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特許7464767窒化アルミニウム系粉末及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム系粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20240402BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20240402BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240402BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240402BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C01B21/072 R
C08K3/28
C08L21/00
C08L83/04
C08L101/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023020939
(22)【出願日】2023-02-14
(62)【分割の表示】P 2019520205の分割
【原出願日】2018-05-17
(65)【公開番号】P2023065458
(43)【公開日】2023-05-12
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2017101283
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴雅
(72)【発明者】
【氏名】楠井 潤
(72)【発明者】
【氏名】中島 克己
(72)【発明者】
【氏名】東村 和哉
(72)【発明者】
【氏名】菅野 周平
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-119010(JP,A)
【文献】国際公開第2014/123247(WO,A1)
【文献】特開2018-048033(JP,A)
【文献】特開2010-105893(JP,A)
【文献】特開2004-182585(JP,A)
【文献】特開2007-284315(JP,A)
【文献】特開2000-016805(JP,A)
【文献】特開平01-182331(JP,A)
【文献】特開2016-037438(JP,A)
【文献】特開2013-060322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
C04B 35/58 - 35/582
C08K 3/28
C08L 21/00
C08L 83/04
C08L 101/00 - 101/16
DWPI(Derwent Innovation)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム系粒子からなる粉末であって、
(1)平均粒径D50が15~200μmであり、
(2)粒径5μm以下の粒子の含有量が個数基準で60%以下であり、
(3)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.1重量%以下であり、
(4)酸素含有量が0.2重量%以下であり、
(5)ケイ素含有量が1000重量ppm以下であり、鉄含有量が1000重量ppm以下であり、
(6)BET比表面積が0.05~0.1m/gである、
ことを特徴とする窒化アルミニウム系粉末。
【請求項2】
粒径5μmを超える粒子に粒径5μm以下の微細粒子が固着した凝集粒子を含む、請求項1に記載の窒化アルミニウム系粉末。
【請求項3】
粒径5μmを超える粒子に粒径1μm以下の微細粒子が固着した凝集粒子を含み、粒径5μmを超える粒子の片面に固着する微細粒子の平均個数が50個以下である、請求項1に記載の窒化アルミニウム系粉末。
【請求項4】
炭素含有量が0.1重量%以下である、請求項1に記載の窒化アルミニウム系粉末。
【請求項5】
フィラー用粉末として用いられる、請求項1に記載の窒化アルミニウム系粉末。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の窒化アルミニウム系粉末及び高分子材料を含む組成物。
【請求項7】
高分子材料がシリコーン系高分子材料である、請求項6に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム系粉末及びその製造方法に関する。特に樹脂等の高分子材料をベースとした放熱性のシート、グリース、接着剤、塗料等に用いられるフィラー用粉末として適した高放熱性・高熱伝導性の窒化アルミニウム系粒子群及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、タブレット等の電子製品の小型化・薄型化あるいは高機能化に伴って、そのコンピューターで使用されているIPU、集積回路等の高集積化の要請もますます高くなっている。このような高集積化が進めばそれだけ作動時の発熱量は増大するため、その放熱を効率良く行うことが必要となる。一般に、これら電子部品では、樹脂等の高分子材料を放熱部材として使用されているが、それ自体の熱伝導率は極めて低いことから、高熱伝導性のフィラーと複合化する必要がある。
【0003】
高熱伝導性のフィラーとして種々の材料が提案されているが、特に窒化アルミニウムは金属に近い高熱伝導率を有していることから、その焼結体が半導体の基板用として実用化されているほか、粉末形態で放熱用フィラーとしても使用されている。
【0004】
一般に、フィラーとして使用されている窒化アルミニウムは、平均粒径が1~100μm程度の窒化アルミニウム粉末であり、所望の熱伝導率を得るために樹脂中に充填率60体積%以上(特に70体積%以上)で配合することが望ましいとされている。また、より充填率を高めるため、異なる粒径分布のフィラーを組み合わせることも行われている。この場合、一般に10μm以上という大きな平均粒径をもつ窒化アルミニウム粉末は樹脂への充填性が優れていることから、微細な窒化アルミニウム粉末とともにフィラーとして重要な役割を果たす。
【0005】
このため、このような比較的大きな粒径をもつ窒化アルミニウム粉末については、これまでに様々な製造方法が提案されている。
【0006】
例えば、金属アルミニウム粉末30~80重量部と窒化アルミニウム粉末70~20重量部との合計100重量部からなる混合粉末をプレス造粒した混合造粒体を窒素を含む非酸化性雰囲気中800~1200℃で焼成した後、解砕及び分級することを特徴とする大粒径の窒化アルミニウム粉末の製造方法がある(特許文献1)。
【0007】
また例えば、多孔質アルミナ顆粒を、1450℃~1900℃の温度で焼成し、窒化アルミニウム含有量が50~90質量%となるまで窒化させる焼成工程Iと、上記焼成工程Iにおいて得られた粒子を、焼成工程Iよりも還元性ガスの濃度が高い雰囲気下で、1580℃~1900℃の温度で焼成し、窒化アルミニウム含有量が75~99質量%となるまで窒化させる焼成工程IIとを含むことを特徴とする、平均粒径が10~200μm、粒子の真球度が0.80以上である球状窒化アルミニウム系粒子であって、酸窒化アルミニウムを含むコアと、前記コアの表面に形成された厚さ2μm以上の窒化アルミニウムからなる表面層と、からなり、粒子中の窒化アルミニウム含有率が、75~99質量%、相対密度が85%以上である球状窒化アルミニウム系粒子の製造方法が知られている(特許文献2)。
【0008】
さらに、多孔質アルミナ顆粒を1400℃以上、1700℃以下の温度で還元窒化して多孔質窒化アルミニウム顆粒とする還元窒化工程と、上記還元窒化工程において得られた多孔質窒化アルミニウム顆粒を、1580℃以上、1900℃以下で焼結する焼結工程とを含むことを特徴とする窒化アルミニウム顆粒の製造方法もある(特許文献3)。
【0009】
別の方法として、例えば熱可塑性樹脂、窒化アルミニウム粉末及び焼結助剤を含有する樹脂組成物を押出成形してストランド状グリーン体に成形後、該ストランド状グリーン体を切断加工してグリーン片を得、次いで、得られたグリーン片を焼成することを特徴とする窒化アルミニウム焼結顆粒の製造方法が知られている(特許文献4)。
【0010】
また、2~30気圧の窒素雰囲気中で平均粒径10~250μmの金属アルミニウム粉末を燃焼合成反応により窒化することを特徴とする窒化アルミニウムの製造方法が知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平7-215707号公報
【文献】特開2016-37438号公報
【文献】特開2013-87042号公報
【文献】特開2013-60322号公報
【文献】特開2000-16805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1又は特許文献5のような方法では、粉体を得るための解砕工程に際して窒化アルミニウムの微粉が副生するが、そのような微粉は他の粒子に強固に付着しているために分級等によって取り除くことは困難である。そして、このような除去し切れない微粉が混入した窒化アルミニウム粉末は、樹脂に多量に混入することが困難となり、樹脂に対する充填率の向上が期待できなくなる。
【0013】
特許文献2~3の方法は、アルミナ顆粒(造粒物)を還元法により窒化アルミニウムを製造する方法であるが、アルミナ顆粒を完全に窒化アルミニウムに転化することは容易ではなく、実際的には窒化アルミニウム粒子中にアルミナが多少なりとも残存した状態になる。特に、大きな粒径をもつ窒化アルミニウム粉末を製造しようする場合、上記問題はより顕著化するおそれがある。アルミナが残存するということは酸素含有量が比較的高い窒化アルミニウム粉末となってしまう。しかも、これらの方法では、酸化処理が施されており、これも窒化アルミニウム粉末中の酸素含有量を増大させる一因となるおそれがある。窒化アルミニウムの酸素含有量が高くなる(すなわち熱伝導性の低いアルミナが残存する)と、それだけ熱伝導率が低下するおそれがあり、フィラーとしての機能も低下してしまうことになる。
【0014】
また、特許文献2~3の方法において、アルミナ顆粒中にバインダー樹脂、焼結助剤等の添加物が配合されると、これらの添加物中の成分(炭素、希土類元素等)が窒化アルミニウム粉末中に残存することになるため、窒化アルミニウムの本来の特性が十分に得られなくなるおそれがある。
【0015】
特許文献4のような方法では、比較的容易に大きな粒径をもつ窒化アルミニウムの顆粒をつくることができるが、イットリア等の焼結助剤自体が熱伝導性を下げる原因となり得る。また、原料として用いる窒化アルミニウム中にも不純物が含まれていれば、それも熱伝導性の向上を妨げる原因となる。
【0016】
従って、本発明の主な目的は、除去し切れない微粉が少なく、高分子材料への充填性に優れるとともに、熱伝導性にも優れた窒化アルミニウム系粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の製法により得られた窒化アルミニウム系粉末が特異な構成・特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、下記の窒化アルミニウム系粉末及びその製造方法に係る。
1. 窒化アルミニウム系粒子からなる粉末であって、
(1)平均粒径D50が15~200μmであり、
(2)粒径5μm以下の粒子の含有量が個数基準で60%以下であり、
(3)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.1重量%以下であり、
(4)酸素含有量が0.5重量%以下であり、
(5)ケイ素含有量が1000重量ppm以下であり、鉄含有量が1000重量ppm以下である、ことを特徴とする窒化アルミニウム系粉末。
2. 粒径5μmを超える粒子に粒径5μm以下の微細粒子が固着した凝集粒子を含む、
前記項1に記載の窒化アルミニウム系粉末。
3. 粒径5μmを超える粒子に粒径1μm以下の微細粒子が固着した凝集粒子を含み、粒径5μmを超える粒子の片面に固着する微細粒子の平均個数が50個以下である、前記項1に記載の窒化アルミニウム系粉末。
4. 炭素含有量が0.1重量%以下である、前記項1に記載の窒化アルミニウム系粉末。
5. BET比表面積が0.08~0.5m/gである、前記項1に記載の窒化アルミニウム系粉末。
6. 窒化アルミニウム系粉末を製造する方法であって、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.1重量%以下であり、b)酸素含有量が0.5重量%以下であり、c)ケイ素含有量が1000重量ppm以下であり、鉄含有量が1000重量ppm以下である窒化アルミニウム粉末原料を非酸化性雰囲気下1600~2000℃で熱処理する工程を含むことを特徴とする窒化アルミニウム系粉末の製造方法。
7. 窒化アルミニウム粉末原料が粉砕品である、前記項6に記載の製造方法。
8. 前記工程に先立って、当該窒化アルミニウム粉末原料を調製する工程として、アルミニウムと窒素ガスとを反応させて得られる反応物を粉砕することによって窒化アルミニウム粉末原料を得る工程をさらに含む、前記項6に記載の製造方法。
9. 前記項1~5のいずれかに記載の窒化アルミニウム系粉末及び高分子材料を含む組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、除去し切れない微粉が少なく、高分子材料への充填性に優れるとともに、熱伝導性にも優れた窒化アルミニウム系粉末を提供することができる。
【0020】
本発明の窒化アルミニウム系粉末によれば、高分子材料への充填性を妨げる微粉(特に粒径5μm以下の微細粒子)が低減されているので、高充填率で高分子材料に配合することができる結果、高い熱伝導性又は放熱性を発揮できる材料を提供することができる。また、本発明の窒化アルミニウム系粉末は、焼結助剤、有機バインダー等の添加剤によることなく、所望の粒子サイズに制御されているので、それらの添加剤を含む場合に比して窒化アルミニウム本来の特性をより確実に得ることができる。
【0021】
また、本発明の製造方法によれば、微粉を比較的多量に含む粉砕品を原料として用いても、所定の熱処理によって、微粉を大きな粒子に取り込んで実質的に固着又は一体化できる結果、効率良く微粉を減らすとともに大粒径の粒子からなる粉末を得ることができる。
【0022】
このような特徴をもつ本発明の窒化アルミニウム系粉末は、例えば高分子材料(合成樹脂等)をベースとした高熱伝導性の成型品のほか、グリース、接着剤、塗料等に用いられる高熱伝導性フィラー(フィラー用粉末)として好適に用いることができる。より具体的には、発熱する部品を搭載する機器(例えばIPU、集積回路、パワーモジュール、ディスプレイ、LEDライト、コンバータ、充電器等)のハウジング、シャーシ、基板、封止材、伝熱板、ヒートシンク材、その他の高熱伝導材料として、本発明の窒化アルミニウム系粉末又はそれを含む樹脂組成物を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1で得られた窒化アルミニウム粉末の粒子を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図1(a)は、熱処理前の粒子を示す。図1(b)は、熱処理後の粒子を示す。
図2】実施例1で得られた窒化アルミニウム粉末において、基材粒子表面に固着した微細粒子の個数を計測する様子を示す図である。
図3】比較例4で得られた窒化アルミニウム粉末において、基材粒子表面に固着した微細粒子の個数を計測する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.窒化アルミニウム系粉末
本発明の窒化アルミニウム系粉末(本発明粉末)は、窒化アルミニウム系粒子からなる粉末であって、
(1)平均粒径D50が15~200μmであり、
(2)粒径5μm以下の粒子が個数基準で60%以下であり、
(3)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.1重量%以下であり、
(4)酸素含有量が0.5重量%以下であり、
(5)ケイ素含有量が1000重量ppm以下であり、鉄含有量が1000重量ppm以下である、ことを特徴とする。
【0025】
本発明粉末の平均粒径D50は、15~200μmであり、好ましくは50~150μmである。平均粒径D50が15μm未満の場合は、高分子材料に対する充填性が低くなるおそれがある。また、平均粒径D50が200μmを超える場合は、樹脂等の高分子材料と混合した場合に高分子材料と分離することがある。
【0026】
また、本発明粉末において、粒径5μm以下の粒子の含有量が個数基準で60%以下であり、好ましくは55%以下である。上記含有量が60%を超えると、高分子材料への充填性が低下し、ひいては高い熱伝導性又は放熱性を有する組成物が得られなくなる。なお、上記含有量の下限値は、最も好ましくは0%であるが、通常は0.1%程度であれば良い。
【0027】
粒径5μm以下(特に粒径1μm以下)の微細粒子は、上記のように高分子材料に充填する際の障害となり、その量が多ければ所望の樹脂組成物等を調製することが困難である。このため、微細粒子を除去することが望まれるが、微細粒子は単独で存在せずに比較的大きな粒子に付着する傾向にある。このため、その微細粒子だけを分級等によって完全に分離することは困難であり、たとえ分離するにしても多大な手間とコストがかかる。これに対し、本発明粉末では、このような微細粒子が大幅に低減されている。これは、例えば本発明の製造方法によって得られる本発明粉末のように、微細粒子が別の粒子(特に粒径5μmを超える粒子)に固着又は一体化することによって、分離処理によることなく、微細粒子の含有量の低減化を図ることができる。このため、本発明粉末の特徴の一つとして、少なくとも、粒径5μmを超える粒子に粒径5μm以下の微細粒子が固着した凝集粒子が含まれることにある。この凝集粒子は、少なくとも高分子材料中でも実質的に1つの粒子として挙動し得るものであり、高分子材料への充填性等にも悪影響を及ぼさない。ここで、固着とは、微細粒子が他の粒子に引っ付いて固定されているが、その微細粒子の形態がなお確認できるような状態をいう。
【0028】
ただし、5μmを超える粒子(基材粒子)1個に対し、粒径5μm以下(好ましくは粒径1μm以下)の微細粒子が固着する個数が多くなると、樹脂等との混練中に微細粒子が基材粒子から脱落(分離)する個数が増加するおそれがあるため、基材粒子に固着している微細粒子の個数が少ないほど好ましい。特に、基材粒子に粒径1μm以下の微細粒子が固着した凝集粒子を含み、基材粒子に固着している粒径1μm以下の微細粒子数を電子顕微鏡等で観察した際、1つの基材粒子全体を一方向から見た時の視野内において、基材粒子に固着した微細粒子の平均個数(基材粒子1個当たりに存在する微細粒子の個数)が50個以下であることが望ましく、特に10個以下であることがより望ましい。その下限値は、小さくほど好ましく、例えば1個である。より具体的には、平均粒子径D50に対し、±15%の大きさの基材粒子(粒径が5μmを超えるもの)を任意で30個選出し、各基材粒子表面(1個の基材粒子全体を一方向から観察した時の視野内)に存在する1μm以下の微細粒子の個数を集計し、その基材粒子30個に存在する微細粒子の平均個数(基材粒子1個当たりに存在する微細粒子の個数)が50個以下であることが好ましく、特に1~10個であることがより好ましい。
【0029】
本発明粉末におけるアルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.1重量%以下であり、好ましくは0~0.05重量%である。上記含有量が0.1重量%を超えると、窒化アルミニウム本来の特徴(特に熱伝導性)が十分に得られなくなることがある。なお、上記含有量は、アルカリ土類金属元素及び希土類元素の合計含有量である。
【0030】
アルカリ土類金属元素としては、例えばカルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムの少なくとも1種が挙げられる。また、希土類元素としては、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジウム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムの少なくとも1種が挙げられる。従って、本発明粉末は、例えばイットリア等の焼結助剤又はその由来成分(特に上記元素)を含まないことも特徴の一つである。
【0031】
本発明粉末の酸素含有量は、通常0.5重量%以下であり、好ましくは0.2重量%以下である。酸素含有量が0.5重量%を超えると、熱伝導性が低下する。酸素含有量の下限値は、限定的でないが、通常は0.01重量%程度とすれば良い。
【0032】
本発明粉末の炭素含有量は、通常0.1重量%以下であり、好ましくは0.06重量%以下である。炭素含有量が0.1重量%を超えると、熱伝導性が低下するおそれがある。炭素含有量の下限値は、限定的でないが、通常0.005重量%程度とすれば良い。
【0033】
本発明粉末では、ケイ素含有量が1000重量ppm以下であり、鉄含有量が1000重量ppm以下である。なお、ケイ素含有量及び鉄含有量の下限は特に限定的でないが、精製によるコストの増大を避けるため、通常はいずれも100重量ppm程度とすれば良い。従って、本発明粉末の原料として、いわゆる直接窒化法により得られる窒化アルミニウム粉末を本発明粉末の原料として好適に用いることができる。より具体的には、アルミニウムと窒素ガスとを反応させて得られる反応物を粉砕することによって得られる窒化アルミニウム粉末を原料とすることができる。
【0034】
本発明粉末のBET比表面積が0.05~0.50m/gであることが好ましく、特に0.08~0.49m/gであることがより好ましい。従って、例えば0.05~0.1m/gに設定することもできる。この範囲内に設定することによって、樹脂等へ練り込んだ際の粘度上昇を効果的に抑えられる結果、高い充填率を得ることもできる。
【0035】
また、本発明では、高分子材料に対する充填性を示す指標として、高分子材料に本発明粉末を添加した際の混合物の粘度を用いることができる。
【0036】
第一には、高分子材料と本発明粉末との混合物において、一定の粘度に到達するまでに要する本発明粉末の配合量が比較的多い点が挙げられる。より具体的には、後記の試験例1(5-1)に示すように、シリコーンオイルに対して本発明粉末の添加量を増加させた場合に、その混合物の粘度が45~50Pa・s(25℃)の範囲内となった時点での本発明粉末の含有率(充填率)を指標とする。本発明では、その充填率は50体積%以上であることが好ましく、特に55体積%以上であることがより好ましく、さらには60体積%以上であることが最も好ましい。従来の微細粒子を含む窒化アルミニウム粉末では、その微細粒子が比較的多く存在するために比較的少量の添加で増粘されて上記一定の粘度に達してしまう。これに対し、本発明粉末では、上記一定の粘度に達するまでに50体積%
以上を配合することができる。すなわち、この数値は、高分子材料に対して高い充填性を発揮できることを示すものである。
【0037】
第二には、混合物中における本発明粉末の充填率を固定し、それにより得られた組成物の粘度を指標とするものである。後記の試験例1(5-2)に示すように、本発明では、シリコーンオイルとの混合物中における本発明粉末の充填率を50体積%及び60体積%と設定し、それぞれの粘度を特定している。本発明粉末では、充填率50体積%の粘度が25Pa・s以下であることが好ましく、特に8~22Pa・Sであることがより好ましい。同様に、本発明粉末では、充填率60体積%の粘度が45Pa・s以下であることが好ましく、特に25~36Pa・Sであることがより好ましい。このように、本発明粉末では、一定の充填率でも比較的低い粘度(すなわち比較的高い流動性)を維持することができる。
【0038】
2.窒化アルミニウム系粉末の製造方法
本発明粉末は、例えば窒化アルミニウム系粉末を製造する方法であって、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.1重量%以下であり、b)酸素含有量が0.5重量%以下であり、c)ケイ素含有量が0~1000重量ppmであり、鉄含有量が0~1000重量ppmである窒化アルミニウム粉末原料を非酸化性雰囲気下1600~2000℃で熱処理する工程(熱処理工程)を含むことを特徴とする窒化アルミニウム系粉末の製造方法によって好適に製造することができる。
【0039】
出発材料
本発明では、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.1重量%以下であり、b)酸素含有量が0.5重量%以下であり、c)ケイ素含有量が0~1000重量ppmであり、鉄含有量が0~1000重量ppmである窒化アルミニウム粉末原料を出発材料として用いる。
【0040】
このような粉末原料そのものは、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製法によって製造された窒化アルミニウム粉末も用いることができる。例えば、アルミナ粉末を還元することによって得られる窒化アルミニウム粉末(還元法による窒化アルミニウム粉末)、アルミニウム粉末を窒化することによって得られる窒化アルミニウム粉末(直接窒化法による窒化アルミニウム粉末)等をいずれも使用することができる。この中でも、比較的低コストで容易に窒化アルミニウム粉末を製造できるという点で直接窒化法による窒化アルミニウム粉末を好適に用いることができる。本発明では、直接窒化法は、金属アルミニウム粉末を窒素ガス中で1000℃以上に加熱する方法(狭義の直接窒化法)のほか、燃焼合成法も包含する。すなわち、金属アルミニウム粉末を燃焼合成反応により窒化する工程を含む方法により得られる窒化アルミニウム粉末も、窒化アルミニウム粉末原料として好適に用いることができる。
【0041】
本発明では、窒化アルミニウム粉末原料としては、粉砕品を好適に用いることができる。すなわち、合成された窒化アルミニウム粗粉末又は塊状物を機械的に粉砕することによって得られる粉砕品も好適に使用することができる。本発明の製造方法では、粉砕品のように、微細粒子(通常は粒径5μm以下、特に1μm以下)が含まれて、なおかつ、そのような微細粒子の一部又は全部が除去できない粉末から構成されている場合でも、より大きな粒子に微細粒子を特定の熱処理によって固着又は一体化させることにより、微細粒子による充填性の低下を効果的に抑制することができる。
【0042】
従って、本発明は、粉砕品である直接窒化法によって得られる窒化アルミニウム粉末を出発材料として好適に用いることができる。すなわち、本発明では、熱処理工程に先立ち、直接窒化法により出発材料を調製する工程を含む方法も包含する。より具体的には、本
発明は、熱処理工程に先立って、窒化アルミニウム粉末原料を調製する工程として、アルミニウムと窒素ガスとを反応させて得られる反応物を粉砕することによって窒化アルミニウム粉末原料を得る工程をさらに含む方法も包含する。
【0043】
窒化アルミニウム粉末原料の平均粒径D50は、特に限定されないが、通常は1~200μm程度とし、特に15~100μmとすることが好ましい。また、窒化アルミニウム粉末原料を構成する粒子の形状も、限定的ではなく、例えば球状、扁平状、不定形状等のいずれであっても良い。但し、粉砕品を用いることができるので、角張った不定形状を有する粒子からなる粉末も出発材料として好適に用いることができる。本発明の製造方法によれば、例えば図1に示すように、粉砕品に特徴的な角張った形状をもつ粒子(図1(a))も、その角部がとれた比較的滑らかな形状に変化する(図1(b))。すなわち、本発明粉末の特徴の一つとして、角部が丸みを帯びた形状を有する窒化アルミニウム系粒子から構成されていることを挙げることができる。これは、後記に示す熱処理工程により得ることができる。
【0044】
熱処理工程
熱処理工程では、上記のような窒化アルミニウム粉末原料を非酸化性雰囲気下1600~2000℃で熱処理する。
【0045】
熱処理温度は、通常は1600~2000℃程度とすれば良く、特に1650~1950℃とすることが好ましい。このような温度で熱処理することにより、より大きな粒子に微粉(特に粒径5μm以下の微細粒子)を効果的に固着又は一体化させることができる。同時に、角張った不定形状を有する粒子において、その角部がなくなって丸みを帯びた粒子とすることができる。熱処理雰囲気は、非酸化性雰囲気とすれば良く、例えば還元性雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空下等のいずれでも良い。熱処理時間は、通常は0.5~48時間の範囲内で適宜設定することができるが、これに限定されない。
【0046】
熱処理工程を実施した後、必要に応じて、分級等の処理を実施しても良いが、特に本発明では粉砕工程を行わないことが望ましい。粉砕工程で微粉が発生するため、粒度を調整するための粉砕は、熱処理工程前に行うことが望ましい。
【0047】
3.本発明粉末を含む組成物
本発明は、本発明粉末及び高分子材料を含む組成物(本発明組成物)を包含する。すなわち、高分子材料と、高熱伝導性フィラーとしての本発明粉末とを含む高熱伝導組成物も、本発明に含まれる。
【0048】
高分子材料としては、例えば樹脂、ゴム、エラストマー等を挙げることができる。より具体的には、樹脂成分として、例えばシリコーン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリブタジエン、フラン樹脂、ウレタン樹脂、アルキルベンゼン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和アルキド樹脂(グリプタル樹脂、不飽和アルコール変性フタル酸樹脂、イソフタル酸系樹脂、テレフタル酸系樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂)等が挙げられる。ゴムとしては、例えばフッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。エラストマーとしては、例えばスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられる。これらの高分子材料は、常温で液状であっても、固体であっても良い。これらの各高分子材料自体は、公知又は市販のものを採用することができる。
【0049】
これらの中でも、本発明粉末は、シリコーン樹脂等のシリコーン系高分子材料に対する
充填材(フィラー)として好適に用いることができる。シリコーン系高分子材料に対しては、より高い充填率をもって本発明粉末を配合することができる。
【0050】
また、本発明組成物では、本発明の効果を妨げない範囲において、本発明粉末以外の添加剤を配合することもできる。例えば、本発明粉末以外のフィラー、着色材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等が挙げられる。
【0051】
これらの各種材料に本発明粉末を含有させることによって、熱伝導性等に優れた樹脂組成物を調製することができる。この場合の本発明組成物中における本発明粉末の含有量は、特に限定されないが、通常は50体積%以上、特に60~90体積%、さらには80~95体積%という高充填率の組成物を製造することができる。かかる組成物(複合材料)は、本発明粉末が高い充填率で配合されることにより、優れた熱伝導性又は放熱性を発揮することができる。
【0052】
本発明粉末と高分子材料との混合は、均一に混合できる限り、いずれの方法を採用しても良い。例えば、ミキサー、ニーダー等の公知の混合機を用いて混合すれば良い。
【0053】
このようにして得られた本発明組成物は、さらに成形することによって成形体の形態で提供することもできる。成形方法は、特に限定されず、例えばプレス成形、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を採用することができる。
【0054】
本発明の成形体においても、特定の窒化アルミニウム系粉末(フィラー)が比較的均一に分散していることから、高い熱伝導性を得ることができる。そのため、例えば放熱用材料ないしは高熱伝導材料として各種の製品(電子機器、自動車部品、医療機器等)に幅広く用いることができる。特に、発熱する部品を搭載する機器の構成部材として好適に用いることができる。この場合、公知の放熱用材料又は高熱伝導材料と同様の条件で使用することで所望の効果を得ることができる。
【実施例
【0055】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0056】
実施例1
特開2000-16805号公報(特許文献5)の「実施例2」の「No.8」に記載の方法で窒化アルミニウムを得た後、ジョークラッシャー及びロールクラッシャーにより粒径約0.5mmの窒化アルミニウム粉末を調製した。得られた粉末をアルミナ製乳鉢で粉砕するに際し、その都度粒度を確認しながら粉砕を進めることによって、平均粒径D50:60μmの粉末を得た。これを窒化アルミニウム粉末原料として用いた。この粉末原料500gをカーボン容器に入れ、真空脱脂焼結炉(島津メクテム製)にて窒素雰囲気中1850℃で24時間熱処理した。冷却した後、前記焼結炉から窒化アルミニウム系粉末を取り出した。上記窒化アルミニウム粉末原料は、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.0重量%であり、b)酸素含有量が0.1重量%であり、c)ケイ素含有量が348重量ppmであり、鉄含有量が690重量ppmであった。
【0057】
実施例2
平均粒径D50:200μmに調整された窒化アルミニウム粉末原料を用いたほかは、実施例1と同様にして窒化アルミニウム系粉末を得た。上記窒化アルミニウム粉末原料は、上記窒化アルミニウム粉末原料は、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.0重量%であり、b)酸素含有量が0.1重量%であり、c)ケイ素含有量が348重量ppmであり、鉄含有量が690重量ppmであった。
【0058】
実施例3
平均粒径D50:30μmに調整された窒化アルミニウム粉末原料を用いたほかは、実施例1と同様にして窒化アルミニウム系粉末を得た。上記の窒化アルミニウム粉末原料は、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.0重量%であり、b)酸素含有量が0.1重量%であり、c)ケイ素含有量が348重量ppmであり、鉄含有量が690重量ppmであった。
【0059】
実施例4
熱処理温度を2000℃とし、熱処理時間を1時間としたほかは、実施例1と同様にして窒化アルミニウム系粉末を得た。
【0060】
実施例5
熱処理温度を1600℃としたほかは、実施例1と同様にして窒化アルミニウム系粉末を得た。
【0061】
実施例6
平均粒径D50:25μmに調整された窒化アルミニウム粉末原料を用い、熱処理温度を1710℃とし、熱処理時間を1時間としたほかは、実施例1と同様にして窒化アルミニウム系粉末を得た。上記窒化アルミニウム粉末原料は、上記窒化アルミニウム粉末原料は、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.0重量%であり、b)酸素含有量が0.1重量%であり、c)ケイ素含有量が348重量ppmであり、鉄含有量が690重量ppmであった。
【0062】
実施例7
平均粒径D50:15μmに調整された窒化アルミニウム粉末原料を用い、熱処理温度を1710℃とし、熱処理時間を1時間としたほかは、実施例1と同様にして窒化アルミニウム系粉末を得た。上記窒化アルミニウム粉末原料は、上記窒化アルミニウム粉末原料は、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.0重量%であり、b)酸素含有量が0.1重量%であり、c)ケイ素含有量が348重量ppmであり、鉄含有量が690重量ppmであった。
【0063】
比較例1
平均粒径D50:250μmに調整された窒化アルミニウム粉末原料を用いたほかは、実施例1と同様にして窒化アルミニウム系粉末を得た。上記窒化アルミニウム粉末原料は、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.0重量%であり、b)酸素含有量が0.1重量%であり、c)ケイ素含有量が348重量ppmであり、鉄含有量が690重量ppmであった。
【0064】
比較例2
平均粒径D50:5μmに調整された窒化アルミニウム粉末原料を用い、熱処理温度を1710℃とし、熱処理時間を1時間としたほかは、実施例1と同様にして窒化アルミニウム系粉末を得た。
【0065】
比較例3
熱処理温度を1500℃としたほかは、実施例1と同様にして窒化アルミニウム系粉末を得た。
【0066】
比較例4
実施例1における平均粒径D50:60μmに調整された窒化アルミニウム粉末原料を
熱処理することなく、そのまま評価に供した。
【0067】
比較例5
平均粒径D50:5μmに調整された窒化アルミニウム粉末原料を用いたほかは、実施例1と同様にして窒化アルミニウム系粉末を得た。上記窒化アルミニウム粉末原料は、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が0.0重量%であり、b)酸素含有量が0.1重量%であり、c)ケイ素含有量が348重量ppmであり、鉄含有量が690重量ppmであった。
【0068】
比較例6
窒化アルミニウム粉末原料として市販の窒化アルミニウム粉末(古河電子株式会社製「FAN-f80」、平均粒径D50:80μm)を用いた。上記窒化アルミニウムは、a)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が2.3重量%であり、b)酸素含有量が1.58重量%であり、c)ケイ素含有量が19重量ppmであり、鉄含有量が19重量ppmであった。
【0069】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた粉末について、下記に示す各物性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0070】
(1)粒度 D50
試料をマイクロトラックベル株式会社製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置「Microtrac MT3300EXII」で測定した。 分散材としてヘキサメタリン酸ナトリウム6%水溶液を分散剤として使用した。
【0071】
(2)組成・成分
(2-1)アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量
試料を11%水酸化ナトリウム水溶液とともに加圧容器内にて130℃で2時間に加熱することによって溶解させた。溶解させた水溶液を石英ビーカに回収し、20%塩酸を加え、200℃のホットプレート上で20分加熱してサンプル溶液を調製した。得られたサンプル溶液をサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製ICP発光分光分析装置「iCAP6500DuoView」にて分析した。
(2-2)酸素含有量
試料を堀場製作所製 酸素・窒素分析装置「EMGA-920」を用いて分析した。
(2-3)鉄含有量
試料を11%水酸化ナトリウム水溶液とともに加圧容器内にて130℃で2時間に加熱することによって溶解させた。溶解させた水溶液を石英ビーカに回収し、20%塩酸を加え、200℃のホットプレート上で20分加熱してサンプル溶液を調製した。得られたサンプル溶液をサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製ICP発光分光分析装置「iCAP6500DuoView」にて分析した。
(2-4)ケイ素含有量
試料を11%水酸化ナトリウム水溶液とともに加圧容器内にて130℃で2時間に加熱することによって溶解させた。溶解させた水溶液を石英ビーカに回収し、20%塩酸を加え、200℃のホットプレート上で20分加熱してサンプル溶液を調製した。得られたサンプル溶液をサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製ICP発光分光分析装置「iCAP6500DuoView」にて分析した。
(2-5)炭素含有量
試料を堀場製作所製 炭素・硫黄分析装置「EMIA-920V」を用いて分析した。
【0072】
(3)粒子の構成・構造
(3-1)粒径5μm以下の個数割合
走査型電子顕微鏡による観察によって粒子径を計測した。日本電子株式会社製「JSM-6510A」を用い、倍率1000倍において統計的に各粉末の特性を反映できる100個の粒子を観察した。
(3-2)固着粒子数
走査型電子顕微鏡による観察によって1個の基材粒子に固着した粒径1μm以下の個数を計測した。日本電子株式会社製「JSM-6510A」を用い、倍率100倍で観察し、次にその100倍の視野内の粒子を5000倍で観察した。対象粒子の最も長い径部分(最長径)を粒子の大きさとして計測し、平均粒子径D50に対し、±15%の大きさの粒子(粒径が5μmを超えるもの)を任意で30個選定し、基材粒子表面(1個の基材粒子全体を一方向から観察した時の視野内)に存在する1μm以下の微細粒子の個数を集計し、基材粒子30個に固着する微細粒子の平均個数(基材粒子1個当たりに固着している微細粒子の個数)を算出した。
例えば、図2に実施例1のサンプルの固着粒子数を計測する様子を示す。実施例1では、D50が60μmであるので、±15%の大きさの粒子は粒径51~69μmの範囲となる。その範囲の粒径をもつ1つの粒子として最長径59μmの粒子を選定し、その視野面で観察される微細粒子を○印でマーキングし、その個数を計測する。その結果、その視野面において1個の微細粒子が確認されているので、この基材粒子に固着した微細粒子の数は1個となる。同様にして合計30個の基材粒子について微細粒子の固着数を計測し、微細粒子の合計量を30で割ることによりその平均値を求める。
比較のため、図3に比較例4のサンプルの固着粒子数を計測する様子を示す。比較例4では、D50が60μmであるので、±15%の大きさの粒子は粒径51~69μmの範囲となる。その範囲の粒径をもつ粒子として最長径56μmの粒子を選定し、その視野面で観察される微細粒子を○印でマーキングし、その個数を計測する。その結果、その視野面に109個の微細粒子が確認されている。そのうえで実施例1の場合と同様にして合計30個の基材粒子について微細粒子の固着数を計測し、その平均値を求める。
【0073】
(4)BET比表面積
試料をマウンテック株式会社製「Mac Sorb HM model-1210」を用いて測定した。
【0074】
(5)高分子材料に対する充填特性
(5-1)充填率
各粉末を市販のシリコーンオイル「信越シリコーンKF-96-500cs」(信越化学工業株式会社製)と混合するに際し、各粉末の投入量を増やしながら、その混合物が一定の粘度になるまでの投入量を調べた。より具体的には、デジタル粘度計「DV-II+Pro」(ブルックフィールズ社製)50rpm(25℃)の条件で粘度45~50Pa・s(25℃)を基準粘度として設定した。投入量が多い粉末ほど、充填性に優れていることを示す。この場合、表1中において、混合物が固化した場合を「固化」、両者が分離した場合を「分離」と表記した。
(5-2)混合物の粘度
a)各粉末32.6gを秤量し、上記(5-1)と同じシリコーンオイル9.7gと混合した。攪拌機で3分混合することによって粘度評価用の試料を調製し、50vol%の評価試料とした。
b)各粉末47.2gを秤量し、上記(5-1)と同じシリコーンオイル9.4gと混合した。攪拌機で3分混合することによって粘度評価用の試料を調製し、60vol%の評価試料とした。
c)上記a)及びb)の粘度評価用試料0.7mlをシリンジで測り取り、上記(5-1)と同じデジタル粘度計にて粘度測定を行った。粘度は、試料温度25℃、回転数50rpmで測定した。粘度が低いほど、樹脂への充填性に優れていることを示す。この場合、表1中において、混合物が固化した場合を「固化」、両者が分離した場合を「分離」と表記した。
【0075】
【表1】
【0076】
表1の結果からも明らかなように、比較例1~5の窒化アルミニウム系粉末は、微粉が多いために高度な充填特性が得られないことがわかる。特に比較例4について、粒子に固着した粒径1μm以下の粒子が多い。粒径1μm以下の粒子はフィラーとして樹脂と混練する際、分離することで粘度の上昇を引き起こす。比較例6の市販品は、充填特性については良好であるものの、アルカリ土類金属元素及び希土類元素の含有量が高くなっている。これに対し、各実施例の窒化アルミニウム系粉末は、アルカリ土類金属元素及び希土類元素等の含有量が低く、なおかつ、微細粒子が比較的少ない、さらには、各実施例については、基材粒子に固着した粒径1μm以下の粒子は、熱処理時の物質拡散によって粒子内に取り込まれるため(一体化されているため)、固着した微細粒子数を減少させることができる結果、高分子材料に対する充填特性(充填率)を向上できることがわかる。

図1
図2
図3