(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】γ-アミノ酪酸とシクロアリインを富化したタマネギ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 13/00 20060101AFI20240403BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240403BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20240403BHJP
C12P 17/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C12P13/00
A23L19/00 A
A23L33/175
C12P17/00
(21)【出願番号】P 2020069744
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2022-09-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598008433
【氏名又は名称】東海物産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】倉本 歩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】柳内 延也
(72)【発明者】
【氏名】田口 修也
(72)【発明者】
【氏名】岸 孝礼
(72)【発明者】
【氏名】朝武 宗明
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-097222(JP,A)
【文献】特開2006-256969(JP,A)
【文献】特開2007-236271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱したタマネギ、窒素源、
マンガンイオン、及びグルタミン酸もしくはその塩を含む培地中にて、グルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌を培養する工程を含み、該培地の
オートクレーブ処理前のpHが5以上である、GABAを含有する乳酸菌発酵タマネギの製造方法。
【請求項2】
前記乳酸菌がLactobacillus brevis、Lactococcus lactis、Lactobacillus hilgardii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus leichmannii、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus casei、Lactobacillus fermentum、Enterococcus avium、Enterococcus casseliflavus、Streptococcus thermophilus、Streptococcus faecalis、Leuconostoc mesenteroides、Bifidobacterium longumからなる群から選択される一又は複数の乳酸菌である、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
窒素源が酵母エキス、大豆タンパク質、トウモロコシ分解物、小麦分解物、綿花抽出物、及びホエータンパク質からなる群から選択される一又は複数の窒素源である、請求項
1又は
2に記載の製造方法。
【請求項4】
培地の
オートクレーブ処理前のpHが6.8以上である、請求項
1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
加熱したタマネギが、加熱したタマネギエキスであり、1~10w/v%Brix固形分量を有する、請求項
1~
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
乳酸菌発酵タマネギがさらに、シクロアリインを含有する、請求項
1~
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱したタマネギを所定の条件下にて乳酸発酵して得らえる、γ-アミノ酪酸(以下、「GABA」と記載する)を含有し、かつシクロアリイン等の機能性成分が富化された乳酸菌発酵タマネギ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣病の予防や健康維持に対する関心が高まり、関連する研究が数多く実施されており、果実や野菜等に含まれる、又はそれらに由来する天然成分への注目が高まっている。
【0003】
例えば、タマネギは世界中で食されている野菜であり、疾病予防や健康維持に関する研究も進んでいる。タマネギ中に含まれる機能性成分の主なものとして、抗酸化作用を持つシクロアリインが挙げられる。生体内において活性酸素が過剰に産生されると、細胞内で脂質、タンパク質、DNA等を酸化して細胞死を誘発し老化や生活習慣病を引き起こしたり、また活性酸素により酸化されたLDL-コレステロールは、アテローム性動脈硬化を引き起こしたりする一因になるといわれている。このため、抗酸化作用を持つシクロアリインへの関心は高い。シクロアリインは、タマネギの鱗茎部にシクロアリイン前駆体として存在しており、90℃以上に加熱されることで前駆体構造が環状化され、シクロアリインが形成される(特許文献1)。また、タマネギについては、乳酸発酵することにより、α-グルコシダーゼ阻害活性やリパーゼ阻害活性、ラジカル消去活性といった生理活性が高まることも報告されている(特許文献2)。
【0004】
さらに、ミカン、モモ、ブドウ、イチゴ、ナシ等の果実や、ニンジン、トマト等の野菜、等の植物又はその汁液を乳酸発酵させ、GABAを含有する発酵物を製造する方法が報告されている(特許文献3)。GABAは、グルタミン酸を脱炭酸反応することで生成される非タンパク質性アミノ酸であり、高血圧症状の緩和に有効であることが知られているほか、近年はストレスの抑制や睡眠改善にも効果を有することが確認されている。これらの様々な有効性への期待から、GABAは機能性食品やサプリメント等の有効成分として利用され、その需要は大きくなっている。GABAは高いグルタミン酸脱炭酸酵素(以下、「GAD」と略記する)活性を有する乳酸菌を用いた、グルタミン酸を基質とする乳酸発酵により生産することができる(非特許文献1,2)。しかしながら、当該分野においてはGABAを効率的に摂取可能な新たな食品素材の開発が依然として切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-289850号公報
【文献】特開2005-097222号公報
【文献】WO2007/052806号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Yokoyama,S.ら、J.Biosci.Bioeng,93,95-97(2002).
【文献】Nomura,M.ら、J.Dairy Sci.,81,1846-1891(1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のミカン、モモ、ブドウ、イチゴ、ナシ等の果実や、ニンジン、トマト等の野菜と異なり、タマネギ単独を原料として乳酸発酵によりGABAを生産することは不可能であった。また、タマネギには元来、糖質が多く含まれることから、シクロアリイン等の機能性成分を有効量摂取するためには糖質を過剰摂取してしまうことが懸念されていた。
【0008】
そこで本発明は、タマネギを原料としてGABAを生産する方法を提供すると共に、タマネギ中の糖質含量を低減し、シクロアリイン等の機能性成分を富化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、加熱したタマネギを窒素源及びグルタミン酸もしくはその塩の存在下にて、GAD活性を有する乳酸菌を用いて乳酸発酵することにより得られた乳酸菌発酵タマネギが、高含有量にてGABAを有し、かつ糖質等の可溶性固形分の含量が低減されシクロアリイン等の機能性成分が富化されていることを見出した。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づくものであり、以下の発明を有する。
[1] γ-アミノ酪酸(GABA)をタマネギのBrix固形含量当たり5w/w%以上含有することを特徴とする乳酸菌発酵タマネギ。
[2] さらに、シクロアリインをタマネギのBrix固形含量当たり0.5w/w%以上含有する、[1]の乳酸菌発酵タマネギ。
[3] タマネギがタマネギエキスである、[1]又は[2]の乳酸菌発酵タマネギ。
[4] 加熱したタマネギ、窒素源、及びグルタミン酸もしくはその塩を含む培地中にて、グルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌を培養する工程を含む、GABAを含有する乳酸菌発酵タマネギの製造方法。
[5] 前記乳酸菌がLactobacillus brevis、Lactococcus lactis、Lactobacillus hilgardii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus leichmannii、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus casei、Lactobacillus fermentum、Enterococcus avium、Enterococcus casseliflavus、Streptococcus thermophilus、Streptococcus faecalis、Leuconostoc mesenteroides、Bifidobacterium longumからなる群から選択される一又は複数の乳酸菌である、[4]の製造方法。
[6] 窒素源が酵母エキス、大豆タンパク質、トウモロコシ分解物、小麦分解物、綿花抽出物、及びホエータンパク質からなる群から選択される一又は複数の窒素源である、[4]又は[5]の製造方法。
[7] 培地の培養開始時のpHが4を超える、[4]~[6]のいずれかの製造方法。
[8] 培地がさらに、二価の金属イオンを含む、[4]~[7]のいずれかの製造方法。
[9] 二価の金属イオンがマンガンイオン及び鉄イオンからなる群から選択される一又は複数のイオンである、[8]の製造方法。
[10] 加熱したタマネギが、加熱したタマネギエキスであり、1~10w/v%Brix固形分量を有する、[4]~[9]のいずれかの製造方法。
[11] 乳酸菌発酵タマネギがさらに、シクロアリインを含有する、[4]~[10]のいずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タマネギを原料としてGABAを生産する方法を提供すると共に、タマネギ中の糖質含量を低減し、シクロアリイン等の機能性成分を富化する方法を提供することができる。
【0012】
本発明により得られる乳酸菌発酵タマネギは、GABAとシクロアリインの二種の機能性成分を高濃度で含有するものであり、医薬又は機能性食品の原料として利用することができ、生活習慣病の予防やQOL(生活の質)向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、所定の量の酵母エキスを培地に添加して製造された乳酸菌発酵タマネギエキスにおけるGABAの生産量(グルタミン酸ナトリウムからGABAへの変換率(%))を示すグラフ図である。乳酸菌は、Lactobacillus brevis NBRC3345株(左)、又はLactobacillus brevis NBRC12005株(右)を利用した。
【
図2】
図2は、硫酸マンガン四水和物を培地に添加して製造された乳酸菌発酵タマネギエキスにおけるGABAの生産量(グルタミン酸ナトリウムからGABAへの変換率(%))を示すグラフ図である。乳酸菌は、Lactobacillus brevis NBRC3345株(左)、又はLactobacillus brevis NBRC12005株(右)を利用した。
【
図3】
図3は、所定のpH値の培地にて製造された乳酸菌発酵タマネギエキスにおけるGABAの生産量(グルタミン酸ナトリウムからGABAへの変換率(%))を示すグラフ図である。乳酸菌は、Lactobacillus brevis NBRC3345株(左)、又はLactobacillus brevis NBRC12005株(右)を利用した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、高い含有量にてGABAを含み、かつシクロアリイン等の機能性成分が富化された乳酸菌発酵タマネギの製造法に関し、本方法は加熱したタマネギ、窒素源、及びグルタミン酸もしくはその塩を含む培地中にて、GAD活性を有する乳酸菌を培養し、前記タマネギを乳酸発酵する工程を含む。
【0015】
本発明において「タマネギ」とは、一般的に食用に供されるタマネギ種(Allium cepa L.)を意味し、その種類は特に限定されず、既存の一般的な春播き栽培タマネギ(例えば、北もみじ2000、北もみじ、札幌黄、ポールスター、ツキヒカリ、北見黄、月光22号、オホーツク等)、秋播き栽培タマネギ(例えば、大阪丸、泉南甲高、泉州中甲黄、さつき、もみじ等)、ならびにそれらの変異株を利用することができる。本発明においてタマネギは、可食部である鱗茎部(一般に、「バルブ」もしくは「球」と呼ばれる部分)又はその乾燥物を利用することができ、鱗茎部の外皮(茶色の薄皮)は含まれないことが好ましい。当該外皮が含まれることにより、最終産物である乳酸菌発酵タマネギ中に含まれるシクロアリインの含有量が低下する場合がある。
【0016】
本発明において「タマネギ」とは、適当な寸法又は形状にカットした形態、あるいは、破砕、粉砕、又は摩砕した形態であってもよいが、好ましくは、抽出物の形態である。タマネギを抽出物の形態で用いることによって、乳酸菌による効率的な発酵を促すことができる。
【0017】
本発明において「抽出物」とは、搾汁、抽出液、又はそれら混合物、あるいは前記搾汁、抽出液又はそれらの混合物の濃縮物や乾燥物を挙げることができる。
【0018】
「搾汁」は、タマネギを破砕・圧搾して、液体画分と細胞壁等の固体画分とを分離し、液体画分を取得することにより調製することができる。液体画分と固体画分との分離は遠心分離、ろ過(例えば珪藻土ろ過)等の通常の固液分離手段により行うことができる。
【0019】
「抽出液」は、タマネギより抽出媒体や水蒸気蒸留法等を用いて抽出することにより調製することができる。抽出媒体としては、有機溶媒、水等の溶媒、超臨界二酸化炭素等の超臨界流体を利用することができる。溶媒としては水や、エタノール等のアルコール、ヘキサン、アセトン等の有機溶媒、あるいはそれらの混合溶媒を用いることができ、好ましくは水、エタノール、もしくはそれらの混合物、又はアセトンであり、特に好ましくは水である。溶媒抽出により抽出液を製造する場合には、タマネギを適量の溶媒(タマネギに対して重量基準で0.5~20倍量、例えば0.5~15倍量もしくは1~10倍量)中に浸漬し、適宜撹拌又は静置して溶媒中に溶媒可溶性成分を溶出させる。抽出時間は特に限定されないが、5分間~360分間、例えば、15分間~240分間もしくは30分間~120分間とすることができる。抽出温度は特に限定されないが、0℃~125℃、例えば25℃~120℃、好ましくは60℃~120℃、より好ましくは70℃~120℃、さらに好ましくは80℃~120℃、特に好ましくは90℃~120℃の範囲にて行うことができる。抽出後、溶媒可溶性成分を含む溶媒画分と細胞壁等の固体画分とを上述の固液分離手段により分離し、溶媒画分を抽出液として取得する。得られた抽出液は必要に応じてさらに、クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超臨界流体クロマトグラフィー等)及び/又は再結晶等の精製手段に付して精製又は粗精製してもよい。抽出に用いるタマネギの形状は、原型のまま、あるいは適当な寸法又は形状にカットした形態、あるいは破砕、粉砕、又は摩砕した形態、あるいは搾汁の形態とすることができる。なお、本明細書中、「抽出液」を「エキス」と記載する場合がある。
【0020】
「濃縮物」は、前記搾汁又は抽出液あるいはそれら混合物を濃縮することにより得ることができる。ここで濃縮とは搾汁又は抽出液あるいはこれらの混合物中の液体(水及び/又は抽出溶媒)を減少させて、可溶性固形分の含量(本明細書中、「Brix固形含量」と記載する場合がある)を高めることを指す。「Brix固形含量」は市販の糖度計又はBrix計にて測定することができ、Brix値とも称される。濃縮の方法としては、例えば真空蒸発濃縮、膜濃縮が採用できる。真空蒸発濃縮は一般的に減圧濃縮と呼ばれる。濃縮時の真空度はBrix固形含量を高めることができる範囲で選択でき、特に限定されない。膜濃縮は、例えば逆浸透膜(RO)、限外ろ過膜(UF)等の膜を使用して行うことができる。使用する膜の種類はBrix固形含量を高めることができる範囲で選択でき、特に限定されない。
【0021】
「乾燥物」は、前記搾汁又は抽出液あるいはそれら混合物や前記濃縮物を通常の乾燥手段(凍結乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、風乾等)を用いて乾燥することにより得ることができる。
【0022】
本発明においてタマネギは加熱されたものを利用する。加熱されたタマネギにはシクロアリインが含まれるため、加熱したタマネギを使用することによって最終産物である乳酸菌発酵タマネギにシクロアリインを含めることができる。タマネギの加熱処理は、シクロアリインを生成可能な条件範囲より適宜選択することが可能であり、例えば、70℃~120℃、好ましくは80℃~120℃、より好ましくは90℃~120℃にて、15分間~240分間、好ましくは30分間~120分間処理することにより行うことができる。加熱処理は乾式加熱であってもよいし、湿式加熱であってもよい。加熱処理は、乳酸菌を接種する前の任意の段階で行うことができ、本処理は単独で行われてもよいし、あるいは、抽出工程や殺菌工程(培地の殺菌工程を含む)等において供される加熱処理が、本処理を兼ねてもよい。
【0023】
加熱したタマネギは、培地中に任意の量で含めることが可能であるが、好ましくは加熱したタマネギ由来のBrix固形含量が、1~10w/v%、好ましくは1~5w/v%、より好ましくは2.5w/v%となる量にて含めることができる。所望の含有量を達成するために、水等の任意の溶媒を加熱したタマネギと一緒に加えて希釈して用いてもよい。加熱したタマネギの量が当該量より多すぎても、また少なすぎても、乳酸菌の生育やGABAの生産が不十分となり、所望の最終産物である乳酸菌発酵タマネギを得ることができない場合がある。
【0024】
本発明において「窒素源」とは、アミノ酸やタンパク質等を意味し、乳酸菌培養培地の窒素源として従来公知のものを利用することができる。このような窒素源としては、例えば、酵母エキス、大豆タンパク質、トウモロコシ分解物、小麦分解物、綿花抽出物、ホエータンパク質等が挙げられ(これらに限定はされない)、これらより選択される一又は複数の窒素源を組み合わせて利用することができる。本発明における「窒素源」として、好ましくは酵母エキスである。窒素源として酵母エキスを培地に含めることによって、最終産物である乳酸菌発酵タマネギ中に含まれるGABAの含有量を特に高めることができる。
【0025】
窒素源は培地に、乳酸発酵においてGABAの生産が可能な任意の量で含めること可能であり、例えば、0.1~5w/v%、好ましくは0.1~2w/v%、より好ましくは0.2~1.5w/v%となる量にて含めることができる。
【0026】
本発明において「グルタミン酸もしくはその塩」は、乳酸発酵においてGABA生成反応における基質として培地に含める。グルタミン酸は、化学的にはアミノ酸の一種であるL-グルタミン酸を意味し、その塩としてはナトリウム塩が挙げられる。グルタミン酸もしくはその塩の由来は限定されず、糖蜜やでんぷんから発酵法により生成されたものや、食品タンパク質を酸や酵素で加水分解して生成されたものを用いてもよいし、あるいは、遊離グルタミン酸を含む調味料、水産加工品、トマト等の食材をグルタミン酸もしくはその塩の供給源として用いてもよい。
【0027】
グルタミン酸もしくはその塩は培地に、乳酸発酵においてGABAの生産が可能な任意の量で含めること可能であり、例えば、0.1~10w/v%、例えば、0.5~5w/v%、又は1~3w/v%となる量にて含めることができる。
【0028】
本発明において培地にはさらに、二価の金属イオンを含めることができる。培地に二価の金属イオンを含めることによって、乳酸菌の生育や発酵活性を増強することができ、最終産物である乳酸菌発酵タマネギ中に含まれるGABAの量を高めることができる。二価の金属イオンとしては、Mn2+、Fe2+、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Zn2+等が挙げられ(これらに限定はされない)、これらより選択される一又は複数の二価の金属イオンを組み合わせて利用することができる。二価の金属イオンとして、好ましくはMn2+、Fe2+であり、特に好ましくはMn2+である。二価の金属イオンは、医薬品や飲食品において利用可能な無機塩類又は有機塩類の形態で培地に添加することができる。このような塩類としては、硫酸マンガン、塩化マンガン、塩化第二鉄、及びその水和物等が挙げられる(これらに限定はされない)。
【0029】
二価の金属イオンは培地に、乳酸菌の生育や発酵活性を増強することが可能な任意の量で含めることができ、例えば、0.0001~0.01w/v%、又は0.0005~0.01w/v%、0.001~0.01w/v%となる量にて含めることができる。
【0030】
本発明において培地のpH値(培養開始時のpH値を意味する)は、乳酸菌の生育が可能であり、かつ乳酸発酵においてGABAの生産が可能な任意の値とすることが可能である。好ましくは、培地のpH値はpH4を超える値であり、より好ましくはpH5以上(例えば、pH5.1以上、pH5.2以上、pH5.3以上、pH5.4以上、もしくはpH5.5以上)である。培地のpH値の上限は特に限定されないが、pH8以下(例えば、pH7.5以下、pH7.4以下、pH7.3以下、pH7.2以下、pH7.1以下、もしくはpH7以下)とすることができる。一態様において、本発明における培地のpH値は、pH4を超える値、かつpH8以下;pH5以上、かつpH8以下;pH5.1以上、かつpH8以下;pH5.2以上、かつpH8以下;pH5.3以上、かつpH8以下;pH5.4以上、かつpH8以下;又は、pH5.5以上、かつpH8以下とすることができる。また別の態様において、本発明における培地のpH値は、pH4を超える値、かつpH7以下;pH5以上、かつpH7以下;pH5.1以上、かつpH7以下;pH5.2以上、かつpH7以下;pH5.3以上、かつpH7以下;pH5.4以上、かつpH7以下;又は、pH5.5以上、かつpH7以下とすることができる。
【0031】
一般的に、乳酸発酵を行う場合には、乳酸菌が優先的に増殖できる環境をつくるために培地のpH値は低く設定される(例えばpH4程度)。一方、本発明においては培地のpH値を、pH4を超える値とすることにより、最終産物である乳酸菌発酵タマネギ中に含まれるGABAの含有量を顕著に増大させることができる。
【0032】
培地のpH値の調整は、医薬品や飲食品において利用可能なpH調整剤を培地に適宜添加することにより行うことができる。このようなpH調整剤としては、例えば、リン酸、DL-リンゴ酸、乳酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0033】
培地にはさらに、上記成分に加えて、炭素源、上述のものとは異なる窒素源や無機塩類、動植物のエキス、寒天等のその他の成分を、必要に応じて含めることができる。
【0034】
本発明において培地は、従来公知の手法に準じて調製することができる。すなわち、上述の加熱したタマネギ、窒素源、グルタミン酸もしくはその塩、必要に応じて水等の任意の溶媒、ならびに、必要に応じて、二価の金属イオン、pH調整剤、その他の成分を、上記の量にて適宜配合・混合し、殺菌処理することにより調製することができる。
【0035】
本発明において「乳酸菌」は、GAD活性を有する乳酸菌を意味する。「GAD活性」(グルタミン酸脱炭酸酵素活性)とは、L-グルタミン酸より炭酸を除去してGABAを生成する反応を触媒する活性を意味する。本発明において利用可能なGAD活性を有する乳酸菌としては、Lactobacillus属、Enterococcus属、Streptococcus属、Leuconostoc属、Bifidobacterium属に属する乳酸菌が挙げられ(これらに限定はされない)、例えば、Lactobacillus brevis、Lactococcus lactis、Lactobacillus hilgardii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus leichmannii、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus casei、Lactobacillus fermentum、Enterococcus avium、Enterococcus casseliflavus、Streptococcus thermophilus、Streptococcus faecalis、Leuconostoc mesenteroides、Bifidobacterium longum等に属する乳酸菌が挙げられる(これらに限定はされない)。また、GAD活性を有する限り、これらの変異株も本発明において利用することができる。
【0036】
本発明において「培養」は、乳酸発酵が可能な従来公知の条件に準じて行うことができる。すなわち、上記培地に上記の乳酸菌を湿菌体重量にて0.005~5w/v%、好ましくは0.01~2w/v%の量で加え、20℃~50℃、好ましくは25℃~42℃にて、嫌気条件下で行う。温度条件は、恒温槽、マントルヒーター、ジャケット等を利用することにより調整することができる。「嫌気条件下」とは、乳酸菌が増殖可能な程度の低酸素環境下を意味し、例えば嫌気チャンバー、嫌気ボックス又は脱酸素剤を入れた密閉容器もしくは袋等を利用することにより、あるいは単に培養容器を密閉することにより、嫌気条件とすることができる。培養は、静置培養、振とう培養、タンク培養等により行うことができ、培養時間は特に制限されないが、例えば3時間~14日間、例えば、6時間~10日間、もしくは12時間~5日間とすることができる。培養は、連続式で行っても、バッチ式で行っても良い。
【0037】
培養の停止(乳酸発酵の停止)は、高温(80℃以上)での短時間(2秒~5分間)処理、pHを下げる等の慣用の手段により行うことができる。
【0038】
製造された乳酸菌発酵タマネギは、さらに精製工程に供してもよい。精製は通常用いられる固液分離手段(例えば、遠心分離、ろ過等)を用いることができ、液体部(上清、ろ液)を回収することにより行うことができる。
【0039】
製造された乳酸菌発酵タマネギは、必要に応じて、殺菌処理に供してもよい。殺菌は通常用いられる手段(例えば、加熱殺菌、高圧殺菌、気流殺菌等)を用いることができる。乳酸菌発酵タマネギ中の各種成分を保持するために、殺菌処理は、可能なかぎり短時間かつ低温であることが好ましい。
【0040】
製造された乳酸菌発酵タマネギは、必要に応じて、濃縮物又は乾燥物の形態とすることができる。濃縮は乳酸菌発酵タマネギ中の水分を減少させることにより行うことができる。濃縮の方法としては、上述の真空蒸発濃縮、膜濃縮等を用いることができる。乾燥は乳酸菌発酵タマネギ、又はその濃縮物を通常の乾燥手段(凍結乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、風乾等)を用いて乾燥することにより行うことができる。濃縮又は乾燥に際して、乳酸菌発酵タマネギと賦形剤等の他の成分とを組み合わせて濃縮又は乾燥を行ってもよい。
【0041】
本発明により製造された乳酸菌発酵タマネギ(以下、「本発明の乳酸菌発酵タマネギ」と記載する)は、高い含有量にてGABAを含み、Brix固形含量当たり5w/w%、6w/w%、7w/w%、8w/w%、9w/w%、10w/w%、11w/w%、12w/w%、13w/w%、14w/w%、もしくは15w/w%、又はそれ以上の量にてGABAを含む。
【0042】
また、本発明の乳酸菌発酵タマネギは、高い含有量にてシクロアリインを含み、Brix固形含量当たり0.5w/w%、0.6w/w%、0.7w/w%、0.8w/w%、0.9w/w%、もしくは1w/w%、又はそれ以上の量にてシクロアリインを含む。
【0043】
本発明の乳酸菌発酵タマネギにおいては、乳酸発酵の過程でタマネギに含まれる糖質が消費されその含量が低減されるため、Brix固形含量当たりのGABAやシクロアリイン等の機能性成分の含有量を高めることができる。
【0044】
本発明の乳酸菌発酵タマネギは、医薬又は飲食品として許容可能な賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤等を含めることができ、所望される剤型や形態へと製造することができる。
【0045】
賦形剤としては、例えば、ブドウ糖、デンプン、α化デンプン、デキストリン、D-マンニトール、D-ソルビトール、乳糖、コーンスターチ、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、白糖、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0046】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、乳糖、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、白糖、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0047】
滑沢剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステル等のシュガーエステル類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリルアルコール、粉末植物油脂等の硬化油、サラシミツロウ等のロウ類、タルク、ケイ酸、ケイ素等が挙げられる。
【0048】
結合剤としては、例えば、ショ糖、α化デンプン、ゼラチン、デキストリン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0049】
本発明の乳酸菌発酵タマネギには、必要に応じてさらに、医薬品(医薬部外品を含む)又は飲食品の製造において通常用いられている希釈剤、緩衝剤、懸濁化剤、コーティング剤、保存剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶剤、溶解補助剤、等張化剤、安定化剤、矯味矯臭剤、pH調整剤、香料、甘味料、呈味成分、酸味料等のその他の成分を、所望される剤型や形態に応じて適宜選択、配合することができる。
【0050】
本発明の乳酸菌発酵タマネギは、医薬品(医薬部外品を含む)又は飲食品の形態で提供することができる。
【0051】
医薬品は、その形態に特に制限はないが、経口に適した形態であることが好ましい。例えば、経口投与用固体組成物(固形医薬製剤)としては、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、トローチ剤、チュアブル剤、ドロップ剤等の形態を、また経口投与用液状組成物(液状医薬製剤)としては、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などの形態をとることができる。これらの製剤は、本発明の乳酸菌発酵タマネギに加えて、上記賦形剤等やその他の成分をその剤形に応じて、適宜配合し、常法に従って製剤化することができる。
【0052】
医薬品は、GABAによって引き起こされる効能・効果(例えば、血圧降下抑制、精神安定化、睡眠改善等)やシクロアリインによって引き起こされる効能・効果(例えば、血栓性疾患の予防等)を有する旨表示することができる。
【0053】
飲食品は、その形態に特に制限はないが、カレー、ミックススパイス(カレー粉、ガラムマサラ等)、ふりかけ、調味料、スープ、洋風煮込み料理(シチュー、チャウダー、ハヤシ、ハッシュドビーフ、ブイヤベース等)、ソース、ドレッシング、スナック、麺(ラーメン、うどん等)、デザート、ジュース、お茶、お酒、錠菓、錠剤、チュアブル錠、粉剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤等の形態を有する健康飲食品(サプリメント、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品等)等が挙げられる。
【0054】
飲食品には、一般的な飲食品に加えて、保健機能食品(特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)、栄養機能食品、機能性表示食品)や、健康食品等が含まれ、これらの飲食品には、GABAによって引き起こされる効能・効果(例えば、血圧降下抑制、精神安定化、睡眠改善等)やシクロアリインによって引き起こされる効能・効果(例えば、血栓性疾患の予防等)を有する旨表示することができる。
以下、本発明を実施例により、更に詳しく説明する。
【実施例】
【0055】
実施例1:GABA及びシクロアリインを含む乳酸菌発酵タマネギエキスの製造
タマネギの外皮を除いたタマネギ鱗茎部を適当な大きさに細断し、その700gに同量の水を加え、80℃で10分間加熱し抽出した後、上清を回収してタマネギの抽出物(以下、「タマネギエキス」と記載する)を得た(1,300g;Brix固形含量4.9w/v%)。
【0056】
次いで、得られたタマネギエキスのBrix固形含量を2.5w/v%に調整した後、当該エキスに対し1w/v%量の粉末酵母エキス(粉末酵母エキスD-3H(日本製薬))及び1w/v%量のグルタミン酸ナトリウム一水和物を添加し、水酸化ナトリウム溶液を添加してpH6.8に調整した後、120℃で20分間オートクレーブ処理した。
【0057】
オートクレーブ処理したタマネギエキスに、予め前培養したLactobacillus brevis NBRC12005株(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)より入手)(以下、「NBRC12005株」と記載する)を1v/v%の割合で接種し、30℃で3日間培養し発酵させた。
【0058】
培養終了後、得られた乳酸菌発酵タマネギエキスには、Brix固形含量あたりの量として(培養後のBrix固形含量は3.9w/v%)、GABA及びシクロアリインがそれぞれ12w/w%及び0.74w/w%含まれることが確認された。
【0059】
実施例2:乳酸菌発酵における窒素源の検討
タマネギの外皮を除いたタマネギ鱗茎部を適当な大きさに細断し、その700gに1400gの水を加え、115℃で30分間加熱し抽出した後、上清を回収してタマネギエキスを得た(2000g;Brix固形含量2.5w/v%)。
【0060】
次いで、得られたタマネギエキスに対し1w/v%量の大豆タンパク加水分解物(Soy peptone F(富士フィルム和光純薬))及び1w/v%量のグルタミン酸ナトリウム一水和物を添加し、水酸化ナトリウム溶液を添加してpH6.8に調整した後、120℃で20分間オートクレーブ処理した。
【0061】
オートクレーブ処理したタマネギエキスに、予め前培養したNBRC12005株を1v/v%の割合で接種し、30℃で3日間培養し発酵させた。
【0062】
培養終了後、得られた乳酸菌発酵タマネギエキスには、Brix固形含量あたりの量として(培養後のBrix固形含量は4.0w/v%)、GABA及びシクロアリインがそれぞれ6w/w%および0.5w/w%含まれることが確認された。この結果より、粉末酵母エキスに代えて、大豆タンパク加水分解物を窒素源として用いた場合においても、GABA及びシクロアリインを高い割合で含む乳酸菌発酵タマネギエキスが得られることが確認された。
【0063】
実施例3:乳酸菌発酵における窒素源添加による効果
添加する粉末酵母エキスの量を除いて、上記実施例1に記載される手法にてオートクレーブ処理したタマネギエキスを調製した。粉末酵母エキスは、0w/v%、0.25w/v%、0.5w/v%、又は1w/v%の量にて添加した。
【0064】
次いで、予め前培養したNBRC12005株又はLactobacillus brevis NBRC3345株(NBRCより入手)(以下、「NBRC3345株」と記載する)をそれぞれ1v/v%の割合で接種し、30℃で2日間培養し発酵させた。
【0065】
培養終了後、各乳酸菌発酵タマネギエキスにおけるGABAの含有量に基づいて、グルタミン酸ナトリウム一水和物からの変換率を算出した。
【0066】
結果を
図1に示す。NBRC12005株及びNBRC3345株のいずれにおいても、粉末酵母エキスを添加することによってGABAの産生が確認された。一方、タマネギには乳酸菌が資化することが可能な窒素源が乏しいために、利用できる窒素源が培地中に十分に存在しない場合にはGABAの産生が行われないことが確認された。
【0067】
実施例4:乳酸菌発酵における二価金属イオン添加による効果
二価金属イオン(Mn2+イオン)源として硫酸マンガン四水和物を添加することを除いて、上記実施例1に記載される手法にてオートクレーブ処理したタマネギエキスを調製した。硫酸マンガン四水和物は0.001w/v%の濃度となるように添加した。
【0068】
次いで、予め前培養したNBRC12005株又はNBRC3345株をそれぞれ1v/v%の割合で接種し、30℃で2日間培養し発酵させた。
【0069】
培養終了後、各乳酸菌発酵タマネギエキスにおけるGABAの含有量に基づいて、グルタミン酸ナトリウム一水和物からの変換率を算出した。
【0070】
結果を
図2に示す。NBRC12005株及びNBRC3345株のいずれにおいても、粉末酵母エキスを添加することによってGABAの産生量が向上することが確認された。乳酸発酵時に微量金属としてMn
2+イオンを添加することによって乳酸菌の生育及び発酵活性が上昇することが報告されている(Cheng X.ら、Appl Biochem Biotechnol.Nov;174(5):1752-60(2014))。タマネギエキスにはMn
2+イオンがほとんど含まれていないことから、Mn
2+イオンをタマネギエキスに添加することによって、乳酸菌の生育及び発酵活性を向上させ、それによってGABAの生産性が向上したことが示唆される。
【0071】
実施例5:乳酸菌発酵によるシクロアリインの割合増強
上記実施例1に記載される手法にてオートクレーブ処理したタマネギエキスを調製し、これに予め前培養したNBRC3345株を1v/v%の割合で接種し、30℃で2日間培養し発酵させた。
【0072】
培養終了後、得られた乳酸菌発酵タマネギエキスにおけるシクロアリイン含量、Brix固形分量を計測し、固形分あたりのシクロアリイン含量を算出した。
結果を下記表1に示す。
【0073】
【0074】
発酵後のタマネギエキスにおいては、発酵前のタマネギエキスと比べて、シクロアリイン含量の増大が認められると共に、Brix固形分量の減少が認められ、Brix固形分量あたりのシクロアリイン含量の増大(1.3倍)が確認された。
【0075】
タマネギエキスの乳酸発酵においては、タマネギに含まれる糖質を菌が資化・分解することで糖質を外添せずに発酵を行うことができる。糖質の分解によりタマネギエキス中のBrix固形分量が減少することから、Brix固形分量当たりのシクロアリイン含量の増大が確認された。従来、タマネギに含まれているシクロアリイン等の機能性成分の含量が、乳酸発酵を経てどのように変化するのか明らかにされていなかった。本実施例の結果より、乳酸発酵を利用することにより、シクロアリインやGABA等の機能性成分の含有率を高めることが可能であることが示された。
【0076】
実施例6:乳酸菌発酵におけるpHの検討
調整後のpH値が異なることを除いて、上記実施例1に記載される手法にてオートクレーブ処理したタマネギエキスを調製した。pH値は水酸化ナトリウム溶液又は塩酸を用いて、pH4、pH5、pH6、又はpH7に調整した。
【0077】
次いで、予め前培養したNBRC12005株又はNBRC3345株をそれぞれ1v/v%の割合で接種し、30℃で2日間培養し発酵させた。
【0078】
培養終了後、各乳酸菌発酵タマネギエキスにおけるGABAの含有量に基づいて、グルタミン酸ナトリウム一水和物からの変換率を算出した。
【0079】
結果を
図3に示す。NBRC12005株及びNBRC3345株のいずれにおいても、pH4~pH7においてGABAの生産が確認された。特に、酸性条件(pH4)よりも、比較的高いpH条件(pH5~pH7)において高いGABA生産量が確認された。
【0080】
乳酸菌は酸性条件において生育可能であることから、優先的に増殖可能な酸性条件にて乳酸発酵を行うことがさせることが一般的である。一方、乳酸菌を用いたGABA生産においては、乳酸菌が増殖可能であると共に、GABA生産酵素であるGADの活性が至適になるpH条件にて培養を行うことが好ましいと考えられる。そのため、発酵開始時のpHが5~7の範囲においてタマネギエキス中で効率良くGABAが生産されると考えられる。