(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】コネクタ及び高周波信号伝送装置
(51)【国際特許分類】
H01R 12/77 20110101AFI20240403BHJP
【FI】
H01R12/77
(21)【出願番号】P 2023515907
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015933
(87)【国際公開番号】W WO2022224324
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000177690
【氏名又は名称】山一電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高平 浩司
(72)【発明者】
【氏名】米沢 章
【審査官】高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-155243(JP,A)
【文献】特開2020-184471(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0214755(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R12/70-12/81
H01R13/6471
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号伝送ケーブルが電気的に接続されるコネクタであって、
インシュレータと、
各々が1以上の信号用コンタクト端子及び1以上のグランド用コンタクト端子を含む少なくともM(Mは2以上の自然数を示す)個の単位配列が前記インシュレータの幅方向に沿って配置されたコンタクト端子群を備え、
前記インシュレータは、インシュレータ本体と、前記インシュレータ本体に対して取り付けられて前記インシュレータの幅方向に沿って配置される少なくともM個の取付部材を有し、
前記少なくともM個の単位配列に含まれる個々の単位配列が前記少なくともM個の取付部材に含まれる個々の取付部材により個別に支持される、コネクタ。
【請求項2】
各単位配列は、信号用コンタクト端子の対が2つのグランド用コンタクト端子により挟まれた4つのコンタクト端子を含むことを特徴とする請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記4つのコンタクト端子に含まれる前記2つのグランド用コンタクト端子同士を電気的に接続する導電性部材が前記取付部材により保持されることを特徴とする請求項2に記載のコネクタ。
【請求項4】
前記取付部材は、前記導電性部材が挿入される挿入孔を有し、前記導電性部材は、少なくとも2つの突起を有し、各突起が、前記取付部材の挿入孔内に位置する前記グランド用コンタクト端子の露出部に接触することを特徴とする請求項3に記載のコネクタ。
【請求項5】
前記取付部材は、少なくとも前壁、後壁、左壁、及び右壁を有する筒体であり、これらの壁により前記挿入孔が画定され、前記挿入孔が上下両側で開口することを特徴とする請求項4に記載のコネクタ。
【請求項6】
前記信号用コンタクト端子及びグランド用コンタクト端子それぞれは、前記取付部材から離間するように延びるアーム部を有し、前記インシュレータ本体には、複数の前記アーム部を個別に受容する複数の受容溝が設けられ、前記受容溝の幅が前記アーム部の幅変化に対応して設定されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のコネクタ。
【請求項7】
前記アーム部は、アーム板部と、前記アーム板部よりも前記取付部材から離れて設けられ、かつ前記アーム板部よりも幅狭のアーム棒部を含み、
前記受容溝は、前記アーム板部を受容するための第1溝幅と、前記アーム棒部を受容するための前記第1溝幅よりも狭い第2溝幅を有することを特徴とする請求項6に記載のコネクタ。
【請求項8】
前記アーム部は、前記高周波信号伝送ケーブルに設けられたコンタクトパッドに接触するべき接点部を有し、
前記受容溝は、前記接点部に対応した位置で最小の溝幅を有することを特徴とする請求項7に記載のコネクタ。
【請求項9】
前記インシュレータの幅方向で隣接する前記取付部材の各凹部の組み合わせによって固定金具のための挿入路が形成されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のコネクタ。
【請求項10】
前記固定金具は、前記挿入路に挿入される挿入部を有し、当該挿入部は、前記挿入路への前記挿入部の挿入方向において変化する幅を有することを特徴とする請求項9に記載のコネクタ。
【請求項11】
前記インシュレータ本体には前記高周波信号伝送ケーブルの端部に取り付けられたプラグ部材のプラグ突起が挿入される孔が設けられ、当該孔と前記取付部材の間には隔壁が設けられることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載のコネクタ。
【請求項12】
前記インシュレータ本体が、前記少なくともM個の取付部材が挿入される後口と、前記高周波信号伝送ケーブルが挿入される前口を有する枠体であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載のコネクタ。
【請求項13】
少なくともM個の導電性部材を更に備え、前記少なくともM個の導電性部材に含まれる個々の導電性部材が前記少なくともM個の取付部材に含まれる個々の取付部材により個別に保持されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載のコネクタ。
【請求項14】
前記取付部材は、前記導電性部材が挿入される挿入孔を有し、かつ前記信号用コンタクト端子及びグランド用コンタクト端子が前記挿入孔内で露出部を有するように前記信号用コンタクト端子及びグランド用コンタクト端子を支持することを特徴とする請求項13に記載のコネクタ。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載のコネクタと、
前記コネクタに電気的に接続される高周波信号伝送ケーブルを備え、
前記高周波信号伝送ケーブルには、Mチャンネルの信号伝送路が設けられることを特徴とする高周波信号伝送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コネクタ及び高周波信号伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波信号伝送用コネクタでは、信号の高速伝送を可能にすることが求められる。特許文献1には、コネクタのコンタクト端子の幅を調整してインピーダンス整合を取ることが開示されている。特許文献2には、信号の高速伝送時のクロストークの低減のため、コモンコンタクトを用いて信号用コンタクト端子を挟むグランド用コンタクト端子の電位を等しくすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-164884号公報
【文献】特開2013-84577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コネクタにおいてコンタクト端子群が共通の絶縁部材により支持されることが慣例である。本願発明者は、このような慣例の構造を見直し、伝送信号の周波数の更なる高周波数化に適合可能なコネクタを提供する意義を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るコネクタは、高周波信号伝送ケーブルが電気的に接続されるコネクタであって、インシュレータと、各々が1以上の信号用コンタクト端子及び1以上のグランド用コンタクト端子を含む少なくともM(Mは2以上の自然数を示す)個の単位配列が前記インシュレータの幅方向に沿って配置されたコンタクト端子群を含む。インシュレータは、インシュレータ本体と、インシュレータ本体に対して取り付けられてインシュレータの幅方向に沿って配置される少なくともM個の取付部材を有する。少なくともM個の単位配列に含まれる個々の単位配列が少なくともM個の取付部材に含まれる個々の取付部材により個別に支持される。必ずしもこの限りではないが、各単位配列は、信号用コンタクト端子の対が2つのグランド用コンタクト端子により挟まれた(換言すれば、2つのグランド用コンタクト端子の間に設けられた)4つのコンタクト端子を含む。4つのコンタクト端子に含まれる2つのグランド用コンタクト端子同士を電気的に接続する導電性部材が前記取付部材により保持され得る。
【0006】
インシュレータ本体の受容溝の幅がコンタクト端子のアーム部の幅変化に対応して(即ち、同調に)設定され得る。例えば、受容溝は、コンタクト端子のアーム板部を受容するための第1溝幅と、コンタクト端子のアーム棒部を受容するための第1溝幅よりも狭い第2溝幅を有する。なお、アーム棒部は、アーム板部よりも取付部材から離れて設けられ(換言すれば、コンタクト端子の先端側に設けられ)、アーム板部よりも幅狭である。受容溝は、コンタクト端子の接点部に対応した位置で最小の溝幅を有し得る。
【0007】
インシュレータの幅方向で隣接する取付部材の各凹部の組み合わせによって固定金具のための挿入路が形成され得る。固定金具は、挿入路に挿入される挿入部を有し得る。この挿入部は、挿入路への挿入部の挿入方向において変化する幅を有し得る。
【0008】
幾つかの実施形態では、コネクタは、少なくともM個の導電性部材を更に含む。少なくともM個の導電性部材に含まれる個々の導電性部材が少なくともM個の取付部材に含まれる個々の取付部材により個別に保持される。固定金具の個数は、M+1で有り得る。
【0009】
取付部材は、導電性部材が挿入される挿入孔を有し、かつ信号用コンタクト端子及びグランド用コンタクト端子が挿入孔内で露出部を有するように信号用コンタクト端子及びグランド用コンタクト端子を支持し得る。
【0010】
本開示の別態様に係る高周波信号伝送装置は、上述のコネクタと、コネクタに電気的に接続される高周波信号伝送ケーブルを含む。高周波信号伝送ケーブルには、Mチャンネルの信号伝送路が設けられる。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、伝送信号の周波数の更なる高周波数化に適合可能なコネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一態様に係る高周波信号伝送装置の概略的な斜視図である。
【
図3】FPCの概略的かつ部分的な断面構成を示す模式図である。
【
図4】FPCの一端を示す概略的な部分下面図である。
【
図5】コネクタの概略的な斜視図であり、その前側が示される。
【
図6】コネクタの概略的な斜視図であり、その後側が示される。
【
図7】コネクタの概略的な分解斜視図であり、インシュレータ本体から8つの取付部材と9つの固定金具が後方に分離した状態が主に示される。
【
図8】GSSG配列の4つのコンタクト端子がインシュレータ本体の下板に設けられた4つの受容溝に個別に受容された状態を示す模式図である。
【
図9】
図8のX9-X9の一点鎖線に沿う概略的な断面を示す模式図である。
【
図10】取付部材の概略的な分解斜視図であり、取付部材から導電性部材が取り外された状態が示される。
【
図12】
図11のX12-X12の一点鎖線に沿う概略的な断面図である。
【
図14】コネクタにFPCが挿入され、両者が電気的に接続された状態を示す模式図である。
【
図16】比較例に係るコネクタのシミュレーション結果を示す。
【
図17】本開示の形態に係るコネクタのシミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、
図1乃至
図17を参照しつつ、様々な実施形態及び特徴について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができ、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている。各特徴は、本願に開示されたコネクタにのみ有効であるものではなく、本明細書に開示されていない他の様々なコネクタにも通用する普遍的な特徴として理解される。本明細書では、必要に応じて、第1、第2といった用語を用いて、コネクタといった同種のパーツをお互いに区別するが、代替又は追加的に、相対的な位置関係や方向を示す用語(前、後、左、右、上、下)に照らして同種パーツを区別することもできる。
【0014】
高周波信号伝送装置9は、(第1)コネクタ1、(第2)コネクタ2、及びケーブル装置3を有する。コネクタ1,2は、同一構造のコネクタであり、従って、両者を区別することなく説明する。換言すれば、一方のコネクタに関する説明は、他方のコネクタにもそのまま当てはまり、逆も然りである。コネクタ1,2の構成の詳細については後述する。
【0015】
ケーブル装置3は、FPC(Flexible Printed Circuits)4と、FPC4とコネクタ1の接続を補助するべくFPC4の端部41に取り付けられた(第1)プラグ部材5と、FPC4とコネクタ2の接続を補助するべくFPC4の端部42に取り付けられた(第2)プラグ部材6を有する。なお、FPC4は、高周波信号伝送ケーブルの非限定の一例である。FPCを代替的にフラットケーブルと呼ぶこともできる。
【0016】
コネクタ1,2は、各々、プラグ部材5,6と機械的に連結され、FPC4(具体的には、FPC4の端部に配列されたコンタクトパッド群)に電気的に接続される。プラグ部材5,6は、同一構造のプラグ部材であり、従って、両者を区別することなく説明する。FPC4及び/又はプラグ部材5,6との関係からコネクタ1,2をレセプタクルコネクトと呼ぶことができる。なお、プラグ部材5,6はオプションパーツであり、省略可能である。
【0017】
FPC4は、誘電体層70、(第1)配線層71、(第2)配線層72と、配線層71を被覆する被覆層73、及び配線層72を被覆する被覆層74の積層体である(
図3参照)。FPC4は、U字状に屈曲可能な程度の可撓性を有するケーブルであるが、可撓性を有しないケーブルも採用可能である。誘電体層70は、LCP(液晶ポリマー)、ポリイミドといった所定の比誘電率を有する樹脂シートであり得る。同様、被覆層73,74は、例えば、LCP(液晶ポリマー)、ポリイミドといった樹脂膜であり得る。FPC4の端部41,42では被覆層が除去され、結果として、被覆層により被覆されている箇所と比較して、後述の信号線85と第1グランド線81の間の浮遊容量が変化する。配線層71,72に含まれる配線は、銅箔といった金属箔であり得る。
【0018】
配線層71には、少なくともM(Mは、2以上の自然数を示す)個の差動伝送路8と、少なくとも2×M個の第1グランド線81(第1グランド線群と呼ぶ)が設けられる。差動伝送路8の信号線85と第1グランド線81が同一平面に配置される。配線層72には少なくともM個の第2グランド線82(第2グランド線群と呼ぶ)が配置される。典型的には、第2グランド線群に含まれる第2グランド線82の数は、第1グランド線群に含まれる第1グランド線81の数の半分であるが、必ずしもこの限りではない。なお、図示の場合、M=8であるが、これに限られない。
【0019】
M個の差動伝送路8の各差動伝送路8に対して第1グランド線群に含まれる少なくとも2つの第1グランド線が重複せずに割り当てられ、かつM個の差動伝送路8の各差動伝送路8に対して第2グランド線群に含まれる少なくとも1つの第2グランド線が重複せずに割り当てられ得る。この結果として、各差動伝送路8は、(割り当てられた)少なくとも2つの第1グランド線81により(詳細には、同一平面で)挟まれ、(割り当てられた)少なくとも1つの第2グランド線82に(詳細には、誘電体層70を挟んで)対向して設けられる(
図3参照)。かかる構成によれば、差動伝送路の間でグランド線又はGNDプレーンが共有される場合に生じるクロストークが抑制される。なお、グランド線又はGNDプレーンが差動伝送路の間で共有される場合、ある差動伝送路から別の差動伝送路へグランド線又はGNDプレーン経由で信号が漏出してしまうおそれがあり(例えば、グランド線に機器から伝わるコモンモードノイズ(又は電流))、差動伝送方式の採用でもこれを十分に回避できない。
【0020】
幾つかの場合、第1平面の4本の配線(即ち、差動伝送路8の2つの信号線85と2つの第1グランド線81)と第2平面の1つの配線(即ち、1つの第2グランド線82)の(少なくとも)合計5本の配線によって1チャンネルの信号伝送路が構成される。信号伝送路のチャンネル数もMにより表される。有利には、隣接する信号伝送路の間でFPC4上(例えば、FPC4の全長)においてグランド線が共有されない。
【0021】
各信号伝送路において、複数の貫通配線86を介して各第1グランド線81を共通の第2グランド線82に電気的に接続して、第1グランド線81と第2グランド線82の電位を安定化することが好ましい(
図4参照)。なお、第1グランド線81は、第2グランド線82よりも幅狭である。更には、一つの信号伝送路において、ある第1グランド線81と第2グランド線82の接続のために設けられる貫通配線86と、別の第1グランド線81と第2グランド線82の接続のために設けられる貫通配線86に関して、好適には、両者の個数が同一であり、同一ピッチで設けられるが、必ずしもこの限りではない。第2グランド線82と同様の態様で、被覆層73上に複数の個別の第3グランド線(不図示)を形成することもできる。
【0022】
信号線85は、被覆層73により被覆される部分と比べて被覆層73により被覆されずに露出した部分が幅狭になるように形状付けられ得る(
図4の幅W1と幅W2参照)。例えば、信号線85の両端のコンタクトパッド85aが、これらのコンタクトパッド85aの間を延びる中間配線部85bよりも幅狭になるように形状付けられる。これによって被覆層73と空気の比誘電率の差を吸収して均一な信号伝送特性を維持することができる。なお、コンタクトパッド85aを幅狭にすることによりFPC4とコネクタ1,2の電気的接続のためにより高いアライメント精度が必要になってしまうが、これは、プラグ部材の採用により回避することができる。
【0023】
第1グランド線81は、被覆層73により被覆される部分と比べて被覆層73により被覆されずに露出した部分が幅広になるように形状付けられ得る(
図4の幅W3と幅W4参照)。例えば、第1グランド線81は、その両端のコンタクトパッド81aがこれらのコンタクトパッドの間を延びる中間配線部81bよりも幅広になるように形状付けられ、この幅広のコンタクトパッド81aに応じて第1グランド線81のコンタクトパッド81aと信号線85のコンタクトパッド85aの間隔が狭くなる。これによって被覆層73と空気の比誘電率の差を吸収して均一な信号伝送特性を維持することができる。なお、コンタクトパッド81aを幅広にするとしてもコンタクトパッド85aが幅狭であるため、依然としてFPC4とコネクタ1,2の電気的接続のためにより高いアライメント精度が必要になってしまう。なお、信号線85のコンタクトパッド85aの幅は、第1グランド線81のコンタクトパッド81aの幅の2/3以下又は1/2以下であり得る。
【0024】
信号線85のコンタクトパッド85aは、第1グランド線81のコンタクトパッド81aよりもFPC4の末端から離れて配置され得る。これによりコネクタ1のコンタクト端子12の接点部と信号線85のコンタクトパッド85aが接触する時、これらの接点位置と信号線85の先端の間に形成されるオープンスタブの長さを短くすることができる。
【0025】
図1に戻って説明する。プラグ部材5,6は、FPC4の端部41,42に装着される。プラグ部材5は、プラグ本体51、プラグ本体51の幅方向両端に設けられた一対のプラグ突起52と、プラグ本体51の幅方向において一対のプラグ突起52の間に設けられた被ロック部53を有する。プラグ本体51は、FPC4が挿通される空間が設けられた枠体である。従って、プラグ部材5にFPC4が挿通されると、プラグ本体51から前方に延びる一対のプラグ突起52の間にはFPC4のコンタクトパッド(即ち、第1グランド線81のコンタクトパッド81aと信号線85のコンタクトパッド85a)がFPC4の幅方向に沿って配置される。
【0026】
詳細には、(信号線85の)コンタクトパッド85aの対が(第1グランド線81の)コンタクトパッド81aの対により挟まれたコンタクトパッドの単位配列がFPC4の幅方向に配列される。各単位配列において、コンタクトパッド85aがコンタクトパッド81aよりもFPC4の末端から離れて位置付けられる。プラグ部材5についてした説明は、プラグ部材6にも該当し、その説明は省略する(符号5,51~53が符号6,65~67で置き換えられる)。
【0027】
図5乃至
図7に示すように、コネクタ1は、インシュレータ11と、各々が1以上の信号用コンタクト端子12S及び1以上のグランド用コンタクト端子12Gを含む少なくともM(Mは2以上の自然数を示す)個の単位配列C1~C8がインシュレータ11の幅方向に沿って配置されたコンタクト端子群を有する(信号用コンタクト端子12S及びグランド用コンタクト端子12Gは、両者を区別することなく単にコンタクト端子12と呼ばれる)。本実施形態では、インシュレータ11は、インシュレータ本体21と、インシュレータ本体21に対して取り付けられてインシュレータ11の幅方向に沿って配置される少なくともM個の取付部材22を有する。更には、少なくともM個の単位配列C1~C8に含まれる個々の単位配列が少なくともM個の取付部材22に含まれる個々の取付部材により個別に支持される。これにより、単位配列C1~C8が別々に取付部材22により支持され、単位配列C1~C8間の電気的なアイソレーションが高められ、クロストークの低減も促進され得る。
【0028】
単位配列C1~C8それぞれにより支持されるコンタクト端子12の数は2以上であり得る。幾つかの場合、各単位配列には、一つの信号用コンタクト端子12Sと一つのグランド用コンタクト端子12Gが含まれる。別の場合、各単位配列には、2つの信号用コンタクト端子12Sと2つのグランド用コンタクト端子12Gが含まれる。
【0029】
有利には、各取付部材22は、信号用コンタクト端子12Sの対が2つのグランド用コンタクト端子12Gの間に挟まれた4つのコンタクト端子12を支持するように構成される。インシュレータ本体21に対してM個の取付部材22を取り付けることによってインシュレータ11にコンタクト端子12が配備される。4つのコンタクト端子12の組み合わせから構成される信号伝送路が異なる取付部材22により支持され、信号伝送路間の電気的なアイソレーションが高められ、クロストークの低減も促進される。なお、取付部材22の個数について、M=8に限らず、M=2又はこれ以上の自然数としても良い。
【0030】
インシュレータ11は、インシュレータ本体21及び取付部材22の組立品であり、FPC4を受け入れるレセプタクルとして形状付けられる。オプションとして、インシュレータ本体21に対する取付部材22の取付のためにM+1個の固定金具23が設けられる。またコネクタ1が実装される実装基板(例えば、マザーボード又はドーターボード)上へのインシュレータ11の固定のために2個の固定金具24が更に設けられる。なお、コネクタ1/インシュレータ11の幅方向は、FPC4の幅方向に等しく、同様、コンタクト端子12の配置方向、及び取付部材22の配置方向に等しい。
【0031】
インシュレータ本体21は、FPC4側の前口21a(
図5参照)とFPC4とは反対側の後口21b(
図7参照)を有する枠体であり、上板25、下板26、左壁27及び右壁28を有する。なお、前方は、コネクタ1からFPC4に向かう方向であるものとし、この方向を基準として左右も規定される。
【0032】
上板25の上面には凹部31が設けられ、凹部31の底面にはロック部33が設けられる。左壁27に隣接した位置で前後方向にインシュレータ本体21を貫通する貫通孔(単に孔とも呼ぶ)32が設けられ、同様、右壁28に隣接した位置で前後方向にインシュレータ本体21を貫通する貫通孔32が設けられる。これらの貫通孔32にはプラグ部材5のプラグ突起52が個別に挿入され、コネクタ1に対するFPC4の良好なアライメントが促進される。なお、貫通孔32は、インシュレータ本体21の前口21aに空間的に連通しており、インシュレータ11が幅広になることが抑制される。インシュレータ本体21に対して取付部材22が取り付けられた状態で取付部材22と貫通孔32の間には隔壁29が設けられ、貫通孔32へのプラグ突起52の挿入によって取付部材22が変位してしまうことが回避される。
【0033】
コネクタ1内にFPC4が所定位置まで十分に挿入される時、プラグ部材5の被ロック部53がインシュレータ本体21のロック部33に係止される。ロック部33と被ロック部53の具体的な係止機構は当業者により様々に設定可能である。例えば、被ロック部53は、コネクタ1内へのFPC4の挿入に応じてロック部33の(後方上り斜面の)ガイド斜面33mを上り、その後、ガイド斜面33mの頂部から下方に延びるロック面33nに接触する枢動可能な爪部である。
【0034】
下板26には、受容溝26gが並列して設けられ、特には、所定数(4つ)の受容溝26gの単位セットがインシュレータ本体21の幅方向に沿って配置される。各受容溝26gは、取付部材22により支持されたコンタクト端子12を受容するべく前後方向に延びる。例えば、各受容溝26gは、前後方向に延びる左右の壁面と前後方向に延びる底面から画定され、上方、前方、及び後方で開口する。コンタクト端子12は、受容溝26gの上方の開口から受容溝26g内に挿入され得る。コンタクト端子12の形状によっては受容溝26gの後口から挿入することも可能である。同一の単位セット内の受容溝26gのピッチ間隔I1は、単位セット間の間隔I2よりも小さく、その1/2以下である。単位集合に含まれる受容溝26gの数は、一つの取付部材22により支持されるコンタクト端子12の数に一致する。
【0035】
各コンタクト端子12は、取付部材22から前方に片持ち梁状に延在するアーム部61と、取付部材22に固定された固定部62と、取付部材22から後方に延在する接点部63を有する(
図7,8参照)。アーム部61は、アーム板部61aと、アーム板部61aよりも取付部材22から離れて設けられ、かつアーム板部61aよりも幅狭のアーム棒部61bを含む。アーム板部61aは、前方に延びるに応じて漸減する左右幅を有する。アーム棒部61bは、アーム板部61aの前端から更に前方に延びる。アーム棒部61bは、FPC4のコンタクトパッドに接触するべき弧状の接点部61cを有するように斜め前方に延び、続いて斜め下方に延びる。アーム棒部61bの採用によってFPC4のコンタクトパッドとのアライメントに関してより高い精度が求められるが、プラグ部材の採用によってこの負担が低減される。
【0036】
接点部61cとアーム棒部61bの前端61dの間のコンタクト端子12の部分がオープンスタブとして機能し、信号伝送の観点からは不要であるが、FPC4との衝突によってコンタクト端子12が座屈してしまうことを抑制するために設けられる。共通の取付部材22により支持されるコンタクト端子12の接点部61cは、インシュレータ11の幅方向に平行な直線L1上に配置されるが、必ずしもこの限りではない。インシュレータ本体21に対して取付部材22を適切に取り付けることによってインシュレータ11に設けられる全てのコンタクト端子12の接点部61cが直線L1上に配置され得る。
【0037】
インシュレータ本体21に対して取付部材22が取り付けられる時、取付部材22のコンタクト端子12のアーム部61が受容溝26gに挿入される(
図9参照)。これにより隣接するコンタクト端子12の間に空気よりも比誘電率が大きい樹脂(例えば、PBT(ポリブチレンテレフタラート)、又はLCP(液晶ポリマー)等)を配置することができ、隣接したコンタクト端子12間の浮遊容量を調整することができ、FPC4とのインピーダンス整合が良好になる。コンタクト端子12は、弧状の接点部61cにおいて受容溝26gから上方に僅かに反り出るため、コンタクト端子12とFPC4の電気的接続は確保される。
【0038】
受容溝26gは、アーム部61の先端(前端)側においてより深くなるように形状付けられる。具体的には、受容溝26gは、コンタクト端子12のアーム板部61aを受容する後方溝部26g1と、コンタクト端子12のオープンスタブを受容する前方溝部26g2を有し、前方溝部26g2の深さが後方溝部26g1の深さよりも深い。これによって、接点部61cの反り出た部分を除いてアーム部61の全体を受容溝26gに受容することができる。
【0039】
受容溝26gの幅は、アーム部61の幅変化に対応して設定され得る。即ち、受容溝26gは、アーム板部61aを受容するための第1溝幅と、アーム棒部61bを受容するための第1溝幅よりも狭い第2溝幅を有する。追加又は代替として、受容溝26gは、接点部61cに対応した位置で最小の溝幅を有する。これによってコンタクト端子12間の樹脂量を増加させることができる。
【0040】
なお、FPC4との接触によってアーム部61が下方に押し下げられ、アーム部61の前端61dが受容溝26gの底面に接触し得る。この場合、FPC4とコンタクト端子12がお互いに押圧する関係になり、両者がより確実に電気的に接続される。
【0041】
コンタクト端子12の固定部62には取付部材22の挿入孔34内で露出する露出部62cが設けられる。固定部62の残部62a,62bは、取付部材22の樹脂に埋設されている。接点部63は、取付部材22から後方に延びるが、その長さ、太さ、及び屈曲の態様及び屈曲数について様々な変更が可能である。
【0042】
取付部材22は、導電性部材13が挿入される挿入孔34が設けられた部材である(
図10乃至
図12参照)。取付部材22は、前壁35、後壁36、左壁37、及び右壁38を有する筒体であり、これらの壁により画定される挿入孔34に導電性部材13が圧入され得る。なお、挿入孔34は、上下両側で開口する。右壁38には前後方向に延び、かつ右側で開口した凹部39が設けられる。同様、左壁37には前後方向に延び、かつ左側で開口した凹部39が設けられる。
【0043】
導電性部材13は、導電性フィラーが絶縁性の樹脂に分散した部材であり得る。導電性部材13は、本体部13jと本体部13jから下方に突出する少なくとも2つの突起13pを有する。本体部13jは、下方に延びるに応じて前後幅W4が小さくなるテーパー部材である。突起13pは、本体部13jの左右端から下方に突出するブロック体であり、その下面においてグランド用コンタクト端子12Gの露出部62cの上面に接触する。なお、導電性部材13の(最大)左右幅W3は、取付部材22の左壁37と右壁38の間隔と同一又は僅かに大きい又は小さい。同様、導電性部材13の(最大)前後幅W4は、取付部材22の前壁35と後壁36の間の間隔と同一又は僅かに大きい又は小さい。導電性部材13の上下幅W5は、突起13pの有無により変動する。
【0044】
取付部材22の挿入孔34に導電性部材13が挿入されると、導電性部材13の各突起13pが、挿入孔34内に位置するグランド用コンタクト端子12Gの露出部62cに接触する。突起13pの間には空間13qが設けられ、従って、導電性部材13と信号用コンタクト端子12Sとの電気的な接続が回避される。
【0045】
取付部材22に対するコンタクト端子12の取付(例えば、埋込み)は、インサート成形を活用することで実現可能である。コンタクト端子12の固定部62の残部62a,62bに樹脂が付着して硬化するように射出成形を行う。固定型と可動型から画定されるキャビティー内にコンタクト端子12の上記した部分が配置されるようにし、これに続いて同キャビティー内に溶融樹脂を供給し、これに続いて金型を冷却する。このようにしてキャビティー内の溶融樹脂が硬化し、コンタクト端子12が部分的に埋め込まれた取付部材22が得られる。なお、挿入孔34は、射出成形時にコンタクト端子12を固定するためにキャビティー内に配置されたコアに対応して形成された空間である。
【0046】
取付部材22によりコンタクト端子12が支持されるため、インシュレータ本体21に対する取付部材22を位置決めすることが必要になる。即ち、インシュレータ本体21における取付部材22の位置決め精度の低下は、コネクタ1におけるコンタクト端子12の位置精度の低下に帰結してしまう。このような観点から、幾つかの場合、インシュレータ本体21における取付部材22の位置決めのために固定金具23を用いることができる。
【0047】
固定金具23は、挿入部23a、左右両側に突出した突起23b、及び屈曲部23cを有する(
図7参照)。インシュレータ11の幅方向で取付部材22が隣接する時、隣り合う取付部材22の凹部39の組み合わせによって固定金具23のための挿入路22kが形成される(
図13参照)。固定金具23の挿入部23aが挿入路22kに差し込まれ(好適には、圧入され)、インシュレータ本体21における取付部材22の変位が規制される。挿入部23aは、挿入路22kへの挿入部23aの挿入方向において変化する幅を有し、例えば、隣接する挿入孔34(又は隣接する導電性部材13)の間で幅狭になるように形状付けられる。これにより固定金具23を好適に挿入路22kに圧入することができる。固定金具23の突起23bと取付部材22の後面の衝突により固定金具23の差し込み停止位置が定まり、また、取付部材22が突起23bにより後方から押さえられる。屈曲部23cは、コネクタ1の実装基板に対してリフローにより半田付けされる。固定金具23は、コネクタ1が実装される実装基板上においてグランド電位に接続され得る。これによりコネクタ1における信号伝送路間のアイソレーションが高められる。幾つかの場合、固定金具23の挿入部23aは、インシュレータ本体21に設けられた溝に差し込まれ、これにより固定金具23の変位が効果的に規制される。
【0048】
コネクタ1に対してFPC4を電気的に接続するためにコネクタ1に対してプラグ部材5を連結する時、プラグ突起52と貫通孔32の嵌合によってコネクタ1内へのFPC4の挿入が上手く案内される。インシュレータ11の前口21aを介してFPC4がインシュレータ11内に挿入されると、FPC4がインシュレータ本体21の下板26上に配置される。コンタクト端子12の接点部61cは、受容溝26gから上方に僅かに反り出ている。従って、FPC4の挿入に伴ってFPC4の下面がその接点部61cの上面に接触して接点部61cが下方に押し下げられる。FPC4が所定の位置まで挿入されると、コネクタ1の各コンタクト端子12の接点部61cとFPC4の各コンタクトパッド81a,85aに接触が確保される(
図14参照)。詳細には、信号用コンタクト端子12Sのアーム部61の接点部61cが信号線85のコンタクトパッド85aに接触する。同様、グランド用コンタクト端子12Gのアーム部61の接点部61cが第1グランド線81のコンタクトパッド81aに接触する。
【0049】
特筆すべき点としては、FPC4及びコネクタ1,2の組み合わせから構築された高周波信号伝送装置9において、各信号伝送路間でグランド電位が共有されていないことである。具体的には、FPC4の差動伝送路8の間でグランド線が共有されていない。差動伝送路8に電気的に接続されるコネクタ1,2の信号用コンタクト端子12Sの対の間でグランド用コンタクト端子12Gが共有されていない。このようにFPC4とコネクタ1,2の両方において差動伝送路の間でのグランド電位の共有を回避することにより電気的なアイソレーションが高まり、クロストークの抑制が期待できる。なお、FPC4及びコネクタ1,2の両方ではなく、FPC4だけ、又はコネクタ1,2だけにてグランド電位の非共有を実施することもできる。
【0050】
図15は、高周波信号伝送装置(ケーブル装置の両端にコネクタが結合したもの)に関する挿入損失のシミュレーション結果を示す。
図15(a)は、第1グランド線が、隣接する差動伝送路の間で共有され、かつ第2グランド線が全ての差動伝送路の間で共有される場合の結果を示す。
図15(b)は、本開示の形態の結果を示す。
図15に示すように、本開示の形態では、30GHz付近の周波数においてリップルの改善が達成された。
【0051】
図16は、比較例に係るコネクタ(即ち、全ての単位配列が共通の一つの取付部材により支持されたコネクタ)のシミュレーション結果を示す。
図17は、本開示の形態に係るコネクタ(即ち、単位配列が個別に取付部材により支持されたコネクタ)のシミュレーション結果を示す。なお、コネクタのシミュレーションは、短尺なケーブルと短尺な基板をコネクタに接続した状態で行い、これらの接続に伴うインピーダンス変化も反映させた。
【0052】
図16及び
図17の比較から明らかなように、本開示の形態に係るコネクタにおいてクロストークが低減されることが確認できた。また、リップルの低減(例えば、20GHz近傍の大きなリップル等)も確認できた。
【0053】
上述の教示を踏まえ、当業者は、各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。コンタクト端子の形状は、図示のものに限られず、一つのコンタクト端子に2以上の接点部が設けられるものも採用可能である。FPCの両面のコンタクトパッドに電気的に接続されるようにコンタクト端子を配列させても良い。具体的には、一方のコンタクト端子の配列は、FPCの表側のコンタクトパッドとの接触のために設けられ、他方のコンタクト端子の配列は、FPCの裏側のコンタクトパッドとの接触のために設けられる。このように、FPCは、一面にコンタクトパッドを有するものに限らず、両面にコンタクトパッドが設けられたものも採用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1,2:コネクタ
4:FPC
5,6:プラグ部材
8:差動伝送路
9:高周波信号伝送装置
11:インシュレータ
12:コンタクト端子(12G:グランド用コンタクト端子,12S:信号用コンタクト端子)
13:導電性部材
21:インシュレータ本体
22:取付部材
70:誘電体層
71,72:配線層
73,74:被覆層
81:第1グランド線
82:第2グランド線
85:信号線