(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】積層鋼板の製造方法、積層鋼板の製造装置およびこれらに用いられる硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
B32B 37/12 20060101AFI20240403BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20240403BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240403BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20240403BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20240403BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20240403BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240403BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240403BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240403BHJP
H02K 15/12 20060101ALI20240403BHJP
H02K 15/02 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
B32B37/12
B32B7/12
B32B15/08 Z
B32B15/18
C09J4/02
C09J7/30
C09J201/00
H01F1/147 175
H01F41/02 B
H02K15/12 A
H02K15/02 F
(21)【出願番号】P 2020561361
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2019048735
(87)【国際公開番号】W WO2020129813
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018236173
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大村 愛
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214499(JP,A)
【文献】特開昭60-040177(JP,A)
【文献】特開2006-334648(JP,A)
【文献】特開2015-082860(JP,A)
【文献】特開2018-107852(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102017001802(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 1/00-5/10
C09J 9/00-201/10
H01F 1/147
H01F 41/02
H02K 15/12
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状薄鋼板から所定の形状に打抜き形成された鋼板薄板を所定枚数で積層してなる積層鋼板の製造方法であって、
以下の工程1~3を含み、硬化性組成物が
以下の(A)~(C)成分を含むエネルギー線を照射した後に所定の時間経過してから硬化する遅延硬化性組成物である積層鋼板の製造方法:
工程1:前記鋼板薄板を所定の形状に金型で順次打抜き加工する工程
工程2:前記鋼板薄板の所定部位に硬化性組成物を塗布する工程
工程3:前記硬化性組成物に
1~10kJ/m
2
の積算光量でエネルギー線を照射する工
程
(A)成分:(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(B)成分:サッカリンを含む嫌気硬化性触媒
(C)成分:光酸発生剤。
【請求項2】
さらに、工程4として積層された鋼板薄板を所定時間固定する工程を含む請求項1に記載の積層鋼板の製造方法。
【請求項3】
帯状薄鋼板から所定の形状に打抜き形成された鋼板薄板を所定枚数で積層してなる積層鋼板の製造方法であって、
以下の工程1~4の順に成し、硬化性組成物が
以下の(A)~(C)成分を含むエネルギー線を照射した後に所定の時間経過してから硬化する遅延硬化性を有する硬化性組成物である積層鋼板の製造方法;
工程1:前記鋼板薄板を所定の形状に金型で順次打抜き加工する工程
工程2:前記鋼板薄板の所定部位に硬化性組成物を塗布する工程
工程3:前記硬化性組成物に
1~10kJ/m
2
の積算光量でエネルギー線を照射する工程
工程4:積層された鋼板薄板を所定時間固定する工
程
(A)成分:(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(B)成分:嫌気硬化性触媒
(C)成分:光酸発生剤。
【請求項4】
前記工程2が、前記帯状薄鋼板に対して前記金型の反対側から前記硬化性組成物を塗布する工程である請求項1~3のいずれか1項に記載の積層鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の積層鋼板の製造方法を実施するための製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層鋼板の製造方法、積層鋼板の製造装置およびこれらに用いられる遅延硬化性を有する硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層鋼板の製造工程において、鋼板薄板の間に接着剤を塗布して積層体を形成することで製造することが知られている。当該接着剤にはエポキシ樹脂組成物や(メタ)アクリル樹脂組成物などが用いられ、加熱硬化や嫌気硬化を行う。しかしながら、硬化に時間がかかるため積層鋼板の生産効率が低く、製造後に鋼板薄板同士が剥離するリスクがある。当該問題を解決するために、特開2006-334648号公報の様に硬化促進剤を加工油に添加して硬化を促進させる試みが成されているが、加工油が混ざった状態で接着剤と硬化促進剤という2種類の樹脂組成物を用いて硬化状態を制御することは困難性が伴う。
【発明の概要】
【0003】
従来は、鋼板薄板間の接着剤を所定の時間が経過した後、安定した硬化状態に到達させることが困難であった。
【0004】
本発明者は、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、積層鋼板の製造方法、積層鋼板の製造装置およびこれらに用いられる硬化性組成物に関する手法を発見し、本発明を完成するに至った。
【0005】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施態様は、帯状薄鋼板から所定の形状に打抜き形成された鋼板薄板を所定枚数で積層してなる積層鋼板の製造方法であって、以下の工程1~3を含み、硬化性組成物がエネルギー線を照射した後に所定の時間経過してから硬化する遅延硬化性組成物である積層鋼板の製造方法である;
工程1:前記鋼板薄板を所定の形状に金型で順次打抜き加工する工程
工程2:前記鋼板薄板の所定部位に硬化性組成物を塗布する工程
工程3:前記硬化性組成物にエネルギー線を照射する工程。
【0006】
本発明の第二の実施態様は、さらに、工程4として積層された鋼板薄板を所定時間固定する工程を含む第一の実施態様に記載の積層鋼板の製造方法である。
【0007】
本発明の第三の実施態様は、帯状薄鋼板から所定の形状に打抜き形成された鋼板薄板を所定枚数で積層してなる積層鋼板の製造方法であって、以下の工程1~4の順に成し、硬化性組成物がエネルギー線を照射した後に所定の時間経過してから硬化する遅延硬化性を有する硬化性組成物である積層鋼板の製造方法である;
工程1:前記鋼板薄板を所定の形状に金型で順次打抜き加工する工程
工程2:前記鋼板薄板の所定部位に硬化性組成物を塗布する工程
工程3:前記硬化性組成物にエネルギー線を照射する工程
工程4:積層された鋼板薄板を所定時間固定する工程。
【0008】
本発明の第四の実施態様は、前記工程2が、前記帯状薄鋼板に対して金型の反対側から硬化性組成物を塗布する工程である第一から第三の実施態様までのいずれかに記載の積層鋼板の製造方法である。
【0009】
本発明の第五の実施態様は、前記硬化性組成物が以下の(A)~(C)成分を含む第一から第四までの実施態様のいずれかに記載の積層鋼板の製造方法である;
(A)成分:(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(B)成分:嫌気硬化性触媒
(C)成分:光酸発生剤。
【0010】
本発明の第六の実施態様は、第一から第五までの実施態様のいずれかに記載の積層鋼板の製造方法を実施するための製造装置である。
【0011】
本発明の第七の実施態様は、以下の(A)~(C)成分を含む第一から第五までの実施態様のいずれかに記載の積層鋼板の製造方法に用いられる硬化性組成物である;
(A)成分:(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(B)成分:嫌気硬化性触媒
(C)成分:光酸発生剤。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る積層鋼板製造装置の一例であり、硬化性組成物の塗布を行った後、塗布物に対してエネルギー線を照射する装置である。
【
図2】
図2は、本発明に係る積層鋼板製造装置の他の一例であり、硬化性組成物に対してエネルギー線を照射してから硬化性組成物を塗布する装置である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の詳細を次に説明する。本発明は、上記第一から第五までの実施態様に示す様に、帯状薄鋼板から所定の形状に打抜き形成された鋼板薄板を所定枚数で積層してなる積層鋼板の製造方法であって、以下の工程1~3を含み、硬化性組成物がエネルギー線を照射した後に所定の時間経過してから硬化する遅延硬化性を有する硬化性組成物である積層鋼板の製造方法である。更に、工程4を含んでも良い。また、本発明は、上記第六の実施態様に示す様に、本発明の積層鋼板の製造方法を実施するための製造装置である。以下、積層鋼板の製造装置とこれを用いた積層鋼板の製造方法を製造過程に沿って説明する;
工程1:前記鋼板薄板を所定の形状に金型で順次打抜き加工する工程
工程2:前記鋼板薄板の所定部位に硬化性組成物を塗布する工程
工程3:前記硬化性組成物にエネルギー線を照射する工程
工程4:積層された鋼板薄板を所定時間固定する工程。
【0014】
本発明では、硬化性組成物がエネルギー線を照射した後に所定の時間経過してから硬化する遅延硬化性を有する硬化性組成物を用いた積層鋼板の製造方法に関するものであり、鋼板薄板間の接着剤である硬化性組成物を短時間で安定した硬化状態に到達させて、積層鋼板を安定して製造することができる。
【0015】
本発明の一つの実施形態として
図1に示す積層鋼板製造装置が挙げられる。
図1の積層鋼板製造装置100は、ロール装置1から帯状薄鋼板2を金型装置4方向へ送り出す。次に、帯状薄鋼板2に加工油塗布装置3で加工油を塗布する工程を行い、次いで、金型装置4において、加工油が塗布された帯状薄鋼板2に対しパンチ部5で所定の形状に順次打ち抜き加工する工程、硬化性組成物を塗布装置する工程、前記硬化性組成物にエネルギー線を照射する工程を含む各工程を行う。場合によっては、積層された鋼板薄板を所定時間固定する工程も含まれる。
【0016】
図1に示す積層鋼板製造装置100では、パンチ部5は、金型装置4の上部側であって、帯状薄鋼板2の搬送経路の直上に取り付けられており、パンチングにより帯状薄鋼板2を打ち抜くことができるように配置されている。本発明で用いることができるパンチ部5とは、帯状薄鋼板2を所定の形状に金型で順次打抜き加工するための金型である。パンチ部5は、その目的に応じて、1種類でも、2種類以上組み合わせても良い。パンチ部5は、打ち抜き精度を上げられることから複数に分けることが好ましい。帯状薄鋼板2は、金型装置4内を間欠搬送されながら、例えば、鋼板薄板に対して、パイロット穴の打抜き加工、内径下穴および外形溝用小穴の打抜き加工、スロット部の打抜き加工、内径の打抜き加工、内径ティースの打抜き加工などが順次施される。帯状薄鋼板2の厚さは、打ち抜き加工性の観点から0.05~5.0mmの範囲が好ましく、より好ましくは0.1~3mmである。最終的に、外形打抜きパンチ部9に打ち抜かれるに連れて抜き孔11内で徐々に鋼板薄板の積層体を形成すると共に前記積層体自体が抜き孔11内を下降して行き、ついには落下して積層鋼板10を製造する。
【0017】
図1に示す積層鋼板製造装置100では、加工油塗布装置3が、金型装置4の上流側の帯状薄鋼板2の送り出し経路(搬送経路)の途中に設けられており、帯状薄鋼板2の上面側(打ち抜く際にパンチ部5が当たる表面側)に加工油を塗布できるように配置されている。但し、加工油塗布装置3は、パンチ部5よりも上流側に設けられていればよく、金型装置4内に設けられていてもよい。本発明で用いることができる加工油塗布装置3は、帯状薄鋼板2の上面側に加工油を塗布することができれば良い。塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ローラー、ディスペンシング、スプレー、インクジェット、ディッピングなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明で用いることができる加工油は、かじりや焼き付きを防止する目的で使用されるものであり、パンチングオイルとして使用される。オイルの成分は、特に限定されないが、鉱物油や合成油を主成分とするものが挙げられる。具体的には、鉱物油(軽油等)や合成油からなる基油と、極圧添加剤や防錆剤、防腐剤等の添加剤とからなる。例えば、極圧添加剤は、硫黄やリン等を含む化合物であり、極圧状況下での発熱により金属と反応して摩擦界面に柔らかい金属化合物の皮膜を生成し、この皮膜がパンチ部5と鋼板薄板(帯状薄鋼板2)との間に介在することにより、かじりや焼き付きを防止する。
【0019】
図1に示す積層鋼板製造装置100では、硬化性組成物塗布装置6は、金型装置4の下部側であって、パンチ部5の下流側に取り付けられている。また硬化性組成物塗布装置6の塗布部(先端部)は、帯状薄鋼板2の搬送経路の直下であって、帯状薄鋼板2の下面側(打ち抜く際にパンチ部5が当たらない裏面側)の所定の部位に硬化性組成物を塗布できるように設置されている。本発明で用いることができる硬化性組成物塗布装置6は、帯状薄鋼板2の所定の部位に硬化性組成物を塗布することができれば良い。ここで、所定の部位とは、鋼板薄板の特定の領域でも、帯状薄鋼板2の通過領域全体でも良い。未硬化状態での塗布厚としては、0.01~100μmであれば使用することができる。塗布方法としては特に限定されないが、例えば、ローラー、ディスペンシング、スプレー、インクジェット、ディッピングなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。加工油との関係で、前記帯状薄鋼板2に対して金型(パンチ部5)側の反対側(打ち抜く際にパンチ部5が当たらない裏面側)から硬化性組成物を塗布することが好ましい。
【0020】
図1に示す積層鋼板製造装置100では、硬化性組成物供給装置7は、金型装置4の下部側に設けられている。また硬化性組成物供給装置7は、硬化性組成物塗布装置6に硬化性組成物を供給することができるように、開閉バルブ、流量調整バルブ、ポンプ、シリンジなどを適宜備えた連結管(パイプ)などにより連結されている。なお、硬化性組成物供給装置7の本体は、
図1に示すように、金型装置4の下部よりも下方(異なる場所)に設置し、金型装置4の下部には連結管が配設された構成となっている。但し、硬化性組成物供給装置7の本体も金型装置4の下部内に設けられていてもよい。本発明で用いることができる硬化性組成物供給装置7は、硬化性組成物塗布装置6に硬化性組成物を供給することができれば良い。供給方法としては、特に限定されないが、例えばポンプやシリンジなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
図1に示す積層鋼板製造装置100では、照射器8は、金型装置4の下部側であって、硬化性組成物塗布装置6の下流側に設置されている。また、照射器8の光源が、帯状薄鋼板2の下面側の硬化性組成物が塗布されている所定の部位(鋼板薄板の特定の領域)に対して、硬化性組成物を活性化するエネルギー線を照射できるように配置されている。本発明で用いることができる照射器8は、紫外線や可視光などのエネルギー線を照射出来れば良い。当該エネルギー線により後記の遅延硬化性を有する硬化性組成物を活性化して所定の時間後に硬化させる効果がある。エネルギー線を照射する照射器8の光源としては、高圧水銀灯やLEDを使用することができる。高圧水銀灯を搭載したベルトコンベアー式照射器などを使用でき、積算光量で0.01~60kJ/m
2を必要とする。LEDを光源とするLED照射装置の照度は、一般的に30~900mW/cm
2であり、場合によっては20~300mW/cm
2である。照射時間については0.1~60秒で行う。照度と照射時間により積算光量を調整し、同じ遅延硬化性を有する硬化性組成物を用いる場合、積算光量を変えることで硬化までの時間を調整することができる。
【0022】
本発明の他の一実施形態として
図2に示す積層鋼板製造装置が挙げられる。
図2に示す積層鋼板製造装置200は、
図1に示す積層鋼板製造装置100において、硬化性組成物塗布装置6の本体との塗布部(先端部)との間に流路を設け、この流路の途中に照射器8のヘッド(光源)を設置した以外は、
図1に示す積層鋼板製造装置100と同じ構成である。そのため、
図2に示す積層鋼板製造装置200では、
図1に示す積層鋼板製造装置100と同じ構成に関しては、
図1と同じ符号を付している。
図2に示す積層鋼板製造装置200の実施形態の様に、硬化性組成物塗布装置6を用いて硬化性組成物を帯状薄鋼板2の下面側の所定の部位に塗布する直前に照射器8による照射を行い、その後に塗布することもできる。この場合、硬化性組成物塗布装置6の本体と塗布部(先端部)との間に流路を設け、この流路の途中に照射器8のヘッド(光源)を設置し、流路内を通過する硬化性組成物に対してエネルギー線を照射して活性化させる。
図2に示す実施形態でも、
図1に示す実施形態と同様に、硬化性組成物がエネルギー線を照射した後に所定の時間経過してから硬化する遅延硬化性を有する硬化性組成物を用いることで、鋼板薄板間の接着剤である硬化性組成物を短時間で安定した硬化状態に到達させて、積層鋼板10を安定して製造することができる。
【0023】
本発明に用いられる遅延硬化性を有する硬化性組成物とは、エネルギー線や熱などのエネルギーを発端にして、所定の時間経過してから硬化する組成物であれば使用することができる。硬化するまでエネルギーを加え続ける必要が無く、エネルギーを一度加えれば後で硬化する(以下、遅延硬化性を有する硬化性組成物は、遅延硬化性組成物とも呼ぶ。)。ここで、積層鋼板が組まれるまでの時間を考慮すると、前記の所定の時間経過としては1~30分が好ましい。また、遅延硬化性を有する硬化物性組成物としては特開2011-038090号公報、特開2014-133875号公報などのエポキシ樹脂系の組成物が知られている。(メタ)アクリル樹脂系の組成物では、特開2017-214499号公報などが知られている。本発明においては、エネルギー線を発端とする遅延硬化性を有することが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法において用いられる組成物は、以下の(A)~(C)成分を含む遅延硬化性組成物であることが好ましい。また、本発明は、上記第七の実施態様に示す様に、本発明の積層鋼板の製造方法に用いられる、以下の(A)~(C)成分を含む遅延硬化性組成物である;
(A)成分:(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(B)成分:嫌気硬化性触媒
(C)成分:光酸発生剤。
【0025】
前記(A)成分としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば良く、(メタ)アクリルオリゴマー、(メタ)アクリルモノマーまたは(メタ)アクリルアミドモノマーなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基またはメタクリル基の総称である。
【0026】
(メタ)アクリルオリゴマーとしては、エポキシ変性(メタ)アクリルオリゴマー、ウレタン変性(メタ)アクリルオリゴマーまたは(メタ)アクリルモノマーを重合させた主骨格を有し主骨格の末端に(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。具体例としては、多価ポリオールに多官能イソシアネートと(メタ)アクリロイル基と水酸基を有する化合物を合成したいわゆるウレタン変性(メタ)アクリルオリゴマーが挙げられる。多価ポリオールは様々な骨格を有して良く、エチレンオキサイド骨格、ポリエステル骨格、ポリエーテル骨格、ポリブタジエン骨格や水添ポリブタジエン骨格など様々なものを使用することができる。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂に(メタ)アクリル酸を付加させたエポキシ変性(メタ)アクリルオリゴマーや、ビスフェノール骨格にアルキレンオキサイド(メタ)アクリレートが付加された(メタ)アクリルオリゴマーなども挙げられるが、これらに限定されるものではない。一般に、オリゴマーは、比較的少数のモノマーが結合した重合体のことをいう。モノマーの数に応じて、ダイマー(二量体)、トライマー(三量体)、テトラマー(四量体)などと呼ばれている。本明細書では、オリゴマーは、ダイマー(二量体)以上であって、かつ重量平均分子量が100万以下の重合体をいうものとする。好ましくは、ダイマー(二量体)以上であって、かつ重量平均分子量が、10万以下の重合体である。上記重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0027】
前記(A)成分として(メタ)アクリルモノマーを使用することもできる。遅延硬化性組成物の粘度を低く調整して作業性を向上させる目的で、(メタ)アクリルオリゴマーと(メタ)アクリルモノマーを混合することもできるし、(メタ)アクリルオリゴマーまたは(メタ)アクリルモノマーを単独で使用することもできる。(メタ)アクリルモノマーとは、1官能性モノマーの他に、2官能性モノマー、3官能性モノマーまたは多官能性モノマーなどが挙げられる。特に好ましくは、添加することで粘度を下げる効果がある分子量が1000未満の低分子量の(メタ)アクリルモノマーであり、特に、1官能性モノマーが好ましい。
【0028】
1官能性モノマーの具体例としては、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ノニルフェニルポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エピクロロヒドリン変性ブチル(メタ)アクリレート、エピクロロヒドリン変性フェノキシ(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
好ましい1官能性モノマーとしては、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーおよび/または飽和脂環構造を有する(メタ)アクリルモノマーである。水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレートなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。最も好ましくは、2-ヒドロキシプロピルメタクリレートおよび/または2-ヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられるがこれらに限定されるものではない。飽和脂環構造を有する(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンタニル(メタ)アクリレートなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。最も好ましくは、イソボルニル骨格および/またはジシクロペンタニル骨格を有する(メタ)アクリルモノマーである。
【0030】
2官能性モノマーの具体例としては、1、3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレ-ト、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイドサイド(以下POと略記)変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、EO変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、ジアクリロイルイソシアヌレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
3官能性モノマーの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ECH変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ECH変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
多官能性モノマーの具体例としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本発明で使用することができる(メタ)アクリルアミドモノマーとしては、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ジエチルアクリルアミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。価格と入手のし易さを考慮するとジエチルアクリルアミドまたはジメチルアクリルアミドが好ましい。(A)成分の具体例としては、KJケミカル株式会社製のDMAA(登録商標;ジメチルアクリルアミド)、ACMO(登録商標;アクリロイルモルフォリン)、DEAA(登録商標;ジエチルアクリルアミド)などが知られているが、これらに限定されるものではない。
【0034】
前記(B)成分は、嫌気硬化性触媒である。該嫌気硬化性触媒が、酸素と触れていない嫌気状態において、被着体の金属イオンと(B)成分が反応して、後述の有機過酸化物を分解してフリーラジカルを発生させることができる。特に、(B)成分としては、以下の式1の様なサッカリンであることが好ましい。
【0035】
【0036】
(A)成分100質量部に対して(B)成分は0.01~5.0質量部添加されることが好ましく、より好ましい添加量は0.01~3.0質量部である。(B)成分が0.01質量部以上であると嫌気硬化性を発現し、(B)成分が5.0質量部以下であると保存安定性を維持することができる。
【0037】
前記(C)成分は、光酸発生剤である。該光酸発生剤は、エネルギー線照射により酸が発生する化合物であればよい。(C)成分を添加することで、明確なメカニズムは解明されていないが、エネルギー線を照射することがトリガーとなり、所定の時間に到達したら硬化する。照射された部位は最終的に硬化するため、塗布領域より広い照射領域で照射すれば、被着体を貼り合わせた後にはみ出した遅延硬化性組成物も硬化することができる。一方、(A)成分、(B)成分および後記の有機過酸化物を必須成分として含む嫌気硬化性組成物では、被着体からはみ出して金属と触れていない領域では未硬化が発生し、接着力の低下を招く。
【0038】
具体的な(C)成分としては、カチオン種がヨードニウム系カチオン種やスルホニウム系カチオン種など、アニオン種がリン系アニオン種やホウ素系アニオン種などからなる塩が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、ノニオン系光酸発生剤も使用することができる。また、塩以外の(C)成分としては、ジアゾメタン誘導体、トリアジン誘導体、イミジルスルホネート誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、1-メトキシ-4-(3,5-ジ(トリクロロメチル)トリアジニル)ベンゼン、1-メトキシ-4-(3,5-ジ(トリクロロメチル)トリアジニル)ナフタレンなどのハロアルキルトリアジニルアリール、1-メトキシ-4-[2-(3,5-ジトリクロロメチルトリアジニル)エテニル]ベンゼン、1,2-ジメトキシ-4-[2-(3,5-ジトリクロロメチルトリアジニル)エテニル]ベンゼン、1-メトキシ-2-[2-(3,5-ジトリクロロメチルトリアジニル)エテニル]ベンゼン、スクシンイミジルカンファスルホネート、スクシンイミジルフェニルスルホネート、スクシンイミジルトルイルスルホネート、スクシンイミジルトリフルオロメチルスルホネート、フタルイミジルトリフルオロスルホネート、ナフタルイミジルカンファスルホネート、ナフタルイミジルメタンスルホネート、ナフタルイミジルトリフルオロメタンスルホネート、ナフタルイミジルトルイルスルホネート、ノルボルネンイミジルトリフルオロメタンスルホネートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、取り扱いの観点から、プロピレンカーボネートなどの溶剤に溶解された状態で(C)成分を使用しても良い。
【0039】
前記スルホニウム塩の一つとして、以下の式2で表される化合物が挙げられる。ここで、式2中のR-としてはヘキサフルオロアンチモネート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサクロルアンチモネート、トリフルオロメタンスルフォン酸イオン、フルオロスルフォン酸イオン等のアニオンが挙げられる。
【0040】
【0041】
(C)成分の具体例としては、サンアプロ株式会社製のCPI-100P、CPI-101P、CPI-110B、CPI-200K、CPI-210S、IK-1、IK-2などが、富士フィルム和光純薬株式会社製のWPI-113、WPI-116、WPI-169、WPI-170,WPAG-336、WPAG-367、WPAG-370、WPAG-469、WPAG-638などが、ADEKA株式会社製のアデカオプトマーSP-103、SP-150、SP-151、SP-170、SP-171、SP-172などが、サートマー社製のCD-1010、CD-1011、CD-1012、三新化学工業株式会社製のサンエイドSI-60、SI-80、SI-100、SI-60L、SI-80L、SI-100L、SI-L145、SI-L150、SI-L160、SI-L110、SI-L147などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
(A)成分100質量部に対して、(C)成分は0.001~5.0質量部添加されることが好ましい。(C)成分が0.001質量部以上であると遅延硬化性を発現し、(C)成分が5.0質量部以下であると保存安定性を維持することができる。
【0043】
遅延硬化性組成物を硬化促進させる化合物として、有機過酸化物を添加することができる。特に好ましくは、ハイドロパーオキサイドである。具体的には、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイドなど挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
(A)成分100質量部に対して、前記有機過酸化物は0.01~5.0質量部添加されることが好ましく、さらに好ましくは0.1~3.0質量部である。有機過酸化物の添加量が0.1質量部以上であると嫌気硬化性を発現し、有機過酸化物の添加量が5.0質量部以下であると保存安定性を維持することができる。
【0045】
遅延硬化性組成物を硬化促進させる化合物として、保存安定性を損なわない範囲内で硬化促進剤を添加することができる。具体的には、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、ジイソプロパノール-p-トルイジン、トリエチルアミン等の3級アミン類としてジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン類としてチオ尿素、エチレンチオ尿素、ベンゾイルチオ尿素、アセチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素等のチオ尿素類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
(A)成分100質量部に対して、硬化促進剤は0.01~5.0質量部添加されることが好ましい。硬化促進剤の添加量が0.01質量部以上であると嫌気硬化性を向上させ、硬化促進剤の添加量が5.0質量部以下であると保存安定性を維持することができる。
【0047】
遅延硬化性組成物では、保存安定性を向上させる目的でキレート剤を添加しても良い。キレート剤は、遅延硬化性組成物中の不純物である金属イオンと配位して、金属をキレート化して不活性にし、遅延硬化性組成物において反応性を抑制する化合物である。そのため、キレート剤により遅延硬化性組成物は保存安定性を維持することができる。
【0048】
25℃で固形のキレート剤の具体例としては、株式会社同人化学研究所製のEDTA・2Na、EDTA・4Na、キレスト株式会社製のEDTA系(エチレンジアミン四酢酸)、NTA系(ニトリロ四酢酸)、DTPA系(ジエチレントリアミン五酢酸)、HEDTA系(ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸)、TTHA系(トリエチレンテトラミン六酢酸)、PDTA系(1,3-プロパンジアミン四酢酸)、DPTA-OH系(1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸)、HIDA系(ヒドロキシエチルイミノ二酢酸)、DHEG系(ジヒドロキシエチルグリシン)、GEDTA系(グリコールエーテルジアミン四酢酸)、CMGA系(ジアルボキシメチルグルタミン酸)、EDDS系((S,S)-エチレンジアミンジコハク酸)およびEDTMP系(エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸))の化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、25℃で液状のキレート剤の具体例としては、キレスト株式会社製のMZ-8、HEDP系(1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸)、NTMP系(ニトリロトリス(メチレンホスホン酸))およびPBTC系(2-ホスホノ-1,2,4-ブタントリカルボン酸)の化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
(A)成分中のキレート剤の濃度としては0.01~5.0質量%であることが好ましく、キレート剤の濃度が0.01質%部以上であると嫌気硬化性を向上させ、キレート剤の濃度が5.0質量%以下であると嫌気硬化性が向上し、保存安定性を維持することができる。
【0050】
遅延硬化性組成物では、経時による粘度変化をさらに抑制するために、重合禁止剤を添加することができる。具体的には、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、テトラヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4-t-ブチルカテコールなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。(A)成分中の重合禁止剤の濃度としては0.01~5.0質量%であることが好ましい。重合禁止剤の濃度が0.01質量%以上であると嫌気硬化性を向上させ、重合禁止剤の濃度が5.0質量%以下であると嫌気硬化性が向上し、保存安定性を維持することができる。
【0051】
また、目的に応じて酸化防止剤を添加してもよく、具体的にはフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ニトロキシド系酸化防止剤などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0052】
遅延硬化性組成物には、無機充填剤や有機充填剤などの充填剤を適宜添加することができる。充填剤を添加することで、粘性・チクソ性だけでなく硬化性、強靱性を調整することができる。無機充填剤としては、アルミナ、シリカなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。一方、有機充填剤としては、スチレンフィラー、アクリルゴムやポリブタジエンゴムなどからなるゴムフィラー、コアシェル構造を有するゴムフィラーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に好ましい無機充填剤は、ヒュームドシリカである。ヒュームドシリカとしては、表面にシラノールが残留している親水性タイプ、前記シラノールをジメチルジクロロシランなどで処理してシリカ表面を疎水化した疎水性タイプなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。親水性タイプの具体的な商品としては、日本アエロジル株式会社製のAEROSIL(登録商標)(アエロジル)90、130、150、200、255、300、380等が挙げられ、疎水性タイプの具体的な商品としては、日本アエロジル株式会社製のAEROSIL(登録商標)(アエロジル)R972(ジメチルジクロロシラン処理)、R974(ジメチルジクロロシラン処理)、R104(オクタメチルシクロテトラシロキサン処理)、R106(オクタメチルシクロテトラシロキサン処理)、R202(ポリジメチルシロキサン処理)、R805(オクチルシラン処理)、R812(ヘキサメチルジシラザン処理)、R816(ヘキサデシルシラン処理)、R711(メタクリルシラン処理)などが挙げられる。その他にキャボット株式会社製のヒュームドシリカであるCAB-O-SIL(登録商標)(キャボシル)シリーズなどが挙げられる。
【0053】
遅延硬化性組成物の性状や硬化物の物性が損なわれない程度にその特性を調整するために、感光剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、レベリング剤、老化防止剤、可塑剤、溶剤などの添加剤を配合してもよい。
【0054】
遅延硬化性組成物の硬化方法としては、
図1の様に一方の被着体に遅延硬化性組成物を塗布した後、該遅延硬化性組成物にエネルギー線を照射して、もう一方の被着体を接着する硬化方法や、
図2の様に一方の被着体に遅延硬化性組成物を塗布する前に、該遅延硬化性組成物にエネルギー線を照射して、塗布して2つの被着体を接着する硬化方法などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、被着体としては、鉄などの嫌気硬化性を活性化する金属であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0055】
本発明の製造方法において、効果が失われない範囲で遅延硬化性組成物に対して有機金属錯体やアミン化合物などの硬化促進させる化合物を含むプライマー組成物を用いることもできる。これにより、さらに短時間で硬化させることもできる。具体的には、帯状薄鋼板に対して硬化性組成物の塗布側とは逆側でプライマー組成物を塗布することや、加工油に硬化促進剤を添加する方法があるが、これらに限定されない。
【0056】
本発明の製造方法において、効果が損なわれない範囲で得られた積層鋼板10の間の遅延硬化性組成物の硬化を促進させるために、積層鋼板10を加熱することもできる。前記の加熱を行う手法の積層鋼板の製造方法における熱源は、特に限定されないが、熱風乾燥炉、ベルトコンベアー型IR炉(赤外線加熱炉)などが挙げられる。加熱に際しての温度及び時間は、十分に硬化できる条件であればよいが、例えば、40~300℃、好ましくは60~200℃の温度で、例えば、10秒~3時間、好ましくは20秒~60分の条件で加熱することが適当である。積層鋼板を加熱する際には、予め固定治具などで固定することで位置ずれを防止することが好ましい。
【0057】
本発明は前記の実施形態に限られるものではなく、例えば、回転電機用回転子(ロータ)やソレノイドの積層鋼板や積層金型等の製造方法に適用した実施形態を用いても良い。
【実施例】
【0058】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
[参考例1~15]
遅延硬化性組成物を調製するために下記成分を準備した。(以下、遅延硬化性組成物を単に組成物とも呼ぶ。)。
【0060】
(A)成分:(メタ)アクリロイル基を有する化合物、(B)成分:嫌気硬化性触媒および有機過酸化物を含む嫌気硬化性組成物
・ThreeBond1305N(株式会社スリーボンド製 嫌気性封着剤)
・ThreeBond1307N(株式会社スリーボンド製 嫌気性封着剤)
・ThreeBond1314(株式会社スリーボンド製 嫌気性封着剤)
・ThreeBond1327(株式会社スリーボンド製 嫌気性封着剤)
・ThreeBond1360F(株式会社スリーボンド製 嫌気性封着剤)
(以下、ThreeBondをTBと略す。)。
【0061】
(C)成分:光酸発生剤
・式2においてR-がヘキサフルオロホスフェートの塩(固形分50質量%プロピレンカーボネート溶液)(CPI-100P サンアプロ株式会社製)
・式2においてR-がリン系アニオン種の塩(固形分50質量%プロピレンカーボネート溶液)(CPI-200K サンアプロ株式会社製)。
【0062】
TB1305N、TB1307N、TB1314、TB1327およびTB1360Fをそれぞれ撹拌釜に秤量した。次に、(C)成分を撹拌機に秤量して60分撹拌した。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。なお、実施例で使用している撹拌機は、撹拌釜が取り外せるタイプである。そのため、撹拌釜を計量器において、重さをリセットして原料を投入して秤量ができるものである。
【0063】
参考例1~15に対して、セットタイム測定を実施した。その結果を表1にまとめた。
【0064】
[ボルトセットタイム測定]
鉄製のM10、P1.5×20mmの六角ボルト(JIS B1180)とM10、P1.5の六角ナットを使用する。ポリキャップに組成物が深さ1mmになる様に添加して、高圧水銀灯を搭載したスポット照射機により、0(未照射)、1、10、30kJ/m2という4種類の積算光量でそれぞれ照射した。照射直後に液状(未硬化)を保っている組成物は後記のセットタイム測定に移り、部分的に硬化している場合は「半硬化」、全体が硬化している場合は「硬化」、未実施の場合は「-」と表記した。液状を保っている組成物は、すぐさまボルトの雄ねじ部分先端から10mmの雄ねじ周囲に組成物を6点等間隔で塗布してからナットをボルトに螺合した。その後、1分毎にナットを指で回した時に固定されているか確認し、10分を超えても固定しない場合は10分毎に確認を行い、ナットが固定された時間を「ボルトセットタイム(分)」として表記した。ここで、60分を超えてもセット(固定)しない場合は「60超」と表記した。
【0065】
【0066】
参考例1~15において、未照射である積算光量が0kJ/m2(未照射)の場合、(A)成分、(B)成分および有機過酸化物からなる組成物に付与された嫌気硬化性のみで硬化していることを示す。一方、積算光量が1、10、30kJ/m2ではセットタイムが徐々に早くなっていることが分かる。明確に解明出来たわけではないが、これは(C)成分が添加されたことに起因し、エネルギー線照射により(C)成分が活性化したことによると推測される。嫌気硬化性組成物は金属に触れることから硬化が始まるが、積層鋼板の製造工程においては被着体である金属表面に加工油が残留しており、嫌気硬化性組成物が金属に触れることが不確定になり、接着力のバラツキにつながる。一方、嫌気硬化性組成物と嫌気硬化性組成物用プライマーを使用した場合でも、プライマーの塗り方によってはプライマーが偏ることもあり、接着力のバラツキにつながる。遅延硬化性組成物では、必ずしも金属に触れなくとも、また、プライマーを使用しないでも、光照射により遅延硬化して接着力の向上およびバラツキ低下につながる。
【0067】
[参考例16、17]
遅延硬化性組成物を調製するために下記成分を準備した。
【0068】
(A)成分:(メタ)アクリロイル基を有する化合物
・2,2-ビス[4-(メタクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン(EO2.3mol)(NKエステル BPE-80N 新中村化学工業株式会社製)
・イソボルニルメタクリレート(ライトエステルIB-X 共栄社化学株式会社製)
・2-ヒドロキシエチルメタクリレート(ライトエステルHO 共栄社化学株式会社製)
(B)成分:嫌気硬化性触媒
・サッカリン(試薬)
(C)成分:光酸発生剤
・式2においてR-がヘキサフルオロホスフェートの塩(固形分50質量%プロピレンカーボネート溶液)(CPI-100P サンアプロ株式会社製)
その他成分
・テトラヒドロキノン(試薬)
・エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸二ナトリウム塩二水和物(25℃で固体)(2NA(EDTA・2Na) 株式会社同人化学研究所製)。
【0069】
(A)成分、(B)成分およびその他成分を撹拌釜に秤量した。次に、(C)成分を撹拌機に秤量して60分撹拌した。詳細な調製量は表2に従い、数値は全て質量部で表記する。
【0070】
参考例16、17に対して、ガラスセットタイム測定を実施した。その結果を表2にまとめた。
【0071】
[ガラスセットタイム測定]
長さ76mm×幅26mm×厚さ1mmのガラス板を2枚使用した。ポリキャップに組成物が深さ1mmになる様に添加して、高圧水銀灯を搭載したスポット照射機により、0(未照射)、1kJ/m2という2種類の積算光量でそれぞれ照射した。液状を保っている組成物は、すぐさま一方のガラス板に0.02g塗布して、もう一方のガラス板を26mm×26mmの面積で十字に貼り合わせた。その後、1分毎にガラスを指で動かした時に固定されているか確認し、10分を超えても固定しない場合は10分毎に確認を行い、ガラス板が固定された時間を「ガラスセットタイム(分)」として表記した。ここで、60分を超えてもセット(固定)しない場合は「60超」と表記した。
【0072】
【0073】
参考例16、17においては、(A)成分および(C)成分を含む組成物において、(B)成分の有無について確認を行っている。(B)成分であるサッカリンを含む参考例16においては、エネルギー線を照射すれば被着体が金属で無くてもガラス板を接着していることが分かる。一方、(B)成分を含まない参考例17では、エネルギー線の照射を行っても硬化できないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の製造方法により、安定して積層鋼板を製造することができるため、歩留まりの向上を図り、遅延硬化性組成物により作業時間を確保した後、強固な接着力により高性能の積層鋼板を製造することができる。特に、プライマー組成物を使用する必要は無く、接着力のバラツキが少ない。
【0075】
本出願は、2018年12月18日に出願された日本国特許出願第2018-236173号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【符号の説明】
【0076】
1 ロール装置、
2 帯状薄鋼板、
3 加工油塗布装置、
4 金型装置、
5 パンチ部、
6 硬化性組成物塗布装置、
7 硬化性組成物供給装置、
8 照射器、
9 外形打抜きパンチ部、
10 積層鋼板、
11 抜き孔、
100、200 積層鋼板製造装置。