(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】工具経路の最適化装置及び最適化プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4093 20060101AFI20240402BHJP
B23Q 15/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
G05B19/4093 H
B23Q15/00 301J
(21)【出願番号】P 2022559075
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2021038961
(87)【国際公開番号】W WO2022091942
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020180565
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】井上 友貴
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-129141(JP,A)
【文献】特開2017-215675(JP,A)
【文献】特開2018-106417(JP,A)
【文献】特開2019-200661(JP,A)
【文献】国際公開第2015/099318(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/46
B23Q 15/00-15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも工具経路を含む入力データと、少なくとも評価項目及び重みを含む1つ以上の評価指標とが入力され、前記評価項目毎に前記工具経路を分析評価し、1つ以上の分析評価結果を出力する分析評価部と、
前記分析評価結果を、前記重みを考慮して正規化し、1つ以上の正規化した分析評価結果を出力する正規化部と、
判断基準が入力され、該判断基準と前記正規化した分析評価結果とに基づき経路調整の要不要を判断し、前記経路調整が必要と判断したときに、少なくとも前記正規化した分析評価結果、及び前記評価項目から選択された要調整項目のいずれかを含む判断結果を出力する判断部と、
前記判断結果に基づき、前記工具経路の経路調整を行い、少なくとも調整された工具経路を含む経路調整結果を前記分析評価部に出力する経路調整部と、
を備え、
前記分析評価部は、前記調整された工具経路に基づいて、再度分析評価を行い、分析評価結果を出力する、工具経路の最適化装置。
【請求項2】
前記入力データは、前記工具経路の他に、少なくとも、工具形状、加工形状、送り速度、寸法公差、幾何公差、及び表面粗さのいずれか又は複数を含む、請求項1に記載の最適化装置。
【請求項3】
前記分析評価部は、前記分析評価結果を、前記入力データから算出することで求める、請求項1又は請求項2に記載の最適化装置。
【請求項4】
前記重みは、前記評価項目の重要度を示す、請求項1から請求項3のいずれかに記載の最適化装置。
【請求項5】
前記判断部は、複数の前記正規化した分析評価結果の合算値が、前記判断基準を満たすかどうかにより、経路調整の要不要の判断を行う、請求項1から請求項4のいずれかに記載の最適化装置。
【請求項6】
前記判断部は、前記正規化した分析評価結果のそれぞれについて、前記判断基準を満たす合格項目を判断し、前記合格項目の数が一定の数を超えるかどうかにより、経路調整の要不要の判断を行う、請求項1から請求項4のいずれかに記載の最適化装置。
【請求項7】
前記判断部は、前記正規化した分析評価結果をそれぞれ比較し、前記正規化した分析評価結果の大小関係によって、前記評価項目から前記要調整項目を選択する、請求項1から請求項6のいずれかに記載の最適化装置。
【請求項8】
前記判断部は、前記経路調整が不要と判断したときに、少なくとも前記工具経路又は前記調整された前記工具経路を外部に出力する、請求項1から請求項7のいずれかに記載の最適化装置。
【請求項9】
コンピュータに、
少なくとも工具経路を含む入力データと、少なくとも評価項目及び重みを含む1つ以上の評価指標とが入力され、前記評価項目毎に前記工具経路を分析評価し、1つ以上の分析評価結果を出力する分析評価機能と、
前記分析評価結果を、前記重みを考慮して正規化し、1つ以上の正規化した分析評価結果を出力する正規化機能と、
判断基準が入力され、該判断基準と前記正規化した分析評価結果とに基づき経路調整の要不要を判断し、前記経路調整が必要と判断したときに、少なくとも前記正規化した分析評価結果、及び前記評価項目から選択された要調整項目のいずれかを含む判断結果を出力する判断機能と、
前記判断結果に基づき、前記工具経路の経路調整を行い、少なくとも調整された工具経路を含む経路調整結果を出力する経路調整機能と、
を実現させ、
前記分析評価機能は、前記調整された工具経路に基づいて、再度分析評価を行い、分析評価結果を出力する、工具経路の最適化プログラム。
【請求項10】
前記入力データは、前記工具経路の他に、少なくとも、工具形状、加工形状、送り速度、寸法公差、幾何公差、及び表面粗さのいずれか又は複数を含む、請求項9に記載の最適化プログラム。
【請求項11】
前記分析評価機能は、前記分析評価結果を、前記入力データから算出することで求める、請求項9又は請求項10に記載の最適化プログラム。
【請求項12】
前記重みは、前記評価項目の重要度を示す、請求項9から請求項11のいずれかに記載の最適化プログラム。
【請求項13】
前記判断機能は、複数の前記正規化した分析評価結果の合算値が、前記判断基準を満たすかどうかにより、経路調整の要不要の判断を行う、請求項9から請求項12のいずれかに記載の最適化プログラム。
【請求項14】
前記判断機能は、前記正規化した分析評価結果のそれぞれについて、前記判断基準を満たす合格項目を判断し、前記合格項目の数が一定の数を超えるかどうかにより、経路調整の要不要の判断を行う、請求項9から請求項12のいずれかに記載の最適化プログラム。
【請求項15】
前記判断機能は、前記正規化した分析評価結果をそれぞれ比較し、前記正規化した分析評価結果の大小関係によって、前記評価項目から前記要調整項目を選択する、請求項9から請求項14のいずれかに記載の最適化プログラム。
【請求項16】
前記判断機能は、前記経路調整が不要と判断したときに、少なくとも前記工具経路又は前記調整された前記工具経路を外部に出力する、請求項9から請求項15のいずれかに記載の最適化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工精度等の評価項目について工具経路を分析し、分析結果に基づいて、工具経路の調整を行って、工具経路の最適化を行う最適化装置及び最適化プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金型表面など、高品位な曲面加工において、滑らかな加工面を得るために、工具経路の最適化を行う最適化技術がある。
例えば、特許文献1には、ワーク(W)に対して回転工具(T)が相対移動しながらワーク(W)を加工するときの工具経路を評価する工具経路評価方法であって、予め定められた目標工具経路(R1)と、目標工具経路(R1)による加工前のワーク(W)の形状とに基づいて、工具回転軸線に交差する回転工具先端の底面部分(TB)における、目標工具経路(R1)による加工中にワーク(W)に実際に接触すると予測される接触領域(AT)の大きさを算出する算出工程と、目標工具経路(R1)の任意の場所において接触領域(AT)の大きさが予め定められた閾値を超える場合に、目標工具経路(R1)が不適切であると判定する判定工程と、を含む工具経路評価方法が記載されている。
【0003】
また特許文献2には、被加工物を加工する工作機械を制御する数値制御装置であって、始点と終点とを結ぶ工具の移動経路を生成する経路演算部と、工具が経路演算部によって生成された移動経路を移動する場合、工作機械の動作に関連する部品、治具、被加工物及び工具の間で干渉が生じるか否かを判定するための干渉チェックシミュレーションを行うシミュレーション演算部と、工作機械を制御するためのプログラムを移動経路をもとに生成する数値制御部とを有する数値制御装置が記載されている。そして、経路演算部は、干渉チェックシミュレーションの結果をもとに移動経路の修正が必要か否かを判定し、移動経路の修正が必要と判定した場合、移動経路を、工具が移動するときに部品、治具、被加工物及び工具が相互に干渉しない移動経路に修正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/037143号
【文献】国際公開第2019/082394号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工具経路の最適化を行うための評価指標の評価項目は様々ある。想定する複数の評価項目の全てを踏まえて、工具経路の最適化の必要性を判断することは困難である。また想定する複数の評価項目の中から、真に最適化すべき評価項目を判断する技術は知られていない。
よって、複数の評価項目を踏まえて工具経路の最適化の要不要を判断でき、真に最適化すべき評価項目について最適化を行うことができる、工具経路の最適化装置及び最適化プログラムが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本開示の第1の態様は、少なくとも工具経路を含む入力データと、少なくとも評価項目及び重みを含む1つ以上の評価指標とが入力され、前記評価項目毎に前記工具経路を分析評価し、1つ以上の分析評価結果を出力する分析評価部と、
前記分析評価結果を、前記重みを考慮して正規化し、1つ以上の正規化した分析評価結果を出力する正規化部と、
判断基準が入力され、該判断基準と前記正規化した分析評価結果とに基づき経路調整の要不要を判断し、前記経路調整が必要と判断したときに、少なくとも前記正規化した分析評価結果、及び前記評価項目から選択された要調整項目のいずれかを含む判断結果を出力する判断部と、
前記判断結果に基づき、前記工具経路の経路調整を行い、少なくとも調整された工具経路を含む経路調整結果を前記分析評価部に出力する経路調整部と、
を備え、
前記分析評価部は、前記調整された工具経路に基づいて、再度分析評価を行い、分析評価結果を出力する、工具経路の最適化装置である。
【0007】
(2) 本開示の第2の態様は、コンピュータに、
少なくとも工具経路を含む入力データと、少なくとも評価項目及び重みを含む1つ以上の評価指標とが入力され、前記評価項目毎に前記工具経路を分析評価し、1つ以上の分析評価結果を出力する分析評価機能と、
前記分析評価結果を、前記重みを考慮して正規化し、1つ以上の正規化した分析評価結果を出力する正規化機能と、
判断基準が入力され、該判断基準と前記正規化した分析評価結果とに基づき経路調整の要不要を判断し、前記経路調整が必要と判断したときに、少なくとも前記正規化した分析評価結果、及び前記評価項目から選択された要調整項目のいずれかを含む判断結果を出力する判断機能と、
前記判断結果に基づき、前記工具経路の経路調整を行い、少なくとも調整された工具経路を含む経路調整結果を出力する経路調整機能と、
を実現させ、
前記分析評価機能は、前記調整された工具経路に基づいて、再度分析評価を行い、分析評価結果を出力する、工具経路の最適化プログラムである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の各態様によれば、複数の評価項目を踏まえて工具経路の最適化の要不要を判断し、必要とされる場合にのみ工具経路の最適化を行うことができる。また、本開示の各態様によれば、真に最適化すべき評価項目について最適化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態の、工具経路の最適化装置を示すブロック図である。
【
図3】工具経路の調整前の最適化装置を用いた第1の例の経路調整判断結果を示す表を示す図である。
【
図4】工具経路の調整前の最適化装置を用いた第2の例の経路調整判断結果を示す表を示す図である。
【
図6】工具経路の調整後の最適化装置を用いた第1の例の経路調整判断結果を示す表を示す図である。
【
図7】工具経路の調整後の最適化装置を用いた第2の例の経路調整判断結果を示す表を示す図である。
【
図8】工具経路の最適化装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0011】
図1は本開示の一実施形態の、工具経路の最適化装置を示すブロック図である。
図2はカスプハイトを説明するための図である。
図3は工具経路の調整前の最適化装置を用いた第1の例の経路調整判断結果に関する表を示す図である。
図4は工具経路の調整前の最適化装置を用いた第2の例の経路調整判断結果に関する表を示す図である。
図5は工具経路の調整の一例を示す図である。
図6は工具経路の調整後の最適化装置を用いた第1の例の経路調整判断結果に関する表を示す図である。
図7は工具経路の調整後の最適化装置を用いた第2の例の経路調整判断結果に関する表を示す図である。
図1に示すように、工具経路の最適化装置10は、分析評価部11、正規化部12、判断部13及び経路調整部14を備えている。
【0012】
分析評価部11には、入力データと1つ以上の評価指標とが入力される。
入力データは、工具経路を少なくとも含むが、工具経路の他に、例えば、工具形状、加工形状、送り速度、寸法公差、幾何公差、表面粗さ等のいずれか又は複数を含んでもよい。工具形状は、工具経路上に工具を配置し、
図2に示すカスプハイトを算出するために用いられる。カスプハイトは、エンドミル等の工具100で加工をした面の凹凸の山の高さをいい、切削後の形状を求めるために用いられる。加工形状は工具経路と加工形状との距離の算出に用いられる。送り速度は加工時間を算出するために用いられる。寸法公差、幾何公差、表面粗さは分析評価の後述する目標値として用いられる。
評価指標は、一つ又は複数の評価項目と評価項目に対応する重みとを含み、評価項目は、例えば、加工精度、加工時間、エアカット距離、切削量等のいずれか又は複数であり、重みは各評価項目に対して設定される。
【0013】
分析評価部11は、入力された評価指標の評価項目ごとに、入力された工具経路を分析評価し、1つ以上の分析評価結果を出力する。
例えば、入力データとして、工具経路、加工形状、及び送り速度が分析評価部11に入力され、分析評価部11は、
図3及び
図4の表に示すように、加工精度として5μm、加工時間として90min、エアカット距離として10mm、切削量として10mm
3を計算する。これらの計算結果が分析評価結果となる。
加工精度は、工具経路による切削後の形状と加工形状との誤差を算出することで求められる。加工時間は、(工具経路の距離)/(送り速度)の式から算出される。エアカット距離は、素材を切削していない工具経路の距離を算出することで求められる。切削量は、工具経路と加工形状から切削する体積を算出することで求められる。
【0014】
正規化部12は、分析評価結果の種類の異なるデータを無次元化し、無次元化された値に重みを掛ける計算を行う。以下、この計算処理を正規化と呼び、正規化された値を正規化値と呼ぶ。正規化することで、単位又はスケール等が異なる分析評価結果を比較することが可能となる。種類の異なるデータを無次元化する処理は特に限定されないが、本実施形態では、正規化部12は、|分析評価結果-代表値|/(代表値)を求めて無次元化する。重みの大きさは、評価項目の重要度を決める。
【0015】
正規化の具体的な計算方法について
図3及び
図4を参照して説明する。ここでは代表値を目標値とし、目標値は、加工精度、加工時間、エアカット距離、切削量についてそれぞれ0.85μm、55min、7.5mm、9.091mm
3とする。これらの目標値は工具経路から算出される。重みは、加工精度、加工時間、エアカット距離、切削量についてそれぞれ0.5、0.3、0.15、0.05とする。重みはユーザが評価項目毎に設定する。
加工精度の正規化値は、計算式{(5μm-0.85μm)/(0.85μm)}×(0.5)により、2.4が求められる。
加工時間の正規化値は、計算式{(90min-55min)/(55min}×(0.3)により、0.2が求められる。
エアカット距離の正規化値は、計算式{(10mm-7.5mm)/(7.5mm}×(0.15)により、0.05が求められる。
切削量の正規化値は、計算式{(10mm
3-9.091mm
3)/(9.091mm
3}×(0.05)により、0.005が求められる。
【0016】
判断部13は、入力された判断基準と正規化した分析評価結果とに基づき、経路調整の要不要を判断する。以下、判断部13が、入力された判断基準と正規化した分析評価結果とに基づき経路調整の要不要を判断する例について説明する。
第1の例は、判断部13が、評価指標の複数の評価項目についての正規化値を合算し、得られた合算値を入力された判断基準値と比較し、工具経路の調整の要不要を判断する例である。
判断部13は、合算値が判断基準値以上であれば、工具経路の調整が必要ありと判断し、合算値が判断基準未満であれば、工具経路の調整が不要と判断する。
図3の表は第1の例を示し、判断部13は、加工精度、加工時間、エアカット距離、切削量についての正規化値2.4、0.2、0.05、0.005を合算した合算値2.455を、入力された判断基準値0.5と比較し、合算値2.455が判断基準値0.5以上であるため、工具経路の調整が必要ありと判断する。
【0017】
第2の例は、判断部13が、評価指標の複数の評価項目について正規化された値のそれぞれを、入力された判断基準値と比較し、判断基準値未満の評価項目を合格項目とし、合格項目の数によって、工具経路の調整の要不要を判断する例である。
判断部13は、合格項目の数が一定の数以下であれば工具経路の調整は必要ありと判断し、合格項目の数が一定の数を超えれば、工具経路の調整は不要と判断する。
図4の表は第2の例を示し、合格項目の数の基準となる一定の数は3つとし、判断部13は、加工精度、加工時間、エアカット距離、切削量についての正規化値2.4、0.2、0.05、0.005を入力された判断基準値0.5と比較し、加工時間、エアカット距離、切削量についての正規化値0.2、0.05、0.005が判断基準値0.5未満であって合格項目の数が3つで、合格項目の数が一定の数以下あるため、工具経路の調整が必要ありと判断する。
【0018】
判断部13は、評価指標の複数の評価項目について正規化された値のそれぞれを、入力された判断基準値と比較し、複数の評価項目の各評価項目について工具経路の調整の要不要を判断してもよい。
【0019】
判断部13は、工具経路の調整が必要ありと判断した場合は、正規化した分析評価結果をそれぞれ比較し、正規化した分析評価結果の大小関係によって、評価指標の評価項目から要調整項目を選択する。例えば、判断部13は、評価指標の評価項目の内、正規化値が大きい順から1つ又は複数の評価項目を要調整項目として選択する。
図3及び
図4の表に示す例では、判断部13は、評価指標の評価項目の内、正規化値が最も大きい評価項目である加工精度を要調整項目として選択している。
【0020】
判断部13は、経路調整が必要と判断したときに、正規化した分析評価結果、及び評価項目から選択された要調整項目のいずれかを含む判断結果を経路調整部14へ出力する。なお、判断部13は、要調整項目を出力しない場合には、要調整項目を選択しなくともよい。
判断部13は、判断結果に工具経路及び分析評価結果の一方又は両方を含めてもよい。経路調整部14での工具経路の調整で、工具経路が用いられ、及び/又は分析評価結果が用いられる場合があるからである。判断結果は、工具経路を含まなくともよく、その場合は、分析評価部11から後述する経路調整部14に工具経路を出力することができる。
【0021】
一方、判断部13は、経路調整が不要と判断した場合、工具経路又は経路調整部14で調整された工具経路を外部に出力する。なお、判断部13は工具経路又は調整された工具経路の他に、分析評価結果及び正規化された分析評価結果のうちの少なくとも一つを出力してもよい。判断部13は、分析評価結果及び正規化された分析評価結果のうちの少なくとも一つをユーザが認識できるように液晶表示装置等の表示装置に表示してもよい。
【0022】
経路調整部14は、判断結果に正規化された分析評価結果が含まれる場合は、正規化された値が大きい順から1つ又は複数の評価項目の分析評価結果が低減するように、工具経路の調整を行い、調整後の工具経路を分析評価部11に出力する。
例えば、
図3及び
図4に示す例では、経路調整部14は、正規化された値が最も大きい評価項目である加工精度の値が低減するように工具経路の調整を行う。
経路調整部14は、判断結果に要調整項目が含まれる場合は、要調整項目の分析評価結果が低減するように、工具経路の調整を行い、調整後の工具経路を分析評価部11に出力する。例えば、
図3及び
図4に示す例では、経路調整部14は、要調整項目が加工精度なので、加工精度の値が低減するように工具経路の調整を行う。
【0023】
工具経路の調整を行う場合、加工精度を向上させるには、工具経路に指令点を追加すればよく、加工時間を少なくするには、工具経路の指令点を削除したり、又は送り速度を速くすればよい。また、例えば、エアカット距離を短くするには、エアカット部を削減すればよく、切削量を少なくするにはピッチ(
図5に示す)を小さくしたり、又は工具経路の切り込み量を変更すればよい。
図5は、加工精度を向上させるために工具経路に指令点を追加した例を示している。
図5において、点線の矢印は工具100が往復する方向を示している。
図5に示すように、加工面に沿う工具100の工具経路の指令点を追加することで加工精度は向上する。ただし、工具の速度が出せずに加工時間は遅くなる傾向がある。
【0024】
分析評価部11は、入力された経路調整後の工具経路について、再度分析評価を行い、分析評価結果を正規化部12に出力する。正規化部12、判断部13、及び経路調整部14は再度の分析評価結果についても前述した動作を行う。
図6は工具経路の調整後の最適化装置を用いた第1の例の経路調整判断結果を示す表を示す図である。
図7は工具経路の調整後の最適化装置を用いた第2の例の経路調整判断結果を示す表を示す図である。
図6及び
図7に示すように、経路調整により、加工精度の分析評価結果は
図3及び
図4に示す5μmから1μmとなり加工精度は向上するが、加工時間の分析評価結果は
図3及び
図4に示す90minから100minとなり加工時間は長くなり、加工精度と加工時間の正規化値はそれぞれ、2.4、0.2から0.1、0.25となる。
図6及び
図7において、
図3及び
図4と変更された部分については太字四角で示している。
【0025】
第1の例においては、正規化された値の合算は、
図6に示すように、
図3に示す2.455から0.405となり、判断基準値0.5と比較し、合算値0.405が判断基準値0.5未満となり、判断部13は、これ以上の工具経路の調整は不要と判断する。
第2の例においては、合格項目の数は、
図7に示すように、3つから4つとなり、合格項目の数の基準となる一定の数である3つを超えているので、判断部13は、これ以上の工具経路の調整は不要と判断する。
そして、判断部13は工具経路を外部に出力する。前述したように、判断部13は工具経路の他に、分析評価結果及び正規化された分析評価結果のうちの少なくとも一つを出力してもよい。
【0026】
以上、工具経路の最適化装置10に含まれる機能ブロックについて説明した。
これらの機能ブロックを実現するために、工具経路の最適化装置10は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置を備えたコンピュータ等で構成される。また、工具経路の最適化装置は、最適化プログラム又はOS(Operating System)等の各種の制御用プログラムを格納したHDD(Hard Disk Drive)等の補助記憶装置及び、演算処理装置がプログラムを実行する上で一時的に必要とされるデータを格納するためのRAM(Random Access Memory)といった主記憶装置も備える。
【0027】
そして、工具経路の最適化装置において、演算処理装置が補助記憶装置から最適化プログラム又はOSを読み込み、読み込んだ最適化プログラム又はOSを主記憶装置に展開させながら、これらの最適化プログラム又はOSに基づいた演算処理を行なう。また、演算処理装置は、この演算結果に基づいて、各装置が備える各種のハードウェアを制御する。これにより、本実施形態の機能ブロックは実現される。つまり、本実施形態は、ハードウェアとソフトウェアが協働することにより実現することができる。
【0028】
次に、工具経路の最適化装置10の動作についてフローチャートを用いて説明する。
図8は工具経路の最適化装置の動作を示すフローチャートである。以下の説明では、判断部13は、評価指標の複数の評価項目についての正規化値を合算して合算値を計算し、計算した合算値を入力された判断基準値と比較し、工具経路の調整の要不要を判断する第1の例について説明する。最適化プログラムは
図8に示す各ステップを実行する。
【0029】
ステップS11において、分析評価部11は、入力された評価指標の評価項目ごとに、入力された工具経路を分析評価し、分析評価結果を正規化部12に出力する。
【0030】
ステップS12において、正規化部12は、分析評価結果の正規化、すなわち、分析評価結果の種類の異なるデータを無次元化し、無次元化された値に重みを掛ける計算を行う。例えば、正規化部12は、|分析評価結果-代表値|/(代表値)を求めて無次元化し、無次元化された値に(重み)を掛ける計算を行う。
【0031】
ステップS13において、判断部13は、評価指標の複数の評価項目について正規化された値の合算値を計算し、計算した合算値を入力された判断基準値と比較する。
【0032】
ステップS14において、工具経路の調整の要不要を判断する。判断部13は、合算値が判断基準値以上であれば、工具経路の調整の必要ありと判断してステップS15に移る。判断部13は、合算値が判断基準値未満であれば、工具経路の調整は不要と判断してステップS17に移る。
【0033】
ステップS15において、判断部13は、評価指標の評価項目の内、正規化された値が大きい順から1つ又は複数の評価項目を要調整項目として選択し、要調整項目を含む判断結果を経路調整部14に出力する。
【0034】
ステップS16において、経路調整部14は、要調整項目の分析評価結果が低減するように、工具経路の調整を行い、調整後の工具経路を分析評価部11に出力し、ステップS11に戻る。
【0035】
ステップ17において、判断部13は、工具経路を外部に出力し、処理を終了する。
【0036】
以上説明した、ステップS13において、判断部13は、評価指標の複数の評価項目について正規化された値のそれぞれを、入力された判断基準値と比較し、判断基準値未満の評価項目を合格項目の数によって、工具経路の調整の要不要を判断する第2の例を用いてもよい。
また、ステップS15において、判断部13は、要調整項目の代わりに又は要調整項目とともに正規化された分析評価結果を経路調整部14に出力してもよい。
さらに、ステップS16において、経路調整部14は、判断結果に、要調整項目の代わりに正規化された分析評価結果が含まれる場合は、正規化された値が最も大きい評価項目の分析評価結果が低減するように、工具経路の調整を行い、調整後の工具経路を分析評価部11に出力し、ステップS11に戻る。
【0037】
以上説明した実施形態によれば、複数の評価項目を踏まえて工具経路の最適化の要不要を判断し、必要とされる場合にのみ工具経路の最適化を行うことができる。また、真に最適化すべき評価項目について最適化を行うことができる。
【0038】
以上、本実施形態の工具経路の最適化装置について説明したが、本実施形態の工具経路の最適化装置は、工作機械の一部として若しくは工作機械とは別に設けられる数値制御装置、又は数値制御装置に加工プログラムを出力するCAM装置に設けることができる。本実施形態の工具経路の最適化装置は、数値制御装置及びCAM装置とは別に設けてもよい。
【0039】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。本実施形態の工具経路の最適化装置に含まれる各構成部は、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現することができる。また、上記の最適化装置に含まれる各構成部のそれぞれの協働により行なわれる最適化プログラムは、ソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより実現することができる。ここで、ソフトウェアによって実現されるとは、コンピュータがプログラムを読み込んで実行することにより実現されることを意味する。
【0040】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体は、例えば、磁気記録媒体(例えば、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、又はフラッシュROM、RAM(random access memory))である。
【0041】
上述した各実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0042】
本開示による工具経路の最適化装置及び最適化プログラムは、上述した実施形態を含め、次のような構成を有する各種各様の実施形態を取ることができる。
(1) 少なくとも工具経路を含む入力データと、少なくとも評価項目及び重みを含む1つ以上の評価指標とが入力され、前記評価項目毎に前記工具経路を分析評価し、1つ以上の分析評価結果を出力する分析評価部と、
前記分析評価結果を、前記重みを考慮して正規化し、1つ以上の正規化した分析評価結果を出力する正規化部と、
判断基準が入力され、該判断基準と前記正規化した分析評価結果とに基づき経路調整の要不要を判断し、前記経路調整が必要と判断したときに、少なくとも前記正規化した分析評価結果、及び前記評価項目から選択された要調整項目のいずれかを含む判断結果を出力する判断部と、
前記判断結果に基づき、前記工具経路の経路調整を行い、少なくとも調整された工具経路を含む経路調整結果を前記分析評価部に出力する経路調整部と、
を備え、
前記分析評価部は、前記調整された工具経路に基づいて、再度分析評価を行い、分析評価結果を出力する、工具経路の最適化装置。
【0043】
この工具経路の最適化装置によれば、複数の評価項目を踏まえて工具経路の最適化の要不要を判断し、必要とされる場合にのみ工具経路の最適化を行うことができる。また、真に最適化すべき評価項目について最適化を行うことができる。
【0044】
(2) 前記入力データは、前記工具経路の他に、少なくとも、工具形状、加工形状、送り速度、寸法公差、幾何公差、及び表面粗さのいずれかを含む、上記(1)に記載の最適化装置。
【0045】
(3) 前記分析評価部は、前記分析評価結果を、前記入力データから算出することで求める、上記(1)又は上記(2)に記載の最適化装置。
【0046】
(4) 前記重みは、前記評価項目の重要度を示す、上記(1)から上記(3)のいずれかに記載の最適化装置。
【0047】
(5) 前記判断部は、複数の前記正規化した分析評価結果の合算値が、前記判断基準を満たすかどうかにより、経路調整の要不要の判断を行う、上記(1)から上記(4)のいずれかに記載の最適化装置。
【0048】
(6) 前記判断部は、前記正規化した分析評価結果のそれぞれについて、前記判断基準を満たす合格項目を判断し、前記合格項目の数が一定の数を超えるかどうかにより、経路調整の要不要の判断を行う、上記(1)から上記(4)のいずれかに記載の最適化装置。
【0049】
(7) 前記判断部は、前記正規化した分析評価結果をそれぞれ比較し、前記正規化した分析評価結果の大小関係によって、前記評価項目から前記要調整項目を選択する、上記(1)から上記(6)のいずれかに記載の最適化装置。
【0050】
(8) 前記判断部は、前記経路調整が不要と判断したときに、少なくとも前記工具経路又は前記調整された前記工具経路を外部に出力する、上記(1)から上記(7)のいずれかに記載の最適化装置。
【0051】
(9) コンピュータに、
少なくとも工具経路を含む入力データと、少なくとも評価項目及び重みを含む1つ以上の評価指標とが入力され、前記評価項目毎に前記工具経路を分析評価し、1つ以上の分析評価結果を出力する分析評価機能と、
前記分析評価結果を、前記重みを考慮して正規化し、1つ以上の正規化した分析評価結果を出力する正規化機能と、
判断基準が入力され、該判断基準と前記正規化した分析評価結果とに基づき経路調整の要不要を判断し、前記経路調整が必要と判断したときに、少なくとも前記正規化した分析評価結果、及び前記評価項目から選択された要調整項目のいずれかを含む判断結果を出力する判断機能と、
前記判断結果に基づき、前記工具経路の経路調整を行い、少なくとも調整された工具経路を含む経路調整結果を出力する経路調整機能と、
を実現させ、
前記分析評価機能は、前記調整された工具経路に基づいて、再度分析評価を行い、分析評価結果を出力する、工具経路の最適化プログラム。
【0052】
この工具経路の最適化プログラムによれば、複数の評価項目を踏まえて工具経路の最適化の要不要を判断し、必要とされる場合にのみ工具経路の最適化を行うことができる。また、真に最適化すべき評価項目について最適化を行うことができる。
【0053】
(10) 前記入力データは、前記工具経路の他に、少なくとも、工具形状、加工形状、送り速度、寸法公差、幾何公差、及び表面粗さのいずれか又は複数を含む、上記(9)に記載の最適化プログラム。
【0054】
(11) 前記分析評価機能は、前記分析評価結果を、前記入力データから算出することで求める、上記(9)又は上記(10)に記載の最適化プログラム。
【0055】
(12) 前記重みは、前記評価項目の重要度を示す、上記(9)から上記(11)のいずれかに記載の最適化プログラム。
【0056】
(13) 前記判断機能は、複数の前記正規化した分析評価結果の合算値が、前記判断基準を満たすかどうかにより、経路調整の要不要の判断を行う、上記(9)から上記(12)のいずれかに記載の最適化プログラム。
【0057】
(14) 前記判断機能は、前記正規化した分析評価結果のそれぞれについて、前記判断基準を満たす合格項目を判断し、前記合格項目の数が一定の数を超えるかどうかにより、経路調整の要不要の判断を行う、上記(9)から上記(12)のいずれかに記載の最適化プログラム。
【0058】
(15) 前記判断機能は、前記正規化した分析評価結果をそれぞれ比較し、前記正規化した分析評価結果の大小関係によって、前記評価項目から前記要調整項目を選択する、上記(9)から上記(14)のいずれかに記載の最適化プログラム。
【0059】
(16) 前記判断機能は、前記経路調整が不要と判断したときに、少なくとも前記工具経路又は前記調整された前記工具経路を外部に出力する、上記(9)から上記(15)のいずれかに記載の最適化プログラム。
【符号の説明】
【0060】
10 工具経路の最適化装置
11 分析評価部
12 正規化部
13 判断部
14 経路調整部
100 工具