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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】機能性原反
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/16 20060101AFI20240402BHJP
   D01F 6/04 20060101ALI20240402BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20240402BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20240402BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240402BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20240402BHJP
【FI】
D04B1/16
D01F6/04 Z
D04B21/16
A41D13/11 Z
A41D31/00 502C
A41D31/04 B
A41D31/04 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023526021
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 KR2021015309
(87)【国際公開番号】W WO2022092854
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】10-2020-0142417
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】チョン,イル
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン ウン
【審査官】中西 聡
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B、D01F、A41D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D1238にしたがって測定される溶融指数(MI)が0.1~5g/10minで、多分散指数(Polydispersity Index)が5超過12以下で、結晶化度が60~90%であるポリエチレン原糸を用いた編物からなり、面密度が100~800g/m、KS K ISO 12945-1:2014に規定されたピリングボックス法にしたがって回転数14,400回の条件で測定されるピリング抵抗性が4等級以上である、機能性原反。
【請求項2】
KS K 0560:2018 B法にしたがう保温率が30%以下である、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項3】
KS K 0693:2016したがう抗菌率が50%以上であり、ガス検知管法により30分~120分間で測定されたアンモニア消臭率が10~30%である、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項4】
KS K ISO 12947-2:2014に規定されたマーチンデール法(Martindale method)にしたがって測定される耐摩耗性が20,000サイクル以上である、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項5】
20±2℃、65±2%R.Hで測定された接触冷感が0.2W/cm以上であり、20℃での厚さ方向の熱伝導率(thermal conductivity)が0.1W/mK以上である、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項6】
前記ポリエチレン原糸は、密度が0.941~0.965g/cmであり、重量平均分子量が90,000~400,000g/molである、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項7】
前記ポリエチレン原糸は、ASTM D2256にしたがう初期モジュラス(initial modulus)が100~300g/d、および伸び率(elongation)が6~12%である、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項8】
前記ポリエチレン原糸は、引張強度が10~20g/dである、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項9】
前記ポリエチレン原糸は、円形断面を有する、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項10】
前記ポリエチレン原糸は、1~3デニールの繊度をそれぞれ有する25~500個のフィラメントを含み、総繊度が50~500デニール(denier)である、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項11】
水接触角が110°以上である、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項12】
洗濯機の標準コースにて洗濯および乾燥の過程を100回実施した後、KS K ISO 12945-1:2014に規定されたピリングボックス法にしたがい回転数14,400回の条件で測定されるピリング抵抗性が4等級以上である、請求項1に記載の機能性原反。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の機能性原反を含む冷感マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性原反に関する。より具体的には、皮膚刺激がなく、洗濯耐久性に優れ、抗菌性および消臭性に優れ、汗や吐く息(呼気)のように人体から発生する水分を迅速に排出し、熱を迅速に拡散させる機能性原反に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、COVID-19によりマスクの使用が急増しており、マスクの使用による副作用が発生している。
【0003】
マスクを長期にわたって着用するに伴い、吐く息によりマスクがじっとりと湿り、湿気および熱がまともに排出され得ないことから、暑く、かつ、息苦しさを感じるのであり、皮膚接触による皮膚トラブルが発生するという問題がある。
【0004】
綿からなるマスクの場合は、湿気や汗をよく吸収するものの、排出する機能が低いのであって、使用する間、呼吸により常に水分を含ませることになり、このため、バクテリアの生息に良い環境を提供し得る。また、水分や汗にさらされる際に、原反の機械的物性が急激に低下し、耐久性に問題が発生し得る。また、洗濯をすると、短繊維で構成された綿繊維が脱落または露出することにより起毛の形態で原反に存在することとなり、このため、空気層を形成して保温効果を発現したりもする。また、綿原反に特有の表面粗さにより、皮膚接触時に刺激が発生し得る。
【0005】
また、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維を不織布の原反にして製造したマスクが使用されているのであるが、不織布の場合は、短繊維からなるため、着用時に皮膚に刺激を与え、ちくちくする感じを与えることになる。また、洗濯をすると、マスクの機能性が低下し、短繊維が、脱落するか、または集合体から一部が抜け出て起毛の形態で存在し、かえって保温効果を与えることになる。したがって、洗濯が不可能であるか、または洗濯後に、機能性が大幅に低下することもあり、夏季に使用時に、かえって熱を閉じ込めることになることから、暑く、かつ、汗をかくのであり、皮膚に刺激を与えて皮膚のトラブルを引き起こすため、使い捨てで、一回の使用後に捨てられている。
【0006】
また、抗菌性、消臭性、および、皮膚トラブルの解消のために機能性添加剤を原反にコーティングまたは添加する場合、一時的な機能性を与えることはできるものの、長期の使用および洗濯後には、添加剤の機能が低下するか、または脱落して機能が持続し難いという問題がある。また、機能性添加剤の添加により原反の重量が増加するという問題が発生し得る。
【0007】
そこで、マスクに適用するための繊維原反としては、皮膚に直接に接触しても皮膚トラブルを発生せず、呼吸による吐く息や熱を迅速に排出して使用者が不便を感じないようにし、抗菌性および消臭性を与えるための別の添加剤を用いなくても、抗菌性および消臭性に優れている機能性原反が必要であるという状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の問題を解決するための本発明の一課題は、着用時に重量が軽く、乾燥された状態では皮膚に接触した際に軟らかい感触を提供し、汗や吐く息のように人体から発生する水分を迅速に排出し、熱を迅速に拡散および排出することができる機能性原反を提供しようとする。
【0009】
また、表面が滑らかであり、長繊維からなるため、人体に直接接触しても皮膚刺激がなく、別の添加剤を用いなくても原反自体に抗菌性および消臭性に優れた機能性原反を提供しようとする。
【0010】
また、編織して製造されることでさらに柔軟であり、軟らかい感触の機能性原反を提供しようとする。
【0011】
また、耐久性に優れ、長期的な使用および洗濯の後にも機能性を維持することができ、起毛が発生しないため、従来の洗濯後の保温効果によって再使用が不可能であるという問題を解決できる機能性原反を提供しようとする。
【0012】
また、上記で言及した機能性を与えるために、原反または繊維に別途の機能性添加剤を塗布または含浸させる必要がなく、原反自体が機能性を発現する機能性原反を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、上記の目的を達成するために研究を行った結果、溶融指数、多分散指数、および結晶化度が特定の範囲を満たすポリエチレン原糸を用いて編成(knitting)した原反を提供することで、上記の目的を全て達成できることを見出し、本発明を完成した。具体的には、汗や吐く息のように人体から発生する水分を迅速に排出し、熱を迅速に拡散および排出させ、湿気によるじめじめ感および熱感を解消することができるのであり、皮膚に直接に接触した際に感触が軟らかく、トラブルを発生させず、耐久性に優れ、洗濯後にも機能性が長期間維持できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明の一態様は、190℃、2.16kgで測定された溶融指数(MI)が0.1~5g/10minであって、多分散指数(Polydispersity Index)が5超過12以下であって、結晶化度が60~90%であるポリエチレン原糸を用いた編物からなり、水との接触角が110度以上であって、面密度が100~800g/mであって、KS K ISO 12945-1:2014に規定されたピリングボックス法にしたがい回転数14,400回の条件で測定されるピリング抵抗性(peeling resistance)が4等級以上である、機能性原反に関する。
【0015】
一態様として、前記原反は、KS K 0560:2018 B法にしたがう保温率が30%以下でありうる。
【0016】
一態様として、前記原反は、KS K 0693:2016にしたがう抗菌率が50%以上であり、ガス検知管法にしたがい30分~120分間で測定されたアンモニア消臭率が10~30%でありうる。
【0017】
一態様として、前記原反は、KS K ISO 12947-2:2014に規定されたマーチンデール法(Martindale method)にしたがって測定される耐摩耗性が20,000サイクル以上でありうる。
【0018】
一態様として、前記原反は、20±2℃、65±2%R.Hで測定された接触冷感が0.2W/cm以上であり、20℃で厚さ方向の熱伝導率(thermal conductivity)が0.1W/mK以上でありうる。
【0019】
一態様として、前記ポリエチレン原糸は、密度が0.941~0.965g/cmであり、重量平均分子量が90,000~400,000g/molでありうる。
【0020】
一態様として、前記ポリエチレン原糸は、ASTM D2256にしたがう初期モジュラス(initial modulus)が100~300g/d、および伸び率(elongation)が6~12%でありうる。
【0021】
一態様として、前記ポリエチレン原糸は、引張強度が10~20g/dでありうる。
【0022】
一態様として、前記ポリエチレン原糸は、円形断面を有しうる。
【0023】
一態様として、前記ポリエチレン原糸は、1~3デニールの繊度をそれぞれ有する25~500個のフィラメントを含み、総繊度が50~500デニール(denier)でありうる。
【0024】
一態様として、前記原反は、水接触角が110°以上でありうる。
【0025】
一態様として、前記原反は、洗濯機の標準コースで洗濯および乾燥過程を100回実施した後、KS K ISO 12945-1:2014に規定されたピリングボックス法にしたがい回転数14,400回の条件で測定されるピリング抵抗性が4等級以上でありうる。
【0026】
本発明の他の態様は、上述した一態様に係る機能性原反を含む冷感マスクに関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る機能性原反は、皮膚に直接に接触しても摩擦が少なく、皮膚刺激がなく、汗や湿気および吐く息などにより発生する水分を迅速に排出し、熱を外部に放出することができるため、じめじめ感および熱感を減少させるという効果がある。
【0028】
また、耐久性に優れ、ピリングが少なく発生し、耐摩耗性に非常に優れることから、洗濯後にも起毛が発生せず、洗濯後にも原反の損傷が少なく、持続的な機能性を維持することができ、製品の使用期間を増加させるという効果がある。
【0029】
また、公定水分率が0%の疎水性素材からなり、水分を追い出す特性を有し、乾燥が速く、バクテリアの生息環境を減少させて抗菌性および消臭性に優れるという長所がある。
【0030】
また、高結晶性の長繊維で編成することで、柔軟、かつ軟らかい感触の原反を提供することができ、着用時の重量が軽く着用感に優れるという効果がある。
【0031】
本発明に係る機能性原反は、これに制限されるものではないが、顔面マスクに好適に適用することができるのであり、この他にも、夏用の原反に好適に適用することができる。具体的に例を挙げると、布団、衣類、腕カバー、手袋、カバーといった夏季に皮膚に直接接触する用途に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態に係るポリエチレン原糸製造装置を概略的に示したものである。
図2】原反の接触冷感を測定する装置を概略的に示したものである。
図3】原反の厚さ方向の熱伝導率を測定する装置を概略的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0034】
他に定義しない限り、全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する当業者の1人により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。本発明の説明で用いられる用語は、単に特定の具体例を効果的に記述するためのものであって、本発明を制限しようとするものではない。
【0035】
また、明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる単数の形態は、文脈上、特に指示しない限り、複数の形態も含むことを意図し得る。
【0036】
また、ある部分がある構成要素を「含む」とする際、これは、特に反する記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0037】
[ポリエチレン原糸]
本発明の一態様において、ポリエチレン原糸は、190℃、2.16kgで測定された溶融指数(MI)が0.1~5g/10minであって、多分散指数(Polydispersity Index)が5超過12以下であって、結晶化度が60~90%でありうるのであり、前記物性を全て満たす範囲において、汗や吐く息などの水分および熱をより迅速に排出すべく原反の面密度を100~800g/mの範囲に高く製造しても、原反が軽く、耐久性に優れ、長期使用および洗濯の際にもピリングが発生せず、機能性を長期間維持することが可能な、洗濯耐久性に優れた原反を提供することができる。
【0038】
一態様として、前記ポリエチレン原糸は、190℃、2.16kgで測定された溶融指数(MI)が0.1~5g/10min、より好適には0.3~3g/10min、さらに好適には1~3g/10minでありうる。また、重量平均分子量が90,000~400,000g/mol、好適には100,000~400,000g/mol、より好適には300,000~350,000g/molでありうる。上記範囲にて、原糸の溶融押出時の溶融物の流動性が良く、熱分解の発生を防止し、延伸時に糸切れが発生しないなどの工程性が確保されることで均一な物性の原糸を製造することができるのであり、耐久性および洗濯耐久性に優れた原反を提供することができる。具体的に、KS K ISO 12945-1:2014に規定されたピリングボックス法にしたがい回転数14,400回の条件で測定される、ピリング抵抗性が4等級以上、より好適には4等級~5等級の原反を提供することができる。また、100回以上の洗濯後にも、ピリング抵抗性が4等級以上、より好適には5等級である原反を提供することができる。また、KS K ISO 12947-2:2014に規定されたマーチンデール法(Martindale method)により測定される耐摩耗性が20,000サイクル以上である原反を提供することができる。
【0039】
前記ピリング抵抗性および耐摩耗性が上記範囲を満たす範囲で、マスクなどの、皮膚に直接接触する原反に適用する際に皮膚トラブルが発生するのを防止することができるのであり、ピリングによる起毛現象を防止し、熱感が発生するのを防止することができる。より具体的に、KS K 0560:2018 B法に準じた保温率が30%以下、好適には5~30%の原反を提供することができる。
【0040】
また、密度が0.941~0.965g/cmであり、多分散指数(Polydispersity Index)が5超過12以下、より好適には5超過9以下である範囲を満たす高密度ポリエチレン(HDPE)を用いることで、溶融紡糸により結晶化度が60~90%の繊維を得ることができる。前記ポリエチレン原糸の結晶化度は、X線回折分析装置を用いた結晶性の分析の際に、微結晶の大きさとともに導出することができる。結晶化度が上記範囲を満たす範囲において、高密度ポリエチレン(HDPE)の共有結合により連結された分子鎖方向に「フォノン(phonon)」という格子振動(lattice vibration)により熱が迅速に拡散および発散され、汗および吐く息などの水分を排出する機能が向上し、着用感に優れた原反を提供することができる。より具体的に、20±2℃、65±2%R.Hにて測定された接触冷感が0.2W/cm以上であり、20℃での厚さ方向の熱伝導率(thermal conductivity)が0.1W/mK以上である原反を提供することができる。さらに具体的に、20±2℃、65±2%R.Hにて測定された接触冷感が0.2~0.8W/cmであり、20℃で、厚さ方向の熱伝導率(thermal conductivity)が0.1~0.3W/mKでありうる。
【0041】
前記ポリエチレン原糸は、溶融紡糸が可能であるため、公定水分率が0%と実質的に低く、優れた撥水性を有し、水接触角が110度以上、より好適には110~150度の物性を満たし、皮膚に直接接触時に水分を閉じ込めることなく直ちに排出し、これにより、バクテリアなどの生息環境を最小化することができ、別の添加剤を用いなくても原反自体が抗菌性および消臭性を有する。具体的に、KS K 0693:2016に準じた抗菌率が50%以上、具体的には50~90%であり、ガス検知管法により30分~120分間測定されたアンモニア消臭率が10~30%である原反を提供することができる。
【0042】
一態様として、前記原糸は、ASTM D2256に準じた初期モジュラス(initial modulus)が100~300g/d、好適には120~200g/d、および伸び率(elongation)が6~12%、好適には8~12%であり、引張強度が10~20g/d、好適には12~20g/dでありうる。これに制限されるものではないが、上記範囲を満たすことで、より柔軟であり、編成後に弾性および柔軟性をより与えることができ、優れた着用感を提供することができる。また、上記範囲にて、摩擦によりピリングが発生するのを最小化することができ、摩擦により原反が破損するのを防止することができるので好ましい。
【0043】
一態様として、前記原糸は、断面形態が、これに制限されるものではないが、円形断面を有することが好ましい。円形断面に製造されることで、水分が繊維の表面に吸着するのを最小化し、直ちに排出されるようにすることができるため、より抗菌性および消臭性に優れた原反を提供することができる。
【0044】
一態様として、前記原糸は、1~3デニールの繊度をそれぞれ有する25~500個のフィラメントを含み、総繊度が50~500デニール(denier)でありうる。上記範囲にて、原反が軽く、耐久性および洗濯耐久性に優れた原反を提供することができる。
【0045】
以下、図1を参照して、本発明の一態様に係るポリエチレン原糸の製造方法について具体的に説明する。本発明のポリエチレン原糸が、水の接触角、面密度、およびピリング抵抗性などについての、上述した物性の範囲を満たすものであれば、その製造方法に制限されないのであり、以下のものは一態様を説明するものである。
【0046】
先ず、チップ(chip)形態のポリエチレンを押出機(extruder)100に投入して溶融させることで、ポリエチレン溶融物を得る。
【0047】
溶融したポリエチレンが前記押出機100内のスクリュー(図示せず)により口金00を介して運搬されるのであり、前記口金200に形成された複数のホールを通じて押出される。前記口金200のホールの個数は、製造される原糸のDPF(denier Per Filament)および繊度に応じて決められうる。例えば、75デニールの総繊度を有する原糸を製造する場合、前記口金200は20~75個のホールを有してもよく、450デニールの総繊度を有する原糸を製造する場合、前記口金200は90~450個、好ましくは100~400個のホールを有してもよい。
【0048】
前記押出機100内における溶融工程および口金200を通じた押出工程は、ポリエチレンチップの溶融指数に応じて変更適用が可能であるが、具体的に例を挙げると、150~315℃、好ましくは250~315℃、より好ましくは265~310℃で行われてもよい。すなわち、押出機100および口金200が150~315℃、好ましくは250~315℃、より好ましくは265~310℃に維持されることが好ましい。
【0049】
前記紡糸温度が150℃未満である場合には、低い紡糸温度によりポリエチレンが均一に溶融しないため、紡糸が困難であり得る。これに対し、紡糸温度が315℃を超過する場合には、ポリエチレンの熱分解が引き起こされ、所望の強度を発現できないのであり得る。
【0050】
前記口金200におけるホールの直径(D)に対するホールの長さ(L)の比(L/D)は3~40でありうる。L/Dが3未満であれば、溶融押出時にダイスウェル(Die Swell)現象が発生し、ポリエチレンの弾性挙動の制御が難しくなることにより、紡糸性が不良となるのであり、L/Dが40を超過する場合には、口金200を通過する溶融ポリエチレンのネッキング(necking)現象による糸切れとともに、圧力降下による吐出不均一の現象が発生し得る。
【0051】
溶融したポリエチレンが口金200のホールから吐出され、紡糸温度と室温との差によりポリエチレンの固化が始まることで、半固化状態のフィラメント11が形成される。本明細書では、半固化状態のフィラメントは勿論のこと、完全固化したフィラメントをも、いずれも「フィラメント」と称する。
【0052】
複数の前記フィラメント11は、冷却部(または、「quenching zone」)300にて冷却されることで完全固化する。前記フィラメント11の冷却は、空冷方式で行われてもよい。
【0053】
前記冷却部300における前記フィラメント11の冷却は、0.2~1m/secの風速の冷却風を用いて、15~40℃に冷却されるように行われることが好ましい。前記冷却温度が15℃未満であれば、過冷却により伸度が不足し、延伸の過程で糸切れが発生し得るのであって、前記冷却温度が40℃超過であれば、固化の不均一によりフィラメント11同士の間の繊度の偏差が大きくなり、延伸の過程で糸切れが発生し得る。
【0054】
また、冷却部における冷却時に多段冷却を行うことで、より均一に結晶化が行われるようにすることができ、これにより、湿気および汗の排出をさらに円滑にし、抗菌性および消臭性に優れた原糸を製造することができる。より具体的に、前記冷却部は、3個以上の区間に分けられうる。例えば、3個の冷却区間からなる場合、第1冷却部から第3冷却部に行くほど、温度が次第に低くなるように設計されることが好ましい。具体的に例を挙げると、第1冷却部は40~80℃に設定され、第2冷却部は30~50℃に設定され、第3冷却部は15~30℃に設定されるのでありうる。
【0055】
また、第1冷却部における風速を最も高く設定することで、表面が、より滑らかな繊維を製造することができる。具体的に、第1冷却部は、0.8~1m/secの風速の冷却風を用いて40~80℃に冷却されるようにし、第2冷却部は、0.4~0.6m/secの風速の冷却風を用いて30~50℃に冷却されるようにし、第3冷却部は、0.2~0.5m/secの風速の冷却風を用いて15~30℃に冷却されるようにするのでありうる。このような条件に調節することで、結晶化度が、より高く、表面が、より滑らかな原糸を製造することができる。
【0056】
次に、集束機400により、前記冷却および完全固化がされたフィラメント11を集束させ、マルチフィラメント10を形成させる。
【0057】
図1に例示されているように、本発明のポリエチレン原糸は、直接紡糸延伸(DSD)の工程により製造されうる。すなわち、前記マルチフィラメント10が、複数のゴデットローラ部(GR1...GRn)を含む多段延伸部500に、直接に伝達され、2~20倍、好ましくは3~15倍の総延伸比で多段延伸された後に、ワインダ600に巻き取られうる。また、多段延伸時の最後の延伸区間では1~5%の収縮延伸(弛緩)を与えることで、耐久性に、より優れた原糸を提供することができる。
【0058】
代替選択的に(上記に代えて)、前記マルチフィラメント10を未延伸糸として一旦巻き取った後、前記未延伸糸を延伸することで、本発明のポリエチレン原糸が製造されてもよい。すなわち、本発明のポリエチレン原糸は、ポリエチレンを溶融紡糸することで未延伸糸を一旦製造した後に、前記未延伸糸を延伸する、2段階の工程により製造されてもよい。
【0059】
延伸工程に適用される総延伸比が2未満であれば、最終的に得られるポリエチレン原糸が60%以上の結晶化度を有することができず、前記原糸から製造される原反上に毛羽(ピリング)が誘発される危険がある。
【0060】
これに対し、前記総延伸比が15倍超過であれば、糸切れが発生する可能性があり、最終的に得られるポリエチレン原糸の強度が適したものとはならず、前記ポリエチレン原糸の製織性が不良であるだけでなく、それを用いて製造された原反が過度にごわごわになり、使用者が不便を感じうる。
【0061】
本発明の溶融紡糸の紡糸速度を決める最初のゴデットローラ部GR1の線速度が決められると、前記多段延伸部500において2~20の総延伸比、好ましくは3~15の総延伸比が前記マルチフィラメント10に適用できるように、残りのゴデットローラ部の線速度が適切に決められる。
【0062】
本発明の一実施形態によると、前記多段延伸部500のゴデットローラ部(GR1...GRn)の温度を、40~140℃の範囲で適宜に設定することで、前記多段延伸部500を通じてポリエチレン原糸の熱固定(heat-setting)が行われうる。具体的に例を挙げると、前記多段延伸部は、3個以上、具体的には3~5個の延伸区間からなるのでありうる。また、各延伸区間は、複数のゴデットローラ部からなるのでありうる。
【0063】
具体的に例を挙げると、前記多段延伸部は、4個の延伸区間からなりうるのであり、第1延伸区間~第3延伸区間にて7~15倍の総延伸比で延伸した後、第4延伸区間にて1~3%の収縮延伸(弛緩)を行うのでありうる。前記総延伸比は、延伸を行う前の繊維に対する、第1延伸区間から第3延伸区間を経た後の、繊維の最終延伸比を意味する。
【0064】
より具体的に、第1延伸区間は40~130℃で行われうるのであり、総延伸比が2~5倍でありうる。第2延伸区間は、前記第1延伸区間に比べて高い温度で行われうるのであり、具体的には100~150℃で行われうるのであり、総延伸比が5~8倍となるように延伸するのでありうる。第3延伸区間は100~150℃で行われうるのであり、総延伸比が7~15倍となるように延伸するのでありうる。第4延伸区間は、前記第2延伸区間と等しいかまたは低い温度で行われうるのであり、具体的には80~140℃で行われうるのであり、1~3%の収縮延伸(弛緩)を行うのでありうる。
【0065】
多段延伸部500により、前記マルチフィラメント10の多段延伸と熱固定とが同時に行われるのであり、多段延伸されたマルチフィラメント10がワインダ600に巻き取られることで、本発明のポリエチレン原糸が完成される。
【0066】
[機能性原反]
本発明の一態様において、機能性原反は、前述したポリエチレン原糸を単独で用いるのでありうるのであり、他の機能性をさらに与えるために異種原糸をさらに含みうるが、撥水性および熱感を防止する観点から、前記ポリエチレン原糸を単独で用いることが好ましい。
【0067】
また、本発明の一態様において、機能性原反は、編物であることが、柔軟性に優れ、面密度が増加しても織物に比べて軽量である原反を提供しうるのであり、マスクなどに適用した際に、長時間皮膚に接触しても皮膚トラブルの発生を防止することができるので、より好ましい。織物または不織布の場合、洗濯後に起毛が発生するか、または短繊維が抜け出て皮膚に刺激を加え得るため、本発明では、編物を用いることが好ましい。
【0068】
本発明の一態様に係る機能性原反は、水との接触角が110度以上、好適には130度以上、具体的には110~150度であり、面密度が100~800g/m、好適には150~800g/mであり、KS K ISO 12945-1:2014に規定されたピリングボックス法にしたがい回転数14,400回の条件で測定されるピリング抵抗性が4等級以上、好適には4~5等級であるという物性を同時に満たすことができ、上記範囲にて、汗および吐く息などの湿気と熱を迅速に排出し、長期的な洗濯後にも機能を維持できることを確認した。
【0069】
また、前記機能性原反は、KS K 0560:2018 B法にしたがう保温率が30%以下、好適には27%以下であり、別の抗菌剤を添加しなくてもKS K 0693:2016にしたがう抗菌率が50%以上、好適には50~70%であり、ガス検知管法により30分~120分間で測定されたアンモニア消臭率が10~30%であり、KS K ISO 12947-2:2014に規定されたマーチンデール法(Martindale method)にしたがい測定される耐摩耗性が20,000サイクル以上であり、20±2℃、65±2%R.Hで測定された接触冷感が0.2W/cm以上であり、20℃における厚さ方向の熱伝導率(thermal conductivity)が0.1W/mK以上であるという物性を、全て満たすことができる。上記範囲にて、目的とする物性を全て達成することができるので好ましい。
【0070】
また、本発明の一態様に係る機能性原反は、100回の洗濯後にも、その物性の維持率が70%以上、80%以上、より好適には90%以上を維持するのでありうる。
【0071】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例および比較例は、本発明をより詳細に説明するための1つの例示にすぎず、本発明が下記の実施例および比較例により制限されるものではない。
【0072】
物性は次のように測定した。
【0073】
<重量平均分子量(Mw)(g/mol)および多分散指数(PDI)>
ポリエチレン原糸を以下の溶媒に完全に溶解させた後、次のようなゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、前記ポリエチレン原糸の重量平均分子量(Mw)および多分散指数(Mw/Mn:PDI)を、それぞれ求めた。
【0074】
-分析機器:Tosoh社製のHLC-8321 GPC/HT
-カラム:PLgel guard(7.5×50mm)+2×PLgel mixed-B(7.5×300mm)
-カラム温度:160℃
-溶媒:トリクロロベンゼン(TCB)+0.04wt.%ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)(after drying with 0.1% CaCl
-Injector、Detector温度:160℃
-Detector:RI Detector
-流速:1.0ml/min
-注入量:300μ
-試料濃度:1.5mg/mL
-標準時料:ポリスチレン
【0075】
<引張強度(g/d)、初期モジュラス(g/d)、および伸び率(%)>
ASTM D2256の方法にしたがい、インストロン社製(Instron Engineering Corp、Canton、Mass)の万能引張試験機を用いて、ポリエチレン原糸の変形-応力曲線を得た。サンプルの長さは250mmであり、引張速度は300mm/minであり、初期ロード(load)は0.05g/dに設定した。破断点における応力および伸びから引張強度(g/d)および伸び率(%)を求め、前記曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から初期モジュラス(g/d)を求めた。それぞれの原糸ごとに5回測定した後、その平均値を算出した。
【0076】
<原糸の結晶化度>
XRD機器(X-ray Diffractometer)[製造会社:PANalytical社、モデル名:EMPYREAN]を用いて、ポリエチレン原糸の結晶化度を測定した。具体的に、ポリエチレン原糸を切断して2.5cmの長さを有するサンプルを準備し、前記サンプルをサンプルホルダーに固定させた後、以下の条件下で測定を行った。
【0077】
-光源(X-ray Source):Cu-Kα radiation
-電力(Power):45KV×25mA
-モード:連続スキャンモード
-スキャン角度範囲:10~40°
-スキャン速度:0.1°/sec
【0078】
<溶融指数>
ASTM D1238に準じて190℃、2.16kgで測定した。
【0079】
<水接触角>
動的水接触角試験機(Fibro社製、1100DAT)を用いて、シートの表面に蒸留水を4μL滴下させ、滴下して30秒後における水との接触角を測定した。
【0080】
<ピリング抵抗性>
マーチンデール試験機(Martindale tester)を用いて、KS K ISO 12945-1:2014に規定されたピリングボックス法にしたがい回転数14,400回の条件で原反のピリング抵抗性を測定した。ピリング抵抗性の等級基準は次のとおりである。
【0081】
-1等級:非常に激しいピリング
-2等級:激しいピリング
-3等級:中間程度のピリング
-4等級:若干のピリング
-5等級:ピリングが全くない
【0082】
<洗濯後の耐久性>
製造された原反について、洗濯機の標準コースで洗濯および乾燥の過程を100回実施した後、洗濯前の初期原反の物性と比較した。
【0083】
1)洗濯後のピリング抵抗性
100回の洗濯後に前記ピリング抵抗性テストを行った。
【0084】
2)洗濯後の保温性の変化
100回の洗濯後に前記保温性テストを行った。
【0085】
3)洗濯後の皮膚刺激
100回の洗濯後に前記皮膚刺激テストを行った。
【0086】
4)洗濯後の抗菌性の変化
100回の洗濯後に前記抗菌性テストを行った。
【0087】
<保温率>
韓国衣類試験研究院に依頼し、KS K 0560:2018 B法にしたがい保温率を測定した。
【0088】
<抗菌率>
韓国衣類試験研究院に依頼し、KS K 0693:2016にしたがい抗菌率(%)を測定した。
【0089】
試験菌種:Staphylococcus aureus ATCC 6538(黄色ブドウ球菌)
Klebsiella pneumonia ATCC 4352(肺炎桿菌)
接種菌液の濃度:黄色ブドウ球菌1.1×10CFU/mL
肺炎桿菌0.8×10CFU/mL
対照試料:標準綿布
非イオン界面活性剤:Tween 80、接種菌液の0.05%添加
【0090】
<消臭性>
韓国衣類試験研究院に依頼し、ガス検知管法によりアンモニア消臭率を評価した。
試験時間:30分、60分、90分、120分
【0091】
<試験条件>
試料量:10cm×10cm(2.0g)
試験ガス:アンモニア
注入された試験ガスの濃度:500μg/mL
容器の体積:1000mL
試験環境:温度20℃、湿度65%
【0092】
消臭率(%)=[(Blankのガス濃度-サンプルのガス濃度)/Blankのガス濃度]×100
【0093】
<皮膚刺激性>
原反を用いてマスクを製造した後、10代および20代の男女30名にマスクを8時間着用するようにした後、皮膚刺激を肉眼で判断した。
【0094】
吹き出物の発生、紅潮、および、ちくちくする程度を5点で評価し、平均値を求めた。
【0095】
1から5に行くほど、吹き出物の発生、紅潮、および、ちくちくが激しく発生することを意味する。
【0096】
<接触冷感>
韓国衣類試験研究院に依頼し、KES-F7(Thermo Labo II)装置を用いて、試験環境20±2℃、65±2%R.Hで測定した。
【0097】
具体的に、20cm×20cmのサイズの原反サンプルを準備した後、20±2℃の温度および65±2%のRHの条件下で、24時間放置した。次に、20±2℃の温度および65±2%のRHのテスト環境で、KES-F7 THERMO LABOII(Kato Tech Co.,LTD.)装置を用いて、原反の接触冷感(Qmax)を測定した。具体的に、図2に例示されているように、20℃に維持されるベースプレート(「Water-Box」とも称する)21上に、前記原反サンプル23を載せ、30℃に加熱されたT-ボックス(Box)22a(接触面積:3cm×3cm)を、前記原反サンプル23上に1秒間だけ載せた。すなわち、一面がベースプレート21と接触している前記原反サンプル23の他面を、T-ボックス22aに瞬間的に接触させた。前記T-ボックス22aにより、前記原反サンプル23に加えられた接触圧力は6gf/cmであった。次に、前記装置に連結されたモニタ(図示せず)に表示されたQmax値を記録した。このようなテストを10回繰り返し、Qmax値の算術平均を算出した。
【0098】
<熱伝導率>
20cm×20cmサイズの原反サンプルを準備した後、20±2℃の温度および65±2%のRHの条件下で24時間放置した。次に、20±2℃の温度および65±2%のRHのテスト環境で、KES-F7 THERMO LABOII(Kato Tech Co.,LTD.)装置を用いて、原反の熱伝導率および熱伝達係数を求めた。具体的に、図3に例示されているように、20℃に維持されるベースプレート21上に前記原反サンプル23を載せ、30℃に加熱されたBT-ボックス22b(接触面積:5cm×5cm)を、前記原反サンプル23上に1分間載せた。前記BT-ボックス22bが前記原反サンプル23と接触する間にもその温度が30℃に維持できるように、前記BT-ボックス22bに熱が持続的に供給された。前記BT-ボックス22bの温度を維持するために供給された熱量[すなわち、熱流損失(heat flow loss)]が、前記装置に連結されたモニタ(図示せず)に表示された。このようなテストを5回繰り返し、熱流損失の算術平均を算出した。次に、原反の熱伝導率および熱伝達係数を以下の式2および式3を用いて算出した。
【0099】
式2:K=(W・D)/(A・ΔT)
式3:k=K/D
【0100】
ここで、Kは、熱伝導率(W/cm・℃)であり、Dは、原反サンプル23の厚さ(cm)であり、Aは、前記BT-ボックス22bの接触面積(=25cm)であり、Δは、原反サンプル23の両面の温度差(=10℃であり、Wは、熱流損失(Watt)であり、kは、熱伝達係数(W/cm・℃)である。
【0101】
<耐摩耗性>
マーチンデール試験機(Martindale tester)を用いて、KS K ISO 12947-2:2014に規定されたマーチンデール法(Martindale method)にしたがい原反の耐摩耗性を測定した。具体的に、原反における2本の糸が切れるまでの回数(cycles)を測定した。
【0102】
[実施例1]
<ポリエチレン原糸の製造>
図1に例示された装置を用いて、200個のフィラメントを含み、総繊度が150デニールであるポリエチレン原糸を製造した。
【0103】
具体的に、0.960g/cmの密度、328,000g/molの重量平均分子量(Mw)、7.8の多分散指数(PDI)、および1.5g/10minの溶融指数(MI at 190℃)を有するポリエチレンチップを、押出機100に投入して溶融させた。溶融したポリエチレンは、200個のホールを有する口金200を通じて押出された。口金200のホールにおける直径(D)に対するホールの長さ(L)の比(L/D)は6であった。口金の温度は270℃であった。
【0104】
口金200のノズルホールから吐出されることで形成されたフィラメント11は、3個の区間からなる冷却部300にて順次にて冷却された。第1冷却部では0.9m/secの風速の冷却風により50℃に冷却され、第2冷却部では0.5m/secの風速の冷却風により35℃に冷却され、第3冷却部では0.4m/secの風速の冷却風により25℃に最終冷却された。冷却後、集束機400によりマルチフィラメント糸10に集束された。
【0105】
次に、前記マルチフィラメント糸が延伸部500に移動した。前記延伸部は、4個の区間からなる多段延伸部からなり、具体的に、第1延伸区間は、最大延伸温度100℃で3倍の総延伸比で延伸され、第2延伸区間は、最大延伸温度140℃で8倍の総延伸比で延伸され、第3延伸区間は、最大延伸温度130℃で10倍の総延伸比で延伸され、第4延伸区間は、最大延伸温度120℃で第3延伸区間に比べて2%の収縮延伸(弛緩)が行われるようにして、延伸および熱固定がされた。
【0106】
次に、前記延伸されたマルチフィラメント糸は、ワインダ600に巻き取られた。巻き取り張力は0.8g/dであった。
【0107】
製造された原糸の物性を測定して下記表1に示した。
【0108】
<機能性原反の製造>
上記で製造されたポリエチレン原糸を用いて編成を行って編物を製造した。製造された編物原反の物性を測定して下記表3に示した。
【0109】
[実施例2~7]
下記表1のように条件を変更したことを除いては、実施例1と同様に製造した。
【0110】
また、実施例1と同様に製造された原反の物性を測定して、下記表3に示した。
【0111】
[比較例1~3]
下記表2のように条件を変更したことを除いては、実施例1と同様に製造した。
【0112】
また、実施例1と同様に製造された原反の物性を測定して、下記表4に示した。
【0113】
[比較例4]
前記実施例1と同様の原料を用いて同様に製造するにあたり、冷却工程および延伸工程の条件を下記のように変更した。
【0114】
冷却工程時に、冷却部300にて0.5m/secの風速の冷却風により25℃に最終冷却され、集束機400によりマルチフィラメント10に集束され、多段延伸部500に移動した。
【0115】
延伸工程時に総1個の区間からなる延伸区間にて延伸を行った。前記延伸区間は、総5段のゴデットローラ部で構成され、前記ゴデットローラ部の温度は80~125℃に設定されるが、後段のゴデットローラ部の温度は、直前の段のゴデットローラ部の温度よりも高く設定された。7.5の総延伸比で延伸を行った。
【0116】
製造された原反の物性を測定して下記表4に示した。
【0117】
[比較例5]
前記実施例1と同様の原料を用いて同様に製造するにあたり、第1~第4延伸区間の延伸温度を、140℃で行ったことを除いては、実施例1と同様に製造した。
【0118】
また、実施例1と同様に製造された原反の物性を測定して、下記表4に示した。
【0119】
[比較例6]
前記実施例1と同様の原料を用いて同様に製造するにあたり、第1~第2延伸区間の延伸温度を120℃、第3~第4延伸区間の延伸温度を80℃で行ったことを除いては、実施例1と同様に製造した。
【0120】
また、実施例1と同様に製造された原反の物性を測定して、下記表4に示した。
【0121】
[比較例7]
下記表2のように条件を変更したことを除いては、比較例4と同様に製造した。
【0122】
また、実施例1と同様に製造された原反の物性を測定して下記表4に示した。
【0123】
[比較例8]
下記表2のように条件を変更したことを除いては、実施例1と同様に製造した。
【0124】
また、実施例1と同様に製造された原反の物性を測定して、下記表4に示した。
【0125】
[比較例9]
円形断面のレーヨン原糸を用いて前記実施例1と同様の方法で編物の原反を製造した後、原反の物性を評価した。接触冷感が0.085W/cmと非常に低く、熱伝導率が0.0260W/mKと実施例に比べて低いことを確認した。また、皮膚刺激性が4等級と良くなく、洗濯後の皮膚刺激性がさらに悪いことを確認した。
【0126】
[比較例10]
円形断面のポリエチレンテレフタレート原糸を用いて、前記実施例1と同様の方法で編物原反を製造した後、原反の物性を評価した。接触冷感が0.119W/cmと低く、熱伝導率が0.1109W/mKと、実施例に比べて低いということを確認した。また、皮膚刺激性が3等級と良くなく、洗濯後の皮膚刺激性がさらに悪いということを確認した。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
前記表3~表4を参照すると、本発明に係る機能性原反は、優れた冷感性を有するとともに、皮膚刺激性が非常に低いことを確認することができた。また、耐久性に優れ、ピリングが少なく発生し、耐摩耗性に非常に優れることから洗濯後にも起毛が発生せず、洗濯後にも原反の損傷が少なく、持続的な機能性を維持可能であることを確認することができた。さらに、高い抗菌性を有することを確認することができた。
【0132】
以上、特定の事項と限定された実施例および図面により本発明を説明したが、これは、本発明の、より全般的な理解のために提供されたものにすぎず、本発明は上記の実施例に限定されない。本発明が属する分野における通常の知識を有する者であれば、このような記載から、多様な修正および変形が可能である。
【0133】
したがって、本発明の思想は、説明された実施例に限定されて決まってはならず、後述の特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的変形を有するものは、いずれも本発明の思想の範囲に属するといえる。
図1
図2
図3