(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】自動車用クラッシュボックスのための拡径管及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 19/34 20060101AFI20240402BHJP
B62D 21/15 20060101ALI20240402BHJP
B21D 39/20 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
B60R19/34
B62D21/15 C
B21D39/20
(21)【出願番号】P 2022539725
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 EP2021051994
(87)【国際公開番号】W WO2021152015
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-12
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591064047
【氏名又は名称】オウトクンプ オサケイティオ ユルキネン
【氏名又は名称原語表記】OUTOKUMPU OYJ
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リンドナー、ステファン
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-011661(JP,A)
【文献】特表2005-510392(JP,A)
【文献】特開2000-320595(JP,A)
【文献】米国特許第06282769(US,B1)
【文献】特開2001-001053(JP,A)
【文献】特開昭62-024827(JP,A)
【文献】特表2012-509815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/00-19/56
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
B21D 39/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の長手方向軸に作用方向を有する自動車用クラッシュボックスであって、構成部品は、
成形後であってもひずみ硬化効果を備えた均質なオーステナイト系微細構造を有するオーステナイト鋼製の管から製造され、前記管は、成形プロセスによって、異なる材料強度及び異なる幾何学的形状を有する少なくとも2つのゾーンを有する拡径管に拡径されていることを特徴とする、自動車用クラッシュボックス。
【請求項2】
前記ゾーンは、強度[N/mm
2]と直径[mm]との比率が6.0~9.0N/mm
3であることを特徴とする、請求項1に記載の自動車用クラッシュボックス。
【請求項3】
異なるゾーン間は、ΔRm≧75MPa、好ましくはΔRm≧120MPaの最小強度デルタであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の自動車用クラッシュボックス。
【請求項4】
前記ゾーン
のそれぞれは、
各ゾーン
の直径に反比例する折り畳み性を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の自動車用クラッシュボックス。
【請求項5】
前記拡径管は、衝撃後に、好ましくは、L
B≧80mm、より好ましくはL
B≧100mmであるシステムのブロック長に達することによって、残存安全領域を提供するように構成されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の自動車用クラッシュボックス。
【請求項6】
長手方向の中心は、鏡軸として機能し、前記ゾーン
のそれぞれは、外側から中心へ向かって、
各ゾーン
の直径が、前記中心に向かって減少するよう
な特性を示すことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車用クラッシュボックス。
【請求項7】
前記管は、長手方向の溶接管として、好ましくは高周波溶接によって製造されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の自動車用クラッシュボックスを製造するための方法。
【請求項8】
前記管は、機械的ドリフト拡径プロセス機において機械的ドリフト拡径プロセスによって拡径されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記機械的ドリフト拡径プロセス機は、前記クラッシュボックスの少なくとも2つの異なるゾーンに対して少なくとも2つの異なる拡径マンドレルを使用することを特徴とする、請求
項8に記載の方法。
【請求項10】
前記機械的ドリフト拡径プロセス機は、対称的なクラッシュボックスを作成するための鏡像の長手方向軸を有することを特徴とする、請求項
8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記管は、初期降伏強度R
p0.2≧380MPa及び初期伸びA
80≧40%を有するひずみ硬化性完全オーステナイト鋼、好ましくはオーステナイト系ステンレス鋼から製造されることを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記拡径管の少なくとも1つの端部は、前記管の前記端部の周囲にフランジを提供するように広げられており、前記フランジは、前記
拡径管の前記長手方向軸及びその作用方向に対して本質的に垂直であり、前記フランジは、前記クラッシュボックスを隣接する車両部品に取り付けるための表面を提供することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の自動車用クラッシュボックス。
【請求項13】
前記管は、0.8mm≦t≦2.5mmの初期厚さを有し、初期直径と厚さとの比率は、24≦r
d/t≦125、より好ましくは、40≦r
d/t≦55であることを特徴とする、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
クラッシュボックスとしての
、成形後であってもひずみ硬化効果を備えた均質なオーステナイト系微細構造を有するオーステナイト鋼製であり、成形プロセスによって、異なる材料強度及び異なる幾何学的形状を有する少なくとも2つのゾーンを有する拡径管に拡径されている拡径管の使用であって、前記クラッシュボックスが統合されている自動車は、乗用車、トラック、バス、又は農業用車両であることを特徴とする、使用。
【請求項15】
クラッシュボックスとしての
、成形後であってもひずみ硬化効果を備えた均質なオーステナイト系微細構造を有するオーステナイト鋼製であり、成形プロセスによって、異なる材料強度及び異なる幾何学的形状を有する少なくとも2つのゾーンを有する拡径管に拡径されている拡径管の使用であって、クラッシュボックスは、クラッシュバリア、ガードレール、又は鉄道車両内におけるエネルギー吸収要素であることを特徴とする、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車(motor vehicle)の長手方向軸に作用方向を有する自動車用クラッシュボックスに関する。本発明は更に、そのような構成部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最新技術の自動車は、それらの長さ又は最長寸法の各端部(前端部及び後端部)に、衝突保護部品としてエネルギー吸収要素が装備されている。そのような要素は、衝突管理システム又はバンパーシステムと呼ばれ、典型的には、2つの最新技術のクラッシュボックスと連結された1つの横材によって互いに取り付けられ、これらは更に車体構造と連結されている。それにより、クラッシュボックスは、衝撃中の運動衝突エネルギーを吸収する。クラッシュボックスは、圧縮又は折り畳みによって不可逆的に塑性変形する。結果として、車体自体は、構造的損傷又は歪みなしで保護されるべきである。
【0003】
自動車の一部としての構成部品のクラッシュボックスは、典型的には、高い衝突安全性を可能にすると同時に、軽量化により燃料消費量を低減し、それにより、CO2排出量を削減し、かつコスト効果が高くなるなど、部分的に一見すると正反対の異なる特性を有する。更に、クラッシュボックスは、歩行者への保護を提供する。この構成部品の更なる要件は、隣接する部品との容易な組み立て、最適な空間利用であり、構成部品は、衝撃後に容易に交換可能であるべきである。「自動車修理研究国際会議(Research Council for Automobile Repairs)」では、後部衝撃衝突及びより低速レベルにおける衝突後の損傷並びに修理費用を評価するために、RCAR衝突試験と呼ばれる試験シナリオを開発した。そのような試験の結果は、乗用車の保険料算出に直接影響を及ぼし、したがって、エンドユーザにとってかなりの関心事である。
【0004】
自動車のクラッシュボックスの設計には、いくつかの異なる幾何学的形状が使用されてきた。円形管及び多角形管、並びに構成部品の長手方向に円錐形のテーパ状にすることができる多室型プロファイル又はボックス形状構造を有するモジュラ設計。均一な管プロファイルは、一定の力吸収作用を提供するが、相互力(cross-force)及び曲げトルクに対する抵抗は、他の幾何学形状のプロファイルよりも低い。管は、最も容易な生産可能性を提供し、したがって、クラッシュボックスの最もコスト効果の高い幾何学的形状を提供する。
【0005】
欧州NCAP及び米国NCAPなどの衝突試験機関の需要が増加していることに応答して、今日では、一緒に設けられた2枚のハーフシェルによって提供され、異なる長さゾーンに分割された広範囲にわたるプロファイル形態が最も一般的である。必要な衝突挙動を可能にするために、ディンプル又は波形が、均質な折り畳みによってクラッシュボックスに導入される。生産されたクラッシュボックスのプロファイル又はハーフシェルに、ディンプル若しくは波形を成形することは、更なる製造ステップであり、直接的な結果として構成部品のコストを増加させる。
【0006】
クラッシュボックス構成部品の軽量化と衝突安全性とを組み合わせるための様々な最新技術で使用される解決策が存在する。米国特許出願公開第2017/113638(A1)号には、軽金属合金で作製され、内部空間を画定するための中空プロファイルとして構成され、上部ビーム及び基底ビームを有する横材が記載されており、上部ビーム及び/又は基底ビームは、横材の内部空間に配向されたカラーの形態の縁領域によって画定された凹部を有する。横材の端部に配置されているのは、自動車の長手方向において横材の少なくとも1つの領域と重なるようにサイズ決めされたフランジが形成されたクラッシュボックスである。スペーサは、横材の内部空間に配置され、カラーによるぴったりとした係合のための面取り部を有する。締結具は、凹部を通過させるように構成されており、それにより、各クラッシュボックスのフランジ及びスペーサを通って自動車の垂直方向に延在している。軽金属合金製中空プロファイルの使用は、コストが高くなり、高価な構成部品を製造することになる。
【0007】
米国特許出願第9663051(B2)号では、クラッシュボックスを異なる長さゾーンに分割する。ビーズの導入と組み合わせた円錐構成の使用は、クラッシュボックスの製造の際の多大な労力を表し、構成部品のコスト高をもたらす。
【0008】
クラッシュボックス缶を製造するコストのかかる方法の別の例は、複数の支持壁が、クラッシュボックスの長手方向に挿入されている、米国特許出願公開第2017/210319(A1)号に提供されている。支持壁のうちの少なくとも1つは、ボールトとして設計されている。
【0009】
米国特許出願公開第2013/119705(A1)号には、多室型プロファイルが、追加の支持要素並びに締結プロファイルの統合とともに使用されるクラッシュボックスシステムが開示されている。また、米国特許出願公開第2013/048455(A1)号から知られている弱化ツールと長手方向の裂け目(rip)との統合は、構成部品の製造の際の更なる労力を示し、構成部品のコスト高をもたらす。
【0010】
米国特許出願第2011/291431(A1)号には、マンガン-硼素合金鋼種を使用したクラッシュボックスが記載されており、これは、プレス硬化され、300~450℃で更にアニールされる必要がある。そのような鋼種は、それらのマルテンサイト微細構造が、オーステナイト系の延性のある微細構造を備えた鋼種よりも大幅に低いエネルギー吸収能力を有するため、溶接ゾーンにおいても脆性であるという技術的な欠点を有する。更に、プレス硬化及び更なるアニールの製造プロセスは、非効率的なサイクル時間、高い投資コスト、及びライフサイクル評価に対する不十分な影響を伴うコストのかかる生産につながる。米国特許出願第2011/291431(A1)号では、A5=8%の伸び(elongation)を有するRp0.2=1,150MPaの降伏強度レベルを指摘している。これらの値は、客室について、Bela Barenyi及びそのドイツ特許出願第854157(C)号からよく知られている、延性があり、変形可能であり、車体の乗客安全セルよりも強度が低いという構成部品の要件とは対照的である。そこで、この強度は、車両の前端部及び後端部の方向に一定的に又は徐々に段階的に減少し、それ以来、車の前部区画及び後端部は、変形可能なゾーンとして知られている。
【0011】
最新技術で使用されるクラッシュボックスシステムの大部分は、衝撃後の修理又は交換状況の際のコストを最小限に抑えるための、機械的解決策である。また、他のシステムは、例えば、国際公開第2011/073049(A1)号から知られているセンサを使用して利用可能である。また、空圧ダンパ又は油圧ダンパ解決策は、一般に、構成部品の要件を満たすための技術的な観点から可能である。
【0012】
要約すると、オーステナイト鋼の目的指向のひずみ硬化特性を利用することによって、実際の衝突要件並びに今日のOEMの軽量化要求を満たす、コスト効果の高い管設計を使用する最新技術のクラッシュボックスシステムは存在しない。更に、クラッシュボックス構成部品を作成するために、拡径(expand)成形を使用した既知の最新技術の製造プロセスは存在しない。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、先行技術のいくつかの欠点を排除し、成形後であってもひずみ硬化効果を備えた均質なオーステナイト系微細構造を有する鋼鉄を使用することによって、強度及び直径が異なる、異なるゾーンに拡径された、管、例えば、円形管又は多角形管から製造された、車両の長手方向軸に作用方向を備えた軽量でコスト効果の高い自動車用クラッシュボックスを提供することである。更に、本発明のクラッシュボックスは、組み立てが容易で、車両モデル及びその寸法に応じてスケーラブルである。
【0014】
本発明は、自動車の長手方向軸に作用方向を有する自動車用クラッシュボックス、及びその製造方法に関する。本発明は、独立請求項に開示されるものによって定義される。好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、成形後であっても、ひずみ硬化効果を備えた均質な一相微細構造、例えば、均質なオーステナイト系微細構造を有する鋼鉄を使用することによって、強度及び直径が異なる、異なるゾーンに拡径された、管、例えば、円形管又は多角形管から製造された、車両の長手方向軸に作用方向を備えた自動車用クラッシュボックスに関する。本発明は更に、そのような構成部品の製造方法に関する。
【0016】
実施形態は、自動車用クラッシュボックスについて説明する。一実施形態では、自動車用クラッシュボックスは、車両の長手方向軸に作用方向を有する。自動車用クラッシュボックスは、管から製造され、この管は、成形プロセスによって、異なる材料強度及び異なる幾何学的形状を有する少なくとも2つのゾーンを有する拡径管に拡径されている。したがって、一実施形態では、クラッシュボックスは、少なくとも2つのゾーンを有する拡径管を含む。ゾーンの各々は、異なる材料強度及び異なる形状又は幾何学的形状を有する。一実施形態では、管は、円形管である。更なる実施形態では、管は、多角形管である。本発明の目的のために、円形管は、管の管腔又は内部空間と管の外周との両方が円形で、かつ直径に変動がない管である。一実施形態では、管の内部空間は、管の長さに沿って本質的に同じ直径を有し、同様に、管は、管の長さに沿って本質的に同じ外径を有する。
【0017】
更なる実施形態では、ゾーンは、強度[N/mm2]と直径[mm]との比率が6.0~9.0N/mm3である。強度は、管の1つのゾーンの鋼鉄の引張試験が室温において準静的(quasi-static)状態下で実行される、DIN EN10216による方法によって測定される。安定した一相鋼の硬化挙動は、平坦なシート状態、準静的状態、及び室温下で実行される、DIN EN ISO6892-1:2017-02による引張試験から知られる。平坦なシート状態における材料のひずみ硬化速度を知ることで、成形度に関連する管を拡径させた後の、結果として得られた強度を計算することができる。
【0018】
一実施形態では、異なるゾーン間は、上述の方法に従って測定して、ΔRm≧75MPa、好ましくはΔRm≧120MPaの最小強度デルタである。ゾーン間の強度の差は、異なるゾーンを有する拡径管が、最初に、最小直径を有するゾーンによって折り畳まれ、その後、最小直径にそれぞれ応じて、他のゾーンによって折り畳まれる以下の実施形態に記載されるように、運動衝突エネルギーを吸収するためのクランプルゾーンをもたらすように最適化される。
【0019】
言い換えれば、一実施形態では、ゾーンは、ゾーンの直径に対して反比例する折り畳み性を有する。これは、衝撃に対して、最小直径を有するゾーンが最初に折り畳まれ、最大直径を有するゾーンが最後に折り畳まれることを意味する。
【0020】
更なる実施形態では、拡径管は、衝撃後に、好ましくはLB≧80mm、より好ましくはLB≧100mmであるシステムのブロック長に達することによって、残存安全領域を提供するように構成されている。これにより、車両の客室への力の伝達が制限される。
【0021】
一実施形態では、長手方向の中心は、鏡軸として機能し、これらのゾーンは、外側から中心へ向かって、ゾーンの直径が中心に向かって減少するように特徴付けられる。
【0022】
好ましい実施形態では、拡径管の少なくとも1つの端部は、管の端部の周囲にフランジを提供するように広げられており、フランジは、管ボックスの長手方向軸及びその作用方向に対して本質的に垂直である。フランジは、クラッシュボックスを隣接する車両部品に、例えば、車のバンパー又はシャーシに取り付けるための表面を提供する。フランジは、例えば、重ね継手上のフィレット(fillet)として溶接され得るか、又は、例えば、ねじ、若しくはリベット、釘、ナット、ボルトなどのような他の機械的取り付け具によって、隣接する車両部品に重ね継手状態で機械的に取り付けられ得る。そのような取り付け手段は、自動車にクラッシュボックスを設置するときに、容易な組み立てを提供し、下流側のコストを最小限に抑える。
【0023】
更なる実施形態は、車両の長手方向軸に作用方向を有する自動車用クラッシュボックスを製造する方法に関する。一実施形態では、管は、長手方向の溶接管として、好ましくは高周波溶接によって製造される。溶接管は、一般に、冷間引抜した継目無管よりも著しくコストが低い。溶接、特に高周波溶接は、最も高い生産速度を提供する。更に、高周波溶接は、可能な入熱が最も低い。この方法における入熱は、溶接される表面に集中する。この入熱の集中により、この方法は、薄管、例えば、0.8mm≦t≦2.5mmの鋼鉄厚を有する管を溶接するのに理想的なものとなっている。熱歪みは低減され、管の内部応力が低下する。
【0024】
更なる実施形態では、管は、機械的ドリフト拡径プロセス機(mechanical drift expanding process machine)において機械的ドリフト拡径プロセス(mechanical drift expanding process)によって拡径される。機械的ドリフト拡径プロセス機は、比較的安価である。機械的ドリフト拡径プロセス機は、溶接継目の品質を試験するため、及び拡径成形ステップを実行するための両方に使用することができる。
【0025】
好ましい実施形態では、機械的ドリフト拡径プロセス機は、クラッシュボックスの少なくとも2つの異なるゾーンに対して少なくとも2つの異なる拡径マンドレルを使用する。異なるマンドレルの使用により、このプロセスが最適化される。
【0026】
好適な実施形態では、機械的ドリフト拡径プロセス機は、対称的なクラッシュボックスを作成するための鏡像の(mirrored)長手方向軸を有する。
【0027】
一実施形態では、管は、平坦なシート状態、準静的、及び室温下で、DIN EN ISO6892-1:2017-02による引張試験によって測定された、初期降伏強度Rp0.2≧380MPa及び初期伸びA80≧40%を有するひずみ硬化性完全オーステナイト鋼、好ましくはオーステナイト系ステンレス鋼から製造される。
【0028】
特定の実施形態では、管は、0.8mm≦t≦2.5mmの初期厚さを有し、初期直径と厚さとの比率が、24≦rd/t≦125、より好ましくは、40≦rd/t≦55である。厚さ及び直径は、当業者には既知である様々な手段、例えば、キャリパ又は機械的外側マイクロメータを用いて測定されてもよく、直径を測定する更なる方法は、レーザー距離測定法などの光学的方法であり得る。記載された厚さ及び内径比は、乗用車、トラック、バス、又は農業用車両で使用するためのクラッシュボックスを成形するのに最適である。
【0029】
したがって、更なる実施形態は、拡径管の使用に関する。一実施形態は、自動車のクラッシュボックスとしての拡径管の使用について説明する。一実施形態では、クラッシュボックスが統合されている自動車は、乗用車、トラック、バス、又は農業用車両である。更なる実施形態では、クラッシュボックスが統合されている自動車は、バッテリー式電気車両である。
【0030】
更なる実施形態では、クラッシュボックスは、クラッシュバリア、ガードレール、又は鉄道車両内におけるエネルギー吸収要素として使用される。
【0031】
本発明の目的によれば、拡径管クラッシュボックスは、長手方向に溶接された連続管、好ましくは円形管から製造され、それにより、連続製造された管は、第1のステップで、後で必要な構成部品の長さに切断される。次いで、構成部品の長さに切断された管は、管の少なくとも片側から、好ましくは管の両端部から、機械的ドリフト拡径プロセスによって拡径される。経済的に魅力的な構成部品を提供するために、長手方向の溶接プロセスは、好ましくは、オーステナイト鋼を使用することによって溶接ゾーンに高延性及びパワー伝達を更に提供する高周波溶接プロセスである。あるいは、レーザービーム溶接プロセスを使用して、本発明の方法を満たすことができる。
【0032】
切断された管は、成形プロセスによって、好ましくは機械的ドリフト拡径プロセスによって、材料強度及び幾何学的形状、特に管直径が異なる少なくとも2つのゾーンに拡径される。冷間成形可能なひずみ硬化機構を有するオーステナイト鋼を使用することによって、結果として得られる、より大きい直径を有するより高度に拡径されたゾーンは、より高い強度レベルを提供する。自動車の長手方向における衝撃状況中の、結果として得られる挙動として、拡径管クラッシュボックスが一緒に折り畳まれ、それにより、最小直径、したがって最低強度レベルを有するゾーンが最初に折り畳まれる。このゾーンには同時に最も高い伸びが存在するため、運動衝撃エネルギーを、材料に関連する塑性変形に変換することを意味するエネルギー吸収作用の可能性は、その最も高いところにある。衝撃力が第1のゾーンの折り畳みによって緩和されない場合、同じ効果が、第2の最小直径などを有するゾーンで生じる。低エネルギー衝撃では、最低強度を有する最も細い直径を備えたゾーンが折り畳まれる。より高いエネルギーを有する衝撃では、大きい直径、及び高い強度を有するゾーンもまた、エネルギーをクラッシュボックスによって連続的に吸収することができるように、次から次へと折り畳まれる。したがって、クラッシュボックスは、車体及び特に車の中の乗客が影響を受けないように、運動衝撃エネルギーを吸収する。
【0033】
衝撃に対する抵抗は、本発明のクラッシュボックス及び方法で、2つの方式で増加する。第1には材料に関連する方式であり、これは、使用されるひずみ硬化オーステナイト鋼が、それらの硬化機構のため、影響を受けている衝撃の間に、強度を増加させるからである。この効果により、降伏強度[N/mm2]とそれぞれのゾーンの直径[mm]との比率を、構成部品の技術者の設計要因として定義することができる。拡径管クラッシュボックスとひずみ硬化性オーステナイト鋼との組み合わせを用いる本発明の方法の場合、その比率は、6.0~9.0N/mm3が好適である。衝撃に対する抵抗は、幾何学的形状に関連する第2の方式で増加することになる。これは、より小さい直径のゾーンの、より大きい直径のゾーンへの連続的な折り畳みが、それぞれ次の折り畳みステップの間に、より多くの材料を折り畳む必要があるという効果をもたらすためである。最後に、衝撃に対する最大抵抗が作用する残存安全領域として定義され得るブロック長LBが達成される構成部品の状態に達する。好ましくは、クラッシュボックスのブロック長は、LB≧80mm、より好ましくは、LB≧100mmの長さに達する。
【0034】
好ましい実施形態では、
図1を参照して、3つの直径(d1、d2、d3)をそれぞれ有する3つのゾーン(1、2、3)が存在し、それにより、長手方向の中心が鏡軸として機能する。これらのゾーンは、外側から中心へ向かって、ゾーンの直径が減少するように特徴付けられる。異なるゾーンの所望の折り畳み挙動を実現するために、管の拡径プロセスにより、ΔRm≧75MPa、好ましくはΔRm≧約120MPaの異なるゾーン間の最小強度デルタが実施されるように、直径を構成することが好ましい。
【0035】
上述の構成の方式では、機械的ドリフト拡径プロセスとして管の拡径を実施するのに必要な機械は、設計要件に適切に適合させる必要がある。したがって、この機械は、クラッシュボックスの少なくとも2つの異なるゾーンに対して少なくとも2つの異なる拡径マンドレルを有する工具を用いて構成されている。全マンドレル工具は、鏡軸の片側を、工具への管の1回挿入により形成することができることが好ましい。大きい車両容積の迅速かつ費用効果の高い生産を実現するために、更に好ましくは、機械は、管の長手方向軸の両側からマンドレル工具を挿入して、両側から、管をその鏡軸に対して同時に拡径することを可能にする、対称的なクラッシュボックスを作成するための鏡像の長手方向軸を有する。
【0036】
クラッシュボックスの隣接する部品との連結を可能にするために、拡径管の少なくとも1つの端部、好ましくは両端部が広げられて、管の端部の周囲にフランジを提供し、フランジは、管ボックスの長手方向軸及びその作用方向に対して本質的に垂直である。フランジは、クラッシュボックスを隣接する車両部品に、例えば、車のバンパー又はシャーシに取り付けるための表面を提供する。フランジは、例えば、重ね継手上のフィレットとして溶接され得るか、又は、例えば、ねじ、若しくはリベット、釘、ナット、ボルトなどのような他の機械的取り付け具によって、隣接する車両部品に重ね継手状態で機械的に取り付けられ得る。そのような取り付け手段は、自動車にクラッシュボックスを設置するときに、容易な組み立てを提供し、下流側のコストを最小限に抑える。
【0037】
そのような設計の利点は、継手の位置及び向きが、車両の前部又は後部からの衝撃中の応力に対してより良好に抵抗するように最適化されることである。
【0038】
管製造前の初期材料形態は、厚さがt≦3.0、好ましくは0.8mm≦t≦2.5mmの平鋼であり、典型的には、コイル又はストリップの形態で管製造業者に提供される。24≦rd/t≦125、好ましくは40≦rd/t≦55の管の初期直径とその厚さとの比率を定義することが更に好適である。シート又はプレートから単一の管を製造することは可能であるが、連続管製造用の出発材料としてのストリップ及びコイルの使用は、より大きな車両容積のためのコスト効果の高い、大規模な産業用クラッシュボックス製造を提供する。
【0039】
一実施形態では、初期降伏強度Rp0.2≧380MPa及び初期伸びA80≧45%を有する、冷間成形可能なひずみ硬化性オーステナイト鋼、好ましくはステンレス鋼が使用される。更なる実施形態では、安定した一相オーステナイト鋼が使用され、完全オーステナイトは、成形及び溶接後でも双晶誘起塑性(TWIP、Twinning induced Plasticity)ひずみ硬化効果を提供する。
【0040】
安全性を意味する良好な又は最適な衝突抵抗と組み合わせた軽量クラッシュボックスを提供するために、Rp0.2≧380MPa、より好ましくはRp0.2≧450MPaの初期強度レベルを備えた高強度鋼を使用することが好適である。また、強度の他にも、管を拡径させるための延性も重要な特性である。材料の延性は、構成部品の重要な特性であるエネルギー吸収能力として、衝突中に更に必要とされる。クラッシュボックスのエネルギー吸収作用が高いほど、客室へ伝わる力及び加速度が小さくなり、それにより、乗員への影響も小さくなる。クラッシュボックス材料の延性により、クラッシュボックスは、衝撃エネルギーを連続的に吸収し、車両内の乗員に対する力を穏やかに低減することができる。したがって、A80≧40%、好ましくはA80≧50%の値を有する破断後の伸びとして記載される延性が、本発明の初期材料に好適である。強度と伸びとの必要な組み合わせは、オーステナイト系微細構造及びひずみ硬化機構を有する鋼によって、特にクロム含量Cr≧10.5%を有するオーステナイト系ステンレス鋼によって与えられる。ひずみ硬化の特性は、構成部品製造を終えた後、この場合、管クラッシュボックスを拡径した後に、最終強度と延性との組み合わせに達する可能性を車両技術者に与える。オーステナイト鋼の場合、2つの異なる硬化機構が存在する。第1の硬化は、製造を含む冷間成形中に起き、第2の硬化は、構成部品の寿命中の衝突衝撃時に起きる。準安定オーステナイト系微細構造を有する鋼鉄は、成形荷重中にオーステナイトがマルテンサイトに変化する、変態誘起塑性(TRansformation Induced Plasticity、TRIP)の硬化効果を有する。好ましくは、本発明の方法の場合、20~30mJ/m2の特定の積層欠陥エネルギー(stacking fault energy、SFE)と組み合わされた、いわゆるTWIP(双晶誘起塑性)硬化効果を有する完全オーステナイト系微細構造を備えた鋼鉄が使用される。TWIP硬化オーステナイト鋼の利点は、管の拡径中に、微細構造が脆性マルテンサイト相なしで初期延性オーステナイト状態に留まり、したがって、構成部品が均質な微細構造を有することである。
【0041】
更に、オーステナイト系ステンレス鋼は、その性質のため、及び酸化クロム表層の再不動態化のため、低合金鋼又は非合金鋼よりも著しく高い耐食性を提供する。したがって、構成部品の追加の浸漬コーティングプロセスが回避され、したがってクラッシュボックス構成部品の総コストが低減される。加えて、ライフサイクル環境影響(life cycle environmental impact)を改善することができる。ステンレス鋼クラッシュボックス構成部品は、完全に再利用可能であり、構成部品の寿命の終わりに電気アーク炉で溶融することができる。
【0042】
拡径管クラッシュボックスは、すべての自動車、好ましくは乗用車内で、またトラック、バス、又は農業用車両内でも使用することができる。更に、鉄道車両内での使用を可能にするために、厚さ及び直径をより高い値に変更することによって、本発明の方法を適合させることが可能である。更に、衝突中の侵入車両及びそれらの乗員を保護するためのエネルギー吸収要素として、拡径管クラッシュボックスをクラッシュバリア又はガードレールシステムに統合することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
本発明は、添付の図面を参照して、より詳細に例示される。
【
図2】構成部品の長手方向の長さに応じた構成部品強度の関係を示す。
【
図3】車両設置された構成部品の幾何学的形状の初期状況(左側)、及び衝撃状況中の成形挙動(右側)の側面図を示す。
【
図4】衝撃がブロック長に達する間の構成部品の挙動の側面図を示す。
【
図5】拡径管の隣接する車両部品への溶接連結の側面図を示す。
【0044】
本発明を例示する実施形態
図1は、製造後の拡径管クラッシュボックスの側面図を例示する。点線は、長手方向対称軸を示す。本発明のこの実施形態では、横方向に対称的な3つのゾーン(1)、(2)、(3)があり、それにより、最小直径d
1を有するゾーン1(1)が中心ゾーンに位置している。中心から長手方向の両外側に向かって、これらのゾーンの直径が増加しており、ゾーン2(2)及びゾーン3(3)で示されている。
【0045】
図2は、
図1に示される構成部品について、異なるゾーンを備える構成部品の長手方向における強度の関係を例示しており、それにより、移行ゾーン(4)は、
図1のメインゾーン(1)、(2)、及び(3)の間に位置している。横方向の点線(5)は、ゾーンの変化、したがって直径及び強度の変化が進行する始点を示す。最小直径d
1を有するゾーン1は、最低強度レベルを有する。直径が増加すると、強度レベルも増加する。
図1の実施形態では、ΔRm(6)と呼ばれる強度に2つの差が存在することになる。各直径間の強度の差は、本質的に同じである。
【0046】
図3は、
図1からの最も小さい直径(1)、したがって最低強度レベルを有するゾーンが折り畳まれる、長手方向側からの衝撃状況中の構成部品の成形挙動を例示する。より大きい直径を有するゾーンは、個々の強度レベルに応じて、より小さい直径を有するゾーンに重なって摺動する。
【0047】
図4は、構成部品のエネルギー吸収作用が使い尽くされたブロック長L
B(7)と呼ばれる終了位置における、
図3からの進行中の衝撃を例示する。ブロック長L
B(7)は、他の構成部品が位置することができ、衝撃によって影響を受けない残存安全領域と更に等しい。
【0048】
図5は、拡径管の少なくとも1つの端部が、端部(8)が管クラッシュボックスの長手方向軸及びその作用方向を横切る方へ曲げられて(bent across)、重ね継手(9)で隣接する車両部品(10)に接合できるように、広げられている、本発明の好ましい一実施形態を例示する。接合は、フィレットのような溶接として、又はねじ止めのような重ね継手としての機械的接合などで実行することができる。