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  • 特許-加硫ゴムの弾性率測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】加硫ゴムの弾性率測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/30 20100101AFI20240403BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20240403BHJP
   G01N 3/40 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G01Q60/30
G01N3/00 K
G01N3/40 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020186822
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076408
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 竜也
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 健
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-105054(JP,A)
【文献】特開2018-178016(JP,A)
【文献】特開2008-209113(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0309071(US,A1)
【文献】中嶋健、梁暁斌,“ナノ触診原子間力顕微鏡によるフィラー充填ゴムのMullins効果の機構解明”,成形加工,日本,プラスチック成形加工学会,2018年03月20日,第30巻,第4号,pp.146-149,https://doi.org/10.4325/seikeikakou.30.146
【文献】野村竜生、梁暁斌、岩蕗仁、青山拓磨、伊藤万喜子、浦山健治、中嶋健,“ナノレオロジー原子間力顕微鏡と動的粘弾性測定で調べた一軸伸長下の架橋イソプレンゴムの不均一粘弾性”,日本レオロジー学会誌,日本,日本レオロジー学会,,2020年04月15日,第48巻,第2号,pp.85-90,https://doi.org/10.1678/rheology.48.85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00 - 90/00
G01N 3/00 - 3/62
G01N 33/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子間力顕微鏡を用いて加硫ゴムの弾性率を測定する方法において、
充填剤を含む加硫ゴムに弾性変形を与えることで当該加硫ゴム中の内部歪みを低減した試料を得ること、および、得られた試料に対して原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定により弾性率を測定すること、を含み、
測定対象とする前記加硫ゴムは、リュプケ式反発弾性率試験における1回目の打撃の反発弾性率に対する4回目の打撃の反発弾性率の比が1.04以上である、
加硫ゴムの弾性率測定方法。
【請求項2】
前記弾性変形が伸長である、請求項1に記載の加硫ゴムの弾性率測定方法。
【請求項3】
前記加硫ゴムに与える伸長の伸長率が10~150%である、請求項2に記載の加硫ゴムの弾性率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴムの弾性率測定方法に関し、より詳細には原子間力顕微鏡を用いて充填剤を含む加硫ゴムの弾性率を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加硫ゴムの弾性率をナノレベルで測定、評価する手法が求められている。例えば、非特許文献1には、充填剤としてのカーボンブラックを含むゴム材料について、原子間力顕微鏡(AFM)のフォースカーブ測定により弾性率をナノスケールで観察することが開示されている。
【0003】
一方、加硫ゴムの反発弾性率を測定するリバウンド試験において、加硫ゴムの試験片に予備打撃を与えて反発高さが安定してから反発弾性率の測定を行うことが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Ken Nakajima他3名, “NANOMECHANICS OF THERUBBER-FILLER INTERACTION”, Rubber Chemistry and Technology Vol.90, No.2, pp.272-284, 2017.
【文献】JIS K6255:2013、「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-反発弾性率の求め方」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1によれば、充填剤を含む加硫ゴムについてナノレベルでの弾性率を測定することができる。しかしながら、加硫後のゴムサンプルには内部歪みが存在する。すなわち、充填剤を含む加硫ゴムにおいては、ゴムポリマーが伸長した部分と縮んだ部分があり、加硫に起因する内部での歪みが存在する。この内部歪みの影響で、原子間力顕微鏡による測定において、加硫ゴムの弾性率を正確に測定することができないことがある。
【0006】
本発明の実施形態は、内部歪みの影響を抑えて弾性率を測定することができる、加硫ゴムの弾性率測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る加硫ゴムの弾性率測定方法は、原子間力顕微鏡を用いて加硫ゴムの弾性率を測定する方法であって、充填剤を含む加硫ゴムに弾性変形を与えることで当該加硫ゴム中の内部歪みを低減した試料を得ること、および、得られた試料に対して原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定により弾性率を測定すること、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、原子間力顕微鏡を用いた加硫ゴムの弾性率測定において、内部歪みの影響を抑えて弾性率を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1~4と比較例1についてのAFMによる弾性率の測定結果を示すグラフ
図2】実施例5及び比較例2についてのAFMによる弾性率とマクロ弾性率との関係を示すグラフ
図3】実施例6及び比較例3についてのAFMによる弾性率とマクロ弾性率との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
実施形態に係る加硫ゴムの弾性率測定方法は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて加硫ゴムの弾性率を測定する方法であり、充填剤を含む加硫ゴムに弾性変形を与えることで当該加硫ゴム中の内部歪みを低減した試料を得る工程(以下、工程1という。)と、得られた試料に対して原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定により弾性率を測定する工程(以下、工程2という。)と、を含む。
【0012】
測定対象としての加硫ゴムは、充填剤を含む。充填剤としては、例えばカーボンブラック及び/又はシリカなどの補強性充填剤が挙げられる。
【0013】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。より詳細には、例えば、SAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)などの各種ファーネスブラックを用いてもよい。
【0014】
シリカとしても、特に限定されず、例えば、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカを用いてもよい。
【0015】
加硫ゴムは、ゴムポリマーに充填剤を配合したゴム組成物を加硫してなるものである。
【0016】
ゴムポリマーとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などのジエン系ゴムが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種類以上ブレンドして用いることができる。
【0017】
充填剤の含有量は、特に限定されないが、ゴムポリマー100質量部に対して、40~150質量部であることが好ましく、より好ましくは40~100質量部である。一般に充填剤の含有量が多いほど加硫ゴムの内部歪みは大きくなる。本実施形態の方法は、加硫による内部歪みの大きい加硫ゴムであるほどより効果的であるため、充填剤の含有量が多いほど好ましい。
【0018】
ゴム組成物には、ゴムポリマー及び充填剤の他、通常ゴム工業で使用される各種配合剤を任意成分として配合してもよい。そのような配合剤としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、シランカップリング剤などが挙げられる。
【0019】
加硫剤としては、例えば硫黄が用いられる。加硫剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ゴムポリマー100質量部に対して0.1~10質量部でもよく、0.3~5質量部でもよく、0.5~3質量部でもよい。
【0020】
加硫ゴムは、バンバリーミキサーなどの混合機を用いて各成分を常法に従い混練することによりゴム組成物を作製し、該ゴム組成物を常法に従い加熱して加硫成形することにより得られる。測定対象としての加硫ゴムの形状は、特に限定されず、例えばシート状のものを用いてもよい。
【0021】
測定対象とする加硫ゴムは、リュプケ式反発弾性率試験における1回目の打撃の反発弾性率に対する4回目の打撃の反発弾性率の比(以下、リバウンド比という。)が1.04以上であることが好ましい。上記のように本実施形態の方法は、内部歪みの大きい加硫ゴムであるほどより効果的である。リュプケ式反発弾性率試験では、加硫ゴムの内部歪みの大きいほど、打撃回数による反発弾性率の変化が大きい。すなわち、1回目の打撃の反発弾性率に対する4回目の打撃の反発弾性率の比(リバウンド比)が1.04以上である加硫ゴムは内部歪みが大きいものであるため、そのような大きなリバウンド比を持つ加硫ゴムであれば、内部歪みを低減して正しい弾性率を測定するという本実施形態の効果を高めることができる。リバウンド比は1.05以上であることがより好ましい。リバウンド比の上限は特に限定されないが、通常は1.30以下である。
【0022】
本実施形態では、工程1において、上記加硫ゴムに弾性変形を加える。加硫後のゴムには内部歪みが存在する。かかる加硫ゴムにマクロな弾性変形を加えることにより、内部歪みを低減することができる。そのため、加硫ゴム中の内部歪みを低減した試料を得ることができる。
【0023】
弾性変形としては、例えば伸長、圧縮など、特に限定されないが、好ましくは加硫ゴムに伸長を与えることである。加硫ゴムに伸長を与える際の伸長率は、特に限定されないが、10~150%であることが好ましく、より好ましくは30~100%である。伸長率が10%以上であることにより内部歪みを低減する効果を高めることができる。また150%以下であることにより、伸長による残留歪みの影響を低減することができる。伸長率とは、変形前の試料長さに対する最大変形時の伸びの比率をいう。
【0024】
加硫ゴムに弾性変形を与える場合、1回のみ与えてもよいが、複数回繰り返して弾性変形を与えてもよい。その場合、弾性変形の繰り返し回数としては特に限定されず、例えば2~10回でもよく、3~5回でもよい。
【0025】
このように加硫ゴムに予備弾性変形を与えて内部歪みを取り除いた後に、工程2において、原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定により、試料である加硫ゴムの弾性率を測定する。原子間力顕微鏡による測定に用いる試料は、弾性変形を与えた加硫ゴムをそのまま用いてもよく、弾性変形を与えた加硫ゴムから原子間力顕微鏡による測定が可能なように所定形状にて切り出した加硫ゴムを用いてもよい。
【0026】
原子間力顕微鏡(AFM)は、走査型プローブ顕微鏡の1種であり、試料と探針の原子間に働く力を検出する顕微鏡である。探針はカンチレバー(片持ちバネ)の先端に取り付けられており、試料と探針との間の距離を変えながら、カンチレバーに働く力(撓み量)を測定して、両者の関係をプロットした曲線であるフォースカーブを得る。このフォースカーブを解析することにより試料表面の弾性率(硬さ)を求めることができ、ゴム材料の弾性率をナノレベルで測定することができる。このようにフォースカーブ測定により試料表面の弾性率を求めること自体は公知であり、かかる公知の方法を用いて行うことができる。
【0027】
フォースカーブから弾性率を算出する方法としては、例えば、JKR(Johnson-Kendall-Roberts)理論によりフォースカーブをフィッティングして弾性率を算出する方法が挙げられる。JKR理論では、カンチレバーにかかる力Fと試料変形量δは、凝着エネルギーをwとして、下記式(1)及び式(2)で表される。
【数1】
【0028】
ここで、aは探針と試料の接触線の半径、Rは探針先端の曲率半径、Kは弾性係数を表す。フォースカーブ測定により得られたF-δ曲線と、式(1)及び(2)を用いたフィッティングにより弾性率を求めることができる。
【0029】
一実施形態において、試料表面の所定範囲内でスキャンすることにより、フォースカーブの取得を当該所定範囲内の多数の点で行い、それぞれのフォースカーブから弾性率を求め、その平均値を算出することで、当該試料の弾性率を求めてもよい。
【0030】
一実施形態において、フォースカーブ測定より得られた押込み深さ、弾性率又は凝着エネルギーから、充填剤であるフィラー成分を特定し、当該フィラー成分を除いた部分をゴム成分として、該ゴム成分における弾性率の平均値を算出することで、試料の弾性率を求めてもよい。フィラー成分を特定する場合、加硫ゴムに配合された充填剤の含有量から当該充填剤の体積分率を算出し、充填剤に相当する押込み深さの小さい部分、弾性率の高い部分又は凝着エネルギーの低い部分を、体積分率に基づいてフィラー成分として特定してもよい。あるいはまた、フィラー成分に相当する押込み深さ、弾性率又は凝着エネルギーのしきい値を予め指定しておき、押込み深さが当該指定値以下、弾性率が当該指定値以上、又は凝着エネルギーが当該指定値以下の部分をフィラー成分として特定してもよい。
【0031】
本実施形態によれば、原子間力顕微鏡による測定に先立ち、加硫ゴムに予備弾性変形を加えることにより、加硫ゴムの内部歪みを低減することができるので、原子間力顕微鏡による弾性率の測定精度を高めることができる。そのため、例えばゴム材料の開発において充填剤の種類や配合量の決定に役立てることができる。
【実施例
【0032】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
[第1実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴムポリマーに対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練した(排出温度=90℃)。これにより未加硫ゴム組成物を調製した。各配合剤の詳細は以下のとおりである。
【0034】
・SBR:スチレンブタジエンゴム、旭化成(株)製「タフデン2000」
・SAF:カーボンブラックSAF、東海カーボン(株)製「シースト9」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
【0035】
得られた未加硫ゴム組成物を160℃で20分間プレス加硫して厚さ1mmの加硫ゴムを作製した。得られた加硫ゴムについて、内部歪みを除去するため、予備伸長変形を与えた。予備伸長変形の付与方法は以下のとおりである。
【0036】
(株)島津製作所製のオートグラフを用いて実施した。厚さ1mmの加硫ゴムシートを3号ダンベルの形に打ち抜き、500mm/分の速さで伸長率50%(実施例1)、100%(実施例2)、150%(実施例3)、200%(実施例4)の伸びを試料に与えるように引張試験を行い、当該引張試験を4サイクル実施した。伸長率は、ダンベル形試料の標線間距離を試験長さとして、試験前の試験長さに対する伸びの比率である。
【0037】
予備伸長変形を与えた実施例1~4の試料について、標線間部分を用いてAFMによる弾性率の測定を行った。また、比較のために、予備伸長変形を与えてない加硫ゴムシート(伸長率:0%)についても、比較例1として、AFMによる弾性率の測定を行った。AFMによる弾性率の測定方法は以下のとおりである。
【0038】
[AFMによる弾性率測定]
原子間力顕微鏡としてブルカー社製「Dimension Icon」を使用し、カンチレバーとしてオリンパス製「OMCL-AC240TS-R3」(ばね定位数:1.7N/m)を使用した。測定範囲は3μm×3μm四方、測定点数は128点×128点の合計16384点として、各点でフォースカーブを測定した(測定周波数:10Hz)。
【0039】
フォースカーブにより得られたF-δ曲線をJKR理論によりフィッティングして弾性率を算出した。また、フォースカーブより得られた凝着エネルギーより、凝着エネルギーの低い成分をフィラー成分として、その部分を引いた弾性率の平均値を算出して、AFMによる加硫ゴムの弾性率(AFM弾性率)とした。その際、フィラー成分の特定は、ゴム組成物の配合量から各配合剤の比重を用いて充填剤としてのカーボンブラックの体積分率を求め、該体積分率に基づいて弾性率の高い部分をフィラー成分として特定した。
【0040】
[マクロ弾性率]
上記配合の加硫ゴムシートについてマクロ弾性率を測定した。詳細には、上島製作所製の動的粘弾性装置を用いて、JIS K6394に準拠して動的粘弾性試験を実施した。試験条件は、サンプル形状:2mm×4mm×40mmの短冊状、測定モード:引っ張り、測定温度:25℃、周波数:10Hz、静歪み:1%、動歪み:0.05%とした。試験結果より、貯蔵弾性率を算出し、その値をマクロ弾性率(機械特性)として用いた。
【0041】
【表1】
【0042】
結果は表1及び図1に示すとおりである。加硫ゴムに引張試験による予備伸長変形を与えた実施例1~4では、予備伸長変形を与えていない比較例1に対していずれもAFM弾性率が低く、マクロ弾性率により近い値となっていた。そのため、予備弾性変形により加硫による内部歪みが除去されており、より正確な弾性率を測定できていることがわかる。なお、実施例4では実施例1~3に比べてAMF弾性率が高く、比較例1に近づく傾向が見られた。これは引っ張りによる残留歪みの影響であると思われる。このことから、残留歪みの影響を回避しつつ加硫による内部歪みを除去するためには、伸長率は150%以下であることが好ましい。
【0043】
[第2実施例]
下記表2に示す配合(質量部)に従い、第1実施例と同様にして未加硫ゴム組成物を調製した(各配合剤の詳細は第1実施例と同じ)。得られた未加硫ゴム組成物を160℃で20分間プレス加硫して厚さ1mmの加硫ゴムシートを作製した。得られた加硫ゴムシートについて、内部歪みを除去するため、予備伸長変形を与えた。予備伸長変形の付与方法は第1実施例と同様であり、伸長率はすべて50%とした。
【0044】
上記の予備伸長変形を与えた試料(予備伸長あり)について、標線間部分を用いてAFMによる弾性率の測定を行った(実施例5)。また、比較のために、予備伸長変形を与えてない加硫ゴムシート(予備伸長なし)についても、AFMによる弾性率の測定を行った(比較例2)。AFMによる弾性率の測定方法は第1実施例と同様である。
【0045】
また、各配合の加硫ゴムシートについて、マクロ弾性率を測定するとともに、内部歪みの大きさを評価するためにリバウンド比を測定した。マクロ弾性率の測定方法は第1実施例と同様であり、リバウンド比の測定方法は以下のとおりである。
【0046】
[リバウンド比]
リュプケ式反発弾性率試験にて、1回目の打撃の反発弾性率(落下高さに対する反発後の高さの百分率)と、4回目の打撃の反発弾性率を測定し、両者の比(4回目反発弾性率/1回目反発弾性率)であるリバウンド比を算出した。
【0047】
【表2】
【0048】
結果は表2および図2に示すとおりである。AFM測定に先立ち加硫ゴムに予備伸長変形を与えた実施例5では、AFM弾性率とマクロ弾性率がほぼ直線的な比例関係にあった。これに対し、AFM測定に先立ち加硫ゴムに予備伸長変形を与えていない比較例2では、カーボンブラックの配合量が多くなり内部歪み(リバウンド比)が大きくなるほど、AFM弾性率とマクロ弾性率との直線的な比例関係が崩れていた。このことから、予備伸長変形を与えることにより内部歪みが取り除かれて、正確な弾性率をAFMにより測定できることが分かる。また、充填剤の配合量が多いほど、内部歪みを除去することによる効果が大きいことがわかる。
【0049】
[第3実施例]
下記表3に示す配合(質量部)に従い、第2実施例と同様にして未加硫ゴム組成物を調製した。各配合剤の詳細については、HAFはカーボンブラックHAF、N339、東海カーボン(株)製「シーストKH」であり、その他の配合剤は第1実施例と同じである。
【0050】
得られた未加硫ゴム組成物を用いて、第2実施例と同様にして、加硫ゴムシートを作製し、内部歪みを除去するために加硫ゴムシートに予備伸長変形(伸長率:50%)を与えた。予備伸長変形を与えた試料(予備伸長あり)について、第2実施例と同様にして、AFMによる弾性率の測定を行い(実施例6)、また、比較のために予備伸長変形を与えてない加硫ゴムシート(予備伸長なし)についても、AFMによる弾性率の測定を行った(比較例3)。さらに、各配合の加硫ゴムシートについて、第2実施例と同様にして、マクロ弾性率およびリバウンド比を測定した。
【0051】
【表3】
【0052】
結果は表3および図3に示すとおりである。カーボンブラックをSAFからより比表面積が小さいHAFに変更しても第2実施例と同様の傾向が見られた。すなわち、AFM測定に先立ち加硫ゴムに予備伸長変形を与えた実施例6では、AFM弾性率とマクロ弾性率がほぼ直線的な比例関係にあった。これに対し、AFM測定に先立ち加硫ゴムに予備伸長変形を与えていない比較例3では、カーボンブラックの配合量が多くなり内部歪み(リバウンド比)が大きくなるほど、AFM弾性率とマクロ弾性率との直線的な比例関係が崩れていた。
図1
図2
図3