(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】オープンシールド機を用いた地下構造物の施工法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
E21D9/06 331
(21)【出願番号】P 2022131645
(22)【出願日】2022-08-22
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000189903
【氏名又は名称】植村 誠
(73)【特許権者】
【識別番号】501200491
【氏名又は名称】植村 賢治郎
(74)【代理人】
【識別番号】100078695
【氏名又は名称】久保 司
(74)【代理人】
【識別番号】100186864
【氏名又は名称】尾関 眞里子
(72)【発明者】
【氏名】植村 誠
(72)【発明者】
【氏名】植村 賢治郎
(72)【発明者】
【氏名】竹川 廣明
(72)【発明者】
【氏名】日浦 正一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 元晶
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第5639213(JP,B2)
【文献】特許第5960784(JP,B2)
【文献】特許第2668648(JP,B2)
【文献】実開昭54-63904(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用するオープンシールド機は、機体をフロント部、ジャッキ部、テール部となる第1、第2、第3の分割体ブロックとし、フロント部とジャッキ部とを第1の推進・牽引ジャッキで連結し、ジャッキ部とテール部とを第2の推進・牽引ジャッキで連結し、フロント部は、ジャッキ部とテール部の自重と土圧による摩擦抵抗を反力にして前進させ、ジャッキ部は、
フロント部とテール部の土圧と自重を反力に、前記第1の推進・牽引ジャッキは縮小、第2の推進・牽引ジャッキは伸長させることにより前進させ、テール部は、第2の推進・牽引ジャッキを作動してフロント部とジャッキ部の分割体ブロックを反力として第2の推進・牽引ジャッキで前方に牽引して前進させるものであり、
第1工程としてこのオープンシールド機を使用して地山を掘削、掘進させ、
第2工程としてオープンシールド機のテール部内に土留H鋼、横矢板を立込んで土留支保工を組立て、
以後、前記第1工程と第2工程の作業を繰り返し、
掘進終了後、土留支保工内の空間部に型枠を組み、場所打ちコンクリートでコンクリート函体を構築することを特徴としたオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法。
【請求項2】
第1工程としてこのオープンシールド機を使用して地山を掘削、掘進させる場合に、掘削土砂はトロバケットで後方に搬出する請求項1記載のオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法。
【請求項3】
土留支保工内の空間部に組む型枠は、コンクリート函体を構築とともに埋め殺す捨て型枠である請求項1または請求項2記載のオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法。
【請求項4】
土留支保工は土留H鋼を矩形に枠組み、この矩形枠組を間隔を存して並列させ、継ボルトを有する鋼管内ばりで連結し、また、矩形枠組間に横矢板を配設した請求項1記載のオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法。
【請求項5】
土留支保工組立後、オープンシールド機のテール部内に砕石を敷設し、その上にベースコンクリートを打設して、土留支保工底部を固定したコンクリート函体用基礎部を構築する請求項4記載のオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープンシールド機を用いた地下構造物の施工法に関する。
【背景技術】
【0002】
オープンシールド工法は、開削工法(オープン工法)とシールド工法の長所を生かした工法で、オープンシールド工法で使用するオープンシールド機について説明すると、下記特許文献にも示すが、基本的には左右の側壁板とこれら側壁板と同程度の長さでその間を連結する底板とからなる、前面、後面及び上面を開口したシールド機である。
【文献】特開2020-200735号
【0003】
図8、
図9に示すように、機体を前後方向で複数に分割し、フロント部2としての前方の機体の後端にテール部5としての後方の機体の前端が嵌入して、相互の嵌合部で屈曲可能としている。
【0004】
フロント部2は主として掘削を行うもので、前端と上面を開放面としてあり、機体内で後部に後方へ向けて中折ジャッキを左右によせ、かつ上下複数段に配設する。
【0005】
これに対してテール部5はコンクリート函体4の設置を行うもので、機体内で前部に後方へ向けて推進ジャッキ(シールドジャッキ)3を左右によせ、かつ上下複数段に配設した。
【0006】
図中9は、フロント部2の前端に設けた可動分割刃口として掘削時に側部の地山崩壊を防止する為のもので、シールド機先端から前方へ伸長させるスライド土留板である。
【0007】
図中10はこのスライド土留板9を動かすスライドジャッキである。
【0008】
前記可動分割刃口としてのスライド土留板9は、先端の刃口を上下の水平方向に複数に分割し、前記スライドジャッキ10で左右の側壁板から前方に突出するスライドボックスによるもので、引き戸形式でオープンシールド機の側壁板の先端部を戸袋としてのボックス収納部に形成してこれに出し入れ自在に収容される。
【0009】
前記フロント部2とテール部5との結合による中折れ部は、方向・勾配修正、曲線施工時に使用する。中折れ部に配設した中折ジャッキによりオープンシールド機1のフロント部2とテール部5を曲げることができる。
【0010】
前記隔壁は、オープンシールド機1前面の掘削部と油圧機器収納部を仕切る為のもので、掘削土砂を押して圧密し、地下水の高い場所や軟弱土の施工の際に役立つ。
【0011】
このようなオープンシールド機1を用いて行うオープンシールド工法の概要を
図10で説明すると、発進坑7内にオープンシールド機1を設置して、オープンシールド機1の推進ジャッキ3を伸長して発進坑内の反力壁8に反力をとってオープンシールド機1を前進させ、地中構造物を形成する第1番目のコンクリート函体4を上方から吊り降し、オープンシールド機1のテール部5で形成されるテール部内で縮めた推進ジャッキ3の後方にセットする。
【0012】
発進坑7は土留壁で構成し、オープンシールド機1を発進させるにはこの土留壁の発進方向前方の土留矢板を撤去して鏡切りするが、必要に応じて薬液注入等で発進坑7の前方部分に地盤改良を施しておくこともある。
【0013】
次いで、ショベル等の掘削機6でオープンシールド機1の前面又は上面から土砂を掘削し、かつ排土する。
【0014】
前記コンクリート函体4の据付は、オープンシールド機1のテール部内にコンクリート函体4を敷設するもので、通常、ラフテレーンクレーンまたはクローラクレーン等の揚重機14を使用することが多く、テール部内底部で計画高を測定し、コンクリートブロック等での高さ調整材を設置し(4箇所)、その上にコンクリート函体4を設置する。
【0015】
テール部内にコンクリート函体4を設置した後、コンクリート函体4に予め設置されてあるグラウトホールからコンクリート函体4の内部よりテール部の内面とコンクリート函体4の外面との空隙に可塑状の裏込注入材15を一次注入充填する。
【0016】
敷設したコンクリート函体4を反力にオープンシールド機1を推進させるには、シールド機内部に配設した推進ジャッキ3により行う。
【0017】
オープンシールド機1の推進に伴って地中に発生するテールボイド(テール部底板及び側板の厚み分)へ、コンクリート函体4のグラウトホールから可塑状の裏込注入材15を二次注入として注入充填する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前記のようにオープンシールド工法は基本的にはコンクリート函体4をオープンシールド機1の前進に伴い縦列に地中に残置し、このように地中に残置したコンクリート函体4に反力をとって前進する。
【0019】
しかし、橋脚下など低空頭部を横断する施工でコンクリート函体4の吊下し設置が困難な場合では反力を取るコンクリート函体4がないのでオープンシールド工法を利用することができない。
【0020】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、低空頭部への構造物の築造が可能であり、場所打コンクリートにてコンクリート函体を製作するので構造物の形状が自由であり、また、コンクリート函体を工場製作するのではないので、コンクリート函体の搬入がなく、クレーン等の重機も不要であるオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するため本発明は第1に、使用するオープンシールド機は、機体をフロント部、ジャッキ部、テール部となる第1、第2、第3の分割体ブロックとし、フロント部とジャッキ部とを第1の推進・牽引ジャッキで連結し、ジャッキ部とテール部とを第2の推進・牽引ジャッキで連結し、フロント部は、ジャッキ部とテール部の自重と土圧による摩擦抵抗を反力にして前進させ、ジャッキ部は、フロント部とテール部の土圧と自重を反力に、前記第1の推進・牽引ジャッキは縮小、第2の推進・牽引ジャッキは伸長させることにより前進させ、テール部は、第2の推進・牽引ジャッキを作動してフロント部とジャッキ部の分割体ブロックを反力として第2の推進・牽引ジャッキで前方に牽引して前進させるものであり、
第1工程としてこのオープンシールド機を使用して地山を掘削、掘進させ、
第2工程としてオープンシールド機のテール部内に土留H鋼、横矢板を立込んで土留支保工を組立て、
以後、前記第1工程と第2工程の作業を繰り返し、
掘進終了後、土留支保工内の空間部に型枠を組み、場所打ちコンクリートでコンクリート函体を構築することを要旨とするものである。
【0022】
第2に、第1工程としてこのオープンシールド機を使用して地山を掘削、掘進させる場合に、掘削土砂はトロバケットで後方に搬出すること、第3に、土留支保工内の空間部に組む型枠は、コンクリート函体を構築とともに埋め殺す捨て型枠であること、第4に、土留支保工は土留H鋼を矩形に枠組み、この矩形枠組を間隔を存して並列させ、継ボルトを有する鋼管内ばりで連結し、また、矩形枠組間に横矢板を配設したこと、第5に、土留支保工組立後、オープンシールド機のテール部内に砕石を敷設し、その上にベースコンクリートを打設して、土留支保工底部を固定したコンクリート函体用基礎部を構築することを要旨とするものである。
【0023】
請求項1記載の本発明によれば、使用するオープンシールド機は前進にコンクリート函体からの推進反力を必要としない自走式のものであり、その中で土留支保工を組み、オープンシールド機が前進した後でも土留支保工内の空間部に型枠を組み、場所打ちコンクリートでコンクリート函体を構築することができるようにしたものである。
【0024】
コンクリート函体をオープンシールド機に下す必要がないので、クレーン等の重機が不要となる。また、土留支保工はオープンシールド機内で組立てることができる簡易なもので済む。
【0025】
請求項2記載の本発明によれば、オープンシールド機掘進のための切羽の掘削はショベル等の小型の重機を使用して行うことができ、掘削土砂はトロバケットで後方に搬出することでダンプトラックその他の搬送車輛も不要である。
【0026】
請求項3記載の本発明によれば、土留支保工内の空間部に組む型枠は、コンクリート函体を構築の捨て型枠であるので、地中における型枠の解体作業が不要である。
【0027】
請求項4記載の本発明によれば、土留支保工は土留H鋼を矩形に枠組み、この矩形枠組を間隔を存して並列させ、継ボルトを有する鋼管内ばりで連結し、また、矩形枠組間に横矢板を配設したもので、地中に杭を打ち込むこともなく、簡単に組み立て及び解体することができる。
【0028】
請求項5記載の本発明によれば、土留支保工はその底部をコンクリート函体用基礎部に固定されるので、自立して安定したものとすることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように本発明のオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法は、低空頭部への構造物の築造が可能であり、場所打コンクリートにてコンクリート函体を製作するので構造物の形状が自由であり、また、コンクリート函体を工場製作するのではないのでコンクリート函体の搬入作業がなく、クレーン等の重機も不要なものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明のオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法の1実施形態を示す縦断側面図である。
【
図2】本発明のオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法の1実施形態を示す縦断正面図である。
【
図3】本発明のオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法の1実施形態を示す平面図である。
【
図6】本発明で使用するオープンシールド機の平面図である。
【
図7】本発明で使用するオープンシールド機の縦断側面図である。
【
図8】一般的なオープンシールド機の概要を示す側面図である。
【
図9】一般的なオープンシールド機の概要を示す平面図である。
【
図10】オープンシールド工法の概要を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の本発明のオープンシールド機を用いた地下構造物の施工法の1実施形態を示す縦断側面図、
図2は同上縦断正面図、
図3は同上平面図で、図中1はオープンシールド機である。
【0032】
先にオープンシールド機1について説明すると、機体を前後方向に複数に分割するものであり、刃口11を先端に有するフロント部1d、ミドル部1e、テール部1fの3つの分割体ブロックに分割した。なお、各ブロックは側壁板同士を梁部材で連結したものである。
【0033】
第1の分割体ブロックであるフロント部1dと第2の分割体ブロックであるミドル部1eとの間に第1の推進・牽引ジャッキ12を、ミドル部1eと第3の分割体ブロックであるテール部1fとの間に第2の推進・牽引ジャッキ13をそれぞれ配設した。これらの推進・牽引ジャッキ12、13には端部を回動自在に軸着するピンジャッキを使用する。
【0034】
一例としてテール部1fは底板なし(梁部材のみで左右の側壁板を連結)、フロント部1dとミドル部1eは底板があるものとする。
【0035】
次に、このようなオープンシールド機1を使用する本発明の地下構造物の施工法について説明する。
【0036】
図中28は発進部で、これは発進坑として土留壁で構成し、オープンシールド機1を発進させるにはこの土留壁を一部鏡切りするが、必要に応じて薬液注入等で発進坑の前方部分に地盤改良を施しておくこともある。図中29は到達部である。
【0037】
発進部28からのオープンシールド機1の発進は、反力鋼材などのよる反力壁を設置し、適宜、ストラットを介在させて、推進・牽引ジャッキ12、13で推進させる。
【0038】
第1工程としてこのオープンシールド機1を使用して地山を掘削、掘進させる。
掘削はバックホウ等の掘削機6を使用してフロント部1dの前方切羽で行う。
【0039】
オープンシールド機1の推進原理は下記の通りである。
【0040】
オープンシールド機1の前進方法は、まずフロント部1dの推進として、ミドル部1eとテール部1fの土圧と自重を反力に、推進・牽引ジャッキ12を伸縮(伸長)させることによりフロント部1dを推進させる。
【0041】
次に、ミドル部1eの推進として、フロント部1dとテール部1fの土圧と自重を反力に、推進・牽引ジャッキ12、推進・牽引ジャッキ13を伸縮(推進・牽引ジャッキ12は縮小、推進・牽引ジャッキ13は伸長)させることによりミドル部1eを推進させる。
【0042】
最後にテール部1fの推進として、フロント部1dとミドル部1eの土圧と自重を反力に、推進・牽引ジャッキ13を伸縮(縮小)させることによりテール部1fを推進させる。前記工程を繰り返してオープンシールド機1を掘進させる。
【0043】
バックホウ等の掘削機6で地山を掘削した土砂はベルトコンベア21でトロバケット22に積込み、後方に搬出する。図中22aはトロ台車レールである。
【0044】
なお、トロ台車レール22aは後述の土留支保工16内を通過し、発進部28に至り、ラフテレーンクレーン30で掘削土砂を吊り上げ、ダンプトラック31で運搬する。
【0045】
前記第1工程の後、第2工程としてオープンシールド機1のテール部1f内に土留H鋼17、横矢板20を立込んで土留支保工16を組立てる。
【0046】
土留支保工16は土留H鋼17を矩形に枠組み、この矩形枠組を間隔を存して並列させ、継ボルト18を有する鋼管内ばり19で連結し、また、矩形枠組間に横矢板20を配設した。
【0047】
また、土留支保工16の組立後、オープンシールド機1のテール部1f内に砕石23を敷設し、その上にベースコンクリート24を打設して、土留支保工16の底部を固定したコンクリート函体用基礎部25を構築する。
【0048】
以後、前記オープンシールド機1を使用して地山を掘削、掘進させる第1工程とオープンシールド機1のテール部1f内に土留H鋼17、横矢板20を立込んで土留支保工16を組立てる第2工程の作業を繰り返し、連続する土留支保工16を構築する。
【0049】
オープンシールド機1が掘進して土留支保工16がオープンシールド機1から出たならば、土留支保工16内の空間部に型枠26を組み、場所打ちコンクリートでコンクリート函体27を構築する。
【0050】
前記型枠26は、コンクリート函体27を構築するとともに埋め殺す捨て型枠であり、コンクリート板、ケイ酸カルシューム板、石膏ボードなどが利用でき、
また、前記コンクリート函体用基礎部25を型枠の一部として利用できる。
【0051】
オープンシールド機1が掘進して到達部29に到達したならば、これを解体し、回収する。
【符号の説明】
【0052】
1…オープンシールド機 1d…フロント部
1e…ミドル部 1f…テール部
2…フロント部 3…推進ジャッキ(シールドジャッキ)
4…コンクリート函体 5…テール部
6…掘削機 7…発進坑
8…反力壁 9…スライド土留板
10…スライドジャッキ 11…刃口
12…推進・牽引ジャッキ 13…推進・牽引ジャッキ
14…揚重機 15…裏込注入材
16…土留支保工 17…土留H鋼
18…継ボルト 19…鋼管内ばり
20…横矢板 21…ベルトコンベア
22…トロバケット 22a…トロ台車レール
23…砕石 24…ベースコンクリート
25…コンクリート函体用基礎部 26…型枠
27…コンクリート函体 28…発進部
29…到達部 30…ラフテレーンクレーン
31…ダンプトラック