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  • 特許-β-ジケトン保存容器及び充填方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】β-ジケトン保存容器及び充填方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 85/84 20060101AFI20240403BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20240403BHJP
   B65D 23/02 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B65D85/84
C23C16/42
B65D23/02 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021522711
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2020017308
(87)【国際公開番号】W WO2020241128
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019099431
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 謙太
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】田中 一樹
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190165(JP,A)
【文献】特許第6517994(JP,B1)
【文献】特開2006-176180(JP,A)
【文献】国際公開第2018/128079(WO,A1)
【文献】特開平04-367441(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0367300(US,A1)
【文献】米国特許第8590705(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 85/84
C23C 16/42
B65D 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体状のβ-ジケトンを充填するための金属製の保存容器に、液体状のβ-ジケトンが充填されていることを特徴とするβ-ジケトン充填済み容器であって、
前記金属が、アルミニウム素材であり、
前記保存容器の内表面が、二酸化ケイ素、窒化炭化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ダイヤモンド及びダイヤモンドライクカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1つの材料を含む無機皮膜を有する、
ことを特徴とする、β-ジケトン充填済み容器
【請求項2】
前記β-ジケトンが、化学式にフッ素原子を含むことを特徴とする請求項1に記載のβ-ジケトン充填済み容器
【請求項3】
前記アルミニウム素材が、純アルミニウム、Al-Mg合金、又はAl-Mg-Si系合金であることを特徴とする請求項1または2に記載のβ-ジケトン充填済み容器
【請求項4】
前記無機皮膜の膜厚が、10nm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のβ-ジケトン充填済み容器
【請求項5】
前記保存容器が、前記β-ジケトンの1気圧での沸点以上に加熱されて使用されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のβ-ジケトン充填済み容器
【請求項6】
前記β-ジケトンが、ヘキサフルオロアセチルアセトンであり、
前記無機皮膜が、二酸化ケイ素、窒化炭化ケイ素及びダイヤモンドライクカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1つの材料を含み、
前記無機皮膜の膜厚が、500nm以上50μm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のβ-ジケトン充填済み容器
【請求項7】
前記無機皮膜が、二酸化ケイ素及び窒化炭化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1つの材料を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のβ-ジケトン充填済み容器
【請求項8】
80℃で1年間保持した後でも、前記β-ジケトン中のアルミニウム濃度の増加量が50質量ppb以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のβ-ジケトン充填済み容器。
【請求項9】
内表面に、二酸化ケイ素、窒化炭化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1つの材料を含む無機皮膜が形成されている、アルミニウム素材製の保存容器に、液体状のβ-ジケトンを充填する充填工程を含むことを特徴とする、β-ジケトンの充填方法。
【請求項10】
前記充填工程の前に、前記保存容器の内表面を、10℃以上の温度で、前記充填工程で充填するβ-ジケトンと同じβ-ジケトンにより洗浄する洗浄工程を有することを特徴とする請求項に記載のβ-ジケトンの充填方法。
【請求項11】
前記洗浄工程の温度が、80℃以上であることを特徴とする請求項10に記載のβ-ジケトンの充填方法。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載のβ-ジケトン充填済み容器、あるいは請求項9~11のいずれか1項に記載の充填方法により得られたβ-ジケトン充填済み容器を、60℃以上に加熱して、β-ジケトンを気体で供給する供給工程を含むことを特徴とする、β-ジケトンの供給方法。
【請求項13】
前記供給工程では、前記β-ジケトン充填済み容器を、80℃以上に加熱することを特徴とする請求項12に記載のβ-ジケトンの供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体製造装置で使用されるβ-ジケトンの保存容器等に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン(1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロ-2,4-ペンタンジオン)などを代表としたβ-ジケトンは数多くの種類の金属と容易に反応し錯体を形成することから、現在、半導体層や金属層の成膜またはエッチング、及びチャンバー内のクリーニングなど、半導体製造装置での使用が期待されている。半導体製造装置で使用するためには、β-ジケトン中のわずかな不純物が製品の品質に影響を及ぼすため高純度のものが要求される。
【0003】
有機材料であるβ-ジケトンは、通常は、耐久性樹脂またはガラス製の容器に保存される。しかし、容器の密閉性、耐久性、配管との接続の容易さの観点から、実際に半導体製造装置で使用するためには、金属製容器に入れて使用することが望ましい。
【0004】
しかし、金属製容器にβ-ジケトンを保存する場合、容器を構成する金属とβ-ジケトンが錯体を形成してβ-ジケトン中に金属が溶出し、保存中にβ-ジケトン中の金属不純物が増加するという問題があった。
【0005】
特許文献1においては、ステンレス鋼などの金属製容器の内表面に、四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体であるPFAなどの化学的に安定なフッ素樹脂の皮膜を形成した薬品容器が、耐薬品性を備えた金属製容器として検討されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載のフッ素樹脂の皮膜を形成したステンレス鋼製の容器に、β-ジケトンを保存する場合、β-ジケトンがフッ素樹脂を透過して一部は金属表面まで到達してしまうため、金属成分の溶出を防止することができなかった。
【0007】
また、特許文献2においては、保存する液体、例えば液晶材料などの融点が-70℃から30℃の有機材料の比抵抗等の品位を十分に維持するために、鉄、銅、耐腐食性鋼鉄、アルミニウム又はチタンから選ばれる金属製容器の内表面に10nm~1000μmの膜厚を有する無機皮膜を形成している。
【0008】
β-ジケトンは鉄などの遷移金属と錯体を形成しやすいので、ステンレス鋼などの遷移金属を含む材料は、β-ジケトンの保存容器の材料として好ましくない。そこで、β-ジケトンとは錯体を形成しにくいアルミニウム素材を用いた容器にβ-ジケトンを保存することが考えられる。
【0009】
特許文献3においては、ヘキサフルオロアセチルアセトンをAl製容器、Al-Mg合金製容器、またはAl-Mg-Si系合金製容器に保存する場合、容器への導入直後に金属製容器の内表面に存在する自然酸化膜と反応し、金属錯体が生成して純度が低下する問題が生じることから、事前にその自然酸化膜を除去する洗浄工程を設けることで、純度の低下を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平4-201854号公報(特許第2882421号公報)
【文献】特開2017-190165号公報
【文献】特開2006-176180号公報(特許第4460440号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、半導体製造装置に気体のβ-ジケトンを供給する場合、β-ジケトン充填済み容器を液体のβ-ジケトンが気化する温度まで加熱する必要がある。例えば、ヘキサフルオロアセチルアセトンは、一気圧での沸点が約70℃であり、気体として使用する場合は保存容器を少なくとも60℃以上、好ましくは80℃まで加熱する必要があるが、特許文献3に記載されているように自然酸化膜を除去したアルミニウム製容器を用いても、加熱を長時間続けた場合、β-ジケトン中への金属成分の溶出を防止することができなかった。なお、半導体製造装置に気体のβ-ジケトンを供給する場合、気体のβ-ジケトンを供給するときにのみβ-ジケトン充填済み容器を加熱する場合もあるが、気体のβ-ジケトンを供給しないときでも、β-ジケトン充填済み容器を加熱し続ける場合がある。そのため、β-ジケトン充填済み容器を長時間加熱し続けても、β-ジケトン中への金属成分の溶出を抑えることが求められている。
【0012】
本開示は、液体のβ-ジケトンを充填し、上記液体のβ-ジケトンを気化できる状態に保持したときであっても、液体のβ-ジケトン中の金属不純物の増加を抑制することのできる、β-ジケトンの保存容器等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、内面に二酸化ケイ素(SiO)、窒化炭化ケイ素(SiCN)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の無機皮膜が形成されたAl製またはAl合金製の保存容器にβ-ジケトンを保存すると、高温で長期間保持してもβ-ジケトン中の金属不純物の増加を抑制できることを見出し、本開示に到達した。
【0014】
すなわち本開示は、内部に液体状のβ-ジケトンを充填するための金属製の保存容器であって、上記金属が、アルミニウム素材であり、上記保存容器の内表面が、二酸化ケイ素、窒化炭化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ダイヤモンド及びダイヤモンドライクカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1つの材料を含む無機皮膜を有する、ことを特徴とする、β-ジケトン保存容器を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本開示により、液体のβ-ジケトンを充填し、上記液体のβ-ジケトンを気化できる状態に保持したときであっても、液体のβ-ジケトン中の金属不純物の増加を抑制することのできる、β-ジケトンの保存容器等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施形態に係る保存容器の断面概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本開示の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0018】
[充填済み容器]
本実施形態のβ-ジケトン充填済み容器10を図1に示す。β-ジケトン充填済み容器10は、液体状のβ-ジケトンを金属製の保存容器11に充填して得られる。保存容器11中では、β-ジケトンは気相21と液相23に分かれている。保存容器11には、β-ジケトンの充填と取出が可能な取出口13が取り付けられており、気相21のβ-ジケトンを気体で供給することができる。その際に、β-ジケトン充填済み容器10を加熱し、液相23のβ-ジケトンの気化熱を補う必要がある。
【0019】
[保存容器]
本開示の好ましい実施形態において、金属製の保存容器11は、アルミニウム素材を用いて成形された容器であり、その内表面に二酸化ケイ素(SiO)、窒化炭化ケイ素(SiCN)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の無機皮膜15が形成されている。本開示において、アルミニウム素材とは、JIS H 4000:2014にて規定された純アルミニウム及びアルミニウム合金をいう。
【0020】
本開示の好ましい実施形態において、アルミニウム素材としては、純度が99質量%以上、好ましくは99.5質量%以上で残部が不可避不純物である純アルミニウム、例えば、A1050を使用することができる。アルミニウム合金としては、Alを90質量%以上99.9質量%以下含み、Mgを0.1質量%以上10質量%以下含むAl-Mg合金、例えば、A5052を使用することができる。また、アルミニウム合金としては、Alを94質量%以上99.8質量%以下含み、Mgを0.1質量%以上5質量%以下含み、Siを0.1質量%以上1質量%以下含むAl-Mg-Si系合金、例えば、A6061を使用することができる。
【0021】
保存容器は、β-ジケトンの1気圧での沸点以上に加熱されて使用される。保存容器の形状は、特に限定されないが、一般的には、ボンベやシリンダーと呼ばれる、一端が閉じていて、他端が液体状のβ-ジケトンの充填及びガス状態のβ-ジケトンの取出ができる開口部が設けられた円筒形状とすることができる。開口部には取出口13を設けることができ、取出口13からは、ガス状態のβ-ジケトンを外部に供給することができる。
【0022】
無機皮膜の膜厚は10nm以上1000μm以下であることが好ましい。より好ましくは100nm以上100μm以下、さらに好ましくは500nm以上50μm以下である。
無機皮膜が薄すぎると、無機皮膜の欠陥などからβ-ジケトンと金属とが接触する可能性があるので、無機皮膜の膜厚は500nm以上あることが好ましい。
【0023】
本実施形態にかかる保存容器は、アルミニウム素材の板を用いて容器を作成した後、内表面に無機皮膜を形成して得られる。保存容器の内表面に無機皮膜を形成する方法として、真空蒸着やスパッタリングなどの物理的気相成長法(PVD)、化学的気相成長法(CVD)、原料溶液を塗布して焼成する方法などが挙げられる。
【0024】
無機皮膜は、二酸化ケイ素(SiO)、窒化炭化ケイ素(SiCN)、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ダイヤモンド及びダイヤモンドライクカーボン(DLC)からなる群から選ばれる少なくとも1つの材料を含む。無機皮膜中の上記材料の含有量は99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましく、不可避不純物のみを含む高純度な無機皮膜であることが特に好ましい。
【0025】
炭化水素、あるいは、炭素の同素体からなる非晶質(アモルファス)の硬質膜である。
【0026】
窒化炭化ケイ素は、化学式ではSiC(xは0.3以上9以下、yは0.3以上9以下)で表される材料である。
【0027】
炭化ケイ素は、化学式ではSiCで表される材料である。
【0028】
窒化ケイ素は、化学式ではSiN(xは0.3以上9以下)で表される材料であり、通常はSiである。
【0029】
ダイヤモンドは、炭素原子がダイヤモンド立方晶系の結晶構造を持つ材料である。例えば、ダイヤモンド薄膜はCVD法により得ることができる。
【0030】
炭化水素、あるいは、炭素の同素体からなる非晶質(アモルファス)の硬質膜である。
【0031】
特に、本実施形態においては、無機皮膜は、二酸化ケイ素、窒化炭化ケイ素及びダイヤモンドライクカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1つの材料を含むことが好ましく、二酸化ケイ素及び窒化炭化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1つの材料を含むことがより好ましい。
【0032】
β-ジケトンは、2個のカルボニル基が1個の炭素を隔てて結合した化合物であり、具体的には、R-CO-CR-CO-R(R、Rは炭素数1~10の炭化水素基であり、ヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい。R、Rは、水素原子、ハロゲン原子、又はR、Rと同様の炭化水素基である。ヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄、リン、塩素、ヨウ素又は臭素を挙げられる。R~Rは、同じであっても異なっていてもよい。但し、炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造のものも使用できる。)で表される化合物が好ましい。具体的には、β-ジケトンとして、アセチルアセトンやヘキサフルオロアセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトンなどを挙げることができる。
【0033】
特に、本実施形態で用いるβ-ジケトンは、化学式にフッ素原子を含むことが好ましい。具体的には、β-ジケトンとして、ヘキサフルオロアセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、1,1,1,6,6,6-ヘキサフルオロ-2,4-ヘキサンジオン、4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-1,3-ブタンジオン、4,4,4-トリフルオロ-1-フェニル-1,3-ブタンジオン、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロ-3-メチル-2,4-ペンタンジオン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタフルオロ-2,4-ペンタンジオン及び1,1,1-トリフルオロ-5,5-ジメチル-2,4-ヘキサンジオンを挙げることができる。
【0034】
[充填方法]
本実施形態におけるβ-ジケトンの充填方法は、前述の保存容器に液体状のβ-ジケトンを充填する充填工程を含むことを特徴とする。本実施形態の充填方法により、本実施形態のβ-ジケトン充填済み容器を得ることができる。
【0035】
本実施形態の充填方法は、充填工程の前に、保存容器の内表面を、10℃以上の温度で、充填工程で充填するβ-ジケトンと同じβ-ジケトンにより洗浄する洗浄工程を有することが好ましい。洗浄工程では、まず不活性ガスにより置換した容器内に液体状のβ-ジケトンを入れて密閉し、一定の温度で一定時間保持する。この際、不活性ガスの種類については特に問わない。温度については、10~400℃の温度範囲が好ましい。より好ましいのは20~200℃の温度範囲、さらに好ましくは40~120℃の温度範囲である。また、保持時間は、適宜設定することができるが、1分以上1週間以内が好ましく、1時間以上5日以内がより好ましい。次に、容器内の液体状のβ-ジケトンを廃棄し、もう一度液体状のβ-ジケトンにより洗浄した後、不活性ガス雰囲気下で乾燥を行う。この際の不活性ガスの種類、条件についても特に問わない。不活性ガスとして、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス、クリプトンガス又はキセノンガスを用いることができる。
【0036】
なお、洗浄工程において、容器内に液体状のβ-ジケトンを入れて密封した際の温度を、80℃以上にすることが好ましく、90℃以上にすることがより好ましく、100℃以上にすることがさらに好ましい。
【0037】
[β-ジケトンの供給方法]
本実施形態におけるβ-ジケトンの供給方法は、前述の充填方法により得られたβ-ジケトン充填済み容器を、60℃以上に加熱して、気体のβ-ジケトンを供給する供給工程を含むことを特徴とする。
【0038】
供給工程におけるβ-ジケトン充填済み容器の加熱温度は、70℃以上であってもよく、80℃以上であってもよい。温度が高くなるほど、気体のβ-ジケトンを大量に供給することが容易となるが、金属成分の溶出が生じやすくなる。また、容器の加熱時間は特に限定されないが、気体のβ-ジケトンの供給が必要なときにのみ加熱を行ってもよいし、1月以上や1年以上といった長期間にわたって加熱し続けてもよい。
【0039】
本実施形態のβ-ジケトン保存容器中のβ-ジケトンは、仮に80℃で1年間保持したとしても、液体状のβ-ジケトン中のアルミニウムの濃度の増加量が、50質量ppb以下であることが好ましい。より好ましくは30質量ppb以下、さらに好ましくは10質量ppb以下である。
【実施例
【0040】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、かかる実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1~9、比較例1~3]
厚み1μmの二酸化ケイ素(SiO)、窒化炭化ケイ素(SiCN)又はダイヤモンドライクカーボン(DLC)の無機皮膜を内表面に形成したAl(A1050)製容器、Al-Mg合金(A5052)製容器及びAl-Mg-Si系合金(A6061)製容器、並びに、無機皮膜を内表面に形成していないAl(A1050)製容器、Al-Mg合金(A5052)製容器及びAl-Mg-Si系合金(A6061)製容器を準備した。なお、SiOの無機皮膜は、シリカの原料溶液を塗布したのち、300℃以上で焼成することによって得た。SiCNの無機皮膜は、PVD法により得た。DLCの無機皮膜は、プラズマCVD法により得た。いずれの無機皮膜も各材料の含有量が99質量%以上であった。
【0042】
次に、窒素ガスによって容器内を置換した。容器内に液体状のβ-ジケトンを入れて密閉した後加熱し、100℃で4日間保持し、容器内を洗浄した。容器内の液体状のβ-ジケトンを廃棄し、もう一度液体状のβ-ジケトンで洗浄した後、窒素ガスにて乾燥し、容器内を窒素ガスで置換した。
【0043】
上記容器に液体状のβ-ジケトンとして、AlとFeの濃度がいずれも5質量ppb以下のヘキサフルオロアセチルアセトンを入れて密閉した後、80℃に加熱して1月又は1年間放置した。容器内の液体状のβ-ジケトン中の金属成分を、試験前と1月後と1年後に、ICP-MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectroscopy)を用いて分析した。なお、各実施例と比較例において、窒素ガスとしてフィルターにより金属パーティクルを除去した窒素ガスを使用した。
【0044】
以上の操作で得られた結果を表1に示す。実施例1~6によると、SiO又はSiCNの無機皮膜を内表面に形成した容器からは、1月後と1年後のそれぞれにおいて、Al成分の増加が認められていない。一方、比較例1~3によると、内表面に無機皮膜を持たない容器内の液体状のβ-ジケトンからはAl成分の増加が認められた。実施例7~9によると、DLCの無機皮膜を有する容器内のβ-ジケトンに関しては、1月後にはAl成分の増加が認められなかったものの、1年後にはAl成分の増加は見られたが、比較例1~3と比較した場合、増加量は少なかった。
【0045】
特許文献3に記載されている実施例では30℃で1週間又は2週間保持してもヘキサフルオロアセチルアセトン中のAl濃度が変わっていなかったが、特許文献3に記載された保存方法を追試した比較例1~3では、80℃という高温で、1月以上という長期間保持したため、Al成分の増加が認められた。
【0046】
[実施例10、比較例4]
洗浄工程における温度を100℃から20℃に変更する以外は、実施例1及び比較例1と同様に、β-ジケトンの保存試験を行った。
【0047】
以上の操作で得られた結果を表1に示す。実施例10と比較例4を比較すると、20℃で洗浄した場合でも、無機皮膜があれば、Al成分の増加を抑えられることが分かった。ただし、実施例10と実施例1を比較すると、β-ジケトンを充填する前に、100℃で洗浄した実施例1の方が、20℃で洗浄した実施例10よりもAl成分の増加を抑えられることが分かった。
【0048】
[比較例5]
厚み1μmのPFAを内表面に有するステンレス鋼(SUS304L)製容器を用いた以外は実施例1と同様に、β-ジケトンの保存試験を行った。
【0049】
以上の操作で得られた結果を表1に示す。比較例5によると、PFAを内表面に有するステンレス鋼製容器内の液体状のβ-ジケトンからはFe成分の大幅な増加が認められた。比較例5から、特許文献1に記載の容器では、金属成分の溶出を防止できないことが明らかとなった。
【0050】
また、仮にステンレス鋼容器の内表面に、SiO等の無機皮膜を形成するとしても、ステンレス鋼に由来する金属成分がβ-ジケトンに溶出することを防げないと考えられる。
【0051】
以上の結果より、金属製容器としてアルミニウム素材を用い、SiO、SiCN又はDLCの無機皮膜を内表面に有する容器を使用することで、高温での長期保存中の液体状のβ-ジケトン中の金属成分の増加を防ぐことができたことが分かる。また、金属製容器としてアルミニウム素材を用い、炭化ケイ素、窒化ケイ素又はダイヤモンドの無機皮膜を内表面に有する容器を使用した場合においても、高温での長期保存中の液体状のβ-ジケトン中の金属成分の増加を防ぐことができる。
【0052】
【表1】
【0053】
本願は、2019年5月28日に出願された日本国特許出願2019-099431号を基礎として、パリ条約ないし移行する国における法規に基づく優先権を主張するものである。該出願の内容は、その全体が本願中に参照として組み込まれている。
【符号の説明】
【0054】
10 β-ジケトン充填済み容器
11 保存容器
13 取出口
15 無機皮膜
21 気相
23 液相
図1