(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】凹凸パターン乾燥用組成物、及び表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
(21)【出願番号】P 2021507378
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011820
(87)【国際公開番号】W WO2020189688
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019051796
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】照井 貴陽
(72)【発明者】
【氏名】公文 創一
(72)【発明者】
【氏名】福井 由季
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-042094(JP,A)
【文献】特開2013-042093(JP,A)
【文献】特開2019-029491(JP,A)
【文献】特開2018-110199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B08B 3/04
B08B 5/00
F26B 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華性物質と、
1気圧における沸点が前記昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低く、かつ、1気圧における沸点が75℃以下である溶媒と、を含み、
前記昇華性物質が、前記溶媒に溶解した状態である、凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項2】
前記昇華性物質の凝固点が1気圧において5℃以上である、請求項1に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項3】
前記昇華性物質の沸点又は昇華点が300℃以下である、請求項1又は2に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項4】
前記昇華性物質が、炭素数3~6のフルオロアルカン、炭素数3~6のフルオロシクロアルカン、該フルオロアルカンの水素原子が塩素原子に置換した化合物、及び該フルオロシクロアルカンの水素原子が塩素原子に置換した化合物からなる群から選ばれる一または二以上を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項5】
前記昇華性物質が、ナフタレン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1-ジクロロオクタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロシクロヘキサン、パーフルオロシクロヘキサン、カンファー、シュウ酸ジメチル、ネオペンチルアルコール、テトラヒドロジシクロペンタジエン、ピラジンからなる群から選ばれる一または二以上を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項6】
前記昇華性物質が、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンを含む、請求項5に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項7】
前記昇華性物質の含有量が、前記凹凸パターン乾燥用組成物の全質量に対して、1質量%以上80質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項8】
前記溶媒が、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよい炭化水素類、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよいエーテル類、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよいアルコール類、及びエステル類からなる群から選ばれる一または二以上を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項9】
前記溶媒が、ヘキサン、trans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブチルメチルエーテル、3-メチルペンタン、シクロペンタン、酢酸メチルからなる群から選ばれる一または二以上を含む、請求項8に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項10】
パターン寸法が30nm以下である凹凸パターンを有する基板を処理するために用いる、請求項1~9のいずれか一項に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項11】
前記パターン寸法が20nm以下である凹凸パターンを有する前記基板を処理するために用いる、請求項10に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項12】
液温が20~30℃である、請求項1~11のいずれか一項に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項13】
水分を含まない、請求項1~12のいずれか一項に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
【請求項14】
表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法であって、
前記凹凸パターンの凹部に、昇華性物質と、1気圧における沸点が前記昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低く、かつ、1気圧における沸点が75℃以下である溶媒と、を含有し、前記昇華性物質が、前記溶媒に溶解した状態である、乾燥用組成物を溶液状態で供給する工程(I)、
前記凹部内の前記溶媒を乾燥させ、前記昇華性物質を凝固させる工程(II)、及び
前記昇華性物質を昇華させる工程(III)、
を含む、
表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
【請求項15】
前記工程(I)の前に、前記昇華性物質の精製を行う工程を有する、請求項
14に記載の表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
【請求項16】
前記基板は、パターン寸法が30nm以下である前記凹凸パターンを前記表面に有するものである、請求項
14又は
15に記載の表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
【請求項17】
前記基板は、前記パターン寸法が20nm以下である前記凹凸パターンを前記表面に有するものである、請求項
16に記載の表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
【請求項18】
前記工程(I)において、前記乾燥用組成物の液温が、20~30℃である、請求項14~17のいずれか一項に記載の表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
【請求項19】
工程(II)において、前記乾燥用組成物が水分を含まない、請求項14~18のいずれか一項に記載の表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸パターン乾燥用組成物、及び表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの製造では、成膜、リソグラフィやエッチングなどを経て基板(ウェハ)表面に微細な凹凸パターンが形成され、その後、ウェハ表面を清浄なものとするために、水や有機溶媒を用いた洗浄工程などの湿式処理が行われ、該湿式処理によってウェハに付着した洗浄液やリンス液などの液体を除去するために乾燥工程も行われている。乾燥工程中には、微細な凹凸パターンを有する半導体基板において、該凹凸パターンの変形や倒れが起こりやすいことが知られている。その原因は、該凹凸パターンに付着した液体と半導体界面との間で生じる表面張力に起因する応力と考えられている。その応力を抑制し微細な凹凸パターンの変形や倒れを防止するため、様々な方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、基板のパターン形成面に、融解状態の昇華性物質を含む処理液を供給し、パターン形成面上で処理液を凝固させて凝固体を得て、その後、凝固体を昇華させる方法が記載されている。
【0004】
特許文献2及び特許文献3には、昇華性物質を溶媒に溶解させた溶液で凹凸パターンの凹部を充填し、溶液中の溶媒を乾燥させて、凹部に固体の昇華性物質を析出させ、その後、昇華性物質を昇華させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-22861号公報
【文献】特開2013-42093号公報
【文献】特開2012-243869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に記載されているように、昇華性物質を用いて凹凸パターンが形成された基板の乾燥を行うためには、一般的に、凹凸パターンに残存する液体(以降、単に「残存液体」ともいう。)を、昇華性物質を含む処理液で置き換える工程が行われる。
しかしながら、特許文献1では、昇華性物質であるフッ化炭素化合物を融解してなる融液を用いており、供給ノズル先端部でフッ化炭素化合物が凝固する場合があり、例えば、凝固物が混入した融液が基板表面に供給されると、凹凸パターンに悪影響を及ぼすおそれがある。
【0007】
特許文献2及び特許文献3では、昇華性物質を溶媒に溶解させた溶液を用いているため、特許文献1のような供給ノズル先端部での凝固の問題は起こりにくい。
しかしながら、近年、半導体ウェハの凹凸パターンの微細化に伴い、凹凸パターンのアスペクト比(高さ/幅)が高くなってきており、残存液体の乾燥におけるパターンの倒れはより発生しやすくなっている。
本発明者らの検討により、高アスペクト比の凹凸パターンにおいては、昇華性物質を溶媒に溶解させた溶液を用いた場合であっても、昇華性物質と溶媒の組み合わせによっては十分にパターンの倒れを抑制できないことが判明した。
また、凹凸パターンの凹部に上記溶液を供給した後には、溶液中の溶媒を乾燥させて、昇華性物質を凝固させるものであるが、溶媒の沸点によっては、昇華性物質を凝固させるのに長時間を要してしまう場合があることが判明した。
【0008】
本発明の課題は、供給ノズル先端部での凝固が発生しにくく、かつ凹凸パターン表面に供給された後の昇華性物質の凝固に掛かる時間を低減でき、特に、高アスペクト比の凹凸パターンに対しても、凹凸パターン表面を乾燥させる際に、パターン倒れを抑制することができる、凹凸パターン乾燥用組成物、及び該乾燥用組成物を用いた表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
本発明によれば、
昇華性物質と、
1気圧における沸点が前記昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低く、かつ、1気圧における沸点が75℃以下である溶媒と、を含む、凹凸パターン乾燥用組成物が提供される。
【0011】
また本発明によれば、
表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法であって、
前記凹凸パターンの凹部に、昇華性物質と、1気圧における沸点が前記昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低く、かつ、1気圧における沸点が75℃以下である溶媒と、を含有する乾燥用組成物を溶液状態で供給する工程(I)、
前記凹部内の前記溶媒を乾燥させ、前記昇華性物質を凝固させる工程(II)、及び
前記昇華性物質を昇華させる工程(III)、
を含む、
表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、供給ノズル先端部での凝固が発生しにくく、かつ凹凸パターン表面に供給された後の昇華性物質の凝固に掛かる時間を低減でき、特に、高アスペクト比の凹凸パターンに対しても、凹凸パターン表面を乾燥させる際に、パターン倒れを抑制することができる、凹凸パターン乾燥用組成物、及び該乾燥用組成物を用いた表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】基板の製造工程の一例における工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
〔凹凸パターン乾燥用組成物〕
本発明の凹凸パターン乾燥用組成物(単に「乾燥用組成物」ともいう)は、昇華性物質と、1気圧における沸点が昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低く、かつ、1気圧における沸点が75℃以下である溶媒と、を含む。
【0016】
<昇華性物質>
本発明の乾燥用組成物に含まれる昇華性物質について説明する。
昇華性物質とは、本明細書中、固体状態で蒸気圧を有する物質を指す。
本発明における昇華性物質は、原理的には、特定の温度において固体でかつ蒸気圧を有する物質であれば使用できるが、凝固に極端な低温を要する場合や、昇華に極端な高温を要する場合は、装置の複雑化や処理対象の基板(半導体)への悪影響の恐れがあり好ましくない。特に、環境中の水分が後述の工程(II)中に固化して混入すると、昇華性物質の均一な凝固が妨げられたり、パターン倒れの抑制効果が損なわれたりする恐れがある。そのため、昇華性物質の凝固点は1気圧において5℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。
また、昇華性物質は、あらかじめ昇華精製または蒸留などの分離手段によって不揮発性物質を除き、昇華乾燥後の残留物を低減することが好ましい。上記のような精製のし易さの観点から、昇華性物質の沸点又は昇華点は300℃以下であることが好ましい。さらに、常温常圧のプロセスで後述する工程(III)(昇華性物質の昇華)を行い易いという理由から、昇華性物質の沸点又は昇華点は120℃以下であることがより好ましい。
複数種を含む昇華性物質の沸点または昇華点は、昇華性物質中に含まれる成分のうち、最も含有率(質量%)が多い成分の沸点または昇華点を採用する(ただし、最も含有率が多い成分が2種以上存在した場合には、温度が最も高い方の沸点または昇華点を採用する)。
昇華性物質の沸点は、JIS K 2254(ISO 3405)で定義される初留点を採用する。
なお、物質によって昇華点が慣用されている場合には、昇華点を用いる。
また、昇華性物質の凝固点は、-10℃/minの条件でDSCを用いて求められる凝固開始温度を採用する。複数種を含む昇華性物質の凝固点は、昇華性物質中に含まれる成分のうち、最も含有率(質量%)が多い成分の凝固点を採用する(ただし、最も含有率が多い成分が2種以上存在した場合には、温度が高い方の凝固点を採用する)。
【0017】
昇華性物質が固体でかつ蒸気圧を有する温度域(以下、「昇華温度域」ともいう)が10℃以上に存在すれば、溶液状態の乾燥用組成物の供給をクリーンルームの一般的な室温である20~25℃の環境で行ったとしても、乾燥用組成物中の溶媒の気化熱による冷却のみで昇華性物質を凝固させることができるため、より好ましい。
また、昇華温度域が20~25℃の範囲に存在すると、加熱や減圧などによって昇華を促進しなくとも昇華性物質を昇華させて除去することができるため好ましい。
なお、昇華温度域を定義する際の蒸気圧としては、10Pa以上が好ましく、50Pa以上あればより好ましい。
【0018】
昇華性物質の種類は、基板(好ましくは半導体)材料に悪影響を及ぼさない限り制限はなく、例えば、含フッ素化合物、ナフタレン、パラジクロロベンゼン、樟脳(カンファー)、シュウ酸ジメチル、ネオペンチルアルコール、テトラヒドロジシクロペンタジエン、ピラジン、アルキルアミンの炭酸塩などが挙げられ、含フッ素化合物、カンファー、シュウ酸ジメチル、ネオペンチルアルコール、テトラヒドロジシクロペンタジエン、ピラジン、又はナフタレンが好ましく、含フッ素化合物が更に好ましい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
含フッ素化合物としては、炭素数3~6のフッ素原子を1つ以上有するフルオロアルカン、炭素数3~6のフッ素原子を1つ以上有するフルオロシクロアルカン、炭素数10のフッ素原子を1つ以上有するフルオロビシクロアルカン、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン、ヘキサフルオロシクロトリホスファゼン、及び該フルオロアルカンの水素原子に置換基が置換した化合物、該フルオロシクロアルカンの水素原子に置換基が置換した化合物、該フルオロビシクロアルカンの水素原子に置換基が置換した化合物などが挙げられる。置換基としては、フッ素原子を除くハロゲン原子(好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、オキソ基、アルキル基、アルキルオキシ基、及びこれらを組み合わせてなる基などが挙げられる。
含フッ素化合物としては、炭素数3~6のフルオロアルカン、炭素数3~6のフルオロシクロアルカン、該フルオロアルカンの水素原子が塩素原子に置換した化合物、及び該フルオロシクロアルカンの水素原子が塩素原子に置換した化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが特に好ましい。
【0019】
昇華温度域が20~25℃の範囲に存在する昇華性物質としては、例えば、ナフタレン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(以下、HFCPAと呼ぶことがある。)、1,1-ジクロロオクタフルオロシクロペンタン(以下、DCOFCPAと呼ぶことがある。)、パーフルオロシクロヘキサン(以下、PFCHAと呼ぶことがある。)、1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロシクロヘキサン、カンファー、シュウ酸ジメチル、ネオペンチルアルコール、テトラヒドロジシクロペンタジエン、ピラジンなどが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
昇華性物質としては、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(HFCPA)が特に好ましい。なお、HFCPAは一般に入手可能であり、例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオローラH」などの市販品を用いることもできる。
【0020】
本発明の乾燥用組成物に含まれる昇華性物質の含有量は、特に限定されないが、乾燥用組成物の全質量に対して、1~80質量%であることが好ましい。
昇華性物質の含有量が1質量%以上であると、基板上で均一に昇華性物質を凝固させやすくなる傾向があり好ましい。
一方、昇華性物質の含有量が80質量%以下であると、溶媒の気化熱による冷却効果が得られやすくなり、昇華性物質の凝固が促進されやすくなる傾向があるため好ましい。また、昇華に要する時間(昇華時間)を短く抑え易いため好ましい。
昇華性物質の含有量の下限は、乾燥用組成物の全質量に対して、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが特に好ましい。また、昇華性物質の含有量の上限は、乾燥用組成物の全質量に対して、55質量%以下であることがより好ましく、53質量%以下であることが特に好ましい。
【0021】
なお、本発明の乾燥用組成物に含まれる昇華性物質は、1気圧における沸点又は昇華点が溶媒の沸点より5℃以上高い。これについては以下の溶媒の説明において詳述する。
【0022】
<溶媒>
本発明の乾燥用組成物に含まれる溶媒について説明する。
本発明の乾燥用組成物は、前述の昇華性物質を溶媒に溶解してなる溶液である。
本発明において用いられる溶媒は、下記条件(1)及び下記条件(2)を満たす1種または2種以上を含む。
条件(1):1気圧において、沸点が、昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低いこと。
条件(2):1気圧において、沸点が75℃以下であること。
本明細書中、複数種の溶媒を含む場合における各溶媒の沸点として、共沸溶媒の場合には共沸点を採用する。共沸溶媒ではない場合には、溶媒ごとに、個々に規定される沸点を採用する。
【0023】
本発明では、後述する工程(II)で、溶媒の乾燥(溶媒の揮発)に伴って昇華性物質が濃縮されることにより昇華性物質を凝固させるために、上記条件(1)を満たす必要がある。
本発明では、1気圧において、条件(2)の沸点が、昇華性物質の沸点又は昇華点より25℃以上低いことが好ましい。
【0024】
また、特に、後述する工程(II)で凝固に掛かる時間を低減する観点から、本発明においては上記条件(2)を満たす溶媒を用いる。すなわち、上記条件(2)を満たす、1気圧において、沸点が75℃以下の溶媒を用いれば、後述する工程(II)で凝固に掛かる時間を低減することができる。
【0025】
また、溶媒を用いることで得られる効果として、上記したもの以外にも以下のような効果が挙げられる。
溶媒を用いることで、乾燥用組成物中の昇華性物質が希釈され、昇華性物質の使用量を減らすことができる。これにより、例えば含フッ素化合物などの高価な昇華性物質を用いた場合でも、昇華性物質の融液を用いる場合に比べて、昇華性物質の使用量が少ないため、経済性の観点で優れる。
溶媒を用いることで、昇華性物質を溶媒に溶解してなる溶液として乾燥用組成物を供給することができるため、供給ノズル先端部での凝固が発生しにくくなり、乾燥用組成物を適用する凹凸パターンへのダメージを回避することができる。
乾燥用組成物が溶媒を含むことで、溶媒を含まない場合(すなわち昇華性物質の融液を用いる場合)よりも、凹凸パターンに残存する液体(残存液体)に対する相溶性を高くすることができる。これにより、基板表面の残存液体をより効率的に乾燥用組成物に置き換えることができる。
溶媒を乾燥(揮発)させることで、その際の気化熱により、乾燥用組成物中の昇華性物質の凝固を促進することができる。また、この場合に、昇華性物質が凝固してなる膜(固体の昇華性物質の膜)は、昇華性物質のみからなる融液を塗布して形成される膜(固体の昇華性物質の膜)よりも、膜厚を薄くすることが可能である。
【0026】
本発明の乾燥用組成物に含まれる溶媒は、上記条件(1)及び上記条件(2)を満たすものであれば特に限定されないが、半導体の洗浄工程に用いられる一般的な溶剤である、水、炭素数3以下のアルコール(例えば、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなど)、又はそれらの混合液に対して、相溶性を有する溶媒であると、後述の工程(I)において、基板の少なくとも凹部に保持された液体(残存液体)から本発明の乾燥用組成物への置換が効率的に行えるため好ましい。
なお、上記「相溶性を有する」とは、25℃、1気圧において、本発明の「乾燥用組成物に含まれる溶媒」1質量部に対して、溶解することができる「洗浄工程に用いられる溶剤」の量が0.05質量部以上あることを意味する。
【0027】
本発明の乾燥用組成物に含まれる溶媒の種類は、上記条件(1)及び上記条件(2)を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよい炭化水素類、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよいエーテル類、並びにフッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよいアルコール類、及びエステル類等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
溶媒としては、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよい炭化水素類、又はフッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよいエーテル類であることが好ましい。
【0028】
フッ素原子を有していてもよい炭化水素類としては、例えば、炭素数4~10のアルカン又はシクロアルカン、炭素数4~10のアルケン又はシクロアルケン、及び炭素数6~10の芳香族炭化水素を挙げることができ、具体的には、ヘキサン(沸点69℃、蒸気圧16kPa)、ペンタン(沸点36℃、蒸気圧53kPa)、2-メチルペンタン(沸点60℃、蒸気圧23kPa)、シクロペンタン(沸点49℃、蒸気圧45kPa)、3-メチルペンタン(沸点63℃、蒸気圧20kPa)などを例示できる。
また、例えば、フッ素原子を有する、炭素数4~10のアルカン、炭素数4~10のアルケン、及び炭素数6~10の芳香族炭化水素を挙げることができ、具体的には、パーフルオロヘキサン(沸点60℃、25℃における蒸気圧27kPa)などを例示できる。
また、例えば、塩素原子を有する、炭素数1~10のアルカン、炭素数2~10のアルケン、及び炭素数6~10の芳香族炭化水素のうち、フッ素原子を有していてもよい炭化水素を挙げることができ、具体的には、ジクロロメタン(沸点40℃、蒸気圧47kPa)、トリクロロメタン(沸点62℃、蒸気圧21kPa)、トリクロロフルオロメタン(沸点24℃、蒸気圧84kPa)、trans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(沸点18℃、蒸気圧133kPa)、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(沸点39℃、蒸気圧49kPa)、などが具体的に挙げられる。
なお、上記沸点は1atmにおける値であり、上記蒸気圧は別に記載がない限り20℃における値である。以下も同様である。
【0029】
フッ素原子を有していてもよいエーテル類としては、例えば、炭素数4~10のフッ素原子を有していてもよいエーテル類を挙げることができ、ジエチルエーテル(沸点35℃、蒸気圧59kPa)、ジイソプロピルエーテル(沸点69℃、蒸気圧21kPa)、tert-ブチルメチルエーテル(沸点55℃、蒸気圧27kPa)、テトラヒドロフラン(沸点65℃、蒸気圧19kPa)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン(沸点61℃、蒸気圧27kPa)、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブチルメチルエーテル(沸点61℃、25℃における蒸気圧28kPa)などが具体的に挙げられる。
【0030】
フッ素原子を有していてもよいアルコール類としては、例えば、トリフルオロエタノール(沸点74℃、25℃における蒸気圧10kPa)などが具体的に挙げられる。
【0031】
エステル類としては、例えば、酢酸メチル(沸点57℃、蒸気圧23kPa)や酢酸エチル(沸点77℃、蒸気圧10kPa)等が挙げられる。
【0032】
上述の溶媒のうち、入手容易性の観点で、ヘキサン、trans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン、又は1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブチルメチルエーテル、3-メチルペンタン、シクロペンタン、酢酸メチル、酢酸エチルが特に好ましい。
【0033】
(その他溶媒)
本発明で規定する組成範囲から外れない限りにおいては、上記乾燥用組成物には、必須成分である上記昇華性物質と上記溶媒以外にも、基板及び/あるいは凹凸パターンへの濡れ性の調整などを目的としてさらに「その他溶媒」を加えてもよい。例えば、水、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、スルホキシド系溶媒、アルコール類、多価アルコールの誘導体、含窒素化合物等が挙げられ、上記必須成分として用いる溶媒に該当しない溶媒を指す。上記炭化水素類の例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどがあり、上記エステル類の例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、アセト酢酸エチルなどがあり、上記エーテル類の例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどがあり、上記ケトン類の例としては、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトンなどがあり、上記スルホキシド系溶媒の例としては、ジメチルスルホキシドなどがあり、アルコール類の例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、4-メチル-2-ペンタノール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオールなどがあり、上記多価アルコールの誘導体の例としては、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどがあり、上記含窒素化合物の例としては、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ピリジンなどがあり、これらのうち上記必須成分として用いる溶媒に該当しない溶媒が例示される。
【0034】
本発明の乾燥用組成物に含まれる溶媒の含有量は、特に限定されないが、乾燥用組成物の全質量に対して、20~99質量%であることが好ましい。溶媒の含有量が20質量%以上であると、溶媒の気化熱による冷却効果が得られやすくなり、昇華性物質の凝固が促進されやすくなる傾向があるため好ましい。一方、溶媒の含有量が99質量%以下であると、基板上で均一に昇華性物質を凝固させやすくなる傾向があり好ましい。溶媒の含有量の下限は、乾燥用組成物の全質量に対して、45質量%以上であることがより好ましく、47質量%以上であることが特に好ましい。また、溶媒の含有量の上限は、乾燥用組成物の全質量に対して、95質量%以下であることがより好ましく、93質量%以下であることが特に好ましい。
【0035】
本発明の乾燥用組成物は、取り扱い(製造、保管、運搬等)が容易となる観点で-15~50℃において、液体(溶液)であることが好ましく、0~40℃で液体(溶液)であることがより好ましい。さらには、吐出機構に保温・加熱が不要となるといった装置構成の簡素化の観点で20~30℃で液体であることが特に好ましい。
【0036】
〔表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法〕
本発明の表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法(単に「基板の製造方法」ともいう)は、
凹凸パターンの凹部に、昇華性物質と、1気圧における沸点が昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低く、かつ、1気圧における沸点が75℃以下である溶媒と、を含有する乾燥用組成物を溶液状態で供給する工程(I)、
前記凹部内の前記溶媒を乾燥させ、前記昇華性物質を凝固させる工程(II)、及び
前記昇華性物質を昇華させる工程(III)、
を含む。
【0037】
<工程(I)>
工程(I)は、基板の表面に設けられた凹凸パターンの凹部に、昇華性物質と溶媒とを含有する乾燥用組成物を溶液状態で供給する工程である。乾燥用組成物としては前述の本発明の乾燥用組成物と同様である。
基板は、特に限定されないが、半導体からなる基板であることが好ましい。
工程(I)は、20~30℃で行うことが好ましい。すなわち、20~30℃で溶液状態にある乾燥用組成物を用いることが好ましい。
なお、工程(I)で乾燥用組成物を供給する前の基板の表面には、通常はその前に行われた洗浄工程で使用した洗浄液などの残存液体が存在する。そして、工程(I)により供給された乾燥用組成物が残存液体と置換する。残存液体は特に限定されないが、通常、水や炭素数3以下のアルコール(例えば、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなど)であり、乾燥用組成物による置換のしやすさの観点から、メタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
工程(I)は、乾燥用組成物として前述の本発明の乾燥用組成物を用いて、溶液状態で供給するものであれば、供給するための具体的手段は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
なお、乾燥用組成物は、少なくとも凹部の一部又は全部に対して供給する。
【0038】
<工程(II)>
工程(II)は、前記凹部内の前記溶媒を乾燥させ、前記昇華性物質を凝固させる工程である。すなわち、工程(II)では、前記工程(I)で少なくとも凹部の一部又は全部に供給された乾燥用組成物(凹凸パターンの残存液体を置換した乾燥用組成物)中の溶媒を乾燥(揮発)させ、乾燥用組成物中の昇華性物質を凝固させる。
本発明では、溶媒としては1気圧において沸点が75℃以下の溶媒を用いるため、凹凸パターン表面に供給された後の昇華性物質の凝固に掛かる時間を低減することができ、常温常圧(20~25℃、1atm)での乾燥も可能である。
また、昇華性物質の凝固点が1気圧において5℃以上であれば、凝固させるために極端な低温にする必要がなく、例えば溶媒を乾燥(揮発)させることで、その際の気化熱により、昇華性物質の凝固を促進することができるため好ましい(特別な装置を用いる必要がなく、常温常圧環境下で実施できる)。
工程(II)を実行する方法は特に限定されないが、常温常圧のプロセスが好ましいため、例えば、乾燥用組成物が供給された基板を回転させる方法、乾燥用組成物が供給された基板にガス(揮発蒸気への引火を防止する必要があれば不活性ガスが好ましい)を吹き付けて乾燥(揮発)された溶媒とともに当該ガスを排気する方法などが挙げられる。
【0039】
<工程(III)>
工程(III)は、前記昇華性物質を昇華させる工程である。すなわち、工程(III)では、工程(II)で得られた昇華性物質の凝固体(昇華性物質の固体の膜)を除去するために、昇華性物質を昇華させる。
昇華性物質の沸点又は昇華点が120℃以下であれば、工程(III)を常温常圧環境下で行うことができるため好ましい。
工程(III)を行う温度は特に限定されず、常温で行っても良いし、加熱環境下(例えば、30~120℃であり、好ましくは40~80℃)で行っても良い。なお、加熱環境下で行う工程(III)を、「工程(IIIb)」とも呼ぶ。
工程(III)を実行する方法は特に限定されないが、常温常圧のプロセスであれば装置構成の簡素化の観点から好ましいため、例えば、昇華性物質の凝固体が形成された基板を回転させる方法、昇華性物質の凝固体が形成された基板にガス(気化した昇華性物質への引火を防止する必要があれば不活性ガスが好ましい)を吹き付けて気化した昇華性物質とともに当該ガスを排気する方法などが挙げられる。
【0040】
本発明の基板の製造方法は、工程(I)の前に、昇華性物質の精製を行う工程を有することが好ましい。昇華性物質の精製は、昇華精製又は蒸留などの分離手段によって行うことが好ましい。
【0041】
本発明の基板の製造方法により、凹凸パターン表面に供給された後の昇華性物質の凝固に掛かる時間を低減しつつ、凹凸パターンの倒れが抑制された、乾燥された(残存液体がない)基板を製造することができる。
【0042】
図1(a)~(c)は、乾燥用組成物を用いた基板の製造工程の一例を示す工程断面図である。
図1(a)は、基板10の表面に乾燥用組成物30を供給し、凹凸パターン20における凹部24内に乾燥用組成物30を充填する工程、
図1(b)は、乾燥用組成物30を凝固させて、昇華性膜50を形成する工程、
図1(c)は、昇華性物質を昇華させて昇華性膜50を除去する工程を示す。
【0043】
以下、基板の製造方法について詳細に説明する。
上記基板10の準備工程において、基板10の表面に凹凸パターン20を形成する方法の一例である以下の方法を用いてもよい。
まず、ウェハ表面にレジストを塗布したのち、レジストマスクを介してレジストに露光し、露光されたレジスト、または、露光されなかったレジストを除去することによって所望の凹凸パターンを有するレジストを作製する。また、レジストにパターンを有するモールドを押し当てることでも、凹凸パターンを有するレジストを得ることができる。次に、ウェハをエッチングする。このとき、レジストパターンの凹の部分に対応する基板表面が選択的にエッチングされる。最後に、レジストを剥離すると、表面に凹凸パターン20を有するウェハ(基板10)が得られる。
【0044】
凹凸パターン20が形成されたウェハ、及び凹凸パターン20の材質については特に問わず、ウェハとしては、シリコンウェハ、シリコンカーバイドウェハ、シリコン元素を含む複数の成分から構成されたウェハ、サファイアウェハ、各種化合物半導体ウェハ、プラスチックウェハなど各種のウェハを用いることができる。また、凹凸パターン20の材質についても、酸化ケイ素、窒化ケイ素、多結晶シリコン、単結晶シリコンなどのシリコン系材料、窒化チタン、タングステン、ルテニウム、窒化タンタル、スズなどメタル系材料、及びそれぞれを組み合わせた材料、レジスト(フォトレジスト)材料などを用いることができる。
【0045】
図1(a)は、凹凸パターン20の一例を示す断面図である。凹凸パターン20のパターンにおける(基板厚み方向の)断面構造において、その幅及び高さの少なくとも一以上のパターン寸法、又は凹凸パターン20のパターンにおける三次元構造(XYZの3次元座標)において、その幅(X軸方向の長さ)、高さ(Y軸方向の長さ)、及び奥行き(Z軸方向の長さ)の少なくとも一以上のパターン寸法が、例えば、30nm以下でもよく、20nm以下でもよく、10nm以下でもよい。このような微細な凹凸パターン20を有する基板10を用いた場合においても、本実施形態の乾燥用組成物を用いることにより、パターン倒れ率を低減することが可能になる。
【0046】
このような乾燥用組成物は、例えば、パターン寸法が30nm以下、好ましくは20nm以下である凹凸パターン20を有する基板10を処理するために用いるものとして好適である。
【0047】
凸部22のアスペクト比の下限は、例えば、3以上でも、5以上でも、10以上でもよい。脆弱な構造の凸部22を有する凹凸パターン20においてもパターン倒れを抑制できる。
一方、凸部22のアスペクト比の上限は、特に限定されないが、100以下でもよい。
凸部22のアスペクト比は、凸部22の高さを凸部22の幅で除した値で表される。
【0048】
凹凸パターン20の形成の後、基板10の表面を水や有機溶媒等の洗浄液を用いて洗浄する(洗浄工程)。
【0049】
洗浄工程の後、
図1(a)に示すように、20~30℃環境下で液体である乾燥用組成物を、基板10の表面に形成された凹凸パターン20に供給することが好ましい。このとき、凹凸パターン20の凹部24の一部又は全部を充填するように供給してもよい(充填工程)。供給は、例えば、20~30℃の環境下で実施してもよい。
【0050】
乾燥用組成物の供給方法は、公知の手段を用いることができるが、例えば、ウェハを1枚ずつほぼ水平に保持して回転させながら回転中心付近に組成物を供給してウェハの凹凸パターンに保持されている洗浄液などを置換し、該組成物を充填するスピン方式に代表される枚葉方式や、組成物槽内で複数枚のウェハを浸漬しウェハの凹凸パターンに保持されている洗浄液などを置換し、該組成物を充填するバッチ方式等を用いてもよい。
【0051】
洗浄工程の後の基板10の表面には、使用した洗浄液が残存する。洗浄液として、乾燥用組成物に溶解する種類を選択することで、残存した洗浄液を比較的容易に乾燥用組成物に置換することが可能になる。そのため、洗浄液として、通常、メタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノール等の炭素数3以下のアルコールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0052】
なお、乾燥用組成物に用いる昇華性物質について、予め精製を行ってもよい。昇華性物質の精製は、昇華精製又は蒸留などの分離手段が用いられる。
【0053】
充填工程の後、
図1(b)に示すように、乾燥用組成物30中の昇華性物質を凝固させ、昇華性物質の凝固体を含む昇華性膜50を凹凸パターン20上に形成する(凝固工程)。凹凸パターン20の凹部24内部に充填された昇華性膜50によって、凹凸パターン20のパターン倒れを抑制できる。
【0054】
凝固工程において、冷却により固体の昇華性物質を析出させてもよいが、加熱や適当な環境条件を適用することにより溶媒を蒸発させ、その気化熱により固体の昇華性物質を析出させてもよい。
本実施形態では、上述のように乾燥用組成物に用いる溶媒が適切に選択されることによって、溶媒の揮発(乾燥)を、例えば、常温常圧下(20℃~25℃、1atm)で行うことも可能である。
また、昇華性物質の凝固点の下限を上記下限値以上とすることで、極端な冷却が不要となり、溶媒の気化熱により昇華性物質を凝固させることが可能になる。
なお、凝固工程を、常温常圧下で行う際に、必要に応じて、例えば、基板10を回転させる方法、基板10に不活性ガスを吹き付けて、溶媒の揮発を促進させてもよい。
【0055】
凝固工程の後、
図1(c)に示すように、固体の昇華性物質を昇華させて、凹凸パターン20上の昇華性膜50を除去する(除去工程)。
昇華性物質を昇華させる方法は、昇華性物質の沸点に応じて適当に選択できるが、例えば、沸点が比較的低い場合には、常温常圧下で昇華させてもよいが、必要なら、加熱や減圧を行ってもよい。
【0056】
図1に示す製造方法は、ウェハパターンを対象とするものであるが、本発明はこれに限定されない。本実施形態の基板の製造方法は、レジストパターンを対象として、その洗浄・乾燥工程において本発明の乾燥用組成物を用いることでレジストパターンの倒れを抑制することも可能である。
上記の供給工程は、洗浄工程の後に実施する製造方法を説明したが、これに限定されず、凹凸パターン20に対して実施される様々な処理の後に実施してもよい。例えば、供給工程は、凹凸パターン20上に撥水性保護膜形成用薬液を処理した後に行われてもよい。
基板の製造方法は、上記の工程以外にも、公知の処理を一または二以上組み合わせて用いてもよい。例えば、上記の除去工程の後に、プラズマ処理などの表面処理を行ってもよい。
【0057】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 昇華性物質と、
1気圧における沸点が前記昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低く、かつ、1気圧における沸点が75℃以下である溶媒と、を含む、凹凸パターン乾燥用組成物。
2. 前記昇華性物質の凝固点が1気圧において5℃以上である、1.に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
3. 前記昇華性物質の沸点又は昇華点が300℃以下である、1.又は2.に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
4. 前記昇華性物質が、炭素数3~6のフルオロアルカン、炭素数3~6のフルオロシクロアルカン、該フルオロアルカンの水素原子が塩素原子に置換した化合物、及び該フルオロシクロアルカンの水素原子が塩素原子に置換した化合物からなる群から選ばれる一または二以上を含む、1.~3.のいずれか1つに記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
5. 前記昇華性物質が、ナフタレン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1-ジクロロオクタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロシクロヘキサン、パーフルオロシクロヘキサン、カンファー、シュウ酸ジメチル、ネオペンチルアルコール、テトラヒドロジシクロペンタジエン、ピラジンからなる群から選ばれる一または二以上を含む、1.~3.のいずれか1つに記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
6. 前記昇華性物質が、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンを含む、5.に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
7. 前記昇華性物質の含有量が、前記凹凸パターン乾燥用組成物の全質量に対して、1質量%以上80質量%以下である、1.~6.のいずれか1つに記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
8. 前記溶媒が、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよい炭化水素類、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよいエーテル類、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよいアルコール類、及びエステル類からなる群から選ばれる一または二以上を含む、1.~7.のいずれか1つに記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
9. 前記溶媒が、ヘキサン、trans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブチルメチルエーテル、3-メチルペンタン、シクロペンタン、酢酸メチルからなる群から選ばれる一または二以上を含む、8.に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
10. パターン寸法が30nm以下である凹凸パターンを有する基板を処理するために用いる、1.~9.のいずれか一つに記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
11. 前記パターン寸法が20nm以下である凹凸パターンを有する前記基板を処理するために用いる、10.に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
12. 表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法であって、
前記凹凸パターンの凹部に、昇華性物質と、1気圧における沸点が前記昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低く、かつ、1気圧における沸点が75℃以下である溶媒と、を含有する乾燥用組成物を溶液状態で供給する工程(I)、
前記凹部内の前記溶媒を乾燥させ、前記昇華性物質を凝固させる工程(II)、及び
前記昇華性物質を昇華させる工程(III)、
を含む、
表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
13. 前記工程(I)の前に、前記昇華性物質の精製を行う工程を有する、12.に記載の表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
14. 前記基板は、パターン寸法が30nm以下である前記凹凸パターンを前記表面に有するものである、12.又は13.に記載の表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
15. 前記基板は、前記パターン寸法が20nm以下である前記凹凸パターンを前記表面に有するものである、14.に記載の表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
【0058】
以下、参考形態の例を付記する。
<1>
昇華性物質と溶媒とを含有する、凹凸パターン乾燥用組成物であって、
1気圧において、前記溶媒の沸点が、前記昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低く、
1気圧において、前記溶媒の沸点が75℃以下である、凹凸パターン乾燥用組成物。
<2>
前記昇華性物質の凝固点が1気圧において5℃以上である、<1>に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
<3>
前記昇華性物質の沸点又は昇華点が300℃以下である、<1>又は<2>に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
<4>
前記昇華性物質が、炭素数3~6のフルオロアルカン、炭素数3~6のフルオロシクロアルカン、該フルオロアルカンの水素原子が塩素原子に置換した化合物、及び該フルオロシクロアルカンの水素原子が塩素原子に置換した化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である、<1>~<3>のいずれかに記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
<5>
前記昇華性物質が、ナフタレン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1-ジクロロオクタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロシクロヘキサン、又はパーフルオロシクロヘキサンである、<1>~<3>のいずれかに記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
<6>
前記昇華性物質が、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンである、<5>に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
<7>
前記昇華性物質の含有量が、前記凹凸パターン乾燥用組成物の全質量に対して、5~55質量%である、<1>~<6>のいずれかに記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
<8>
前記溶媒が、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよい炭化水素類、フッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよいエーテル類、並びにフッ素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有していてもよいアルコール類から選ばれる少なくとも1種である、<1>~<7>のいずれかに記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
<9>
前記溶媒が、ヘキサン、trans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン、又は1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブチルメチルエーテルである、<8>に記載の凹凸パターン乾燥用組成物。
<10>
表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法であって、
前記凹凸パターンの凹部に、昇華性物質と溶媒とを含有する乾燥用組成物を溶液状態で供給する工程(I)、
前記凹部内の前記溶媒を乾燥させ、前記昇華性物質を凝固させる工程(II)、及び
前記昇華性物質を昇華させる工程(III)、
を含み、
1気圧において、前記溶媒の沸点が、前記昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低く、
1気圧において、前記溶媒の沸点が75℃以下である、表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
<11>
前記工程(I)の前に、前記昇華性物質の精製を行う工程を有する、<10>に記載の表面に凹凸パターンを有する基板の製造方法。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
昇華性物質として1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(HFCPA)を2.0g用いた。溶媒としてcis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233Z)を用い、合計10.0gになるよう溶解し希釈した。この溶液を乾燥用組成物として用いた。HFCPAとしては、日本ゼオン株式会社製の「ゼオローラH」を用いた。
【0060】
断面視におけるアスペクト比22、パターン幅が19nmの略円柱状の凸部の複数を、90nmのピッチ(凸部の幅及び凸部の隣接間隔の合計距離)で有する凹凸パターンを表面に形成したシリコン基板を1cm×1.5cmの寸法に切り出して評価用試料とした。評価用試料はあらかじめUV/O3照射によりドライ洗浄して用いた。評価用試料をスピンコーターに設置し、2-プロパノールを供給してパターンの凹部に液体(2-プロパノール)が保持された状態とした。次いで溶液状態の乾燥用組成物を滴下することにより前記2-プロパノール(残存液体)を当該乾燥用組成物に置換した(工程(I))。続いてスピンコーターで評価用試料を回転させて目視で凝固体(昇華性物質の固体の膜)形成の様子を確認した(工程(II))。さらに目視で凝固体の消失が確認されるまで回転を継続させた(工程(III))。工程(I)~(III)は、23~24℃、1気圧の窒素雰囲気下で行った。
パターンの倒れ防止性能は、工程(III)後に得られた評価用試料を走査型電子顕微鏡(SEM)(SU8010、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で観測して評価した。結果を下記表1に示した。なお、「パターン倒れ率」は、SEMを用いて、評価用試料中央部に対して、凸部が500本~600本視野に入るような倍率で電子顕微鏡像(二次電子像)を撮影し、該像で倒れの生じた凸部を計数し、視野内の凸部数に占める割合をパーセントで算出した。数値はJIS Z 8401に従い丸めの幅10でいわゆる四捨五入によって丸めた。
【0061】
(実施例2~15)
昇華性物質としては、実施例1と同様にHFCPAを用い、溶媒及び昇華性物質の濃度等を下記表1に示すように変更して、実施例1と同様に評価用試料作製及び評価を行った。結果を下記表1に示した。
【0062】
(比較例1~10)
昇華性物質としては、実施例1と同様にHFCPAを用い、溶媒及び昇華性物質の濃度等を下記表2に示すように変更して、実施例1と同様に評価用試料作製及び評価を行った。結果を下記表2に示した。
なお、比較例1では昇華性物質を用いず、溶媒のみを乾燥用組成物として用いた。また、比較例2では溶媒を用いず、昇華性物質の融液を乾燥用組成物として用いた。比較例3~9では、上記条件(1)「1気圧において、溶媒の沸点が、昇華性物質の沸点又は昇華点より5℃以上低い」及び条件(2)「1気圧において、溶媒の沸点が75℃以下である」をともに満たさない組成物を乾燥用組成物として用いた。比較例10では、上記条件(1)を満たすものの、上記条件(2)を満たさない組成物を乾燥用組成物として用いた。
【0063】
(実施例16、比較例11~15)
昇華性物質としてナフタレンを用い、溶媒及び昇華性物質の濃度等を下記表3に示すように変更して、実施例1と同様に工程(I)と工程(II)を行い、50℃のホットプレート上へ評価用試料を移動させた後に目視で凝固体の消失が確認されるまで静止状態で加熱した(工程(IIIb))。工程(I)と(II)は、23~24℃、1気圧の窒素雰囲気下で、また、工程(IIIb)は、50℃、1気圧の窒素雰囲気下で行った。工程(IIIb)完了後の評価用試料を実施例1と同様に評価した結果を下記表3に示した。
なお、比較例11では昇華性物質を用いず、溶媒のみを乾燥用組成物として用いた。また、比較例12では溶媒を用いず、昇華性物質の融液を乾燥用組成物として用いた。比較例13~15では、上記条件(1)を満たすものの、上記条件(2)を満たさない組成物を乾燥用組成物として用いた。
【0064】
(実施例17~21、比較例16)
昇華性物質としてDCOFCPAを用い、溶媒及び昇華性物質の濃度等を下記表4に示すように変更して、実施例1と同様に評価用試料作製及び評価を行った。結果を下記表4に示した。なお、比較例16では、上記条件(1)及び条件(2)をともに満たさない組成物を乾燥用組成物として用いた。
【0065】
(実施例22~37、比較例17)
表7に記載の昇華剤濃度(質量%)となるように、昇華剤(昇華性物質)を溶媒に混合して、乾燥用組成物を調製した。実施例1と同様に評価用試料作製及び評価を行った。
【0066】
(実施例38~40)
表8に記載の混合比(質量%)となるように、昇華剤1及び昇華剤2(昇華性物質)を、溶媒1及び/又は溶媒2に混合して、乾燥用組成物を調製した。実施例1と同様に評価用試料作製及び評価を行った。
【0067】
下記表1~4、7、8には、各実施例及び比較例で使用した溶媒の種類、昇華性物質の沸点又は昇華点と溶媒の沸点の差、乾燥用組成物における昇華性物質の濃度、置換性(工程(I)に要した乾燥用組成物の量)、凝固時間(工程(II)所用時間)、昇華時間(工程(III)または工程(IIIb)所用時間)、パターン倒れ率を記載した。
溶媒の略称、沸点及び蒸気圧は下記表5に記載した。
昇華性物質の略称、凝固点、沸点及び蒸気圧は下記表6に記載した。
また、すべての実施例及び比較例における昇華性物質は、あらかじめ精製されたものを用いた。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
この出願は、2019年3月19日に出願された日本出願特願2019-051796号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。