(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】内燃機関と回転電機とを用いたハイブリッド駆動装置及び補助動力装置
(51)【国際特許分類】
B60K 6/36 20071001AFI20240403BHJP
B60K 6/383 20071001ALI20240403BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20240403BHJP
B60K 6/50 20071001ALI20240403BHJP
B60K 6/543 20071001ALI20240403BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240403BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240403BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20240403BHJP
B60W 20/40 20160101ALI20240403BHJP
B60K 6/365 20071001ALI20240403BHJP
B62M 23/02 20100101ALI20240403BHJP
【FI】
B60K6/36
B60K6/383 ZHV
B60K6/387
B60K6/50
B60K6/543
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/10
B60W20/40
B60K6/365
B62M23/02 110
(21)【出願番号】P 2022037991
(22)【出願日】2022-03-11
【審査請求日】2024-01-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599161580
【氏名又は名称】株式会社デンソートリム
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【氏名又は名称】碓氷 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 辰哉
(72)【発明者】
【氏名】森 幸司
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-154861(JP,A)
【文献】特開2000-108694(JP,A)
【文献】特開2003-220843(JP,A)
【文献】特開2021-091402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B62M 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(100)の駆動力を受けて回転可能で、駆動部へ駆動力を伝達する駆動軸(130)と、遠心クラッチロータを有し前記内燃機関の回転数が所定数未満の場合前記内燃機関の駆動力を前記駆動軸に伝達せず前記内燃機関の回転数が所定数以上の場合前記内燃機関の駆動力を前記駆動軸に伝達する遠心クラッチ機構(400)とを備える動力装置に用いられる補助動力装置であって、
周方向に永久磁石を複数配置し前記駆動軸と同軸上で回転可能なロータと、固定カバーに固定され前記永久磁石と対向する複数のコイルを有するステータとを備える回転電機(200)と、
この回転電機の回転を制御する制御装置(250)と、
サンギヤが前記駆動軸と一体に回転し、リングギヤが前記回転電機の前記ロータと共に回転し、前記リングギヤと前記サンギヤとの間に遊星ギヤ及び前記遠心クラッチロータと共に回転する遊星キャリアを備える遊星歯車機構(500)とを備え、
前記回転電機の駆動力で前記駆動軸を回転させるモードでは、前記回転電機の回転を前記リングギヤ及び前記遊星ギヤを介して前記サンギヤに伝えて前記駆動軸を回転させ、
前記内燃機関の駆動力で前記駆動軸を回転させるモードでは、前記内燃機関の回転を前記遠心クラッチロータから前記遊星キャリア及び前記遊星ギヤを介して前記サンギヤに伝えて前記駆動軸を回転させ、
前記回転電機の駆動力を用いず前記内燃機関の駆動力で前記駆動軸を回転させるモードでは、前記リングギヤの回転を停止する補助動力装置。
【請求項2】
内燃機関(100)の駆動力を受けて回転可能で駆動部へ駆動力を伝達する駆動軸(130)と、遠心クラッチロータを有し前記内燃機関の回転数が所定数未満の場合前記内燃機関の駆動力を前記駆動軸に伝達せず前記内燃機関の回転数が所定数以上の場合前記内燃機関の駆動力を前記駆動軸に伝達する遠心クラッチ機構(400)とを備える動力装置に用いられる補助動力装置であって、
周方向に永久磁石を複数配置し前記駆動軸と同軸上で回転可能なロータと、固定カバーに固定され前記永久磁石と対向する複数のコイルを有するステータとを備える回転電機(200)と、
この回転電機の回転を制御する制御装置(250)と、
サンギヤが前記駆動軸と一体に回転し、リングギヤが前記回転電機の前記ロータと共に回転し、前記リングギヤと前記サンギヤとの間に遊星ギヤ及び前記遠心クラッチロータと共に回転する遊星キャリアを備える遊星歯車機構(500)と、
前記遠心クラッチロータと前記固定カバーとの間に介在して前記遠心クラッチロータの第1方向の回転を前記遠心クラッチロータと前記固定カバーとの間で許容して前記遠心クラッチロータの前記第1方向とは逆方向の第2方向の回転は前記遠心クラッチロータを前記固定カバーにロックして許容しない第2ワンウェイクラッチ(620)とを備える補助動力装置。
【請求項3】
前記遊星キャリア(503)は前記遠心クラッチロータに形成されている
請求項1又は請求項2に記載の補助動力装置。
【請求項4】
内燃機関(100)の駆動力を受けて回転可能で駆動部へ駆動力を伝達する駆動軸(130)と、遠心クラッチロータを有し前記内燃機関の回転数が所定数未満の場合前記内燃機関の駆動力を前記駆動軸に伝達せず前記内燃機関の回転数が所定数以上の場合前記内燃機関の駆動力を前記駆動軸に伝達する遠心クラッチ機構(400)とを備える動力装置に用いられる補助動力装置であって、
周方向に永久磁石を複数配置し前記駆動軸と同軸上で回転可能なロータと、固定カバーに固定され前記永久磁石と対向する複数のコイルを有するステータとを備える回転電機(200)と、
この回転電機の回転を制御する制御装置(250)と、
サンギヤが前記駆動軸と一体に回転し、リングギヤが前記回転電機の前記ロータと共に回転し、前記リングギヤと前記サンギヤとの間に遊星ギヤ及び前記遠心クラッチロータと共に回転する遊星キャリアを備える遊星歯車機構(500)とを備え、
前記回転電機の回転を前記駆動軸に伝達するモードでは、前記ロータの回転を前記遊星歯車機構を介して前記駆動軸に伝達し、
前記回転電機の回転が不使用で、前記内燃機関の駆動力で前記駆動軸を回転させる第3モードでは、前記内燃機関の回転を前記遠心クラッチロータ及び前記遊星歯車機構を介して前記駆動軸に伝達すると共に、前記回転電機の前記ロータは前記永久磁石が前記ステータに吸引されることによる回転抑制トルクによって回転停止する補助動力装置。
【請求項5】
前記内燃機関が所定数以上の回転数で回転し、前記回転電機も回転する第4モードでは、前記内燃機関の回転が、前記遠心クラッチロータ、前記遊星キャリア、前記遊星ギヤ及び前記サンギヤを介して前記駆動軸に伝達されると共に、前記ロータの回転が前記リングギヤ、前記遊星ギヤ及び前記サンギヤを介して前記駆動軸に伝達される
請求項1から請求項4のいずれかに記載の補助動力装置。
【請求項6】
前記固定カバーと前記回転電機の前記ロータとの間に、前記ロータを前記固定カバーに固定する固定状態と前記ロータを前記固定カバーから離脱させる離脱状態とを切り替えるロータアクチュエータ(750)を介在させ、
このロータアクチュエータの前記離脱状態で、前記第3モードを行うと共に、
前記ロータアクチュエータの前記固定状態でも、前記第3モードにおける前記ロータの回転停止状態の補助を行う
請求項4に記載の補助動力装置。
【請求項7】
内燃機関(100)の駆動力を受けて回転可能で駆動部へ駆動力を伝達する駆動軸(130)と、遠心クラッチロータを有し前記内燃機関の回転数が所定数未満の場合前記内燃機関の駆動力を前記駆動軸に伝達せず前記内燃機関の回転数が所定数以上の場合前記内燃機関の駆動力を前記駆動軸に伝達する遠心クラッチ機構(400)とを備える動力装置に用いられる補助動力装置であって、
周方向に永久磁石を複数配置し前記駆動軸と同軸上で回転可能なロータと、固定カバーに固定され前記永久磁石と対向する複数のコイルを有するステータとを備える回転電機(200)と、
この回転電機の回転を制御する制御装置(250)と、
サンギヤが前記駆動軸と一体に回転し、リングギヤが前記回転電機の前記ロータと共に回転し、前記リングギヤと前記サンギヤとの間に遊星ギヤ及び前記遠心クラッチロータと共に回転する遊星キャリアを備える遊星歯車機構(500)とを備え、
前記制御装置は、前記回転電機の第1方向の回転及びこの第1方向とは逆方向の第2方向の回転を制御し、
前記遠心クラッチロータと前記駆動軸との間に介在して前記遠心クラッチロータの前記第1方向の回転を前記遠心クラッチロータと前記駆動軸との間で伝達し前記駆動軸の前記第1方向の回転は前記駆動軸と前記遠心クラッチロータとの間で伝達しない第1ワンウェイクラッチ(610)と、前記遠心クラッチロータと前記固定カバーとの間に介在して前記遠心クラッチロータの前記第1方向の回転を前記遠心クラッチロータと前記固定カバーとの間で許容して前記遠心クラッチロータの前記第2方向の回転は前記遠心クラッチロータを前記固定カバーにロックして許容しない第2ワンウェイクラッチ(620)とを有するワンウェイクラッチ機構(600)を更に備え、
前記内燃機関の停止時ないし所定数未満回転数での回転時で、かつ、前記回転電機を前記第1方向に回転する第1モードでは、前記ロータの回転が、前記リングギヤ、前記遊星ギヤ、前記遊星キャリア、前記遠心クラッチロータ及び前記第1ワンウェイクラッチを介して前記駆動軸に伝達される補助動力装置。
【請求項8】
前記内燃機関の停止時ないし所定数未満回転数での回転時で、かつ、前記回転電機が前記第2方向に回転する第2モードでは、前記遠心クラッチロータは前記第2ワンウェイクラッチにより前記固定カバーに固定されて前記遊星キャリアは固定され、前記ロータの回転が、前記リングギヤ、前記遊星ギヤ及び前記サンギヤを介して前記駆動軸に伝達される
請求項7に記載の補助動力装置。
【請求項9】
前記固定カバーと前記第2ワンウェイクラッチとの間に、前記第2ワンウェイクラッチを前記固定カバーに固定する固定状態と前記第2ワンウェイクラッチを前記固定カバーから離脱させる離脱状態とを切り替えるアクチュエータ(700)を介在させ、
前記アクチュエータの前記離脱状態では、前記駆動軸が前記第2方向に回転するのを許容する第5モードを行う
請求項7又は請求項8に記載の補助動力装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の補助動力装置と、
前記内燃機関(100)と、
この内燃機関の駆動力を受けて回転可能で、駆動部へ駆動力を伝達する前記駆動軸(130)と、
この回転電機に電気接続するバッテリ(351)と、
このバッテリと前記回転電機とに電気接続し、前記回転電機の回転を制御する前記制御装置とを備える内燃機関と回転電機を用いたハイブリッド駆動装置。
【請求項11】
前記内燃機関により駆動される第2回転電機(300)を更に備え、
前記回転電機は前記駆動軸の駆動用モータとして用いられ、
前記第2回転電機は、前記内燃機関の始動を行うスタータ及び前記バッテリへの充電を行うジェネレータとして用いられる
請求項10に記載の内燃機関と回転電機を用いたハイブリッド駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の記載は、内燃機関と回転電機とを用いたハイブリッド駆動装置及び補助動力装置に関し、例えば二輪車の駆動装置や補助動力装置として用いて有用である。
【背景技術】
【0002】
二輪車の駆動装置として内燃機関と回転電機とを用いるハイブリッド駆動装置は知られている。このようなハイブリッド駆動装置では、内燃機関のみによる走行時にも回転電機が回転するため、回転電機の磁気抵抗によるフリクションロスが発生することが懸念される。そこで、この磁気フリクションロスを低減する機構が、特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-271040号公報
【文献】特開2007-99246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のハイブリッド駆動装置では、回転電機の永久磁石による界磁を調整する調整機構を備え、回転電機のトルクを調整するようにしている。また、特許文献2に記載のハイブリッド駆動装置では、ギャップ調整器を用いて回転電機のロータとステータとのギャップを調整している。
【0005】
ただ、いずれも調整のためのメカニカルな可動スペースが必要となっていた。また、いずれも調整のためのアクチュエータ等を用いており、機構や構成が複雑化していた。また、アクチュエータ等の搭載のスペースも必要となり、かつ、アクチュエータ等の制御を行うコントローラも必要となっていた。
【0006】
本件の開示は、回転電機に特別なアクチュエータ等及びこのアクチュエータ等を制御するコントローラを追加することなく、内燃機関と回転電機とを用いるハイブリッド駆動装置を達成することを課題とする。
【0007】
また、本開示は、内燃機関のみで駆動していた駆動装置に対し、特別なアクチュエータ等及びこのアクチュエータ等を制御するコントローラを追加しない回転電機を組み込むことで、内燃機関の駆動を補助できる補助動力装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一つは、内燃機関と、この内燃機関の駆動力を受けて回転可能で駆動部へ駆動力を伝達する駆動軸とを備える駆動装置である。また、本開示の第1の駆動装置は、周方向に永久磁石を複数配置し駆動軸と同軸上で回転可能なロータと、固定カバーに固定され永久磁石と対向する複数のコイルを有するステータとを有する回転電機と、この回転電機に電気接続するバッテリと、このバッテリと回転電機とに電気接続し、回転電機の回転を制御する制御装置も備えている。即ち、本開示の一つは、内燃機関と回転電機を用いたハイブリッド駆動装置である。
【0009】
本開示の第1は、内燃機関の回転数が所定数未満の場合内燃機関の駆動力が遠心クラッチロータに伝達されず、内燃機関の回転数が所定数以上の場合内燃機関の駆動力が遠心クラッチロータに伝達される遠心クラッチ機構を備えている。
【0010】
また、本開示の第1は、サンギヤが駆動軸と一体に回転し、リングギヤが回転電機のロータと共に回転し、リングギヤとサンギヤとの間に遊星ギヤ及び遊星キャリアを備える遊星歯車機構を備えている。そして、遊星キャリアは、遠心クラッチロータと共に回転する。 そして、本開示の第1は、回転電機の回転を駆動軸に伝達するモードでは、ロータの回転は遊星歯車機構を介して駆動軸に伝達される。
【0011】
本開示の第1では、回転電機の回転をリングギヤ及び遊星ギヤを介してサンギヤに伝えて駆動軸を回転させることができる。また、内燃機関の回転を遠心クラッチロータから遊星キャリア及び遊星ギヤを介してサンギヤに伝えて駆動軸を回転させることもできる。そして、内燃機関の回転を遠心クラッチロータから駆動軸に伝達する際には、リングギヤの回転を停止することで、回転電機を回転させないでおくことができる。
【0012】
本開示の他の態様は、遠心クラッチロータと固定カバーとの間に介在して遠心クラッチロータの第1方向の回転のみを遠心クラッチロータと固定カバーとの間で許容する第2ワンウェイクラッチ(620)を備えている。第2ワンウェイクラッチを用いることで、回転電機の第1方向の回転で駆動軸を回転させるモードに加え、回転電機の第1方向とは逆となる第2方向の回転で駆動軸を回転させるモードも行うことができる。本開示の更に他の態様は、内燃機関により駆動される第2回転電機を更に備えている。その為、本開示の第2では、回転電機は駆動軸の駆動用モータとして用いられ、第2回転電機は内燃機関の始動を行うスタータ及びバッテリへの充電を行うジェネレータとして用いられている。内燃機関のみを用いる駆動装置であっても、スタータ及びバッテリへの充電を行うジェネレータとして用いられる第2回転電機は備わっている。その為、本開示の他の態様では、回転電機を駆動軸の駆動用モータとしてのみ用いることができる。これにより、内燃機関と回転電機を用いたハイブリッド駆動装置としての最適設計が可能となる。
【0013】
本開示の他の態様は、内燃機関の駆動力を受けて回転可能で駆動部へ駆動力を伝達する駆動軸と、遠心クラッチロータを有し内燃機関の回転数が所定数未満の場合内燃機関の駆動力を駆動軸に伝達せず内燃機関の回転数が所定数以上の場合内燃機関の駆動力を駆動軸に伝達する遠心クラッチ機構とを備える動力装置に用いられる補助動力装置である。即ち、本開示の他の態様は、内燃機関及び遠心クラッチ機構を備える既存の動力装置に組み込む補助動力装置である。
【0014】
本開示の他の態様の補助動力装置は、周方向に永久磁石を複数配置し駆動軸と共に回転可能なロータと、固定カバーに固定され永久磁石と対向する複数のコイルを有するステータとを備える回転電機を有している。そして、本開示の他の態様でも、回転電機の回転をリングギヤ及び遊星ギヤを介してサンギヤに伝えて駆動軸を回転させることができる。また、内燃機関の回転を遠心クラッチロータから遊星キャリア及び遊星ギヤを介してサンギヤに伝えて駆動軸を回転させることもできる。本開示の他の態様でも、内燃機関の回転を遠心クラッチロータから駆動軸に伝達する際には、リングギヤの回転を停止することで、回転電機を回転させないでおくことができる。本開示の他の態様は、遊星キャリアは遠心クラッチロータに形成されている。本開示の他の態様では、遠心クラッチロータが遊星キャリアを兼ねるので、搭載スペースを小さくすることができる。
【0015】
本開示の他の態様は、回転電機の回転が不使用で、内燃機関の駆動力で駆動軸を回転させる第3モードでは、内燃機関の回転が、遠心クラッチロータ、遊星キャリア、遊星ギヤ及びサンギヤを介して駆動軸に伝達される。これにより、内燃機関のみの駆動力で駆動する第3モードが得られる。この第3モードでは、回転電機のロータは永久磁石がステータに吸引されることによる回転抑制トルクによって回転停止している。その為、回転電機は回転せず、磁気フリクションロスも発生しない。なお、本開示の磁気フリクションロスとは、ロータの磁石からステータに付与される交番磁束によって鉄損が生じることをいう。主な鉄損は、渦電流損とヒステリス損である。
【0016】
このように、本開示の他の態様では、回転電機の永久磁石の界磁を調整するのに、アクチュエータ等を用いて電気的に制御する必要がなくなる。特に、回転電機の駆動力を用いない第3モードでは、回転電機は停止しているので、永久磁石を有するロータの回転を止めることができる。その結果、ステータが交番磁束を受けることもなくなり、磁気フリクションロスが抑制される。本開示の他の態様は、内燃機関が所定数以上の回転数で回転し、回転電機も回転する第4モードでは、内燃機関の回転が、遠心クラッチロータ、遊星キャリア、遊星ギヤ及びサンギヤを介して駆動輪に伝達されると共に、ロータの回転がリングギヤ、遊星ギヤ及びサンギヤを介して駆動軸に伝達される。これにより、内燃機関の駆動力に更に回転電機の駆動力を加えるハイブリッド駆動装置の第4モードが得られる。
【0017】
本開示の他の態様は、固定カバーと回転電機のロータとの間に、ロータを固定カバーに固定する固定状態とロータを固定カバーから離脱させる離脱状態とを切り替えるロータアクチュエータを介在させている。そして、このロータアクチュエータの離脱状態で、第3モードを行うと共に、ロータアクチュエータの固定状態でも、第3モードにおけるロータの回転停止状態の補助を行う。
【0018】
本開示の他の態様も、第3モードにおけるロータの回転は、永久磁石がステータに吸引されることによる回転抑制トルクによって停止されている。加えて、ロータアクチュエータによってもロータの回転停止がアシストされている。
【0019】
本開示の他の態様は、制御装置は、回転電機の第1方向回転及びこの第1方向とは逆方向の第2方向回転を制御している。また、遠心クラッチロータと駆動軸との間に介在して遠心クラッチロータの第1方向の回転を遠心クラッチロータと駆動軸との間で伝達し駆動軸の第1方向の回転は駆動軸と遠心クラッチロータとの間で伝達しない第1ワンウェイクラッチと、遠心クラッチロータと固定カバーとの間に介在して遠心クラッチロータの第1方向の回転は遠心クラッチロータと固定カバーとの間で許容して遠心クラッチロータの第2方向の回転は遠心クラッチロータを固定カバーにロックして許容しない第2ワンウェイクラッチとを有するワンウェイクラッチ機構を更に備えている。
【0020】
そして、本開示の他の態様は、内燃機関の停止時ないし所定数未満回転数での回転時で、かつ、回転電機を第1方向に回転する第1モードでは、ロータの回転が、リングギヤ、遊星ギヤ、遊星キャリア、遠心クラッチロータ及び第1ワンウェイクラッチを介して駆動軸に伝達される。これにより、内燃機関を駆動させずに、回転電機で低速駆動するハイブリッド駆動装置の第1モードが得られる。
【0021】
本開示の他の態様は、内燃機関の停止時ないし所定数未満回転数での回転時で、かつ、回転電機が第2方向に回転する第2モードでは、遠心クラッチロータは第2ワンウェイクラッチにより固定カバーに固定されて遊星キャリアは固定され、ロータの回転が、リングギヤ、遊星ギヤ及びサンギヤを介して駆動軸に伝達される。これにより、内燃機関を駆動させず、回転電機で高速駆動するハイブリッド駆動装置の第2モードが得られる。
【0022】
本開示の他の態様は、固定カバーと第2ワンウェイクラッチとの間に、第2ワンウェイクラッチを固定カバーに固定する固定状態と第2ワンウェイクラッチを固定カバーから離脱させる離脱状態とを切り替えるアクチュエータを介在させている。
【0023】
そして、このアクチュエータの固定状態で、各種のモードを行うと共に、アクチュエータの離脱状態では、駆動軸が第2方向に回転するのを許容する第5モードを行う。
【0024】
この第5モードでは、遠心クラッチロータ及び遊星キャリアは非固定である。その為、駆動軸が第2方向に回転することが許容される。これにより、人力により駆動軸を第2方向に回転させることが可能となる。駆動装置が二輪車である場合には、人力による二輪車の後方移動が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、ハイブリッド駆動装置のシステム構成図である。
【
図2】
図2は、ハイブリッド駆動装置の主要構成構造を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2図示ハイブリッド駆動装置の構成図である。
【
図4】
図4は、ハイブリッド駆動装置を搭載した二輪車の側面図である。
【
図5】
図5は、ハイブリッド駆動装置を搭載した二輪車の背面図である。
【
図6】
図6は、停止時の遠心クラッチの状態を示す正面図である。
【
図7】
図7は、回転時の遠心クラッチの状態を示す正面図である。
【
図11】
図11は、噛合時のワンウェイクラッチの状態を示す正面図である。
【
図12】
図12は、空転時のワンウェイクラッチの状態を示す正面図である。
【
図13】
図13は、遊星歯車機構の第1モードないし第4モードの状態を説明する正面図である。
【
図14】
図14は、ハイブリッド駆動装置の他の例を示す構成図である。
【
図16】
図16は、ハイブリッド駆動装置の更に他の例を示す構成図である。
【
図18】
図18は、回転電機等の各モードにおける状態を説明する図である。
【
図19】
図19は、回転電機等の各モードにおける状態の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の一例を図に基づいて説明する。
図1は、ハイブリッド駆動装置1のシステム構成の概要を示す。ハイブリッド駆動装置1は、内燃機関100と、回転電機200を備える。
図1のハイブリッド駆動装置では、第2回転電機300も備えている。回転電機200が駆動装置として利用されるのに対し、第2回転電機300は内燃機関100の始動時のスタータや、内燃機関100の駆動力を受けて発電するジェネレータとして利用される。その為、回転電機200を専ら補助動力装置として利用することができる。
【0027】
第2回転電機300で発電した三相交流電流は、第2制御装置350で直流電流に変換されてバッテリ351に蓄えられる。第2制御装置350は、第2回転電機がスタータとして回転する際には、バッテリ351からの直流電流を第2制御装置350で三相交流に変換する。
【0028】
バッテリ351からの直流電流は、回転電機200へも供給される。回転電機200の回転は制御装置250で制御される。制御装置250でも直流電流を三相交流に変換して、回転速度を制御する。制御装置250は回転電機200の回転方向も制御する。即ち、制御装置250は、回転電機200を第1方向回転(例えば正回転)及びこの第1方向とは逆方向の第2方向回転(逆回転)に制御する。
【0029】
また、ハイブリッド駆動装置1は、
図2に示すように遠心クラッチ機構400も備えている。遠心クラッチ機構400は、内燃機関100の回転数が所定数未満の場合、内燃機関100の駆動力を遠心クラッチロータ420に伝達せず、内燃機関100の回転数が所定数以上の場合、内燃機関100の駆動力を遠心クラッチロータ420に伝達する。内燃機関100の駆動力を遠心クラッチロータ420に伝達する所定回転数は、例えば3000rpm程度である。そして、ハイブリッド駆動装置1は、回転電機200と遠心クラッチ機構400との間に、遊星歯車機構500と、ワンウェイクラッチ機構600とを配置している。
【0030】
図2に示すように、回転電機200、遊星歯車機構500、ワンウェイクラッチ機構600、及び遠心クラッチ機構400は、同軸上に配置されている。
図3は、これらの各構成を模式的に表した構成図であるが、
図3に示すように、各構成は固定カバー150内に配置されている。固定カバー150はアルミニウム若しくはアルミニウム合金製であるが、樹脂製としてもよい。樹脂材料としては、フッ素樹脂(PTFE、PFA)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ポリプロピレン(PP)や、ポリカーボネート(PC)等がある。
【0031】
図4及び
図5に示すように、固定カバー150は二輪車10の後輪に対向して車体に固定されている。より、具体的には、後輪の駆動軸130(
図3図示)側に配置されている。本開示のハイブリッド駆動装置が二輪車10に用いられる場合には、後輪が駆動輪120となる。
【0032】
以下に、各構成要素の内容を説明する。まず、遠心クラッチ機構400を説明する。内燃機関100は、シリンダ110内をピストン101が往復動し、このピストン101の往復動が、コンロッド102及びウェブ103を介して、クランクシャフト104に伝達される。クランクシャフト104はベアリングに軸支されて回転する。クランクシャフト104の回転は駆動プーリー105に伝達される。また、クランクシャフト104の回転は第2回転電機300にも伝達される。
【0033】
駆動プーリー105の回転は、ベルト106を介して遠心クラッチ機構400に伝達される。遠心クラッチ機構400は、
図2に示すように、ベルト106が従動プーリー410と係合しており、ベルト106の駆動力を受けて従動プーリー410が回転する。従動プーリー410は、遠心クラッチ軸受440で駆動軸130に軸支されている。駆動プーリー105及び従動プーリー410は、共に金属製で、圧延鋼板、アルミニウム若しくはアルミニウム合金等が用いられる。
【0034】
遠心クラッチ機構400は、
図6及び
図7に示すように、回転軸412に軸支された遠心クラッチシュー411を周方向に離して3つ設けている。遠心クラッチシュー411は回転軸412周りに回動可能となっており、回転軸412は従動プーリー410に固定されている。従動プーリー410が回転せず遠心クラッチシュー411が遠心力を受けない状態では、
図6に示すように、遠心クラッチバネ415により径方向内側に引き込まれている。なお、遠心クラッチシュー411はアルミニウム若しくはアルミニウムや鉄等の金属製である。
【0035】
図7は遠心力を受けた状態を示す。遠心クラッチシュー411に加わる遠心力が遠心クラッチバネ415の引張力に打ち勝つと、遠心クラッチシュー411は遠心クラッチロータ420の内周に当接する。遠心クラッチシュー411の外周面には、
図2に示すように、遠心クラッチロータ420との摩擦力を高める遠心クラッチライニング413が貼付されている。この遠心クラッチライニング413は、ノンアスベスト系材料からなる。
【0036】
遠心クラッチロータ420は、二輪車の後輪(駆動輪120)を駆動する駆動軸130に、後述するワンウェイクラッチ機構600の第1ワンウェイクラッチ610を介して支持される。駆動軸130の回転は、より具体的には、ファイナルギヤ140を介して駆動輪120に伝達される。かつ、遠心クラッチロータ420は、第1ワンウェイクラッチ610と共に回転可能な円盤状のクラッチ基盤421と、このクラッチ基盤421の外周に配置される円筒状のクラッチリング422とを一体に成形している。
【0037】
内燃機関100の停止状態や、内燃機関100の回転数が低い状態では、従動プーリー410も停止しているか、少ない回転数である。この状態では遠心クラッチロータ420は回転しないので、遠心クラッチバネ415の引張力で
図6の状態を維持している。
【0038】
内燃機関100の回転数が上昇して、従動プーリー410の回転数が所定以上になると、遠心力で遠心クラッチシュー411が回転軸412周りに外周に回動する。その結果、遠心クラッチシュー411がクラッチリング422の内周面に当接する。特に、遠心クラッチシュー411の外周面に遠心クラッチライニング413が貼付されているので、遠心クラッチシュー411とクラッチリング422との間の摩擦力は高くなっている。そのため、従動プーリー410の回転が遠心クラッチロータ420に伝達され、遠心クラッチロータ420は駆動軸130に支持されて回転する。
【0039】
次に、回転電機200を説明する。回転電機200は、
図3に示すように、固定カバー150に覆われている。上述の通り、固定カバー150は二輪車の内燃機関100の後方で後輪(駆動輪120)の車両側方付近で車体に固定されている。なお、固定カバー150の肉厚は4~5ミリメートル程度である。また、固定カバー150には固定カバー軸受151が配置されており、駆動軸130の先端はこの固定カバー軸受151によって回転自在に軸支されている。駆動軸130の他端には所定の減速比を有するファイナルギヤ140が配置され、ファイナルギヤ140の回転はタイヤ軸141を介して後輪(駆動輪120)に伝達される。従って、回転電機200の回転はファイナルギヤ140により減速して駆動輪120に伝達されることとなる。そのため、さほどトルクの大きくない回転電機200を用いたとしても、ファイナルギヤ140によりトルクが増加され、駆動輪120の回り出し摩擦抵抗に打ち勝って二輪車10を発進することが可能となる。
【0040】
回転電機200のロータ210は、ロータ軸受215によって駆動軸130に回転支持されている。従って、ロータ210は駆動軸130と一体に回転することも可能であり、駆動軸130のみ回転することもロータ210のみ回転することも可能である。ロータ210は、鉄材料製で
図3に示すように、ロータ軸受215を支持する基部216より径方向外方に延びる円盤部217と、この円盤部217の径方向外方部に形成される円筒部211を備えている。
図8に示すように、円筒部211の内方には、永久磁石212が12個、周方向に並んで配置されている。永久磁石212の厚みは、2~5ミリメートル程度である。なお、永久磁石212の数は、12個に限らず、20個や24個等要求性能に応じて適宜設定できる。また、永久磁石212は、使用用途に応じて種々選択可能である。磁力の強い希土類磁石を用いても良く、安価なフェライト磁石を用いる場合もある。
【0041】
ロータ210の内部には、
図3及び
図8に示すように、ステータ220が配置されている。ステータ220は、複数の磁性鋼板を積層してなり、固定カバー150に取り付けられる基盤部221、この基盤部221より径方向外方に延びる複数のティース部を一体に形成している。なお、
図8ではティース部を18個としているが、ティース部の数はステータ220の磁極数に応じて適宜設定できる。ステータ220の外径は、100~200ミリメートル程度となっており、従って、ロータ210の内径は、ステータ220の外径と永久磁石212との間に微小間隙が形成される大きさとなっている。
【0042】
基盤部221には、固定カバー150にステータ220を固定するためのステータボルト通し穴223が3か所形成されている。また、基盤部221には、後述するセンサケース230をステータ220に固定するためのセンサケースボルト通し穴も1カ所形成されている。尤も、センサケース230はステータ220ではなく、固定カバー150に固定することも可能である。また、センサケースボルト通し穴も2カ所以上としても良い。
【0043】
ティース部はポリアミド等の絶縁樹脂からなるインシュレーターで電気絶縁され、インシュレーターの上に銅線若しくはアルミニウム線からなるコイル224が巻装されている。従って、ティース部は図示されないが、コイル224が巻装される部位に位置する。
図9は、
図8からロータ210を外して、ステータ220とセンサケース230を示す斜視図である。
【0044】
図9に示すように、隣接するコイル224の間には隙間225が形成され、その隙間225は径方向外側に向けて広くなっている。また、センサケース230はセンサ本体部231と、センサ本体部231から隣接するコイル224の間に延びる第1ないし第3ホールセンサ232~234を備える。第1ないし第3ホールセンサ232~234は、隣接するコイル224間の隙間225に配置される。
【0045】
各ホールセンサ232~234は、2ミリメートル程度×3ミリメートル程度の大きさで、センサケース230でホールセンサ232~234は覆われている。従って、図では実際のホールセンサ232~234ではなく、ホールセンサ232~234を収納するセンサケース230の鞘部を示している。センサ本体部231は、ホールセンサ232~234のセンサ基盤を収納しており、ポリアミド等の樹脂材料で形成されている。
【0046】
第1ないし第3ホールセンサ232、233、234はN極とS極とが交互に着磁された永久磁石212と対向して、N極とS極とが交互に変動する位置を検出する。第1ないし第3ホールセンサ232、233、234のそれぞれの検出位置は、V相、W相、U相の通電時期に対応しており、この検出位置に応じ、回転電機200が駆動力としてモータ使用されるときには、U相、V相、W相に対応するコイル404への電圧の供給を制御する。なお、回転角センサはホールセンサ232~235に限らず、レゾルバ等他の角度センサを用いても良い。
【0047】
なお、第2回転電機300にも同様のホールセンサ232~234は設けられており、第2回転電機300が発電機として使用される際にもU相、V相、W相に対応するコイル404からの電流を制御するためのタイミング信号として用いられる。また、第2回転電機300では、U相、V相、W相の磁気角を検知するホールセンサ232~234の他に、内燃機関100の基準位置を検知するホールセンサも設けられている。
【0048】
次に、遊星歯車機構500を説明する。
図10に示すように、遊星歯車機構500は、サンギヤ501と、リングギヤ502と、このリングギヤ502とサンギヤ501間に介在する複数(4個)の遊星ギヤ504を備えている。サンギヤ501は中心軸上に配置され、外方に16個の歯を有している。リングギヤ502は外周に配置され、内方に向けて60個の歯を有している。遊星ギヤ504は外方に22個の歯を有し、遊星ギヤ504の歯はサンギヤ501の歯及びリングギヤ502の歯と歯合する。サンギヤ501、リングギヤ502及び遊星ギヤ504は、共に炭素鋼製である。遊星ギヤ504は遊星キャリア503に回転自在に保持されている。
【0049】
本開示では、サンギヤ501は駆動軸130に圧入され、サンギヤ501と駆動軸130とは一体に回転する。リングギヤ502は、回転電機200のロータ210に図示しないボルト等で固定されている。従って、リングギヤ502は、ロータ210と一体に回転する。
【0050】
また、遊星キャリア503は、遠心クラッチ機構400の遠心クラッチロータ420に固定されている。より具体的には、遠心クラッチロータ420自体が遊星キャリア503の一部をなしている。遠心クラッチロータ420に、遊星キャリアシャフト505が固定され、遊星ギヤ504はこの遊星キャリアシャフト505の周りを回転する。4本の遊星キャリアシャフト505は、サンギヤ501の中心軸(駆動軸130の中心軸)から等位置に配置されている。そのため、遊星キャリア503と遠心クラッチロータ420とは一体に回転する。本例では遠心クラッチロータ420が遊星キャリア503を兼ねる結果、搭載スペースを小さくすることができ、併せて軽量化も図れている。
【0051】
次に、ワンウェイクラッチ機構600を説明する。ワンウェイクラッチ機構600は、遠心クラッチロータ420と駆動軸130との間に介在する第1ワンウェイクラッチ610と、遠心クラッチロータ420と固定カバー150との間に介在する第2ワンウェイクラッチ620とを備えている。
【0052】
第1ワンウェイクラッチ610、第2ワンウェイクラッチ620共にクラッチの原理は同じで、
図11及び
図12に示すように、内周側の部材に固定される内周リング630と、外周側の部材に固定される外周リング631とを備えている。内周リング630及び外周リング631は、共に炭素鋼製である。第1ワンウェイクラッチ610では、内周リング630に駆動軸130が貫通するように固定されており、内周リング630の中心軸と駆動軸130の中心軸とは一致している。外周リング631はその外周が遠心クラッチロータ420の内周に嵌り合うように固定されている。外周リング631中心軸も駆動軸130の中心軸と一致している。 また、第2ワンウェイクラッチ62では、内周リング630はその内周が遠心クラッチロータ420の外周と嵌り合うように固定されている。第2ワンウェイクラッチ62の外周リング631は、その外周が固定カバー150の内周に嵌り合うように固定されている。第2ワンウェイクラッチ620も、内周リング630及び外周リング631の中心軸は駆動軸130の中心軸と一致している。
【0053】
内周リング630には、係合壁633が形成され、この係合壁633と外周リング631内周との間隙は、外周リング631側に向かうにつれて小さくなっている。また、係合壁633と外周リング631内周との間には、円筒形状をしたワンウェイクラッチバー632が配置されている。ワンウェイクラッチバー632は、内周リング630の保持穴634に保持されたワンウェイクラッチバネ635により、外周リング631側に押圧されている。
【0054】
図11は、ワンウェイクラッチ機構600の噛合状態を示す。この例では、内周リング630が時計方向に回転しているか、外周リング631が反時計方向に回転しているかである。即ち、内周リング630と外周リング631との相対的な回転方向が、ワンウェイクラッチバー632を外周リング631側に移動させる方向である。この内周リング630と外周リング631との相対的回転方向により、ワンウェイクラッチバー632が噛み合い、内周リング630と外周リング631とは一体に回転する。
【0055】
逆に、
図12は、ワンウェイクラッチ機構600の空転状態を示す。この例では、内周リング630が反時計方向に回転しているか、外周リング631が時計方向に回転しているか、またはその双方であるかである。即ち、内周リング630と外周リング631との相対的な回転方向が、ワンウェイクラッチバー632を内周リング630側に移動させる方向である。この内周リング630と外周リング631との相対的回転方向により、ワンウェイクラッチバー632が引き離され、内周リング630と外周リング631とは自由に回転したり、停止したりする。
【0056】
ワンウェイクラッチ機構600の噛合方向及び空転方向は、係合壁633の向きを変えることで時計方向でも、反時計方向でも設定することができる。第1ワンウェイクラッチ610は、遠心クラッチロータ420の第1方向の回転(正転)のみを駆動軸130へ伝達し第2方向の回転(逆転)は伝達しないように設定している。また、第2ワンウェイクラッチ620は第2方向の回転を遠心クラッチロータ420に許容しないように設定している。
【0057】
より具体的には、第1ワンウェイクラッチ610のクラッチ機構は、遠心クラッチロータ420の第1方向の回転を遠心クラッチロータ420と駆動軸130との間で伝達するようにしている。従って、遠心クラッチロータ420が第1方向に回転すれば、その回転は駆動軸130に伝達される。一方、駆動軸130が第1方向に回転しても、駆動軸130から遠心クラッチロータ420に回転が伝達されることはない。
【0058】
また、第2ワンウェイクラッチ620は、遠心クラッチロータ420と固定カバー150との間に介在して、遠心クラッチロータ420の第1方向の回転のみを遠心クラッチロータ420と固定カバーとの間で許容するクラッチ機構となっている。換言すれば、遠心クラッチロータ420の第2方向の回転は、遠心クラッチロータ420を固定カバー150にロックして許容しないクラッチ機構である。
【0059】
次に、上記構成よりなるハイブリッド駆動装置1の作動を説明する。まず、内燃機関100の駆動力を用いず、回転電機200の駆動力で低速駆動する第1モードを説明する。この第1モードでは、内燃機関100が回転していないので、従動プーリー410も回転せず、遠心クラッチロータ420は遠心クラッチシュー411に対してフリーとなっている。第1モードでは、制御装置250が回転電機200のコイルへのU相、V相、W相の通電を制御して、ロータ210を第1方向に回転させる。なお、第1方向は、駆動軸130が第1方向に回転すると、駆動輪120が正転して二輪車10が前進する方向(正転方向)である。
【0060】
この際、ステータ220は固定カバー150に固定されているので、ロータ210が第1方向に回転する。ロータ210には遊星歯車機構500のリングギヤ502が固定されているので、ロータ210と共にリングギヤ502が第1方向に回転する。リングギヤ502の回転はリングギヤ502とかみ合っている遊星ギヤ504に伝達され、遊星ギヤ504と遊星キャリア503が第1方向に回転する。
【0061】
そして、第2ワンウェイクラッチ620は回転電機200のロータ210の第2方向の回転を遠心クラッチロータ420に伝達しないように設定しているので、第1方向の回転に対してはフリーな状態(空転状態)となっている。換言すれば、第2ワンウェイクラッチ620は、ロータ210の第1方向へ遠心クラッチロータ420が回転することは許容している。
【0062】
遊星キャリア503は、遊星キャリアシャフト505が遠心クラッチロータ420に固定されており、第2ワンウェイクラッチ620は第1方向の回転を許容されるので、遠心クラッチロータ420も第1方向に回転する。第1ワンウェイクラッチ610は、遠心クラッチロータ420が第1方向に回転すると、外周リング631と内周リング630とがワンウェイクラッチバー632が噛み合う構造になっている。従って、遠心クラッチロータ420の第1方向の回転は第1ワンウェイクラッチ610を介して駆動軸130に伝達される。
【0063】
この第1モードでの遊星歯車機構500の各ギヤの回転方向を、
図13のモード1で示す。
図13に示すように、第1モードでは、ロータ210から駆動軸130を介してサンギヤ501に伝達されてサンギヤ501を第1方向に回転させる動きと、ロータ210からリングギヤ502及び遊星ギヤ504を介してサンギヤ501に伝達されてサンギヤ501を第1方向に回転させる動きとが一致する。そのため、回転電機200の回転数がそのまま駆動軸130に伝達され、駆動軸130は回転電機200の回転数で回転することとなる。
【0064】
尤も、ロータ210と駆動軸130とは、ロータ軸受215によって回転自在に支持されているので、ロータ210の回転力がそのままサンギヤ501から駆動軸130に伝達される訳ではない。ロータ210の回転力は、リングギヤ502、遊星ギヤ504、遊星キャリア503、遠心クラッチロータ420及び第1ワンウェイクラッチ610を介して駆動軸130に伝達される。
【0065】
次に、内燃機関100の駆動力を用いず、回転電機200の駆動力で高速駆動する第2モードを説明する。この第2モードでも、内燃機関100が回転していないので、遠心クラッチロータ420は遠心クラッチシュー411に対してフリーとなっている。
【0066】
第2モードでは、制御装置250が回転電機200のコイルへのU相、V相、W相の通電を制御して、回転電機200を第2方向に回転させる。これにより、ロータ210が第2方向に回転する。遠心クラッチロータ420が駆動軸130に対して相対的に第2方向回転となるのに対して第1ワンウェイクラッチ610はフリーである。その為、駆動軸130の第1方向の回転が遠心クラッチロータ420に伝達されることは無い。即ち、遠心クラッチロータ420は駆動軸130側から回転力を受けることはない。
【0067】
逆に、遠心クラッチロータ420には、ロータ210の第2方向の回転が、リングギヤ502、遊星ギヤ504、遊星キャリアシャフト505及び遊星キャリア503を介して伝わろうとする。しかし、遠心クラッチロータ420が第2方向に回転しようとすると、第2ワンウェイクラッチ620により遠心クラッチロータ420は固定カバー150に対してロックされることとなる。即ち、第2モードでは、遠心クラッチロータ420は第2方向に回転せず停止している。この遠心クラッチロータ420、即ち遊星キャリア503が回転していない状態を、
図13のモード2では×で示している。
【0068】
そのため、ロータ210の第2方向の回転は、ロータ210と一体に回転するリングギヤ502に伝達され、次いで遊星ギヤ504に伝達される。ここで、遠心クラッチロータ420は回転していないので、遊星キャリア503も回転していない。回転しない遊星キャリアシャフト505に対して、遊星ギヤ504が第2方向に回転することとなる。
【0069】
即ち、リングギヤ502の第2方向の回転は遊星ギヤ504を第2方向に回転させ、この遊星ギヤ504の第2方向の回転は、次いで、サンギヤ501に伝わり、サンギヤ501を第1方向に回転させる。そして、サンギヤの第1方向の回転は、駆動軸130を第1方向に回転させる。この状態の遊星歯車機構500の各ギヤの回転方向を
図13のモード2で示している。
【0070】
これにより、第2モードでも、第1モードと同様駆動軸130を第1方向に回転させる(正転する)ことができる。第1モードではロータ210の回転数とサンギヤ501の回転数とが1体1であったのに対し、第2モードでは、ロータ210の回転(リングギヤ502の回転)は、遊星ギヤ504により増速してサンギヤ501に伝達される。より具体的には、リングギヤ502と遊星ギヤ504とのギヤ比や、遊星ギヤ504とサンギヤ501とのギヤ比によって増速比または減速比を設定することができる。本例では、リングギヤ502の径が大きく、リングギヤ502の歯数が一番多くなるように設定しているので、3.75倍に増速されることになる。第1モードが低速駆動するモードであるのに対し、この第2モードは高速駆動モードとなる。
【0071】
次に、回転電機200は回転せず、内燃機関100のみが回転する第3モードを説明する。この第3モードでは内燃機関100のクランクシャフト104の回転は、駆動プーリー105からベルト106を介して従動プーリー410に伝達される。その結果、従動プーリー410も駆動軸130周りに回転する。この従動プーリー410の回転は回転軸412を介して遠心クラッチシュー411に伝えられるので、遠心力が遠心クラッチシュー411に加わる。それにより、回転軸412の回転数が所定回転以上となると遠心クラッチシュー411は遠心クラッチロータ420に充分な押圧力で押し付けられ、従動プーリー410とともに遠心クラッチロータ420も回転する。この遠心クラッチロータ420の回転方向は第1方向となる。
【0072】
この際、遠心クラッチロータ420は内燃機関100の駆動力で第1方向に回転するのであり、回転電機200より第1方向の回転力を受けるのではない。その為、遠心クラッチロータ420と駆動軸130との間で、第1ワンウェイクラッチ610はフリーな状態である。また、第2ワンウェイクラッチも、遠心クラッチロータ420が第1方向に移動するのは、固定カバー150に対してフリーである。従って、遠心クラッチロータ420の第1方向の回転は、遊星キャリア503の遊星キャリアシャフト505を第1方向に回転させることとなる。なお、遊星キャリアシャフト505の第1方向の回転は、駆動軸130の中心軸周りの回転である。
【0073】
遠心クラッチ機構400の遠心クラッチシュー411が遠心クラッチロータ420に押し付けられて、遠心クラッチロータ420が回転を開始する際には、遊星キャリア503に対して多少の始動時トルクが加わることとなる。そこで、制御装置250は回転電機200の回転を抑制するブレーキ(回生)制御を行い、回転電機200の磁気フリクションを大きくする。そのため、遠心クラッチシュー411が遠心クラッチロータ420に押し付けられる際にも、ロータ210が回転することはない。即ち、リングギヤ502は、停止している。
図13のモード3では、リングギヤ502の停止を×で示している。
【0074】
なお、遠心クラッチロータ420が回転を開始する際に回転電機200のロータ210に加わるトルク変動は、第1モード及び第2モードによっても低減されている。即ち、二輪車10の始動は第1モードで行い、次いで、第2モードで二輪車10の速度を高めている。その為、第3モードで内燃機関100を始動する際には二輪車10は既に所定の速度で走行中である。従って、遠心クラッチシュー411が遠心クラッチロータ420に押し付けられて遠心クラッチロータ420が回転を開始する時点では、ロータ210、リングギヤ502、サンギヤ501及び駆動輪120は既に回転中である。これにより、遠心クラッチロータ420が回転を開始する際に遊星キャリア503、遊星キャリアシャフト505及びリングギヤ502を介してロータ210に加わるトルク変動は低減できている。この二輪車10の走行に関しては、後述する。
【0075】
第3モードでは回転電機200は停止し、リングギヤ502も停止しているので、遠心クラッチロータ420の第1方向の回転を受けて、遠心クラッチロータ420と一体化した遊星キャリア503も第1方向に回転する。その結果、遊星ギヤ504はリングギヤ502の内周に沿って回転する。この際の遊星キャリアシャフト505の周りの遊星ギヤ504の回転方向は、第2方向である。即ち、遊星キャリアシャフト505は第1方向に回転するが、遊星ギヤ504の回転方向は第2方向となる。
【0076】
この際、サンギヤ501は遊星ギヤ504とかみ合っているので、遊星ギヤ504の第2方向の回転がサンギヤ501に伝達されて、サンギヤ501を第1方向に回転させることとなる。サンギヤ501の第1方向の回転は駆動軸130に伝達され、駆動輪120を第1方向に回転(正転)させる。この際の遊星歯車機構500の各ギヤの回転方向は、
図13のモード3で示している。
【0077】
従って、第3モードでは、内燃機関100の駆動力は以下のように駆動軸130に伝達される。まず、従動プーリー410から遠心クラッチ機構400を経て、遠心クラッチロータ420を第1方向に回転させる。次いで、遠心クラッチロータ420が遊星キャリア503(遊星キャリアシャフト505)を第1方向に回転させ、この回転がリングギヤ502と遊星ギヤ504とのかみ合わせで、遊星ギヤ504を第2方向に回転させる。次いで、遊星ギヤ504とサンギヤ501とのかみ合わせで、サンギヤ501を第1方向に回転させ、駆動輪120を第1方向に回転させる。
【0078】
内燃機関100の駆動力が駆動軸130に定常的に伝達される状態では、遠心クラッチロータ420に内燃機関100側から加わるトルクの変動は小さくなる。そこで、定常運転状態では、制御装置250は回転電機200の回転を抑制するブレーキ(回生)制御を行わない。
【0079】
即ち、定常運転状態では、回転電機200のコイルには通電しない。回転電機200は、無通電状態でも永久磁石212による吸引力によって、ロータ210の回転を抑制するトルクが生じる。そのため、この永久磁石212による回転抑制トルクによってロータ210は停止している。このロータ210の停止状態で、駆動輪120の負荷トルクが増えた場合、リングギヤ502は停止しているので、駆動軸130及びサンギヤ501の回転数は低下する。
【0080】
その結果、サンギヤ501の回転数低下は、遊星ギヤ504、遊星キャリア503(遊星キャリアシャフト505)を介して遠心クラッチロータ420に伝達され、遠心クラッチロータ420の回転数も低下する。そして、遠心クラッチ機構400が切れない限りは、内燃機関100の回転数も低下する動きとなる。即ち、内燃機関100の通常運転時では、増速及び減速に伴うトルク変動は、回転電機200の永久磁石212による回転抑制トルクで吸収でき、リングギヤ502が回転することはない。より詳細には、回転電機200の永久磁石212による回転抑制トルクをリングギヤ502と遊星ギヤ504間の減速比で除した値のほうが、駆動輪120の転がりトルク変動をファイナルギヤ140の減速比で除し、更に、サンギヤ501と遊星ギヤ504間の減速比で除した値より大きい場合には、リングギヤ502の回転が防止できる。
【0081】
リングギヤ502が回転しないことは、ロータ210が回転せず回転電機200のロータ210とステータ220間で相対的な回転が生じないことを意味する。その結果、回転電機200の磁気フリクションロスも生じない。なお、本開示において磁気フリクションロスとは、ロータ210の永久磁石212からステータ220に付与される交番磁束により鉄損が生じることを言う。鉄損の主たる要因は、渦電流損とヒステリシス損がある。
【0082】
回転電機200が、U相、V相、W相の通電電流の位相制御によるゼロトルク制御を行った場合でも、磁気フリクションロスがなくなる訳ではない。この磁気フリクションロスは、結果として内燃機関100の出力を消費してしまい、内燃機関100の燃費を悪化させる要因となる。それに対し、本開示ではゼロトルク制御を行う必要もなく、回転電機200へは通電していないので、上述の通り、磁気フリクションロスは生じない。
【0083】
本開示では、回転電機200の磁気フリクションロスを生じさせないための機構として遊星歯車機構500を用いていることとなる。従って、本開示は、磁気フリクションロス低減のための特別なアクチュエータ等を不要とすることができ、簡便な構造とすることができている。なお、遊星歯車機構500の回転に伴う機械的なフリクションロスは多少生じるが、この機械的なフリクションロスは回転電機200の磁気フリクションロスと比較すると非常に小さい。そのため、ハイブリッド駆動装置1として回転電機200を追加しても、回転電機200に起因する内燃機関100の燃費低下の要因は少ない。ハイブリッド駆動装置1として回転電機200を利用するので、内燃機関100の燃費向上効果が見込まれる。
【0084】
次に、内燃機関100の駆動力に加え、回転電機200の駆動力も利用する第4モードを説明する。この第4モードでも従動プーリー410が回転するので、回転軸412とともに遠心クラッチシュー411も回転する。その為、回転に伴う遠心力を受けて、遠心クラッチシュー411は遠心クラッチロータ420に押し付けられ、従動プーリー410とともに遠心クラッチロータ420も第1方向に回転する。
【0085】
また、この第4モードでは、制御装置250が回転電機200のコイルへのU相、V相、W相の通電を制御して、ロータ210を第2方向に回転させる。従って、回転電機200の回転に伴って遠心クラッチロータ420から駆動軸130に加わる方向は、第2モードと同じとなる。そのため、遠心クラッチロータ420と駆動軸130との間で、第1ワンウェイクラッチ610はフリーな状態である。
【0086】
第2ワンウェイクラッチは、第3モードと同様に、遠心クラッチロータ420が第1方向に移動するのは、固定カバー150に対してフリーである。従って、第3モードと同様、遠心クラッチロータ420の第1方向の回転は遊星キャリア503(遊星キャリアシャフト505)を第1方向に回転させることとなる。
【0087】
第3モードではロータ210が停止していたのに対し、第4モードではロータ210は第2方向に回転する。このロータ210の第2方向の回転は、遊星ギヤ504の第2方向の回転を加速する。そして、この遊星ギヤ504の第2方向の回転加速は、サンギヤ501の第1方向の回転を加速させる。その為、第3モードでの内燃機関100の駆動力に、更に回転電機200の駆動力が加わることとなる。この際の遊星歯車機構500の各ギヤの回転方向は、
図13のモード4で示している。
【0088】
即ち、遊星キャリア503、遊星ギヤ504及びサンギヤ501の回転方向は、第3モードと第4モードで同じ方向である。遠心クラッチロータ420、遊星キャリア503(遊星キャリアシャフト505)及びサンギヤ501が第1方向であり、遊星ギヤ504が第2方向である。第3モードでは内燃機関100のみによる回転であったのに対し、第4モードでは回転電機200の回転が加わることとなる。その結果、第4モードでは回転電機200で内燃機関100をアシストする運転を達成することができる。なお、第1モード及び第2モードが回転電機200のみでの電気走行モードであるのに対し、この第4モードは回転電機200が内燃機関100を補助するアシストモードであると言える。また、第3モードはエンジン走行モードと言える。
【0089】
以上、第1モードから第4モードの各モードを説明したが、以下に各モードの切り替えと二輪車10の運転状態との関係を、
図18を用いて改めて説明する。
図18は、内燃機関100や回転電機200を始め各機器の回転数を縦軸にとり、横軸には二輪車10の始動以降の時間経過をとっている。また、縦軸における上方向は第1方向の回転数で、下方向は第2方向の回転数を示している。
【0090】
第1モードは回転電機200による走行開始時であり、第1モードのスタートの時点(P0)では二輪車の速度は0である。制御装置250は回転電機200に十分な始動トルクを生じる電圧で回転電機200の回転を開始する。この際、制御装置250は、許容電流内で最大トルクとなるようにデューティ比及び進角値を制御する。上述のように、回転電機200の回転はファイナルギヤ140により減速して駆動軸130に伝達されるので、トルクの小さい回転電機200を使用しても、二輪車10を発進するは可能である。
【0091】
この発進時には、上述のように、第1ワンウェイクラッチ610及び第2ワンウェイクラッチ620は、駆動輪120が第1方向に回転するのを許容している。換言すれば、第1ワンウェイクラッチ610及び第2ワンウェイクラッチ620は、発進時に駆動輪120が第2方向に回転するのを防止している。そのため、坂道での発進時であっても二輪車10が後退するのは第1ワンウェイクラッチ610及び第2ワンウェイクラッチ620によって防止される。
【0092】
二輪車10の走行開始後は、制御装置250は三相交流の周波数やコイル相電圧を変えて回転電機200の回転数を徐々に高める(P100)。制御装置250は、第1ないし第3ホールセンサ232、233、234からの出力基準で120度又は180度の電気角制御を行う。第1モードでは回転電機200の回転数と駆動軸130の回転数が一致するので、駆動軸130の回転数も徐々に上昇する(P101)。これに伴い、駆動輪120の回転数も上昇し、二輪車10の速度が速くなる。二輪車10は、凡そ時速10キロメートル程度の速度まで、第1モードで走行する。
【0093】
二輪車10の速度が10キロメートル程度に上昇した時点で、制御装置250はロータ210の回転方向を第1方向から第2方向に切り替えるように三相交流の方向を切り替える(P102)。具体的には、制御装置250は第1方向回転制御から回生運転によるブレーキ制御を行い(P103)、停止後に第2方向回転制御を行う(P104)。この切り替え時には、駆動軸130に回転電機200からの動力が伝わらないが、駆動輪120は慣性で推進する(P105)。また、切り替えと同時に、回転電機200の回転数も低下させる(P104)。即ち、第2モードでは遊星歯車機構500による増速が加わるので、この遊星歯車機構500による増速によって駆動軸130の回転数が変動することが無いように回転電機200の回転数を制御する(P106)。この回転数制御により、第2モードへの切り替え直後の駆動軸130の回転数と、第2モードに切り替わる直前の第1モードでの駆動軸130の回転数とを略一致させる(P200)。遊星歯車機構500による増速比が2倍であれば、第1モードから第2モードに切り替える際に、回転電機200の回転数が半減するように三相交流の周波数を制御する。
【0094】
第1モードから第2モードに切り替わる際にはロータ210の回転方向が反転するが、駆動軸130の回転方向は引き続き第1方向のままである(P105)。慣性モーメントの大半は、駆動輪120から駆動軸130に加わっており、ここでは慣性モーメントに変化はない。また、第1モードから第2モードに切り替わる際に遠心クラッチロータ420が第1方向への回転状態(P107)から停止状態(P108)へと変化するが、この変化は第2ワンウェイクラッチ620によって受け持たれる。従って、遠心クラッチロータ420の慣性モーメントが回転電機200に加わることもない。回転電機200に加わる慣性モーメントは、ロータ210とリングギヤ502のみである。この慣性モーメントは比較的小さいので、コイル224への通電周波数(P103)及び通電極性(P104)を変えるのみで、第1モード(第1方向)から第2モード(第2方向)への切り替えは、短期間で完了する。
【0095】
第2モードでも、制御装置250はモード切り替え時から徐々に回転電機200の回転数が上昇するように三相交流の周波数を制御する(P201)。これに伴い、駆動軸130の回転数も上昇する(P202)。また、駆動輪120の回転数も上昇して、二輪車10の速度が高まる。第2モードでは、二輪車10の速度が凡そ時速10キロメートルから時速20キロメートル程度までを受け持つ。
【0096】
二輪車10の速度が時速20キロメートル程度に上昇した時点で、内燃機関100を始動する(P203)。この時点では回転電機200も駆動中である(P204)。即ち、内燃機関100始動後も回転電機200の駆動と併存する状態が一時的に継続される。内燃機関100の回転上昇(P210)に伴い、従動プーリー410の回転数も上昇する(P211)。上述の通り、遠心クラッチ機構400は、従動プーリー410の回転数が所定値に上昇したときに遠心クラッチシュー411が遠心クラッチロータ420とかみ合うようにしている(P205)。そして、遠心クラッチロータ420の回転上昇(P206)に応じて、回転電機200の駆動力を低減する(P207)。内燃機関100の回転数が所定の回転数迄上昇し(P208)、内燃機関100からの駆動力のみで遠心クラッチロータ420の回転が維持できる時点で回転電機200の駆動を終了する(P209)。これにより、遠心クラッチロータ420を回転させる駆動力を回転電機200から内燃機関100に移動させている。換言すれば、回転電機200の回転数が遠心クラッチロータ420の回転数以下となって、二輪車10が減速してしまうのを防止する。
【0097】
この遠心クラッチ機構400が動力の非伝達から伝達に切り替わる際の二輪車10の速度は時速20キロメートル程度に設定している。ただ、第2モードから第3モードへの切り替えは、車速(回転電機200の回転数)のみで行う訳ではない。車速と要求トルク(アクセル開度)から判断してモードの切り替えを行っている。例えば、アクセル開度が一定値を超えるときには、車速が時速20キロメートルに達していなくても、第2モードから第3モードへの切り替えを行う。
【0098】
第2モードから第3モードに切り替わる際には、慣性モーメントの大半を担う駆動輪120及び駆動軸130の回転数に殆ど変化がない。第2モードから第3モードへの切り替えによって、遠心クラッチロータ420と遊星キャリア503が停止状態から第1方向への回転状態に変化が生じる。この変化は第2ワンウェイクラッチ620を固定状態からフリー状態へ変化させるので、回転電機200に直接影響するものではない。上述の通り、回転電機200は遠心クラッチロータ420の回転に影響を及ぼさないように制御される(P204、P207、P209)。
【0099】
動力伝達では、第2モードから第3モードに切り替わることで、遊星歯車機構500への動力源が回転電機200から内燃機関100に切り替わることとなる。即ち、第2モードではリングギヤ502が第2方向に回転することで、遊星ギヤ504を第2方向に所定の回転数で回転させていた。それを、第3モードでは遊星キャリア503が第1方向に回転することで、遊星ギヤ504を第2方向に所定の回転数で回転させることとなる。換言すれば、遊星ギヤ504を第2方向に所定の回転数で回転させるのに、ロータ210の第2方向の回転が不要となったので、回転電機200は運転を停止するのである。多少の慣性モーメントは存在するが、上述の通り、第2モードから第3モードの切り替えは、本来停止すべきロータ210の回転を停止させるものであり、スムーズになされる。
【0100】
なお、第2モードから第3モードへの切り替えは、制御装置250が回転電機200に加わる負荷を検出することで行う。上述の通り、第3モードでは回転電機200の駆動力は必要とされないので、回転電機200を回転させるトルクは0となる。逆に、回転電機200の永久磁石212による回転抑制トルクをリングギヤ502と遊星ギヤ504間の減速比で除した値の方が、駆動輪120の転がり抵抗トルク変動をファイナルギヤ140の減速比で除し、更に、サンギヤ501と遊星ギヤ504間の減速比で除した値より大きくなった場合には逆起電力が生じることとなる。これらのトルク変動は制御装置250で検知することが可能である。例えば、コイル相電圧と第1ないし第3ホールセンサ232、233、234からの出力基準からトルクを参照しても良い。検知したトルク変動に応じてブレーキ(回生)制御を行ったり、コイル224に通電したり、通電を停止したりする。
【0101】
第3モードでは、二輪車10は時速20キロメートル以上の速度で、定速走行を行う(P300)。内燃機関100は、この定速走行を行う際に最も効率よく運転できるように設定されている。そのため、内燃機関100を最も燃費の良い状態で使用することができる。換言すれば、第3モードは、定速走行状態であるので、急激な加減速は原則として行わない。そのため、回転電機200の永久磁石212による回転抑制トルクのみで、ロータ210(リングギヤ502)を一定位置に保持することが可能となる。ただ、第3モードであっても、内燃機関100の回転数は常に一定でなければならないわけではない。運転状態に応じて内燃機関100の回転数に変動は生じる。
【0102】
二輪車10を加速する際には、内燃機関100ではなく回転電機200を利用する。例えば時速50キロメートルの走行から時速60キロメートル程度に増速する場合、制御装置250は回転電機200を第2方向に回転させる(P301)。この回転電機200を用いる加速を行う際には、内燃機関100から得られた動力により遠心クラッチロータ420及び遊星キャリア503は回転している。そのため、回転電機200及びリングギヤ502を第2方向に回転させれば増速となる。
【0103】
即ち、内燃機関100の回転数が一定である(P304)ので、従動プーリー410の回転数(P305)も、遠心クラッチロータ420の回転数(P306)も一定である。第4モードでの駆動軸130の回転は、遊星ギヤ504の回転増加(P307)受けて上昇する(P303)。この遊星ギヤ504を回転上昇(P307)させる駆動力を回転電機200が受け持つ。
【0104】
なお、リングギヤ502を回転させるには、上記と同様のトルク関係を前提としている。即ち、回転電機200の永久磁石212による回転抑制トルクをリングギヤ502と遊星ギヤ504間の減速比で除した値の方が、駆動輪120の転がり抵抗トルク変動をファイナルギヤ140の減速比で除し、更に、サンギヤ501と遊星ギヤ504間の減速比で除した値より大きい場合であることを前提としている。
【0105】
上述のように、回転電機200の回転数が時速50キロメートル相当までの第3モードは、駆動軸130を回転させるための負荷は内燃機関100が全て担っている(P302)。回転電機200が担う負荷は、時速50キロメートルから時速60キロメートルまでの増速分のみである(P303、P400)。かつ、回転電機200は内燃機関100より迅速に回転数制御が可能であるので、利用者に快適な加速フィーリングを与えることができる。
【0106】
第4モードにおける回転電機200による加速が終了して(P402)、時速60キロメートルに達すると、回転電機200は回転数を低下させる(P403)。一方、内燃機関100は回転数を上昇させる(P405)。ただ、加速は既に回転電機200により終了しているので、内燃機関100の回転数増加に伴う負荷は小さい。そして、内燃機関100の回転増加に伴い従動プーリー410の回転数も増加する(P406)。第3モードの時点から遠心クラッチシュー411は遠心クラッチロータ420とかみ合っているので、従動プーリー410の回転数上昇に伴い、遠心クラッチロータ420の回転数も増加する(P407)。
【0107】
第4モードから第3モードへの切り替わりは、遊星ギヤ504の回転に必要な駆動力が回転電機200から内燃機関100に置き換わることを意味している。従って、第4モードから第3モードの切り替わっても遊星ギヤ504の回転数は一定である(P408)。また、切り替わりの間、回転電機200は遠心クラッチロータ420の回転に影響を及ぼさないように徐々に回転数を落とし(P403)、影響がなくなった時点で停止する(P404)。これは、第2モードから第3モードに切り替わる際の制御と同様である。
【0108】
二輪車10の加速の形態としては、第3モードでの時速50キロメートルの定常走行から、第4モードで時速60キロメートルの加速走行に移り、加速後時速50キロメートルでの第3モードの定常走行に復帰する形態もある。この場合には内燃機関100は時速50キロメートルに対応する一定の回転数を維持している。回転電機200の第2方向の回転により、駆動軸130の回転数を上昇させ、時速60キロメートルに到達させる(P402)。その後加速の必要がなくなれば、回転電機200は回転数を低下させ(P403)、時速50キロメートルに復帰した時点で回転電機200の回転は終了する(P404)。
【0109】
但し、二輪車10の加速は回転電機200のみで行う必要は無い。アクセル開度から得られる運転者の加速度ニーズに応じて、回転電機200のみで行う加速と、回転電機200と内燃機関100とを組み合わせて行う加速とを使い分けても良い。回転電機200と内燃機関100とを組み合わせて行う加速の方が、より鋭い加速となる。
図18においてP304及びP401では内燃機関100の回転数を一定としているが、第4モードで内燃機関100による加速を行う際には、P304及びP401における回転数は増加する。
【0110】
図19に内燃機関100と回転電機200の双方を用いて加速を行う際の、内燃機関100等各機器の回転状況を示す。この場合には、回転電機200を第2方向に回転させる(P301)と同時に内燃機関100も回転数を増加させる(P310)。この内燃機関100の回転数上昇に伴い、従動プーリー410の回転数も上昇し(P311)、遠心クラッチロータ420の回転数も上昇する(P312)。従って、遊星ギヤ504の回転数は、回転電機200のみの加速に比べてより早くなる(P313)。その結果、駆動軸130の回転数も回転電機200のみの加速に比べてより早くなり(P314)、二輪車10はより早く加速される。
【0111】
回転電機200の加速を終了させるための、第4モードから第3モードへの切り替えは
図18の例と同様である。回転電機200の回転数を低下させ(P403)、内燃機関100の回転数を上昇させる(P403)。この間の駆動軸130の回転数は一定となる(P410)。駆動力の切り替えが終了した時点で回転電機200の回転を終了する(P404) 二輪車10を停止させるには、二輪車10のブレーキを利用する。第1モードでブレーキがかけられたときは、第1ワンウェイクラッチ610が固定側となる。そのため、遠心クラッチロータ420と共回り状態を維持したまま回転電機200も減速する。二輪車10の減速を進めるため、回転電機200にブレーキ(回生)制御をしても良い。第2モード及び第4モードの走行時にブレーキを掛けると、制御装置250は回転電機200への通電を停止する。その為、遠心クラッチロータ420の第1方向の回転と駆動軸130の第1方向の回転を比較すると、駆動軸130の回転の方が相対的に早くなる。従って、第1ワンウェイクラッチ610はフリーの状態となり、回転電機200側に駆動軸130からの回転が伝達されることはない。
【0112】
第3モードでは、回転電機200を利用していないので、ブレーキを掛けても、回転電機200は停止した状態が維持される。但し、第3モードにおいても、回転電機200によるブレーキを利用する場合もあり得る。例えば、駆動輪120側のトルク変動が大きく、永久磁石212による回転抑制トルクではロータ210の保持が賄えないような場合である。この場合には、制御装置250は回転電機200を第2方向に向かう弱駆動状態とする。
【0113】
なお、上述の説明は二輪車10の通常想定される使用方法であるが、各モードには他の使用方法もある。例えば、バッテリ351の残量に余裕がなく第1モードでの発進が難しい場合は、内燃機関100により二輪車10を発進させることとする。二輪車10の停止状態のように駆動輪120の回転数が遠心クラッチロータ420の回転数より低い状態では、第1ワンウェイクラッチ610は固定状態となる。その為、内燃機関100の駆動力は、従動プーリー410から遠心クラッチロータ420を介して駆動輪120に伝達される。
【0114】
この場合は、内燃機関100で発進し、そのまま第3モードを維持することとなる。但し、バッテリ351の残量に応じ、内燃機関100での発進後、第2モードでの回転電機200走行を介して、第3モードでの内燃機関100の定常走行としても良い。また、内燃機関100での発進後、第4モードの加速を行うようにしても良い。
【0115】
以上説明したように、本開示によれば二輪車10をエネルギー効率良く駆動することができる。まず、第1モードで回転電機200のみにより二輪車10を始動させる。この際、回転電機200は始動トルクが大きいので二輪車10をスムーズに発進させることができる。次いで、第2モードで、二輪車10の加速を行う。この際も、回転電機200のみの駆動力で二輪車10が加速し、内燃機関100を用いることはない。
【0116】
二輪車10が所定の定常走行となってから、第3モードに移行する。そのため、内燃機関100を最も効率の良い運転状態とすることが可能である。かつ、二輪車10は定常運転となっているので、駆動軸130の必要トルクが安定し、トルク変動は少なくなっている。その為、上述の通り、第2モードから第3モードへの切り替え時にリングギヤ502に遠心クラッチロータ420(遊星キャリア503)から加わるトルク変動を少なくすることが出来る。従って、回転電機200のブレーキ(回生)制御や、非通電での永久磁石212による回転抑制トルクにより、遊星歯車機構500のリングギヤ502を非回転とすることが可能である。
【0117】
リングギヤ502を非回転とする結果、ロータ210即ち回転電機200の回転も行わない。これにより、回転電機200の非通電時に回転電機200を停止させることが可能となる。その結果、非通電時の回転に伴う回転電機200の磁気フリクションロスも無くすことが可能となっている。
【0118】
二輪車10を更に加速するためには、第4モードに切り替える。この第4モードは、内燃機関100を最適効率で運転している状態で、回転電機200の駆動力をアシスト力として追加するものである。即ち、内燃機関100は最も効率よく運転でき燃費の向上が図れる。かつ、必要に応じて加速ができるので、運転フィーリングも損なわれない。
【0119】
次に、本開示の変形例を
図14に基づいて説明する。上述の実施態様と同様の構成には同様の符号を付している。
図14図示実施例では、ワンウェイクラッチ機構600の第2ワンウェイクラッチ620と固定カバー150との間にアクチュエータ700を配している。
図14に示すように、アクチュエータ700は駆動輪120の軸線に対して直交となる方向に配置されている。
【0120】
アクチュエータ700は、
図15に示すように、通電により励磁するコイル704と、このコイル704の磁気回路を構成するステータコア702と、ステータコア702と磁気ギャップを介して対向するムービングコア703とを備えている。
図15の例ではムービングコア703が係止部材701を兼ねており、ムービングコア703の移動は係止部材701に伝達される。
【0121】
また、第2ワンウェイクラッチ620には、係止部材701と係合する係合部640が形成されている。
図14はアクチュエータ700の係止部材701が飛び出して、係合部640と係合している固定状態を示している。この状態では第2ワンウェイクラッチ620の外周リング631は固定カバー150に固定されている。また、この状態ではアクチュエータ700のコイルには通電されていない。アクチュエータ700の係止部材701の飛び出しは、アクチュエータバネ705の押圧力を利用している。
【0122】
アクチュエータ700のコイル704に通電されると、磁気ギャップに吸引力が発生し、アクチュエータバネ705の圧縮力に抗してムービングコア703を移動させる。
図15の状態はコイル704の非通電時であり、コイル704に通電するとムービングコア703は図中左方向に変移する。このムービングコア703の移動は係止部材701に伝達されて、係止部材701を係合部640から吸引し離脱状態とする。
【0123】
アクチュエータ700の係止部材701が飛び出して係合部640と係合している
図14図示の状態では、上述の実施例と同様で、第2ワンウェイクラッチ620は固定カバー150に固定されている。従って、上述の第1モードから第4モードを達成することができる。
【0124】
変形例では、新たに第5モードを得ることができる。即ち、アクチュエータ700のコイル704を励磁させて、係止部材701(ムービングコア703)を吸引し係合部640から離脱させた状態とする。これにより、第2ワンウェイクラッチ620をフリーにすることで、第5モードを追加することができる。第5モードでは、第2ワンウェイクラッチ620がフリーであるので、遠心クラッチロータ420を第2方向に回転させることが可能である。そのため、駆動輪120も第2方向に回転するのが許容される。その結果、内燃機関100や回転電機200が停止している状態で、二輪車10を人力で後方に移動させることができる。
【0125】
他の変形例を
図16に示す。
図16の変形例はロータアクチュエータ750を用いている。このロータアクチュエータ750も固定カバー150に取り付けられており、駆動輪120の軸線に対して直交となる方向に配置されている。ロータアクチュエータ750も、
図17に示すように、通電により励磁するコイル754と、このコイル754の磁気回路を構成するステータコア752と、ステータコア752と磁気ギャップを介して対向するムービングコア753とを備えている。ただ、ロータアクチュエータ750では、アクチュエータバネ755の配置がアクチュエータ700とは逆になっている。その為、コイル754の非通電時には、係合部材751を固定カバー150側に変位させており、ロータ210は固定カバー150に対してフリーとなっている。
【0126】
ロータアクチュエータ750は、コイル754の通電時にムービングコア753が
図17の右方向に変移する。即ち、コイル754の通電時に係合部材751が飛び出る構造となっており、ロータ210に形成された係合部219と係合する。係合部材751と係合部219の係合方向は、ロータ210の回転に対して直交する方向であるため、ロータアクチュエータ750に必要とされる磁力は小さくてすむ。従って、ロータアクチュエータ750の消費電力も小さくすることが可能である。
【0127】
ロータアクチュエータ750は、通常係合部材751を引き込めており、ロータ210の係合部219とは係合していない。そのため、ロータ210の回転は自由であり、上述の第1モードないし第4モードを実現できる。ロータアクチュエータ750に通電されて、ロータ210の係合部219と係合するのは、第3モードである。
【0128】
第3モードは、上述の通り、永久磁石212による回転抑制トルクを用いてロータ210の回転は停止している。本開示は、特別なアクチュエータを用いてロータ210の回転を停止させるものではない。ただ、第3モードのロータ210の回転停止状態をより確実とするために、補助的にロータアクチュエータ750を用いることまで、本開示は除外するものでもない。
【0129】
以上の例では、内燃機関100と回転電機200を用いたハイブリッド駆動装置1として説明したが、本開示は、内燃機関100と遠心クラッチ機構400とを備える動力装置に後付けで組み込む補助動力装置としてもよい。即ち、内燃機関100、駆動プーリー105、ベルト106、従動プーリー410や、ファイナルギヤ140及び駆動軸130を備えている二輪車10に、補助動力装置として後付けすることとなる。
【0130】
後付けとして必要となるのは、駆動軸130の延長と、遠心クラッチ機構400の遠心クラッチロータ420及び固定カバー150の変更がある。また、後付け部品として追加となるのは、回転電機200及び制御装置250がある。かつ、遊星歯車機構500とワンウェイクラッチ機構600も追加となる。また、制御装置250と回転電機200との間の配線も追加となる。
【0131】
なお、上述の例は本開示の望ましい例ではあるが、本開示は上記の例に限定されない。各部の材質や大きさは、適宜変更可能である。上述の例では、リングギヤ502をロータ210に固定したが、リングギヤ502をロータ210に形成するようにしても良い。逆に、上述の例では遊星キャリア503を遠心クラッチロータ420に一体形成したが、遊星キャリア503を別体に形成して、遠心クラッチロータ420に固定しても良い。
【0132】
また、上述の例では、ステータ220をロータ210の内周に配置していたが、逆にロータ210をステータ220の内周に配置しても良い。バッテリ351の電圧も、例えば、48ボルトの高電圧としても良く、例えば、12ボルトの低電圧としても良い。かつ、高電圧と低電圧との2種類のバッテリ351を用いても良い。
【0133】
また、上述の例では、ハイブリッド駆動装置や補助動力装置を二輪車10に用いる例を示したが、本開示のハイブリッド駆動装置や補助動力装置の用途は二輪車10に限らない。例えば、モータボート、スノーモービル、トラクター等の他の機器にも用いることはできる。従って、駆動輪120は駆動部の一例であり、タイヤ以外の駆動部にも本開示は適用できる。
【符号の説明】
【0134】
10 二輪車
100 内燃機関
150 制御装置
200 回転電機
250 制御装置
300 第2回転電機
400 遠心クラッチ機構
500 遊星歯車機構
600 ワンウェイクラッチ機構