は1.0%以下とすることができる。
【0038】
P:0.05%以下
上記Pは、鋼内に不純物として存在し、できる限りその含有量が少ないほど有利である
。したがって、本発明の一実施例において、Pは0.05%以下の含有量で含まれること
ができる。本発明の他の一実施例において、Pは0.03%以下に制限されることもでき
る。Pは少なければ少ないほど有利な不純物元素であるため、その含有量の上限を特に決
定する必要はない。但し、Pの含有量を過度に下げるためには製造コストが上昇するおそ
れがあるため、これを考慮すると、その下限を0.001%とすることもできる。
【0039】
S:0.02%以下
上記Sは、鋼中不純物として部材の延性、衝撃特性、及び溶接性を阻害する元素である
ため、最大含有量を0.02%とする(好ましくは0.01%以下)。また、その最小含
有量が0.0001%未満では、製造コストが上昇する可能性があるため、本発明の一実
施例において、その含有量の下限を0.0001%とすることができる。
【0040】
N:0.02%以下
上記Nは、鋼中に不純物として含まれる元素であって、スラブの連続鋳造時にクラック
発生に対する敏感度を減少させ、衝撃特性を確保するためには、その含有量が低いほど有
利であることから、0.02%以下含むことができる。ここで、下限を特に決定する必要
があるが、製造コストの上昇などを考慮して、一実施例では、Nの含有量を0.001%
以上で決定することができる。
【0041】
本発明では、必要に応じて、上述した鋼の組成に加えて、Cr、Mo、及びWからなる
群より選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr、及びVから
なる群より選択された1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005
~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%、及びB:0.0001~0.01%の
うちから1つ以上をさらに添加することができる。
【0042】
Cr、Mo、及びWからなる群より選択された1種以上の合計:0.01~4.0%
上記Cr、Mo、及びWは、硬化能の向上と、析出強化の効果による強度及び結晶粒微
細化を確保することができるため、これらのうち1種以上を含有量合計基準で0.01%
以上添加することができる。また、部材の溶接性を確保するために、その含有量を4.0
%以下に制限することもできる。尚、これら元素の含有量が4.0%を超えると、それ以
上の効果上昇も弱くなるため、含有量を4.0%以下に制限する場合には、追加の元素添
加によるコストの上昇を防止することもできる。
【0043】
Ti、Nb、Zr、及びVからなる群より選択された1種以上の合計:0.001~0
.4%
上記Ti、Nb、及びVは、微細析出物の形成によって熱処理部材の鋼板の向上と、結
晶粒微細化によって残留オーステナイトの安定化、及び衝撃靭性の向上に効果があるため
、これらのうち1種以上を含有量合計で0.001%以上添加することができる。但し、
その添加量が0.4%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、過度な合金鉄の添加
が原因となってコストの上昇を招く可能性がある。
【0044】
Cu+Ni:0.005~2.0%
上記Cu及びNiは、微細析出物を形成して強度を向上させる元素である。上述した効
果を得るために、これらのうち1つ以上の成分の合計を0.005%以上とすることがで
きる。但し、その値が2.0%を超えると、過度なコスト増加となるため、その上限を2
.0%とする。
【0045】
Sb+Sn:0.001~1.0%
上記Sb及びSnは、Al-Siめっきのための焼鈍熱処理時に、表面に濃化してSi
またはMn酸化物が表面に形成されることを抑制することで、めっき性を向上させること
ができる。このような効果を得るために、0.001%以上添加することができる。但し
、その添加量が1.0%を超えると、過度な合金鉄のコストだけでなく、スラブの粒界に
固溶し、熱間圧延時のコイルのエッジ(edge)クラックを誘発させる可能性があるた
め、その上限を1.0%とする。
【0046】
B:0.0001~0.01%
上記Bは、少量の添加でも硬化能を向上させるだけでなく、旧オーステナイト結晶粒界
に偏析されて、Pまたは/及びSの粒界偏析による熱間プレス成形部材の脆性を抑制する
ことができる元素である。したがって、Bは0.001%以上添加することができる。但
し、0.01%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、熱間圧延において脆性をも
たらすため、その上限を0.01%とすることができる。一実施例では、上記Bの含有量
を0.005%以下とすることができる。
【0047】
上述した成分以外の残部としては、鉄及び不可避不純物を挙げることができるが、熱間
成形用鋼板に含まれることができる成分であれば特に制限しない。
【0048】
以下、本発明の他の一側面による熱間プレス成形用鋼板の製造方法の一例を説明すると
以下のとおりである。但し、後述の熱間プレス成形用鋼板の製造方法は、1つの例示であ
って、本発明の熱間プレス成形用鋼板が必ずしもこの製造方法により製造される必要はな
く、いかなる製造方法であっても、本発明の特許請求の範囲を満たす方法であれば、本発
明の各実施例を実現するために用いるのに何の問題がないことに留意すべきである。
【0049】
本発明の鋼板は、熱間圧延または冷間圧延された素地鋼板を用いており、上記素地鋼板
の表面に溶融アルミニウムめっきを行い、めっき鋼板に焼鈍処理を施すことにより得るこ
とができる。
【0050】
[アルミニウムめっき工程]
本発明の一実施例では、素地鋼板を用意し、上記素地鋼板の表面を適切な条件でアルミ
ニウムめっきして巻取ることでアルミニウムめっき鋼板(コイル)を得る過程が行われる
【0051】
<片面当たりに30~200g/mのめっき量で素地鋼板の表面をアルミニウムめっ
きする>
圧延された鋼板の表面にアルミニウムめっき処理を施すことができる。アルミニウムめ
っきは、通常、「type I」と命名されるAlSiめっき(80%以上のAlと5~
20%のSiとを含み、必要によっては追加の元素も含むことが可能)、及び「type
II」と命名されるAlを90%以上含み、必要によっては追加の元素を含むめっきを
ともに用いることができる。めっき層を形成するために溶融アルミニウムめっきを行うこ
とができ、めっき前の鋼板に対して焼鈍処理を施すこともできる。めっき時における適切
なめっき量は、片面当たりに30~200g/mである。めっき量が多すぎる場合には
、表面まで合金化するのに時間が過度にかかることがあり、逆にめっき量が少なすぎる場
合には十分な耐食性を得ることが難しい。
【0052】
<めっき後に、巻取り張力を0.5~5kg/mmとする>
めっき後の鋼板を巻取ってコイルを得るとき、コイルの巻取り張力を調節することがで
きる。コイルの巻取り張力の調節に応じて、後で行われる焼鈍処理時のコイルの合金化挙
動及び表面品質が異なり得る。
【0053】
[焼鈍処理]
上述した過程によってアルミニウムめっきされた鋼板に対して、次のような条件で焼鈍
処理を施してアルミニウム合金めっき鋼板を得る。
【0054】
<箱焼鈍炉において550~750℃の範囲で30分~50時間行う>
アルミニウムめっき鋼板(コイル)は、箱焼鈍炉(Batch annealing
furnace)で加熱される。鋼板を加熱するとき、熱処理目標温度及び維持時間は、
鋼板温度を基準に550~750℃の範囲内(本発明では、この温度範囲のうち素材が到
達する最高温度を加熱温度と呼ぶ)で30分~50時間維持することが好ましい。ここで
、維持時間とは、コイル温度が目標温度に達してから冷却開始するまでの時間を意味する
。本発明の一実施例では、合金化が十分に行われない場合には、ロールレベリング時にめ
っき層が剥離する可能性があることから、十分な合金化のために加熱温度を550℃以上
とすることができる。また、表層に酸化物が大量に生成されることを防止し、点溶接性を
確保するために、上記加熱温度は750℃以下とすることができる。尚、めっき層を十分
に確保するとともに、生産性の低下を防止するためには、上記維持時間は30分~50時
間で決定することができる。本発明の一実施例において、鋼板の温度は、加熱温度に到達
するまで冷却過程なしに温度が上昇し続ける形のパターンを有することができる。
【0055】
<平均昇温速度を20~100℃/hにして加熱温度まで加熱する>
上述した加熱温度で鋼板を加熱するとき、十分な生産性を確保するとともに、全鋼板(
コイル)でめっき層を均一に合金化させるために、全温度区間(常温から加熱温度までの
区間)に対する鋼板(コイル)温度を基準とする平均昇温速度を20~100℃/hとす
ることができる。また、全体的な平均昇温速度は、上記の数値範囲で制御することができ
るが、本発明の一実施例では、後述のように、特定の温度区間の昇温速度をともに制御し
て、本発明の課題を達成するようにした。本発明の他の一実施例では、上記全温度区間の
平均昇温速度を70℃/で決定することができる。
【0056】
<昇温時の400~500℃の区間の平均昇温速度を1~15℃/hにして加熱する>
本発明の一実施例では、圧延時に混入した圧延油が気化する上記温度区間において圧延
油が残存し、表面の汚れなどを引き起こすことを防止するとともに、十分な生産性を確保
するために、昇温時の400~500℃の区間の平均昇温速度を1~15℃/hにして加
熱することができる。本発明の一実施例では、上記昇温時の400~500℃の区間の平
均昇温速度の下限を4℃/hrとすることができ、他の一実施例では、昇温時の400~
500℃の区間の平均昇温速度の下限を5℃/hrとすることができる。
【0057】
<昇温時の加熱温度-50℃~加熱温度区間の平均昇温速度を1~15℃/hにして加
熱する>
合金化時のスティッキング(コイル間の表面が合金化してくっつく表面欠陥)を防止し
、空隙が十分に形成されることができるようにするとともに、十分な生産性を確保するた
めに、昇温時の加熱温度-50℃~加熱温度区間の平均昇温速度1~15℃/hにして加
熱することができる。本発明の一実施例において、上記区間の平均昇温速度の下限を4℃
/hで決定することができ、他の一実施例では、上記区間の平均昇温速度の下限を5℃/
hで決定することができる。
【0058】
<箱焼鈍炉内の雰囲気温度と鋼板温度の差を5~80℃とする>
一般の箱焼鈍炉の加熱は、鋼板(コイル)を直接加熱する方式よりは、焼鈍炉内の雰囲
気温度の上昇を介して鋼板(コイル)を加熱する方式を取る。この場合、雰囲気温度と鋼
板温度の差は避けられないが、鋼板内の位置別材質とめっき品質の偏差を最小限に抑える
ために、熱処理目標温度に達する時点を基準に雰囲気温度とコイル温度の差を80℃以下
とすることができる。温度差はできる限り小さくすることが理想的であるが、昇温速度を
遅くして、全体の平均昇温速度の条件を満たすことは難しくなりうるため、これを考慮す
ると、5℃以上とすることができる。ここで、鋼板の温度とは、装入された鋼板(コイル
)の底部(コイルのうち最も低い部分を意味する)の温度を測定したことを意味し、雰囲
気温度とは、加熱炉の内部空間の中心で測定した温度を意味する。
【0059】
[冷却工程]
<焼鈍後に、500℃まで50℃/h以下の速度で冷却する>
目標温度で一定時間を維持した後、アルミニウム合金めっき鋼板(コイル)を冷却する
。冷却方法としては、炉冷、空冷、水冷など様々な方法を適用することができ、冷却区間
全体の平均冷却速度は特に制限されず、生産性向上のために迅速に冷却してもよい。但し
、スティッキング欠陥を防止し、材質均一性を確保するとともに、空隙を十分に形成させ
るためには、加熱後に、500℃までの温度区間の冷却速度を50℃/h以下とすること
ができる。下限は特に限定されないが、生産性を考慮して1℃/h以上とすることができ
る。
【実施例
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明
を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのも
のではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載
された事項とそれから合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0061】
(実施例)
<鋼板の製造>
発明例1
下記表1の組成を有する熱間プレス成形用冷間圧延鋼板を用意した。鋼板の表面にAl
-9%Si-2.5%Feの組成を有する「type I」のめっき浴で鋼板を表面めっ
きした。めっき時におけるめっき量は片面当たりに70g/mに調節し、めっき後の巻
取り張力を2.2kg/mmに調節してコイルを巻取った。
【0062】
【表1】
【0063】
めっきされた鋼板を箱焼鈍炉において次の条件で650℃まで加熱した。
650℃までの全体の平均昇温速度:20℃/h
400~500℃の温度区間の平均昇温速度:10℃/h
600~650℃の温度区間の平均昇温速度:10℃/h
加熱温度における雰囲気とコイルの間の温度差:30℃
【0064】
加熱後に、同一の温度で10時間維持してから鋼板を500℃まで40℃/hの平均冷
却速度で冷却した後、100℃まで55℃/hの平均冷却速度で冷却して熱間プレス成形
用鋼板を得た。
【0065】
鋼板のめっき層をGDS分析器で分析した結果、図2のような形の成分プロファイルを
得ることができ、これに基づいて計算された平均Feの含有量は51.5重量%であった
。鋼板の断面状は、図3に示すように、素地鋼板の外面にめっき層が形成されており、形
成されためっき層の表面から厚さ方向における10μmの地点までの表層部に該当する部
分に形成された空隙の面積率が22.8%であることが確認できた。
【0066】
発明例2
上記表1の組成を有する鋼板の表面にAl-9%Si-2.5%Feの組成を有する「
type I」のめっき浴に鋼板を表面めっきした。めっき時におけるめっき量は、片面
当たりに80g/mに調節し、めっき後の巻取り張力を2kg/mmに調節してコイ
ルを巻取った。
【0067】
その後、めっきされた鋼板を箱焼鈍炉において次の条件で700℃まで加熱した。
700℃までの全体の平均昇温速度:20℃/h
400~500℃の温度区間の平均昇温速度:12℃/h
650~700℃の温度区間の平均昇温速度:8℃/h
加熱温度における雰囲気とコイルの間の温度差:40℃
【0068】
加熱後に、同一の温度で1時間維持してから鋼板を500℃まで30℃/hの平均冷却
速度で冷却した後、100℃まで57℃/hの平均冷却速度で冷却して熱間プレス成形用
鋼板を得た。
【0069】
鋼板のめっき層をGDS分析器で分析した結果、図4のような形の成分プロファイルを
得ることができ、これに基づいて計算された平均Feの含有量は53.7重量%であった
。鋼板の断面状は、図5に示すように、素地鋼板の外面にめっき層が形成されており、形
成されためっき層の表面から厚さ方向における10μmの地点までの表層部に該当する部
分に形成された空隙の面積率が28.5%であることが確認できた。
【0070】
比較例1
上記発明例1と同一であるが、めっきだけを行い、加熱及び冷却は行っていないアルミ
ニウムめっき鋼板を比較例1とした。
【0071】
鋼板のめっき層をGDS分析器で分析した結果、図6のような形の成分プロファイルを
得ることができ、これに基づいて計算された平均Feの含有量は23.6重量%であった
。鋼板の断面状は、図7に示すように、素地鋼板の外面にめっき層が形成されており、形
成されためっき層の表面から厚さ方向における10μmの地点までの表層部に該当する部
分に空隙はほとんど形成されていないことが確認できた。すなわち、形成された空隙の面
積率は0%であった。
【0072】
比較例2
上記発明例2と同一であるが、めっきだけを行い、加熱及び冷却は行っていないアルミ
ニウムめっき鋼板を比較例2とした。
【0073】
鋼板のめっき層をGDS分析器で分析した結果、図8のような形の成分プロファイルを
得ることができ、これに基づいて計算された平均Feの含有量は21重量%であった。鋼
板の断面状は、図9に示すように、素地鋼板の外面にめっき層が形成されており、形成さ
れためっき層の表面から厚さ方向における10μmの地点までの表層部に該当する部分に
空隙はほとんど形成されていないことが確認できた。すなわち、形成された空隙の面積率
は0%であった。
【0074】
比較例3
上記表1の組成を有する鋼板の表面にAl-9%Si-2.5%Feの組成を有する「
type I」のめっき浴に鋼板を表面めっきした。めっき時におけるめっき量は片面当
たりに90g/mに調節し、めっき後の巻取り張力を2kg/mmに調節してコイル
を巻取った。
【0075】
その後、めっき鋼板を箱焼鈍炉において次の条件で650℃まで加熱した。
650℃までの全体の平均昇温速度:50℃/h
400~500℃の温度区間の平均昇温速度:10℃/h
600~650℃の温度区間の平均昇温速度:70℃/h
加熱温度における雰囲気とコイルの間の温度差:30℃
【0076】
加熱後に、同一の温度で10時間維持してから鋼板を500℃まで45℃/hの平均冷
却速度で冷却した後、100℃まで60℃/hの平均冷却速度で冷却して熱間プレス成形
用鋼板を得た。
【0077】
鋼板のめっき層をGDS分析器で分析した結果、図10のような形の成分プロファイル
を得ることができ、これに基づいて計算された平均Feの含有量は48.4重量%であっ
た。鋼板の断面状は、図11に示すように、素地鋼板の外面にめっき層が形成されており
、形成されためっき層の表面から厚さ方向における10μmの地点までの表層部に該当す
る部分に形成された空隙の面積率が3.5%であることが確認できた。
【0078】
<熱間プレス成形>
上記発明例1、2、及び比較例1~3の鋼板を950℃に加熱し、上記温度で5分間維
持した後、プレスによって加圧しながら急冷する熱間プレス成形を行って熱間プレス成形
部材を得た。
【0079】
得られた部材の断面を観察して表面粗さ(Ra)を観察し、その結果を下記表2に示し
た。
【0080】
【表2】
【0081】
上記表2から確認できるように、発明例1及び発明例2はそれぞれ、表面粗さ(Ra)
が2.01μm及び2.23μmであるのに対し、比較例1、比較例2、及び比較例3は
、表面粗さ(Ra)が1.12μm、1.27μm、及び1.48μmに過ぎなかった。
【0082】
上記各発明例及び比較例から得られた部材にリン酸塩処理及び電着塗装を行い、鋼板の
表面に十字溝を形成した後、複合腐食試験(Cyclic corrosion tes
t)を行い、十字溝にブリスターが発生する程度を観察した。複合腐食試験は、「湿潤雰
囲気露出2時間-塩水噴霧露出2時間-乾燥1時間-湿潤雰囲気露出6時間-乾燥2時間
-湿潤雰囲気露出6時間-乾燥2時間-冷却3時間」の24時間を1サイクルとし、合計
50サイクルを維持した。発明例1及び2は両方ともブリスターの最大幅が1mm以下で
あるのに対し、比較例1、2、及び3は、ブリスターの最大幅がそれぞれ3.2mm、2
.9mm、及び2.4mmと発明例に比べて塗装後耐食性が劣化することが確認できた。
【0083】
したがって、本発明の有利な効果が確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11