(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】肺上皮細胞の損傷及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患の治療における低分子化合物の用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/568 20060101AFI20240402BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240402BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20240402BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
A61K31/568
A61P11/00
A61P31/10
A61P31/12
(21)【出願番号】P 2022551743
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 CN2021078061
(87)【国際公開番号】W WO2021170073
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】202010128617.7
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202011069298.3
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519303494
【氏名又は名称】広州市賽普特医薬科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Guangzhou Cellprotek Pharmaceutical Co., Ltd
【住所又は居所原語表記】G401-415, 3 Lanyue Road, International Business Incubator, Guangzhou Science City, Guangzhou, 510663, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】陸 秉政
(72)【発明者】
【氏名】陳 玉嬪
(72)【発明者】
【氏名】王 亜娜
(72)【発明者】
【氏名】黄 家瑜
(72)【発明者】
【氏名】黄 春暉
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲ジエ▼思
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-534427(JP,A)
【文献】国際公開第2007/064691(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における肺上皮細胞の損傷によって媒介される疾患を予防又は治療するための
組成物であって、
式I:
【化1】
(式I)
[式中、R
1は、H、-CN、フッ素、塩素、C
1~10アルキル基、フッ素又は塩素置換C
1~10アルキル基、C
1~10アルコキシ基、フッ素又は塩素置換C
1~10アルコキシ基及びC
3~10シクロアルキル基から選ばれる]
の化合物、その重水素化物又は薬学的に許容される塩、を含有し、
ここで、該肺上皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺線維症、早産児慢性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、およびニューモシスチス肺炎から1つ又は複数選ばれる、
該
組成物。
【請求項2】
該化合物が、
5α-アンドロスタ-3β,5,6β-トリオール、
17-プロピレン-アンドロスタ-3β,5α,6β-トリオール、
17-イソプロピル-アンドロスタ-3β,5α,6β-トリオール、
17-ブチル-アンドロスタ-3β,5α,6β-トリオール、および、
コレスタン-3β,5α,6β-トリオール
から選ばれる、
請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
該化合物が、5α-アンドロスタ-3β,5,6β-トリオールである、請求項1に記載の
組成物。
【請求項4】
前記急性肺損傷、または急性呼吸窮迫症候群が、高酸素、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷又は中毒によって引き起こされる、請求項1に記載の
組成物。
【請求項5】
前記ウイルスが、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、サイトメガロウイルス又はそれらの組み合わせである、請求項4に記載の
組成物。
【請求項6】
前記ウイルスが、コロナウイルスである、請求項5に記載の
組成物。
【請求項7】
前記コロナウイルスが、新型コロナウイルスSARS-CoV-2である、請求項6に記載の
組成物。
【請求項8】
前記急性肺損傷が、手術によって引き起こされる肺損傷である、請求項1に記載の
組成物。
【請求項9】
前記手術が、肺切除術、肺腫瘍切除術又は肺移植術である、請求項8に記載の
組成物。
【請求項10】
前記肺切除術が、縮小手術、肺葉切除術又は肺全摘術である、請求項9に記載の
組成物。
【請求項11】
肺上皮細胞の損傷によって媒介される疾患が、PFKFB3タンパク質の過剰発現として現われる、請求項1に記載の
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺上皮細胞の損傷及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患の治療における低分子化合物の用途に関し、より詳しく言えば、5α-アンドロスタ-3β,5,6β-トリオール(本明細書では「YC-6」又は「YC6」と略称する場合がある)及びその類似体の前記用途、特に肺損傷及び脳小血管病の治療におけるこれらの化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肺損傷は、肺疾患、特に急性肺損傷/急性呼吸窮迫症候群(ALI/ARDS)、肺高血圧症、敗血症などの疾患によく見られ、健康に深刻な影響をもたらすだけでなく、一部は死亡率が非常に高い。
【0003】
急性肺損傷(Acute lung injury、ALI)とは、心臓以外の様々な深刻な肺内外の病原性因子(例えば、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷、他の毒素による中毒など)によって引き起こされる急性低酸素性呼吸不全を指し、その病理学的特徴としては肺胞上皮及び肺毛細血管内皮の透過性亢進による肺水腫、肺胞虚脱及び拡張、肺胞壁の肥厚及び炎症細胞浸潤などが挙げられる(Butt et al.,2016)。重篤な段階に発展しているALIは急性呼吸窮迫症候群(Acute respiratory distress syndrome、ARDS)と呼ばれ、難治性低酸素血症と呼吸困難として現われ、呼吸不全、多臓器不全ひいては死亡になる場合がある。ALI/ARDSの死亡率は40~60%まで達しているが、現在、効果的な薬物療法はまだない。
【0004】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)(Wu F et al.,2020)によって引き起こされる2019新型コロナウイルス感染症(Corona Virus Disease 2019、COVID-19)のうち、急性呼吸窮迫症候群(Acute respiratory distress syndrome、ARDS)を合併したものが29%であった(Huang C et al.,2020)。新型コロナウイルス感染症がARDSを誘発させることが病理学的証拠から一層裏付けられ(Xu Z et al.,2020)、2例の死亡患者に対する組織学的検査で、両側に細胞性線維粘液性浸出液を伴うびまん性肺胞損傷が発見され、肺水腫、肺細胞の脱落及びヒアリン膜の形成が確認され、これによって肺の通気/換気機能に深刻な影響を与え、ARDSに発展している。どうすれば患者の重症化を防止できるのかと万単位で数えられる多い重症/重篤患者を治療することが、医療上そして社会的な差し迫ったニーズである。
【0005】
肺胞は肺におけるガス交換の基本単位であり、その内面がI型及びII型肺胞上皮細胞によって覆われている。I型の扁平な細胞は損傷しやすいが、肺胞の表面積の90%を構成している。II型の立体的な細胞が、残りの10%の肺胞の表面積を構成しており、しかも損傷しにくく、その機能は界面活性剤の生成、イオン輸送、I型細胞の損傷後の増殖と分化を含む。肺胞上皮は緻密な障壁を形成させて外因性病原体を隔離するだけでなく、その表面受容体及び分泌産物と免疫細胞の相互作用により肺の恒常性と相対的な無菌性を維持させる。中でも、肺胞上皮細胞は肺の恒常性において主な役割を果たしており、急性肺損傷、肺線維症などの肺関連疾患と、組織リモデリング関連疾患のいずれにも直接関係している。
【0006】
肺血管内皮細胞は血管系内膜の単層を形成させており、その生理学的位置が様々な損傷因子、例えば、LPS、エンドトキシン、TNF-α、酸化ストレスにさらされているため、肺血管内皮細胞は様々な肺損傷因子の攻撃する標的細胞であり、ALI/ARDSの発生機序において重要な役割を果たす。危篤状態にあり又は早期若しくは晩期ARDSを有している患者の気管支肺胞洗浄液はヒト肺微小血管内皮細胞に細胞毒性を有することが研究で明らかになっている。肺血管内皮細胞は細菌性エンドトキシン(リポ多糖、lippopolysaccharide、LPS)、サイトカイン、酸素フリーラジカルなどの作用で、毛細血管の透過性亢進と肺水分量の増加を引き起こして、肺水腫、呼吸困難が発生する。様々な炎症性メディエーターとサイトカインを分泌及び放出することによって、炎症誘発性メディエーターと抗炎症性メディエーターのバランスが崩れると同時に、凝固系と抗凝固系のバランスが崩れ、肺微小循環障害と肺高血圧症が引き起こされると、間質性肺浮腫、肺出血、進行性呼吸困難が促進され、患者には進行性低酸素血症と呼吸困難が現れる可能性がある(杜景霞ら,2012)。有害因子によって引き起こされる肺血管内皮細胞の損傷を軽減できる薬物をスクリーニングすることは、様々な感染性肺炎、急性肺損傷、ARDS、肺高血圧症などを含め、様々な肺損傷関連疾患の予防と治療に使用することが期待できよう。
【0007】
ホスホフルクトキナーゼ-2/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼ3(phosphofructokinase-2/fructose-2,6-bisphosphatase 3、PFKFB3)は、糖代謝経路の解糖経路における重要な調節タンパク質である。肺損傷においてPFKFB3は重要な役割を果たす。解糖酵素PFKFB3の阻害剤は、盲腸結紮及び穿刺(CLP)によって誘発されるALIマウスの生存率や、肺炎、乳酸増加及び肺におけるアポトーシス損傷を改善できる(Gong Y et al.,2017)。嫌気性解糖は敗血症関連ALIにおけるアポトーシスの重要な要因であり、PFKFB3阻害剤はLPSによって誘発される急性肺損傷/急性呼吸窮迫症候群(ALI/ARDS)実験動物の肺損傷を有意に軽減できる(Wang L et al.,2019)。PFKFB3を特異的にノックアウトされた血管内皮細胞では、内皮細胞の解糖レベルが有意に低下しているため、成長因子、炎症誘発性サイトカインと細胞接着因子の発現が低下し、肺血管平滑筋細胞の異常な増殖と、肺血管周囲の炎症細胞の浸潤が阻害され、低酸素誘発性肺高血圧症の進行が阻害されている(Cao Y,2019)。Pfkfb3を特異的にノックアウトされた平滑筋細胞では、解糖代謝産物である乳酸の含有量が減少することで、ERK1/2に依存するカルパイン2(calpain-2)のリン酸化の活性化が低減し、肺血管平滑筋細胞におけるコラーゲンの合成減少が引き起こされ、平滑筋細胞の異常な増殖も弱められ、さらに肺高血圧症の進行中の肺血管リモデリングが阻害される(Kovacs et al.,2019)。
【0008】
血液脳関門(Blood-Brain Barrier、BBB)は、中枢神経系と循環器系の間の細胞界面で、脳関門の1種である。血液脳関門の構造は、血管内皮細胞、周皮細胞、アストロサイトの足突起、基底膜などを含み、ニューロンと共に神経血管ユニットを構成している。血管内皮細胞は血液脳関門の解剖学的基盤を構成し、様々な選択的輸送システムが栄養素と他の物質を脳内又は脳外に輸送することを可能とし、親水性溶質に対する細胞間隙の低い透過性を保つ。臨床研究、神経病理学、疫学、動物モデルなどの証拠によって、血管透過性亢進によって引き起こされる血液脳関門の破壊は脳小血管病の開始要因の1つであることが示されてきている。血管内皮細胞の損傷と内皮組織の機能障害は血液脳関門の透過性亢進を誘発させ、これによって血液中の成分が潜在的な血管周囲腔と脳実質に入り、神経細胞と膠細胞を損傷させる。血液脳関門の透過性亢進は神経学的損傷及び臨床症状より先に出現することも報告されている。
【0009】
複数の臨床研究は、脳小血管病患者において脳の血流量が減少しており血管の自己調節機能が障害していることを示しており、PETとMRI検査で白質高信号患者は低灌流状態にあり血管透過性亢進と血液脳関門損傷が認められるが、灰白質には明らかな変化がないことから、血液脳関門の損傷領域は白質が主であることを示唆している。白質病変患者において血液脳関門の透過性の長期的な変化があるとともに、皮質に隣接する白質高信号の進行は血液脳関門の損傷の程度に関係しており、血液脳関門の透過性の変化による血漿遊出と周囲組織損傷は白質病変の持続的な悪化をもたらす重要な要因であることが研究で示されている。DCE-MRIによる研究では、脳小血管病患者は脳組織の多くには血液脳関門漏出の可能性があることが示されたため、血液脳関門の完全性の損傷が脳小血管病の主な発生機序であることが一層裏付けられている。
【0010】
現在、臨床では様々な肺疾患による肺損傷又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患を効果的に治療する薬物がまだないため、それらの疾患を効果的に治療できる薬物を提供することは臨床的に大きな意味を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明者らは、化合物5α-アンドロスタ-3β,5,6β-トリオールは、PFKFB3発現の上方調節を有意に阻害し、乳酸の蓄積を有意に阻害し、血管内皮細胞の損傷を軽減させ、肺胞上皮細胞の損傷を軽減させ、肺胞中隔の肥厚を阻害し、肺胞損傷及び肺への炎症細胞浸潤を軽減させることができるため、肺胞上皮細胞の損傷及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される様々な疾患の治療に用いることができるという予期せぬ事実を発見した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明の一態様において、肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患を予防又は治療するための薬物の製造における式Iの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【化1】
(式I)
式中、R
1は、H、-CN、フッ素、塩素、C
1~10アルキル基、フッ素又は塩素置換C
1~10アルキル基、C
1~10アルコキシ基、フッ素又は塩素置換C
1~10アルコキシ基及びC
3~10シクロアルキル基から選ばれる。一部の実施形態では、前記R
1は、H、-CHCH
2CH
3、-CH(CH
3)
2、-CH(CH
2)
3CH
3又は-CH(CH
3)(CH
2)
3CH(CH
3)
2である。好ましい実施形態では、前記R
1は、Hである。
【0013】
本発明の別の態様において、肺上皮細胞の損傷及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患を予防又は治療するための前記いずれかの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容される塩を提供する。
【0014】
本発明の更なる態様において、予防上又は治療上の有効量の前記いずれかの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容される塩を必要とする対象に投与することを含む、肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患を予防又は治療する方法を提供する。
【0015】
本開示では、上記のいずれかの態様において、一部の実施形態で、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症、肺水腫、肺線維症、早産児慢性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、ニューモシスチス肺炎及び肺塞栓症の1つ又は複数である。一部の実施形態では、前記急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症又は肺水腫は、高酸素、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷及び/又は中毒によって引き起こされる。一部の実施形態では、前記急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症又は肺水腫は、高酸素、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷及び/又は中毒によって引き起こされ、ただし低酸素(例えば、高地環境での低酸素)によって引き起こされるのではない。一部の実施形態では、前記ウイルスは、コロナウイルス(例えば、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、サイトメガロウイルス又はそれらの組み合わせである。一部の実施形態では、前記ウイルスは、コロナウイルス(例えば、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)である。一部の実施形態では、前記急性肺損傷は、手術によって引き起こされる肺損傷であり、前記手術は、例えば、縮小手術、肺葉切除術又は肺全摘術などの肺切除術、肺腫瘍切除術又は肺移植である。一部の実施形態では、前記肺線維症は、特発性肺線維症又はじん肺である。
【0016】
本開示では、上記のいずれかの態様において、一部の実施形態で、前記血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病を含み、ただし微小脳出血、脳卒中、脳浮腫を含まない。一部の実施形態では、前記血液脳関門の破壊は、血液脳関門の透過性亢進として現われる。一部の実施形態では、前記血液脳関門の破壊は、血液脳関門の血管内皮細胞の損傷として現われる。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の臨床症状は、認知障害、歩行障害、気分障害、尿失禁及び/又はうつ病である。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の画像所見は、脳白質病変を含む。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の画像所見は、脳白質病変だけである。
【0017】
本開示では、上記のいずれかの態様において、一部の実施形態で、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、心血管疾患又は糖尿病性血管合併症である。一部の実施形態では、前記心血管疾患は、急性心筋梗塞(AMI)、狭心症、冠状動脈性心疾患、虚血性心疾患、心不全、高血圧、心血管インターベンション術による血栓形成から1つ又は複数選ばれる。一部の実施形態では、前記糖尿病性血管合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性創傷治癒遅延の1つ又は複数である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、グルタミン酸によって引き起こされるPFKFB3の発現上昇に対するYC-6の有意な阻害である。200μM グルタミン酸で初代培養ニューロンを5分間及び15分間刺激し、10μM YC-6、対応する溶媒HP-β-CD及びNMDA受容体遮断薬10μM MK-801で20分間プレインキュベートしたものを実験群、溶媒対照群及び陽性対照薬物群とした。タンパク質を回収した後にPFKFB3ウエスタンブロット解析を行った。
【
図2】
図2は、グルタミン酸によって引き起こされるPFKFB3の下流の解糖最終産物である乳酸の細胞内蓄積に対するYC-6の有意な阻害である。200μM グルタミン酸で初代培養ニューロンを15分間刺激し、10μM YC-6、対応する溶媒HP-β-CDで20分間プレインキュベートしたものを実験群、溶媒対照群及び陽性対照薬物群とした。細胞を回収した後に細胞内乳酸含有量を測定した。
【
図3】
図3は、OGD-Rによって引き起こされる血管内皮細胞の損傷に対するYC-6の有意な軽減である。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)及びラット血管内皮細胞(RAOEC)は酸素-グルコース欠乏損傷を4時間与えた後、通常の培養条件に再酸素化して24時間後に、LDHの検出及び分析を行った。YC-6を予防的に投与した細胞は、酸素-グルコース欠乏処理を行う前に、溶媒又は薬物(最終濃度1μM、3μM、10μM)を1時間プレコートし、治療的投与は、再酸素化処理と同時に溶媒又はYC-6(最終濃度1μM、3μM、10μM)を与えることであった。
【
図4】
図4は、低酸素及びLPSによって引き起こされるヒト肺胞上皮細胞の損傷に対するYC-6の有意な軽減である。1μM、5μM、10μMの最終濃度でYC-6を1時間プレインキュベートした後に、10μM デキサメタゾンを薬物対照と、対応する量の20%ヒドロキシプロピルシクロデキストリンを溶媒対照とし、次に細胞に20μg/mL LPS及び1%O
2低酸素処理を24時間行った。
【
図5】
図5は、LPSによって引き起こされる急性肺損傷に対するYC-6の保護についての病理学的結果である。赤い矢印が肺胞及び間質性肺浮腫を示し、青い矢印が血管外側のゆるい病変組織を示し、黄色い矢印が炎症細胞浸潤を示し、緑の矢印が損傷した気管支粘膜上皮の脱落を示し、オレンジ色の矢印が肺胞うっ血を示す。黒いスケールバーは100μmを表す。
【
図6】
図6は、LPS誘発性ラット急性肺損傷の病理学的スコアに対するYC-6の有意な低下である。n=9又は10であり、*はp<0.05であり、**はp<0.01であり、***はp<0.001である。
【
図7】
図7は、急性低圧低酸素誘発性カニクイザル肺損傷モデルの作成プロセスである。320メートル(A)、3000メートル(B)、4500メートル(C)、6000メートル(D)、7500メートルにおける24時間(E)及び7500メートルにおける48時間(F)の低酸素及び薬物処理後、最後にカニクイザルの肺サンプルを採取した。注射器が投与時刻を示す。
【
図8】
図8は、急性低圧低酸素によって引き起こされるカニクイザルの肺血管のうっ血及び肺胞中隔の肥厚に対するYC-6の阻害である。常圧正常酸素群(Normobaric normoxia、NN)、急性低圧低酸素群(Hypobaric hypoxia、HH)、YC-6投与群(HH+YC-6)であった。赤い矢印がうっ血して腫れた肺組織の血管の断面を示す。2行目の画像は1行目の画像の青枠領域の拡大図であり、2行目の赤枠は、黒枠領域をさらに拡大した図であった。黒いスケールバーは500μmを表し、赤いスケールバーは100μmを表す。
【
図9】
図9は、急性低圧低酸素によって引き起こされるカニクイザルの肺胞中隔の肥厚に対するYC-6の有意な阻害についての統計分析である。NN(Normobaric normoxia)は、常圧正常酸素群で、n=3であり、HH(Hypobaric hypoxia)は、急性低圧低酸素群で、n=5であり、HH+YC-6は、YC-6投与群で、n=5であった。**は、NNとの比較で、p<0.01であり、#は、HH群との比較でp<0.05であった。
【
図10】
図10は、急性低圧低酸素によって引き起こされるカニクイザルの肺胞腔におけるタンパク質ヒアリン膜の形成及び赤血球の漏出に対するYC-6の阻害である。NN(Normobaric normoxia)は、常圧正常酸素群であり、HH(Hypobaric hypoxia)は、急性低圧低酸素群であり、HH+YC-6は、YC-6投与群であった。赤い矢印が肺胞腔内のタンパク質ヒアリン膜を示し、黒い矢印が肺胞中隔の線維性過形成を示し、青い矢印が肺胞腔内の赤血球を示す。黒いスケールバーは100μmを表す。
【
図11】
図11は、急性低圧低酸素によって引き起こされるカニクイザルの肺組織の炎症性浸潤に対するYC-6の阻害である。NN(Normobaric normoxia)は、常圧正常酸素群であり、HH(Hypobaric hypoxia)は、急性低圧低酸素群であり、HH+YC-6は、YC-6投与群であった。黒い矢印が肺胞間質の炎症細胞浸潤を示し、赤い矢印が肺胞腔内の炎症細胞浸潤を示し、青い矢印が脱落した肺上皮細胞を示す。黒いスケールバーは100μmを表す。
【
図12】
図12は、酸素-グルコース欠乏-再酸素化/低酸素刺激下における血管内皮細胞のNR4A3タンパク質の発現に対するYC-6の上方調節及び細胞損傷の軽減である。(a)は、通常培養、酸素-グルコース欠乏及び酸素-グルコース欠乏-再酸素化状態下のHUVEC及びRAOEC細胞におけるNR4A3タンパク質の発現レベルに対するウエスタンブロット(Western blot)検出であった。溶媒又はYC-6は再酸素化処理と同時に与えた。(b)は、図aと同じ処理下のHUVEC及びRAOEC細胞におけるNR4A3免疫蛍光染色の代表的な画像であった。スケールバーは50μmを表す。(c)は、図bの処理のNR4A3平均蛍光強度に対する定量化であった。(d)正常環境(常圧正常酸素)、低圧低酸素及び低圧低酸素+YC-6条件下での非ヒト霊長類であるカニクイザルの肺組織のNR4A3/CD31の蛍光二重染色の代表的な画像であった。白いスケールバーは100μmを表す。(e)は、図dの処理におけるCD31信号と共局在するNR4A3の平均蛍光強度及びCD31の平均蛍光強度の定量であった。正常、低圧低酸素及び低圧低酸素+YC-6のサンプル数は、それぞれ、3、5、5であった。図c、図eの統計方法として一元配置分散分析を採用して統計分析を行い、テューキーの多重比較法を併用した。n.s.は、統計的有意差がないことを表し、**は、Pが0.01より小さいことを表し、***は、Pが0.001より小さいことを表す。
【
図13】
図13は、酸素-グルコース欠乏-再酸素化によって引き起こされる血管内皮細胞のNR4A3のユビキチン化分解に対するYC-6の阻害である。(a)は、通常培養、酸素-グルコース欠乏、酸素-グルコース欠乏-再酸素化及び酸素-グルコース欠乏-再酸素化+YC-6処理下のHUVEC及びRAOEC細胞におけるNR4A3 mRNAの相対発現量に対するリアルタイム蛍光定量PCR検出である。溶媒又は10μM YC-6は再酸素化処理と同時に細胞に与えた。(b)は、通常培養、酸素-グルコース欠乏、酸素-グルコース欠乏-再酸素化及び酸素-グルコース欠乏-再酸素化+異なる薬物処理下のHUVEC及びRAOEC細胞におけるNR4A3タンパク質発現量に対するウエスタンブロット(Western blot)検出であった。CHX、MG132及びCQは再酸素化処理の時に与えた。(c)は、酸素-グルコース欠乏-再酸素化及び酸素-グルコース欠乏-再酸素化+薬物処理後のNR4A3のユビキチン化修飾の変化に対する抗ユビキチン抗体の免疫沈降実験による検出であった。YC-6の使用濃度は10μMであり、MG132の使用濃度は100nMであった。図aのNR4A3 mRNAの相対発現量の統計方法として一元配置分散分析を採用して統計分析を行い、テューキーの多重比較法を併用した。n.s.は、統計的有意差がないことを表し、**は、Pが0.01より小さいことを表し、***は、Pが0.001より小さいことを表す。CHXは、シクロヘキシミドを表し、CQは、クロロキンを表す。インプット(Input)は、免疫沈降に使用される初期サンプルを表し、IBは、ウエスタンブロット検出を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で使用される用語「組成物」とは、治療の目的で所定の動物対象に投与するのに適する製剤を指し、少なくとも1つの薬学的活性成分、例えば、化合物を含む。任意選択で、前記組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤をさらに含む。
【0020】
用語「薬学的に許容される」は、対象物質には、理性的で慎重な医療従事者は被治療疾患又は症状及びそれぞれの投与経路を考慮すると、患者への当該物質の投与を避けるという特性がないことを表す。例えば、注射可能な物質の場合、一般にそのような物質は実質的に無菌であることが求められる。
【0021】
本明細書で、用語「予防有効量」及び「治療有効量」は、対象物質とその量が、疾患又は障害の1つ又は複数の症状に対する予防、軽減若しくは改善、及び/又は被治療対象の生存に対する延長に効果的であることを表す。
【0022】
本明細書で使用される「治療」は、疾患若しくは症状の程度若しくは合併症を軽減させ、又は疾患若しくは症状を解消させるために、本願の化合物又は薬学的に許容されるその塩を与えることを含む。本明細書で用語「軽減」は、症状の徴候又は症状の重症度が低下する過程を説明するために使用される。症状は解消せず軽減はしている場合がある。一実施形態では、本願の医薬組成物を与えると、徴候又は症状の解消につながる。
【0023】
本明細書で使用される「予防」は、本願の化合物又は薬学的に許容されるその塩を与えて、特定の疾患、症状又は合併症の発生を防止又は阻止することを含む。
【0024】
本明細書で使用される用語「C1~10」若しくは「C3~10」又は類似している表現とは、1から10個又は3から10個の炭素原子を有することを指す。例えば、C1~10アルキル基とは、1から10個の炭素原子を有するアルキル基を指し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、デシル基などである。
【0025】
本明細書で使用される用語「肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患」は、肺上皮細胞の損傷によって媒介される疾患、血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患、及び肺上皮細胞と血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患を含む。
【0026】
「式Iの化合物、その重水素化物、及び薬学的に許容される塩」
本発明の方法又は用途に適用される化合物は、式Iの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容されるその塩を含み、
【化2】
(式I)
式中、R
1は、H、-CN、フッ素、塩素、C
1~10アルキル基、フッ素又は塩素置換C
1~10アルキル基、C
1~10アルコキシ基、フッ素又は塩素置換C
1~10アルコキシ基及びC
3~10シクロアルキル基から選ばれる。式Iの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容されるその塩は、本明細書で「本発明の化合物」又は「前記化合物」とも呼ばれる。
【0027】
一実施形態では、式中、R
1は、Hであり、即ち、前記化合物は、5α-アンドロス
タ-3β,5,6β-トリオールであり(「YC-6」又は「YC6」と略称する)、その構造式は、式(II)に示されるとおりである。
【化3】
(式II)
【0028】
一実施形態では、R1は-CHCH2CH3で、前記化合物は、17-プロピレン-アンドロスタ-3β,5α,6β-トリオールである。一実施形態では、R1は-CH(CH3)2で、前記化合物は、17-イソプロピル-アンドロスタ-3β,5α,6β-トリオールである。一実施形態では、R1は-CH(CH2)3CH3で、前記化合物は、17-ブチル-アンドロスタ-3β,5α,6β-トリオールである。一実施形態では、R1は-CH(CH3)(CH2)3CH(CH3)2で、前記化合物は、コレスタン-3β,5α,6β-トリオールである。
【0029】
本発明の化合物は、薬学的に許容される塩の形態として製剤化されてもよい。薬学的に許容される塩の所定の形態は、一塩、二塩、三塩、四塩などを含むが、それらに限定されない。薬学的に許容される塩は、その投与量と濃度において無毒である。生理学的効果の発揮が妨げられない限り、化合物の物理的特性を変えることによって、薬理学的使用に適するようにこのような塩を製造することができる。物理的特性の役立つ変化としては、経粘膜投与のための融点低下、及びより高い濃度での薬物投与のための溶解度増加を含む。
【0030】
薬学的に許容される塩は、酸付加塩を含み、例えば、硫酸塩、塩化物、塩酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、スルファミン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩、キナ酸塩を含む塩である。薬学的に許容される塩は、酸から得られてもよく、前記酸は、例えば、塩酸、マレイン酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、マロン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、フマル酸、キナ酸である。
【0031】
酸性官能基、例えば、カルボン酸又はフェノールが存在する場合に、薬学的に許容される塩は塩基付加塩も含み、例えば、ベンザチンベンジルペニシリン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、tert-ブチルアミン、エチレンジアミン、メグルミン、プロカイン、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、アンモニウム、アルキルアミン及び亜鉛を含む塩である。このような塩は、適切な対応する塩を使用して製造してもよい。
【0032】
薬学的に許容される塩は、標準的な技術によって製造してもよい。例えば、遊離塩基形態の化合物を適切な溶媒、例えば、適切な酸を含む水溶液又は水-アルコール溶液に溶解し、次に溶液を蒸発して分離させる。別の例として、遊離塩基と酸を有機溶媒において反応させて塩を製造する。
【0033】
例えば、特定の化合物が塩である場合に、当技術分野において得られる任意の適切な方法で薬学的に許容される所望の塩を製造してもよい。例えば、無機酸又は有機酸で遊離塩基を処理し、前記無機酸は、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、類似している酸であり、前記有機酸は、例えば、酢酸、マレイン酸、コハク酸、マンデル酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、ピラノシジル酸(pyranosidyl acid)(例えば、グルクロン酸若しくはガラクツロン酸)、α-ヒドロキシ酸(例えば、クエン酸若しくは酒石酸)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸若しくはグルタミン酸)、芳香族酸(例えば、安息香酸若しくはケイ皮酸)、スルホン酸(例えば、p-トルエンスルホン酸若しくはエタンスルホン酸)又は類似体である。
【0034】
同様に、特定の化合物が酸である場合に、任意の適切な方法で薬学的に許容される所望の塩を製造してもよい。例えば、無機塩基又は有機塩基で遊離酸を処理し、前記無機塩基又は有機塩基は、例えば、アミン(第一級アミン、第二級アミン若しくは第三級アミン)、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物又は類似体である。適切な塩の例は、アミノ酸(例えば、L-グリシン、L-リシン、L-アルギニン)、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、及び環状アミン(例えば、ヒドロキシエチルピロリジン、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン)から誘導された有機塩、及びナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、リチウムから誘導された無機塩を含む。
【0035】
化合物の薬学的に許容される塩は、錯体として存在してもよい。錯体の例は、8-クロロテオフィリン錯体(例えば、ジメンヒドリナート:ジフェンヒドラミン8-クロロテオフィリンの1:1錯体)、様々なシクロデキストリン含有錯体を含む。
【0036】
本発明は、当該化合物が使用された薬学的に許容される重水素化化合物又は他の非放射性によって置換された化合物も含む。重水素化とは、薬物活性分子の官能基における1つ若しくは複数又は全ての水素を同位体の重水素に置き換えたものであり、無毒で非放射性であり、また炭素-水素結合よりもさらに約6~9倍安定しており、代謝部位をブロックして薬物の半減期を延長できるため、治療用量が低下されるとともに、薬物の薬理活性に影響はないことから、優れた修飾方法と見なされる。
【0037】
「医薬組成物」
本発明の別の態様において、有効量の式Iの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0038】
本発明で「医薬組成物」とは、式Iの化合物と、薬学的に許容される担体とを含む組成物を指し、前記化合物と薬学的に許容される担体は混合物の形態で組成物に存在している。前記組成物は一般にヒト対象の治療に使用される。また、他の動物対象における類似している又は同じ症状の治療にも使用できる。本明細書で、用語「対象」、「動物対象」及び類似している用語とは、ヒト、及びヒト以外の脊椎動物を指し、例えば、哺乳動物(例えば、非ヒト霊長類)、競技用動物及び商用動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、げっ歯類動物)、愛玩用動物(例えば、イヌ、ネコ)である。
【0039】
適切な剤形は、部分的に用途又は投与経路(例えば、経口、経皮、経粘膜、吸入又は注射(非経口))によって決定される。そのような剤形は、当該化合物を標的細胞に送達できるものである。他の要因も当技術分野で知られており、毒性や化合物又は組成物の効果発揮を遅延させる剤形などの考慮事項を含む。
【0040】
担体又は賦形剤は、組成物の製造に使用することができる。前記担体又は賦形剤として、化合物の投与を促進するものを選択できる。担体の例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖(例えば、ラクトース、グルコース若しくはスクロース)、又はデンプン類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコール及び生理学的に適合する溶媒を含む。生理学的に適合する溶媒の例は、注射用水(WFI)、無菌溶液、塩溶液、グルコースを含む。
【0041】
静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、経口、経粘膜、経直腸、経皮、吸入を含め、様々な経路によって組成物又は組成物の成分を投与することができる。一部の実施形態では、注射剤又は凍結乾燥注射剤であることが好ましい。経口投与の場合に、例えば、化合物は通常の経口投与剤形(例えば、カプセル、錠剤)、液体製剤(例えば、シロップ、エリキシル、濃縮ドロップ)として製剤化することができる。
【0042】
経口投与用薬物製剤を得ることができ、例えば、組成物又はその成分を固体の賦形剤と組み合わせ、任意選択で粉砕することによって形成させた混合物、及び(必要ならば)適切な助剤を加えて顆粒に加工した混合物から、錠剤又は糖衣錠を得る。適切な賦形剤は、特に、フィラー(例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール又はソルビトールなどの糖)、セルロース製剤(例えば、コーンスターチ、小麦デンプン、メートルデンプン、ポテトスターチ、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP:ポビドン(povidone))である。必要ならば、崩壊剤(例えば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天若しくはアルギン酸又はそれらの塩(例えば、アルギン酸ナトリウム))を加えてもよい。
【0043】
オプションとして、注射用(非経口投与用)、例えば、筋肉内、静脈内、腹腔内及び/又は皮下投与用のものを使用できる。注射用の場合に、本発明の組成物又はその成分は無菌の液体溶液として、好ましくは、生理学的に適合する緩衝液又は溶液、例えば、生理食塩水、ハンクス(Hank)溶液又はリンガー(Ringer)溶液において調製される。また、組成物又はその成分は、固体の形態として調製され、使用直前に再び溶解又は懸濁されてもよい。凍結乾燥粉末として製造されてもよい。
【0044】
経粘膜、局所又は経皮の方式で投与してもよい。経粘膜、局所又は経皮投与の場合は、配合において浸透されるバリアに適する浸透剤が使用される。そのような浸透剤は、当技術分野で一般に知られているもので、例えば、経粘膜投与の場合に、胆汁酸塩、フシジン酸誘導体を含む。また、アルキル(C12~14)ジメチルベタインは浸透を促進するために利用できる。経粘膜投与の場合に、例えば、鼻スプレー又は坐剤(経直腸若しくは経膣)を利用できる。
【0045】
標準的な手順によって、投与される様々な成分の有効量を決めることができ、考慮すべき要因として、例えば、前記化合物のIC50、前記化合物の生物学的半減期、対象の年齢、大きさ、体重及び対象に関連する症状である。これらの要因と他の要因の重要性は、当業者に熟知されている。一般に、被治療対象への用量は、約0.01mg/kgから50mg/kgの間であり、好ましくは、0.1mg/kgから20mg/kgの間である。複数の用量にしてもよい。
【0046】
本発明の組成物又はその成分は、同じ疾患に対する他の治療剤と組み合わせて使用されてもよい。組み合わせて使用するのは、これらの化合物と1種又は複数種の他の治療剤を異なる時間で投与すること、又はそのような化合物と1種若しくは複数種の他の治療剤を同時に使用することを含む。一部の実施形態では、本発明の1種若しくは複数種の化合物又は組み合わせて使用される他の治療剤の用量を変えてもよく、例えば、当業者の知っている方法で、単独で使用する化合物又は治療剤の用量を低減する。
【0047】
なお、組み合わせての使用又は併用は、他の療法、薬物、医療処置などと共に使用することを含み、当該他の療法又は処置は、本発明の組成物又はその成分の投与と異なる時間で(例えば、短期間内に(例えば、数時間(例えば、1、2、3、4~24時間)又は長い期間内に(例えば、1~2日間、2~4日間、4~7日間、1~4週間))、又は本発明の組成物若しくはその成分と同じ時間に投与されてもよい。組み合わせての使用は、1回限りの又は頻度の高くない投与療法又は医療処置(例えば、手術)と共に用いられ、且つ当該他の療法又は処置の前に又はその後の短い期間又は長い期間内に本発明の組成物若しくはその成分が投与されることを含む。一部の実施形態では、本発明は、本発明の組成物又はその成分と1種又は複数種の他の治療薬を送達するために利用され、それらは同じ又は異なる投与経路によって送達される。
【0048】
いずれの投与経路で組み合わせて投与することは、同じ投与経路で本発明の組成物又はその成分と1種又は複数種の他の治療薬を、任意の製剤の形態で同時に送達することを含み、当該製剤は、化学的に結合された2種の化合物が投与時にそれぞれの治療活性が保持されるようなものを含む。一態様では、当該他の薬物療法は、本発明の組成物又はその成分と同時に投与されてもよい。同時に投与するように組み合わせて使用することは、合剤(co-formulation)又は化学的に結合された化合物の製剤の投与、又は短い期間内(例えば、1時間以内、2時間以内、3時間以内、あるいは24時間以内)における2種又は複数種の独立した製剤形態の化合物の投与を含み、それらは同じ又は異なる経路で投与される。
【0049】
独立した製剤の同時投与は、同一の装置、例えば、同一の吸入装置、注射器などでの送達により同時に投与すること、又は互いに短い間隔で異なる装置で投与することを含む。同じ投与経路により送達される本発明の化合物と1種又は複数種の追加の薬物療法による合剤は、同一の装置から投与されるように材料を同時に調製したもの、異なる化合物が1つの製剤に組み合わされたもの、又は化合物が化学的に結合されていてもそれぞれの生物学的活性が保持されるように修飾されたものを含む。そのような化学的に結合された化合物は、2つの活性成分を分離させるリンカーを含んでもよく、当該リンカーは、生体内で実質的に維持されるもの、又は生体内で分解されるものである。
【0050】
「医薬用途と治療法」
本発明の一態様において、肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患を予防又は治療するための薬物の製造における前記いずれかの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容される塩の使用を提供する。一部の実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症、肺水腫、肺線維症、早産児慢性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、ニューモシスチス肺炎及び肺塞栓症から1つ又は複数選ばれる。一部の実施形態では、前記急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症又は肺水腫は、高酸素、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷及び/又は中毒によって引き起こされる。一部の実施形態では、前記急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症又は肺水腫は、高酸素、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷及び/又は中毒によって引き起こされ、ただし低酸素によって引き起こされるのではない。一部の実施形態では、前記ウイルスは、コロナウイルス(例えば、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、サイトメガロウイルス又はそれらの組み合わせである。一部の実施形態では、前記ウイルスは、コロナウイルス(例えば、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)である。一部の実施形態では、前記急性肺損傷は、手術によって引き起こされる肺損傷であり、前記手術は、例えば、縮小手術、肺葉切除術又は肺全摘術などの肺切除術、肺腫瘍切除術又は肺移植術である。一部の実施形態では、前記肺線維症は、特発性肺線維症又はじん肺である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、肺損傷である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性肺損傷である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性呼吸窮迫症候群である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、肺高血圧症である。
【0051】
一部の実施形態では、前記血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、血液脳関門の破壊(又は損傷)によって媒介される脳小血管病を含み、ただし微小脳出血、脳卒中、脳浮腫を含まない。一部の実施形態では、前記血液脳関門の破壊は、血液脳関門の透過性亢進として現われる。一部の実施形態では、前記血液脳関門の破壊は、血液脳関門の血管内皮細胞の損傷として現われる。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の臨床症状は、認知障害、歩行障害、気分障害、尿失禁及び/又はうつ病である。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の画像所見は、脳白質病変を含む。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の画像所見は、脳白質病変だけである。
【0052】
一部の実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、心血管疾患又は糖尿病性血管合併症である。一部の実施形態では、前記心血管疾患は、急性心筋梗塞(AMI)、狭心症、冠状動脈性心疾患、虚血性心疾患、心不全、高血圧、心血管インターベンション術による血栓形成から1つ又は複数選ばれる。一部の実施形態では、前記糖尿病性血管合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性創傷治癒遅延の1つ又は複数である。
【0053】
本発明の一態様において、予防上又は治療上の有効量の本発明のいずれかの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容される塩を必要とする対象に投与することを含む、肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患を予防又は治療する方法を提供する。一部の実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症、肺水腫、肺線維症、早産児慢性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、ニューモシスチス肺炎及び肺塞栓症から1つ又は複数選ばれる。一部の実施形態では、前記急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症又は肺水腫は、高酸素、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷及び/又は中毒によって引き起こされる。一部の実施形態では、前記急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症又は肺水腫は、高酸素、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷及び/又は中毒によって引き起こされ、ただし低酸素によって引き起こされるのではない。一部の実施形態では、前記ウイルスは、コロナウイルス(例えば、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、サイトメガロウイルス又はそれらの組み合わせである。一部の実施形態では、前記ウイルスは、コロナウイルス(例えば、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)である。一部の実施形態では、前記急性肺損傷は、手術によって引き起こされる肺損傷であり、前記手術は、例えば、縮小手術、肺葉切除術又は肺全摘術などの肺切除術、肺腫瘍切除術又は肺移植術である。一部の実施形態では、前記肺線維症は、特発性肺線維症又はじん肺である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、肺損傷である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性肺損傷である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性呼吸窮迫症候群である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、肺高血圧症である。
【0054】
一部の実施形態では、前記血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、血液脳関門の破壊(又は損傷)によって媒介される脳小血管病を含み、ただし微小脳出血、脳卒中、脳浮腫を含まない。一部の実施形態では、前記血液脳関門の破壊は、血液脳関門の透過性亢進として現われる。一部の実施形態では、前記血液脳関門の破壊は、血液脳関門の血管内皮細胞の損傷として現われる。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の臨床症状は、認知障害、歩行障害、気分障害、尿失禁及び/又はうつ病である。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の画像所見は、脳白質病変を含む。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の画像所見は、脳白質病変だけである。
【0055】
一部の実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、心血管疾患又は糖尿病性血管合併症である。一部の実施形態では、前記心血管疾患は、急性心筋梗塞(AMI)、狭心症、冠状動脈性心疾患、虚血性心疾患、心不全、高血圧、心血管インターベンション術による血栓形成から1つ又は複数選ばれる。一部の実施形態では、前記糖尿病性血管合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性創傷治癒遅延の1つ又は複数である。
【0056】
本発明の別の態様において、肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患を予防又は治療するための本発明のいずれかの化合物、その重水素化物又は薬学的に許容される塩を提供する。一部の実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症、肺水腫、肺線維症、早産児慢性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、ニューモシスチス肺炎及び肺塞栓症から1つ又は複数選ばれる。一部の実施形態では、前記急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症又は肺水腫は、高酸素、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷及び/又は中毒によって引き起こされる。一部の実施形態では、前記急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、肺高血圧症又は肺水腫は、高酸素、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷及び/又は中毒によって引き起こされ、ただし低酸素によって引き起こされるのではない。一部の実施形態では、前記ウイルスは、コロナウイルス(例えば、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、サイトメガロウイルス又はそれらの組み合わせである。一部の実施形態では、前記ウイルスは、コロナウイルス(例えば、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)である。一部の実施形態では、前記急性肺損傷は、手術によって引き起こされる肺損傷であり、前記手術は、例えば、縮小手術、肺葉切除術又は肺全摘術などの肺切除術、肺腫瘍切除術又は肺移植術である。一部の実施形態では、前記肺線維症は、特発性肺線維症又はじん肺である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、肺損傷である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性肺損傷である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、急性呼吸窮迫症候群である。好ましい実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、肺高血圧症である。
【0057】
一部の実施形態では、前記血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、血液脳関門の破壊(又は損傷)によって媒介される脳小血管病を含み、ただし微小脳出血、脳卒中、脳浮腫を含まない。一部の実施形態では、前記血液脳関門の破壊は、血液脳関門の透過性亢進として現われる。一部の実施形態では、前記血液脳関門の破壊は、血液脳関門の血管内皮細胞の損傷として現われる。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の臨床症状は、認知障害、歩行障害、気分障害、尿失禁及び/又はうつ病である。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の画像所見は、脳白質病変を含む。一部の実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病の画像所見は、脳白質病変だけである。
【0058】
一部の実施形態では、前記肺上皮細胞及び/又は血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、心血管疾患又は糖尿病性血管合併症である。一部の実施形態では、前記心血管疾患は、急性心筋梗塞(AMI)、狭心症、冠状動脈性心疾患、虚血性心疾患、心不全、高血圧、心血管インターベンション術による血栓形成から1つ又は複数選ばれる。一部の実施形態では、前記糖尿病性血管合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性創傷治癒遅延の1つ又は複数である。
【0059】
「疾患又は症状」
「急性肺損傷/急性呼吸窮迫症候群(ALI/ARDS)」
急性肺損傷(ALI)は、肺の炎症と肺微小血管の透過性亢進による急性又は進行性の低酸素性呼吸不全であり、その最終的な段階は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である。急性肺損傷を引き起こす要因は様々であり、高酸素、ウイルス感染、細菌感染、外傷、ショック、虚血再灌流障害、急性膵炎、吸入傷害、びまん性肺胞損傷、中毒などを含むが、それらに限定されない。例えば、感染性肺炎(例えば、細菌性肺炎又はウイルス性肺炎)における又はそれによって引き起こされる急性肺損傷/急性呼吸窮迫症候群である。例えば、新型コロナウイルス感染による肺炎(Corona Virus Disease 2019、COVID-19)の病態生理学的特徴として次のものが挙げられる。新型コロナウイルスは主に患者の肺を攻撃して、細胞性線維粘液性浸出液を伴うびまん性肺胞損傷を患者に引き起こすとともに、肺細胞の脱落とヒアリン膜の形成が見られる。これによって肺の通気/換気機能に深刻な影響を与え、急性呼吸窮迫症候群に発展している。臨床研究で、一部の患者はウイルス核酸検査が陰性になった後も、肺損傷が依然として長期的に存在し、ひいては一層悪化する場合もあるということを発見した。
【0060】
ALIでは、肺血管内皮細胞の変化が特に顕著であり、血管内皮細胞の損傷はALIの発生、進行の病理学的根拠と見なされる。肺高血圧症(PAH)は、様々な要因が引き起こすALIの早期の主な症状の1つである。PAHは間質性肺浮腫、肺出血、進行性呼吸困難を促進する可能性があり、肺血管内皮細胞の機能障害と損傷が、ALI中のPAHを形成させる主要な要因の1つでもある。血管内皮機能障害は血管変化より先に出現し、可逆的であるため、その発生と進行のルール及びその調節メカニズムを研究及び理解するのは、ALIの予防と治療に大きな意味を有する。
【0061】
ALI/ARDSで死亡した患者では肺胞上皮細胞の破壊が非常に明らかなもので、肺毛細血管にもある程度の損傷があるが、上皮細胞の損傷が主であることが研究に裏付けられた。肺胞の液体-気体界面において、肺胞上皮細胞が肺胞内膜液に適切な水と溶質の含有量を維持させ、これはガス交換及び宿主におけるウイルスと細菌などの病原体への耐性にとっては極めて重要なことである。肺内に内皮の透過性変化が起これば、肺間質と肺胞腔内の浮腫液が最終的に除去され、肺線維症に発展せずに済む。逆に、大量の肺胞上皮細胞が損傷するとタンパク質の透過性が上昇し、肺胞液と肺胞からのタンパク質の除去率を低下させ、これが肺胞内での高分子量のタンパク質の凝集と無秩序な修復を引き起こし、ガス交換を悪化させてしまう。ALI中に肺胞上皮の破壊が上皮細胞の脱落を引き起こすと、タンパク質を豊富に含む浮腫液が肺胞腔に浸潤して、肺胞バリアの破壊を加速させる。上皮細胞破壊の方式は、アポトーシス、ネクローシスを含む。ARDSで死亡した患者及び高酸素環境、LPS刺激、盲腸結紮と穿孔、虚血再灌流障害、人工呼吸器関連肺炎と人工呼吸器関連肺損傷動物モデルでは、いずれも肺胞壁にこの2つの方式の死亡が発見された。ネクローシスが細胞膜の破壊を引き起こすと、細胞質が流出し、さらに炎症反応につなげる。肺胞は機械的損傷、高温、虚血又は細菌産物からの刺激を受けるといずれもネクローシスが起こる。アポトーシスは細胞表面の細胞死受容体に関連しており、細胞によって除去すると軽度の炎症だけが起こる。広範な上皮細胞のアポトーシスと分離により細胞基底膜は肺胞腔の炎症性物質、例えば、酸化剤、プロテアーゼ及び炎症性因子にさらされる。上皮細胞破壊が引き起こす線維芽細胞の増殖とコラーゲン形成は、肺線維症を引き起こす可能性がある。損傷後の肺胞上皮の完全性修復は、上皮細胞の正常な機能の回復と肺水腫の除去に特に重要である。ALI/ARDS患者自身において生成される又は肺胞腔に入る一部の因子が、上皮の修復を促進することが一連の研究に裏付けられた。これらの可溶性因子は、患者の肺内の線維芽細胞、マクロファージ、内皮細胞、上皮細胞、細胞外マトリックス、血漿滲出液から来ており、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、プロスタグランジン及び機能性成分を構成している。ALI/ARDSに関して多くの研究がなされているものの、患者の死亡率が高止まりしている。従来の薬物治療は効果が優れないため、ARDSの治療では支持療法を主としている。ALIの重症度と進行を決める主な要因の1つは肺胞上皮の損傷程度である。上皮細胞の治療の観点から見ると、上皮細胞の早期損傷の阻害、上皮細胞の修復の加速、肺水腫の解消は、いずれも患者の生存率を高めるための効果的な措置である。
【0062】
「特発性肺線維症(IPF)」
特発性肺線維症(IPF)は、肺胞上皮細胞の損傷と組織の異常な過形成によって引き起こされる肺疾患である。発生機序は様々な要因が肺胞上皮細胞の損傷を引き起こし、最終的に線維芽細胞の増殖と筋線維芽細胞の凝集を引き起こして、線維芽細胞病巣を形成させることであるということは、研究に裏付けられた。上皮細胞のアポトーシスは早期IPFの進行の重要な要因である可能性がある。炎症反応、細胞内張力、テロメラーゼ活性などの要因が肺胞上皮細胞のアポトーシスに関与しており、肺線維症の発生の初期段階で重要な役割を果たす。IPFの大きな病理学的特徴は、線維芽細胞の活発な増殖で形成している繊維性病巣である。線維芽細胞病巣は上皮細胞が損傷及び修復される部位で、上皮細胞損傷後に線維芽細胞の移動、増殖、分化を促す様々なメディエーターを分泌して、肺胞内の広範な繊維化を引き起こし、最終的に進行性呼吸困難が起こる。IPFの発生機序としては肺胞上皮細胞の損傷後の異常な再上皮化と線維芽細胞の異常な増殖が考えられる。IPFにおける細胞の死亡は上皮細胞損傷後のアポトーシスとして現れ、疾患の発生で重要な役割を果たす。肺上皮細胞のアポトーシスを誘発するのは肺組織の繊維化を引き起こすことが研究に裏付けられた。肺胞上皮細胞の損傷は肺線維症の発生の最初の要因として現在学者に最も受け入れられている理論的な仮説であり、肺胞上皮細胞のアポトーシスを標的として低下させる薬物はIPFの防止のため新しい治療法を提供できるのだろう。肺組織における好気性解糖が肺線維症に密接に関係していることが研究で明らかになっている。Hu et al.(2020)では、PFKFB3阻害剤3POが、LPS誘発性肺線維症マウスモデルにおいてPFKFB3発現の有意な上方調節と好気性解糖の増加を逆転できることを発見した。
【0063】
「じん肺」
じん肺は、生産粉塵の長期吸入によって引き起こされる、肺組織の不可逆的な繊維化を主とする全身疾患である。現在、じん肺に対する効果的な治療法はまだなく、粉塵が肺線維症を引き起こす病理学的な過程で、一部の肺胞上皮細胞が異常に活性化し、損傷とアポトーシスも見られ、上皮細胞の修復障害、線維化促進因子放出及び上皮間葉転換(EMT)などの過程が、線維芽細胞病巣と筋線維芽細胞病巣の形成及び細胞外マトリックスの大量生成を促進し、最終的に肺胞構造の破壊と肺線維症を引き起こす。
【0064】
「高酸素肺損傷」
高酸素肺損傷は、びまん性肺細胞損傷による、速やかにガス交換に影響を与える炎症性肺疾患である。高酸素肺損傷は、常圧下体積分率が21%より高い高分圧酸素又は1絶対気圧より高い高圧酸素を吸い込むことで発生した、肺酸素中毒をはじめとする急性及び慢性の肺損傷の総称である。新生児、特に早産児では、抗酸化酵素系と肺サーファクタントが完全に発達していないため、高酸素が肺に入った後、酸素フリーラジカルが発生し、細胞損傷、アポトーシス、ネクローシスを引き起こすと同時に、炎症メディエーター、炎症細胞浸潤が発生し、肺炎症反応、組織損傷と異常な修復を引き起こす。高酸素は肺胞上皮細胞の酸化的損傷を引き起こし、肺胞化の進行を阻害し、広範な肺胞上皮細胞の損傷と損傷修復能力の低下で血液空気関門の透過性が明らかに向上して肺水腫が起こり、ALIの発生を促進する。
【0065】
「早産児慢性肺疾患」
早産児慢性肺疾患(chronic lung disease、CLD)は、早産児における高濃度酸素の長期吸入又は人工呼吸器治療又は感染後の最も一般的で深刻な合併症である。早産児CLDは、気管支肺異形成症(bronchopulmonary dysplasia、BPD)とも呼ばれ、早産児ヒアリン膜疾患の治療の合併症として1967年にNorthwayによって最初に説明された。酸素療法は、心肺疾患を有する早産児に最も用いられる治療手段の1つである。これは患児の低酸素血症を改善し、患児の命を救うことができるが、高濃度酸素の長期吸入が、異なる程度の肺損傷を引き起こす可能性があり、深刻な場合にCLDにも発展している。人工呼吸器の広範な開発、早産児管理技術が日ごとに高度化し肺サーファクタントが一般的に用いられることにより、早産児、特に極低出生体重児(extremely low birth weight、ELBW、出生体重が1000g未満の産児)の生存率が明らかな改善されているが、早産児慢性肺疾患の発生率が高まり、海外では30~40%に達しており、国内でも上昇する傾向にある。効果的な監視及び予防と治療手段が欠如しているため、CLD患児の10~15%が深刻な肺機能障害により呼吸不全で死亡し、生存している者でも酸素又は人工呼吸器での治療に長期的に依存している。初期の肺胞上皮細胞(alveolar epithelial cell、AEC)損傷と晩期の肺線維症は、CLDの主な病理学的特徴である。現在、AEC損傷の程度を軽減させ又は肺組織におけるコラーゲンの沈着を減少することによってCLDの効果的な防止の目的を達成するために多くの試みが行われている。
【0066】
「慢性閉塞性肺疾患」
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease、COPD)は、世界中の呼吸器疾患の中でも発生率と死亡率が上位に来る疾患であり、その発生がさらに拡大している。喫煙はCOPDの主な原因であることが知られており、タバコ煙(cigarette smoke、CS)は酸化剤成分を豊富に含む複雑な混合物であり、肺を構成する様々な細胞種のうち、肺胞上皮細胞がCS中の酸化剤の損傷を受ける主な部位である。COPD患者の肺胞上皮細胞のアポトーシス指数が肺血管内皮細胞のアポトーシス指数より明らかに高く、しかも両者が正の相関にあることが研究で示されている。内皮細胞の損傷とアポトーシスが最初に肺胞構造の完全性を破壊し、後には肺胞上皮細胞の損傷又はアポトーシスが出現する可能性がある。内皮細胞が損傷又はアポトーシスした後、直接的な細胞間相互作用と間接的な特定のメカニズムによって、他の細胞、特に肺胞上皮細胞のアポトーシスを開始及び誘発させることによって、COPDと肺気腫が発生する可能性がある。さらに、COPD患者は血管内皮機能障害を有しており、疾患の重症度とも相関性がある。血管内皮細胞の機能異常はCOPDの発生、進行とも密接な関係がある。炎症、血管損傷、血行動態の変化、低酸素、酸化ストレス、アポトーシスなどが血管内皮細胞機能障害を促進できる。COPD早期でも、あるいは肺機能が正常な健康な喫煙者においても、血管内皮細胞機能が既に変化していることが研究で示されている。血管内皮細胞機能の異常な変化は、COPDの発生、進行及び関連する心血管イベントの高発生率に重要な役割を果たすという可能性がある。
【0067】
「ニューモシスチス肺炎」
ニューモシスチス肺炎は、ニューモシスチス・イロベチイによって引き起こされる間質性肺炎(ニューモシスチス肺炎、PCP)であり、主な臨床症状は発熱、空咳、進行性呼吸困難などである。酸素吸入だけでは緩和できず、対症療法で速やかに回復し、免疫機能が低下する者に多発し、AIDS患者で発生率が70~80%に達している。ニューモシスチス・イロベチイの病原性が弱く、健常者の場合は不顕性感染が多く、宿主の免疫機能が低下する時にだけ、潜伏しているニューモシスチス・イロベチイが大量に増殖し、PCPが発生する。下気道に吸入されるニューモシスチス・イロベチイは直接I型肺胞上皮細胞の損傷とネクローシスを引き起こし、肺胞毛細血管の透過性亢進が起こり、肺胞がニューモシスチス・イロベチイと泡状好酸性物質に満たされることで、肺サーファクタントが減少し、ガス交換に影響を与え、低酸素血症(PCP患者の最も重要な特徴)が発生する。II型肺胞上皮細胞の代償性肥大、肺胞中隔の上皮細胞過形成、肥厚、部分的脱落が起こると同時に、間質内にマクロファージと形質細胞が過形成され、間質が線維化することで、深刻な肺機能障害が起こる。
【0068】
「肺塞栓症」
肺塞栓症は、脱落した血栓又は他の物質が肺動脈又はその分岐を塞ぐ病理学的過程であり、発生率と死亡率が高い一般的な疾患である。血管内皮細胞の損傷は、肺塞栓症を引き起こす一番の要因である。内皮細胞は微粒子、組織因子などの生体分子によって血小板と好中球に働きかけることで、血栓形成に関与する。血管内皮細胞の損傷と修復は肺塞栓症において重要な役割を有するため、肺塞栓症の発生、進行のメカニズムに関する研究が、内皮細胞の損傷と修復に関する分子的、細胞学的、病理学的検討に重きが置かれるようになる。
【0069】
「心血管疾患」
血管内皮細胞の損傷は、多くの心血管疾患の発生と進行に関連しており、血管内皮損傷によって誘発される血栓形成は多くの心血管疾患の病理学的根拠である。最初には亜急性心内膜炎患者の末梢血から脱落した血管内皮細胞が発見され、研究が深まるにつれて、多くの心血管疾患では程度の差があるがいずれも循環内皮細胞の変化が発見された。急性心筋梗塞(AMI)と狭心症患者では、循環内皮細胞の明らかな増加が数日間持続する。冠状動脈性心疾患の急性発作と悪化の原因は内皮細胞が損傷した後に機能が変化することであり、血管内皮細胞の損傷の程度は疾患の重症度に一致している。国内の研究で、虚血性心疾患でAMIが46時間発生しているところ、健常者より循環内皮細胞が明らかに増加することが24時間も持続していることを発見した。再灌流時の損傷も循環内皮細胞の増加を引き起こす。冠状動脈性心疾患が心不全(CHF)などの他の危険因子を合併したとき、循環内皮細胞が明らかに増加する。CHFが重いほど、血管内皮損傷が明らかであり、血管内皮損傷が疾患を悪化させることも研究で判明した。さらに、内皮細胞損傷によって引き起こされる機能障害が高血圧に密接に関係しており、血管内皮機能障害は高血圧の発生と進行で重要な役割を果たし、また、高血圧自体が血管内皮機能障害を悪化させることで、悪循環を生み出すということも多くの研究で明らかになっている。高血圧ラットの内皮細胞は損傷した臓器の血液で明らかに増加し、高血圧患者では循環内皮細胞が健常者より明らかなより高く、増加している部分が冠状動脈性心疾患の患者を上回っている。心血管インターベンションの場合、主に血管内皮を机械的に刺激することで、損傷をもたらす。術式によって血管内皮への損傷の程度が異なる。血管内皮細胞が損傷する時に内皮機能障害が起こり、血行動態が変化し、これによって多くの重合誘発物質と血管作動性物質を損傷血管の局所に蓄積させて、血小板が活性化することが、心血管インターベンション術による血栓形成の主な病態生理学的メカニズムである。
【0070】
「糖尿病性血管合併症」
慢性高血糖か急性高血糖を問わず、いずれもヒトと動物の内皮機能に損傷をきたすことが研究に裏付けられた。血管内皮機能障害は糖尿病性血管合併症(特に網膜症、腎疾患、創傷治癒障害)の発生の重要な原因であり、血管内皮機能の変化が糖尿病の他の発生機序の重要な要因でもあり、その表現は主にインスリン抵抗性、脂肪毒性、インスリン分泌障害である。現在、血管内皮機能損傷は糖尿病血管病変の発生の開始要因と主な病態生理学的基礎であると考えられ、慢性血管合併症が現れてもいない糖尿病患者には既に内皮機能の明らかな低下が出現している。
【0071】
「脳小血管病」
脳小血管とは、脳内の小さな穿通動脈、小動脈(直径40~200μm)、毛細血管及び小静脈を指し、それらが脳組織への血液供給の基本単位を構成し、脳機能の維持に重要な役割を果たす。脳内の大血管と小血管が共に脳血管樹(vascular tree)を構成し、それが構造的に連続しているため、共に血行力学的な影響を受け、共に危険因子にさらされる。したがって、理論的には、脳内の大血管と小血管の病変は重症度において相関性があると考えられる。しかし、臨床では両者が一致しないものがよく見られ、例えば、深刻な脳小血管病変はあるが脳大動脈狭窄を合併しない患者が多く見られ、逆の場合も同様である。
【0072】
脳小血管病(cerebral small vessel disease、CSVD)とは、一般に上記の小血管の様々な病変によって引き起こされる臨床的、認知的、画像学的及び病理学的な所見を有する症候群を指す。小さな穿通動脈及び小動脈病変によって引き起こされる臨床的及び画像学的所見を指す場合が多い。CSVDは、主に卒中(脳深部の小さな梗塞、脳出血)、認知及び気分障害並びに全身的な機能低下が顕著な臨床的所見であり、画像学では所見として主にラクナ梗塞(lacunar infarction,LI)、ラクナ(lacune)、大脳白質病変(white matter lesions、WML)、血管周囲腔の拡大(enlarged perivascular space、EPVS)及び微小脳出血(cerebral microbleeds、CMB)などである。
【0073】
脳小血管病の影響は小動脈、毛細血管、小静脈に及び、穿通動脈に及んでいるのが最も一般的である。高血圧、血管炎症又は遺伝的欠陥によって引き起こされる血管内皮細胞の損傷、平滑筋過形成、小血管壁の基底膜の肥厚はいずれも慢性脳組織虚血を引き起こす。血管平滑筋細胞の損失と過形成、血管壁肥厚、血管内腔狭窄が慢性又は進行性の局所あるいはびまん性無症候性虚血、神経細胞の脱髄、希突起膠細胞の損失、軸索の損傷を引き起こして、不完全な虚血をきたす。この段階では臨床症状がなく、核磁気共鳴検査で脳白質病変と提示する。さらに、またいくつかの研究結果から、内皮が損傷すると血管透過性亢進により血管内の物質が遊出し、血管及び血管周囲組織の損傷を引き起こすのは、この段階における疾患の進行にも重要な役割を果たすことが示されている。
【0074】
本開示では、前記血管内皮細胞の損傷によって媒介される疾患は、血液脳関門の破壊又は損傷によって媒介される脳小血管病を含み、ただし微小脳出血、脳卒中、脳浮腫を含まない。本発明の特に好ましい実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病は、脳白質病変を含む。本発明の特に好ましい実施形態では、血液脳関門の破壊によって媒介される脳小血管病は、脳白質病変としてだけ現われる。
【実施例】
【0075】
実施例1:グルタミン酸によって引き起こされるPFKFB3の発現の上方調節に対するYC-6の有意な迅速阻害
ホスホフルクトキナーゼ-2/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼ3(phosphofructokinase-2/fructose-2,6-bisphosphatase 3、PFKFB3)の発現上昇とその下流産物である乳酸の蓄積が、急性肺損傷、肺高血圧症などの様々な肺疾患で病理学的損傷という役割を果たすことが研究で明らかになっている。急性肺損傷、肺高血圧症などの疾患の発生と進行で病理学的損傷という重要な役割を果たす。肺損傷にとって重要な分子であるPFKFB3タンパク質レベルに対するYC-6の影響を分析したところ、YC-6がPFKFB3タンパク質の発現の上方調節と乳酸の蓄積を迅速に阻害するという予期せぬ結果が得られ、これはYC-6による肺保護に関する独特なメカニズムであるかもしれないということを示唆している。
【0076】
初代小脳顆粒ニューロンの培養:
SD P7-8新生児マウスから細胞を採取して、小脳を取り出し、さらにマイクロピンセットを使って髄膜と血管を除去した。分離させた小脳組織を解剖液の入った別のシャーレに移した。メイヨー剪刀を使って最大限に組織をせん断した。次のとおりに消化を行った。スポイトを使ってせん断した組織を7mLの0.25%トリプシン消化液に入れ、37℃で15分間消化した。細胞スーパークリーンベンチの作業台を整えて器具を洗浄した。5分間ごとに数回ひっくり返して組織と消化液をより充分に接触させた。次のとおりに消化を停止させた。消化が終了すると、細胞の破砕によりDNAが放出することで組織がくっついて液体に懸濁しているのが見えた。デオキシリボヌクレアーゼ含有10%FBS DMEM培地を3mL加えて消化を停止させ、数回ひっくり返すとDNAの加水分解で残りの組織が分散していることが観察された。1000rpmで5分間遠心分離した。慎重に上清を取り除いた。次のとおりに単一細胞懸濁液を回収した。スポイトを使ってデオキシリボヌクレアーゼ含有10%FBS DMEM培地を7mL吸い上げ、組織ペレットを軽くピペッティングした。急速遠心分離にかけて回転数が1500rpmになったら停止させ、単一細胞懸濁液を新しい15mL遠心管に回収した。次のとおり細胞を播種した。1000rpmで5分間遠心分離して、細胞ペレットを回収し、10%FBS含有DMEMで細胞を再懸濁させた。ハンディ型セルカウンターでカウントし、播種密度は4.0~5.0×105個/mLであった。35mmシャーレへの播種量は2mLであり、48ウェルプレートへの播種量は300μLであった。次のとおりに細胞を播種及び培養した。播種24時間後、膠細胞の成長を阻害するためにシタラビン(最終濃度10μM)を補足した。7日目に栄養を維持するためにグルコース(5mM)を補足し、8日目に使用した。グルタミン酸誘発性初代小脳顆粒ニューロン損傷モデル及び薬物で処理した。
【0077】
細胞処理と投与:
6ウェルプレートに播種した初代小脳顆粒ニューロンの培地を2mLのクレブス緩衝液(kreb’s buffer)に交換し、これを正常対照群とした。最終濃度が200μMのグルタミン酸を加えて所定の時間即ち5分間及び15分間処理し、これをモデル群とした。前もって10μM YC-6又はNMDA受容体遮断薬MK-801を20分間プレインキュベートし、次に前記濃度のグルタミン酸を加え所定の時間で処理して、薬物処理群とした。薬物処理群と等量の溶媒HP-β-CDを加えて溶媒対照群とし、そのプレインキュベート時間は薬物処理群と同じであった。
【0078】
タンパク質ウエスタンブロット:
体積分率が12%のSDS-ポリアクリルアミドゲルを調製し、1ウェル当たりロードするタンパク質の総量が20μgでサンプルを注入し、100V定電圧下で電気泳動により分離させた。後に湿式転写法によりPVDF膜に移した。5%脱脂粉乳で室温下1時間ブロックした。希釈後の一次抗体(抗体希釈液は3%BSA、抗体希釈比は1:1000)を加え、4℃で一晩インキュベートした。TBSTで3回洗浄し、1回当たり5分とし、対応する二次抗体(抗体希釈液は3%BSA、抗体希釈比は1:5000)を加えて、室温下で1時間インキュベートして、TBSTで3回洗浄し、1回当たり5分とした。化学発光法により発色させ、露光して撮影した。
【0079】
YC-6は、グルタミン酸によって引き起こされるPFKFB3の発現の上方調節を有意かつ迅速に阻害する。
図1に示されるとおり、正常対照群と比べ、グルタミン酸の刺激が細胞内のPFKFB3発現の急速な上方調節を引き起こし、YC-6処理はそのような急速な上昇を有意に阻害した。
【0080】
実施例2:肺上皮損傷における重要な代謝分子である乳酸に対するYC-6の作用
乳酸は嫌気性解糖産物であり、PFKFB3によって調節される代謝経路の下流であり、肺上皮細胞に直接的な損傷を与える。Gong Yらの研究では、インビトロでLPSがヒト肺胞上皮A549細胞のアポトーシス、炎症性サイトカインの生成、解糖フラックスの強化と活性酸素種(ROS)の増加を引き起こし、これらの変化がPFKFB3阻害剤3POによって逆転されることが判明した。さらに重要なのは、乳酸は肺損傷をきたす重要な代謝産物でもあり、乳酸でA549細胞を処理するとアポトーシスとROSの増加をきたす。これらの結果は、嫌気性解糖が敗血症関連ALIで肺上皮細胞のアポトーシス損傷の重要な要因であるかもしれないということを示している。YC-6がPFKFB3の発現を阻害することを踏まえ、YC-6がその下流にあり肺上皮細胞に損傷効果を有する乳酸レベルに与える影響を検討した。結果は、YC-6は解糖のための重要な酵素PFKFB3を阻害すると同時に、乳酸の蓄積を有意に阻害することを示している。乳酸の蓄積への軽減はYC-6が肺上皮細胞の損傷を軽減させるメカニズムの1つであるかもしれない。
【0081】
細胞内乳酸測定:
次のとおりに前処理を行った。細胞内乳酸含有量の測定で使用する細胞量は(1~2)×106であった。細胞前処理の実験ステップは具体的には次のことを含む。予冷したクレブス緩衝液(Kreb’s buffer)で細胞を3回洗浄した。220μLの細胞溶解液を加えて細胞を充分に溶解させた。次に、溶解液を1.5mL EP管に回収した。4℃×16000gの条件で5分間遠心分離し、160μLの上清を新しいEP管に回収し、残りの上清はBCAタンパク質定量に使った。56μLの4mM HClO4を加えて、ひっくり返して充分かつ均一に混合させ、氷の上で5分間反応させてサンプル自体に存在しているLDHを除去することで、内因性干渉を防止し、当該ステップでは管の底部に白いタンパク質の沈殿が観察されるはずである。4℃×16000gで5分間遠心分離した。160μLの上清を回収して、新しいEP管に入れた。68μLの2mM KOHを加えてひっくり返して充分かつ均一に混合させ、氷の上で5分間反応させた。4℃×16000gの条件で15分間遠心分離し、160μLの上清を新しいEP管に回収し、上清に白いフロックがあれば、再度15分間遠心分離した。希釈倍率600~800で上清を細胞溶解液で希釈して、当該希釈液を被検サンプル液として保持した。
【0082】
細胞内乳酸含有量の測定方法は、L-乳酸アッセイ(L-Lactate Assay)キット(abcam、ab65331)取扱説明書に従って実行した。ステップとして具体的には、50μLの希釈液を96ウェル黒底細胞培養プレートに加え、直ちに等量のLDHA含有基質溶液を加え、振とうして均一に混合させた後に37℃の二酸化炭素不含インキュベータに静置して30分間インキュベートした。マイクロプレートリーダを用いて、励起光波長535nmの暗所で蛍光強度を測定した。サンプルから読み取った蛍光強度を異なる標準品乳酸濃度に対応する蛍光強度の標準曲線に代入して、蛍光強度をサンプル液中の乳酸の実際の濃度に変換した。
【0083】
YC-6は、グルタミン酸によって引き起こされるPFKFB3の下流の解糖最終産物である乳酸の細胞内蓄積を有意に阻害する。
初代小脳顆粒ニューロン細胞を200μM グルタミン酸に入れて15分間刺激した後に細胞溶解液を回収して解糖産物である乳酸に対するYC-6処理の影響を研究し(
図2)、グルタミン酸で15分間刺激した後にニューロン細胞内乳酸含有量が有意に増加し、YC-6処理はそのような増加を阻害した。上記の実験結果が、YC-6は解糖のための重要な酵素PFKFB3を阻害すると同時に、乳酸の蓄積を有意に阻害することを示している。
【0084】
実施例3:血管内皮細胞の損傷に対するYC-6の有意な軽減
肺血管内皮細胞は血管系内膜の単層を形成させており、その生理学的位置が細菌性エンドトキシン、LPS、炎症性因子(例えば、TNF-α)、有毒化学物質、酸化ストレスなどの直接的な刺激にさらされているため、内皮細胞の損傷とアポトーシスをきたす。肺血管内皮細胞が損傷されると毛細血管の透過性亢進を引き起こして肺水分量を増加させることで、肺水腫、呼吸困難が発生する。同時に肺血管内皮細胞が様々な炎症性メディエーター、サイトカインを分泌及び放出することによって、炎症誘発性メディエーターと抗炎症性メディエーター、凝固系と抗凝固系のバランスが崩れ、肺微小循環障害と肺高血圧症が引き起こされると、間質性肺浮腫、肺出血、進行性呼吸困難が促進され、患者には進行性低酸素血症と呼吸困難が現れる可能性がある。YC-6が血管内皮細胞の損傷に保護効果があるかどうかを評価するために、酸素-グルコース欠乏/再酸素化(oxygen-glucose deprivation and restoration、OGD-R)損傷モデルを用いて、細胞からのLDH放出の検出によって予防的及び治療的投与後の細胞損傷状況を評価した。結果は、YC-6が用量依存的に血管内皮細胞の損傷を有意に軽減し、様々な病理学的要因によって引き起こされる血管内皮細胞関連の肺損傷の過程でYC-6は効果的な保護効果を発揮できることを示唆している。
【0085】
細胞培養:
10%ウシ胎児血清含有改良型DMEM培地でHUVEC細胞を培養し、細胞が約80%コンフルエントに成長した時に、0.25%トリプシンで細胞を消化し、次に10%ウシ胎児血清含有改良型DMEM培地で均一にピペッティングし、細胞濃度を1×105個/mLに調整して、400μL/ウェルで24ウェルプレートに播種し、細胞が約70%コンフルエントに成長した時に実験を行った。10%ウシ胎児血清含有高グルコースDMEM培地でRAOEC細胞を培養し、播種条件はHUVECと一致した。
【0086】
酸素-グルコース欠乏-再酸素化(OGD-R)損傷モデルの構築:
低酸素ワークステーションの酸素濃度を1%(1%O2、5%CO2、94%N2)に、温度を37℃に、湿度を85%に設定した。グルコース不含DMEM培地を低酸素ワークステーションに入れて予め3時間低酸素にさらした。培養プレートから培地を吸い取って、予熱したグルコース不含DMEM培地で2回洗浄し、次に1ウェル当たり100μLのグルコース不含DMEM培地を加えて、培養プレートを低酸素ワークステーションに置き、さらに1ウェル当たり300μLの予め低酸素にさらしたグルコース不含DMEM培地を加え、次に、培養プレートを低酸素ワークステーションに置いて引き続き4時間低酸素にさらした。次に再酸素化処理を行い、培養プレートを取り出し、グルコース不含DMEM培地を400μLの10%ウシ胎児血清含有通常培地に交換し、次に37℃×5%CO2セルインキュベータに置いて引き続き24時間培養した。正常群の細胞は培地を400μLの新しい10%ウシ胎児血清含有通常培地に交換しただけであった。
【0087】
投与方法:
次のとおりに予防的投与を行った。細胞に酸素-グルコース欠乏処理を行う前に、溶媒又は薬物(最終濃度1μM、3μM、10μM)を1時間プレコートし、次に酸素-グルコース欠乏処理の時に、グルコース不含DMEM培地に対応する溶媒又は薬物を加え、再酸素化処理の時に、通常培地に対応する溶媒又は薬物を加え、実験が終了するまで継続した。モデル対照群には何ら薬物処理も行わず、各処理群を3ウェルで繰り返した。
【0088】
次のとおりに治療的投与を行った。細胞に酸素-グルコース欠乏処理を行った後、再酸素化処理と同時に、溶媒又は薬物(最終濃度1μM、3μM、10μM)を与え、実験が終了するまで継続した。モデル対照群には何ら薬物処理も行わず、各処理群を3ウェルで繰り返した。
【0089】
細胞損傷検出(LDH検出):
実験終了時に、ウェルごとに50μLの培地を96ウェルプレートに移し、次にLDH検出キットの取扱説明に従って細胞毒性を検出し、次のとおりに結果を計算した。
パーセント細胞毒性(Percent cytotoxicity)=100×([実験的LDH放出(Experimental LDH Release)](OD490)/[最大LDH放出(Maximum LDH Release)](OD490))
【0090】
実験結果に対しOne-way Anova一元配置分散分析で統計分析を行い、テューキーの多重比較法を併用し、P<0.05を統計的に有意な差があると見なす。
【0091】
実験結果:
図3の結果から分かるように、OGD-R処理がヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)及びラット血管内皮細胞(RAOEC)のLDH放出増加を引き起こすのは、OGD-R損傷処理がHUVEC細胞及びRAOEC細胞の損傷と死亡をきたすことを示している。損傷処理前の1時間の予防的投与であれ再酸素化処理時の治療的投与であれ、YC-6は用量依存的にOGD-Rによって引き起こされるLDHの放出増加を有意に軽減し、細胞の損傷を軽減させた。YC-6が用量依存的に血管内皮細胞の損傷を有意に軽減するのは、様々な病理学的要因によって引き起こされる血管内皮細胞関連の肺損傷の過程でYC-6は効果的な保護効果を発揮できることを示唆している。
【0092】
実施例4:低酸素とLPSによって引き起こされる肺胞上皮細胞の損傷に対するYC-6の軽減
肺胞上皮細胞及び毛細血管内皮細胞は様々な炎症、毒性物質吸入、ウイルス感染及び敗血症などの有害な病原性因子が直接攻撃をかける目標であり、損傷後の透過性亢進、アポトーシスにより、びまん性肺間質及び肺胞水腫を引き起こし、進行性低酸素血症と呼吸困難をきたす。新型コロナウイルスによる肺炎が発生する過程では、肺上皮細胞がウイルスによる攻撃の主な目標である。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2、以下CoVと略称する)は長さが約27~32kbの一本鎖プラス鎖RNAウイルスであり、ウイルスゲノムは主にレプリカーゼコード領域と構造タンパク質コード領域の2つの部分によって構成される。NIHの研究チームの報告などでは、2019-nCoVがヒト体細胞に入る時の受容体はACE2であると判定した。CoVがアンジオテンシン変換酵素2受容体ACE2を豊かに発現するヒト体細胞、特に気道上皮細胞及び肺胞細胞を特異的に認識及び侵入するため、下気道に感染しそして拡散して、肺炎を誘発しやすい。しかし臨床ではウイルスが陰性になった後も、肺炎が依然として存在し、あるいは悪化することが見られ、抗ウイルス治療だけでは数多くの重症及び重篤な患者の命を救うことができない。肺上皮細胞(HPAEpiC)はI型及びIIの2種の肺胞上皮細胞を含み、YC-6が直接肺上皮細胞(HPAEpiC)に保護効果を有するかどうかを評価するために、本例ではリポ多糖LPSと低酸素損傷モデルを用いて、細胞のLDH放出の検出により肺上皮細胞に対するYC-6の保護効果を評価し、新型コロナウイルスを含め様々な要因によって引き起こされるARDSに対するYC-6での治療について実験的証拠を提供する。実験結果が、YC-6は用量依存的に低酸素とLPSによって引き起こされる肺胞上皮細胞の損傷を有意に軽減させることを示している。
【0093】
細胞培養:
肺胞上皮細胞培地でHPAEpiC細胞を培養し、細胞が約80%コンフルエントに成長した時に、0.25%トリプシンで細胞を消化し、次に肺胞上皮細胞培地で均一にピペッティングして、細胞濃度を2×105個/mLに調整して、400μL/ウェルで24ウェルプレートに播種し、細胞が約70%コンフルエントに成長した時に実験を行った。
【0094】
LPS+低酸素モデルの作成:
低酸素ワークステーションの酸素濃度を1%(1%O2、5%CO2、94%N2)に、温度を37℃に、湿度を85%に設定した。低酸素ワークステーションの状態が安定した後、1mg/mLのLPSを直接細胞に加えて、LPSの最終濃度を20μg/mLとし、次に細胞を低酸素ワークステーションに入れて24時間培養した。
【0095】
投与方法:
細胞のモデリングを行う前に、薬物群は最初に溶媒(20%ヒドロキシプロピルシクロデキストリン溶液)又は薬物(YC-6の最終濃度は1μM、5μM、10μM)を1時間プレインキュベートし、次にLPSを加えて低酸素ワークステーションに置いてモデリングし、実験が終了するまで継続した。モデル対照群は何ら薬物処理も行わず、正常群はセルインキュベータに置いて通常培養を行った。10μM デキサメタゾンを薬物対照とした。各処理群を3ウェルで繰り返した。
【0096】
実験結果:
図4の実験結果から分かるように、低酸素とLPS刺激はヒト肺胞上皮細胞のLDHの放出増加を引き起こすことが、低酸素とLPS処理はヒト肺胞上皮細胞の損傷を引き起こすことを示しており、YC-6は用量依存的に低酸素とLPS刺激によって引き起こされる肺胞上皮細胞の損傷を軽減できる。10μM デキサメタゾンもそのような損傷を有意に軽減し、10μM YC-6の保護効果がデキサメタゾンより有意に優れている。上記の結果が、YC-6は用量依存的に低酸素とLPS刺激によって引き起こされる肺胞上皮細胞の損傷を有意に軽減できることを示している。
【0097】
実施例5:LPSによって引き起こされるラット急性肺損傷に対するYC-6の有意な改善
動物の群分けと投与:
次のとおりに動物の群分けを行った。検疫に合格し体重が均一であった60匹のラットを選択して実験に組み入れ、1群当たり10匹で体重によってランダムに6群に分け、動物の群分けと各群の薬物処理の用量は次のとおりであった。
【表1】
【0098】
投与方法は次のとおりであった。被験薬を0.3mL/100g体重で尾静脈から投与し、ヒドロコルチゾン(25mg/kg)を0.5mL/100g体重で腹腔内投与した。全ての被験薬はLPSによるモデリングの30分前に1回目に投与し、被験溶媒とYC-6を6時間ごとに1回静脈内注射し、合計で4回注射し、ヒドロコルチゾン(HC)群は12時間ごとに1回腹腔内注射し、合計で2回注射した。
【0099】
モデリング方法:
ラットの体重を測定して、イソフルラン誘導でラットを麻酔した後、仰臥位で固定し、頚部の皮膚を除毛して、75%エタノールで滅菌し、真中から頚部の皮膚を切開して、皮下組織を鈍的に分離し、上部の気管を露出させた。注射器を使ってそれぞれ気管から8mg/mLのLPS溶液を注射し、0.2mL/匹とし、各ラットの体重が250mgで計算して、用量は6.4mg/kgであった。注射後に直ちにラットを直立させ、振とう及び回転させて、LPS溶液を肺に均一に分布させた。皮膚を縫合して、ヨードフォアで滅菌した。
【0100】
肺組織の処理:
LPS注射で24時間モデリングした後、6mL/kg体重の量で20%カルバミン酸エチル溶液を腹腔内注射して動物を麻酔し、腹部大動脈からの瀉血で死亡させた後、胸腔を露出させて、肺組織を取り出した。左肺を10%パラホルムアルデヒド溶液に入れて48時間固定した後、左肺を冠状面に横切して同じ厚さの上半分と下半分を得て、さらに左肺の下半分を冠状面に横切して同じ厚さの2つの部分を得て、次に左肺の上半分の矢状面及び2つの左肺の下半分の冠状面をパラフィンブロックで包埋し、切片してヘマトキシリン-エオシン(HE)染色を行った。
【0101】
免疫組織化学HE染色:
次のとおりに組織脱水とパラフィン包埋を行った。組織を固定液から取り出し、順に50%エタノール(30分)-70%エタノール(一晩)-80%エタノール(30分)-90%エタノール(30分)-95%エタノール(30分)-無水エタノール(2回、1回当たり30分)-キシレン(2回、1回当たり5~10分、サンプルが完全に透明になるまでとした)-62℃パラフィン(3回、1回当たり1時間)に浸し、次に組織包埋を行った。次のとおりに組織パラフィン切片を取り扱った。厚さが3μmの切片を専用の乾燥器で水分を乾かしてから37℃オーブンで焼いて一晩乾燥させ、次にHE染色に用いた。次のとおりにHE染色を行った。室温で保存していたパラフィン切片を取り出し、65℃のオーブンに置いて30分間焼き、次に直ちに切片をキシレンに浸して3回脱パラフィンし、それぞれ5分、2分、2分とした。次のとおりに再水和を行った。3回目にキシレンに浸した後、切片を順に100%エタノール-100%エタノール-95%エタノール-90%エタノール-80%エタノール-70%エタノール-50%エタノール-蒸留水に浸して再水和させ、1回当たり1分とした。切片を取り出して少し乾かし、次に、切片をウェットボックスに置いて、ヘマトキシリン染色液を組織に滴加し、染色液が組織を完全に覆うことを保証し、室温下で5分間インキュベートした。蒸留水で切片を軽く洗い流して、余分なヘマトキシリンを洗い落とし、次に切片をウェットボックスに戻して、エオシン染色液を組織に滴加し、室温下で2分間インキュベートした。蒸留水で切片を軽く洗い流した。切片を順に90%エタノール(1分)-95%エタノール(1分)-100%エタノール(1分)-100%エタノール(1分)-キシレン(5分)-キシレン(5分)に浸して脱水して透明化させ、次に中性樹脂(適量のキシレンで希釈、約50%キシレン)で封止した。
【0102】
肺組織の病理学的観察と評点:
次のとおりに肺組織の病理形態学的観察を行った。Nikon Eclipse Ti-U倒立蛍光光学顕微鏡下において肺組織の病理学的変化を観察した。炎症細胞浸潤、肺胞出血、肺胞壁の肥厚、肺胞拡張及び気管支上皮脱落の変化の等級に基づいて分析した。肺損傷の評点はSmith氏による評点システムで実施し、実験群分けと投与情報を知らない2名の実験者が、炎症細胞浸潤、肺胞出血、肺胞壁の肥厚、肺胞拡張及び気管支上皮脱落の6つの指標についてそれぞれ肺損傷の重症度を評点した。0点は、正常である。1点は、軽度の病変で、病変範囲が全視野領域の25%より小さい。2点は、中等度の病変で、病変範囲が全視野領域の25~50%である。3点は、重度の病変で、病変範囲が全視野領域の50~75%である。4点は、非常に重度の病変で、病変範囲が全視野領域の75%より大きい。肺損傷の病理学的トータルスコアは前記各項目のスコアの合計であった。
【0103】
実験結果:
図5の病理顕微鏡下の観察結果に示されるように、正常対照群(
図5A)はラットの肺組織の構造が明確であり、肺胞構造が多角形又は円形の薄壁空胞で、肺胞腔がきれいで、境界がはっきりしており、肺胞壁の肥厚はなく、肺胞の間質に炎症性浸潤がなかった。気管支壁は構造が明確であり、上皮細胞の脱落が見られず、血管が正常であった。LPSモデル群(
図5B)ではラットの肺組織に大量の炎症細胞浸潤が見られ(黄色い矢印)、肺胞腔と間質性肺が浮腫しており、深刻な線維性浸出(赤い矢印)、肺胞壁の肥厚、肺胞拡張と虚脱があった。気管支粘膜上皮脱落(緑の矢印)があった。肺胞うっ血があり、肺胞内に多くの赤血球(オレンジ色の矢印)が見られた。肺血管の周りの組織が緩んでおり、明らかな浸出(青い矢印)があったのは、LPSが肺血管透過性亢進を引き起こすことを示している。異なる用量のYC-6投与群(
図5C~
図5E)とLPSモデル群を比べると、炎症細胞浸潤が減少し、肺胞損傷が軽減され、血管バリアの透過性亢進が軽減された。病理学的結果が、YC-6はLPSによって引き起こされる急性肺損傷を有意に改善できることを示している。
【0104】
図6の肺損傷病理学的スコアの統計結果に示されるように、LPSモデル群のスコアが正常対照群より有意に高かった(P<0.001)。12、40、120mg/kg/d用量でYC-6を与えた処理群はLPSモデル群と比べて病理学的スコアが有意に低下した(P<0.01又はP<0.001)。また、低用量群のYC-6処理が50mg/kg/dのヒドロコルチゾンの保護効果より有意に優れていた(P<0.05)。
【0105】
上記の結果が、LPSは、大量の炎症細胞浸潤、肺胞壁の肥厚、肺胞うっ血、拡張、虚脱及び気管支粘膜上皮脱落として現われている肺損傷を有意に引き起こすということを示している。YC-6は有意にLPSによって引き起こされる血管内皮バリアの透過性亢進を軽減させ、炎症細胞浸潤を減少させ、肺胞損傷を軽減させた。
【0106】
実施例6:カニクイザルの急性肺損傷に対するYC-6の軽減
非ヒト霊長類動物は系統発生、解剖学的構造などがヒトに近いため、種差による薬効評価のズレを軽減することができ、また非ヒト霊長類において得られた薬理学的用量、毒性学及び薬効の研究データは、その後の臨床試験により信頼性のある証拠を提供できる。我々は非ヒト霊長類動物であるカニクイザルと高原環境をシミュレートする減圧チャンバーで急性低圧低酸素によるカニクイザル肺損傷モデルを確立した。HE染色などの病態生化学的検査を用いて、YC-6は急性低圧低酸素によって引き起こされる肺損傷を軽減できるかどうかを評価した。
【0107】
実験動物の群分け:
24匹の健常な雄のカニクイザル(Macaca fascicularis)であり、6から6.5歳で、体重は6.5~7.5kgであった。広東省高要市康達実験動物センターより購入した。17匹の雄のカニクイザルを次のとおりに3群に分けた。
【表2】
【0108】
低圧チャンバー・シミュレーションによる7500メートルにおけるカニクイザル急性低圧低酸素肺損傷モデルの作成:
動物飼育室で飼育したカニクイザルから1回当たりランダムに3匹選択し、各10mL採血した後に10mLのグルコース生理食塩水を静脈内ボーラスで注入し、マークを付けた。次に、動物を低圧チャンバーに入れて実験環境に順応するように1日飼育した。急性低圧低酸素群は3メートル/秒の速度で海抜が3000メートルに上昇することをシミュレートした。低圧チャンバー内で動物が高度3000メートルに30分間滞在していることをシミュレートした後、各実験サルから10mL採血し、次に急性低圧低酸素群は10mLのグルコース生理食塩水を静脈内ボーラス注入した。3メートル/秒の速度で海抜が4500メートルに上昇することをシミュレートした。低圧チャンバー内で動物が高度4500メートルに30分間滞在していることをシミュレートした後、各実験サルから10mL採血して、急性低圧低酸素群は10mLのグルコース生理食塩水を静脈内ボーラス注入した。3メートル/秒の速度で海抜が6000メートルに上昇することをシミュレートした。低圧チャンバー内で動物が高度6000メートルに30分間滞在していることをシミュレートした後に、各実験サルから10mL採血して10mLのグルコース生理食塩水を静脈内ボーラス注入した。2メートル/秒の速度で海抜が7500メートルに上昇することをシミュレートした。低圧チャンバー内で動物が高度7500メートルに24時間滞在していることをシミュレートした後、3メートル/秒の速度で海抜が6000メートルに下降し、各実験サルから10mL採血して10mLのグルコース生理食塩水を静脈内ボーラス注入した。2メートル/秒の速度で海抜が7500メートルに上昇することをシミュレートした。7500メートルで48時間滞在した後、3メートル/秒の速度で海抜が6000メートルに下降し、実験動物を麻酔し(ケタミン塩酸塩注射液0.06mL/kg、キシラジン塩酸塩注射液0.02mL/kg)、頸動脈からの瀉血で動物を死亡させ、解剖し、サンプルを採取して、固定した。常圧正常酸素対照群ではカニクイザルを平原(海抜352メートル)で麻酔した(ケタミン塩酸塩注射液0.06mL/kg、キシラジン塩酸塩注射液0.02mL/kg)後、頸動脈からの瀉血で動物を死亡させ、解剖し、サンプルを採取して、固定した。
【0109】
投与時間、用量と方式:
薬物処理群では動物に上昇をシミュレートする前に、YC-6注射液を10mg/kgの用量でグルコース生理食塩水によって10mLに希釈し、YC-6処理群は一度に静脈内ボーラス注入した。急性低圧低酸素群は10mLのグルコース生理食塩水だけを静脈内ボーラス注入した。薬物処理群では低圧チャンバー内で動物が高度3000メートルに30分間滞在していることをシミュレートした後、YC-6注射液を10mg/kgの用量でグルコース生理食塩水によって10mLに希釈し、YC-6処理群は静脈内ボーラス注入を1回行った。急性低圧低酸素群は10mLのグルコース生理食塩水だけを静脈内ボーラス注入した。薬物処理群では低圧チャンバー内で動物が高度4500メートルに30分間滞在していることをシミュレートした後、YC-6注射液を10mg/kgの用量でグルコース生理食塩水によって10mLに希釈し、YC-6処理群は静脈内ボーラス注入を1回行った。急性低圧低酸素群は10mLのグルコース生理食塩水だけを静脈内ボーラス注入した。薬物処理群では動物が低圧チャンバー内で高度6000メートルに30分間滞在していることをシミュレートした後、YC-6徐放製剤を30mg/kgの用量で5箇所の骨格筋に筋肉内注射した。急性低圧低酸素群は10mLのグルコース生理食塩水だけを静脈内ボーラス注入した。薬物処理群では低圧チャンバー内で動物が高度7500メートルに24時間滞在していることをシミュレートした後、YC-6注射液を10mg/kgの用量でグルコース生理食塩水によって10mLに希釈し、YC-6処理群は静脈内ボーラス注入を1回行い、且つYC-6徐放製剤を30mg/kgの用量で5箇所の骨格筋に筋肉内注射した。急性低圧低酸素群は10mLのグルコース生理食塩水だけを静脈内ボーラス注入した。7500メートルで48時間滞在した後、3メートル/秒の速度で海抜が6000メートルに下降し、実験動物を麻酔し(ケタミン塩酸塩注射液0.06mL/kg、キシラジン塩酸塩注射液0.02mL/kg)、頸動脈からの瀉血で動物を死亡させ、解剖し、サンプルを採取して、固定した。常圧正常酸素群ではカニクイザルを平原(海抜320メートル)で麻酔した(ケタミン塩酸塩注射液0.06mL/kg、キシラジン塩酸塩注射液0.02mL/kg)後、頸動脈からの瀉血で動物を死亡させ、解剖し、サンプルを採取して、固定した。
【0110】
組織のパラフィン包埋・固定、切片とヘマトキシリン-エオシン(HE)染色:
次のとおりに組織のパラフィン包埋・固定を行った。肺組織サンプルを採取した後、肺組織を整えて厚さが1cmを超えない組織塊を得て、10倍量のパラホルムアルデヒドに入れて固定し、固定時はコットンで浮かんでいた肺組織を液面以下に押えて組織を充分に固定させた。48時間後に固定液を1回交換して引き続き48時間固定し、その後、パラフィン包埋に用いることができる。組織を固定液から取り出し、順に50%エタノール(30分)-70%エタノール(一晩)-80%エタノール(30分)-90%エタノール(30分)-95%エタノール(30分)-無水エタノール(2回、1回当たり30分)-キシレン(2回、1回当たり5~10分、サンプルが完全に透明になるまでとした)-62℃パラフィン(3回、1回当たり1時間)に浸し、次に組織包埋を行った。次のとおりに組織パラフィン切片を取り扱った。厚さが3mmの切片を専用の乾燥器で水分を乾かしてから37℃オーブンで焼いて一晩乾燥させ、次にHE染色に用いた。次のとおりにヘマトキシリン-エオシン(HE)染色を行った。室温で保存していたパラフィン切片を取り出し、65℃のオーブンに置いて30分間焼き、次に直ちに切片をキシレンに浸して3回脱パラフィンし、それぞれ5分、2分、2分とした。次のとおりに再水和を行った。3回目にキシレンに浸した後、切片を順に100%エタノール-100%エタノール-95%エタノール-90%エタノール-80%エタノール-70%エタノール-50%エタノール-蒸留水に浸して再水和させ、1回当たり1分とした。切片を取り出して少し乾かし、次に、切片をウェットボックスに置いて、ヘマトキシリン染色液を組織に滴加し、染色液が組織を完全に覆うことを保証し、室温下で5分間インキュベートした。蒸留水で切片を軽く洗い流して、余分なヘマトキシリンを洗い落とし、次に切片をウェットボックスに戻して、エオシン染色液を組織に滴加し、室温下で2分間インキュベートした。蒸留水で切片を軽く洗い流し、余分なエオシン染色液を洗い落とし、次にキットに備え付けた発色増強液で2回軽く洗い流し、次に蒸留水で少し洗い流した。切片を順に90%エタノール(1分)-95%エタノール(1分)-100%エタノール(1分)-100%エタノール(1分)-キシレン(5分)-キシレン(5分)に浸して脱水して透明化させ、次に中性樹脂(適量のキシレンで希釈、約50%キシレン)で封止した。
【0111】
肺血管のうっ血して腫れた状態と肺胞中隔の肥厚に対するYC-6の影響:
図7のように確立したモデルでは、海抜が上昇するにつれて、カニクイザルには、例えば、呼吸窮迫、嘔吐、運動失調、意識混濁などの顕著な急性高山病の症状が現れていたため、非ヒト霊長類カニクイザル急性高山病モデルの複製が成功したことを示している。ALI/ARDS早期の病理学的特徴は肺胞壁毛細血管の拡張、肺胞中隔の拡大であり、肺胞腔内漿液、好中球及びマクロファージの浸出もあり、さらに肺のびまん性うっ血と浮腫、肺胞内ヒアリン膜の形成及び限局性肺虚脱に発展する。本研究ではHE染色を利用してYC-6は急性低圧低酸素によって引き起こされる肺損傷を軽減できるかどうかを観察した。
【0112】
図8に示されるとおり、正常対照群のカニクイザルは肺組織の肺胞構造が多角形又は円形の薄壁空胞で、境界がはっきりしており、肺胞上皮細胞の間は薄壁の肺胞中隔であり、中隔の内部に毛細血管断面が見られた。
図8の結果に示されるとおり、急性低圧低酸素は肺胞中隔の有意な肥厚を引き起こした。YC-6投与処理後に有意に改善された。各群の肺胞中隔の厚さを測定して統計学的に表示すると(
図9)、YC-6は肺胞中隔の肥厚損傷を有意に軽減したことが分かった。上記の結果が、YC-6は急性低圧低酸素によって引き起こされる肺胞中隔の肥厚を効果的に軽減できることを示しており、YC-6は肺血管、肺胞の正常な組織構造と機能を維持し、血液空気関門の透過性損傷を軽減させ、新型コロナウイルスによる肺炎などの肺損傷疾患に治療効果が期待できることを示唆している。
【0113】
肺胞腔におけるタンパク質ヒアリン膜の形成及び赤血球の漏出に対するYC-6の影響:
ヒト急性肺損傷の特徴的な病理学的変化の1つはびまん性肺胞損傷(diffuse alveolar damage、DAD)であることを述べた報告があり、びまん性肺胞損傷の1つの重要な特徴は肺胞の透過性変化により血液のタンパク質が肺胞に入り、タンパク質が沈着してヒアリン膜を形成したことである
[8]。また、ヒアリン膜の形成はARDSの病理学的特徴の1つでもあり、新型コロナウイルスによる肺炎患者に対する病理検査で発見された
[1]。ヒアリン膜は呼吸細気管支、肺胞管、肺胞の表面に形成された赤く染色された均一な膜状物であり、浸出した血漿タンパク質、セルロース及び崩壊した肺胞上皮細胞の破片によって構成される。ヒアリン膜の形成、肺胞の間質の線維性過形成が肺胞中隔を増厚させて、肺胞膜の透過性を低下させることで、血液ガス交換機能障害を引き起こす。
図10に示されるとおり、急性低圧低酸素が肺胞中隔の線維性過形成(黒い矢印)を引き起こすと同時に、一部の肺胞腔内でタンパク質ヒアリン膜の形成を引き起こした(赤い矢印)のは、急性低圧低酸素がびまん性肺胞損傷を引き起こすことを示している。急性低圧低酸素はまた赤血球が漏出して肺胞腔に入る(青い矢印)ことを引き起こし、急性低圧低酸素が血液空気関門の破壊を引き起こしたことを示している。YC-6薬物群でそのような明らかな変化が観察されていないのは、YC-6が肺胞上皮細胞と血管内皮細胞に保護効果を有することを示唆している。上記の結果が、YC-6は肺胞上皮細胞及び血管内皮細胞を保護することによって、急性低圧低酸素によって引き起こされる血液空気関門の透過性亢進を軽減させ、正常な構造と機能を維持しているという可能性を示唆している。
【0114】
肺上皮細胞の損傷、炎症細胞浸潤に対するYC-6の影響:
ALI/ARDSは原発性疾患に関係している他に、炎症細胞浸潤と肺胞上皮損傷も重要な病理学的要因である。肺胞毛細血管壁のびまん性損傷と透過性亢進で、肺水腫とセルロース浸出が発生した。II型肺胞上皮細胞の損傷、肺サーファクタントの減少又は消失が、ヒアリン膜の形成と肺虚脱を引き起こす。前記変化はいずれも肺胞内の酸素拡散障害、換気血流比の不均衡を引き起こして、低酸素血症と呼吸困難をきたす。
図11に示されるとおり、正常群と比べて、急性低圧低酸素が炎症細胞の肺組織浸潤を引き起こし、肺胞間質(黒い矢印)と肺胞腔(赤い矢印)では大量の炎症細胞が見られ、一部の肺胞腔では脱落した損傷肺上皮細胞(青い矢印)が見られたのに対し、YC-6処理群では明らかな炎症性浸潤と損傷した肺上皮細胞の脱落が観察されなかった。上記の結果が、YC-6は血管透過性を軽減させ、肺組織の炎症性浸潤及び肺上皮細胞の損傷を効果的に軽減できることを示している。
【0115】
実験結論:
インビボ急性低圧低酸素誘発性カニクイザル肺損傷モデルを用いて、病理学的検出により、YC-6は肺血管のうっ血して腫れた状態と肺胞中隔の肥厚を有意に阻害し、肺の血液空気関門の損傷を軽減させることが発見されたため、YC-6は顕著な肺保護効果を有する。
【0116】
実施例7:NR4A3タンパク質に対するYC-6の発現促進による低酸素関連刺激によって引き起こされる血管内皮細胞の損傷軽減
核内受容体サブファミリー4グループAのメンバー3(Nuclear Receptor Subfamily 4 Group A Member 3、NR4A3)は、ニューロン由来オーファン受容体1(Neuron-derived Orphan Receptor-1、NOR1)とも呼ばれる。NR4A3は転写因子として、代謝、炎症、細胞増殖、アポトーシス、分化などの生理学的及び病理学的過程の調節に関与している。NR4A3のノックダウンにより血管内皮細胞の毛細血管変換能力を有意に阻害するのは、NR4A3が血管内皮細胞で重要な生理機能を有することを示している。これまでの研究では、NR4A3の上方調節が細胞の異なる病理学的損傷下での生存を促進できることが明らかになっている。例えば、血管内皮細胞でNR4A3の発現を増加させると細胞性アポトーシス抑制タンパク質2(cellular inhibitor of apoptosis 2、cIAP2)の上方調節によりアポトーシスを阻害して、低酸素下の血管内皮細胞の生存を延長させることができる。ニューロンでNR4A3の発現を増加させると酸化ストレスとグルタミン酸が誘発する興奮毒性によるニューロン損傷を減少することができる。
【0117】
本実験では、YC-6は低酸素関連刺激によって引き起こされる血管内皮細胞の損傷に保護効果を有するかどうか、及び関連の保護効果はNR4A3発現の調節に関係しているかどうかを検討した。
【0118】
実験材料:
細胞株:
広州賽庫生物技術有限公司よりヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を購入し、10%ウシ胎児血清含有改良型DMEM培地(CellCook、CM2007)で培養した。広州吉▲ニ▼欧生物科技有限公司よりラット血管内皮細胞(RAOEC)を購入し、10%ウシ胎児血清含有DMEM培地(Coring、10-013-CV)で培養した。
【0119】
組織切片:
カニクイザルの肺組織パラフィン切片であって、3つの正常対照群(normobaric normoxia、NN)、5つの急性低圧低酸素処理群(hypobaric hypoxia、HH)、5つの急性低圧低酸素+YC-6処理群(HH+YC-6)を含む。
【0120】
主な試薬と薬物:
高グルコースDMEM培地(corning、10-03-CV)
改良型DMEM培地(CellCook、CM2007)
オーストラリア産ウシ胎児血清(Gibco、10099141)
0.25%トリプシン(Gibco、25200072)
グルコース不含DMEM培地(Gibco、A1443001)
LDH検出キット(Promega、G1780)
20%ヒドロキシプロピルシクロデキストリン溶液(Hydroxypropyl-β-Cyclodextrin、HP-β-CD)(広州市賽普特医薬科技股▲フン▼有限公司、アンプル瓶、ロット番号180502、仕様5mL:1g、濃度0.2g/mL)
YC-6注射液(広州市賽普特医薬科技股▲フン▼有限公司、アンプル瓶、ロット番号20010201、仕様5mL:50mg、濃度10mg/mL、20%ヒドロキシプロピルシクロデキストリン溶液に溶解)
シクロヘキシミド(cycloheximide、MCE、HY-12320)
クロロキン(chloroquine、MCE、HY-17589)
MG132(Selleck、S2619)
NAC(Selleck、S1623)
PBS(Gibco、C10010500BT)
プロテアーゼ阻害剤(Targetmol、C0001)
ホスファターゼ阻害剤(Targetmol、0004)
細胞溶解液(Thermofisher Scientific、78501)
BCAタンパク質定量キット(Thermofisher Scientific、23225)
5×タンパク質ロード緩衝液(Beyotime、P0015L)
SDS-PAGE分離ゲル緩衝液(Bio-rad、161-0798)
SDS-PAGE濃縮ゲル緩衝液(Bio-rad、161-0799)
10%SDS溶液(Bio-rad、161-0416)
30%Acr-ビスアクリルアミド(MIK、DB240)
過硫酸アンモニウム(MPbio、193858)
TEMED(Macklin、T6023-100mL)
PVDF膜(Roche、3010040001)
脱脂粉乳(Wako、190-12865)
TBS(Boster、AR0031)
抗NR4A3抗体(Anti-NR4A3 antibody、Santa cruz、sc-393902)
抗アクチン抗体(Anti-actin antibody、Arigo、arg62346)
抗CD31抗体(Anti-CD31 antibody、Abcam、ab28364)
ヤギ抗マウスIgG抗体(Goat anti-mouse IgG antibody)(HRP)二次抗体(Arigo、arg65350)
ロバ抗マウスIgG(H+L)高交差吸着二次抗体(Donkey anti-Mouse IgG(H+L)Highly Cross-Adsorbed Secondary Antibody)、Alexa Fluor 488蛍光二次抗体(Invitrogen、A-21202)
ロバ抗ウサギIgG(H+L)高交差吸着二次抗体(Donkey anti-Rabbit IgG(H+L)Highly Cross-Adsorbed Secondary Antibody)、Alexa Fluor 555蛍光二次抗体(Invitrogen、A-31572)
Hoechst33342(Sigma-Aldrich、14533、使用濃度5μg/mL)
水溶性封入剤(Boster、AR1018)
化学発光液(Merck Millipore、WBKLS0500)
10×EDTA抗原賦活化液(Boster、AR0023)
DAKO抗体希釈液(Dako、S-3022)
キシレン(広州化学試剤厂、33535)
無水エタノール(広州化学試剤厂、32061)
マイヤー(Mayer)・ヘマトキシリン染色液(MIK、BL003)
エオシンY(威佳科技、17372-87-1)
トリゾール(Trizol、Invitrogen、15596)
逆転写酵素(Thermofisher Scientific、EP0442)
dNTPs(Sigma-Aldrich、D7295)
SuperReal PreMix SYBR Green qPCRキット(Tiangen、FP205)
IP溶解液(Beyotime、P0013)
IP磁気ビーズ(Bimake、B23202)。
【0121】
主な実験装置:
スーパークリーンベンチ、セルインキュベータ、低酸素ワークステーション、マイクロプレートリーダ、化学発光イメージャ、レーザー共焦点顕微鏡、低温高速遠心機、リアルタイム蛍光定量PCRシステム。
【0122】
実験方法:
細胞培養、酸素-グルコース欠乏-再酸素化(oxygen-glucose deprivation and restoration、OGD-R)損傷モデル及び薬物処理とした。
10%ウシ胎児血清含有改良型DMEM培地でHUVEC細胞を培養し、細胞が約80%コンフルエントに成長した時に、0.25%トリプシンで細胞を消化し、次に10%ウシ胎児血清含有改良型DMEM培地で均一にピペッティングし、細胞濃度を1×105個/mLに調整して、400μL/ウェルで24ウェルプレートに播種し、細胞が約70%コンフルエントに成長した時に実験を行った。10%ウシ胎児血清含有高グルコースDMEM培地でRAOEC細胞を培養し、播種条件はHUVECと一致した。OGD-R損傷処理を行う時に、低酸素ワークステーションの酸素濃度を1%(1%O2、5%CO2、94%N2)に、温度を37℃に、湿度を85%に設定した。グルコース不含DMEM培地を低酸素ワークステーションに入れて予め3時間低酸素にさらした。培養プレートから培地を吸い取って、予熱したグルコース不含DMEM培地で2回洗浄し、次に1ウェル当たり100μLのグルコース不含DMEM培地を加えて、培養プレートを低酸素ワークステーションに置き、さらに1ウェル当たり300μLの予め低酸素にさらしたグルコース不含DMEM培地を加え、次に、培養プレートを低酸素ワークステーションに置いて引き続き4時間低酸素にさらした。次に再酸素化処理を行い、培養プレートを取り出し、グルコース不含DMEM培地を400μLの10%ウシ胎児血清含有通常培地に交換し、次に37℃×5%CO2セルインキュベータに置いて引き続き24時間又は所定の時間培養した。正常群の細胞は培地を400μLの新しい10%ウシ胎児血清含有通常培地に交換しただけであった。薬物処理群の細胞は、細胞に酸素-グルコース欠乏処理を行った後に、再酸素化処理と同時に、所定の最終濃度の薬物(YC-6の最終濃度は1μM、3μM又は10μM)を与え、溶媒対照では対応する20%ヒドロキシプロピルシクロデキストリンを与え、シクロヘキシミド(cycloheximide、CHX)の最終濃度は100μMであり、クロロキン(chloroquine、CQ)の最終濃度は10μM、30μM又は100μMであり、MG132の最終濃度は10nM、30nM又は100nMであり、実験が終了するまで継続した。モデル対照群は何ら薬物処理も行わなかった。
【0123】
ウエスタンブロット(Western blot):
予冷したPBSで細胞を2回洗浄し、次にセルスクレーパーで細胞をこすり落として1.5mL遠心管に移し、4℃×1000gで5分間遠心分離して、上清を捨て、細胞ペレットに適量のプロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤を含む細胞溶解液を加え、細胞を充分に再懸濁して氷の上に5分間静置して細胞を充分に溶解させた。次に4℃×12000gで10分間遠心分離して、上清を分離し、上清は抽出した細胞タンパク質であった。次にBCAタンパク質定量キットで各タンパク質サンプルを定量した。タンパク質を定量した後、タンパク質溶解液で各サンプルのタンパク質濃度を最低濃度のタンパク質サンプルに一致するように調整し、次にそれぞれ各タンパク質サンプルを5×タンパク質ロード緩衝液と4:1の比率で充分かつ均一に混合して、沸騰水浴に5分間浸し、次にボルテックスにて均一に混合して、短時間遠心分離してサンプルを管の底部に回収し、氷の上に置いて保持し又は-80℃で冷凍保存した。タンパク質サンプルに対し10%SDS-PAGE電気泳動を行い、次に分離したタンパク質をPVDF膜に移した。5%脱脂乳を用いて室温下でPVDF膜を2時間ブロックした。ブロックが終了した後、TBST(1‰ポリソルベート20を含むTBS)で膜を3回洗浄し、1回当たり5分とした。次に5%BSAで対応する抗体を希釈し、PVDF膜を対応する希釈抗体の中に入れ、4℃で一晩インキュベートした。インキュベートが終了した後、TBSTで膜を3回洗浄し、1回当たり5分とした。5%BSAで対応する二次抗体を希釈し、PVDF膜を対応する希釈二次抗体の中に入れ、室温下で1時間インキュベートした。インキュベートが終了した後、TBSTで膜を3回洗浄し、1回当たり5分とし、PVDF膜を化学発光液の中に入れて、化学発光イメージャで撮影した。
【0124】
免疫組織化学染色:
パラフィン切片を65℃オーブンに30分間置き、次に直ちに100%キシレンに移して脱パラフィンし、通常のプロセス(100%キシレン、5分-100%キシレン、2分-100%キシレン、2分-100%エタノール、1分-100%エタノール、1分-95%エタノール、1分-90%エタノール、1分-80%エタノール、1分-70%エタノール、1分-50%エタノール、1分-蒸留水、1分×3)で再水和させ、次にEDTA抗原賦活化液(マイクロ波加熱)で抗原を修復した。修復終了後、室温に自然冷却し、次にPBSで3回洗浄し、1回当たり5分とした。組織切片に残っていたPBSを振りほどいて、免疫組織化学染色ペンを使って組織の外側に円を描き、次にDAKO抗体希釈液で希釈した対応する一次抗体を組織に滴加して、組織を完全に覆わせた。組織切片を4℃のウェットボックスに置いて一晩インキュベートした。次にPBSで3回洗浄し、1回当たり5分とした。次に、組織に対応する希釈蛍光二次抗体を滴加し、ウェットボックスの中で暗所室温下1時間インキュベートした。次にPBSで3回洗浄し、1回当たり5分とした。Hoechst33342で核染色し、ウェットボックスの中で暗所室温下5分間インキュベートした。次にPBSで3回洗浄し、1回当たり5分とし、水溶性封入剤で封止し、次にレーザー共焦点顕微鏡で画像を撮影した。
【0125】
ヘマトキシリン-エオシン(hematoxylin-eosin、HE)染色:
上述したとおりにパラフィン切片を再水和させた。次に切片をヘマトキシリン染色液に浸し、室温で10分間染色した。流水で切片を軽く洗い流して、余分なヘマトキシリンを洗い落とし、次に1%塩酸エタノールで10秒間分化させた。流水で切片を5分間軽く洗い流し、次に1%水酸化アンモニウムで10秒間青色に戻し又は流水で30分間洗い流した。流水で切片を5分間軽く洗い流し、次に1%エオシンに浸して、室温で5分間染色した。流水で切片を軽く洗い流して、余分なエオシン染色液を洗い落とした。切片を順に70%エタノール(1分)-80%エタノール(1分)-90%エタノール(1分)-95%エタノール(1分)-100%エタノール(1分)-100%エタノール(1分)-キシレン(5分)-キシレン(5分)に浸して脱水して透明化させ、次に中性樹脂(適量のキシレンで希釈、約50%キシレン)で封止した。切片をドラフトチャンバーに入れて、封入剤が完全に乾いたら、Nikon Eclipse Ti-U倒立蛍光顕微鏡で明視野撮影を行い、対象ごとにランダムな視野で撮影し、後の病理学的分析に供した。
【0126】
細胞免疫蛍光染色:
実験終了時、PBSで速やかに細胞を2回洗浄し、次に4%パラホルムアルデヒドを加え、室温で15分間静置した。次に0.2%TritonX-100含有PBSで室温下15分間インキュベートして細胞膜を破壊した。PBSで細胞を3回洗浄し、次に対応するDAKO抗体希釈液で希釈した一次抗体を加え、4℃で一晩インキュベートした。一次抗体を吸い取って、PBSで細胞を3回洗浄し、次に希釈蛍光二次抗体を加え、室温で暗所1時間インキュベートした。二次抗体を吸い取って、PBSで細胞を3回洗浄し、次にhoechst33342を加えて細胞核を染色し、室温で暗所5分間インキュベートした。hoechst33342を吸い取って、PBSで3回洗浄し、200μLのPBSを加え、次にレーザー共焦点顕微鏡で画像を撮影した。
【0127】
リアルタイム蛍光定量PCR:
実験終了時に、細胞培地を捨て、次に直接適量のトリゾール(Trizol)試薬を加え、氷の上で細胞を充分に溶解した後、トリゾール(Trizol)溶解物をリボヌクレアーゼを含まない1.5mL遠心管に移し、次にトリゾール(Trizol)の用量の20%のクロロホルムを加えて、15秒間激しく振とうし、氷の上に10分間静置して、4℃×12000gで15分間遠心分離し、次に上層の液体を新しい1.5mL遠心管に移し(中層と下層に触れない)、上層の液体の量の5分の4のイソプロパノールを加え、上下をひっくり返して複数回均一に混合して、氷の上に10分間静置した。次に4℃×12000gで15分間遠心分離して、慎重にイソプロパノールを捨て、管の底部の沈殿に1mLの予冷した75%エタノールを加え(DEPC水で無水エタノールを75%に希釈した)、上下をひっくり返して遠心管の底部の沈殿を浮き上がらせた。次に4℃×12000gで15分間遠心分離して、75%エタノールを捨て、新しい予冷した75%エタノールでもう1回洗浄した。4℃×12000gで15分間遠心分離して、75%エタノールを捨て、次に短時間遠心分離して、ピペットで残りのエタノールを吸い取った。遠心管をスーパークリーンベンチに置いて、管口が開いたまま5~10分間静置して、エタノールを完全に揮発させた。適量のDEPC水を加えてRNAを溶解し、Nanodrop超微量紫外可視分光光度計でOD値を測定して定量し、OD260/280が1.8~2.0の範囲にあればRNAの品質が高いことを示す。次の方法でRNAの逆転写とリアルタイム蛍光定量PCRを行った。
1)前変性:トータルRNA(Total RNA) 2μgとOligo dT 1μLにDEPC・H2Oを加え13μLに補足して均一に混合し、65℃下5分間で終了した後に直ちに氷の上に置いた。
2)逆転写:5×反応緩衝液(Reaction Buffer) 4μL、dNT mix 2μL、逆転写酵素(Reverse Transcriptase)1μLを均一に混合し、42℃で60分間、70℃で10分間、そして最後まで4℃とした。
3)リアルタイム(Real-time)PCR(ABI 7500 高速リアルタイムPCRシステム(fast real-time PCR system))
プライマー原液である100nmol/μL(プライマー凍結乾燥粉末+ナノモル(nmoles)×10μL RNase不含(RNase-free)ddH2O)、プライマー作業溶液2nmol/μL(4μL FP+4μL RP+192μL RNase不含(RNase-free)ddH2O)及びSYBR Green Mix/ROX=1.25mL/50μLを、SYBR Green/ROX 5μL、cDNA 1μL、プライマー(Primer) 2μL、DEPC・H2O 2μLと均一に混合して、PCR反応を行い、サイクルパラメータ保持段階(Holding stage)は、95℃、15分間であり、サイクル段階(Cycling stage)(40サイクル(cycles))は、95℃、10秒→56℃、20秒→72℃、30秒であり、融解曲線段階(Melt Curve stage)(連続(continuous))は、95℃、15秒→65℃、60秒→95℃、15秒→65℃、15秒であり、相対発現量の計算では比較(Comparative)ΔΔCt法(RQ=2-ΔΔCt)を用いてデータを解析した。プライマー配列は、β-アクチン(ヒト)(β-actin(human))フォワード(forward):5’-GATTCCTATGTGGGCGACGA-3’、リバース(reverse):5’-AGGTCTCAAACATGATCTGGGT-3’、NR4A3(ヒト(human))フォワード(forward):5’-AGCGGCGGCATCCTC-3’、リバース(reverse):5’-CTAAGGGTCCAGGCTCAGG-3’、β-アクチン(ラット)(β-actin(rat))フォワード(forward):5’-CGCGAGTACAACCTTCTTGC-3’、リバース(reverse):5’-CGTCATCCATGGCGAACTGG-3’、NR4A3(ラット)(NR4A3(rat))フォワード(forward):5’-GGAAACGTGGCGACATCCT-3’、リバース(reverse):5’-CAGTGGGCTTTGGGTTCTGTG-3’を含む。
【0128】
免疫沈降:
予冷したPBSで細胞を2回洗浄し、次にセルスクレーパーで細胞をこすり落として1.5mL遠心管に移し、4℃×1000gで5分間遠心分離して、上清を捨て、細胞ペレットにプロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤を含む適量のIP溶解液を加え、細胞を充分に再懸濁して氷の上に5分間静置して細胞を充分に溶解させた。次に4℃×12000gで10分間遠心分離して、上清を分離し、上清は抽出した細胞タンパク質であった。次にBCAタンパク質定量キットで各タンパク質サンプルを定量した。タンパク質を定量した後、IP溶解液で各サンプルのタンパク質濃度を1mg/mLに調整し、各サンプルを等量で採取して新しい遠心管に入れ(インプット(input)として各サンプルを少し残した)、抗体取扱説明書に従って対応する量の抗体を加え、4℃でゆっくりと上下をひっくり返して一晩均一に混合した。次に、IP溶解液でIP磁気ビーズを2回洗浄し、各サンプルにそれぞれ等量のIP磁気ビーズを加え、引き続き4℃でゆっくりと上下をひっくり返して2時間均一に混合した。次に磁気ビーズを分離して、IP溶解液でIP磁気ビーズを5回洗浄し、各回では4℃で上下をひっくり返して5分間均一に混合した。最終回で磁気ビーズを分離した後、各サンプルに等量の1×タンパク質ロード緩衝液(IP溶解液と5×タンパク質ロード緩衝液を4:1の比率で均一に混合したもの)を加え、短時間遠心分離した後、沸騰水浴に5分間浸し、次に短時間遠心分離してサンプルを管の底部に回収し、沸騰水浴を経たサンプルを新しい遠心管に移して、磁気ビーズを捨て、サンプルを氷の上に置いて保持し又は-80℃で冷凍保存することができる。タンパク質サンプルに対し10%SDS-PAGE電気泳動を行い、その後の手順はウエスタンブロットの部分と同じであった。
【0129】
データ解析:
統計結果は平均±標準偏差で示す。一元配置分散分析(ONE-WAY ANOVA)を採用して統計分析を行い、テューキーの多重比較法を併用し、P<0.05を統計的に有意な差があると見なす。
【0130】
実験結果:
酸素-グルコース欠乏-再酸素化/低酸素刺激下でYC-6は血管内皮細胞のNR4A3タンパク質の発現を向上させ、細胞損傷を軽減させる。
血管内皮細胞は低酸素刺激下ではNR4A3の上方調節により下流のcIAP2の発現を促進させることによってアポトーシスを低減させることが、低酸素関連刺激下のNR4A3の発現が血管内皮細胞の生存を向上させる上で重要な役割を有することを示しているということは、報告で述べられていた。4時間の酸素-グルコース欠乏がHUVEC及びRAOECのNR4A3タンパク質の発現上昇を引き起こすが、24時間の再酸素化はNR4A3タンパク質レベルの下方制御を引き起こす(
図12a)と同時に、細胞のLDH放出増加(
図3)を引き起こすことが、酸素-グルコース欠乏-再酸素化はNR4A3の発現への下方制御により細胞損傷を促進させるという可能性を示唆していることを実験の結果が示している。再酸素化損傷と同時にYC-6を与えると用量依存的にNR4A3タンパク質の発現を向上させる(
図12a)とともに、用量依存的に酸素-グルコース欠乏-再酸素化によって引き起こされる細胞損傷を低減させる(
図3)ことができ、これはYC-6がNR4A3の発現への上方調節により血管内皮細胞を保護する役割を発揮できることを示している。免疫蛍光細胞染色法でNR4A3の発現を分析したところ、ウエスタンブロットの結果と一致しており、再酸素化損傷と同時にYC-6を与えると用量依存的にNR4A3タンパク質の発現を向上させることができる(
図12のbとc)。
【0131】
急性低圧低酸素誘発性カニクイザル肺組織損傷病理学的モデルにおいて、NR4A3の発現に対するYC-6の影響を一層検討した。結果は、急性低圧低酸素刺激下でYC-6が有意にカニクイザル肺組織内皮細胞のNR4A3タンパク質の発現を向上させ、急性低圧低酸素によって引き起こされる血管内皮細胞マーカーCD31の発現の下方制御を阻害する(
図12のdとe)ことを示している。これまでの組織病理学的結果(
図8~
図11)は、正常対照群のカニクイザルは肺組織の肺胞構造が多角形又は円形の薄壁空胞で、境界がはっきりしており、肺胞中隔は薄壁構造であり、中隔の内部に毛細血管断面があることを示している。急性低圧低酸素は、深刻な組織の緩み、血管のうっ血、肺胞壁の肥厚、肺胞腔内の赤血球の浸出とヒアリン膜の形成、そして肺胞に対する炎症細胞の浸潤を引き起こす。ヒアリン膜の形成はびまん性肺胞損傷の典型的な病理学的特徴とされることから、急性低圧低酸素はびまん性肺胞損傷及び肺内皮バリアの透過性亢進を引き起こすことを示している。YC-6を与えると急性低圧低酸素によって引き起こされる肺組織の病理学的変化を改善し、血液空気関門の透過性亢進を軽減させることができる。実験の結果が、低酸素関連刺激によって引き起こされる血管内皮細胞の損傷を低減させる上でのNR4A3の重要性を示しており、YC-6はNR4A3タンパク質の発現を上方調節し、酸素-グルコース欠乏-再酸素化によって引き起こされる血管内皮細胞の損傷及び急性低圧低酸素によって引き起こされる内皮バリアの損傷を軽減することができる。
【0132】
YC-6は、酸素-グルコース欠乏-再酸素化によって引き起こされるNR4A3のユビキチン化分解を阻害する。
これまでの研究では、NR4A3タンパク質の発現は主に転写レベルによって調節され、HIF-1αは低酸素刺激下でNR4A3の発現を調節する上流の転写因子であることが明らかになっている。したがって、我々は、YC-6はNR4A3の転写レベルを促進することでそのタンパク質の発現を促進するかどうかを検討した。結果(
図13)は、酸素-グルコース欠乏はNR4A3転写レベルの有意な上昇を引き起こすことを示しており、酸素-グルコース欠乏はHIF-1αの転写を促進することでNR4A3の発現を促進するのは、血管内皮細胞の低酸素関連損傷に対抗する1種の自己保護メカニズムなのかもしれないということを示している。再酸素化はNR4A3転写レベルの下降を引き起こし、YC-6を与えるとNR4A3の転写レベルを有意に上方調節していないのは、YC-6はNR4A3の転写を促進することによってそのタンパク質の発現を増加させるのではないことを示している。したがって、我々は、さらに、YC-6がNR4A3の分解を阻害することの可能性を検討した。HUVEC及びRAOECに酸素-グルコース欠乏処理を行い、再酸素化と同時にシクロヘキシミド(CHX)を与えてタンパク質の合成を阻害した。結果は、タンパク質の合成を阻害するとNR4A3タンパク質がほぼ完全に枯渇していることを示していることから、NR4A3タンパク質は再酸素化損傷の中で急速に分解することを示している。さらにNR4A3の分解経路を検討するために、再酸素化損傷とCHXを与える同時に、それぞれ異なる濃度のユビキチン・プロテアソーム阻害剤MG132及びリソソーム分解阻害剤クロロキンCQを与えて、異なる方式のタンパク質分解を遮断した。結果は、再酸素化損傷と同時にCHX及びMG132を与えるのは、NR4A3の分解を阻害できるが、CHX及びCQを与えてもNR4A3の分解を明らかに阻害していないを示していることから、再酸素化損傷の過程でNR4A3の分解は主にユビキチン・プロテアソーム系によるものだということを示している。
【0133】
さらにYC-6は再酸素化の条件下でNR4A3タンパク質のユビキチン化分解を阻害したかどうかを検討するために、我々は、再酸素化処理後の細胞からタンパク質を抽出し抗ユビキチン抗体で免疫沈降実験を行った。結果は、再酸素化損傷はNR4A3のユビキチン化修飾を引き起こし、再酸素化損傷と同時にMG132を与えるとユビキチン化のNR4A3の増加を引き起こし、再酸素化後に溶媒処理を与えるのはNR4A3のユビキチン化修飾に明らかな影響はないが、YC-6を与えると再酸素化によって引き起こされるNR4A3のユビキチン化修飾を阻害でき、再酸素化後にMG132及びYC-6を与えてもユビキチン化のNR4A3を明らかに増加させてないということを示すから、YC-6はNR4A3のユビキチン化修飾を阻害したということを示している。
【0134】
実験の結果は、YC-6は再酸素化損傷においてNR4A3のユビキチン化修飾の阻害でその分解を阻害することによって、血管内皮細胞の損傷刺激下の生存を向上させるということを示している。
【0135】
上記から分かるように、YC-6は酸素-グルコース欠乏-再酸素化によって引き起こされる血管内皮細胞の損傷を軽減することができ、そのメカニズムの1つは、YC-6がNR4A3のユビキチン化分解を阻害することによって、病理学的刺激下の血管内皮細胞の生存を向上させることである。動物個体レベルでは、YC-6が低酸素刺激下で肺組織血管内皮細胞のNR4A3タンパク質の発現を促進し、低酸素によって引き起こされる肺内皮バリアの透過性亢進及び関連の病理学的変化を軽減させることによって、肺保護の役割を発揮する。
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