(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】固定電荷制御方法、薄膜トランジスタの製造方法及び薄膜トランジスタ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240403BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20240403BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20240403BHJP
H01L 21/425 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01L29/78 617V
H01L29/78 618B
H01L29/78 617L
H01L29/78 617M
H01L29/78 617T
H01L21/265 Y
H01L21/425
(21)【出願番号】P 2022089076
(22)【出願日】2022-05-31
【審査請求日】2023-07-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】安東 靖典
【審査官】高橋 優斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-057818(JP,A)
【文献】特開2020-150173(JP,A)
【文献】特開2019-208068(JP,A)
【文献】特開2020-027942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
H01L 21/336
H01L 21/425
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイスに用いられる絶縁膜内の固定電荷を制御する方法であって、
前記絶縁膜の表面に金属膜を形成し、当該金属膜を介して前記絶縁膜にイオン注入を行うことにより前記絶縁膜中に固定電荷を発現させる固定電荷制御方法。
【請求項2】
前記金属膜の厚みが前記イオン注入によるイオンの平均飛程と略同一であり、かつ
前記金属膜の厚みと前記絶縁膜の厚みの和が、前記イオン注入によるイオンの平均飛程とその標準偏差の和よりも大きい請求項1に記載の固定電荷制御方法。
【請求項3】
前記絶縁膜が、酸化膜、窒化膜又は酸窒化膜を含んで構成されるものである請求項1に記載の固定電荷制御方法。
【請求項4】
前記金属膜が、アルミニウム、アルミニウム合金、モリブデン、モリブデン合金、チタン又はチタン合金から構成されるものである請求項1に記載の固定電荷制御方法。
【請求項5】
前記イオン注入で注入するイオン種は、O、N、C等の原子イオン、O
2、N
2、C
2等の分子イオン、又はAr等の希ガスイオンから選択される1種以上である請求項1に記載の固定電荷制御方法。
【請求項6】
トップゲート型の薄膜トランジスタの製造方法であって、
絶縁性の基板の表面に酸化物半導体材料からなるチャネル層を形成するチャネル層形成工程と、
前記チャネル層の表面にゲート絶縁層を形成するゲート絶縁層形成工程と、
前記ゲート絶縁層の表面に金属材料からなる第1ゲート電極層を形成する第1ゲート電極形成工程と、
前記第1ゲート電極層を介して前記ゲート絶縁層にイオン注入を行う第1イオン注入工程と、を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記第1イオン注入工程の後、前記第1ゲート電極層の表面に、前記第1ゲート電極層よりも厚みが大きい金属材料からなる第2ゲート電極層を形成する第2ゲート電極形成工程を更に含む請求項6に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記第2ゲート電極の表面にパターニングしたレジストを積層した後、前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極をエッチングによりパターニングするエッチング工程を更に含み、
当該エッチング工程において、イオン注入が行われた前記ゲート絶縁層の表層の一部を除去する請求項7に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記エッチング工程の後、パターニングされた前記第1ゲート電極層、前記第2ゲート電極層及び前記レジストをマスクにして、前記ゲート絶縁層を介して前記チャネル層にイオン注入を行う第2イオン注入工程を更に含む請求項8に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】
前記第1イオン注入工程後に熱処理を行う請求項6に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項11】
基板上に、酸化物半導体から成るチャネル層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極層とがこの順に積層されたトップゲート型の薄膜トランジスタであって、
前記ゲート絶縁層における前記ゲート電極層との界面近傍に、イオン注入により添加された元素が分布している
とともに、前記ゲート電極層における前記ゲート絶縁層との界面近傍に、前記イオン注入により添加された前記元素が分布している、薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定電荷制御方法、薄膜トランジスタの製造方法及び薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、In-Ga-Zn-O系(IGZO)等の酸化物半導体をチャネル層に用いた薄膜トランジスタ(TFT)の開発が活発に行われている。
【0003】
このような薄膜トランジスタとして、例えば特許文献1には、チャネル層に接触するゲート絶縁層やチャネル保護層を構成する絶縁膜として、膜密度が小さい(2.70~2.79g/cm3)酸化アルミニウムを用いるものが開示されている。この薄膜トランジスタでは、このような膜密度が小さい酸化アルミニウムを絶縁膜とすることで、絶縁膜の負の固定電荷密度を大きくでき、これにより薄膜トランジスタの閾値電圧を正方向へシフトさせ、信頼性を向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に開示される薄膜トランジスタでは、膜密度を小さくすることにより、言い換えれば膜質を悪化させることにより必要な固定電荷を発現させるようにしているので、リーク電流の増大や環境変化による信頼性低下の恐れがある。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、半導体デバイスに用いられる絶縁膜内に、膜質の低下を抑えながら必要な固定電荷を効率よく生成することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、イオン注入を行うことで膜内に生成される原子衝突による欠陥が、注入イオンの分布よりも浅い領域に分布することに着目して本発明に想到した。
【0008】
すなわち本発明に係る固定電荷制御方法は、半導体デバイスに用いられる絶縁膜内の固定電荷を制御する方法であって、前記絶縁膜の表面に金属膜を形成し、当該金属膜を介して前記絶縁膜にイオン注入を行うことにより前記絶縁膜中に固定電荷を発現させることを特徴とする。
【0009】
このような構成であれば、金属膜を介して絶縁膜にイオン注入するようにしているので、イオン注入により生成される欠陥の全てを絶縁膜に分布させることなく金属膜内にも分布させることができ、絶縁膜内における欠陥による膜質の低下を小さくできる。そしてイオン注入を行う際の金属膜の厚みやイオンの飛程を調整することで、絶縁膜内における固定電荷密度を容易に調整することができる。例えば、金属膜を薄くしたり、イオンの注入深さを大きくして、欠陥の多くを金属膜内に分布させるようにすることで、絶縁膜内に負の固定電荷を効率よく発現させることができる。一方で、金属膜を薄くしたりイオンの注入深さを大きくして、絶縁膜内に形成される欠陥の分布を大きくすることで、正の固定電荷を効率よく発現することもできる。しかも、絶縁膜の全体の膜質を変化させるのではなく、イオン注入により表層部分だけの膜質を変化させるようにしているので、絶縁膜の本来の絶縁特性をほぼ維持した状態で、部分的な機能の付加を行うことができる。
【0010】
前記固定電荷制御方法では、前記金属膜の厚みが前記イオン注入によるイオンの平均飛程と略同一であり、かつ前記金属膜の厚みと前記絶縁膜の厚みの和が、前記イオン注入によるイオンの平均飛程とその標準偏差の和よりも大きいのが好ましい。
このようにすれば、金属膜の厚みとイオンの平均飛程とを略同一にすることで、注入イオンの多くを下層の絶縁膜内に注入させる一方で、原子衝突により生成される欠陥の多くを上層の金属膜内に留まらせることができるので、絶縁膜内に負の固定電荷を効率よく生成できる。また、金属膜の厚みと絶縁膜の厚みの和を、イオンの平均飛程とその標準偏差の和よりも大きくしているので、絶縁膜の全体を通過する注入イオンの分布を少なくでき、絶縁膜の裏面に接する材料に対する影響を小さくできる。
【0011】
前記固定電荷制御方法の効果を顕著に奏する前記絶縁膜の具体的態様として、酸化膜、窒化膜又は酸窒化膜を含んで構成されるものが挙げられる。
【0012】
前記固定電荷制御方法の効果を顕著に奏する前記金属膜の具体的態様としては、アルミニウム、アルミニウム合金、モリブデン、モリブデン合金、チタン又はチタン合金から構成されるものが挙げられる。
【0013】
前記固定電荷制御方法の効果を顕著に奏する前記イオン注入で注入するイオン種の具体的態様としては、O、N、C等の原子イオン、O2、N2、C2等の分子イオン、又はAr等の希ガスイオンから選択される1種以上があげられる。
【0014】
また本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、トップゲート型の薄膜トランジスタの製造方法であって、絶縁性の基板の表面に酸化物半導体材料からなるチャネル層を形成するチャネル層形成工程と、前記チャネル層の表面にゲート絶縁層を形成するゲート絶縁層形成工程と、前記ゲート絶縁層の表面に金属材料からなる第1ゲート電極層を形成する第1ゲート電極形成工程と、前記第1ゲート電極層を介して前記ゲート絶縁層にイオン注入を行う第1イオン注入工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
このような薄膜トランジスタの製造方法であれば、前記した固定電荷制御方法と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、例えば金属材料から構成される第1ゲート電極層を介してゲート絶縁層にイオン注入を行うことで、上層の第1ゲート電極層内にイオン注入による欠陥を留めつつ、ゲート絶縁層内における第1ゲート電極層との界面近傍に注入イオンを多く分布させ、必要な固定電荷を発現させることができる。これにより固定電荷による電気的な特性制御が可能になり、高移動度で且つ正の閾値電圧での動作が容易な薄膜トランジスタを製造することができる。
【0016】
また前記薄膜トランジスタの製造方法は、前記第1イオン注入工程の後、前記第1ゲート電極層の表面に、前記第1ゲート電極層よりも厚みが大きい金属材料からなる第2ゲート電極層を形成する第2ゲート電極形成工程を更に含むのが好ましい。
第1イオン注入工程においてイオンを通過させる第1ゲート電極は、その厚みをイオンの飛程と同程度に薄くする必要がある。第1イオン注入工程後に、より厚みが大きい第2ゲート電極を形成することで、ゲート電極としての機能を確実に発揮させることができる。
【0017】
また前記薄膜トランジスタの製造方法は、前記第2ゲート電極の表面にパターニングしたレジストを積層した後、前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極をエッチングによりパターニングするエッチング工程を更に含み、当該エッチング工程において、イオン注入が行われた前記ゲート絶縁層の表層の一部を除去するのが好ましい。
第1イオン注入工程後のゲート絶縁層内の上層部において、ゲート電極よりも層方向の外側の領域は、最終的な薄膜トランジスタの構造でソース電極及びドレイン電極に繋がる領域となる。そのため、イオン注入が行われたゲート絶縁層の表層の一部を除去することで、ゲート絶縁層を介してゲート電極とソース電極及びドレイン電極との間で電流のリークが生じることを防止できる。
【0018】
前記エッチング工程の後、パターニングされた前記第1ゲート電極層、前記第2ゲート電極層及び前記レジストをマスクにして、前記ゲート絶縁層を介して前記チャネル層にイオン注入を行う第2イオン注入工程を更に含むのが好ましい。
これにより最終的な薄膜トランジスタをセルフアライン構造にでき、第1ゲート電極層及び第2ゲート電極層と、チャネル層にイオン注入をすることで形成されるソース領域及びドレイン領域との間の寄生容量を小さくできるとともに、基板面内での寄生容量のバラツキを抑えられるため、高速スイッチングを可能とすることができる。
【0019】
ゲート絶縁層の固定電荷をより小さくするには、前記第1イオン注入工程後に熱処理を行うのが好ましい。
【0020】
また本発明の薄膜トランジスタは、基板上に、酸化物半導体から成るチャネル層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極層とがこの順に積層されたトップゲート型のものであって、前記ゲート絶縁層における前記ゲート電極との界面近傍に、イオン注入により添加された元素が分布していることを特徴とする。
このような薄膜トランジスタであれば、上記した固定電荷制御方法及び薄膜トランジスタの製造方法と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0021】
このように構成した本発明によれば、半導体デバイスに用いられる絶縁膜内に、膜質の低下を抑えながら必要な固定電荷を効率よく生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態の固定電荷制御法方法を利用した作成した薄膜トランジスタの構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】イオン注入による注入イオン分布と欠陥分布とを説明する図である。
【
図3】同実施形態の薄膜トランジスタの製造工程を模式的に示す断面図である。
【
図4】実施例で用いた評価サンプルの構成を模式的に示す図。
【
図5】実施例1におけるシミュレーション結果を示す図であり、注入イオンのエネルギーと注入深さとの関係を示す図である。
【
図6】実施例1における測定結果を示す図であり、イオン注入量と固定電荷密度との関係性を示す図である。
【
図7】実施例2における測定結果を示す図であり、イオン注入後の熱処理と固定電荷密度との関係性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の固定電荷制御方法を利用して製造した薄膜トランジスタ1及びその製造方法の一実施形態について説明する。
【0024】
<1.薄膜トランジスタ>
本実施形態の薄膜トランジスタ1は所謂トップゲート型のTFTであり、酸化物半導体をチャネルに用いたものである。具体的には
図1に示すように、基板2と、チャネル層(活性層)3と、ゲート絶縁層(特許請求の範囲の絶縁膜に相当)4と、ゲート電極層5と、絶縁層6と、ソース電極7及びドレイン電極8とを有しており、基板2側からこの順に形成されている。以下、各部について詳述する。
【0025】
(1)基板
基板2は光を透過できるような任意の材料から構成されており、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、アクリル、ポリイミド等のプラスチック(合成樹脂)やガラス等によって構成されてよい。
【0026】
(2)チャネル層
チャネル層3は、ゲート電圧の印加により、ソース電極7とドレイン電極8間にチャネルを形成し、電流を通過させるものである。チャネル層3は、酸化物半導体からなり、例えばIn、Ga、Zn、Sn、Al、Ti等から選択される少なくとも1種の元素の酸化物を主成分として含んでいる。チャネル層3を構成する材料の具体例としては、例えば、In2O3を主構成要素とする酸化物材料、In-Ga-Zn-O(IGZO)、In-Al-Mg-O、In-Al-Zn-O又はIn-Hf-Zn-O等が挙げられる。このチャネル層3は例えば非晶質(アモルファス)の酸化物半導体膜により構成されている。本実施形態のチャネル層3は単層構造であるが、これに限らず、組成や結晶性が互いに異なる複数の層を重ねて構成した積層構造であってもよい。
【0027】
このチャネル層3は、基板2の表面の一部を覆うように形成されている。そして基板2の表面には、チャネル層3を両側から挟むとともに、チャネル層3に電気的に接続するようにして、ソース領域層Sとドレイン領域層Dとが形成されている。このソース領域層Sとドレイン領域層Dは、積層方向に沿って形成されたコンタクトホールHを介して、ソース電極7とドレイン電極8にそれぞれ電気的に接続されている。なおコンタクトホールHには、例えばモリブデン等の金属が充填されている。
【0028】
(3)ゲート絶縁層
ゲート絶縁層4は、チャネル層3、ソース領域層S及びドレイン領域層Dの表面を覆うように形成されている。このゲート絶縁層4は、高い絶縁性を有する酸化膜、窒化膜、酸窒化膜等の任意の絶縁材料から構成されている。ゲート絶縁層4は、例えば、SiOx、SiNx、SiON、Al2O3、Y2O3、Ta2O5、Hf2等から選択される1つ以上の酸化物を含む絶縁膜であってよい。ゲート絶縁層4は、これらの導電性膜を単層構造又は2層以上の積層構造としたものであってよい。
【0029】
(4)ゲート電極層
ゲート電極層5は、薄膜トランジスタ1に印加されるゲート電圧によってチャネル層3中のキャリア密度を制御するものである。ゲート電極層5は、ゲート絶縁層4の表面において、チャネル層3の真上に位置するように形成されている。より具体的にゲート電極層5は、層内方向(積層方向に直交する方向)に沿ったその両端面の位置が、チャネル層3の両端面の位置と揃うようにして形成されている。このゲート電極層5は、高い導電性を有する任意の金属材料から構成されており、例えばSi、Al、Mo、Cr、Ta、Ti、Pt、Au、Ag等から選択される1種以上の金属から構成されてよく、Al合金、Ag合金、Mo合金、Ti合金等の合金により構成されてよい。
【0030】
本実施形態のゲート電極層5は、厚みが異なる2層以上の積層構造から構成されており、ゲート絶縁層4側から順に、第1ゲート電極層(特許請求の範囲の金属膜に相当)51と、第1ゲート電極層51よりも厚みが大きい第2ゲート電極層52とを備えている。なお第1ゲート電極層51と第2ゲート電極層52は、同じ金属材料により構成されてもよく、互いに異なる金属材料により構成されてもよい。
【0031】
(5)絶縁層
絶縁層6は、ゲート電極層5と、ソース電極7及びドレイン電極8との間を絶縁するものであり、例えばフッ素を含有するシリコン酸化膜などにより構成される。絶縁層6は、ゲート電極層5の全面(上面及び側面)と、ゲート絶縁層4の表面を覆うように形成されている。
【0032】
(6)ソース電極、ドレイン電極
ソース電極7及びドレイン電極8は、チャネル層3の表面を部分的に覆うように、互いに離間して形成されている。ソース電極7及びドレイン電極8は、ゲート電極層5と同様に、電極として機能するように高い導電性を有する材料から構成されている。ソース電極7及びドレイン電極8は、単一の材料からなる単層構造でよく、互いに異なる材料からなる複数の層を重ねた積層構造であってもよい。ソース電極7及びドレイン電極8は、絶縁層6及びゲート絶縁層4を積層方向に沿って貫通するコンタクトホールHを介して、ソース領域層S及びドレイン領域層Dにそれぞれ電気的に接続されている。
【0033】
(7)ゲート絶縁層内の固定電荷
そして本実施形態の薄膜トランジスタ1では、ゲート絶縁層4内におけるゲート電極層5との界面近傍に、イオン注入を行うことにより形成された(発現された)負の固定電荷が存在している。
【0034】
本実施形態の薄膜トランジスタ1では、第1ゲート電極層51の厚みdMと、ゲート絶縁層4の厚みdiと、注入イオン(例えば、O、N、C等の原子イオン、O2、N2、C2等の分子イオン、Ar等の希ガスイオン)の平均飛程Rpと、その標準偏差ΔRpとの関係を調整することで、注入イオン(例えば、O、N、C等の原子イオン、O2、N2、C2等の分子イオン、Ar等の希ガスイオン)の多くをゲート絶縁層4内に留めつつ、ゲート絶縁層4内におけるイオン注入による格子欠陥が少なくなるようにしている。具体的に本実施形態の薄膜トランジスタ1では、以下の条件(A)及び(B)の両方を満たすように構成されている。
(A)第1ゲート電極層51の厚みdMとイオン注入によるイオンの平均飛程Rpとが略同一(dM≒Rp)
(B)第1ゲート電極層51の厚みdMとゲート絶縁層4の厚みdiの和が、イオン注入によるイオンの平均飛程Rpとその標準偏差ΔRpの和よりも大きい(dM+di>Rp+ΔRp)
なお、イオンの平均飛程Rpとは、イオン注入されたイオンが膜中で深さ方向(積層方向)に分布する確率分布の最大値の深さ位置であり、またこの場合の標準偏差ΔRpは、同分布の奥側(層内方向側)への拡がりを示す指標である。
【0035】
そして第1ゲート電極層51とゲート絶縁層4のいずれも、その層内にはイオン注入による注入イオンと、イオン注入による欠陥とが分布して形成されている。
図2に示すように、注入イオンは、第1ゲート電極層51とゲート絶縁層4との界面近傍において分布密度が最大となり、また第1ゲート電極層51よりもゲート絶縁層4に多く分布している。一方でイオン注入による欠陥は、第1ゲート電極層51内で分布密度が最大となり、またゲート絶縁層4よりも第1ゲート電極層51に多く分布している。なお、第1ゲート電極層51上に形成された第2ゲート電極層52には、イオン注入による注入イオンと格子欠陥は形成されていない。
【0036】
また元素の分布の観点から言うと、本実施形態の薄膜トランジスタ1では、ゲート絶縁層4における第1ゲート電極層51との界面近傍にイオン注入により添加された元素が分布している。さらには第1ゲート電極層51におけるゲート絶縁層4との界面近傍にもイオン注入により添加された元素が分布している。
【0037】
<2.薄膜トランジスタの製造方法>
次に、上述した構造の薄膜トランジスタ1の製造方法を、
図3を参照して説明する。本実施形態の薄膜トランジスタ1の製造方法は、チャネル層形成工程と、ゲート絶縁層形成工程と、ゲート電極形成工程と、ソース領域/ドレイン領域形成工程と、絶縁層形成工程と、ソース電極/ドレイン電極形成工程とを含んでいる。以下、各工程について説明する。
【0038】
(1)チャネル層形成工程
まず、基板2上にチャネル層3を形成する。このチャネル層3は、既知の方法により形成してよい。例えばプラズマを用いて、InGaZnO等の導電性酸化物焼結体をターゲットとしてスパッタリングすることにより、基板2の全面を覆うようにチャネル層3を形成してよい。なおこれに限らず、他の方法により、酸化物半導体からなるチャネル層3を形成してもよい。
【0039】
(2)ゲート絶縁層形成工程
次に、酸化膜、窒化膜、酸窒化膜等の任意の絶縁材料から構成されるゲート絶縁層4をチャネル層3上に形成する。ここでは、例えばプラズマCVD法等の既知の方法により、チャネル層3の全面を覆うようにゲート絶縁層4を形成する。
【0040】
(3)ゲート電極形成工程
次にゲート絶縁層4上にゲート電極層5を形成する。この工程は、第1ゲート電極形成工程と、第1イオン注入工程と、第2ゲート電極形成工程とを順に含む。
【0041】
(3-1)第1ゲート電極形成工程
まずゲート絶縁層4の上に、真空蒸着法等の既知の方法により、金属又は合金等の金属材料からなる第1ゲート電極層51を形成する。第1ゲート電極層51は、ゲート絶縁層4の全面を覆うように形成されてよい。ここで、形成する第1ゲート電極層51の厚みは、上記した条件(A)dM≒Rp、及び条件(B)dM+di>Rp+ΔRpを満たすようにする。
【0042】
(3-2)第1イオン注入工程
次に、
図3の(a)に示すように、形成した第1ゲート電極層51を介してゲート絶縁層4に対してイオン注入を行う。イオン注入は既知のイオン注入法により行ってよい。このイオン注入工程は、積層方向から視てゲート絶縁層4の全面に対してイオンを注入するように行われる。注入するイオン種は、例えばO、N、C等の原子イオン、O
2、N
2、C
2等の分子イオン、Ar等の希ガスイオンであるが、これに限らない。イオンエネルギーは、例えば5keV~30keVであるがこれに限らない。またイオン注入量(ドーズ量)は、例えば1×10
13iоns/cm
2~1×10
15iоns/cm
2であるが、これに限らない。イオンエネルギー及びイオン注入量は、イオンの平均飛程R
pが上記した条件(A)及び(B)を満たすように設定される。これにより、ゲート絶縁層4における第1ゲート電極層51との界面近傍に負の固定電荷が形成される。
【0043】
(3-3)第2ゲート電極形成工程
第1イオン注入工程後、
図3の(b)に示すように、第1ゲート電極層51上に第2ゲート電極層52を形成する。第2ゲート電極層52は、第1ゲート電極層51の全面を覆うように形成されてよい。第2ゲート電極層52は、第1ゲート電極層51よりも厚みが大きくなるように、真空蒸着法等の既知の方法により形成される。
【0044】
(4)ソース領域/ドレイン領域形成工程
次に、
図3の(c)に示すように、チャネル層3を挟むようにソース領域層S及びドレイン領域層Dを形成する。この工程は、レジストパターニング工程と、エッチング工程と、第2イオン注入工程とを含む。
【0045】
(4-1)レジストパターニング工程
まず、ゲート電極層5(具体的には第2ゲート電極層52)上にフォトレジストRを塗布し、露光及び現像を行う。このフォトレジストRは、ゲート電極層5上において、最終的にチャネル層3となる部位の直上にのみ選択的に塗布する。
【0046】
(4-2)エッチング工程
次に、ゲート電極層5におけるフォトレジストRが塗布されていない部分をエッチングにより除去し、第1ゲート電極層51及び第2ゲート電極層52のパターニングを行う。このエッチング工程において、ゲート絶縁層4におけるゲート電極層5との界面近傍の領域(すなわち、第1イオン注入工程でイオンが注入された表層領域)を除去する。
【0047】
(4-3)第2イオン注入工程
次に、エッチング後のゲート絶縁層4を介して、チャネル層3におけるゲート電極層5の外側の領域にイオン注入を行い、チャネル層3の両外側にソース領域層Sとドレイン領域層Dとを形成する。このイオン注入工程では、積層したフォトレジストR及びゲート電極層5をマスクとして行われる。なお、当該工程のイオン注入は既知の任意の方法により行われてよい。
【0048】
(5)絶縁層形成工程
第2イオン注入工程の後、
図3の(d)に示すように、フォトレジストRを除去してから絶縁層6を形成する。絶縁層6は、ゲート絶縁層4及びゲート電極層5の表面の全面を覆うようにして形成される。絶縁層6は、例えばプラズマCVD法等の任意の方法により形成されてよい。
【0049】
(6)ソース電極/ドレイン電極形成工程
その後、
図3の(e)に示すように、ゲート絶縁層4上にソース電極7及びドレイン電極8を形成する。ソース電極7およびドレイン電極8の形成は、例えば、RFマグネトロンスパッタリング等を用いた既知の方法により形成することができる。このソース電極7及びドレイン電極8は、エッチング等により積層方向に形成したコンタクトホールHを介して、ソース領域層S及びドレイン領域層Dにそれぞれ接続させる。
【0050】
(7)熱処理工程
なお必要に応じて、上記した第1イオン注入工程及び/又は第2イオン注入工程の後に、酸素を含む大気圧下の雰囲気中で熱処理を行ってもよい。この熱処理工程を行うことでゲート絶縁層4に形成されている固定電荷をより小さくすることができ、またゲート絶縁層4/酸化物半導体層3の界面欠陥を低減することができる。熱処理における炉内温度は特に限定されず、例えば150℃以上300℃以下である。また熱処理時間は特に限定されず、例えば1~3時間である。
【0051】
以上により、本実施形態の薄膜トランジスタ1を得ることができる。
【0052】
<3.本実施形態の効果>
このようにした本実施形態の薄膜トランジスタ1の製造方法によれば、金属材料から構成される第1ゲート電極層51を介してゲート絶縁層4にイオン注入を行うことで、上層の第1ゲート電極層51内にイオン注入による欠陥を留めつつ、ゲート絶縁層4内における第1ゲート電極層51との界面近傍に注入イオンを多く分布させ、必要な固定電荷を発現させることができる。しかも、イオン注入を行う際の第1ゲート電極層51の厚みやイオン注入によるイオンの飛程を調整することで、ゲート絶縁層4内における負の固定電荷密度を効率よく調整することができる。これにより固定電荷による電気的な特性制御が可能になり、高移動度で且つ正の閾値電圧での動作が容易な薄膜トランジスタ1を製造することができる。
【0053】
なお、本発明の固定電荷制御方法は前記実施形態に限られるものではない。
例えば前記実施形態では固定電荷制御方法の一例として薄膜トランジスタ1の製造方法を例示したがこれに限らない。他の実施形態では、薄膜トランジスタ以外の他の半導体デバイスの製造方法において本発明の固定電荷制御方法が用いられてもよい。
【0054】
また前記実施形態の製造方法は、薄膜トランジスタ1のフロントチャネル側の絶縁膜(ゲート絶縁層4)に負の固定電荷を発現させるものであったが、これに限らない。他の実施形態では、薄膜トランジスタ1のバックチャネル側に絶縁層を形成し、この絶縁層に正の固定電荷を発現させるようにしてもよい。
【0055】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。例えば、上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0056】
(態様1)半導体デバイスに用いられる絶縁膜内の固定電荷を制御する方法であって、前記絶縁膜の表面に金属膜を形成し、当該金属膜を介して前記絶縁膜にイオン注入を行うことにより前記絶縁膜中に固定電荷を発現させる固定電荷制御方法。
【0057】
(態様2)前記金属膜の厚みが前記イオン注入によるイオンの平均飛程と略同一であり、かつ前記金属膜の厚みと前記絶縁膜の厚みの和が、前記イオン注入によるイオンの平均飛程とその標準偏差の和よりも大きい態様1に記載の固定電荷制御方法。
【0058】
(態様3)前記絶縁膜が、酸化膜、窒化膜又は酸窒化膜を含んで構成されるものである態様1又は態様2に記載の固定電荷制御方法。
【0059】
(態様4)前記金属膜が、アルミニウム、アルミニウム合金、モリブデン、モリブデン合金、チタン又はチタン合金から構成されるものである態様1~態様3のいずれかに記載の固定電荷制御方法。
【0060】
(態様5)前記イオン注入で注入するイオン種は、O、N、C等の原子イオン、O2、N2、C2等の分子イオン、又はAr等の希ガスイオンから選択される1種以上である態様1~態様4のいずれかに記載の固定電荷制御方法。
【0061】
(態様6)トップゲート型の薄膜トランジスタの製造方法であって、絶縁性の基板の表面に酸化物半導体材料からなるチャネル層を形成するチャネル層形成工程と、前記チャネル層の表面にゲート絶縁層を形成するゲート絶縁層形成工程と、前記ゲート絶縁層の表面に金属材料からなる第1ゲート電極層を形成する第1ゲート電極形成工程と、前記第1ゲート電極層を介して前記ゲート絶縁層にイオン注入を行う第1イオン注入工程と、を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【0062】
(態様7)前記第1イオン注入工程の後、前記第1ゲート電極層の表面に、前記第1ゲート電極層よりも厚みが大きい金属材料からなる第2ゲート電極層を形成する第2ゲート電極形成工程を更に含む態様6に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【0063】
(態様8)前記第2ゲート電極の表面にパターニングしたレジストを積層した後、前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極をエッチングによりパターニングするエッチング工程を更に含み、当該エッチング工程において、イオン注入が行われた前記ゲート絶縁層の表層の一部を除去する態様7に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【0064】
(態様9)前記エッチング工程の後、パターニングされた前記第1ゲート電極層、前記第2ゲート電極層及び前記レジストをマスクにして、前記ゲート絶縁層を介して前記チャネル層にイオン注入を行う第2イオン注入工程を更に含む態様8に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【0065】
(態様10)前記第1イオン注入工程後に熱処理を行う態様6~態様9のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【0066】
(態様11)基板上に、酸化物半導体から成るチャネル層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極層とがこの順に積層されたトップゲート型の薄膜トランジスタであって、前記ゲート絶縁層における前記ゲート電極との界面近傍に、イオン注入により添加された元素が分布している薄膜トランジスタ。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することが勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0068】
<実施例1.金属層の有無及びイオン注入量と、固定電荷密度との関係性>
イオン注入時における金属層の有無及びイオン注入量と、固定電荷密度との関係性を評価した。
【0069】
(1)評価サンプル
この実施例では、
図4に示すように、シリコン基板上に熱酸化シリコン膜と金属層を積層したサンプル(金属層有サンプル)と、シリコン基板上に熱酸化シリコン膜のみを積層したサンプル(金属層無サンプル)の2種類の評価サンプルをそれぞれ複数準備した。各評価サンプルにおいて、シリコン基板は、n型であり、比抵抗1~10Ωcmのものを用いた。また各評価サンプルにおいて、熱酸化シリコン膜の膜厚は100nmとした。また金属層有サンプルでは、金属層として、膜厚約10nmのAl-Si合金膜を形成した。
【0070】
(2)イオン注入
そして準備した各評価サンプルに対して、イオン注入量と注入するイオン種を変えてイオン注入を行った。イオン注入量(ドーズ量)は1×10
13iоns/cm
2~1×10
15iоns/cm
2とした。また注入イオン種は、N
+、O
+、Ar
+とした。またいずれの評価サンプルも、注入するイオンエネルギーを10keVとした。なお、注入イオン(N
+,O
+、Ar
+)のイオンエネルギーと注入深さとの関係との関係をシミュレーションソフト(SRIM2013)を用いて計算した結果を
図5に示す。このシミュレーションでは、イオン注入の対象を、Si基板上に酸化シリコン膜(膜厚100nm)とし、注入イオンのエネルギーを5~30keVとしている。
【0071】
(3)固定電荷密度の評価
そしてイオン注入後の各評価サンプルにおける熱酸化シリコン膜の固定電荷密度をC-V法により測定した。なお金属層無サンプルに対しては、熱酸化シリコン膜に接触する電極を形成して行った。その結果を
図6に示す。
【0072】
図6に示すように、イオン注入前に測定した熱酸化シリコン膜の固定電荷密度(約3×10
11/cm
2に対して、イオン注入後の金属層無サンプルでは、正の固定電荷の増加が見られた。酸化シリコン中の欠陥は、正の固定電荷を発現することが通常知られていることから、金属層無サンプルに対するイオン注入では、イオン注入時に生成される欠陥により正の電荷が増加したものと考えられる。
【0073】
一方で、金属層(Al-Si)を介してイオン注入を行った金属層有サンプルでは、正の固定電荷の減少が見られた。金属層を介したイオン注入では、元の電荷量をほとんどキャンセルできる程の負の電荷を生成することができたことが分かる。この結果から、金属層を介したイオン注入では、イオン注入による欠陥を金属層内に閉じ込めることができるため、注入イオンが分布する酸化シリコン膜と金属層との界面近傍に負の固定電荷を発現できたことが分かった。
【0074】
また、
図5に示す注入イオンの深さ分布からは、重い元素に比べて軽い元素がより深く入り込み、N
+、O
+、Ar
+の順に深く入ることが分かる。そのため、金属層有評価サンプルの金属層の厚みが同じである場合、重い元素に比べて軽い元素を注入イオンとして注入する方が、酸化シリコン膜内に注入欠陥が生成されやすくなる。
図6において、注入するイオン種の違いによりシリコン酸化膜の固定電荷密度が異なるのはこのためと考えられる。
【0075】
以上の結果から、酸化シリコン膜に形成される負の固定電荷密度(又は電荷量)は、注入するイオン種とイオン注入量とで制御することができることを確認できた。また酸化シリコン膜の厚みをイオンの注入深さより充分小さくすることで、絶縁膜としての機能を損なわずに機能を付加できることを確認できた。
【0076】
<実施例2.イオン注入後の熱処理と固定電荷密度との関係性>
次に、イオン注入後の熱処理と固定電荷密度との関係性を評価した。
【0077】
(1)評価サンプル
この実施例では、上述した実施例1と同じ条件の金属層有サンプルを複数準備した。
【0078】
(2)イオン注入
そして各金属層有サンプルに対して、イオン注入量と注入するイオン種を変えてイオン注入を行った。イオン注入の条件は、上述の実施例1と同じである。なおこの実施例では、注入イオン種をN+、O+としている。
【0079】
(3)熱処理
そしてイオン注入後の各金属層有サンプルに対して熱処理を行った。熱処理は、酸素を含む大気圧下の雰囲気中(200℃)で2時間行った。
【0080】
(4)固定電荷密度の評価
そして熱処理後の各評価サンプルにおける熱酸化シリコン膜の固定電荷密度をC-V法により測定した。なおこの実施例では、各評価サンプルの熱処理前の固定電荷密度も、C-V法により予め測定している。その結果を
図7に示す。
【0081】
図7に示すように、この実施例では、金属層を介してイオン注入を行った場合、その後の熱処理の実施によらず、正の固定電荷密度を減少できることを確認できた。また、イオン注入後に熱処理を行うことで、正の固定電荷密度をさらに一様に減少することが確認できた。これは、金属層を介したイオン注入で金属層を越えて生成された欠陥分布(正の電荷)が熱処理により減少し、注入イオンによる負の増加がより顕著に発現した結果と考えられる。
【符号の説明】
【0082】
1 ・・・薄膜トランジスタ
2 ・・・基板
3 ・・・チャネル層
4 ・・・ゲート絶縁層
5 ・・・ゲート電極層
6 ・・・絶縁層
7 ・・・ソース電極層
8 ・・・ドレイン電極層