(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】モールドパウダー及びそれを用いた鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/108 20060101AFI20240403BHJP
C21C 7/076 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B22D11/108 F
C21C7/076 P
(21)【出願番号】P 2022098020
(22)【出願日】2022-06-17
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 ▲韋▼
(72)【発明者】
【氏名】中谷 枝里香
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-057411(JP,A)
【文献】特開2003-290888(JP,A)
【文献】特開2004-148376(JP,A)
【文献】特開2006-247735(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0141121(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrO
2源の原料としてジルコン酸カルシウムを含有
し、
前記ZrO
2
源の原料の、ZrO
2
のCaOに対する質量比(ZrO
2
/CaO)が2.0~2.9のモールドパウダーにおいて、
前記ZrO
2
源の原料の含有量が、前記モールドパウダーの、前記ZrO
2
源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO
2
換算で1~15質量部であることを特徴とするモールドパウダー。
【請求項2】
請求項1に記載のモールドパウダーにおいて、
前記モールドパウダーの、前記ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算のCaOのSiO
2に対する質量比(CaO/SiO
2)が1.15以下であることを特徴とするモールドパウダー。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のモールドパウダーを用いることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造に好適なモールドパウダー及びそれを用いた鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、タンディッシュに貯留された溶鋼を、浸漬ノズルを介してモールドに流し込んで冷却、凝固させながら、凝固したシェル(凝固シェル)をロールによりモールドの下方向に連続的に引き抜くことにより、スラブ、ブルーム、ビレット等の各種形状の鋳片を連続的に製造する。モールド内の溶鋼の表面には、粉末状又は顆粒状のモールドパウダーが散布される。モールドパウダーは溶鋼の熱によって溶融して(以下、溶融状態のモールドパウダーを「溶融スラグ」という)溶鋼の表面を覆い、溶融スラグは凝固シェルとモールドの間に流入して消費される。この間のモールドパウダーの主な役割は(1)溶鋼表面の保温及び酸化防止、(2)溶鋼から浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化、(3)凝固シェルとモールドの間の潤滑の保持、(4)凝固シェルからモールドへの熱流束の制御等である。
【0003】
モールドパウダーの主成分はCaO-SiO2系であり、必要に応じてNa2O、Li2O、K2O、Al2O3、MgO、CaF2等の成分を含有する。使用前のモールドパウダーは一般に複数の原料の混合物であり、CaO-SiO2源の原料としては、例えば、珪灰石、CaO源の原料としては、例えば、石灰石、セメント、SiO2源の原料としては、例えば、珪砂、珪藻土、Na2O源の原料としては、例えば、ソーダ灰、炭酸ナトリウム、Li2O源の原料としては、例えば、炭酸リチウム、Al2O3源の原料としては、例えば、アルミナクリンカ、MgO源の原料としては、例えば、マグネシアクリンカ、F源の原料としては、例えば、蛍石、フッ化ナトリウムが用いられる。
【0004】
ここで、浸漬ノズルのパウダーラインの材料はジルコニア-カーボン質であることから、パウダーラインの溶損抑制等の目的で、ZrO2を含有するモールドパウダーが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、フラックス基材及び溶融性状調整材を選択的に加えた定常鋳造用の添加剤にジルコニア0.5~15wt%を含有せしめたことを特徴とする連続鋳造用鋳型添加剤が提案されている。特許文献2には、sol.Al 0.002%以下のSi脱酸溶鋼を、ジルコニア又はジルコン含有材質よりなる浸漬ノズルもしくはスラグラインにこれらの材質を有するノズルで連続鋳造を行なう際に用いる鋳型添加剤であって、フラックス成分及び溶融性状調整剤を選択的に加えた定常鋳造用の鋳型添加剤にZrO2成分を2~6重量%含有させ、かつ事前に全体を溶融処理した基材と溶融速度調整用の炭素粉末等の骨材を混合して用いる連続鋳造用鋳型添加剤が提案されている。ZrO2源の原料としては、バデライト、ジルコンサンドが用いられる。連続鋳造用鋳型添加剤としては、ZrO2含有の事前溶融品及び若干のNaFを添加して粘度を調整したZrO2含有の事前溶融品が用いられる。特許文献3には、CaO、SiO2及びフッ素化合物を基本成分とし、0~10質量%のZrO2を含有するモールドパウダーが提案されている。ZrO2源の原料としては、ジルコンサンドが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭57-41862号公報
【文献】特開平5-57411号公報
【文献】特開2001-179408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、バデライト及びジルコンサンドは限られた時間内で溶融スラグに溶解しきれないことが多い。この場合、ZrO2による浸漬ノズルの溶損抑制効果は低下する。また、未溶解のバデライト及びジルコンサンドは、溶融スラグの下方に沈降して溶鋼に取り込まれ、鋼中のZrO2系介在物になることがある。このような問題は、モールドの厚みが100mm以下の薄スラブの連続鋳造で特に生じやすい。これは、薄スラブの連続鋳造では、モールドの、スラブ厚み方向の寸法が小さく、さらに鋳造速度が2.0m/分以上と高速であるため、溶融スラグの溶鋼湯面上での滞在時間が短く、バデライト及びジルコンサンドの溶融スラグへの溶解時間が不足するためと考えられる。
【0008】
一方、特許文献2で提案されたZrO2含有の事前溶融品は、工業規模で製造すると、溶融のための工程や燃料が増加し、コストが上昇する。また、バデライト及びジルコンサンドは、未溶解で事前溶融品に残留することがある。さらに、バデライト及びジルコンサンドは密度が溶融スラグより顕著に高いため、事前の溶融処理中に溶融スラグの下方へ沈降し、事前溶融品のZrO2濃度は下方が高く、上方が低いという、ZrO2の偏析という問題が生じることもある。
【0009】
本発明は上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、ZrO2源の原料が限られた時間内で溶融スラグに溶解し、浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中のZrO2系介在物を生じさせず、事前の溶融処理が不要なモールドパウダー及びそれを用いた鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本開示の一の態様は、
ZrO2源の原料としてジルコン酸カルシウムを含有することを特徴とするモールドパウダーに関する。ジルコン酸カルシウムは溶融スラグへの溶解が速く、連続鋳造中に完全に溶解するため、浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中にZrO2系介在物を生じさせない。したがって、モールドパウダーの事前の溶融処理も不要である。
【0011】
(2)本開示の一の態様では、
前記ジルコン酸カルシウムのZrO2のCaOに対する質量比(ZrO2/CaO)が2.0~2.9であることが好ましい。この場合、ジルコン酸カルシウムの溶融スラグへの溶解が著しく速く、連続鋳造中に完全に溶解するため、浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中にZrO2系介在物を生じさせない。
【0012】
(3)本開示の一の態様では、
前記ジルコン酸カルシウムの含有量が、前記モールドパウダーの、前記ZrO2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO2換算で1~15質量部であることが好ましい。ジルコン酸カルシウムの含有量が、モールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO2換算で1質量部以上の場合、浸漬ノズルの溶損抑制効果が顕著であり、15質量部以下の場合、潤滑性等のモールドパウダーの役割を十分に発揮することができる。なお、「モールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算」とは、モールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分を溶融して得られる溶融スラグを想定したものであり、ZrO2源の原料から供給される成分(例えば、ジルコン酸カルシウムのCaOやZrO2)の他、溶融時に消失する成分(例えば、滓化速度調整のための炭素原料や、石灰石に含まれるCO2)は含まれない。
【0013】
(4)本開示の一の態様では、
前記モールドパウダーの、前記ZrO2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算のCaOのSiO2に対する質量比(CaO/SiO2)が1.15以下であることが好ましい。この場合、ジルコン酸カルシウムの、溶融スラグへの溶解が顕著に速い。
【0014】
(5)本開示の他の態様は、
本開示の一の態様のモールドパウダーを用いることを特徴とする鋼の連続鋳造方法に関する。ジルコン酸カルシウムは溶融スラグへの溶解が速く、連続鋳造中に完全に溶解するため、浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中にZrO2系介在物を生じさせない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0016】
本実施形態のモールドパウダーは、ZrO2源の原料としてジルコン酸カルシウムを含有する。ZrO2源の原料はジルコン酸カルシウムからなることが好ましい。ジルコン酸カルシウムは、後述する実施例に詳しく示されるように、溶融スラグへの溶解がバデライト、ジルコンサンドと比べて顕著に速く、連続鋳造中に完全に溶解するため、浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中にZrO2系介在物を生じさせない。したがって、モールドパウダーの事前の溶融処理も不要である。これは、ジルコン酸カルシウム中のCaイオンの溶融スラグへの拡散が非常に速いことにより、Zrイオンの拡散も促進されるためと考えられる。
【0017】
ジルコン酸カルシウムの組成は、化学量論的組成、即ち、ZrO2が68.7質量%、CaOが31.3質量%で、ZrO2のCaOに対する質量比(ZrO2/CaO)が2.2のジルコン酸カルシウム(CaZrO3)が好ましい。ジルコン酸カルシウムの質量比(ZrO2/CaO)は2.0~2.9であってもよく、より好ましくは2.7以下である。ジルコン酸カルシウムの不可避不純物は5質量%以下でよく、CaZrO3鉱物相内に存在してもよいし、他の鉱物相として存在してもよい。ジルコン酸カルシウムは焼結又は電融によって製造することができる。
【0018】
ジルコン酸カルシウムの含有量は、モールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO2換算で1~15質量部であることが好ましい。ジルコン酸カルシウムの含有量が、モールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO2換算で1質量部以上の場合、浸漬ノズルの溶損抑制効果が顕著であり、15質量部以下の場合、潤滑性等のモールドパウダーの役割を十分に発揮することができる。なお、「モールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算」とは、モールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分を溶融して得られる溶融スラグを想定したものであり、ZrO2源の原料から供給される成分(例えば、ジルコン酸カルシウムのCaOやZrO2)の他、溶融時に消失する成分(例えば、滓化速度調整のための炭素原料や、石灰石に含まれるCO2)は含まれない。
【0019】
ジルコン酸カルシウムの粒径は、常用のモールドパウダーの粒径(例えば、150μm以下)と同程度でよい。
【0020】
本実施形態のモールドパウダーは、ジルコン酸カルシウム以外の原料として、慣用のものを用いることができる。CaO-SiO2源の原料としては、例えば、珪灰石、CaO源の原料としては、例えば、石灰石、セメント、SiO2源の原料としては、例えば、珪砂、珪藻土、Na2O源の原料としては、例えば、ソーダ灰、炭酸ナトリウム、Li2O源の原料としては、例えば、炭酸リチウム、Al2O3源の原料としては、例えば、アルミナクリンカ、MgO源の原料としては、例えば、マグネシアクリンカ、F源の原料としては、例えば、蛍石、フッ化ソーダ等を用いることができる。また、モールドパウダーの滓化速度の調整のために炭素原料、例えば、カーボンブラック、コークス粉、黒鉛等を必要に応じて添加してもよい。
【0021】
本実施形態のモールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算のCaOのSiO2に対する質量比(CaO/SiO2)は1.15以下が好ましい。この場合、ジルコン酸カルシウムの、溶融スラグへの溶解が顕著に速い。なお、このCaOは,CaF2のCaから換算されるCaOを含まない。また、モールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分に含まれるフッ素(F)はすべてCaF2に換算し、CaF2以外のフッ化物はその酸化物に換算する。即ち、例えば、NaFのFはCaF2に換算し、NaはNa2Oに換算する。
【0022】
溶融スラグの成分分析は、例えば、次のように行う。即ち、複数の原料の混合物であるモールドパウダーから所定量のサンプルを採取し、1300℃以上に加熱、溶融して溶融スラグにし、所定時間保持後、急冷する。急冷された溶融スラグに対し、慣用の分析方法にて成分分析を行う。
【0023】
本実施形態のモールドパウダーの形態は特に限定されるものではなく、例えば、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒等であってよい。
【0024】
本実施形態のモールドパウダーは、モールドの厚みが100mm以下、鋳造速度が2.0m/分以上の薄スラブの連続鋳造に特に好適である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0026】
[ZrO2溶解量の測定方法]
下記実施例1~3について、ZrO2の溶融スラグへの溶解量を次のようにして求めた。
【0027】
内径20mmの白金ルツボの底部にZrO2換算で1.5gのZrO2源の原料を均一に散布し、その上に30gの溶融スラグを形成するモールドパウダー(「モールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算」に相当)を載せた。ジルコン酸カルシウムの含有量は、モールドパウダーの、ZrO2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO2換算で5質量部に相当する。
【0028】
このセットを電気炉に入れ、1450℃まで昇温し、15分間保持後、溶融スラグの表面の一部を採取し、溶融スラグ試料とした。冷却後の溶融スラグ試料を粉砕し、慣用の分析方法にてZrO2含有量を測定した。
【0029】
[実施例1]
ZrO
2源の原料によるZrO
2の溶融スラグへの溶解量の違いを上記ZrO
2溶解量の測定方法で評価した。即ち、本発明品1ではZrO
2源の原料としてジルコン酸カルシウム(CaZrO
3)を用い、比較品1、2ではZrO
2源の原料としてそれぞれバデライト(ZrO
2)とジルコン(ZrSiO
4)を用いた。いずれの原料も純度が99.5質量%以上(不純物が0.5質量%以下)の高純度品で、粒径が5μm以下のものを用いた。ジルコン酸カルシウム及びジルコンの組成は、いずれも化学量論的組成とほぼ同じものを用いた。即ち、本発明品1のジルコン酸カルシウムの質量比(ZrO
2/CaO)は2.2である。各原料がZrO
2換算で1.5g(モールドパウダーの、ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO
2換算で5質量部)になるように、ジルコン酸カルシウムは2.2g、バデライトは1.5g、ジルコンは2.2gとした。モールドパウダーの、ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成はいずれも同じにした。実施例1に用いたZrO
2源の原料と、モールドパウダーの、ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成と、溶融スラグ試料中のZrO
2含有量を表1に示す。
【表1】
【0030】
溶融スラグ試料中のZrO2含有量は、比較品1のバデライトが1.4質量%、比較品2のジルコンが2.1質量%であったのに対し、本発明品1のジルコン酸カルシウムでは4.4質量%であった。溶融スラグ試料中のZrO2含有量が多いほど、ZrO2源の原料から溶融スラグへのZrO2の溶解速度が速いと判断できるから、本発明品1はZrO2の溶解速度が顕著に速かった。これは、ジルコン酸カルシウム中のCaイオンの溶融スラグへの拡散が非常に速いことにより、Zrイオンの拡散も促進されるためと考えられる。
【0031】
[実施例2]
ジルコン酸カルシウムの質量比(ZrO
2/CaO)によるZrO
2の溶融スラグへの溶解量の違いを上記ZrO
2溶解量の測定方法で評価した。即ち、本発明品2~4のZrO
2源の原料として、それぞれ本発明品1と同じ質量比(ZrO
2/CaO)が2.2のジルコン酸カルシウム高純度品、質量比(ZrO
2/CaO)が2.7で、不純物が1質量%以下のジルコン酸カルシウムA及び質量比(ZrO
2/CaO)が2.9で、不純物が3.4質量%のジルコン酸カルシウムBを用いた。ジルコン酸カルシウムはいずれも2.2gとした。本発明品2~4のZrO
2換算含有量は、それぞれ1.5g、1.6g及び1.6gである。モールドパウダーの、ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成はいずれも同じにした。実施例2に用いたZrO
2源の原料と、モールドパウダーの、ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成と、溶融スラグ試料中のZrO
2含有量を表2に示す。
【表2】
【0032】
溶融スラグ試料中のZrO2含有量はいずれも多かった。ZrO2源の原料の質量比(ZrO2/CaO)が2.9のジルコン酸カルシウムBを用いると、ZrO2換算含有量は本発明品2より増えるが、溶融スラグ試料中のZrO2含有量はやや少なくなった。これは、質量比(ZrO2/CaO)が増えるとZrO2の溶解速度が低下するためと考えられる。
【0033】
[実施例3]
モールドパウダーの、ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の質量比(CaO/SiO
2)によるZrO
2の溶融スラグへの溶解量の違いを上記ZrO
2溶解量の測定方法で評価した。即ち、本発明品5~8のZrO
2源の原料として、本発明品1、2と同じ質量比(ZrO
2/CaO)が2.2のジルコン酸カルシウム高純度品を用いた。ジルコン酸カルシウムはいずれも2.2gとした。本発明品5~8のモールドパウダーの、ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の質量比(CaO/SiO
2)をそれぞれ0.60、0.80、1.15、1.25とした。実施例3に用いたZrO
2源の原料と、モールドパウダーの、ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成と、溶融スラグ試料中のZrO
2含有量を表3に示す。
【表3】
【0034】
溶融スラグ試料中のZrO2含有量はいずれも多かった。CaO/SiO2が1.15を超えると、溶融スラグ試料中のZrO2濃度が低くなり、ZrO2の溶解速度が遅くなる傾向が認められた。
【0035】
[実施例4]
本発明のモールドパウダーを用いて鋼の連続鋳造を行い、浸漬ノズルの溶損速度と鋳片表面を評価した。モールドは厚み80mm、幅1800mmの薄スラブ用を用い、鋳造速度は4.5m/分、鋳造時間は115分間とした。ZrO
2源の原料として、本発明品9では質量比(ZrO
2/CaO)が2.2、純度99質量%以上のジルコン酸カルシウムを用い、比較品3では純度99質量%以上のジルコンサンドを用いた。本発明品9と比較品3のモールドパウダーは、いずれもZrO
2源の原料の含有量を、モールドパウダーの、ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算に対する質量比をZrO
2換算で0.05とし、粒径は50μm以下であった。実施例4に用いたZrO
2源の原料と、モールドパウダーの、ZrO
2源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成を表4に示す。
【表4】
【0036】
比較品3のモールドパウダーを用いた場合、浸漬ノズルのパウダーラインの溶損速度は0.16mm/分であり、鋳片表面にZrO2系の介在物が認められた。一方、本発明品9のモールドパウダーを用いた場合、浸漬ノズルのパウダーラインの溶損速度は0.02mm/分であり、鋳片表面にZrO2系の介在物は認められなかった。本発明のモールドパウダーの顕著な優位性が実証された。よって、薄スラブのように鋳造速度が高速の場合は、ジルコン酸カルシウムのみを使用することが好ましい。
【0037】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の製造装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。