(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】サクソフォン
(51)【国際特許分類】
G10D 9/00 20200101AFI20240403BHJP
G10D 7/08 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G10D9/00 130
G10D7/08
(21)【出願番号】P 2019150198
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591284036
【氏名又は名称】柳沢管楽器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】林 曉
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 友梨江
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-066886(JP,A)
【文献】登録実用新案第3153055(JP,U)
【文献】特開2006-150728(JP,A)
【文献】特開2014-104990(JP,A)
【文献】"和の伝統技法であでやかに 漆塗りサックス制作",[online],2018年10月13日,[2023年5月31日検索], インターネット<URL: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36461160T11C18A0CR0000/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 7/00-9/11
B44C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真鍮から構成された管部材と、
前記管部材の表面に接して形成されて、骨材が添加された漆からなる下地層と、
前記下地層の上に形成された漆塗り層と
を備え
、前記骨材は、カーボンから構成された顔料の粉末であることを特徴とするサクソフォン。
【請求項2】
真鍮から構成された管部材と、
前記管部材の表面に接して形成されて、骨材が添加された漆からなる下地層と、
前記下地層の上に形成された漆塗り層と
を備え、
前記骨材は、砥の粉であることを特徴とするサクソフォン。
【請求項3】
真鍮から構成された管部材と、
前記管部材の表面に接して形成されて、骨材が添加された漆からなる下地層と、
前記下地層の上に形成された漆塗り層と
を備え、
前記骨材は、弁柄であることを特徴とするサクソフォン。
【請求項4】
真鍮から構成された管部材と、
前記管部材の表面に接して形成されたガラス用漆からなる下地層と、
前記下地層の上に形成された漆塗り層と
を備えるサクソフォン。
【請求項5】
真鍮から構成された管部材と、
前記管部材の表面に接して形成されて、骨材が添加された漆からなる下地層と、
前記下地層の上に形成された漆塗り層と
を備え、
前記下地層が接する前記管部材の表面は、粗面とされていることを特徴とするサクソフォン。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のサクソフォンにおいて、
前記下地層が接する前記管部材の表面は、粗面とされていることを特徴とするサクソフォン。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のサクソフォンにおいて、
前記管部材は、
マウスピースが上流側端部に取付けられる吹込管と、
前記吹込管の下流側端部が上流側端部に嵌入した2番管と、
前記2番管の下流側端部が上流側端部に接続された1番管と、
前記1番管の下流側端部に接続されたベルと
を備えることを特徴とするサクソフォン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サクソフォンに関する。
【背景技術】
【0002】
サクソフォンは、1840年代にベルギーの管楽器製作者アドルフ・サックス(Adolphe Sax)によって開発された楽器である。構造上、木管楽器に分類されるが、真鍮を主とした金属で作られている。サクソフォンは、一般には真鍮で作製されているが、銅の比率を変更した真鍮が用いられることもある。また、サクソフォンは、銀や洋白から作製される場合もある。
【0003】
また、サクソフォンは、金属本体の表面に、透明及び薄い色のラッカー(合成樹脂)で塗装されているものが一般的ではあるが、黒色や白色のラッカーの他、銀、金、プラチナ、ニッケル等でめっきされたものもある。また、サクソフォンの表面は、鏡面仕上げが一般的だが、艶消し仕上げのもの、アンラッカー仕上げなどもある。サクソフォンの表面に設けられるめっきやラッカーの性質により、管体の振動が変化し、音色などが変わる。また、管体とキー・シャフトなどのパーツ群を、各々別の色でめっき処理することで、装飾としての見栄えをより高めるようにする場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したように、サクソフォンは、表面の仕上げの状態により、管体の振動が変化し、音色などが変わるため、様々な表面処理が検討・開発されている。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、サクソフォンの新たな音色が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るサクソフォンは、真鍮から構成された管部材と、管部材の表面に接して形成されて、骨材が添加された漆からなる下地層と、下地層の上に形成された漆塗り層とを備える。
【0007】
上記サクソフォンの一構成例において、骨材は、カーボンから構成された顔料の粉末である。
【0008】
上記サクソフォンの一構成例において、骨材は、砥の粉である。
【0009】
上記サクソフォンの一構成例において、骨材は、弁柄である。
【0010】
本発明に係るサクソフォンは、真鍮から構成された管部材と、管部材の表面に接して形成されたガラス用漆からなる下地層と、下地層の上に形成された漆塗り層とを備える。
【0011】
上記サクソフォンの一構成例において、下地層が接する管部材の表面は、粗面とされている。
【0012】
上記サクソフォンの一構成例において、管部材は、マウスピースが上流側端部に取り付けられる吹込管と、吹込管の下流側端部が上流側端部に嵌入した2番管と、2番管の下流側端部が上流側端部に接続された1番管と、1番管の下流側端部に接続されたベルとを備える。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、サクソフォンの管部材に、下地層を介して漆塗り層を形成したので、新たな音色が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係るサクソフォンの一部構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、サクソフォンの構成を示す左側面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態2に係るサクソフォンの一部構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るサクソフォンについて説明する。
【0016】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1に係るサクソフォンについて
図1を参照して説明する。このサクソフォンは、真鍮から構成された管部材101と、管部材101の表面に接して形成されて、骨材が添加された漆からなる下地層102と、下地層102の上に形成された漆塗り層103とを備える。下地層102を構成する漆は、例えば、生漆、黒漆、ガラス用漆などから構成することができる。骨材は、下地層102に分散している。骨材は、例えば、カーボンから構成された顔料(カーボンブラック)の粉末である。カーボンブラックは、例えば、株式会社箕輪漆行製である。また、骨材は、砥の粉とすることもできる。砥の粉は、例えば、京都府山科産である。下地層102における骨材の添加量は、漆に対して4~6wt%である。骨材は、弁柄の粉末とすることもできる。
【0017】
また、下地層102が接する管部材101の表面は、粗面とされている。例えば、よく知られたサンドブラスト処理により、管部材101の表面が粗面とされている。サンドブラスト処理で用いる研磨剤は、例えば80~120番である。また例えば、800番、1000番のサンドペーパーによる表面加工により、管部材101の表面が粗面とされている。
【0018】
漆塗り層103は、生漆、透漆、黒漆など、様々な漆から構成することができる。また、漆塗り層103は、漆を塗ることで形成した複数の層から構成することもできる。
【0019】
以下、サクソフォンの全体の構成について、
図2を参照して説明する。
図2に示すサクソフォン201は、アルトサクソフォンである。サクソフォン201は、マウスピース202を除く他の管部材が真鍮によって形成されたものである。他の管部材は、マウスピース202が上流側端部に取り付けられた吹込管203と、吹込管203の下流側端部が上流側端部に接続された2番管204と、2番管204の下流側端部が上流側端部に接続されたU字状の1番管205と、1番管205の下流側端部に接続されたベル206などである。これらの管部材には、#01~#25番トーンホールと、これらの#01~#25番トーンホールを開閉するキー211~235などが設けられている。
図2は、キー211~235を操作するための操作機構や操作系の部品を省略して描いてある。
【0020】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2に係るサクソフォンについて、
図3を参照して説明する。このサクソフォンは、真鍮から構成された管部材101と、管部材101の表面に接して形成されたガラス用漆からなる下地層102aと、下地層102aの上に形成された漆塗り層103とを備える。実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、下地層102aが接する管部材101の表面は、粗面とされている。
【0021】
以下、実際に下地層を形成し、形成した下地層に対して剥離テストを実施した結果について説明する。剥離テストは、形成した下地層に、1~2mm角のさいの目形状の傷を形成し、粘着テープ(ニチバン株式会社製マイタック超強力両面テープ)を貼り付け、貼り付けた粘着テープを離型することで実施した。粘着テープを離型した後に、剥離している箇所がある場合「×」と評価し、剥離している箇所がない場合「○」と評価した。
【0022】
【0023】
実際に漆塗り層を形成した実施の形態1,2に係るサクソフォンは、漆塗り層を形成した後、約3年経過しても、剥がれが全く発生していない。なお、弁柄の粉末を骨材とした漆(弁柄の粉末を分散した漆:合名会社高野漆行製)からなる下地層も、上述同様の剥離テストを実施した結果、剥離している箇所がなかった。
【0024】
以上に説明したように、本発明によれば、サクソフォンの管部材に、下地層を介して漆塗り層を形成したので、漆塗り層の管部材からの剥がれが防止できるようになる。本発明によれば、数十年の長期にわたって、漆塗り層の管部材からの剥がれの防止が可能でと考えられる。このように、管部材に漆の層を形成したサクソフォンによれば、新たな音色が得られるようになる。
【0025】
管部材が真鍮から構成されているサクソフォンは、管部材の表面に何も塗装を施さない場合、素材そのものの響きによる音色が得られるが、経時により表面が酸化し、見た目が悪化するという問題がある。
【0026】
表面の酸化を防止するために、管部材の表面に合成樹脂の塗装を施す、めっきなどによる金属膜を形成する処理がなされている。合成樹脂の塗装を施したサクソフォンでは、素材そのものの響きが失われるという欠点がある。
【0027】
これに対し、金属皮膜の場合、素材そのものの響きが生かされ、加えて、金属皮膜が形成されたことによる新たな響きが加わる効果が得られる。例えば、銀めっきが形成されたサクソフォンでは、柔らかな響きが得られるとされている。また、金めっきが形成されたサクソフォンでは、音の輪郭が明瞭になると言われている。また、クロムめっきが形成されたサクソフォンでは、堅い音色になると言われている。これらのように、管部材の表面処理により、サクソフォンの音色を変えることができる。
【0028】
本発明によれば、管部材の表面に、長期にわたって剥がれない漆塗り層が形成できるので、例えば、金属めっきの層を形成した場合とは異なる、新たな音色が得られるようになる。
【0029】
漆塗り層が形成されたサクソフォンでは、より木質的な音色が得られるとされている。実際に、複数のサクソフォン演奏者に、漆塗り層が形成されたサクソフォンの音色は、より木質的であると評価されている。また、サクソフォンの外観は、演奏者にとって非常に重要なものであり、また、演奏時の演出に重要な役割を持っている。このような観点より、漆塗り層が形成されたサクソフォンの外観は、演奏者のモチベーションの向上を含め、観客に対して大きなインパクトを与える演出を可能にするものと考えられる。
【0030】
このように、多大な効果が得られる漆塗り層であるが、下地が真鍮を主とした金属であり、また、漆塗り層を形成する面が複雑な3次元曲面を構成しているため、従来既知の技術により単に漆を塗布しても、漆塗り層は定着しない。これに対し、発明者による鋭意の検討の結果、本発明により、サクソフォンの表面に、長期にわたって剥がれることがない漆塗り層が形成できるようになった。
【0031】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0032】
101…管部材、102…下地層、103…漆塗り層。