(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】アンモニア分解触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 27/232 20060101AFI20240402BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B01J27/232 M
C01B3/04 B
(21)【出願番号】P 2022553507
(86)(22)【出願日】2021-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2021028819
(87)【国際公開番号】W WO2022070597
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020163651
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北口 真也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】有田 佳生
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/107065(WO,A1)
【文献】特開2016-060654(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188219(WO,A1)
【文献】特開2017-124366(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0062590(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 3/00 - 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト(A);
セリウム、イットリウム、およびランタンから選択される1以上の希土類元素(B);
バリウム、およびストロンチウムから選択される1以上のアルカリ土類金属元素(C);
ジルコニウム(D);並びに、
炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムから選択される1以上のカルシウム化合物(E)を含有し;
前記コバルト(A)、希土類元素(B)、アルカリ土類金属元素(C)、およびジルコニウム(D)は、金属または酸化物として含まれ
、
前記コバルト(A)の含有割合が酸化物換算で30質量%以上であり、
前記カルシウム化合物(E)の含有割合が10質量%以上であることを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
前記希土類元素(B)の含有割合が酸化物換算で1質量%以上、24質量%以下であり、
前記アルカリ土類金属元素(C)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下であり、
前記ジルコニウム(D)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下である請求項
1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のアンモニア分解触媒を還元処理に付す工程、および、
還元処理した前記アンモニア分解触媒に、アンモニアを含むガスを接触させることにより、アンモニアを水素および窒素に分解する工程を含むことを特徴とする水素および窒素の製造方法。
【請求項4】
アンモニアを分解するための触媒の使用であって、
前記触媒が、コバルト(A);セリウム、イットリウム、およびランタンから選択される1以上の希土類元素(B);バリウム、およびストロンチウムから選択される1以上のアルカリ土類金属元素(C);ジルコニウム(D);並びに、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムから選択される1以上のカルシウム化合物(E)を含有し;
前記コバルト(A)、希土類元素(B)、アルカリ土類金属元素(C)、およびジルコニウム(D)は、金属または酸化物として前記触媒に含まれ
、
前記触媒における前記コバルト(A)の含有割合が酸化物換算で30質量%以上であり、
前記触媒における前記カルシウム化合物(E)の含有割合が10質量%以上であることを特徴とする使用。
【請求項5】
前記触媒における前記希土類元素(B)の含有割合が酸化物換算で1質量%以上、24質量%以下であり、
前記触媒における前記アルカリ土類金属元素(C)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下であり、
前記触媒における前記ジルコニウム(D)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下である請求項
4に記載の使用。
【請求項6】
水素および窒素を製造するための方法であって
、
アンモニア分解触媒を還元処理に付す工程
であり、前記アンモニア分解触媒が、コバルト(A);セリウム、イットリウム、およびランタンから選択される1以上の希土類元素(B);バリウム、およびストロンチウムから選択される1以上のアルカリ土類金属元素(C);ジルコニウム(D);並びに、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムから選択される1以上のカルシウム化合物(E)を含有し、前記コバルト(A)、希土類元素(B)、アルカリ土類金属元素(C)、およびジルコニウム(D)は、金属または酸化物として含まれ、前記アンモニア分解触媒における前記コバルト(A)の含有割合が酸化物換算で30質量%以上であり、前記アンモニア分解触媒における前記カルシウム化合物(E)の含有割合が10質量%以上である工程、および、
還元処理した前記アンモニア分解触媒に、アンモニアを含むガスを接触させることにより、アンモニアを水素および窒素に分解する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記触媒における前記希土類元素(B)の含有割合が酸化物換算で1質量%以上、24質量%以下であり、
前記触媒における前記アルカリ土類金属元素(C)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下であり、
前記触媒における前記ジルコニウム(D)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下である請求項
6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを窒素と水素とに効率的に分解することができ且つ高強度のアンモニア分解触媒、および当該アンモニア分解触媒を用いる水素および窒素の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素は、他の原子と共有結合し易く、燃焼時に生成される化合物は水のみであり、質量当たりの熱量が大きいなどの特性がある。このため、水素は、石油精製における脱硫や石油製品製造に利用されており、近年は、燃料電池の燃料としても需要が高まっている。水素は、産業ガス事業者などがユーザーの工業用プラント等に水素製造装置を設置してオンサイト供給することも多い。しかし、今後、水素の製造現場から水素ステーション等へ供給することも増えてくると考えられる。
【0003】
水素の運搬手段としては、高圧水素ガスの運搬、液化水素ガスの運搬、有機ハイドライドの運搬などが検討されている。しかし高圧水素ガスや液化水素ガスは、事故時などに極めて危険である。また、有機ハイドライドの運搬に関しては、例えばトルエンを還元してメチルシクロヘキサンを得て、比較的安全なメチルシクロヘキサンを運搬し、需要地で脱水素して水素を得ることが検討されている。しかしこの方法では、水素を一旦製造した後に、トルエンの還元とメチルシクロヘキサンの脱水素のために余分なエネルギーを必要とするという問題がある。
【0004】
そこで、アンモニアが水素のキャリアとして注目されている。アンモニア自体は古くからその工業的製法が確立しているし、また、アンモニアは室温でも容易に液化可能であり、液化水素に比較しても1.5~2.5倍程度の高い体積水素密度を有する。しかし依然として、アンモニアを運搬した後にアンモニアから水素を効率的に製造する技術の開発が求められている。
【0005】
例えば特許文献1には、貴金属を用いることなく、低濃度から高濃度までの広範囲なアンモニア濃度域において、アンモニアを比較的低温で、且つ高い空間速度で水素と窒素とに効率よく分解して高純度の水素を取得できる触媒であって、鉄族金属と金属酸化物を含有するアンモニア分解触媒が開示されている。
【0006】
特許文献2には、ニッケル、コバルトおよび鉄から選択される元素、ストロンチウムおよびバリウムから選択される元素、並びに、ランタンとセリウムを除いたランタノイドを含み、アンモニアから水素を効率的に製造できる触媒が開示されている。
【0007】
特許文献3には、ニッケル、コバルトおよび鉄から選択される元素、ストロンチウムおよびバリウムから選択される元素、希土類元素、並びに、マグネシウムを含み、アンモニアから水素を効率的に製造できる触媒が開示されている。
【0008】
特許文献4には、コバルト、イットリウム、並びに、ストロンチウムおよびバリウムから選択されるアルカリ土類金属を特定の割合で含む、アンモニアから水素を効率的に製造できる触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-94668号公報
【文献】特開2016-203052号公報
【文献】特開2019-11212号公報
【文献】特願2020-027817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、アンモニアを分解して水素を効率的に製造するための触媒は種々検討されているが、水素の使用量の増加に伴い、効率がより一層高く高強度のアンモニア分解触媒が求められている。
そこで本発明は、アンモニアを水素と窒素とに効率的に分解することができ且つ機械的強度が高いアンモニア分解触媒、および当該アンモニア分解触媒を用いる水素および窒素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定のカルシウム化合物を含有するアンモニア分解触媒が、アンモニアの分解活性に優れ且つ機械的強度が高いことを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0012】
[1] コバルト(A);
セリウム、イットリウム、およびランタンから選択される1以上の希土類元素(B);
バリウム、およびストロンチウムから選択される1以上のアルカリ土類金属元素(C);
ジルコニウム(D);並びに、
炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムから選択される1以上のカルシウム化合物(E)を含有し;
前記コバルト(A)、希土類元素(B)、アルカリ土類金属元素(C)、およびジルコニウム(D)は、金属または酸化物として含まれることを特徴とするアンモニア分解触媒。
[2] 前記コバルト(A)の含有割合が酸化物換算で30質量%以上である前記[1]に記載のアンモニア分解触媒。
[3] 前記希土類元素(B)の含有割合が酸化物換算で1質量%以上、24質量%以下であり、
前記アルカリ土類金属元素(C)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下であり、
前記ジルコニウム(D)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下である前記[1]または[2]に記載のアンモニア分解触媒。
[4] 前記カルシウム化合物(E)の含有割合が10質量%以上である前記[1]~[3]のいずれかに記載のアンモニア分解触媒。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載のアンモニア分解触媒を還元処理に付す工程、および、
還元処理した前記アンモニア分解触媒に、アンモニアを含むガスを接触させることにより、アンモニアを水素および窒素に分解する工程を含むことを特徴とする水素および窒素の製造方法。
【0013】
[6] アンモニアを分解するための触媒の使用であって、
前記触媒が、コバルト(A);セリウム、イットリウム、およびランタンから選択される1以上の希土類元素(B);バリウム、およびストロンチウムから選択される1以上のアルカリ土類金属元素(C);ジルコニウム(D);並びに、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムから選択される1以上のカルシウム化合物(E)を含有し;
前記コバルト(A)、希土類元素(B)、アルカリ土類金属元素(C)、およびジルコニウム(D)は、金属または酸化物として前記触媒に含まれることを特徴とする使用。
[7] 前記触媒における前記コバルト(A)の含有割合が酸化物換算で30質量%以上である前記[6]に記載の使用。
[8] 前記触媒における前記希土類元素(B)の含有割合が酸化物換算で1質量%以上、24質量%以下であり、
前記触媒における前記アルカリ土類金属元素(C)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下であり、
前記触媒における前記ジルコニウム(D)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下である前記[6]または[7]に記載の使用。
[9] 前記触媒における前記カルシウム化合物(E)の含有割合が10質量%以上である前記[6]~[8]のいずれかに記載の使用。
【0014】
[10] 水素および窒素を製造するための方法であって、
コバルト(A);セリウム、イットリウム、およびランタンから選択される1以上の希土類元素(B);バリウム、およびストロンチウムから選択される1以上のアルカリ土類金属元素(C);ジルコニウム(D);並びに、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムから選択される1以上のカルシウム化合物(E)を含有し;前記コバルト(A)、希土類元素(B)、アルカリ土類金属元素(C)、およびジルコニウム(D)は、金属または酸化物として含まれるアンモニア分解触媒を還元処理に付す工程、および、
還元処理した前記アンモニア分解触媒に、アンモニアを含むガスを接触させることにより、アンモニアを水素および窒素に分解する工程を含むことを特徴とする方法。
[11] 前記触媒における前記コバルト(A)の含有割合が酸化物換算で30質量%以上である前記[10]に記載の方法。
[12] 前記触媒における前記希土類元素(B)の含有割合が酸化物換算で1質量%以上、24質量%以下であり、
前記触媒における前記アルカリ土類金属元素(C)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下であり、
前記触媒における前記ジルコニウム(D)の含有割合が酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下である前記[10]または[11]に記載の方法。
[13] 前記触媒における前記カルシウム化合物(E)の含有割合が10質量%以上である前記[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るアンモニア分解触媒によれば、アンモニアから水素と窒素を効率的に製造することが可能になる。また、本発明に係るアンモニア分解触媒は、その成形体などの機械的強度が高いため、寿命が長いといえる。更に本発明に係るアンモニア触媒は、活性金属として高価な貴金属を含まなくてもよいため、比較的安価である。よって本発明は、来たるべき水素社会に寄与するものとして、産業上有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい態様を2つ以上組み合わせた態様もまた、本発明の好ましい態様である。
【0017】
本発明に係るアンモニア分解触媒(以下、「本発明触媒」と略記する場合がある)は、コバルト(A);セリウム、イットリウム、およびランタンから選択される1以上の希土類元素(B);バリウム、およびストロンチウムから選択される1以上のアルカリ土類金属元素(C);ジルコニウム(D);並びに、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムから選択される1以上のカルシウム化合物(E)を含有する。
【0018】
アンモニアを水素と窒素に分解する反応を促進する触媒は、活性金属に貴金属であるルテニウム等を含む貴金属系触媒と、活性金属に貴金属を含まない卑金属系触媒に大別される。高価な貴金属の使用は実用上望ましいものではなく、本発明では活性金属として比較的安価な卑金属を用いる。
【0019】
本発明触媒は、活性金属としてコバルト(A)を必須的に含有する。本発明触媒に占めるコバルト(A)の含有割合は、酸化物換算で30質量%以上が好ましい。本開示で各元素の含有割合を酸化物で換算するのは、本発明触媒は最終的に、空気中、高温で焼成することにより製造され、金属元素は酸化物として存在すると考えられ、また、本発明触媒は使用前に還元処理に付され、その段階で各金属元素はそれぞれ全て還元されるのか、一部のみ還元されるのか、或いは全く還元されないか還元条件にもよるためである。コバルト(A)の上記含有割合としては、酸化物換算で40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上がより更に好ましく、また、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がより更に好ましい。
【0020】
本発明触媒に占める前記希土類元素(B)の含有割合は、酸化物換算で1質量%以上、24質量%以下が好ましい。当該含有割合としては、1.5質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、2.5質量%以上がより更に好ましく、また、20質量%以下が好ましく、15質量%以下または10質量%以下がより好ましい。
【0021】
前記希土類元素(B)としては、セリウム、イットリウム、またはランタンを単独で用いてもよいし、2種または3種を併用してもよい。前記希土類元素(B)としては、セリウムおよび/またはイットリウムが好ましく、セリウムまたはイットリウムがより好ましい。
【0022】
本発明触媒に占める前記アルカリ土類金属元素(C)の含有割合は、酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下が好ましい。当該含有割合としては、0.3質量%以上が好ましく、0.4質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がより更に好ましく、また、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がより更に好ましい。
【0023】
前記アルカリ土類金属元素(C)としては、バリウムまたはストロンチウムを単独で用いてもよいし、バリウムとストロンチウムを併用してもよい。本発明触媒に占める前記アルカリ土類金属元素(C)としては、バリウムがより好ましい。バリウムを用いることで、低温でのアンモニア分解性能の向上が顕著に認められる。
【0024】
本発明触媒に占める前記ジルコニウム(D)の含有割合は、酸化物換算で0.1質量%以上、10質量%以下が好ましい。当該含有割合としては、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、また、8質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましい。
【0025】
前記ジルコニウムおよび/またはその酸化物は、本発明触媒において担体として機能する可能性の他、活性金属として、触媒の初期活性と耐久性能の改善に寄与する成分である。
【0026】
本発明触媒は、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムから選択される1以上のカルシウム化合物(E)を必須的に含有する。従来の、鉄、ニッケル、コバルト等の卑金属を30質量%より高い含有率で含む触媒では、これら卑金属元素を活性化するため還元処理する際に体積収縮を伴い、触媒の機械的強度が低下するという課題があった。具体的には、成形触媒が割れたり、破損したり、剥がれたりして反応器に充填できなかったり、充填できても長期間使用することができなかったりする。そこで、アルミナ、シリカや各種粘土鉱物などを触媒中に添加することで機械的強度を改善することはできるが、活性成分の含有率が低下して初期活性が低下したり耐久性の低下を招くものであった。それに対して本発明触媒は、カルシウム化合物(E)を含むことにより、アンモニアの分解を促進する助触媒的な働きをさせるか、或いは触媒のアンモニア分解能を大きく低下させることなく、触媒の機械的強度を改善する。
【0027】
本発明触媒に占める前記カルシウム化合物(E)の含有割合は、10質量%以上、65質量%以下が好ましい。当該含有割合としては、15質量%以上または20質量%以上が好ましく、25質量%以上または30質量%以上がより好ましく、また、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がより更に好ましい。
【0028】
本発明触媒は、前記コバルト(A)、希土類元素(B)、アルカリ土類金属元素(C)、ジルコニウム(D)、およびカルシウム化合物(E)に加えて、更に、アルミナ、シリカ、チタニア、および酸化ニオブから選択される1以上の担体を含有することが好ましい。本発明触媒における担体の含有割合としては、0.1質量%以上、15質量%以下が好ましい。当該含有割合としては、0.5質量%以上または1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、2質量%以上がより更に好ましく、また、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下がより更に好ましい。担体を含むことで、本発明触媒の初期活性と耐久性能の向上効果が期待できる。
【0029】
担体成分としては、アンモニア分解活性向上の観点から、その比表面積が10m2/g以上のものが好ましい。当該比表面積としては、20m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がより更に好ましい。上記比表面積の上限は特に制限されないが、例えば300m2/g以下とすることができる。
【0030】
本発明触媒における各金属成分の含有割合は、その製造に用いた原料化合物に含まれる金属元素の量から求めてもよいし、或いは、蛍光X線などを用いて本発明触媒を直接測定に付すことによっても求めることができる。
【0031】
本発明触媒の比表面積は、例えば、1m2/g以上、300m2/g以下とすることができる。当該比表面積が1m2/g以上であれば、アンモニアを含むガスを触媒層へより良好に流通させることが可能になり、300m2/g以下であれば、アンモニアを含むガスと触媒との接触面積をより確実に確保することができ、反応をより良好に進行せしめることができる。上記比表面積としては、5m2/g以上が好ましく、18m2/g以上がより好ましく、また、250m2/g以下が好ましく、200m2/g以下がより好ましい。なお、本発明触媒の比表面積は常法により測定すればよく、例えば、全自動BET表面積測定装置(「Macsorb HM Model-1201」マウンテック社製)など、一般的な表面積測定装置を使って測定すればよい。
【0032】
本発明触媒を構成する触媒成分、特に上記触媒中の活性成分である酸化コバルトの粒子サイズ(結晶子径)は、3nm以上、200nm以下とすることができる。当該粒子サイズとしては、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、また、150nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。上記粒子サイズは常法により測定すればよいが、例えば、本発明触媒をX線回折法で分析し、得られた分析結果で結晶構造の帰属を行って2θ値を求め、シェラーの式から算出することができる。
【0033】
本発明触媒の形状は特に制限されず、例えば、粒状、球状、ペレット状、破砕状、サドル状、リング状、ハニカム状、モノリス状、綱状、円柱状、円筒状などであってもよい。
【0034】
本発明触媒は常法により製造すればよく、例えば、混練法、蒸発乾固法、共沈法、含浸法などにより製造することができるが、特に混練法により製造することが好ましい。より具体的には、例えば、コバルト(A);セリウム、イットリウム、およびランタンから選択される1以上の希土類元素(B);バリウム、およびストロンチウムから選択される1以上のアルカリ土類金属元素(C);並びに、ジルコニウム(D)を含む原料化合物を溶媒に溶解または分散することにより溶液または分散液を得る工程、
前記溶液または分散液から溶媒を留去して乾燥物を得る工程、
前記乾燥物を焼成して焼成物を得る工程を含み、
炭酸カルシウム、酸化カルシウム、および水酸化カルシウムから選択される1以上のカルシウム化合物(E)を前記溶液または分散液に添加するか、又は前記焼成物に混合することを特徴とする方法により製造することができる。
【0035】
前記触媒構成成分の原料については特に限定されるものではないが、コバルト(A)の原料化合物としては、例えば、酸化コバルト、塩基性炭酸コバルト、水酸化コバルト等の固体状のものが使用でき、製造した触媒の比表面積を高めることができる塩基性炭酸コバルトを用いることが特に好ましい。一方、希土類元素(B)、アルカリ土類金属元素(C)、ジルコニウム(D)の原料化合物については、使用する溶媒に溶解性または親和性を示すものであれば特に制限されないが、例えば、硝酸塩、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩などが挙げられる。前記コバルト化合物と混練法にて触媒を製造する場合は、水溶性がある硝酸塩、硫酸塩または酢酸塩を使用することが好ましい。溶媒としては、水、硝酸、塩酸、緩衝液などを用いることができ、溶媒としては特に水が好ましい。
【0036】
カルシウム化合物(E)の原料化合物としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムのいずれであってもよいが、他の必須元素の原料化合物との関係から、炭酸カルシウムを使用することが好ましい。なお、炭酸カルシウムを使用した場合でも、600℃以上の焼成により炭酸カルシウムの一部が熱分解して、酸化カルシウムとなることがある。または酸化カルシウムは空気中の水分と反応して水酸化カルシウムを形成することが知られており、炭酸カルシウムを原料として用いても、本発明触媒中に一部は酸化カルシウムや水酸化カルシウムの形態で存在していることがXRDスペクトル等で確認することができる。
【0037】
前記溶液または分散液を乾燥する方法は特に制限されないが、例えば80℃以上、150℃以下程度、好ましくは100℃以上で加熱することが好ましい。乾燥の際には、減圧してもよい。また、乾燥の程度は特に制限されず、続く焼成工程の障害にならない程度に適度に乾燥すればよいが、例えば、スラリーやペーストと呼ばれる程度まで乾燥してもよいし、固化してもよい。好ましくは、溶媒を90質量%以上除去する。
【0038】
焼成条件は特に制限されず、適宜調整すればよい。例えば、200℃以上、1000℃以下で、1時間以上、10時間以下焼成することが好ましい。焼成温度としては、300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、また、700℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましい。焼成温度は、連続的または段階的に上げてもよい。
【0039】
本発明に係る水素および窒素の製造方法は、前記アンモニア分解触媒を還元処理に付す工程、および、還元処理した前記アンモニア分解触媒に、アンモニアを含むガスを接触させることにより、アンモニアを水素および窒素に分解する工程を含む。
【0040】
本発明触媒は、アンモニアの分解工程までに還元処理に付すことが好ましい。還元処理で特に酸化コバルトから金属コバルトを形成することにより、本発明触媒のアンモニア分解活性を向上させることができる。還元処理としては、例えば、水素、炭化水素、一酸化炭素などの還元性ガスを用いる方法;ヒドラジン、リチウムアルミニウムハイドライド、テトラメチルボロハイドライド等の還元剤を用いる方法などが挙げられるが、ガスを変更するのみで続くアンモニア分解工程を連続的に実施できるため、還元性ガスを用いる方法が好ましい。還元性ガスは、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガスにより希釈してもよい。希釈する場合、導入ガスに占める還元性ガスの割合は適宜調整すればよいが、例えば、5容量%以上、50容量%以下とすることができる。
【0041】
還元処理の条件は、本発明触媒に含まれる酸化コバルトが十分に還元できるよう調整することが好ましい。例えば、還元性ガスを用いて本発明触媒を還元処理に付す場合、温度は300℃以上、800℃以下に調整することが好ましく、400℃以上、700℃以下がより好ましい。還元処理の時間としては、0.5時間以上、5時間以下が好ましい。但し、還元処理での還元が十分でない場合であっても、アンモニアの分解により水素が発生し、触媒層は還元状態にあることから、本発明触媒のアンモニア分解活性は次第に向上していくと考えられる。
【0042】
続いて、還元処理した本発明触媒に、アンモニアを含むガスを接触させることにより、アンモニアを水素と窒素に分解する。アンモニアを含むガスは、アンモニアガスであってもよいし、アンモニアと不活性ガスとの混合ガスであってもよい。混合ガスを用いる場合、混合ガスに含まれるアンモニアガスの割合は、例えば、50容量%以上、95容量%以下とすることができ、70容量%以上が好ましい。
【0043】
本発明触媒を含む触媒層へ導入するアンモニア含有ガスの流量は、アンモニアを水素と窒素へ効率的に分解できる範囲で適宜調整すればよく、例えば、アンモニア分解触媒に対するアンモニア含有ガスの空間速度として1,000h-1以上が好ましい。本発明触媒はアンモニアの分解活性に優れる上に高強度であるので、空間速度としては、2,000h-1以上とすることが可能であり、更には3,000h-1以上とすることができる。当該空間速度の上限は特に制限されないが、未反応アンモニアの量の抑制の観点から、100,000h-1以下が好ましい。より好ましくは50,000h-1以下であり、より好ましくは30,000h-1以下であり、20,000h-1以下が更に好ましい。
【0044】
アンモニア分解反応の温度も、アンモニアを水素と窒素へ効率的に分解できる範囲で適宜調整すればよく、例えば、250℃以上、800℃以下とすることができる。当該温度としては、300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、また、700℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましい。反応圧力は、絶対圧で0.1MPa以上、20MPa以下とすることができる。当該反応圧力は、0.5MPa以上が好ましく、0.8MPa以上がより好ましく、また、10MPa以下が好ましい。反応圧力は、背圧弁などにより調整すればよい。
【0045】
触媒層を通過したガスに未反応のアンモニアが含まれている場合には、反応後ガスを乾式の吸着材や硫酸水溶液などの湿式スクラバー等に導入してアンモニアを除去回収し、更に、水素、窒素、不活性ガスを分離精製してもよい。
【0046】
一般にアンモニア分解触媒としては、貴金属の他、鉄、コバルトやニッケル等の鉄系金属を活性成分として用いる方法が知られているが、低活性であり耐久性も十分なものが得られなかった。それに対して本発明触媒は、貴金属を含まないにもかかわらず、比較的低い反応温度でも高いアンモニア分解活性を示す。その結果、アンモニアを低い温度で分解処理することが可能であり、ランニングコストを低減したり充填する触媒量を少なくできるので、設備費を低減したりすることができる。また、本発明触媒は、活性が高い上に、カルシウム化合物(E)を含むことにより強度が高いため、寿命が長いのみでなく、加圧条件でアンモニアを分解することができる。よって本発明触媒を用いることにより、アンモニアから水素と窒素、特に水素を非常に効率的に製造することが可能になる。
【0047】
本願は、2020年9月29日に出願された日本国特許出願第2020-163651号に基づく優先権の利益を主張するものである。2020年9月29日に出願された日本国特許出願第2020-163651号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
実施例1: 73.4Co4Y1Ba1.6Zr//20CaCO3
アンモニア分解触媒として、73.4Co4Y1Ba1.6Zr//20CaCO3の組成を有する触媒を混練法により調製した。なお、本開示における組成式中、各元素の前の各数値は酸化物としての質量濃度(%)を示す。例えば本実施例の触媒は、コバルト酸化物が73.4質量%、イットリウム酸化物が4.0質量%、バリウム酸化物が1.0質量%、ジルコニウム酸化物が1.6質量%、及び炭酸カルシウムが20質量%含まれている。
具体的には、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3%)2.6g、硝酸バリウム0.3gをイオン交換水10gに溶解し、更にオキシ硝酸ジルコニウム水溶液(ジルコニウムを酸化物換算で25%含有)1.3gを混合して硝酸塩水溶液を得た。塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:44.3%)23.9gを磁製皿にとり、上記硝酸塩水溶液を加えてよく混合した。95℃設定の湯浴上にてスパチュラで混合物を適宜混合することにより濃縮ペースト状にした。得られたペーストを110℃の乾燥機に入れて乾燥し、乾燥物を得た。得られた乾燥物を焼成炉に入れ、200℃で2時間、更に600℃で2時間焼成した。得られた焼成物に対して炭酸カルシウム3.9gを加えて十分に混合し、150μm以下に粉砕して触媒粉を得た。
【0050】
実施例2: 55.1Co3Y0.7Ba1.2Zr//40CaCO3
アンモニア分解触媒として、55.1Co3Y0.7Ba1.2Zr//40CaCO3の組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、各原料の添加量を、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3%)2.0g、硝酸バリウム0.2g、オキシ硝酸ジルコニウム水溶液(ジルコニウムを酸化物換算で25%含有)0.9g、塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:44.3%)17.9g、炭酸カルシウム7.8gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を得た。
【0051】
実施例3: 55.1Co3Y0.7Ba1.2Zr/40CaCO3
アンモニア分解触媒として、55.1Co3Y0.7Ba1.2Zr/40CaCO3の組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3%)2.6g、および硝酸バリウム0.3gをイオン交換水10gに溶解し、更にオキシ硝酸ジルコニウム水溶液(ジルコニウムを酸化物換算で25%含有)1.3gを混合して硝酸塩水溶液を得た。塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:44.3%)23.9gを磁製皿にとり、上記硝酸塩水溶液を加えて混合した後、更にそこへ炭酸カルシウム10.5gを加えて混合した。95℃設定の湯浴上にてスパチュラで混合物を適宜混合することにより濃縮ペースト状にした。得られたペーストを110℃の乾燥機に入れて乾燥し、乾燥物を得た。得られた乾燥物を焼成炉に入れ、200℃で2時間、更に600℃で2時間焼成した。得られた焼成物を150μm以下に粉砕して触媒粉を得た。得られた触媒粉のXRDスペクトルにより、カルシウム化合物として炭酸カルシウム、酸化カルシウム、及び水酸化カルシウムの存在が確認された。
【0052】
実施例4: 53.5Co3.8Y1Ba1.7Zr/40CaCO3
アンモニア分解触媒として、53.5Co3.8Y1Ba1.7Zr/40CaCO3の組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、各原料の添加量を、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3%)2.5g、硝酸バリウム0.3g、オキシ硝酸ジルコニウム水溶液(ジルコニウムを酸化物換算で25%含有)1.3g、塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:44.3%)17.4g、炭酸カルシウム7.8gに変更した以外は実施例3と同様の方法で、触媒を得た。
【0053】
実施例5: 44.7Co3.1Y0.8Ba1.4Zr/50CaCO3
アンモニア分解触媒として、44.7Co3.1Y0.8Ba1.4Zr/50CaCO3の組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、各原料の添加量を、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3%)2.0g、硝酸バリウム0.3g、オキシ硝酸ジルコニウム水溶液(ジルコニウムを酸化物換算で25%含有)1.1g、塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:44.3%)14.5g、炭酸カルシウム9.8gに変更した以外は実施例3と同様の方法で、触媒を得た。
【0054】
実施例6: 35.7Co2.5Y0.7Ba1.1Zr/60CaCO3
アンモニア分解触媒として、35.7Co2.5Y0.7Ba1.1Zr/60CaCO3の組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、各原料の添加量を、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3%)1.7g、硝酸バリウム0.2g、オキシ硝酸ジルコニウム水溶液(ジルコニウムを酸化物換算で25%含有)0.9g、塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:44.3%)11.6g、炭酸カルシウム11.8gに変更した以外は実施例3と同様の方法で、触媒を得た。
【0055】
実施例7: 48Co7.2Ce1.8Ba3Zr/40CaCO3
アンモニア分解触媒として、48Co7.2Ce1.8Ba3Zr/40CaCO3の組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、硝酸セリウム水溶液(セリウムを酸化物換算で25%含有)2.9gとオキシ硝酸ジルコニウム水溶液(ジルコニウムを酸化物換算で18%含有)1.7gを混合した。得られた硝酸塩水溶液に炭酸バリウム0.2gを添加して混合し、一部の炭酸バリウムを溶解させたスラリー溶液を調製した。塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:44.3%)8.0gを磁製皿にとり、上記スラリー溶液を添加してよく混合した。ここへ更に炭酸カルシウム4.0gを加えた後、95℃設定の湯浴上にてスパチュラで適宜混合しつつ濃縮ペーストを得た。以降、実施例3と同様の方法で触媒を得た。
【0056】
実施例8: 56Co8.4Ce2.1Ba3.5Zr/30CaCO3
アンモニア分解触媒として、56Co8.4Ce2.1Ba3.5Zr/30CaCO3の組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、各原料の添加量を、硝酸セリウム水溶液(セリウムを酸化物換算で25%含有)3.4g、オキシ硝酸ジルコニウム水溶液(ジルコニウムを酸化物換算で18%含有)1.9g、炭酸バリウム0.3g、塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:44.3%)9.3g、炭酸カルシウム3.0gに変更した以外は実施例7と同様の方法で、触媒を得た。
【0057】
実施例9: 49.2Co5.4Y3.6Sr1.8Zr/40CaCO3
アンモニア分解触媒として、49.2Co5.4Y3.6Sr1.8Zr/40CaCO3の組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、各原料の添加量を、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3%)5.9g、オキシ硝酸ジルコニウム水溶液(ジルコニウムを酸化物換算で18%含有)3.2g、硝酸ストロンチウム2.4g、塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:44.3%)26.5g、炭酸カルシウム13.0gに変更し、硝酸バリウムの代わりに硝酸ストロンチウムを添加した以外は実施例3と同様の方法で、触媒を得た。
【0058】
比較例1: 91.8Co5Y1.2Ba2Zr
アンモニア分解触媒として、91.8Co5Y1.2Ba2Zrの組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、各原料の添加量を、硝酸イットリウムn水和物(無水物含量:72.3%)3.3g、および硝酸バリウム0.4gをイオン交換水10gに溶解し、各原料の添加量を、オキシ硝酸ジルコニウム水溶液(ジルコニウムを酸化物換算で25%含有)1.6g、塩基性炭酸コバルト(II)(金属コバルト含量:44.3%)29.8gに変更し、炭酸カルシウムを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で、触媒を得た。
【0059】
比較例2: 73.4Co4Y1Ba1.6Zr//20Al2O3
アンモニア分解触媒として、73.4Co4Y1Ba1.6Zr//20Al2O3の組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、炭酸カルシウムの代わりに酸化アルミニウム3.9gを添加した以外は実施例1と同様の方法で、触媒を得た。
【0060】
比較例3: 73.4Co4Y1Ba1.6Zr//20SiO2
アンモニア分解触媒として、73.4Co4Y1Ba1.6Zr//20SiO2の組成を有する触媒を混練法により調製した。具体的には、炭酸カルシウムの代わりに酸化ケイ素3.9gを添加した以外は実施例1と同様の方法で、触媒を得た。
【0061】
比較例4: 73Co16Ce11Zr
特開2010-94668号公報の実施例12に従って、73Co16Ce11Zrの組成を有する触媒を共沈法にて調製した。
【0062】
比較例5: 5%Ru/Al2O3
ルテニウム含有率4.0質量%の硝酸ルテニウム水溶液12.5gを、γ-アルミナ粉体(BET比表面積103m2/g)10gに均一になるように含浸し、Ru換算で5質量%になるように調整後に120℃で乾燥した。その後、400℃で2時間焼成して触媒粉を得た。
【0063】
試験例1: アンモニア分解活性評価
実施例1~9および比較例1~5の触媒粉体を円筒状の筒に充填し、プレス機で押し固め成形した。プレス成形物を破砕して300~600μmに篩い分けて顆粒状としたものを評価用試料とした。得られた評価用試料0.6mLと石英砂0.9mLを予めよく混合してから、内径0.8cmの管型流通反応器に充填して触媒層とした。触媒層の上には、ガス予熱層として石英砂3.0gを更に充填した。
評価用試料を充填した管型流通反応器を管状炉内に設置し、管状炉の温度を窒素流通下で600℃に昇温した後、10容量%水素-90容量%窒素の混合ガスを反応器に1時間流通させることにより、触媒を水素還元処理に付した。
水素還元前処理を終えた後、反応器内に窒素ガスを短時間流通させて反応管内ガスを置換し、窒素ガスの供給を止め、各触媒の充填体積に対する100容量%アンモニアガスを170mL/分で供給した。背圧弁を用いて反応圧を0.9MPa(絶対圧)に昇圧してから、管状炉の温度を表1に示す温度に調整してアンモニア分解活性を測定した。反応器出口ガスには、水素、窒素および未反応のアンモニアが含まれ、未反応のアンモニアは硫酸水を使って捕捉した後、残りの水素と窒素からなるガスの流量を石鹸膜流量計で測定した。得られた測定値から、以下の計算式により分解率を算出した。結果を表1に示す。なお、表1中、「//」は炭酸カルシウム等を他の触媒成分の焼成後に添加したことを示し、「/」は炭酸カルシウム等を他の触媒成分と混合して焼成したことを示す。
アンモニア分解率(%)=[分解生成ガス(水素+窒素)量(L)/供給アンモニアガス量(L)×2]×100
【0064】
【0065】
表1に示される結果の通り、比較例1と比較して、実施例の各触媒は、炭酸カルシウムの配合によりアンモニア分解活性が大幅に低下することはなく、ほぼ維持されている。また比較例5に示す従来の貴金属触媒と比較して、実施例の卑金属触媒は明らかに優れた低温活性を有していることが認められた。
【0066】
試験例2: 強度測定
本発明に係る触媒の代表例として実施例1、3、7、9の触媒粉体と、比較例1~4の触媒を円柱状ペレットに成形して強度を測定した。具体的には、各々の触媒粉体に成形助剤と適量の純水を加え、ニーダーを用いて混練した後、直径5mm、長さ6mmの円柱状に押出成形し、120℃で乾燥した。次いで、実施例3および比較例1と同様に200℃で2時間、更に400℃で2時間焼成して強度試験用ペレットを得た。各ペレット触媒の400℃焼成品、および試験例1と同様に600℃で1時間水素還元処理した試料の円柱側面方向の強度を、木屋式硬度計で測定した。結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
表2に示される結果の通り、炭酸カルシウムを含まない各比較例触媒は、還元処理後に著しい強度低下を招いていることが観察できる。一方、実施例の各試料は、還元処理後も優れた強度を保持している。よって本発明に係るアンモニア分解触媒は、工業的なアンモニア分解に非常に適していることが実証された。