(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ヘパロサンの製造方法及びヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20240403BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240403BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/67 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/69 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C12P19/04 C
C12N15/31 ZNA
C12N1/21
C12N15/67 Z
C12N15/69 Z
(21)【出願番号】P 2022560347
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2021014335
(87)【国際公開番号】W WO2021201281
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/015384
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599161672
【氏名又は名称】レンセレイアー ポリテクニック インスティテュート
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(73)【特許権者】
【識別番号】522388154
【氏名又は名称】キリンバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小峰 理乃
(72)【発明者】
【氏名】林 幹朗
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】Metabolic Engineering,2012年,Vol.14,p.521-527
【文献】PNAS,2013年,Vol.110, p.20753-20758
【文献】Carbohydrate research,2013年,Vol.378 ,p.35-44
【文献】Molecular Microbiology,2007年,Vol.65, p.1518-1533
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/04
C12N 15/31
C12N 1/21
C12N 15/67
C12N 15/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)の遺伝子改変を有し、
以下の(4)の遺伝子改変を有しておらず、かつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌を培地で培養し、ヘパロサンを培地中に生成させることを含む、ヘパロサンの製造方法。
(1)kpsS遺伝子の発現を
非改変株と比較して上昇させる遺伝子改変
(4)kpsC遺伝子の発現を非改変株と比較して上昇させる遺伝子改変
【請求項2】
前記エシェリヒア属細菌が、さらに以下の(2)及び(3)の少なくとも一方の遺伝子改変を有する請求項1に記載のヘパロサンの製造方法。
(2)kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
(3)yhbJ遺伝子の機能を欠損させる遺伝子改変
【請求項3】
前記(1)の前記遺伝子改変が、前記kpsS遺伝子の発現調節領域の改変及びコピー数を高めることの少なくとも一方である請求項1または2に記載のヘパロサンの製造方法。
【請求項4】
前記(2)の前記遺伝子改変が、前記kfiA、前記kfiB、前記kfiC及び前記kfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現調節領域の改変及び前記遺伝子のコピー数を高めることの少なくとも一方である、請求項2または3に記載のヘパロサンの製造方法。
【請求項5】
前記(3)の前記遺伝子改変が、前記yhbJ遺伝子の欠損である、請求項2~4のいずれか1項に記載のヘパロサンの製造方法。
【請求項6】
前記エシェリヒア属細菌がエシェリヒア・コリである、請求項1~5のいずれか1項に記載のヘパロサンの製造方法。
【請求項7】
前記kpsS遺伝子が、配列番号33に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号33に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAである、請求項1~6のいずれか1項に記載のヘパロサンの製造方法。
【請求項8】
前記kfiA遺伝子が、配列番号34に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号34に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAであり、
前記kfiB遺伝子が、配列番号35に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号35に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAであり、
前記kfiC遺伝子が、配列番号36に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号36に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAであり、
前記kfiD遺伝子が、配列番号37に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号37に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAである、請求項2~7のいずれか1項に記載のヘパロサンの製造方法。
【請求項9】
前記yhbJ遺伝子が、配列番号38に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号38位に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を低下させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAである、請求項2~8のいずれか1項に記載のヘパロサンの製造方法。
【請求項10】
ヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌であって、以下の(1)の遺伝子改変を有
し、
かつ以下の(4)の遺伝子改変を有していない、エシェリヒア属細菌。
(1)kpsS遺伝子の発現を
非改変株と比較して上昇させる遺伝子改変
(4)kpsC遺伝子の発現を非改変株と比較して上昇させる遺伝子改変
【請求項11】
さらに以下の(2)及び(3)の少なくとも一方の遺伝子改変を有する、請求項
10に記載のエシェリヒア属細菌。
(2)kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
(3)yhbJ遺伝子の機能を欠損させる遺伝子改変
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエシェリヒア属細菌を用い、該細菌の莢膜多糖であるN-アセチルヘパロサン(以下ヘパロサンと記載する)を発酵生産により製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫酸化された多糖であるヘパリンは抗凝固薬であり、血栓閉塞症、播種性血管内凝固症候群の治療や人工透析、体外循環での凝固防止などに用いられる。工業的には、用いられるほとんどのヘパリンは豚の腸粘膜から抽出、精製される。
【0003】
2008年に豚由来ヘパリンへの不純物混入を原因とする死亡事故が発生したことから、製造および品質が管理された非動物由来のヘパリン生産の研究開発が求められている。具体例としてグラム陰性の微生物の莢膜多糖であるヘパロサンを発酵生産して精製したものを化学的手法によりN-脱アセチル化、N-硫酸化し、その後および酵素的手法によりエピマー化及び硫酸化することで豚由来品と同等の構造、抗凝固活性を有するヘパリンを生産する(非特許文献1、2)。
【0004】
上記の方法において、基本構造となるヘパロサンはグルクロン酸(GlcA)とN-アセチルD-グルコサミン(GlcNAc)の二糖の繰り返し構造で構成される糖鎖である。ヘパロサンの生産には元々ヘパロサンの生産能を有するエシェリヒア・コリ(Escherichia coli) K5株を用いる方法(特許文献1、非特許文献1)、同じくヘパロサン生産能を有するエシェリヒア・コリ Nissle 1917株を用いる方法(非特許文献2)、および元々はヘパロサン生産能を持たないエシェリヒア・コリを用いる方法(特許文献4、非特許文献3、4)が報告されている。
【0005】
ヘパロサンはGroup 2莢膜多糖に分類され、エシェリヒア・コリ K5株でのヘパロサンの合成、輸送にはゲノム上でクラスターを形成しているRegion I、Region II、Region IIIの遺伝子群が関わっていることが知られている(非特許文献4)。
【0006】
これらの遺伝子群にコードされる蛋白質のうち、KpsS、KpsCにより内膜のホスファチジルグリセロールに複数の3-deoxy-D-manno-octulosonic acid(Kdo)残基が転移され、さらに糖転移酵素KfiA、KfiCにより前駆体糖ヌクレオチドが付加されることでヘパロサンの合成は進行するとされている(非特許文献5、6)。
【0007】
また、KfiDは前駆体のUDP-GlcAの合成、KpsF、KpsUはKdoリンカー合成の基質となるCMP-Kdoの合成に、KpsM、KpsT、KpsE、KpsDは内膜上で合成されたヘパロサンの菌体外への輸送に関わっている(非特許文献6)。
【0008】
ヘパロサン生産能を持たないエシェリヒア・コリ BL21株、K-12株を宿主としてヘパロサン発酵を行う方法としては、当該宿主に、エシェリヒア・コリ K5株由来Region IIのKfiABCDの遺伝子クラスターを導入する方法が知られている。また、rfaH、nusG、rpoEなどヘパロサン生産を向上させる遺伝子が報告されている(特許文献4、非特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特許第5830464号公報
【文献】米国特許第8,771,995号明細書
【文献】国際公開第2018/048973号
【文献】米国特許第9,975,928号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】Biotechnology and Bioengineering 107 (2010) 964-973
【文献】Applied Microbiology and Biotechnology 103 (2019) 6771-6782
【文献】Metabolic Engineering14(2012)521-527
【文献】Carbohydrate Research 360 (2012) 19-24
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences of USA 110(2013) 20753-20758
【文献】Carbohydrate Research 378 (2013) 35-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したように、製造および品質が管理された非動物由来のヘパリン生産の研究開発がなされているが、従来の製造方法は効率性が不十分である。一方、前記Region I、II、IIIにコードされる各遺伝子がヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌のヘパロサン生産にどのような影響を与えるかはこれまで知られていない。
【0012】
したがって、本発明は、へパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌の遺伝子改変を行うことによりヘパロサンの生産能を向上させて、効率的なヘパロサンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、特定の遺伝子改変を有し、かつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌を用いることにより、ヘパロサンの生産効率が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.以下の(1)の遺伝子改変を有し、かつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌を培地で培養し、ヘパロサンを培地中に生成させることを含む、ヘパロサンの製造方法。
(1)kpsS遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
2.前記エシェリヒア属細菌が、さらに以下の(2)及び(3)の少なくとも一方の遺伝子改変を有する前記1に記載のヘパロサンの製造方法。
(2)kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
(3)yhbJ遺伝子の機能を欠損させる遺伝子改変
3.前記(1)の前記遺伝子改変が、前記kpsS遺伝子の発現調節領域の改変及びコピー数を高めることの少なくとも一方である前記1または2に記載のヘパロサンの製造方法。
4.前記(2)の前記遺伝子改変が、前記kfiA、前記kfiB、前記kfiC及び前記kfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現調節領域の改変及び前記遺伝子のコピー数を高めることの少なくとも一方である、前記2または3に記載のヘパロサンの製造方法。
5.前記(3)の前記遺伝子改変が、前記yhbJ遺伝子の欠損である、前記2~4のいずれか1に記載のヘパロサンの製造方法。
6.前記エシェリヒア属細菌がエシェリヒア・コリである、前記1~5のいずれか1に記載のヘパロサンの製造方法。
7.前記kpsS遺伝子が、配列番号33に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号33に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAである、前記1~6のいずれか1に記載のヘパロサンの製造方法。
8.前記kfiA遺伝子が、配列番号34に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号34に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAであり、
前記kfiB遺伝子が、配列番号35に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号35に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAであり、
前記kfiC遺伝子が、配列番号36に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号36に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAであり、
前記kfiD遺伝子が、配列番号37に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号37に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAである、前記2~7のいずれか1に記載のヘパロサンの製造方法。
9.前記yhbJ遺伝子が、配列番号38に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号38に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を低下させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAである、前記2~8のいずれか1に記載のヘパロサンの製造方法。
10.エシェリヒア属細菌が以下の(4)の遺伝子改変を有していない、前記1~9のいずれか1に記載のヘパロサンの製造方法。
(4)kpsC遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
11.ヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌であって、以下の(1)の遺伝子改変を有する、エシェリヒア属細菌。
(1)kpsS遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
12.さらに以下の(2)及び(3)の少なくとも一方の遺伝子改変を有する、前記11に記載のエシェリヒア属細菌。
(2)kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
(3)yhbJ遺伝子の機能を欠損させる遺伝子改変
13.エシェリヒア属細菌が以下の(4)の遺伝子改変を有していない、前記11または12に記載のエシェリヒア属細菌。
(4)kpsC遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
【発明の効果】
【0015】
本発明のヘパロサンの製造方法によれば、特定の遺伝子改変を有し、かつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌を用いることにより、優れた生産効率で非動物由来のヘパロサンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、エシェリヒア・コリ K5株の染色体上のヘパロサン合成遺伝子クラスターの模式図を示す。
【
図2】
図2は、ヘパロサン生産に関わる酵素の模式図を示す。
【
図3】
図3は、ヘパロサンの生合成経路の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本明細書において使用される用語は特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味を有する。
【0018】
<本発明の細菌>
本発明のヘパロサンの製造方法は、以下の(1)の遺伝子改変を有し、かつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌(以下、本発明の細菌とも略す。)を用いる。
(1)kpsS遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
【0019】
本発明の細菌は、さらに以下の(2)及び(3)の少なくとも一方の遺伝子改変を有することが好ましい。
(2)kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
(3)yhbJ遺伝子の機能を欠損させる遺伝子改変
したがって、前記エシェリヒア属細菌における遺伝子改変としては、前記(1)及び(2)、前記(1)及び(3)、前記(1)~(3)が挙げられる。
【0020】
本発明のエシェリヒア属細菌は、以下の(4)の遺伝子改変を有していないことが好ましい。
(4)kpsC遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変
【0021】
エシェリヒア属細菌の一例として、エシェリヒア・コリ K5株の染色体上のヘパロサン合成遺伝子クラスターの模式図を
図1に示す[J. Nzakizwanayo et al., PLOS ONE, (2015)]。また、ヘパロサン生産に関わる酵素の模式図を
図2に示す。
【0022】
図1に示すように、kpsS遺伝子及びkpsC遺伝子は、Region I、Region II、Region IIIの遺伝子群のうち、Region Iにコードされる遺伝子である。
図2に示すように、kpsS及びkpsCは、ヘパロサン合成の開始に関与しており、ヘパロサン生産において、kpsSはkpsCとともに、内膜のホスファチジルグリセロールに複数のKdoリンカーを付加する役割を果たす。
【0023】
kpsS遺伝子としては、エシェリヒア属由来のkpsS遺伝子が好ましい。具体的には例えば、エシェリヒア・コリ K5株のkpsS遺伝子が挙げられる。エシェリヒア・コリ K5株のkpsS遺伝子の塩基配列及び該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列は、公用のデータベースから取得できる。エシェリヒア・コリ K5株のkpsS遺伝子は、GenBank accession CAA52659.1として登録されている。
【0024】
kpsS遺伝子としては、配列番号33に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号33に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAが挙げられる。
【0025】
図1に示すように、kfiA、kfiB、kfiC及びkfiDは、Region I、Region II、Region IIIの遺伝子群のうち、RegionIIにコードされる遺伝子である。
図2に示すように、kfiA、kfiB、kfiC及びkfiDは、ヘパロサンの合成に関与しており、糖を付加してヘパロサンを合成する役割を果たす。
【0026】
kfiA、kfiB、kfiC又はkfiD遺伝子としては、エシェリヒア属由来のkfiA、kfiB、kfiC又はkfiD遺伝子が好ましい。具体的には例えば、エシェリヒア・コリ K5株のkfiA、kfiB、kfiC又はkfiD遺伝子が挙げられる。エシェリヒア・コリ K5株のkfiA、kfiB、kfiC又はkfiD遺伝子の塩基配列及び該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列は、公用のデータベースから取得できる。kfiAはGenBank accession CAA54711.1;kfiBはGenBank accession CAE55824.1;kfiCはGenBank accession CAA54709.1;kfiDはGenBank accession CAA54708.1として登録されている。
【0027】
kfiA遺伝子としては、配列番号34に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号34に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAが挙げられる。
【0028】
kfiB遺伝子としては、配列番号35に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号35に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAが挙げられる。
【0029】
kfiC遺伝子としては、配列番号36に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号36に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAが挙げられる。
【0030】
kfiD遺伝子としては、配列番号37に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号37に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を増大させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAが挙げられる。
【0031】
図3にヘパロサンの生合成経路の模式図を示す。
図3に示すように、GlmSは、ヘパロサンの前駆体であるUDP-N-アセチルグルコサミン供給経路の第1酵素でありフルクトース-6-リン酸からグルコサミン-6-リン酸への反応を触媒する酵素である。YhbJは、GlmSをネガティブに制御する酵素である。
【0032】
yhbJ遺伝子としては、エシェリヒア属由来のyhbJ遺伝子が好ましい。具体的には例えば、エシェリヒア・コリ K-12株のyhbJ遺伝子が挙げられる。エシェリヒア・コリ K-12株のyhbJ遺伝子の塩基配列及び該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列は、公用のデータベースから取得できる。エシェリヒア・コリ K-12株のyhbJ遺伝子は、GenBank accession BAE77249.1として登録されている。
【0033】
yhbJ遺伝子としては、配列番号38に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号38に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含みかつヘパロサン生産能を有するエシェリヒア属細菌において発現量を低下させた際に同細菌のヘパロサン生産能を増大させる性質を有するDNAが挙げられる。
【0034】
上記(1)~(3)における各遺伝子は、例えば、上記した各遺伝子の塩基配列を用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、各遺伝子のホモログは、例えば、細菌等の微生物の染色体を鋳型にして、これら公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
【0035】
上記(1)~(3)における各遺伝子は、該遺伝子によりコードされるタンパク質の元の機能(例えば、活性や性質)が維持されている限り、該遺伝子のバリアントであってもよい。該遺伝子のバリアントによりコードされるタンパク質が元の機能を維持しているか否かは、具体的には例えば元の機能がヘパロサンの生産能を向上する機能である場合、該遺伝子のバリアントをヘパロサンの生産能を有するエシェリヒア属細菌に導入して、元の機能を有するか否かを確認できる。
【0036】
上記(1)~(3)における各遺伝子のバリアントは、例えば、部位特異的変異法によって、コードされるタンパク質の特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入または付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することによって取得することができる。また、上記(1)~(3)における各遺伝子のバリアントは、例えば、変異処理によっても取得され得る。
【0037】
上記(1)~(3)における各遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものであってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
【0038】
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0039】
また、上記(1)~(3)における各遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0040】
また、上記(1)~(3)における各遺伝子は、元の機能が維持されている限り、公知の遺伝子配列から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、同一性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件を挙げることができる。
【0041】
上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、各遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上記(1)~(3)における各遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0042】
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、上記(1)~(3)における各遺伝子は、元の機能が維持されている限り、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。例えば、表1~3の遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
【0043】
変異処理としては、上記(1)~(3)における各遺伝子の塩基配列を有するDNA分子をヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、上記(1)~(3)における各遺伝子を保持する微生物を、X線、紫外線、またはN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、メチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤によって処理する方法等の方法が挙げられる。
【0044】
<<遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変>>
「遺伝子の発現の増大」とは、非改変株と比較して該遺伝子の発現が上昇することをいう。遺伝子の発現の増大の一態様としては、例えば、非改変株と比較して、該遺伝子の発現が好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上に上昇していることが挙げられる。
【0045】
また、「遺伝子の発現が増大する」とは、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることを含む。すなわち、「遺伝子の発現が増大する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを含む。なお、「遺伝子の発現が増大する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」、「遺伝子の発現が上昇する」ともいう。
【0046】
遺伝子の発現の増大は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller I, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。
【0047】
例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。
【0048】
また、目的物質の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。相同組み換えは、例えば、直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、またはファージを用いたtransduction法により行うことができる。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(日本国特開平2-109985号公報)。
【0049】
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
【0050】
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。形質転換の方法は特に限定されず、従来公知の方法を使用できる。
【0051】
ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであることが好ましい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子又は文献[Karl Friehs, Plasmid Copy Number and Plasmid Stability, Adv Biochem Engin/Biotechnol 86: 47-82 (2004)]に記載の他の遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターとしては、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等が挙げられる。
【0052】
エシェリヒア・コリ等の腸内細菌科の細菌において自律複製可能なベクターとしては、具体的には例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社)、pACYC184、pMW219、pMW118、pMW119(いずれもニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233-2(クロンテック社)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。
【0053】
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、本発明における遺伝子改変を有するエシェリヒア属細菌に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、本発明の細菌で機能するプロモーター配列による制御を受けて発現するように導入されていればよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。
【0054】
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、本発明の細菌において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。ターミネーターとしては、具体的には例えば、T7ターミネーター、T4ターミネーター、fdファージターミネーター、tetターミネーター、およびtrpAターミネーターが挙げられる。
【0055】
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
【0056】
また、2以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に本発明の細菌に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2以上の遺伝子を導入する場合」としては、例えば、2またはそれ以上の酵素をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一の酵素を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0057】
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい[Gene, 60(1), 115-127 (1987)]。
【0058】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。
【0059】
「より強力なプロモーター」としては、例えば、公知の高発現プロモーターであるuspAプロモーター、T7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、thrプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプロモーター、PRプロモーター、およびPLプロモーターが挙げられる。
【0060】
また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第2000/18935号)。
【0061】
高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)やpnlp8プロモーター(国際公開第2010/027045号)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、公知の文献[Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995)等]に記載されている。
【0062】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列[リボソーム結合部位(RBS)ともいう]をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。
【0063】
「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味する。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene, 1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5’-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
【0064】
本発明においては、プロモーター、SD配列、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の遺伝子の発現に影響する部位を総称して「発現調節領域」ともいう。発現調節領域は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節領域の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(国際公開第2005/010175号)により行うことができる。
【0065】
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。具体的には例えば、遺伝子の異種発現を行う場合等には、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
【0066】
コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法[Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987)]や、ファージを用いる方法[Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987)]が挙げられる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」[http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000)]に開示されている。
【0067】
また、遺伝子の発現の増大は、遺伝子の発現を増大させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。上記のような遺伝子の発現を増大させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0068】
遺伝子の発現が増大したことは、例えば、該遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、該遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。また、遺伝子の発現が増大したことは、例えば、該遺伝子から発現するタンパク質の活性が増大したことを確認することにより確認できる。
【0069】
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、該遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる[Sambrook, J., et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition, Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001]。mRNAの量の上昇としては、非改変株と比較して、例えば、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上に上昇することが挙げられる。
【0070】
タンパク質の量が上昇したことは、例えば、抗体を用いてウエスタンブロットによって確認できる。タンパク質の量の上昇としては、非改変株と比較して、例えば、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上に上昇することが挙げられる。
【0071】
タンパク質の活性が増大したことは、例えば、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。タンパク質の活性の増大としては、タンパク質の活性が、非改変株と比較して、例えば、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上に上昇することが挙げられる。
【0072】
上記した遺伝子の発現を増大させる手法は、上記した(1)及び(2)の各遺伝子の発現増強に利用できる。
【0073】
kpsS遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変としては、kpsS遺伝子の発現調節領域の改変及びコピー数を高める遺伝子改変の少なくとも一方であることが好ましい。ヘパロサン生産遺伝子群としては、kpsFEDUCS遺伝子が存在するが、本発明者らは、実施例において後述するように、これらの中でも特にkpsS遺伝子のみの発現を増大することにより、顕著なヘパロサンの生産向上効果が得られることを見出したものである。したがって、kpsS遺伝子の発現を増大する遺伝子改変としては、特に、kpsS遺伝子のコピー数を高める遺伝子改変がより好ましい。
【0074】
本発明の細菌は、kpsS遺伝子の発現を増大する遺伝子改変を有するが、本発明の細菌は好ましくはkpsC遺伝子の発現を増大する遺伝子改変を有さず、より好ましくはkpsC遺伝子並びにkpsF、kpsE、kpsD及びkpsU遺伝子から選択される1つ以上の遺伝子の発現を増大する遺伝子改変を有さず、最も好ましくは、kpsC、kpsF、kpsE、kpsD及びkpsU遺伝子の発現を増大する遺伝子改変を有しない。
【0075】
kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変としては、kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現調節領域の改変及び該遺伝子のコピー数を高めることの少なくとも一方であることが好ましい。kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子は
図1に示すようにオペロンを構成しており、kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子により構成されるオペロン全体を強化する遺伝子改変が好ましく、kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子の発現調節領域の改変がより好ましい。
【0076】
<<遺伝子の機能を欠損させる遺伝子改変>>
上記した(3)のyhbJ遺伝子の機能を欠損させる遺伝子改変としては、宿主であるエシェリヒア属細菌のゲノムDNAのうちyhbJに相当する部分をコードするDNAに改変を加えることにより、yhbJ遺伝子の機能を欠損させるyhbJに相当する部分がコードするタンパク質の機能を低減若しくは完全に停止させることが挙げられる。
【0077】
本発明の方法において、yhbJに相当する部分をコードするDNAに加える改変の形態は、前記yhbJに相当する部分がコードするタンパク質の機能を低減若しくは完全に停止させるような形態であれば特に限定されず、公知の方法を適宜用いることができる。
【0078】
yhbJに相当する部分がコードするタンパク質の機能を低減若しくは完全に停止させるような形態としては、例えば、次の(a)から(c)のいずれか1の改変が例示できる。
(a)yhbJに相当する部分をコードするDNAの全部または一部を除去する。
(b)yhbJに相当する部分をコードするDNAに、1または数個の置換、欠失もしくは付加する。
(c)yhbJに相当する部分をコードするDNAを、改変前のDNA配列との同一性が80%未満であるDNA配列と置き換える。
【0079】
yhbJ遺伝子の機能の欠損としては、例えば、非改変株と比較して、yhbJの活性が好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下であることが挙げられる。yhbJの活性は、glmSの発現量をノーザンブロット法、ウエスタンブロット法などで調べることにより確認できる[Kalamorz F. et al, (2007) “Feedback control of glucosamine-6-phosphate synthase GlmS expression depends on the small RNA GlmZ and involves the novel protein YhbJ in Escherichia coli.” Mol Microbiol. 65(6):1518-33]。
【0080】
<<エシェリヒア属細菌>>
エシェリヒア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア属に分類されている細菌が挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、文献[Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.]に記載されたものが挙げられる。
【0081】
エシェリヒア属細菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。エシェリヒア・コリとしては、例えば、W3110株(ATCC 27325)やMG1655株(ATCC 47076)等のエシェリヒア・コリK-12株;エシェリヒア・コリK5株(ATCC 23506);BL21(DE3)株等のエシェリヒア・コリB株;エシェリヒア・コリNissle 1917株(DSM 6601);およびそれらの派生株が挙げられる。
【0082】
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、BL21(DE3)株は、例えば、ライフテクノロジーズ社より入手可能である(製品番号 C6000-03)。
【0083】
本発明の細菌は、本来的にヘパロサン生産能を有するものであってもよく、ヘパロサン生産能を有するように改変されたものであってもよい。ヘパロサン生産能を有する細菌は、例えば、上記のような細菌にヘパロサン生産能を付与することにより取得できる。
【0084】
ヘパロサン生産能は、Metabolic Engineering14(2012)521-527やCarbohydrate Research 360 (2012) 19-24、米国特許第9,975,928号明細書等を参考にして、ヘパロサン生産に関与するタンパク質をコードする遺伝子を導入することにより、付与できる。ヘパロサン生産に関与するタンパク質としては、グリコシルトランスフェラーゼやヘパロサン排出担体タンパク質が挙げられる。本発明においては、1種の遺伝子を導入してもよく、2種以上の遺伝子を導入してもよい。遺伝子の導入は、上述した遺伝子のコピー数を増加させる手法と同様に行うことができる。
【0085】
<ヘパロサンの製造方法>
本発明のヘパロサンの製造法は、本発明の細菌を培地で培養してヘパロサンを該培地中に生成蓄積することを含む。本発明のヘパロサンの製造法は、必要であれば、該培地よりヘパロサンを採取することを含んでもよい。
【0086】
使用する培地は、本発明の細菌が増殖でき、ヘパロサンが生成蓄積される限り、特に制限されない。培地としては、例えば、細菌の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。培地として、例えば、LB培地(Luria-Bertani培地)が挙げられるが、これらに限定されない。培地としては、例えば、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有する培地を用いることができる。培地成分の種類や濃度は、当業者が適宜設定してよい。
【0087】
炭素源は、本発明の細菌が資化してヘパロサンを生成し得るものであれば、特に限定されない。炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸類、グリセロール、粗グリセロール、エタノール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種以上の炭素源を組み合わせてもよい。
【0088】
窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせてもよい。
【0089】
リン酸源としては、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせてもよい。
【0090】
硫黄源として、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせてもよい。
【0091】
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
また、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。また、抗生物質耐性遺伝子を搭載するベクターを用いて遺伝子を導入した際は、培地に対応する抗生物質を添加するのが好ましい。
【0093】
培養条件は、本発明の細菌が増殖でき、ヘパロサンが生成蓄積される限り、特に制限されない。培養は、例えば、細菌の培養に用いられる通常の条件で実施できる。培養条件は、当業者が適宜設定してよい。
【0094】
培養は、例えば、液体培地を用いて、通気培養または振盪培養により、好気的に実施できる。培養温度は、例えば、30~37°Cであってよい。培養期間は、例えば、16~72時間であってよい。培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施できる。また、培養は、前培養と本培養とに分けてもよい。前培養は、例えば、平板培地や液体培地を用いて行ってよい。
【0095】
上記のようにして本発明の細菌を培養することにより、培地中にヘパロサンが蓄積する。
【0096】
培養液からヘパロサンを回収する方法は、ヘパロサンが回収されうる限り、特に制限されない。培養液からヘパロサンを回収する方法としては、例えば、実施例に記載する方法が挙げられる。具体的には、例えば、培養液から培養上清を分離し、次いで、エタノール沈殿によって上清中のヘパロサンを沈降できる。添加するエタノールの量は、例えば、上清液量の2.5~3.5倍量であってよい。ヘパロサンの沈降には、エタノールに限られず、水と任意に混和する有機溶媒を使用できる。
【0097】
前記有機溶媒としては、エタノールに加えて、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、sec-ブタノール、プロピレングリコール、アセトニトリル、アセトン、DMF、DMSO、N-メチルピロリドン、ピリジン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、THFが挙げられる。
【0098】
培養液からヘパロサンを回収する方法として他には、例えばヘパロサンの末端に存在するKdoを標的として精製することを含む方法も挙げられる。
【0099】
沈殿したヘパロサンは、例えば、元の上清液量の2倍量の水に溶解できる。回収されるヘパロサンは、ヘパロサン以外に、細菌菌体、培地成分、水分、及び細菌の代謝副産物等の成分を含んでいてもよい。ヘパロサンは、所望の程度に精製されていてよい。ヘパロサンの純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
【0100】
ヘパロサンの検出および定量は、公知の方法により実施できる。具体的には例えば、実施例で後述するように、ヘパロサンは、カルバゾール法にて検出および定量できる。カルバゾール法は、ウロン酸の定量方法として広く用いられる手法であり、ヘパロサンを硫酸の存在下でカルバゾールと熱反応させ、生成した呈色物質による530nmの吸収を測定することにより、ヘパロサンを検出及び定量できる[Bitter T. and Muir H.M., (1962) "A modified uronic acid carbazole reaction."Analytical Biochemistry, 4(4): 330-334]。また、例えば、ヘパロサンをヘパロサン分解酵素であるヘパリナーゼIIIで処理し、二糖組成分析を行うことによって、ヘパロサンを検出及び定量できる。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0102】
[実施例1]遺伝子欠損株の造成
(a)遺伝子欠損用マーカー遺伝子断片の構築
相同組換えを用いたEscherichia coliの遺伝子欠損のためのマーカー遺伝子として用いるクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)およびレバンシュークラーゼ遺伝子(sacB)を含むDNA断片を以下のようにして調製した。
【0103】
配列番号1および2で表わされる塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして用い、プラスミドpHSG396(タカラバイオ社)を鋳型としてPCRを行い、cat遺伝子を含むDNA断片を得た。PCRはPrimeSTAR Max DNA polymerase(タカラバイオ社)を用いて、説明書に記載の通りに行った。また配列番号3および4で表わされる塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして用い、pMOB3(ATCC 77282由来)を鋳型としてPCRを行い、sacB遺伝子を含むDNA断片を得た。
【0104】
cat遺伝子を含むDNA断片、sacB遺伝子を含むDNA断片をそれぞれ精製した後、SalIで切断した。フェノール/クロロホルム処理、およびエタノール沈殿を行い、両者を等モルの比率で混合してDNA ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて連結した。該連結反応液をフェノール/クロロホルム処理、およびエタノール沈殿にて精製したものを鋳型とし、配列番号5および6で表わされる塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして用いてPCRを行い、得られた増幅DNAをQiaquick PCR purification kit(キアゲン社製)を用いて精製し、cat遺伝子およびsacB遺伝子を含むDNA断片(cat-sacB断片)を取得した。
【0105】
(b)yhbJ遺伝子欠損株の造成
配列番号7および8で表される塩基配列からなる合成DNA、並びに配列番号9および10で表される塩基配列からなる合成DNAをそれぞれプライマーセットとして用い、常法により調製したEscherichia coli Nissle 1917株[DSM 6601、Mutaflor(Pharma-Zentrale GmbH)、以下Nissle株と略す]のゲノムDNAを鋳型として一回目のPCRを行い、それぞれyhbJ遺伝子の開始コドン付近からその上流1000bp、およびyhbJ遺伝子の終始コドン付近からその下流約1000bpを含むDNA断片を取得した。PCRはprimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いて、説明書に記載の通りに行った。
【0106】
QIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社製)を用いて精製した増幅産物と、cat-sacB断片を等モルの比率で混合したものを鋳型として二回目のPCRを行った。PCRはprimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いて、説明書に記載の通りに行った。プライマーセットには配列番号7および10で表される塩基配列からなる合成DNAを用いた。増幅産物をアガロースゲル電気泳動に供して約4.6kbpのDNA断片を分離し、cat-sacB断片が挿入されたyhbJ周辺領域を含むDNA断片を得た。
【0107】
また配列番号7および11で表される塩基配列からなる合成DNA、並びに配列番号12および10で表される塩基配列からなる合成DNAをそれぞれプライマーセットとして用い、Escherichia coli Nissle株のゲノムDNAを鋳型として一回目のPCRを行い、それぞれyhbJ遺伝子の開始コドン付近からその上流1000bp、およびyhbJ遺伝子の終始コドン付近からその下流約1000bpを含むDNA断片を取得した。
【0108】
精製した増幅産物を等モルの比率で混合したものを鋳型として二回目のPCRを行った。プライマーセットには7および10で表される塩基配列からなる合成DNAを用いた。増幅産物をアガロースゲル電気泳動に供して約2.0 kbpのDNA断片を分離し、yhbJ遺伝子が欠損したyhbJ周辺領域を含むDNA断片を得た。
【0109】
次に、pKD46を保持するEscherichia coli Nissle株(Nissle/pKD46株)を15g/LのL-アラビノースと100mg/Lのアンピシリンの存在下でLB培地[10g/l バクトトリプトン(ディフコ社製)、5g/l イーストエキス(ディフコ社製)、5g/l 塩化ナトリウム]にて培養した。プラスミドpKD46は、λRed recombinase遺伝子を有し、該遺伝子の発現はL-アラビノースにより誘導することができる。よって、L-アラビノース存在下で生育させたpKD46を保有するEscherichia coliを、直鎖状DNAを用いて形質転換すると、高頻度で相同組換えが起こる。またpKD46は温度感受性の複製起点を有するために、42℃で生育させることにより、プラスミドを容易に脱落させることができる。Nissle/pKD46株のコンピテントセルを調製し、上記で取得したcat-sacB断片の挿入されたyhbJ周辺領域を含むDNA断片をエレクトロポレーション法により導入した。
【0110】
得られた形質転換体を15mg/Lのクロラムフェニコールおよび100mg/Lのアンピシリンを含むLB寒天培地(LB+クロラムフェニコール+アンピシリン)に塗布して培養し、クロラムフェニコール耐性コロニーを選択した。相同組換えが生じた株はクロラムフェニコール耐性かつシュクロース感受性を示すので、選択したコロニーを10%シュクロースおよび100mg/Lのアンピシリンを含むLB寒天培地(LB+シュクロース+アンピシリン)およびLB+クロラムフェニコール+アンピシリンにレプリカし、クロラムフェニコール耐性、かつシュクロース感受性を示した株を選択した。
【0111】
選択した株について配列番号13および10で表わされる塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットに用いてコロニーPCRを行い、yhbJ遺伝子の位置にcat-sacB断片が挿入されていることを確認した。yhbJ遺伝子の位置にcat-sacB断片が挿入された株を上記と同様に培養してコンピテントセルを調製し、上記で得られたyhbJ遺伝子が欠失したyhbJ周辺領域を含むDNA断片をエレクトロポレーション法により導入した。
【0112】
得られた形質転換体をLB+シュクロース寒天培地で培養し、シュクロース耐性コロニーを選択した。相同組換えを起こした株はcat-sacB断片を含まず、よってクロラムフェニコール感受性かつシュクロース耐性を示すため、選択したコロニーをLB+クロラムフェニコール寒天培地およびLB+シュクロース寒天培地にレプリカし、クロラムフェニコール感受性かつシュクロース耐性を示した株を選択した。
【0113】
選択した株について配列番号13および10で表わされる塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットに用いてコロニーPCRを行い、yhbJ遺伝子が欠損していることを確認した。yhbJ遺伝子が欠損していることが確認できた株をLB寒天培地に塗布して42℃で培養した後、アンピシリン感受性を示す株、すなわちpKD46が脱落した株を選択した。
【0114】
上記のようにしてyhbJ遺伝子が欠損した株を取得し、Escherichia coli NY株と命名した。
【0115】
[実施例2]遺伝子強化株の造成
以下に示す方法でkfiA遺伝子のプロモーター領域置換株を造成した。配列番号14および15で表される塩基配列からなる合成DNA、並びに配列番号16および17で表される塩基配列からなる合成DNAをそれぞれプライマーセットとして用い、常法により調製したEscherichia coli Nissle株のゲノムDNAを鋳型として一回目のPCRを行い、それぞれkfiA遺伝子の開始コドンより上流100bp付近からその上流1000bp、およびkfiA遺伝子の開始コドン付近からその下流約1000bpを含むDNA断片を取得した。
【0116】
QIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社製)を用いて精製した増幅産物と、cat-sacB断片を等モルの比率で混合したものを鋳型として二回目のPCRを行った。プライマーセットには配列番号14および17で表される塩基配列からなる合成DNAを用いた。増幅産物をアガロースゲル電気泳動に供して約4.6kbpのDNA断片を分離し、cat-sacB断片が挿入されたkfiA遺伝子のプロモーター周辺領域を含むDNA断片を得た。
【0117】
配列番号14および18で表される塩基配列からなる合成DNA、並びに配列番号19および17で表される塩基配列からなる合成DNAをそれぞれプライマーセットとして用い、常法により調製したEscherichia coli Nissle株のゲノムDNAを鋳型として一回目のPCRを行い、それぞれkfiA遺伝子の開始コドンより上流100bp付近からさらにその上流1000bp、およびkfiA遺伝子の開始コドン付近からその下流約1000bpを含むDNA断片を取得した。
また、配列番号20および21で表される塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして用い、常法により調製したEscherichia coli W株(ATCC 9637)のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、約300bpのuspAプロモーターを含むDNA断片を得た。
【0118】
精製した増幅産物を等モルの比率で混合したものを鋳型として二回目のPCRを行った。プライマーセットには14および17で表される塩基配列からなる合成DNAを用いた。増幅産物をアガロースゲル電気泳動に供して約2.3kbpのDNA断片を分離し、kfiAプロモーター周辺領域からkfiAプロモーター領域が欠損し、代わりにuspAプロモーターを含むDNA断片を得た。
【0119】
次に、γRed recombinaseをコードする遺伝子を含むプラスミドpKD46を保持するEscherichia coli Nissle株(Nissle/pKD46株)と、実施例1で造成したEscherichia coli NY株(NY/pKD46株)を15g/LのL-アラビノースと100mg/Lのアンピシリンの存在下で培養した。両株のコンピテントセルを調製し、上記で取得したcat-sacB断片の挿入されたkfiAプロモーター周辺領域を含むDNA断片をエレクトロポレーション法により導入した。
【0120】
得られた形質転換体をLB+クロラムフェニコール+アンピシリン寒天培地で培養し、クロラムフェニコール耐性コロニーを選択した。選択したコロニーの中からさらにクロラムフェニコール耐性、かつシュクロース感受性を示した株を選択した。
【0121】
選択した株について配列番号22および17で表わされる塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットに用いてコロニーPCRを行い、kfiAプロモーター領域にcat-sacB断片が挿入されていることを確認した。
【0122】
kfiAプロモーター領域にcat-sacB断片が挿入された株を上記と同様に培養してコンピテントセルを調製し、上記で得られたkfiAプロモーター周辺領域からkfiAプロモーター領域が欠損し、代わりにuspAプロモーターを含むDNA断片をエレクトロポレーション法により導入した。
【0123】
得られた形質転換体をLB+シュクロース寒天培地で培養し、シュクロース耐性コロニーを選択した。選択したコロニーの中からさらにクロラムフェニコール感受性かつシュクロース耐性を示した株を選択した。
【0124】
選択した株について配列番号22および17で表わされる塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットに用いてコロニーPCRを行い、kfiAプロモーター領域にuspAプロモーターが挿入されていることを確認した。kfiAプロモーター領域にuspAプロモーターが挿入されていることが確認できた株をLB寒天培地に塗布して42℃で培養した後、アンピシリン感受性を示す株、すなわちpKD46が脱落した株を選択した。
【0125】
上記のようにしてkfiAプロモーター領域にuspAプロモーターが挿入された株を取得し、それぞれEscherichia coli NA株、NYA株と命名した。
【0126】
[実施例3]NY株、NA株、およびNYA株によるヘパロサン生産試験
(a)ヘパロサン生産株の培養
実施例1で得られたyhbJ欠損変異株NY株、および実施例2で得られたkfiAプロモーター置換株NA株、kfiAプロモーター置換yhbJ欠損株NYA株、および親株であるNissle株をLB寒天培地で30℃、24時間培養した後、それぞれを前培養培地[10 g/L大豆ペプチド(ハイニュートAM;不二製油社製)、5 g/L 塩化ナトリウム、5 g/L 酵母エキスパウダー(AY-80;アサヒフードアンドヘルスケア社製)をpH7.2となるよう水酸化ナトリウムで調整] 330mLの入った2Lバッフルに植菌し、30℃で18時間培養した。
【0127】
得られた前培養液40mLを、本培養培地[20g/L グルコース、13.5g/L リン酸二水素カリウム、4g/L リン酸二アンモニウム、1.7g/Lクエン酸、1.7g/L 硫酸マグネシウム七水和物、10mg/Lチアミン塩酸塩、10mL/L 微量ミネラル溶液、pH6.7となるよう5mol/Lの水酸化ナトリウムで調整、グルコースと硫酸マグネシウム七水和物は別個にオートクレーブ滅菌(120℃、20分間)後添加した] 760mLの入ったジャーファーメンターに植菌し、撹拌回転数毎分800回転、通気毎分1.5L、37℃で72時間培養した。
【0128】
微量ミネラル溶液は10g/L 硫酸鉄七水和物、2g/L 塩化カルシウム、2.2g/L 硫酸亜鉛七水和物、0.5g/L 硫酸マンガン四水和物、1g/L 硫酸銅五水和物、0.1g/L 七モリブデン酸六アンモニウム四水和物、0.02g/L 四ホウ酸ナトリウム十水和物を5mol/L塩酸に溶解させたものを指す。
【0129】
培養液中のグルコース濃度が0g/Lとなった時点から培養72時間目までの間、7.0mL/hourでフィード液[500g/L グルコース、33.6g/L リン酸二水素カリウム、14.3g/L 硫酸マグネシウム、0.4g/L チアミン塩酸塩、14.3mL/L 微量ミネラル溶液]を添加した。培養終了までに添加したフィード液の量は約450mLであった。
【0130】
(b)ヘパロサン生産株培養液からのヘパロサン粗精製
蒸留水で10倍に希釈した培養液を100℃で30分間インキュベートした後、遠心分離により培養液から菌体を除去し、得られた上清200μLを1.5mLエッペンドルフチューブに移した。0.5mol/L 硫酸ナトリウム水溶液40μLを加えて混合した後、10g/L 塩化ヘキサデシルピリジニウム水溶液400μLを加えて転倒混合し、37℃で1時間静置した。
【0131】
該溶液を遠心分離することにより沈殿を生じさせ、上清を除去した。蒸留水で沈殿を洗浄した後、溶解液[0.5mol/L 塩化ナトリウム、4%(v/v) エタノールを含む水溶液] 100μLを加えて沈殿を溶解させた。さらに4℃で一晩静置した後、0.25mol/L 塩化ナトリウム水溶液900μLを加えて混合して得た溶液を粗ヘパロサン溶液とした。なお、ブランク用に本培養培地200μLを同様に処理したものも用意した。
【0132】
(c)カルバゾール-硫酸法によるヘパロサン蓄積量測定
粗ヘパロサン溶液 20μLを氷冷しながら、硫酸液 [9.5g/L四ホウ酸ナトリウム十水和物を濃硫酸に溶解させた液] 100μLを加えて混合した後、100℃で10分間インキュベートした。該溶液を再度氷冷しながら、カルバゾール液 [1.25g/L カルバゾールを100%エタノールに溶解させた液] 4μLを加えて混合し、100℃で15分間インキュベートした。
【0133】
再度氷冷した後、常温に戻し、マイクロプレートリーダーを用いて530nmの吸光度を測定した。なお、検量線用には0、0.1、0.2g/Lのグルクロン酸ナトリウム一水和物を用い、横軸をグルクロン酸濃度(g/L)、縦軸を530nmの吸光度として検量線を作成した。
【0134】
下に記載の計算式に従い、ヘパロサン濃度を算出した。ただし、求めるヘパロサン濃度をH(g/L)、得られた検量線をy=ax+b、粗ヘパロサンサンプルのA530測定値をh、ブランクのA530測定値をk、最終的な希釈倍率をnと表す。なお、0.5387はヘパロサン中のグルクロン酸含量、216/234はグルクロン酸ナトリウム一水和物中のグルクロン酸ナトリウム含量を示す。
【0135】
【0136】
(d)ヘパロサン蓄積量の測定結果
上記の方法で測定した場合のヘパロサンの蓄積量を表1に示す。
【0137】
【0138】
表1に示すように、yhbJを欠損させたNY株では、ヘパロサンの蓄積量が親株であるNissle株に比べて2倍以上に向上していた。また、kfiAのプロモーターをuspAプロモーターに置換したNA株でも、ヘパロサンの蓄積量が親株であるNissle株に比べて向上していた。これら二つの変異を組み合わせたNYA株では、さらに高いヘパロサン生産性を示した。
【0139】
[実施例4]ヘパロサン生産に関わる遺伝子を発現するプラスミドの造成
Escherichia coli Nissle株の染色体DNAを鋳型とし、配列番号23および24で表される塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして用いてPCR反応を行い、kpsC、kpsS遺伝子領域を含む約3.3kbpのDNA断片(以下kpsCS遺伝子増幅断片という)を得た。
【0140】
pMW118ベクターを鋳型とし、配列番号25および26で表される塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして用いてPCR反応を行い、約4kbpのpMW118線状DNA断片を得た。また、Escherichia coli W株(ATCC 9637)の染色体DNAを鋳型とし、配列番号20および21で表される塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして用いてPCR反応を行い、uspAプロモーター領域を含む約300bpのDNA断片を得た。
【0141】
上記で得られたpMW118線状DNA断片とuspAプロモーター領域を含むDNA断片とkpsCS遺伝子増幅断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて連結した。
【0142】
得られた連結DNAを用いてEscherichia coli DH5α株を形質転換し、アンピシリン耐性を指標に形質転換体を選択した。該形質転換体から公知の方法に従ってプラスミドを抽出し、配列番号27および24で表される塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして用いてPCR反応を行うことで遺伝子発現プラスミドが取得されていることを確認し、pMW118-kpsCSと命名した。
【0143】
また、Escherichia coli Nissle株の染色体DNAを鋳型とし、配列番号28および24で表される塩基配列からなる合成DNA、並びに配列番号29および24で表される塩基配列からなる合成DNAをそれぞれプライマーセットとして用いてPCR反応を行い、それぞれ、kpsS遺伝子領域を含む約1.2kbpのDNA断片(以下kpsS遺伝子増幅断片という)、およびkpsF、kpsE、kpsD、kpsU、kpsC、kpsS遺伝子領域を含む約7.9kbpのDNA断片(以下kpsFEDUCS遺伝子増幅断片という)を得た。
【0144】
また、上記で取得したプラスミドpMW118-kpsCSを鋳型とし、配列番号25および21で表される塩基配列からなる合成DNAをプライマーセットとして用いてPCR反応を行い、約4.3kbpのuspAプロモーター配列を含むpMW118線状DNA断片を得た。
【0145】
上記で得られたuspAプロモーター配列を含むpMW118線状DNA断片とkpsS遺伝子増幅断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて連結した。同様に、uspAプロモーター配列を含むpMW118線状DNA断片とkpsFEDUCS遺伝子増幅断片を混合して連結した。
【0146】
得られた各連結DNAを用いてEscherichia coli DH5α株を形質転換し、アンピシリン耐性を指標に形質転換体を選択した。該形質転換体から公知の方法に従ってプラスミドを抽出し、kpsS遺伝子増幅断片を連結したプラスミドについては配列番号20および24で表される塩基配列からなる合成DNA、kpsFEDUCS遺伝子増幅断片を連結したプラスミドについては配列番号27および30、並びに配列番号31および32で表される塩基配列からなる合成DNAをそれぞれプライマーセットとして用いてPCR反応を行うことでそれぞれの遺伝子発現プラスミドが取得されていることを確認し、それぞれ、pMW118-kpsS、pMW118-kpsFEDUCSと命名した。
【0147】
[実施例5]遺伝子発現プラスミド保持株によるヘパロサン生産試験-1
実施例1で得られたNY株に、pMW118プラスミドおよび、実施例4で得られたpMW118-PuspA-kpsS、pMW118-PuspA-kpsCS、pMW118-PuspA-kpsFEDUCSをそれぞれ形質転換した。得られた形質転換体をそれぞれNY/pMW118株、NY/pMW118-PuspA-kpsS株、NY/pMW118-PuspA-kpsCS株、NY/pMW118-PuspA-kpsFEDUCS株と命名した。
【0148】
上記で得られた形質転換体を、100mg/Lのアンピシリンを含む5mLのLB培地が入った太型試験管に接種し、37℃で15時間培養した。該培養液を100mg/Lのアンピシリンを含むR培地 [20g/L グルコース、13.5g/L リン酸二水素カリウム、4g/L リン酸二アンモニウム、1.7g/Lクエン酸、1g/L 硫酸マグネシウム七水和物、10mg/Lチアミン塩酸塩、10mL/L 微量ミネラル溶液、pH6.8となるよう5mol/Lの水酸化ナトリウムで調整、グルコースと硫酸マグネシウム七水和物は別個にオートクレーブ滅菌(120℃、20分間)後添加した] が5mL入った試験管に1%接種し、37℃で24時間培養した。また、NY株についても同様の操作をアンピシリンを含まない条件で行った。
【0149】
得られた培養液を実施例3に記載の方法で処理し、培養液中のヘパロサン蓄積量を測定した結果を表2に示す。
【0150】
【0151】
表2に示すように、kpsSを発現させたNY/pMW118-PuspA-kpsS株では、ヘパロサン蓄積量が親株であるNY株やpMW118ベクターのみを保持させたNY/pMW118株に比べて明らかに向上していた。
【0152】
一方で、kpsCとkpsSを発現させたNY/pMW118-PuspA-kpsCS株および、kpsF、kpsE、kpsD、kpsU、kpsC、kpsSを発現させたNY/pMW118-PuspA-kpsFEDUCS株は、NY/pMW118-PuspA-kpsS株とほぼ同等のヘパロサン生産性を示したことから、ヘパロサン生産遺伝子群であるkpsFEDUCSの中で、kpsSのみの発現強化によって十分にヘパロサン生産能向上効果が得られることがわかった。
【0153】
[実施例6]遺伝子発現プラスミド保持株によるヘパロサン生産試験-2
Escherichia coli Nissleの野生株に、pMW118プラスミドおよび、実施例4で得られたpMW118-PuspA-kpsS、pMW118-PuspA-kpsCS、pMW118-PuspA-kpsFEDUCSをそれぞれ形質転換した。得られた形質転換体をそれぞれN/pMW118株、N/pMW118-PuspA-kpsS株、N/pMW118-PuspA-kpsCS株、N/pMW118-PuspA-kpsFEDUCS株と命名した。
【0154】
上記で得られた形質転換体を、100mg/Lのアンピシリンを含む5mLのLB培地が入った太型試験管に接種し、37℃で15時間培養した。該培養液を100mg/Lのアンピシリンを含むR培地[20g/L グルコース、13.5g/L リン酸二水素カリウム、4g/L リン酸二アンモニウム、1.7g/Lクエン酸、1g/L 硫酸マグネシウム七水和物、10mg/Lチアミン塩酸塩、10mL/L 微量ミネラル溶液、pH6.8となるよう5mol/Lの水酸化ナトリウムで調整、グルコースと硫酸マグネシウム七水和物は別個にオートクレーブ滅菌(120℃、20分間)後添加した] が5mL入った試験管に1%接種し、37℃で24時間培養した。また、Nissle野生株についても同様の操作をアンピシリンを含まない条件で行った。
【0155】
得られた培養液を実施例3に記載の方法で処理し、培養液中のヘパロサン蓄積量を測定した結果を表3に示す。
【0156】
【0157】
表3に示すように、kpsSを発現させたN/pMW118-PuspA-kpsS株では、ヘパロサン蓄積量が親株であるNissle野生株やpMW118ベクターのみを保持させたN/pMW118株に比べて3倍以上に向上した。
【0158】
一方で、kpsCとkpsSを発現させたN/pMW118-PuspA-kpsCS株、並びにkpsF、kpsE、kpsD、kpsU、kpsC及びkpsSを発現させたN/pMW118-PuspA-kpsFEDUCS株の力価向上は親株の1.8倍程度にとどまった。このことから、ヘパロサン生産遺伝子群kpsFEDUCSの中でも、kpsSのみの発現強化によって十分にヘパロサン生産能向上効果が得られるうえ、むしろkpsCやkpsFEDUの発現を強化させない方が、強化させるよりも、ヘパロサン生産能力が高くなることが分かった。
【0159】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。本出願は、2020年4月3日付けで出願された国際特許出願(PCT/JP2020/015384)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【配列表】