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特許7464652結腸オルガノイドならびにその作製方法および使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】結腸オルガノイドならびにその作製方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240402BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12N15/09 Z
【請求項の数】 33
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022074275
(22)【出願日】2022-04-28
(62)【分割の表示】P 2019527862の分割
【原出願日】2017-12-05
(65)【公開番号】P2022115925
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】62/478,962
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/429,948
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500469235
【氏名又は名称】チルドレンズ ホスピタル メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ウェルズ、ジェームズ、エム.
(72)【発明者】
【氏名】ムネラ、ジョージ、オーランド
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特許第7068305(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-28
C12N 15/00-90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト結腸オルガノイド(HCO)の形成を誘導する方法であって、
a.胚体内胚葉(DE)をFGFシグナル伝達経路活性化因子およびWNTシグナル伝達経路活性化因子と、前記DEが中後腸スフェロイドを形成するのに十分な期間、接触させるステップと、
b.ステップ(a)の前記中後腸スフェロイドをBMP活性化因子およびEGFシグナル伝達経路活性化因子と、前記ヒト結腸オルガノイドを形成するために約24時間から約10日、接触させるステップとを含み、前記ヒト結腸オルガノイドがSATB2を発現するものであり
前記FGFシグナル伝達経路活性化因子がFGF4である、前記WNTシグナル伝達経路活性化因子がCHIR99021である、前記BMP活性化因子がBMP2である、または、前記EGFシグナル伝達経路活性化因子がEGFである、
方法。
【請求項2】
前記DEが、胚性幹細胞、または、人工多能性幹細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DEが、人工多能性幹細胞に由来する、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記FGFシグナル伝達経路活性化因子が、小分子FGFシグナル伝達経路活性化因子、タンパク質ベースのFGFシグナル伝達経路活性化因子、FGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF15、FGF16、FGF17、FGF18、FGF19、FGF20、FGF21、FGF22、FGF23、またはこれらの組み合わせから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記FGFシグナル伝達経路活性化因子がFGF4である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記FGF4が約200~1000ng/mLの濃度で提供される、請求項1または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記FGF4が500ng/mL、または約500ng/mLの濃度で提供される、請求項1または請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記WNTシグナル伝達経路活性化因子が、タンパク質Wntシグナル伝達経路活性化因子、小分子Wntシグナル伝達経路活性化因子、塩化リチウム、2-アミノ-4,6-二置換ピリミジン(ヘテロ)アリールピリミジン、IQ1、QS11、NSC668036、DCAベータ-カテニン、2-アミノ-4-[3,4-(メチレンジオキシ)-ベンジル-アミノ]-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジン、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16、GSK3阻害剤、CHIRON(CHIR99021)、またはこれらの組み合わせから選択される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記WNTシグナル伝達経路活性化因子がCHIR99021である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記CHIR99021が約1~50μMの濃度で提供される、請求項1または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記CHIR99021が3μMまたは約3μMの濃度で提供される、請求項1または請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記BMP活性化因子が、BMP2、BMP4、BMP7、BMP9、BMP経路を活性化する小分子、BMP経路を活性化するタンパク質、ベントロモルフィン(ventromorphin)、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記BMP活性化因子がBMP2である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記BMP2が約50~500ng/mLの濃度で提供される、請求項1または請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記BMP2が100ng/mL、または約100ng/mLの濃度で提供される、請求項1または請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記EGFシグナル伝達経路活性化因子が、EGF、TGFアルファ、HB-EGF、アンフィレグリン、エピゲン、ベータセルリンおよび、db-cAMPのような小分子、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記EGFシグナル伝達経路活性化因子がEGFである、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記EGFが約50~500ng/mLの濃度で提供される、請求項1または請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記EGFが100ng/mL、または約100ng/mLの濃度で提供される、請求項1または請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記FGFシグナル伝達経路活性化因子がFGF4であり、前記WNTシグナル伝達経路活性化因子がCHIR99021であり、前記BMP活性化因子がBMP2であり、および、前記EGFシグナル伝達経路活性化因子がEGFである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記FGF4が約200~1000ng/mLの濃度で提供され、前記CHIR99021が約1~50μMの濃度で提供され、前記BMP2が約50~500ng/mLの濃度で提供され、および、前記EGFが約50~500ng/mLの濃度で提供される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記FGF4が約500g/mLの濃度で提供され、前記CHIR99021が約3μMの濃度で提供され、前記BMP2が約100ng/mLの濃度で提供され、および、前記EGFが約100ng/mLの濃度で提供される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記DEから中後腸スフェロイドを形成するのに十分な前記期間が、ステップ(a)の前記中後腸スフェロイドのCDX2の発現によって決定される、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(a)の前記DEが中後腸スフェロイドを形成するのに十分な前記期間が、約3日~約5日である、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(a)の前記DEが中後腸スフェロイドを形成するのに十分な前記期間が、4日または約4日である、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
ステップ(b)の前記中後腸スフェロイドは、前記BMP活性化因子及び前記EGFシグナル経路活性化因子と約3日間~約8日間接触されるものである、請求項1~25のいずれか項に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(b)の前記中後腸スフェロイドは、前記BMP活性化因子及び前記EGFシグナル経路活性化因子と約1日間~約3日間接触されるものである、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
ステップ(b)の前記中後腸スフェロイドは、前記BMP活性化因子及び前記EGFシグナル経路活性化因子と約3日間接触されるものである、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
ステップ(b)が、
(b)’ステップ(a)の前記中後腸スフェロイドを、BMP活性化因子およびEGFシグナル伝達経路活性化因子と約1日間~約3日間接触させるステップと、
(b)’’ステップ(b)’の前記中後腸スフェロイドを、BMP活性化因子なしで、EGFシグナル伝達経路活性化因子と、SATB2を発現する前記ヒト結腸オルガノイドを形成するのに十分な期間接触させるステップと、
を含む、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記HCOが、
a)結腸腸内分泌細胞(EEC)の存在によって特徴付けられ、
b)結腸特異的杯細胞を含み、
c)実質的に絨毛およびパネート細胞を含まず、および、
d)結腸特異的ホルモンINSL5を分泌する、
請求項1~29のいずれか項に記載の方法。
【請求項31】
請求項1~30のいずれか1項に記載の方法によって得られるHCO。
【請求項32】
前記HCOを哺乳類に生着させるステップを含む方法において使用するための請求項31に記載のHCO。
【請求項33】
大腸炎、結腸癌、ポリポーシス症候群、および/または過敏性腸症候群から選択される疾患に対して有望な治療薬の有効性および/または毒性を決定する方法であって、前記有望な治療薬を請求項31に記載のHCOと、前記有望な治療薬の有効性および/または毒性を決定するのに十分な期間、接触させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体がすべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる2016年12月5日に出願された米国仮特許出願番号第62/429,948号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
多能性幹細胞(PSC)からの胃および小腸のオルガノイドの作製がヒト消化管(GI)の発生および疾患の研究に革命をもたらしたが、大腸オルガノイドを作製するための尽力は、一部後腸管発生の強固な理解の欠如により、後れを取っている。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 米国特許出願公開第2013/0137130号明細書
(特許文献2) 国際公開第2015/183920号
(特許文献3) 国際公開第20151173425号
(非特許文献)
(非特許文献1) LI et al."SATB2 is a sensitive marker for lower gastrointestinal well-differentiated neuroendocrine tumors," International Journal of Clinical & Experimental Pathology,01 June 2015 (01.06.2015),Vol.8,No.6,Pgs.7072-7082.entire document
(非特許文献2) EBERHARD et al."A cohort study of the prognostic and treatment predictive value of SATB2 expression in colorectal cancer," British Journal of Cancer,28 February 2012 (26.02.2012),Vol.106,No.5,Pgs.931-938.entire document
(非特許文献3) ZACHOS et al."Human Enteroids/Colonnids and Intestinal Organoids Functionally Recapitulate Normal Intestinal Physiology and Pathophysiology," Journal of Biological Chemistry,16 December 2015 (16.12.2015),Vol.291,No.8,Pgs.3759-3766.entire document
【発明の概要】
【0003】
前駆細胞が胚体内胚葉に試験管内分化し、それがシグナル伝達経路の調節を介してヒト結腸オルガノイド(HCO)へとさらに分化し得る方法が、本明細書に開示される。さらに、HCO、およびHCOの使用方法が開示され、例えばHCOについて、大腸炎、結腸癌、ポリポーシス症候群および/または過敏性腸症候群から選択される疾患に対して有望な治療薬の有効性および/または毒性を決定するために使用され得る使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0004】
本出願書類には、カラーで作成された少なくとも1つの図面が含まれている。カラー図面(複数可)を含むこの特許または特許出願公開のコピーは、請求および手数料の支払いにより、官庁により提供されるであろう。
【0005】
当業者は、以下に記載される図面が例示目的のみのためであることを理解するだろう。図面は、決して本教示の範囲を限定することを意図しない。
【0006】
図1】Bmpシグナル伝達は、マウスおよびカエルの胚におけるSatb2の発現を調節する。(A)発生中の後腸の周りの核染色を示す胎生8.5日のマウス胚の全載pSmad158(赤色)およびFoxa2(緑色)染色(n=6)。(B)後腸中胚葉および内胚葉におけるpSmad1/5/8染色を示す(A)の囲み領域からの光学組織薄片の挿入図(D:背側、V:腹側)。(C)頭褶期に単離され、DMH-1を用いたBmp阻害の有無の下で2日間培養されたマウス胚の概略図。(D、E)培養48時間後のDMSO処置胚(0)およびDMH-1処置胚(E)の全載pSmad1/5/8(赤色)およびFoxa2(緑色)染色。(F)DMSOまたはDMH-1の中で培養した胚(1条件あたりn=3の胚)におけるCdx2に対するpSmad1/5/8およびpSmad2/3染色の定量化(条件当たりn=3胚)。(G~J)DMSO(G、H)またはDMH-1(I、J)の中での2日間培養の後のマウス胚(各条件につきn=6)のCdx2(緑色)、Satb2(赤色)およびFoxa2(白色)の全載免疫染色。H~Jにおける矢印は、卵黄茎のおおよその位置を指し示す(BA1、第1腕弓)。(K)DMSOまたはDMH-1で処置したマウス胚におけるSatb2発現の定量化。(L)Xenopus tropicalis胚におけるBmp阻害の概略図。DMSO(M)またはDMH-1(R)で処置したXenopus tropicalis胚におけるSatb2の原位置ハイブリッド形成。(M)および(R)における白色の点線は、切片の平面がその後の分析を使用したことを描写する。Mxおよびmd=第1腕弓の上顎突起および下顎突起。Cba=尾側腕弓。DMSO(N~Q)またはDMH-1(S~V)で処置したXenopus tropicalis胚からのSatb2(赤色)、pSmad1/5/8(緑色)、DAPI(青色)の免疫蛍光、および色相併合画像。スケールバーはG~Hにおいては=100μM、他のパネルにおいてはすべて50μ。両側t検定について**p<0.01および***p0.001。
図2】BMP2はヒト腸管スフェロイドにおけるSATB2および後側HOXコードを誘導する。(A)腸管スフェロイドパターン形成プロトコルの概略図。(B~D)ノギン(B)、無処置(C)およびBMP2(D)で12時間処置したスフェロイドのpSMAD1/5/8(赤色)染色によって測定したBMPシグナル伝達レベル。(E)陰窩の頂部でのBMPシグナル伝達の上昇を示す成体マウス結腸のpSmad1/5/8染色。(F~H)ノギン(F)、無処置(G)およびBMP2(H)で72時間処置したスフェロイドにおけるSATB2発現。(I)パターン形成後のSATB2+CDH1+上皮の百分率の定量化。(J)新生スフェロイドおよび3日間のパターン形成後のスフェロイドの主成分分析。(K)BMP処置スフェロイドとNOG処置スフェロイドとの間で差次的に発現した遺伝子の遺伝子オントロジー分析。(L)パターン形成前後のスフェロイドのTPM(100万当たりの転写産物)値のグラフ。分析した試料は、パターン形成前のスフェロイド(n=2)、ならびにパターン形成3日後のノギン、対照およびBMP2で処置したスフェロイドとした(各群につきn=4)。Iにおける定量化のために、少なくとも3回の実験由来の20個のオルガノイドを試験した。エラーバーは標準偏差を表す。スケールバー=50ミクロン。****両側t検定によって決定されたps0.0001。
図3】部域パターン化形成は、長期間の試験管内培養後にヒト腸管オルガノイドにおいて維持される。(A~D)ノギン、対照、またはBMP2によるスフェロイドの最初の3日間の処置から結果的に生じた28日齢オルガノイドの近位マーカーONECUTI(緑色)を用いた全載免疫蛍光およびQPCR分析。CDX2(赤色)およびDAPI(青色)を用いた染色も使用して、上皮および間充織を検出した。(E~H)IFによっておよびQPCRによって検出された後側マーカーSATB2(赤色)の発現。(I~L)IFによるおよびQPCRによる汎杯細胞マーカーMUC2(赤色)の分析。(M~P)IFによる結腸特異的杯細胞マーカーMUC5B(赤色)の分析。MUC5B+細胞の数を(P)において定量した。(Q~S)オルガノイド全体と比較した、単離された間充織培養物におけるパターン形成マーカーの分析。ノギン、対照、またはBMP2で処置したオルガノイドに由来するオルガノイド全体におけるおよび間充織培養物におけるCDH1(Q)、近位HOX遺伝子HOXD3(R)、および遠位HOX遺伝子HOXA13(S)のQPCR分析CDH1は上皮細胞を含有するオルガノイド全体においてのみ観察された。エラーバーは平均の標準誤差を表す。IFについては、各条件について少なくとも3回の異なる実験から最低10個のオルガノイドを検討した。QPCRについては、2つの別個の実験からの最低5つの生物学的複製物を検討した。スケールバー=100ミクロン。両側t検定により決定された**p 5 0.01および****p 5 0.0001。
図4】HIOではなくHCOは、プロエンドクリン転写因子ニューロゲニン3の発現に応答して、結腸特異的腸内分泌細胞を生じた。(A~B)IPSC72.3誘導性NEUROG3株を作製するために使用されたドキシサイクリン誘導性NEUROG3レンチウイルスコンストラクトの概略図、およびドキシサイクリン誘導プロトコル。ノギン(C、F)、未処置(D、G)またはBMP(E、H)を用いてパターン形成された35日齢のオルガノイドのクロマグラニンA(緑色)、CDX2(赤色)およびINSL5(白色)による全載染色。(C~E)未処置オルガノイド(-Dox)および(F~H)発現したNEUROG3を有するオルガノイド(+Dox)。EおよびHにおける挿入図は、INSL5染色の拡大図を示す。(I、J)CHGAによって測定されるような(I)、およびINSL5(J)発現についての、HIOおよびHCOにおける腸内分泌細胞のNEUROG3誘導のQPCR分析。データは、ノギン(n=3)、対照(n=3)またはBMP(n=6)処置オルガノイドを用いた2つの異なる実験の代表である。エラーバーは、平均の標準誤差を表す。スケールバー=50ミクロン。*両側t検定により決定されたp<0.05。
図5】HIOおよびHCOは、生体内移植後の部域同一性を維持した。(A~E)ヒト空腸および結腸からの生検の、ならびにマウス腎被膜の真下に移植され生体内で8~10週間成長したノギン由来HIO、対照HIOおよびBMP2由来HCOのH&E染色。同じ条件の試料を、近位腸管マーカーGATA4(F~J)、遠位腸管マーカーSATB2(K-0)、パネート細胞マーカーDEFAS(P~T)、および結腸特異的杯細胞マーカーMUC5B(U~Y)で染色した。GATA4およびSATB2の二重染色は異なるチャネルにおいてだがパネルについては同じスライド上で行ったが(F~0)、それらは個々の擬似色(赤色)画像として示されていることに留意されたい。ヒト生検についてはn=2である。移植されたノギン処置オルガノイドについてはn=12、対照オルガノイドについてはn=7、およびBMP2処置オルガノイドについてはn=16である。スケールバー=50pm。
図6】生体内成長したオルガノイドは、部域特異的ホルモンを発現する。マウス腎被膜の真下で8~10週間成長したHIOおよびHCOにおける部域的に発現したホルモン(A~D)グレリン(GHRL)、モチリン(MLN)、(E~H)GIP、(I~L)GLP-1、(M~P)PYYおよび(Q~T)INSL5の発現分析。近位濃縮ホルモンGHRL、GIPおよびMLNは、ノギンおよび対照HIOにおいて豊富であった(A~H)。遠位に濃縮されたホルモンGLP-1およびPYYは、BMP2由来のHCOにおいて豊富であった(1~0)。結腸特異的ホルモンINSL5はHCO(Q~T)にのみ存在していた。データは、1条件あたり最低5つの移植オルガノイドを代表している。(A)および(B)の挿入図は、GHRLおよびMLN二重陽性細胞を示す。(D、H、L、P、T)GHRL、MLN、GIP、GLP1、PYY、およびINSL5についてのFPKM値は、RNA配列データからである。FPKM値は、1条件あたり3つの生物学的複製物を表す。スケールバー=30ミクロン。
図7】HIOおよびHCOの全体的な転写分析ならびにヒト小腸および結腸との比較。(A)移植したHIOおよびHCOと比較したヒトの成体および胎児の小腸および結腸の主成分分析。(B)ヒト成体小腸をHIOと、およびヒト成体結腸をHCOと比較する超幾何中項検査。(C)HIOおよびHCOと比較して、ヒト小腸および結腸において差次的に発現した転写物を比較する4方向散布図。
図8】Gata4およびSatb2は、小腸および大腸の発生中の離散した部域境界を標識する。(A)卵黄茎における発現境界を示す胎生9.5日マウス胚におけるGata4(緑色)およびSatb2(赤色)の全載染色(n=9)。(B)低Gata4発現および低Satb2発現の移行帯を示す、胎生11.5日小腸のGata4およびSatb2の発現ドメインを描写するモデル。(C ¬E)卵黄茎におけるGata4の後側境界とSatb2の前側境界とを示す胎生11.5日マウス胚におけるGata4およびSatb2の全載染色(n=3)。(F~H)Satb2発現の前側境界が維持されることを示す胎生12.5日マウス胚におけるSatb2およびFoxa2の全載染色(n=3)。(I)胎生16.5日マウス胚から単離した近位腸におけるGata4およびSatb2の全載染色(n=6)。(J)胎生16.5日マウス胚から単離した回腸および大腸におけるGata4およびSatb2の全載染色(n=6)。(K)ヒト空腸(n=2)および(L)結腸(n=2)の切片におけるGATA4およびSATB2の染色。スケールバー=50μM(B~D)および100 1Am(E~M)。(C)および(F)における点線は、臍のおおよその位置を標識する。略語:ys:卵黄茎、cb:虫垂、tz:移行帯、mx:上顎、md:第1腕弓の下顎部分、ti:回腸末端部、icj:回盲移行部。
図9】SATB2は、GATA4陰性ヒト小腸および大腸において発現する。SATB2発現が回腸および大腸全体に存在することを示す、ヒト成体十二指腸、小腸、虫垂、結腸および直腸におけるSATB2染色ヒト成体および胎児腸管試料からの公表されたRNA配列データからのGATA4およびSATB2の解析。プロットした試料は、ヒト成体十二指腸(HuSI_Duo_A)、ヒト成体回腸~十二指腸(HuSI_Dist_A)、ヒト成体結腸(HuColon_A)およびヒト胎児小腸(HuSI_F)を含む。(C)気液界面(ALI)中で成長した十二指腸(Duo)、空腸(Jej)、回腸(Ile)、上行結腸(AC)、横行結腸(TC)および下行結腸由来の胎児腸管幹細胞に対してWangら2015によって作成されたマイクロアレイデータからのGATA4およびSATB2の発現の解析分析)。r2値はExcelのCORREL関数を用いて決定した。
図10】BMPは、後側HOX遺伝子のSHH活性化を媒介する。(A)後側HOX遺伝子のSHH媒介活性化の従来モデル。(B)後側HOX遺伝子のSHH媒介活性化および内胚葉HOX遺伝子のBMP媒介活性化の新たなモデル。(C)ノギン、対照、平滑化アゴニスト(SAG)、またはBMP2を用いた処置後のHOX因子のQPCR分析。(D)SAGにより誘導されたHOX13遺伝子のBMP4依存性活性化のモデル。(E)3日後の対照、5μMのSAG、5μMのSAG+NOGおよびBMP2で処置したオルガノイド中のHOXA13のQPCR分析。(F)外因性組換えヒトBMP2によって誘導されたHOX13遺伝子のSHH非依存的活性化のモデル。(G)3日後の対照、BMP、およびBMP+シクロパミンで処置したオルガノイド中のHOXA13のQPCR分析(1条件あたりn=6)。
図11】拡張生体内培養は、杯細胞の成熟を可能にする。(A)パターン形成され、次いで再パターン形成されたオルガノイドにおけるCDX2+SATB2+細胞の百分率の定量。28日齢オルガノイドにおけるHOXB13(B)およびHOXD13(C)のQPCR分析。44日齢のノギン、対照、およびBMPで処置オルガノイドからのCDH1(緑色)、CDX2(赤色)、およびMUC2(白色)による全載染色(D~F)および(G~1)横断切片染色。(J~L)44日齢のBMP2処置オルガノイドからの切片の染色。白色の矢印はムチン2を分泌する過程にあった杯細胞を指し示す。QPCRについては、2つの別個の実験からの最低5個の生物学的複製物を検討した。IFについては、1条件につき最低10個のオルガノイドを検討した。スケールバー=50pm。
図12】オルガノイドのBMPパターン形成は、試験管内および生体内で安定である。(A)ノギン、対照、およびBMPでパターン形成したオルガノイドのオルガノイド生着効率。移植されたパターン形成したオルガノイドにおけるGATA4+CDX2+細胞(B)およびSATB2+CDX2+細胞(C)の百分率の定量。移植されたオルガノイドにおけるGATA4(D)SATB2(E)DEFAS(F)およびMUCSB(G)のRNA配列データからのFPKM値。(H~I)ヒト空腸および結腸の生検(1部域当たりn=2)および(J~L)移植されたオルガノイド(1条件当たりn=5)のMUC2(赤色)染色。スケールバー=50ミクロン。
図13】試験管内および生体内で成長したオルガノイドは、腸管前駆細胞を含有している。ノギン、対照、またはBMPで処置したH9-LGR5-GFP由来オルガノイドからのCDH1およびGFPの代表的な全載画像(A、F、K)および組織薄片画像(B、G、L)。(C~E)ノギン、(H~J)対照、または(M~O)BMP2で処置したオルガノイドからの切片に関するCDX2染色(赤色)およびSOX9染色(緑色)。CDX2およびLGR5-GFP(P、S、V)、CDX2およびSOX9(Q、T、W)、ならびにCDH1およびKI67(R、U、X)を用いて染色した、ノギン、対照、またはBMPで処置したH9-LGR5-GFPオルガノイド由来の生体内オルガノイドの代表的な画像。(Y~A‘)それぞれノギン、対照またはBMPの移植片から誘導されたエンテロイドを示す立体顕微鏡写真。(B’~D’)対照エンテロイド(2つの移植片からの100個超のプールされたエンテロイド)およびBMP2で処置したコロノイド(1つの移植片からの50個超のコロノイド)における近位および遠位の遺伝子のQPCR分析。スケールバー=50μm。
図14】リボソームおよび免疫細胞のシグネチャは、移植されたオルガノイドと初代ヒト組織との間に差次的に発現する。(A)パターン形成した移植されたオルガノイドならびにヒト成体および胎児の小腸および結腸の主成分分析。(B)移植片対ヒト初代組織において上方調節された遺伝子の遺伝子オントロジー分析。(C)ヒト初代組織対移植片において上方調節された遺伝子の遺伝子オントロジー分析。
図15】(A)マトリゲル中での15日間の成長後のHCOの全載免疫蛍光染色。HCO培養物を内皮マーカーCD31(緑色)および後腸上皮マーカーCDX2(赤色)について染色した。造血細胞マーカーPU.1についても培養物を染色した(赤色の右側のパネル)。(B)造血前駆細胞アッセイの概略図。細胞をHCOから収集し、遠心分離し、ギムザ・ライト染色を用いて染色するか、またはMethocult培地中に播種して造血細胞の分化についてアッセイした。(C)マクロファージ、好中球、好塩基球および好酸球への分化と一致する形態学的特徴を有する、ギムザ・ライト染色した細胞の代表的な画像。(D)Methocul中で14日後に形成されたコロニーの代表的な画像。赤血球、マクロファージおよび顆粒球のコロニーは、HCOで誘導された細胞には存在したが、ノギン処置したHIOで誘導された細胞には存在しなかった。
図16】(A)ヒト結腸生検またはマトリゲル中で28日間成長させたHCOの免疫蛍光染色。マクロファージのマーカーであるCD68について染色を行った。(B)HIOおよびHCOにおけるCD14およびCD16のCYTOF分析のプロット。わずかな百分率のCD14+/CD16+細胞がHCO中に存在する(青色の正方形)が、HIOには存在しない。さらに、CD16単一陽性細胞がHCO中に存在しており、このことは単球が培養物内で存在することを示唆した。(C)14日齢および28日齢のHIOおよびHCOから収集した上清のLuminexアレイ分析。IL6およびIL8は、28日齢のHCO(BMP)においては検出されたが、HIOにおいては検出されなかった。(D)14日齢および28日齢のHIOおよびHCOから収集した上清のLuminexアレイ分析。マクロファージ特異的サイトカインMIP1AおよびMIP1Bは14日齢および28日齢のHCO(BMP)においては検出されたが、14日齢または28日齢のHIOにおいては検出されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
特に明記しない限り、用語は当業者による従来の使用法に従って理解されるべきである。
【0008】
「約」もしくは「およそ」という用語は、当業者による決定に従って、例えば、測定システムの制限の、その値がどのように測定され、または、決定されるかに依存する、特定の値に対して許容できる誤差範囲内にあることを意味する。例えば、「約」は、当該技術分野における実務に従って、1以上の標準偏差内であることを意味し得る。あるいは、「約」は、与えられた値の20%まで、または10%まで、または5%まで、または1%までの範囲であることを意味し得る。あるいは、特に生物系または生物学的プロセスに関して、この用語は、ある値の10倍以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内であることを意味し得る。特定の値が本出願および特許請求の範囲に記載されている場合、特に明記しない限り、特定の値に対する許容可能な誤差範囲内を意味する「約」という用語を想定すべきである。
【0009】
本明細書中で使用されるとき、用語「全能性(totipotent)幹細胞」(全能性(omnipotent)幹細胞としても知られる)は、胚性細胞型および胚体外細胞型に分化することのできる幹細胞である。このような細胞は完全な生存可能な生物を構築することができる。これらの細胞は卵細胞と精子細胞の融合から産生される。受精卵の最初の数回の分裂によって産生された細胞も全能性である。
【0010】
本明細書で使用されるとき、PS細胞としても一般的に知られている用語「多能性幹細胞(PSC)」は、ほぼすべての細胞、すなわち、内胚葉(胃の内部の裏うち、消化管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、腎尿路生殖器)、および外胚葉(表皮組織および神経系)のうちのいずれかから誘導される細胞、へ分化することができるあらゆる細胞を包含する。PSCは、胚性幹細胞(胚性生殖細胞を含む)から誘導されるか、またはある特定の遺伝子の発現を強制することによって成体体細胞のような非多能性細胞の誘導を通じて得られる、全能性細胞の子孫であり得る。
【0011】
本明細書で使用されるとき、用語「人工多能性幹細胞(iPSC)」は、一般にiPS細胞とも略され、特定の遺伝子の「強制的な」発現を誘導することによって、成体体細胞などの通常は非多能性細胞から人工的に誘導される多能性幹細胞の一種を指す。
【0012】
本明細書中で使用されるとき、用語「胚性幹細胞(ESC)」はまた一般にES細胞とも略され、多能性であり、かつ初期胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する細胞を指す。本発明の目的のために、用語「ESC」は、胚性生殖細胞も場合により包含するように広く使用される。
【0013】
本明細書中で使用されるとき、用語「前駆細胞」は、1つ以上の前駆細胞がそれ自体を再生する能力または1つ以上の特殊化細胞型に分化する能力を獲得することになる、本明細書に記載の方法において使用され得る任意の細胞を包含する。いくつかの態様において、前駆細胞は多能性であるかまたは、多能性になる能力を有する。いくつかの態様において、前駆細胞は、多能性を獲得するために外来因子(例えば、成長因子)の処置に供される。いくつかの態様において、前駆細胞は、全能性(totipotent)(または全能性(omnipotent))幹細胞、多能性(pluripotent)幹細胞(誘導型または非誘導型)、多能性(multipotent)幹細胞、オリゴ能性幹細胞および単能性幹細胞であり得る。いくつかの態様において、前駆細胞は、胚、乳児、子供、または成体由来であり得る。いくつかの態様において、前駆細胞は、多能性が遺伝子操作またはタンパク質/ペプチド処置を介して付与されるような処置を受ける体細胞であり得る。
【0014】
発生生物学において、細胞分化は、それほど特殊化されていない細胞がより特殊化された細胞型になる過程である。本明細書中で使用されるとき、用語「指向性分化」は、それほど特殊化されていない細胞が特定の特殊化された標的細胞型になるプロセスを指す。特殊化された標的細胞型の特異性は、初期細胞の運命を定義または変更するために使用できる任意の適用可能な方法によって決定することができる。例示的な方法としては、遺伝子操作、化学的処置、タンパク質処置、および核酸処置が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
本明細書中で使用されるとき、用語「細胞構成素」は、個々の遺伝子、タンパク質、mRNA発現遺伝子、および/または何らかの他の種々の細胞成分もしくは、例えば、当業者によって生物学的実験において(例えば、マイクロアレイまたは免疫組織化学的特徴によって)典型的に測定されるタンパク質修飾度(例えば、リン酸化)のようなタンパク質活性である。生体系、一般的なヒトの疾患、ならびに遺伝子の発見および構造決定の基礎となる生化学的過程の複雑なネットワークに関する重要な発見は、現在、研究プロセスの一部としての細胞構成素の発生量のデータの適用に起因し得る。細胞構成素の発生量データは、バイオマーカーを同定し、疾患の亜型を識別し、および毒性の機序を同定するのに役立つことができる。
【0016】
本明細書に記載されるように、方法およびシステムは、培養中の胚性腸管発生を模倣するための成長因子操作の時系列を用いて確立される。特に、ヒト胚性幹細胞(hESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)の両方のPSCの腸管組織への試験管内分化を発生させるための方法およびシステムが確立されている。
【0017】
多能性幹細胞(PSC)からの胃および小腸のオルガノイドの作製は、研究であるヒトの消化管(GI)の発生および疾患に革命をもたらした。しかしながら、後腸管発達のしっかりした分子レベルでの理解に一部よるために、大腸オルガノイドを作製するための尽力は後れを取っていた。本明細書で、本発明者らは、臍帯の後側にある腸上皮が発生中および出生後を通じてSatb2を発現することを発見した。本発明者らはさらに、BMPシグナル伝達がカエルおよびマウスの胚においてSatb2+ドメインを確立すること、ならびにBMPシグナル伝達の短時間の活性化が後側のHOXコードを活性化し、ヒトPSC由来腸管培養物を結腸オルガノイド(HCO)へと向かわせるのに十分であることを発見した。試験管内で成長したHCOは、結腸の同一性と一致するマーカー特性および独特の細胞型を有した。マウスへの移植後、HCOは、ヒト結腸の分子レベルの、細胞レベルのおよび形態学的な特性を有する組織を形成する形態形成および成熟を経験した。開示された結腸オルガノイドは、大腸炎および結腸癌の将来の研究において使用され得る。
【0018】
一態様において、ヒト結腸オルガノイドの形成を誘導する方法が開示されている。この方法は、(a)胚体内胚葉(DE)をFGFシグナル伝達経路活性化因子およびWNTシグナル伝達経路活性化因子(例えば、CHIRON/GSK2阻害剤)と、該DEが中後腸スフェロイドを形成するのに十分な期間接触させるステップと、(b)ステップ(a)の中後腸スフェロイドをBMP活性化因子およびEGFシグナル伝達経路活性化因子と、該ヒト結腸オルガノイドを形成するのに十分な期間接触させるステップとを含み得、ここで該ヒト結腸オルガノイドはSATB2を発現する。
【0019】
一態様において、DEは、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、人工多能性幹細胞、中胚葉細胞、胚体内胚葉細胞、後部内胚葉細胞、後腸細胞、またはこれらの組み合わせから選択される前駆細胞に由来し得る。
【0020】
一態様において、FGFシグナル伝達経路活性化因子は、小分子またはタンパク質FGFシグナル伝達経路活性化因子、FGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF15、FGF16、FGF17、FGF18、FGF19、FGF20、FGF21、FGF22、FGF23、またはこれらの組み合わせから選択され得る。WNTシグナル伝達経路活性化因子は、小分子またはタンパク質Wntシグナル伝達経路活性化因子、好ましくは塩化リチウム、2-アミノ-4,6-二置換ピリミジン(ヘテロ)アリールピリミジン、IQ1、QS11、NSC668036、DCAベータ-カテニン、2-アミノ-4-[3,4-(メチレンジオキシ)-ベンジル-アミノ]-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジン、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16、GSK3阻害剤、好ましくはCHIRON、またはこれらの組み合わせから選択され得る。一態様において、BMP活性化因子は、BMP2、BMP4、BMP7、BMP9、BMP経路を活性化する小分子、BMP経路を活性化するタンパク質から選択され得、以下、すなわち、ノギン、ドルソモルフィン、LDN189、DMH-1、ベントロモフィン(ventromophin)、およびこれらの組み合わせを含み得る。
【0021】
一態様において、該DEが中後腸スフェロイドを形成するのに十分な期間は、ステップ(a)の該中後腸スフェロイドによるCDX2の発現によって決定され得る。このような測定は、ルーチン方法を用いる当業者の能力の範囲内である。
【0022】
一態様において、中後腸スフェロイドがヒト結腸オルガノイドを形成するのに十分な期間は、該ヒト結腸オルガノイドの細胞によるSATB2およびCDX2の発現によって決定され、SATB2およびCDX2が発現するとき、中後腸スフェロイドはヒト結腸オルガノイドをすでに形成している。このような測定は、先に列挙した遺伝子の発現が、ステップ(a)およびステップ(b)が十分な期間行われたことを示すという点で、時間的測定の代わりに用いられ得る。
【0023】
一態様において、本明細書に記載の方法によって得られるHCOが開示される。本発明のHCOは、様々な異なる方法で特徴付けられ得る。一態様において、HCOは、結腸腸内分泌細胞(EEC)の存在を特徴とし得る。一態様において、HCOは、陰窩の存在を特徴とし得、絨毛が実質的にない。一態様において、HCOは、結腸特異的杯細胞の存在を特徴とし得る。一態様において、HCOは、パネート細胞を実質的に含まないことを特徴とし得る。一態様において、HCOは、結腸特異的ホルモンINSL5を分泌する能力を特徴とし得る。腸管オルガノイドは、免疫機能、神経支配、血管、絨毛、およびパネート細胞のうちの1つ以上を含まなくてもよい。
【0024】
一態様において、結腸組織を形成する方法が開示され、ここに記載の本発明のHCOは、哺乳類、好ましくはげっ歯類、好ましくは免疫無防備状態のげっ歯類、好ましくは免疫無防備状態のマウスの腎被膜下に生着し得る。
【0025】
一態様において、本明細書に開示されるHCOは、大腸炎、結腸癌、ポリポーシス症候群、および/または過敏性腸症候群から選択される疾患に対して有望な治療薬の有効性および/または毒性を決定するために使用され得る。該方法は、有望な治療薬を本明細書に記載のHCOと、該有望な治療薬の有効性および/または毒性を決定するのに十分な期間、接触させるステップを含み得る。
【0026】
一態様において、いずれかの先行請求項のHCOに由来する腸管コロノイドが企図される。
【0027】
いくつかの態様において、多能性であるかまたは多能性になるように誘導されることができる幹細胞が使用され得る。いくつかの態様において、多能性幹細胞は胚性幹細胞に由来し、それが今度は哺乳類初期胚の全能性細胞に由来し、試験管内での無限の未分化増殖が可能である。胚性幹細胞は、初期段階の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する多能性幹細胞である。胚盤胞から胚性幹細胞を誘導するための方法は当技術分野において周知である。例えば、3つの細胞株(H1、H13、およびH14)は正常なXY核型を有し、2つの細胞株(H7およびH9)は正常なXX核型を有した。ヒト胚性幹細胞H9(H9-hESC)は、本出願に記載の例示的な態様において使用されるが、本明細書に記載の方法およびシステムがいかなる幹細胞へも適用可能であることは当業者によって理解されるであろう。
【0028】
本発明にしたがった態様において使用することができる追加の幹細胞には、米国国立幹細胞バンク(NSCB)、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)ヒト胚性幹細胞研究センターが主宰するデータベース、Wi細胞研究所WISC細胞バンク、ウィスコンシン大学幹細胞再生医療センター(UW-SCRMC)、Novocell社(カリフォルニア州サンディエゴ市)、Cellartis AB(スウェーデン国イェーテボリ市)、ES Cell International Pte Ltd(シンガポール)、イスラエル工科大学Technion(イスラエル国、ハイファ市)、ならびにプリンストン大学およびペンシルバニア大学が主宰する幹細胞データベース、によって提供されているものか、またはそのデータベースに記載されているものを含むが、これらに限定されない。本発明にしたがった態様において使用することができる例示的な胚性幹細胞は、SA01(SA001)、SA02(SA002)、ES01(HES-1)、ES02(HES-2)、ES03(HES-3)、ES04(HES-4)、ES05(HES-5)、ES06(HES-6)、BG01(BGN-01)、BG02(BGN-02)、BG03(BGN-03)、TE03(I3)、TE04(I4)、TE06(I6)、UC01(HSF1)、UC06(HSF6)、WA01(H1)、WA07(H7)、WA09(H9)、WA13(H13)、WA14(H14)を含むがこれに限定されない。
【0029】
いくつかの態様において、幹細胞は追加的な特性を組み込むためにさらに改変される。例示的な改変細胞株には、H1 OCT4-EGFP、H9 Cre-LoxP、H9 hNanog-pGZ、H9 hOct4-pGZ、H9 inGFPhES、およびH9 Syn-GFPが含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
胚性幹細胞についてのさらなる詳細は、例えば、Thomsonら、1998、「Embryonic Stem Cell Lines Derived from Human Blastocysts」、 Science 282(5391):1145-1147;Andrewsら、2005、「Embryonic stem(ES) cells and embryonal carcinoma(EC) cells: opposite sides of the same coin」、Biochem Soc Trans 33:1526-1530;Martin 1980、「Teratocarcinomas and mammalian embryogenesis」、Science 209(4458):768-776;Evans and Kaufman、1981、「Establishment in culture of pluripotent cells from mouse embryos」、Nature 292(5819):154-156;Klimanskayaら、2005、「Human embryonic stem cells derived without feeder cells」、Lancet 365(9471):1636-1641、において見出され得るが、それらの各記載は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
あるいは、多能性幹細胞は、有性生殖する生物の配偶子を生じる細胞である胚性生殖細胞(EGC)に由来し得る。EGCは、胚性幹細胞の特性のうちの多くを有する後期胚の生殖腺隆起において認められる始原生殖細胞に由来し、胚性幹細胞の特性のうちの多くを有する。胚における始原生殖細胞は、成体において生殖配偶子(精子または卵子)を作製する幹細胞へと発達する。マウスおよびヒトにおいて、適切な条件下、組織培養中で胚性生殖細胞を成長させることが可能である。EGCおよびESCはいずれも多能性である。本発明の目的のために、用語「ESC」は、時々、EGCを包含するために広範に使用される。
【0032】
人工多能性幹細胞(iPSC)
いくつかの態様において、iPSCは、成体線維芽細胞のような非多能性細胞へのある特定の幹細胞関連遺伝子のトランスフェクションによって誘導される。トランスフェクションは、レトロウイルスのようなウイルスベクターを介して達成され得る。トランスフェクトされた遺伝子はマスター転写調節因子Oct-3/4(Pouf51)およびSox2を含むが、他の遺伝子が誘導の効率を高めることが示唆されている。3~4週間後、少数のトランスフェクトされた細胞が多能性幹細胞と形態学的および生化学的に類似するようになり、通常は形態学的選択、倍加時間、またはレポーター遺伝子および抗生物質選択を通じて単離される。本明細書中で使用されるとき、iPSCには、第一世代iPSC、マウスにおける第二世代iPSC、およびヒト人工多能性幹細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
いくつかの態様において、非ウイルス系の技術を採用してiPSCを作製することができる。いくつかの態様において、アデノウイルスを用いて必要な4つの遺伝子をマウスの皮膚細胞および肝細胞のDNAに輸送して、結果的に胚性幹細胞と同一の細胞を生じることができる。アデノウイルスはそれ自身の遺伝子のいずれも標的宿主に組み込まないので、腫瘍を作り出す危険性が排除される。いくつかの態様において、再プログラミングは、非常に低い効率ではあるが、いかなるウイルストランスフェクション系も用いることなくプラスミドを介して達成することができる。他の態様において、タンパク質の直接送達を使用してiPSCを作製し、したがってウイルスまたは遺伝子改変の必要性を排除する。いくつかの実施形態において、マウスiPSC細胞の作製は、類似の方法論を使用して可能である:ポリアルギニンアンカーを介して細胞内に導かれる特定のタンパク質による細胞の反復処置は、多能性を誘導するのに十分であった。いくつかの態様において、多能性誘導遺伝子の発現は、低酸素条件下で体細胞をFGF2で処置することによっても上昇することができる。
【0034】
胚性幹細胞に関するさらなる詳細は、Kajiら、2009、「Virus free induction of pluripotency and subsequent excision of reprogramming factors」、Nature 458:771-775;Woltjenら、2009、「piggyBac transposition reprograms fibroblasts to induced pluripotent stem cells」、Nature 458:766-770;Okitaら、2008、「Generation of Mouse Induced Pluripotent Stem Cells Without Viral Vectors」、Science 322(5903):949-953;Stadtfeldら、2008、「Induced Pluripotent Stem Cells Generated without Viral Integration」、Science 322(5903):945-949;およびZhouら、2009、「Generation of Induced Pluripotent Stem Cells Using Recombinant Proteins」、Cell Stem Cell 4(5):381-384;において見出されることができ、それらの各記載は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0035】
いくつかの態様において、例示的なiPS細胞株は、iPS-DF19-9、iPS-DF19-9、iPS-DF4-3、iPS-DF6-9、iPS(包皮)、iPS(IMR90)、およびiPS(IMR90)を含むが、これらに限定されない。
【0036】
胚体内胚葉
本開示のHCOは、胚体内胚葉(DE)と呼ばれる単純な細胞シートに由来し得る。前駆細胞から胚体内胚葉を誘導する方法は、D’Armour etら2005およびSpenceらによって教示されているように、当該技術分野において周知である。前側DEは前腸ならびに肝臓および膵臓を含むその関連器官を形成し、後側DEは、小腸および大腸、ならびに腎尿路生殖器系の一部を形成する中腸ならびに後腸を形成する。マウス、ニワトリおよびカエルの胚を用いた研究は、原腸胚期のDEにおいて前後パターンを確立することがその後の前腸および後腸の発達の前提条件であることを示唆している。Wntシグナル伝達経路およびFGFシグナル伝達経路は、このプロセスにとって重要であると考えられており、後部内胚葉および後腸運命を促進するように、ならびに前部内胚葉および前腸運命を抑制するように作用する。後腸の単純な立方体上皮は、最初に擬似層状柱状上皮に発達し、次いで、極性のある柱状上皮と増殖性領域とを絨毛の基部に含有する絨毛に発達し、これは推定前駆細胞ドメインに対応する。
【0037】
本発明者らは、本明細書において、試験管内でDEの腸管組織、特にヒト結腸組織への分化を定方向にするための頑強かつ効率的な方法を記載する。定方向分化は、iPSCおよび/またはDE細胞においてあり特定のシグナル伝達経路を選択的に活性化することによって達成され得る。
【0038】
一般的に腸管発達に関する経路の追加的な詳細は、例えば、Sanchoら,2004,"Signaling Pathways in Intestinal Development and Cancer,"Annual Review of Cell and Developmental Biology 20:695-723、Logan and Nusse,2004,"The Wnt Signaling Pathway in Development and Disease," Annual Review of Cell and Developmental Biology 20:781-810、Taipale1 and Beachy1,2001,"The Hedgehog and Wnt signalling pathways in cancer,"Nature 411:349-354、Gregorieff and Clevers,2005,"Wnt signaling in the intestinal epithelium: from endoderm to cancer,"Genes & Dev.19:877-890において認められ、これらの各々はその全体が本明細書によって参照により本明細書に組み込まれる。DEの発達に関するシグナル伝達経路の機能についてのより多くの詳細は、例えば、Zorn and Wells,2009,"Vertebrate endoderm development and organ formation,"Annu Rev Cell Dev Biol 25:221-251、Dessimoz et al.,2006,"FGF signaling is necessary for establishing gut tube domains along the anterior-posterior axis in vivo,"Mech Dev 123:42-55、McLin et al.,2007,"Repression of Wnt/{beta}-catenin signaling in the anterior endoderm is essential for liver and pancreas development,"Development 134:2207-2217、Wells and Melton,2000,Development 127:1563-1572、de Santa Barbara et al.,2003,"Development and differentiation of the intestinal epithelium,"Cell Mol Life Sci 60(7):1322-1332において認めることができ、それらの各々は、本明細書によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0039】
多能性細胞(例えば、iPSCまたはESC)から胚体内胚葉を作製するための任意の方法が、本明細書に記載の方法に適用可能である。いくつかの態様において、多能性細胞は桑実胚から誘導される。いくつかの態様において、多能性幹細胞は幹細胞である。これらの方法で使用される幹細胞は、胚性幹細胞を含み得るが、これに限定されない。胚性幹細胞は、胚の内部細胞塊または胚の生殖巣堤に由来し得る。胚性幹細胞または生殖細胞は、ヒトを含む種々の哺乳動物種を含むがこれらに限定されない種々の動物種に由来し得る。いくつかの態様において、ヒト胚性幹細胞は胚体内胚葉を作出するために使用される。いくつかの態様において、ヒト胚性生殖細胞は胚体内胚葉を作出するために使用される。いくつかの態様において、iPSCは胚体内胚葉を作出するために使用される。
【0040】
いくつかの態様において、多能性幹細胞からDE細胞への分化過程において1つ以上の成長因子が使用される。分化過程において使用される1つ以上の成長因子は、TGF-ベータスーパーファミリーからの成長因子を含み得る。このような態様において、1つ以上の成長因子は、成長因子のTGF-ベータスーパーファミリーのノーダル/アクチビンおよび/またはBMP部分群を含み得る。いくつかの態様において、1つ以上の成長因子は、ノーダル、アクチビンA、アクチビンB、BMP4、Wnt3a、またはこれらの成長因子のうちのいずれかの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの態様において、胚性幹細胞または生殖細胞およびiPSCは、1以上の成長因子で6時間以上、12時間以上、18時間以上、24時間以上、36時間以上、48時間以上、60時間以上、72時間以上、84時間以上、96時間以上、120時間以上、150時間以上、180時間以上、または240時間以上処置される。いくつかの態様において、胚性幹細胞または生殖細胞およびiPSCは、10ng/ml以上、20ng/ml以上、50ng/ml以上、75ng/ml以上、100ng/ml以上、120ng/ml以上、150ng/ml以上、200ng/ml以上、500ng/ml以上、1,000ng/ml以上、1,200ng/ml以上、1,500ng/ml以上、2,000ng/ml以上、5,000ng/ml以上、7,000ng/ml以上、10,000ng/ml以上、または15,000ng/ml以上の濃度の1以上の成長因子で処置される。いくつかの態様において、成長因子の濃度は処置を通して一定レベルで維持される。他の態様において、成長因子の濃度は処置の経過の間に変化する。いくつかの態様において、成長因子は、様々なHyClone濃度のウシ胎仔セリン(FBS)を含む培地中に懸濁される。当業者は、本明細書に記載された投与計画が、単独でまたは組み合わせで、何らかの既知の成長因子に適用可能であることを理解するであろう。2つ以上の成長因子が使用されるとき、各成長因子の濃度は独立して変動し得る。
【0041】
いくつかの態様において、胚体内胚葉細胞に富む細胞集団が使用される。いくつかの態様において、胚体内胚葉細胞は単離されているか、または実質的に精製されている。いくつかの態様において、単離または実質的に精製された胚体内胚葉細胞は、OCT4、AFP、TM、SPARCおよび/またはSOX7マーカーよりも高い程度までSOX17、FOXA2、および/またはCXRC4マーカーを発現する。胚体内胚葉を有する細胞集団を濃縮するための方法も企図される。いくつかの態様において、胚体内胚葉細胞は、混合細胞集団において、胚体内胚葉細胞の表面上には存在するが他の細胞の表面上には存在しない分子に結合する試薬と細胞を接触させること、次いで試薬に結合した細胞を単離することによって、混合細胞集団から単離または実質的に精製することができる。ある特定の態様において、胚体内胚葉細胞の表面上に存在する細胞構成素はCXCR4である。
【0042】
本発明において使用することができるDE細胞を取得または創出するための追加的な方法は、D’Amourらに対する米国特許第7,510,876号、Fiskらに対する米国特許第7,326,572号、Kubo1 etら,2004,"Development of definitive endoderm from embryonic stem cells in culture,"Development 131:1651-1662、D‘Amourら,2005,"Efficient differentiation of human embryonic stem cells to definitive endoderm,"Nature Biotechnology 23:1534-1541、およびAngら,1993,"The formation and maintenance of the definitive endoderm lineage in the mouse: involvement of HNF3/forkhead proteins,"Development 119:1301-1315に記載の方法を含むが、当該方法に限定されず、これらの各々は、本明細書によりその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0043】
胚体内胚葉から中/後腸スフェロイドへの移行
いくつかの態様において、DEの後側化した内胚葉細胞はさらに1つ以上の特化細胞型に発達する。アクチビン誘導胚体内胚葉(DE)はさらに、FGF/Wnt誘導後側内胚葉早口、後腸の規格および形態形成、ならびに最終的には腸管成長、腸細胞、杯細胞、パネート細胞および腸内分泌細胞を含む機能的腸細胞型への細胞分化を促進した前腸培養系を受けることができる。いくつかの態様において、ヒトPSCは、分泌細胞型、内分泌細胞型および吸収性細胞型を含み得る腸管上皮へと試験管内で分化するように効率的に定方向化される。成長因子のような分子は、特定の種類の腸管組織形成を促進するために何らかの発達期に添加され得ることは理解されるであろう。
【0044】
ESCおよびiPSCなどのPSCは、最初に胚体内胚葉(DE)、次に中/後腸上皮および間充織(例えば、後腸スフェロイド)、および次に腸管組織へと段階的または非段階的な様式で定方向分化を受ける。いくつかの態様において、胚体内胚葉細胞およびhESCは、1つ以上の成長因子で処置される。
【0045】
いくつかの態様において、可溶性FGFおよびWntリガンドを用いて、培養中の初期後腸規格を模倣して、定方向分化を通じて、iPSCまたはESCから発達したDEを、すべての主要腸細胞型を効率的に生じさせる後腸上皮に変換する。ヒトにおいて、DEの定方向分化は、腸管の発達にとって重要である特定のシグナル伝達経路を選択的に活性化することによって達成される。任意のFGFリガンドと組み合わせて任意のWntシグナル伝達タンパク質の発現を変化させることが、本明細書に記載の定方向分化を生じさせることができることを、当業者は理解するであろう。
【0046】
より多数の詳細は、例えば、Liu etら,"A small-molecule agonist of the Wnt signaling pathway,"Angew Chem Int Ed Engl.44(13):1987-1990(2005)、Miyabayashiら,"Wnt/beta-catenin/CBP signaling maintains long-term murine embryonic stem cell pluripotency,"Proc Natl Acad Sci U S A.104(13):5668-5673(2007)、Zhangら,"Small-molecule synergist of the Wnt/beta-catenin signaling pathway,"Proc Natl Acad Sci U S A.104(18):7444-7448(2007)、Neiiendamら,"An NCAM-derived FGF-receptor agonist, the FGL-peptide,induces neurite outgrowth and neuronal survival in primary rat neurons,"J Neurochem.91(4):920-935(2004)、Shan et al.,"Identification of a specific inhibitor of the dishevelled PDZ domain,"Biochemistry 44(47):15495-15503(2005)、Coghlanら,"Selective small molecule inhibitors of glycogen synthase kinase-3 modulate glycogen metabolism and gene transcription," Chem Biol.7(10):793-803(2000)、Coghlanら,"Selective small molecule inhibitors of glycogen synthase kinase-3 modulate glycogen metabolism and gene transcription,"Chemistry&Biology 7(10):793-803、およびPaiら,"Deoxycholic acid activates beta-catenin signaling pathway and increases colon cell cancer growth and invasiveness," Mol Biol Cell.15(5):2156-2163(2004)において認められ、これらの各々は、本明細書によりその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0047】
いくつかの態様において、Wntおよび/またはFGFシグナル伝達経路に関連する細胞構成素を標的とするsiRNAおよび/またはshRNAを使用して、これらの経路を活性化する。
【0048】
Wntシグナル伝達経路のモジュレーター/活性化因子には、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、およびWnt16が含まれる。いくつかの態様において、経路の調節は、上述の経路を活性化する小分子モジュレーターもしくはタンパク質モジュレーター、または上述の経路を活性化するタンパク質の使用を通じてであり得る。例えば、Wnt経路の小分子モジュレーターには、塩化リチウム、2-アミノ-4,6-二置換ピリミジン(ヘテロ)アリールピリミジン、IQ1、QS11、NSC668036、DCAベータ-カテニン、2-アミノ-4-[3,4-(メチレンジオキシ)-ベンジル-アミノ]-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジンが含まれるが、これらに限定されない。Wntシグナル伝達の例示的な天然の阻害剤としては、Dkk1、SFRPタンパク質およびFrzBが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、外因性分子には、WAY-316606、SB-216763、またはBIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)のような小分子が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、Wntおよび/またはFGFシグナル伝達経路に関連する細胞構成素を標的とするsiRNAおよび/またはshRNAを使用して、これらの経路を活性化してもよい。標的細胞構成素がSFRPタンパク質、GSK3、Dkk1、およびFrzBを含むがこれらに限定されないことは当業者によって理解されるであろう。追加的なモジュレーターには、Wntシグナル伝達経路を活性化するGSK3を阻害する分子またはタンパク質が含まれる。例示的なGSK3阻害剤としては、限定されないが、例えば、GSK3βを阻害するChiron/CHIR99021が挙げられる。当業者は、開示された方法を実施するのに適したGSK3阻害剤を認識するであろう。GSK3阻害剤は、約1μM~約100μM、または約2μM~約50μM、または約3μM~約25μMの量で投与されてもよい。当業者は、適切な量および期間を容易に認識するであろう。
【0049】
線維芽細胞増殖因子(FGF)は、血管新生、創傷治癒、および胚発生に関与する増殖因子のファミリーである。いくつかの態様において、任意のFGFをWntシグナル伝達経路由来のタンパク質とともに使用することができることは、当業者によって理解されるであろう。いくつかの態様において、可溶性FGFには、FGF4、FGF2、およびFGF3が含まれるがこれらに限定されない。いくつかの実施形態において、FGFシグナル経路は、FGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF15、FGF16、FGF17、FGF18、FGF19、FGF20、FGF21、FGF22、およびFGF23からなる群より選択される1つ以上の分子と前駆細胞を接触させることによって活性化される。いくつかの態様において、FGFシグナル伝達経路に関連する細胞成分を標的とするsiRNAおよび/またはshRNAを用いてこれらの経路を活性化してもよい。WntおよびFGFシグナル伝達経路に関連して本明細書中に記載される方法および組成物が例として提供されることは当業者によって理解されるであろう。同様の方法および組成物は、本明細書に開示されている他のシグナル伝達経路へも適用可能である。
【0050】
いくつかの態様において、DE培養物は、本明細書に記載のシグナル伝達経路の1つ以上のモジュレーターで6時間以上、12時間以上、18時間以上、24時間以上、36時間以上、48時間以上、60時間以上、72時間以上、84時間以上、96時間以上、120時間以上、150時間以上、180時間以上、200時間以上、240時間以上、270時間以上、300時間以上、350時間以上、400時間以上、500時間以上、600時間以上、700時間以上、800時間以上、900時間以上、1,000時間以上、1,200時間以上、または1,500時間以上処置される。
【0051】
いくつかの態様において、DE培養物は、10ng/ml以上、20ng/ml以上、50ng/ml以上、75ng/ml以上、100ng/ml以上、120ng/ml以上、150ng/ml以上、200ng/ml以上、500ng/ml以上、1,000ng/ml以上、1,200ng/ml以上、1,500ng/ml以上、2,000ng/ml以上、5000ng/ml以上、7,000ng/ml以上、10,000ng/ml以上、または15,000ng/ml以上の濃度の本明細書に記載のシグナル伝達経路の1つ以上のモジュレーターで処置される。いくつかの態様において、シグナル伝達分子の濃度は処置を通して一定に維持される。他の態様において、シグナル伝達経路のモジュレーターの濃度は処置の経過の間に変化する。いくつかの態様において、本発明にしたがったシグナル伝達分子は、DMEMおよびウシ胎仔セリン(FBS)を含む培地中に懸濁される。FBSは、2%以上、 5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上、または50%以上の濃度であり得る。当業者は、本明細書に記載された投与計画が、限定されるものではないがWntシグナル伝達経路およびFGFシグナル伝達経路における任意の分子を含む、本明細書に記載のシグナル伝達経路の任意の既知のモジュレーターに、単独または組み合わせで適用可能であることを理解するであろう。
【0052】
DE培養物を処置するために2つ以上のシグナル伝達分子が使用される態様において、シグナル伝達分子は同時にまたは別個に添加することができる。2つ以上の分子が使用されるとき、各々の濃度は独立して変わり得る。
【0053】
CDX2の発現は、DEがFGFシグナル伝達活性化因子およびWntシグナル伝達活性化因子、例えばFGF4およびWnt3aとともに一定期間、例えば12時間以上、18時間以上、24時間以上、36時間以上、48時間以上、60時間以上、または90時間以上インキュベートされた後に後腸形成の傾向を明らかにするために使用され得る。いくつかの態様において、CDX2の長時間の発現によって測定される場合、安定した後部内胚葉表現型を達成するためには、より長い期間のインキュベーションが必要とされる。このような態様において、インキュベーションの期間は、60時間以上,"72時間以上、84時間以上、96時間以上、108時間以上、120時間以上、140時間以上、160時間以上、180時間以上、200時間以上、240時間以上、または300時間以上であり得る。
【0054】
あるいは、いくつかの態様において、前腸マーカーであるSox2、Pdx1、Cldn18、およびアルブミンのような細胞構成素の非存在は、定方向後腸形成を明らかにするために使用することができる。いくつかの態様において、腸管転写因子CDX2、KLF5、およびSOX9を使用して腸管発達を表すことができる。いくつかの態様において、GATA6タンパク質発現を使用して、腸発生を表すことができる。これらの態様において、インキュベーション期間は、12時間以上、18時間以上、24時間以上、36時間以上、48時間以上、60時間以上、または90時間以上であり得る。あるいは、インキュベーション期間は、60時間以上、72時間以上、84時間以上、96時間以上、108時間以上、120時間以上、140時間以上、160時間以上、180時間以上、200時間以上、240時間以上、または300時間以上であり得る。
【0055】
いくつかの態様において、細胞構成素の存在量データ、例えばタンパク質および/または遺伝子発現レベルは、関連シグナル伝達経路における一次抗体および/または二次抗体標的分子を用いた免疫組織化学によって決定される。他の態様において、細胞構成素の存在量データ、例えばタンパク質および/または遺伝子発現レベルは、マイクロアレイ分析によって決定される。
【0056】
さらに代替的には、形態学的変化を用いて定方向分化の進行を表すことができる。いくつかの態様において、後腸スフェロイドは、さらなる成熟のために3次元培養条件にさらに供される。他の態様において、間充織細胞に囲まれた非常に複雑な上皮が後腸スフェロイド形成後に観察することができる。加えて、腸管オルガノイド、極性化した柱状上皮、杯細胞、または平滑筋細胞は、6日以上、7日以上、9日以上、10日以上、12日以上、15日以上、20日以上、25日以上、28日以上、32日以上、36日以上、40日以上、45日以上、50日以上、または60日以上観察することができる。
【0057】
中/後腸スフェロイドから結腸オルガノイドへの移行
FGFおよびWNTシグナル伝達に加えて、骨形成タンパク質(BMP)、具体的にはBMP2およびBMP4は、後側/後腸の運命を促進し、前腸の運命を抑制することができることは同定されてきた。加えて、BMPシグナル伝達は、腸管の異なる部域型の形成を調節する。後腸期後のノギンによるBMPの阻害は、近位腸管の運命(十二指腸/空腸)を促進する。後腸期後のBMPシグナル伝達の活性化は、より遠位の腸管細胞運命(盲腸/結腸)を促進する。
【0058】
BMPの活性化は、該ヒト結腸オルガノイドを形成するのに十分な時間、中/後腸スフェロイドをBMP活性化因子およびEGFシグナル伝達経路活性化因子と接触させることによって実施することができる。インキュベーション期間の境界は、ヒト結腸オルガノイドがSATB2を発現する時点によって定義され得る。適切なBMP活性化因子およびEGFシグナル伝達経路活性化因子は、当業者によって容易に理解されるであろう。適切なBMP活性化因子としては、例えば、BMP2、BMP4、BMP7、BMP9およびタンパク質もしくはベントロモフィン(ventromophin)のような小分子アゴニスト(Genthe et al.2017)またはアゴニストとして役立つタンパク質が挙げられ得る。BMP活性化因子およびEGFシグナル伝達経路活性化因子は、中/後腸スフェロイドと約1日~約3日間接触させることができる。BMPシグナル伝達は、最初の3日以内に活発になることがある。一態様において、BMP活性化因子とEGFシグナル伝達経路活性化因子との接触ステップは、24時間~約10日、または約48時間~約9日、または約3日~約8日、または約4日~約8日、または約5日~約7日である。適切なEGF活性化因子は、例えば、TGFアルファ、HB-EGF、アンフィレグリン、エピゲン、ベータセルリンおよび、db-cAMPのような小分子を含み得る。EGF活性化因子は、約10ng/mL~10,000ng/MLの濃度で、約24時間~約10日、または約48時間~約9日、または約3日~約8日、または約4日~約8日、または約5日~約7日、中/後腸スフェロイドと接触させることができる。
【0059】
中/後腸スフェロイドは、5ng/ml以上、20ng/ml以上、50ng/ml以上、75ng/ml以上、100ng/ml以上、120ng/ml以上、150ng/ml以上、200ng/ml以上、500ng/ml以上、1,000ng/ml以上、1,200ng/ml以上、1,500ng/ml以上、2,000ng/ml以上、5,000ng/ml以上、7,000ng/ml以上、10,000ng/ml以上、または15,000ng/ml以上の濃度のBMP活性化因子および/またはEGF活性化因子と、単独でまたは組み合わされて接触させることができる。いくつかの実施形態では、シグナル伝達分子の濃度は処置の間、一定に維持される。他の実施形態では、シグナル伝達経路の分子の濃度は、処置の過程で変化する。いくつかの実施形態において、本発明によるシグナル伝達分子は、DMEMおよびウシ胎仔血清(FBS)を含む培地に懸濁される。FBSは、2%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上、または50%以上の濃度であり得る。当業者は、本明細書に記載の投与計画が本明細書に記載のシグナル伝達経路の任意の既知の分子に単独でまたは組み合わせで適用可能であることを理解するであろう。
【実施例
【0060】
以下の非限定的な例は、本明細書に開示された本発明の態様をさらに説明するために提供される。以下の例に開示された技術が、本発明の実施において十分に機能することが見出されたアプローチを表し、したがってその実施のための様式の例を構成するとみなすことができることは、当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に鑑みて、開示された具体的な態様において多くの変更を行うことができ、それでも本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく同様のまたは類似の結果を得ることができることを認識している。
【0061】
消化管の上皮は、原腸形成の間に確立される一次胚葉のうちの1つである胚体内胚葉に由来する。腸管形態形成の過程は、胚体内胚葉を、前腸、中腸および後腸を有する原始腸管へと変換する。中腸は小腸および近位大腸を生じ、後腸は遠位大腸および直腸を生じる(Zorn and Wells,2009)。小腸は3つのセグメントにさらに細分される。栄養素の吸収および鉄の取り込みに関与する十二指腸、栄養素の消化および吸収に関与する空腸、ならびに胆汁酸およびビタミンB12の吸収に関与する回腸である(Jeejeebhoy,2002)。大腸は盲腸、結腸および直腸に細分され、それらはすべて水および電解質の吸収に関与している(Jeejeebhoy,2002)。近年の進歩は小腸の発達に焦点を当ててきたが(Finkbeiner et al.,2015、Spence et al.,2011、Watson et al.,2014)、ヒトの大腸/結腸の発達についてはほとんど知られていない。さらに、消化(GI)管のこの領域に影響を及ぼす疾患である大腸炎、結腸癌、ポリポーシス症候群および過敏性腸症候群が広く認められている(Molodecky et al.,2012、Siegel et al.,2014、ZbukおよびEng,2007)。ポリープおよび腫瘍は小腸において優先的に形成され、結腸または直腸においてはまれに形成されるので、ポリポーシス症候群および腸癌の動物モデルは限られている(Haramis et al.,2004、He et al.,2004、Moser et al,1990)。
【0062】
本発明者らは、小腸の胚発生に近似した定方向分化の段階を通じてヒト多能性幹細胞を腸管組織へと分化させることができる方法をすでに記載した。第一に、多能性幹細胞はアクチビンAによる処置により胚体内胚葉へと分化する。高レベルのWntおよびFGFへの胚体内胚葉の曝露は、中/後腸管スフェロイドへの形態形成を誘導する。一旦形成されると、これらの中腸/後腸スフェロイドは、腸管の成長に好ましい条件下、3次元培養で成長させるとき、生体内での小腸の発達に近い段階を経て移行し、ヒト腸管オルガノイド(HIO)を形成する(Spence et al.,2011)。HIOは小腸の同一性を有し、小腸の生物学的性質をモデル化するために極めて有用であることが証明されている(Bouchi et al.,2014、Finkbeiner et al.,2015、Watson et al.,2014、Xue et al.,2013)。しかしながら、今まで、PSC由来の大腸オルガノイドは開発されておらず、大腸における疾患の有病率を考えると、このようなシステムは、消化管のこの領域における発達および疾患の機序の調査を可能にするであろう。
【0063】
大腸オルガノイドを作製する方法を開発するために、本発明者らは最初に、カエル、マウス、およびヒトにおける推定大腸上皮の明確なマーカーとしてSatb2を同定した。Satb2をマーカーとして使用すると、本発明者らは、後腹側発生におけるBMPの既知の役割と一致する、カエルおよびマウスの後腸内胚葉の特定にBMPシグナル伝達が必要とされることを示した(Kumar et al.,2003、Roberts et al.,1995、Sherwood et al.,2011、Tiso et al.,2002、Wills et al.,2008)。その上、3日間のPSC由来腸管培養におけるBMPシグナル伝達の刺激は、後側HOXコードおよびSATB2発現結腸オルガノイドの形成を誘導するのに十分である。ヒト結腸オルガノイド(HCO)は、大腸と一致するマーカー特性および細胞型を有していた。さらに、HIOではなく、HCOがNEUROG3の発現に応じて結腸腸内分泌細胞(EEC)を形成し、このことはHCOが結腸領域に機能的に関与していることを実証した。加えて、免疫無防備状態のマウスの腎被膜下に生着し、生体内で8~10週間成長したHCOは、それらの部域的な同一性を維持し、結腸の形態学的性質を有する組織を形成し、結腸特異的細胞型を含有し、増殖および分化の領域を有し、平滑筋層を十分に形成した。生体内で成長したオルガノイドから誘導された腸管のエンテロイドおよびコロノイドは、部域的な同一性を維持していた。最後に、RNA配列分析は、HIOおよびHCOが実質的な成熟を経験し、それぞれ小腸および大腸の同一性と一致する部域的なマーカーを発現することを実証した。要約すると、本発明者らは、カエルおよびマウスにおいて進化的に保存されたBMP-HOX経路を同定し、これを使用して後腸パターン形成およびヒト結腸オルガノイドの形成を定方向化した。
【0064】
結果
SATB2発現は、胚および成体の後部の腸の腸内胚葉を標識する。
【0065】
中腸および後腸、推定上の小腸および大腸を確立する分子経路は、十分に定義されたマーカーが少数であることに一部より、ほとんど理解されていない。このことは、ヒトPSCから部域的に異なる腸管オルガノイド、特に大腸オルガノイドへの分化を定方向化する能力を制限してきた。それゆえ、本発明者らは、マウス胚腸管の異なるドメインを区別するマーカーを同定し、これらを使用して初期腸をパターン形成するシグナル伝達経路を調査した。従来の報告と一致して、本発明者らは、胎生9.5日マウス胚において、Gata4が後部前腸から卵黄茎までの腸内胚葉を標識することを見出した(図8A)(Aronson et al.,2014、Battle et al.,2008、Beuling et al.,2008a、Beuling et al.,2007a、Beuling et al., 2007b、Beuling et al.,2010、Beuling et al.,2008b、Bosse et al.,2007、Kohlnhofer et al.,2016、Patankar et al.,2012a、Patankar et al.,2012b、Sherwood et al.,2009、Walker et al.,2014)。発生の後期(胎生11.5日胚~胎生16.5日胚)において、Gata4は前腸を明確に標識し続けたが後腸は標識しなかった(図8B~D、I~J)。この発現ドメインは、マウス(非表示)およびヒト(図8K~L)の両方において成体期までそのままである。
【0066】
後部胎児腸のマーカーを同定するために、本発明者らは、結腸に多い遺伝子についてGNCPro(商標)、TiGERおよびヒトタンパク質アトラスのような公共の発現データベースを調べ、有望な大腸マーカーとしてSatb2を見出した。Satb2は、CUTクラスのホメオボックス遺伝子のメンバーであり(Holland et al.,2007)、これは核マトリックス付着領域を結合し、クロマチンリモデリングに関与している(Gyorgy et al.,2008)。免疫染色は、Satb2タンパク質が胎生9~9.5日胚でマウス胚の後部内胚葉において最初に検出され、卵黄茎でGata4との目立たない発現境界を形成し(図8A)、このことはSatb2+ドメインが、すでに同定されているよりも幅広い発現ドメインである後部腸を標識することを示唆した(Dobreva et al.,2006)。Satb2発現は、発生中(胎生11.5~16.5日)(図8B、C、E、F、H、J)にマウス(非表示)およびヒト(図8L)における出生後結腸の後部腸内胚葉を標識し続けた。公表されたヒトプロテオームおよびRNA配列のデータを用いて、本発明者らは、GATA4およびSATB2がそれぞれヒト胎児および成体の腸管の近位領域および遠位領域を区別して標識することを確認した(Bernstein et al.,2010、Fagerberg et al.,2014)(Wang et al.,2015)(図9A~C)。これらのデータは、Gata4およびSatb2の発現境界がマウスの発生の初期に確立され、マウスおよびヒトにおいて発生中の小腸および大腸の将来の境界を標識することを実証している。
【0067】
胚後腸内胚葉におけるSatb2発現にはBMPシグナル伝達が必要とされる。
【0068】
本発明者らは次に、胚において後部腸の運命を促進する経路を同定するためのマーカーとしてSatb2を使用した。ゼブラフィッシュ、ゼノパス(Xenopus)、ニワトリおよびマウスの発生のいくつかの段階において内胚葉をパターン形成するうえでのその既知の役割を考慮して、本発明者らは最初に、BMPシグナル伝達が後部腸管において活発であるかどうかを決定した(Kumar et al.,2003、Roberts et al.,1995、Sherwood et al.,2011、Tiso et al.,2002、Wills et al.,2008)。本発明者らは、リン酸化Smad1/5/8(pSMAD1/5/8)によって測定されるように、BMPシグナル伝達が胎生8.5日マウス胚の後部腸管の内胚葉および中胚葉において非常に活発であることを観察した(図1A~B)。BMPシグナル伝達が後部腸管のパターン形成に必要とされるかどうかを決定するために、本発明者らは、BMPシグナル伝達阻害剤DMH-1中で初期の前頭葉期マウス胚(胎生7.5日)を培養した(図1C)。DMH-1処置の48時間後、本発明者らは、pSmad1/5/8レベルの有意な低減および後部腸管におけるSatb2発現の喪失を観察した(図2D~K)。加えて、Satb2発現は、ゼブラフィッシュにおける先行研究と一致するDMH-1処置胚の第1腕弓において喪失された(Sheehan-Rooney et al.,2013)。DMH-1は、pSmad2/3レベルによって測定されるようにTGFI3シグナル伝達に何ら影響を及ぼさなかった(図1F)。脊椎動物種にわたるSatb2の進化的保存を考慮して(Li et al.,2006)、本発明者らは、カエル胚の後腸におけるSatb2発現にBMPが必要とされるかどうかを調べた(図2L)。マウスと同様に、DMH-1によるゼノパス(Xenopus)胚の処置(図1M~V)、またはBMPアンタゴニストであるノギンのトランスジェニック発現(非表示)は、後腸および上腕弓におけるSatb2発現の喪失を結果的にもたらした。BMPシグナル伝達は、保存されたエンハンサーへのSmad1/5の直接結合を介してマウス胚下顎のSatb2発現を直接調節することが示されており(Bonilla-Claudio et al.,2012)、Satb2も腸における直接的なBMP標的であり得ることを示唆している。まとめると、これらの結果は脊椎動物における保存された経路を明らかにし、それによって遠位回腸および大腸を生じる発達中の腸管の最後部領域を規定するためにBMPシグナル伝達が必要とされる。
【0069】
BMPシグナル伝達はヒト腸管培養における後部運命を促進する。
【0070】
本発明者らは次に、BMPシグナル伝達が、すでに記載されたように(Spence et al.,2011)ヒトPSC由来の新生CDX2+腸管スフェロイドを使用してヒトにおける後部腸管の運命を促進するために使用することができるかどうかを調べた。本発明者らは、BMP阻害剤ノギンまたはBMP2をそれぞれ使用して、BMPシグナル伝達を阻害または活性化し(図2A)、核pSMAD1/5/8の蓄積によりBMPシグナル伝達レベルを監視した。対照培養物は低レベルのpSMAD1/5/8タンパク質を有し、ノギンの添加はこの染色を消失させた(図2B~D)。対照的に、BMP2の添加は上皮細胞および中胚葉細胞の両方においてpSMAD158の迅速な蓄積を引き起こし、両方の細胞型がマウス胚において本発明者らが観察したものと同様のBMPシグナルに応答することを示唆した(図1A~B)。pSmad1/5/8染色の特異性は成体マウス結腸を用いて確認され、このことはすでに報告されたように(Hardwick et al.,2004、van Dop et al.,2009、Whissell et al.,2014)、pSmad1/5/8染色が上部陰窩の分化した区画に限定されることを示した。オルガノイドのさらなる分析は、3日間のBMP2処置がノギンおよび対照培養物と比較して、上皮において高レベルのSATB2タンパク質を誘導するのに十分であることを明らかにした(図2F~I)。このことは、短いパルスのBMP活性がスフェロイド内胚葉を後部腸管の運命へとパターン形成するのに十分であることを示唆している。
【0071】
BMPシグナル伝達は内胚葉の前後パターン形成を調節することが知られているが、哺乳類において前後軸に沿った位置的同一性を最終的に与える転写ネットワークについてはあまり知られていない。本発明者らは、BMPシグナル伝達が、発生中のヒト腸において後部ドメインをどのように確立するかを同定するために、ヒト腸管スフェロイドおよびRNA配列を使用した。主成分分析は、BMPで3日間処置した腸管スフェロイドが、ノギンおよび対照で処置したオルガノイドとは別にクラスター化したことが明らかになった(図2J)。遺伝子オントロジー期間(GO期間)の検討は、BMPシグナル伝達の調節が、器官形態形成、細胞間シグナル伝達、パターン指定およびBMPシグナル伝達に対する細胞応答を含む複数の生物学的過程に影響することを明らかにした(図2K)。前後パターン形成の最も決定的な調節因子はHOX遺伝子であるので、本発明者らは、BMP活性化が前側HOX遺伝子の下方調節および後側HOX遺伝子の上方調節を結果的にもたらすことを見出した(図2L)。特に本発明者らは、HOX10、11、12および13群の複数のパラログのBMP媒介性増加を観察した。これらの結果は、BMPシグナル伝達がヒト腸管のパターン形成中に前後hoxコードを広く調節することを実証しており、遠位消化管が最初に特異化される機序を示唆している。
【0072】
BMPシグナル伝達はSHHの下流で作用して後部HOXコードを誘導する。
【0073】
先行研究は、Sonic Hedgehog(Shh)がニワトリ胚の後部腸パターン形成中にBmp4およびHox13発現の上流で作用することを示唆している(図10A)(Roberts et al.,1995)。しかしながら、BMPとHox13との間の相対的な上位性の関連性(図10B)は、中腸および後腸におけるBmp4過剰発現によって引き起こされる胚の致死性のために調べられなかった(De Santa Barbara et al.,2005、Roberts et al.,1995)。本発明者らは、後部腸管パターン形成中のSHH-BMP-HOX13の上位性の関連性をより良好にモデル化するためにヒト腸管培養物を使用した。平滑化アゴニストSAGを用いたヘッジホッグシグナル伝達の活性化は、BMPシグナル伝達標的遺伝子であるMSX2ならびに間充織HOX因子であるHOXA13およびHOXD13の濃度依存的活性化をもたらした(図10C)。しかしながら、これらの因子のSAG媒介活性化は、BMP2によって媒介される活性化のほんの一部でしかなかった(図10C)。本発明者らはさらに、HHシグナル伝達がHOXA13を活性化する能力がBMPに完全に依存することを示し(図10D~E)、BMPシグナル伝達がすでに報告されたようにSHHの下流で機能することを確認した(Shyer et al.,2015、Walton et al.,2012、Walton et al.,2009、Walton et al.,2016)。BMPシグナル伝達がHHシグナル伝達の下流で後側HOXプログラムを活性化するのに十分であるかどうかはまだ決定されていない。それゆえ、本発明者らは、SHH阻害剤であるシクロパミンの存在下でBMPによるHOXA13誘導を検討し、SHHシグナル伝達が阻害されたときに、BMP2がHOXA13を誘導するのに十分であることを見出した(図10F~G)。このことと一致して、BMPパターン形成中のSHHシグナル伝達の活性化はSATB2発現を改善しなかった(図11A)。ゼノパス(Xenopus)における実験は、この機序が進化的に保存されていることを示唆しているSHHとBMPとの間のこの上位性の関連性を確認した(データ非表示)。まとめると、本発明者らのデータは、BMPシグナル伝達が後部HOXコードを活性化するのに十分であり、HHシグナル伝達の下流でそのように活性化することを示唆している。
【0074】
試験管内で培養されたBMP由来オルガノイドは遠位の同一性を維持する。
【0075】
本発明者らは次に、3日間のBMP処置が25日間のオルガノイドの長期培養後に、安定した部域的同一性を与えるのに十分であるかどうかを調べた(図3)。ONECUT1(近位小腸のマーカー)のレベルは、ノギンおよび対照で処置したオルガノイドにおいて最も高く、BMP2で処置したオルガノイドにおいては非存在であった(図3A~D)。逆に、SATB2は、ノギンおよび対照で処置したオルガノイドの上皮においては非存在であったが、BMP2で処置したオルガノイドのほぼすべてのCDX2+上皮細胞においては広範に発現していた(図3E~H、図11A)。重要なことに、BMPシグナル伝達の調節は、胚性幹細胞株H1およびH9ならびに人工多能性幹細胞株(IPSC 54.1およびIPSC 72.3)を含む複数のヒトPSC株に対して同様の近位-遠位パターン形成効果を有した(後述)。本発明者らは、試験管内でHIOに存在することが知られている他の細胞型の存在におそらく起因して、ノギンおよび対照のオルガノイドにおける非上皮SATB2発現を頻繁に観察した(データ非表示)。後部上皮および間充織においてそれぞれ発現するHOXB13およびHOXD13の検討は、BMP処置オルガノイドが試験管内での長期培養後に後部パターン形成を維持することをさらに明らかにした(図11B~C)。
【0076】
杯細胞は、近位小腸から遠位大腸まで低から高への勾配で分布しており(Rodriguez-Pineiro et al.,2013)、本発明者らは、杯細胞数が近位オルガノイドにおいてより低く、遠位オルガノイドにおいてより高いかどうか調べた。28日目のMUC2染色の分析は、BMP2処置オルガノイドが、より近位のノギン処置オルガノイドおよび対照オルガノイドと比較して、細胞内MUC2によって可視化されるように多数の杯細胞を有することを明らかにし(図3I~L)、このことは、まれにしか細胞内MUC2染色を有していなかった。本発明者らはさらに、結腸における杯細胞のサブセットによって発現するが小腸内では発現しないマーカーMUC5Bを使用して、杯細胞の部域的同一性を確認した(van Klinken et al.,1998)。MUC5B染色は、ノギンおよび対照で処置した28日齢オルガノイドにおいては非存在であったが、BMP2処置オルガノイドにおいては存在した(図4M~P)。杯細胞の形態学的性質は、より加齢したオルガノイドにおいてより成熟し(図11D~I)、ここで、44日齢のBMPで処置したオルガノイドにおいて、本発明者らは、粘液をオルガノイドの内腔へと分泌する過程において杯細胞を観察した(図11J~L)。BMP処置オルガノイドにおいて粘液分泌を観察することができることは、このオルガノイドのシステムが、粘液分泌および腸の病態生理学における粘液の役割を研究するのに有用であろうことを示唆している。
【0077】
オルガノイドの部域的パターンは培養28日後に安定しているが、本発明者らは初期のパターン形成が最初の3日間の処置後に完全に確立されたかどうかを調べたいと考えた。そうするために、本発明者らは、3日間のノギン処置をしたスフェロイドを3日間BMP2含有培地に移し、逆に3日間のBMP処置したスフェロイドを3日間ノギン含有培地に移した。ノギンを用いて作製された近位オルガノイドは、BMP2に応答してSATB2を発現せず、近位の運命が3日間のパターン形成後において安定していることを実証した(図11A)。逆の実験において、3日間のBMP2処置は、安定した遠位運命を誘導するのに十分であったが、オルガノイドのサブセットはノギン処置に応答してSATB2発現を喪失した(図11A)。3日間のBMP2処置は、試験管内および生体内で安定である結腸運命を誘導するのに十分であるが(図12)、初期後部腸管において可塑性が残っている。このことは、妊娠中期ラット胚の結腸内胚葉が小腸内胚葉よりも部域的に可塑性であるという観察と一致する(Ratineau et al.,2003)。
【0078】
BMPシグナル伝達によるオルガノイド間充織のパターン形成。
【0079】
BMPシグナル伝達の刺激はオルガノイド上皮に部域的同一性を与えたが、本発明者らは、パターン形成中のBMP2処置オルガノイドの非上皮区画におけるpSMAD1/5/8、および間充織において発現することが知られている後側HOX因子の上方調節も観察した。間充織のパターン形成が安定しているか、それとも上皮から入力される持続したパターン形成を必要としたかを決定するために、本発明者らは、間葉細胞培養物を2~3週間単離して増殖させ、それらを部域的HOX遺伝子の発現について分析した。間葉系培養物はE-カドヘリン発現細胞を欠失しており、間充織から主として構成されていることを示唆した(図3Q)。近位腸管間充織に多いHOXD3の分析(Yahagi et al.,2004)は、ノギンおよび対照で処置したオルガノイドに由来する間充織が安定した近位同一性を有するのに対し、BMP処置オルガノイドがHOXD3の発現低下(図3R)および高レベルのHOXA13(図3S)を有しており、後者はヒト結腸線維芽細胞において発現し続ける(Higuchi et al.,2015)。まとめると、これらのデータは、BMPシグナル伝達の早期調節が上皮および間充織の両方をパターン形成すること、ならびに間充織パターン形成が上皮の非存在下でさえも安定であることを示唆している。
【0080】
結腸腸内分泌細胞の誘導はBMP2処置オルガノイドに限られている。
【0081】
いくつかのECCサブタイプの発生は、小腸および大腸の特定のセグメントに部域的に制限されている。例えば、タンパク質INSL5の発現は結腸EECに限定されている(Burnicka-Turek et al.,2012、Thanasupawat et al.,2013)。結腸同一性の機能検査として、本発明者らは、結腸EECマーカーであるINSL5の実験的誘導が、BMP2処置遠位オルガノイドに限定されるかどうかを決定した。これを行うために、本発明者らは、すでに記載したように(McCracken et al.,2017、McCracken et al.,2014)、ドキシサイクリン(DOX)誘導性NEUROG3発現カセットを有するiPSC株を用いて前内分泌転写因子NEUROG3を誘導発現させた(図4A)。本発明者らは、培養物において6時間のDOXパルスを行い、追加の7日間の後、CHGA陽性細胞によって測定されるようにEECの強い誘導を観察した(図4B~I)。しかしながら、本発明者らは、BMP2処置オルガノイド中のINSL5陽性細胞のみを観察し、これをQPCR分析によって確認した(図4C~H、J)。INSL5発現細胞が結腸内にのみ存在することを考えると、本発明者らのデータは、BMP2処置オルガノイドが結腸運命に機能的に関与していることを強く示唆している。SATB2、MUC5BおよびHOXA13のような遠位マーカーの発現ならびに結腸特異的ECCを作製する応答能は、BMP2処置オルガノイドが結腸であり、したがってヒト結腸オルガノイド(HCO)と称されるであろうという結論を支持する。
【0082】
パターン形成したオルガノイドの部域的同一性は生体内で維持されている。
【0083】
マウスおよびヒト胎児腸管の先行研究は、腸管の異なる部域の部域同一性および組織形態が免疫無防備状態マウスにおける同所性移植および成長の後で維持されていることを実証してきた(Duluc et al.,1994、Savidge et al.,1995)。試験管内でパターン形成されたHIOおよびHCOが部域的同一性を維持し、小腸および大腸の組織へと成長するかどうかを決定するために、本発明者らは、HIOおよびHCOをマウス腎被膜下に6~10週間移植し、本発明者らは、小腸組織へのHIO成熟における結果をすでに実証した(Watson et al.,2014)。本発明者らは、ノギンおよび対照HIOの生着がHCOよりも効率的であることを観察した(図12A)。それらの部域的同一性と一致して、移植したHIOおよびHCOは、それぞれ形態的に小腸または大腸のいずれかに形態学的に似た成熟組織へと発達した(図5A~E)。ノギンおよび対照オルガノイドの上皮は、ヒト小腸に匹敵する、十分に定義された陰窩および長い絨毛を形成した。対照的に、BMP2処置オルガノイドは、陰窩を含有していたが、結腸と同様に絨毛を欠失していた。
【0084】
小腸または大腸のいずれかに対する形態学的類似性に加えて、移植されたHIOおよびHCOは異なる部域マーカーを発現し、部域的に豊富な細胞型を含有した。例えば、ノギンおよび対照HIOの上皮の大部分は、近位マーカーであるGATA4を発現し、大腸マーカーであるSATB2を発現しなかった(図5F~I、K~N、図12B~E)。逆に、HCO上皮は、一様にSATB2+であったがGATA4を発現しなかった(図5J、0、図12B~E)。加えて、DEFA5を発現するパネート細胞は、ノギンおよび対照HIOの陰窩に存在したが、ヒト結腸と同様に(Wehkampら、2006)、HCOは非存在であった(図5P~T、図12F)。本発明者らはさらに、HCOの杯細胞のサブセットによって発現するがノギンまたは対照HIOにおいては検出できない結腸杯細胞マーカーであるMUC5B(van Klinken et al.,1998)を用いてHCOの結腸同一性を確認した(図5U~Y、図12G)。加えて、MUC2+杯細胞の数は、ヒト結腸において見られる杯細胞の存在量と一致するHIOと比較してHCOにおいて非常に多かった(図12H~L)。パターン形成マーカー、MUC5B発現杯細胞の存在、およびパネート細胞の非存在はすべて、移植されたHCOが結腸上皮を有するという結論を支持する。
【0085】
生体内で成熟したHIOおよびHCOは、部域的腸内分泌ホルモンを発現する。
【0086】
消化管の異なる部域に認められる少なくとも12の主要なEECサブタイプがあり、本発明者らは、部域的EECの存在についてHIOおよびHCOを分析した。グレリンおよびモチリンは主として近位腸において認められ、対応してこれらのホルモンは主としてノギンおよび対照HIOにおいて発現したがHCOでは発現しなかった(図6A~D)。同様に、小腸のK細胞においては認められるが結腸においては非存在であるGIPは、ノギンおよび対照HIOにおいては認められたが、HCOにおいては認められなかった(図6E~H)。次に、本発明者らは、結腸においてより豊富であるGLP-1およびPYYの発現について分析することによって、HCOにおける遠位に濃縮されたEECの存在を検討した。本発明者らは、HIOにおけるよりもHCOにおいてより多数のGLP-1細胞およびPYY細胞ならびに多量のプレプログルカゴンおよびPYYの発現を観察した(図61~P)。加えて、本発明者らは、HCOにおいてのみ(図6Q~T)、結腸特異的ホルモンであるINSL5の発現を認めた(Burnicka-Turek et al.,2012、Thanasupawat et al.,2013)。
【0087】
試験管内および生体内でのHIOおよびHCOにおける幹細胞および前駆細胞の分析。
【0088】
試験管内由来のHIOおよびHCOが幹細胞および前駆細胞のマーカーを発現するかどうかを決定するために、本発明者らは、すでに記載されているH9-BAC-LGR5-eGFPトランスジェニック株(McCracken et al.,2014、Watson et al.,2014)を使用した。オルガノイドにおけるLGR5-eGFP発現の検討は、胎生13.5日という早い時期にLgr5-eGFPマウスにおける発現パターンと同様の広範な上皮ドメインにおける発現を明らかにした(Shyer et al.,2015)(図13A、B、F、G、K、L)。GFP+ EPCAM-細胞の集団を明らかにした組織学的性質およびFACS分析によって決定されるように、GFP発現はオルガノイドの上皮の外側でも明白であった(データ非表示)。加えて、本発明者らは、胎児および成体の腸における前駆細胞のマーカーであるSOX9の発現を検討し、それがHIOおよびHCOの両方の上皮において発現することを認めた(図13C~E、H~J、M~0)。これらのデータは、LGR5-eGFPおよびSOX9によって標識される胚性/胎児性腸管前駆細胞が試験管内でHIOおよびHCOに存在することを示唆している。
【0089】
腸管発生の後期段階において、前駆細胞は発生中の絨毛の基部に限局されるようになり、そこで当該前駆細胞は最終的にLieberkuhnの陰窩の腸幹細胞(ISC)に寄与するであろう。本発明者らは試験管内で観察した前駆細胞がこのこの発生上の移行を経験するかどうかを決定するために、本発明者らは、HIOおよびHCOを移植し、LGR5-eGFP、SOX9、およびKI67タンパク質を監視した。生体内でのオルガノイドの成熟に続いて、本発明者らは、LGR5-eGFP、SOX9、およびKI67を基部推定陰窩に限局して観察した(図13P~X)。加えて、SOX9は、これらの細胞型におけるSOX9発現と一致して、HIOの絨毛において、および結腸上皮移植HCOのカフにおいて、EECにおいても観察された。Sox9およびLgr5がマウスにおいてエンテロイドおよびコロノイドを形成することができる腸幹細胞および結腸幹細胞を標識することを考えると(Gracz et al.,2010、Ramalingam et al.,2012)、移植したオルガノイドの上皮を単離して、エンテロイドおよびコロノイドを作製するために使用することができるかどうかを調べた。HIOおよびHCOの両方が、成長し継代することができる上皮オルガノイドの培養物を生じた(図13Y~A’)。その上、HCO由来上皮培養物は結腸マーカーであるCKB、FXYD3、SATB2、およびHOXB13を発現したが、近位小腸マーカーであるPDX1またはGATA4を発現せず、部域的同一性が維持されていることを示唆した(図13B’~D’)。これらのデータは、生体内で成長したHIOおよびHCOが前駆細胞および幹細胞を含有していることを示唆している。
【0090】
HIOとHCOのグローバルな転写分析
HIOおよびHCOの部域的同一性および成熟を広範に調べるために、本発明者らは、生体内で成長したHIOおよびHCOのRNA配列分析を実施し、それらをヒト胎児および成体の小腸および大腸の公表データセットと比較した。主成分分析は、成体および胎児の腸から単離された初代組織が主成分1(PC1)軸に沿ってまとまって密集することを明らかにし、これは試料間の累積的な変動の36.5%を占めた(図14A)。GO分析は、この変動が初代組織においてのみ存在し、PSC由来移植片には存在しない細胞型によるものであることを明らかにした。例えば、ヒトの初代組織には存在し、移植片には非存在である上位10の生物学的過程のうち6つは免疫細胞と関連していた(図14B~C)。第2の主成分(PC2)は、累積変動の17.7%を占め、成熟により試料を分離する(図7A)。この成分は、移植されたオルガノイドがヒト胎児腸管および胎児結腸よりも成熟しているが、成体の結腸および腸管ほど成熟していないことを明らかにした。第3の主成分(PC3)は累積変動の6.7%を占め、部域的同一性により試料を分離し、HCOが結腸により類似しているのに対し、HIOは小腸と密集していることを示す(図7A)。興味深いことに、ヒト胎児試料は部域同一性(小腸対結腸)に基づいて密集しておらず、これらの試料が消化管の指示された領域からはっきりと分離されていなかったかもしれないことを示唆した。
【0091】
本発明者らは次に、HIOおよびHCOが小腸および結腸の部域特異的遺伝子発現の類似パターンを共有する確率を決定するために超幾何平均検定を使用した(図7B)。結腸またはBMP2処置HCOと比較して、合計341個の転写産物が小腸においておよびノギン処置HIOにおいて発現し、その比率は偶然だけでは極めてありそうもない(P=1.5×10-143)。同様に、対照HIOにおいて上方調節されている遺伝子セットは、成体結腸と比較して成体小腸において上方調節されている遺伝子セットと非常に有意な程度の類似性を共有する(P=2.5×10-203)。逆に、HCOにおいて上方調節されている遺伝子セットは、小腸と比較して結腸において上方調節されている遺伝子が非常に豊富である(それぞれP=4.1×10-53およびP=6.0×1073)。この分析は、HIOパターン形成がヒト小腸に最も類似しており、HCOパターン形成が結腸であると結論付けた。HIO(NOGおよび対照処置)およびHCOの性質をさらに探究するために、本発明者らは差次的発現分析(成体小腸対成体結腸、HIO対HCO)を行った。本発明者らは、4方向散布図を作成し、結腸において上方調節された高い比率の遺伝子がHCOにおいても上方調節され、小腸において上方調節された遺伝子の大部分がHIOにおいても上方調節されていることも実証した(図7C、表1)。最後に、豊富な生物学的過程の分析は、成体の結腸および移植されたHCOが非常に活発なWntシグナル伝達および類似のHOXコードを有することを明らかにした(図7D)。まとめると、これらのデータは、本発明者らがPSCをヒト結腸組織に区別するための確固たる方法を開発したことを示唆する。
【0092】
表1遺伝子は成体小腸および結腸において上方調節され、これらはそれぞれHIOおよびHCOにおいても上方調節されている。第1列、NOG HIO対HCOおよび成体小腸対成体結腸において一般に上方調節、第2列、対照HIO対HCOおよび成体小腸対成体結腸において一般に上方調節、第3列、HCO対NOG HIOおよび成体結腸対成体小腸において一般に上方調節、第4列、HCO対対照HIOおよび成体結腸対成体小腸において一般に上方調節
【表1】
【0093】
考察
歴史的に、前腸、中腸、および後腸の分類は、前後の腸門脈の発達および腸間膜の血液供給源に基づいている(Uppal et al.,2011)。中腸および後腸の代替的な定義が提案されてきており、中腸は臍よりも前側の部分に由来する腸の部分であり、後腸は臍よりも後側に由来する(Johnston,1913、Savin et al.,2011)。いずれの場合においても、解剖学的ランドマークへの歴史的な依存、ならびに前部、中部および後腸を区別するためのより精確な分子マーカーの欠如は、PSCからこれらの細胞/組織を試験管内で作製する方法を開発することを困難にしてきた。それゆえ、発達中の中腸部域と後腸部域を明確に区別するマーカーの同定が不可欠である。
【0094】
本発明者らは、CDX2、GATA4、ONECUT1およびSATB2の組み合わせを使用して、ゼノパス(Xenopus)、マウスおよびヒトにおける中腸および後腸の発生の初期段階で明確な分子レベルの境界が確立されることを同定した。興味深いことに、GATA4およびSATB2発現ドメインは、マウスの卵黄茎/推定臍帯で境界を形成し、この境界は発生中全体において成体腸において維持される。GATA4発現が臍よりも前側の腸を標識し、SATB2発現が臍よりも後側のドメインを標識するという事実は、臍が中腸と後腸との間の境界であることを示唆している(Johnston,1913、Savin et al.,2011)。
【0095】
HIOにおけるONECUT1発現およびSATB2発現は、HCOが、それぞれ近位および遠位の同一性と一致していることであるが、GATA4は、その胚発現を考えて予想されるであろうほど試験管内で近位HIOにおいて頑強に発現することはなかった(データ非表示)。対照的に、GATA4は、HIOの生体内成熟後に患者の生検から作製されたエンテロイドにおいて強く発現した(データ非表示)。このことは、GATA4の発現に関与する因子が培養条件において非存在であること、または生体内での成熟がGATA4の上皮発現に必要とされることを示唆し得る。このデータは、正常なワンカット因子発現を保持している腸Gata4ノックアウトマウスと一致して、高レベルのGATA4発現が腸の早期部域化には不要であり得ることも示唆している(Battle et al.,2008)。加えて、BMP処置オルガノイドの小さなサブセットは、CDX2発現を喪失し、膀胱マーカーであるケラチン13およびウロプラキン1aの発現を活性化した(データ非表示)。尿路上皮組織は後腸/クロアカに由来するので、このことは後腸運命を有するBMPオルガノイドと一致する(Georgas et al.,2015)。
【0096】
SATB2は遠位回腸および大腸の発生を通して発現するが、SATB2が遠位腸の発生に必要であるかどうかは知られていない。SATB2の突然変異が2q32-q33欠失およびグラス症候群と関係する口蓋裂に関係づけられていることから、マウスノックアウト研究は頭蓋顔面および皮質ニューロンの発達に焦点を当ててきた(FitzPatrickら,2003)。しかし、SATB2がヒトの結腸生理学的性質に役割を担っているかもしれないという間接的な証拠がある。SATB2は、ゲノム規模会合試験において潰瘍性大腸炎感受性遺伝子として同定されている(McGovern et al.,2010)。加えて、SATB2発現の喪失は大腸癌患者における予後不良に関連することが示されている(Eberhard et al.,2012)。HCOを用いた将来の研究は、発生中の結腸におけるSATB2標的の同定を可能にし得、このことは潰瘍性大腸炎および大腸癌の病理学への洞察を提供し得る。
【0097】
モデル生物におけるいくつかの研究は、後腸発生の間の内胚葉のパターン形成におけるBMPシグナル伝達経路を含意している(Kumar et al., 2003、Roberts et al., 1995、Sherwood et al., 2011、Tiso et al., 2002、Wills et al., 2008)。これと一致して、BMPの阻害はWNTおよびFGFが後部内胚葉の運命を促進する能力を無効にするので、本発明者らは、ヒト胚体内胚葉の後部パターン形成がBMPシグナル伝達に依存することを実証した(McCracken et al.,2014)。しかしながら、BMPシグナル伝達が腸の発生中に他の一時的に異なる役割を担うことは驚くことではない。例えば、近位-遠位部域ドメインの確立後、BMPシグナル伝達は腸および結腸において陰窩-絨毛軸を確立するように機能する(Li、2005)。したがって、パターン形成のための一時的な必要条件は、ショウジョウバエ(Drosophila)中腸において報告されているように、胚が多目的腸発生のために同じシグナル伝達経路を使用することを可能にする(Driver and Ohlstein,2014、Guo et al.,2013)。ヒトの疾患の脈絡において、BMPR1Aにおける突然変異は若年性ポリポーシス症候群患者のサブセットと関係している。HCOシステムは、開発初期の間にBMPの下流にあるHOXコードを同定するのに非常に適しており、BMPR1A突然変異を有する過誤腫性ポリープがHOX遺伝子発現を変化させたかどうかを決定することは興味深くあり得る。
【0098】
本発明者らは以前、小腸であるHIOの試験管内定方向分化および生体内移植を報告した(Spence et al.,2011、Watson et al.,2014)。大腸に影響を及ぼす独特の生理学的性質および病理学的条件を考えると、結腸に特異的な病態生理学的問題を調べるために結腸モデル系を開発することが不可欠であった。発生上、この系は部域的同一性がどのように確立されているかについての基本的な質問を調査する機会を提供する。HIOおよびHCOは、HIO内のパネート細胞およびHCO内の結腸特異的杯細胞のような独特の細胞型を発達させる。その上、HIOおよびHCOにはそれぞれ小腸および大腸が通常豊富な異なるセットのEECを有する。部域化したオルガノイドは、腸の異なる部域がどのようにして、部域化した幹細胞を生じるのかについての将来の研究のための基盤を提供するはずである。加えて、HCOの生成は、潰瘍性大腸炎および大腸癌のような結腸に影響を及ぼす疾患のモデル形成を可能にするであろう。
【0099】
材料および方法
動物。8~16週齢の免疫不全NOD-SCID IL-2Rynu"(NSG)マウスを移植実験に用いた(オハイオ州シンシナティ市のComprehensive Mouse and Cancer Core Facilityから入手)。野生型マウスをマウス胎児腸管に関する研究に使用した。すべてのマウスは、シンシナティ子供病院医療センター(CCHMC)の動物施設において飼育した。すべての実験は、CCHMCの施設内動物管理使用委員会の承認を得て行った。
【0100】
カエルおよびマウスの胚におけるBMP阻害。ゼノパス・トロピカリス(Xenopus tropicalis)の胚培養および小分子処置をすでに記載されたように行った(Rankin et al.,2012、Rankin et al.,2015)。DMH-1(Sigma D8946)をDMSO中に溶解し、20pMの終濃度で使用し、等濃度のDMSOビヒクルを同胞胚に使用した。分析したマーカーに対して同様の効果で阻害剤処置実験を2回繰り返した。ゼノパス(Xenopus)生体内原位置ハイブリッド形成分析のために、線状化全長cDNAプラスミドテンプレート(X.tropicalis satb2はATCCから購入し、クローン7720194、HinDIII、プローブ用T7、X.laevis satb2は、コロラド大学ボルダー校のTyler SquareおよびDaniel Medeirosのための贈呈品であり、Xbal、Sp6はプローブ用)を用いてDIG標識アンチセンスRNAプローブを作製した。プローブ合成および生体内原位置ハイブリッド形成プロトコルを記載した完全な詳細は、Xenbase(hftp://wiki.xenbase.orq/xenwiki/index.php/Protocols)で入手可能である。
【0101】
マウス全胚培養のために、胎生7.5日胚を、HamのF12培地とN-2補充物(Invitrogen)を含有する全胚培養ラット血清(Harlan Labs)との1:1混合物中で培養した。容器をローラー培養装置(BTC Engineering、英国ケンブリッジ)上に置き、37℃で2日間維持し、20%の02および5%CO2を通気した。DMSOをビヒクル対照として用いて、5pMのDMH-1を用いた処置によりBMPシグナル伝達を阻害した。
【0102】
ヒト中腸/後腸スフェロイドの作製ヒト腸オルガノイドは、すでに記載されたように作製および維持した(Watson et al.,2014)。ヒト胚性幹細胞および人工多能性幹細胞を、マトリゲル(基底膜マトリックス(BD Biosciences))でコーティングした6ウェルNunclon表面プレート(Nunc)中、フィーダー非含有条件下で成長させ、mTESR1培地(Stem Cell Technologies)中で維持した。胚体内胚葉(DE)の誘導のために、ヒトES細胞またはiPS細胞をAccutase(Invitrogen)で継代し、マトリゲルでコーティングしたNunclon表面24ウェルプレートに1ウェルあたり100,000個の細胞密度で播種した。Accutase分割細胞については、初日に10pMのY27632化合物(Sigma)を培地に添加した。初日の後、培地をmTESR1に交換し、細胞をさらに24時間成長させた。次に、細胞を100ng/mLのアクチビンAで3日間、すでに記載されたように処置した(Spence et al.,2011)。次に、DEを後腸誘導培地(RPMI1640、2mMのL-グルタミン、2%脱補完FBS、ペニシリン-ストレプトマイシンおよび100ng/mLのアクチビンA)で、中後腸スフェロイドの形成を誘導するための500ng/mLのFGF4(R&D)および3pMのChiron99021(Tocris)とともに4日間処置した。
【0103】
HIOおよびHCOへの中腸/後腸スフェロイドのパターン形成。スフェロイドを24ウェルプレートから収集し、そしてマトリゲル(BD)中に播種した。近位のHIOを作製するために、100ng/mLのEGF(R&D)のみ、または100ng/mLノギン含有の100ng/mLのEGF(R&D)を補充した腸成長培地(応用DMEM/F-12、N2、B27、15mMのHEPES、2mMのL-グルタミン、ペニシリン-ストレプトマイシン)でスフェロイドを覆った。HCOを作製するために、スフェロイドを100ng/mLのEGFおよび100ng/mLのBMP(R&D)で覆った。SHH実験のために、1μMのSAG(Tocris)、5μMのSAGまたは2.5μMのシクロパミン(Tocris)を、RNA試料を収集した後の最初の3日間、対照培地に添加した。すべてのパターン形成条件について、培地中にEGFのみを維持しながら、培地を3日で交換した。次に、培地をその後週2回交換した。HIOおよびHCOを14日ごとに新鮮なマトリゲルに再播種した。
【0104】
ニューロゲニン3誘導株の作製。ドキシサイクリン誘導性NEUROG3株を作製するために、本発明者らは、IPSC72.3細胞にpINCUDER21 - NEUROG3レンチウイルスを形質導入し、250μg/mLのG418を用いて選択した。IPSC72.3細胞株および誘導性NEUROG 3の両方はすでに記載されている(McCracken et al.,2014)。安定して形質導入された細胞を中/後腸スフェロイドに分化させ、次にHIOまたはHCOへとパターン形成した。スフェロイドを28日間成長させ、0.5μg/mLのドキシサイクリンで8時間刺激した。35日後に、オルガノイドを収集し、QPCRおよびIFによって分析した。
【0105】
オルガノイド間充織の成長24ウェルプレートの底部に付着するオルガノイドからの間充織細胞は2次元で付着し成長する。間充織細胞をオルガノイドから増殖させるために、DMEM 10%FBS+L-グルタミン+ペニシリン-ストレプトマイシンをウェルに添加し、そこからオルガノイドを14日後に収集した。ほぼ100%のコンフルエンスに達するまで、培地を週2回、合計2~3週間交換した。
【0106】
ヒト腸オルガノイドの移植NSGマウスを抗生物質含有餌(275ppmのスルファメトキサゾールおよび1,365ppmのトリメトプリム(試験食))で飼育した。手術の前後で食餌および水は自由に提供した。試験管内で28日間成熟させた単一のHIOをマトリゲルから取り出し、冷リン酸緩衝塩類溶液(DPBS; Gibco)で洗浄し、手術の12時間前に精製I型コラーゲン(ラット尾部コラーゲン(BD Biosciences))に包埋して、凝固したゲルプラグの形成を可能にした。次に、これらのプラグを、100ng/mLのEGFを補充した腸管成長培地(応用DMEM/F-12、B27、15mM HEPES、2mMのL-グルタミン、ペニシリン-ストレプトマイシン)(R&D)中で一晩、標準成長培地に入れた。次に、以前報告されたように(Watson et.,2014)、HIOを腎被膜下に移植した。簡単に説明すると、マウスを2%吸入イソフルラン(Butler Schein)で麻酔し、次にマウスの左側をイソプロピルアルコールおよびポビジン-ヨウ素で、無菌様式で準備した。腎臓を露出させるために小さな左後肋骨下切開部を作製した。莢膜下ポケットを作製した後、コラーゲン包埋HIOをポケットに入れた。次に、腎臓を腹膜腔に戻し、マウスにゾシン(100mg/kg(Pfizer Inc.))の腹腔内洗浄をさっと与えた。皮膚を二重層で閉じ、マウスにBuprenex(0.05mg/kg(Midwest Veterinary Supply))を皮下注射した。生着後8~10週間で、マウスを次に人道的に安楽死させるか、またはさらなる実験に供した。
【0107】
組織加工、免疫蛍光および顕微鏡検査。組織の大きさに応じて、組織を氷上の4%パラホルムアルデヒド(PFA)中で1~3時間固定した。オルガノイドおよび移植片生着物をOCTで凍結した。ロバ血清(1×PBS+0.5%Triton-X中5%血清)を用いてOCT切片を30分間ブロッキングし、1次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。次にスライドを1×PBS+0.5%Triton-Xで3回洗浄し、ブロッキング緩衝液中にDAPIを含有する2次抗体中、室温で2時間インキュベートした。抗体およびそれぞれの希釈物のリストについては表2を参照されたい。次にスライドを1×PBS+0.5%Triton-Xで2回洗浄したのに続いて1×PBSで最終洗浄を行った。次に、カバーガラスをFluoromount-G(登録商標)(SouthernBiotech)を用いてマウントした。画像をNikon Al焦点顕微鏡で捕捉し、Imaris Imaging Software(Bitplane)を用いて解析した。全載染色のために、組織を上述と同様に加工し、次にMurrayの溶液で清澄化した。撮像は、Nikon Al共焦点顕微鏡を用いて行った。
【0108】
【表2】
【0109】
免疫蛍光画像の定量化胚全体の画像定量化は、画像を別々のチャネルに分割し、次いでImageJ(NIH)を用いて画素面積を測定することによって行った。画素面積を各チャネルについて決定し、チャネル間の比率を決定し、対照処置胚についての比率を100として表した。試験管内および生体内で成長させたオルガノイドの定量化は、先に説明したように、切片上で行い、そこから画像を捕捉した。CDX2、GATA4およびSATB2陽性核の数は、ヒト生検試料を用いた較正後の[marlsにおけるスポット関数を用いて定量化した。
【0110】
RNAの単離およびQPCR製造元のプロトコルにより、Nucleospin(登録商標)RNA抽出キット(Macharey-Nagel)を用いてRNAを抽出し、Superscript VILO(Invitrogen)を用いてcDNAへと逆転写した。QPCRプライマーは、qPrimerDepotウェブ系ツール(primerdepot.nci.nih.gov)を使用して設計した。プライマー配列を表3に列挙する。QPCRは、Quantitect SYBR(登録商標)Green PCRキット(Qiagen)およびQuantStudio(商標)6 FlexリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を使用して実施した。
【0111】
【表3】
【0112】
大腸マーカーとしてのSATB2の同定
大腸のマーカーを同定するために、本発明者らはまず、GNCPro http://gncpro.sabiosciences.comigncpro/expression_grapherphpを使用して、東京大学データベースに基づいて(他の組織と比較して)結腸において上方調節された転写因子を同定した。この検索に基づいて、SATB2は結腸において6番目にランク付けされた遺伝子であった。SATB2が結腸において実際に上方調節されていることを検証するために、本発明者らはTiGERデータベース(hftp://bioinfo.wilmer.ihu.edu/tiger/db gene/SATB2-index.html)を用いてSATB2発現を検索した。結腸におけるSATB2の発現をさらに確認するため、および多数の組織にわたるタンパク質発現を検討するために、本発明者らはHuman Protein Atlas(http://www.proteinatlas.org/search/satb2)を使用した。同様の手法を用いて大腸/結腸の他のマーカーを同定した。
【0113】
公共RNA配列受入番号成体の小腸および大腸のRNA配列データは公共のデータベースE-MTAB-1733からダウンロードした。これらのデータセットは、上皮層と筋肉層を含む器官組織全体を表す。小腸試料の受入番号:ERR315344、ERR315381、ERR315409、ERR315442、ERR315461。大腸試料の受入番号:ERR315348、ERR315357、ERR315484。図9Bについて、加工されたFPKMデータは、https://qithub.com/hilldr/Finkbeiner StemCellReports2015からダウンロードされた。これらのデータは、成体の十二指腸(ERS326992、ERS326976)およびE-MTAB-1733由来の先に列挙された小腸試料、およびGSE18927由来のヒト胎児腸試料(器官全体も)を含む。ヒト胎児小腸についての受入番号は、GSM1059508、GSM1059521、GSM1059486、GSM1059507、GSM1059517、GSM1220519である。図9Cについては、データはGEO受入GSE66749プラットフォームGLP5175から得た。以下の試料、すなわち、GSM1385160、GSM1385161、GSM1385162、GSM1385163、GSM1385164、GSM1385165、GSM1385166、GSM1385167、GSM1385168、GSM1385169、GSM1385170、GSM1385171、GSM1614646、GSM1614646を使用した。試料の値は、GEO2Rの「特性グラフ」機能を使用し、それらのID番号(それぞれ3086100および2594089)によってGATA4およびSATB2を検索して決定した。
【0114】
RNA配列の配列集合量の推定RNAライブラリー構築およびRNA配列決定は、Illumina HiSeq 2500プラットフォームを使用して、シンシナティ子供病院DNA配列決定コアによって行った。Illumina配列決定実行の品質は、FastQC第0.10.1版http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqcを使用して品質問題(低品質のスコア、過剰に表現されたシーケンス、不適切なGCコンテンツなど)を示し得るデータの特色を識別して、各試料のFASTQデータを分析することによって評価した。QC分析では大きな問題は確認されなかった。本発明者らは、アラインメント、差次的発現分析、および分析後診断のためにソフトウェアパッケージTuxedo Suiteを使用した。簡潔には、本発明者らは、TopHat第2.0.13版およびBowtie第2.2.5版を使用して、参照トランスクリプトーム(UCSC hg19)に対する読み取りを整列させた(Langmead et al.,2009)。本発明者らは、読み取り整列の正確さを最大限にするための「-b2-非常に感度が高い」、ならびに「-非網羅検索」および既知の転写産物に対して読み出されたマッピングを限定する「-非新規接合」を除いて、整列に既定値パラメータ設定を用いた。RNA存在量の推定にはCufflinks第2.2.1版(Trapnell et al.,2012)を使用した。UCSC hgl9.faを参照ゲノム配列として使用し、UCSC hgl9.gtfをトランスクリプトームアノテーションに使用した。本発明者らは、カフスリンクにおいて次のパラメータ、すなわち、1つを超える遺伝子座においてマッピングする読み取りのための発現計算を調整するための「-多重読み取り補正」、ならびに発現値の正規化のための「-比較可能なヒット-ノルム」および「-上位四分位数-ノルム」を適用した。正規化したFPKM表はCuffNorm関数を使用して作成した。RNA配列集合および転写分析は、64ビットのDebian Linux安定バージョン7.10(「Wheezy」)プラットフォームを使用して行った。
【0115】
差次的発現分析
すべてのプロットと統計分析はRバージョン3.3.1(2016-06-21)で行った。プロットはRパッケージ’ggplot2’(Ginestet、2011)を用いて作成した。Rパッケージ’SeqRetriever’’SeqRetriever’バージョン0.6 https://github.com/hilldr/SeqRetrieyerを使用して、Cufflinks出力の差次的発現分析および統計的検定を完了した。超幾何平均検定を用いて、Rパッケージ’GeneOverlap’http://shenlab-sinai.cithub.io/shenlab-sinai/を使用して、群間で共有遺伝子発現シグネチャの相対量を評価した。完全なRNA配列FASTQ加工パイプラインおよび解析スクリプトは、https://qithub.com/hilldr/Munera2016で入手可能である。
【0116】
参考文献
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【0193】
他に指示がない限り、パーセンテージおよび割合はすべて重量で計算される。すべてのパーセンテージおよび割合は、特に指示がない限り、組成物全体を基準にして計算される。
【0194】
本明細書全体を通じて記載されているあらゆる最大数値限定には、それより小さいあらゆる数値限定が、そのようなより小さい数値限定が本明細書に明確に記載されているかのように含まれることを理解すべきである。本明細書全体を通じて記載されるあらゆる最小数値限定は、それよりも大きいあらゆる数値限定を、あたかもこうしたそれよりも大きい数値限定が本明細書に明確に記載されているかのように含む。本明細書全体を通じて記載されるあらゆる数値範囲は、こうしたより広い数値範囲内に入る、それよりも狭いあらゆる数値範囲を、あたかもこうしたそれよりも狭い数値範囲がすべて本明細書に明確に記載されているかのように含む。
【0195】
本明細書に開示した寸法および値は、列挙された正確な数値に厳密に限定されるものと理解されるべきではない。むしろ、特に指定されない限り、そのような各寸法は、列挙された値とその値の周辺の機能的に同等の範囲の両方を意味することが意図されている。例えば、「20mm」として開示される寸法は、「約20mm」を意味するものとする。
【0196】
相互参照されるまたは関連特許もしくは出願のいずれも含めた、本明細書に引用されているすべての文書は、明示的に除外される、または特に限定されない限り、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。いかなる文献の引用も、本明細書中で開示または特許請求される任意の発明に対する先行技術であるとはみなされず、あるいはそれを単独でまたは他の任意の参考文献(単数または複数)と組み合わせたときに、そのような発明すべてを教示、示唆、または開示するとはみなされない。さらに、本文書における用語の任意の意味または定義が、参照により組み込まれた文書内の同じ用語の意味または定義と矛盾する場合、本文書におけるその用語に割り当てられた意味または定義が適用されるものとする。
【0197】
本発明の特定の実施形態を例示し説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく他の様々な変更および修正を加えることができることは当業者には明らかであろう。したがって、本発明の範囲内にあるそのようなすべての変更および修正を添付の特許請求の範囲で網羅することを意図している。
【0198】
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
【配列表】
0007464652000001.app