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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】大結晶粒凝集体三元正極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240402BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240402BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022140262
(22)【出願日】2022-09-02
(65)【公開番号】P2023036570
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】202111026877.4
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517065404
【氏名又は名称】アモイタングステンニューエナジーマテリアル(アモイ)カンパニーリミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】魏 国禎
(72)【発明者】
【氏名】叶 耀濱
(72)【発明者】
【氏名】王 静任
(72)【発明者】
【氏名】謝 能建
(72)【発明者】
【氏名】王 鵬峰
(72)【発明者】
【氏名】林 琳
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110863245(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110867575(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0317344(US,A1)
【文献】特開2007-257985(JP,A)
【文献】特開2012-252964(JP,A)
【文献】特表2020-501329(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021453(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を混合溶液として調製するステップ、
沈殿剤及び配位剤を前記混合溶液に加え、前記混合溶液のpHを10.5~12に調整し、沈殿させて平均粒子径が5μm≦D50≦9μmである前駆体Aを得るステップ、
前記前駆体Aとリチウム塩とを、ボールミルで混合して、前駆体Bを得るステップ、
空気又は酸素の雰囲気において、前駆体Bを焼結し、この焼結は、3~3.5℃/minの速度で700~800℃まで昇温し、1~6h定温焼結してから、さらに1~10℃/minの速度で900~980℃まで昇温し、8~10h定温焼結するものである、ステップ、
冷却して大結晶粒凝集体三元正極材料を得るステップ、
を備え
そこで、前記大結晶粒凝集体三元正極材料は、化学式がLiNi Co Mn (式中、x+y+z≦1、0.2≦x≦0.8、0.1≦y≦0.3)であり、平均粒子径D50が1μm≦D50≦2.5μmであるニッケルコバルトマンガンリチウム化合物を備え、
冷却後に破砕工程を行わない大結晶粒凝集体三元正極材料の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム塩中のリチウムのモル数をM、前記ニッケル塩中のニッケルのモル数、前記コバルト塩中のコバルトのモル数、及びマンガン塩中のマンガンのモル数の和をNとすれば、M:N=1.05~1.2:1となっていることを特徴とする請求項1に記載の大結晶粒凝集体三元正極材料の製造方法。
【請求項3】
前記沈殿剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、および水酸化リチウムからなる群から選択される1種または複数種であり、
前記配位剤は、エチレンジァミン四酢酸、アンモニア水、クエン酸アンモニウム、エチレンジァミン、酢酸アンモニゥムからなる群より選択される1種または複数種であることを特徴とする請求項1に記載の大結晶粒凝集体三元正極材料の製造方法。
【請求項4】
前記リチウム塩は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウムから選択される1種または複数種であり、
前記ニッケル塩は、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケルから選択される1種または複数種であり、
前記コバルト塩は、硫酸コバルト、塩化コバルト、酢酸コバルト、硝酸コバルトから選択される1種以上であり、
前記マンガン塩は、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、硝酸マンガンから選択される1種または複数種であることを特徴とする請求項1に記載の大結晶粒凝集体三元正極材料の製造方法。
【請求項5】
前記混合溶液は、撹拌中に前記沈殿剤及び前記配位剤を加え、前記撹拌の回転速度が100~800rpmであることを特徴とする請求項1に記載の大結晶粒凝集体三元正極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、リチウムイオン電池技術分野に関し、特に、大結晶粒凝集体三元正極材料製造方法関する。

【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、比容量が高く、サイクル性能が高く、携帯性に優れ、環境汚染が小さい等の利点を有しており、ノートパソコン、携帯電話、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、エネルギー貯蔵電源等の機器に広く使用されている。リチウムイオン電池の正極材料はリチウムイオン電池の核心であり、現在研究が進んだリチウムイオン電池の正極材料には、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、および三元材料などがある。リチウムイオン電池の三元正極材料は、動力電池の主流材料となりつつある。
【0003】
従来、三元正極材料は、主に小粒径の一次粒子が凝集した球状又は球様状の二次粒子であったが、このようなモルフォロジーがある材料は、適用時に解砕する必要があるため、粒子表面のクラッド層が破損し、正極材料と電解液との間の反応が促進され、正極材料の安定性が悪く、サイクル寿命が短くなることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、以上の欠点を解決するために、大結晶粒凝集体三元正極材料の製造方法が求められている。
【0005】
また、前記製造方法による大結晶粒凝集体三元正極材料およびリチウムイオン電池を提供することも必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願は、
ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を混合溶液として調製するステップ、
沈殿剤及び配位剤を前記混合溶液に加え、前記混合溶液のpHを10.5~12に調整し、沈殿させて前駆体Aを得るステップ、
前記前駆体Aとリチウム塩とを、ボールミルで混合して、前駆体Bを得るステップ、
空気又は酸素の雰囲気において、前駆体Bを焼結し、この焼結は、5~15℃/minの速度で400~800℃まで昇温し、1~6h定温焼結してから、さらに1~10℃/minの速度で900~980℃まで昇温し、8~10h定温焼結するものである、ステップ、冷却して大結晶粒凝集体三元正極材料を得るステップ、を備える大結晶粒凝集体三元正極材料の製造方法を提供する。
【0007】
ある実施形態では、前記リチウム塩中のリチウムのモル数をM、前記ニッケル塩中のニッケルのモル数、前記コバルト塩中のコバルトのモル数、及びマンガン塩中のマンガンのモル数の和をNとすれば、M:Nが1.05~1.2となっている。
【0008】
ある実施形態では、前記前駆体Aは、平均粒子径D50≦9μmである。
【0009】
ある実施形態において、前記沈殿剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、および水酸化リチウムからなる群から選択される1種または複数種であり、
前記配位剤は、エチレンジァミン四酢酸、アンモニア水、クエン酸アンモニウム、エチレンジァミン、酢酸アンモニゥムからなる群より選択される1種または複数種である。
【0010】
ある実施形態において、前記リチウム塩は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウムから選択される1種または複数種であり、前記ニッケル塩は、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケルから選択される1種または複数種であり、前記コバルト塩は、硫酸コバルト、塩化コバルト、酢酸コバルト、硝酸コバルトから選択される1種以上であり、前記マンガン塩は、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、硝酸マンガンから選択される1種または複数種である。
【0011】
ある実施形態において、前記混合溶液は、撹拌中に前記沈殿剤及び前記配位剤を加え、前記撹拌の回転速度が100~800rpmである。
【0012】
本出願は、前記製造方法によって得られる大結晶粒凝集体三元正極材料をさらに提供しており、前記三元正極材料は、化学式がLiNiCoMn(式中、x+y+z≦1、0.2≦x≦0.8、0.1≦y≦0.3)であり、平均粒子径D50が1μm≦D50≦2.5μmであるニッケルコバルトマンガンリチウム化合物を備える。
【0013】
本出願は、結着剤および導電剤を含む正極シートを備えるリチウムイオン電池を提供しており、前記正極シートは、さらに、前記大結晶粒凝集体三元正極材料を含む。
【発明の効果】
【0014】
本出願により提供されたニッケルコバルトマンガンリチウム化合物は、共沈法により前駆体粉末を作製し、2段の保温定常期がある焼結法によって製造されており、まず前駆体粉末およびリチウム塩が比較的低温で成長を開始し、結晶粒が成長して大きなサイズの結晶粒を得た後、結晶粒の焼結温度を昇温して、大きなサイズの結晶粒形成材料のモルフォロジー及び構造の安定性をさらに向上してカチオンの混合を低減し、安定な凝集体を形成して、分散して粒子になり、最終的に化学成分が均一な材料を得るものである。本出願による大結晶粒凝集体三元正極材料は、改善された充放電性能、サイクル性能、及び貯蔵性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1~8で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の粒度分布図である。
図2】実施例1および比較例1-2で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の粒度分布図である。
図3】実施例1で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の走査電子顕微鏡画像である。
図4】実施例2で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の走査電子顕微鏡画像である。
図5】実施例3で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の走査電子顕微鏡画像である。
図6】実施例4で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の走査電子顕微鏡画像である。
図7】実施例5で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の走査電子顕微鏡画像である。
図8】実施例6で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の走査電子顕微鏡画像である。
図9】実施例7で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の走査電子顕微鏡画像である。
図10】実施例8で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の走査電子顕微鏡画像である。
図11】比較例1で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の走査電子顕微鏡画像である。
図12】比較例2で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の走査電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。以下、図面を参照して説明した実施例は例示的なものであり、本願発明を解釈するためであり、本願を制限するものではない。
【0017】
本明細書の記載において、「一実施例」、「ある実施例」、「例」、「具体例」、又は「ある例」等の記載は、該実施例又は例に記載された特定の特徴、構造、材料、または特徴が本発明の少なくとも1つの実施例又は例に含まれることを意味する。本明細書において、上記の用語の意味づけは、必ずしも同じ実施例や例を意味するものではない。また、記載された具体的な特徴、構造、材料、または特徴は、いずれかの1つまたは複数の実施例または例において適宜組み合わされてよい。
【0018】
本出願は、以下のステップを含む大結晶粒凝集体三元正極材料の製造方法を提供する。
【0019】
ステップ1は、ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を混合溶液として調製し、均一に攪拌して、沈殿剤及び配位剤を混合溶液に加え、攪拌の回転数を100~800rpmとし、混合溶液のpHを10.5~12に調整し、沈殿させて平均粒子径D50≦9μmである前駆体Aを得る。
【0020】
ステップ1において、前駆体Aの平均粒径が9μmよりも大きいと、粒径の大きい前駆体Aが次のステップで添加したリチウム塩と結合して後の焼成反応を行うと、リチウム塩中のLiが拡散し難くなり、製造された三元正極材料中の単結晶粒子の成長に不利となる。
【0021】
ある実施例において、前記沈殿剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、および水酸化リチウムからなる群から選択される1種または複数種である。前記配位剤は、エチレンジァミン四酢酸、アンモニア水、クエン酸アンモニウム、エチレンジァミン、酢酸アンモニゥムからなる群より選択される1種または2種以上である。
【0022】
ステップ2は、前駆体Aを洗浄し、前駆体A中のアニオンを除去する。
【0023】
ステップ3は、洗浄後の前駆体Aとリチウム塩とを、ボールミルで混合し、リチウム塩中のリチウムのモル数をM、ニッケル塩中のニッケルのモル数、コバルト塩中のコバルトのモル数、及びマンガン塩中のマンガンのモル数の和をNとすれば、M:Nが1.05~1.2となるように前駆体Bを得る。
【0024】
ステップ3において、M:Nが1.05未満であると、得られた正極材料の表面のモルフォロジーが、依然として球状または球様状の二次粒子のモルフォロジーである。M:Nが1.2を超えると、得られた大結晶粒凝集体三元正極材料の単結晶の結晶粒サイズは、4~5μmまでに大きくなると共に、単結晶の結晶粒の表面にある不純物が多くなる。また、得られた三元正極材料も、クッシング(crusting)現象が現れ、リチウム量が増加(すなわちM:Nの割合の増加)するにつれて、クッシング現象が顕著になっている。
【0025】
いくつかの実施例において、上記リチウム塩は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウムから選択される1種または複数種であり、上記ニッケル塩は、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケルから選択される1種または複数種であり、上記コバルト塩は、硫酸コバルト、塩化コバルト、酢酸コバルト、硝酸コバルトから選択される1種以上であり、上記マンガン塩は、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、硝酸マンガンから選択される1種または複数種である。
【0026】
ステップ4は、空気又は酸素の雰囲気において、前駆体Bを焼結し、この焼結は、5~15℃/minの速度で400~800℃まで昇温し、1~6h定温焼結してから、さらに1~10℃/minの速度で900~980℃まで昇温し、8~10h定温焼結し、冷却して前記大結晶粒凝集体三元正極材料を得る。
【0027】
ステップ4において、前駆体Bを2段階で焼結する。そのうち、前駆体Bを、400~800℃の温度で成長を開始させて結晶粒を次第に大きなサイズに成長させ、その後前駆体Bの焼結温度を900~980℃に昇温して、大きなサイズの結晶粒形成材料のモルフォロジー及び構造の安定性をさらに向上させてカチオンの混合を低減し、単結晶様モルフォロジーを有する安定な凝集体を形成して、分散して粒子にし、大結晶粒凝集体三元正極材料を得る。本出願の三元正極材料の適用は、必要な解砕・製粉工程が削減され、生産コストが低減されるだけでなく、三元正極材料の解砕後の安定性に劣るという問題を回避し、サイクル性能を向上させるのに有利である。
【0028】
本出願は、上記製造方法によって得られる大結晶粒凝集体三元正極材料を提供しており、前記三元正極材料は、化学式がLiNiCoMn(式中、x+y+z≦1、0.2≦x≦0.8、0.1≦y≦0.3)であり、平均粒子径D50が1μm≦D50≦2.5μmであるニッケルコバルトマンガンリチウム化合物(ニッケルとコバルトとマンガンとリチウムの化合物)を含む。
【0029】
前記ニッケルコバルトマンガンリチウム化合物の平均粒子径D50が2.5μmよりも大きいと比表面積が小さく、得られるリチウムイオン電池のレート性能が低下してしまう。前記ニッケルコバルトマンガンリチウム化合物の平均粒子径D50が1μm未満であると、その比表面積が大きくなり、得られたリチウムイオン電池のサイクル寿命が短くなる。
【0030】
本出願は、結着剤および導電剤を含む正極シートを備えるリチウムイオン電池を提供し、前記正極シートは、さらに、前記大結晶粒凝集体三元正極材料を含む。
【0031】
以下、本発明の構成を実施例に基づいて説明する。以下の例は、本発明の解釈のためにのみ用いられるものであり、本発明を限定するものとは理解されるべきではない。特に断りのない、以下の実施例に係る試薬、ソフトウェア及び機器は、いずれも通常の市販品またはオープンソースである。
【実施例1】
【0032】
モル比が0.533:0.199:0.268である硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを溶液として調製し、初回のスラリー調製を行って回転速度200r/minで攪拌する。前記溶液に水酸化ナトリウム溶液とアンモニア水を加えてpH12に調整し、沈殿後洗浄して粒径D50が5μmの前駆体Aを得た。ここで、前駆体Aにおけるニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.533:0.199:0.268である。
【0033】
炭酸リチウムと前駆体Aとをモル比Li/(Ni+Co+Mn)で1.09となるように混合し、ボールミルにより均一に混合した。その後、混合物を焼結炉に投入し、焼結炉を3.5℃/minで750℃まで昇温し、定温で4h焼結する。その後、2℃/minで930℃まで昇温し、定温で8h焼結して、最後に室温まで放冷することにより、大結晶粒凝集体三元正極材料のLiNi0.533Co0.199Mn0.268を得た。
【実施例2】
【0034】
モル比が0.524:0.203:0.273である硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを溶液として調製し、初回のスラリー調製を行って回転速度200r/minで攪拌する。前記溶液に水酸化ナトリウム溶液とアンモニア水を加えてpH11.5に調整し、沈殿後洗浄して粒径D50が5μmの前駆体Aを得た。ここで、前駆体Aにおけるニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.524:0.203:0.273である。
【0035】
炭酸リチウムと前駆体Aとをモル比Li/(Ni+Co+Mn)で1.09となるように混合し、ボールミルにより均一に混合した。その後、混合物を焼結炉に投入し、焼結炉を3.5℃/minで780℃まで昇温し、定温で3h焼結する。その後、2℃/minで970℃まで昇温し、定温で10h焼結して、最後に室温まで放冷することにより、大結晶粒凝集体三元正極材料のLiNi0.524Co0.203Mn0.273を得た。
【実施例3】
【0036】
モル比が0.522:0.203:0.275である硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを溶液として調製し、初回のスラリー調製を行って回転速度200r/minで攪拌する。前記溶液に水酸化ナトリウム溶液とアンモニア水を加えてpH11.5に調整し、沈殿後洗浄して粒径D50が5μmの前駆体Aを得た。ここで、前駆体Aにおけるニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.522:0.203:0.275である。
【0037】
炭酸リチウムと前駆体Aとをモル比Li/(Ni+Co+Mn)で1.09となるように混合し、ボールミルにより均一に混合した。その後、混合物を焼結炉に投入し、焼結炉を3.5℃/minで700℃まで昇温し、定温で1h焼結する。その後、2℃/minで900℃まで昇温し、定温で8h焼結して、最後に室温まで放冷することにより、大結晶粒凝集体三元正極材料のLiNi0.522Co0.203Mn0.275を得た。
【実施例4】
【0038】
モル比が0.61:0.195:0.195である硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを溶液として調製し、初回のスラリー調製を行って回転速度200r/minで攪拌する。前記水酸化ナトリウム溶液とアンモニア水を加えてpH12に調整し、沈殿後洗浄して粒径D50が5μmの前駆体Aを得た。ここで、前駆体Aにおけるニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.61:0.195:0.195である。
【0039】
炭酸リチウムと前駆体Aとをモル比Li/(Ni+Co+Mn)で1.08となるように混合し、ボールミルにより均一に混合した。その後、混合物を焼結炉に投入し、焼結炉を3.5℃/minで740℃まで昇温し、定温で2h焼結する。その後、2℃/minで930℃まで昇温し、定温で8h焼結して、最後に室温まで放冷することにより、大結晶粒凝集体三元正極材料のLiNi0.610Co0.195Mn0.195を得た。
【実施例5】
【0040】
モル比が0.532:0.202:0.266である硫酸ニッケル、塩化コバルト、塩化マンガンを溶液として調製し、初回のスラリー調製を行って回転速度250r/minで攪拌する。前記溶液に水酸化ナトリウム溶液とアンモニア水を加えてpH12に調整し、沈殿後洗浄して粒径D50が5μmの前駆体Aを得た。ここで、前駆体Aにおけるニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.532:0.202:0.266である。
【0041】
炭酸リチウムと前駆体Aとをモル比Li/(Ni+Co+Mn)で1.06となるように混合し、ボールミルにより均一に混合した。その後、混合物を焼結炉に投入し、焼結炉を3.5℃/minで720℃まで昇温し、定温で2h焼結する。その後、2℃/minで930℃まで昇温し、定温で8h焼結して、最後に室温まで放冷することにより、大結晶粒凝集体三元正極材料のLiNi0.532Co0.202Mn0.266を得た。
【実施例6】
【0042】
モル比が0.516:0.254:0.23である硫酸ニッケル、塩化コバルト、塩化マンガンを溶液として調製し、初回のスラリー調製を行って回転速度250r/minで攪拌する。前記溶液に水酸化カリウム溶液とクエン酸アンモニウムを加えてpH11.5に調整し、沈殿後洗浄して粒径D50が5μmの前駆体Aを得た。ここで、前駆体Aにおけるニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.516:0.254:0.23である。
【0043】
炭酸リチウムと前駆体Aとをモル比Li/(Ni+Co+Mn)で1.06となるように混合し、ボールミルにより均一に混合した。その後、混合物を焼結炉に投入し、焼結炉を3.5℃/minで800℃まで昇温し、定温で6h焼結する。その後、2℃/minで980℃まで昇温し、定温で10h焼結して、最後に室温まで放冷することにより、大結晶粒凝集体三元正極材料のLiNi0.516Co0.254Mn0.230を得た。
【実施例7】
【0044】
モル比が0.606:0.195:0.199である硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸マンガンを溶液として調製し、初回のスラリー調製を行って回転速度250r/minで攪拌する。前記溶液に炭酸ナトリウムとクエン酸アンモニウムを加えてpH11.5に調整し、沈殿後洗浄して粒径D50が5μmの前駆体Aを得た。ここで、前駆体Aにおけるニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.606:0.195:0.199である。
【0045】
炭酸リチウムと前駆体Aとをモル比Li/(Ni+Co+Mn)で1.06となるように混合し、ボールミルにより均一に混合した。その後、混合物を焼結炉に投入し、焼結炉を3℃/minで780℃まで昇温し、定温で3h焼結する。その後、2℃/minで960℃まで昇温し、定温で10h焼結して、最後に室温まで放冷することにより、大結晶粒凝集体三元正極材料のLiNi0.606Co0.195Mn0.199を得た。
【実施例8】
【0046】
モル比が0.607:0.195:0.198である硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸マンガンを溶液として調製し、初回のスラリー調製を行って回転速度200r/minで攪拌する。前記溶液に水酸化リチウム溶液とアンモニア水を加えてpH12に調整し、沈殿後洗浄して粒径D50が5μmの前駆体Aを得た。ここで、前駆体Aにおけるニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.607:0.195:0.198である。
【0047】
炭酸リチウムと前駆体Aとをモル比Li/(Ni+Co+Mn)で1.09となるように混合し、ボールミルにより均一に混合した。その後、混合物を焼結炉に投入し、焼結炉を3℃/minで780℃まで昇温し、定温で3h焼結する。その後、2℃/minで960℃まで昇温し、定温で8h焼結して、最後に室温まで放冷することにより、大結晶粒凝集体三元正極材料のLiNi0.607Co0.195Mn0.198を得た。
<比較例1>
【0048】
モル比が0.607:0.195:0.198である硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸マンガンを溶液として調製し、初回のスラリー調製を行って回転速度200r/minで攪拌する。前記溶液に水酸化リチウム溶液とアンモニア水を加えてpH12に調整し、沈殿後洗浄して粒径D50が5μmの前駆体Aを得た。ここで、前駆体Aにおけるニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.607:0.195:0.198である。
【0049】
炭酸リチウムと前駆体Aとをモル比Li/(Ni+Co+Mn)で1.09となるように混合し、ボールミルにより均一に混合した。その後、混合物を焼結炉に投入し、焼結炉を2℃/minで1020℃まで昇温し、定温で12h焼結して、最後に室温まで放冷することにより、大結晶粒凝集体三元正極材料のLiNi0.607Co0.195Mn0.198を得た。
<比較例2>
【0050】
モル比が0.607:0.195:0.198である硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸マンガンを溶液として調製し、初回のスラリー調製を行って回転速度200r/minで攪拌する。前記溶液に水酸化リチウム溶液とアンモニア水を加えてpH12に調整し、沈殿後洗浄して粒径D50が5μmの前駆体Aを得た。ここで、前駆体Aにおけるニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.607:0.195:0.198である。
【0051】
炭酸リチウムと前駆体Aとをモル比Li/(Ni+Co+Mn)で1.09となるように混合し、ボールミルにより均一に混合した。その後、混合物を焼結炉に投入し、焼結炉を3.5℃/minで650℃まで昇温し、定温で2h焼結する。その後、2℃/minで850℃まで昇温し、定温で8h焼結して、室温まで放冷する。材料を粉砕した後再度焼結処理を行って、焼結炉を再度3℃/minで400℃まで昇温し、定温で8h焼結して、焼結炉を室温まで放冷し、粉砕した後200メッシュ篩を通過し、大結晶粒凝集体三元正極材料のLiNi0.607Co0.195Mn0.198を得た。
【0052】
図1及び図2を参照して、本出願は、実施例1~8及び比較例1~2の粒径分布を統計したものであり、表1及び表2を結合すると、実施例1~8における粒度寸法の大部分は1~2μmに分布している。比較例1における粒度寸法は3~4μmに集中している。比較例1における結晶粒は、高温で過剰に成長し、粒径の大きな単結晶粒子となった。比較例2における正極材料は、3回の焼結および多数回の破碎を経て形成された結晶粒の粒径が1μm未満となった。
【0053】
<表1>実施例1~8および比較例1~2で作製した大結晶粒凝集体三元正極材料の粒子粒度の統計的分布表
【0054】
作製した実施例1~8および比較例1~2の大結晶粒凝集体三元正極材料を、それぞれ導電剤、結着剤と92:5:3の割合で正極タブに作製し、炭素負極タブ、セパレータと積層して電極アセンブリを得た後、この電極アセンブリをケースに仕込み、電解液を注液してパッケージすることで、ソフトパック電池を得る。電池テスターにて、その初回放電比容量(1C、20℃)、サイクル性能(300週間、20℃)、及び貯蔵性能(60℃、7日)を測定しました。測定結果を表2に示す。
【0055】
<表2>実施例1~8および比較例1~2で作製した正極材料から組み立てた電池の特性
【0056】
表2のデータから明らかなように、実施例1~8で作製したソフトパック電池は、初回放電容量及びサイクル性能が比較的高く、かつ厚みの変化が小さいことから、正極材料の破碎や変形が起こらず、安定性が優れており、粒子界面の粉化が回避できていることがわかる。比較例1は、一次焼結温度が高く、得られた結晶粒子のサイズが大きいため、クッシング現象が起こり易く、三元正極材料中のカチオンミキシングが悪化し、製造されたソフトパック電池の初回放電容量が低下する。比較例2は、複数回の破損により、三元正極材料の安定性が悪く、サイクル性能が相対的に低く、かつ正極タブの厚みの変化が大きい。これは、本願で製造した大結晶粒凝集体の粒子強度および圧密密度を高めたことを示す。
【0057】
図3~12を参照して、本出願では、日立社制走査電子顕微鏡を用いて材料の表面形態を採用している。図3図10における材料のモルフォロジーが完全な単結晶様である。図11では材料が大粒子状の結晶である。図12では、材料の結晶粒が0.5μmの球形粒子である。
【0058】
上記の各実施形態は、ただ本発明の技術的解決策を説明するためのものであり、限定することを意図するものではなく、上記実施形態を参照して、本発明について詳細に説明しているが、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の技術的解決策を修正または同等に置換できることを理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12