(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
B25J13/08 A
(21)【出願番号】P 2023536328
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2021016401
(87)【国際公開番号】W WO2021220949
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2020079172
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】並木 勇太
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-155285(JP,A)
【文献】特公平7-117372(JP,B2)
【文献】特開2005-334957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接配置される第1ワークおよび第2ワークの少なくとも一方を把持するロボットと、
前記第1ワークと前記第2ワークとの境界を挟んだ両側の前記第1ワークおよび前記第2ワークの表面に、前記境界に交差する平面に沿ってスリット状の光を照射する照明装置と、
前記第1ワークの前記表面に形成される前記光の第1線像および前記第2ワークの前記表面に形成される前記光の第2線像を含む画像を、前記平面に対して傾斜する方向から撮影するカメラと、
該カメラにより取得された前記画像における前記第1線像に対する前記第2線像のずれ量およびずれ方向に基づいて、前記ロボットを作動させ、前記第1ワークの前記表面と前記第2ワークの前記表面との段差を補正するロボット制御装置とを備えるロボットシステム。
【請求項2】
前記カメラが2次元画像を取得し、
前記ロボット制御装置が、取得された前記2次元画像の前記境界の位置における前記第1線像と前記第2線像との前記ずれ量に対応するピクセル数に応じた補正量だけ、前記ロボットを作動させる請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記ロボット制御装置が、正の小数を乗算した前記ピクセル数に基づいて、前記補正量を算出する請求項2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記照明装置と前記カメラとが予めキャリブレーションされており、
前記カメラが2次元画像を取得し、
前記ロボット制御装置が、取得された前記2次元画像内の前記第1線像および前記第2線像に基づいて、前記2次元画像の前記境界の位置における前記第1線像と前記第2線像との3次元的なずれを算出し、算出された前記3次元的なずれに基づいて算出される補正量だけ、前記ロボットを作動させる請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項5】
前記ロボット制御装置が、前記補正後における前記第1線像と前記第2線像との前記ずれ量が、予め設定された閾値よりも小さくなるまで、前記補正を繰り返す請求項1から請求項4のいずれかに記載のロボットシステム。
【請求項6】
前記ロボット制御装置が、前記第1線像に対する前記第2線像の傾きに基づいて、前記第1ワークの前記表面と前記第2ワークの前記表面との傾きを補正する請求項1から請求項5のいずれかに記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボットシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一対の板材の角継手溶接において、溶接線に直交するスリット状のレーザ光を斜め上方から両板材に照射し、投影された線像および両板材の交差角度と厚さとに基づいて、溶接トーチの最適位置を決定する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の溶接トーチ位置の決定方法は、溶接トーチの最適位置を決定するものであるため、板材の位置がずれている場合などには、適切な溶接を行うことができない。
したがって、一対のワークのずれを適正に補正することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、隣接配置される第1ワークおよび第2ワークの少なくとも一方を把持するロボットと、前記第1ワークと前記第2ワークとの境界を挟んだ両側の前記第1ワークおよび前記第2ワークの表面に、前記境界に交差する平面に沿ってスリット状の光を照射する照明装置と、前記第1ワークの前記表面に形成される前記光の第1線像および前記第2ワークの前記表面に形成される前記光の第2線像を含む画像を、前記平面に対して傾斜する方向から撮影するカメラと、該カメラにより取得された前記画像における前記第1線像に対する前記第2線像のずれ量およびずれ方向に基づいて、前記ロボットを作動させ、前記第1ワークの前記表面と前記第2ワークの前記表面との段差を補正するロボット制御装置とを備えるロボットシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係るロボットシステムの全体構成図である。
【
図2】
図1のロボットシステムにおける第1線像および第2線像の位置を示す図である。
【
図3】
図1のロボットシステムにおいて、第1母材の表面に対して第2母材の表面が傾いている状態を示す図である。
【
図4】
図3に示される状態のロボットシステムにおける第1線像および第2線像の位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の一実施形態に係るロボットシステム1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るロボットシステム1は、平板状の第1母材(第1ワーク)10の一縁端に平板状の第2母材(第2ワーク)20を突き合わせた状態に配置して溶接するために、第1母材10と第2母材20とを位置合わせするシステムである。
【0008】
ロボットシステム1は、第2母材20を把持するロボット2と、ロボット2の動作を制御するロボット制御装置30と、照明装置40と、カメラ50とを備えている。
第1母材10は、略水平に配置された状態で、例えば、図示しない作業台に固定されている。ロボット2は、把持した第2母材20を、第1母材10の一縁端近傍に略水平に配置する。
【0009】
照明装置40は、第1母材10よりも上方に配置され、スリット状のレーザ光を照射する。スリット状のレーザ光は、第2母材20が第1母材10に隣接して配置された状態で、第1母材10と第2母材20との境界Bに直交する方向に延び、かつ、第1母材10および第2母材20の表面に対して所定の角度をなして傾斜する平面に沿って照射される。
【0010】
すなわち、レーザ光は、第1母材10および第2母材20の表面に対して90°よりも小さい角度をなして傾斜する平面に沿って、第1母材10および第2母材20の表面に照射される。
これにより、第1母材10の表面には、境界Bに直交する方向に延びる第1線像11が形成され、第2母材20の表面には、境界Bに直交する方向に延びる第2線像21が形成される。
【0011】
カメラ50も、第1母材10の上方に配置されている。また、カメラ50は、境界Bを挟んで両側に形成されている第1線像11および第2線像21を画角内に配置し、第1線像11および第2線像21の両方を含む2次元画像を取得する。
【0012】
ロボット制御装置30は、カメラ50により取得された2次元画像を処理し、ロボット2に補正動作を行わせる。
具体的には、ロボット制御装置30は、2次元画像内における第1線像11と第2線像21とのずれ量およびずれ方向を測定し、測定したずれ量に所定の定数を乗算して補正量を算出する。そして、ロボット制御装置30は、算出された補正量だけ、測定されたずれ方向とは反対側に第2母材20を移動させるようロボット2を制御する。
【0013】
2次元画像内における第1線像11と第2線像21とのずれ方向は、2次元画像内において、第1線像11に対して第2線像21がいずれの方向にずれているかにより測定される。
図2は、符号40の位置に照明装置40が配置されている場合の2次元画像例である。この2次元画像内において、右側の第1線像11に対し、左側の第2線像21が上側に配置されている場合には、第2母材20は、第1母材10に対して上方にずれていることが分かる。逆に、2次元画像内において、右側の第1線像11に対し、左側の第2線像21が下側に配置されている場合には、第2母材20は第1母材10に対して下方にずれていることが分かる。
【0014】
また、2次元画像内における第1線像11と第2線像21とのずれ量は、2次元画像内における第1線像11と第2線像21との間のピクセル数により測定される。ピクセル数によって測定される2次元画像内の第1線像11と第2線像21とのずれ量と、第1母材10と第2母材20との実際のずれ量との換算係数については予め大まかに設定しておく。
本実施形態においては、補正量を算出するためにピクセル数に乗算する定数は、換算係数に所定の小数を乗算したものとする。
【0015】
このように構成された本実施形態に係るロボットシステム1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係るロボットシステム1によれば、
図1に示されるように、ロボット2が第2母材20を第1母材10の一縁端に隣接する位置に配置すると、照明装置40によってスリット状のレーザ光が照射される。
【0016】
これにより、照明装置40から射出されたレーザ光は、第1母材10および第2母材20の表面に、境界Bに直交する方向に延びる第1線像11および第2線像21を形成する。
レーザ光は、第1母材10および第2母材20の表面に対して90°よりも小さい角度をなして傾斜しているので、第1母材10および第2母材20が板厚方向にずれていると、第1線像11と第2線像21とは、境界Bに沿う方向に互いにずれて形成される。
【0017】
この状態で、カメラ50を作動させることによって、
図2に示される2次元画像が取得され、ロボット制御装置30へと送られる。
カメラ50から送られてきた2次元画像は、ロボット制御装置30によって処理される。
【0018】
これにより、2次元画像内における第1線像11と第2線像21との間のピクセル数が計測される。そして、計測されたピクセル数に、正の小数と、単位ピクセルと第1母材10および第2母材20における実際のずれ量との換算係数とを乗算した定数が乗算されることにより、計測されたピクセル数に対応する補正量が算出される。
【0019】
また、2次元画像内の第1線像11に対する第2線像21のオフセット方向が、第1母材10に対して第2母材20が上下いずれの方向にずれているのかのずれ方向として検出される。ロボット制御装置30は、検出された第1母材10と第2母材20とのずれ方向とは反対方向を補正方向として決定する。
【0020】
そして、ロボット制御装置30は、決定した補正方向に向かって、算出された補正量だけロボット2を作動させる。
このとき、ピクセル数に乗算される換算係数の値が正確でない場合や、制御指令に対するロボット2の動作量に誤差がある場合であっても、正の小数が乗算されることによって、算出される補正量を実際のずれ量よりも小さくすることができる。これにより、第2母材20の表面が第1母材10の表面を通り越すことなく、第1母材10と第2母材20とのずれ量が補正される。
【0021】
さらに、ロボット制御装置30は、補正後における第1母材10と第2母材20とのずれ量を再び検出し、予め記憶される所定の閾値との比較を行う。
その結果、検出した補正後の第1母材10と第2母材20とのずれ量が閾値よりも大きい場合は、ロボット制御装置30は、検出した補正後の第1母材10と第2母材20とのずれ量およびずれ方向に基づいて、ロボット2を再び作動させる。
これにより、第1母材10と第2母材20とのずれ量は、前回の補正後よりもさらに低減する。
【0022】
このように、第1線像11と第2線像21とのずれ量が所定の閾値よりも小さくなるまで、補正動作が繰り返されることによって、第1母材10と第2母材20とのずれ量は、漸近的に補正される。また、この補正動作が繰り返されても、補正の方向は反転せず、同一方向に限定されるため、第1母材10と第2母材20との段差を正確に補正できるとともに、補正の制御方法を簡略化することもできる。
【0023】
このように、本実施形態に係るロボットシステム1によれば、第1母材10および第2母材20の相対位置を、突き合わせ溶接にとって最適な状態に補正することができ、良好な溶接を実施することができる。
【0024】
なお、本実施形態においては、ロボット制御装置30が、2次元画像内における第1線像11と第2線像21とのずれ量に基づいて、ロボット2の補正量を算出した。これに代えて、ロボット制御装置30が、2次元画像内における第1線像11と第2線像21とのずれ量に対応する実空間における3次元座標情報に基づいて、ロボット2の補正量を算出してもよい。
【0025】
この場合、カメラ50は予めキャリブレーションされている必要がある。カメラ50がキャリブレーションされていると、2次元画像上の任意の位置を3次元的な視線として求めることができる。さらに、カメラ50と照明装置40が照射するスリット光の位置関係は予めキャリブレーションされている必要がある。照明装置40が照射するスリット光は平面として定義することができる。この平面とカメラ50との位置関係を予め計測しキャリブレーション情報に記憶しておけばよい。2次元画像上で検出された第1線像11と第2線像21上の任意の一点への視線とスリット光の平面との交点をとることで、第1線像11と第2線像21上の任意の一点の3次元的な位置情報を求めることができる。これにより、第1線像11と第2線像21上の3次元線像を得ることができる。
【0026】
したがって、ロボット制御装置30は、2次元画像内の第1母材10と第2母材20との境界Bにおける第1線像11と第2線像21とのずれ量およびずれ方向を、実空間における3次元的なずれ量およびずれ方向に換算することができる。そして、ロボット制御装置30は、換算した3次元的なずれ(ずれ量およびずれ方向)に基づいて算出される補正量だけ、ロボット2を作動させる。
その結果、第1母材10と第2母材20とのずれを、より正確に補正することができる。
【0027】
また、本実施形態においては、ロボット制御装置30が2次元画像内における第1線像11と第2線像21とのずれ量およびずれ方向に基づいて、第1母材10の表面と第2母材20の表面との板厚方向のずれ量を補正した。これに加えて、第1線像11に対する第2線像21の傾きに基づいて、第1母材10の表面と第2母材20の表面との傾きを補正してもよい。
【0028】
例えば、
図3および
図4に示すように、第1母材10の表面に対して、第2母材20の表面が傾いて配置されている場合には、第1母材10の表面と第2母材20の表面との傾きに対応して、第2線像21も第1線像11に対して傾いて形成される。
【0029】
ロボット制御装置30は、予めレーザ光の照射角度およびカメラ50の位置情報に基づいて、第1線像11と第2線像21とがなす角度と、第1母材10の表面に対する第2母材20の表面の傾き方向および傾き角度とを対応付けておく。そして、ロボット制御装置30が、第1線像11と第2線像21とがなす角度に基づいてロボット2を作動させることにより、第1母材10の表面と第2母材20の表面との傾きを補正することができる。
【0030】
この場合に、ロボット2による第2母材20の傾きの補正は、例えば、境界Bと隣接する第2母材20の縁端上にロボット2のツール先端点を配置し、第2母材20の縁端に沿って延びる座標軸回りに第2母材20を回転させて行われることが好ましい。これにより、境界Bに近接する第2線像21の先端位置を移動させずに、第2線像21の傾きを第1線像11と平行にすることができる。
そして、この後に上述した第1線像11と第2線像21とを一致させる補正を行うことにより、第1母材10と第2母材20とを精度よく揃えることができ、より適正な溶接を実施することができる。
【0031】
また、本実施形態では、第1母材10および第2母材20を平板状の母材を例示したが、これに限らず、任意の形状の母材であってもよい。
また、本実施形態においては、2次元画像内の第1線像11と第2線像21とのずれ量をピクセル数により求め、換算係数に正の小数を乗算した定数を乗算することにより補正量を求めたが、これに代えて、換算係数に1以上の係数を乗算した定数を用いてもよい。
この場合には、ロボット2による補正動作は振動的となるが、より迅速に位置決めすることができる場合もある。
【0032】
また、本実施形態は、第1母材10と第2母材20との突き合わせ溶接を行うロボットシステムを例示したが、これに限らず、隣接するワークの表面の段差を揃える必要がある作業であれば、いかなる作業を行うロボットシステムであってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ロボットシステム
2 ロボット
10 第1母材(第1ワーク)
11 第1線像
20 第2母材(第2ワーク)
21 第2線像
30 ロボット制御装置
40 照明装置
50 カメラ
B 境界